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第9章 歪と失脚からの脱出 19話  点穴に魔眼の脅威

第9章 歪と失脚からの脱出 19話  点穴に魔眼の脅威


弥佳子の搭乗を待つヘリコプターが、だだっ広いコンクリートの広場の真ん中で海風を切裂き、ひゅんひゅんとローターブレードを響かせている。

二人は吹き付ける海風を受け、髪が靡くのをそのままに、倉庫とヘリの中ほどで立ち止まった。

「奈津紀さん。張慈円は濁していましたが、おそらくこの取引は何者かに嗅ぎつけられています。でなければ、我ら六刃仙を3名も所望しないでしょうからね。・・きな臭いですが、奈津紀さん達なら難なく熟してくれると確信してますよ」


「はい、お任せください。どのような曲者が現れても撃退いたします。・・・・ですが御屋形様。・・御屋形様こそ、あまり予定を詰めすぎずに・・」

奈津紀は弥佳子に御意を示すが、こんな僻地まで足を運んできた弥佳子の体調を心配し、つい出過ぎたことを言ってしまいそうになって、奈津紀らしくもなく言いよどんだ。

奈津紀をよく知る者以外がこの様子を見ても、奈津紀の様子はいつも通りに見えるだろう。

いまは弥佳子と奈津紀だけであり、周囲には誰もいない。

沙織と香織は建物の中で、劉幸喜と打ち合わせをしている。

劉幸喜ら香港の連中は見送るのは礼儀だと言っていたのだが、弥佳子が見送りなど不要と判断したため、見送りは奈津紀のみである。

ヘリの周囲では、高嶺の門弟が慌ただしく作業しており、弥佳子がすぐに乗り込めるようにと準備を整えているのが遠目に見えた。

奈津紀は、言い淀んだのを弥佳子に悟られまいとし、その門弟たちのほうへ視線を移し、普段のポーカーフェイスを装っているが、二人の付き合いは長い。

「・・・私の身体を心配してくれているのですか?たしかに、会社の方の業務も忙しいですが、そちらのほうは退屈ですからね。問題ありませんよ」

「御屋形様にとっては容易いことでしょうが、仕事量に関しては、そのようなことは無いと存じております」

顔を上げた奈津紀は、思ったことを素直に答えただけだが、弥佳子には微妙な表情の変化を見抜かれてしまったようだ。

弥佳子はふっと笑うと

「まったく・・さすが奈津紀さんね。なんとか形になったと思ったんだけど・・・今朝の【無明残月】のことを言っているのでしょう?」

「申し訳ありません」

弥佳子の問いかけに奈津紀は目を閉じ、僅かに眉間に皺を寄せたまま軽く頭をさげそう言った。

今朝方、弥佳子たちの力を試してきた樋口の片眼鏡とファスナーを斬り割いた、弥佳子の剣筋のことを奈津紀は言っているのだ。

空間を越え、離れたところに斬撃を打ち込む絶技で、奈津紀もその技能を習得している。

そのため、奈津紀は弥佳子の剣筋を見て、いまだ本調子ではないことがわかってしまったのだ。

「・・・おそれながら・・、もともと点穴は大陸から伝わった技と聞き及んでおります。・・栗田も何らかの機会を得て、点穴を習得したものだと・・」

ポーカーフェイスを装う奈津紀だが、弥佳子には奈津紀が思い切って口を開いたことが、よくわかった。

だから、弥佳子は奈津紀が続きを言うのを無言で待つ。

「・・・張慈円さまが以前点穴の話をしていることがあり、張慈円さまも点穴をマスターしようと訓練したことがあるそうです・・。結果的に点穴をマスターすることはできたが、オーラの扱いが難しすぎて、実戦には使えない代物だと言っておりました。・・・それと同時に、点穴を突かれた者の症状を解除する方法も同時に習得した・・とも言っておりました」

奈津紀はそこまで言うと、弥佳子の表情を読み取ろうと顔を上げた。

「私が点穴を突かれたことを張慈円に言ったのですか?」

弥佳子は静かに、しかし感情を抑えた声色で奈津紀に問い返す。

一瞬で温度が下がったかのような間が、奈津紀の声を高くさせた。

「いえ!決して」

奈津紀が慌てた口調で事実を伝えると、弥佳子は安心させるような表情に和らぐ。

「・・・・わかりました。奈津紀さんが何を考えているのかいくつか推測できますが、それは却下です」

「・・・ですが!・・・いえ・・承知いたしました。出過ぎたことお許しください」

もしかすれば、張慈円が弥佳子の状態を治せるかもしれないと思った奈津紀であったが、髙嶺グループおよび、髙嶺六刃仙筆頭である17代目当主髙嶺弥佳子が、取り得ない行動であるということを、心配のあまり一時失念してしまったのだ。

自らの発言に恥じ入り、僅かに顔を伏せる奈津紀に弥佳子はつづけた。

「いいえ、わたしのほうこそ、奈津紀さんがそんなこと言うはずないというのに・・。私を心配してくれただけですよね。・・それに奈津紀さん、張慈円の言葉を鵜呑みにしてはいけませんよ?点穴のことは点穴を受けた私自身がもっとも研究したと自負しています。・・解除方法も含めて。・・結局のところ、私では修得できそうにありません。もちろん解除方法も・・。・・それとも奈津紀さんは張慈円が点穴を使うところを見たのですか?」

「いえ、実際に見たわけでは・・・」

弥佳子にそう聞かれ、奈津紀は更に自らの不肖を恥じるような顔つきになる。

とはいっても、その表情の変化は弥佳子ぐらいにしかわからない程度ではある。

その様子を見て弥佳子は、奈津紀を安心させるような口調ではあるが、窘めながらも更に続けた。

「そうでしょうね。奈津紀さんらしくありませんよ。・・あれを使えるものがそう何人もいてはたまりません。・・修得するもなにも・・・私も文献を読みあさり、試行錯誤して修得や解除方法を試しましたが、点穴の習得も、そして点穴を消失、解除するのは無理でした。結局、自身内部でゼロにされたオーラを、長い年月かけて僅かなところから練り上げ、徐々に点穴で突かれた穴を塞ぎ紡ぐ・・そういった原始的で地道な方法しかとれなかったのです。・・奈津紀さんには見破られてしまいましたが、完全に塞ぐにはあと少しかかりますがね」

「御屋形様・・1年以上も、わたしの失態のせいで・・」

「それはもういいのですよ。私自身も油断がありました。それより・・もし、張慈円があの技を使えるのであれば、張慈円の危険度は跳ね上がります」

「不確かな情報で煩わせてしまい申し訳ありません」

弥佳子のこととなると、普段冷静な奈津紀も感情的な部分が出てしまう。

弥佳子は半分だけ血のつながった妹の気持ちを察し、それ以上咎めず続けた。

「私のことは私が何とかします。あと少しで完治させられそうですからね・・。それに、点穴を使う栗田もそうですが、・・宮川のような危険因子を我々が今日まで排除しきれないどころか、私が臥せている間にずいぶんと台頭させてしまっているのは、奴らが即死攻撃技能を有しているからです。我ら六刃仙、それに次ぐ十鬼集や高弟たちであれば、大抵の者はあの呪われた目に対し、抵抗することは可能でしょう・・。しかし、まだ未熟な弟子たちはそうはいきません。・・・抵抗力の弱い若い剣士が、鍛えた剣技を振るう機会も与えられず、運よく生れついたというだけで、魔眼を有する者どもに、むざむざと・・・いったい何人・・。どれほど・・・無念に散っていったか・・・!」

弥佳子は声量こそ大きくはないが、柳眉を吊り上げ、その美しい顔を怒りに歪めており、柄に置いた手には無意識に力が入っていた。

脈々と受け継いできた剣技、独特のオーラ技能を継承してきた髙嶺といえども、自らに対抗しうる勢力の力は一定の脅威がある。

佐恵子や、佐恵子の父の昭仁、叔父の誠ほどの能力でないにしても、宮川家一族には魔眼覚醒者は大勢いるのだ。

「点穴使いの栗田は現在宮川のところに身を潜めている・・そう言ってましたよね。奈津紀さん?」

「はい。宮川佐恵子を捕らえ連れ去ろうとしたとき、あの栗田が現れました。宮川と組んでいなければ、あのタイミングで私たちの前に現れるのは不自然だと愚考します」

「いいでしょう・・。栗田を探す手間が省けました。栗田が宮川と組んでいるのであれば、危険ですが、これ以上にない好都合とも言えます。まとめて叩き潰すとしましょう」

弥佳子はそう言い、柄を握った手に力を込め決意を漲らせてはいるが、点穴の脅威と恥辱を、身をもって味わっているうえ、以前皇居で仕事をした際に、魔眼の威力も目の当たりにしているため、弥佳子の手に無意識に力が入ってしまったのは致し方ないことだと言える。

3年ほど前、皇居近くの舞台で請け負った仕事の際、標的となる人物と同席していた宮川家の連中と予期せず戦闘となったのだ。

弥佳子は、当然宮川のことも、魔眼のことも知識としては知っていたし、その会食に宮川家の人間が複数出席していることも事前情報で知っていた。

しかし弥佳子は宮川を、魔眼を見くびっていた。

魔眼の様々な噂話は聞いていたが、どれも信ぴょう性に欠け、裏の取れない情報ばかりであったため、魔眼の力については誇張が大いに含まれていると判断していたのだ。

標的を始末するときに、もしも宮川が邪魔をするのなら、駆逐してしまおうと安易に考えていた。

皇居は広く、標的も何人もいたため、髙嶺側も若い剣士らも多数動員し、強襲したのである。

結果的にすべての標的は見事始末したのだが、標的の盟友であった宮川は、標的を守ろうと髙嶺に対して応戦してきたのだ。

宮川が応戦してくるかもしれないことは、弥佳子の予想の範疇ではあった。

しかし、弥佳子の誤算は単なる老人達だと思われた連中の能力が、弥佳子の想像を大きく超えていたことだった。

老人達一人一人の力は、弥佳子や六刃仙、高弟たちにすら全く及ばないであろう。

しかし、まだ能力に目覚めて間もない若い剣士、若い弟子たちにとっては大変な化け物たちであった。

十数人はいる着飾った男女が、一斉に目を光らせると、弥佳子が手塩にかけて育てた若い剣士はバタバタと倒れ、棒きれで野花でも薙ぐように簡単に命を奪われていったのだ。

異様な光景だった。

キン!という高い音が響いたと同時に、奴らの目が黒く不気味に瞬く。

すると一人、また一人と、黒い閃光が迸る度に若い弟子は倒れていくのだ。

剣を構え、斬りかかろうとするも、薄ら笑いすら浮かべた老人達が、目をどす黒く光らせるだけで、弟子たちの命は散っていった。

自身が死ぬことも気づかぬまま、隣の仲間がなぜ死んでいくのかわからないまま倒れていったのだ。

老人たちに混ざり、青いドレスを着た宮川の娘もいた。

明らかに周りの老人達とは別格の力で、老人達の魔眼を耐えて肉薄した高弟たちを阻み、応戦していた。

着飾った護衛の女二人に守られながらも、周囲に指示を飛ばして機敏にたちまわり、髙嶺の高弟たちを体術で打ちのめしては、その呪われた目には光を纏い猛威を振るっていた。

作戦の指揮を執っていた弥佳子は、激昂したが若い弟子たちをこれ以上犬死させないため、奴等の始末より、苦渋の決断で撤退を優先させたのだ。

標的を全て抹殺したからという理由が大きいが、弥佳子はこれ以上弟子を死なせたくなかった。

弥佳子が斬り込めば、宮川の娘を含め老人達を全て屠れたかもしれない。

しかし、あちこちでの乱戦であったため、髙嶺の被害はもっと甚大になったであろう。

弥佳子は断腸の思いで、撤退を決断したのであった。

その決断の結果、あの時の弟子たちの中の生き残りの一人が南川沙織である。

当時はまだまだ未熟であったが、選別の儀を経て見事生き残った沙織は、めきめきと頭角を現し六刃仙の一人に数えられるほど成長したのだ。

沙織ほどの能力者は高嶺といえども、そうそう輩出できない。

あのときの弟子たちの被害を最小限に抑えるため、苦渋の撤退を選んだ結果のたまものだと弥佳子は納得してはいる。

あとは、深追いしてきた宮川の護衛の一人を、当時六刃仙に抜擢されたばかりの、井川栄一が見事撃退し、追撃を断ったことが、僅かに弥佳子の溜飲を下げさせた。

あのまま追撃をうければ、若い剣士たちの被害は更に増えたのは明白なので、危険を顧みず殿を申し出た栄一の働きは、多くの若い弟子の命を救ったのだった。

魔眼一族宮川との一件を思い出した弥佳子は、美しい顔を怒りとも哀しみともとれる表情に一瞬だけ染めたが、かぶりを2度振って、肺に溜まった空気を吐き出した。

「栗田はもちろんのこと、宮川も不倶戴天の敵・・。奈津紀さんの言う通り、まずは私自身を万全にすることも急務の一つですね」

弥佳子のセリフに奈津紀には珍しい笑顔で、「恐れ入ります」と返したのみであった。

しばらく二人の間に沈黙があったが、弥佳子が不意に声色を変え「そうそう」、思い出したかのように話題を変えた。

「今回の商談、最初はどんな戯言を聞かされるのかと心配しましたが、さすが奈津紀さんが持ってきた話ですね。ビジネスとしてはよい稼ぎとなりそうで安心しました。わざわざ来たかいがありましたよ。宮コーと宮川重工業の機密となれば、かなりの価値がありますし、まさか張慈円があのような金額を提示するとは思いませんでしたからね。それほどの取引という事でもありますが・・。・・・奈津紀さん、色々思うところはあるでしょうが、あの樋口という男は重要です。専属で護衛を付けておきなさい。あの男のオーラ識別と網膜認証がないと、その機密情報が詰まったディスクを取り出せず、商談も御破算ですからね」

「はい、もちろん重要性は承知しております。香織と沙織に遠近二重で護衛をしてもらうつもりです」

普段の口調と表情にもどった弥佳子に、内心安堵した奈津紀は、相変わらず真面目に返答をする。

「そうですね・・、沙織に香織さんもいるのなら安心ですね。沙織も短気を起こすほど今はもう子供ではないでしょうし、大丈夫でしょう」

弥佳子はそう言うとようやくヘリの方に向かって歩を進めだした。

奈津紀もそれに続く。

すると前を歩く弥佳子が、奈津紀の方に振り向いて少しからかうような口調で言った。

「それにしても・・・・奈津紀さんは張慈円に気に入られているようですね」

「そうでしょうか・・?」

「そうですよ」

「・・そう、なのでしょうか・・。クライアントから嫌われるよりはいいのですが、張慈円さまのことを、ここ3か月ほどずっと護衛も兼ねて、商談を重ねてきましたので、香織や沙織よりは話をする機会は多いからでしょうか。・・・たしかに最近よく意見を求められたりはしますが・・、張慈円さまがわたしに無遠慮な視線を送りつけてくるのには、いい加減慣れてきましたが、まさか御屋形様にまであのような真似をするとは・・」

相変わらず真面目に答える奈津紀だが、先ほどの張慈円の態度に憤慨しだした様子にに弥佳子は不意におかしくなり、口元を緩めてしまった。

「ふふっ、まあ、私達のような女が目を引くのは仕方ないでしょう。興味を持たない殿方がおかしいですよ。そんな殿方がいるとすれば、おそらく不能か男色好みの者でしょう」

自身らの美貌を正確に把握しているとはいえ、自信たっぷりなセリフを言い終えた弥佳子はカラカラと愉快そうに笑った。

しかし、ヘリコプターの側までくると、直立不動の態勢で待っていた高弟の一人が、極度の緊張で固くなり、真面目くさった口調で話し掛けてきたため、弥佳子は一気に現実に戻される。

「お待ちしておりました!本社での予定がおしております!どうかお急ぎを!」

弟子のそのセリフに弥佳子は笑うのを中断させられ

「やれやれ・・間の悪いこと・・。そんな憂鬱なことを大声で言わなくても・・。もう少し笑わせておいてくれないものでしょうか・・・。さておき、久方ぶりの遠出もここまでね」

と小声の独り言を言い同時にため息をつくと、奈津紀に向き直った。

「では奈津紀さん、朗報を待ってますよ」

「はい、お任せください」

奈津紀はそう言ってヘリに乗り込む弥佳子の背中に向かって頭を下げたのだった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 19話  点穴に魔眼の脅威終わり】20話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 20話 銀獣を女に変える着流し男

第9章 歪と失脚からの脱出 20話  銀獣を女に変える着流し男


濡れて肌に張り付くボディーアーマーを脱ぎさり、黑のタンクトップに白い七分丈のオフショルダーチュニック、下は青のデニムパンツに着替えた稲垣加奈子は、深夜の繁華街を、とくにあてもなく歩いていた。

胸元は大きく開いたデザインで、チュニックの裾はヒップを半分ほど隠しているが、腰は絞られており、加奈子の長い脚、豊満な胸、括れた腰のため強調されるヒップがよくわかる。

加奈子は真理の指示通り、二人の私物を取りに行き公麿の隠れ家に持ってきたのだが、真理が公麿と濃厚な時間をすごしているようなので、荷物をそっと玄関先にある収納庫に押し込むと、加奈子自身も狭い収納庫に入って着替え、仕方なくあてもなく外へ繰り出したのである。

佐恵子には安全な場所である公麿のアジトに移動してもらおうと思ったのだが、そのアジトは真理と公麿の空間になっているし、すでに佐恵子は部下である岩堀香澄のマンションへと何故か移動していた。

そして佐恵子も今日はこれ以上移動する元気がなさそうだったので、加奈子は香澄に佐恵子のことをお願いし、そのまま佐恵子には香澄の部屋に泊まってもらうことにしたのだ。

(・・・紅露や松前は、佐恵子さんの自宅マンションに来てたし、警備部門の八尾部長が対応していた・・。聴覚強化で聞いていたけど、八尾さんも佐恵子の行先は知らないみたいだし、紅露や松前も紅音の命令で来てたみたいだけど、佐恵子さんの手がかりもなく今日は引き上げたようだしね。岩堀さんのマンションには今日、明日とか、すぐに手は伸びないだろうし、佐恵子さんもなんだかすごく疲れてたように見えるから心配だわ・・。大丈夫かしら)

加奈子も状況が状況だけに、そわそわしてしまうが、北王子の部屋に帰って仮眠をとることもできず、かといって岩堀香澄の部屋に佐恵子ともどもお邪魔するにはどうも気が引けたのだ。

結果的に、加奈子はどうしたものかと街を当てもなく練り歩いているという状況である。

何かあればすぐに佐恵子のところへ駆けつけるつもりで、岩堀香澄のマンション近くの繁華街を歩き、お腹に何か入れたら、適当にビジネスホテルにでも泊まろうかと思っていた。

深夜を回ったこんな時間帯に、水商売風でもない恰好をした長身で豊満な美女の登場に、人通りの少なくなった歩道では、加奈子が歩くと酔っぱらったサラリーマンや、終電を逃しタクシーを探す男たちが、加奈子の通り過ぎた後、振り返り目で追っているのだが、加奈子は思案中で、それを気にとめず、なにかめぼしい店は無いかとキョロキョロ探しながら歩いている。

「ったく・・わたしも、くたくただってのに・・、真理め~。一つしかないベッドをあの画家と占領しちゃって・・。・・あの恰好で出迎えてあげろとは言ったけど、そのままはじめろなんて言ってないでしょうが・・。ちょっと考えればわかるじゃん?わたしがすぐ帰ってくるってさ・・」

加奈子は自分のスマホが使えなくなってしまったことを、佐恵子に伝えた時に、佐恵子の予備のスマホを手渡されていた。

なにか異変があればすぐに佐恵子からは連絡があるはずなので、そのあたりの心配は和らいではいる。

しかし、今まさに二人で楽しんでいるであろう真理と公麿のことを考えると、モヤモヤとした気持ちが沸きあがり、一人で歩きながらブツブツと口を尖らせた。

深夜を回っているため、普通の飲食店は軒並み閉店している。

「お腹もペコペコだし・・どこでもいいんだけど・・」

加奈子がそう思ったとき、雑居ビルの1Fにコングと書かれたバーらしき店舗の看板が、営業中の派手なネオンを灯していたので、迷うことなく扉を開けた。

カランカランとレトロなドアベル音が響くと、カウンターの中からスキンヘッドの大男が、いかつい顔ながらも愛想のいい笑顔と声で

「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

と声を掛けてきたので、加奈子は

「ええ、一人だけど時間まだ大丈夫?」

と返すと、スキンヘッドのマスターは

「もちろんです。どうぞ」

と笑顔で目の前のカウンターの席を指し、グラスと御絞を用意しだした。

このコングというバーの店内は意外にも広く、奥には個室もあるようで、この時間だというのにかなりの客が入り、流行っているようであった。

店の壁にはお酒の他にも、本日の軽食メニューと題されたボードに、肉料理が列挙されている。

加奈子はお昼のランチ時間から何も食べていないすきっ腹を軽く撫でると、ちょうどいいと思いつつ、マスターに勧められるままカウンターの一番端の席に腰を下ろしたのだった。

