2ntブログ

■当サイトは既婚女性を中心に描いている連続長編の官能小説サイトです■性的な描写が多く出てくる為18歳歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい■

第8章 三つ巴 34話 じゃじゃ馬の誤算

第8章 三つ巴 34話 じゃじゃ馬の誤算

特殊な金属繊維で編み込まれたアーマースーツの肩口と腹部を手で払うような仕草をし、打たれた箇所のダメージを確認する。

豊満な身体を押し込まれたアーマースーツは靭性を発揮し、美しい肢体を覆い、河に反射する街の灯りと、頼りなくぼんやりとした外灯の光を反射させ、麗華の身体のラインをくっきりと浮き立たせていた。

(オーラでがちがちに強化してるからとは言え、この服だと耐えられるわ・・。これなら勝てる!・・急がないと、美佳帆さんが・・・!)

麗華は焦る気持ちを打ち消すように両の拳を握りしめ、正面で膝を付き、息を切らせている大男を見下ろす。

「コンナバカナ・・!オレサマノパンチヲナンパツモクラッタハズダ!ナゼダ・・!?ナゼタオレン?!」

スキンヘッドで黒人、しかも身長2m近いアレンが目をギョロリと見開き睨みつけてくるさまは、大抵のものであれば威圧され萎縮してしまうであろう。

しかし、睨まれた当の本人はモデルのような容姿とプロポーションを露わに強調した服装で、有利な状況に浸るでもなく、むしろ焦りを感じさせる表情で構えアレンに更に攻撃を加えようとにじり寄る。

「悪いけどあんたに時間かけてる場合じゃないのよ!一気にかたをつけさせてもらうわ!」

跪いていたアレンは多少ふらつきながらも慌てて立ち上がり、腹部を何度も打ち込まれたせいでやや傾いた構えではあるがファイティングポーズをとり麗華を迎え撃たんと、痛み歪む顔ではあるが気迫が満ちている。

「コノアイダノオンナドモトイイ・・コイツトイイ!ジャップノオンナハ、ドイツモコイツモ・・・!」

先ほどの麗華とのやり取りでスピードもパワーも、目の前の美貌の女のほうが僅かに上回っている。アレンは急所への決定打はなんとか防いでいるが、幾度も顔や脚にクリーンヒットを受けてしまっていた。

しかし、アレンは元来女性軽視の精神のせいで正確な判断ができず、戦いを諦めることができずにいた。

「コノ!コイツ!・・・ガアアアア!ナゼアタラン!」

冷静さを失いかなり大振りなラッシュを麗華は難なく躱す。

「命まではとらないわ!でも、痛い思いぐらいは覚悟しなさい!」

麗華は大きな目で鋭くアレンを睨みながら、そう言い重いアレンの連打を躱しながら隙を伺う。

「ホザケェ!・・イタイメヲミルノハオマエダ!コノメスブタ!」

麗華は頭に血が上ったアレンの大振りだが破壊力抜群の右ストレートを、身体を翻して躱すと同時に、踏み込んだアレンの右膝を内側から左足のローキックで打ち砕く。

「ギャアアアアア!・・・アシガ・・オレノアシガアアア・・・・!!」

踏み込んだアレンの右脚は麗華のローキックによって不自然な方向に折れ曲がり、クルーザー級であるアレンの右脚はアレン自身の体重を支え切れず妙な方向に折れながらアレンが崩れ落ちる。

「・・・あんたみたいな悪党の悲鳴でも、聞いていい気分はしないわね・・」

アレンの取り巻いていた中国系のチンピラどもは途中で隙をみて麗華を襲ってきたため、すべて麗華に打ちのめされ麗華とアレンの周りですでにうめき声をあげて倒れていた。

「・・急がなきゃ!」

周りを見回し、自分が来た方向を確認すると、倒れているチンピラを一人二人と飛び越え、公園と護岸遊歩道を隔てる2mほどの高さのフェンスの上管に飛び乗ったところで、低いが冷静で場違いな声を掛けられた。

「おいおい・・もうやられちまったのかよアレンの奴は・・。奴は女難の相でもでてるのかねえ。・・って俺も最近は女難の相ばっかりか」

フェンス近く、麗華のやや右後ろあたりからの声に、麗華は飛び乗ったフェンスの上で猫のようなしなやかな仕草で、美しい顔を声のほうに向けた。

「・・・見覚えがある顔だわ」

麗華はフェンスの上で身を丸くしながら何方にでも飛べるよう、声の主、劉幸喜の動きを注意深く観察しながら声を掛けた。

「覚えててくれたのかい?・・・あのときはみっともなかったから忘れてくれててもよかったんだがな・・」

劉幸喜は腰に手を当て片方の手で後頭部をかきながら、やれやれと言った様子で首を振り、自嘲めいたセリフで麗華に応えた。

「・・・私、今急いでるから・・貴方のお仲間も、ほら・・あのとおり」

麗華は劉幸喜から視線を外し、先ほどまで立ち回っていた付近に寝転がっているアレンやチンピラたちを顎でしゃくって劉に確認するように促す。

「貴方も今日は忙しいでしょ?今度また時間がある時にでも、ゆっくりお話でもしましょ?」

寺野麗華は黙ってさえいれば木村文乃によく似ていて清楚でお淑やかそうな美人である。その寺野麗華にそう声を掛けられたら気分が高揚しない男性はほとんどいないであろう。

そう言った麗華の顔には笑みはなく、ややもすると緊張した面持ちではあるが、その緊張を宿した美貌は損なわれるどころか研ぎ澄まされた刃物ように美しい。

劉幸喜も世間の男と同じで、例に漏れず美女は大好きではあったがそれ以上にプロでもあった。

「ふっ・・ビジネスクラスでたまたまお前が隣に座って話も合い、降り際にいまと同じセリフを言われたら・・連絡先でも聞くんだがな」

劉は肩をすくめ少しだけその整った顔を綻ばせたが、目は笑ってはいなかった。

「どうしても今しないといけない話だ。こないだ俺を2階から蹴り落してくれた礼もしないといけねえし・・。その礼を次回に持ち越すのはあんたみたいな美人相手にあまりにも失礼だろ?」

