第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 21話【回想】恐慌不発!
キィン!
金属と金属が擦れたような高音が響くと同時に、佐恵子の眼から黒い光が発せられる。
【恐慌】
「うっ!?な・・なんだ?!・・くそっ?!」
御姫様抱っこをしていた佐恵子から至近距離で黒い光を浴びた錫四郎は、抱えていた佐恵子を投げ捨てるように床に放り出すと、両手で顔を覆うようにして悪態をついて後退る。
どさっ!
「うくっ・・!」
御姫様抱っこから解放され床に落ちた佐恵子は、すぐに立ち上がろうとするが、膝を立てかけた瞬間にガクリとよろめき再び床に伏してしまう。
「はぁはぁ・・・!」
エデンで飲まされた筋弛緩剤入りアルコールと、今無理やり飲まされた2種類の媚薬で身体中を蝕まれた佐恵子は、長い髪を床に這わして立ち上がろうともたつくが、どうしても身体が起こせない。
身体は思うように動かせないが、思考と感覚はしっかりしている。
身体は動かせないのに、不思議としゃべるのには支障がなくなってきた。
そのため佐恵子は、クスリの効果に身体が抵抗でき出したと思い目をつかったのだが、身体が回復してきたと思ったのは勘違いであった。
錫四郎たちが使っている薬には、そういう風にできているのだ。
四肢は動かせないが、思考と感度だけは研ぎ澄まされ、口だけははっきり動かせる。
撮影した際に、意識が朦朧としているように見えず、行為自体が女の意志であるかのように思わせるようにその薬は造られているのだ。
はっきり喋れたとしても、撮られる羞恥にまみれ、感覚が研ぎ澄まされ感度を限度以上にあげられた女が発する言葉は、普段到底言葉にできないようなことを口走ることを、狡猾な男たちはよく知っているのである。
そんな男たちの思惑など知る由もない佐恵子は、自身の鍛え抜いた身体と膨大なオーラ量で、薬による影響から回復し始めたと勘違いし出したが故の【恐慌】発動だったのだ。
しかし、身体は回復するしているどころではなかった。
不安定な精神状態で、たった一発の不完全すぎる【恐慌】を発動しただけで、視界はぼやけ、意識が飛びそうになるほどオーラを消費してしまっている。
(な・・なぜ・・?全然威力が・・。それにこんなに消耗するなんて・・。これ以上目は使えない・・でもこんな者たち程度なら素手でも・・・)
ぐわんぐわんと視界と意識がまわるなか、佐恵子は【恐慌】を直撃させたにもかかわらず、錫四郎が倒れないことに狼狽したが、それ以外の取り巻き達もどうにかしなくてはと思い、男たちに距離を詰めようと床を蹴る。
しかし、床を蹴ったはずの足は、膝立ちでぶるぶるとか細く震えただけで、くるぶしと膝、股関節にも力が入らず、崩れるように転んでしまう。
「あくっ!?」
佐恵子は腕でも支えられない身体を床に伏したまま顔だけあげ狼狽の声を上げるも、一瞬のためらいの表情を見せた後、覚悟した顔になり、再び目を酷使しオーラを収束させだす。
「おい!使わせるな!」
【恐慌】をくらったにもかかわらず、錫四郎はそんな佐恵子の様子に気づき、頭を押さえながら、取り巻き達に指示を飛ばしてけしかけた。
錫四郎に駆け寄っていた取り巻き達は、床に突っ伏し、片方のひじをついて顔だけを何とか持ち上げている佐恵子に向って飛び掛かる。
普段の佐恵子であれば、たちまちその者たちの動きを躱し、手痛い反撃を食らわせただろう。
しかし目で十分追えるほど遅い取り巻き達の動きであるにもかかわらず、いまの佐恵子ではどうにもできない。
キィイン!