「う~ん・・・、これと・・ビールでも頂いちゃおうかな」

加奈子は壁に掛けられたボードのポークチョップのメニューを指さし、ついでにビールを中ジョッキで注文をする。

マスターはテカテカの頭を笑顔で下げ、

「承知しました。お待ちください」

と丁寧に言うと、厨房で料理をし始めた。

さっそく冷えたビールが料理に先んじてカウンターに置かれると、加奈子は喉の渇きから、ぐいっと喉を反らせてジョッキの半分ほどを飲み干した。

「っぷはぁ~!!っくぅ~!!や~っぱ一日の終わりにはこれがなきゃね!」

と、加奈子的にはかなり控えめな声量のつもりであったが、周囲にとっては、けっこうな音量であったらしく、後ろのボックス席の客は手を止め加奈子の背中から様子を見ているし、手を止めず料理をしているマスターも加奈子の気持ちのいい飲みっぷりに対して、笑顔で話しかけてきた。

「おねえさん、いい飲みっぷりですね。料理ができるまでもう少しかかりますので、もう一杯いかがです?」

マスターが低くダンディな声で、突然話しかけてきたことに、「ん?」と思った加奈子ではあったが、今日は支社であの紅蓮相手に大立ち回りもあったことから、空腹もさることながら喉も乾ききっていた。

「じゃあ、もう一杯頂こうかな」

と、スキンヘッドでダンディボイスのマスターにそう言って、ジョッキを一気に空けてしまった。

ポークチョップのオーブン焼ステーキと、ルートビートとサーモンのマリネサラダを食べたところで、加奈子は一息ついた。

「はぁ、生き返る・・。空腹だったからってわけじゃないわね。美味しかったわ。マスター」

加奈子はマスターにそう言うと、ダンディボイスのマスターが、すっとカウンターにグラスを置いてきたのだ。

「ありがとうございます。どうぞ」

「えっ?なにこれ?サービス?」

「いえいえ、あちらのお客様からです」

加奈子が間の抜けた声をあげると、加奈子と同じカウンターの逆の端に座っている男が、軽く手をあげて頷いている。

「ははっ、なによこれ」

映画やドラマなどではよく見るシーンだが、加奈子は人生初の体験に率直な感想を口に出して笑ってしまった。

「カルヴァドスは嫌いなんか?」

キザな男が、カッコをつけてそんなワンシーンを演出したのかとおもったのだが、その男のバーに似合わない場違いな格好に驚いた加奈子は、男のセリフにうまく返せず、笑顔のまま凝視してしまった。

何故なら男は、紺色の着流しに濃紺の帯、そして黒い下駄という格好であったからだ。

「ううん。嫌いじゃないよ。でもなんで私に?」

男の格好にすこし愉快な気持ちになった加奈子は、カルヴァドスの入ったグラスを手で持ち、着流し男に聞き返した。

「あんたの飲みっぷりと、食いっぷり、それとその類まれな美貌と、完璧な形のおっぱいに乾杯したくって・・な」

着流し男は恥ずかしげもなく、しゃあしゃあと加奈子にそう言うと、自らのグラスを手に持ち、加奈子の隣の席へと移動してきた。

「ふふっ、なによ。変わった人ねえ」

風体や発言は、加奈子の言葉通り、かなり変わっているが、男の容姿は加奈子の厳しい男性評価眼から見ても、相当なハイスペックだ。

年のころは30半ばだろうか、そうだとすれば、見た目より若く見えし、相当身体も鍛えているようだ。

それでいて、年齢以上に経験や知識を蓄えていることを醸し出している自信に満ちた表情。

容姿は玉木宏を悪者にしたような見た目だ。

「なになに?なんで隣に隣に来るのよ」

そう言いながらも加奈子は、嫌がる素振りも見せずに、カウンターの上に並べられている皿を、隅に寄せ、男が座りやすいように加奈子自身も椅子の位置をずらし、着流し男が座りやすいようにスペースを作ってやった。

「まあまあ、ええやないかい。あんたみたいな上玉が一人でおるんや。声掛けるなちゅうほうが無理な話やで。あんたもその美貌やし、こんなことは慣れっこやろ?」

加奈子の気を許した仕草に安堵した様子の男は、加奈子の隣に座りながら更に話しかけてくる。

「誰にでもそう言ってるんでしょ?」

着流し男にそう返すも加奈子も、この男が纏う不思議な魅力が気になり始めてた。

「いやいや、そんなことあらへんで?何やその顔・・ホンマやねんって。そもそも俺こないだ日本に着いたばっかりで、電話以外で日本人とまともに喋ったん1年ぶりぐらいやねん」

「ふーん。そうなの?」

着流し男の言葉を聞き流しながらも、加奈子は、まあちょっとぐらい一緒に飲んでもいいかなと思い、カルヴァドスが入ったグラスに口につけ傾けた。

「ええ飲みっぷりや・・・。美人やし、ほんま雰囲気も堂に入っとるちゅうか、自分に自信たっぷりな仕草、男に媚びるでもない、流されるでもないその意志の強そうな顔・・。頭も良うて知性を感じさせる目・・・。あんた、ええところのお嬢様かなんかやろ?どんな人なんか気になるわ」

「そんなことないわよ。・・それに、初対面なのにほめ過ぎだっての。褒めても何にも出ませんよーだ」

「いやいや、ほんまやねん。古い馴染みに急な仕事依頼されて、急いで日本に帰ってきたんやけど、尊敬する恩義ある先輩の頼みや言うても、けっこうめんどい仕事のはずやねん。そう思てたたところに、こんな時間に、こんなところでアンタみたいな上玉みかけたんや。今までの会話で俺のことイヤやなかったら、ちょっと飲むんぐらい付き合うてくれや」

加奈子のことを本気で気に入っている様子の着流し男はそう言うと、自らの持っているグラスを加奈子に向け乾杯を促してきた。

そのとき、奥の個室の方の席から、グラスが割れる音と、英語と、カタコトの日本語での暴言が店内に響いた。

「チクショウガ!ナンデコノオレサマガコンナトコロデクスブッテナキャイケナインダ!」

スキンヘッドのマスターが、騒ぎを聞きつけ大柄な外国人を宥めだしたようだが、英語とカタコトが混ざった騒ぎは止む様子はない。

加奈子も眉を顰めてそちらに顔を向けたとき、どこかで見た覚えのある顔にはっとしてしまった。

(あいつ!・・たしかアレンってやつだわ!周りの奴等も私がオルガノで叩きのめした連中・・。・・・どうしよう)

面倒くさい奴等を発見してしまったという顔になった加奈子だったが、ふぅと溜息をつき覚悟を決めると、やれやれと言う表情で頭をかいて立ち上がりかける。

しかしその時、すぐ近くで大声がした。

「おいおい!ルール守れんヤンキーはゴーホームや!お前ら誰の前で騒ぎ起こしてると思てんねん。みんながおる場所で機嫌よう飲めんのやったら、お前らは自分ちに帰ってバドワイザーでも飲んどけ!こっちは今めったに出会えん上玉口説いとる最中なんや!これ以上邪魔するんやったら外に放りだすぞ!」

加奈子はその怒鳴り声に驚き「え?!」て声をあげて振り向くと、そこには隣に座っている着流し男が、アレン達に怒鳴ると同時に、中指を思いっきり立ててファックユーのポーズをとっていたのだ。

(えええええ?!・・・ど、ど、どうしよう。あいつら相手だと、いくらなんでも普通の人じゃさすがに太刀打ちできないんじゃないの?)

つい先ほどまで、せっかくいい気分なりかけていたというのに、加奈子は手で顔を隠すように覆うと、着流し男とアレン達の様子を伺いだした。

(いざとなれば・・出て行かないとね)

と思おもってはいるが、これだけの大言壮語を言う着流し男の面子とやらも考慮し、出るタイミングをはかる。

加奈子がそんな心配しているうちに、アレン達ボクサー崩れの連中は、スキンヘッドのマスターを手で押しのけ、周囲の客を威圧しながら、のしのしと着流し男のすぐそばまで迫ってきた。

「オマエナニカモンクデモアルノカ?オカシナカッコシヤガッテ、アタマモオカシイノカ?コノオレサマヲ、ソトニホウリダスダト?ゼヒヤッテモラオウジャナイカ。ナア?!」

黒人の大男。元クルーザー級のプロボクサーであったアレンはそう言うと、周囲の取り巻きのボクサー崩れたちにも笑うように促し、自身も白い歯を見せ大声で笑いだした。

「お客さん!困りますよ!・・・ったく、警察なんざ呼びたくないんだが・・」

アレン達の後ろからスキンヘッドのマスターが、困ったような声をあげているが、それに着流し男が答えた。

「警察なんか呼ばんでええでマスター?そいつらの飲み代も俺が払うたるし、きっちり追い出してやるさかい心配せんでええ」

着流し男はそう言うと、ゆらりと立ち上がりアレンの前まで歩いていくと、人差指をアレンに向けて、クイクイと倒し挑発しだした。

「おら。先に打たせてやるから、かかってこんかい」

着流し男のセリフにアレンは、取り巻き達の顔を見まわしながらハハハハハ、と笑っていたが、不意に憤怒の表情に変わり、突如着流し男に殴り掛かった。

「フン!!」

190cmを越える黒人の大男が、右ストレートを繰り出したその動きに、店内の女性客はこぞって「キャー!」という声をあげたが、当の着流し男は口を歪め、詰まらなさそうにひょいと躱すと、アレンのボディに下駄を履いた足をめり込ませた。

「グボォオオオ!」

着流し男は、腹を抱え膝をついてうずくまるアレンの横を通り過ぎると、いきり立って次々と殴り掛かってくる取り巻きのボクサー崩れたちに対し、

「ゴーホーム。ゴーホームや。行儀悪いヤンキーはゴーホーム言うてるやろ」

と言いながら、ボクサー崩れたちを吹き飛ばさないように立ち回り、店内を壊さないよう、他の客に迷惑にならないよう、ヤンキーたちの鳩尾を下駄で蹴り、蹲らせて戦意を削いでいった。

(・・・・こ、この人何者なの?あのアレンて奴のパンチは少なくとも常人の域じゃなかった・・。それを難なく・・この着流し男・・いったい・・)

