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第9章 歪と失脚からの脱出 8話 お嬢様の恋人ではない恋人との秘め事

第9章 歪と失脚からの脱出 8話 お嬢様の恋人ではない恋人との秘め事


ネイビードレスの下は黒のブラに黒のショーツだった。

上下お揃いの黒い下着のせいで、佐恵子の白い肌がより白く見える。

佐恵子は着痩せするようで、服を脱がせてもパッと見は細身ではある。

しかし、乏しいながらも胸は女性らしい柔らかさがあり、ウエストからヒップ、そして脚へと繋がるラインは、各パーツモデルの自信のある部分を組み合わせても佐恵子のスタイルには及ばないだろう。

天は二物を与えずとは言うが、そうではないらしいとモゲは改めて嘆息してしまう。

(くっそ~・・テツのやつ。うまいこと美人の金ヅルつかまえたのう・・)

「て、哲司さま・・これでよろしいですか?」

「ああ、とりあえずは・・な」

恥ずかしそうに下着の上から、手で胸と股間を隠すように押さえている佐恵子と目があった。

今の佐恵子の目にはオーラなど纏っていないはずだが、モゲはそのアンバーアイに引き込まれそうな感覚に陥り、不思議と目を逸らすことができない。

(おぉ?なんやこの感覚・・・まったく、間近でみるとゾッとさせよるなぁ。・・整った文句なしの美形のツラやっちゅうのに、この目の存在感が強すぎるんや・・。瞳孔と角膜の形や色がちょっとちゃうんやな。・・これが魔眼か。すべてを見透かして実際に直接攻撃の発動器官としても凶悪みたいやし・・。この目のせいやろな・・どうも慣れんツラや。・・ほなけど、そこさえ目ぇ瞑れば女としては十分合格点や。特に金持っとるところがふり切っとる・・上手いことテツに仲良うしてもろて、俺も恩恵に預かれるようにしとかんとな・・)

モゲは佐恵子と目を逸らすことができないまま、白くきめ細やかな佐恵子の肌に指を這わす。

指で胸や腹部に触れると、佐恵子の肌には十分な女性らしさがあり、そしてよく鍛えられていることもわかる。

少し目を凝らしてみると腹筋や背筋、太腿やふくらはぎは白い肌の下に筋肉がうっすら透けて見えた。

(テツが言うてたとおり、この女はほぼ毎日ストイックにトレーニングしてるちゅうんはホンマらしいな・・。しかし、テツ情報やと武術は免許皆伝クラスやが、今の肉体強化やと、スノウより身体能力劣るかもしれんて言うてたから、どないに見積もってもガチンコでやったら菊一の男ら共には全く通用せん程度やろな。・・・あ・・公麿は別やな。あいつは神経は太いけど、肉体はモヤシや。)

力でなら負ける要素はないと確信したからという訳ではないが、モゲは佐恵子の眼力に少し圧倒されながらも、ブラを掴み、ぐいっと一気に上にずらし貧乳を露出させる。

「ぅっ・・!」

モゲの少し乱暴な行動にも、佐恵子は恥ずかしそうに顔を背けただけで、胸を手で覆おうとするが、また哲司の怒りを買うことを怖れたのか、ぐっとこらえ緊張と恥ずかしさから小刻みに震えているいる。

(よっしゃ・・。最初の脅しがだいぶ効いてるみたいやな)

そんな佐恵子の様子に、そう確信したモゲは嗜虐心からニヤリと笑う。

そして佐恵子の控えめな胸を無遠慮に撫でまわし、それからうっすらと割れた腹筋を撫ぜる。

「ぁ・・っん!」

胸を触られた瞬間に熱のある吐息を吐き、這わされる手を掴もうとしてやめた佐恵子の手が、空気を掴むように自身の胸の前で握りしめられる

「よしよし、わかっとるようやな。抵抗したらあかんで?・・・しっかし、感度はええとしても・・思ってた以上に胸は残念なサイズやなぁ?金にもの言わせて豊胸手術しようとは思わんかったんか?」

「ふぅ・・あん・・、そういうのは・・いたしませんわ・・。宮川家は整形や刺青などはご法度・・んぅ・・ですの。以前お伝えしてませんでしたか?それに、哲司さまは・・胸のサイズなど気にしないと仰られてましたけど・・んふぅ・・ひぁ・・やはりご不満・・んん!・でしょうか?んふぅう!」

モゲの手が佐恵子の身体を這いまわるたびに、身体をピクピクと動かせながら答えている。

適当な愛撫だというのにピンク色の乳首は、丘の部分のなだらかさとは裏腹に、ツンと上を向いてと言っていい程、立たせてしまっている。

「そ、そうやったな。うっかりしてたわ!そや!もちろん胸の大きさなんて気にせえへんで?」

(ホンマかいなテツよ!お前おっぱい星人やったやないか!風俗嬢もおっぱいデカい子って指定してるんよう聞いたぞ?!)

佐恵子のセリフに咄嗟にそう返したモゲであったが、内心は哲司に激しく突っ込んでしまっていた。

「・・よかったですわ」

しかし佐恵子はモゲの慌てた様子に気付くこともなく、心底安心したようで大きく息を吐いてそう言った。

「せやけど佐恵子さん」

「は・・はい」

声のトーンが低くなったモゲの呼びかけに、安堵の表情だった佐恵子の顔に再び緊張が戻る。

「いままでSEXを拒否されてたお仕置きはさせてもらうで」

「お仕置き・・・といいますと?」

「そや。俺がどんな気持ちやったか。俺がどれだけ辛かったかわかってもらおうと思てんねん」

「・・申し訳ございません。言い出せなかったのです。わたくし・・ほとんどこういうことの経験がなくて・・、いえ、ほとんどというか一度だけ。ですが、わたくしにとっては思い出したくもないことなのです。・・・ですから、・・なかなか踏み出せず・・申し訳ございません・・」

「ほう・・・、俺が二人目の相手ってことか」

思っていた人数より少ない。テツより先に味見する上に、処女ではないけどほとんどそれに近いってことか。

という理由でのモゲのセリフだったのだが、佐恵子は全く逆の解釈をしたようで、慌ててモゲに頭を下げた。

「申し訳ございません!ああ・・やはり、わたくしが初めてではないこと怒ってらっしゃるのですか?」

佐恵子はズリ下ろされたブラとショーツ姿という、半裸の格好ということも忘れ、わたわたとした仕草で謝り、モゲの両腕を遠慮がちに掴み見上げながら言う。

「・・・前の男には未練はあるんか?」

「いいえ、けっしてございません!」

間近に迫った佐恵子に顔をまじまじと見つめられたため、魔眼に慣れないモゲは内心ぎょっとたじろいてしまう。

しかし、佐恵子には悟られなかったようで、何とか試すようなセリフを投げかけることができたのだが、そのセリフを言い終えないうちに、佐恵子は否定の言葉をはっきりと言い切った。

「ほうか。今後は俺だけって誓えるか?」

モゲはアンバーアイの不思議な目で見つめられていることに、不気味で不思議な感覚に陥ってくるが、何か能力を使っている様子が無いことを確信できると、力を込めて見つめ返した。

それに、ただ本当に真剣に答えなければと思っているだけのようだというが伝わってきたからでもあった。

「はい・・誓えますわ。栗田教授の話では完全に治るとは言えない・・と、念を押されていますが、訓練とリハビリ次第では、またオーラが見えるぐらいには治るだろう・・。と言われています。月日は掛かるとも言われていますが・・・。
出会ったその日の哲司さまの感情のオーラ・・・とっても優しくて・・わたくしのことを包み込んでくださいました・・。今まで他の殿方からは性欲や妬みや怒りや諦め・・・ほとんどがそのようなネガティブな感情ばかり向けられてきました。
・・・ですので、哲司さまの純粋でストレートな感情は、わたくしのような女ですら一気に少女にしてくださったのです。
本当に嬉しかったですし、驚きました。初対面でしたのに・・・あんなに気に入ってくださって・・、哲司さまはわたくしに一目惚れしてくれたのですね・・・。
あの日・・、港の倉庫でわたくしのこと、身を挺してかばってくれた・・あの時ほど、この忌み怖れられた目であったことが嬉しかったことはございません。本当にこちらが照れてしまいます。
純粋でストレートな感情でしたが、それだけでなく、私を抱きたい。と強く想ってくださったのも伝わってきましたわ・・。
力が戻れば、またあのオーラが見られると思うと・・今から嬉しくなってしまいますの」


真剣に答えていた佐恵子はだんだんと饒舌になり、最後の方は少し身を捩りながら、照れ臭そうにモゲのことをチラチラと見ながらの話し方になっていった。

「ほ、ほうか!バレてたんか・・はははは、照れるなぁ!」

あの宮川佐恵子が哲司にはこんな可愛らしい仕草みせるんや・・。と、驚きながらも、もっと驚きなことをサラリと伝えられてモゲは内心で焦り、かえって肚をくくる決心がついた。

(こいつまた人のオーラが見えるようになるんかいや!まったくやっかいな奴っちゃな・・。しかし、テツお前・・。こいつの力が前の状態に戻ったら、今回のイタズラのこと色々バレてしまへんか?・・・テツが質問攻めされたら完全にアウトやぞ・・。ここは今のうちに本気で首に鈴付けとく必要がありそうやな・・。こいつの力が弱ってる今しかないってタイミングや)

「うふふふ、・・わたくしだけ下着姿という状況ですが、少しばかり和めましたわ」

モゲの内心の動揺に気付く様子もなく、佐恵子は左手で露出したバストを隠しながら、自身の右頬に右手を当ててそう言うと恥ずかしそうにしている。

このままではペースがおかしくなると思ったモゲは強引に話を戻す。

「・・・ほなさっそく始めよか。そこに跪いて両手を頭の後ろに回してくれるか」

うっとりと頬を染め、恥ずかしそうな笑顔でいた佐恵子は、突然のセリフでモゲの思惑通りまたも緊張の顔に戻る。

佐恵子は、急に強い口調になったモゲに逆らえず、「わかりました」と言って、おずおずと指さされた壁際のところまで歩いていくと、振り返って床に膝を付いた。

壁際の絨毯の上に膝間づいて両手を後頭部に当てた佐恵子が、羞恥に染まった顔で恥ずかしそうにモゲに聞いている。

「・・・こ、これでよろしいですか?」

「そや。さっきも言うたように今日はお仕置きや。佐恵子さんが俺のことを何か月もオアズケさせた罰やからな。しっかり受けてもらうで。ええな?」

「は、はい・・。ですが、哲司さま、どうかお手柔らかにお願いいたしますわ・・。わたくし本当に、こういうことってほとんど経験がございませんの。初めてのときは痛くて身勝手な扱いしかされなかった記憶しかございませんわ・・・。どうか、優しくしてくださいませ」

下着姿で胸は露出し、肩幅程度に膝を開いて両手は頭の後ろという格好で佐恵子は泣きそうな顔で懸命に訴えた。

「いや、お仕置きや言うたやろ?」

そんな態度やセリフが、サディストにとっては逆効果だということも知らない佐恵子は、モゲのセリフで表情を不安で強張らせる。

「ちょっと、お仕置き用の道具もってきたんや。しばらくそのままで動いたらあかんで?」

「・・哲司さま・・。信用・・して・・ますわ・・。どうか・・お手柔らかに・・」

佐恵子はこれから何をされるのかと、すでに息も上がり気味で、普段魔眼と恐れられている目は潤んで泳いでいる。

「ああ、わかっとるわかっとる」

モゲは、気持ちのこもっていなさそうな返事を振り返りもせず佐恵子に返しながら、持ってきてたバッグをベッドの上に置くと、ごそごそと中身を並べ出した。

「うぅ・・そ、それをわたくしに・・・?」

「立ち上がったらあかんで?そのままや」

佐恵子の不安そうなセリフにモゲは振り返らずにそう言いいバッグから道具を出しベッドに並べている。

ベッドの上に並べられているのは、いわゆる拘束具という類のものだが佐恵子は目にするのが初めてで、膝立ちの状態で背伸びをするようにモノを確認しようとしている。

「よっしゃ・・。まずはこれからや」

モゲはそう言うと、目隠しを持ち跪いている佐恵子に近づいた。

・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・


「よっしゃ、ええ格好になったな。・・・お似合いや」

「はぁ・・はぁ・・!」

「縛られただけで、もう返事も出来へんぐらい興奮してるんか?こんなことされるん初めてやろ、お嬢様は?」

目隠しに首輪、後ろ手錠に上半身は縄化粧を施された佐恵子は、人生初めての経験で頭の中は真っ白になっている。

(目隠しは正解やな。あの目で見られてると見透かされそうな気がするんや。この方が気がねなく色々できるわ)

