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第9章 歪と失脚からの脱出 30話 達人VS天才

第9章 歪と失脚からの脱出 30話 達人VS天才

岩肌を飛ぶように駆ける3つの黒い影は追われ続けていた。

「くそっ!振り切れんしこっちの攻撃は躱しよるっ!なんて奴等や!」

背後から飛ばされてくる三日月型の剣風や、白い矢状の閃きを、からくも躱しながら、哲司にしては珍しく焦った声をあげた。

相棒の焦燥が伝わってきた宏も、上空の難敵のただならぬ力量に、今までにない焦りを感じていた。

(確かにまずい。こいつらホンマしゃれにならん奴等や。・・おまけに通信も回復せえへん。・・ほぼ間違いなく俺らが侵入するんは、すでに知られとったんや。・・ということは、このまま進んだらさらに待ち伏せの罠があるちゅうことか・・)

「ちっ・・敵さんの思い通りさせるかいな!」

宏は切迫した状況にも関わらず、冷静にそう判断し、一言吼えると断崖の岩場を駆けあがり始めた。

哲司もモゲも、宏の動きの変化を敏感に察知し無言で宏の後を追う。

3人は崖上に立つと、さらに上を見上げた。

「もう諦めたのですか?」

崖の更に上から涼しい気な女の声が響く。

宏達を追ってきた女達3人が上空から見下ろしていたのだ。

そのうちの一人、抜き身の真剣を握った豊満ボディの女性、たしか千原奈津紀という高嶺六刃仙の一刃、髙嶺弥佳子の側近の女の声である。

「あほ言うな。誰が諦めるかい。そもそも逃げてたんやない。あんたらが急に表れて物騒なモン振り回しながら追いかけてきただけやろが。めんどいから相手したることにしたんや。さあ、降りて来いや!」

宏は、上空に構える3人の剣士を見上げ、サングラスをくぃと持ち上げなおし拳を振り上げ大声で返す。

たいていの者が聞けば、肝を潰すような迫力のある低い声で宏は怒鳴ったが、上空の3人の女たちは余裕のある表情で見下ろしながら、笑みさえ浮かべている者もいる。

奈津紀は、宏の挑発に「ふっ」と失笑し口を開いた。

「降りて来い・・ですか?なにも知らず背中から切り伏せられていた方が幸せだったと後悔することになりますよ?」

ポーカーフェイスに戻った奈津紀はそう言うが、その目付きは鋭く、無表情ながらその目は僅かに微笑しており、それでいて口調は冷淡だ。

(やりにくい女や・・)

奈津紀の様子に宏は、口を歪める。

奈津紀の態度は、決して傲慢からではなく、自信と余裕が感じられるからだ。

「テツ、モゲ。ばらけるぞ。このまま目的地に直進したらまず間違いなく挟み撃ちや。このまま森に入ってそれぞれが一人ずつきっちり倒してくるんや」

宏は無駄かもしれないと思いつつも、できるだけ上空に構える奈津紀らに聞こえないよう小声で言い、哲司やモゲに目配せを送る。

しかし、当然それを看過するほど甘い者達ではなかった。

「それも一興。少しは頭も回るようですね。私も手下たちの銃弾があるほうがかえって戦いにくいですし、それでよろしいですよ?」

「きゃは♪いーんじゃない?私は大賛成♪」

哲司やモゲの返答を待たずして、奈津紀の両脇を固めた女剣士達がそれぞれ答えたのだ。

闇を縫う糸のような長い髪、長い睫毛に切れ長の目、身の丈ほどの長刀を携えた前迫香織と、白いファーで口元を隠し、人形のように整った顔のショートヘアーの南川沙織である。

「ちっ!」

(さすがにこんな距離やと内緒話はさせてくれへんか。暗視だけやなく、聴覚強化もしてたんやな。あんだけ剣閃飛ばしてきながらも、戦闘中は常時五感強化するんが当たり前ってか・・こりゃほんまもんのガチ勢やな)

宏は上空の剣士たちの発言に苦々しく舌打ちし、いよいよ油断できる相手ではないと再認識させられる。

「聞かれてしもたけど、相手もお望みのようや。赤パンは俺が。白パン二刀はテツ、モゲは・・不意打ちの借り返したれ。矢みたいなんぎょーさん打ち込んできた長髪の女や」

宏はもはや相手にも聞こえてもいいような声量で、左右にいる哲司とモゲに指示を送り、二人も「まかせとけや」「ねーちゃん後悔させたる」と返事をしている。

対する、香織は目を細め長刀を構えたまま微笑しており、沙織はファーを顎下まで下ろして赤い舌を出しペロリと唇を舐め狂気の笑顔に変わった。

「いいでしょう。逃げ回っている者を斬るのよりも手早く済ませるかもしれません」

奈津紀がそう言い隣の香織に目配せすると、香織も頷いた。

香織の能力【斥力】が解除され上空に構えていた3剣士は、音もなく宏達と同じ崖上の岩場に音もなく降り立った。

そんな6つの影の殺気などお構いなしに、相変わらず日本海から吹くの風は鳴き、先ほどから岸壁には大きな波がぶつかっては砕け、潮の混じった水滴を霧状にして風に乗せてくる。

下半身は宮コーのアーマースーツに身を包んだ2人と、ブーメランパンツだけを履いた下着姿の変態という組み合わせの男3人組。

かたや黑を基調としたタイトなパンツスーツ姿の長身長髪、同じく黒を基調としたタイトスカートの女二人という組み合わせの女3人組。

3対は、風音と波音をバックミュージックに暫し睨み合う。

ひと際大きな波が崖に打ち付け、空気を震わせると宏が火ぶたを切るように叫んだ。

「テツ!モゲ!わかってる思うけどあのねーちゃんら尋常やない強さのはずや。・・気張れ・・死ぬなよ!・・いくで!」

宏はそう言うと、髙嶺六刃仙が一人、髙嶺の最大戦力の一人である千原奈津紀に向かって突進した。

哲司は沙織に、モゲは香織に宏が駆けるのと同時に突貫する。

「宣言通り、私の相手は貴方がなさってくれるのですか」

対する奈津紀はいつも通り無表情なポーカーフェイスでそう言うと、3尺余りある愛刀和泉守兼定を構え直し、宏の突進に瞬時に間合いをはかり、宏を一刀で伏せようと、刀を滑らせ同じく突進してきた。

宏の悪い癖で、女にはどうしても手をあげにくい。

宏は奈津紀を気絶させようと、掌底で腹部を狙ったのだが、当然そのような殺気も威力も乏しい攻撃は、神技剣聖の域にある奈津紀には通用せず、宏の腕を刃の腹で滑るように受け流し、凶悪なカウンターで宏の肩口と鎖骨の間を抜き、一気に肩甲骨まで切断する一刀を食らわせた。

がきんっ!!

「くっ!」

否、あまりに流麗で無駄のない動きのせいでそう見えたが、宏は苦悶の声と同時に、とっさに目前まで迫った奈津紀の刃を、黒い棒状のようなもので防いでいたのだ。

「っ!」

奈津紀は必殺と確信した一撃を止められたことに、珍しく舌打ちし、逆に反撃されまいと、刀を振り抜いて宏を弾き飛ばすようにして距離をとる。

「くっそ・・!美佳帆さんからもらったもんやさかい刀受けるんなんかに使いたないかったけど、そんなこともいうとられへんな・・。おまけにレディ相手に武器までつかう羽目になるとはホンマ気が進まんが・・・しゃ~ない・・」

そう言いつつ宏は左手に握った黒いモノ見て、刀傷がついていないか確認している。

「・・・鉄扇ですか?」

奈津紀の予想の言葉どおり、宏は背中の腰に差してあった鉄扇【鎧船】を抜き、奈津紀の刃をギリギリのところで防いだのであった。

「たんなる鉄扇ならば今の一太刀で切れぬわけがありません・・。・・まさかそれもそのスーツのように宮コーの技術の粋を集めた代物ですか?」

「ちがうわい。そんな味気ないもんちゃうわ。・・これはな・・お守り代わりに持っとるもんや。汚れたりキズが付くん嫌やったから使いとうなかったんやけど・・・あっー!!?」

不満そうな口調で奈津紀のセリフに返しつついた宏だが、鉄扇をグルグル回して確認していた手を止め急に大声をあげたのだ。

「やっぱり今のでキズが入っとる!くっそー・・!」

奈津紀は、急に大声をあげた宏に目を丸くして驚き訝しがるように見ていたが、ふぅと溜息をつき、少し呆れたような口調になり続けた。

「いくら鍛えた鋼と言えども、私がオーラを纏わせたこの兼定の一振りを防いだのですよ?・・・切断ではなくキズで済んだのは解せませんが・・・。まあ、いいでしょう。そのような口、すぐ聞けなくしてあげましょう」

そう言うや否や、奈津紀は再び宏に突進し肉薄する。

(速ええっ!)