加奈子は自分が出て行かなければいけないと思っていたのだが、着流し男の予想外の強さに目を見張っていた。

~~~~~

「すまんかったな。怖い思いさせて」

支払いを済ませコングを出た着流し男は、済まなさそうに頭をかきながら加奈子に頭を下げる。

アレン達は着流し男に蹴り倒され、逃げるようにコングから去っていったのだ。

最初言っていた通り、着流し男はアレン達の飲み代をきっちりカードで支払ったようで、マスターも恐縮していた。

そのうえ、加奈子の飲んだ分と食事代もなぜか着流し男は支払うと言ってきかなかったのだ。

着流し男曰く、迷惑をかけたし、怖い思いをさせた謝罪だということなのだが、加奈子としては、そういう事にしておいた方が男のメンツも保てるものかと思い黙っていた。

「ったく・・せっかく機嫌よう飲めると思った矢先やったちゅうのに・・、えっと、ねえさん?もう流石に家帰る時間やろ?タクシーでも呼ぼか?あいつらがまだ近くうろついてるかもしれへんし、近くやったら俺が送っていくけど?」

ああいう喧嘩の場で力を奮わずに終わった経験がない加奈子は、着流し男のセリフに、新鮮さを感じていた。

「ありがと。でも、うーん・・」

どこに帰ろう。と悩んだ加奈子は口ごもる。

すると着流し男は、口ごもっている加奈子の様子に、「おっ、脈があるのか?」という表情になり、

「もしよかったらなんやけどな、俺そこのリーガルホテルのスイートで泊ってんねん。ねえさんさえよかったらやで?・・俺と飲みなおすん付き合えへん?」

着流し男の意外な提案に加奈子は「はっ?」と顔を上げるが、男の顔には一応思い切って誘ったんや。という表情が少しだけ浮かんでいた。

着流し男の表情に、加奈子はイタズラっぽい笑顔を向けると、

「いいけど、変なことしないって約束できる?」

「できるできる。OKや。せえへんで。ねえさんが嫌がることはせえへんってことで、飲みなおすとしよか」

加奈子の少し意地悪なセリフに着流し男は即答すると、「こっちや」と言って歩き出す。

加奈子は、「場所なら知ってるって。そのホテルはうちの系列だからね」と心の中で呟くと、先を歩く着流し男に追いつく。

しかし、着流しを着て周囲から浮いている男と一緒に並んで歩くのには、さすがに抵抗があった加奈子は、少し離れてついて歩いたのだった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 20話 銀獣を女に変える着流し男終わり】21話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 21話 一夜限りと割り切らないといけない関係

第9章 歪と失脚からの脱出 21話 一夜限りと割り切らないといけない関係


着流しの男は、よく冷えたスパークリングワインをグラスに注ぎ、服装に似合わず慣れた手つきで軽く燻らすと、加奈子に手渡してきた。

「ほんまよう来てくれた。乾杯や」

「乾杯・・」

チンとグラスを重ね、お互いにいっきに杯を空ける。

程よい炭酸と意外にも高いアルコール度数の刺激が混ざった喉ごしに、加奈子はふぅと息を吐いた。

このホテルなら、香澄のマンションにも公麿の隠れ家にも近い。

最低限そこを確保した加奈子は、あのアレンを容易に蹴り倒したこの着流し男の正体が気になっていた。

(タダモノじゃない)

それはわかるが、未だにお互い名前すら名乗りあっていない仲である。

その程度の仲にも関わらず、妙齢の美男美女がホテルの一室で酒を酌み交わしている。

間違いなくホテルのフロントでは恋人同士、そうでなくても良い仲だと思われたに違いない。

(けっこうなシチュエーションよね)

加奈子はそう思い、正面の男をじっと観察する。

(ふざけてんのかな?それとも趣味?)

着流しという男のファッションに突っ込むが、センスはともかく着物の裾から覗く男の四肢は、よく鍛えこまれているのが見てとれる。

それにコングでの立ち回り、ホテルまでの道のりを歩く男の姿は、警戒心こそ加奈子に向けられていないが、男には隙らしい隙が無く、この着流し男が能力者であることを加奈子はもう疑いすらしていなかった。

(野良・・かな?・・佐恵子さんが言うには、街を歩いていると500人に一人ぐらいは能力者を見かけるって言ってたわね。そのほとんどが能力の存在を自覚してない無意識な野良能力者って言ってた。でも、この人はあのアレンって黒人を一発で倒すくらいだから、さすがに無自覚能力者ってわけじゃないでしょうしね・・)

野良(ノラ)とは、どこの組織にも所属していない能力者か、能力の存在を知らない無自覚な能力者、またはその両方を指した言葉で、宮コー内部では、本来の野良という意味とは、少し違う意味合いで使う単語であった。

「ねえ、名前とか仕事とか聞いてもいいのかな?」

加奈子はソファに腰かけたままグラスを差し出し、空になったグラスにワインを注いでくれている男に聞いてみた。

(グラスやワインに毒の痕跡は無し・・、私に対しては隙だらけ・・。・・・だけど、敵・・・かもしれないし、・・うーん、でも私のカンはそう言わないのよね・・)

香港に髙嶺、今はいろんな曲者共が、いつどんな手を使って近づいてくるかわからない。

コングというバーでの先ほどの一件も、加奈子を欺くためのお芝居という可能性も捨てきれないのだ。

普段おちゃらけたように見える稲垣加奈子だが、実のところ頭も相当キレるし、立場上必要な警戒心は十分に持ち合わせている。

加えてイレギュラーに対する対処能力は、力ずくでも良いということなら、佐恵子や真理よりはるかに優秀だ。

「名前か~。うーん」

「どうしたの?名前聞かれるとマズいワケでもあるの?」

加奈子のグラスに注ぎ終わった男は、自分のグラスにも手酌でシュワシュワと気泡が弾けている液体を注ぎながら唸っている。

加奈子は何故?と首を傾げ、男の表情を探る。

「えっとな。特にやましいことは何も無いんやねんけど。俺なりのゲン担ぎやねん」

「ゲン担ぎ?」

「そや、ゲン担ぎ。お互いの名前知らんほうがええねん」

そう言うと着流しの男は、加奈子の正面から加奈子の座っているソファの方へ歩み寄り、加奈子のすぐ隣に腰を下ろした。

「・・そうやってすぐ近づいてくるのもなんだか手慣れた感じよね」

加奈子は笑顔ではあるがそう言うと、着流し男の動きを注視しつつ、万一のため最低限反撃可能な間合いを空けて座りなおす。

「ははは、嫌がることはせえへんよ。嫌やったら遠慮せんと言うてや?・・ただ、アンタみたいな上玉を、黙って眺めとくなんてことは俺にはできへんからなぁ」

「あら?変なことしないって言ったじゃない」

加奈子は飲みなおす条件で言った内容を再び伝えてみたが、着流し男は白い歯を見せて笑顔になると更に続けた。

「アンタの嫌がることはせえへん、イコール変なことせえへんってことや。・・正直に言うとな、マジでアンタのことめっちゃ気に入ったんや。身も蓋もない言い方なんやけどな・・。かといって俺の商売やと所帯ももたれへん。今回もいつまで日本におって、いつ向こうに帰るかわからへんし。行ったら行ったで、次に日本に戻ってくるんもまったく見当もつかんときとる身の上なんや・・」

「ふーん・・・大変な仕事なのね。でも、それがなんのゲン担ぎなの?」

着流し男の言葉に1つのウソも混じっていないのは、これまでの加奈子の経験からまず間違いないだろうと加奈子の直感がそういうが、ウソが無い着流し男の話す内容にますます興味が出てきて少々焦れた加奈子は質問をはさむ。

「そやな・・。名乗らん方が口説くんも上手くいくちゅう俺なりのゲンもあるんやけど、要するにそういう仲になっても、もしアンタが俺のこと気に入ったとするやろ?でも、俺の生活やと、アンタを不幸にさせるだけやからな。お互い今夜限りにして、名前知らんほうがええ思てんねん。・・でもまあ、今日だけ言うても、それも呼びにくいやろし、俺のことはサブローとでも呼んでくれたらええ。アンタも差し支えない範囲で言うてくれるんでええよ。仮名ってやつやな。追及せえへん。俺もずっとアンタとも呼びにくいしな。アンタも俺が名乗ってなかったからしゃあないんやけど、さっきからずっと俺のこと、固有名詞や代名詞ですら呼べてないもんな」


そう言って男はグラスを一気に傾け空にする。

(・・・なるほど。何となくそういうジンクスじみたことを気にしてるってことかな・・?うーん、佐恵子さんみたいに完全に言葉と感情の真偽がわかるわけじゃないけど、私のことを知っていて近づいたって感じじゃなさそうね・・・でも容姿はともかくこの男の持っている空気感というか隙だらけに見え隙がない感じ・・・、なんだか誰かに似ているよね・・・誰だろ・・・?)

加奈子の能力は純粋な肉体強化であり、筋力及び五感の能力超向上である。

栗田の神業で左目に魔眼を宿したと言っても、佐恵子のように器用に使いこなすことができるわけでもない。

使える魔眼技能は、いくつかの付与と恐慌のまがいモノだけだ。

よって、男の言葉を見極めることは能力では無理だが、加奈子の今まで生きてきた経験則からは、やはりサブローと名乗る男が嘘をついているようには見えない。

「どや?マジでアンタみたいな上玉を見つけて、アタックせえへんなんてこと俺には出来へんのや。一夜限りの関係でお互い楽しまへんか?・・・こういうん嫌いなんか?心に決めた男でもおるんやったら・・いやそれでもアンタみたいな上玉諦められへん・・。どやねん?アンタもまるっきし俺のことキライなんやったら、ここに座っとらへん。そやろ?」

隣で熱心に口説いてくる着流し男のセリフを聞きながら、加奈子の心は揺れはじめていた。

確かに男が言うように、全くその気がないのならノコノコとついてくることはなかった。

加奈子は自称ミス宮コーを名乗るってはいるが、宮コー社員から見ればそれは誇張ではない。

自負通りの美貌を持ち合わせているし、プロポーションもそのあたりのモデルより断然良い。

加奈子の明るい性格も相まって話しかけやすいこともあり、言いよってくる男の数は幼馴染の佐恵子より圧倒的に多く、実はあのミスパーフェクトの真理よりも多かった。

しかし、男性経験は佐恵子なみに残念で、経験人数は二人だけ、しかも最初の相手は髙嶺六刃仙の一人、井川栄一であった。

加奈子は最初追い詰めたつもりだったが、巧妙に佐恵子や真理と引き離されただけで、当時自分より格上の使い手であった井川栄一に、一対一に持ち込まれてしまい無残な目にあったのだ。

加奈子の美的感覚からすれば、井川栄一は間違いなくブ男で生理的に受け入れがたい男でった。

思い出してしまうと嫌悪感を示す悪寒とサブイボがぞわぁと背中を駆け巡るが、その憎い敵に与えられた快感も思い出してしまい、加奈子は目をきつく閉じてぶんぶんと顔を振る。

そして、今隣で一生懸命口説いてくれている着流し男の顔をマジマジと見ると、ブ男の栄一などとは比べようもないイケメンが熱弁を振るって一夜限りの求愛をしてくれている。。

加奈子はこういう男が、一夜限りと言わず、本気で口説いてくれないかと思いもしたが、よくよく考えれば自分も着流しの男が語ったように、明日とも知れない身であると、はたと気が付いたのだった。

三十路前にして上場企業宮川コーポレーションの幹部ではあるが、佐恵子の秘書は危険な仕事で、現につい数か月前死にかけたばかりだ。

それにいまは宮川コーポレーションの社員ですらないかもしれない。

先ほどの騒動のせいで、緋村紅音が加奈子の社員登録を抹消しているかもしれないからだ。

そんな加奈子が、着流しの男の一夜限りの提案を、「軽薄だ」、「不純だ」「とにかく今やりたいだけでしょ?」と言えるような立場ではないと思い至ったのだ。

(そっか・・。幸せな結婚、幸せな家庭って難しいんだ・・・。佐恵子さんや美佳帆さんみたいに、運よく能力者の恋人見つけて、お互いの立場も、何もかも理解してくれる人を見つけるってだけでも・・、私も・・、この人も・・同じように難しいんだわ。この人もほぼ間違いなく能力者・・。人に言えないような仕事の一つや二つはしてるんでしょうね。でも私も同じなんだわ・・。・・・私、仕事とはいえ人すら殺したことがある・・。だからこそ、この人も俺に深く関わらないほうがいいぞってスタンスなんだわ。それって・・・私も・・同じだわ・・)

大学に進学する際、佐恵子が「私に着いてきてくれるの?引き返せなくなるわ」と言ってくれたが、そう言う意味もあったのかと、加奈子は改めてわかった気がした。

しかし気付いたところで、選んだ道に後悔などない。

だが、突然発生した心の空虚さは如何ともしがたいものがあった。

急に発生したこの空虚さを手っ取り早く埋めるため、着流し男の提案を安易に飲むのも、なんだかプライドが許さない。

かといって加奈子はこの機会・・いや、誘いを袖にするのはどうなのか・・とも思っていた。

だから、相手を試すという訳でもないが、男に飲んでもらいやすく、それでいて自分に有利で、いざとなれば匙加減(さじかげん)もイニシアチブもこちらにある方法を思いつく。

加奈子は顔を上げ、着流し男の目をじっと見つめた。

男は、急に加奈子に見つめられたので熱心に口説いていたのをやめ、びっくりしたような顔をしている。

驚いた表情のサブローの顔の前に、人差指を出して加奈子は口を開いた。

「・・・条件が二つ」

「よっしゃ、なんなり言うてや」

サブローは前のめりになっていた姿勢を改め、加奈子の隣に座りなおして姿勢を伸ばした。

「名前なんだけど・・仮称・・カナコよ。サブローさん」

「OKやカナコ。一気に親密になったな。それで?もう一つは?」

サブローは、加奈子の一つ目の条件を聞くと目を丸くさせてから、笑顔になり、そして気ぜわしくもう一つの条件を、手振りを交えて催促してきた。

「もう一つは飲み比べ・・・これで私に勝ったら・・一晩お付き合いしてあげるわ」

加奈子は人差指に加えて中指を立て、Vサインのように指を二つ立てると、加奈子にしては珍しく蠱惑的な表情を浮かべて言ったのだった。

それもそのはずで、加奈子なりに、かなり思い切った発言だからである。

顔には出でいないが、今の加奈子の心拍数はかなり高い。

女の口から「一晩お付き合いする」と言ってしまっているのだ。

経験も多くない加奈子にとっては、相当なセリフである。

加奈子は、はしたなすぎたかも、と心拍数を更に上げはじめたが、サブローは破顔し声をあげた。

「よっしゃ!決まりや。やっぱカナコ、あんたはええ女や。わかりやすいし、男をやる気にさせる方法わきまえとるなあ。望むところやで!・・言葉通りきっちり一晩限りや・・お互い楽しもや?」

サブローの様子に内心安堵した加奈子は、余裕を取り戻し斜めに構えてサブローを挑発するような表情になると、

「ふふふん。もう勝った気でいるの?ちょっと気が早いんじゃない?・・言っとくけど、口だけの男なんてお断りなんだからね」


と腕を組んでツンと顎を上げた仕草で言って見せた。

加奈子の発言は、安い女だと思われたくない気持ちも強いが、実際お酒の強さにはめっぽう自信があったからである。

そして、もしもベッドインすることになったとしても、加奈子は経験こそ少ないとしても、実際体力はめちゃめちゃあるほうだし、力もめちゃめちゃ強い。

加奈子は、もしもそういう気分になって身を任せたいと思ったとしても、お互い機嫌よくベッドインするには、サブローに対してお酒の手加減してやる必要があると思っている。

いわゆる酔ったふりという手だ。

それとベッドでも、サブローが1度か2度満足したら、こちらが満足してなくても、男の面目を潰さないでいてあげるぐらいのつもりでもいる。

だが、サブローは加奈子の心境や思い上がり気味な打算など気づいた様子もなく、機嫌よく加奈子の手を両手で取り握りしめると、

「おぉー・・最高や!オーライオーライ。わかっとるって。酒もベッドでもタフなところ証明したるから。自分を抱く男ってやつに納得したいタイプなんやろカナコは?・・ええで、それを言うても許される上玉やカナコは!任せとけや!俺、そんな煽られると燃えてくる性質やねん。それよりカナコ・・いま言うたセリフ、後で許してって泣くことになっても容赦せえへんかもしれんで?」


と笑顔ながら真剣に言っている。

「ふふ!いいの?サブローこそ、ベロンベロンに酔っ払って、早漏なとこ私に見られちゃうかもよ?・・そっちこそ、あとで恥かいても知らないんだから」

サブローのその無邪気さに、好感を重ねると同時に意地悪も重ねたくなった加奈子は更に挑発する。

「問題なしや。カナコ、たぶん今日限りもうお互い会わへん。カナコはミステリアスなところあるけど、カタギのニオイがするからな。俺みたいなヤツとはそういうワンナイトって関係がマジでええと思うわ。・・ほな、気取り直してさっそく飲み直ししよや」

加奈子の意地悪な挑発など意に介した様子もなく、サブローは一瞬「ワンナイトだけ」という関係に哀愁を滲ませたが、加奈子のことを本当に案じたようなセリフを言い、スパークリングワインをブランデーに持ち替えて、グラスを新しいものに替え、琥珀色の液体を注ぎなおしたのだった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 21話一夜限りと割り切らないといけない関係】

第9章 歪と失脚からの脱出 22話 銀獣を淫獣にしてしまう男

第9章 歪と失脚からの脱出 22話 銀獣を淫獣にしてしまう男



「ぁぁ・・。だ、だめよぉ。・・・うんん。まだ、勝負の途中でしょ・・」

首筋に男の唇が触れると、加奈子は下唇を噛み、白い喉を露わにのけ反らせて女性らしい声をあげた。

「ダメやないやろ?俺の方が3杯もリードしとんや。もう降参やろ?」

ソファに浅く座る加奈子を、隣に座ったサブローが背後から抱きしめ、オフショルダーチュニックから露出している加奈子の少し汗ばんだ白い首筋を唇で堪能している。

「ま、まだ・・」

加奈子は強がりを言おうとしたが、言葉にならない。

サブローは本当に酒豪で、酔ってやや酩酊している加奈子とは違い、まだまだ余裕がある様子だ。

テーブルに置かれた加奈子のショットグラスには、ヘネシーがなみなみと注がれたままである。

サブローに背後から抱きすくめられながらも、飲み比べに負けじと、手をグラスにのばそうとするが、やっぱりもう飲むのは無理だ。

もう一杯だって飲めない。飲みたくない。

しかもサブローのターンにするには、これを3杯も空けなくてはいけないのだ。

加奈子が負けを認めかけ、諦めそうになったとき、先ほどから首筋を這いまわる唇の感触に加え、肩に回されていたサブローの手が鎖骨をひとしきり撫でると、そのまま谷間を露出させている豊満な胸へと伸びてきたのだ。

「ああっ!きゃ・・!、ま、まだ!だ、めでしょ・ぉ?」

服の上からの刺激とはいえ、この不意打ちに加奈子は、意図せず男を挑発してしまうような声で不平をあげる。

「まだって言うってことは、もうそろそろ諦めつくってことやな。・・カナコ・・酔った顔も可愛いなぁ」

ソファに座った加奈子を背後から抱きしめ、上から覗くように見ているサブローは、加奈子の左の胸を軽く、服の上から撫でながら愛おしそうに囁きかけてくる。

加奈子はまさか飲み比べで、こんな展開になるとは予想していなかった。

自称ミス宮コーで女優の新垣結衣似でもあり美貌にも自信をもっているが、美貌に格闘と同じぐらいお酒の強さも自負していた加奈子は、本当に飲み比べで負けるとは思いもしていなかったのだ。

適当に酔ったふりをしようと思ったのだが、そんな必要はなく、サブローはとんでもなく酒に強かったのだ。

しかしサブローもまさかこの新垣結衣似の抜群のプロポーションを誇る加奈子が、この国では知らない者もいないほどの超巨大企業の宮コーの幹部社員で銀獣と敵対組織から恐れられる存在であるとは想像もしていないであろう。

そんな銀獣である時の影は微塵も見せない1人の可愛い酔った女性と化している加奈子は、サブローの整った顔にも、酔って桜色に染めた顔を覗き込まれ、アルコールで色づいた顔を更に赤くさせてしまい目を逸らせる。

首筋にかかるサブローの吐息、自慢の胸を異性に触らせているという非日常的な刺激に加え、先ほどから「可愛い」を連発されてしまっては、銀獣と恐れられる加奈子も、自らがメスであることを自覚せざるを得ない。

とはいっても、元来負けん気の強い加奈子は、こうなりたいという欲望が無かったわけではないのであろうが、勝負と名の付くものは勝たずにおれない性格から自分から降参の言葉を言えそうもない加奈子に、サブローが助け舟を囁いてきた。

「なかなか降参言わへんな・・・。せやけど、もうカナコにこれ以上飲ませたら続きができへんようになってしまいそうやからな。そのカナコのショットグラス、俺が空けたら俺の勝ちや。それでええな?」

サブローは優しい声でそう言うと、加奈子の返事を待たず、テーブルに置かれた加奈子のショットグラスを手に取り、ぐいっと飲み干してテーブルに置いた。

「俺の勝ちやな?カナコ」

笑顔でそう言い顔を覗き込んでくるサブローに加奈子は

恥ずかしそうにコクンと頷いた。

(いい香り…ウルトラマリンかしら…着流しにウルトラマリンって…本当に変わったひ・・・と・・・)

そう思った瞬間、加奈子の口が塞がれる。

「んんん?!」

突然の濃厚で優しいキス。

最初は驚いたが、すぐに目を閉じ、サブローに唇を貪られるに任せ、加奈子も舌で応える。

軽く撫でられていただけの胸も、手つきが変わり、胸を揉みしだかれ声をあげさせられる。

そして、ひとしきり加奈子の胸の感触を堪能したサブローはキス続けながらも、手慣れた手つきでチュニックの裾から手を入れ加奈子の自慢の豊満な胸を包むピンクのブラジャーを上にずらした。

明るい部屋で露わとなった加奈子の見事なEカップは数える白い胸を優しく鷲掴むと、すでにこれでもかと硬くさせている乳首を人差指と親指で弄んできたのだ。

「んはぁ・・あう!んんんん!(他人に胸を触られたのっていつぶりだろう・・・)」

直接胸を責められ、吐息を漏らした加奈子の口を塞ぎなおすように、濃厚なキスが続けられる。