モゲはじっとりと汗を全身に張り付けだし、呼吸が荒くなっている佐恵子を横目で確認しながら、三脚を取り出し、音を立てないように慎重にデジタルビデオをセットすると、今度は自分のシャツのボタンをはずし、服を脱いでいく。

「は、初めてですわ・・。哲司さま‥わたくし・・もう頭がおかしくなりそうです。こんな破廉恥なこと、どうにかなってしまいそうです。こんなことをしているなんて加奈子や真理にしられたらと思うと・・!軽蔑されてしまいますわ」

「心配いらへんて。たぶん、知られてもなんともあらへん。俺の見たところ稲垣女史はともかく、あの神田川さんはお堅いふりして、案外と経験豊富やと睨んどるんやけどな。それにまだ、何にも始まってないで?いまからそんなんやったら大変や」

佐恵子のセリフに、服を脱ぎ終わり全裸になったモゲが、振り返りながら返事をする。

「さてと、お仕置きイラマタイムや」

「・・え?イラマタイム?とは?」

目隠しで視界を被われた佐恵子は、モゲの声のする方へ不安そうに聞き返す。

全裸のモゲは佐恵子から見えないが、30㎝弱はあろうかといういびつな形で、巨大な肉棒をそそり立たせている。

「ええから、佐恵子にイラマしてくださいって言えや」

「で、ですから・・イラマとは・・な、なんですの?」

「ええから言えばええんや。そのふっくらとした唇・・いまからそそるのう。佐恵子さん、目隠ししとって正解やったと思うで?このサイズみたら仰天すると思うわ」

イラマとは是非何なのか答えてほしかった佐恵子であったが、また哲司の起源を損ねてはと思い、そのセリフを素直に口にする。

「う・・、さ、佐恵子にイラマ・してくださいませ・・」

「しょうがあらへんな。特別やで。口開けろや」

モゲはわざとらしく、ぬけぬけそう言うと、佐恵子の顔の前に一物を近づけて、がっしりと頭を掴んだ。

(これで条件ひとつ突破や)

モゲは内心でガッツポーズをとる。

一方何もしらない佐恵子は何をされるのか不安で仕方無い思いで、控えめに口を開けた。

シャワーも浴びていないモゲの肉棒が口や鼻腔に近づいてくると、むせ返るような匂いに襲われ顔を背けようとしたが、モゲの手でしっかりと頭を掴まれているため許されず、口に一気に突き込まれた。

「うぐううううっ!うぶぅっ!?」

「ははは、歯立てたらあかんで?・・佐恵子さん、あんた唇も厚いし口デカいほうやと思うけど、流石に俺のはきつそうやなぁ?」

モゲの肉棒に喉まで貫かれ悶絶している佐恵子にそう声を掛けると、モゲは佐恵子の団子になっているヘアースタイルの髪の毛を掴み、自分の肉棒を咥えさせたまま佐恵子の顔を上げさせた。

「ぐっ・・!ぷはぁ!はぁはぁ!・・て、哲司さま・・・!くるしい!おやめくださいっ!・・それに哲司さまシャワーも浴びておりませ・・・っぐっんんんん!!!?」

「シャワーがなんやって?黙って口開けて差し出したらええんや。なに口から勝手にだしとんねん。十数秒とは言えやり直しやないか。そのまま続けるんや。もう俺がええっていうまで抜いたらあかんで?」

モゲはそう言って、髪の毛を掴むと佐恵子の口に自慢の肉棒をあてがいこじ開け押し込んだ。

「んんんんんっ!!んっ!んんっ!んんっ!」

(よっしゃよっしゃ。もう逃げられへんで。これで20分甚振ったる。対象の口から同意を得て、俺の下半身と対象の口を接触させるが第一条件や。20分後恥ずかしい呪詛お見舞いしてやるからな。俺に美佳帆さんやスノウの前で恥かかせおってからに)

佐恵子は頭や髪の毛を掴んでいるモゲの手を掴んで引き離そうと、後ろ手錠の不自由な手をガチャリガチャリと動かしている。

「おっ、何やその手!嫌なんか?お仕置きや言うてるやろ。甘んじて受けんかい!」

その行為が苦しくて逃れようとしている佐恵子の頭を掴みながら、モゲはそう声を掛けると、佐恵子は頭を左右に振って苦しそうにイヤイヤと首を振っているようだ。

(おっ?オーラも使って強化して逃れようとしとるな。しかしそんな貧弱なパワーやと逃げられへんで?かえって甚振りがいがあるだけや)

「お嬢様の口犯してるってだけでなかなか興奮して気持ちええで。どや?昨日の朝からシャワー浴びてないチンポの臭いも堪能してくれてるか?・・しかし、ほとんど経験がないちゅうんはホンマみたいやな。歯がめっちゃ当たってるやんか。もっと口開けるんや!」

「うむぅうううう!くるひいっ・・!ど、どおひて!・・やさひくひてくだはいって!!おえがいひまひたのひぃ!!」

ヨダレをそのシャーブな顎まで垂らしながら、声にならない声で抗議しているらしい佐恵子は、メッシーバンの団子の部分をモゲに掴まれ、もう一方の手で頭を掴むようにして固定されている。

苦しさに耐え切れなくなった佐恵子は仕方なし。という判断をしたようで、モゲに大怪我をさせない程度の力で、口を犯してくる肉棒にえい!と歯を立てた。

ガキッ!

思い切って力を込めたが、想像とは違った硬質的な感触に佐恵子の歯は弾かれてしまう。

「っ!?」

モゲの肉棒は適度な柔らかさを残しつつも、肉棒に纏わせたオーラによって異常な硬度があり、文字どおり歯が立たなかったのだ。

「あ~・・いま噛んだやろ?」

「ぐう!が・・っ!んん!」

「お仕置きや言うてるのに反省の色なしやということで、もっと根本までいこか」

「んんんんんん!!!!ゆるひひぇ!っごぼ!!!んんん!」

モゲは無情にも、オーラによって硬化させた肉棒を根本近くまで突き込み、佐恵子の喉奥まで押し込まれる。

「ぐっ!うう!!ううううう!!」

普段は誰もが機嫌を伺うべき対象である財閥令嬢の顔は、目隠しを施されているのですべては見えないが、涙と鼻水と涎で汚れ苦しみの悲鳴にならない悲鳴を上げている。

ガチャガチャと手錠を鳴らし、手錠と連結されている首輪も自らが引っ張ってしまう結果となり、さらに苦しそうに悶えているのだ。

肉体強化をはかり、全力でのがれようと努力をしているが、オーラを使った膂力ではモゲに全く歯が立たず、いましめに使われている拘束具も中途半端な肉体強化では破壊できないチタン製と特殊カーボンの素材であり、無駄な抵抗が見ていて痛々しい。

腕力で逃げ出すこともできず、口を犯す肉棒を噛み切ることもできないと分かった佐恵子は、哲司が満足するまで、ただ耐えるしかないという絶望感を苦しみのなかで噛みしめていた。。

(あのクソ高慢な宮川佐恵子が跪いて俺のに口を犯されとる・・。なんちゅう快感や。どうや!苦しいやろ?自慢やけど俺のサイズは西日本・・いや日本一かもしらへんと思うとるぐらいなんや。俺のこと見下しおった罰や!もうちょっとで俺の暗示がかかるようになるとも知らずに・・マヌケ面撮ってやってるからな。テツには悪いけど、このクソ女は今後俺には舐めた態度や口が聞けんようにしとくで・・。親友のテツの彼女やけど、こんな権限強い気紛れな女はきちんと首に鈴付けとかんとな・・、何時こいつの気が変わるかもしれへんし)

モゲは勝利を確信した緩んだ表情のまま心中でそう呟くと、もう逃がさないようにガッチリと掴んだ状態の佐恵子の喉奥目掛け、まだ余裕のある自らの肉棒をもう少しだけ突き込んだ。

モゲのエロ暗示条件達成には、20分間モゲの下半身と対象の口や唇が接触していればいい、という条件なのだが、あえて一番苦しい方法を佐恵子に行っているのだ。

「うぐううっ!ぐぐ!げうぅ!!んん!!!」

相変わらず自らのいろんな体液で顔じゅうを汚したまま、あまりの苦しさから佐恵子は再び顔を前に突き出し、でモゲの腰を押し逃れようとしている。

しかしモゲは自らの肉棒と部屋の壁で、佐恵子の頭を固定すると抵抗する佐恵子の姿をスマホで撮影しだす。

「んんんん!!てふひひゃま!!もふ!はんひぇいひてまふう!おごっ!おひゃめくだひゃ・・い!ゆるひぃてくだひゃいいい!」

「まだや!あと5分と思とったけど、10分に延長や!噛んだ罰やからな!」

そう言われた佐恵子は絶望的な表情をしたが、すでに佐恵子の顔は表情が読み取れるような状態ではない。

そんな佐恵子の心境を無視し、スマホを取り出して、この無様な顔をアップで撮るべくレンズを向ける。

引いた痴態は三脚のデジタルビデオでおさめているが、目隠しをした状況だと、せっかくの画も財閥のお嬢様の痴態だという証拠にはならない。

目隠しも外して撮ってしまいたいところだが、流石に撮っているのがバレると許してくれないだろう。

モゲは仕方なく、佐恵子のハンドバックから抜き出した財布から、佐恵子の顔写真付きの身分証明書取り出し、涙と鼻水と涎だらけで、肉棒を口に突っ込まれた状態の佐恵子の顔と並べて撮影し記録に残していく。

(これでなんかあっても、黙らすことができるし、ええズリネタにはなるな)

手帳や名刺入れも発見したモゲは、免許証、名刺、会社のネームプレートなど、全てを顔と一緒に映るようにフレームに納まるように画像として記録していく。

(これでよしや。女はどうかしらへんけど、能力に目覚めてる男っちゅうんは、ほぼ例外なく能力をエロいことにも使えるようにしとるはずや。女はどうも男のことを、アホやと思うとるんか、そのあたりかなり無防備や・・。美佳帆さんやスノウ・・たぶん千尋も、SEXのとき自分らで能力使こうてエロいことしようとは思てないはずや・・・。そこを鍛えとるかどうかは、裸の付き合いにおいてとんでもない差になるんやで?・・つまり、SEX時のオーラの使い方についてなんも対策してない女は、俺らみたいな奴に抱かれたらお仕舞やちゅうことや・・・。世の中におるジゴロやセックスが上手いって言われてる男どもの中には、無自覚の野良能力者もけっこうおるやろな。しかし俺らはそんな奴等と比べたらあかんぐらい生易しいないで?)