金属を擦り合わせたような高音を響かせ、目から再び放たれた黒い光が、駆け付けた男の一人の手の平内ではじける。
駆けつけた男に両目を塞がれたのだ。
黒い光は迸る前に、佐恵子の瞼の中で炸裂する。
「きゃぅ!」
暴発した黒い光に佐恵子が悲鳴を上げるが、目を塞いだ男に続くように残りの2人にもたちまち、のしかかられ腕を背中に回されて封じられていく。
「やっぱり目だ!目でさっきの黒い光を出してる!目を使わせるな!」
錫四郎は部下たちに指示を飛ばす。
精神を猛烈に蝕み、後遺症すら残す魔眼技能【恐慌】を至近距離で受けたとはいえ、薬に蝕まれたままの佐恵子では不十分過ぎる発動だったらしい。
錫四郎は頭を押さえながらも、すでに意識ははっきりとした様子だ。
やはりいまの佐恵子の【恐慌】では不十分だったのだ。
「あぐっ!やめっ!い、痛い!おやめになって!!離してくださいっ!」
うつ伏せで床に組み伏せられ、背中に大の男に乗られたまま、佐恵子は顎を引き上げられるようにして長い髪を引っ張られ、目が開けられないように瞼を男の指で押しつぶすように乱暴に覆われて痛そうに顔を歪める。
親指で瞼を押しつぶすように目を塞がれ、瞼から黒い光が洩れるが、視界を防がれてしまっては、佐恵子からは相手の目が視認できない。
「ああっ!!いや・・っ」
四肢に力が入らず、目を指で押し付けられている佐恵子は、唯一の抵抗の手段である目を塞がれ悲痛な声を上げる。
【恐慌】に限らず、ほとんどの魔眼技能はどれも相手の目を介して、対象の脳にオーラを侵入させる。
簡単に言えば、佐恵子の眼を塞ぐか、自分の目を瞑るだけで、多くの魔眼技能は遮断できるのだ。
しかし、それでは魔眼持ちの能力者相手に、目を瞑って戦わなくてはいけなくなる。
宮川一族には魔眼持ちの能力者や多くいるが、大抵魔眼以外の能力も使える。
あたりまえだが無能力の常人よりも大抵の魔眼持ちの人間ははるかに強い。
その中でも佐恵子は女ながら一族直系の血筋であるため、血も濃く幼いころより英才教育を叩きこまれている。
よって魔眼持ち能力者の中でもかなり抜きんでた存在であるのだが、いまの薬漬けの佐恵子には警戒すべき戦闘力は皆無であった。
「ううっ!離してっ!手を退けなさいっ!わたくしにこのようなことをしてただじゃおきませんわよ!」
身体は満足に動かせなく、目も塞がれ、薬のせいでオーラも上手く操れないが、頭と口は動く。
痛みなどの感覚も普段より鋭く感じられる。
佐恵子は普段加奈子や使用人たちに言うような口調で、声を荒げ、背に乗った男を振り落とそうと身体を動かそうとするが、芋虫のように動きは緩慢だ。
「なるほどね・・。能力者だっていうのは聞いてたけど、こんな技能持ってるなんて聞いてなかったな。感情を読み取るとしか・・・。とういうことは、さっきの黒い光は依頼主も知らなかった技能かな?少し驚いたけど、全然大したことないね。牽制にはなるだろうけど」
錫四郎は【恐慌】の黒い光を浴びて激しくなった動悸を整えようと胸を押さえて佐恵子を見下しながら言う。
佐恵子に万全の状態で【恐慌】を至近距離から放たれていれば、錫四郎は無事では済まないどころか、重度の精神後遺症すら患っただろう。
それに、佐恵子が【恐慌】ではなく即死技能である【真死の眼】を発動させなかったのは、佐恵子が殺人を犯すのをためらった甘さゆえの幸運であった。
しかしどちらにしても、いまの佐恵子ではどの技能を使っても錫四郎を無力化させるのも無理だったのだが、佐恵子を薬漬けにしていたことで錫四郎は命拾いをしたのである。
「・・依頼された??」
組み伏せられ、目も塞がれてなす術もなくなった佐恵子だが、錫四郎の発したセリフに耳ざとく反応した。