サブローは、今度はデニムに手を伸ばし、ファスナーを外し始めてしまう。

「あ!・い、いやぁ・・んん・!」

加奈子はキスの僅かな隙を見つけ、言葉だけの否定を口にするが、サブローはその社交辞令を無視し、キスも手を止めないで続ける。

口ではそう言ったものの、加奈子自身もサブローが作業しやすいように、ヒップをソファから浮かし、デニムパンツを脱がしやすくしてしまっている。

「ほんま可愛い女やな・・。イヤイヤいうても、キスも身体も全然嫌がってないで?」

サブローは脱がせたデニムパンツを隣のソファに投げ、露わになった加奈子の引き締まってはいるが魅力的な脚線美を撫でながら言う。

「ああ・・!恥ずかしいわ!私だけ、いっぱい脱がされちゃってるじゃないの・・」

加奈子はピンクのバタフライティーバックが露わになっているのを今更恥ずかしがるように、膝をソファの上にあげ、正面から見ると膝を交差するようにして隠した。

「その恥ずかしがる仕草がええんや。ショーツも紐パンなんか履いて、色っぽいのつけてるなぁ。ほら、俺の勝ちやったんやから、素直にならんかい」

サブローは恥ずかしがる加奈子の背後に完全に回ると、胸を弄んでいた手は加奈子の左膝を掴んで股を広げるように動かした。

同じく右膝も・・。

「ああああ!・・だ・だめよう!」

ショーツを履いているとはいえ、ソファの上でM字開脚に近い恰好に身体を広げられた加奈子は、顔を反らし、両手は忙しそうに股間と顔を行ったりしたりしながら、どちらも隠そうと無駄な努力をしている。

恥ずかしがる加奈子の表情を、愛おしそうに眺めながら、サブローは構わずチュニックとブラを纏めて掴むと一気に上をずり上げた。

加奈子の形の良い豊満な双丘が完全に露出されぶるんと現れる。

「ああああ!や、やだ!・・恥ずかしい!」

ピンクのブラジャーを上にずらされる時、先端を堅く尖らせてしまった乳首が擦れ、自分の乳首が痛いほどそそり立っているのが嫌でもよくわかる。

ソファーの正面には大きな姿鏡が置いてあり、両足をM字に広げられ、乳房を丸出しにされた女性が写っている。

加奈子は自分のあられもない姿を、確認させられるように顎を掴まれ鏡の方へ顔を向けさせられた。

お揃いのピンクのブラジャーとショーツ。ショーツはティーバックのバタフライショーツで隠す生地部分も少ない。

ブラジャーは捲られ、生地の薄いショーツもその中心部分はすでに濃いピンク色が縦に長い楕円形の模様をつくってしまっていた。

「だだ、だだだめ!」

姿鏡に映った自らの恥ずかしいショーツの有様に、慌てて股間を右手で隠し、左手は鏡のほうへ向けて、まるで見ないでと言っているように手のひらを広げてしまう。

「もう準備ばっちりなんやなぁ、カナコ。どや?初対面の知らん男に接吻されまくって洪水のように濡らせてしもた気分は?ほんでも、その恥ずかしいシミ、バレたんがまた感じてくるやろ?・・ん?・・それにしてもカナコ・・」

そう言うとサブローは、加奈子の手首を片手で束ねるように掴むと、加奈子の頭の後ろまで持ち上げた。

そして無防備になったショーツ周りに、もう一方の手を伸ばし、Vラインをなぞる。

「ひあああぁ」

加奈子は情けない声をあげてしまうが、サブローは構わずに加奈子のショーツをぐいっと少しだけ下にずらした。

「ちょっ!・・いや!うううう!」

サブローは加奈子のショーツの中に手を突っ込み、肝心な部分には触れないように、恥骨付近やIラインを確かめるように優しく撫でまわした。

「カナコ・・・生まれつきか?」

「・・うぅ」

女性自身である部分周辺をしっかりと確かめられた加奈子は、返事にならない声を上げ、目を逸らし頷くのがやっとだった。

「パイパンなんか。ますます気に入ったで」

「恥ずかしい・・」

「せやな。恥ずかしいよなぁ。下着も濡らしてもてるし、今日会ったばっかりの男に見られてしもてなあ。それにパイパンマンコも見られてしまう訳や。パイパンやからよう見えてしまうでえ」

(歳は聞いてないけど27,8ってところやろな・・。生娘ではないにしても・・この恥ずかしがりよう・・)

サブローは、年の割に恥ずかしがりまくる加奈子を面白がるように煽る。

(演技やのうてホンマに恥ずかしがっとる・・・。こんな上玉やからてっきり経験豊富やと思とったんやが、案外経験少ないんかもしれん)

加奈子の両腕は、いまは頭の後ろで手首をつかんで固定しているので、脚は自由に動かせるはずなのに、M字にされた脚は開いたままで、加奈子なりにサブローを頑張って喜ばせようとしている。

(恥ずかしがっとるけど、それがええみたいやな・・どれ・・)

サブローは加奈子の手を掴むと、一度降ろさせ背中に回させた。

「な、なにするの・・?」

加奈子が少し不安そうな声をあげるが、サブローは「ちょっとこうやってみ」といい加奈子の手を背中で交差させる。

そして右手で左の、左手で右のバタフライショーツの紐の部分を加奈子の指でつまませたのだ。

「カナコ。引っ張りすぎたらあかんで?ショーツの紐ほどいて、自分から御開帳してまうぞ?」

背中で腕を交差させ、ショーツの紐を親指と人差し指で摘ままされた加奈子は、自ら解いてしまわないように胸を突き出すような恰好で、セルフ拘束のような恰好にされてしまった。

「うぁあああ。こ、こんなの・・!」

「どや?気に入ってもらえたか?紐パンなんて履いとるからや。自分の姿よう見てみ?」

サブローは、両腕を背中で交差させた不自由な格好の加奈子の顎を再び掴むと、姿鏡を見せるように顔を正面に向けさせる。

「ああ!うう・・!」

後ろ手では左右逆手で紐パンを摘ままされ、紐を解いてしまわないよう胸をそらせてたM字開脚の女が、顔を真っ赤にして欲情しているのが見える。

「恥ずかしい女がおるやろ?・・さ、続けるで」

サブローはそう言って加奈子の正面にまわり、無防備になった胸を揉み、ショーツごしに固くなった陰核を探し当て愛撫し始めた。

「あああああ!」

加奈子はようやく与えられた本格的な快感に、脚を閉じようとしてしまったが、脚を閉じようとすると摘ままされている紐がしゅと音を立て、結び目が少し緩んだ感触に驚いて、慌てて足を広げる。

「あふぅ!んんんんん!こ、これ!・・ああ、意地悪ぅ」

結果、腰も前面に突き出すようになってしまい、自ら陰核をどうぞ触ってくださいと言わんばかりの格好になってしまうのだ。

「楽しんでくれてるみたいやなぁ」

形よく先端を堅く尖らせた乳首を舌で転がし、加奈子の美しい顔をよりシャープに見せる細い顎をあげて仰け反って喘いでいる加奈子の表情を楽しみながらサブローは満足そうに言う。

ほぼ全裸で胸と腰を突き出し、身体を開いた状態の加奈子を正面から愛撫を続けているサブローは、加奈子の鍛え上げられた、それでいてきめ細かく白い肌を無遠慮に撫でまわし堪能している。

(それにしてもカナコの身体・・めちゃめちゃ鍛え込んどる・・・。なんでや?・・・この鍛え方は尋常やない。なんかのプロアスリートか・・・?しかし、下半身だけやのうて、背筋や腕までも・・いったい何のスポーツやねん・・。あかん、俺あんまスポーツに詳しないねん。しかも日本のプロアスリートやとしてもわからんしな。・・でももし、そうやとしたら俺とは違った意味で素性明かしにくいんやろな。有名な選手で、内心正体がバレへんかドキドキしながら楽しんどってくれたら嬉しいんやが・・)

服の下に隠されていた加奈子の豊満ボディの正体が、女として男を誘う魅惑的なプロポーションという性能だけではなく、実質的な機能をも持ち合わせていることに、サブローは素直に感嘆つつも、明後日の方向に妄想を膨らませてしまっていた。

サブローが妄想しながら、ショーツ越しに陰核を責めていると、加奈子の引き締まった腹筋が上下に収縮し、サブローの指が怒涛の勢いで送り込んでくる快感に反応している。

それを見て、加奈子が本気で感じているのを確信したサブローは、少しぐらいなら痛みが加わっても快感になるやろと思い、乳首を軽く甘噛みてやりながら、もう一方の乳首も指で転がしてやる。

そして、同じく乳首なみに硬化させている陰核も、ショーツ越しに摘まみあげクリクリと転がしてやると、加奈子は今まで以上にのけ反って可愛らしい声を上げだした。

「きゃう!ああっ!・・い、いやあ!」

(・・美人すぎて男が近づき難かったんやろか・・。こんな軽い刺激でも、めちゃめちゃ感じまくるほど経験少ないやんか・・。かなりのM気質やのに、全然開発されとらん)

サブローは加奈子の喘ぎ声が大きくなったことと、刺激を与えている陰核周辺のクロッチの湿り具合が増したのを見て確信する。

ショーツのクロッチ部分は、すでに加奈子の愛液ですっかり湿っていたが、今の刺激で更に溢れてきており、ショーツ越しに擦ってやっても、にちゃにちゃと粘着音を発し出したのだ。

陰核責めが相当気に入ったのだと感じたサブローは、湿った布ごと陰核を摘まみなおして、軽く恥骨に押し付けるようにすると、さらに時計回りにくるくると回転させた。

「あああぅ!だ、だめえ!そんなことされたら!」

「クリは感じるよなぁ?カナコ?・・そんなことされたらどうなるんや?」

「い、逝っちゃうから!」

「はは、はっきり言うてもたな。逝ってもええで?しっかし、初対面の男に逝くところ見られるんやぞ?なかなかな快感やろ?ほら、一夜限りやでカナコ。思いっきり乱れても後くされなしの相手や。遠慮せんと思いっきり恥ずかしいところ晒してしまえや」


一夜限りというサブローのセリフに、加奈子もその気になってきてしまう。

サブローが押し付けてくる陰核への刺激をもっと貪ろうと、はしたなく腰をぐいぐいと突き出してしまう。

乳首と陰核への愛撫も加奈子の喘ぎ声に合わせて、激しくなる。

(ああああ!だめ!もう!)

加奈子は恥ずかしさから無駄に絶頂を我慢していたが、もうそれも限界に達したことを悟った。

「逝く!!っああああ!!!」

弾ける瞬間、加奈子は頤を跳ね上げ髪を振り乱して、ソファの背面に後頭部をぶつける勢いでのけ反った。

足の指は開き切り両足も天井に向けてあげられている。

逝ってしまった恥ずかしさから、両手で胸、そして顔を覆うように手を伸ばすと、摘ままされていた紐を自ら解いてしまい、逝った瞬間と同時に最も恥ずかしい部分を自ら曝け出してしまった。

「あっ!?・・だめ!い、いや!」

加奈子は紐をほどいてしまったことにすぐ気づくが、紐パンは一度解いてしまえば、すぐに履きなおすのは無理な構造のショーツだ。

養老の滝のごとく淫液を物凄い勢いで垂れ流す水元の秘唇や加奈子の快感の度合いを表すように固く勃起しきった陰核を自ら露わにしてしまった加奈子は、見慣れないほど普段とは違う無毛の自らの秘所を隠そうと慌てて身を丸くした。

そんな加奈子を強引に立ち上がらせ、正面から抱きすくめたサブローは、果てて息も絶え絶えの加奈子に濃厚な口付をする。

「んんんんん!んはぁ!んん!ちゅ!」

加奈子も積極的にサブローのキスに応え、サブローの背中に両腕を回して抱き着く。

着流しを着たままではあるが、引き締まったサブロー体躯、加奈子の豊満な胸が、サブローの鍛え上げられた胸板に押しつぶされるほどきつく抱きしめ合い、口づけを交し合う。

熱愛中のカップルのような口付けを3分ほどしていた二人だが、ようやく唇を離し見つめ合った。

ハァハァと息を切らし、見つめ合う二人。

サブローが恥ずかしげもなく加奈子に囁く。

「カナコ可愛かったで・・」

「・・・(サブロー…私の正体を知ってもそう言ってくれる?)」

と、聞きたくても聞けない言葉を心の中で呟く加奈子。

鼻と鼻、唇と唇がくっつきそうな至近距離でそう言われた加奈子は、なんとも言い返せず恥ずかしそうに一度眼を逸らして、そしてはにかんでサブローを見つめ返す。

口では何も言えず、それが精いっぱいだった。

「・・カナコだけほとんど全裸になってしもたな。それだけ首に巻き付けてても、もうしゃーないやろ」

サブローはそう言うと、加奈子の肩に引っかかっている白のチュニック、黑のタンクトップ、ピンクのブラジャーを纏めて引き上げ、本当に加奈子を全裸にしてしまう。

「ひゃっ!」

加奈子は、いきなり一糸まとわずの格好にさせられ、慌ててその豊満な胸を両手で隠し、腰を引いて両ひざを合わせた。

「ほんまにええ身体しとるのう・・。今日限りで手放すんがマジで惜しいわ・・。ちょっと摩っただけで逝ってまう感度も最高やし・・。素直にマゾっ気が強いんもええ感じや。・・・しかしプライドが案外高そうな雰囲気もあるから・・カナコ、普段見くびられんような仕事してるやろ?」

「ば!ばか・・・言わないでよぅ・・お互い詮索しないんでしょぅ(私だってあなたの事をもっと知りたいと思い始めちゃうじゃないの・・・)」

手をあげサブローに一瞬抗議するような仕草を見せ、声を大きくさせかけた加奈子だったが、恥ずかしそうに拗ねた表情で胸元を隠して身を縮めてしまっている。

(可愛ええ・・。ほんまに可愛ええな。もしも許される身やったら・・・こんな女がええわ)

身をよじり、身体を隠すようにしている加奈子の仕草にサブローは、正直にそう思った。

しかし、首を横に振ると、

「そやったな。すまん・・追及せえへんで。・・しっかし、そんな顔みせられたら・・。俺も我慢できへんし、そろそろ・・」

サブローは気を取り直し、そう言うと濃紺の帯を素早く外し、着流しをするりと脱いでしまった。

ボクサーパンツだけの姿になったサブローの股間は、大きく膨らんでいる。

「カナコも全裸やしな」

サブローはそう言うとパンツを下ろした。

ぶるんと現れたそれは、20cmほどはあるだろうか・・。

加奈子は自分に対してエレクトしてくれている大きなそれを、胸を隠しつつ、まじまじと見入ってしまった。

(・・・あんな大きいのが・・わたしに・・みっ見た事ないってあんなの・・・)

加奈子のはしたなくゴクリと喉を鳴らしそうな表情に、サブローは

「ほなら、まずは俺のを口で味わってもらおか・・・。どいうのが入ってくるのか、しっかり上の口でリハーサルしてからや」

と言って、加奈子の手を取り、自分の前に跪かせたのだった。

(・・・どのぐらいあるやろかこの女・・・。最低でも80ぐらいいければええんやけど・・。さっきのクリイキで13や。まあ、最初のクリイキはけっこう高い数字でるから、中やと10~12・・・最高に刺さっても15ぐらいか・・。でもまあ、大抵の女は4,5回てとこやろな・・。ともあれ、暫くしゃぶらせたらわかることや・・。100以上とかあったら最高なんやが・・)

サブローの内心の計算と思惑など知る由もない加奈子は、はにかみ、おずおずと素直に跪いて、サブローに頭を撫でられつつも頭を押さえらている。

そして、その20cmはあろうかというサブローの弩張りを、口にあてがわれようとしていた。

加奈子はいま思念、オーラを身に纏っていない。

普段、防御系のオーラを纏うということは、「警戒してますよ」というサインでもあり、防御思念は特定の相手に警戒心を向けると、相手にも伝わりやすいという特性をもっている。

だから親しい能力者同士でそれをするのは、少し失礼に当たるのだ。

当然、最初はサブローのことを警戒していたのだが、加奈子は相手に悟らせないよう巧妙にコントロールしていたし、触れるほど近づかれることはなかった。

もちろん普段はコントロールなどせず、むしろ、ある程度周囲にわかるように展開している。

加奈子や真理も、勤務中は立場上常にオーラを纏って警戒せざるを得ないからだ。

KYなうえ、標的とされやすい佐恵子に至っては、誰の前でも無遠慮に防御思念を全力展開している有様だったが、今はオーラが上手く使えず、狭い範囲で、できるだけ展開しているようだ。

以前の彼女の、刺すような圧迫感は【感情感知】を展開しているのと同時に、強力な防御思念も展開している為であるのだ。

だがいまの加奈子は、自らを絶頂に誘ってくれたサブローに気を許している。

いまの加奈子は防御思念を纏っておらず、いわゆる0オーラ状態である。

加奈子が、唇にあてがわれていた弩張を、控え気味に恥ずかしそうな顔で舌を少し這わしはじめると、サブローはかるく掴んでいた加奈子の頭を、髪の毛ごと少し強引に掴みなおして、一気に喉奥まで貫いた。

「んぐぅ!?」

加奈子は性経験の少なさとその知識不足ゆえ、セックス時でも、能力を使ってくる男がいるということを全く知らないのであった・・・

【第9章 歪と失脚からの脱出 22話 銀獣を淫獣にしてしまう男 終わり】23話へ続く


第9章 歪と失脚からの脱出 23話 サブローの魔技【負債】

第9章 歪と失脚からの脱出 23話 サブローの魔技【負債】

ソファに座ったサブローの前に跪いた加奈子は、硬く反った弩張を喉まで使い奉仕している。

「んっんっんっ・・!ちゅぷ・・」

加奈子自身、男に対しここまで奉仕するのは初めての経験である。

(こんなに硬くなって・・私を見て興奮してくれてるんだわ・・)

そんな男の前に全裸で膝をつき、口で奉仕をして喜んでもらう・・。

性経験の少ない加奈子は、最初こそぎこちない仕草であったが、持ち前の呑み込みの早さを発揮し、男がどうすれば良くなるのかがわかってき始めていた。

サブローの反応も加奈子の熟練度が上がってきたのを示すように、僅かに反応を変えてきている。

(・・あぁ・・こんなに頭が痺れるなんて・・。いきなり押し込まれたときは驚いたけど・・それはそれで・・ああ・・)

普段押さえつけているM気質を抑えることもなく、加奈子は舌と口内を巧みに使い、全裸で頭を振る。

跪いた脚の両内腿には、すでに幾つも水滴が伝った跡があり、それらは膝に達しては絨毯を汚してしまっていた。

普段は明るく、気さくを装いつつも、職務上一線を明確にし、既定のスーツで身だしなみをかため、凛と澄ましている自分を思い出す。

だが、いま全裸で膝をついている姿とのギャップに思いをはせると、加奈子の胸の双球の先端はさらに硬度をまし、股間は更に潤いが増していくを感じてしまうのだった。

普段とはかけ離れた一夜限りの行為に背徳感がつのると、背中には鳥肌が粟立ち、普段は男性顔負けの仕事をこなしている加奈子を自分は女性だと嫌でも強く自覚させる子宮や陰核は、先ほど与えてもらった全て初めての強さの快感や刺激を強請るように、周囲の筋肉を痙攣させてきている。

口で奉仕、子宮は下の口にもそれを寄越せと言わんばかりに、筋肉を収縮させ腰をいじましく揺らせ、準備が整っていることを男にアピールするかのようにわななきだしている。

(・・挿入してほしい・・これを・・)

女性の脳は子宮にもあると言われるが、加奈子の脳はその第二脳の信号を受け、すでに操縦桿をすっかり奪われている。

「ああ・・ん!んちゅ・・さ、サブロー・・・おねがい・・もう・・」

サブローは、自らの足の間で熱い吐息を時折交じらせ、潤んだ目で見上げてくる女に見下ろした。

今日バーであったばかりのカナコと名乗る女と目を合わせ、そのセリフを聞き満足した表情で口角をあげる。

「まだや。せっかくやし、そのおっぱいも使うてやってみせてくれや」

「お、おっぱいも・・?」

サブローの言っていることがわからないほど初心ではない加奈子は、自身の自慢の胸を両手で持ち上げるようして恥ずかしがっている。

「こ、こう?」

経験が薄い分、普通はするものなのか?と考え素直に従える加奈子は唾液で湿らせたサブローの弩張りを双丘の間で挟むと、その先端を口に含んだり舌を這わせたりして見た。

上目遣いでサブローの反応を伺うように両手と口を動かしている。

「おぉ・・ええで。そのぎこちなさが商売女みたいやなくてええな。・・おっぱいも口も使うて男に奉仕するん気もちええやろ?」

上目づかいで頷き、舌を出している加奈子は言葉で煽られ、さらに女の部分を火照らせられる。

「んんっ・・ちゅぷっ」

豊かな双丘で20cmほどの弩張をはさみ、さらに両手で自身の胸を押さえ刺激を与える。

加奈子は、先端の鬼頭には優しくチロチロと舌を這わせたり、浅く口に含み喜んでもらう。

(は、はやく・・ほしい)

卑猥な奉仕をしながらも加奈子は、目の前のこれを自分に入れてほしいという思いでいっぱいであった。

サブローは、バーで見たこの女を見た時、サブローの豊富な経験をもってしても墜とすのは困難かもしれないと思わしめる女であったが、なぜかこの女も隙があるように見えたので、一応念のために口説いてみたが、こんなに上手く行き、墜とせばここまで従順になるとは思いもよらなかった。

(・・普段はもっと気の強い女なんやろな・・。パイズリまで披露してくれるとはなぁ・・。一夜限りということでタガをはずしとるんやろ)

そんな加奈子の蕩けぶりに満足しつつも、サブローはこの女に掛ける能力の発動条件が満たされたのを感じた。

(10分たったな・・どれ・・)

サブローは、一生懸命に口を窄め、一心不乱に頭を振っている加奈子の頭を両手で掴むと、能力を発動させる。

(・・んん??・・はぁ?!・・う、嘘やろ・・?224ってか!・・ツラやスタイルだけやのうてこっちの方も・・大概やな・・)

サブローは加奈子の頭を見下ろしながら、関知した値に驚きつつもサディスティックな笑みを浮かべてしまう。

200超えの女など初めてだったのだ。

それどころか100を超えた女は、ここ1年ほど見たことがない。

(・・きっつい思いさせるかもしれへんけど、その分狂わせたるからな・・。カナコの人生で、最高に気持ちよかった男として記憶に残らせてもらうで。これで、また自慰の時に、俺を思いだして、股間擦る女が増えるんやと思うと堪らんわ・・)

サブローは加奈子の頭を再度押し下げ喉奥を犯し、今の表情を見られないようにしてから薄く笑う。

「んんんっ!!・・・・っ!・・っ・・・んはぁ!」

喉奥を犯されるように突かれていた加奈子は、酸素を求めて、吐息を吐きだしながら顔を上げる。

口からは涎を糸のように引き、一夜限りという言葉で、二度と会う事もないであろう、相手に蕩けた顔を向け乱れ切っていた。

その糸を伝うように再び弩張を口に含む。

「よっしゃ・・」

