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第10章 賞金を賭けられた美女たち 8話 宮川コーポレーション代表そして暗部登場


第10章 賞金を賭けられた美女たち 8話 宮川コーポレーション代表そして暗部登場

都心環状線駅近くの高級ホテルにあるラウンジのボックス席に陣取り、テーブルにはコーヒーの入ったカップと、ノートパソコンと資料を並べている大柄な長髪オールバックの男が、気難しく眉間に皺を寄せてキーボードをたたいていた。

宮川コーポレーション本社勤務で、執行役員である緋村紅音のボディガード兼執行役員付き部長である丸岳貴司である。

紅音が宮川コーポレーション関西支社長の任を解かれ、本社勤務になったのはつい2日前のことである。

緋村紅音のボディガードを兼ねている丸岳も、紅音の移動に伴い当然のように本社勤務へと移動になっていた。

しかし丸岳も紅音も、関西支社から帰ってきて本社にはまだ一度も出社してない。

いや、していないのではなく、実は出勤を禁じられている状況であった。

紅音のやらかしたことを考えれば、自宅謹慎という処置は甘すぎるが、紅音だけでなく連座で丸岳も謹慎処分を受けていた。

しかし、丸岳や紅音の謹慎理由は先の失態だけがすべてではない。

本社に出勤するよりも重要な仕事が今日ここであるため、その準備に丸岳は関西支社から帰ってきてからというもの、時期が来るまでホテルで待機するように命令されていたのである。

紅音は本社に帰ってからは、なにも仕事は与えられておらず、逮捕後の事件でのショックが大きいため、一人スイートルームで療養中であり、限られた人としか会えないほど精神が参ってしまっているのだ。

いっぽうの丸岳は、待機とは名ばかりで事件の後始末に一人忙殺され、普段なら健康的にみえる日焼けした顔がやや窶れ気味に見えるのは気のせいではない。

「コーヒーお持ちしました」

にゃん。

しなやかな身体つき、細身ながらも隆線的なボディラインのスーツ姿、アーモンド形のはっきりした目をした女性は、癖で出そうになった語尾をなんとか堪え、軽く膝を折ってテーブルにコーヒーの入ったカップをソーサーの上に重ねる。

緋村紅音の無茶ぶりで、孤島Sへの潜入及びディスク回収作戦に抜き打ちで投入されたミコにゃんこと猫柳美琴である。

本来ならホテルラウンジのウェイトレスが運んでくるべきものなのだが、尊敬する上司に自分で持っていきたい美琴が途中でウェイトレスからトレーごともらい受けたのだ。

「・・助かる。それにしても美琴には今回のことでは苦労を掛けた。戻ってきたばかりで働かせてしまってるが、体調は大丈夫なのか?」

丸岳は美琴の気遣いを労うと、笑顔を返し持ってきてくれた熱いカップに口をつける。

「私は大丈夫です。・・お嬢様派の治癒能力者に治療してもらってしまいましたが、あれが無ければ私の命はなかったと思います・・」

美琴を治療してくれたのは菊沢美里という四十路前の女性だ。

一部の界隈では有名な人物であり、その菊沢美里が宮川佐恵子の派閥に協力していたことはすでに丸岳には報告してある。

「まさか宮川お嬢様があんなコネクションを持っていたとは意外だったが・・。とにかくそれで美琴が助かったのだ。ひとまずは良しとしよう」

そのことで社長はかなり渋い顔をしていたがな・・。と丸岳は思うも、美琴のことを気遣い口にはしない。

医師として数多くの論文を発表し、医療雑誌などでも露出の多い天才外科医菊沢美里がSでの作戦になぜか混ざっていた理由はわかっていない。

衛星で送られてきている映像が解析され、菊沢美里本人に間違いがないとわかると、社長派の幹部たちが騒然となったのは昨日のことである。

菊沢美里は外科医として業界では普通に有名人だが、能力を隠さず公然と使い手術をする為、能力者の間でもとても有名人であり、美里が在籍する病院長も美里が移籍してしまわないかと心配しているほど、美里への勧誘は医療機関に限らず、民間はもちろん海外の政府筋からもあるほどなのだ。

多くの好待遇オファーを袖にし続け、府のいち総合病院に美里が籍を置いているのは、まったく謎であり周囲では様々な憶測が飛び交っている。

しかし理由はすこぶる明白であった。

菊沢美里の異常偏愛が一方的に注がれた弟の勤務地に一番近い総合病院がそこなだけである。

もし菊沢宏が無政府国家のソマリアや内戦が頻発するシリアに移住するならば、菊沢美里は、かつて追い返されたこともある国境なき医師団ならぬ、国境無視の医師としてそれらの国に躊躇なく引っ越すであろう。

周囲が噂している美里の移籍拒否の真相など実は大層なものではなく、優先順位一位の弟に近くにいられることが美里にとって最重要であり、その謎の真相を囁く周囲の憶測など本当にどうでもいいことであった。

その美里の神医と謳われる腕前は文字通り神がかっており、世界中からその噂を聞きつけた要人や財界人などの予約が殺到している。

しかし、美里は権力で迫られようが札束を積み上げられようが、2日以上先の予約は受け付けず、順番も先着順と非常に真っ当に医師としての勤めに励んでいるのだ。

そんな顔も名前も知らない要人たちとやらの腹や頭を切裂き、患部を取り除いて縫合するなどという面白みのない予定を詰めすぎてしまうと、可愛い弟に合う時間がなくなってしまうではないか。と美里は本気で思っている。

権力や経済力を持ちたいと願っている同業者からは、美里に対する嫉妬から、奇怪な変わり者と揶揄するものもいるが、当の美里はどこ吹く風といった様子である。

世界的に有名な外科医の望みは本当にささやかで、週に一度、いや贅沢を言えば2度、はばからず本音を言えば実は毎日、弟夫婦とディナーの時間を取ることと、そして欠かさず弟夫婦たちとお互いの誕生日を祝いあい、宏のあらゆる記念日には美里の手作りの料理や、手作りの装飾品などの贈り物をし、毎朝、毎晩の「おはよう」と「おやすみ」の通話が日課として守られ、一日に10通程度のラインのやり取りを弟とできれば美里はそれだけで人生を喜び、信じてもいない神とやらに感謝することもできるのであった。

本当にささやかだと美里本人だけが思っている環境が美里のすべてで、そのために美里は今日も出し惜しみなく能力を使い、できるだけ仕事を早く切り上げて、大学病院の勤務医だという時間不定期になりがちなブラック職業にも関わらず、驚異の定時帰社5時チンダッシュの為に毎日仕事に励んでいるのだ。

美里は、仕事が終われば今日も弟に会えるかもしれないし、会えれば会えたで少しでも仕事を早く切り上げたほうが、弟と過ごせる時間が長くなると思っている。

どこにでもいる至って普通の仲の良い姉弟なのだ。と美里だけが思っているが、最近は宮川コーポレーションなる大企業に可愛い弟が目を付けられ、弟の経営する探偵事務所が購入されたというではないか。

可愛い弟が優秀でタフで優しく頼りがいがあるのに、シャイな部分があって愛されまくりなのは、隠しようもないことなので他の者に弟が気に入られてしまうのは仕方がないが、そのために弟が忙しくなり、私と会える時間が減るなどということが有ってはならないのだ。