そこまで言うと劉は右手を腰の後ろに回し、新しい青龍刀の柄に手をかけた。

「こないだはお気に入りの青龍刀を宮川のとこのじゃじゃ馬女にぶっ壊されてな・・・信じられるか?あいつ鎬のほうから刀を掴んで握力だけで刀身を砕いたんだぜ?・・・間近でみてて鳥肌が立っちまったぜ・・・って、まあ今はこの通り獲物も持ってるし、こないだみたいにいいようにやられねえ・・ってことが言いたかっただけだ・・・覚悟しな?!」

劉は言い終わる前に青龍刀を振り抜き、【斬撃】を麗華に向けて2発放ち間合いを詰める。

「っく!・・ったくクソ面倒な野郎!」

学生時代にお嬢ではなく姫と呼ばれその美貌でありながら、男子生徒たちからの受けが悪かった口調が今でも時折顔を覗かせる。

劉の攻撃に悪態をつき風を切り唸る【斬撃】を躱すようフェンスを鳴らし宙に舞う。

膝丈の雑草が生い茂った地面に着地したときにはすでに劉が目の前まで迫っていた。

青龍刀による剣撃と功夫を織り交ぜての蹴撃に麗華は防戦に陥る。

「っく・・こないだとは随分違うじゃない?!」

青龍刀もなくオーラも使い果たしていた先日とは違い、目の前の劉はこないだ中二階から蹴り落した男とは同じとは思えない動きで麗華を手数で圧倒してきた。

「そりゃどうも!・・先に聞いておきたいんだが、もう一人の年増の女はどうした?・・一緒にいただろ?」

「・・いくらイケメンでも、女性のことそんな風に言うなんて感心しないわね!!・・もう先に行ったわよ!」

言い放ったと同時に打ち放った麗華の蹴りは、青龍刀の腹で防がれ僅かに劉の動きを止めるのに成功した程度の効果しかなかった。

「失礼。覚えたばかりの日本語を使いたがる時期なんだよ・・!それにしてもあんた、あんまり嘘がうまくないな。あんたがさっき急いで行こうとしてた方向はフェンスの向こう側・・つまりさっきのマンションの方角だ。ってことはだ・・はぐれたか・・図星だな・・・顔にそう書いてあるぜ」

「うるさい!」

誤魔化すようにそう言うと、間合いを詰め劉に連打を浴びせる。

「無駄無駄・・得物もある俺に勝てるやつなんてそうそういないし、それに今日はあんたが疲れてるようだぜ?」

青龍刀を自身の身体のように振るい閃かし、麗華の攻撃を防ぎ、いなした後、攻撃を浴びせ返す。

劉の振るう青龍刀が麗華の左肩を捕え、ギリリと聞きなれないな金属音が響く。

「おっと、こっちが刃毀れしちまうか・・・あんたも良いもん着てるな・・!でも・・ってことは手加減しないで済むな・・助かるぜっと!!」

劉がそう言うと右手を高速で麗華目掛け振るい5つの剣閃が胸に3、両足に1ずつ加えられ無防備になった腹部に劉の右脚が食い込んでいた。

「くっ!!ううう!!」

蹴りの勢いで後ろに吹き飛ばされ、麗華は護岸ののり面にズリズリと擦られ転がっていく。

「あんた、そこそこ力も強いし動きも早いけど、まだまだだなぁ・・。命のやり取りだっていうのに遠慮してるっていうか、場数が少なすぎるってやつだぜ・・。それに、オーラの使い方が拙すぎる。ま、このアドバイスが次に生かせないのが残念だがな」

麗華の腹部を抉った右脚を下ろし、倒れた麗華に近づきながら青龍刀を向け油断なく歩んでくる。

「げほ・っ・・も、もう!・・張慈円の腰ぎんちゃくで脇役かと思ってたら・・貴方・・案外やるじゃない・・痛つつ・・」

置きあがり素早く切られた箇所を手のひらで確認しながら、劉に向かって相変わらずの悪態をつく。

「俺が脇役だってぇ・・?はっはっは・・嫌いじゃないぜ?気の強い女はよ」

劉は麗華の挑発気味の発言に対して本当に愉快そうに笑いながら言った。

しかし、当然のことながら劉とは対照的に麗華は苛立っていた。

(美佳帆さんとは逸れるし・・和尚は宮川さんとくっついちゃうし・・弱いと思ってたこの男は強いし・・・!)

「あー・・・ちまちま防いだりしようとするからオーラの移動が面倒なのよね。防御に回したり攻撃に回したり・・さっさと告ればよかったのに、ちまちまうじうじ・・・面倒・・本当に面倒!」

麗華の独り言のような大きな声での独白に劉は興味を持って頷き言い返す。

「男に振られちたのか?もったいねえな。でも自信持てよ。あんた相当な美人だぜ。俺で良ければ何時でも相手してやるから・・っと!」

劉が言い終わらないうちに無言の麗華が傷めた脚を庇いつつも猛スピードで劉に襲い掛かる。

「この!お前が言うな!何がわかるっていうのよ!」

「わからねえけど!八つ当たりはよくねえし・・・言っただろ、こういうところが下手なんだよ!」

麗華の大振りのフックを屈んで躱した劉は、麗華の鳩尾に肘を食い込ませそのまま肩で体当たりし麗華を吹き飛ばす。

「ぐうぅふ!・・・はぁ・・」

かろうじて転倒を免れた麗華ではあったが、今の衝撃で口からは僅かに血が流れ出て臓器を少し傷めてしまっていた。先ほど蹴られる前に青龍刀で攻撃された左膝も青龍刀の背で打たれたのか、ジンジンとした痛みが頭まで響いてくる。

「・・・あんたはオーラの攻防移動ができてねえんだよ。拳にオーラが乗ってねえ。防御したい所にオーラがねえ。だから思ったようにダメージを与えられねえし、その服に頼り切りで防御もおろそか・・つまり経験不足が敗因だ・・・。さて、と授業料ももらえねえし・・・そろそろ尋問タイムといくぜ?」

