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第8章 三つ巴 40話 薄幸の佳人に訪れる幸福 

 【第8章 三つ巴 40話 薄幸の佳人に訪れる幸福 】

「ねえ、グラサン」

後部座席の真ん中に陣取り胡坐をかいて座っている稲垣加奈子が、猛スピードで車を走らせている菊沢宏に運転席にもたれるように近づき声を掛けた。

「・・・なんや?」

どこか心ここにあらずといった様子で、話しかけるなと言わんばかりの宏に、加奈子は眉を顰めて、口を尖らせながらも続ける。

「えっーと・・・、名前がわかんない・・。・・あのハリウッド個性派俳優みたいな濃い顔の人と、薄幸そうな線の細い美人さんは・・?」

「なんやねんそれ」

加奈子の問いかけに宏はぶっきらぼうにそう答えた。

それでも、しばらく宏の返答を待っていた加奈子であったが、これ以上の返事はないものだと判断し、右隣に座っている豊島哲司に対して、振り返り気味に顔を向けた。

「三出光春と伊芸千尋な。通称モゲとお嬢や。ちゃんと覚えたってや。・・銀獅子の加奈子さん。力を開放すると髪の毛が発光しよるんやってな?アリサも言うてたで・・。港の倉庫で剣士のねーちゃんと戦ってるときもそうやったし・・その光るんは・・加奈子さんの能力に関係あるんかいな?」

加奈子が後部座席のど真ん中で胡坐をかいて座っている為、腕を組み巨体を隅にへばりけて窮屈そうに座っている哲司が宏の代わりに答えた。

「変な二つ名付けないでよ。・・・それより、その二人はどこ行ったの?あんたが会議室に来た時からいなかったじゃない。てっきり先に車に乗り込んでるかと思ってたんだけど?」

後ろから宏の肩口まで詰め寄っていた加奈子が、哲司の名付けたあだ名に気に入らなかったのか、「ふん」と鼻を鳴らし、どかっ!と勢いよく後部座席に戻って座りなおすと、左隣に哲司より窮屈そうに座っている北王子公麿に聞き返す。

「それはですね。僕もずっと会議室で【自動絵画】をしてたもので、そのあたりの記憶は・・」

加奈子が大きく場所を取っている為、哲司と同じく窮屈そうな恰好になっている画伯こと北王子公麿は、いつもの調子で光るメガネをくぃ!と持ち上げ話し出したのだが、加奈子は公麿が何も知らないと即座に判断したようで、逆に座っている哲司のほうに再びぐるりと顔を向け視線だけで説明を催促する。

「・・さっきは急に飛び出したせいで説明できへんかってんけど・・」

哲司は唾を飲み込み、少し間を置いて、加奈子に切り出し更に続ける。

「麗華も行方不明なんや。モゲとお嬢はさっきの湖岸付近でそのまま麗華の捜索に当たってもろうとる・・・」

哲司がそう言うと、加奈子はその長い睫毛に彩られた大きな目を更に見開き、明らかに顔色を変えた。

「支社長はそのこと知ってるの?」

「いや・・、さっき会議室で言うん忘れとった・・・。やっぱ言わんと不味かったんか?・・どうしても、事務所の時の癖が抜けんわ・・。所長の宏がここに居るし・・報告したつもりになってもうてた・・。いつもは美佳帆さんにさえ報告しとったら・・・それで…済むはなしやさかい・・・」

大きな体で窮屈そうに車の隅に座っている哲司がしどろもどろになりながら、加奈子に説明しようとしていたが、加奈子はすでにスマホを取りだしコールしていた。

支社長こと宮川佐恵子ではなく、もっとも頼りになる同僚の神田川真理にである。

「あんたデカい図体してなに細かいこと気にしてるのよ!ったくもう!私たちが怒られるじゃない・・」

真理が電話に出るまでの間に大きな哲司の肩をバシン!と叩いて悪態をついたところで、真理とつながったようだ。

加奈子は自分が直接報告するより、真理に伝えて支社長に報告してもらうほうがずっと穏便に済むことは3人の長い付き合いのなかで身に染みてわかっていた。

「わたしもーと思ったんだけど、副所長に美佳帆さんが通信できる状態にあったらスノウちゃんの出番だからって、だから私がスノウちゃん守るの!」

突然、更に後ろの後部席に座る二人の斎藤のうちの天然のほうが、普段より幾分だが緊張感のある声色で、隣に座るもう一人の斎藤・・スノウを庇う様にして言った。

「ええ、アリサ。頼りにしてるわ。・・それにしても私が自宅療養している間に、随分と状況が変化してるし、緊迫してて驚いたけど・・。まさか、みんな宮コーの社員になっちゃってるなんて・・。おまけに、聞いた通りの話だと髙嶺剣客集団・・・六刃仙・・。時間もなくて詳しく調べられてはないけど、相当な達人たちで、今のご時世でも裏稼業じゃ忙しくしてるみたい・・・。でも、もっぱら簡単な仕事は六刃仙たちじゃなくてその門下生や部下の仕業みたいだけど・・」

見た目の顔つきはすっかり普段に戻ったスノウこと斎藤雪が、スノウを守ろうと息巻くアリサと後部座席で並んで座っている。

「スノウ。療養中に引っ張り出してすまんな。しっかり護衛もつけるから、アリサと、この怖いお姉ちゃんが守ってくれるはずや。俺と所長で突入する。その前に【通信】してもらうから、頼むで」

哲司が後部座席にいるスノウに顔を向け笑顔で頷く。

「ええ、美佳帆さんが攫われたんですもの・・どこにだって助けに行くわ」

そう力強く言うスノウの両手には、昔美佳帆から譲ってもらった鉄扇が握りしめられていた。

「ふぅ・・・。真理に言っておいたから・・・支社長に報告はしてくれるわ。それにきっと警備の人の護衛の増援も手配してくれると思う」

スマホで通話を終えた加奈子が誰ともなしにそう呟くと、哲司に向き直り食って掛かった。

「あんたねえ!ホウレンソウは基本でしょ?!支社長に報告せずに誰に報告するって言うのよ!ええ!?それに怖いお姉ちゃんって何よ?!キャバクラ嬢じゃあるまいし・・。ちょーっっっと!!」

哲司に食って掛かっていた加奈子が、突然の急ブレーキで哲司とは逆に座っていた公麿のほうに遠心力で押し付けられ、豊満な胸を公麿に押し付けてしまう。

「おおおお!」

公麿は意外なアクシデントに驚きと歓喜が混ざった悲鳴を上げ、どさくさにまぎれて加奈子の腰に手をまわし加奈子の身体を引き寄せ、公麿は鼻の吸引力で加奈子の匂いを吸い込み堪能した。

「ちょっとあんた!離しなさいよ!」

「ぐきゅ!」

双丘に顔を埋め、鼻で匂いを吸い込んでいる公麿の頭頂部目掛け、軽く肘を打ち下ろすと、奇妙な声を上げた公麿を引きはがす。

「まったく・・信じられない。真理のことばっかり見てると思ったのに・・このエロメガネ・・。見境ないのね・・」

加奈子は軽く目をまわした公麿を引きはがし、脚でドアの方まで押しやりながら、呆れ口調で呟いた。

「そんなことより、着いたで・・。こっから先は慎重にな・・」

サイドブレーキを引く音のすぐ後に、宏の殺気すら孕んだ低くドスの効いた声が、車中の面々の耳にはっきりと聞こえ、その声に車中のメンバーの顔が一気に引き締まった。

一方、大塚マンションの近くの護岸では、モゲこと三出光春とお嬢こと伊芸千尋が僅かに海の臭いが漂うコンクリートの歩道の上を、少し離れた感覚で同じ方向に歩いていた。

「やっぱりここ・・このあたりからだわ」

モゲの少し前を歩いていたお嬢こと伊芸千尋が膝を付き右手でコンクリートの歩道を撫でる。

「美佳帆さんは【残り香】ではっきり追跡できたのに・・・、たぶん麗華は目的があって移動したんじゃないと思う・・・。目的地の追跡ができないの・・。どこか希薄で虚ろな感じ・・。写メで送られた画伯の絵だとどこかにいるのは間違いないみたいだけど・・。でも・・そんなに遠くじゃなさそう。・・っ!」