ぎぃいいん!

奈津紀の神速の上段からの一撃を、愛妻から貰ったプレゼントで再び防ぐが、奈津紀の剣撃の猛攻は止まらない。

「はぁああああ!」

奈津紀の気合のこもった声が森の中に響く。

宏は、サングラスで焦った表情を読み取らせなかったが、面前で激しい剣撃を加えてくる奈津紀に心底戦慄した。

(まじか!・・強いっちゅうもんちゃうぞ)

鉄扇と白刃が文字通り火花を散らし、暗闇の森の中にところどころ飛び散り光る。

木の根や大きな岩がごろごろと転がっている悪い足場、しかも暗闇の中だというのに、二人は高速で攻防を繰り広げる。

攻防といっても、宏はほとんど攻撃しておらず、いまだに、なんとか無傷で女を無力化できないかとさえ考えながら戦っていた。

宏がほとんど攻撃らしい攻撃をしてこないことに奈津紀が眉を顰める。

「舐めているのですか?」

撃剣を振っていた奈津紀がポーカーフェイスながらも、怒気を孕んだ声で宏に問いかけてきた。

「んなことあるかい!ど必死や!」

がっき!と鍔迫り合いの形になり二人は息も届く位置で睨み合う。

「では、なぜ攻撃してこないのです。あなたが一対一をしたいと言い出したのですよ?」

言葉と同時に奈津紀が刃を押し込んでくる力が増し、刃と鉄扇がぎゃりぎゃり!と嫌な音を立てる。

(女やっちゅうのになんちゅう力や・・肉体の力をオーラ量でカバーしとるってわけか!)

奈津紀の表情は無表情に近いが、空気を通して怒りが伝わってくるのが宏にはよくわかった。

「できたら女は殺しとうない。手もあげとうないぐらいやからな、特にべっぴんさんにはなっ!」

鍔迫り合いの至近距離で睨み合いながらも、宏はグラサン越しに大真面目でそう言った。

その刹那。

整ったポーカーフェイスの奈津紀から発せられる怒気が爆発した。

ぎゃりぃ!と嫌な音が響き渡り、鉄扇と刃が火花を飛ばすと、すぐさまピュン!と空気を切裂く音が響いた。

奈津紀が刀を翻し、今までの剣撃よりも尚速い速度で振り抜いたのだった。

ぱたたっと赤い液体が地に落ちている落ち葉を濡らす。

「くっ・・今までのが限界の速さちゃうかったんかい」

宏の首を一刀のもと切り落とそうとした一撃を、仰け反って躱したのだ。

しかし避けきれず、奈津紀の刃は宏の頬の走ったキズが鮮血を滴らせたのだった。

「貴方・・この私を相手に手加減をしているのですか?女だからという理由で?・・・だとすれば、笑止千万。剣技にも拳にも男も女はありません。ただそこに技の優劣があるのみ。二度は言いません。・・本気で来なさい。さもなくば後悔を抱いたまま冷たい骸となり果ててしまいますよ?」

静かに怒気を孕んだ声でそう言うと、奈津紀は、刀を振り剣先に付着した血糊を振るい、宏に対し正眼に構えた。

(手加減出来へん相手がまさか女やとは・・。師匠の教えに背いてまうことになるけど・・、これほどの剣士相手や・・。使わざるを得ん・・か・・)

今の一閃と、正眼で構えた女から立ち上る殺気とオーラを見た宏も、さすがに目の前の女剣士が手加減などできる相手ではないと悟ったのだ。

目の前の女が、全力でかかっても勝敗の読めない相手であると認めると、左手の鉄扇【鎧船】にはオーラを纏わせ、右手の指先には更にオーラを集中し構えた。

宏はごくりと喉を鳴らすと、刺すようなオーラを放っている奈津紀に、気になっていることを聞いてみた。

「・・・ねーちゃん。他の二人もあんたぐらい強いんかいな?」

宏はバラけて戦おうと提案したことを、僅かに後悔しはじめていたのだ。

(・・・ほかの二人もこのムチムチのねーちゃん並みやとしたら・・。やばいかもしれん)

表情を読ませないよう、サングラス越しに奈津紀の返答を待つ。

答えてくれないのかと思いはじめるほど沈黙が続いたが、澄んだ声が返ってきた。

「・・・先ほど追っていた時から貴方たちの動きはつぶさに見ていました。私の見立てでは、3人の中では貴方が一番の使い手ですね。貴方からの指名が無くとも、貴方のお相手は私がするつもりでした。・・・ああ、誤解なきよう。ほかの二人が私より劣るということではありませんよ?適正を考慮しただけです・・。それに、貴方のその心配は徒労というものです。私達の誰が相手だとしても、どうせ貴方たちは全員助からないでしょうからね」

静かな声で、表情を変えずにそう言う奈津紀のセリフは本心が読み取りにくい。

「・・さよか。そら怖い」

宏は頬に汗を伝わせ、何とかそれだけ言うと、ここ数年出したことのない領域でのオーラを開放し構えなおした。

(手はあげとうないけど・・出し惜しみ無しで勝てるような生易しい相手やない・・か)

宏の膨大な量のオーラ、圧倒的な圧力のオーラを真正面から受けた奈津紀は、一瞬目を見開くが、すぐさま表情を戻す。

「いいでしょう。ようやく舐めた態度ではなくなりましたね」

ポーカーフェイスの奈津紀は、そう言い、珍しく口角を上げ美しいが物騒な笑みを浮かべると、宏と比べても遜色のないオーラを纏い、地を蹴りに宏に肉薄し、両断せんと刀を振り下ろしてきた。

【第9章 歪と失脚からの脱出 30話 達人VS天才終わり】31話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 31話 達人VS天才2

第9章 歪と失脚からの脱出 31話 達人VS天才2


「【鬼気梱封】」

猛スピードでの激しい戦いの最中だというのに、静かな声で聞きなれない技名を呟いた奈津紀は相変わらず無表情に近かった。

身のこなしや剣技は、奈津紀の表情とは裏腹に、多彩かつ直情的で非常にバリエーションが豊富で、そして容赦がない。

そしてたった今【鬼気梱封】とやらで、刀に特殊なオーラを込めたのであろう、振り下ろされてくる刀身は視認できるほどオーラが立ち上り迸っている。

(こりゃあかん・・!)

宏は直感的にそう察した。

その剣筋が走った瞬間、ぐわっ!と不気味な音がし、宏の足元の地面が大きく抉れてなくなっていた。

「なっ!?」

(なんちゅう威力や・・・!)

すんでのところで、まさに鬼気迫る威力の一撃を回避し、宏は地を蹴り左に飛び退って一回転して起き上がった。

上段から振り下ろされた奈津紀の一撃は、剣撃による痕とも思えないほど、大きく地面を抉っている。

更に奈津紀は間髪入れず、手首を翻し返す刀で宏の胴を薙ぎ払おうと身体をひねっていた。

(ほんまっ・・!容赦ないやっちゃな!)

「【不落鉄塊】!!くっ!!」

ぐわぎいぃん!