劉は青龍刀を器用に回しながらゆっくりと麗華との距離を詰めてくる。

(まずい・・・。この優男がこんなに強いなんて・・。真理さんはこの劉って男を一人で押さえてたって聞いたけど・・。ショック受けちゃうなぁ・・・)

「・・尋問?」

間合いを詰めてくる劉に対し、麗華は逆に劉と距離をとるように傷めた左足を引きずり、退がりながら聞き返した。

「ああ・・、ついでにお前も連れて行くが、今日の目的は宮川佐恵子と菊沢美佳帆だ。宮川佐恵子は奴らが捕らえてたし、菊沢のほうも時間の問題だろう」

「え!?・・・支社長が?アリサや真理さん達は?!」

あっさりとした口調で言う劉のセリフに麗華は思わず聞き返してしまう。

「名前言われたって誰が誰だかよくわかんねえよ・・。普通に考えたら死んだんじゃねえかな?」

「・・・し、死んだですって・・?あの人たちがそう簡単に死ぬわけないわ!」

出会って短い時間ではあるが、宮川佐恵子や稲垣加奈子、神田川真理、彼女たちがそんな短時間でやられるとは麗華にはどうしても思えなかった。

「まあ問答してもしょうがねえ。とにかく目的以外は殺すつもりだったんだ。生け捕りできるならそれに越したことはないってこと。今ここで死ぬか、後で死ぬかもしれないが生きながらえるかもしれないならどうする?・・選ばせてやるよ。戦ってみて勝ち目がないのは解っただろ?」

劉は青龍刀を右肩に担ぐようにして持ち、麗華に問う。

麗華は一瞬何を言われているのかわからなかったが、すぐに察し怒りがこみ上げ、そして悟る。

(たしかに・・私だけじゃ・・ど、どうしたら?・・美佳帆さん・・・和尚・・!)

劉の提示した選択肢を頭の中で反芻し、絶対にどちらも選べないと麗華が頭を振った時、劉が右耳に手を当てた。

「ん・・はい・・・。ええ・・捕らえましたか。・・こちらはアレンの奴が・・・っあ!」

劉が通信している会話を聞いて推理を働かせた麗華は、痛みで悲鳴を上げる左足と脇腹を無視して、最後の力を振り絞り府内中心を流れる大きな川目掛けて飛び込んだ。

劉は慌てて川岸に駆け寄ったが、暗い水面は麗華が飛び込み乱した波紋が不規則に揺れているばかりで、人の気配はもはや見当たらなかった。

「いえ・・・なんでもありません。・・一足遅く、もう一人の女はアレンをやって逃亡したようです・・」

劉は自身のボスである張慈円に正確ではない報告をし、通信を切ると、いまだに乱れている水面を眺めながら「ちっ」と舌打ちし、仕方なくアレン達のほうに向かった。

【第8章 三つ巴 34話 じゃじゃ馬の誤算終わり】35話へ続く

第8章 三つ巴 35話 菊沢宏間に合わず!連れ去られた美佳帆

第8章 三つ巴 35話 菊沢宏間に合わず!連れ去られた美佳帆

目隠しをされているせいで視界は真っ暗であった。

両手は後ろ手にされ、ワイヤーで縛られご丁寧に手錠までされている。

これでは生半可な筋力強化をしても引き千切るのは私の力では無理である。

縛られた手首や足首はうっ血しないギリギリで拘束されているため、ジンジンと鈍痛がするが、放り込まれた車の後部座席のシートは思ったよりクッションが良く、不幸中の幸いではあるが、腰掛けたお尻は痛くない。

車に放り込まれる時に張慈円の【放電】を受けながらであったので、そうとう暴れてしまいかなり乱暴に投げ込まれ暫く張慈円相手に取っ組み合い・・、と言ってもすでに両手を拘束されていたためさしたる時間稼ぎも出来なかった。

いまは後部座席に張慈円と、今しがた乗り込んできた張慈円の側近と思われる男に挟まれ後部座席の真ん中に座らされ、仕方なくとりあえずおとなしく座っていることにしている。

「ふん・・まったく・・やっと抵抗は無駄だと悟ったか」

私の左側に座った張慈円が、やや疲れた口調で呟いた。

「・・ボス、だいぶ苦労したようですね」

右側に座った声の低い男が、張慈円を気遣うように声を掛けているのが聞こえる。

「抵抗する相手を殺さんように、まして怪我をさせんようにとらえるのは想像を超える難しさだ・・・。なまじ手加減をしていては思わぬ反撃をもらい、ともすれば逃げられるなどという失態を侵しかねんからな・・・。おい、もう大丈夫だ。さっさと出せ!」

張慈円が低い声で運転席に座っているである手下に指示すると短く「了解」と答えた声がした直後に車が動き出す。

茂みに隠れていた際、張慈円の声が聞こえたものの数分後、私は張慈円に見つかってしまったのだ。

持っていた鉄扇で応戦し、張慈円の左手首に強かに小手打ちを決めたのであるが、さしたるダメージを与えた様子もなく、逆に鉄扇に掴まれ【電撃】を流され手放してしまい、鉄扇は奪われてしまった。

「ふん・・鉄扇か・・。味なものを使う」

張慈円は私から奪った鉄扇を広げたり仰いだりしている様子であったが、カチン!と勢いよく扇子を閉じる音を響かせたかと思うと、ホットパンツからむき出しの太ももを突き、膝頭から上へゆっくりとなぞるように滑らせた。

「・・・・!」

自分自身が使っていた武器で太ももを撫ぜられるという愛撫に使われてしまう屈辱で、血が沸騰しそうになるが、股間が、そして胸もがそれ以外の期待に反応をしめしてしまう。

はしたない反応を敵に悟られないよう、無言を貫き、口を真一文字にして、鉄面皮を作り上げ、鉄扇から与えられる甘美な感覚を表に出さぬよう押し殺す。

「ふん・・無様なものだな菊沢美佳帆・・。俎上の鯉とはまさにこのこと。・・貴様は油のよく乗った鯉だ。・・俺自身が相手をしてやれんのが残念だが・・」

張慈円は私の太ももを相変わらず鉄扇で撫ぜながら、徐々に太ももの上部に近づかせつつもなお続ける。

「そうそう・・・貴様の部下の斉藤雪、伊芸千尋・・・どちらも極上だったぞ?・・あの二人はもはや普通の男では満足すまい。・・・奴らから何をされたのか聞いたのであろう?送った映像はどうであった?お前もこっそり保存して使ってもよいのだぞ?くはは」