体液だらけで苦しそうな声を上げている佐恵子の顔をカメラにおさめながら、今までの抱いてきた風俗女のほとんどは、エロ能力の実験台や被験者になっていることを思いだす。

(せやけど、このお嬢様も普段は強いんかもしれんけど、裸になったら、この体たらくやと、テツにきっちり型に嵌められてまうやろな・・。この女に初めて会うた日、こいつがとんでもない能力者やっちゅうことは肌でビリビリ伝わって嫌でもわかったんや。しかし、こいつみたいに生まれつき反則的な力の能力者でも、能力を使ってのSEXに疎かったらこのザマや。ほんま女ってやつは、男のエロにたいする執念がわかっとらん・・。それに女がどう見られとるんかもズレがあるんや。裸になってオーラも纏わんと弱点晒してしもてからに・・ロマンティックに抱いてくれると思うとる)

そう思いながらもモゲは、チラリと壁に掛けられている時計の針を確認し、条件の時間を随分すぎてしまっていることに思わず笑みを浮かべてしまう。

20分プラス10分のお仕置きイマラをさせたことを確認したモゲは佐恵子を開放し、口から肉棒を勢いよく引き抜いてやった。

ようやくご奉仕とは程遠い拷問じみたフェラから開放された佐恵子は、首の後ろで両手を固定されているために顔を覆うことも拭うこともできずに、息も絶え絶えに顔じゅう汚したままモゲに懇願した。

「ぷはぁああ!げほげほっ!げほげほっ!て、てつじ・さま・・!はぁはぁ!こ、こんなに苦しいのは・・はぁはぁ!もうこれっきりに・・げほっ!げほっ!」

「よっしゃ。佐恵子さんよう頑張ったな」

床に額で倒れ込んだ佐恵子は、心底苦しそうに呼吸を整えつつ、目隠しで視界を奪われたままモゲの方を向いて咽ながら訴えている。

(これで、この女は今からするセックスで味わう以上の絶頂やないと俺には逆らえんくなるし、俺を見ると欲情してしまうようになる。【認識交換】が切れたあとはこの三出光春を見ると股間に俺の肉棒が欲しくなるんや・・。これ以上ないってぐらい深いアクメを身体に叩き込んでやるからな。テツとのSEXで今日以上に感じれたら解除されるわけやが、アブノーマルなセックスのほうがこいつも感じそうやし、腹とマンコとケツから同時に子宮責めて、きっちり子宮逝きを覚えさせたろ。そしたらもう普通にチンポ突っ込まれるSEXなんぞじゃ、ぜったい超えられへん)

「て、哲司さまはこういう事がお好きなんですか・・・?わ、わたくし・・こういう事はこれっきりにしていただきたいと思います・・。長いし苦しすぎるのです・・。それに哲司さまも果ててはいらっしゃらないご様子。できれば・・・口でのことは・・今回限りにしてください」

モゲの邪悪な思惑に気付けないまま、後ろ手錠で拘束されたままの佐恵子は、顔じゅうの涙やヨダレを拭うこともできないまま、モゲに懇願する。

「まあ今日はお仕置きやったからな。でも、またお仕置きが必要やと思たらまたやるで?」

「そ、そんな・・!お仕置きはもう許してください」

モゲにさらりと再度の可能性を示唆されて、顔を青くしている。

「それは、今後の佐恵子さんしだいやな。それに、そんな口では否定してても、案外身体は反応しとるもんや」

そう言うとモゲは、へたり込んでいる佐恵子のショーツの股間部分をおもむろに掴み、女の部分が露出するようにクロッチ部分を横にずらせた。

「あっ!そ、そんな!お、お止めになってください!」

下着を履いているからすぐには見られないと安心していた佐恵子は、急に股間を露わにされ慌てて隠そうとするが、手は拘束されており、左足の上にはモゲの右脚が載せられ、右脚はモゲの左手で閉じれないように開かれている。

目隠しをされているとはいえ、自分がどんな格好をしているのか痛いほどわかる。

それに、脚を広げられる時に、にちゃぁ!と自分の股間から粘着質な音が佐恵子の耳にも聞こえたのだ。

モゲは微妙に身体をずらし、佐恵子の広げた脚がデジタルカメラのベストアングルに来るように調整することも抜け目がない。

「ほらな。お嬢様は苦しいことでもこんなに濡らすド変態やちゅうことが証明されたわけや」

そう言うとモゲは、これ以上にないぐらい勃起させてしまっている陰核を器用に指先で突いてから、蜜をすくってその指を舐めた。

「ひいぁあ!ぅぅうう!哲司さま・・!は、はずかしいですう!」

「そうか?そんなカマトトぶったこと言うても、高そうな輸入もんのショーツまでびっしょびしょやぞ?さあこれからが本番や。ほぼ処女なマンコたっぷり調教して、きっちり牝マンコにしてやるからな。さっきこの口で咥えてた俺のんを、今度はこっちの口でしゃぶってもらおか」


モゲは、佐恵子のふっくらとした唇を指で撫で、キスをする。

「んん・・あ、ああ・・哲司・・さま・・んん・・んちゅ・・ちゅ・・」

哲司にキスされていると思っている佐恵子は、うっとりとモゲの指にもキスをし、モゲと唇を重ね、舌にも舌で応えている。

佐恵子は恋人とのキスで蕩けながらも、先ほど口で感じた大きすぎる圧迫感を股間で突き込まれると思うと、あんなものが入るのか?という思いは強く湧き上がってくるが、それと同時に期待なのかそれとも性器を壊されないようにとの防衛本能からか、佐恵子の秘部は更に恥ずかしい液体を溢れさせ、受け入れようと身体を開いた。

(彼氏に抱かると思って、軽蔑しとる男に犯されるんや。マヌケ女が、ふだん軽蔑してる男にマンコもケツ穴も犯されて無様にアクメキメるとこ記録しといてやるからな)

悪そうな笑みを浮かべたモゲは、その巨大な一物をびしょぬれになっている佐恵子のピンク色に充血している花弁を押し広げあてがった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 8話 お嬢様の恋人ではない恋人との秘め事終わり】9話に続く

第9章 歪と失脚からの脱出 9話 緋村紅音と神田川真理

第9章 歪と失脚からの脱出 9話 緋村紅音と神田川真理

以前は、安物ではないがそれなりの応接セット、佐恵子が大学時代から愛用していたという木製のテーブル、それと必要最低限の調度品しかなかった支社長室だったが、いまはそれらのものはすべて廃棄され新支社長の好みのものばかりに置き換えられていた。

神田川真理は、今の部屋主である紅音の前まで歩みを進めるまでに、新たに配置されたそれらを軽く一瞥すると、内心鼻で笑う。

(悪趣味)

前の部屋の主がいた時よりも、なにもかもが豪奢で華美なものに変わっていたこともそうだが、佐恵子の私物を本人の断りもなく廃棄したことがその感想の一番大きな理由だ。

しかし心中ではともかく、指定の制服に身を包んだ美人秘書は、内面の感情を微塵も感じさせず穏やかな表情を崩すことは無い。

(なんでも最高級のものばかりを揃えればいいってものじゃないことがわからないのかしら。成金趣味のひどいセンス。それに今日もまた同じ話でしょうし・・時間の無駄だけで済めばいいけど。こんな遅い時間に呼び出して、本当にくだらない・・)

支社長室の壁に新たに掛けられた、他の調度品とはバランスのとれていないモダンデザインな掛け時計はすでに午後九時を指している。

(はぁ・・。一応準備してるとはいえ、加奈子もブー垂れてるし、何事もないのが一番なんだけど・・)

そんな真理の心中など知る由もない紅音は、笑顔で両手を広げ真理を歓迎する仕草をみせてから口を開いた。

「真理。忙しいところ悪いわね・・。

こんな時間だけど呼んだのはほかでもないわ。この間の話よ。

考えてくれたかしら?

真理なら気づいてると思うけど、業績とは裏腹に上層部では現場との意識乖離が不味いところまできてるの感じてるわよね?

業績は順調でもこれじゃそのうち内部で分裂しちゃう。

上層部はほとんど親族役員ばかりだけど、実質は私達みたいな外様の能力者が実務を取り仕切ってるでしょ?

こんなんじゃ、そのうちみんなの不満がたまって収拾が付かなくなっていくわ。

そこでなんだけど・・こないだ言った提案、どうかしら?

賢明な真理ならいい返事をしてくれると思ってるんだけど・・?」


と、やっぱり真理の予想していた通り、いつもの話が始まる。

話の中身の大半は、体制批判から始まり、次に派閥への勧誘、そして佐恵子の誹謗中傷へと続く。

真理はいつもの話に、いつも通り口では失礼が無いよう上手く躱しつつ、心中で溜息をつきつつ、頭の中で独白する。

(宮川のようなコングロマリット・・傘下に小さな頭がたくさんある組織は、確かに問題が起きやすいわ。

でも佐恵子は能力を駆使してうまくコントロールしつつあったのよ?紅音。

・・あなたは確かにとても優秀だけど、組織運営に関しては魔眼持ちだった佐恵子の方に軍配が上がるわ。

この数か月で、もう数字がそれを証明し始めてる。あなたはこの結果に対しては偶然だと思いたいみたいだけどね。

魔眼を失ったとしても、宮川アシストで佐恵子はそれを証明してるわ。

この差は一朝一夕じゃ埋まらないってことよ。

あなたについてきている人は、打算や恐怖で動いている人が多いだけ、そこに気付けないあなたにはあんまり興味は感じないのよ。

佐恵子も独善的だけど、その独りよがりは紅音のそれとは明らかに違うわ。

佐恵子は一応かなり広い範囲の人達の幸福のために動いているけど、紅音は違うわね?

佐恵子は、ことに対する進め方も、法や倫理という観点で判断しているし、たまに変なことも言いだすけど、指摘すれば、後で泣きそうな顔でやってきて、ちゃんと反省もしてくれる。

おバカでとっても可愛いのよ?

でも紅音・・あなたのはやってることは、ただの背信行為で反乱の準備をしてる。

誰が喜んで誰が得するのかしら?その独善には私はお付き合いできないのよ・・。

宮川みたいな名門は、先人たちが連綿と紡いできた努力と功績で、いまの社会的信用やブランドを担保されてるのよ?

それをあなたは、欲と力にまかせて全部乗っ取ろうというの?

乗っ取ったその後はどうするの?そのブランドを維持できるとでも思ってるの?

私は、一応善良だと思える社会貢献を広範囲に行えるのは宮川が一番だと思ったからこそ、神田川から来たのよ?

ここなら、まだ一番マシそうだって・・誤算だったのは、佐恵子が思いのほか楽しませてくれてるってことだったの。

それなのにその佐恵子を追い出しちゃっったうえに反乱のお誘い?一族役員や株主から経営権を奪う?

くだらない。

私がそういうこと好きだとでも思ってるの?)

紅音の話を聞き流しつつも、真理は笑顔を崩さず、ほぼ聞き役に徹するようにしているが、真理は、珍しく自分の心中がかき乱され心穏やかではないことに、内心驚いていた。

真理の実家の神田川家は、有名な茶道の宗家でありながらも、複数の家業と神社まで保有している超がつく名門である。

それゆえ真理の美的感覚も、幼少のころから磨かれており、金額が高いだけの和洋中が入り乱れたこの部屋のありさまに辟易してしまうのは無理もないのだ。

神田川家は宮川グループの傘下ではなく、むしろ肩を並べるほどの格式がある。

財力では及ばないが、歴史にいたっては宮川家よりも50年以上古く、神田川家に向けられる世間からの印象は、言葉にすると格式高く清廉で厳か、というものが大勢を占めるはずである。

宮川は幅広くエンドユーザーを抱えるようなビジネスをしているため、人気の芸能人やCMを使ったイメージ戦略などを展開しているが、神田川にはそんな必要はなかったことも、そのイメージが定着している理由だろう。

宮川と神田川は商売の土俵が違うこともあり、敵対するようなことは今までなかったが、特別に懇意にしたこともなかった。

そのため新入社員の一人である神田川真理が、あの『神田川』の息女だと知った宮コーの幹部一同は、一様に驚き、なにか善からぬ思惑があるのではないか?と疑うものがでるほどであった。

しかし、真理のことを入社研修初日で、真理とは初対面にも関わらず気に入ってしまった佐恵子は、理由はどうあれ真理が手元に来てくれたことに大喜びして、自らの秘書にしたいと言い出したことと、神田川家当主から宮川家に『娘のことをよろしく』と丁寧な挨拶と、高給な付届けの品があったことから、幹部内だけでの一時的な騒動となったのはもう6年以上も前のことである。

その時から真理は徐々に佐恵子と仲良くなっていき、また宮コーにおいても居なくてはならない人物となっていく。

さらに近年では、神田川の茶道や和菓子などの商売で宮川と少しずつコラボし、協力し合うようになっていったのだ。

そんな事業展開にも貢献している真理は文句なしに優秀であるうえ、宮川佐恵子の派閥の要である。

神田川と宮川の共同事業的にも影響があるし、紅音はどんな手を使ってでも、真理のことを手元に置いておきたかったのだ。

しかしこの三か月間、あの手この手での熱烈な勧誘にも真理はまったくなびく様子はなく、紅音は先ほどまで何とか根気よく勧誘をしていたが、ついにその綺麗な赤髪をかき上げかぶりをふり、聞こえるように舌打ちをして口調を変えた。

