2ntブログ

■当サイトは既婚女性を中心に描いている連続長編の官能小説サイトです■性的な描写が多く出てくる為18歳歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい■

登場人物に関するアンケート

過去の登場人物に関するアンケートです。
今後の展開や登場人物の出演機会などの
参考にさせていただきたく思っております
ので是非ご協力お願い致します。

今皆様のご協力くださったアンケート結果を
再確認しておりまして1番最初のアンケートに
ご協力くださった方の中に第1章の剛田の回想
シーンに登場した三島香織をその他の欄で投票
して下さった方が居て驚きました。
後はスナック夜顔の草薙薫子とか・・
せっかくの読者の方々のご意見ですので
香織にも是非何とか今後登場の機会を
設けたいと思います。
住居が私が描いている町は関西の設定で
剛田が最初に香織と出会ったのが首都圏
なので少し時間がかかると思いますし
何章での登場になるかは解りませんが
投票して下さった方ありがとうございました。



第8章 41話 三つ巴 抵抗!抵抗!そして唯一出来る攻撃!

【第8章 41話 三つ巴 抵抗!抵抗!そして唯一出来る攻撃!】

「画伯。かけて・・」

顎を引き、強い意志をその可憐な顔に宿したスノウが画伯こと北王子公麿にそう言いながら頷いた。

画伯から視線を移し、所長である菊沢宏にもグラサン越しに視線を合わせ頷く。

「わかりました」

スノウこと斎藤雪の短い言葉だけで理解した表情の画伯こと北王子公麿も、短くそう答えスマホを操作しだす。

画伯に、いつものひょうきんな様子はない。

黙っていればこの北王子公麿も秀才風の容貌で相当なイケメンである。その彼が、シリアスな顔のままコールボタンを押した。

ほんのしばらくの間を置いて穏やかな洋楽のメロディが流れ出す。

林の向こうにぼんやりと灯りをともしている洋館に向かって、着信音の流れるスマホを向け、スノウは林の暗がりに佇む洋館・・、いや、その洋館の中でいるはずの百聞の菊沢美佳帆に向けた。

What a day,what a day to make it through….
What a day,what a day to take to…

ほぼ暗闇のなかで美佳帆のお気に入りの洋楽のメロディが一通り鳴り終わると、スノウはスマホを下ろし、林の向こうに薄ぼんやりと佇んでいる洋館に向かって、美佳帆に語り掛ける。

「美佳帆さん・・!来ました!・・聞こえてますか?!」

スノウのかなり大きめの声に、少しだけ慌てた加奈子がピクリと反応するが、哲司が片手を上げて制止する。

スノウは洋館のほうに向かい声量を変えずそのまま続ける。

「きっと・・聞こえているはずですよね?!美佳帆さん・・。所長、哲司・・画伯、アリサ、私・・稲垣加奈子さんで来ています。いまから所長と哲司さんが突入します。・・・美佳帆さん・・備えてください・・!」

「遅うなってすまん!美佳帆さん・・!無事でおってくれよ!」

スノウが言い終わるが早いか宏が待ちかねたようにそう言うと、洋館を隔てるようにして群生している木々に向かって走り出した。

「ほな・・アリサ、稲垣さん・・。打ち合わせ通りに頼むで。行ってくるさかい」

「任せて!」

「わかってると思うけど・・慎重にお願いね」

哲司のセリフにアリサと加奈子が短く答え、北王子とスノウも力強く頷いた。

哲司も力強く頷き返すと踵を返して駆け出し、群生している木々の中を縫うようにして走って宏の後を追って行った。

「・・・無事だといいんですけどね」

二人の姿が見えなくなったところでポツリと公麿が呟いた。

「ええ・・」

公麿の呟きに少し間を置いてスノウがようやく反応する。

自身が囚われていた時に、敵から受けた数々の凌辱が脳裏をよぎり華奢で可憐な横顔には憂いの表情が広がっていた。

「・・・中はともかく・・・今のところ周囲に人の気配はないわ。対象の出入口は2か所。裏口はこのままここから監視できるから、正面の方は私がまわる。小さい建物だし何かあっても秒で戻れるから・・。何かあったらコールして?・・・正面に向かうついでに敵の足(車)も潰しておくから。どう転んでもここで橋元とは決着よ」

持っていたバッグを地面に置きジッパーを大きく広げ、通信機器をポイポイとメンバーに渡している加奈子に車内で見せていた表情はなく、チリチリと緊迫した様子が伝わってくる。

「メガネさんとスノウさんは建物を警戒してて?アリサさんはその二人の背後と周囲を警戒・・。いいかしら?」

加奈子が立ち上がって手首をコキコキと鳴らしながらそう言うと

「メガネって・・僕のことは公麿とお呼びください。しかし、承知しました」

「ええ・・。加奈子さんのほうこそ正面のほうで一人になってしまいますけど大丈夫ですか?」

「わかったわ・・公麿。お願いね」

と北王子に鋭い表情のまま短くお願いすると、加奈子はスノウに向き直る。

スノウのことは真理から聞かされてる。

敵に捕らわれ何日にも渡ってレイプされていたと・・・。

引き締まってはいるが、およそ戦闘向きではない体格と筋肉・・。しかし、両手で鉄扇を握りしめている姿と表情が意思の強さを感じさせる・・。

さぞかし悪党どもには気に入られてしまいそうだ・・。

スノウの身体能力や情報特化の能力、華奢で可憐だが意思の強さを表す目・・。

(この華奢な身体で何日も凌辱を・・・!・・私が乗り込んで暴れたくなるわ・・)

年上であるスノウに対し、多少失礼かとは思ったが、女である加奈子からみても、スノウこと斎藤雪は可憐過ぎた。

加奈子はスノウの両肩に優しく手を添えると、

「スノウさん。敵が来ないとも限らないの。公麿とスノウさんは自分自身の安全を最優先で考えて。治療係が居てこそ私達は無茶できるんです」

「ええ。わかってます。稲垣さん・・。警護のほうお願いしますね。とってもお強いって聞いてます」

一瞬驚いたような表情を見せたスノウは、加奈子に向かって笑顔を向けて答え、その笑顔に加奈子はサムズアップと笑顔を返した。

「じゃあ私行くね。もし何かあったら呼んで」

耳に付けている通信機を人差指でトントンと叩きながら、そう言うと加奈子は気配を消した。

目の前で視認できるというのに加奈子の存在が虚ろになる。

加奈子は膝を曲げ、腰を落として身体を丸めると、地面にたまっていた落ち葉を少しだけ巻き上げ、林の木に向かって跳躍するとすぐに木々に阻まれて姿は見えなくなった。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

宏達が到着する1時間ほど前・・・。

写真撮影などもする為、建物の外観から洋風でお洒落な普請となっているスタジオ野口の撮影室では、屈服した美佳帆を更に追い詰める宴が続いていた。

「ああ!!も・・もう!許して頂戴!・・休ませて!!」

「がははは!まだまだ私が逝くまで全然まだですわ!・・それに引き換え美佳帆さん?まったく貴女というお人は・・・いったい何度気をやればすんむでっか?・・ご結婚もされるちゅーのに、なんちゅうだらしないマンコなんですか?」


橋元の下卑た笑い声とセリフに、周りの男優たちも声を上げて笑う。

相変わらず首と手首を一枚板で拘束されている。いわゆるギロチン板というものだろうか。

ただ態勢は変えられ、肘で地面を押すような恰好で膝も付き、にっくき橋元にヒップを差し出すような体勢で、潤いにつぐ潤いから、室内の湿度を上げてしまうのではないかと思うほどの水分をその小さな蜜壺から放出していて、豊満な臀部の菊門までが無防備に晒された姿で拘束され凌辱を受けていた。

グリグリという音がなりそうな動きで人差し指で美佳帆の菊門を虐めながら、深々と濡れた蜜壺を抉る。

「ひっ!・・・あっっ・・っくぅ!!!」

不自由な格好で顎を持ち上げ、美佳帆は全身を震わせる。

「まーた逝ったんですかいな?いったい何回いったんでっか?美佳帆さん・・こんなに逝ったことおまへんやろ?旦那はこんなに可愛がってくれへんやろ?ええ?あんなむすーっとした男にはこんな芸当到底無理でしょうなぁ!がーっはっはははは」

バカ笑いを罵る気力も体力も最早なく、極めた絶頂の余韻で豊満な肉動くたびに肉を揺らせるヒップを震わせていると、バチーンと平手打ちをされた。

「きゃぅ!!!」

男性から行為の最中でも、そのような扱いを受けたことのない美佳帆は驚いて声を上げてしまった。

突然、ヒップを打たれると言う仕打ちに驚いたのはもちろんであったが、叩かれるという行為にジクジクとした陰鬱な快感が混ざっていたことのほうに驚きが大きい。

叩かれた衝撃で僅かに腰が動く。

腰が動くと突き刺されている橋元の男根を、自身の膣肉が貪るように吸い付いてしまうのが嫌でもわかった。

「おやぁ?美佳帆さんそういうのもイケる口ですか?」

再び臀部に橋元の平手打ちが飛ぶ。

「ひぃ!な・・なにが・・!痛いわよ!叩くのは止めて!」

バチーン!