片膝をついたままそこまで言った千尋が、地面を触っていた手で少しばかり汗の滲んだ額を抑えた。

「だ、大丈夫か?能力使い過ぎや!病み上がりやのに無理せんといてくれや」

普段のモゲを知るものからすれば、最高に優しい声で千尋を気遣い近づき肩に手を掛ける。

「・・・大丈夫。モゲ君・・ありがとう。でも美佳帆さんのほうには救援に向かってもらったけど、麗華の手がかりがなくて・・・それに、麗華はもしかしたら川に落ちたんじゃ・・・って」

顔を上げモゲを見上げてくる千尋の目尻には涙が溜まっていた。

「そ、そない思いつめるなや。いつも冷静なお嬢はどないしたんや?・・こういう時は俺が慌ててしもて、お嬢が手綱を引いてくれるっていうのが定番やったやろ?」

ついお嬢の肩に手をまわしてしまったのだが、その手が払われる様子がないことにモゲは少し戸惑っていた。

「そうね・・。いろんなことが起こり過ぎてちょっと頭の整理が追いついてないみたい・・」

千尋はモゲに手を貸してもらいながら立ち上がると、いつもは美佳帆にしか言わない弱気な愚痴をモゲに呟いた。

「・・・俺なんかが言うても気休めにしかならんと思うけど、何とかなる。俺は大概いろんなことやらかしてきたけど、なんとかなってきたんや。そんな俺が何でも相談に乗るし、千尋の頼みなら、なんでも聞くから」

千尋は真剣な顔でそういうモゲの顔を見つめていたが、クスリと笑う。

「ありがとう。でも、モゲ君はなんとかなってきたんじゃなくて。なる様になってきたって感じだけどね・・・」

「な、なに言うんや?俺なりに一生懸命やってるんやけど・・」

少しだけ笑顔がでた千尋に安心したモゲではあったが、密かに想っている女性からそう思われていたことに少しだけ心が不安に波だった。

「・・・定職にもつかないでフラフラしてる癖に、愛してるとか付き合ってとか・・そんな人にそう言われると女の子は不安しか感じないんだよ?・・それにモゲ君・・。実はギャンブルの借金もあるでしょ?」

「ちょ・・ちょっとだけな・・って、なんで知ってるんやお嬢?」

千尋がモゲの鼻先に人差指を付けカマを掛けただけだったのだが、モゲはあっさりと引っかかり白状してしまった。

「やっぱり・・。誰から聞いたのかは話せません。でも、滑り込みで菊一事務所に就職しててよかったじゃない?いまや特別枠で宮コーっていう上場企業の社員になれたんだし、これを機に辞めないで頑張ったらいいよ」

モゲは濃い顔付きや、ぶっきらぼうな発言で勘違いされやすいが、頭の回転はとてつもなく速い。しかし、モゲが残念な秀才だということは、彼を知る人の中では常識となっている。

我慢や協調性などとは無縁、感情を優先するあまり組織に嵌らないのだ。

「そや・・それや。俺らって給料どのぐらい入るんかいな?・・美佳帆さんかテツに聞いとけばよかった・・・。月末には入るんかいな?」

「20日締め当月25日払いよ・・。私と同じならとりあえず50ぐらいはあると思うけど、歩合や成功報酬の規定や係数もいっぱいあったから、仕事次第じゃない?でも・・・モゲ君、やっぱり返済に追われてるんじゃない・・」

宮コーに就職できたのが良いきっかけになればと思った千尋ではあったが、あんまりなモゲの質問に、ジト目で答えながら追及する。

「そ、そんなことないんやで。ちょっと気になってただけや!」

両方の手のひらを千尋に向けぶんぶんと振って否定するモゲに千尋は諦めたようにため息をついて、モゲの顔の前に人差指を立てて真面目な顔になった。

「ええ、わかったわ。冗談はこのぐらいにして麗華を探しましょ。もし川に落ちたのなら、このまま河口のほうを捜索ね。モゲ君視力強化全開でお願い」

「ああ、任せとき。お嬢はさっきから能力使いっぱなしやしな」

モゲがそう言い、河口方向に向かって歩きだしたとき、後方つまり上流側のほうからがやがやと複数の足音と照明のライトを携えた一団ががやがやと近づいてきた。

モゲは千尋を背に隠し、近づいてくる一段を警戒しつつも戦闘態勢にならなかったのは、その一団からは殺気などが感じられなかったためである。

モゲたちとの距離が5mほどになたとき、一団の先頭にいる大柄な男性が話しかけてきた。

「三出さんと伊芸さんですね?」

「そうやけど、人に聞く前におっさんらが先に名乗ったらどないや?」

無警戒にも見える態度でのモゲの一言に、大柄な男性が持っていたライトを腰に吊るし、胸の社員証を見せて頭を軽く下げた。

「これは失礼。申し遅れました。私は宮川コーポレーション警備部門の八尾と申します。神田川主任に言われて、此方のほうに向かい、お二人の指示に従えと言われております。捜索などになると聞いておりますので、それなりのものは用意しております。」

八尾はそう言うと、腰に吊るしていたライトを再び手に取ると、河口に向かって大きくゆっくりと振った。

すると、真っ暗だった河口、河のど真ん中当たりから同じくライトで応えるように変じたあった。

「船・・か」

モゲが強化した視力で、船影を認めそう呟いた。

「麗華・・」

千尋も普段は少し煩わしく感じる時もあった麗華の発言や態度を思い出した。

だが、麗華にもしかしたらもう会えないのかと思うと涙が出そうになり、ぐっとこらえる。

その時、千尋は自分の肩に回されていたモゲの手を無意識に握りしめてしまっていた。

モゲが千尋に手を握られて、顔を赤くしていた時、宮川コーポレーション5階の会議室でも顔を赤くしている人物がいた。

「ふむ・・・。聞こえなかったとは思えませんが・・?治療のお代代わりにここにいる真理君のお時間を少々拝借することになっているのです」

(くっ!・・このエロジジイ!まさかそんな約束をしているなんて!私が瀕死になってしまったせいで真理がこのエロジジイの無茶な要求を飲んだんだわ!)

「ご助力いただいたのには感謝しております!・・・しかし!・・それはあまりにも・・!そ、そうだわ・・!お金!お金でお支払い致しますわ!」

栗田教授が出されていた湯飲みで手を温めながら、顔を赤くして立ち上がり代替案を提案しようとしている宮川佐恵子を座ったまま眺めていた。

「いやぁ・・お金には魅力を感じませんなぁ・・。別段お金には困っておりませんし、私は素敵な女性に目が無くて特に、真理君のように清楚でそれでいて芯の強いしなやかな女性が大好きな・・」

「ちょっと!お待ちになって・・・!女性ね!ご用意いたしますわ!ダースで!・・・そういうのどこに注文を出せばいいの・・?真理っ!あなたのことなんだから、あなたも黙ってないで何とか言いなさい!」

佐恵子のお金という提案に興味なさそうに反応した栗田教授が言い終わる前に、更に佐恵子が次の代替案を考え、今回の景品となっている真理に声を上げる。

「・・大丈夫ですよ。佐恵子。助けて頂いたのは事実ですし、栗田教授が来なければ佐恵子も私もきっと死んでました。すごく幸運な偶然で私たちはここに座っていられるのです・・・。それに・・・、私としてもキライなタイプではありませんよ・・?」

栗田教授の隣に座った真理が、上目遣いで立ち上がった佐恵子を見上げながら恥ずかしそうにそう呟く姿を、佐恵子は細い目を最大に見開き真理を凝視する。

真理の纏っているオーラに乱れはなく、感情は正直に好意を示している。

佐恵子はあんぐりと口を開けたまま、数秒間固まり何も言えないでそのまま真理と栗田教授を交互に見比べ、何か言わなければと口をパクパクと動かしているが何も言い出せずにいた。

「真理君の同意も頂けたようですし、問題ないようですな?」

そう言う老紳士が纏うオーラも今のセリフも、全く冗談が含まれていないのを確認した佐恵子は二人を見比べ、椅子にドサリと倒れるように座った。

「真理・・。ちょっとでも嫌なことがあったら呼んで頂戴・・」

「佐恵子・・。そんなに気にしないで・・。こんなの安いものです」

真理はがっくりと項垂れている佐恵子を見やりながら、自分が誰にも内緒にしているもう一つの能力を使うつもりでいた。

それを栗田教授もいるこの場で、佐恵子に言う訳にもいかなかったが、真理から見てもこの老紳士は結構好みのタイプでもある。

(それに、ベッドでこの私を好き勝手できるほどの男なんてそうそういないのですよ?)