硬質な物どうしが勢いよくぶつかり、火花と共に、けたたましい音が鳴り響く。

飛び退った宏を追いかけるように、横なぎの第二撃目が宏目掛けてオーラを迸らせ唸りをあげたのを、宏が鉄扇【鎧船】で奈津紀の地面すら抉る猛撃を受け止めたのだ。

そして宏は防御と同時に、間髪入れずオーラを纏った右手を、奈津紀の左手首目掛け一閃させていたのだ。

「なっ!?」

「しもたっ!」

今度は奈津紀のほうが狼狽の声をあげ、なぜか同時に宏も焦った声をあげた。

奈津紀はこれまで敵に当たりさえすれば必殺だった攻撃を防がれ、そのうえ反撃までしてきたことに、らしくもなく驚きの声をあげてしまったのだ。

奈津紀は咄嗟の反応で何とか腕を僅かにかすめただけで済んだが、黑のジャケットの肘から袖までの布は破れ散り、左腕の袖は肘から下が荒々しく破れた七部だけになってしまっていた。

「今のを防ぎ反撃までしてくるとは・・それにその技・・」

生身の人間が、鬼気梱封を込めた攻撃を防ぎあまつさえ反撃までしてくるとは予想しておらず、宏の反撃を躱しきれなかったのだ。

それに奈津紀は宏の右手を包んでいる青白いオーラに見覚えがあった。

(・・・栗田と同じ技・・?・・いえ、そんなはずは・・栗田のはもっと指先にオーラを集中させていた・・。・・オーラの波長や色が似ているだけでしょう・・。御屋形様ですら習得に匙を投げられたというのに・・この男が・・それこそまさかです)

しかし、推測とは違い、奈津紀はここにきて初めてポーカーフェイスではなくなると、再び正眼で構え直して半歩だけ後ずさるように距離をとった。

「あぶな・・!よう避けてくれたな・・。無駄に腕斬り飛ばしてしまうところやったわ。つい身体が動いてもた・・」

宏は身体に染みついた癖で、つい反撃をしてしまい、焦った顔のまま続けた。

「しかし、防がれたんがよっぽどこたえたようやな?まあ確かに、あんたほどの腕やったら、大抵のやつはあんたの攻撃を躱すことも防ぐことも出来んと、長いこと立ってられへんかったやろからな」

宏は、奈津紀が半歩下がって急に慎重になったのを訝しがるが、おかげで少し考えるゆとりができた。

(・・こんなところで時間かけとる場合やあらへんがな・・。どないかして、テツやモゲらに加勢に行ってやらんと・・残りの二人もマジでこの女と同じぐらい強いんやったら、・・モゲのヤツ、最初からいきなり結構なダメージもろとったし死んでまうかもしれん。・・いや・・あいつ敵の同情を買うような無様な命乞いも得意そうや・・・。いやいや・・相手はそういうん通用しそうもないお堅そうなねーちゃんやったな・・。それに、そもそも俺らは張慈円のクソったれをやりに来たんや・・。それがこんなデタラメな強さの奴等とわざわざやり合うことになるとは・・。張慈円より難易度高いんとちゃうか・・?くっそ・・宮コーにここまでの義理ないでホンマ・・。俺ら嵌めたんは宮コーの緋村やろしな・・。帰ったらあの女、女ちゅうてもただじゃすまさへんで・・。しかし、ともかく今はこのデタラメなねーちゃんや・・どないかせんと・・。気は進まんけど、この女は無理やりにでも無力化させなしゃあないな・・一筋縄ではいかんやろけど、殺さずに倒すにはそれしかあらへん・・。かわいそうやが、こっちも命掛かっとるし、このねーちゃんもこういう世界に生きてるんや。戦いで死ぬ覚悟すらあるやろ。それに比べたら優しいもんやで)

宏はそう決心すると右手にオーラを集中しだした。

師匠である栗田直伝の点穴を応用し、オーラを刃状にしたのだ。

「よく避けてくれた・・?私の腕を斬り飛ばしてしまうところだった・・?・・と?」

それを見て奈津紀は、眉間にしわを寄せて表情を険しくさせ、さらに宏のセリフに情けを掛けられたように感じ、整った顔に僅かに怒りを滲ませている。

焦りと怒りが混ざったような表情で、奈津紀の普段を知る者が見れば、さぞかし驚いたであろう。

「どないしたんや・・?さっきまでえらいアグレッシブにかかってきてたやろが?気が進まへんようになったんやったら、もうこのあたりで止めにせえへんか?このまま続けたら、ただや済まへんってことがわかったやろ?」

奈津紀の表情の変化に、宏は停戦を呼び掛けてみるが逆効果だった。

「黙りなさい。よくもそのような・・私を見下したセリフを」

僅かに怒りの混ざった表情から、さらに柳眉を吊り上げた奈津紀が静かな声で返すが、大声を出されるより迫力がある。

「さよか・・。女は傷つけとうないんやけどな・・。とくにあんたみたいな上玉はな」

「痴れ者・・まだ言うのですか。このような状況でべらべらとおべんちゃらを・・」

残念そうにそう言った宏に対し、奈津紀は被せるように冷ややか言うとカチャリと刀を握りなおした。

奈津紀はそう言ったものの、正眼に構えたままなかなか動こうとはせず、ジリジリと宏との間合いを慎重すぎるほどはかっている。

先ほどの宏の反撃の一閃が奈津紀を警戒させたのであろう。

しかし、戦いを続行するにしても、奈津紀がそこまで警戒する理由がわからず、宏は首を傾げた。

(さっきまでめちゃめちゃ積極的に襲い掛かってきよったのに・・まさか今ので怖気づいたんかいな・・?最初から俺の力量がわからんかったわけでもないやろうに・・・。それやったらもう止めにしてほしんやが・・。いや・・あの警戒の仕方・・もしかして俺の技のことを知っとるんか?)

宏の予測通り、奈津紀は柄を握る左手、先ほど宏の攻撃がかすめた部分に、チリチリとした火傷に近い痛みが疼くことが気になっていた。。

(・・この男の今の技は・・もしかして・・)

奈津紀は構えを変えるように見せかけ、一瞬だけ左手を刀の柄から離したとき、一度軽く拳をつくってから再び開き、その時に左手だけでオーラを練ってみた。

(これはっ・・!)

僅かだが、オーラの流れがスムーズにいかない。

「き、きさま・・・!」

「なんやねん急に・・・?」

正眼から中段に構え直した奈津紀は当初のポーカーフェイスではなかった。

「どないしたんや急に。ちょっと反撃しただけやないかい。女に手はあげとうないけど、お前が強すぎんねん。つい手が出てしもたんや。・・・攻撃されて手傷負わされたことが無かったんか?・・・そうやとしても沸点低すぎるで?そやからやめとこうや。俺らはあんたらと戦う予定なんてなかってん。やらないかん仕事があるんや」

「だまれ」

奈津紀らしくもなく、つい吐き捨てるように言ってしまったのは、奈津紀が宏から受けた技が何なのかをおおよそ見当がついたからだった。

敬愛する腹違いの姉、髙嶺弥佳子を1年にもわたって苦しめた点穴と同類の技だと気づいたのだ。

(おそらく栗田と同じ系統の技・・・だとすればここで絶対に斬りすてる・・憂いは断つ・・!)

皮膚を僅かにかすめただけだというのに、左手がジリジリと疼く。

直撃ではなかったからか、攻撃を受けた直後よりは、幾分マシになっているのだが、いまだに上手くオーラを練りにくい。

(御屋形様・・こんなものを身体に打ち込まれたというのですか・・!わたしのせいで・・)

才能を持ちながらも、妾の子として影に生きる運命であった奈津紀を、表舞台に引き上げたのは弥佳子であった。

(この男も・・栗田と同様・・・危険・・!)