「きゃああ!止めてって、、うっ・・言ってるじゃない!ああああ」

セリフとは裏腹に叩かれた衝撃と振動で、腰は自動的に橋元の太すぎる男性器を抱擁するように膣肉が締め上げる動きをしてしまう。

「美佳帆はお尻を叩かれて逝きますや!ほら!美佳帆さんきちんと言うまで、射精しまへんで?」

「そんなこと言う訳・・!きゃあああああ!」

美佳帆が言いかけたところで、またもや橋元が美佳帆の熟れた豊満なヒップに平手を振るう。叩かれることにより波打つ豊潤に腰回りを守る白く熟れた柔肉は、全裸の女体を何百と見て来た橋元ですら性欲をさらにそそられるほどに官能的であった。

「私に出してもらわんと、【媚薬】は解除されへんのでっせ?がははは。どうやっても美佳帆さん。貴女、私には、もはや逆らえれんのんですわ?どや?悔しいでっしゃろ?がーっはっはっは!」

「くぅ・・くうう!!い、今に・・後悔する・・わよ!さっさと・・うぐう!・・だ・出しなさいよ!・・あなたこそ逝くの我慢してるんでしょ?!」

橋元の罵りと【媚薬】効果で芯まで蕩けさせられてしまっている。何をされても気持ちいいのだが、頭では相手が橋元と解っているので、この未だかつてない快感を与えてくる相手が私の最も忌み嫌う相手であると言いう矛盾が生じどうしてもいつもの強い口調で反論する気力だけが今の美佳帆に正気を保てる蜘蛛の糸になっていたのかも知れない。

「おおおおぅ・・!ゾクゾクっとしましたわ。美佳帆さんはやっぱり最高でんな。身体はもうとっくに堕ちてはるのに、そんなセリフが口からだせるなんて、ホンマに楽しませてくれますわ!」

何十回も逝って敏感になっている自らの膣肉の握力で憎い橋元の男性のシンボルを握りつぶすと言う行為しか武器のない美佳帆は、絶頂しないように気を強く持ち本人的にはもう攻撃をしているつもりで割り切り腰を振る。

「ほら!出しなさい!」

不自由な格好で自ら腰を振り橋元の腰に蜜壺を打ち付ける。

美佳帆は歯を食いしばり、自分のほうが先に逝ってしまわないように耐えながら腰を振る。

「おおおお!ええ眺めや!あの百聞の美佳帆さんがデカい尻を揺らせながら自ら腰を振って、私の大砲を飲み込んで・・おおおお・・!こりゃたまらん・・!」

顔を真っ赤にして歯を食いしばり絶頂しまいと耐えながら美佳帆は腰を打ち付ける。

腰の振り、絶頂を我慢している真っ赤の汗にまみれた顔をカメラでおさめられながら、振り絞る様に腰を振る。

「い、逝きなさい!はぁはぁ!・・・ぅく!・・・っあああ!」

(だ、だめ!また私の方が逝っちゃう!は、早く!早く逝って!この遅漏!!だ、だめ!!)

美佳帆の身を削った攻勢に橋元の息づかいもリズミカルになっていく。

「おおおっと・・!」

あと少しで本当に逝ってしまいそうになっていた橋元が無情にも美佳帆の腰を掴み、長さ25cm太さ5cmはあろうかという自慢の一物を勢いよく引き抜いたのだ。

「危ないところでしたわ!がはは・・おや?どないしましたんや?美佳帆さん?ええ?!」

バチーン!

「ひぃ!ううう!」

(そ、そんな・・!!こんな態勢じゃ・・こっちからこれ以上責められないじゃない・・!そ、それに・・こっちはもう逝きそうだったのに・・)

不格好で不自由な格好から責めていた美佳帆は、思いがけず寸止めになってしまった身体を怨めしく思っていたところに再び橋元の平手が飛ぶ。

バチーン!

「きゃああ!だ、だめ!叩かないで!」

ずぶり!!

「ひぃぎい!きゃっ!あああ!ぬ、ぬいて!!」

絶頂感から僅かに回復した橋元が、逝き損ねた美佳帆の膣奥の快感スイッチを押し込むように深々と串刺しにする。

「いーひひひ!美佳帆さん逝き損ねたんでっしゃろ?」

「だ、だれが!違うわよ!」

バチーン!

その肉感の良い白くスローモーションのように美しく揺れるヒップの柔肉。

「ひぅ!ちょ・・!やめ!」

バチーン!

「きゃ!やめて!」

バチーン!

「だめ!逝きたくない!!」

バチーン!

「い、いや!叩かないで!あああっ!」

「がははは!美佳帆さん目の前のカメラ見ながらや!」

ばちーん!ばちーん!ばちーん!ばちーん!ばちーん!ばちーん!

「あっ!ああああっ!いやっ!!ああああ!だめ!嫌!嫌よぉ!!こんな逝き方!」

「逝くんや!美佳帆さん、アンタは尻叩かれながら逝くドマゾ女なんや!」

ばちーん!ばちーん!ばちーん!ばちーん!ばちーん!ばちーん!

「あああああっ!!!っくっ!!!・・・っく!!っう!!!」

肘と膝で四つん這いになった不自由な身体を限界まで逆にのけ反り、顎を上げて白い喉を見せて深い絶頂を貪る。

美佳帆を飲み込んだ絶頂は容易に美佳帆を開放せず、10数秒間、美佳帆は身体をのけ反らせたまま小刻みに震えていた。

その顔をアップでおさめられているのも構うこともできずに快感を貪る。

ようやく絶頂から解放された美佳帆が大きく息を吐き出し、すぐに荒い呼吸をゼエゼエと始めると、髪の毛を掴まれ顔を上げさせられる。

片目を少しだけ開けると見下した笑いを浮かべた男がカメラを美佳帆の顔に向けていた。

「さあ、美佳帆さんがもっと素直で可愛い女に成れるまでエンドレスといきましょうか!」

橋元のバカ笑い声に愕然としている暇もなく、腰をがっちりと掴まれる感触があると同時に再び橋元の巨根が打ち込まれ始めた。

「いやあああああ!」

美佳帆の悲鳴と橋元、AV男優たちの笑い声が撮影室に響き渡った。

(くっ・・・なんという屈辱・・・この私が・・・ヒップを打たれただけで、絶頂させられてしまうなんて・・・相手が強いなら立ち向かえば良い・・・相手が狡猾な男なら、力で制圧すれば良い・・・しかし・・・この男のこの能力(ちから)は・・・わたしが・・・わたしが男性ならこんな男などに屈服せずに済むのに・・・)

橋元に今日幾度となく挿入されたが、またその太さを新鮮に感じてしまい受け入れてしまう私の股間の細胞達を恨めしく思いながら、そろそろ意識が朦朧としていく中でそのような事を考えながら女性に生まれたこと自体を嘆いている自分に、限界が近いのかもと自覚していた美佳帆であった。

【第8章 41話 三つ巴 抵抗!抵抗!そして唯一出来る攻撃!終わり】42話へ続く



第9章 歪と失脚からの脱出 35話 黒頭巾の男の力

第9章 歪と失脚からの脱出 35話 黒頭巾の男の力

紅音は腹部を貫いた衝撃で目を細めてはしまったが、頭巾から覗く男の目をはっきりと見た。

菊沢宏ではない。

奴は数時間前に日本海に浮かぶ孤島、通称Sという死地の孤島に追いやったばかりだ。

その死地は菊沢宏達にとっては敵だらけで、今は世界的にも名だたる能力者が多く終結し、いかにあのグラサンの腕が立とうとも、こんな短時間に戻ってこれるはずがない。

空中で身体を捻り態勢を整えながらそう確信すると、紅音は攻撃してきた黑頭巾に意識を集中する。

咄嗟に発動させた【即応反射】の反射速度でも回避できなかった黒装束の速度に驚きはしたが、紅音はまだまだ余裕があった。

蹴り飛ばされながらも空中で一回転し、正面を向いた時、再び男と視線が交錯する。

交錯した男の目は静かではあったが怒りを内包しているようにも見えた。

「おまえは・・・何者だ!?」

紅音は突然蹴られたことによる感情に任せ怒声でそう誰何すると、右手を払って瞬時に目の前を覆いつくす炎を発現させ、黒装束の男を炎で薙ぎ払う。

深紅の炎に飲まれた黒装束の男を見て、紅音はニヤリと笑みを浮かべたが、炎を突き破り黑装束は速度を落とさず紅音に迫ってきたのだ。

「なっ!?この熱量を!」

戦慄した紅音は空中でもう一回転して着地すると、慌てて今度は、迫る黑装束に本日最大の威力の火球を放たんと身体を捻って左手を突き出した。

「これならどう!?」

ぼっ!!
真っ赤というより白い熱の塊が出現し黑装束の男を包み込む。

必勝の笑みで奢った表情の紅音は、黒装束の死を確信して言った。

避けることができるような大きさと速度ではない、死の炎球が紅音の目の前にまで迫った黑頭巾を包み込んだ瞬間、爆散する。

『きゃああああああ!』

凄まじい爆炎と業風に、美佳帆と佐恵子の悲鳴が重なり、建物が振動でビリビリと揺れる。

消防設備から噴射されている水など感じさせない勢いで、爆炎の余波の炎が周囲をねぶりつくし巻きあがる。

そんな中、黒装束の男はゴホゴホと咳ばらいをし、周囲に漂う熱気を手ではらいつつ、焼き焦げた頭巾をうっとうしそうにはぎ取り舌打ちすると床に投げ捨て、その素顔を露わにしたのだ。

「ジンくんっ!来てくれたのね!」

壁を背にし、床に腰を下ろして顔を両手で炎から守っていた美佳帆は頭巾を投げ捨てた男に向かい、ススだらけの顔の生気をとり戻して叫んだ。

「何とか間に合ったみたい・って美佳帆さん!火傷だらけやし髪の毛も顔も・・!宏のアホはなにやっとんですか!自分の嫁がこんな目に負うとるっていうのに!・・それにしても美佳帆さん相変わらずのホットパンツ・・まぶしい脚も衰えるどころか、ますます磨きがかかって・・」

美佳帆にジンと呼ばれた黒装束の男は、今は顔を晒し、黒装束をまとった忍者のような出で立ちでそう言いながら、美佳帆に駆け寄った。

「ぐぅ・・ぐふ・・」

一方、大火球を発射し黒装束を火球で迎撃したはずの紅音は、自身の技の勢いのせいもあるが、忍者男の蹴撃でかなり後方まで吹っ飛ばされており、お腹を押さえつつ立ち上がろうとしていた。