張慈円の挑発だと分かっていても、その下品な発言につい身を乗り出し、目隠しをされたままではあるが張慈円のほうに向き視界は真っ暗であるが睨みながら言う。

「スノウやお嬢がどれだけ悔しかったか!・・・私を攫っても宏達がすぐに助けに来るわ!宮コーだって黙っちゃいない!・・張慈円!いくらあなたの腕が立っても、もう時間の問題なのよ?!覚悟することね!あなたは謝ってももう許してあげないわ!」

身を乗り出した瞬間から張慈円とは逆方向に座っている側近らしき男に後ろ手の手錠を掴まれ動きを止められてはいたが、そこまで言い放ったところで張慈円が「ふん・・」と鼻で笑った。

「菊沢美佳帆・・。ホットパンツまでシミが広がっている姿でそんなセリフを言っても滑稽なだけだぞ?」

「え?」

目隠しをされているせいで自分では確認できないが、まさかそんな恥ずかしいことになっているとはと思い、間の抜けた声を上げてしまう。

「自分では見えんし、自分の発した匂いには気づかんものなのか?」

その次の瞬間、張慈円は嘲笑気味にそう言うと、鉄扇で私の股間を軽く打った。

「ひぃ!!・・っく・・・ぅぅうううう!!んんん!!」

狭い車中に中腰で立っていたのだが、股間を鉄扇で軽く打たれただけで逝きそうになり、お尻を後ろに突き出し必死に逝くまいと耐えようとして、恥ずかしい声を上げてしまう。

「ふはははっ、宮コーの連中は全滅したらしいぞ?・・それにしても、たまらん牝反応だな。どうだ?自分の武器で感じさせられるのは?・・劉、年増女のデカい熟れた尻を押し付けられ大変だろうが少し我慢しろ。ふははは」

「そんな?!宮川さん達が・・まさか・・!」

張慈円が愉快そうに笑う声がすると、パシン!という音が私の股間から聞こえた。

「・・ひぃあ!・・・だ、だめ!!んんんんんんんんぅ!!」

媚薬に犯された身体と脳は、宮川さんたちの心配を押しのけ、鉄扇での軽い一撃、ただそれだけで浅く絶頂に達してしまい、前かがみでお尻を右隣りの男に更に押し付け、荒い吐息を激しく吐いている顔は、目隠ししたままであるが髪の毛を掴まれ、張慈円の顔の目の前でじっくりと観察されている視線を感じる。

「ボス・・この女もうすごく濡らしてますね。匂いがすごいですよ」

ヒップを押し付けている男からそう言われ、逝ってる途中ではあるが重ねて羞恥心を煽られる。

さっきからこの男は私が膝を閉じないよう、張慈円が叩きやすいように私の膝を掴んでいる。

「ふん・・・まあ、お前は人質であるが、その前に慰み者だ。だが、相手は俺ではない。お前に【媚薬】という呪詛をかけた本人が相手を所望しているのでな。これ以上俺からは可愛がってやれん。その状態では辛いだろうが、しばらく時間がかかる。疼いた身体で浅く逝っただけでは満足できんだろうが、もう・・そうだな小一時間かかる・・。それまで我慢しておれ。ふふふ・・、気の利いたおねだりができれば俺や劉から触ってもらえるかもしれんぞ?ふははははっ」

張慈円が愉快そうに笑い、私のことを蔑んでいる声が聞こえるが、浅い絶頂間に身を振るわされ、満足できない窮屈な快感で身体をくの字に折り曲げ痙攣させてしまう。

自分自身の武器で刺激され絶頂を与えられるという屈辱にまみれながらも、浅くしか逝かせてくれない張慈円を怨めしく思い、美佳帆は媚薬に犯された身体を捩らせ、絶頂した顔を観察され身を捩る。

「くくく、浅ましいな。・・・そう発情せんでも、もうしばらくしたらたっぷり可愛がってもらえるぞ?ふふふ」

そう煽られると、無理やり座らされ張慈円と隣の男に片方ずつ膝を掴まれ、限界まで広げられる。

両手は後ろ手で、足首も拘束されたままの美佳帆は蛙のように脚を開かされ、恥ずかしくも染みを広げた部分のホットパンツの上から、弄ばれる。

「到着するまで退屈しなくて済みそうだな・・くくく」

淫卑な香りを充満させた黒塗りの高級車は、その車中に淫卑な香りと、熟れた身体を弄ばれ、いいように上げさせられた美佳帆の嬌声で溢れていた。


菊沢美佳帆が脚を開かされ胸を揉みしだかれながら鉄扇での2度目の浅い絶頂を味わったちょうどその時、菊沢宏は能力を全開で開放し一人先んじて大塚の隠れ家マンションまでたどり着いていた。

「美佳帆さーーん!」

よほど全速力で走ったのだろう。夜だというのにトレードマークのサングラスは外さず、普段のむすっとした表情とは違い、焦った表情に大粒の汗を滴らせ、ぜいぜいと息も切らせながら、エレベーターを待つのももどかしく、非常階段で一気に2階まで駆けあがり愛妻の名前を呼ぶ。