サブローはそう言うと、跪いた加奈子を持ち上げ、脚を開かせ膝の上に乗せた。

「きゃっ!・・・わっ!・・ちょっ!ひゃ?」

急に持ち上げられ、普段はその2本の美しい脚は、自身や佐恵子を守るために振るうのだが今日は1人の男性を前にしても無力に開脚した格好でサブローの膝の上に跨らされた加奈子は恥ずかしがるが、サブローはかまわず、すでにぬめりきった加奈子の股間に、弩張りが陰核を潰すように押し当ててきた。

かたちの良い豊満な双丘はサブローの顔のすぐ前にあり、すぐさまその先端は弄び始められる。

「ああああ!こんな格好・!」

両手首は腰の後ろで、サブローの左手でまとめて掴まれ、そそり立った乳首を舌と右手で転がし回してくる。

愛液で滑った陰核には、サブローの固くなった弩張が押し当てられ、はしたなくも愛液を潤滑油として腰をぬちゃりぬちゃりと押し付けてしまう。

「ああっ!恥ずかしい!見ないでえ!」

サブローの弩張に陰核を押し付け、快感を貪るように腰を振りたくる加奈子は羞恥からでたセリフを吐くが、腰の動きはより一層速くなってしまう。

「ははっ・・見ないでって、カナコが勝手に動いとるだけやんけ」

「そ、そんなこと言われたってえ・!」

煽られ羞恥から言葉は出るが、腰の動きは止まらない。

陰核も気持ちいいが、本能は男の弩張を内部に欲しがっている。

加奈子は、恥ずかしさとは裏腹に、更に腰を大きくグラインドさせて、なんとか弩張の先端を舌の唇で捕らえ自らに誘おうとする。

しかし、サブローは素早く腰を引いてしまったのだ。

「あああんっ!」

加奈子は、サブローに断わらず、一気に奥に飲み込んでしまおうとしたのだが、その行為は不発に終わり、不満そうな声をあげた。

「はははっ、惜しかったな。まだ入れさせへんで?なにどさくさに紛れて挿入れようとしてんねん。スケベ女が、ええ?」

不満そうな声をあげ、怨めしそうに見つめてくる加奈子を、サブローは愉快そうに罵り嗤った。

「うぅ・!くぅ!」

スケベ女と罵られた加奈子は、腹立たしさもあるが、それよりも更に被虐心を掻き立てられたようで、腰のグラインドを更に激しく続ける。

「なんや?入れさせへんで?・・・あぁ、自分で擦りつけて、もう一回クリ逝きするとこ見せびらかす気なんやな?・・・・はははっ、初対面の男のチンポにクリ擦り付けて逝くんや?ホンマにスケベな女やなあ。ええで?逝き晒すところみててやるからな」

「かはぁ・・!ひぐっ!・・そんな意地悪言われたってぇ・・止まんないっ・・よう!」

腰の後ろで掴まれたままの手首、白い喉をのけ反らして加奈子は喘ぐ。

ぬちゃぬちゃと粘着音をさせ、男の膝の上で快楽を貪る。

まだ刺し込まれてもいないのに、加奈子は再度頂上に一人で登り始めた。

「ああっ!逝くっ!また逝くわ!ああ!恥ずかしい!!」

「ちゃうわ。逝かせて頂きます。って言うんや」

絶頂限界、身体も仰け反らせた加奈子にサブローはそう言うと、ヒップをぴしゃりと叩いてやる

「いっ!・・逝っ!・・逝かせて頂きますぅ!!」

サブローの指示通りのセリフを口走った加奈子は、言い終わると同時に仰け反った格好のままガクガクと痙攣し、今日2度目の深く長い快感を全身で貪ったのであった。

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【負債】:女が快感でどのぐらい逝き続けられるのかを数値化した能力で、【負債】を掛けられた対象の女は、逝くたびにその快感に応じた値が累積していく。その累積値が、逝き続けられる最大に達した状態で、男の射精を身体に受けると、そのSEXで味わったすべての絶頂を一度で味あわなければならない。サブローが独自に開発したSEXにのみ使用できる能力である。ちなみに相手が能力者の場合だと普通の女性が50の値の負債を射精時に一気に浴びるとするならば能力者の場合はその8倍の400の絶頂時の快感を浴びることはサブローもまだ知らない。ちなみにサブローが数値化した1で普通の女性がローターで自慰をしたときに感じる快感くらいである。

「きゃうううっ!サ、サブロー!もう!私!・・ああああ!また!・・・」

正常位、騎乗位で散々逝かされた加奈子はそれで十分満足していたのだが、今は四つん這いにさせられバックで貫かれていた。

「何回逝ったんや?ええ?こんなに連続で逝かされたことないやろ?!」

サブローはそう言いながらも、加奈子のヒップにバチンバチンと腰を打ち付け、ペースを落とさず突き上げてくる。

「くぅうう!はぅ・・ま、またぁ!・・・っ!い!っ逝かせて頂きますっ!!」

バックになってから3度目の絶頂に身を震わせ、加奈子は躾けられた通り叫んで逝き晒した。

「そやそや、ちゃんと断ってから逝くようになぁ。俺はまだ一回も逝ってないねんで?そなのに、カナコは遠慮もせんと逝って逝って逝きまくってるんやからな。そうやって口だけでも謙虚なとこ見せへんかったら、挿入れてくれてる男に対して失礼やろ?」

そう言うとサブローは少し腰の動きを緩めて、シーツに突っ伏した加奈子の頭を後ろから掴んで持ち上げた。

「ははっ、バーで会うた時と顔全然ちゃうな。ほら鏡みてみい。目逸らすなや?」

加奈子の正面には姿鏡が置かれており、自らのあられもなく乱れ嬌声をあげる姿を見せられながら、背後から貫かれていた。

サブローのセリフに加奈子は顔を背けようとするが、顔を鏡に向けるよう掴まれピストンを再開される。

「あん!あん!あん!っあ!ああ!」

もともと体力の多い加奈子は容易に気を失うこともできず、何度も何度もサブローの弩張りに絶頂を与えられていた。

加奈子はすでに18回逝っている。

1時間という短い間で、サブローのテクニックと絶倫な体力に責めぬかれて息も絶え絶えだが、意識はいまだしっかりしており、気も失えず快感の波は高く維持されたままだ。

(・・くっ!カナコのマンコすごい締め付けや・・。鍛えこんでるみたいから、中もめっちゃキツい。まさかこっちが先に参ってまうわけにはいかへんからな・・。せっかくため込ませた負債がパァになってまう。せやけど今ので200超えたな。あと2回ぐらいか・・。飛ばしたるからなカナコ)

「ひああ!ま、また!・・・ああああああ!また逝かせて頂きますうう!」

四つん這いで、後頭部がお尻にくっつかんばかりに仰け反った加奈子が、汗に濡れた髪を振り乱して大声をあげて果てる。

「カナコ。もう一回や!もう一回逝かせてやるからな。俺もそろそろやし、加奈子の中に出すで?ええな?」

ゼエゼエと絶頂の余韻に顎を震わせていた加奈子だが、中に出すと言われてさすがに驚いて振り返る。

「だ、だめよぅ!中なんて!」

「なに言うとんや。最初っからゴムもつけとれへんやろ?それに中に出す言われてから、カナコのマンコもっと締め付けてきてるで?カナコの下の口は欲しがっとるみたいや。いやらしい女やでほんま」

「だ、だからって!中にだなんて・・!ああああ!!」

サブローは加奈子の抗議を無視して、括れた腰をがっちりと掴むと深く速くピストンをはじめた。

今までのストロークも強烈だったが、明らかにペースの上がったピストンに加奈子はサブローの終わりが近いことを悟った。

そしてそれが終わると中に出されてしまう。

ダメだと頭では分かっているのに、そう考えるとカナコの突起部分は全て固く尖り、愛液は更に溢れ、膣や子宮口は男の放出を吸い上げようと筋肉を収縮させだす。

「ああああ!あああっ!だめ!だめなのにぃ!あああ!!また!!逝くぅ!!っ逝くぅう!!」

サブローの激しいピストンのさなか、加奈子は20回目の絶頂を、全身を震わせた。

「っ!・・・っ!!!」

ヒップを突き出し仰け反ったまま、汗まみれのカナコは声もなく目を瞑り、美しい顔を快感に歪め、それを全身で味わっている。

長い長い強烈な余韻に耐えている顔を、姿鏡に映しサブローを楽しませてしまっているのも知らずに逝き顔を晒し続ける。

そして加奈子が逝った瞬間、サブローが掛けていた【負債】も上限に達し加奈子を飛ばす条件があと一つを除いて満たされた。

「逝かせて頂きますって教えたやろ?ちゃんと言われへんかったからお仕置きや」

打ち付ける腰の速度を落とすことなくサブローは無情にそう言うと、加奈子の腰を更に引き打ち込んでくる。

ばちん!ばちん!ばちん!・・・。

「ひあぁ!!ゆ、ゆるして!!も、もう!!ほんとにダメ!!もう十分逝ったからああ!!」

四つん這いになっていた加奈子は、制止させようととっさに右手をサブローの方に向けようとしたが、加奈子のマンコを使ってサブローも弾けた。

生暖かいモノが肌に迸った感覚があった瞬間、たった今逝ったばかりだというのに、加奈子の股間が否・・、全身に信じがたい絶頂が一気に襲ってきた。

「きゃああああああああああ!!!(うそうそうそうそっ!なにこれ!?)」

絶頂の快感値は数値にして一回12平均ぐらい。

それを20回で約240の快感値が加奈子を襲ったのだ。

が、サブローすら気づいていないが、加奈子は能力者なのでその実、加奈子が今受けている絶頂値は加奈子の限界値の240ではなく1920なのである。いわば橋元の媚薬を3,4回重ね掛けされたうえに能力者に犯されたくらいの快楽であろうか?

「あああ!!ぐうぅうう!きゃああああああああ!!!・・・(しっ死んじゃうぅぅぅぅ)」

加奈子はベッドの上で、あまりの快感に髪を振り乱し暫くのたうち回っていたが、すぐに目を反転させ気を失ってしまった。

「はぁ!はぁ・・!あ~~・・気持ちえがった~・・・。って、カナコ、気失ったか。そらそうやろな・・。20回分の逝った気持ちよさを一回で体験したんやもんな」

サブローは気を失った加奈子を気遣いながらも、自身も久しぶりのSEXに大満足していた。

「ああは言うたが、ほんまに中に出したらかわいそうやしな・・。そういうプレイやっちゅうだけや。どや?中に出すって言われた方が興奮するやろ?」

ベッドにうつ伏せに突っ伏したまま、気を失って動かなくなった加奈子にそう言ってみるが、当然返事があるはずもない。

サブローは、ベッドに横になって気を失っている加奈子の髪の毛を優しく撫でてやりながら、頬に軽くキスをする。

「・・・カナコか・・・」

サブローは少し寂しそうな顔をしてそう言ったが、加奈子の身体を拭いてやり、シーツをかけると、シャワー室へと消えて行った。

サブローは、射精の瞬間に引き抜き、中には出さず加奈子の形の良いヒップ目掛けて放出していたのだった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 23話 サブローの魔技【負債】終わり】24話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 24話 菊一三銃士VS髙嶺六刃仙

第9章 歪と失脚からの脱出 24話 菊一三銃士VS髙嶺六刃仙


もうそろそろ明け方だというのに曇天のおかげで月明りさえも感じられない。

孤島の端に道らしい道などあるはずもなく、海から吹き付ける強風のなか3人は道なき岩肌を駆けていた。

海面に着水してから、島まで泳ぎ、海水で濡れた身体を乾かした後、軽食を取ってある程度身体が温まると、即座に作戦を開始したのだ。

吹き荒れる海風と、時折波が岩肌に叩きつけられる音が大きく響く。

濡れて滑る切り立った高い岸壁が、唯一の道だというのに暗闇で視界も悪い。

耳に付けた通信機から聞こえてくる猫語尾の可愛らしい声を頼りに、未だ暗闇に近い視界の中、ほぼ垂直に切り立った岩肌から岩肌へと跳躍を繰り返す。

3人は【暗視】と【肉体強化】を発動させ、常人ならざる速度で進んでいるのだ。

『ひゅ~・・・驚きにゃん。支社長から聞いてたにゃんけど、本当にこんな過酷なルートに誘導しちゃってもいいのか心配してたにゃん』

美琴は菊一の3名。菊沢宏、豊島哲司、三出光春の身体能力に口笛を吹き正直に感嘆した。

事前に宏達の説明を紅音や丸岳から聞かされていたのだが、ここまで高いレベルだと思っておらず、むしろ3人の力をあやしんでいたのだ。

たんなる町探偵が、まさかこれほどの動きができるなど思ってもいなかったのだった。

きっとラブホテルの前でカメラを構え、あんパンを食べながら、ひたすら待ち続けるのが主な日課だと偏見を持っていたのだ。

しかし衛星で捕捉している望遠映像では、3人は切り立った崖を、物凄い速度で飛ぶように進んでいる。

「なんやーミコにゃん?このぐらい昼飯前やで?」

「そうみたいにゃね。・・実は潜入っていったら大抵美琴の仕事だったにゃんよ。モゲちん達が美琴ほど動けるわけにゃい、と思ってたにゃんから正直モゲちん達が起用された時は、不安だし心配だったにゃん。・・・けど、いけそうにゃんね・・」

通信機からは、モゲの得意そうな軽口に対し、正直に言っている様子である美琴の、可愛らしい猫語尾語が聞こえてくる。

「あたぼーよ。惚れてもええんやで?」

『にゃははーん。それはないにゃん』

「も・・モゲちん?・・ってすごいネーミングやな・・」

更に調子に乗ったモゲのセリフをバッサリ切った美琴に、哲司が小声で三出光春のことをモゲちん呼ばわりしたのを指摘するが、美琴は気にした様子もなくウキウキした口調で続けた。

『これだけ速いとこっちも楽ちんにゃん。仕事が早く終わるにゃ~ん。このペースなら10分もしないうちに目的の建物が見えてくるにゃんよ。スレートとトタン張りの錆びだらけの建物にゃよ。西側の方が手薄にゃん。其処から侵入するのが良いと思うにゃんけど、樋口が出入りしている部屋は建物の北側のはずにゃん。建物の見取図はすでに送ってある通りにゃんから、潜入後はヒロポンに行動権限は委任するから、細かい瞬時の現場判断お願いするにゃん。なんせ建物の中は見えないにゃんから・・』

「・・・ヒロポンって・・、まるでご禁制のお薬みたいやん・・」

ヒロポンとは、おそらく宏のことであろう。

哲司は美琴にそう名付けられている宏を、走りながらチラリと見るが宏に変った表情の変化はない。

『そう言った方が美琴的にはしっくりくるにゃん。ちなみにお兄さんのことは俊作って呼ぶことにしたにゃん』

「ぶっ!がーはっは。そっくりや!ないすミコにゃん!ちょっとテツよ。『事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだっ!!』って言うてみてくれや?」

美琴のセリフにモゲが声をあげて笑いだす。

かつて、大人気を博したドラマの主人公の名前なのだが、その俳優が哲司にそっくりなのである。

「なんやねんな・・・」

やれやれといった感じで哲司はため息をついたが、ハッとなってさすがに騒ぎ過ぎたかと、リーダーの宏の方にチラリと顔を向けた。

「ノリが悪いぞ俊作!そんなんやから、すみれに呆れられるんや!」

哲司は、モゲの戯言を背中で聞き流し、宏の眉間に皺が寄せられていないかと様子を探る。

しかし、宏はこの手のことには最早慣れているようで、モゲたちのバカ騒ぎを気にした様子もなく、この暗闇の中だというのに、相変わらずのサングラスを着用し、今のところ周囲にも危険が感じられないため、特に気にした様子もなさそうであった。

哲司はほっと安心するが、はたと気が付いた。

「ん・・?おい宏」

「ん?どないしたんや?」

哲司は、ふと見た宏の横顔に少し違和感を感じ、つい宏に声を掛けてしまった。

二人とも岩肌を飛ぶように駆けているが、そのぐらいの会話をする余裕は十分にある。

「宏・・。いつの間にかグラサン変わっとるやんか」

「な!なに?!・・・。なんでわかるんや・・?」

モゲと美琴の会話にもクールな表情を崩さずにいた宏だったが、哲司のセリフに驚いて顔を向けてきた。

そんな宏の様子を怪訝に思った哲司だが、珍しいものを発見した興奮と、自らが知っていた知識を話たくなり続けた。

「それって前のプラダと同じ形状やねんけど、それ今年出た限定モデルのヤツやねん。フレームの金属の配合と色合いが微妙に違うんや。フレームの内側にもピジョンブラッドでカットしたエンブレムとロゴが嵌め込んであるはずや。たしか、有名な俳優が付けてて人気がでた数が少ないサングラスやねん。ええのう。そんなレアなモノをまんまと手に入れたんか。素直に羨ましいわ・・」

駆けながら宏のサングラスをマジマジと見ながら哲司は、心底羨ましそうな声をあげた。

「ま、まじか・・。これってそんな珍しいもんやったんか・・・。前のんとおんなじって聞いたんやけど・・」

グラサンを普段着用しているといっても、そこまでブランドに拘りのない宏は、サングラスのフレームを摘まみながら、なにやら表情を渋くさせて呟いた。

「いやいや、全然違うねん。形はほぼいっしょやねんけど、発売されはじめた時の値段も初回のと20倍ぐらい違うし、なにより欲しいても、もう手に入らへんねん。今やと価格は跳ね上がっとるし、次のサザビーズとかのオークションで出品されたら、えらい値段つくかもしれへん。・・・そもそもが有名な職人が作った世界で30個だけの限定ハンドメイド生産やからな。・・俺は普段はせえへんけど、俺もグラサンとか腕時計とかそういった小物って結構好きで集めてたりするんや。けどそのグラサン、どないやっても手に入らへんかった超レアモノやねん。・・・それも美佳帆さんからのプレゼントかいな?こないだの結婚記念日に初回モデルのほう貰うとったのに、今度は限定版のほうもプレゼントしてもろたんやなぁ。美佳帆さんの愛も深いのう・・・。きっと手にれるんかなり苦労したはずやで?」

「い、いや・・、あ、あのなテツよ。・・このグラサンが前のと違うって誰でもわかんのか?」

グラサンのことを得意そうに語り、宏と美佳帆の仲を羨むような発言の哲司の様子には触れず、宏は心配そうに聞き返してきた。

「どやろな。俺はけっこうそういうんが好きやからわかるけど、大抵の人はわからへんのと違うか?でも、見る人がみたら一発でわかるで?」

「そ、そうか。そ、それやったらええ・・いや、ええことないな・・」

「・・・・どないしたんや宏?」

宏らしくない様子に、哲司は首を傾げ宏の横顔を眺めていたが、ふとその横顔に動揺が走っているのを感じ聞いてみた。

「・・・まさか他の女から貰うたなんて言わへんやろな。・・・まあ、宏に限ってそれはないか~。女に関してはクールな宏が、あの美佳帆さんだけには猛烈なアタックしよったもんなぁ」

「いや・・あのな・・誤解せんといて欲しいんやけど・・・これは・・えっとな・・」

「え・・・?・・ま、まさかマジなんか・・・?」

2割ぐらいは冗談のつもりで聞いてみたのだが、宏の反応はすこぶる歯切れが悪い。

宏の珍しい反応に、哲司は引き締めた表情になると、力強く頷いて言い出した。

「・・・いや、ええで。宏も男や。嫁に言えれんことの一つや二つあっても可笑しない。安心せえ!聞かんかったことにするわ!・・・・幸いモゲはミコにゃんとキャッキャうふふな感じで話しとるから、聞こえてないみたいやし、誰にも内緒にしといたる」

妙な親切心と男の友情とでもいうモノなのか・・、哲司は宏の顔を見ながら大真面目に言っている。

「いや・・そんなんやないんや・・」

宏はなんと説明しようかと思いながらも、サングラスを渡してきたときの佐恵子と、それまでの経緯を思い出す。

(病院であの女に殴られたときに、美佳帆さんにプレゼントして貰ろうたグラサンがぶっ飛んでいってしもて、かっ!となりかけたけど・・、あいつも幼馴染が死にかけとったんや・・。あんなに涙溜めて、目泳がせて・・気が動転してたんやろな・・。しかし、どうしてもグラサンの小さいネジ部品がみつからんくなってもうたんや・・。そのせいで、おさまり悪くなってたんやけど、気にせずそのままグラサンつけてたら、あの女が1週間ぐらいして俺の部屋に来よったんや・・・。
何の用事かと警戒したもんやが、お詫びや言うてる割に、デカい態度で、ぜんぜん悪びれた様子もなかったんやけど、・・とりあえず同じ形や言うし、俺も美佳帆さんからもらったグラサンを壊してしもたんを美佳帆さんに言うは何となく嫌やったから、受け取ったんや・・・。
しかし、これがこんな危険物やったとは・・・!・・佐恵子さんってテツの彼女なんやろ・・?ここでストレートにあの女から貰うたって言うたら、テツはどう思うんや・・・?どうなるんや・・?更に訳わかれへん話にならへんか・・?)

どう言うたらええものか・・と宏は口ごもってしまっていると、哲司は心配そうな口調で更に続けた。

「しっかし、そんなもんくれるちゅうことは、相手の女は本気やぞ?・・俺なんかが心配することちゃうけど、美佳帆さんに気付かれんように上手いこと早めに手打えよ?」

「ぉ・・ぉぅ・・」

哲司のセリフに何も言い返しにくくなった宏は、こめかみを引きつらせたまま真剣な表情になり、妙な発音で返事をするのが精いっぱいだった。

(・・・本気・・?何に本気なんや?・・・たしかに、美佳帆さんと二人ではじめて宮コーに行ったときと比べると、あの女の態度はずいぶん変ったような気がする・・せやけど、そういう感情あるわけがないわ・・)

宏はそう言いながらも、顔を赤くし、目を合わせずサングラスが入った箱を突き出して、「受け取ってくださる?」とチラチラと目を合わせてくる宮川佐恵子の様子を思い出していた。

(・・・違うな・・。妙にクソ真面目で潔癖なところがあるけど、ようわからへん女やねん。悪党やないんは間違いないが、変わり者であることも間違いあらへん。まあ・・でかい組織運営ってやつは俺にはわからへんけど、あの女、経営手腕では新聞やテレビで取り上げられたし、そういうスキルは専門家からも評価されてるみたいやったな。変わってる人間は、何もかも変わってるもんやとは思うが・・・・、しかし・・いくら何でも、あれが愛情表現なわけがない。単なる損害賠償や。そういったことをするんに、あの女のプライドがついていかれえへんかっただけの表情や。間違いない)

宏がグラサンで隠した表情で一人納得している横で、哲司も勝手に納得し宏の肩をポンと叩いて優し気な口調で言ってきた。

「ええってことや。長い人生、人に言われへんようなことの一つや二つ起きるって。・・俺の親父もようそう言うてたわ」