と普通の兄妹なら誰でもそう思う。私だって当然そう思ってる。と美里は思っており、宮コーに所属したことを懸念していた矢先の先日の事件だったので、美里は周囲が想像している範疇を越えて、宏の今後の身の振り方を考えているが、それがわかるのはもう少し先のことである。

その美里の能力だが、能力を使って手術するといっても、常人に美里のオーラを視認することはできず、一般人は美里の手術を見ても、神がかった神技にただただ舌を巻くだけしかできない。

その医師として高名で、かつ能力者の間では神医として名高い能力者菊沢美里がお嬢様派としてSという僻地まできていたことは、とにかく社長派としては仰天すべき事態であったのだ。

菊沢宏との関係に周囲が気付くのは時間の問題だが、天才外科医の名をほしいままにしている才色兼備の女医が、極度のブラコンを末期症状までこじらせ、本能の赴くままに行動した結果であることは、まだほんの一部の者しか知らない。

ラウンジのソファに座って足を組み、カップを口に運んで、医師且つ能力者という有能な人材が敵派閥に流れてしまったことよりも、自分の無事を喜んでくれて笑顔を向けてくれている丸岳に、美琴は感謝の意を表すように顔を赤らめ頭を下げてから尊敬する上司の体調こそを気に掛ける。

「それより丸岳部長こそもう二日も徹夜されてます・・。少しお休みになられては?」

いかがですにゃん?

と語尾は心中に留めおき、心底心配して提案してみたが、返ってくる返答は美琴の予想どおりだった。

「大丈夫だ。それより紅音の様子はどうだった?・・・今朝もまだずいぶん参っている様子で食事もとってないみたいだったが・・」

「いまは薬が効いてねむってます。お食事はやはりとられてなかったので、いま点滴しているところです」

にゃん。

美琴はやっぱりと思いながらも、出てしまいそうになる語尾を控えた。

今回の騒動で丸岳も酷い目にあったというのに、騒動の元であるお天気屋の上司、緋村紅音のことを心配している。

態度や口には表れていないが、丸岳貴司が緋村紅音のことを単なる上司と部下の関係ではないことを美琴はうすうす感づいていた。

一見強面にみえるが、毅然としているのに優しい丸岳部長は社員からの人望も厚く、女性社員には独身男性ということもあり非常に人気がある。

それだけの優良物件で女性を選びたい放題のはずなのに、丸岳は特定の女性がいる様子はなく、我儘を言いたい放題の緋村紅音を影のようにサポートし、つねにフォローしているのである。

二人の関係をあやしんだ美琴は、以前こっそり【完全不可知化】を駆使し、紅音と丸岳の関係を探ったことがあるのだが、美琴の予想は外れたのであった。

だが、それにしても丸岳の緋村に対する献身ぶりは、恋人のそれに近い気がしていた。

(・・・丸岳部長の趣味って、緋村さんみたいな感じなのかにゃ・・?二人の仲は悪くなさそうにゃんけど、付き合ってはないみたいにゃん・・。てことは、ミコにも脈はあるにゃん。こないだSでグラサン男に心を奪われそうになったにゃんけど、やっぱり丸岳部長のほうがかっこええにゃんなぁ・・。いきなり抱きしめるなんて不意打ちをされたせいでグラサンに浮ついちゃってただけにゃん。・・でも、わたしって・・惚れっぽいのかにゃ・・。・・・にゃ!そんなはずないにゃん。お付き合いした男性だって24にもなるっていうのに一人もいないにゃん。この会社というかこのポジションがブラックすぎてそんな暇ないのもあるにゃんけど・・断じて違うにゃん。ミコは純潔にゃ乙女にゃよ!)

丸岳が「そうか」と短く応えた一瞬の間に、美琴は場違いなことで思考を巡らせていたが、それを表情には出さず「はい」と返事をしたのであった。

「しかし、やっかいなことになった・・・。すでに出まわってしまっているが・・あの紅音がああも成す術がなかったとは・・くそ・・霧崎のやつめ。しょせん公安だと思って油断しすぎたか・・。真面目そうな顔して喰えんことする・・!それに香港の奴らだ・・香港の奴等も政府や公安ともつながっているのか?・・」

美琴が心中を悟られず密かにホッとしていると、丸岳が丸岳らしからぬセリフを独白したことに驚いて、次の言葉を待つが丸岳はそれ以上語らなかった。

丸岳はしまったという表情を押し殺してそれ以上口を開かず、手にはログイン用のUSBプラグを持って、それを忌々し気に見つめながら指で転がしているだけである。

「それは・・?」

美琴はなんとなく聞きにくかったが、ついに声に出して聞いたところで、丸岳が慌ててプラグをポケットにしまう。

「いや、なんでもない。それよりもうすぐ社長がいらっしゃる。公安の連中とは今回のことをはっきりさせる必要があるからな。それと紅音を一時とは言え逮捕したときに、紅音が負った怪我などのことを言及する予定だ。思いのほか紅音は重症だからな・・。警察庁の管理は国家公安委員会・・。すなわち政府は能力者を多数有する宮コーをもともと快く思っていないものが少なからずいるということだ。大臣や議員の多くは宮川の眼でほとんど骨抜きにしてあるが、全員ではない・・。それに、多くの省庁のなかで、ずば抜けて能力者比率が高いのが警察庁だからな・・。うちの力も警察だけには及びにくい。警察はうちとは敵対に近い関係だが、剣道などで指南役を務めている高嶺は警察とは仲が良いときている。・・・宮コー十指で組織内外にも有名な紅音を陥れ傷つけたのは警察・・もしくは警察と高嶺の両方だと社長も見当づけている。だがそれももうすぐはっきりする。社長の魔眼で即座に吟味できるからな。当事者だった霧崎美樹も今日このホテルに来るようにと伝えてある。奴が紅音を陥れていたのだとすれば全面戦争だ。そうなると面倒なことになるのは確実だが、こちらも十指の一人を的に掛けられたのだ・・こうなった以上断じて引くわけにいかん。・・・美琴。警察も能力者をSPに忍ばせてきているはずだ。今日は社長も石黒を連れてくると言っていたが、俺も万全を期したい。美琴も姿を消して二重に警戒にあたってくれ。妙な動きをしているものがいたら俺に知らせてほしいが、頼めるか?」

「承知しました。お任せください」

にゃーん?!