真理は内心でそう呟きながら栗田教授に顔を向け笑顔で「では、参りましょうか?」と言い栗田教授を促す。

「ええ、ええ。治療も兼ねてゆっくりと休めるところに行きましょう」

口にしているセリフはエロジジイのそれそのものであるが、栗田が言うと紳士的に聞こえてしまうのであった。

 【第8章 三つ巴 40話 薄幸の佳人に訪れる幸福 終わり】41話へ続く

第8章 41話 三つ巴 抵抗!抵抗!そして唯一出来る攻撃!

【第8章 41話 三つ巴 抵抗!抵抗!そして唯一出来る攻撃!】

「画伯。かけて・・」

顎を引き、強い意志をその可憐な顔に宿したスノウが画伯こと北王子公麿にそう言いながら頷いた。

画伯から視線を移し、所長である菊沢宏にもグラサン越しに視線を合わせ頷く。

「わかりました」

スノウこと斎藤雪の短い言葉だけで理解した表情の画伯こと北王子公麿も、短くそう答えスマホを操作しだす。

画伯に、いつものひょうきんな様子はない。

黙っていればこの北王子公麿も秀才風の容貌で相当なイケメンである。その彼が、シリアスな顔のままコールボタンを押した。

ほんのしばらくの間を置いて穏やかな洋楽のメロディが流れ出す。

林の向こうにぼんやりと灯りをともしている洋館に向かって、着信音の流れるスマホを向け、スノウは林の暗がりに佇む洋館・・、いや、その洋館の中でいるはずの百聞の菊沢美佳帆に向けた。

What a day,what a day to make it through….
What a day,what a day to take to…

ほぼ暗闇のなかで美佳帆のお気に入りの洋楽のメロディが一通り鳴り終わると、スノウはスマホを下ろし、林の向こうに薄ぼんやりと佇んでいる洋館に向かって、美佳帆に語り掛ける。

「美佳帆さん・・!来ました!・・聞こえてますか?!」

スノウのかなり大きめの声に、少しだけ慌てた加奈子がピクリと反応するが、哲司が片手を上げて制止する。

スノウは洋館のほうに向かい声量を変えずそのまま続ける。

「きっと・・聞こえているはずですよね?!美佳帆さん・・。所長、哲司・・画伯、アリサ、私・・稲垣加奈子さんで来ています。いまから所長と哲司さんが突入します。・・・美佳帆さん・・備えてください・・!」

「遅うなってすまん!美佳帆さん・・!無事でおってくれよ!」

スノウが言い終わるが早いか宏が待ちかねたようにそう言うと、洋館を隔てるようにして群生している木々に向かって走り出した。

「ほな・・アリサ、稲垣さん・・。打ち合わせ通りに頼むで。行ってくるさかい」

「任せて!」

「わかってると思うけど・・慎重にお願いね」

哲司のセリフにアリサと加奈子が短く答え、北王子とスノウも力強く頷いた。

哲司も力強く頷き返すと踵を返して駆け出し、群生している木々の中を縫うようにして走って宏の後を追って行った。

「・・・無事だといいんですけどね」

二人の姿が見えなくなったところでポツリと公麿が呟いた。

「ええ・・」

公麿の呟きに少し間を置いてスノウがようやく反応する。

自身が囚われていた時に、敵から受けた数々の凌辱が脳裏をよぎり華奢で可憐な横顔には憂いの表情が広がっていた。

「・・・中はともかく・・・今のところ周囲に人の気配はないわ。対象の出入口は2か所。裏口はこのままここから監視できるから、正面の方は私がまわる。小さい建物だし何かあっても秒で戻れるから・・。何かあったらコールして?・・・正面に向かうついでに敵の足(車)も潰しておくから。どう転んでもここで橋元とは決着よ」

持っていたバッグを地面に置きジッパーを大きく広げ、通信機器をポイポイとメンバーに渡している加奈子に車内で見せていた表情はなく、チリチリと緊迫した様子が伝わってくる。

「メガネさんとスノウさんは建物を警戒してて?アリサさんはその二人の背後と周囲を警戒・・。いいかしら?」

加奈子が立ち上がって手首をコキコキと鳴らしながらそう言うと

「メガネって・・僕のことは公麿とお呼びください。しかし、承知しました」

「ええ・・。加奈子さんのほうこそ正面のほうで一人になってしまいますけど大丈夫ですか?」

「わかったわ・・公麿。お願いね」

と北王子に鋭い表情のまま短くお願いすると、加奈子はスノウに向き直る。

スノウのことは真理から聞かされてる。

敵に捕らわれ何日にも渡ってレイプされていたと・・・。

引き締まってはいるが、およそ戦闘向きではない体格と筋肉・・。しかし、両手で鉄扇を握りしめている姿と表情が意思の強さを感じさせる・・。

さぞかし悪党どもには気に入られてしまいそうだ・・。

スノウの身体能力や情報特化の能力、華奢で可憐だが意思の強さを表す目・・。

(この華奢な身体で何日も凌辱を・・・!・・私が乗り込んで暴れたくなるわ・・)

年上であるスノウに対し、多少失礼かとは思ったが、女である加奈子からみても、スノウこと斎藤雪は可憐過ぎた。

加奈子はスノウの両肩に優しく手を添えると、

「スノウさん。敵が来ないとも限らないの。公麿とスノウさんは自分自身の安全を最優先で考えて。治療係が居てこそ私達は無茶できるんです」

「ええ。わかってます。稲垣さん・・。警護のほうお願いしますね。とってもお強いって聞いてます」

一瞬驚いたような表情を見せたスノウは、加奈子に向かって笑顔を向けて答え、その笑顔に加奈子はサムズアップと笑顔を返した。

「じゃあ私行くね。もし何かあったら呼んで」

耳に付けている通信機を人差指でトントンと叩きながら、そう言うと加奈子は気配を消した。

目の前で視認できるというのに加奈子の存在が虚ろになる。

加奈子は膝を曲げ、腰を落として身体を丸めると、地面にたまっていた落ち葉を少しだけ巻き上げ、林の木に向かって跳躍するとすぐに木々に阻まれて姿は見えなくなった。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

宏達が到着する1時間ほど前・・・。

写真撮影などもする為、建物の外観から洋風でお洒落な普請となっているスタジオ野口の撮影室では、屈服した美佳帆を更に追い詰める宴が続いていた。

「ああ!!も・・もう!許して頂戴!・・休ませて!!」

「がははは!まだまだ私が逝くまで全然まだですわ!・・それに引き換え美佳帆さん?まったく貴女というお人は・・・いったい何度気をやればすんむでっか?・・ご結婚もされるちゅーのに、なんちゅうだらしないマンコなんですか?」


橋元の下卑た笑い声とセリフに、周りの男優たちも声を上げて笑う。

相変わらず首と手首を一枚板で拘束されている。いわゆるギロチン板というものだろうか。

ただ態勢は変えられ、肘で地面を押すような恰好で膝も付き、にっくき橋元にヒップを差し出すような体勢で、潤いにつぐ潤いから、室内の湿度を上げてしまうのではないかと思うほどの水分をその小さな蜜壺から放出していて、豊満な臀部の菊門までが無防備に晒された姿で拘束され凌辱を受けていた。