黒装束の男は、紅音の大火球による攻撃を、オーラによる防御だけで突き破り、先ほど蹴った紅音の腹部を再度蹴り抜き吹き飛ばしたのであった。

立ち上がりながら紅音はひどく狼狽し、怒りで目を濁らせていた。

視界が歪み、平衡感覚が定まらない。

痛みと吐き気が腹部を中心に広がってくる。

「げほっ!・・か・・っ・・はぁはぁ・!ぐ・・」

「紅音!・・大丈夫でして?もうおやめなさい!・・公安ももう支社内まで着てますわ!これ以上無益な強情を通すのは・・・!貴女の立場が悪くなる一方です!」

怒りと痛みで顔を朱に染め黑装束を睨みつけたところに佐恵子が駆け寄り、紅音の背中をさすりながら何事か言っているようだが、紅音の頭にはほとんど頭に入ってこなかった。

「きゃっ!」

次の瞬間、隣に跪いて背中を撫でてくれていた佐恵子が短く悲鳴を上げたと思うと、壁に激突しその長い髪を蜘蛛の巣のように放射状に広げ激突し、壁からズルリと崩れ落ちた。

「ちょっ!ジンくん!!その人は味方なのよっ!!」

佐恵子が先ほどまで立っていたところにはジンと呼ばれている黒装束の男が、膝蹴りの格好のまま片足立ちで立っていたのだ。

そのジンに向かって美佳帆が悲鳴を上げて咎める。

「え・・?!そ・・そうなん?せやけど紅蓮を気遣うようなこと言うてるからてっきり敵やと・・」

黒装束の男は、美佳帆のセリフに慌てたした様子でそう言って弁解している。

美佳帆とジンがやり取りをしている中、紅音は蹴られたおなかを抑えながらも立ち上がり、倒れている佐恵子を見下ろした。

「佐恵子・・なぜ・・?」

紅音は、うつ伏せで倒れたまま動かない佐恵子を確認し視線を黒装束に戻すと、美佳帆に必死に弁明している男を睨みオーラを全開にして怒鳴った。

「くそっ!・・誰なんだよてめえはよ!」

自身に二度も攻撃を与えたジンと呼ばれている黒装束が憎いのか、政敵ともいえる佐恵子を攻撃されたのが何故か心境を不快にさせたせいか、紅音は両手に炎を纏い、紅音は肉体強化を限界まで発動し襲い掛かった。

「ぅおっと!あっぶな!・・」

「ちぃ!速いわね!・・菊沢美佳帆たちとはずいぶん違うってこと?!」

並みの強化系能力者であれば躱せるような攻撃ではない紅音の連撃を、黒装束の男は見事な体裁きで躱し防ぐ。

紅音もただならぬ黒装束の戦闘スキルを肌で感じ、紅音にしては珍しく戦闘で真剣に集中しだした。

いつもは格下相手に、掃討戦をするのが常であった紅音が、本気に成らざるを得ない相手だと身を粟立たせた瞬間であった。

「おまえが美佳帆さんやスノウらをあんなにしやがった紅蓮なんやろが!?確かにあんたの攻撃・・まともに喰らったらタダじゃ済まん炎やろうけどな!俺には通用せえへんで?!」

「ほざけっ!急に出てきてなんだ!私の炎に耐えられるものなら耐えてみろってのよ!このレベルでオーラを展開できる能力者なんて日本じゃ五指いないでしょうよ!邪魔なのよ!さっさと死ね!」

二度も強烈な攻撃を腹部に受け、激昂したとは言え紅蓮である。

北派の中国拳法の二つをマスターしている紅音は、肉体も強化し炎を両手に発現させて、大抵のものであれば必殺の威力がある攻撃を連発し黒装束に浴びせかける。

強いぞ!油断するな!と丸岳が言ったセリフが紅音の脳裏には焼き付いている。

(丸岳くんが言ってたヤツ・・こいつがそれに違いない!)

丸岳は紅音のことをよく知っている。

紅音の身体はもちろんその強さも・・。

その丸岳がそう言ったのである。

彼が言うならば、ほぼ間違いないと紅音は思っていた。

黒装束の男は防戦一方ながらも、紅音とは対照的な冷静で冷め切った目で技をギリギリで見切り、防ぎ躱している。

紅音は初めての経験であった。

能力解放した全力の攻撃がこの黒装束には当たらないのだ。

「くっ!・・・お、おま・・!・・本当に何者なの?!・・この私とこんなに戦えるなんて・・!野良相手にこんな!・・・馬鹿なっ!私は宮コー十指最強の紅蓮なのよ?!」

紅音は何度か聞いた誰何を反芻してしまっていた。

「・・やっぱり・・火が出せるのは手からだけみたいやな」

「っ?!」

「なるほど・・自分の炎の威力以上のオーラで防御を展開させてんのか。オーラ防御で覆った手から炎を発現してるんやな・・・それで自分は炎でダメージ負わんようにしてるんか。器用なやっちゃ。しかし、足には炎が纏えんとみえる。体術も達人級やが・・ふむふむ・・よっぽど自信があるんやろな。動きに慢心があるで?傲慢が動きの至る所ににじみ出とるわ」

紅蓮という二つ名持ちの能力者、緋村紅音の発火能力を冷静に言い当てた黒装束に、紅音は目を見開き驚いたその瞬間。

「きゃ!?ぐっ!」

紅音が怒りに任せて放った上段回し蹴りを、身を低くして躱され、逆にその隙に軸足の膝を蹴り抜かれたのだ。

完全に足を払われ、空中に投げ出されたところを更に黒装束が振り落してきた踵が紅音の頬に直撃し、紅音は頭から床に激突する音が妙に大きな音で響く。

どんっ!

「きゃぅ!!」

地面に激突してしまった紅音だが、瞬時に両手だけの力でバッタのように後方に飛び退ると、鼻血を拭って両手を広げオーラを収束させだした。

「こっ!・・こ・・こいつっ!!・・殺す!この私の顔を蹴るなんてっ・・!・・もう支社がどうなっても知るもんですか!」

「おっ!怒ったんか?俺は宏のように女に手上げれへんようなフェミニストとちゃうぞ?もっとガンガン蹴ってやるからな?・・しっかしいまモロ入ったってのになかなかタフな奴っちゃなあ」

「減らず口を言えるのも今のうちよ・・!骨まで焼き尽くしてやる!」

赤髪を逆立て全身にオーラを開放し出した紅音が、ますます力を身に宿し目には殺意を抱いて黒装束のくせ者を焼き尽くさんと睨みつけて怒鳴った。

「ちっ!・・範囲攻撃か」

黑装束は紅音に突進しようか、傷ついて動けない美佳帆を助けに行こうか一瞬迷ったが、美佳帆の方に一気に跳躍した。

「はんっ!馬鹿ねっ!迷わず私に接近戦を挑めばまだ勝ち目はあったでしょうに!もう容赦しない!全開で行くわよ!この紅蓮を本気に出させたのを光栄に思いなさい!」

紅音のセリフを背に受けて黒装束は座して動けない美佳帆を庇うように抱き上げる。

紅音は周囲無差別地象の【焼夷】も全力で開放しようとしかけたが、うつ伏せに倒れ動かなくなった佐恵子を一瞬だけ見ると、ふんと鼻をならして【焼夷】の発動を止め、佐恵子より前に踏み出してから黒装束を睨みつけて構えなおした。

そして禍々しくも膨大なオーラを収束させだし、ただでさえ強力な技能を持つ紅音が、さらにその凶悪な炎の威力を高めんと紡ぎだしたのだ。

「揺らげ!自己犠牲の炎よ!我を削り炎の孔雀となれ!二度と同形の炎を成すこと能わずとも、その身焼き尽くす時、刹那無二の命散るまで羽ばたき、旋風をおこして焼き尽くせ!我の敵は汝の敵なり!追え!偏に一重に何処までも・・・!舞え!仮初刹那の孔雀よ!命尽きるまで舞い敵を灰塵となせ!」

紅音は、舞踊のように舞い、謡うように力強く紡ぎ言葉を唱え、その瞳は自分をここまで追い込んだ黒装束の男を、怒気を込めて睨んだままであった。

「ジンくんっ!わたしなんかいいのに!紅蓮に紡ぎ言葉までさせたら・・!ああ、なんてこと!こんな炎・・!紅蓮は私たちには、まるっきり本気じゃなかったんだわ・・!」

バチバチと炎が爆ぜる音をさせ、紅蓮の周囲、上階の建物を焼き尽くしながら炎が燃え広がっている。

「紅蓮・・か。さすが国外でも有名な能力者なだけあるわ・・。そやけど美佳帆さん・・俺があのまま突進しても紅蓮はかまわず撃ったはずや。俺や美佳帆さんを巻き込むようなヤツをな。俺はなんとかなってもあの炎や。こりゃ建物内でも死人が出るかもしれへんで?」

「そんな・・」

自分たちより上のフロアは最早形を成していない。

紅蓮によって宮コー関西支社は今や市内の高いところからなら、どこから見てもわかる大火事状態だ。

「・・・待たせたわね。塵にしてあげるわ。墓なんか必要ないようにね!」

紡ぎ終わり炎の後光を背後に纏った紅音が、妙に落ち着いた表情ながらも勝利を確信した様子で言い放つ。

紅音の背後と頭上はすでに焼き消されており、宮川コーポレーション関西支社は15階より上階は半壊し炎に覆われている。

大変な大惨事だ。

しかしそんなことは意に介していない紅音は、美佳帆たちをしっかりと視界に捉え、操る炎を同調させ巨大な鳥に模させた。

「いい子・・」

紅音はそう言って、頭を垂れてきた巨大な炎鳥の嘴と喉を優しく撫でると紅音は吼えた。

「さあ行け!【葬華紅蓮紅孔雀】!!」

キエエエエエエエエエ!