目を細め何故か遠くを見ているような目の哲司には何も答えず、もうこの件に関しては誰にも黙ってたらええと、宏がそう決心したとき、少し前を駆けているモゲが騒ぎ出した。

「もしもしもしもし?!ミコにゃん???!もしもーし!!ミコミコもしもし?!」

「うっさいわモゲ。静かにせんかい」

急に壊れたモゲに、即座に哲司が注意を飛ばすが、

「どないしたんや?」

宏は冷静にモゲに問いかけた。

「どないもこないも・・急に回線が途切れたんや・・・。もうちょっとで帰ったらお茶でもしよかって話になりそうやったのに・・・」

3人は速度を落とさず岩肌を駆けながら会話をしている。

モゲが肩を落とし、眉間に皺を寄せ、眉を垂らして情けなくそう言った時、頭上で下弦の月が煌めいた。

今日は曇天。

月など有るはずがない。

「モゲっ!上や!」

哲司が怒鳴る。

「間に合わん!ガードせえ!!」

宏も哲司とほぼ同時に叫ぶ。

「へっ?!・・ぁがっあああ?!!!!」

ずどーーーん!

『モゲーーー!』

宏と哲司の声が重なる。

間の抜けた表情のモゲの背中に、避ける間もなく白い何かが激突し、そのまま猛スピードで、モゲごと遥か眼下の波が打ち付ける岩場に激突したのだ。

「三対一だった故・・、声も掛けず仕掛けた無礼をお詫びします」

崖の頂上より少し上、声の主は空中にいた。

物静かなのに、この強風のなかでも凛としたその声はよく通る。

驚くべきことに、その声の主は宙に浮いていたのだ。

「お、おまえは・・何もんやねん。香港か?」

頭上で雲を背負って見下ろしてくる、線の細い黒髪長髪の美女に哲司は誰何する。

「いいえ、私は高嶺六刃仙が一人・・前迫香織・・貴方がたの命をもらい受ける者です。お覚悟を」

先ほどの鋭く白い何かを放った人物とは思えない、落ち着いた物静かな声で、女は名乗りを上げた。

「た、髙嶺やて・・?」

「ひ、宏・・。香港以外で・・髙嶺もおるなんて目論見が違い過ぎへんか?」

宮コーの潜入の情報では高嶺の「た」の字もなかったはずである。

「くっ・・。どうなってるんや。ミコにゃん!聞こえてるか?!」

状況の説明をと思い、宏が通信機に向かって怒鳴ってみるが、空しくザザザザ…と機械的なノイズ音がするのみである。

「クソっ!つながらへん・・。どういうこっちゃ」

宏や哲司のやり取りを、観察するように静かに眺めていた香織は、少しだけ待ってやっていたが、そんな義理もないなと思い、抜き身の長刀を頭上でくるりと回し鋭い目つきで構え直す。

「まずはひとり・・・。お次はどちらが?それともお二人でいらっ・・っく!!」

細身でパンツスーツを着た長身の香織が、一人始末し、残りの宏と哲司を値踏みしだしたとき、突如、長い髪を大きく靡かせて、白い何かを打ち込んだ先から、投げ返されてきた人の頭ほどもある岩石を、慌ててのけ反り避けたのだった。

「くっそ!いきなりなんやねんな!!痛ってーー!ちっくしょう!いててて!」

「モゲ無事か?!油断しすぎや!」

「無事なワケあるかい!めっちゃ痛いちゅうねん!」

岩場に激突したモゲは頭から出血はしているが、大声で悪態をつき全身を摩りながらも騒いで声を掛けた哲司に言い返している。

「今ので死んでない・・・というのですか?なるほど・・・ならば!」

投げ上げられてきた岩石のスピードと、モゲの頑丈さに驚いた香織は、モゲ以外の二人も当然侮りがたしと認めたようで、切れ長の目を更に鋭くし3人を睨みつけて言い放つ。

香織は身の丈ほどある長い抜き身の長刀を白く光らせ、下弦の月が地上に矢を打ち込むかの如く、刀身を弓のような形状に歪ませると、髪の毛を靡かせて空中で片膝を折り、白く光る弦状のオーラをおもいきり引き絞った。

「風を孕み月影を具せ、黄昏を裂き留まる事無く疾く駆けよ!我が刀身、良弓難張なれど刃を矢摺りとし、己が身を弓弝、我が克気を鏃と成せ!」

香織は空中で弓を引き絞ったような態勢のまま、淡白く光った刀身を弓に見立て、オーラを充満させ3人に向けている。

「・・紡ぎ言葉ってやつか!」

宏は焦った声をあげたが、敵は明らかにこちらを先に捕捉していたうえ、問題の敵は手の出せない上空で構えている。

こちらからは攻撃しにくく、向こうからはこちらを一方的に駆逐しやすい態勢である。

紡ぎ言葉は予め術者が決めておいたオーラを込めた言葉を発することで、付与に近い能力を得ることができるが、発揮できる効果は技を放つ一瞬で、しかもその技能の直前に紡がなければ効果は全くないものである。

紡ぎ言葉は敵を目の前にして、隙だらけになることを代償としているがゆえに、その威力の跳ね上がり方には凄まじいものがあった。

香織は【斥力】を足元の岩場に使い、自らを空中という安置に置くことで、紡ぎ言葉を安全に言い切ったのである。

「テツ!モゲ!さっきのと段違いのが来るぞ!」

できることと言えば、上空で危険な女をの攻撃のタイミングを注視し、二人に大声で叫ぶだけだった。

「もう遅い!【弓箭激光】!!」

香織が弦をはじけさせると、刀身が逆方向に弾み、先ほどモゲを貫いた白い光の正体が、香織の左手の握り部分から無数の白い光の矢となり、幾百本と放たれた。

ズドドドドドドドドドドドドッ!

「どんだけやねん!」

宏は香織の技の威力に瞠目し、オーラを纏って防御する。

香織の放った無数の矢で、辺りは一面フラッシュを何百も光らせたように明るくなり、けたたましい炸裂音を響かせ崖と岩肌の形状を抉り続ける。

オーラ上の白矢を打ち尽くし、眼下でもうもうと立ち上がる砂ぼこりを見ながら、香織は呼吸を整える。

「はぁ・・はぁ・・。・・・なんということでしょう。手応えが軽い。・・・いったい何者なのです・・」

まさか侵入者がここまでの手練れとは思わず、一人でも奇襲を敢行したのは勇み足だったか?と内心ほぞを噛むが、どうしようもなかったのだ。

あらかじめ情報のあった海岸線から近づく3つの影は、香織のオーラによる察知能力ですでに捕捉していた。

誤算なのは、事前に情報があったとはいえ、あまりにも進んでくる速度が速かったことである。

香織が【弓箭激光】を打ち込んだ波打ち際を、油断なく注視していると、崖の飛び出た先端に、足音なくショートカットで小柄な女が膝を揃えて折り曲げ着地した。

「おまたせ!かおりん!樋口が離れるのなかなか許してくれなくってさ・・」

白いファーを左手で少し降ろし、人形のような整った顔を覗かせた南川沙織が遅参したことを詫び、香織と同じく眼下を見下ろしつつ呟いた。

「さっきの轟音・・かおりん。もうぶちかましてんじゃん・・」

香織の技は放たれた後は光を失っており、眼下の波打ち際はほぼ暗闇である。

香織や沙織ももちろん暗視ができるとはいえ、明るいに超したことはない。

そう思った沙織は右手を一振りし、崖の下へと、右手小指から小さな礫を十数粒バラまいた。

礫が地面に落ちる遥か上空に在るうちから煌々と礫は淡く灯りだし、点灯の役目を果たす。

「いなさそうだね。粉々になったんじゃないの?」

「いえ・・かなりの手傷は負わせたと思いますが、おそらくまだ。・・全部で3人いました・・。うち一人は私の初撃が直撃しましたが、信じられない硬さで仕留めきれずです」

香織は、下を注視したまま沙織の予想を否定し、いまだ警戒を緩めていない。

香織の強力な範囲攻撃を受けても、生きている。

油断できない相手ということだ。

沙織も目を細め物騒な表情になると、香織と同じく警戒を強める。

すると、

「遅くなりました・・」

「あれ?なっちゃんさんも来たの?あっちの警護はいいの?」

(・・なっちゃんさん・・。このクソ寒いのに、相変わらずあんな短いスカートで、パンストもぺらっぺら・・・。・・見せたいのかな?・・確かに男ってガリより、ちょっとむっちりしてる方が好みって聞くし・・うーん・・でもなっちゃんさんも男の噂って全然ないよね・・。まあ私もだけど・・)

沙織の心の声など知る由もなく、奈津紀はそのむっちむちの太ももを曝け出して、二人に歩み寄ってきた。

「・・・張慈円さまが、これ以上侵入者はないから、こちらを手伝いに行けと、しつこく言いましてね・・」

「へぇ・・?そうなんだね・・。でも、あの人、なっちゃんさんを連れ歩くの大好きなのにさ・・行ってこいだなんて珍しいよね」

「沙織にまでそう見えてるのですか・・?」

「え?・・う、うん。だって、違わなくない?・・・あの人、いっつも・・・『千原はどこに行った?』、『千原、少し意見を聞きたいのだが』、『・・千原、貴様はどう思う?』、『おい、千原を呼んで来い』ってことばっかり言ってるじゃん。・・・私やかおりんには、そんなこと絶対言ってこないよ?」

「そ、そうですか・・。まあいいでしょう・・・それより、侵入者の方をとっとと済ませてしまいましょうか」

目の両端を人差指で吊り上げ、わざと低いだみ声をだし、張慈円の顔マネと声マネをしている沙織の様子に、眉間を指で少しマッサージするような仕草を見せてから、奈津紀は気を取り直して侵入者に意識を向けた。

そんな二人とは対照的に、緊張の糸を切らず、眼下にもうもうと立ち込める埃ほこりを、視力強化と暗視で注視していた前迫香織が眼下から目を逸らさず、奈津紀に声を掛けた。

「奈津紀。来てくれてよかったかもしれません。相手は3人・・・。その者達は、私の紡ぎ切った【弓箭激光】を受けても仕留めきれないほどの者達です」

香織の発言に、普段表情の変化の少ない奈津紀さえも、大きく目を見開かされた。

「なんと。・・・潜り込んだのはどのような鼠輩かと思いきや・・虎の類のようですね。宮川本社にいる強力な能力者共が送り込まれてきた・・と考えるのが妥当でしょうか。それほど樋口さまの持っている情報が重要で、尚且つ、その裏切りが許せないのでしょうね・・・。もしかすると、紅蓮、幻魔、蜘蛛とやらの二つ名持ちの者どもかもしれません」

「紅蓮ね・・・あいつか・・。それと、あとの玄米と蜘蛛とかは?・・・そいつらは銀獣と比べるとどうなの・・?」

戦闘狂だが、沙織にも感情はある。

紅蓮と呼ばれる赤髪巻き毛は、馬鹿げた威力の炎で、目の前で同僚を黒焦げにしてくれたし、
舐めていたとはいえ、沙織自身も、もう少しで銀獣から致命的な一撃を受けそうになった記憶がよみがえり、ゴクリと喉を鳴らして奈津紀に聞き返している。

紅蓮も目の前で同僚を黒焦げしてくれたのだ。

「幻魔と蜘蛛です・・。玄米などという二つ名の者などはいません。・・・その者達のほうが、名が知られているので強い・・と考えるのが妥当でしょうね・・でも、私は紅蓮を見たことがあります。さっき見た中にはいません・・」

沙織の問いかけに答えたのは香織であった。

「なるほど・・」

香織の言葉に奈津紀が頷く。

香織は、スタジオ野口で、紅蓮が六刃仙の一翼である井川栄一を、一撃で戦闘不能にし、あわや一撃でオーバーキルというほどの攻撃を準備動作無しで放ってきたのを、目の当たりにしたのだ。

不意打ちとはいえ、香織が【斥力排撃】を栄一に纏わせてなければ、完全に栄一は事切れていたはずだ。

栄一があのようになってしまったため、あの時は逃げの一手しか取れなかったのだが、この度はそのような状況に追い込まれたくはない。と香織は最初から油断なく全力に近い力で戦っている。

「油断大敵ということです。油断のない我らに斬れぬものなどありませんし、敗れることなどありえません。香織、沙織・・。行きますよ?」

奈津紀の言葉に二人は頷き、香織は長刀を弓のようにつがえ構え直し、沙織も二刀居合の構えを取る。

盤石の迎撃態勢を取り直した六刃仙の3人は、油断なく巻き上がっている埃が晴れるのを待つ。

やがて、徐々に巻き上げられていた砂ぼこりが猛烈な海風で吹き流され、更に荒波が散らばった砕けて石を攫うと、沙織の放った礫が灯す光に、岩石を押しのけながら3つの人影がゆらりと現れた。

【第9章 歪と失脚からの脱出 24話 菊一三銃士VS髙嶺六刃仙終わり】25話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 25話 元弱者の野望

第9章 歪と失脚からの脱出 25話 元弱者の野望

菊一三銃士が、紅音から命じられた任務の末、まさかの超強敵の髙嶺六刃仙と出くわしていた頃、この男は以前から常々考えていた己が野望を叶えるために、今や宮コーの特に宮川佐恵子派のアドバイサー的存在として、今は神田川真理のほぼ帰宅しない府内都心の個人所有のマンションの一室で世話になっていた栗田教授に会っていた。

このグランドハイツというマンションは3LDKで、通常はそこそこの家庭が家族で住んでいて、過去は今は宮川アシストに席を置く岩堀香澄も主人と子どもと3人で住んでいたマンションである。

そのグランドハイツの707号室で今、持ち主である神田川真理以外の2人の男が、寝室で居た。
1人は冒頭で挙げた栗田教授で、もう1人は今や宮川アシストの代表取締役という系列会社の社長に降格となった佐恵子のボディガード兼雑用係として真理が送り込んだモブこと茂部天牙である。

『モブ君。私はかまわないのだがね。これくらいの手術は、メスなどなくても十分行えるし、麻酔がなくとも君に痛みなど与えることもなくこなせる自信はあるのだが・・・君のこの部分を大きくするという事は決して良い事ばかりではないのだよ。』

『かまいません教授!教授のような元々でかい人には短小の辛さがわかんないんすよっ!それに俺は・・・(社長や岩堀部長と最近、美人と出会う機会も増え、真面目に働いているしきっと好印象を持たれているのでいつこの短小野郎を使う機会が来てもおかしくない!?)その・・・ここがでかけりゃもっと自信が持てると思うんです!』

神田川真理所有の、今は栗田の為に1つ追加で用意されたベッドに、全裸の若い男、モブが横たわりその隣にゴム手袋をした初老の紳士、栗田教授にそう返す。

『そうかね。まあ・・・確かにこの部分の良し悪しで女性の男性に持つ印象というのは確かに変わりますからな。モブ君の気持ちは良くわかります。しかしモブ君、今から私が手術を施す条件として、君に1つ約束をしてもらいたいことがあるのだが大丈夫ですか?』

『やっ・・・約束っすか!?はい!できる事ならなんでもっ!』

『いや・・・約束というのは、紳士たるものなら当たり前の事なのですがね。君もこれからは、レディにはいかなる理由があっても暴力を振るわないと私に誓って欲しいのですよ。ただし、君や君の守るべき人の命を狙うような相手は例外ですけどね。』

『はい!そんな事あたりまえやないですかっ!俺は社長の身を守るために雇われたんすからっ女性に暴力何てふるうわけないですしっ・・・それに・・・今俺の周りに居る女性は、宮川アシストの事務員さん以外は、仲良くしてくれてる方々はみんな俺より数段強いんすよっくそっ・・・』

今はかつての不良時代の影は潜め随分と、佐恵子や香澄の影響も受け、社会人としての心構えなども鍛えられ、真理や加奈子の稽古(リンチ)により心身ともに強くなってきたモブではあるが、そんなモブも自身が強くなるにつれ、周囲の能力者の強さが解るようになり、己の無力さを思い知らされていた。

そんなモブが純粋に望んだものが、せめてもの抵抗にいざという時に行為に至るような幸運に恵まれたときに、女性を快感に導けるほどの男性器でありたいと強く願い栗田教授に相談に来た結果、今から施される増茎手術に至ったのである。

『それではモブ君。始めますよ・・・う~ん、しかし君は・・・見れば見るほどに小さいねこれは。うん、これはいけませんね・・・しかし、この矮小な一物とも今日でおさらばですからね。3倍の24cmくらいにはなるでしょう・・・では私の指刀メスで・・・痛みはかんじませんからご心配なく・・・あと股間にかなりの熱を感じますが、それは我慢してくださいね。』

栗田が指刀でモブの男性器の包皮を切断していくが不思議と痛みを感じないのは、あらかじめ麻酔に類似するオーラをモブの下半身へ流し込んでいたからである。

『っす!熱いのも痛いのも、でかなれるのならいくらでもっ!』

そしてモブの増茎手術は進んで行き・・・













30分ほど経過したときには、すでにモブの男性器は過去の8cmほどしかなかった子供のような男性器から、24cmを越える立派な男性器へと生れ変わっていた。


『熱いっす!熱いけど自分のチンポに重みを感じる事なんてはじめてっすよっ!うっうぉぉぉ教授勝手に勃ってくるんすけどっ!』

栗田の神技により、生まれ変わった自分の男性器を眺め、モブはさぞかし満足げにしかし興奮がおさまらないようである。

『まあ、これでモブ君自身が自分に自信がもてるのなら結構なことです。(ついでに君の身体のオーラの流れも良くしておき、五感強化と君に相性の良さそうな能力をいくつか付与しておいたので、あとは努力しなさい。あっしかし、SEX快感増加の能力は付与しても使う相手がいなければ宝の持ち腐れかもね・・・まあ男の部分は自身で磨くしかありませんからな)ふふふ・・・ははははっ』

そんな事を考え1人笑う栗田を、やっとベッドから起き上がり服を着終えたモブが、

『教授!あざしたっ!これで俺もマーベラスに生きていけます!(社長に岩堀部長とやれる日がきたらこのデカマラでガンガンつけるぜ!)』

と彼のもてる最大限の礼儀作法で頭を下げると、神田川真理のマンションから勢いよく立ち去っていったモブ。

しかし、この日栗田がモブに施したのは、男性器のサイズアップなどほんのおまけだと思えるほど、モブ自身が持つ潜在能力を引き出していたのであった。

この日を境に、モブの宮川アシスト、ひいては宮コーでの存在は大きく変わり、佐恵子派の人間にとっては思いがけない戦力アップとなり彼自身が求めていた巨大化された男性器を奮う機会に恵まれていく幸せを彼自身も今はまだ半身半疑であったはずである。

そしてこの日、モブは自宅へ帰り納まりのつかない術後の男性器で一通り社内で出会った女性たちを想像しながら自慰を試みて、今までよりも勢いよく発射した白濁が彼の寝室の天井に到達してしまった事に驚き眠りについたのであった。


~同時刻・・・岩堀香澄の住むマンションでは~

そしてそのモブに性的な対象として見られているとは気づいていな2人は今偶然にも、岩堀香澄のマンションで一緒にいたのだった。

三出光春の能力で周囲には三出ことモゲが哲司、そして哲司がモゲだと認識される状態で、お互いの恋人、佐恵子と千尋と過ごし、お互いの恋人関係に進展を求めた事により、モゲを哲司だと思い込み、SEXをしてしまった佐恵子は香澄のマンションにきてすぐに浴室を借りていた。

モゲの能力や、性技をふんだんに使われての行為は、佐恵子に相手が哲司だとしても、受け入れがたいものがあり、ただ哲司への恋心、初めて出会った時の哲司の好感度により耐えることができたが、哲司だと思い込んで(思いこまされ)ていたモゲが佐恵子の股間に施したビー玉という呪縛は、自分自身で取ろうにも中々取れずにいた。

香澄のマンションの浴室内にある鏡を見て、自分自身につけられてある白い肌に食い込むような縄目の後を見て、今夜起きたことが現実だと改めて思い知らされる佐恵子。

(哲司さま・・・わたくしは、何をされても哲司さまをお慕いする気持ちはかわりませんわ・・・しかし、しかし、今日の哲司さまは、本当に哲司さまでしたの・・・?)

そう思いたくもなるほどの、モゲの責めにほぼ性経験が無いに等しかった佐恵子には受け入れがたいものであったのだ。

そして、佐恵子は自分の指で、モゲに注入された膣内のビー玉を取ろうと努力したものの、取ることは叶わず、一通り身体を流し終えると、バスルームの脱衣場に香澄が用意してくれていた、バスローブを羽織り香澄が待つリビングへ戻った。

香澄は、浴室から戻った佐恵子を見ても、まだいつもの佐恵子の様子とは明らかに違う事に、香澄が佐恵子が深夜に自分のマンションを訪れた時に感じた嫌な予感が的中しているのではないのかと、鼓動が激しくなってくる。

香澄自身、つい数か月前に不本意ながら、したくもない相手、それどころか忌むべき相手でもある水島という男に半ば無理やり性交渉を強いられた経験があるので、今の佐恵子の表情や腰のふらつき具合、そして脱力感などからあの時の自分に重なるのだ。

『社長・・・』

『あっ・・・あぁ・・・香澄、本当にごめんなさいね。こんな時間にお風呂まで・・・』

バスルームから戻った佐恵子は力なくそう言うだけで、その後はソファに浅く腰をかけ無言でどこを見るわけでもなく、うつろな表情であった。

(社長・・・やはり・・・これは、見ず知らずの行きずりの相手か・・それとも敵対する企業や、組織の誰かにか・・・激しいSEXの後のような、そんな感じがしてならない・・・しかし、今の社長にはそんな事きけないし、私に何かしてほしい事があれば・・・社長から言ってくれるよね・・・今日はゆっくりお休み頂こう・・・)

香澄は内心でそう思い、佐恵子に自分のベッドで寝るようにと即したが、佐恵子はここで休ませてもらうわとソファで寝ると頑なに言うので、香澄も佐恵子の向かい側のソファで一緒に休むように伝え、寝ていてもかまわないので何かあれば起こして言ってくださいと伝え眠る事にした。

『・・・ありがとう・・・香澄・・・感謝します』

と言ってくれた社長の声が、何か不安と寂しさが混同したように感じた事が、香澄には自分の予想は間違っていない、明日からは似たような経験のある自分が誰より社長の支えにならなければと誓うのであった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 25話 元弱者の野望終わり】26話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 26話 達人5人とバカ1人


第9章 歪と失脚からの脱出 26話 達人5人とバカ1人


もうもうと立ち上がっていた砂ぼこりを海風が攫い、ひと際高い波が岸壁に打ち付けた時、3人の姿は完全に露わになった。

沙織の灯した礫の明かりが、3人をぼんやりと照らす。

「・・・っ!?」