(警察とコトを構えるなんて、いかに宮コーでも大丈夫にゃんなのか?緋村さんが重症・・?外傷なんて全然なさそうにゃんよ・・?ちょっと手首や足首に擦り傷があっただけで、もうそれは治ってるにゃん。それだけでこんな大事にするなんて正直ミコにはわかんないにゃんけど・・)

「頼むぞ」

口では即答したものの美琴の心情を知らず、疲れた顔ながらも決意を漲らせいい笑顔でそう言う丸岳に対して美琴は

「はい」

と再度応えていた。

(ミコ・・流されやすいにゃん・・)

流されやすく、損な役回りばかりをしている美琴が内心でこのままでいいのかと思いなおす暇もなく、ロビーの方から恰幅のいいスーツ姿の男性を先頭にして、多くの部下らしきスーツ姿の男女を引き連れた集団がこちらに向かってきていた。

丸岳がソファから立ち上がり、姿勢をただしてその集団の先頭にいる恰幅の良い男性に頭を下げる。

「社長。お待ちしておりました」

頭を上げた丸岳が、先頭を歩いてきた男に慇懃な口調で挨拶をする。

背こそそこまで高くないが、威圧感十分なその風体でタダモノではないことが一目でわかる。

ダブルのスーツを着こなした男、宮川コーポレーション代表取締役である宮沢誠が警察幹部との会合にて魔眼を振るうべく部下を引き連れて現れたのであった。

タダモノだと感じさせない異様な威圧感の正体はその男の両目の色にもある。

宮川佐恵子と同じ目の色と球形ではない六角形にちかい瞳、目の色が特殊というだけでもかなり目立つというのに、純然たる経営者としても立ち振る舞いに雰囲気を纏っており、その仕草の一つ一つが王者の貫禄があった。

佐恵子の叔父である宮川誠は、宮川佐恵子に酷評されているが、表裏の多くを牛耳る巨大企業の最高責任者が、単なるお飾りで無能であるわけがない。

それは能力者としても経営者としてもである。

「ああ。丸岳君ごくろうだったな。徹夜が続いているのは知っている。だが敢えて言うがもうひと働きしてくれ」

「心得ております。緋村さんを陥れた者どもがくるというのに休んではいられません。その緋村さんですが、いまは睡眠薬を飲んでもらってねむっております。お会いになりますか?」

かつての恋人が目の前の男の愛人になっているのに、このような態度を取らなければならない自分自身の身を不甲斐なく思う丸岳だが、今はどうしようもないことだと割り切っている。

それになにより、これは紅音自身が選んだ道なのだ。

「いやあとにしよう。それより、あの件はかなり知れ渡ってしまっている。くれぐれも緋村君の耳にはいれんようにな」

宮川誠はもともと厳めしい顔を更に渋く歪め苦々しい表情にして言った。

その直後、宮川社長のすぐ後ろに立っている細身で化粧の濃い、既定の制服を着ているが、その雰囲気はいかにも一般社員とは違う女性社員が口を開いた。

「そうしても知られちゃうのは時間の問題だと思いますけどねえ。紅音ちゃんあれ見たら卒倒しちゃうんじゃないかしら?・・でも・・侮れませんわね社長?・・紅音ちゃん・・いえ、紅蓮ほどの能力者を一時的とはいえ、無力化する能力者がいるなんて・・わたくしも少しばかり公安を侮っていましたわ。飼われた犬などたかが知れたモノと思っておりましたのに・・」

そう言った女性は、一見してなよっとしているように見えるが、スーツに包まれたその肢体は見た目に柔らかそうな弾力が想像させられるも、その立ち振る舞いに隙らしいものは全く無い。

ややふっくらした唇に引かれたルージュは赤く、長く黒い髪をアップにまとめ、ぱっちりとした目は濃いアイメイク、肌は化粧のせいだけではない地肌のきめ細かい色白だとわかる。

くっきりとした顔立ちで、まばたきをするたびに、その長い睫毛がバサバサと動くのが印象的な、魅惑的な女性である。

一見化粧が濃いかもと思わせるタイプの女性だが、派手な顔立ちであるだけで化粧が濃いわけではない、そして出るところは出て引っ込むべきところは引っ込んでいるプロポーション。

艶めかしい、下品な言い方をすればエロいという表現がぴったりの妖艶な美女である。

「アレはああ見えて繊細だからな・・」

その美女に振り返ることなく紅音のことをそう評価する宮川誠の顔は渋かった。

そして、その表情をやや違うものに変えると更に続ける。

「公安は形骸化していたが、あの霧崎という捜査官が来てからだ・・。ヤツはうちを蹴って捜査官になった者であったな。気に入らんやつだ。・・やつのことを洗えと言ってあったな石黒くん?」

「はい社長。霧崎は都内のマンションに旦那と二人暮らし。旦那も公務員ですわね。でも結婚5年で夫婦間はすでに冷え切ってますわ。お互い仕事ですれ違いのようです。・・そのためか残念ながら子供はいません」

「そうか。あのサイトでも霧崎にも賞金が掛けられていたということは、香港の連中とは霧崎は繋がっていないと考えるべきか・・。それともそれ自体がそう思わせるミスリードなのかは、すぐにはっきりする。いずれにしても霧崎は始末するが、まずは洗いざらい情報を吐かせてからだな。夫に情はなくとも、子供がいれば子供を使えると思ったのだが残念だ」

厳めしい表情のとおり、宮川誠の嗜好には優しさはない。

目的のために有効と思われる手段は容赦なく使い、最短と思われるルートを迷いなく選択する。

佐恵子や佐恵子の父である昭仁とは決定的に違うのだ。

しかし、だからこそそれらを是とする者たちからの求心力は高く、従うものも多くいるのであった。

お嬢様派と呼ばれる佐恵子の派閥の勢力が20とすると、宮川誠の社長派と呼ばれる勢力は80である。

お嬢様派と目される宮コー十指に名を連ねるものは、いままでは神田川真理、稲垣加奈子、そして派閥の旗でもある宮川佐恵子の3人しかおらず、残りの宮コー十指はほぼ現社長である宮川誠氏の傘下であった。

そして宮コー十指の一人でも変わった立場の蜘蛛こと最上凪だけはどちらにも属さず、ほぼ現役を引退した宮川コーポレーション会長宮川昭仁のみに仕える側近だったのだが、会長から指示があったのか会長の一人娘である佐恵子の元へと派遣されている。

そのため十指の構成比率でいえばお嬢様派閥は4割をしめてはいるものの、組織全体の構成比率では2割程度なのであった。

十指最強と謡われる紅蓮を愛人として右腕として使い、いままた付き従えている妖艶な美女こそも、十指の一人として数えられる幻魔の二つ名を持つ石黒実花であった。

その幻魔こと石黒実花が宮川誠の思惑を理解したと伝える笑みを浮かべて頷いた。

「そのためにわたくしを連れてきたのでしょう社長?・・・でも、霧崎もうちに敵対するなんて相当自信があるのか、とんだおバカさんのどちらかですね。生真面目で成績優秀な優等生・・。優秀なのに、追うばかりで追われることは想定もしてないのかしらね。正義感に燃えて、悪と信じたモノを追うのはさぞ自尊心を満足させられるかもしれないけど、相手に与えた苦痛が大きければ大きい程、その代償は高くつくと相場は決まってますわ。・・・紅音ちゃんにされたこと、他人事だと思えるほどわたくしも冷めていませんからね。社長わたくしに何なりとご命じくださいな」

幻魔はそう言って目を細め、口元を黒い手袋を付けた手で覆って妖しい笑顔になった顔を隠して言う。

宮川誠は、睫毛の女性のセリフに「うむ」と力強く頷いたが、その表情はやや暗い。

「石黒。・・まさか紅音にも【鏡面桃源郷】を使うつもりなのか?」

社長の表情を読み取って深読みしたのか、丸岳が石黒に向かって問いかける。

「わたくしもそんなことしたくないのよ・・?でもそうするのが紅音ちゃんの為になるって思ったら間違いなくやるわ。・・・残念だけどね。その時は丸岳君も覚悟して。厳しい現実よりも優しい嘘のほうがいい時もあるのよ」