炎鳥は紅音に従いバサリと一度大きく羽ばたくと、嘴を開き雄叫びと共にまっすぐ黒装束目掛け飛翔しそのまま壁に激突する。

どおおおおおおおおぉん!

「ちっ!避けたのかよ・・!だけどねっ!」

紅音は上空をばっと見上げてそう吐き捨てると、美佳帆を抱えたまま一気に跳躍した黒装束目掛け手を振りかざす。

とたんに巨大な炎は再び鳥の形を成し上空の二人に飛びあがった。

その巨大な炎鳥が咆哮を上げ、その羽を一羽ばたきするだけで、周囲のモノはひとたまりもなく焼け落ち、羽ばたきの風で吹き飛ばされてゆく。

もはや紅音たちが立っているフロア以上の上階、ヘリポートがあった屋上も焼き崩れ塵となり風で吹き飛ばされている。

「な・・な・・なんて・・本当になんてヤツなの・・!・・こんなの相手に私たちは戦いを挑んでたっていうの・・・?!・・ジン君!このままじゃ!」

ジンに抱きかかえられたままの美佳帆は、満身創痍で痛む身体のことも忘れ、眼下で舞飛び、再び迫ってくる火の鳥を見て慄いた。

「大丈夫や美佳帆さん。あんなんもんいつまでももつはずがない。見てみ?紅蓮の奴を。紡いでたとおりやで?命削ってオーラに変換するタイプの技や」

ジンの言った通り、眼下に見える紅音の顔色は白く、眼は疲労でくぼみ、一目で先ほどより随分衰弱しているのが見て取れた。

しかし、その紅音の生気を吸い取って羽ばたく炎鳥はまだまだ力強く在り、雄叫びを上げつつ二人に迫ってきている。

ジンは上下に分かれた嘴を両足で蹴ってうまく躱し、再び地上、いや紅音たちのいるフロアに美佳帆を抱えたまま飛び降りる。

「熱っつ!・・足袋が!」

嘴に触れた足袋が破れ、ジンの足を焼いたのだ。

「大丈夫!?」

キエエエエエエエエ!

抱きかかえられた美佳帆の悲鳴に炎鳥の咆哮がかぶせるように響いてくる。

ふたりを追い、炎鳥は上空で旋回し滑空してきているのだ。

「無駄よ!逃がすわけないでしょ!」

疲労困憊の顔色であるが、紅音は二人に怒鳴る。

その時、階下からぞろぞろと同じ服を着た者達が一斉に駆け上がってきた。

「緋村支社長!能力を解除しなさい!」

「このクソ忙しい時にまた誰かきたのかよ?!・・あっ!」

聞きなれない声に紅音は顔を歪め声の方に向き直って悪態をついたが、すぐに表情を変えた。

「能力を解除しなさい!緋村支社長!政府特別捜査官の霧崎です。貴女の行っている行為は明らかな犯罪行為です!即刻能力解除し両手をあげてその場で膝を付いてください!」

霧崎美樹が「行けっ!」と一声号令すると武装した警官隊が、訓練された動きで紅音の周囲を包囲するように取り囲む。

「ちっ!」

紅音は大きな舌打ちをし、取り囲んでくる警官隊らを目で威嚇し周囲に近寄らせないように威圧している。

(こうなったら・・こいつらも消して口封じするしか・・)

発動させた紅孔雀を操りながらも、紅音は物騒な判断をした。

美佳帆を抱えたままの黒装束が着地したのを横目に、足を負傷した黒装束がすぐには動かないと判断し、霧崎達に紅孔雀を向けたのだ。

「正気なの緋村支社長!?・・仕方ないわ!発砲を許可します!!各自適時対応優先!狙えっ!」

紅蓮の意識が明らかに害意を持って自分たちに向き、上空を舞っていた炎鳥がこちらを狙って滑空してきていることに霧崎美樹は驚いたが、瞬時に決断して部下たちに指示し叫んだ。

霧崎の指示で、長めのトンファー型の警棒を携えていた武装警官たちは、いっせいに腰の銃に手を伸ばし紅蓮を照準に合わせ構えた。

「・・・ハエども!能力ももたないゴミ共がこの私に銃を向けたところで!」

紅音の目に殺意がみなぎる。

「撃てっ!」

危うしと判断した霧崎美樹は、周囲を取り囲む警官たちを一瞥した紅蓮を的とし、指示を飛ばした。

その瞬間パンッパンッ!と乾いた可愛い音が一斉にするが、可愛い音とは裏腹に普通の人相手であれば、当たり所によれば必殺の威力のある9mm弾が一斉に発射される。

「くっ・・っふ!ぅうっとおしいのよぉ!!」

紅音は炎鳥を操りながらも、周囲に熱風を巻き上げ、銃弾をほとんど弾き飛ばすが、すべてを跳ね退けることができず、腹部と肩にに1発ずつ受けてしまい、身体を捻って倒れ膝を付いた。

「ぐっ・・!・・霧崎ぃ」

銃弾を受けながらもすぐに立ち上がった紅音は霧崎を睨み上げる。

「緋村紅音!これ以上無駄な抵抗は止しなさい!」

武装警官に囲まれた紅音が周囲を威嚇し、歩みくる霧崎美樹が投降を呼びかけている。

「・・・美佳帆さんもう大丈夫や。紅蓮が生み出した鳥も当の本人があんな状態や。指示がのうなって動かへん。操られもせんとただ浮かんどるだけで、だんだん小さなりはじめたで?」

「そ・・そうね・・たしかに・・」

「あの捜査官・・霧崎美樹って名乗ってたな?」

「ジン君知ってるの?あの捜査官」

「噂だけな。話したことはない。・・融通効かへん堅物で、突出した能力と突出したおっぱいを持った警視庁の名物捜査官やって話や・・。しかし手負いとは言え、紅蓮を抑えられるほどの腕なんかどうかまでは知らん・・」

霧崎美樹は黒のパンツスーツに白のジャケットに身を包んでいるが、ジンの言う通り、その胸を包むジャケットのボタンははちきれそうなほどバストサイズは大きい。

「緋村紅音!無駄な抵抗は止めて能力を解除し両手を上げなさい!」

「はぁはぁ・・こんな邪魔が・・!」

発動した紅孔雀を解除してしまうと、折角費やした膨大なオーラを消失しただけになってしまう。

そうなると、残ったオーラであの黒装束と戦えるだけの力は残っていない。

目の前の武装警官共も容赦なく発砲してくるうえ、射撃の腕も正確だ。

そのうえ、目の前で油断なく睨みつけてくる霧崎美樹。

(たしか、こいつは宮コーもしつこくスカウトした能力者だったはず・・・)

紅音は霧崎を睨みながらやっかいな相手が増えたと歯噛みをした。

宮コーがスカウトをしたが、結局霧崎本人の強い意思で、政府組織に所属して悪を撲滅することを希望し、能力者による犯罪処理や警察内部の汚職捜査などを、通常の人間では手を出せない悪を殲滅する部隊の急先鋒となることを良しとしたのだ。

その正義感の塊である霧崎が紅蓮に対峙し真っ向から堂々と言い放った。

「緋村紅音!これ以上抵抗するなら・・。私が容赦しません!」

「容赦しないってどうなるの?・・この私相手にどうにかできると思ってるの?!」

「【霧散無消】!」

紅音のセリフが言い終わると同時に、霧崎美樹はもはや問答無用とばかりに、両手を上空の炎鳥に向けて何かを放った。

「くっ?!てめえ!」

炎鳥を操っている紅音は、炎鳥に練り込んだオーラが途端にごっそりと減少しだしたのが、手に取るように身体で感じ取れた。

紅音は焦った声を上げ、上空の炎鳥と霧崎を見比べ、霧崎に突進する。

「公務執行妨害も加わりますよ!」

「五月蠅いっ!」

衰弱したとはいえ、紅蓮の速度は神速を極めていたが、霧崎美樹は上空にかざしていた両手を卸し構えなおすと、がっきと紅音のパンチと膝蹴りを両手と右膝を使って受け切った。

「侵入者はあいつの方だ!てめえ警察だろ!?あれをとっ捕まえろよ!」

紅音と美樹の顔は10cmと離れていないその距離で、紅音は美樹に怒鳴り散らす。

「能力を使っての人身傷害行為は明らかに緋村紅音。あなたの犯罪です。あのものは不法侵入しただけに過ぎないのでは?それに、貴女は現行犯です。この被害も貴女の能力に起因するのは明らか。大人しくしなさい!」

紅音は急に現れた生意気な爆乳捜査官をそのまま蹴り飛ばそうと力を込めるが、オーラは枯渇気味なうえ、力を込めると銃弾を受けた腹部と左肩から目に見えて出血が酷くなった。

「くぅ・・うく・・こんな・・この私が・・」

思うように力の入らないうえ、思いのほか霧崎美樹の能力が強かったのにも驚いた紅音は、力なく呻いた。

紅音は蹴り飛ばすのは諦め自らが後方に飛び右手を突き出して火球を発射した。

周囲の警官隊は上官の警視正霧崎美樹に銃弾が当たることを怖れ、射撃できずにいる。

どおおおぉん!