髙嶺の三剣士は、眼下の3人を視認したとき、皆一様に美しい顔をしかめ、目を細めて声にならない声をあげた。

香織の攻撃を受け、3人の男達はダメージを負っている。

海水に濡れ、顔はホコリで汚れ、頭や顔には出血が見て取れるのだが、髙嶺の三剣士たちにとっては香織の技を受けているにもかかわらず、生きていること、しかしそれよりも問題なのは・・・。

「なっ・・?なんであいつら服を着てないわけ?!」

沙織が崖下を指さしながら、目を見開きファーを顎の下に下げて、奈津紀と香織に聞く。

「・・・・さ、さあ?わかりません。私の方が沙織より来るのが遅かったのですよ?最初から着てなかったのでは?どうなのですか?香織?」

奈津紀も崖の下で、どう見てもダメージを受けているっぽい筋骨隆々の男3人が、無駄に肉体をアピールしているような格好でポーズをとっている異様さに、奈津紀にしては珍しく冷や汗を頬に伝わせて、隣の香澄に聞いている。

「いえ、着ていました・・。しかし、なぜ・・?特に貴方!」

他の二人はともかく、最初に攻撃を仕掛けた頭髪の少ない男は、何故か全裸で完全にポージングをしているのだ。

香織が指さしたのはもちろんモゲである。

「なぜ言われてもな・・。あんなピッチピチのスーツ着てたから肌と服の間に、砂利やら割れた石の破片が挟まってチクチク痛かったから脱いだんや!お前のせいやぞ!?痛ったいし服もボロボロにしやがって!・・・その上にや、あんた一人だけズボン履いてからに・・ほかの二人見習わんかい!」

モゲは、いわゆるフロント・ラットスプレッドというボディビルダーの規定ポーズに近い恰好で、髙嶺の3剣士を見上げるようにして立ち、勃っていたのだが、逆に香織を指さし怒鳴り返した。

叫んでいる全裸男の世迷言を無視し、奈津紀は眼下でポーズをキメる三人の筋骨を冷静に観察して、その筋肉が飾りではないことを正確に見抜いていた。

(・・・香織の剣技を受けて、あの様子・・・。そしてあの身体・・・・そして、あのサイズ・・・。・・?)

奈津紀が3人の力を、その筋肉から冷静に分析しようと眺めていたのだが、上半身が裸である哲司、宏と見て、最後に全裸のモゲに目を移したとき、さすがに全裸であるため見るともなく、巨大なアレが目に入ってきたのだ。

髙嶺の剣士は性的な拷問に対する訓練も一通り受けており、人並みの男性経験は訓練の一環で受けている。

男の裸などで、いちいち騒ぎはしないが、半年ほどの訓練を受けたのは3人とも、遥か昔のことであり、ここ最近は男の裸を見る機会などそうそうなかった。

それに、数多く行った訓練での行為の中で、あんなサイズの持ち主は見たことが無かった。

それは、奈津紀もそうであったし、香織も沙織も同様である。

「ねえねえ、全裸ハゲのアレ・・。すっごく大きくない・・・?・・すごいよ。へそより上に反り返ってるじゃん・・馬とでもやるの・・?それに、なんで大きくさせてんの・・・?かおりんの技くらっただけでしょ?興奮する要素って皆無じゃん・・?痛めつけられて喜ぶマゾってやつ・・・なの?」

「あの男の性癖は知りませんけど、私の技にそんな不埒な効果はありません・・。私の技を受けてあんな風になるのは、何故かとても嫌ですね・・・」

美女三剣士が、思いもよらぬところで規格外の男性のサイズを前にし、戸惑いながら観察していると、崖下にいる当のモゲが叫んだ。

「真ん中の女は美佳帆さん並みのムチムチ太腿で赤。隣の白ファーのお人形さんはファーに合わせて白。・・・俺に不意打ち食らわした女はサービス悪いな。パンツスーツかいや。お前こそが脱がんかい!何色や?!言えー!」

どがっ!

「人の嫁をたとえに出すなや!それに隠せ!」

その宏は、隣で場違いな発言をしているモゲの後頭部に一撃食らわせ、先ほどモゲが脱いだブーメランパンツをモゲにぶつける。

「なんでパンツまで脱いだんや!」

「い、いや・・石が入って気持ち悪かったし・・」

「周りは、履いてないほうが気持ち悪いねん!」

モゲのように全裸ではないが、香織の大技を一番近くで受けた宏の衣服もボロボロに破れ、上半身は全裸になってしまっている状態で、モゲと宏が珍しく漫才をしだした。

哲司も宏と同じような格好になってしまっているが、海水で全身水浸しなため、寒さで前かがみになっていただけで、決してモスト・マスキュラーのポージングをしているわけではなかったのだ。

「おいおい。二人とも敵さんの前やで?・・きっとこんなペースの相手なんて初めてのはずやから、絶対に戸惑ってるはずやぞ?・・ちょっと自重したほうがええような・・」

そう言いかけた哲司は逆光になっている崖上を、能力を使い見通すと見覚えのある顔を発見した。

「お、あの真ん中の女。赤い下着の女な・・。・・・あいつ、あの時倉庫で佐恵子さんに唐竹割ぶちかまそうとしてた女や!」


「なんやて?白刃取りしたって話の女か?」

「ああ、間違いあらへん。真ん中の赤パンツの女がそうや。んで、左隣におる白パンの幼女がたぶんアリサの言うてたヤツやと思う。右側のサービス悪いパンツスーツの長身ねーちゃんのことは知らへんな・・」

「そうか・・。ならあのパンチラっていうか、パンモロしてる女らはやっぱり全員髙嶺ってことやな。・・・女ばっかりかいや・・やりにくいのう・・」

眼下から聞こえてくる、人を下着の色で区別している無礼な3人に、奈津紀は無表情ながらも、こめかみに血管を浮かせている。

「・・・脱げ・・・ですって?」

香織もそう言ってワナワナと肩を震わせているだけであるが、そんな真似ができない白パンはにっこりした笑顔から始まり、結局吼えた。

「・・・冥途の土産に見るだけならいいよ♪・・なんて言うとでも思ったか!!首を胴体からお別れさせてやる!・・二つに割れろっ!!」

沙織は肩と腰の柄に手を伸ばし、二刀抜きざま【刀閃】を全裸で一人あっちの戦闘態勢にもなっているニヤついた表情のモゲに、照準を合わせて放とうとした。

しかしモゲは、沙織が技を放とうと柄を握った時、沙織の技の発動よりも先に放ったものがあった。

「ちっ!?」

沙織は鋭く舌打ちをして、それをかろうじて躱したため、大きく態勢を崩してしまう。

沙織の得意技の一つである、恐るべき威力の【刀閃】の一つはモゲの身体のすぐそばをかすめ、もう一つは発動すらせず、刀が空しく空を切ったのみである。

「うっひょー。当たったら痛ったそうやな・・・。盛大にすっころんでくれたから、またよう見えたわ・・。しかし、さっきのといい、こいつらガチの奴等や・・。あんなエロい身体してパンモロ拝ませてくれてんのに、真面目にやらなあかん連中や」

「いつも真面目にやってくれや!」

不完全ながらも発動した真空の刃が、モゲをかすめて後ろの地面を切裂き、海面にぶつかって水を爆散させているのを見て言うセリフに、哲司が突っ込みを入れる。

「ともあれナイスやモゲ。テツ、モゲ、予定には程遠いが、わかっとるな?あいつらの隙みて一気に行くぞ?こっちの侵入はもうバレとるし、派手なっても構わへんやろ。・・ええな?いきなりこんな状況や!自分の命最優先で張慈円狙いだけで行くぞ?!」

「おう!わかった!」

大雑把には3人の分担は決まっていた。

一人は張慈円の始末、もう一人は樋口の回収、残る一人は脱出経路の確保と苦戦している方の援護である。

しかし、髙嶺の三剣士の出現はあまりにも予想外で、潜入も察知されていたようであるし、宮コーの潜入計画が杜撰だったと言わざるを得ない。

そのうえ、宏は先ほどからこっそり試しているが、やはり通信は回復していない。

(・・・これは脱出予定のランディングポイントに迎えは無い・・・って考えるんが正解やろな・・。あのクソ女・・・!最初っからこういうつもりやったんや!俺らを嵌めて、あわよくば情報漏洩も阻止したいってか?!クソが・・!・・張慈円だけでも仕留めたいんやけど、まずはこいつら片づけてからやな・・。しかしあのクソ女、俺らにこんなことしてくるってことは、美佳帆さんらの方にもきっと手回してくるはずや・・・。くそっ、宮コーに入ったら所員がちょっとは安全になるかもしれへんって思ってたってのに!・・俺の判断ミスで、またみんなを危険に晒してしてしもうたんか?!・・・・麗華もおらんようになってしもて・・、それでも俺を信じてついて来てくれてるみんなが、また・・・!・・・美佳帆さん・・俺が戻るまで、なんとか凌いでくれ・・。・・・しかし、いまはこいつらと張慈円や!)

「くそっ!とりあえず一気に目的地まで行くで!?」

宏は内心の焦燥を打ち消すようにそう言うと、半裸の男たちは、一斉に倉庫の方角に向かって猛スピードで駆けだしたのだ。

「沙織!大丈夫ですか?!」

奈津紀が、態勢を崩して後方中返りし膝をついた沙織に駆け寄る。

「ごめんなっちゃんさん。油断しないって約束したのに・・。でも、当たってない。大丈夫・・これ飛ばしてきた・・ビー玉なんて・・ふざけたヤツ・・」

技を放つ直前に左手の九字兼定は【刀閃】の発動を止め、【不浄血怨嗟結界】を発動させていたのだ。

そう言って沙織は、左手で受け止めた透き通った緑色のビー玉を見せる。

「・・・あらかじめ練っておいたオーラをこれに込めていたのですね・・。ですから沙織の技より速く打てたのです。咄嗟にそれができるとは、侮れない者どもです・・」

未だ熱を持ったビー玉を沙織から受け取って指で摘まみ、しげしげと見ていた奈津紀は、久方ぶりの敵が、改めて強敵だと認識しなおしていた。

(なにしろ、殺すつもりではない一振りだったとはいえ、宮川佐恵子の戦意を断つために放った一撃を受け止めた者の仲間です・・。しかし、御屋形様を落胆させたくはありませんし、呆れられるようなことがあってはなりません)

奈津紀が、そう決心を固めていると、ずっと眼下を油断なく警戒していた香織が仲間二人背を向けて走り出した。

「奈津紀!沙織!追いましょう!奴等が!」

香織はそう言うが早いが、奈津紀と沙織の返事を待たず眼下の3人を追い、すでに駆け出していたのだ。

「わかりました。幸い相手も3人のようです。香織!周囲に敵影はもうありませんね?!」

香織の声にすぐに反応して駆けだした奈津紀は、香織の背に問いかける。

「ないわ!あの3人だけ!でも・・・でも【見】で探れば探るほど、強いと感じさせられる!みんな気を付けてください!」

香織は追う3人の背中から目を逸らさず、振り返りもせず奈津紀に応える。

「上等・・じゃない!」

奈津紀とほぼ同時に追いかけてきた沙織も、普段の顔になり駆けながら低い声で呟いた。

切り立った海岸線を疾走するする6つの影を、宮コーの衛星はしっかりと追い捉えていたのだった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 26話 達人5人とバカ1人終わり】27話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 27話 紅蓮の無理難題

第9章 歪と失脚からの脱出 27話 紅蓮の無理難題

「紅音・・・どう見る?」

丸岳貴司は、複数の衛星画像に映し出されているそれぞれの男女のことを指して言っているのであろう。

モニタの明かりだけで、管制室は薄暗く光源は抑えられている。

モニタを見ながら、上司である紅蓮こと緋村紅音に問いかけたのだ。

緋村紅音のことを名前で呼べる数少ない側近の一人が丸岳貴司であった。

呼び捨てにされた紅蓮だが、丸岳を咎めることなく組んでいた腕の一つを解きその指を形の良い顎に当て、そして前髪を弄びだす。

「あいつ等、私の【紅蓮火柱】を喰らっても死ななかったのよね。・・・このぐらいはやってくれないと・・。でも、しょせん私の敵じゃないわ」

紅音は、赤髪巻き毛を、腕組している片方で前髪を指で弄びながらも、モニタを眺めならそう言った。

「そうか・・。流石だな・・。菊沢の連中も想定以上にやるようだが・・・」

丸岳はモニタに映る達人6人の動きに感心していたが、それらを見ても事も無げに言う紅音の表情を、横目で伺いながら言う。

強がりなのか、本当に自信があるのかを確かめようとするが、紅音の横顔はセリフ以上には真剣というだけで、真意のほどは読み取れなかった。

「でも、髙嶺が押し切りそうね。・・美琴がいい所に誘い込んでくれたから、菊一は背後の上空からの攻撃を避けるので手一杯って感じね。見てる限りだと、高嶺のやつらは遠中距離の攻撃手段がたくさんあるのに対して、菊一はほとんど打つ手がないじゃない。これだと予定通り、殉職してくれそうだわ」

紅音の言った通り、モニタに映る画面では、倉庫の方角に駆ける菊一メンバーを、髙嶺が背後から一方的に追撃しているという構図であった。

菊一にとって、上空を取られ、不利な地形が延々と続く場所に誘導されたので、苦戦を強いられるのは無理もないのである。

モニタには長身黒髪ロングの女と、短髪白ファーの女が追撃しながら、時折白刃を煌めかせ、剣圧によるオーラ攻撃を行ってる。

そんな映像を3人は眺めていたが、モニタの前に座っていた女が振り返り言った。

「しかし、支社長。このまま彼らが任務に失敗してしまうと、情報が他国に渡ってしまうかもしれませんが、よろしいのですか?」

管制室のモニタの前のデスクに座っていた、少しボーイッシュな短髪黒髪の女性が、その魅惑的なアーモンド形の目を、後ろの紅音に向けて問いかけてきた。

モゲたちと話していた時の口調とは、まるで別人の猫柳美琴である。

「よろしくないわよ。そうね・・美琴には言ってなかったわね。今から美琴に出動してもらうのよ」

「い、いまからですか?」

美琴は、紅音の突然の言葉に少し驚いた様子で聞き返した。

少し困惑しながらも、その凛とした表情には、先ほどまで語尾ににゃんにゃんと言ってた面影は全くない。

細身であるが、流線型の猫のようにしなやかなボディラインで、どう見てもスーツを着こなした、デキる女そのものである。

「ええ、そう。今からよ。実はもう用意してあるの。予定が変わるかもしれないから美琴には言ってなかったのよ。屋上に高速ヘリを用意させてあるのわ。服も装備もヘリにあるから着替えながら飛んでちょうだい。追い風だし1時間もかからないわ。燃料も以前偵察で飛ばしたときに現地に置いてきてあるから、十分往復できるはずよ。到着したら、そのままヘリを待機させてディスクを回収して、重工業の方へディスクは持ち帰らず、この屋上に帰ってきなさい。いいわね?・・・香港の奴等もいまさら追加人員が来るとは思ってないわ」

いきなりな上、結構高いハードルの命令を、紅音はさらりと言ったのに対し、美琴は少しだけ困惑顔のままも、素直に返事を返した。

「そうだったのですね。・・・わかりました」

夜が明ければ普通に出勤で、仕事も山積みの美琴であったが、部下のスケジュール管理などまったく気にしていない上司の勅命で、いきなりハードスケジュールになってしまった

「ええ、お願い。美琴の力があれば、髙嶺や張慈円がいてもディスクを奪い返すなんて造作もないでしょう?」

美琴の返事を聞き満足そうに頷いた紅音は、機嫌よさそうに言う。

「はい。彼らを殺せと言われたら、大変ですが・・、ディスクを奪い返すだけであれば、おそらく可能です」

美琴はなんてブラックな職場なの・・と思いながらも、紅音に合わせて返事を返す。

「・・・ついでに樋口のカスも始末できない?菊一が捕らえてくれればいいと思ったんだけど、今見てる限りじゃ無理っぽいし、・・・・どう?もう捕えなくていいわ。殺してきて?」

すると、すでに困惑気味の美琴に、紅音は更に倍プッシュで要求を上乗せしてきた。

組織や上司には、できるだけ従順でありたい美琴であるが、さすがにその言葉には目を見開き、反論しかけるが、言葉を選ばなくてはと思い、少し間を置いてから紅音に向き直った。

「・・・彼ほどの能力者をついでに殺す・・ですか・・。・・・お言葉ですが、私ではおそらく樋口常務には歯が立たないと思います・・」

本当に樋口の始末までするのであれば、一対一では無理だと美琴は悟っていた。

しかしそれでも、樋口を始末することが優先事項として高いのであれば、それなりの人員が必要であるという思いから出たセリフであったのだが、美琴のセリフは、直属の上司である紅蓮の気分をかなり害してしまったようだ。

「はぁ?・・やるまえから何言ってるの?」

美琴は、紅音のセリフに空調の効いた薄暗い管制室の温度が、一気に上がったかのような錯覚に陥る。

しかしこのままでは、ほぼ勝てないことがわかっている敵と戦わされた上、ディスクも奪われ、自身も殺されるか、捕まり口を割らされる為、拷問を受けてしまうだろう。

どちらの可能性も高いことがわかっている美琴は、必死で言葉を探した。

「も、申し訳ありません。ですが・・・樋口常務とやり合うとなれば、私だけでは・・、それにあの雷帝張慈円もいます・・見つかれば私如きではとても・・。逃げるだけならともかく、戦うとなれば支社長にご同道をお願いしなくては到底太刀打ちできません・・」

空調の効いた管制室で、美琴は汗を流しながら必死に言葉を選び、紅音に訴える。

「私は行けないわよ。私が関与してるなんて知られるわけにいかないじゃない。美琴の能力なら見つからないで近づけるでしょ??見つからないってことは、攻撃でも先手を打てるってことじゃない。不意打ちの一撃で殺せばいいんだから楽勝でしょ?」

(・・・そんな・・。それなら誰にでも勝てるってことじゃない・・。そんなわけないのに・・)

そう思っている美琴の心中を察したわけではないが、紅音は「うん」と言わない美琴にだんだんとイライラしてきている様子になり、その表情を険しくさせつつある。

「申し訳ありません・・・。・・わかりました。お約束しなくてもいいのであれば、やるだけはやってみます。しかし・・・樋口常務と戦えばディスクを再度奪い返されてしまう可能性が高いです。・・それでもよろしいでしょうか?」

紅音の危険になりつつ様子に、美琴は覚悟を決めた。

断ればここで殺されるかもしれないが、もしかして上手く行くかもしれないというほうに掛けたのだ。

「だからよろしくないって言ってるでしょ?奪い返されるなんてダメよ。きっちり消して、ディスクも持って帰ってきなさい」

しかし、覚悟を決めた決死に近い美琴の言葉でも、紅音の我儘は止められない。

一切冗談を言っている様子のない紅音のセリフと表情に青ざめた美琴が、チラと紅音の背後に立っている丸岳貴司に、助けを求め一瞬だけ視線を飛ばす。

「紅音・・。無理を言ってやるな。・・樋口の能力と、美琴の能力を考えれば、難しいはずだ。ここは隠密行動が必要な場面だろう?・・美琴にはディスクの回収に専念させてやろう?そもそも美琴はそういう能力に特化しているんだぞ・・・。それに美琴が捕まり、正体が知られれば、結局紅音の関与を疑われることになるかもしれんのだぞ?・・・樋口を見逃しても、ディスクさえ奪えば取引は成立せんはずだ。むしろ、ディスクを奪われた樋口こそ、取引先には随分非難されるだろうな」

美琴の視線を受けずとも、助け舟を出すタイミングを計っていた丸岳は、紅音の背後から慎重に声をかけ窘めた。

「・・それは避けたいわね・・・。ふん・・・まあいいわ。じゃあ、美琴、ディスクの回収を最優先にしてちょうだい。最悪それでも取引は完全に阻止できるしね。・・・・樋口の始末は次回にするわ」

丸岳のセリフに、しかたないわね、と言った表情の紅音は、かなり妥協して美琴に言う。

「あ、ありがとうございます。ご配慮に感謝いたします」

青ざめた顔のまま、美琴は大きく息を吐いて安堵しているのを知られないよう、頭を深く下げ感謝の言葉を紅音に返した。

宮コー十指にカウントされていないアウトナンバーの樋口だが、その実力は折り紙付きで、慇懃で陽気な口調からは想像もできないほど、冷徹で残忍な能力者として知られていたのだ。

「いいのよお礼なんて。その代わり失敗は許さないわよ?わかった?・・わかったのなら、もう行きなさい」

そう言われると、顔をあげた美琴はそそくさと立ち上がり、紅音と丸岳の横を抜け管制室の出口に向かう。

「美琴、慎重にな。誰にも気づかれんようにだけ気をつけろ。もし見つかっても戦おうとするな。いいな?美琴なら見つからんとは思うが、見つかっても、逃げることを最優先にしろ」

丸岳は美琴が通り過ぎようとしたときそう声を掛けると、美琴は小声で「ありがとうございます」といい、丸岳に僅かに笑顔を向けて目礼すると足早に部屋から立ち去って行った。

「ふん・・・、丸岳くんがモテるのもわかるわね・・・。まあいいけど・・。じゃあ、私も、はなが待ってるから、行くわ」

丸岳とはそういう関係では無くなってから久しいというのに、かつての恋人がほか女のことを気遣っているのが感に触ったのか、紅音は面倒くさい女の一面を少しだけ覗かせぼやいた。

丸岳は紅音のことを熟知しているので、そんな態度や様子を追求せず、これから紅音がしようとしていることを素直に心配し口にした。

「相手は4人もいるが・・・、はなもいるし紅音なら大丈夫だな」

丸岳は紅音の背に、そう声を掛ける。

「随分違うじゃない。ふん・・まあその通りよ・・大丈夫。・・問題ないはずよ。ノープロブレム。・・いま見た菊沢宏達より嫁のほうがずいぶん弱いんでしょ?ラックショーよ。じゃあ、いってきまーす」

丸岳の言葉に紅音は振り返って、不機嫌そうな様子で返事をした。

「おいおい・・どう・・?」

「すぐ終わるって言ってるの」

丸岳は急に投げやりになった紅音に心配そうに言うが、紅音は言葉を遮り、振り返ると、腕を開き、首を傾げ、何か問題でも?といった風な様子で丸岳に一歩詰め寄る。

かつての恋人が美琴に助け船を出したのが、実はけっこう気に障ったのか、紅音はすこしイライラしている様子だ。

「しかし、紅音・・。屋内だからな・・。紅音の真骨頂である強力な技は使えんだろう?それに、あまり会社を燃やされても困るぞ・・?警察やメディアには口止めできても、見た目に燃えてしまうと、いまは誰でも動画を撮れて、アップできてしまうからな・・。そのうえ、菊沢美佳帆達の能力も、おそらく感知系だと分かっているだけで、ほぼ不明だ・・。仕事では何度か戦闘した報告が上がっているが、肉体強化以外の能力はおそらく通信や探索能力があるぐらしかわかっていない。紅音は確かに強いが、どんな相手でも油断するべきではない。・・・・言うと怒るから言わんかったんだが、紅露や松前が戻るまでまったらどうだ?」