「・・だが・・」

(そうなれば、それは紅音ではない・・。紅音の形をした何かだ・・)

丸岳はそう反論しかけるも、石黒の背後に控えるスーツ姿の男女をみるとその言葉を口にはできず飲み込み、幻魔こと石黒実花にそれ以上返すことはできなかった。

十指の一人に数えられ、幻魔と恐れられる石黒実花も、同僚である紅蓮こと緋村紅音が無残に強姦されそれを撮影されて拡散されているということをすでに知っている。

自然の力である炎を操り、攻守バランスの取れた能力者の紅蓮ですらそうなってしまったことから、幻魔こと石黒実花自身も他人事ではないと思っているのだ。

それにあのお天気屋の緋村紅音と対等に話せ、そして比較的気の合っていた石黒実花だからこそ、紅音に対して同情の想いは強い。

その美しく派手な顔には、憂いを帯び長い睫毛の奥にある目は哀しみと怒りが混在しているのが見えたからでもある。

石黒の能力のエグさは、幻魔と呼ばれる石黒本人が一番理解している。

丸岳も紅音と石黒の仲が悪くないのは当然知っている。

石黒もまた同列の同僚である紅音に、負となる思い出や出来事を記憶から消し去ってしまう【鏡面桃源郷】を使うのは躊躇いがあるのは当然であった。

【鏡面桃源郷】は厳しい事実を脳裏から消し去り、そこを都合の良い優しい嘘で埋めてしまう幻覚術である。

消し去った負となる思い出や出来事が本人に与えている影響が強い程、術後対象に与える人格変化の影響が大きいのだ。

丸岳が懸念しているように、術後の紅音の変化次第では、紅音ではなくなってしまうと心配するのも当然であった。

現に、石黒の背後に控えている数人の既定の制服に身を包んだスーツ姿の男女は、一様にして同じような目の輝きをしている。

その者達は任務で敵に捕まり拷問を受けたり、性的な凌辱、家族や恋人と無残な生き別れ方をしたため、精神的に参ってしまい医学での治療が困難になってしまったものの末路である。

石黒自身の直属の部下たちはいわゆるそう言った者達ばかりで構成されているのだ。

明らかに以前の人格とは違ってしまっているが、当の本人たちにその自覚はない。

「実花さま。配置かんリョウ致しておりマス。以降のごシじを」

その時石黒の背後にタイトスカートを履いた宮コーの女性社員が近づき、片膝をついて石黒に頭を下げ報告してきた。

指示を仰いでいた女性社員はまばたきをせず目を見開き石黒を見つめている。

かつて優秀な能力者であったその女性は、敵に捕まり2か月にわってり軟禁されたことがある者だ。

その後助け出されたのだが、その2か月間に受けた拷問が彼女を完全に壊してしまっていた。

宮川の運営する病院でも彼女の精神は治療できなかったため、石黒実花をトップにして組織されている暗部へと配属されているのである。

彼女もまた幻魔こと石黒実花の施した【鏡面桃源郷】の中にいる一人である。

その女性はタイトスカートで片膝を付いたままの為、ピンクの下着がかなり大胆に見えてしまっているが、その女性は気にする様子もない。

辛いこと、嫌な思い出は忘却の彼方になった引き換えに、本来の自我や性格にも影響がでてしまっている。

よく見ればその整った顔付きの女性社員は化粧すらしておらず、パンストも履いていない。

ピンクの下着は身につけているが、どこか身だしなみや髪形にもチグハグな感じが見て取れる。

しかし、石黒の能力で彼女の心に不安や憂いはなく、心は平和で満ちているのだ。

周囲からは少し変わった子と思われるぐらいで、社会生活にもほぼ支障はない。

だが、こうなる以前の彼女をよく知る者からすれば、今の彼女がかつての彼女とは違うことに心を傷めるだろう。

「よくできたわ。次の指示があるまで持ち場で待機してなさい」

「はイ!」

石黒が優しい声でそう言うと、彼女は立ち上がって返事をすると、嬉しそうな表情を浮かべて持ち場へと帰って行った。

(・・・く・・。紅音もああなってしまうというのか?)

そのやり取りを見ていた丸岳は、強く拳を握りしめ奥歯を噛みしめてしまっていた。

丸岳は表情に出さないようにしているが、その隣では猫柳美琴がその様子を見て心配そうな視線を尊敬する上司に向けてるのだが、普段の丸岳は普段なら気づくその視線にすら気づけない程心はかき乱されていた。

「ふぅ・・。でもとにかく今は目の前のことに集中しましょ?」

このタイミングで丸岳にこういった場面を見せるのは、実花も疲れたようで話を逸らそうと丸岳に向き合ってそう言ってから、社長の宮川誠に向き直る。

「・・もっともだな。緋村くんのことは後だ。そういう選択肢も考えねばならん。・・・それに先方も到着したようだ」

宮川誠はそう言うと、ラウンジに歩いてきている男女数人の一団に向けて向き直ったのだった。

【第10章 賞金を賭けられた美女たち 8話 宮川コーポレーション代表そして暗部登場 終わり】9話へ続く
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        

第10章 賞金を賭けられた美女たち 9話 紅蓮凌辱回顧そして大山田の愚かさ

第10章 賞金を賭けられた美女たち 9話 紅蓮凌辱回顧そして大山田の愚かさ

「おごっ!ううっ!!」

膝をつかされヒップを突き出し、女性自身を貫かれながら喉も貫かれた赤毛の女は苦しそうな声をあげていた。

全身を汗で滑らせ、白かった肌は男たちの平手による鞭打で、様々なところが赤く腫れており、特に形の良い左右のヒップは真っ赤になるほど叩かれてた形跡がみてとれる。

脚の戒めは解かれているが、後ろ手の手錠はいまだにそのままで、膝を付いて前後の穴を凌辱されている格好でも両手を床に付くこともできずにいる。

口を犯す男は自慢の赤毛を乱暴に鷲掴みにし、口から涎と苦しそうな嗚咽を漏らし、男の猛った肉棒が快感を得る為だけに、乱暴に使われている。

本来ならその肉棒を噛み切ってやるところなのだが、女の口には歯が立てられないよう、特殊なマウスピースが取り付けられており、どんなに首を振り建てても外れないよう後頭部で3本の紐でキツク縛られている。

ヒップを叩きながら、秘部奥を固く漲った男の破壊槌が連打し、開きっぱなしにされた口も同じく別の男の滾った破壊槌が喉奥を抉るようにかき回しては、能力者としては最高位近い女の涙と唾液塗れの顔を眺めて優越感に浸り、時折頬にもビンタをくれてやっている。

普段は周囲を見下し、気が強くお天気屋な小生意気ロリフェイスの紅蓮こと緋村紅音を凌辱撮影会の宴は6時間を過ぎようとしていた。

紅音も最早抵抗するのをやめ、男達の行為が過ぎ去るのを待っているのだが、覆面をした男たち3人は好色なうえ性的にも肉体的にもタフであるのに、紅音を休ませぬよう巧みに3人でローテーションし、尚且つ玩具を使って紅音の快感が途切れないようにする狡猾さも持ち合わせていた。

「おぉ!・・うああ!!ふぐっうぅ!あぅ!!ふぐぅうぅ!!ああいっあうああ!おうあえて!おえあいああらぁ!!」

(あぁ!・・いやあ!!いくっうぅ!あぅ!!いくぅうぅ!!また逝っちゃうから!もうやめて!お願いだから!!)