火球が霧崎美樹に直撃し、紅音がぜぇぜぇと息を切らしている中、風で炎が切れたところに衣服が焼き焦げスス塗れになった霧崎が立っている。

「ちっ!やっぱりかよ・・(こいつも強い・・)」

「致し方ありません。実力でねじ伏せます」

鋭く舌打ちした紅音に対し、ススだらけとは言えほぼ無傷らしい霧崎美樹は紅音に向かって突進する。

宮川コーポレーション最大戦力の一人と謳われる紅蓮も連戦に次ぐ連戦で、今度も相手が悪すぎた。

昨晩から銀獣の稲垣加奈子、宮コー十指の良心である神田川真理、インテリクソメガネの北王子公麿。

先ほどは、菊沢美佳帆、斎藤アリサ、斎藤雪、伊芸千尋の四人組。

そのあとは得体のしれない忍者ルックの黒装束男。

そして、政府特別捜査官の霧崎美樹と戦いっぱなしである。

全員日本においては能力者としてはトップランカー揃いのメンバー相手に、紅蓮は一人でよく戦ったと言うべきなのだが、紅蓮はまだ勝負を捨ててはいない。

紅音が忍者ルックの黒装束男を始末するために紡ぎ言葉まで使って作った紅孔雀は、霧崎美樹の【霧散無消】という能力で、大半オーラを霧散させられており、術者からの指示もオーラの供給も途絶えたことからすでに消え失せていた。

切り札であった大技を無為に失ってしまった紅音は、オーラ的にジリ貧で霧崎美樹のような充実した能力者にはすでに対抗できるような状態ではなくなっていた。

「がぁ・・」

霧崎美樹のボディブローを受け紅音は膝を付くも、すぐに立ち上がるが膝が笑い、まっすぐに立てないでいるようだ。

そのうえ、警官隊の包囲の輪も縮まってきており、追い詰められた虎がだんだんと逃げ道を防がれるような様相となってきている。

「もう諦めなさい。これ以上は怪我が増えるだけですよ?」

手負いとはいえ今の紅蓮を体術で圧倒するほど、霧崎美樹は強かったのだ。

息も絶え絶えに、焼け焦げた床から視線を上げることも出来ないでいる紅音は、ガクリと再び膝を付く。

その様子を見て霧崎美樹は「捕えろ」とだけ武装警官たちにそう言い、紅音が警官たちに絡め取られ、手錠をかけられている様子を確認すると、警官の幾人かを伴い床にへたり込んだ美佳帆のところまで駆けてきた。

「怪我は大丈夫ですか?菊沢さん・・ですよね?もう安心してください」

「ど・・どうして私のことを・・?」

美佳帆はススにまみれた顔を向け、膝を付き怪我の様子を聞いてくるはち切れそうな胸の捜査官にそう聞きかえすと

「先ほどあなたの同僚たちにお会いしました。その時にあなたの救出を乞われたのです。聞いた服装と同じでしたからすぐわかりましたよ」

美佳帆は自分の服装がカットソーとデニムのホットパンツというわかりやすい服装を見て、苦笑し先輩思いの可愛い後輩たちに心中で感謝した。

「そ・・そうだわ!あの子たちは無事なんですか?」

美佳帆は彼女たちも大怪我をしていることを思い出し、爆乳捜査官に聞く。

すると美樹はすっと手をあげて美佳帆を制した。

美佳帆が美樹の様子に訝しがっていると、その美樹の手が緑色、眩いばかりの緑色の光を発し出したのだ。

「その光はっ・・」

美佳帆はその色に見覚えがあった。

千尋やスノウ、真理も使っている治癒の光であった。

しかし、霧崎美樹の光はそれまで見たものとは別なモノかと思われるほど鮮明で明るかったのである。

「あっ・・」

そんなことを思っているうちに、美佳帆が露出させているカットソーから覗く腕、ホットパンツから延びる脚にかざされ、ヒリヒリと痛んでいた火傷が嘘のように静まってゆく。

「まだ痛みますか?」

霧崎は相変わらず真面目くさった顔で美佳帆の顔を覗き込むようにして聞いてきたが、美佳帆はあまりにも簡単に引いた痛みが信じられない様子でフルフルと首を振った。

「それは良かったです。あの3人の方にも私が応急の治療を施してあります。念のために病院に搬送させていただきましたが、おそらく大丈夫でしょう」

「ほんとに?!ああっ!!3人とも?ああっ!ありがとうっ!あなた最高よっ!」

美佳帆のセリフに霧崎はいちいち力強く頷いていたが、不意に美佳帆が霧崎の首に手を回して感謝を身体で思い切り表現してきたことに慌てた声を上げた。

「わっ・・!落ち着いてください。それより先ほどまでいた黒装束の男はどこへ?お知り合いですか?」

「へっ?・・あら・・いない・・・?」

美佳帆は霧崎に質問されて初めてジンが消えていることに気が付いた。

「何者だったのですか?お知り合いでしょうか?なにかあの者について知っていることがあれば・・」

と霧崎が美佳帆に聞き始めた時、紅音を捕縛していた警官たちのほうで騒ぎ出した。

「離せっ!離しなさい!離せって言ってんでしょ雑魚どもがっ!」

紅音の怒号で美佳帆と霧崎がそちらに顔を向けた時、両手をチタン製の手錠で戒められた紅音がすでに武装警官たちを蹴り上げたところであった。

空中で武装した警官が3人宙に浮いて飛ばされている。

「くっ!しまった!」

霧崎がそう言ったとき、すでに紅音は霧崎と美佳帆に向かって手錠された両手を突き出し、残りのオーラを振り絞った大火球を放っていた。

【第9章 歪と失脚からの脱出 35話 黒頭巾の男の力終わり】36話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 20話【回想】佐恵子と錫四郎

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 20話【回想】佐恵子と錫四郎

朦朧とする意識の中だが、目には友愛と敬愛を示す好意の色がはっきりと見える。

・・錫四郎さま?どちらに?わたくし急にどうして・・?」

佐恵子は自身を抱きかかえ足早に歩いている男に覚束ない口調で声を掛ける。
自分の身体に起きた突然の不調に、佐恵子は不安を覚え錫四郎に問いかけたのだ。
意識もあいまいで、身体全身が麻酔でも効いているかのようにまともに動かせないのだが、錫四郎に抱き上げられる感覚はしっかりとしており、夜とはいえ初夏の生暖かい空気も肌でしっかりと感じ取れ、錫四郎たちが歩く足音ですらうるさいぐらい鋭敏に感じ取ることができる。
どうやら身体はまともに動かせないが、感覚だけはしっかりしているというかむしろ敏感にすらなっているようである。

「へえ、すごいね佐恵子さん。もう喋れるなんて。でもまだゆっくりしてた方がいい」

錫四郎は佐恵子をいわゆるお姫様抱っこをしたまま、足早に歩きながらそういうと、隣で並んで歩く取り巻きの男の一人に「おい」と言って目配せする。
取り巻き男は錫四郎の意図を汲み、下卑た表情で小さなビニール袋に包まれた錠剤を内ポケットから取り出すと、封を破って二粒取り出し、佐恵子の両頬を片手で乱暴に摘まんで口を無理やり開けさせると、半開きになった佐恵子のややふっくらとした唇の間にねじ込んできたのだ。

「うっ?な?!なんっ!うぶっ!?」

佐恵子は、朦朧とした意識の中とっさに抗議の声を上げかけたが、錠剤がねじ込まれた口にスポーツドリンクを入れるような容器の飲み口をねじ込まれて口を塞がれてしまったのだ。
それだけでボトルに入った液体が口に流れ込んでくるのだが、取り巻き男はその容器を勢いよく手で押し潰して液体が口に勢いよく注入するようしてきたのである。

「ごぼっ!?」

たちまち佐恵子の口内は、得体のしれない錠剤2個に加え、大量のあやしげな液体が満たされる。
すぐに鼻からも怪し気な液体が逆流し出したのだが、もう一人の取り巻き男は手際よく佐恵子の鼻をつまんで塞いでしまった。

「ひひひっ」

驚き苦しそうにしている佐恵子の表情を見て男たちは嗤う。
口にボトルを突っ込んでくる男の下卑た笑い声を聞きながらも、男からは佐恵子に対し、蔑みと卑しい劣情を表す感情色が色濃く表れているのがはっきりと眼に写る。
口に押し込まれた注ぎ口からは得体のしれない奇妙な液体がまだまだこれでもかと注がれてくるが、顔を逸らしたり吐き出して抵抗できるほど身体がなぜか動かせない。
そのうえ鼻も摘ままれ、口には三角形に尖ったボトルの注ぎ口ががっつりと口内に5cmは突き込まれている。
いまの佐恵子では到底舌で押し出したり、吐き出せるものではない。
飲み込めば良くないモノだという直感に従い、佐恵子は朦朧とした意識の中、飲み込まずに耐えていたが、その我慢は数秒も持たなかった。
鼻を摘ままれ、口も塞がれた状態でますます流れ込んでくる液体の圧力に耐えきれなかったのだ。
ごくんっ!と喉を鳴らし、2粒の錠剤を液体と同時に飲み込んでしまう。

「げほっ!うぐっ!んんんっ!」

飲み込んだ拍子にむせて咳をしてしまうも、すぐに三角形の尖った注ぎ口を再び口に強く突き込まれる。

「ひひひっ、遠慮せずにたっぷり飲んでおいた方がお前も楽しめるぜ?」

取り巻き男のせせら笑う声に、佐恵子は激しく抵抗しようとするが、身体は麻酔でも効いたようにままならない。
液体が口に無理やり流し込まれる。

「んんっ!!?」

ごくんっ!ごくんっ!