グリグリという音がなりそうな動きで人差し指で美佳帆の菊門を虐めながら、深々と濡れた蜜壺を抉る。

「ひっ!・・・あっっ・・っくぅ!!!」

不自由な格好で顎を持ち上げ、美佳帆は全身を震わせる。

「まーた逝ったんですかいな?いったい何回いったんでっか?美佳帆さん・・こんなに逝ったことおまへんやろ?旦那はこんなに可愛がってくれへんやろ?ええ?あんなむすーっとした男にはこんな芸当到底無理でしょうなぁ!がーっはっはははは」

バカ笑いを罵る気力も体力も最早なく、極めた絶頂の余韻で豊満な肉動くたびに肉を揺らせるヒップを震わせていると、バチーンと平手打ちをされた。

「きゃぅ!!!」

男性から行為の最中でも、そのような扱いを受けたことのない美佳帆は驚いて声を上げてしまった。

突然、ヒップを打たれると言う仕打ちに驚いたのはもちろんであったが、叩かれるという行為にジクジクとした陰鬱な快感が混ざっていたことのほうに驚きが大きい。

叩かれた衝撃で僅かに腰が動く。

腰が動くと突き刺されている橋元の男根を、自身の膣肉が貪るように吸い付いてしまうのが嫌でもわかった。

「おやぁ?美佳帆さんそういうのもイケる口ですか?」

再び臀部に橋元の平手打ちが飛ぶ。

「ひぃ!な・・なにが・・!痛いわよ!叩くのは止めて!」

バチーン!

「きゃああ!止めてって、、うっ・・言ってるじゃない!ああああ」

セリフとは裏腹に叩かれた衝撃と振動で、腰は自動的に橋元の太すぎる男性器を抱擁するように膣肉が締め上げる動きをしてしまう。

「美佳帆はお尻を叩かれて逝きますや!ほら!美佳帆さんきちんと言うまで、射精しまへんで?」

「そんなこと言う訳・・!きゃあああああ!」

美佳帆が言いかけたところで、またもや橋元が美佳帆の熟れた豊満なヒップに平手を振るう。叩かれることにより波打つ豊潤に腰回りを守る白く熟れた柔肉は、全裸の女体を何百と見て来た橋元ですら性欲をさらにそそられるほどに官能的であった。

「私に出してもらわんと、【媚薬】は解除されへんのでっせ?がははは。どうやっても美佳帆さん。貴女、私には、もはや逆らえれんのんですわ?どや?悔しいでっしゃろ?がーっはっはっは!」

「くぅ・・くうう!!い、今に・・後悔する・・わよ!さっさと・・うぐう!・・だ・出しなさいよ!・・あなたこそ逝くの我慢してるんでしょ?!」

橋元の罵りと【媚薬】効果で芯まで蕩けさせられてしまっている。何をされても気持ちいいのだが、頭では相手が橋元と解っているので、この未だかつてない快感を与えてくる相手が私の最も忌み嫌う相手であると言いう矛盾が生じどうしてもいつもの強い口調で反論する気力だけが今の美佳帆に正気を保てる蜘蛛の糸になっていたのかも知れない。

「おおおおぅ・・!ゾクゾクっとしましたわ。美佳帆さんはやっぱり最高でんな。身体はもうとっくに堕ちてはるのに、そんなセリフが口からだせるなんて、ホンマに楽しませてくれますわ!」

何十回も逝って敏感になっている自らの膣肉の握力で憎い橋元の男性のシンボルを握りつぶすと言う行為しか武器のない美佳帆は、絶頂しないように気を強く持ち本人的にはもう攻撃をしているつもりで割り切り腰を振る。

「ほら!出しなさい!」

不自由な格好で自ら腰を振り橋元の腰に蜜壺を打ち付ける。

美佳帆は歯を食いしばり、自分のほうが先に逝ってしまわないように耐えながら腰を振る。

「おおおお!ええ眺めや!あの百聞の美佳帆さんがデカい尻を揺らせながら自ら腰を振って、私の大砲を飲み込んで・・おおおお・・!こりゃたまらん・・!」

顔を真っ赤にして歯を食いしばり絶頂しまいと耐えながら美佳帆は腰を打ち付ける。

腰の振り、絶頂を我慢している真っ赤の汗にまみれた顔をカメラでおさめられながら、振り絞る様に腰を振る。

「い、逝きなさい!はぁはぁ!・・・ぅく!・・・っあああ!」

(だ、だめ!また私の方が逝っちゃう!は、早く!早く逝って!この遅漏!!だ、だめ!!)

美佳帆の身を削った攻勢に橋元の息づかいもリズミカルになっていく。

「おおおっと・・!」

あと少しで本当に逝ってしまいそうになっていた橋元が無情にも美佳帆の腰を掴み、長さ25cm太さ5cmはあろうかという自慢の一物を勢いよく引き抜いたのだ。

「危ないところでしたわ!がはは・・おや?どないしましたんや?美佳帆さん?ええ?!」

バチーン!

「ひぃ!ううう!」

(そ、そんな・・!!こんな態勢じゃ・・こっちからこれ以上責められないじゃない・・!そ、それに・・こっちはもう逝きそうだったのに・・)

不格好で不自由な格好から責めていた美佳帆は、思いがけず寸止めになってしまった身体を怨めしく思っていたところに再び橋元の平手が飛ぶ。

バチーン!

「きゃああ!だ、だめ!叩かないで!」

ずぶり!!

「ひぃぎい!きゃっ!あああ!ぬ、ぬいて!!」

絶頂感から僅かに回復した橋元が、逝き損ねた美佳帆の膣奥の快感スイッチを押し込むように深々と串刺しにする。

「いーひひひ!美佳帆さん逝き損ねたんでっしゃろ?」

「だ、だれが!違うわよ!」

バチーン!

その肉感の良い白くスローモーションのように美しく揺れるヒップの柔肉。

「ひぅ!ちょ・・!やめ!」

バチーン!

「きゃ!やめて!」

バチーン!

「だめ!逝きたくない!!」

バチーン!

「い、いや!叩かないで!あああっ!」

「がははは!美佳帆さん目の前のカメラ見ながらや!」

ばちーん!ばちーん!ばちーん!ばちーん!ばちーん!ばちーん!

「あっ!ああああっ!いやっ!!ああああ!だめ!嫌!嫌よぉ!!こんな逝き方!」

「逝くんや!美佳帆さん、アンタは尻叩かれながら逝くドマゾ女なんや!」

ばちーん!ばちーん!ばちーん!ばちーん!ばちーん!ばちーん!

「あああああっ!!!っくっ!!!・・・っく!!っう!!!」

肘と膝で四つん這いになった不自由な身体を限界まで逆にのけ反り、顎を上げて白い喉を見せて深い絶頂を貪る。

美佳帆を飲み込んだ絶頂は容易に美佳帆を開放せず、10数秒間、美佳帆は身体をのけ反らせたまま小刻みに震えていた。

その顔をアップでおさめられているのも構うこともできずに快感を貪る。

ようやく絶頂から解放された美佳帆が大きく息を吐き出し、すぐに荒い呼吸をゼエゼエと始めると、髪の毛を掴まれ顔を上げさせられる。

片目を少しだけ開けると見下した笑いを浮かべた男がカメラを美佳帆の顔に向けていた。

「さあ、美佳帆さんがもっと素直で可愛い女に成れるまでエンドレスといきましょうか!」

橋元のバカ笑い声に愕然としている暇もなく、腰をがっちりと掴まれる感触があると同時に再び橋元の巨根が打ち込まれ始めた。

「いやあああああ!」

美佳帆の悲鳴と橋元、AV男優たちの笑い声が撮影室に響き渡った。

(くっ・・・なんという屈辱・・・この私が・・・ヒップを打たれただけで、絶頂させられてしまうなんて・・・相手が強いなら立ち向かえば良い・・・相手が狡猾な男なら、力で制圧すれば良い・・・しかし・・・この男のこの能力(ちから)は・・・わたしが・・・わたしが男性ならこんな男などに屈服せずに済むのに・・・)