「真理?やっぱりまだあの七光りに肩入れするつもり?あいつはもう終わりなのよ?力も立場もね。真理はそのうえで私に逆らう覚悟があるってことでいいの?いくら真理があの神田川とはいえ後悔することになるわよ?神田川には真理以外にろくな能力者が居ないことぐらいは調べがついてるんだから!」

ついに紅音は苛立ちと怒りを隠すのをやめ、その美形の童顔を不快気に歪めたまま勢いよく椅子から立ち上がり、手に持っていた万年筆をへし折って真理を恫喝する。

その直後、折れた万年筆を発生させた炎で一瞬にして塵に変えると、その煤カスを振り払うように煩わし気に手を振った。

佐恵子を会社から追い出したというのに、真理や加奈子は今までどおり佐恵子を警護すると言い張り、二人は宮コーでの業務が終わると、佐恵子の自宅のペントハウスにほぼ毎日通い続け、宮川アシストへの人材の紹介をしたりと紅音は苦々しく思っていた。

しかし紅音は、真理を側近として引き込みたいがゆえに、我慢してやっていたのだが、もう限界だ。

紅音はもともと我慢など得意な方ではない。

真理の視点からみれば、3か月という交渉期間は決して長くないのだが、紅音にとっては限界だったらしい。

しかし、怒り心頭の紅音を前にしても真理は、いつもの表情を変えることなく涼し気な顔で言葉を返す。

「肩入れだなんて言葉は適切ではありません。別段特別なことはしているつもりはありませんから・・・・。ただ数年来の友人にできるだけのことをしてあげたいだけです。それに神田川のことはご心配なく。すでに宮川とコラボで開発している商品やサービスについては、先だって継続は見送る・との通知がきております。新支社長とは一緒に仕事出来ない、とのことです」


支社長室のほぼ中央で、凛とした姿で笑顔の神田川真理はきっぱりと言い切った。

「な?なんですって?!」

初耳の情報に紅音は声をあげたが、真理の表情は何の感情も浮かんでいない。

社内で紅音にここまではっきり発言できるのは、宮コー社員では真理と加奈子だけであろう。

いるとすれば、宮コー社員としては新参者の元菊一の面々ぐらいであるが、彼らは少し例外枠だ。

彼らは、遠慮なく紅音に意見し、無理な要求には、以前佐恵子と交わした契約内容とは違うと主張し、要求を突っぱねることすら何度もあった。

元菊一の調査部の態度や、今の話で真理がけっして勧誘に応じないことがわかり、辛抱強く交渉や勧誘に心を砕いたつもりの紅音はついにキレた。

真理に対しては今日、元菊一事務所に対しては昨日、加奈子にいたってはもっと前からだ。

紅音は歯並びの良い白い歯を食いしばると、思い通りにならない奴等に心の中で悪態をつく。

(クソ加奈子の力は惜しいけど、あの脳筋はバカみたいに佐恵子信者だし、私への態度や暴言も酷い。

だから、殉職するような仕事をあてがってやってるのに、捨るつもりで連れて行った犬が、何食わぬ顔で何事もなかったみたいに毎回帰ってくる・・・!

昨日は昨日で口の利き方も知らないグラサン・・!私に向かって無礼な態度と言動・・!

せっかく幹部にしてやるって言ってやってるのに・・もう我慢の限界・・逆らっただけじゃなく私のことトップの器じゃないとまで言ってくれたわね・・・!

手始めにグラサンの嫁と、菊一の秘書でも攫わせて衝撃画像送ってやろうとしたのに、あんなチンピラに依頼したのが間違いだったわ・・・もう消したとはいえ、あんなにペラペラ情報もらすなんて・・・!私まではさすがにたどり着かないでしょうけど、あのルートはもう駄目ね・・。

そのうえ・・・真理も私には従わないって言うの!?

真理なら話せば解ると思ってたのに・・!どうしてあんな女がいいわけ?!

でも、もういいわ!どっちみち私一人でも十分なくらいなんだから!)

紅音はここ数か月の思惑がことごとく功を奏しなかったことに、心中で思い切り罵った。

紅音の顔は苛立ちと怒りで歪んでいるが、可愛らしい小悪魔的な容姿と、小柄な体形とその仕草から、大抵の男たちは怒った顔も可愛いと思わせてしまうだろう。

しかし、紅音の性格と能力を知る者が今の紅音の顔を見れば、全速力で逃げ出すはずだ。

だが、真理はいつもの笑顔ではないにしても、落ち着き払った様子である。

ただ、その表情は普段の真理とは思えないほど無表情で紅音を見つめ返している。

無表情の真理は実はとても珍しい。そのため、紅音は多少の気味悪さを感じながらも真理に対して言う。

「なによその顔?いい度胸ね。私にそんな目を向けるヤツがまだいるなんてね。でも一応聞いてあげるわ。真理これが最後よ?私に従いなさい!」

紅音は言うと同時に、それが最後通告だと証明するかのようにオーラを開放した。

紅音は、肩まで届いていた艶やかな赤髪は逆立たせると自身の周囲に炎を纏う。

「・・・私の意思はともあれ、要は力づくで従わせたい。ということ?」

臨戦態勢に入った紅音に対して、一応の確認を取る真理。

「余計なお喋りの時間は終わりよ真理。イエスかノーで答えなさい」

紅音はそう言うと真理に向かって一歩距離を詰める。

真理は、普段の真理が絶対しない仕草で大げさにため息をつき、おもいきり紅音を見下した表情になると、わざとらしく肩を竦めて口をひらいた。

「ノーよ。そんなつまらない誘いに私が乗ると本気で思ったの?くだらない。どこか他所の星でやってくれないかしら?」

普段の真理からは想像もできない冷たい目と、辛辣な口調で紅音に言い放つ。

「・・・じゃぁ・・死ね!!」

そう言った真理の表情と口調に、驚いた紅音だったがすぐに目にも怒りの炎を宿し吼えた。

ゴゥ!

「くっ!」

さっきまで真理の立っていた場所に、四方から炎が収束して火柱となる。

床を蹴り、まともにくらえば塵まで分解されるほどの炎を、辛くも交わした真理が床で回転して起き上がりつつ、ベストのポケットに忍ばせていた丸い何かを紅音目掛け二つ飛ばす。

「はんっ!なんだろうと無駄よ!・・・っな?!きゃあああああああ!」

真理が投げた丸い何かを、紅音が余裕をもって炎を纏った手で払った瞬間、ぼん!と音を発し大きな炎が巻き起こった。

「きゃぁああ!おのれ!おのれええ!この臭い!ガソリン?!くぅうう!」

「ご名答。いくら炎を操って耐性があったとしても、準備してなきゃノーダメージって訳にはいかないでしょ?」

真理のセリフに、燃えた液体を頭からかぶった紅音は、髪の毛や肩を焼かれ手で押さえているが、指の間から覗く目は烈火のごとく真理を睨んでいる。

真理は思惑通り成功した奇策に笑みを浮かべつつも、支社長室の出口に視線を走らせ脱出をはかる。

「私にこんなことして逃がすわけないでしょ?!」

紅音がガソリンで負った火傷を手で押さえながら、支社長室の内周に炎を張り巡らせる。

入口に駆けだしていた真理は炎に阻まれ、扉までたどり着けず、紅音の方に向きなおって構え紅音を挑発するようなセリフを浴びせる。

「ふん・・。紅蓮なんて二つ名を持ってるくせに火傷していいザマね?」

真理は額に汗を浮かべ、焦りを隠しきれていないが【未来予知】の時間範囲を最大まで展開して、防御の構えで、紅音との間合いをはかる。

「真理苦しんで死にたいようね・・こんなの大した傷じゃないわ。苦し紛れの小細工で、私を怒らせるなんて・・思ってたほど賢くはないみたいで安心したわ」

いっぽう紅音は、火傷した顔を右手で押さえ歯ぎしりしながらも、すでにガソリンによる炎は消え、警戒して距離をとろうとしている真理とは対照的に、無遠慮に間合いを詰めていく。

ゴウッ!

「きゃ!」

紅音が手を振ると、真理の周囲を余すところなく炎が囲んだのだ。

「くぅ!」

「どう?【未来予知】できるんでしょ?逃げられそうかしら?どこにもないでしょ?!大人しく私に従わないからよ。私の顔にこんな傷をつけて、いまさら命乞いしても許さないんだから・・」

真理を囲む、炎の輪が真理に向けて少しずつ小さくなっていく。

「きゃっ!く・・・!」

「ほらほら・・どうするのよ?まさかもう何も手はないの?」

真理を囲む炎の輪は、真理ともう10cmと離れていない。

真理は気を付けの格好で立ち、出来るだけ炎に近づかないようにしているが、熱でパンストは破れ素足が露出し出している。

「ふん・・男どもがいないのが残念でしょうけど、焼き尽くす前に恥でもかいてもらおうかしらね」

真理が苦しそうな態勢で顔を歪めているのを見た紅音は、妖しい笑みを浮かべてそう言うと、両手を振るい、真理の周囲に炎を舞わす。

「きゃ!熱っ!・・くぅ!!ふ‥服を・・!」

炎の輪によってとても狭い範囲でしか身動きできない真理は、襲い掛かる炎をまともに避けることもできないでいた。

しかし炎は真理自身を狙ったものではなく、真理の衣服を焼き切っているのだ。

「ふふふ!さすが真理!いい体してるわね。ほらほらぁ手ぇどけなさいよ!」

焼き切られ地面に落ちた宮コー指定の制服をずたずたに燃やすと、真理はパープル色のお揃いのショーツとブラだけの姿にされてしまった。

「・・・本当に・・憎らしいぐらいキレイね」

指定の制服をほぼ焼ききられ、パープルの下着姿になった真理にバイセクシャルである紅音が頬を赤くし、目を妖しく輝かせて感嘆したように言う。

「お生憎様・・。あなた興味はないし、スカーフェイスは私の趣味じゃないわ」

そんな紅音のセリフにつれなく真理が返す。

「・・そう?ならやっぱり死ぬしかないわね!」

紅音の目がギラリと殺気に満ち、真理に向けて両手を振るった瞬間、一面がガラス張りになっている壁面が盛大な音を立てて砕け黒い塊が飛び込んできた。

「真理から離れろ!!でぃああああ!」

黒い塊は、大声でそう叫ぶと、ガラス片と一緒に紅音に肉薄し、窓をぶち破った勢いのまま紅音に飛び蹴りを放つ。

黒いアーマースーツを着た女の飛び蹴りと、スーツ姿のままの紅音が慌ててはなった迎撃の後ろ回し蹴りが、交錯し脚と脚が空中でクロスしたまま鍔迫り合いよろしく押しあう。

「クソ加奈子!やっぱりお前も裏切るのね?!」

肉体強化した加奈子の飛び蹴りを、同じく蹴りで迎撃した紅音が怒りの形相で吼える。

「うるさい!もともと味方ってわけでもないでしょうが!」

肉体強化した自分の蹴りを、蹴りで迎撃した紅音に、戦慄を覚えながらも怒鳴り返した。

そして、窓をぶち破って入ってきた加奈子とほぼ同時に、支社長室に真理を救うべく駆けつけてきた人間がもう1人。

彼は加奈子とは違い、スムーズに正面から入って来たのだが、全身を煙に包まれていて、わずかに見える顔には、必要以上に光メガネをかけている。

(あれ?私以外にここに来る人間は、紅音の部下の能力者?何あれ?煙使いの能力者なんて、紅音の部下にいたかしら・・?)