「ぶはぁっ!!ごほごほっ!」

二粒の錠剤を飲み込まされ、液体もたっぷり300ccほど飲まされたところで、佐恵子はようやく口からボトルを抜いてもらえて、涙目で勢いよく咳き込んだ。

顔を赤くして苦しそうにして咳き込む佐恵子を抱きかかえた錫四郎は、佐恵子を気遣うどころか、取り巻き男ににやりと笑って頷き、もっといけという意図をもって顎をしゃくったのだ。
その合図で、取り巻き男は先ほど取り出したビニールの小袋から更に錠剤を2つ取り出し、咳き込んでいる佐恵子の頬を再び片手で掴んで、再び錠剤をねじ込みすかさず尖ったボトルの飲み口を再び佐恵子の口に突き込んで、ボトルをぎゅっと潰して液体を注入してきたのだ。

「うぐっ!もっ・・もう!いやっ!うぐっ!んんんんん!!!」

鼻を摘ままれた佐恵子はまたもやひとたまりもなく、目を白黒させながらごくんっ!と喉を鳴らして追加の二粒の錠剤ごと飲み干してしまったのである。

「ひひひっ、これも4粒も飲んで・・媚薬液もこんなに・・。・・ひひひっ。おらっ!どうせなら空になるまでだよっ!全部飲むまで息できねえぞ?!飲むんだよ全部!ひひひっ!こんなに・・こりゃすげえことになるぞ」

顔を真っ赤にして苦しそうにのたうち、無理やり飲まざるを得ない佐恵子の表情を見て男は嗤いながらサディスティックに口にボトルを突き込んでくる。

ボトルには700mlほどの媚薬液が入っていたが、すでに佐恵子は半分ほど飲まされていた。
ごくんっ!ごくんっ!

取り巻き男は好色で蔑みを表す浮かべ、佐恵子が錠剤の媚薬を液体の媚薬で苦しそうに飲み込む様を、下卑た顔で満足そうに見下してくる。
佐恵子はその男の表情と感情色で、朦朧とした意識の中でも、飲まされているものが自分にとってやっぱりよからぬモノだと確信したが、注ぎ込まれる媚薬液なるものを飲み干さねば息もできず、注ぎ込まれるままなす術もなく飲み干していくしかない。

しかし、自身を抱きかかえてくれている錫四郎の感情色は相変わらず友愛や敬愛を示す感情色のままだ。
やっぱりよからぬモノではないのかも?と思いかけたが、錫四郎の表情は隣でボトルを口に突っ込んでくる下卑た男の表情とそうかわりはない。
感情色と表情が一致していないのだ。

佐恵子はまともに動かせない身体に粟立つ焦りを感じるが、どうにも身体はまともに動かない。

「んんんぅ!!!」

錫四郎の感情色は普段とほぼ変わらない。
時計をプレゼントした時も、今も変わらないのだ。
ごくんっごくんっ!と喉を鳴らし、ボトルの媚薬液をほとんど飲まされた佐恵子は、何とか頭を働かせようと、よろめく意識に奮起して鞭を打つ。
(なぜ?私の能力が・・。こんなことをしてこんな感情色を発するはずがありませんわ!)
錫四郎の行動と表情、それとはあまりにもかけ離れた感情色の違いに、気味悪さを感じ、佐恵子はとっさに渾身の力で身体を捩る。
腕をそんなに動かせたのは、薬に意識と神経を犯された佐恵子にとっては奇跡的なことであった。
佐恵子は腕を振って、錫四郎と取り巻き男の手を払ったとき、たまたま佐恵子の手の甲が錫四郎の頬を強かに打ったのだ。

その拍子で、錫四郎が耳に付けていたイヤホンガードが飛んで床に落ちる。
その瞬間、今まで見えていた錫四郎の感情色が激変したのだ。

「っ!!!??」

今まで友愛と敬愛、尊敬などが混ざっていた色には程遠い、どす黒い劣情を表す色が突如錫四郎から発せられていたのである。
錫四郎の隣にいる取り巻き男の色より、なおどす黒い。

「そ・・そんな・・錫四郎さま?・・」

媚薬液が入ったボトルを全部飲まされ真っ赤に火照った顔になった佐恵子は、かすれた声で錫四郎の顔と、錫四郎の発する感情色を信じられないという思いで交互に確認する。
佐恵子はそれ以上言葉を繋げずにいると、錫四郎は打たれた頬を抑えながら口を開いた。

「いたた・・。急に打つなんてひどいな佐恵子さん」

錫四郎は頬を抑えながらそう言って床に落ちたイヤホンガードを拾い、再び耳に付けてみせる。
その瞬間、錫四郎の感情色が元の友愛と敬愛を示す色に戻ったのだ。

「ど・・どうして!?これは・・?!・・錫四郎さま最初からわたくしの能力を知って・・?!・・わたくしを騙していたのですか・・?!」

「へぇ、その反応ってことは、やっぱりこれって効果あったんだね?実際俺としては全然実感がないからわからなかったけど、君って報告通り人の感情が読み取れるってのは本当みたいだね」

錫四郎はイヤホンガードをとんとんと叩きながら普段と変わらぬ口調でいう様子に、佐恵子はついに状況がほぼ把握できた。

「わ・・わたくし・・!帰りますわ!下ろしてくださいませ!」

薬で身体の自由を奪われ、意識も朦朧とし、たった今2種類の媚薬をしこたま飲まされた佐恵子はそう言うと、錫四郎の腕の中で自由に動かせない身体を思いきり捩って暴れた。
佐恵子本人は思いきり暴れたつもりだったが、実際には抱きかかえられたまま、もぞもぞと身体を艶めかしく僅かに動かしただけでしかない。

「ふふふっ、すぐにもっとってよがり狂うだろうけど、せいぜいそうやって頑張って抵抗してみせてよ。嫌がりながら逝きまくってくれるほうが俺らも楽しめるからさ」

全力の抵抗を見せる佐恵子を抱きかかえたまま、錫四郎は整った顔に笑顔を浮かべてそう言うと、佐恵子の下腹部を服の上からぐぃと押してきた。

「おふっ!?」

その瞬間、佐恵子はらしからぬ嬌声を上げ、身体をくの字にかがめて達したのである。

「ひひひっ!すげえ!押しただけで逝きやがった!すげえ効き目だ!こんなに飲ませた女はいませんもんね?錫四郎さん、どうしてコイツにこんなにたくさん飲まさせたんです?これってすげえ高いんでしょう?」

恥毛の少し上部分を、服の上から少し押しつぶされただけで簡単に達し、顔を真っ赤にしてぜぇぜぇと恥ずかしそうにアクメの余韻をやり過ごしている佐恵子を眺めながら、取り巻き男は興奮気味に錫四郎に聞く。

「なんか、この子お高くとまってたし、身持ちも固くて時間かけられたからさ。腹いせだよ。あれをあんなに飲んだらもう達磨同然だし、いつも通り淫紋呪詛もつけて、薬漬け、借金まみれにして風俗に沈めるフルコースだね。媚薬が多いところ以外はいつも通りさ」

錫四郎は普段と変わらぬ涼しい顔で、とんでもないことを言うと、佐恵子を抱っこしたまま佐恵子の腹部を再び何度も押しながら、部屋の扉を取り巻き男に開けるように目で合図を送る。

「あふっ!あああっ!!こんなっ!?あひゃん!?」

腹部を押されるたびに大小さまざまだが、簡単に達せさせられ、嬌声を上げさせられながらもアクメ顔を晒し、痙攣する様を披露していたが佐恵子だったが、何とか理性を取り戻そうと気力を総動員し、目に黒く光を灯らせはじめていたのであった。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 20話【回想】佐恵子と錫四郎終わり】21話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 21話【回想】恐慌不発!

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 21話【回想】恐慌不発!


キィン!

金属と金属が擦れたような高音が響くと同時に、佐恵子の眼から黒い光が発せられる。

【恐慌】

「うっ!?な・・なんだ?!・・くそっ?!」

御姫様抱っこをしていた佐恵子から至近距離で黒い光を浴びた錫四郎は、抱えていた佐恵子を投げ捨てるように床に放り出すと、両手で顔を覆うようにして悪態をついて後退る。

どさっ!

「うくっ・・!」

御姫様抱っこから解放され床に落ちた佐恵子は、すぐに立ち上がろうとするが、膝を立てかけた瞬間にガクリとよろめき再び床に伏してしまう。

「はぁはぁ・・・!」

エデンで飲まされた筋弛緩剤入りアルコールと、今無理やり飲まされた2種類の媚薬で身体中を蝕まれた佐恵子は、長い髪を床に這わして立ち上がろうともたつくが、どうしても身体が起こせない。

身体は思うように動かせないが、思考と感覚はしっかりしている。

身体は動かせないのに、不思議としゃべるのには支障がなくなってきた。

そのため佐恵子は、クスリの効果に身体が抵抗でき出したと思い目をつかったのだが、身体が回復してきたと思ったのは勘違いであった。

錫四郎たちが使っている薬には、そういう風にできているのだ。

四肢は動かせないが、思考と感度だけは研ぎ澄まされ、口だけははっきり動かせる。

撮影した際に、意識が朦朧としているように見えず、行為自体が女の意志であるかのように思わせるようにその薬は造られているのだ。

はっきり喋れたとしても、撮られる羞恥にまみれ、感覚が研ぎ澄まされ感度を限度以上にあげられた女が発する言葉は、普段到底言葉にできないようなことを口走ることを、狡猾な男たちはよく知っているのである。

そんな男たちの思惑など知る由もない佐恵子は、自身の鍛え抜いた身体と膨大なオーラ量で、薬による影響から回復し始めたと勘違いし出したが故の【恐慌】発動だったのだ。

しかし、身体は回復するしているどころではなかった。

不安定な精神状態で、たった一発の不完全すぎる【恐慌】を発動しただけで、視界はぼやけ、意識が飛びそうになるほどオーラを消費してしまっている。

(な・・なぜ・・?全然威力が・・。それにこんなに消耗するなんて・・。これ以上目は使えない・・でもこんな者たち程度なら素手でも・・・)

ぐわんぐわんと視界と意識がまわるなか、佐恵子は【恐慌】を直撃させたにもかかわらず、錫四郎が倒れないことに狼狽したが、それ以外の取り巻き達もどうにかしなくてはと思い、男たちに距離を詰めようと床を蹴る。

しかし、床を蹴ったはずの足は、膝立ちでぶるぶるとか細く震えただけで、くるぶしと膝、股関節にも力が入らず、崩れるように転んでしまう。

「あくっ!?」

佐恵子は腕でも支えられない身体を床に伏したまま顔だけあげ狼狽の声を上げるも、一瞬のためらいの表情を見せた後、覚悟した顔になり、再び目を酷使しオーラを収束させだす。

「おい!使わせるな!」

【恐慌】をくらったにもかかわらず、錫四郎はそんな佐恵子の様子に気づき、頭を押さえながら、取り巻き達に指示を飛ばしてけしかけた。

錫四郎に駆け寄っていた取り巻き達は、床に突っ伏し、片方のひじをついて顔だけを何とか持ち上げている佐恵子に向って飛び掛かる。

普段の佐恵子であれば、たちまちその者たちの動きを躱し、手痛い反撃を食らわせただろう。

しかし目で十分追えるほど遅い取り巻き達の動きであるにもかかわらず、いまの佐恵子ではどうにもできない。
キィイン!