「おっと・・。それよりおい」
錫四郎は口が滑ったといった仕草で口元を抑えながらも、取り巻きの一人の腰のベルトを指さし何やら指示しだす。
目を塞がれた佐恵子は、悔しそうに下唇を噛んだままだったが、突如目を塞いでいた手がどけられると、すぐに取り巻き男の一人がつけていた腰ベルトが目に巻きつけられた。
「あうっ!」
佐恵子は仰向けに倒され、ベルトのバックルが顔の正面に来るようにしてきつく目の部分を締め付けられだした。
「ううぅ!うううう!やめて!やめてえ!い・・いたいですわ!」
仰向けにされ、目にはベルトが厳しく巻き付けられだす。
逃れようにも筋弛緩剤で身体はほとんど動かせず、目に巻かれきつく絞められていくベルトにも抵抗できない。
「へへへへっ」
取り巻き男たちの笑い声を耳にしながらも、佐恵子にできるのは悔しそうに呻くことだけである。
「エデンで飲ませたクスリの効きが悪いのかもしれないな。もう少し飲ませろ。今みたいに暴れられたらたまらないからね」
目を塞ぐように巻きつけられたベルトを外そうと佐恵子が手を震わせながらも動かしたのを見た錫四郎がさっき打たれた頬を抑え、取り巻き男にそう指示したのだ。
「了解です」
錫四郎の指示に下卑た笑みでそう言った取り巻き男は、仰向けの佐恵子に近づいてしゃがみ込む。
先ほど佐恵子に手を払われた男だ。
手を強く払われて腹が立っているのだろう、佐恵子の扱いが雑である。
一人は鼻を摘まみ上げ、もう一人は頬を抑えて口を開かせて男たちは顔に下卑た薄ら笑いを浮かべている。
さらに、内ポケットから錠剤を再び2錠取り出した男が、鼻を摘まみ上げられ、口を無理やり開けさせられた佐恵子の顔を満足そうに眺めながら、その口内へと錠剤を落とし込んだ。
「んんっ!」
佐恵子は言葉にならない拒絶を口にするが、前歯に錠剤の一つがカツンとあたり、喉奥にポトリと落ちる感覚に心に絶望感が広がっていくのを感じる。
そして、男はおもむろに先ほどとは違うボトル、おそらく満タンに媚薬が満たされたボトルを取り出すと、佐恵子の口にあてがった。
「んんっ!んんっ!!」
ベルトで目を封じられ、鼻を摘ままれ、口には三角に尖ったボトルの注ぎ口をゆっくりと、しかし深々と刺し込まれていくたびに、佐恵子は首を横に揺すってイヤイヤをするが、歯や唇ではいくら力を込めても、鋭角に尖っている注ぎ口の侵入を止めることはできない。
佐恵子の髪の毛や顔、鼻や口を押え覗き込んでいる3人の男たちは、ベルトの隙間から零れる佐恵子の涙と、屈辱の嗚咽を聞いて股間を固くさせ薄ら笑みを浮かべたまま、必要以上に注ぎ口を深々と刺し込んでいく。
「んんっ~!!んんっ~~!!」
ボトルの太さと同じになるまで口を開かされるまで突き込まれた佐恵子は、首を振って抗議の声らしきものを上げるが、それは周りの男を喜ばせるだけであった。
「ごっくんタイムだぞ。ひひひひっ」
ボトルを持っている男の手が、ボトルを押しつぶす。
「ごぼっ!んんっ!んんんん~~!!!」
流し込まれてくる媚薬で、放り込まれた錠剤が口内で動くのがわかる。
吐き出そうとすればするほど、ボトルを突き込まれる。
逆流する薬が鼻から出そうになるが、鼻も摘ままれているので佐恵子はベルトで塞がれた目を白黒させて、おぼれるように藻掻くが、その動きは芋虫のように緩慢だ。
佐恵子の緩慢な動きとは不自然な苦しそうな声が、佐恵子の屈辱と苦しみをより滲ませる。
ごくんっ!ごくんっ!!
「飲め飲め!ひひひひひっ」
無礼な男たちを薙ぎ払いたいが、直径5cmはあるボトルを10cm近く突き込まれて苦しくてそれどころではないし、振るおうとしても薬のせいで腕は全く思うように動かせない。
「ごふっ!うぶっ!」
ごくっ!ごくっ!ごくんっ!