かつて弥佳子の前に栗田を連れて行ってしまい、点穴を突かせてしまった不覚を恥じ、そして自分自身の浅はかさに怒っていた。

「・・考え事してるとこ悪いんやけど、仲間のことも気になるしさっさと済ませ・・」

最初とうって変わって攻撃してこなくなった奈津紀に焦れた宏は、そう言いかけたが、奈津紀は宏のセリフを遮るようにしてオーラを練り始めた。

「高嶺六刃仙筆頭であるこの私に対しその傲慢。後悔する間もなく散りなさい!【鬼気梱封】【剣気隆盛】・・!散れ!」

言い終わると奈津紀は地を蹴り、オーラを迸らせている刀身を振りかぶり袈裟懸けに躍りかかってきた。

~~~~~~~

一方、最初に6人が相対した場所からほとんど移動していない岩壁近くには、豊島哲司と南川沙織が対峙していた。

「んっふっふ~♪お兄さん硬いねえ~♪がっちがちぃ~!」

孤島の北岸の岩壁の中腹で、ほぼ垂直の岩肌に海面にほぼ平行立っている南川沙織は、片膝をつき肩で息をしている筋骨隆々の男を愉快そうに眺めていた。

(くっそ・・こいつマジでしゃれにならん・・。力や防御力は俺のほうが圧倒的に上のはずやが・・。この足場は身軽なあいつに有利やし、如何せん・・身のこなしが速すぎる・・それにっ・・)

先ほどから哲司を悩ませている攻撃が繰り出されようとしていた。

納刀し身を丸く屈めた女が狂気の笑みを浮かべ、抜刀し跳ねたのだ。

「きゃはー!♪」

ガキンッ!ガキン!

(これや!)

20mほどの間合いを常に保ち、刀身に宿らせたオーラを三日月形状にして先ほどから飛ばしてくるのだ。

防ぐのは造作もないのだが、こう何度も立て続けに打ち込まれては距離も詰めにくいし、防いでいるとはいえ、いい加減腕が痺れてきてしまっている。

「んふふ~♪私の刀閃をここまで防ぐヤツは正直アンタが初めて。こんなに打ち込んでも死なないなんて驚きだけどさ。かえって壊れない的って楽しいわ!♪きゃはは♪」

「・・くそっ」

せめて足場の悪い崖の斜面から平地へと移動したいが、目の前の狂気のゴスロリ女は意外にもしたたかで、それをさせないように動きを封じるように巧みに攻撃をして、そちらに行かせないよう先回りしてくるのだ。

哲司の焦燥を肌で感じ取った沙織は、僅かに喉を上げぶるぶると身を震わせて込み上げてくる快感に目を細めている。

「んぅんっんん・・・♪」

(・・この女もド変態の類かいや・・。しかし、なんとかせんと・・。間合いを詰めてなんとか接近戦に持ち込むんや・・。刀を得物としてる以上あのゴスロリも近接戦闘が得意なんやろうが、それはこっちも同じや・・。なんか手はないか・・あの速度とあの遠距離攻撃をどないかせんと・・・)

「きゃーはははは♪そぉれそれぇい!♪」

哲司の表情を見て感極まったのか、沙織は再び納刀し抜刀、そして納刀して抜刀を繰り返し刀閃を繰り返す。

「ぐっ!完全にぶっ壊れとる女やな!」

初撃の2連の刀閃を両手で防ぎ、続けて飛んでくる2連の刀閃を崖上側に飛んで躱して、一回転して拾った拳大ほどの岩石を立ち上がりざまゴスロリ女に投げつける。

しかし、哲司の投げた岩石は、女に当たる1mほど手前で赤い霧状のモノに触れて砕け散る。

「なんやねんなそれは!」

「キャーハハハハハッ!無駄なのぉ~私にそんな石ころなんて効かないのよぉ♪でも~あんた良い!・・強くって硬くって鈍くってさぁ!アンタみたいなのダルマって言うのよ。私を捉えられないじゃない♪捕まえてごらんなさいよ♪のろまなカメさん♪」

そう言うと沙織は胸を思い切り逸らせて二刀を二本とも背中に振りかぶり、一回転して振り下ろした。

その瞬間、ギュィイィイン!と2つの三日月型の刀閃が空気を切裂き、いびつに形を歪めながら哲司に襲い掛かる。

寸でのところで哲司は飛び退り身をかわすが、顔をあげるとそこにはゴスロリ女が口を大きく割いた狂気の笑みで、哲司の目の前まで迫ってきていた。

(こいつっ!近づいてきた?!)

このままずっと遠距離攻撃で削り続けられるのかと思っていた哲司は、ゴスロリ女の意外な行動に驚いたのだ。

咄嗟にゴスロリ女の二刀を封じようと、手を伸ばすが一瞬遅かった。

「【二天奪命八連】!!」

「ぐおおおぉぉぉお!」

沙織は狂気の笑みを顔に張り付けたまま、両手の小太刀に赤黒いオーラを纏った刀を右に左に高速で振るい駆け抜ける。

「んっん~ん♪」

「ぐぅうう」

沙織は、二刀を納刀し張り付いた笑みのまま振り返り、片膝をついた哲司を満足そうに見下した。

(遠距離からの攻撃から一瞬で間合いを詰めて・・・くそっ・・今の攻撃なんとか防ぎ切ったが・・・これは・・)

「ごめーとー♪ちゃんと全部避けないとダメよぅ?無理だろうけどぉ~。いまのは体力を奪い取るのよう♪お兄さんのオーラ力強くて濃厚~っ・・もぉ~っと貰いたくなっちゃうなぁ♪お兄さん硬いし、感もよくて直撃なかなかしないからさ。じわじわ行くことにしたの♪どう?私の攻撃を何とか防いでもだんだんと体力とオーラ奪って行くわよ?・・・最後は動けなくなったところでじーっくり甚振ってあげるからね♪・・きゃーははははははは♪」

(・・不味い・・・!しかし、ゴスロリ女の攻撃力やと、あの刀閃だけじゃ俺のことは仕留めきれんと思たんやろな・・。いまのオーラ奪う攻撃は厄介やが、近寄ってきてくれるちゅうんは大歓迎や・・。距離をとられてあの刀閃ばっかりされるほうがこっちとしては辛すぎんねん・・。さっきの八連撃は躱すんは無理でも、あの剣速なら何とか防げる・・・。見切った時・・俺の勝ちや・・!)

額と両腕からダラダラと出血し、ぜえぜえと息をしながらも哲司は何とか勝機を見出そうと、恐るべき狂気のゴスロリ女を睨み上げた。

「んふぅ♪・・そんなに見つめられるとぉ~。ただでさえ今いい気分なのに滾ってきちゃうじゃない~・・・・もっと絶望的な表情になってもらいたいしぃ~・・・遠慮なくもういっちょいくよ~?♪」

沙織は目を細めブルリと身を震わせてそう言うと、顔が地面にくっつきそうなほど前傾姿勢になり、納刀したまま突進居合の構えを取りいつもの狂気の笑みを貼り付けた。

~~~~

夜も白みかけてきたとはいえ、木々が生い茂る林の中はまだまだ暗い。

上空から眼下を注意深く観察していた香織は、生い茂る木々の間を駆け抜ける影目掛け、オーラで白く光る弓弦を響かせた。

キィイン!

甲高く澄んだ音を響かせて発射されたそれは、ほの暗い林の中を明るく照らしながら高速で進み、狙いをたがわず着弾した。

ガキィイン!

硬質な物どうしがぶつかり合う音を響かせ、一瞬昼間よりも明るく切裂いた。

「おんどれえ!!どっから打ってきとんじゃい!降りてこんかい!」

白く光る矢が当たる直前で肉体を極限まで硬化させて何とか防いだが、モゲこと三出光春は防戦一方に追いやられていた。

黑とピンクのブーメランパンツだけを履いた筋骨隆々の男は、体中を裂傷で血まみれに染めていた。

「ゼェゼェ・・・。くそっ!なんでこっちの場所がわかるんや?!・・こんな木の葉が生い茂ってるちゅうのにまるでこっちの位置はバレとる・・・。こっちからは見えへんのにあいつ・・透視能力でももっとんかいや・・!?」

モゲは大きな木を背にあずけ、敵が構えているであろう上空を伺うが、長身長髪のパンツスーツの女の姿は見当たらない。

先ほどから一方的に視界外の上空から矢状の閃光一閃の攻撃を続けられている。

飛び道具に対して、遮蔽物の多い林の中に逃げ込めば無力化できると考えたのであるが、まるで見当が違ってしまった。

長刀長髪女は携えていた長刀を弓状に変形させ、オーラの矢を放つ能力。

もし、それを無力化できればあの長刀を振るうしかなく、林のなかでは長物は不利になるとふんでの判断であったのだが、まったく功を奏することなく矢の攻撃を受け続けてしまっている。

「いったいどうやって・・・。なんとか場所さえわかれば・・」

木々の葉の隙間を伺い長刀長髪の女こと前迫香織の姿を捉えようと、大木から上空の覗き見たとき再びあの音が響いた。

キィイイン!