金属を擦り合わせたような高音を響かせ、目から再び放たれた黒い光が、駆け付けた男の一人の手の平内ではじける。
駆けつけた男に両目を塞がれたのだ。

黒い光は迸る前に、佐恵子の瞼の中で炸裂する。

「きゃぅ!」

暴発した黒い光に佐恵子が悲鳴を上げるが、目を塞いだ男に続くように残りの2人にもたちまち、のしかかられ腕を背中に回されて封じられていく。

「やっぱり目だ!目でさっきの黒い光を出してる!目を使わせるな!」

錫四郎は部下たちに指示を飛ばす。

精神を猛烈に蝕み、後遺症すら残す魔眼技能【恐慌】を至近距離で受けたとはいえ、薬に蝕まれたままの佐恵子では不十分過ぎる発動だったらしい。

錫四郎は頭を押さえながらも、すでに意識ははっきりとした様子だ。

やはりいまの佐恵子の【恐慌】では不十分だったのだ。

「あぐっ!やめっ!い、痛い!おやめになって!!離してくださいっ!」

うつ伏せで床に組み伏せられ、背中に大の男に乗られたまま、佐恵子は顎を引き上げられるようにして長い髪を引っ張られ、目が開けられないように瞼を男の指で押しつぶすように乱暴に覆われて痛そうに顔を歪める。
親指で瞼を押しつぶすように目を塞がれ、瞼から黒い光が洩れるが、視界を防がれてしまっては、佐恵子からは相手の目が視認できない。

「ああっ!!いや・・っ」

四肢に力が入らず、目を指で押し付けられている佐恵子は、唯一の抵抗の手段である目を塞がれ悲痛な声を上げる。

【恐慌】に限らず、ほとんどの魔眼技能はどれも相手の目を介して、対象の脳にオーラを侵入させる。

簡単に言えば、佐恵子の眼を塞ぐか、自分の目を瞑るだけで、多くの魔眼技能は遮断できるのだ。

しかし、それでは魔眼持ちの能力者相手に、目を瞑って戦わなくてはいけなくなる。

宮川一族には魔眼持ちの能力者や多くいるが、大抵魔眼以外の能力も使える。

あたりまえだが無能力の常人よりも大抵の魔眼持ちの人間ははるかに強い。

その中でも佐恵子は女ながら一族直系の血筋であるため、血も濃く幼いころより英才教育を叩きこまれている。

よって魔眼持ち能力者の中でもかなり抜きんでた存在であるのだが、いまの薬漬けの佐恵子には警戒すべき戦闘力は皆無であった。

「ううっ!離してっ!手を退けなさいっ!わたくしにこのようなことをしてただじゃおきませんわよ!」

身体は満足に動かせなく、目も塞がれ、薬のせいでオーラも上手く操れないが、頭と口は動く。

痛みなどの感覚も普段より鋭く感じられる。

佐恵子は普段加奈子や使用人たちに言うような口調で、声を荒げ、背に乗った男を振り落とそうと身体を動かそうとするが、芋虫のように動きは緩慢だ。

「なるほどね・・。能力者だっていうのは聞いてたけど、こんな技能持ってるなんて聞いてなかったな。感情を読み取るとしか・・・。とういうことは、さっきの黒い光は依頼主も知らなかった技能かな?少し驚いたけど、全然大したことないね。牽制にはなるだろうけど」

錫四郎は【恐慌】の黒い光を浴びて激しくなった動悸を整えようと胸を押さえて佐恵子を見下しながら言う。

佐恵子に万全の状態で【恐慌】を至近距離から放たれていれば、錫四郎は無事では済まないどころか、重度の精神後遺症すら患っただろう。

それに、佐恵子が【恐慌】ではなく即死技能である【真死の眼】を発動させなかったのは、佐恵子が殺人を犯すのをためらった甘さゆえの幸運であった。

しかしどちらにしても、いまの佐恵子ではどの技能を使っても錫四郎を無力化させるのも無理だったのだが、佐恵子を薬漬けにしていたことで錫四郎は命拾いをしたのである。

「・・依頼された??」

組み伏せられ、目も塞がれてなす術もなくなった佐恵子だが、錫四郎の発したセリフに耳ざとく反応した。

「おっと・・。それよりおい」

錫四郎は口が滑ったといった仕草で口元を抑えながらも、取り巻きの一人の腰のベルトを指さし何やら指示しだす。
目を塞がれた佐恵子は、悔しそうに下唇を噛んだままだったが、突如目を塞いでいた手がどけられると、すぐに取り巻き男の一人がつけていた腰ベルトが目に巻きつけられた。

「あうっ!」

佐恵子は仰向けに倒され、ベルトのバックルが顔の正面に来るようにしてきつく目の部分を締め付けられだした。

「ううぅ!うううう!やめて!やめてえ!い・・いたいですわ!」

仰向けにされ、目にはベルトが厳しく巻き付けられだす。

逃れようにも筋弛緩剤で身体はほとんど動かせず、目に巻かれきつく絞められていくベルトにも抵抗できない。

「へへへへっ」

取り巻き男たちの笑い声を耳にしながらも、佐恵子にできるのは悔しそうに呻くことだけである。

「エデンで飲ませたクスリの効きが悪いのかもしれないな。もう少し飲ませろ。今みたいに暴れられたらたまらないからね」

目を塞ぐように巻きつけられたベルトを外そうと佐恵子が手を震わせながらも動かしたのを見た錫四郎がさっき打たれた頬を抑え、取り巻き男にそう指示したのだ。

「了解です」

錫四郎の指示に下卑た笑みでそう言った取り巻き男は、仰向けの佐恵子に近づいてしゃがみ込む。

先ほど佐恵子に手を払われた男だ。

手を強く払われて腹が立っているのだろう、佐恵子の扱いが雑である。

一人は鼻を摘まみ上げ、もう一人は頬を抑えて口を開かせて男たちは顔に下卑た薄ら笑いを浮かべている。

さらに、内ポケットから錠剤を再び2錠取り出した男が、鼻を摘まみ上げられ、口を無理やり開けさせられた佐恵子の顔を満足そうに眺めながら、その口内へと錠剤を落とし込んだ。

「んんっ!」

佐恵子は言葉にならない拒絶を口にするが、前歯に錠剤の一つがカツンとあたり、喉奥にポトリと落ちる感覚に心に絶望感が広がっていくのを感じる。

そして、男はおもむろに先ほどとは違うボトル、おそらく満タンに媚薬が満たされたボトルを取り出すと、佐恵子の口にあてがった。

「んんっ!んんっ!!」

ベルトで目を封じられ、鼻を摘ままれ、口には三角に尖ったボトルの注ぎ口をゆっくりと、しかし深々と刺し込まれていくたびに、佐恵子は首を横に揺すってイヤイヤをするが、歯や唇ではいくら力を込めても、鋭角に尖っている注ぎ口の侵入を止めることはできない。

佐恵子の髪の毛や顔、鼻や口を押え覗き込んでいる3人の男たちは、ベルトの隙間から零れる佐恵子の涙と、屈辱の嗚咽を聞いて股間を固くさせ薄ら笑みを浮かべたまま、必要以上に注ぎ口を深々と刺し込んでいく。

「んんっ~!!んんっ~~!!」

ボトルの太さと同じになるまで口を開かされるまで突き込まれた佐恵子は、首を振って抗議の声らしきものを上げるが、それは周りの男を喜ばせるだけであった。

「ごっくんタイムだぞ。ひひひひっ」

ボトルを持っている男の手が、ボトルを押しつぶす。

「ごぼっ!んんっ!んんんん~~!!!」

流し込まれてくる媚薬で、放り込まれた錠剤が口内で動くのがわかる。

吐き出そうとすればするほど、ボトルを突き込まれる。

逆流する薬が鼻から出そうになるが、鼻も摘ままれているので佐恵子はベルトで塞がれた目を白黒させて、おぼれるように藻掻くが、その動きは芋虫のように緩慢だ。

佐恵子の緩慢な動きとは不自然な苦しそうな声が、佐恵子の屈辱と苦しみをより滲ませる。

ごくんっ!ごくんっ!!

「飲め飲め!ひひひひひっ」

無礼な男たちを薙ぎ払いたいが、直径5cmはあるボトルを10cm近く突き込まれて苦しくてそれどころではないし、振るおうとしても薬のせいで腕は全く思うように動かせない。

「ごふっ!うぶっ!」

ごくっ!ごくっ!ごくんっ!