のけ反らされた佐恵子の首から顔にかけてが酸欠で真っ赤に染まり、細い首筋、鎖骨、喉が媚薬を勢いよく飲み込んで、官能的に躍動する。
男たちは、佐恵子の悶絶すら楽しむ素振りで、無遠慮にそれらを眺めては撫で、派手に動く喉を摘まんでは、ボトルを佐恵子の口内へ三分の1ほど入るほど、突き込んでいた。
「へへっ。こいつ口でけえな。これなら俺たちのもたっぷりしゃぶってもらえそうだ」
「ほら!フェラの練習だぞ!おらおらっ。ひひひっ!」
「めっちゃ奥まで入るなコイツ!喉マンコも開発してやろうぜ!」
「うぐっ!ううんんんっ!ごくっ!ごくっ!!!ごっ・・!ぐっ!!」
佐恵子は鼻を摘ままれて無理やり飲まされている無様な恰好では、男たちの言い分に抗議どころか、声にならない嗚咽を上げるのが精いっぱいである。
ベルトの隙間から涙を流し、摘ままれた鼻からは逆流した媚薬と鼻水が、口の周りを涎塗れにして、ボトルが空になった後もその行為は暫く続けられたのであった。
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一方、火災の広がるエデンの地階では、凪の速度に引き離された加奈子が息を切らせて凪にようやく追いついたところであった。
「凪姉さん!どういう状況です?」
すでに戦った痕跡、敵らしき男が3人、そしてこんなところにいるはずのない緋村紅音までいる。
「みてのとおり」
加奈子は、凪の糸に絡まりながら炎をまき散らしていた紅音に嫌悪感を込めて睨んでから、凪に視線を戻して聞いてみたが、白ずくめの先生は相変わらず要領を得ない返答を返してくる。
「いや、見てわからないから聞いてるんですけど・・」
「みてのとおり」
加奈子は無駄だろうなと思いながらも、再度聞いてみたのだが凪からは予想通りの答えが再びかえってきた。
加奈子はこれ以上聞くのを諦め、心の中だけでため息をついてから仕方なく凪の向いている方に向かって油断なく構える。
そして、凪の隣にいる赤毛の女をチラリと見やって、小声で凪に再び問いかけた。
「・・・なんで紅音までいるんです?」
「わからない」
「バ加奈子。なに呼び捨てにしてんのよ」
加奈子は凪だけに聞こえるように言ったつもりだったが、赤毛の暴君にはしっかり聞こえたらしい。
うげっとイヤそうな顔になった加奈子だったが、そんなことよりも凪に報告しなくてはいけない重要なことを思い出し、はっとなって握っていた透明のキラキラしたものを凪に見せる。
「それよりこれっ!凪姉さん。これじゃないですか?建物の外に落ちてたんですけど、これって凪姉さんの糸ですよね?まだつながってませんか?細すぎてよくわからないんですけど・・ただの糸じゃないですよね?オーラの糸・・凪姉さんが佐恵子さんに付けてた糸ですよね?」
無視された紅音が加奈子に向ってなにやら吼えているが、加奈子は凪の無表情に近いが明らかに変化のあった表情を見て満面の笑みになる。
「おてがら」
そう言った凪の目は少しだけ見開かれていた。
「つながってる」
凪はさらに続けてそう言うと、この場の状況をすべて投げ出し、糸を手繰って一気に佐恵子のところまで飛ぼうと足と糸にオーラを集中しかけたが、はたとオーラの収束を止める。
目の前で対峙し、こちらに敵意満々で構えている正面の3人を見たのだ。
長身痩躯で辮髪金髪の男、ポマードでこってり固めたガチムチの巨漢、先ほどの斬撃から治療を受けて回復した白ダブルスーツのメガネガチムチの巨漢、それら3人と、こちらの人員を見て凪は逡巡したのである。
とはいっても、凪の心情はともかく表情に変化はみえない。
(強い。糸に二人も耐えた。あの3人同時だと緋村紅音でも・・それに加奈子は・・。私が去るわけには・・・どうすれば)
やる気十分な雰囲気で構えている加奈子をチラリと見た凪は、逡巡を深める。
緑園兄弟たちは、【叢狩】という相乗強化技能を展開しているとはいえ、当時宮コー最強の名をほしいままにしている会長側近の蜘蛛に強いと断言させたのだ。
そして今度は、加奈子とは逆隣にいる赤毛の緋村紅音の方をチラリと見やる。
こちらはこちらで考え事があるらしく、落ち着かない仕草で前髪をくるくると指でいじり、小声でブツブツと悪態らしき言葉を吐いては、「ちくしょう」とか、「なんでこんなことに」とか言っているのが聞こえてくる。
凪は表情を変えず、紅音に向きなおって声を掛けた。
「緋村紅音」
「ん?!」
「依頼がある」
「お断わりよ!」
「まだ何も言ってない」
「どんな内容だろうとお断わりなの!」
「糸を手繰って佐恵子を探してほしい」
「いやよ!あんた人のハナシ聞いてんの?!」