橋元に今日幾度となく挿入されたが、またその太さを新鮮に感じてしまい受け入れてしまう私の股間の細胞達を恨めしく思いながら、そろそろ意識が朦朧としていく中でそのような事を考えながら女性に生まれたこと自体を嘆いている自分に、限界が近いのかもと自覚していた美佳帆であった。

【第8章 41話 三つ巴 抵抗!抵抗!そして唯一出来る攻撃!終わり】42話へ続く



第8章 三つ巴 42話 雷神VS銀獣 

【第8章 三つ巴 42話 雷神VS銀獣】


スタジオ野口は府内東側の郊外にあり、敷地は府道に面してはいるが、建物の周囲は木々に囲まれ、太陽がでている時間帯に訪れた者は、街中の雑踏や騒がしさを暫し忘れ、美しい景色や鳥たちの囀りで心を癒すことができただろう。

オレンジ色の焼瓦の屋根に白い外壁、バルコニーにある淡いグリーン色の金属製の手すりや三角屋根にある風見鶏、広場には褐色のレンガが敷き詰められている。

上空から見ると駐車場の中心にシンボルツリーとして植えられているクスノキの周りに、広場に敷き詰められたレンガ一枚一枚が3種類の色合いで区別されて敷き並べられ、見事な幾何学模様の一枚絵のようであることが分かったはずだ。

「はっ!」

スタジオ野口の敷地外にある大きな白樫の枝から、黒い影が小さい声だが、気合を籠めた掛け声とともに跳躍する。

自身の影が、建物と月の光が重ならないよう注意しながら、眼下の建物周辺を余すことなく警戒し、月の光を浴びて黒い衣装の影は色素の薄くなった髪を靡かせた。

肌に吸い付くように張り付いた光沢のある黒い衣装をまとった女性が建物の上空で呟く。

「正面に4人・・裏口の4人はグラサンと豊島さんが倒したみたいね」

黒い衣装の正体・・稲垣加奈子は本館とは別の風見鶏がついている尖った屋根の先端に音もなく着地すると、建物の正面、道路を挟んで向かいにある街路樹の大きなユリノキに飛び移る。

(さて・・)

と加奈子は心の中で呟くと、玄関付近にいる見張り4人を事が始まる前に、眠ってもらう事に決めた。

加奈子はスタジオ野口の玄関付近で、雑談している黒スーツの男たちの真横にある柱の死角に見当をつけると、唇をペロリと濡らし、街路樹から再び跳躍した。

スタジオ野口の正面玄関扉の外では、4人の見張りが屯していた。
強制捜査から逃げるようにしてここに集められたため、士気は低く、見張りの仕事もまともにするでもない

4人で集まり先ほどから口々にめいめい不平を並べていた。

「ったく・・急にこんなところに移動してこんな時間まで見張りかよ・・!」

「ぼやくなって・・。ボスに逆らうわけにはいかねえだろうが?」

「でもよう・・!どう思う?!あんなに警察が突入して・・!ドットクラブやオルガノにいた奴らとも全く連絡がとれねえんだぜ?本社のほうも今は捜査員が押し寄せて社員たちも事情聴取で帰してもらえねえらしい・・。それに木島さんもサツに捕まったって噂だ・・」

「それマジかよ?!木島さんが・・?・・・・・そういやアマンダにいたダチからも連絡がこねえ」

「・・・こりゃ、ひょっとして・・・もうヤベぇんじゃねえのか?・・・もうこんなことしている場合じゃねえのかも」

四人のうち、夜だというのにサングラスを掛けた見張りの男が不安そうに言う。

焦りの顔でお互いの顔を見合わせたまま、見張りの男たちの間で沈黙が広がる。

「・・・・・ばっくれるか・・?」

サングラスを掛けた見張りの男の発言に、正面にいた見張りが恐る恐る・・、ほかの見張りの反応も窺うように問いかける。

ドサリ・・・。

3人は最初何が起こったのかわからず、口と目を開き、呆けたような顔を、膝をつき倒れ伏したサングラスの同僚の背後に立っている美女に一様に向けた。

「もう遅いわよ?」

身体のラインが露わな光沢のある黒い衣装、そこに窮屈そうに納まった胸、しなやかで長い脚、魅惑的なヒップを強調する括れた腰に片手を置き、もう一方の手は、サングラスを付けた男の首に、たった今一撃食らわせましたよ。という形で止まったままだ。

「てめっ・・・っっ!」

曲者とは思えない美貌の女侵入者の動きを捕えられるものは、3人の中にはいなかった。

加奈子は、誰何を問おうとした男の背後に回り込み、左手で男の口を塞ぐと同時に、右手で首に手刀を食らわせる。

加奈子は口を塞いでいた左手に力を込め、手刀により気を失った男の顔を掴むとすでに倒れているサングラスの男の上に投げ捨てた。

どさっ!と人と人のぶつかる音がして、玄関のエントランスに、気を失ったスーツを着た男2人が折り重なっている。

加奈子なりに物音を立てないようにという配慮の行動なのだが、残った2人の見張りは見えないほどの速さで動く美貌の女に恐怖し、驚き声も出せずにいた。

「中には何人いるの?橋元はいる?能力者は?」

慄く二人を無視して、再び女がしゃべった。

澄んだ涼しい声で矢継ぎ早に発せられた女の質問に呆然としていた男たちは、はっとして意識が戻る。

「言う訳ねえだっ・・・っ!」

女の発言に、反射的に反応してしまったのであろう俺の後ろにいた同僚が、ドスを利かせた声で、反論しかけたのだが発言が途中で止まる。

一瞬遅れて、すぐ隣を高速で通り過ぎた女の風圧と微かな匂いが鼻をくすぐる。女が使用しているシャンプーの匂いと、女の僅かながら汗の匂いの混じった香りが、却って男の心を情欲させる。

しかし、見張りの男が振り返り目にした景色は、およそ色気とはかけ離れた情景だった。腰を落とし、右手を同僚の鳩尾にめり込ませて、女の左手によって同僚の口は塞がれていたのだ。

同僚はくの字に身体を曲げ白目を剥き、塞がれた口からは白い泡を噴出させている。

「わ・・!・・汚ったないわねぇ・・」

女の発言内容にも色気の欠片すらない。

気を失った同僚の口から噴き出した泡が押えた女の掌についたようだ。女は服と繋がっているように見える手袋を男のシャツでゴシゴシと拭うと、倒れている2人の上へと投げ捨て積み上げた。

同僚を投げ捨てた女はまっすぐに立つと、振り返り最後に残った俺にじっと視線を向けてくる。

背を見せて振り返った女の姿は、見事なプロポーションのスタイルが強調されていて、異様な状況だというのに見とれてしまう。

「中に何人いるの?」

女の質問が自分に向けられ、男は自分が見とれていたことに、はた気づき我に返る。

同僚3人を積み上げた女が完全に振り返り、正面に捉えた最後に残った俺に質問してくる。

「7・・人だ・・」

見た目の美しさとは裏腹に、女の纏っている暴威の気配にたじろいで、呻くように答えてしまう。

「ふーん・・それで橋元もいるわよね?」

大理石の床に、少しだがヒールのある女の靴。しかし、全く足音が聞こえない。聞こえるのは外灯に群がっている羽虫の微かな羽音だけである。

足音をさせず近寄ってくる女の質問に、首を縦に振り応える。

「能力者は?」

「能力者・・?」

更に質問をかけてくる女に首を傾げ、鸚鵡返しで聞き返す。俺の答えが不満だったのか、女は眉を顰めると聞き方を変えてきた。

「・・私と戦えそうな奴はいるの?」

「いねえ・・!」

本来ならば敵に情報を与えるなど絶対にしてはいけないことだと分かっているが、同僚の3人を瞬時に倒した相手である。

同僚たちは皆それなりに腕自慢の連中だった。もちろん俺も大抵の奴には負けない自負もあったが、正面にいる女は自分たちとは明らかに違う。

別次元の存在・・。人間の形をした化け物だ・・・。

怖気づいて即答してしまったとしても、誰も責められないだろう。まして、最早この状況を見ている者もいない。

俺の即答した答えに、少しだけ安堵したような、そしてすぐに残念そうな顔になった女が「そう」と短く呟いた直後からの記憶はなくなった。


一方、スタジオ野口内で囚われの身の菊沢美香帆は・・・

「ええか美佳帆さん。美佳帆さんが逝ったら飲むんやで?逝くまで彼らが口に出したザーメンは口に含んだままや?わかったな?」

「か、勝手に話を進めないで!」

逝かされすぎたため、膣や陰核への執拗な責めを少しでも緩めてもらいたくて、アナルか口かを選ばされて後者を選んだ美佳帆は男優達の男根に、四つん這いという屈辱的な格好で奉仕しながら犯されることで話が進んでいた。