のけ反らされた佐恵子の首から顔にかけてが酸欠で真っ赤に染まり、細い首筋、鎖骨、喉が媚薬を勢いよく飲み込んで、官能的に躍動する。

男たちは、佐恵子の悶絶すら楽しむ素振りで、無遠慮にそれらを眺めては撫で、派手に動く喉を摘まんでは、ボトルを佐恵子の口内へ三分の1ほど入るほど、突き込んでいた。

「へへっ。こいつ口でけえな。これなら俺たちのもたっぷりしゃぶってもらえそうだ」

「ほら!フェラの練習だぞ!おらおらっ。ひひひっ!」

「めっちゃ奥まで入るなコイツ!喉マンコも開発してやろうぜ!」

「うぐっ!ううんんんっ!ごくっ!ごくっ!!!ごっ・・!ぐっ!!」

佐恵子は鼻を摘ままれて無理やり飲まされている無様な恰好では、男たちの言い分に抗議どころか、声にならない嗚咽を上げるのが精いっぱいである。

ベルトの隙間から涙を流し、摘ままれた鼻からは逆流した媚薬と鼻水が、口の周りを涎塗れにして、ボトルが空になった後もその行為は暫く続けられたのであった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

一方、火災の広がるエデンの地階では、凪の速度に引き離された加奈子が息を切らせて凪にようやく追いついたところであった。

「凪姉さん!どういう状況です?」

すでに戦った痕跡、敵らしき男が3人、そしてこんなところにいるはずのない緋村紅音までいる。

「みてのとおり」

加奈子は、凪の糸に絡まりながら炎をまき散らしていた紅音に嫌悪感を込めて睨んでから、凪に視線を戻して聞いてみたが、白ずくめの先生は相変わらず要領を得ない返答を返してくる。

「いや、見てわからないから聞いてるんですけど・・」

「みてのとおり」

加奈子は無駄だろうなと思いながらも、再度聞いてみたのだが凪からは予想通りの答えが再びかえってきた。

加奈子はこれ以上聞くのを諦め、心の中だけでため息をついてから仕方なく凪の向いている方に向かって油断なく構える。

そして、凪の隣にいる赤毛の女をチラリと見やって、小声で凪に再び問いかけた。

「・・・なんで紅音までいるんです?」

「わからない」

「バ加奈子。なに呼び捨てにしてんのよ」

加奈子は凪だけに聞こえるように言ったつもりだったが、赤毛の暴君にはしっかり聞こえたらしい。

うげっとイヤそうな顔になった加奈子だったが、そんなことよりも凪に報告しなくてはいけない重要なことを思い出し、はっとなって握っていた透明のキラキラしたものを凪に見せる。

「それよりこれっ!凪姉さん。これじゃないですか?建物の外に落ちてたんですけど、これって凪姉さんの糸ですよね?まだつながってませんか?細すぎてよくわからないんですけど・・ただの糸じゃないですよね?オーラの糸・・凪姉さんが佐恵子さんに付けてた糸ですよね?」

無視された紅音が加奈子に向ってなにやら吼えているが、加奈子は凪の無表情に近いが明らかに変化のあった表情を見て満面の笑みになる。

「おてがら」

そう言った凪の目は少しだけ見開かれていた。

「つながってる」

凪はさらに続けてそう言うと、この場の状況をすべて投げ出し、糸を手繰って一気に佐恵子のところまで飛ぼうと足と糸にオーラを集中しかけたが、はたとオーラの収束を止める。

目の前で対峙し、こちらに敵意満々で構えている正面の3人を見たのだ。

長身痩躯で辮髪金髪の男、ポマードでこってり固めたガチムチの巨漢、先ほどの斬撃から治療を受けて回復した白ダブルスーツのメガネガチムチの巨漢、それら3人と、こちらの人員を見て凪は逡巡したのである。

とはいっても、凪の心情はともかく表情に変化はみえない。

(強い。糸に二人も耐えた。あの3人同時だと緋村紅音でも・・それに加奈子は・・。私が去るわけには・・・どうすれば)

やる気十分な雰囲気で構えている加奈子をチラリと見た凪は、逡巡を深める。

緑園兄弟たちは、【叢狩】という相乗強化技能を展開しているとはいえ、当時宮コー最強の名をほしいままにしている会長側近の蜘蛛に強いと断言させたのだ。

そして今度は、加奈子とは逆隣にいる赤毛の緋村紅音の方をチラリと見やる。

こちらはこちらで考え事があるらしく、落ち着かない仕草で前髪をくるくると指でいじり、小声でブツブツと悪態らしき言葉を吐いては、「ちくしょう」とか、「なんでこんなことに」とか言っているのが聞こえてくる。

凪は表情を変えず、紅音に向きなおって声を掛けた。

「緋村紅音」

「ん?!」

「依頼がある」

「お断わりよ!」

「まだ何も言ってない」

「どんな内容だろうとお断わりなの!」

「糸を手繰って佐恵子を探してほしい」

「いやよ!あんた人のハナシ聞いてんの?!」

「あの3人は私と加奈子が相手をする。だから、緋村紅音は佐恵子を探す。糸を手繰ればその先にきっと佐恵子はいる。この糸の感覚からして5kmと離れていない」

「なによあんた。なんで私があんたの頼みを聞かなきゃならないのよ。・・・それにあんたが行けばいいじゃない。あの七光りを護るのがあんたの仕事でしょ?」

紅音は前髪をかきあげて顎をツンと突き出し、チビのくせに自分よりはるかに長身の凪を見下すような仕草で突き放すように言い放つ。

「ちょ・・ちょっと凪姉さん。紅音がそんなこと手伝うはずがないですよ。知らないんですか?佐恵子さんと紅音は犬猿の仲って言うか・・」

加奈子が凪の背中にそう言うも、凪は紅音を見据えたままだ。

「依頼」

言葉足らずすぎるが、凪は真剣だ。

紅音は「はぁ?」という表情で凪を観察していたが、口をへの字にして目を逸らして少し考え込むような表情になる。

「ふん・・・。もしかして、それって脅し?・・・だとしたらあんたずいぶん陰湿ね?」

凪の言葉から邪推を巡らせた紅音は、途端に嫌味な表情になって髪の毛をかきあげ、凪を指さして切り返す。

いま凪の依頼を断れば、入社した後、もしくは入社時の待遇に響くのか?と紅音は言葉を濁して聞いたのだが、凪は小首を傾げた。

「?。何?」

凪は紅音の言葉の意味が全く分からなかったようで、その楚々とした美貌の顔を、やや傾けて呟く。

しばらく凪の表情を伺っていた紅音だったが、目の前にいる碧眼白ずくめの女が、機微の働かない真正の不思議ちゃんだということに気づいたようで、「はん」とあきれたように言った後大きくため息をついた。

(ダメだ・・こいつバカだわ。からかっても面白くもなさそうだし・・・。頃合いをみてとっととこの場から離れちゃうべきね・・・。私がいなくなれば銀次郎たちがこいつらを始末してくれるでしょ。秘密も守れるわ。バ加奈子程度じゃアイツらに瞬殺されるでしょうし、この天然バカの蜘蛛も始末してくれるかもしれない。そうすれば、私が宮コーに就職した時に上のポジションが一つ空くってことだしね。それに、・・・どういうわけか、3人になったとたんあいつら明らかに強くなったわ・・・。何らかの能力なんでしょうけど、ここは退散してあいつらが単独行動をしたときに改めて後日殺しちゃえばいいのよ。銀次郎一人程度なら瞬殺だわ。もう一人の似たようなのも・・。問題は金髪の奴だけど、あいつも一人なら全然どうにでもなると思う)

「おことわ・・」

凪が言葉を継げず黙り、紅音が自身の行動方針を決定し再度見下した態度で言いかけたところで、銀次郎が大声で怒鳴った。

「おい!緋村ぁ!おまえどういうつもりだ!お前が・・・」

「っ!!!。うるっさいわね!このドチンピラ!!黙ってなさいっ!!」

銀次郎にこの場でしゃべらせるのはマズいと思った紅音は、銀次郎の言葉を遮るようにして大声で怒鳴り返し、間髪入れず右手から白熱色の火球を銀次郎目掛けて投げつける。

「銀次郎!下がれ!」

迫りくる白熱色の火球の前に金髪辮髪である長兄、緑園金太郎が銀次郎を庇うように飛び出し両手を突き出す。

白熱色の火球は金太郎に直撃し轟音と業火が爆散するかに思われたが、そうはならなかった。

火球は音もなく金太郎の前で収束すると、ウソのように消え去ってしまう。

「ふぅ・・上手くいったか・・。奴のパターンはだいたいわかってきたぜ」

額の汗を拭いながらそういう金太郎を見て紅音は、火球を投げた態勢のまま絶句していたが、絞り出すような声で呻いた。

「わ、私の火球を・・。さっきのより威力は大きいのよ・・」

「【霧散】。威力関係ない。一つダメ。たくさん。変える」

凪は驚いている紅音に、懇切丁寧に金太郎が使った技能【霧散】の攻略方法を伝えているつもりなのだが、凪のポンコツすぎるしゃべり方になれていない紅音には意味が分かるはずがない。

「はぁ?・・・なに?どういう意味?」

「?」

「その顔は私の方がしたいっての!!何よその顔!!ムカつくわね!今の説明でわからない私が悪いみたいじゃない!!あんたみたいなバカにそんな顔で見られると異常に腹が立つのよ!」

紅音の問いかけに対し、凪は小首をかしげ眉を悲し気にひそませ、その楚々とした儚くも美しい顔に、こんな簡単なことなのに?と思わせる憐憫さをにじませたため、紅音は凪に向かって怒鳴ったのであった。

「こ・・これは・・、いくら凪姉さんや紅音が強くても・・この組み合わせはマズいかもしんないのでは・・・」

凪と紅音のやり取りを見ていた加奈子は、紅音と凪を交互に見てはゴクリと喉をならしてそう呟いたのであった。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 21話【回想】恐慌不発!終わり】22話へ続く

筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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