「あの3人は私と加奈子が相手をする。だから、緋村紅音は佐恵子を探す。糸を手繰ればその先にきっと佐恵子はいる。この糸の感覚からして5kmと離れていない」
「なによあんた。なんで私があんたの頼みを聞かなきゃならないのよ。・・・それにあんたが行けばいいじゃない。あの七光りを護るのがあんたの仕事でしょ?」
紅音は前髪をかきあげて顎をツンと突き出し、チビのくせに自分よりはるかに長身の凪を見下すような仕草で突き放すように言い放つ。
「ちょ・・ちょっと凪姉さん。紅音がそんなこと手伝うはずがないですよ。知らないんですか?佐恵子さんと紅音は犬猿の仲って言うか・・」
加奈子が凪の背中にそう言うも、凪は紅音を見据えたままだ。
「依頼」
言葉足らずすぎるが、凪は真剣だ。
紅音は「はぁ?」という表情で凪を観察していたが、口をへの字にして目を逸らして少し考え込むような表情になる。
「ふん・・・。もしかして、それって脅し?・・・だとしたらあんたずいぶん陰湿ね?」
凪の言葉から邪推を巡らせた紅音は、途端に嫌味な表情になって髪の毛をかきあげ、凪を指さして切り返す。
いま凪の依頼を断れば、入社した後、もしくは入社時の待遇に響くのか?と紅音は言葉を濁して聞いたのだが、凪は小首を傾げた。
「?。何?」
凪は紅音の言葉の意味が全く分からなかったようで、その楚々とした美貌の顔を、やや傾けて呟く。
しばらく凪の表情を伺っていた紅音だったが、目の前にいる碧眼白ずくめの女が、機微の働かない真正の不思議ちゃんだということに気づいたようで、「はん」とあきれたように言った後大きくため息をついた。
(ダメだ・・こいつバカだわ。からかっても面白くもなさそうだし・・・。頃合いをみてとっととこの場から離れちゃうべきね・・・。私がいなくなれば銀次郎たちがこいつらを始末してくれるでしょ。秘密も守れるわ。バ加奈子程度じゃアイツらに瞬殺されるでしょうし、この天然バカの蜘蛛も始末してくれるかもしれない。そうすれば、私が宮コーに就職した時に上のポジションが一つ空くってことだしね。それに、・・・どういうわけか、3人になったとたんあいつら明らかに強くなったわ・・・。何らかの能力なんでしょうけど、ここは退散してあいつらが単独行動をしたときに改めて後日殺しちゃえばいいのよ。銀次郎一人程度なら瞬殺だわ。もう一人の似たようなのも・・。問題は金髪の奴だけど、あいつも一人なら全然どうにでもなると思う)
「おことわ・・」
凪が言葉を継げず黙り、紅音が自身の行動方針を決定し再度見下した態度で言いかけたところで、銀次郎が大声で怒鳴った。
「おい!緋村ぁ!おまえどういうつもりだ!お前が・・・」
「っ!!!。うるっさいわね!このドチンピラ!!黙ってなさいっ!!」
銀次郎にこの場でしゃべらせるのはマズいと思った紅音は、銀次郎の言葉を遮るようにして大声で怒鳴り返し、間髪入れず右手から白熱色の火球を銀次郎目掛けて投げつける。
「銀次郎!下がれ!」
迫りくる白熱色の火球の前に金髪辮髪である長兄、緑園金太郎が銀次郎を庇うように飛び出し両手を突き出す。
白熱色の火球は金太郎に直撃し轟音と業火が爆散するかに思われたが、そうはならなかった。
火球は音もなく金太郎の前で収束すると、ウソのように消え去ってしまう。
「ふぅ・・上手くいったか・・。奴のパターンはだいたいわかってきたぜ」
額の汗を拭いながらそういう金太郎を見て紅音は、火球を投げた態勢のまま絶句していたが、絞り出すような声で呻いた。
「わ、私の火球を・・。さっきのより威力は大きいのよ・・」
「【霧散】。威力関係ない。一つダメ。たくさん。変える」
凪は驚いている紅音に、懇切丁寧に金太郎が使った技能【霧散】の攻略方法を伝えているつもりなのだが、凪のポンコツすぎるしゃべり方になれていない紅音には意味が分かるはずがない。
「はぁ?・・・なに?どういう意味?」
「?」
「その顔は私の方がしたいっての!!何よその顔!!ムカつくわね!今の説明でわからない私が悪いみたいじゃない!!あんたみたいなバカにそんな顔で見られると異常に腹が立つのよ!」
紅音の問いかけに対し、凪は小首をかしげ眉を悲し気にひそませ、その楚々とした儚くも美しい顔に、こんな簡単なことなのに?と思わせる憐憫さをにじませたため、紅音は凪に向かって怒鳴ったのであった。
「こ・・これは・・、いくら凪姉さんや紅音が強くても・・この組み合わせはマズいかもしんないのでは・・・」
凪と紅音のやり取りを見ていた加奈子は、紅音と凪を交互に見てはゴクリと喉をならしてそう呟いたのであった。
【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 21話【回想】恐慌不発!終わり】22話へ続く