橋元一人によって散々逝かされた身体を、今度は男優も混ざって6人で輪姦すると橋元は言ってきたのだ。

美佳帆は恥を捨てて懇願した。

「もう!・お願い!・橋元さん!許して!・・私のことこんなに犯してるじゃない?!・・気が晴れたでしょ?満足したでしょ?!・・この上大勢の相手だなんてもう無理なの!」

橋元の足元に四つん這いで這いつくばり、首と手首を一枚板で拘束された全裸の美佳帆はヒップを突き上げた格好のまま、上目遣いで橋元を見上げながら懇願した。

「何言うてますんや。私が無理言うて手配したんや、彼らには大金払うてますんや。使わんと勿体ないですわ。美佳帆さんもそう言う私の気持ちわかりますやろ?!がはははは」

「無理!無理ぃ!これ以上やられたら狂っちゃう!・・お願い!もう逝かせないで!橋元さんも逝って?・・私の身体で逝ってよ?!・・それでこの呪詛も解けるんでしょ?!もう満足してくれたでしょ?!」

橋元のバカ笑いを責める余裕はなく、美佳帆は汗に濡れた髪を額に張り付かせたまま、首をぶんぶんと大きく振って拒絶の意思を示す。

橋元は満足そうな笑みを顔に浮かべたまま、美佳帆を見下ろしながら白々い態度でため息をつき、無情にも言う。

「いーや?私はまだ一回も逝ってませんのやで?満足するはずあらへんやないですか。美佳帆さんは一生分逝ったから満足したかもしれへんかもしれませんが、それはあきませんな。とおりまへん。自分が逝ったから終わってくれってそれは身勝手が過ぎるちゅーもんや。なあ?そう思いますやろ?みなさん?集まってもらった皆さんは逝くどころか、SEXもまだやちゅうのに・・、美佳帆さんは自分さえよければええっていうんですか?身勝手も度が過ぎますわ。」

「う・・うう!」

美佳帆は橋元の無茶苦茶な言い分に、無様な格好のまま呻くことしかできず、周囲にいる橋元が呼んできた男たちに、同情を促そうと顔を向けるが、目元には仮面をつけた男たちの口元は、蔑みの笑みが張り付いており、美佳帆を許す気は全くないのが容易に感じ取れた。

「い、いや!・・あ、あなたたち!これはまともな撮影じゃないのよ?・・こんなことして、あなたたちも殺されるわ!・・・冗談で言ってるんじゃないのよ?!」

ゆっくり近づいて、手を伸ばしてくる男たちに向かって美佳帆は叫ぶ。

「さて皆さん!女優さんもマンコだけやと皆さん全員を満足させられへんて言うてますから、口も解禁ですわ!たっぷり注いでやってください。ええな美佳帆さん?たっぷり可愛がってもらうんやで?」

男優たちは橋元のセリフに頷いて答えると、無遠慮に美佳帆の身体を弄り出した。

胸や陰核は言うに及ばず、背中や太腿、耳、アナルまでも・・。

「ちょ!!っそっちはダメって言ったでしょうが!」

一度に与えられる愛撫に、媚薬に犯された美佳帆の身体はすぐに過剰に反応し出す。

「あううう!い、いやあ!やめ・・て!!・・はあぁう!」

ガチャリガチャリと身を捩るも、ほとんど抵抗も出来ず、熟れた豊満な身体をいい様に弄ばれ、嬌声を上げさせられ男を楽しませてしまう。

「美佳帆さん。彼らのチンポ噛んだりしたらあきまへんで?そんなことしたら、私、美佳帆さんの【媚薬】解除しまへんからな?わかりましたな?ああ・・、下の口でならナンボでも噛みついてもええでっせ?が~はっはっはっ!!」

男優たちに身体を撫でまわされてるせいで、気づけなかったがすぐ耳元で橋元にそう囁かれた。

「うううう!」

(そ、そんな・・・。本当にただの撮影だと思ってる人に危害は加えられないけど・・、ううう!でも、それって見ず知らずの人に口も犯されるってことじゃない・・!)

混乱と悔しさで呻く口に、男優の指が入ってきた。

背後からは、突き上げたヒップを固定しようと腰を付かむ手が感じられ、橋元ほどの巨根ではないにしても、蜜壺の入口に熱い男根をあてがわれているのが分かった。

「人妻輪姦ショーや!始めたってや!しっかり撮るんやで?がーはっはははは。女優さんは菊沢美佳帆さんや!なんと本名での出演でっせ?検索したらすぐ見つけられる有名人ですわ!ホームページで普段のスカした顔もご覧いただけますちゅー訳や!がははははっ!こりゃ愉快ですな~」

「ちょっ・!!む・・!んんんぅ!!!」

美佳帆は抗議を言いきれなかった。何故なら美佳帆の正面の男が、カウパーまみれの男根を美佳帆の口にねじ込んできたためだ。

さらに余計な気を利かせたカメラマン野口のアシスタントが菊沢事務所のホームページからダウンロードした菊沢美佳帆の顔写真を印刷してきて、何度も逝き顔じゅうを涙と汗と鼻水でファンデーションが落ちかけた美佳帆の顔の隣に並べ、カメラにおさまるように並べた。

顔がよく映る様に髪の毛を掴まれ、レンズのほうに無理やり向けられる。

凛とした表情で映された画像プリントの隣で、美佳帆は目を細め、男優の男根を咥えた顔を並べられ辱めを記録される。

橋元の意図に従うのは癪ではあったが、事情を知らない男のものを噛み切るわけにもいかず、いい様に口を犯されるままにされている自分の状況に頭が灼ける。

ホームページに掲載している自分の顔写真と並べられて撮られているのだ。

美佳帆は羞恥で気絶しそうになりなりながらも、喉奥を名前も顔も知らない男に犯される屈辱に得も言われぬ興奮にその身を焼かれっぱなしでいた。

「むぅううう!むあ!・・んんん!!」

口を乱暴に犯されていると、腰を掴んだ背後の男優についに蜜壺も同時に貫かれた。

「むぅううう!!あふぅ!むぐ!っ!!っ!」

(ひ・・宏!・・私、壊れちゃうよう!は、はやく・・!助けて!)