「ぐおっ!?」

大木を背に預けて身を隠していたつもりだったが、白い矢は正面上空から打ち込まれてきたのだ。

あわや胸部を貫くところで、モゲは転がるように身をかわし大木の裏側に回り込み身をひそめる。

「なんてこっちゃ!・・一方的やないか・・!ほんまにこっちが見えとるんや・・!」

モゲが避けた為、オーラによって発生されられた白い矢は大木に直撃し、幹の半分ほどまで刺さって周囲を昼間のように照らしていたが、その具現化した矢が消えたところで周囲は再び静寂と暗闇に包まれる。

「くっ・・かなりの威力や・・・速度も速いし狙いも正確・・。オーラの防御解いてたら急所に当たったら即死って訳かいや・・」

どの程度の距離から射てきているのかは、あの硬質な発射音から推測するにそこまで遠くではない。せいぜい30m程度だとモゲは掴んではいた。

矢が発射される時に距離と方向の大体の予測は立つが、あくまで大体である。

それに引き換えあの長身長髪女の狙いは正確無比である。

モゲはブーメランパンツの股間に手を忍ばせ、ビー玉を手に取った。

親指の爪ほどの大きさのガラス製のビー玉を掴み、練り込んだオーラを確認する。

(・・・5個か・・。高慢お嬢様いたぶるんに使うてきてしもたからなぁ・・。半分の5個も突っ込んで辱めてやったんはおもろかったが、こんな強敵に出くわすとは思いもよらへんかったやんか・・。ビー玉いまだに取れんと疼かせとるころやろな。こんなことやったらお嬢様辱めるに使いすぎんと持っとたらよかった)

モゲは武器にもなりえる特性ビー玉の残数が心許ないことに後悔したが、まさに後悔先に立たずである。

(こうなったらあの音がした瞬間にカウンターでビー玉打ち込んで、長髪女を打ち落とすしかあらへん)

モゲにもこれが圧倒的不利な勝負であることはわかりきっていた。

攻撃が後手になるうえ、どうやら相手はこちらの動きが見えているようなのだ。

(何回も通用せえへんな・・・。こっちがビー玉で反撃してくるんがわかったら、矢を打った瞬間に躱してしまうはずや・・・)

「おい!降りてこんのかい!なんぼそんな下手な矢打ってももう当たらへんぞ?!」

先ほどから戦闘を繰り広げているせいで、虫や動物たちの声は完全に止んでいる。

モゲの怒声に長身長髪女は応えない。

(くそったれ・・!あくまで勝負に徹する気かいや。面白味のないクソったれ女やんか)

戦闘開始してから最初に姿を見せたきり、全く姿も見せず、声も出さない敵を心中で罵りながら、モゲは握っているビー玉に更にオーラを込め、全神経を集中して迎撃に備えたのだった。

一方モゲから見えない上空では、香織は【斥力】で宙に浮いており、【見】という能力で、モゲの動きを完全に見ていた。

そのうえ【斥力排撃】を自身の周囲に展開し、飛び道具による攻撃をすでに無効化しているのであった。

よってモゲが決死の反撃を試みたとしても徒労に終わるのだが、当のモゲにそれを知る由はない。

それより香織はモゲが取り出したモノの出どころに眉を顰めていた。

(・・・股間から何かを取り出した・・・。ビー玉・・・?けがらわしい・・。あの汚染物質で私を攻撃するというのですかっ!?・・・信じられない下品な男です!)

モゲがブーメランパンツから取り出したビー玉をすでに見ている香織は、美しい顔を歪め不快気に心中でモゲが罵っているのと同じように罵っていた。

【見】は自身を中心として広大な範囲を察知する能力である。概ね円形状に展開させることができるが、近いところ程、察知精度が増す傾向にある。それにくわえ察知したい方向を指定することも出来るので、完全な円形ではなく、いびつな楕円形に展開することも可能であった。

いまは張慈円と樋口の護衛を兼ねているので、モゲと戦闘中ではあるが、護衛対象の二人を【見】の範囲に収めるように広範囲に展開している状況である。

【見】をいびつな形で最大距離まで伸ばすと、なんと2kmほどの範囲になる。

その結果、当然近くの【見】の範囲は少なくなってしまうので、モゲとの距離はきっちり30mほどしか離れていなかったのである。

(奴も飛び道具を使うのでこの距離は少々危険ですが・・・致し方ありません。張慈円様はこちらに我ら髙嶺の総戦力を配置しましたが万が一ということもありますからね・・・。それに、あのパンツ男はそこまで手強い相手ではありません・・。この距離しか取れないとしても十分でしょう・・。反撃を狙っているようですが、奴の動きも鈍っています・・。そろそろ仕留めますか・・)

香織はモゲの位置からは死角になる位置まで移動し、再び長刀を弓状に変化させオーラを集中させる。

【斥力】【斥力排撃】【見】と三つの能力を展開させながら、新たな攻撃技能のオーラを練り蓄えだす。

【三気心射儀】オーラ上の白い矢を三つ番え同時に放つ技である。一発一発の威力は一本で打つ時と何ら変わる事がない。ただオーラを余計に消費し、集中力を要するだけである。

しかし、香織は六刃仙のなかで千原奈津紀と双璧の実力を持っているのだ。

技能を同時に4つも展開させて発動させても十分な威力がある。

(さて・・、これでお仕舞です・・)

上空で膝を付き、弓を引き絞るような恰好になった香織の右手には3本の矢が番えられていた。

【見】で見えているモゲは香織に気付いた様子もなく、全く別の方向を伺っている。

(愚かな・・・こちらを補足することすらできないとは・・。恨むなら己が実力の無さを恨むのですね・・・!)

いま香織に射られれば避けることはできず、死ぬか致命傷を負うのは確実のタイミングであった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 31話 達人VS天才2終わり】

第9章 歪と失脚からの脱出 32話 紅蓮VS菊一女性チーム

第9章 歪と失脚からの脱出 32話 紅蓮VS菊一女性チーム


濃い赤の下地に大輪の花を描いた毛足の長い絨毯の上を、迷いのない歩調で進む者がいた。

宮川コーポレーション15階のホテルフロアの廊下を、一人の女性が速度を緩めず歩いている。

黑のタイトスカートスーツにピンク色のブラウス、黑のストッキング、そして艶のある巻き毛の赤髪、宮コー組織では知らぬ者はいないであろう紅蓮こと緋村紅音である。

大島優子似の童顔だが、その美しい顔に、今は愛らしさはなく、やや怒っているようにも見えるが、その不機嫌そうな表情すら美しい。

小柄ながらも普段から周囲を圧倒する存在感を放っているが、いまは身に纏っている雰囲気はそれ以上であった。

洗練された内装や調度品で拵えられたすこし広くなっているホールで、紅音ははたと脚を止めた。

「ふぅん・・いくら何でも気づいてるようね。・・・さあ、こっちは一人よ。出てきなさい」

紅蓮こと緋村紅音は形の良い顎に指をあて、少しだけ感心したように笑うと身を潜めているであろう者たちに声を掛けた。

姿こそ見せないが、紅音は美佳帆等がこちらの気配に気づいているのを察して無人の廊下に声を掛けたのだった。

(だいぶまえから私に気付いていたようね・・。ということは・・・感知系がいる。・・でも、いくら精度や範囲が広くてもその能力だけじゃ私にダメージは与えられないわよ)

紅音は先ほど一つ部屋を訪問している。

すでに菊沢美佳帆と斎藤雪が宿泊している部屋は、もぬけの空であったのだ。

続いて齋藤アリサが宿泊している部屋のドアの前まできた紅音は足を止めると、五感を研ぎ澄まし周囲と室内を探る。

「・・ちっ!」

感覚に手応えが感じられなかった紅音は、鼻に皺をよせ美しい顔に嫌悪感を露わすと、無遠慮な舌打ちをした。

生れついて顔は可愛らしくあり、ふだん口調は丁寧を装ってはいても、とたんにその表情と口調が変わるのが紅音だ。

美人に生まれついているのは運がいいことである。

当の紅音本人はそんな恩恵をありがたがることもないのだが、怒ったり苛ついた顔であっても相手に美しいと認識させてしまうので意識していないぶん性質が悪い。

紅音のオーラによる感覚強化は非常に強力であるが、それをもっても美佳帆達の存在は探知できない。

強力だとは言っても特殊な技能ではなく、ただ精度や範囲が広いだけで相手が全く無音の場合は紅音には探知できないのだ。

(・・めんどくさいわね!どいつもこいつも)

紅音は美しい顔を更にゆがめると身体を翻し、美脚を一閃させる。

どかっ!