紅音と脚と脚の交錯を終え、態勢を立て直し真理と紅音の間に、真理を守るように、晒した素肌を隠してあげるように立ちはだかった加奈子は視覚強化をさらに上げてその煙に包まれた男性を凝視した。

「新しい支社長は、信用できないと哲司君やスノウちゃんも言っていたけど・・・まさか僕の憧れの神田川さんを、襲おうとしているなんて・・・神田川さん、僕は栗田教授にずっと稽古をつけて頂いたおかげで、この煙の力を手にいれたのです。そして武術も哲司君から学びかなり強くなったので、僕が今日からあなたのナイトになりますよ!今も栗田先生に言われ、もしかしたらあなたがピンチになっているかも知れないから見てくるようにと・・・そして来てみればこれですよ・・・支社長、あなたは炎でしょうが、僕は煙、僕の煙であなたの炎を包み込めば、炎は煙を燃やすことはできずに煙に包まれ消えてしまいます。僕がいる限りあなたの炎は無力化できますよ。」

煙に包まれたメガネの男は、そう話しながら支社長室正面から、紅音に向かい歩を進めてくると、下着姿の真理を後ろから眺めれる方向から歩いてきているので、一通り約得を味わったであろうが、自分が着ていたスーツの上着を脱ぎ真理にかけてあげて、加奈子が紅音と相対する位置まで歩を進めた。

「えっ・・き・・北王子さん・・・なの?」

言動も容姿も以前に比べ段違いに逞しくなっている北王子公磨に、真理は何度も面識があったがすぐには気づかなかった。

そして加奈子も、

「えっ?あっあなた、菊一のメガネ画家!えっ?この煙あなたが?へ~やるじゃないっ頼もしいわよ。とりあえずは、あなたは味方と思ってよいのね。」

百戦錬磨の加奈子も、横に来た男を以前の北王子公磨とは別人のようなオーラの質に、明らかに体術も身につけている者の歩法で自分の横に立ち並んだ、【メガネ画家】を、戦力として認め、この狂った炎術者に相対するために頼もしく感じた。

(北王子さん・・・確かに才能はあった・・・そして栗田先生からも、彼を鍛えているとは聞いていたけど、まさか煙というような、高等且つ特殊な力に目覚めるなんて、栗田先生は炎に対抗すべく、北王子さんが煙の力に目覚めるようにわざと導かれたのかしら?加奈子に北王子さんが来てくれたのなら、私も栗田先生に授けてもらった奥の手も使う必要もなさそうね)

真理は、北王子にかけてもらったスーツで、素肌を隠せるだけ隠し、

「北王子さん・・・見違えるほど・・・お強くなられたようですね。そして、ありがとうございます。」

真理の謝辞に、北王子公磨は、振り向くこともせずに視線は紅音の周囲にまとわりつかせた煙のコントロールに集中しながら、

「あなたが危機に陥れば私はどこからでも駆けつけますよ」

と真剣な表情で呟く。

「うぅ・・・なにこの煙!ほっ炎が出ない!・・・どっどいつもこいつも!私をいらだたせるのが上手ね!あなたたちなんて、炎が無くても私が素手で無力化しようと思えば容易いのよっ!それにそこのメガネ?私に名前すら憶えられていないあなた!?あなたも私に逆らうと言う事はあの忌々しい菊一の能力者ね?とりあえずあなたたち3人を辱めるだけ辱めて、その動画を佐恵子にでも送り付ける事で宣戦布告といきましょうか?」


紅音は、公磨の力により炎をほぼ無力化されたというのに、加奈子を眼前にしてのこの余裕は、やはり己の肉体のみの戦闘力に相当の自信をもっていることに他ならないからであった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 9話 緋村紅音と神田川真理 終わり】10話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 10話 北王子公磨の力と秘策 脱出と絶頂

第9章 歪と失脚からの脱出 10話 北王子公磨の力と秘策 脱出と絶頂

紅蓮こと緋村紅音はその可愛らしい目を釣りあげ苛立ちを露わに隠そうともしていない。

「菊一といい七光りの部下と言い・・なんでこうも私に従わない奴等ばかり・・。圧倒的な力の差がわからないのね?・・そう・・そんなバカな奴らはもう死ねばいいのよ」

紅音は顔半分に火傷を負ったとはいえ、可愛い童顔を邪悪に歪めて3人に向かって静かに言った。

紅音は、苛立っているが同時に久しぶりの戦闘が行えることに心は高揚しだしていた。

全力に近いパワーを振るえる機会などめったにないからである。

そう思うと、紅音はえくぼをつくって目を細めた。

宮コー屈指の能力者、宮川十指にも数えられる神田川真理と稲垣加奈子、プラス得体の知れないメガネを3人同時に相手どったとしても、紅音は負ける気などこれっぽっちもない。

得体の知れないメガネが、意外にも自分と同じスターター系の能力者で、しかも煙だというところが厄介ではあるが、それを考慮してもだ。

紅音にそう思わしめるのは、未だかつて紅音が能力を使った対決で敗北した経験がないからである。

紅音はオーラ量では佐恵子と並ぶほど膨大であるし、使う技能は佐恵子と比べ直接的なものばかりで攻撃力という点においてだけなら佐恵子も大きく圧倒する。

そのうえ、近接戦闘においても、それに特化した稲垣加奈子さえやり方によっては倒せるとすら自負もしていた。

紅音は、唯一自身にまともなダメージを負わせる可能性の高い敵、すなわち正面で構える銀獣こと稲垣加奈子に注意を払いつつ、腰を落として構えた格好のまま、人差指の爪だけに熱を集中すると自らが身につけているタイトスカートのサイド部分を大胆に縦に切裂いた。

「うふふ、いわゆるサービスカットってやつかしら?」

そう言って動かしやすくなった脚を大胆に開くと、再び隙のない流麗な動きで構えを取る。

その滑らかで隙の無い動きの途中で赤い下着が一瞬だけ覗くが、紅音は下着の露出など気にした様子もなく小柄な身長の割に長くそして白い程よく肉付いている艶めかしい太ももを大胆にみせた構えで静止し、口を開いた。

「ふふふ・・。炎さえ使わせなければ、3人でなら私に勝てると思ってるんでしょ?それがどれだけ浅はかな勘違いかってことを思い知らせてあげる・・。すぐに後悔させてあげるわ。ふふふふ・・・」

紅音はそう言うと不敵に笑い、相対する三人に対して、かかってこいと言わんばかりに顎をしゃくる。

「加奈子!気を付けて!紅音とまともにやり合った人の記録なんてなかったから、詳しく調べられなかったけど、体術だけでもたぶん相当な使い手のはずよ」

真理が言い終わると、加奈子をはじめ3人も紅音に向かい構えるが、紅音から発せられるオーラの圧力が3人に叩きつけられた。

「むかつくけど見たらわかるわ・・・!」

「び、びりびりきますね・・!これが・・宮コーの最大戦力の一人に数えられる紅蓮ですか!噂にたがわぬ・・とはこのことですね。以前の宮川さんにもぐっときましたけど、殺気がこもった圧力というのでしょうか・・種類が違います!め・・メガネがずれそうなほど、周りの空気が揺れている・・・」

真理は防御の構えで、敵の力量を計り違えたかもという思いで唇をかみしめている。

公麿は煙を展開しつつ、炎を使っていない紅音の圧力に冷や汗で背筋を濡らしながら哲司に叩き込まれた格闘術の構えで警戒を口にする。

公麿の煙に纏わりつかれているため、炎こそ纏っていないが緋村紅音から発せられているオーラは3人に対して鋭い殺気をはなっている。

しかし、その殺気を跳ねのけ気力充実させた銀獣は髪を逆立たせてオーラを練ると吠えた。

「思い知らせてもらおうじゃないの!【疾風】、【拳気】!!・・・ジュニアのときの借りを返すわ!」

言うや否や加奈子は髪の毛を逆立たせ銀獣となると、床を蹴り空中で一回転し、紅音に踵を振り下ろす。

「さすが加奈子ねっはやい!」

小さく驚きの声を上げた紅音は、獣のごとく飛びかかってきた加奈子の浴びせ蹴りを、両腕を交差し、がっ!と防ぎ、間髪入れず空中の加奈子に蹴り返す。

加奈子も反撃を予想していたのか、持ち前の超反応速度で三日月気味の蹴りを右腕でガードする。

(想像以上に速い・・・脳筋だと思ってた加奈子が付与術を使えるとは・・すこしばかり侮りすぎたかしら・・それに、まだまだ全力ではないはず・・・。付与まで使える肉体強化系となると、丸岳君やはなだと相手するのは厳しいかもしれないわね・・・。ジュニアのころはまるでダメ子ちゃんだったくせに・・こんな能力者に成長するってわかってたら、あの時、仲間にしてやっても良かったわね・・・!これほどの使い手になったうえ、よりによって七光りに従うなんて・・!)

紅音は付与術による加奈子のスピードとパワーアップに驚きはしたが、冷静に加奈子の戦力を分析しなおしていた。

ジュニアスクール時代の加奈子を知る紅音は、当時の加奈子に優しくして仲間に引き込んでいなかったことを激しく後悔するが、後悔先に立たずとはまさにこのことだ。

いまや自分の宿敵の忠実な尖兵となって牙を剥くようになってしまった。

「くっ!避けるんじゃなくて止めた・・・!・・紅蓮は術のみにあらず・・って勇名は伊達じゃないわけね!」

一方の加奈子は、紅音の心の葛藤など知る由もなく、紅音の蹴りの威力を利用し後方に飛ぶと、空中でグルグル回転して着地し、キッと睨み返してからいまいましげに吐き捨てる。

加奈子の言葉通り、紅音は完全前衛の加奈子と素手でも渡り合えるということだ。

以前なら純粋な素手での勝負であれば、加奈子が少しばかり有利だったかもしれない。

加奈子が張慈円との死闘の後、死から復活するまでに行ったリハビリだけでは、日常生活には全く支障はないものの、戦闘となるとそうはいかなかったのだ。

加奈子は自身の身体の動きが本調子でないことに、苛立つが今すぐにどうこうできるものではない。

加奈子は負担の少ない魔眼技能である付与術を使い、少しだけ心もとなくなっている肉体を補っているが、以前のパフォーマンスには届かない。

「だから言ったでしょ?凡才が天才にたてついているのよ!・・とは言え、さすが七光りの専属ボディーガードね。たいていの奴なら今の私の三日月で血反吐吐いてるはずだからね」

「ふん・・。そっちこそ血反吐はかせて、その顔泣き顔にかえてあげるわ」

加奈子は尊大な言い分の紅音に言い返すが、紅音の近接戦闘スキルに内心かなり焦っていた。

しかし宮コーでも1,2を争う口の悪さの2人の口撃力は五分と五分といったところか・・・。

加奈子はジンジンと痺れる蹴りを防いだ手を摩りながら、以前に千原奈津紀と対峙し圧倒されたた時よりも焦りは大きい。

(相性もあると思うけど・・あのムチムチハム女は刀を獲物として振るってた。でも、この童顔くそビッチは私と同じ徒手空拳・・。しかも十八番の炎を使ってもいないってのに、本気でしゃれにならない!・・なんて奴なの。・・メガネ画家が偶然助っ人に来てくれなかったら・・どうしようもなかったわ)

加奈子は自身の能力に加えて、片目の魔眼での付与を駆使することにより、オーラの消費を抑えつつ130%水準のパフォーマンスで戦えるようになっているはずの自分の浴びせ蹴りを防いだ紅音にゴクリと喉をならし、寒気を覚えた。

移植された魔眼の扱いはまだ慣れていないし、もし付与術以外の技能を使っても佐恵子ほどの威力は出せない。

もし使うとしても、真理と相談して最後の手段ということにしてある。

なにより加奈子のオーラ量に対して魔眼の呪詛技能は燃費が悪すぎるのだ。

さいわい紅音は加奈子が付けているカラーコンタクトのおかげで、付与が魔眼の力によるものだとは気づいていない様子である。

焦燥を募らせる加奈子と裏腹に、紅音は加奈子の力が想像したものより上だったことに、少しだけ加奈子に興味を持ち話しかける。

「加奈子・・思ったよりは少しやるようね?まさか七光りと同じ付与が使えるだなんて感心したわ。・・なによその顔・・・本心よ?・・付与術って技能は地味だけど、とっても難しいからね。だから正直意外だったわ。・・・私の部下になれば死ぬこともないし、贅沢ができたかもしれないのにねえ・・やっぱりあなたもどうしても私を裏切るの?・・・ジュニア時代のときのことは水に流してあげてもいいって言ってるのよ?」

紅音は加奈子の蹴りを受けた手をぶるぶると振り、加奈子の浴びせ蹴りで、痺れていた腕をほぐしながらセリフを返す。

「はぁ?裏切りぃ?!水に流す?!佐恵子さんや会社を、宮川を裏切ってるのはあんたの方でしょうが?!小学生の時から、あなたも才能を見出されて特待生だったじゃない?ずっと宮川家の資金援助の恩恵を受けてきたんでしょ?!そういうの恩知らずって言うのよ!それに、水に流すって・・なにズレたこと言ってんのよ?!」