涙と鼻水、涎塗れの顔に口を強制的に開かせる透明のマウスピースで、無様に大口を開けられて太い肉棒で容赦なく喉を抉られている紅音の顔がアップの画面に、何事か言葉にならない喘ぎ声をあげているが、その下に翻訳文字テロップが表示されている。

「楽しんでるか紅蓮?そろそろバッテリーも切れそうやし、3人で一緒に逝くか?」

ぴしゃりぴしゃり!と左右のヒップを叩きながら、紅音を犯している覆面の男が、紅音が一人逝ってしまわないように腰の動きを調整して紅音と正面の男に聞く。

「そうやな。上下の口同時受精やな」

「いくで?」

精液便所へと成り下がらせた紅蓮を前後から責めている男二人は、紅蓮の意思を無視して勝手に話をすすめると、すでに9合目付近にいる紅蓮が逝ってしまわないよう絶妙に調整しながら肉棒を打ち付けタイミングをはかる。

オルガズムのタイミングまで自由にならない紅音は、オモチャのようにいいように扱われている屈辱に身を焼かれながらも成すすべもなく、前後の男たちが発射するタイミングまで膣と喉マンコを使われている。

「おごっ!うふぐぅ!ううう!!」

涙があふれてくるがどうしようもない。

もう一人の男がそんな涙に濡れた紅音の顔にレンズを近づけてくるが、それすらもどうしようもない。

快楽と屈辱に歪んだ顔には肉棒が突っ込まれ、吐き出すことも噛み切ることもできず、男が快楽を得る為だけに乱暴に使われている。

前後の男たちのピストンが速くなる。

言葉はなくとも、クズにはクズなりの阿吽の呼吸というものがあり、生意気にも以心伝心できるらしい。

ぱんぱんぱんぱんぱんぱん!

ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ!

んんっ!!んんっ!!んぁ!!んんぅ!!んんっ!!んんっ!!んぁ!!んんぅ!!

ヒップと口に男たちが打ち込む打楽器がリズミカルな卑猥な音色を奏でる。

また打ち込まれている二つの穴楽器自体が発した潤滑油も伴奏し、穴楽器自身の口からも無理やり昇り詰めさせられる屈辱の感情が籠った歌声が漏れ出す。

前後の男たちのリズムが更に速くなる。

奏者二人に挟まれた穴楽器も身体を真っ赤に染め、可愛いが狂った音程で更に鳴り響く。

前後の奏者の動きが更に早まり、これ以上にはないという速度から最後の一突きが前後から深々と穴楽器を貫いたと同時に、穴楽器自身もひと際高い嬌声を鳴り響かせてガクガクと激しく痙攣しだした。

3者が同時に最後を迎え、穴楽器が最後の余韻で激しくがっくんがっくん痙攣し、苦悶の嗚咽を奏でている。

しかし奏者二人は、穴楽器の余韻など無視して、前後の穴から乱暴に打楽器が引き穴楽器の放心した顔と姿を見下して満足そうに笑っている。

そしてもう一人の男が手にしたカメラと、設置している複数のカメラが、穴楽器の穴から流れ出す白濁液余すことなく記録していっていた。

見下ろされながらもビクンビクンといまだに痙攣のおさまらぬ穴楽器は、膝とおでこで身体を支えていたが、奏者の一人に肩口に足を当てられて押され、仰向けにひっくり返された。

「きゃぅ・・」

仰向けにひっくりかえらされた紅蓮という穴楽器は、弱弱しい悲鳴を発してから、ぜえぜえと呼吸を整えてようとしていた。

その艶めかしく動く汗まみれの身体には、いたるところに赤く平手で打たれた跡が残り、陰毛もプレイ中に剃り落とされてしまっている。

絶頂を何十回と叩き込まれたというのい、いまだにツンと尖った双丘の先端には、陰核並みに感度が上がる呪詛を施したピアスが飾られており、陰核自体にも違う形のピアスが施され穴楽器の愛液に濡れ妖しく光っていた。

そして荒い呼吸で艶めかしく上下している紅蓮のヘソの下の下腹部には、「Onahole紅蓮」と呪詛のついたタトゥーが彫られてしまっていた。

「おい。おわったぞ?・・・おまえも使うか?」

全てのカメラを止めたとき、奏者の一人が宴で締めきっていた扉を開けて外にいる男に声を掛けたのだ。

「は・はい!・・いいんすか?」

「ああいいぜ。ぐっちゃぐちゃだけどな」

そういって「はははっ」と笑う男は見張りの男を部屋にいれて、代わりに自分が部屋の外にでて覆面を外す。

代わりに部屋の中に入った男は、6時間にも及ぶ宴を一人ドアの外で見張りをしていたのだ。

ようやくオコボレがまわってきたの男は、汗と愛液と男の精液まみれになっている仰向けで虚ろな目をしている、余韻おさまりかねていない赤毛の女の足元に座った。

そして赤毛の女の左足首と右脚の膝を持って正常位の態勢をとらせると、自らのベルトを慌ただしく外し、すでに勃起し先走り汁でヌラヌラになっている男根で一気に貫いたのであった。

「おうぅ!?」

紅蓮の膣は散々使い込まれたはずなのに、締め付けは健在でオコボレに預かった下っ端の男は、1分もしない間に放出してしまった。

「うぅ・・お・・おわりじゃ・・なかったのか・・よ?」

余韻顔を撮影される目的ですでにマウスピースを外されていた紅蓮は、息も絶え絶えになんとか口を開いたが、紅蓮のその口調に、下っ端の男は取り得の性欲をバカにされた気がして、すぐに腰を動かし出す。

「うくっ!ああぁ!うううぅいやあぁ!」

「どうだ?!抜かずの2発目といくぜ?オナホールの紅蓮さんよ?」

見張りをさせられていた下っ端男は、無抵抗な最強術士である紅蓮を組み敷き、紅蓮に掘られた下腹部のタトゥーを撫でまわしながら下卑た表情で勝ち誇った口調で言う。

「あああっく!それは・・!やめろおおぉ!!」

撫でられた下腹部のタトゥーが青く光り、効果を発動する。

散々その呪詛で弄ばれ、威力のほどを味あわされた紅蓮は悲痛な声をあげて抗議するも、抵抗する手立てはなくどうすることもできない。

「やめろぉやめろよぉ!卑怯だぞ・・!もうさっきので終わりだろ?もうそれやめてくれよぉ!きゃぅ!うういやあん!!また・・ああくぁ!」

タトゥーの力で紅音は絶頂寸前まで一気に高まる。

膣であれば、あと一突き、陰核であればあと一撫で逝くというところまで強制的に一気に高まるタトゥーに刻まれた効力が発動するが、決して逝くことはできないとうおまけ付きの効力だ。

今挿入している男が中で果てるまで決して陰核でも膣でも子宮でも逝けないのだ。

「ひひひっ、ドアの小窓から覗き見してたからやり方は知ってんだよ!」

「あくっ!!・・・かっ!!・・あくぅ!・・あっ!!・・うぅ!!」

下っ端男の乱暴なピストンでオルガズムが確実に与えられる刺激にも関わらず、なぜか逝けない地獄の快感に、紅蓮は後ろ手に施錠された身体を捩らせ、鯉のようにパクパクと声にならない言葉を発して逝けない地獄を味わっている。