それに、先ほど北王子公麿、稲垣加奈子、神田川真理にも仕留めきれず逃げられたではないか。とまで言いたかったが、紅音の性格を考慮しはっきり言えないでいると紅音のほうが丸岳を納得させようと口を開いた。

「・・・ていうか、はなもいるのよ?実際二対一だから大丈夫だって。それに、待ってられないわよ。松前達が七光りを連れて帰ってきたときにはもう終わらせておきたいのよ。菊沢の嫁を始末するのを、あいつに知られたら絶対邪魔するでしょ?・・弱っちくなってるあの女に暴れられたら、ついうっかり殺しちゃうかもしれないじゃない?」

「新参者である菊一の者達を始末してしまうのには反対せんが、・・紅音の匙加減に任せると言ったものの、本家の人間の弑逆は、いまはまだ諸手をあげて賛成はできんな・・」

宮川家の一族を、しかも直系の娘である宮川佐恵子を殺してしまうと、紅音に降りかかる火の粉も払いきれないものになると分かっている丸岳は、神妙な顔つきでそう言うと、じっと紅音を見つめた。

暫く二人は無言でいたが、紅音が目を逸らした。

「・・・丸岳くんがそう思ってるのは知ってるわよ・・。それに私もわかってる」

「・・そうだな。余計なことだった。すまない」

紅音は丸岳の懸念と、自身の身を案じてくれているのがよくわかり、はぁ・・とため息をついた。

「・・・・わかったわよ。慎重にいく。七光りにも短気をおこさない。ピンチになったら連絡する。・・これでいい?」

丸岳の真摯な表情に紅音はやや折れて、少しだけ安心させるような口調で言った。

「ああ、・・わかった。気をつけろ。なにかあれば知らせてくれ」

「ええ、何かあればね。丸岳くんもそっちの様子ちゃんと見ててね」

丸岳は紅音のセリフを聞き、幾分表情が和らぎ、紅音も僅かに表情を緩めて、丸岳に言う。

「わかった。1時間もすれば美琴も作戦に参加するだろう。美琴にはちゃんとした指示を送ってやらなければならないしな」

「そうね。お願い。じゃあ行ってくるわ」

そう言うと紅音は、宮川コーポレーション関西支社の上階部分、菊沢美佳帆達が寝泊まりしているスイートルームがある15階に向け、ついに歩き出した。

現在午前4時30分を少し回ったところである。

菊一の主戦力である宏達は遥か日本海の孤島におり、佐恵子の側近二人も先ほど追い払ったところだ。

よっぽどの早起きの習慣がない限り、ほとんどの者が寝静まっている時間、宮コー最大戦力の一人である紅蓮が、美佳帆達を始末すべく動き出したのだった。




紅音を見送ると、美琴が座っていた椅子に腰かけ、長髪を後ろにかき上げるようにして額を撫でる。

「・・思い通りにはいかんものだ・・。紅音も・・そこまで無理せずともいいのだが・・」

誰ともなしに独白した丸岳だったが、すぐに表情を引き締めて目の前のモニタに目を移す。

「しかし、すごいな・・。・・こんな奴等が野に潜んでいたとは・・。能力者捜索ももっと力を入れねばならないということか・・」

そう言うと、丸岳はスマホを取り出し、紅露にコールした。

もし菊沢美佳帆たち4人が、いまモニタ越しに見ている菊沢宏、豊島哲司、三出光春とまではいかずとも、もし一人一人が彼らの6割ほどの戦闘力があるのであれば、いくら紅蓮でも一筋縄ではいかないだろうと感じたからだ。

紅音は転生炎で全快しているとはいえ、もともと屋内戦闘では使える技能は制限されるし、所有している能力的に周囲に気を使いながらでの戦闘では、本領が発揮できない。

紅音の真骨頂は、多彩な高火力技能もそうだが、自身周囲に常に熱をまき散らし、近くにいるだけで敵に継続ダメージを与え続ける広範囲の地象効果が凶悪なのである。

抵抗力の弱い能力者や、一般人であればまず10秒も持たず全身火傷を負い、1分もすれば呼吸もままならないまま、カリカリに干からびてしまうだろう。

宮コー十指に数えられ、紅蓮という二つ名持ちの紅音は、過信もすぎ油断も多いが、本当に恐ろしい能力者なのである。

攻撃的な技能を多数有し、遠近オールマイティなバランス型の能力者である紅音は、オーラを纏った徒手空拳だけでも、ほとんどのものを圧倒するだろうが、今回の相手は能力がよくわからない4人である。

一人ぐらいは紅音の能力に対応する能力を持っているかもしれないし、たとえ個々の力が弱くても、連携を取り合う相手は厄介だということを丸岳はよくわかっていた。

(自信があるのにも困ったものだ・・。逃げ去った稲垣や神田川が加勢に現れたら、紅音の方こそ一気に窮地に陥ってしまうかもしれないぞ・・)

スマホを片手に紅露が出るまでのあいだ思案を巡らせていると、どんどんと不安要素が膨らんできたところで、耳元のコール音が鳴り止んだ。

「紅露か?そちらの首尾はどうだった?・・・いや、いいんだ。それでかまわない。それよりとにかく支社に戻ってきてくれ・・・。ああ、支社長には俺から事情を説明しておく。まかせておけ・・。それより松前も連れてはやく帰ってきてくれ・・・。ああ・・・そうだ。・・・そうだ。・・・・たのんだぞ」

丸岳は、通話を切りスマホを胸ポケットにしまうと、ふぅと溜息をつき座りなおす。

そして内ポケットから電子タバコを取り出して咥えると、椅子の向きを変え、脚を組んだ。

「さあ、せっかく披露してくれているんだ・・。ここでくたばるなら、必要ないが・・もしかしてということもあるからな」

丸岳は、そう呟くと今後敵になるであろう者たちの動きを、モニタ越しに観察し出したのだった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 27話 紅蓮の無理難題終わり】28話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 28話 忘れられぬ刻印

第9章 歪と失脚からの脱出 28話 忘れられぬ刻印


水色のノースリーブブラウスに白のフレアミニを着ているが、スカートは大きく縦に切裂かれ、白地に黒い刺繍が施されたショーツは、右足首のところでシュシュのようにくるりと丸まっている。

目隠しをされ、強制的に膝をつかされた格好でじっとりと汗ばんだ身体は、きつく戒めが施されていた。

強制的に突き出されたヒップには、無遠慮な手がその陰唇や陰核を弄りながら、ひんやりとした媚薬を塗り込んでくる。

その作業は念入りで厭らしく、唇や核は言うに及ばず、膣内や肛門までも這いまわり、念入りなことこの上ない。

先ほど何度も玩具で果てさせられたというのに、すでに熱く濡れたそれらに執拗に媚薬が塗り込まれる。

股間周りや体内では、ひんやりとスース―する感覚から徐々にジリジリと焼くような痺れた熱を帯び出し細身の熟れた肉体を焙りだす。

思い通りにはなるまいと、口を真一文字にきつく結ぶが、焼かれるような心身の高揚は押さえきれず、意図せず広げてしまっている鼻腔での呼吸が荒くなってしまう。

ドギュンドギュンドギュンドギュンドギュン!

突如、電動工具を改良したのであろう卑猥な機械音が背後から響き、驚きからビクンと身を固くしてしまったその時、背後から声を掛けられた。

『クールな美人秘書さん・・。覚悟するんだな』

機械音が止み低く好色そうな声でそう声かけられると、棒状のモノが、すでにしとどに濡れた陰唇を割って侵入してきた。

グチュッ!

『っ!!』

グチュチュチュチュ・・・

ズブリッ!!

・・・ぐぃ・・ぐりぃい!・・ぐりぃい!

『!!!っ!!』

ガシャンッ!ガシャッ!!

体内に無遠慮に侵入してきたモノは、柔らかくそれでいて芯に硬く、普段は下半身の奥に秘めている女の急所まで達し、ぐりりぐりりと最奥を甚振るように擦り上げてきた。

何とか悲鳴を堪えたが、静的な動作にもかかわらず予想以上の快感が流れ込んでくることに細身をねじり、逃れようと身体をよじってみるが、戒めの金具が派手にぶつかる音が無情に響くだけである。

木製のギロチン板に首と手を一直線上に拘束され、手こそ床に着いていないが、四つん這いのような屈辱的な恰好で、はぁはぁと熱い吐息を吐きだして快感をやり過ごそうとする。

侵入してきているモノが本物の男ではないのは確実だが、それでも、否それだからこそ屈辱的でもあった。

そんな疑似のモノでも、女にとっては効果はてき面である。

さきほど塗り込まれた媚薬がもう効果を表し始めたのか、股間はさらに熱を帯び、突起を尖らせ陰唇を開き、涎をますます滴らせだしている。

刺されたモノの先端が最奥を確認するかのように、何度か確かめるように動かされると、またもトリガーが引かれた。

ドギュンドギュンドギュンドギュンドギュン!

『っく!かはぁ!・・・っぐ!!!・・・っ!っ!!!』

悲鳴を上げかけた口を固く結び、これ以上嬌声をあげて男を喜ばせないよう下唇に歯型がつくほどきつく噛みしめ、痛みで濁った甘快感を打ち消そうと試みる。

しかし、背後で玩具を操る男には、白い細身に汗で光らせ、肌を粟立たせている女が快楽に身を墜としかけている様は、手に取るようにわかってしまっているようだった。

『ここが好きなのだろう?女のここは、どいつもこいつも同じだ。普段は澄ました顔で、そんなことに興味なんてありませんみたいな風を装ってはいても、下の口の好物はみんな似かよっている。・・・ははは、そんなに美味いか?・・おいおい、そんなに涎を飛ばさんでも、まだまだたくさんあるからな。慌てるな・・慌てるなというのに・・そんなにがっつくとはしたないぞ?はっはっはっは・・』

玩具を操る男の嘲笑に、心底嫌悪感が沸き上がるが、同時に身体の中心からは、その嫌悪感を糧として、どくどくと熱を帯びた恍惚の感情が湧き上がってきてしまう。

女という生き物の性、恋人や伴侶からは決して与えられない領域の甘美味・・。

真に深い快感は、心の親しい人では与えられない。

『くふぅ!!・・・っほっ!ぁあ!』

『くっくっく。我慢して、俺を楽しませる時間を伸ばしてくれているのか?』

ドギュン!ドギュン!ドギュン!ドギュン!・・・

自身の身を蕩けさせ、規律正しく体内をかき回しているモノの音、封じられた視界、屈辱的な格好で拘束された身体、憎むべき仇によって与えられる屈辱と快感・・。

脳内から止めどなく分泌される物質をコントロールできず思考が停止しかけるが、裏腹に身体の感覚はどんどん研ぎ澄まされていく。

声はできる限り抑えているが、身体の反応や発汗などで、はしたなく感じてしまっているのは、背後の男には完全にバレてしまっているだろう。

男は突き込んだ棒状のモノのスイッチを一度きると、角度を鋭く変え、吊り上がった目を細め、口角をあげてほくそ笑んだ。

『ひぅ!!あっく!ああっ・・!あっくぅう!そこはぁ!ダメ!・・だ!やめ・!て・・・!』

動きを止めた棒状のモノが、陰核の裏側にあるざらざらとした部分を、ぐりぐりと甚振るように陰核の土台を内部から押しつぶすように突き上げてきたのだ。

『そうは言ってもなぁ・・下の口はやってくれと言っているように聞こえるぞ?』

背後の低い声が愉快そうにそう言って笑うと、再度モノが動き始める。

ドギュン・・・ドギュン・・ドギュン・ドギュン!ドギュン!ドギュン!・・・

再び激しく前後運動を繰り返す男性器を模したモノは、恥ずかしいほど濡れぼそった膣内で人間では不可能な速さで暴れまわりだす。

『うっ!!・・・うぅっ!・・やめ!・・・動かさないでっ・・う、動かすなっ!!』

陰核の裏側から子宮口の入口に当たるまで、オモチャの先端が正確に肉壁を擦り上げてくる。

「ははは!動かすとどうなってしまうのだ?」

『ああはぁ!!あはっ!!・・ひぅ!!ひあっ!ぐぅ!ぐぎいっ!!やめろ!!もうやめろぉ!!・・動かすな!動かすなぁ!!ひぐっ・・!っとめてっ!!もう十分辱めたでしょうっ・・くぁ!・・これ以上っ!やめてぇえ!』

背後からの質問に応える余裕などない。

感じている様をできるだけ見せないように強気を見せてみるが、それが全く逆効果なのはわかっている。

しかし、それでもこの男が与えてくる快感を従順に受け入れるわけにはいかない。

ドギュン!ドギュン!ドギュン!・・・

その単調ながらも圧倒的な速度での往復運動に、こらえきれず普段は言わないような強い口調で可愛い声をあげる。

『あん?何と言っているのだ?上の口と下の口では意見が食い違っているようだな?こちらに言う前にもう少しそっちで話し合いして意見をまとめてから言え』

しかし、背後からは愉快そうな笑い声混じりで罵倒されてしまう。

止めてくれる様子もない男のセリフに、ますます脳が反応し子宮が収縮してしまう。

激しくガチャリガチャリと拘束具が音を立ててしまうが、戒めはもちろん緩む気配もない。

無駄だとは分かってはいるが、全力で肉体強化をし脱出しようと試みるも、せいぜい生身の屈強な男並みのパワーしか出せない自分の強化能力を脆弱さを再認識させられただけだった。

ガチャガチャと鳴る音が無駄だ無駄だと言っているように聞こえただけで、やはり戒めはびくともしない。

『く、くそっ!・・ひ、卑怯者っ!・・解けっ!!・・うっ・・っく・・こんな機械っ!!・・・こんなモノで!・・こうやって縛らないと・・!女一人っ!相手にできないっ・・!ほあぁ!!っく・・のですか!!!・・うぐぐぐぐ・・・ひぃっ!!も・・もう嫌っ!!』

強化能力を拙いながらも全力開放して使用したため、抵抗する体力をいたずらに無駄にしてしまっただけだった。

『くははは、非力なバカ牝め。もう終わりか?もっと抵抗して楽しませて見せろ?・・・耐え澄ましていても貴様は先ほど何度も昇天した顔を晒していたのだぞ?さあ、また楽しませてもらおうか!』

『あっあああっ!!いやっ!!やめてっ!!止めてっ!!・・い・・いや!!貴方ならっ!こんな拘束具無しでも私を抑えつけられるでしょう?!っいや!っくぅう!!やめてぇっ!』

膣内を激しく往復しまくるオモチャに、細身とはいえ豊かなヒップと括れた腰を卑猥に捩りながら、オモチャで与えられる屈辱の高みへ無理やり押し上げられていく。

『ははははっ。非力な女が無駄な抵抗をしているところが面白いのだろうが?嫌がっても我慢できんだろう?普段がクールに澄ましているぶん、無様に感じ始めると滑稽さが際立つな!ほら、もう一度さっきの下手くそな強化をやって俺を楽しませてみろ』

「ああああっ!!うるさいっ!・・・言われなくても!!・・・っ今度は本気で!!・・い、いや!っくっ!!?ちょっ?!!・・だっ!ダメっ!!これだめっ!!・・か、解除!だっ!だめっ!!・いっ!・・いやっ!そっ・・そんなっ!」

再び肉体強化をした瞬間、全身の筋肉が強張り突き込まれた棒状のモノを激しく下の口で食締めるように収縮させてしまう。

規則的な機械音を発していた器具が、膣の締め付けで音が鈍る。

どぎゅ・・ん!・・どぎゅ・・ん!・・ど・・ぎゅん!どぎゅ・・・ん!どぎゅんどぎゅん!ど・・ぎゅん!

『っひぁ!!だめだめっ!!・・か、いじょ!うぐぅうう!!いやっ!!いっ!・・・っい!逝っ!・・・・っくぅう!!!』

肉体強化で筋力を収縮させてしまった勢いで、ギリギリ我慢していた絶頂を自ら思い切り噛みしめてしまったのだ。

我慢していたぶん、思考が白くなり目の前がスパークする。

「へたくそ。マヌケ女め」

背後から嘲笑交じりの声で罵るのが聞こえてきたが、反論することなどできるはずもない。

言葉通りマヌケであるし、そんな余裕もない。

半分自爆の深い絶頂の波に翻弄され、涎を垂らした顔をあげて仰け反る。

容易に開放してくれない絶頂の波に身体は何度もわななき、後頭部をギロチン板で打ち付けるほど仰け反りを繰り返して髪を振り上げ、涎や、滴る汗が髪の毛を伝い迸り、天井に届かんばかりに放射状にまき散らし昇天する。

『逝ったか・・。さて派手に逝ったところで休んでいる場合ではないぞ?少し早いが、神器を挿入してやろう。くくく、逝きマンコにはさぞキツイだろうな。どれ・・』

ガチャガチャと拘束具を鳴らし、絶頂の余韻を受け止めて戦慄いている身体を逃がさぬよう腰が背後からがっちりと掴まれ背後に引き寄せられる。

ぐちゅ・・くちゅちゅ・・!

『はぁ!!いあ!いや!いやぁ!!!やめてぇ!逝ったからっ!きついっ!逝ったからぁっ!』

果てたばかりの無防備な膣穴に、先ほどのモノを上回る太さと長さの弩張が侵入してくる。

制止の懇願はもちろん聞き入れられず、悲鳴を上げているのを楽しむかのように、暴れる身体を抑えつけ、キツイ個所にわざと当たるようにえぐるように擦りつけながら侵入させてくる

ぐちゅうう!!

『ひあああっ!』

隠すこともできないむき出しの弱った急所に、先ほどのモノよりも破壊力のある、しかも先端から女にとっては完全敗北させる液体を発射する銃口が、女の子宮口にぴったり合わさるようにあてがわると、ぐりぐりと無遠慮なディープキスしだす

膣内、女のコアへの回避不可なゼロ距離射撃の可能性。

自尊心を削り、快楽だけを与えてくる疑似のオモチャとは緊張の次元が根本的に違う。

玩具の銃と本物の銃の差だ。

『はっ!!っは!っは!・・いて・・!ぬ・・いて!ああっ!おねがい!・・って!・・・ぬいてえええっ!』

憎い仇に銃口を突きつけられ、極度の緊張から浅い呼吸を短くしながらも、全身に鳥肌を浮き立たせて懇願する。

しかし、男は逃がさぬよう女の腰をぐいと引き、コアの入口に銃口を押し付けると、落ち着き払った口調で言う。

『お前は気持ちよくなっただろうが、俺はまだまだこれからだ。いいか?俺の一物で逝ったら褒美をやろうではないか』

ぐちゅぅう!ぐりぃいい!

男はそう言うと、おんなのヒップに腰を押し付けるようにして中を擦り上げる

「あぐぅう!!ああっん!・っくぅ!・・ほっ・・うび・っ?」

『そうだ。褒美だ。中で出てやろう・・』

『いっ!いやっ!!それだけは許してくれるって!!』

最初に犯されたときに、それだけは許してほしいと聞いてもらったのだが、舌の根も乾かぬうちに反故にしようとしている男に女は憤る。

『ああ。おまえが逝かなければな。約束は守るかもしれんし守らんかもしれん。ははははっ。どうしてやろうか・・』

しかし、男は悪びれもせずいい加減なセリフを言う。

女はそのセリフを聞き、反射的に肉体強化をして逃げようしてしまい、またもや先ほどと同じく肉棒を下の口で噛みしめてしまい、内側へと筋肉収縮した膣壁に押し込まれ男の肉棒が子宮口へ押し付けられる。

『ひぎぃ!?・・っか!っは!・・・っい!だめっ!!あああっ!』

『ははははは、反射的にやってしまったのか?セルフ受精か?学習できんやつだな。はははは・・ん?・・頑張るではないか。そらっ!』

ずちゅっ!ばちんっ!

反射的に行ってしまった肉体強化で不覚にもまたもや逝ってしまいそうになる。

しかし、口をパクパクとさせ息浅く呼吸しながらも耐えていたのだが、男はそんな女を嘲ると、弩張りを膣内ギリギリまで引き抜き子宮口に再び突き刺した。

「きゃっ!!!っあああ!!!・・ぐううっ!!」

男は一突きしただけで、にやにやと女の様子を見下ろし見守っている。

『どうだ?ん?我慢できそうか?くくく』

『っっ!っっ・・!っ!!・・・・っ!』

応える余裕など有るはずもない、例えるなら電柱のような細い円柱の頂上で目隠しされ、爪先立ちで落ちないように耐えている状況だ。

ぶるぶると全身を小刻みに震わせ、少しでも気を抜けば襲い掛かってくる並みに歯を食いしばり耐えている。

ずちゅぅ!ばちん!

『ほぁ!!!・・っ!っ!!!・・・!っっっ!!・・・ぐっ!!っっ!』

予告なしで再び一突きが加えられ、そのままコアをグリグリと甚振られる。

「くははははは!堕ちんのか?楽しませてくれる!」

拘束した女は全身をじっとりと汗で光らせ、呼吸も忘れ逝かないようにぶるぶると小刻みに震え快感を耐えてている。

必死で耐えている女の様子がおかしくなったのが、男は意地悪そうな笑みを浮かべ腰を動かし出した。

ずちゅっ・・・!ぐちゅ・・!ずちゅ・・・!ぐちゅ・・・!ずちゅ・!ぐちゅ・!ずちゅ・!ぐちゅ・!

最初はゆっくりと、じょじょに速度をあげ、最後は工具によるドリルバイブ並みの速度でピストンをしだす。

ずちゅぅ!ばちん!ずちゅぅ!ばちん!ずちゅ!ばちん!ずちゅ!ばちん!ばちん!ばちん!ばちん!ばちん!ばちん!ばちん!ばちん!

この動きに女が果てるのを耐える術はもうはない。

『はぁっ!!・・うっくぅぅっ!わたしをおもちゃなんかにっ!!・・ああっ・・そんなっ!・・・・っだめっ!すぐっ!!・・なんでこの身体はっ!!耐えなさいっ!・・どうしてっ!こんな下品な男にっ!!っああ!だめなのに!!・・・ひっ!きゃっ!!・・だめっ!またっ!!もうっ!!』

ピストンの途中からもうすでに耐えられない水域まで来ているのは女にも分かった。

生殺与奪に近いことをを握られていることの興奮・・。

憎い仇の男性器で無理やり押し上げられる屈辱に身を焦がし出す。

「クソ野郎に与えられる快感は堪らんだろう?それに何度も教えただろうが?・・逝くと鳴け!言わんと中に出すぞ?!逝っても出すがな!」

「っかっ!?それだけはっ!!だめっ!でもぉっ!!・・・ああっ!!ぃくぅ!っああ!!・・・ぃくっいくっ!・・っ逝っくぅうううううっ!!!」

どっちにしろ出されるのだが、興奮と快感に塗れた頭ではよくわからなくなった女は、男を喜ばせるセリフを絶叫し、鼻、口、尿道、膣という四つの穴から液体を迸らせながら大きく逝き果てた。

絶頂の余韻で、びくんっびくんっと、その逆エビ反りポーズを3度、4度と大きく繰り返してから、ガチャリと拘束具の金属音を鳴らして力尽き気を失った。




【第9章 歪と失脚からの脱出 28話 忘れられぬ刻印終わり】29話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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