紅音のあまりにもな言い分に、呆れながらも激昂した加奈子が大声で言い返すが、それを真理が遮った。

「紅音にいまさらそんなこと言っても無駄よ加奈子!私にも付与を!二人で掛かるわ!」

「そりゃそーよね・・らじゃ!」

公麿から借りたジャケットのボタンをしめ、豊潤に肉がついたその下半身を包むには少し小さいと思われるパープルのショーツ姿である神田川真理が煙に包まれた紅音に向かって地面を蹴る。

加奈子は真理に答えると、素早くオーラを練り真理にも付与を飛ばす。

「ふんっ・・!こっちから頼んだわけじゃないわ。私の力を利用するために金をつぎ込んでただけじゃない。加奈子だってそうだったでしょ?すっかり飼いならされちゃって!なぜそれがわからないの?!私達は、凡人どもとは違う!選ばれた者なのよ?本当にいるとすれば神に選ばれたのよ!・・とりわけ私は神の特別な寵愛を受けていると言っても過言じゃないわ・・・・・!真理も・・!その力を凡人共に惜しげもなく使ってやって何やってるのよ?!・・目を覚ましなさい!私と一緒に能力者による統治をこの宮コーを土台にして始めるのよ!?・・・それでも私に逆らうのなら・・・敵になるって言うのなら・・・思い知らせてあげる!物分かりの悪い馬鹿どもに絶望ってやつをね!」

紅音は向かい来る真理と加奈子を同時に相手取りながら吐き捨てる。

「夢見がちな誇大妄想は寝てるときだけにしなさいっての!はあああああ!」

黒いアーマースーツで豊満な胸を初めとするその整ったボディラインを強調されている加奈子が、高速で突きと蹴りの連打を放ち、紅音を狙う。

「だからそんなの誰が喜ぶって言うの?!いっそう弱者を虐げるだけだわ!」

真理もジャケットに薄紫色の下着で隠し切れない妖艶な身体を隠しいるというしまらない姿ながらも言う事はきっぱり言い切ると、加奈子とタイミングを合わせ紅音に攻撃を浴びせる。

「危険思想の炎術者の炎は僕が無効化させておきます!でも油断しないでください!」

そう言うと公麿も紅音に攻撃する隙を伺うが、煙を紅音の周囲に展開させることを最優先としているため、紅音と少し距離をとりつつ二人にエールを送る。

本来は、張慈円が過去に暴れまわった各地に、残していった暗器を後にこっそりと持ち帰り、独自に暗器とオーラを融合させた戦闘術も研究していた公磨は今も懐に張慈円の暗器に加え独自に開発したいくつかの暗器を忍ばせているが、今は紅音の炎を封じるための煙の展開に力を使っているので暗器を使えずにいた。

紅音は少し離れて、隙を伺っている公麿にも常に注意を怠ることはなく、加奈子と真理を同時に相手にしている。

「・・くそメガネ!・・いまいましい邪魔を・・」

紅音は【知っている】真理や加奈子より、【知らない】公磨への方に不気味さを感じ、物騒な視線を公麿に飛ばすと、真理と加奈子の二人同時の猛攻に、後ろに後ずさりつつも驚異的な身体能力と格闘センスで、ダメージを受けず防ぎきっている。

「くっそ・・!な、なんてやつなの?!噂以上すぎる!」

「これほど・・とはっ・・!加奈子と二人がかりでも・・こんな・・ここまで攻めきれないなんて・・!」

加奈子と真理が攻撃を緩めることはないが、紅音の素手による戦闘能力の誤算を口にする。

身長でも真理や加奈子の方が10cm以上勝り体躯でも圧倒している2人がまるで小さな少女に踊らされているかのように見える。

「うふふ!火が使えなければ・・二人がかりならなんとかなると思ってたんでしょ?さっそく絶望感じてきてるのかしら?・・・いい顔ね・・そんな顔でそんなこと言われると私ゾクゾクしてきちゃうじゃない・・」

真理と加奈子の蹴りや突きをかろうじて躱し防ぎながら、紅音はその童顔の頬を赤く染め、目は妖しく濁った光をたたえ、うっとりしだしている。

いかに紅蓮と言えど、不得意な分野で、神田川真理と稲垣加奈子が相手どっているのだ。

さすがに、わずかばかり押されている。

しかしサディストでもマゾヒストでもあり、バイセクシャルでもある紅音は防戦一方の現状にも異常な性癖のせいで、恍惚とした表情で戦いながら口を開いて続ける。

「ハァハァ・・あなた達みたいに美人で聡明な女が、フフッ・・驚きと焦燥で表情が歪んでいく・・・クッ・・おいしそうよねえ・・熱くなってきちゃうわ!ふふふ・・・!・・うふふふふふふふふふふっ!」

息を切らせ、攻撃を避けきれずかすめだした状況にそぐわない紅音のうっとりとした表情と発言に、真理と加奈子はぎょっとした表情になってしまい、一瞬だけ動きが遅れた。

紅音にとってはその一瞬で十分だった。

紅音は薄く笑みを浮かべ、紅い瞳をきらめかせると、少しタイミングのズレた加奈子の中段後ろ回し蹴りを大開脚して身を床にべったり伏せて躱すと、その伸ばした脚で真理の軸足を払った。

一瞬、紅い隠す個所の少なめのショーツが丸見えになるが意に介することもなくオーラを脚に集中させる。

「ふっ!・・はっ!!」

紅音は気合の籠った声を発すると、真理のブラジャーの中心部分を下側から人差指で引っ掛け、自らの足を勢いよく閉じて素早く低い位置まで跳躍して、真理の腹部を蹴り抜いた。

「きゃっ?!」

真理は紅音に蹴られた勢いのまま後方に吹っ飛び、包むものがはがされ豊かなサイズの胸元の双球が激しく上下に揺れながら後方にいた公麿に背中から激突する。

「ぐっ!!」

借り物のジャケットに真理の下半身を包むにしては小さくも思える薄紫色のショーツ姿という半裸の真理は、公麿に何とか受け止めてもらったものの、二人は床にもつれて倒れ込んだ。

「ま、真理!」

中段回し蹴りを空振った加奈子が後方に振り返り真理に向かって叫ぶ。

「真理の心配?加奈子は余裕があるのねぇ?」

紅音の邪悪で愉快そうなハァハァと息の切れた小声がすぐ耳元で聞こえ、加奈子の首筋から耳にかけて紅音の舌が這った。

加奈子はその感触にぎょっとし、慌てて紅音に一撃食らわせようと肘を振り回しながら紅音に向きなおったが、加奈子の肘鉄は空しく空振りに終わる。

加奈子の肘を半歩下がって腰を落とした紅音は、封じられているはずの炎を両腕に纏わせ、今まさに殴ろうと構えていた。

「えっ?!」

炎を纏った紅音に加奈子が驚きの声を上げた瞬間、紅音がその小柄な体を沈めて間合いを詰めて高速で技を振るった。

「うふふふふふふふふっ!あはは!」

紅音が火傷を負った童顔を可愛らしく歪め笑いながら加奈子に連打を浴びせる。

ボディに拳を3発、顎に肘打ちを1発、顔に後ろ回し蹴りをお見舞いされ、赤い炎に包まれたまま加奈子も吹き飛ばされ、どしーん!と音を響かせて支社長室の壁に激突する。

「んふふー・・クリーンヒットぉぉ。・・・ダメじゃないメガネ?しっかり煙を展開してないと。それとも憧れの真理がパンツ1枚で飛んできたから動揺した?しっかり煙を展開してないとせっかくのハンデが無くなっちゃうでしょ?・・炎撃をまともにくらっていままで立った奴はいないけど・・手応え的にはいまいちだったから加奈子ならまだ楽しませてくれるかしら?」

紅音は愉快そうに自身の周りの炎を躍らせ、蹴り抜いた脚をそのままに右手の指先に引っかかっているパープルのブラジャーをくるくる回しながら壁に激突した加奈子と、真理を受け止めきれず二人して倒れ込んだ真理と公麿に言う。

「き、北王子さん・・よけようと思えば避けられたはず・・」

真理が身を起こしながら、尻で下敷きにしてしまっている公麿に声を掛ける。

「いくら強くてもあなたは女性です。それに一目惚れをしてしまった女性を受け止めず避けろって言うんですか?・・僕にそんなことできませんよ。でも、僕のせいで加奈子さんが・・・!」

ブラジャーを奪われた真理は、公麿に貸してもらったジャケットと、下半身は刺繍入りのレースが施されたパープルの下着のみに姿なので動くたびに着衣でも男性を魅了してしまうその肢体に付く官能的な白い柔肉が今は柔肉を拘束する布地から解放され自由に揺れている。

そのかたちの良い豊満な胸をジャケットから少しのぞかせ、公麿の腕に抱きとめられたままの格好で、口からこぼれた血を手の甲で拭きつつ、ぶつかった衝撃でダメージを受けたっぽい公麿を気遣う。

「真理!メガネ画家!無事!?・・私は大丈夫だから・・!無事ならとにかくあいつに火を使わせないで!悔しいけど火まで使われると、いくらなんでも手に負えないわ・・・!」

紅音による炎を纏った連打を浴びた加奈子は、大きなダメージを受けたのをやせ我慢して飛び起きると真理と公麿に叫んだ。

加奈子は無事だと自分で言っているが、ノーダメージなわけがないのは見ても明らかだ。

「炎が使えなくても結果は同じだと思うけど・・すこしは寿命が延びる・・かしら?」

紅音はそう言いながら、指先でくるくると弄んでいたパープルのブラに火をつけて灰にしようとしたが、再び煙に囲まれたため、ブラは肩紐部分が片方燃えただけで、紅音の指先から飛んでいきパサリと絨毯の上に落ちた。

「ちっ・・また煙・・・・」

「もうあなたには火を使わせません!」

舌打ちをした紅音に対して、公麿は気丈に真理を庇うよう立って言い返すと、紅音に再び煙をまとわりつかせたのだ。

紅音の周囲に舞っていた炎が、公麿の煙によって鎮火していくと紅音は鋭い目つきで公麿を睨む。

「本当にうっとうしいわね。あんまり頑張るとろくなことにならなってのに・・。でもそろそろ終わりにしましょうか。私的にはいまいち不完全燃焼だけど、あなた達はそれ以上もう手はないみたいだし、騒ぎになって警察に駆け付けられても面倒だしね」

そう言うと紅音は、お互いをかばい合うようにして立っている真理と公麿のほうにむかって無遠慮に距離を詰める。

「加奈子!お願い!」

真理は振り返って加奈子に意味深な視線を送る。

「あらあら、一番ひどくやられてる加奈子をまだ戦わせようって言うの?・・さすがの真理もなりふり構ってられないってことかしら?」

紅音はわざとらしくお道化た口調で真理を非難するように言うが、加奈子は真理のその言葉にコクリと覚悟を決めたように頷いた。

「あら?さすが加奈子ね。やっぱりまだ楽しませてくれるの?」

加奈子に向かって薄ら笑いを浮かべている紅音に、脚を肩幅まで開いた加奈子は、腰を落とし身構え目を見開いた。

「ビィィィィィム!!・・じゃない【恐慌】よ!!」

加奈子は意味不明な雄叫びの直後に魔眼技能を叫ぶと、突如加奈子の左目からどす黒い閃光が紅音に向かってほとばしる。

「っ?!えぇ??・・なっ?!えええええ???」

紅音は完全に虚をつかれた。

紅音が加奈子の放った技を頭でなんなのか理解する前に、加奈子の左目から放たれたどす黒い光は紅音に直撃し、紅音の目から脳に達して、全身のオーラをかき乱し体内を暴れまわる。