「ひひひ、こいつ正真正銘の実名だ。人生終了だなぁ」

アシスタントの男が呟き笑う。

「むぐっ!ちゅぷ!んん!!むあ!ああ!いふぅ!いふぅう!!いうぅ!い・・いううぅ!」

涙と鼻水と涎にまみれた顔をアップで撮影され、背後から打ち込んでくる誰ともわからない男根によって無理やり昇天に導かれ、美佳帆は最愛のパートナーが一刻も早く来てくれることを祈りながら、浅ましく絶頂に身体を震わせた。

美佳帆は百聞を展開することは全くできておらず、このときスノウがスタジオ野口のすぐ100mと離れていない林の中で、美佳帆の好きな洋楽のエンヤのメロディを流し、送ったメッセージには気づくことはできなかった。

こちらは、美佳帆を教出に来た、菊沢宏率いるチームの単独行動を行っている稲垣加奈子サイド。

気を失った見張りを4人重ねて玄関入口に積み上げた加奈子は、背後から気配を消し近づいてくる気配に項の毛を逆立てながらも、その気配に気づいていることを察知されないよう平静に振舞う。

その気配の主はどうやら、加奈子の知る男のようだった。

(ふぅん・・これは・・今度はこっちが待ち伏せされたということね・・。ボスである橋元を囮に使うなんて・・・大胆じゃない。でも・・、こっちにこいつが来てるということは、裏手にはあいつが来てるの?・・・支社長はこいつを欲しがっていたけど・・・。支社長には悪いけど速攻でやっつけて裏手にすぐ戻ったほうが良さそうね・・)

背後の茂みから気配を断ち足音無く近づく気配を感じつつ、加奈子は手加減無しでオーラを込める決意を固めると、必殺のカウンターの間合いを背中で感じ調整する。

背後の気配に、振り向きざまの跳躍で崩券を確実にぶち込める距離まであと一歩となった時、洋館の本館スタジオ野口の内部からガシャーン!というガラスを含んだ何かが派手に音を立てて破壊される音が聞こえてきた。

おそらく、内部でもグラサンたちが暴れ出したのだろう。

「はあっ!」

建物内部の音と同時に、気配の主、劉幸喜は加奈子の背中目掛け新調したばかりの青龍刀で斬りつけてきた。

加奈子は振り返りながら、気配で予測していた軌道で振り下ろされてきた青龍刀を右の掌で回し受けをしつつ、左手で振り向きざまの一撃を繰り出し叫んだ。

「残念でした!さよならっ!!」

加奈子が100%オーラを籠めた崩券を完璧なタイミングで放つと同時に劉にそう言い放つ。

その瞬間、加奈子の側面、気配の全くなかった暗闇から白い閃きが4本、加奈子目掛けて襲い掛かってきた。

「え?!」

加奈子は予想外の個所からの攻撃に間の抜けた声を上げてしまう。

上段からの振り下ろした青龍刀を右手で防ぎ、無防備になった加奈子の胴体目掛けて白く閃きがうなりを上げて加奈子に命中する。

バチンバチン!バチバチ!と音を立て加奈子の胸と太腿、目と腹部付近にと流線形の白い何かが襲い掛かり、そのうち2発がクリーンヒットする。

「きゃ!ぅう!!」

瞬時の判断で、急所の目と胸を狙ってきた攻撃を辛うじて防いだものの、腹部と太腿に大きな衝撃が走る。

「でぇええい!」

全ての攻撃を避けきれず、後ずさった加奈子目掛け、好機とみた劉は踏み込み、前かがみになっている加奈子の腹部を蹴り上げるが、白い閃きでダメージを受けながらも膝で劉の蹴りを完全に防御する。

「ちっ!!」

(このタイミングでも防ぐのかよ!?)

劉は鋭く舌打ちし、心中で感嘆する。

きっ!と顔を上げ、怒りを漲らせた目で睨みつけてくる整った加奈子の顔が劉の目の前にある。

追撃を防がれた劉は美しくも恐ろしい、加奈子の超反応に恐懼し、猛獣同然の相手とこの至近距離でいることに背筋が凍る。

加奈子は、不意打ちを仕掛けてきた狼藉者を容赦なく始末してしまおうと、オーラを込めた手刀で劉の首筋を薙ぎ、吹き飛ばそうとしたが、加奈子のすぐそばにはもう一人の敵がすでに迫っていた。

「ちっ!」

(優男・・っ、この一瞬で2回も命拾いしたわね!!・・これは、躱すのは無理!)

鋭く舌打ちし、劉を心の中で罵ると加奈子は即座に頭を切り替える。

直感と類まれな戦闘センスでそう判断した加奈子は、瞬時にすべてのオーラを腹部の防御に回す。

男は暗器を持っていないほうの手で拳をつくり、加奈子の得意技の崩券を加奈子の腹部に叩き込む。

「ぐっ!かはぁ・・・!」

もう一人の男、張慈円が放った崩券は加奈子を完全に捉え、練り込んだオーラを加奈子の内部に叩き込んだ。

(う、うそ!!?・・直撃とはいえオーラで防御したのにこの威力・・・!)

張慈円の拳がヒットした瞬間にバリバリと放電する音が響きわたり、加奈子は後ろに一回転して吹き飛び建物の壁に激突する。

激突した建物の外壁はひび割れるほどの勢いだ。

にもかかわらず、加奈子は一瞬の隙も見せず即座に起き上がり構えると不意打ちを成功させた二人に吼えた。

「痛いじゃない!!二人がかりだなんて・・・げほっ!・・・・あ、あれ・・?!」

隙を見せず、すぐさま構えた加奈子は、膝が笑い自身の脚が思うように動かないことに狼狽する。

「・・・・い、いまので仕留めきれんとは・・・。貴様・・!」

崩券を放った格好のまま、称賛を口にする張慈円の顔は少しだけ汗が伝っていた。

加奈子の異常な速度での超回避反応と、臓器にダメージもなく吐血すらしない頑健さに攻撃を仕掛けたほうの張慈円も驚いたのだ。

「・・・こないだと随分違うじゃねえか・・それにしても、やっぱり俺が近づいてるのには気づいていやがったんだな・・あの女狐といい・・貴様といい。だが、ボスの気配には気づけなかったようだな!」

張慈円の援護攻撃がなければ、劉幸喜は加奈子のカウンターの一撃で戦闘不能にされていたであろう。さらには、加奈子の怒り任せの手刀で首に致命的な一撃を食らわされたかもしれない。

それが分かった劉幸喜は、その整った顔から完全に血の気が引いていて声はやや上ずっていた。

「ごほっ・・。さ、流石加奈子ちゃん・・。加奈子ちゃんほどの美女になると、二人がかりで歓待してもらえるのね」

建物の外壁を背にして、身体を支えると加奈子は笑みを浮かべて軽口をたたき、劉に視線を向け更に続ける。

「仕方ないじゃない・・。あの時は、支社長が貴方のこと気に入ってて殺すわけにいかなかったから手加減してたのよ。・・・でも今は支社長も見てないし、今回はそう言う命令は言われてないから、この際始末しようとしただけ」


「な、なんだと・・?!」

背を壁に預けながらも、劉のことを邪魔なものでも見るような加奈子の表情に、劉はたじろいだ。

「気にするな劉・・。安い挑発だ・・。それより、強がりは止すのだ稲垣加奈子。今のは貴様の身体に穴を空けるつもりで打った。貴様の素早いオーラの攻防移動は見事だったが、その服の性能に救われたのも否めまい・・・しばらくは立っているのも辛かろう?・・・どうだ?潔く降伏するのであれば、貴様ほどの腕だ・・。俺に忠誠を誓えば命は助けてやるぞ?」

劉との会話に張慈円が割って入る。黒いゆったりとした胴着を着こなした張慈円が油断なく間合いを詰め、加奈子を牽制しながら一応勧誘めいたことを口にする。

(しかし・・こいつの言う通りだとすると、やはり宮川佐恵子は来ていないのだな・・。千原の話では、あと一歩というところで邪魔が入り魔眼を取りこぼしたが、大怪我をさせたとも聞いている・・・。治療係の神田川真理は南川が確実にその首の骨を断ち斬ったと言い切っておった・・・。ならば、ほかの者に治療ができるものがいたとしても、神田川ほど治療には長けておらんはず・・。魔眼は動けんほどの大怪我か・・或いは、死んだか・・いや・・、魔眼が死んだのならば目の前の稲垣はもっと激昂しているはずだ・・・。ええい・・!わからん!・・人質を失ったおかげで杉も粉川も連絡が取れん!・・くそっ!橋元め・・。杜撰な警備をしおって・・!正確な情報がないのはもどかしいものだ!)