アリサが宿泊している部屋のドアを蹴破ると、室内に向かって右手を突き出し炎を放出させた。

ごおおおおおおおおおおお!

威力は低いが室内の温度を一気に上げ、なおかつ室内の酸素を急速に奪うのが目的の炎を舞わせる。

威力は低いといっても常人に耐えられるものではない、少々能力が使える程度の能力者ならば、熱さと呼吸困難で苦悶の悲鳴を上げるであろう。

籠城しようと部屋に立て籠もっているのであれば、ひとたまりもない攻撃であったが、室内からは悲鳴は上がらない。

「・・・ハズレ・・か」

右手をかざした格好のまま紅音はそう言うと、室内を確認することなくドアに背を向け次なる目的地、伊芸千尋が宿泊している部屋へと歩を進めだした。

美佳帆とスノウが宿泊していた部屋も同様にそうしてきたのである。

しかし、紅音がアリサの部屋に背を向けて歩き出した瞬間、黒焦げになった部屋の中から飛び出してくるものがあった。

天然こと斎藤アリサである。

「こんのぉ!」

気合の咆哮とともに紅音の華奢に見える背中目掛け、アリサは巨木すらへし折る飛び蹴りで襲い掛かる。

しかし、この不意打ちを紅音はやや面食らった表情ながらも、振り返って難なく受け流す。

「きゃ・・っと」

(今のでも悲鳴をあげない?耐えたというの?・・・だとすれば、そこそこ以上の能力者ということ・・ね)

紅音は今の火炎放射の熱に耐え、声すら挙げなかったことに素直に驚き奇襲を受けたため悲鳴を上げかけたが何とか悲鳴を堪えてとびかかってきた正体を瞬時に観察する。

やや焼けこげた黒のタンクトップに納まった豊満な胸を揺らし、ピチピチの白いスパッツ姿の女が放つ、轟音を唸らせた蹴りの勢いを逸らしてながし、その背後の次なる二つの影もすでに捉えていた。

「くっ!いまの避けるおぉ~?!」

不意打ちを躱されて狼狽えた声上げるアリサに続き、菊沢美佳帆と斎藤雪が鉄扇を振るい紅音に躍りかかる。

『はああぁ!!』

「っと・・ふふっ」

二人してよく似た黒鉄の鉄扇を振るい、声をハモらせて紅音に斬りかかるも、すでに余裕の表情になった紅音は薄ら笑いを浮かべ、左右から振り下ろされてくる鉄扇を両手で受け止めたのだ。

「なっ!?片手で?」

「うわさ通りのとんでもない使い手のようね!」

肉体を極限まで強化させた鉄扇による一撃を素手で防がれ、スノウと美佳帆はほぼ同時に声をあげた。

美佳帆は鉄扇を奪われまいと咄嗟に手首を捻り、腕を引くが恐るべき小柄な赤髪巻き毛の女、紅蓮こと緋村紅音は薄ら笑いの表情を崩さず、鉄扇を握った手はびくともしない。

「可愛いわね。女性らしい非力さで羨ましいわ」

「くっ・・なんて力なの!」

美佳帆とスノウが振り下ろしたそれぞれの鉄扇、その一振りずつ片手で受け止めた紅音は、呻く美佳帆に目を細め微笑んで言う。

「ふふふっ・・残念ね。肉体強化もそこそこ使えるようだけど私相手じゃこの程度・・お気の毒としか言いようが無いわ・・だから大人しく・・」

紅音が言葉を続けようとしていた時、美佳帆とスノウの間からお嬢こと伊芸千尋が無言で踏み込み、紅音の顔面目掛け思い切り拳を突き出してきたのだ。

「覚悟っ!」

不意打ちの攻撃を繰り出した千尋は、全開で肉体強化を行い紅音の顔面を殴りつける。

しかし、紅音は両手で鉄扇を掴んだまま、顎を逸らし上体をぐぃとのけ反らせて千尋の拳を躱すと、同時に右ひざを突き出していた。

どす・・!

と鈍い音がし、紅音の膝が千尋の鳩尾に突き刺さる。

「ぐぅ!!」

『千尋っ!』

「千尋ちゃん!」

千尋は自身の突進速度の威力で紅音の膝蹴りを腹部に打ち込むようになってしまい、たまらず蹲る。

3人の声が重なり蹲った千尋を紅音から少しでも引き張すようにして、抱えて飛び退った。

美佳帆やスノウは咄嗟に鉄扇を離し、千尋に駆け寄ったのだ。

「声も掛けず不意打ちだなんて、みんななかなか思い切りがいいじゃない?もっと無駄な問答や命乞いをするのかと思ってたわ」

奪った両手の鉄扇をぽいっと後ろに投げ捨て、意外だというような素振りで紅音は美佳帆達を見下ろしながら言う。

「・・・そんなマネ私たちがするわけないじゃない・・。緋村支社長・・やっぱりあの仕事は宏達を嵌める為の罠だったのね・・・。そのうえ私達も・・許せない・・。貴女の思い通りになんてさせないわ!」

蹲って痛みをこらえている千尋の背を撫でながら、美佳帆は見下してくる小柄な赤髪巻き毛の女をキッと睨みながら言い返す。

「はぁ?この私があんなに譲歩してやってたのに生意気言うからよ。敵になるかもしれない能力者に、お給料まで払って生かしておくつもりなんてまるっきり無いわ。こないだの会食のときはっきり言ったでしょ?これが最後の勧告だって。覚えてないのかしらね?!」

紅音は、美香帆に対して肩をすくめて見せながらそう言うとゆっくりと歩き距離を詰めてくる。

「千尋・・大丈夫?」

「え、ええ・・なんとか・・」

美佳帆は、目をきつく閉じ、蹴られた腹部を抑えて痛みをこらえている千尋に声を掛けるが、紅音はそんな美佳帆達の様子を楽しむように眺めながら近づいてくる。

対する四人は、紅音が歩を進めると同じだけ後ずさってしまう。

(ふーん。・・・そこまで攻撃的な能力者はいないみたいね。多少肉体強化ができるみたいだけど、最初に蹴ってきた奴以外の奴等は明らかに純粋な肉体強化系じゃない・・。鉄扇の威力もなかなかだけど・・私の強化能力でも十分防げる。純粋な殴り合いじゃ勝機が無いのは相手もわかったはず・・・さて、肉体強化系じゃないならどんな能力を使うのかしら?)

紅音は短気ではあるが、頭の回転は速く、戦いに関しては透徹した洞察力も備えている。

(5点、4点、2点、3点・・ってところね。・・しかし・・)

先ほどの一瞬の攻防でほぼ4人の肉体による個々の戦闘力を見抜いたのだ。

しかし、肉体強化系ではないとすればそれ以外の厄介な能力を所有しているかもしれないと、紅音は警戒を緩めない。

紅音は一対一で自身に敵う者はいないと思っている。

屋外の円形の闘技場のような、隠れる場所や逃げ場のないところで戦うのであれば、紅音は最強に近いかもしれない。

よってその判断はほぼ正解だと言えるだが、紅音の能力は肉体強化にしろ、発火能力にしろどちらも直接的で分かりやすい能力である。

銀獣こと加奈子のように肉体強化特化のみというわかりやすい能力とは違って、能力者には操作系や精神感応系など、七光りこと宮川佐恵子のように、力に頼らず敵を制する能力を持っている者もいるし、複雑な発動条件を組み合わせた強力な技能を作り上げている者もいる。

よって紅音は、能力の種類によっては足元をすくわれかねないということもよくわかっていた。

しかし、それらも紅音の思念防御を突破できなければ紅音に届くことはないのであるが、かつての恋人の丸岳に言われたからか、今日はいつになく油断なくことに当たるつもりであった。

(わずかとはいえ、物理攻撃だと私にダメージを通せるのはスパッツ女と菊沢美佳帆の鉄扇だけね。もう一人の鉄扇使いは明らかに菊沢美佳帆より威力が劣る。・・・こいつらが強化系じゃなく精神感応系だとしても、いま戦った感じじゃ私の思念波を突破できるとは思えない。そもそも七光りの魔眼でさえ私には届かないのよ。・・・でもこいつらの目・・・諦めてない。・・この程度の力で、なぜ宮コーに・・・なぜ私に逆らえるの・・?宮コーは表も裏も絶大な力を持ってるのよ?・・それに、いまので私に勝てないってのがわからないの・・?そこまで愚かな使い手には見えないけど・・まさか勝機があると・・?切り札でも持ってるのかしら?・・それとも逃げの一手かしら?)