佐恵子のそれとは、随分光の量が少ないがその効果は抜群であった。

「うぐうううううううう!!っきゃああああああああああ!」

紅音は両手で顔を抑え、真っ赤な髪を振り乱しながら悶えて悲鳴を上げている。

「う、上手くできたわ・・。はぁはぁ・・はぁはぁ・・くっ・・すごい脱力感・・こんなにオーラ消費したら・・こっちがフラフラになっちゃう」

慣れない魔眼技能を放った加奈子は、全身に汗をびっしょり濡らし、肩で息をしているが、真理が間髪入れず声を上げる。

「加奈子!今しかないわ!一気にたたみかけるわよ!?」

「らじゃ!」

借り物のジャケットと紫のショーツだけを身につけた真理は、なりふり構わず紅音に向かって駆け出し、疲れ果てている加奈子にも攻撃に参加するようけしかける。

加奈子も脱力感で悲鳴を上げる身体に鞭を打ち、紅音に肉薄する。

「お、おのれ!加奈子ぉおおおおおお!。あなたっ!魔眼を!・・魔眼を七光りから奪ってたの?それで付与まで・・!」

恐慌により脳をかき回された紅音が、苦悶の表情で真理と加奈子を迎撃するも、恐慌による呪詛のせいで、さきほどとは違いその動きはまるっきりなっていない。

「くっ・・!きゃっ!ぐふっ!・・・おのれ!・・くぅ!・きゃう!・こ、こんなバカな・・!ぐえっ!・・や・やめ!くぅ!・・いいかげんに!・・ぐっ!」

紅音は迫りくる真理と加奈子の容赦ない猛攻の前に、半分程度は何とか防いでいるが、顔に腹に何度も攻撃を受け、壁際まで一気に追い詰められている。

「これはチャンスですね・・!」

部屋の隅に追い詰められ、加奈子と真理にぼっこぼこに殴られ防戦一方になった紅音をみた公麿は、勝機と察し、哲司に叩き込まれた格闘技を振るわんと紅音に向かって突進する。

「き、北王子さん!だめよ!!」

その瞬間、真理が悲鳴に近い声を上げた。

真理の【未来予知】の網に、死に次ぐ濃い警戒色が紅音の周囲を覆ったのだ。

公麿が紅音に駆けだした瞬間、煙のコントロールが僅かにみだれ、紅音を覆っていた煙がほんの少しだけ隙間ができたのだ。

一瞬だった。紅音の深紅の髪の毛が炎のように舞い上がる。

煙の僅かな隙間から紅音のオーラが膨張し煙を押しのけ、紅音の全身を業火が覆い舞った。

ごおおおおおおおおおおおおおお!!

『きゃあああああああああああああ!!!!』

真理と加奈子は紅蓮の火柱に吹き飛ばされ、悲鳴を上げながら宙を舞っていた。

「こ、こんなバカげた威力の炎を一瞬で?!神田川さん!!稲垣さん!!」

公麿は、再び紅音の炎を無効化させようと慌てて紅音の周囲に煙をコントロールする。

「させるかああ!死ねっ!くそメガネっ!!!」

煙が完全に紅音を覆う前に、紅音は公麿に向かって腕を突き出し必殺の威力がある火球を放つ。

真理と加奈子に蹴る殴るの連撃をくらわされ、吐血し満身創痍の紅音だが、炎を使ったオーラの発動は見事なほど速かった。

しかし、紅音の掌から発せられた火球が、手から離れる瞬間、真理が吹き飛ばされながらも空中で身体をひねり、放った蹴りが紅音の腕をかすめ、火球の軌道を僅かにずらせた。

公麿の数十センチ横をボーリングの玉ぐらいの大きさの火球がギューンと唸りを上げて猛スピードで通り過ぎ、壁に着弾して炎と暴風をまき散らす。

ごあああああああああああ!

紅音は左手では頭を押さえ、右手では加奈子にヒビをいれられた脇腹を抑えている。

「間一髪・・です。神田川さん・・ありがとうございます」

公麿は煙なしで直撃すれば確実に死んでいた威力の火球がさく裂した後方を確認し、冷や汗をかいた顔を真理に向けて言った。

真理は立ち上がり態勢を立て直して公麿に笑顔を返す。

「ちっ!・・力の制御ができない!火が弱すぎる・・・。全員生きてるじゃないのよ・・これが恐慌・・。加奈子ぉ!真理ぃ!よくも私をこんなに殴ったり蹴ったりしてくれたわね!・・こんなに人に殴られたのは初めてだわ!・・しかもよりによってあの女の技まで!!」

ゼエゼエと肩で息をしている紅音は、火球が着弾して支社長室中に吹き荒れる炎と風に乱れる髪の毛をそのままにして、3人を忌々し気に睨みつけて叫んだ。

「いい顔になったわね?・・散々ボコってやったのにまだ随分元気じゃない?もっとおかわりが欲しいの?そうよね、ジュニアのとき私にした借りは返しきれてないわよね?」

加奈子も慣れない魔眼の発動の為か、疲労の濃い顔で軽口を返すが、真理が加奈子の肩を後ろから掴み、まだ戦おうとしそうな加奈子を制止し、小声で呟いた。

「ダメよ・・・。加奈子・・あなたもう空っぽでしょ?紅音は身体こそボロボロだけど、まだまだオーラは十分あるわ。・・・紅音は以前の佐恵子なみにオーラがあるのよ?あんなのを幾つも連発できるはずよ。・・それにこんな騒がしくなっちゃうと、紅音の部下も集まってくる」

紅音を巻き上げた火柱と、支社長室の壁に着弾した火球の熱と炎で支社長室のすべての窓ガラスが割れ、エントランス側と外側が外部へと繋がり、10階にある支社長室には外部から入った風が吹き抜けている。

おまけに炎と熱でスプリンクラーが作動し、その噴射口から豪雨のような水が発射されだした。

ビルの遥か下の方で落下したガラスが派手に砕け散る音が微かに聞こえ、ジリリリリリリリリリリリリリリリリ!とけたたましく火災報知器の音が鳴り響きだす。

「ここまであの紅蓮を追い詰めたってのに・・!諦めるの?!」

小声だった真理に対して、水を滴らせながら加奈子は悔しそうに聞き返す。

「見て。この強風とスプリンクラーのせいで北王子さんの煙で完全に紅音を封じられないわ。それに対して、紅音の炎は風を味方にできるし、スプリンクラー程度の水じゃぜんぜん火が弱まってない。紅音に触れる前に蒸発してるわ・・。加奈子・・くやしいけど限界よ。あんな火の玉が直撃したら、私が回復を使うまでもなく死んじゃうわ・・。当初の予定どおりにいくわよ」

「・・・メガネ画家のおかげでここまで追い詰めることができたのに・・。でも、もともと真理を回収して速攻で逃げる作戦でしたしね。あのビッチに魔眼をお見舞いできたということで、悔しいけど・・今日のところは退散かな。真理の言う通り、垂れ目筋肉たちが集まってきたらシャレにならないし」

真理に諭されて納得した加奈子は頭を切り替えて、少し離れたところの公麿に顔だけ向けた。

「メガネ画家!逃げるわよ!この風のなか厳しいでしょうけど、できるだけ紅音に火を打たせないで!今の威力見たでしょ?!あいつはスタジオ野口みたいなでっかい建物でも一瞬で灰にかえられるのよ!煙でできるだけ妨害して援護して!」

加奈子は公麿に向かって叫ぶと、真理の腰に手を回し、荷物を運ぶようにして抱えると、公麿のところまで跳躍し、もう一方の腕で公麿も抱えようとする。

地上70m付近にある支社長室の窓はすべて熱と炎によって破られているため、室内は風が容赦なく吹き込み、もはや紅音の全身を煙で覆うことは困難になっていた。

「はぁはぁ!・・逃がすわけないでしょうが!!」

恐慌をまともにくらったうえ、加奈子と真理に連打を浴びた紅音は、さすがに大ダメージを受けたようで、身体を引きずるようにしながらも手負いとは思えない素早い動きで3人を逃がさないよう回り込み、距離を詰めて烈火のごとく怒鳴った。

スプリンクラーに水に打たれ、全身水浸しになっているはずの紅音だが、身体の表面のみに熱を展開し豪雨のように噴射される水を、肌に着水する前に全て蒸発させている。

「ご心配なくお二人にはもう打たせませんよ。・・僕の失態で、絶好の機会を潰してしまった挽回をさせてください。・・さあ!お二人は先に!真理さん、これを・・・。そこで落ち合いましょう。僕は残ってお二人が逃げる時間を稼ぎます」

加奈子が公麿を抱えようとしていた手を、公麿は笑顔で制すると、真理の手を取り、殴り書きした分厚い画用紙の切れ端を握らせた。

「北王子さん?!残るって?・でもこの風じゃ、あなたの煙だけであの紅音の火を無効化するのは難しいのでは・・?それに炎を封じても、手負いとはいえ紅音は素手でも・・」

「大丈夫ですよ!彼女の周りは無理でも自分の身ぐらいは煙で守れますから・・・あの女がいかに優れた炎術者でも僕にとどめはさせません。安心してください。僕がしんがりを務めます。安心して行ってください」

真理は北王子の言葉に納得できない様子で、まだ何か口を開こうとしたところで加奈子が声を上げた。

「真理・・来たわ・・!よりによってデブの紅露と垂れ目筋肉よ!・・一人ずつなら私だけで十分だけど・・紅蓮がいる今はこれ以上は無理!」

支社長室に続く廊下のはるか向こうではあるが、視力強化をした加奈子が二人の存在を見つけたのだ。

彼らもまた紅音がまき散らした炎によって道を遮られているため、幸いこちらにはすぐ来れないでいる。

「お別れはすんだかしら?・・これは使いたくなかったんだけど・・・本当に忌々しい奴等ね・・・このダメージじゃ・・使わざるをえない・・・ふぅ・・・・【転生炎】!・・くはぁ・・!」

紅音が使うのを躊躇った技能を発動させると、紅音の足元から鳥の形に酷似した炎が現れ、紅音の身体を焼き始めた。

「な・・?!」

「え?!」

「自分で自分を・・?!」

真理、加奈子、公麿が炎に包まれ苦しそうに悶えている紅音を見て絶句する。

「くぅうううう!ああ!熱い!熱いぃ!・・こんなにダメージを負わされるなんて・・!こんなことまで私にさせるなんて・・!許さないわよ!」

紅音の着ていた衣服は焼け落ち、肌がみるみる露わになる。

全裸になった紅音は、小柄ながらも豊満なパーフェクトボディを身を屈め両手で肩を抱くようにして隠し、自らを包む金色の炎の熱に耐えている。

ガソリンで負わされた顔の火傷、真理と加奈子の攻撃によって痣がついた肌、加奈子の殴打によりヒビの入った腕と肋骨付近をより強い炎が纏わり焙っている。

「ぐううううう!あっつううううい!あああああ!」

服と傷口は激しく燃えボロボロと焼け落ちていくが、紅音の悲鳴とは裏腹に、金色の炎が上がっている個所は焼けただれていく様子はない。

紅音は熱さに耐える為、肩を抱いている手に力が入り爪で傷つけてしまっているが、それさえも金色の炎が焼き切っていく。

「こ、これは・・?!」

受けたダメージが大きいほど術者に与える熱量が多く、炎の熱さを感じるがその金色の炎によるダメージはなく、傷を急速に回復させているのだ。

真理が紅音の【転生炎】なる技能の効果を理解し始めた時、加奈子が声を上げた。

「真理っ!行こう!いまなら画家も一緒に行けるよ!」

そう言うや否や加奈子は右手に真理、左手に公麿を、抱え床を蹴った。

しかし、紅音が目を見開き加奈子に向かって右手を薙ぎ怒鳴った。

「させるか!」

転生炎によって金色の炎に包まれた紅音が、加奈子の跳躍した方向を予測し、右手から深紅の火柱を水平発射したのだ。

「うげえ!」

まさか技能を使っている途中にもう一つ技能を使ってくるとは思ってなかった加奈子は、女性らしからぬ悲鳴を上げ、イナバウアーのように身体を逸らしてその深紅の火柱を回避し、手を使わないブリッヂのような態勢で、尻もちならぬ頭もちをついた。

「きゃああああ!加奈子!気を付けてよ!いま死地が一直線に見えたわ・・!さっきより炎の威力が断然上がってる!」

「わわわわわ!稲垣さん!僕のことはいいですから!」

加奈子に抱えられた二人が抗議を上げるが、幸い二人とも火炎に触れることなく無事だ。

後日、宮川コーポレーション関西支社から発射された赤い一閃を、たまたま撮影に成功した者により、動画投稿サイトにアップしたことでニュースになる。

しかし、各民放や大手新聞、地方新聞でも全く報道されることもなかったので、その映像は加工されたものだと判断され噂は収束していくことになるのだが、実際は紅音が放ったものだ。

