【官能小説一夜限りの思い出話|第8章1話・楠木咲奈、雨宮雫~~神田川主任の依頼~~橋元不動産訪問】
上下黒のスーツに黒のベスト、生地にはわずかにブラウンのストライプが入っている。スカート丈も短すぎず膝上ちょうどぐらいのタイトスカートである。
ブラウスの色は派手な原色でなければ、特に規制はない。見る人が見ればわかる宮川コーポレーションの制服だと気づかれるだろう。しかしそれは女性社員だけの話であり、男性社員専用の制服は存在しない。
突如2年前から女性社員用の制服だけが支給されるようになったのだ。いまの関西支社長が支社長に就任した際、最初に本社に向けて出した稟議が、女性社員用の制服およびパンプスの支給要請だったらしい。
給与形態が男性より劣るにもかかわらず、何かと物入りなのは女性のほうである、また、会社の受付、窓口を預かる女性の身だしなみや清潔感を統一し、当社のイメージを向上させたい、という理由が稟申採用の表立っての理由である。
しかし、不満のある男性社員の誰もが思っていて公然と口には出せないが、支社長こと宮沢佐恵子が会長の娘、社長の姪だからというのが最大の理由だろう。
しかし、私たちのようにまだ、新入社員に毛が生えた程度の給与しかいただけていない身にとっては、理由はともかくとても助かっている。
以前はスーツ購入、それに掛かるクリーニング代が本気で馬鹿にならなかったが、支給品の制服は洗濯しても大丈夫な素材だ。
それに、制服や靴の選定は、上層部のお偉い様方が趣味に走って決めたわけではなく、女性社員のアンケートで選ばせてくれたのも素晴らしい。毎年、夏服と冬服が年に1度2着づつ支給されることが決定している。
洗濯可の素材だが万一傷んでも来年また支給されるのだ。私のように田舎から都会に出てきて、一人暮らしをしているOLにとっては、ありがたいことこの上ない。
さらに、支社長が女性ということもあり、小さいことも数えれば、女性社員だけにある特典は多い。女性用トイレのほうが洗面化粧台の数が多く広いし、しかもお湯がでる。あと、健康診断で痩せや肥満と診断されず、身長や年齢で割り出された、理想体形と理想体重の数値内で維持をしていると、10万円の美感意識特別手当などという謎の手当があったりするのだ。
制服やパンプスを支給するのも、各自化粧品や食生活を留意し、美意識を保てとの意味らしい。おかげで、特に宮川支社長管轄の関西支店は、女性社員は美しい人が多く、そして女性社員の管理職進出が著しい。
それをやっかむ男性社員もいないではないが、門谷部長を筆頭に、何人もの男性社員が、宮川支社長に重用されているので、理不尽な差はないように思う。
活躍している女性の筆頭は、稲垣先輩や直属の上司である神田川主任だ。仕事もでき、支社長秘書のポストについて高給を貰っているらしいので羨ましい反面、同じ女性が社内で活躍できるという意味では励みにもなる。
しかし、彼女たちは支社長の同期組でもあるし、稲垣先輩に至っては宮川支社長の幼馴染だというのは社内では有名な話だ。
それでも女性にとって活躍しやすい、他社より有利な職場であることには変わりがない。早く彼女たちのような待遇になりたいと、日々仕事をこなしていた矢先、先日から神田川主任の部署になれたのだ。やる気が空回りしないようにして、目をかけてくれている優しい上司にいい報告をしたかったのだが、そう上手くはいかず、いきなり躓いてしまったようだ。
神田川主任から橋元不動産社長のアポイントを取り付けるように命じられていたのだが、電話では全くつかまらず、ついに今日、同僚の雨宮雫と橋元不動産の事務所まで足を運んだのだ。
しかし、橋元不動産の受付でも取り次いでもらえず、橋元社長の帰社時間を聞いてもわからないの一点張りを通されてしまった。そして、まだ橋元不動産の敷地内ではあるが、すごすごと橋元不動産事務所の玄関から見送りしてもらえず二人して出てきたところだ。
「はい、そうなのです。申し訳ございません。・・はい、今から帰社致します。申し訳ありませんでした」
同僚の雨宮雫が、さっそく神田川主任に報告している。
雫も同じタイミングで同じ部署に配属され、私と同様やる気を見せていたのだが、残念な報告しかできないためのせいだろうか、落ち込んだ声に聞こえるのは気のせいではないだろう。
「主任怒ってた?」
「ううん、ご苦労様って、あと気を付けて帰ってきてください。ってさ。怒ってるような感じゃなかったよ」
「そっか。それなら少し安心したけど。でも、アポイントを取るだけの仕事すらできないって思われてたら、辛いなぁ」
「うーん・・・まあ、しょうがないよ・・。噂だけど、前に橋元社長のほうから支社に挨拶来てくれた時があったらしいんだけど、その時、ウチの支社長が門前払いしたらしいから・・・」
「えー!そうなんだ・・・?!じゃあ、橋元社長はそれに怒ってるってこと?それだと、アポイントが取れないのって、支社長のせいじゃん・・?」
思わず、口に出してしまった内容をなかったことにしたくて、とっさに自分の口を両手でふさぐ。もちろん、なかったことにはできず、正面でしっかり聞いていた同僚の雫が小さい声ではあるが、鋭く窘めてきた。
「咲奈・・!主任に言われてるでしょ!いないところでもそういう会話はご法度って」
「ごめん・・。でも雫がそういうこというからじゃん・・」
「ごめんごめん、私も反省・・。宮川支社長の前に行くとなんだか見透かされたような気がするのよね、あの雰囲気、なんだか空恐ろしいわ・・・。こないだ、主任にそれとなくそう言ったら、気のせいじゃないから気をつけなさい。って真顔で言われちゃった・・」
雫が両肘を抱えるようなしぐさで身を震わせながら言った。
「ホントに・・?確かに何となくわかる・・あの優しい主任が気をつけろって言ってるんだから、その通りかもしれないね」
「うんうん、それより、もうここにいてもしょうがないし、主任も帰ってこいって言ってるし、一度支社に帰ろ?それに、人んちの事務所の前で、長話よくないよ」
「うんー、そうだね。帰ろっか」
雫のほうに歩き出し、雫の顔を見ると微妙に視線が合わない。あれ?私の後ろを見てるの?なんだろう?と思った瞬間、雫が叫んだ。
「咲奈!!」
え?どうしたの、大声だして、と思った時には、私の背中、ちょうど肩甲骨の間に何かが押し当てられた感触があった。
バチンッ!!
