今日の大塚さんの住居兼今や、菊一探偵事務所の人たちとの合同捜査の本部と化している事務所当番は、粉川と斎藤なので俺は久々に1人で気晴らしに図書館へ来ていた。
妻の桜子は、石塚さんの奥さんの今日子さんや、斎藤の奥さんの愛子さんとランチに行くと行っていたので、1人で読書をするには丁度良い。
今我々がかかえている案件に、現在の捜査状況、そして橋元一派との関係性を考えれば、呑気に読書など出来ない気分ではあるが、今俺1人が焦ったとしても、動くべき情報にするべき事が明確にならない限り起こすべき行動も起こせないのも事実。
目の前の、風の便り、尊敬する太宰先生の本を読むことに集中した。
妻はランチが終わった時間かな?とふと時計を見て思うが、俺は昼食よりも読んでいる本の続きが気になり、また仕事が過熱してくれば、次にいつゆっくり好きな読書に浸れるとも限らない。
そう思い、平日の昼間、ポツリポツリとしか人がいない図書館の玄関付近の人が周囲には居ない席で、風の便りを既に半分以上読見終えたころ、知らない間に時間は14時を過ぎていた・・・。
(やはり読書に没頭すると、時間が経つのが速いな・・・粉川に斎藤は、きちんと水島を見張ってくれているだろうが、神谷さんに荒木さんは無事だろうか?大塚さんは・・・菊一探偵事務所の方たちは、上手く伊芸さんをみつけれたのだろうか・・・)
こうして図書館に居ても、やはり仕事の事が気になるのは、警察官の性なのだろう。
そんな事を考えていると、静かな図書館に携帯電話の音が鳴り響いた。
タララララララララララン♪
iphoneの初期設定のままの音が流れたと思うと、わずかにしかいない図書館へ来ている、大学生や主婦のように見える方々が一斉に俺の方を向く。
鳴っているのは俺の電話だったようだ。
俺は、図書館中の視線を浴び、視線に頭を下げ、図書館を急いで出て電話を見てみると、電話の相手は、
杉桜子
俺の妻からだった。
(なんだ、ランチも終わり、今日子さんたちとも別れ、暇になったのか?)
そう思い電話に出てみる。
『もしもし、桜子?ランチはどうだった?』
(うん?なんか複数人の声が聞こえるな、なんだこの雑音は・・・)
電話の向こうからは、複数人の男の声が少し電話から離れたところから聞こえる。
そして、何やら機械音のような雑音も・・・。
『おいっ!桜子?今どこにいるんだ?』
なんだか、何の根拠もない胸騒ぎがする。
『んんっ!この鬼畜!離しなさいっ・・・せ・・清一!この人たちの言いなりにならないでねっ!!
私は、大丈夫だからっ!きゃっ!さわらないでよっ!!』
(桜子!いったいなにが・・・!!??)
『おい!桜子!どうしたんだっ!誰といる!?何があったんだっ!!』
俺は、図書館の外の、木々が立ち並ぶ人気のいないところへ歩いて行きながら、電話に向って大声で叫んでいた。
『スギセイイチサン、デスネ。
アナタノオクサンハ、イマワタシタチトイマス。
ブジニ、カエシテホシケレバ、ワタシノオネガイヲキイテクダサイ。』
とても流暢とは言えない、ギリギリわかるほどのたどたどしい日本語で、桜子の代わりに答えた男は、明らかに日本人ではないと思わせるには十分すぎる話し方であった。
俺は、その電話口の相手に、
『誰だお前は!橋元のところの奴だな!?張か!?妻は無事なんだろうな!
お前妻に何かしたらただじゃおかないからな!そこにいる人間全員をこの俺が八つ裂きにしてやるからな!』
『ガハハハッ、オレハ、チョウサンデハ、ナイ、マイクデス。
ナマエガワカッタトコロデ、二ホンノケイサツ、オオツカオヤコヲハジメ、ミナコシヌケ、ナニモデキナイ。
オマエハ、タダオレノメイレイニシタガエバ、イイノダヨ、スギセイイチ。』
『てめえ!マイク!ふざけるなよ!桜子に何をする気だ!わかった!そうすれば桜子を解放してくれる!桜子には手を出すな!何が望みだ!?』
『ガハハ!!モノワカリガヨクテ、タスカルヨ、マアシカシ、オマエタチケイサツハシニョウデキナイトボスモ、イッテイルシ、30プンゴニ、コノケイタイカラオクルドウガヲミテ、ホンキデ、ワレワレニキョウリョクヲスルトイウキニナレバ、コノオンナハ、イキテカエシテヤロウ。』
さ・・・30分後に・・・ど・・・動画だと・・・?
『ふっ!ふざけるな!待てっ!わかった!協力はするから!桜子に手は・・・!?』
そういい終わらない間に、マイクと名乗る橋元の部下は桜子の電話を切った。
野郎~!どこだ・・・どこにいる!?
この事を大塚さん達に報告すべきか・・・?
粉川や斎藤には・・・?
しかし、奴の協力とは、十中八九、大塚さんたちを裏切る事への要求、内容は捜査状況の漏洩か、誰か特定の人間の居場所か?もしくは、水島の開放?
それは、ないか・・・あの水島と言う男は橋元に見捨てられたらしいし・・・しかし・・・こんな事を呑気に考えている場合じゃない!
俺は、いてもたってもいられないが、とりあえず探す当てもないが、図書館を後にして、自宅へ向かった。
菊一探偵事務所の、橋元一派の張という男に捕らえられた、斎藤雪さんがどのような目に合わされたかは、だいたいの事は、菊一探偵事務所の方々の怒り具合から想像はつく。
桜子・・・
命が無事であることが前提ではあるが、それでも今自分の妻が、おそらくは奴らに性的な拷問を受けているのかと思うと、やり場のない怒りがこみあげてくる。
そして、桜子の命を救うためとは言え、この後、大塚さんたちを裏切らなければいけない、自分は、大塚さんや菊一探偵事務所の方々に、今橋元一派のマイクと言う男と接触したことを相談もできずにいた。
そんな事を考えているうちに30分は経過していたが、何の連絡もない・・・。
マイクめ!どういうつもりだ・・・。
図書館から、大塚さんの自宅兼捜査本部からは、徒歩で10分ほどの俺と桜子が住む自宅へ着くと、マイクと電話を切ってからもう45分が経過していた。
そして、大塚さんから預かっている、拳銃を自宅の金庫から出し服もスーツへと着替え内ポケットへ忍ばせていると、俺の携帯にメールの着信音が鳴り響いた。
動画が添付された、メールが合計3通届いたのだった。