「そう急がないでよ・・!逃がさないって言ってるでしょ?!・・・もう少しだから・・はぁはぁ・・ぐううう!」

手から火柱を放ったままのポーズの紅音の顔は、ガソリンで負った火傷が消えさっていた。

「ま、真理・・!あいつ回復してるわ!」

「そのようね・!自力回復もできるなんて・・本当にやっかい・・それにいまの火柱の威力と色・・・恐慌の効果も解除しつつあるみたいよ・・治せるのは物理ダメージだけじゃないのね・・」

せっかく与えたダメージを転生炎がその金色の炎で浄化しているのだ。

物理的な傷だけでなく、呪詛さえも焼き落とし浄化しているとう真理の見解は当たっていた。

「さあ、僕が防ぎますから!お二人は今のうちに!」

「真理!・・ここは!・・丸岳や紅露まできたらお手上げだわ・・私たちが早く行かないと、メガネ画家も逃げる時間が無くなる!この状況であいつらに捕まったら・・」

死んだほうがましって思えるような目にあうわ!と言いかけて加奈子は口をつぐんだ。

一度拾った命はただではない。死んだほうがまし、などという軽率な発言をしてしまいそうになって加奈子は口を手で押さえた。

「そのとおりです稲垣さん!神田川さん・・約束します。僕もきっと逃げ切ってみせますから!」

公麿のセリフに強い決意を感じ取った真理は、両手を合わせて公麿の背中に声を掛けた。

「必ず!・・・帰ってきてください北王子さん!・・・どんなに傷ついてもボクが癒してあげますから・・そしてあなたとの素敵な未来を私に見せてくださいっだからっ絶対帰ってくると約束してください!」


「神田川さんのその言葉・・・ほかのどんな言葉より励みになりますよ・・!さあ、行ってください!あの紅蓮から逃げおおせた初めての人間になってみせます!」

真理と加奈子を紅蓮から庇うように立つ公麿は顔だけ振り返り、笑顔で言った。

「真理、久々にボクっ子が出たわね。・・ねえ、メガネ画家、真理が自分のことをボクって言う時は、真理が本当に素の時だけよ?だからいまの真理のセリフは本心ってこと。泣かしちゃだめよ?さぁ!・・・真理いいわね?・・・メガネ画家・・死なないで・・帰ってこないと真理が泣くわ・・・帰ってこなかったら私があなたのことぶん殴るからね!必ず帰ってきて!」

真理と公麿に加奈子はそう言い、真理を抱えたまま床を蹴り、割れた窓の向こうに向かって跳ねる。

「ちっ・・!逃がすか!」

いまだ転生炎による回復中のようで、その場から動けないでいる紅音が加奈子の背中目掛け両手から火球を飛ばす。

「ダメですよ!僕がいる限りはお二人に指一本触れさせません!」

自身の身体を煙で覆いつくした公麿が二つの火球の前に飛び出し、身を挺して阻んだ。

その二つの火球は、先ほど紅音が苦し紛れに放った火球とは比べ物にならないほど大きく、そして深い紅色をしている。

直径50cmはある二つの炎の塊がスプリンクラーから噴射される水を蒸発させながらうなりをあげ公麿に直撃した。

ぼ、ぼ・・っん!!

公麿が発生させた大量の煙によって火力は不完全燃焼となりずいぶん弱まったが、火球が飛来する物理的な質量は食い止めきれず、公麿は派手に吹き飛ばされ回転しながら後方に転がり床に膝をつくが、転がりながらも即座に立ち上がり今度は反対の方向へ駆け出す。

「ちぃ!!いまいましい!」

舌打ちと同時に紅音を包んでいた金色の炎がひと際大きな光を放つと、徐々に光を失っていった。

転生炎による治療が完了したのだ、対象は自分自身のみで、膨大なオーラを消費するが、一日に一回という限定条件で傷や呪詛などを完全に治す技能である。

「く・・ちょこまかと・・!」

完全回復し、転生炎による移動不可の条件の解除はした紅音が走る公麿を逃がさないように追う。

全裸になった紅音は、駆ける公麿に指先から火球を連射するが、予想してたよりメガネの男の身のこなしはよく、背中を少しかすめただけで直撃はしない。

転生炎で全裸になってしまった紅音は片手で胸を隠しているため、流石にすこし動きが鈍いせいでもある。

「・・・なんとかうまく行きました・・さあ、ここからは僕が約束を守る番です・・。それにしても緋村支社長も小柄とはいえいい身体されてますね。いや・・むしろそういう趣味の方もいらっしゃいますし・・・とにかく、いい被写体です。あ、僕はなんでもいける口なので、緋村支社長は十分ストライクゾーンですよ?」

公麿はふざけたようなセリフ言いながら、紅音と距離をとり、障害物に身を隠しつつ、この高さから飛び降りてもなるべくダメージの少なそうな場所に見当をつけており、飛び降りれるポイントに近づきつつあった。

紅音の指先から放たれる無数の小さな火球を躱しながら支社長室を逃げ回り、紅音が使っていた高級な木製の机を倒して、その天板を背にして隠れた。

飛び降りても着地しやすく、そしてすぐ逃走できそうなポイントに飛び降りれそうな窓まであと一歩のところまで来た。

「ストライクゾーンですって?・・失敬な!そもそもあなたのような男が見てもいいような身体じゃないのよ!・・メガネ・・殺す前に名前を聞いておきましょうか?」

できればその机を焼きたくない紅音は、テーブルの裏に身を屈めている公麿に対して、紅音が今更さらながら名前を聞く。

すると、物陰に隠れていたというのに、わざわざ律儀に出てきた公麿は眼鏡をくいっと上げるとポーズをとって、芝居がかったセリフを口にした。

「菊一探偵事務所の竹中半兵衛と呼ばれた男、北王子公麿と申します。菊一探偵事務所の事件解決率が驚異的なのは私の頭脳と能力のおかげです!しかし私は菊一探偵事務所では戦闘は守備範囲外で1番弱いのです。なので緋村社長、あなたは物凄く強いようですが、我が事務所の所長や副所長と戦えば5分で殺されることでしょう。」

そう言いながらも、胸と股間は隠すように立っている全裸の紅音を、記憶していくようにメガネがきらりと光った。

「のこのこ出てきたわね。名乗りとしても遺言としても意味不明だけど・・。冥途の土産に私の身体をその目に焼き付けて、全国の竹中半兵衛ゆかりのものに詫びながら逝きなさい。そして私が町探偵ごときに遅れをとるわけないでしょ!・・死ね!くそメガネ!」

お別れの言葉を言った紅音が、右手をあげ、回避できないよう広範囲に炎を展開させる技能を発動しだし、頭上に高速でオーラを集中しだす。

その瞬間、公麿は左手でメガネをくいっと上げながら右手で紅音を制すようなポーズをとって叫んだ。

「支社長お待ちを!」

「・・なに?」

公麿の制止のセリフに紅音は命乞いかと思い動きを止める。

紅音の技能発動を止めたことに内心ほっとした公麿は、それが表情にでないように芝居がかったセリフを続けた。

「・・いいんですか?僕がこの場から立ち去るのを邪魔すれば、あなたを24時間毎日、僕の能力で描き続け日々何をしているか全国にネットを使いばらまきますよ。嫌なら僕が立ち去るのを黙って見ていてください」

「・・・??・・はぁ?・・命乞いじゃないわけ?・・なによそれ?なんの能力??・・念写みたいなものも使えるって言うの?・・でも、じゃあ、あなたをここで殺してしまったらそれができないようになるから問題なくない?」

紅音はきょとんとした表情になり少しだけ考えてから公麿に言葉を返した。

「さすが聡明と言われる緋村支社長・・バレましたか。しかし十分です!せっかくの大技が台無しになったようですし!私も紳士のはしくれですので、今日はまだ温存しておいた武器を使わずにこの場を去りたく武士の情けも含めた提案だったのですけどね。しかし、逃げおおせたあかつきには、人の名前を聞いておきながら、僕のことをくそメガネと呼んだ報いをして差し上げます!では!」

公麿の言葉に耳を傾けてしまったせいで、紅音が収束させていたオーラの半分以上が霧散してしまっている。

そう言うと公麿は全力で地面を蹴り、あらかじめ見当をつけておいた着地ポイント目掛けその身を暗闇に投げ出した。

そして後ろ手で、公磨が遊び半分で作った暗記を1つ投げるとその暗器は紅の無防備の足と足の間を射貫く。

「しまった!」

大技の途中でオーラを練りきる前に中断させられた紅音は、予定していた広範囲に炎をまき散らす技能を発射することができず、右手を挙げたまま、オーラを収束させるか霧散させて追うかを迷っている隙に公麿は割れた窓に向かいダイブしたのだ。

窓から飛び降りた公麿を見た紅音は、大技を諦めて練っていたオーラを霧散させると、窓際まで駆け寄り両手10本のすべての指に小さな火球を生み出して、公麿が落下していくと思われる方向にすべて発射する。

10本の紅い閃光が暗闇を切裂き、そのすべてが空しく地面に着弾する。

紅音は暗視と視力強化を行うが、すでに公麿の姿は確認できない。


紅音は発射させた火球に着弾の手応えが感じられないことに、ぎりっと音をさせて歯ぎしりすると、眼下の暗闇のなかに着弾した火球が発生させた灯りを見下ろしたまま、濡れるにまかせて暫く立ち尽くしていた。

そして屈辱にも自分の股の間を射抜いた公磨の置き土産は、時代劇でよく見るようなクナイというような武器で、そのクナイは紅音の背に刺さっているが、クナイに繋がれた数珠のような物体が、絶妙に紅音の股間に絡みつき振動をしていた。

ブルルルル・・・・

所謂、クナイにローターを数珠のように繋いだだけのものなのだが、公磨のオーラが付与されていて、公磨の手から離れると自動的に振動するようになっていて、紅音の足の間を抜いたクナイがローターを数珠状に引っ張り、その先は公磨が立ち去る前に窓際の壁にもう1本のクナイを突き刺していたので、紅音はクナイとクナイに繋がれた数個のローターの上に跨っている格好に一瞬でされてしまい、しかもうまい具合に陰核を弾きまくる高さに当たっていた。

「くっ・・・あぁっ!!あの・・・くそメガネ!あぁぁっっ!!こんな物を投げ・・・・どこまでこの私をっ!!
くっ・・・これどうなっているのよっ!外れない・・・いやっ!あっあぁぁぁ・・・だめっ!おっおぼえておきなさいっ!この変態メガネっ!あんっ!!」


激しい戦闘で真理や加奈子を相手にしていた事で、高揚していた紅音は、メガネの奇妙な男の残していった彼手製の暗器と呼ぶにはあまりにもふざけた武器?により、肉体的なダメージは無かったが、精神的なダメージ、屈辱、そして瞬く間の絶頂を味合わされると言う仕打ちを受け、紅音の殺すリストの1番上に北王子公磨の名は刻まれることとなった。

(これだけコケにしておけば、緋村支社長も、神田川さんを(ついでに稲垣さんもだけど)しつこく付け狙わずに、僕への復讐にご執心になるでしょう。僕なら哲司君や宏君に相談して、あの2人と一緒に戦えば死ぬことは無いだろうし、とにかく彼女の怒りの矛先を僕に向けるのには成功しただけでも僕としては上出来だ・・・。まだ隠し玉もあるし、次に戦う事があれば命がけで緋村社長を止めないと・・・どんな手を使ってでもね・・・男だからこそ思いつく技もあることを緋村社長に知ってもらえるでしょうね。さすがに神田川さん(稲垣さんもだけど)の前では使えない技もあるし・・・)

真正面から戦えば、いくら哲司に鍛えられ、煙の能力に目覚めた公磨でも紅音の前では、命は無いと思われる。

しかし、相性と元々自分が最強と自負している紅音と自分を最初から弱者と自覚している公磨とでは、準備やその心構えに大きな差が出る。

能力者同士の戦いにおいて、その準備や心構えの差で死ぬものと生き残るものが入れ替わることなど多々あるのだが、それは今まで菊一探偵事務所で常に現場を見てきた公磨に一日の長がありそうであった。




【第9章 歪と失脚からの脱出 10話 北王子公磨の力と秘策 脱出と絶頂 終わり】11話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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