「これもだ・・!」

下っ端男は紅蓮の様子にチンケな自尊心を満足させるも、さらに乳首に施されたピアスのリングにテグスを通し、二点を引っ張り上げるように揺する。

「あがっ!?・・ひああぁ!ひゃめろお!!やめてよおおぉ!!」

両乳首のピアスには乳首が陰核並みの感度になる呪詛が籠っているのだ。

紅音は本来なら口もきくこともないような、ど底辺男に嬌声を上げさせられながらも、その刺激では決して逝くことがまだできない。

「どうだ?紅蓮?くやしいか?」

「こ・・ころす・・わ」

逝けずに悶え、それなのに下っ端男は自分が逝くことがないように腰を動かし、紅蓮を辱める為だけに抉っている。

当の紅蓮は、一擦り、一突きでも逝く極限状態のまま固定され突っ込まれている肉棒が逝くまで逝けないのだ。

それがどんなクズ肉棒でもである。

たとえばその相手が犬だとしても、犬が満足するまで絶頂ギリギリで待てをさせられるのだ。

「はははっ。おい大や・・っと・・。旦那に言われてる時間まであともう30分もねえからな。紅蓮で遊ぶのもそろそろ終わりにしろよ。またチャンスはあるだろうし、そのタトゥーや呪詛ピアスがある限り、紅蓮を抱くときまたオモチャにできるからよ」

宴で使っていた機材を片付けていた覆面男の一人が、紅蓮と下っ端男のやり取りを横目で見て笑いながら言う。

「はいっ。わかりました」

下っ端男は、素直にそう言うと紅蓮を見下ろす。

「そういうわけだからよ。巻きでやってくぜ?・・こっちもな・・」

「だめだめだめっ!!それほんとにだめだから!!」

下っ端男がテグスを引っ張る手とは別の手を、紅音の下腹部に伸ばしたのだ。

陰核に取り付けられたピアスには強制絶頂の呪詛が施されている。

ちゃりっ。

ピアスを摘まみ軽く引っ張ると紅蓮の身体が跳ね上がる。

「きゃううう!!?」

「ひひひっ」

「あくっ!ぜぇぜぇ・・!そ、それもうほんとだめだから・・やめておねがい!」

ぜえぜえと呼吸を整えながら紅蓮は下っ端男を見上げ、懇願するような眼つきになって言った。

「どうかなぁ?ひひひっ」

下っ端男は、抵抗できない美人女を許すような男気は無いようだ。

テグスを引っ張りながらタトゥーを再び撫でつつ、クリトリスのリングピアスをグリグリと左右に回転させる。

「ひぐぅう!!?ひあああ!!おねがいだからああ!!」

タトゥーが怪しく青く光り、クリピアスも効果を発揮しようとフラッシュのように光る。

男が放出するまで逝けないオナホール女になるタトゥーの効果と、摘まんで捻るだけで一瞬にしてオルガズムを与えるクリリングピアスの効果が発動しようと光る。

しかし、先に発動させた効果が優先するため紅蓮は逝けない。

しかし、クリリングの効果も絶大で、オルガズムに達する信号を直接脳に働きかけるも、脳からクリトリスに逝けという命令が下腹部当たりで止められる。

結果、脳としては逝っている間隔は味わえてしまうが、実際の陰核では逝ってないという地獄の寸止めが味あわされるのだ。

「ひーっひっひっひ!すげえ!これすげえ効果だ。これならどんな女もイチコロだぜ。言いなりにさせられるなぁ!」

顔を歪めてキャンキャン絶叫している紅蓮を見下ろし、自分は逝かない程度のピストンで紅蓮の膣を味わう。

「だろ?亭主の浮気依頼とかを調査してきやがる人妻にはよ、もれなくキメてるコンボだ。生意気にもてめえの亭主の浮気ごときで騒ぎやがる女にはいい灸だが、やっぱり紅蓮みてえな強力な能力者にも効果があんのがわかったのは収穫だな。俺らのエロに関する能力は、こいつらより強ええってことだ。くくくっ」

覆面男のセリフを途中までしか聞けず、すこし打ち付ける腰の動きを強めた下っ端男は大声で喘ぐ紅蓮の表情をスマホで写メっていく。

「ああ!!もう撮るなよぉ!!くひあ!もう逝って!お願い!!もうくるしい!!もうお願いだから終わって!これ以上ひぎぃいい!!」

紅蓮が言い終わらないうちに写メったスマホを構えたまま、再びクリリングピアスを摘まみ上げ、左右へのぐりぐりを再開させたのだ。

「じゃあよ。オナホール紅蓮で逝ってください。って言えよ。ひひひっ」

「オナホール紅蓮で逝ってください!!」

即答だった。

それほどオナホールタトゥーと強制絶頂クリリングピアスのコンボは凶悪なのだ。

強い精神と高いプライドをもつ紅蓮をしてもこの有様である。

「だめだ」

「あああああ!!!」

下っ端男はニヤニヤしながら用意していたセリフを言うと、乳首ピアスに括り付けているテグスを、紅蓮の下の犬歯に括り付けてしまい、自由になった両手で、左手でスマホを持ち、右手でクリリングピアス摘まんでクリピアスについたリングを左右にひねるぐりぐりを再開する。

「ひあっ!?ひあっ!いけないっ!!それ逝けないのよぉ!ひぐぅ!逝ってるのにいけない!!ああああ!!」

口を開いて叫ぶ度に犬歯に括り付けられたテグスによって、乳首リングが引っ張られクリ並みの感度の乳首が延ばされ快感をセルフ受動しながら、身もだえる姿をスマホに納めていく。

「おい。そろそろ時間が来るぞ?旦那に愛想つかされたら今後に響くからな。それぐらいにしとけ」

ほぼ機材を片付け終わった覆面男に言われると、下っ端男は仕方なく腰の動きを速めた。

「ひぎいいいぃいいい!!ひいぃいいいんん!!」

逝けないオナホールと化した紅蓮は、逝けないクリリングピアスの強制絶頂で半分だけ逝かされる乾いたドライオルガズムで無様な声をあげ、自らの口のうごきと首の仰け反りでクリトリス並みの感度の乳首を引っ張りたくっている。

「ひひひっ。バッチリ撮れてるぜ・・・。そろそろ俺も・・」

クリリングピアスのリングにテグスを通し、両乳首のピアスリングに通して、クリリングピアスの強制絶頂の効果を紅蓮自体の身じろぎで発するようセルフ強制絶頂状態にすると、自由になった右手で紅蓮のクビれた腰を掴み、ゲス男が持つには凶悪な22cmの男根を打ち込み続ける。