宏はめちゃめちゃに散らかった大塚の部屋の扉や室内の惨状に一瞬顔が怯むが、部屋に入ったすぐのところで蹲っている斎藤アリサが目に入り駆け寄る。

「アリサ!大丈夫か?!・・脚やられたんか?・・・すまん!こんな目にあわせてしもて・・・・ん?血は止まっとる・・・?・・なんでや・・?」

宏は部屋に敵が潜んでいないかを五感を研ぎ澄ませて警戒しつつも、素早くアリサが蹲っているところまで駆け寄り、優しく肩を抱きながら声を掛ける。

アリサの右足首には血がべったりと付着していたが、すでに渇いて凝固しており、新しい傷は見当たらない。

「あ、あのね・・所長。私は大丈夫。知らないおじーちゃんに、なおしてもらったの。・・傷はふさがったんだけど、頭フラフラして上手く動けなくて・・・。それより、二刀の女と真っ白い悪趣味な服着たやつらがいてね。二刀女が引きずって屋上に行った・・」

「ちょっと待て!落ち着けや!それよりも、みんなは?美佳帆さんは?!・・みんな屋上なんやな?」

宏は、意識はあるようだが、一度に説明しようと慌てているアリサをできるだけ落着かそうと質問を簡潔にして問いかける。

「ううん、ちがう。私たちが防いでる間に美佳帆さんはベランダから避難したの。屋上にいるのは二刀の女たち・・。私と真理さんはそいつに斬られて・・。真理さんも治してもらってたから死んでないと思う。加奈子さんは白い悪趣味な奴と勝負って言ってて、でも、支社長さんは大怪我させられて連れてかれちゃった。・・そのとき二刀女が屋上までこいつ連れて行くのダルいって言ってたから、きっと屋上にいると思うの」

「そ、そんなあほな・・壊滅的やないか・・!く、くっそー・・!屋上からビル伝いに移動する気か・・それともヘリでも呼んでんのか・・・?」

見た目通りの悪い状況に、宏はギリリと歯ぎしりの音をさせ、太く逞しい拳を自身の手のひらに打ち付けた。

「アリサもそんだけ血が流れてしもたんなら動けんで当然や・・。やが、もうちょっとしたらテツとモゲがくる。それから公安の奴らも来よるはずや。それまで、一人にするけど勘弁してくれや?」

「うん・・大丈夫。でも、所長気を付けて・・・・あの人たちとんでもなく強い・・!」

普段の無邪気なアリサの面影はなく、目を伏せ小刻みに震えながらそう言う姿からよほどのショックを受けているのであろう。

「どこのだれか知らんけど後悔させたる。・・・まかしとけや。本気出したら俺も実はとんでもないんやで?」

抱いていたアリサの肩を一度だけ優しくポンと叩くと宏は極力優しい声でアリサにそう言って、奥の散らかったリビングに目を移すと、壁を背に脚を投げ出した格好で俯いている神田川真理が目に入った。

真理自身が流したのであろう血だまりの中にぺちゃりとお尻を付け、目を瞑っているが、光沢のあるアーマースーツに包まれた豊満な胸は微かに上下に動いていた。

「くそ・・・側近がこのザマや・・・。もう一人のじゃじゃ馬のほうの側近は、まだ屋上で戦こうとるんか・・?・・・真理さんよりあのじゃじゃ馬が戦闘寄りな能力なはずやが・・じゃじゃ馬子一人で持たしとると期待するしかないな・・」

宏は真理の首筋に手を当て体温と脈を確認し安心すると、美佳帆を探そうとベランダのほうに向かう。

「アリサ!美佳帆さんはこっから飛び降りたんやな?」

アリサはいまだ顔色が戻らないが極力表情を強く保ち、ベランダから身を乗り出しながらこっちを振り向いて聞く宏に、力強く2度頷いて見せた。

「よっしゃ・・!」

アリサの点頭を確認し宏がベランダを飛び越えようと、身を乗り出しかけたとき、丸太のような太い宏の腰に何かが巻き付いた。

「ま、まって・・」

傷はふさがっているが肩口と首から噴き出した血で全身を染めた神田川真理が縋るように宏の腰に手をまわしてきたのであった。

「神田川さん・・。意識あったんか。言いたいことは想像できるけど、俺は美佳帆さん探しにいくで?」

そう言うと宏は腰に回された真理の血まみれの手を振りほどこうとするが、力尽きかけた女の力とは思えない強さで真理はしがみついてくる。

「さ、佐恵子を・・助けてください。屋上で・・たぶん加奈子が一人で戦ってます・・。きっと加奈子ならまだ持ちこたえてます・・。おねがい・・。佐恵子を失ったら、おしまいだわ・・・」

敵の斬撃を背後から受けたせいで、真理の黒く艶のある髪は首の中ほどでバッサリと切られており、顔色に血の気もなく意識を保つのがやっとといった様子のであったが、息も絶え絶えに訴える様子は宏であっても美しいと感じさせる魔力があった。

宏は愚直に美佳帆一筋である為、真理の魔性の魅力に当てられたわけではない。

しかし、宏はグラサンを右手の人差指で押し上げながら真理の目の前に跪いた。

「・・・美佳帆さんの安否は?さっきから連絡とってるんやけどつながらへん。あんたらで捕捉できとるんか?」

宏が極力ある感情を抑えようとしている様子を感じ取った真理は、同時にこの男には御為倒しは逆効果と感じ取っていた。

真理はひと呼吸おいてから、口を開くことにし、正直且つ簡潔に答えることにした。

「・・・ごめんなさい」

真理はグラサン越しに宏を見つめ、申し訳なさそうにそう言った。

目の前の宏は無表情ではあったが、怒りが膨張しているのが真理には感じられた。

「でも所長!美佳帆さんは麗華ちゃんも一緒だよ!きっと大丈夫」

宏の怒りを感じ取ったのは真理だけではなく、アリサが宏の背に向かって真理を庇うように情報を補足する。

「・・お願いです。佐恵子を・・・私も、行きます。・・この服は斬れない素材だから・・盾ぐらいにはなれます・・私を引きずって行って使ってください・・」

真理は宏の腰にしがみつきながらなんとか立ち上がり、屋上へ向かおうとふらつく足取りでリビングから玄関へ向かおうと歩き出し、3歩と進まないうちに血で濡れた床に脚をとられ、滑り転び、血の跡だらけのフローリングに強かに倒れ落ちた。

「わかった・・・。麗華も一緒なんやったら、二人ともいっぺんにやられるなんてことはそうそうないやろ・・。真理さん、あんたは休んどき。そんな体で来られても足手まといやしな。・・屋上には俺が行ったるから」

宏は、滑りこけた真理に肩を貸し、アリサの隣に並べて座らせると、ぶっきらぼうではあるが真理の要求にこたえる旨を伝えた。

「・・あ、ありがとうございます。恩に着ます」

真理の謝辞を背で受けると、真理とアリサを部屋に残し部屋を飛び出し、一気に非常階段を屋上まで駆け上がる。

途中階段の至る所に血痕があるが、おそらく大怪我させられたらしい宮川支社長のものだろうと推測しながら、屋上階に近づく前から足音を完全に消し、屋上の様子を五感で警戒しつつ階段を上がってゆく。

そのとき、黒い影が非常階段の共用灯の淡い灯りを遮り、宏の真上に躍り出た。

「な?!」

(アホな!この俺の気配に気づいたんか!?)