「・・ねえ、わかんないんだけど、私に従えば死なずに済むのよ?どうしてこう強情なの?・・あなたたち別に七光りに義理があるわけじゃないでしょう?・・・宮コーや私のような能力者に睨まれて長生きできると思ってるの?・・ここで私から逃げたとしてもきっと寿命じゃ死ねないわよ?」

紅音は本当に理解できなかった。

利のあるほう、強い者に従うのは人の、いや動物の本質だと思っているからだ。

「・・・貴女にはきっとわからない」

紅音に対峙する4人のうちの一人、水色のノースリーブカットソーに白のプリーツスカートを履いたスノウこと斎藤雪が膝を付き、千尋の背中を撫でながら、いつもの口調で、しかししっかりと紅音の目を見て言い返した。

「へえ・・あんた喋れるんだ?私あなたの声聞くの初めてな気がするわ」

(さっき鉄扇で殴ってきた非力なほう・・)

紅音はそう言うと、顎をあげて見下すような姿勢になると、小動物の次の行動を楽しむかのようにスノウの言葉を待った。

「紅蓮、貴女はそう言う生き方をしてきたんだと思う。利のある方へ動き、力や権力を求め、力や権力で人を支配するのを是とし、自分自身も力のある宮コーには従ってる・・・。貴女は、きっと自身の主義心情を曲げてまでその身を翻してきたんだと思う。・・その生き方を私は否定しない。それは貴女の本質で人格の一部だから・・尊重する。きっと捨てたくなくても捨てたもの・・諦めざること得なかったこともあったと思う。・・でも貴女はそれを他人にも強要してる。その押し付けを私たちは否定するの。わたしたちは権力や利益だけに縛られない。だから所長のところに集まったのよ。・・・あなたと同じ、自分の主義心情のため。所長は宮川さんのやり方や目指すことに一定の理解を示したわ。宮コーの組織に属するのは、所長にも多少折れなきゃいけない部分があったけど・・それは全部私たちのため・・。所長の私利じゃないことよ?・・私たちの・・弱い私たちの身を案じてくれたからよ。・・私たちは・・それに応えたいの」

「・・・ずいぶん喋れるじゃない?口が聞けない子かと思ってたわ。殉じるっていうのその考えに?・・・その菊沢宏はそろそろ死んでるころよ?髙嶺の三剣士と張慈円・・あと香港トライアドの一つで、華僑を率いる倣一族も来てるはずだわ。みんな能力者としてはけっこうな有名人よ。いくらあのサングラスの腕が立つといっても無事帰ってくるのはむずかしいでしょうねえ」

意外な人物からの突然の指摘に紅音は驚いた表情から不快気な表情に変わり、低い声でスノウを脅かすような口調で言う。

「そんなところにっ!・・貴女って人は!」

紅音の言葉に美佳帆が激昂して反応する。

「所長たちを・・殺すために・・・。許さないっ!」

美佳帆同様、美佳帆のように声を張り上げないがわなわなと肩を震わせたスノウが静かに言い返す。

「ふん、あなたが許さないって?いったい何ができるのかしらね。何も怖くもないし、本当にそんなくだらない感情を押し通して死ぬの?」

「死なない。・・・何ができるのかって・・?何ができるか見せます。・・いいですよね美佳帆さん?」

「スノウっ!・・私たちはもちろんいいけど・・・!でもスノウや千尋こそ・・いいの?」

先ほどの不意打ちですら紅音にかすりすらしなかったのである。

美佳帆達が紅蓮とまともに戦うには、それしか手が無いと美佳帆もわかっていたがスノウたちの覚悟を確認したのだ。

「うん・・千尋ともちゃんと話してる。それにこのままだとやっぱり敵わない・・・。このまま何もせずにやられるなんてできない。千尋いいよね・・?」

「ええ・・、モゲ君が死んじゃうなんて想像できないけど・・。確かにやばそうなところに行ってるのね・・。所長や副所長・・モゲくんもきっと帰ってくるよ。モゲ君たちが帰ってきたとき私たちがいなきゃ・・。このままだと死んじゃうかもしれないのに、恥ずかしいだなんて言ってられないわ・・」

千尋も紅音に膝蹴りされたお腹を摩りながら頷いた。

スノウは紅音に向けていた顔を美佳帆、そして千尋へと移してから再度美佳帆に頷いて見せたのだ。

「・・なにかあるのね?・・奥の手ってやつかしら・・見せてもらおうじゃないの」

美佳帆達のやり取りを見ていた紅音は、笑みを浮かべながらも警戒を深め、組んだ腕を解き、構えを取った。

「言われなくても」

静かな声で、意思の強い目で紅音を見据えたままスノウは能力を発動した。

スノウの能力は【通信】という能力で、主に会話や思惑、映像などを一定範囲の者に同時に送信するのだが、その能力を応用して昇華している能力がある。

スノウを含めた美佳帆たち4人をスノウの能力【共有】が包む。

4人のオーラ総量が一つになり、4人が一個のモノとなる。

4人の意識が共有されていく。

経験や知識が4人の中で一気に混ざり攪拌され混ざり合う。

【共有】頭は一つで操縦桿は一つであるが文字通り共有である。オーラも思念も共有されるのだ。

四個一となった4人は初めての感覚に戸惑うも、目的ははっきりしている。

目の前の敵、紅蓮を倒すこと。

しかし、初めての感覚、一瞬で頭に膨大な量の情報が流れ込んでくる。

新しく印象の強い記憶ほど、鮮明に映し出される。

スノウや千尋が張慈円から受けた凌辱の記憶をはじめ、4人のプライベートな情報が4人の脳の中で一気に共有されてしまう。

(ああ、辛い・・。・・・私が凌辱されて快楽に負けて、心が折られたことが鮮明にみんなに伝わっちゃう・・。でも、もっと辛いのは美佳帆さんと所長との情事や会話の記憶まで私に流れ込んでくる・・・。あんなに幸せそうなのに・・・)

(スノウ・・宏のこと・・・。いままで気づいてあげられなくてごめん・・でも・・)

(いいんです美佳帆さん・・。所長が選んだのは美佳帆さんなんですから・・所長を見てたらわかります。私の入り込む隙なんて無かったんです・・・チャンスがないかと事務所にずっといたのはその為もあります・・美佳帆さんごめんなさい)

(いいのよスノウ・・。実際なにもしてないじゃない・・。私が言うのもなんだけど、宏はたしかにいい男だしね・・。でも・・スノウ・・あなた全然割り切れてないじゃない・・)

(正直所長のこと・・諦めきれてはないです・・そればかりは・・でも、理性では割り切ってるつもりです・・)

(うわぁ・・!)

(くぅ・・スノウも私以上の凌辱されてたのね・・辛かったでしょう・・。辛いのに・・憎いのに気持ちよくされて訳わかんなくって辛いよね・・)

(千尋も・・ご主人を庇ってあんな目にあったのに・・そのご主人とそれが原因で離婚だなんて・・)

(アリサ・・・あなたってなんにでもカラシかけて食べるのね・・。ってアリサが処女だったなんて・・こんなハードな記憶刺激強すぎたんじゃ・・ごめんね)

(は、はずかしー・・!みんなには内緒だよ?!)