「ひっ!ひぃ!!ひあぁ!!ああっ!!おわって!!?オナホール紅蓮で逝ってぇ!!?オナホール紅蓮で逝ってよぉお!!」

頭がすでに真っ白になっているのであろう紅蓮は、普段なら絶対口にしないセリフを叫び下っ端男の男根が果てるのを待っている。

「うぉうう!!」

なんの前触れもなく下っ端男は紅蓮の子宮口に白濁液をゼロ距離射撃したのだ。

その瞬間タトゥーの効力と、クリリングピアスの止められていた効力が同時に発動する。

「きゃああああああああああああああああああああああ!?」

オルガズム解禁された陰核、子宮、膣のすべてがいままでクリリングピアスで貯め込まれたグリグリされた回数分と、自らテグスで引っ張りたくった回数分のオルガズムが紅音を一気に襲う。

「あああああああああああ!!!っ!!!!?」

身体をのけ反り、次々と襲い来る絶頂に身体をビクつかせる度に、犬歯に括り付けられたテグスとクリリングピアスと繋がれているテグスが更なる絶頂を与えてくる。

「あぐっ!逝ってる!!もういい!!!きゃうんん!!!おね・・がい!とめてえ!!とって・・!これとって!!もうとってよおお!!」

絶頂でのた打ち回っている紅蓮が、自分の動きでさらに絶頂している。

男根が抜かれた膣から白濁液をこぼし逝きながら、無様に転げまわりクリリングピアスのせいで包皮からズリだされた勃起クリがテグスで引っ張られ更なる絶頂を与えてられている。