宏は、先手で頭上を取られたせいで些か慌てたが、一瞬だけだが見えたシルエットと動き方で正体が判り、相手に戦意が無い旨を伝えるよう、黒い影に向かって制止するよう軽く手を上げた。

「・・・っ!・・・グラサン!・・よかった・・。また敵かと思ったの。驚かせてごめん」

カンッ!と金属製の手すりに股を割り、両足で着地した稲垣加奈子が驚きと安心を同時にその美しい顔に浮かべ、突き出そうとしていた青白く力強いオーラを纏った手を止めたまま制止した。

「ええよ。・・もう上には敵はおらんのかいな?敵は二人以上いたんやろ?全部あんたがやったんか?」

「・・・・違うけど、敵はもういないわ」

宏が手と頭を振り、加奈子に説明を求めるように促すと、今度は加奈子の顔は悔しさと悲しさが混ざった表情に変わり、非常階段の手すりから飛び降りた。

「どういう事や・・?」

「説明する。こっちへ・・・支社長を護衛しないと・・」

宏は少し前に降りた加奈子の背に質問を投げかけると、二の句を次ぐ前かに加奈子に遮られてしまった。

前を加奈子に先導されながら、屋上を数歩歩いたところで、屋上の中心部にある塔やを背にして座っている血まみれで目を瞑っている宮川支社長がいた。

しかしそれよりも目についたのは宮川支社長の前にいる人物である。

そこには、懐かしい人物が膝をつき佐恵子に向かって治療の淡い緑色のオーラを灯していた。

「しっ師匠!!・・栗田教授ですか?!」

宏は思わず恩師である懐かしい人物の名前を呼び駆け寄る。

「お、お~、随分と久しぶりですね宏君。やっときましたな・・。老体に鞭を打ってなんとかしのいだところですよ。まあ、いまこのお嬢さんを治してますから、ちょっと待ってくださいね」

宏のほうを振り返り一瞥しただけで、すぐに佐恵子に向き直り治療の灯を強く発光させながら、弟子との再会の会話もそこそこに治療を続ける。

「師匠・・・。こっちにきてくれてたんですね。助かりました!」

栗田は背中越しで弟子の声を聞きつつも、傷の深い佐恵子の治療に集中していて応えることはしない。

「・・・いけませんって言ってたけど、なにがいけないんです?支社長は治るんですか?!」

稲垣加奈子は栗田が治療前にいったセリフが気になり、治療中にもかかわらず栗田に話しかける。

「お静かにお静かに。少し集中させてください」

栗田は治療の灯を絶やさず、加奈子に振り返らずにそれだけ言った。

「・・わかりました。すいません。静かにしてます。お願いします・・・」

加奈子はそれ以上何も言えず、宏と二人並んで、栗田が治療を終えるまでの数分間無言でじっと待っていた。

「やれやれ・・・。来日早々働ぎ過ぎですな・・。たっぷりと追加報酬をいただかなくては・・」

栗田は肩をぐるんと回し、額を手のひらで拭う仕草をすると、本当に疲れたといった感じで呟いた。

栗田の手先から、淡いが力強い緑色の灯が消えると、あたりは外灯の頼りない光だけに包まれる。

「どうです?支社長は治ったんですか?!いけませんって言ってたけど大丈夫でしたか?なにがいけなかったんですか?!」

それまでじっと動かず周囲に注意を払っているだけの加奈子が、栗田の横に駆け寄り跪いて栗田と佐恵子の顔を同時に見ながら慌てた様子で栗田に問う。

「もちろんです。随分深い傷ではありましたが問題はないでしょう。貴女も私の治療中、周囲を警戒していてくださってありがとうございます。・・・いけませんと言ったのは、・・これですな・・、このお嬢さんのバストサイズですな・・はははは」

加奈子のほうを向きにっこりとした笑顔で優しくそう言いい、本気とも冗談ともとれない発言をして笑うと、加奈子の肩を優しくたたいた。

加奈子は徐々に顔色が良くなっていく佐恵子が回復していっているのは解っていたが、栗田の言葉を聞いて改めて安堵し、大きく息を吐き出しその場にへたり込んだ。

「ありがとう。よかった・・・」

加奈子は栗田に一言そういうと、緊張の糸が切れたようで、正座を崩した格好のまま動かなくなった。

「師匠!お疲れ様です」

「いえいえ、宏君もなんだかすごく汗びっしょりですねえ。私も老骨に鞭をうちましたよ」

脅威が去り、一命を取り留めた佐恵子と、力を使い果たして動けないでいる加奈子に栗田はジャケットの上着を佐恵子にかけ、ジャケットの中に着こんでいたストールを加奈子の肩に掛けながら宏を労う。