(みんなお互いの言いたいことは後!・・今は紅蓮に集中しましょう!)

(はい!)

(ええ!)

(やっちゃうよー!)

4人の意識が混ざり合い混濁して一つの塊に共有しているが、はた目には大きなオーラを放つ者が急に現れたように見えるだけである。

「こ・・これは・・?!」

佐恵子のようにオーラを視認できるわけではないが、紅音は目の前の4人のオーラが膨れ上がったのを肌で感じ取って声をあげた。

(・・急に威圧感が?!強くなった??!)

「はぁはぁ・・!緋村支社長。貴女に全力で抵抗して見せる!」

黒髪を靡かせ立ち上がり、額には玉の汗を光らせたスノウははっきりとそう言うと更に共有の範囲を広げた。

「くっ?!」

紅音が焦った声を上げ、顔を横に逸らせて側中転して背後から襲い掛かってきた黒いモノを躱したのだ。

「さっきの?鉄扇?!」

スノウの【共有】能力で人だけではなく、あらかじめオーラを通わせておいた物質をも共有することができる。

美佳帆とスノウの持っていた鉄扇は宙を舞い、紅音を背後から攻撃したのち美佳帆たちを守るかのように4人の周りを飛んでいる。

「はぁはぁ・・いまのまで躱すなんて・・流石ですね!‥美佳帆さん・・美佳帆さんなら私より上手く扱えるはずです。・・私達の操縦任せます・・」

「任せといて!!スノウ、千尋・・!あなたたちの覚悟感謝するわ・・!絶対に乗り切りましょう!みんな力を貸してちょうだい!さあ!全力で行くわよ!」

美佳帆がそう言うと同時に、美佳帆が思念を飛ばすとピチピチのタンクトップの胸を揺らせてアリサが紅音に躍りかかった。

アリサのパワーやスピードは恐るべきものだが、本来なら紅音の体術には敵わない。

しかし、いまはアリサだけのオーラではなく4人分のオーラに加え、戦闘スキルはアリサの技術に加えて、俯瞰で戦闘を眺めている美佳帆が操っているのだ。

ばきぃ!

「ぐっ!?」

頬を殴打された紅音は赤髪を大きく振り乱して、吹っ飛ばされるが、なんとか空中で態勢を立て直し、廊下の壁を蹴ってアリサから大きく距離をとる。

「・・・なっ・・?なんで?!速いじゃない?!」

予想以上の速度と威力で殴られた紅音は狼狽した声をあげるが、その問いに応えるものはなく目の前には更に斎藤アリサが迫ってきていた。

紅音の反応速度を上回る攻撃、紅音のオーラによる防御をも貫通してくる猛烈な蹴り技が紅音を襲う。

「ば、ばかな・・!」

無言で襲い掛かってくるアリサの戦い方に解せない思いを募らせた紅音が、戸惑いの声をあげる。

どんなにフェイントを入れても、完全な死角から攻撃を仕掛けても防ぐか躱してくる。

それも道理で、アリサに4人のオーラを集中しているが、戦っている紅音とアリサを周囲3人で見ているのだ。

「ぐっ・・!ぐはぁ!」

3発ほどクリーンヒットを受けた紅音が、たまらず周囲を巻き込む技能を発動させる。

「調子に乗るなぁ!!」

美しい顔を歪め、口からは血を流しつつも紅音の能力発動は恐ろしく正確で速かった。

紅音の半径50mほどの温度が一気に上がる。

【焼夷】炎を発し周囲全体に熱による地象効果をもたらす無差別攻撃である。

当然紅音も熱の影響を受けるが、紅音の思念防御以下の威力で発動させるため、紅音自身は無傷である。

あまり火力を強めると宮コーの関西支社自体を燃やしてしまうため、威力は炎が上がらない程度に抑えてあるが、それでも生身の人間にとっては長い間この空間にいれば確実に死ぬであろう程の威力はある。

「きゃああああああああ!」

美佳帆たち4人は先ほどの火炎放射よりも強力な熱に悲鳴を上げ顔を覆い、避けられえぬ熱気から身を守ろうと手で顔を覆った。

しかし、【焼夷】が発動した瞬間、美佳帆は熱気で喉を焼かれないよう、眼球の水分を奪われないように目を閉じたまま千尋に指示を頭の中で飛ばす。

(千尋!【脈動回復】)

(ええ!)

スノウの能力で、いま4人は会話をしなくても意思疎通ができ、4人分の能力を美佳帆ひとりが操り四人の能力を司っている。

二人は無言でやり取りを済ませ、徐々に体力を回復する【脈動回復】をスノウの【通信】と【共有】で4人全体に効果範囲を広げ、熱気によるダメージを上回る回復技能を展開させたのだ。

「こ・・・こいつら!何故【焼夷】で死なない?!」

【焼夷】範囲に入ってすぐさま戦闘不能に陥るかとタカをくくっていた紅音はうろたえた。

千尋の徐々にキズを治癒するする技能を、スノウの【共有】と【通信】で全体化させて、紅音の発動している【焼夷】による地象ダメージを上回る速度で治癒しているのだが紅音にその術を知る由は無い。

美佳帆は紅音の動揺を見逃さず、先ほどより遥かに力強いオーラを纏せたアリサを突進させ、更に宙を舞う鉄扇でアリサの攻撃の隙を埋めるように紅音を襲いだす。

「ぐぇ!」

さすがの紅蓮も躱しきれず、アリサの低い姿勢からのソバットが紅音を持ち上げるように腹部に突き刺さる。

紅音は目を剥き口から血と涎をまき散らして仰け反るが、アリサは追撃で更に蹴り込んで地面にたたき落とした。

「ぐぅ・・!この私によくもこんな無様な・」

「今のを受けてもまだ動けるって言うの?!」

思い切り床にたたきつけられた紅音が、顔の血を拭い、蹴られた腹部を抑えながら置きあがってくる様に美佳帆は戦慄して声をあげた。

他の3人も同様の気持ちなのが脳で共有から伝わってくる。

アリサに攻撃をさせている際は、4人のオーラのほとんどをアリサに集中させている。
ほぼ4人分のオーラで強化したアリサの攻撃を受けても耐え、あの速度にも何とか対応している紅蓮とよばれる宮コー最大戦力の緋村紅音の実力の底が図り切れないことに戦慄したのだ。

しかし、一方の紅音はかつてない危機だと感じていた。

どういう能力かはわからないが、斎藤雪が能力を発動したとたんに、本気を出さなければ死ぬと肌で感じる相手たちに成り代わったのだ。

(どういう発動条件なのか知らないけど・・、体術で私を上回るなんて・・さっきの速度と威力・・加奈子以上だわ・・あのスパッツ女・・・明らかに最初と違う・・・)

「・・・少々・・燃えても・・いいか。・・仕方ないじゃない。このまま手加減して死んじゃうなんてナンセンスだわ」

立ち上がったが、苦悶の表情で腹部を抑えたままの紅音は、小声で物騒なセリフを呟くと目を見開きオーラを開放する。

紅音は、今まで建物を焼き尽くしてしまわないように抑えていたオーラを遠慮なく発動した。

敵意に満ちた膨大なオーラをその身に纏った紅音は、邪悪な笑みを浮かべると右手を突き出し言い放った。

「もう終わり!予定どおりに死ねっ・・・!【紅蓮火柱】」

本気のオーラを開放し勝利を確信した紅音は、右手にオーラを収束させ放った。

ホテルの通路いっぱいに広がった直径5mほどの深紅の火柱が轟音とともに水平発射され美佳帆達を襲う。

熱量、速度、炎の範囲、いずれも先ほどまでとはけた違いで、到底躱したり防げるような代物ではない。

驚きの表情を貼り付けたままの美佳帆達を紅蓮の炎が覆い、炎はそのまま美佳帆たちを飲み込み、建物の壁面を焼きつくして、壁を貫通した火柱が夜空に紅い直線となり走り抜けた。

【第9章 歪と失脚からの脱出 32話 紅蓮VS菊一女性チーム終わり】33話へ続く

筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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