内心の苛立ちを加奈子に伝わらないように注意しながら張慈円は加奈子の返答を待つ。

「・・あら?驚いたわね。まさか悪の組織からこの加奈子ちゃんが勧誘されるなんてね。でも、お生憎様、お断りよ。・・・・それにしても、女性を気遣うふりもできちゃうのね?張慈円。・・げほっ・・。でもいくら私に会いたいからって2人もこっちに来ちゃったら不味いんじゃないの?誰が橋元を警護するの?中には能力者はいないんでしょ?早く行かなきゃ、むっつりグラサンの菊沢宏達がすでに突入してるわよ?」

加奈子は背を壁に預けながら、極力ダメージを受けた弱みを見せないよう、張慈円に問いかける。

少しでも、張慈円から受けたダメージを回復させるためと、菊沢宏達が活動しやすいように時間を稼ぐためだ。

「くくく・・。やはりな・・。残念だ・・。それと、橋元にはもう用はない。奴には湾岸計画に食い込む力は最早無かろう。菊沢らに始末してもらうのがちょうど良いだろうよ。・・・貴様らが水島を俺たちに始末させようとしたようにな」


話ながらも歩を進め、張慈円が【白雷】と名付けている暗器の射程距離で構えると、想像以上の戦闘力を有していた稲垣加奈子へ勧誘はすっぱり諦め、攻撃を掛けようとジリジリと迫りにじり寄る。

「・・・へえ!・・張慈円、私あなたのことを随分勘違いしてたようだわ。思ってたより色々考えられるのね?!感心しちゃったわ!」

加奈子は背を預けていた壁から離れると、張慈円に向かってブン!と両手を回し、半身になって両掌を相手に向け、制止し構えた。

「ふん・・・!」

張慈円は流石に加奈子の挑発には乗らず、その蟷螂のような顔に笑みを浮かべ鼻で笑う。

なかなかキツイ一発を貰っちゃったけど、まだまだやれる。加奈子は自分の状態をそう判断し、攻防7:3割合で張慈円に向き直る。

「はぁ!!」

その瞬間、張慈円に構え直した加奈子目掛け、劉が【斬撃】を放つが、加奈子が手を振るうとバチン!と音がして【斬撃】を霧散させた。

「何だと?!お、おまえ・・!」

劉があまりのことに二の句が継げなくていると、加奈子が視線だけ劉に向けてに言い放つ。

「その技はもう何度も見たわ。・・それ以上オーラを乗せられないみたいね。そんなんじゃ私には通じない。威力も速度も見切ったわ。・・・先に言っておくわね劉幸喜?逃げたら先に殺す。私に近づいてきても殺す。・・・張慈円を始末するまでそこで大人しく待ってなさい」

「な、なん・・だとおおお!!・・てめえええ!」

加奈子自身は挑発のつもりではなく、事実と予定を淡々と伝えただけなのだが、劉幸喜は整った顔を真っ赤に染め怒りに任せて吠え、フルパワーで【斬撃】を二連射すると同時に地面を蹴り加奈子に突進する。

その刹那、バチン!と白い閃光【白雷】の一つが劉に命中し張慈円が怒鳴った。

「頭を冷やせ!劉!!安い挑発だと言っているだろうが!・・お前は裏手に回るのだ!奴らと協力して残りの奴らをやってこい!・・こいつは俺がやる」

突進の勢いを殺され、尻もちをついた劉は驚いた顔で張慈円を見ていたが、悔しそうに唇を噛みしめ地面を拳で一撃すると、「わかりました」と言い、立ち上がって裏手に向かって走っていった。

「・・くっ!!」

劉と同時に加奈子に向かっても張慈円は【白雷】を3つ飛ばしていたのだ。

劉の【斬撃】と張慈円が牽制で放った【白雷】、加奈子はそれらを全て撃墜するも、劉に裏手に回られてしまったことに焦りを顔に浮かべる。

(そ、それに奴らですって??)

「さあ、稲垣・・!1対1といこうではないか・・・?・・貴様は女としては俺の好みに程遠い醜女(しこめ)だが、香港三合会新義安最強と歌われたこの張慈円・・・、私直々に相手をしてやろう!」

張慈円から揺らめく黒いオーラが放出され、【白雷】を左手で構えながら、加奈子に拳を向ける。

「し、しこめ??!・・この私の美貌がわからないなんて・・・呆れちゃうわね・・。私のほうこそ胸を貸してあげるわ。ミス宮コーと呼び声高い、この稲垣加奈子ちゃんがね!」


張慈円の名乗りに変に対抗してポーズをとる加奈子であったが、油断なく張慈円の動きに注視しながら、右耳に付けた通信機を通しスノウに伝言を送る。

「ふん・・!容姿の問題ではない・・」

そう言う張慈円のセリフを完全に無視して加奈子は通信機に手を当てる。

「スノウさん!そっちに劉ってのが行ったわ。ほかにも何人かいるみたい。警戒して!こっちには張慈円がいるの!私はこいつをやってから行くわ!」

加奈子の通信イヤホンからスノウの緊張した声で、「りょ、了解!・・張慈円が・・加奈子さん・・気を付けて!」と聞こえてきた。

「・・んん?!スノウ!?・・・斎藤雪が来ているのか!?ふはははは!・・これは俄然やる気が出てきたなっ・・・!」

加奈子の通信内容に異常な反応を示した張慈円を見て、加奈子は「しまった」という表情を浮かべた。

(そ、そっか・・。スノウさんは張慈円に捕まって・・。この蟷螂男に妙に気に入られてるのね・・!ああ!余計なこと言っちゃったわ!)

加奈子の心中の焦りを無視して、不気味に歓喜の表情になった張慈円が加奈子に言う。

「強い割には、倒しても何の楽しみのないヤツだけだと思っていたが、斎藤雪という主菜(メインディッシュ)がいるのならば・・・・、貴様のように冷えてクソ不味い前菜のコースだとしてもやぶさかではない・・!」

蟷螂のような顔で目を吊り上げ不気味に笑う張慈円のオーラが増大する。

「中国人のくせに、何すらすらと流暢な日本語で罵ってんのよ!私が冷えた不味い前菜ですってえ!?ええ??!ミス宮コーだっつってんでしょ?!!」

(それにしても、早く片付けないと・・!これは・・本格的にマズい・・。奴らって・・変な横分けの栄一?あのいい歳したゴスロリ?それともムチムチハムの千原奈津紀?!・・どれでもヤバい・・!支社長も真理もいないけど・・でも・・グラサンと豊島さんがいるのならなんとか凌げるかしら・・・?!)

返したセリフとは裏腹に加奈子は冷静に状況を分析する。

張慈円に向かって構えた格好のまま睨みつけると、張慈円と同じくオーラを増幅し膨張させる。

「豊島さん!外に敵!張慈円と交戦中!ほかにも敵影あり!美佳帆さんの確保急いで!」

通信機で簡単に状況を豊島宛に送り、返信で「なんやて!わかった!」と小声で短く返答があったのを確認すると、加奈子はチリチリと髪の毛が項から逆立たせ銀色に発光させた。

(時間が無いわ!いきなり【肉体強化】120%からよ・・!真理も香港三合会新義安の最大戦力だと言ってた張慈円か・・・!これで倒せる相手なら御の字なんだけど・・・。でも、私のスピードについてこなければ私の勝ちよ!)

対峙する張慈円は銀髪化した加奈子を見て「ほう」と一声驚きの声を上げ、目を見開いたが、すぐに目を細め自身も加奈子に合わせオーラを限界近くまで増大させる。

「なるほど・・やはりに出し惜しみができる相手でなないようだな。楽しめそうだ・・ゆくぞ!!」

張慈円は、舌なめずりのようにして唇を湿らすと、立ち上る黒いオーラを纏い加奈子に突進した。

【第8章 三つ巴 42話 雷神VS銀獣 終わり】43話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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