「・・・師匠はいつでも女性にお優しいですね」

栗田が身に着けていたジャケットやストールは宏のようにブランドに疎いものでもわかるほどの高給そうな一品であった。

それらを惜しげもなく汗と血に汚れた彼女らに優しく掛ける恩師の紳士ぶりを、宏は本心から誇らしく思い、見習うべきだと思ったからこその発言であったのであるが、

「幾つになっても、美しい女性に惹かれてしまいます。こればっかりはやめられませんからなぁ・・」

しかし当の本人は、宏の畏敬の念には気づかず、恥ずかしそうにして苦笑まじりにそう答えた。

【第8章 三つ巴 35話 菊沢宏間に合わず!連れ去られた美佳帆終わり】36話へ続く

第8章 三つ巴 36話 強い敗北感

第8章 三つ巴 36話 強い敗北感

遠くのような気がするのは気のせいで、すぐ近くに言い争う声が聞こえる。

最初は恋人同士が喧嘩をしているのかと思ったのだが、どうやらそうではなさそうだ。

無意識に耳を欹ててしまいうが、倦怠感が体中を蝕み、目を開けるのですら億劫に感じる。

(どうしたのかしら・・すごく疲れているわ。それにすごく寒い・・)

寒い朝布団から出るのが辛い症状に似ているが、普段寝所で愛用しているベッドのような柔らかさや温かさはない。

まどろみに近い混濁した意識の中で、言い争う喧噪が過ぎ去ってくれないかと期待していた。静かになってくれればもう少しゆっくりと休んでいられる。

しかし、目を閉じ何故か思うように動かせない手足を丸めてやり過ごそうとしているのに、二人の言い争う声は止まる気配はなく、むしろまどろみという池の中からその淵へと少しずつ揺蕩わされ会話の声色が聞き取れるようになってきた。

言い争う声の一人は男、もう一人はよく知った声、加奈子であった。

「もうやめて!今はそんなこと言ってもしょうがないじゃない」

(弱気な声。加奈子ったら・・。また苛められているの?そんな弱気な声じゃダメですわ。・・・・昔の癖はすっかり治ったと思ったのに・・・どうしたのかしら?自信を持って・・貴女をどうにかできるのなんて私ぐらい・・いえ・・純粋な組手だともう私でも敵わないわ)

加奈子は言い争っている声の主とは掴み合いになったらしく、靴が地面を蹴り擦る音、服が掴まれ引っ張られる音が耳に入ってくる。暴力に晒されそうになった加奈子の声にも普段の調子が戻ってくる。

「いい加減にしてよ!見たらわかるでしょ?」

「わかっとる!それでも言うとるんや!」

初めて男の声がはっきりと聞こえた。低く力強いよく通る声、意思の強さを感じさせる声の主はかなり苛立った様子で声を荒げた。

昔気弱だった加奈子であれば間違いなく黙ってしまうほどの圧力と声量、しかし今の加奈子はそうではない。

それにしても、

(関西弁・・・?誰よ・・)

加奈子に狼藉を働こうとしているかもしれない悪漢を確認しようと関西弁が聞こえたほうへと視線向ける。

しかし、何故か視界は暗いままだ。

(・・ど、どうして?!)

佐恵子自身が自らの身体が自由に動かせない状況に、狼狽える。

「見てよ!・・・支社長は喋れる状態じゃないでしょう!?」

まどろみの池に揺蕩っていた意識が、加奈子の声で一気に覚醒近くまで呼び戻された。

(支社長・・・?・・わたくし・・?わたくしが喋れる状態じゃないって言いますの・・?)

「わかっとる!って言うてるやろ!どいてくれや。全く手掛かり無いんや。・・・美佳帆さんになんかあったら・・・!重症やが支社長さんは一応無事や・・。命に別状あらへんって師匠も言うてくれてる!・・なんでもええ。美佳帆さんの手がかりになるかもしれへんやろ!?」

(この声・・・加奈子と言い争ってるのは・・菊沢宏?)

意識がはっきりとしだした瞬間、倦怠感に包まれた重い体が急にはっきりと感じられる。身体の末端が冷たく動かしにくい。どうやら冷たい床のようなところで横にされているようだ。

身体を起こそうと手を付き、状況を把握しようと頭が高速回転し出したとたん、千原奈津紀と壊れた笑顔の二刀女が刃を振るった瞬間が脳裏にフラッシュバックする。

「・・っ!!ぅ・・っ!・・っ!!」

能力を発動した瞬間に首筋に走る刃の感触、必死で治療している真理の背後から、禍々しい笑顔で小太刀を振りかぶった短髪小柄な二刀女。その直後に肩口に小太刀を突き刺され捩じられた感触を思い出し身体をびくん!と跳ね悲鳴を漏らす。

しかし喉にはなにかが詰まっており、無様な悲鳴を上げないですんだのは佐恵子にとっては幸いであった。

反射で目を見開こうとしたが、付着した血で瞼がうまく開かず、顔の表面が突っ張ったような不快な感触に眉を潜める。悲鳴も上げられなかったが声も上手く出せない。

喉に異物が大量にあるようで、しかも生臭い。

(こ、これは・・?血)

声を上げ、身を起こそうとした瞬間に、顔を水で濡らされた布で拭われる。

ようやく目を開けることができ、悲しみ、安堵、喜びのオーラを纏った加奈子の顔が映し出される。

「支社長!気が付きましたか?!」

「か・・・こ?」

加奈子と発音したかったのだが、喉に詰まった血のせいで、上手く発声できなかった。

加奈子が持っている布には、血がぺったりと付き、顔が突っ張ったような不快な感触は血が凝固したものだったと理解したとき、突然正面から両肩をがっしりと掴まれた。

驚き顔を上げるとそこには、焦燥、憤怒、後悔、軽蔑のオーラを纏ったサングラスをした菊沢宏がいた。

左手で私の身体を抱き起し、優しく顔を布で拭いてくれていた加奈子が宏を牽制するように、布を掴んだ右手を私の前に突き出す。

「美佳帆さんと麗華がおらへん!・・どこ探してもや!俺がここに戻ってきてあんたがここで寝てた1時間ほどずっと探した。下の公園、護岸の遊歩道。2か所以上で戦った痕跡がある!・・・美佳帆さんも麗華も戦ったいうことや!・・・あんた守るって・・、張慈円が来ても相手してやる言うてたんちゃうんか?!」