すぐ近くで大きな音が聞こえた瞬間に、全身に激痛が走る。正面にいる雫が、何かを叫びながら私に駆け寄ってくる姿が見える。雫の後ろには、黒い髭剃りみたいなものをもった二人の男性が駆け寄っているのが見える。
私も、
「雫!後ろ!」
と言おうとしたが、何故か声が出ない。
私の視界が、意思とは関係なく勝手に横へ上へ下へと猛スピードで動く。何かを叫んでいるであろう雫、知らない男たち、雲、事務所の外壁、橋元不動産にある高級車、地面、そして誰かの靴、グルグルと視界が動きそして止まった。
胸や顔を打ち付けたのだろうか鈍痛がある。ウェーブのかかった自慢の亜麻色の髪が地面に投げ出され、先ほど視界にはいった靴が私の髪を踏んでいる。顔にひんやりとした土の感触、僅かに口に入った砂らしき異物の感触を不快に感じながら、私、倒れてるの?と、かろうじて自分の状態を把握できた。
立ち上がろうと両手で地面を押し、顔を上げようとする。
すると、私の髪の毛を踏んでいた靴が持ち上がって視界から消えた。その直後、私の後頭部に衝撃があり、高速で地面と強制キスをさせられる。
顔と口に土の感触が不快に摩擦する。髪の毛に次いで頭まで踏まれたようだ。そして、背中に先ほどよりも強めに、硬い感触が押し付けられ、立ち上がろうと僅かに持ち上げていた私の身体が地面に無理やり押し付けられる。
そしてバチンッ!!と大きな音が再び聞こえた。
耐え難い激痛が再び全身に走る。
「うぎぃうっ!!」
私が絶対にあげないような無様な悲鳴が口から洩れ出た。悲鳴で、口を開いてしまったがために、地面とキスさせられていた口の中に土の味が広がる。訳が分からず、理不尽な仕打ちに悔し涙で視界が滲む。
雫は?と雫の姿を目だけ動かして探すと、雫のくぐもった悲鳴が聞こえた。
「んんんんんんんんんんっ!!!」
声のした方向を頼りに視線を動かすと、雫は二人の男に前後から挟まれていた。一人は背後から雫の右手を背で高くひねり上げ、つま先立ちにさせている。支給されたパンプスの片方はどこかに脱げてしまったのか、左足しか履いていない。正面の男は、この角度からだと横顔しか見えないが、下卑た笑みで雫を正面から見下ろしながら笑っている。
そして、雫の悲鳴が響かないように左手で雫の口を押えているのだ。さらに、男は右手に持っている黒い四角い機械を雫の胸に押し当てトリガーを引いた。トリガーが引かれるとバチンッ!と音が鳴り、雫はエンストした車のように身体を跳ねさせた。
「んんんんんんんぅぅ!!」
「ハハハハ」
信じられないことに、正面の男は雫が悲鳴を上げると笑いだした。
後ろで、雫の手をひねり上げている男も「ヒヒヒ」と笑い、雫の顔を後ろからのぞき込んでいる。そして、正面の男は黒い四角の機械を雫のおなかにあてがうと、再度トリガーを引いた。
「んんんんんんんん!!!」
雫が真っ赤な顔で、つま先立ちになりのけ反った。口を押えられているためか悲鳴を上げきれず、悶絶している。右手を後ろでひねられて身体を逆弓反りでつま先立ちしているせいで、左足のパンプスも脱げてしまった。
雫の口を押え、お腹に黒い機械を押し当てている男は、今度は黒い機械を持っている手で器用に雫のスカートをめくると、黒のパンスト上から黄色いショーツが見える雫の中心に黒い機械を押し当てた。私は男がすぐにトリガーを引くのかと思ったが、男はそんなに優しくなかった。
男は雫の口を押えながら、雫の顔を上から下卑た表情でのぞき込んでいる。雫は涙で濡れた顔を、力なく横にふるふると振っている。
なんてこと、男は雫が絶望している表情を楽しんでいるのだ。男たちは数秒間、雫の表情を楽しむと、無情にもトリガーを引いた。
バチンッ!
「ッッッ!!!」
今度はほとんど声もなく、雫は身体を激しくエンストさせた。下着丸出しの格好で、黒い機械を股間に押し当てられながらガクガクガクッと痙攣し、逆エビ反りの態勢で後ろの男に力なくもたれ、ぐったりと動かなくなった。
あまりにも、惨めで惨い同僚の扱いに更に涙があふれてくる。痛みですでに気を失いかけている私の背中に、蛇足の三度目の激痛が走った。頭を踏まれ地面に組み伏せられている為、地面で全身を痙攣させてしまう、文字通り身も心も泥にまみれてしまった。私の視界は真っ暗になり、意識を失った。
【第8章 三つ巴 1話 楠木咲奈、雨宮雫~~神田川主任の依頼~~橋元不動産訪問】おわり