佐恵子の両肩を強く掴みそう発言する菊沢宏は、僅かに全身を震わせながら、宏が纏っているオーラとは違って極力冷静にそう言った。

宏の様子と発言、そして纏ったオーラで状況をほぼ飲み込んだ様子の佐恵子は、加奈子が手に持っている布を取り、口に当てる。

「ごっ・・ごほっ!・・・」

喉に詰まっていた血を、布に吐き出し口に付着した血を拭うと宏のサングラスを見つめ、何かを言わなければと言葉を探す。

「支社長・・・。無理しないでください・・。支社長が助かったのは本当に運がよくて・・」

目尻に涙を溜めそういう加奈子に手を上げ笑顔を返す。

「加奈子・・ありがとう。髪の色が・・・また随分と無理をさせたようですね」

佐恵子は極力笑顔をつくり、色素がますます薄くなった加奈子の髪の毛に手をやって、軽く手で梳くとそのまま頬を撫ぜた。

「大丈夫ですよ・・。支社長。・・少し休めば戻りますから・・」

目を瞑りそう言う加奈子から正面にいるサングラスの大男に目を移すと、佐恵子は大男が発する今にも暴れ出しそうな力強いオーラに気圧されながらも血の気のない顔を向けた。

「・・・本当に、言い訳できませんわ」

宏の顔をしっかり見ながら、本当に申し訳ないと思いながらもはっきりと言う。

相手の負の感情今にも暴れ出しそうな様子が見えていながらも、佐恵子は表面上だけは毅然と振舞う。

宏は言葉でこそ発しないが、そのオーラには千万の罵声と非難が籠っているの見てとれる。

他者の感情が視認できてしまう佐恵子にとって、幼いころは耐え難かった他者の想いではあったが、能力の成長で相手を操作する能力、自らの精神力を強化付与する力を得て耐えられるようになったと思っていたが、それは対象のオーラ量の多寡によるものだとこの時はっきりと分かった。

「たられば言うてもしょうがない状況やとわかっとる!・・・稲垣さんから大体状況は聞いた。神田川さんもアリサも何とか無事や。・・しかし、美佳帆さんと麗華がおらへん。俺、テツ、モゲで周り探したけどおらへん。戦った痕跡があるだけや。橋元や張慈円の根城にしてそうな情報は美佳帆さんが管理しとった。いまスノウたちも、支社に来るように呼んである。・・・もうすぐ霧崎言う捜査官らがここにも雪崩れ込んでくる。場所が判ればすぐさま向かう。ええな?!」

掴まれた両肩から宏の体温と感情がさらに伝わってくる。

分厚く大きな手からは熱いぐらいの体温が感じられ、全身からは宏のオーラに反映されている通り怒気を強靭な精神力で抑え込んでいるのが見て取れる。

「・・・わかりましたわ。とりあえず急ぎ戻りましょう」

宏の言葉は関西弁になれない佐恵子にとっていつも通り粗野で乱暴に聞こえた。

しかし、宏の言葉は宏の感情に比べようもないぐらいおとなしかった。

佐恵子は宏の大きな拳で顔面を殴られ兼ねないほど荒い宏の感情を見ていた。

無骨で鈍感だと思っていた男に、忍耐力があり冷静という評価を付け加え佐恵子は自分の無力と驕りを生まれて恥じた。

できればこの男には忸怩たる思いに打ちのめされた姿を見せたくはなかったが、この男の怒りは当然だと理解もできる。

どれほど伴侶を大切に思っていたのかも同時に伝わってくる。

(・・・美佳帆さま、私のせいで・・)

「は・・!加奈子、真理も無事!?」

両肩を掴んでくる宏の視線を正面から受け続けるのが辛いのもあったが、加奈子に顔を向け目の前で二刀女に首筋を切裂かれた真理の安否を聞く。

「はい・・。支社長と同じぐらいの深手でしたけど・・なんとか」

加奈子の返事に心底安堵し、続けて加奈子に指示を出す。

「では、こんな時間だけど5Fに全員集めて。菊一のメンバーも。北王子さんに即自動絵画をさせて美佳帆様の状況を掴みましょう・・。そのうえで伊芸さんの残り香で追跡を試みますわ・・・。私も、そのお二方の能力がどの程度の精度かわかりませんが・・・いまは試すほかありません」

「真理はすでに支社長を治療してくれたご老人と一緒に支社にもどってます。おそらくその準備をしているとは思いますが・・」

佐恵子は真理から聞いていた、北王子公麿と伊芸千尋の能力を思い出した。

加奈子が真理と栗田と呼ばれる初老の男の話をしだしたとき、宏は佐恵子の両腕を掴んでいた手を離し、慌てた様子でポケットのスマホを探し出す。

「・・焦って肝心なことを・・!完治はしてないやろうけど千尋にも手伝うてもらわんと・・」

画伯こと北王子公麿と、お嬢こと伊芸千尋に向けスマホを操作した宏が背を向け通話し出したとき、佐恵子は隣で血を拭いてくれている加奈子に問いかける。

「あと・・ご老人・・・?まあ、行きながら聞きましょうか。それよりも急ぎましょう。公安が来るのでしょう?・・・加奈子・・起こしてください。脚に力が入りませんわ・・・」

「支社長。・・もうしばらく。服と輸血、点滴の用意もさせてますから・・・」

肩を貸してくれている加奈子が心配そうに話してくれているが、佐恵子の耳にはほとんど入らないでいた。

「・・・わたくしが負け・・」

肩を借り、覚束ない足取りでかろうじて歩く佐恵子は、誰にも聞こえないほどの小声で思わず呟いていた。

千原奈津紀、南川沙織、そして菊沢宏。自身を殺しうるほどの力を持つ存在に、この数日で何人も出会い、今まで他者を潜在的に見下す癖がついていた佐恵子は、今まで感じたことのない不安を処理できずにいた。

【第8章 三つ巴 36話 強い敗北感 終わり】37話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

最新記事
最新コメント
リンク
カテゴリ
ランキング
にほんブログ村 小説ブログ 長編小説へ
にほんブログ村
アダルトブログランキングへ
  • SEOブログパーツ
ご拝読ありがとうございます
ご拝読中
現在の閲覧者数:
問い合わせフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
官能小説 人妻 

ランキング