「撮ってって言ってるぞ?撮ってやれ」

「ちがああううう!!取ってってい・・・って!るのお!!」

4人の男は自らのスマホを構え、紅蓮の痴態を個人のスマホにも記録していく。

強靭な精神力と、人並み以上の体力を持つため気を失うこともできずに、紅蓮は10分ほど男たちを喜ばせてしまっていたのだった。

~~~~~~~

紅蓮がセルフ絶頂でのた打ち回っている画像を一時停止ボタンで止めると、男は話し終わった男たちに椅子ごと振り返った。

複数のモニタを見ながら、動画編集ソフトを動かしていた男は部屋に入ってきた二人、金山と大山田に向き直ったのだ。

「大山田ちゃん。金山ちゃんの言い分がもっともだねえ。そこかしこで口にしていいことじゃないよ?」

笑顔だが困ったような表情、それでいてアウトローな凄みのある人相の男は立ち上がって、大山田に近づきながらそう言う。

「は・・はい。申し訳ありませんっした」

「んん~?本当に分かってるのかなぁ?俺たちがやってることのヤバさってわかってないからそんな軽率な行動がとれたんじゃないのぉ?」

どすっ!

言い終わったとたんに大山田の腹部にボディブローを叩き込む。

「ぐえ・・」

殴られて蹲った大山田の周りを歩きながら男は続ける。

「紅蓮はねえ。冗談抜きでヤバいやつなんだよ。どのぐらいヤバいかって口で言えないぐらいヤバいんだ。俺らが犯せたのは運と綿密な計画と、協力者がいたからさ。俺たちみたいな無能力に近い能力者じゃ紅蓮とまともに向き合うこともできやしねえ。悔しいけどねえ・・。だけどほとんどの女能力者ってヤツぁ・・、性を能力で防御してねえ。・・・大抵の男どもにまともな能力者が少ない理由って知ってるかい?大山田ちゃん?」

「わ・・わかんねえっす」

「答えは君だよ」

大山田の答えを予想していたのか、男は即答する。

「男はねえ。力を手に入れると欲望や快楽を女より我慢できないヤツが多いみたいなんだ。だからせっかく能力を持って生まれてきても、あとから目覚めてもさ、ダメな奴がおおいんだよねぇ~。お前みたいに。あっ、俺らもか」

カツカツと足音をさせて大山田の周りを一回りしてきた男は、大山田の鼻先に人差指を突きつけて言い放った。

そして、また大山田の周りをカツカツと足音をさせて歩きだす。

「ダメなんだよなぁ。男ってぜんぜん堪え性がねえ。ま・・人のこといえねえけど・・。すーぐにSEXに使っちまう。SEXや自分が気持ちよくなることに能力を傾けちまうんだよ男ってやつは。ナンパ・・はまだいいか。ヒモやジゴロって呼ばれる野郎どもは、能力をSEXに割り振ってやがるヤツばっかりなんだぜ?そうじゃなくても、よくて、新興宗教起こしたり、インチキ商法をやって、自身の自尊心や虚栄心を満たそうとしてる程度の野郎ばっかりさ男なんてな・・。大抵女を快楽付けにして、女の稼ぎを貪るってのが男能力者の定石な能力の使い方だ。でもよ、そういうやつって世間じゃとんでもねえクズって思われてるだろ?だがそれに嵌っちまってる女ってやつもそのクズと同じぐらいバカで、そういうモノを与えてくれるダメ男が大好きなんだよ。快楽を覚えさせられた女はクズ男から離れられなくなるのさ。・・・旦那や彼氏なんかじゃとても与えてくれねえ、脳が喜びに震えるほどの快楽からは離れられねえんだ女ってやつはよ。普段澄ましてる女が多いからこそ、そういうドロドロチーズ女さ。表面は固くっても、内面は解けたチーズのようにドロドロでさ、エロいもんだぜ」

「すんませんっした」

男の演説を聞きながら、正座をしたまま大山田は再度頭を下げる。

男も大山田の詫びに少し、気を取り直したのか話を元に戻した。

「話が脱線したねえ。紅蓮はヤバい。紅蓮のバックの宮コーもヤバい。俺らのバックもヤバい。協力者もヤバい。これはわかったかい?」

そうしてどんなバカにでもわかるように箇条書きのような言葉で大山田に言う。

「はいっ!」

大山田がびしっと返事をしたことに、満足そうに頷いた男は念をおす。

「俺らなんて存在がバレちまったら、紅蓮じゃなくても・・・そうだなぁ・・。こいつら、賞金額1000万しかねえこの小娘どもさえ狩るどころか、こっちが刈られちまうかもしれねえってことよおく覚えておきな。1000万スタートの賞金首っていうのは大抵能力者だ。覚えておくようにな」

男はそう言うと、手をチョキの形にして、自分の一物をハサミで切り飛ばすような仕草をしてからモニタに写った女たちを指さしたのであった。

その画面には、賞金首の一覧が上位から降順で表示されており、今月の新規ターゲットと表示されているアイコンが派手に点滅していた。

そのアイコンの中心には、見覚えのある顔の女が映っている。

岩堀香澄
164cm 54kg 87D、64、90
賞金:1000万
バツイチ子持ち。
剣道四段。高校時代インターハイで準決勝まで勝ち進んだことあり。
宮川コーポレーションに転職したての33歳。
神田川真理【14位.¥260,000,000.未達】から直接のオファーで登用されたため、おそらく能力者と推定される。
宮川佐恵子【4位.\530,000,000.未達】の側近を一時していた様子があるが、現在は不動産部の部長という異例の抜擢をされていることから、能力者であることはほぼ間違いないと思われるが、新たな情報を随時募集中。
現在、写真、動画、個人情報の買い取りを開始、情報が集まり次第2週間後にオークションスタート。

「こいつは・・!」

男が指さした先には、正面からの顔写真付きで、さっき後輩のモブと一緒にいた女が映っていたのだ。

大山田の隣に立っていた金山も、気づいたようで、

「ちっ・・あのまま付けてりゃよかった・・。けど大山田?おまえあの部屋盗撮してたな?こりゃまた、ちったぁ金になんぞ?」

と言って、大山田の頭を掴み、顔を顔を近づける。

「マジかよ。もってるねえ。さすが金山ちゃん。紅蓮の5億5千って訳にはいかないけど、俺らとしちゃ1000万でも手強い相手にゃ違いねえ。んでもって、まだ誰も手つけてねえ青田チャンスってわけだ。金にもなるし、俺らも気持ちいい、視聴者のみなさんも満足する、サイト運営者も儲かるし、犯された女も何度も逝けて大満足!みんな満足!打って良し走って良し守って良しってわけだ。俺らは近江商人より商売上手いかもしれないなあ。さっそく出るか?まだ大山田ちゃんの店にいるかもしれないしな」

男のセリフに大山田は慌ててスマホを操作して、事務所のカメラを画面に映す。

「いるっす。清水さん。あいつらまだいますね」

「ぐーっど!いいねえ!そうと分かればさっそく・・ぃくぜ野郎ども!」

「おい所長。ミックのやつは待たねえのかよ?」

清水と呼ばれた男は、大山田のセリフに親指を立ててニカッと爽やかな笑顔を浮かべてそう言うと、爽やかさとは対照的なゲス行為を行うべく事務所のドアを勢いよく開け、金山のセリフを置き去りにして二人を引き連れ出て行ってしまったのであった。

誰もいなくなった部屋には、Onahole紅蓮と下腹部に彫られた紅蓮が両手を後ろ手に縛られ、仰向けになって床で転がり、テグスを括りつけられた犬歯で陰核と乳首を引っ張って、ただ今逝ってる真っ最中といった顔がアップになったまま、一時停止された画面に映ったまま放置されていた。

宮コー十指最強と謡われた赤毛の超越者は、女の最も無様な姿を画面内で止められたままにされていた。

そしてそれはこの部屋だけでなく、変態サイトを訪れ、【紅蓮の痴態】と銘打たれた動画を100万円でダウンロードした3万人ほどが、同じようなことをしているのだった。

【第10章 賞金を賭けられた美女たち 9話 紅蓮凌辱回顧そして大山田の愚かさ 終わり】10話へ続く

第10章 10話 賞金を賭けられた美女たち 10話 岩堀香澄VSゴミ男3名

第10章 10話 賞金を賭けられた美女たち 10話 岩堀香澄VSゴミ男3名

【登場人物紹介】

清水 光一(しみず こういち)
48歳 180cm 75kg 19cm 
多少の【肉体強化】と、小動物を思い通りに10分間ほど操れる能力【獣使い】を使いこなす能力者。

清水探偵事務所の代表。

清水探偵事務所は、菊一探偵事務所が現れるまでは府では一番有名な探偵事務所として有名だった。

しかし菊一探偵事務所と仕事の色合いは大きく異なり、依頼者が法外な報酬額を請求されたとか、浮気調査を依頼した人妻などが逆に陥れられて風俗などに沈められたなどといった洒落にならない噂が絶えない悪徳探偵事務所であった。

一見人懐っこい話し方に騙されやすいが、清水の性格は残忍で狡猾、好色化で気の強い女性を無抵抗な状態にして蹂躙することにエレクトするゲス変態。

世界の牝能力者陥落動画の運営者との繋がりがあり、サイトでベスト100に入る高額賞金首を過去に数名狩ることに成功し、動画配信させることがある。

最近は菊一探偵事務所に仕事を軒並み取られてしまっているため、表向きの仕事は0に近い状態であるものの、副業としてやっていた女性能力者狩りに力を入れ今後は女性能力者狩りを本業にしようと目論んでいる。

世界の牝能力者陥落動画サイトではつい先日まで、億超えの賞金首は実質狩ることは不可能とさえ言われていたが、清水達は1億を大幅に超える5億5千万の賞金首である紅蓮の緋村紅音を狩ることに成功しており、世界の牝能力者陥落動画サイトでは清水達(HNは本名ではなく「極めて紳士」である)は、紅蓮を狩った英雄として崇められており、今後も紅蓮に続き、億超え賞金首を狩ることがサイト内の変態たちから期待されているサイト内のカリスマ。

金山 恵三
36歳 177cm 56kg 22cm

清水探偵事務所の所員。
清水よりは【肉体強化】能力に優れており、格闘技もテコンドーの経験者。
ノラ能力者としてはかなり多才で、能力は3つも有している。
せっかく能力者としては多才でも、性格はかなり難があり自分勝手で、他人のミスはとことん追求するが、自分のミスには寛大であり、また自分の身を護ることであれば、どんな見え透いた嘘も大声でつけてしまう困った人物である。

しかし、所長の清水には頭の回転で劣る為か、大人しく従っている。
強い者には媚びへつらい、弱い者、真っ当に謝罪してくる相手など立場的に弱いと決めつけた相手にはトコトン強くなるどこかの国民性に非常に類似する性格の持ち主。

能力は【肉体強化】以外に【寄生】と【雌犬】いう能力を持っており、【寄生】は相手の身体をほんの数分とはいえ意思とは関係なく自由に操ることができる能力である。

【肉体強化】も使えテコンドーの経験者でもあるといっても、宮コーの幹部能力者と比べられるような力はない。

【肉体強化】に特化している稲垣加奈子のような能力者からみると、金山程度では一般人と区別がつかない程度でしかない。

しかし、そんな金山の【肉体強化】であっても一般人にとってはかなりの脅威であり、弱い者には容赦のない性格の金山が持つには危険な能力である。

弱い者には極めて強いが、強い者には金山の力はほぼ通用しない。

ゆえに対能力者には金山の【肉体強化】は通用せず、【寄生】を使ってもほぼ間違いなく抵抗される。

しかし、対無能力者に対しては猛威を振るうことになり、金山の【寄生】で毒牙にかかった女性は数多く、表に出ていないが、金山が起こした性犯罪は100件を超えている。

また【寄生】は対能力者の場合も、相手のオーラを無効化しているような条件が整えば、非常に強力であるということが、つい先日証明された。

またもう一つの能力である、性能力に特化した【雌犬】は、金山がオーラを発動させ陰核に触れると陰核の性感感度をコピーでき、耳なら耳、指先なら指先、乳首なら乳首、ピアスならピアスに性感場所を複写できる日常生活では使えないゴミ技能であるが、使いどころが絞られているぶん型に嵌れば猛威を振るう。

金山は【寄生】と【雌犬】を駆使し、霧崎美樹の【霧散霧消】によってオーラが発現できなくなっていた状態の紅蓮を散々オモチャにし、陰核の感度や陰核が絶頂する瞬間のオルガズムをコピーして、様々なものに複写した人物である。


本編

「じゃあ茂部くん。今日はありがとうね。おまけに家までエスコートしてもらっちゃってさ」

香澄はマンション入り口まで送ってきてくれた若い後輩に笑顔でお礼を言う。

「いっすよ。俺の方こそご馳走様っす。徳川さんが代金はいいっていってくれたっすけど、部長払ってくれたっすね・・・。ほんとにありがとうございましたっす」

「私たちの入社祝いなのに変なケチがつくみたいで嫌じゃない。それにこれで茂部くんも、またあのお店に行きやすいでしょ?」

「気ぃつかってもらってマジすんませんっす」

モブが香澄に対して深々と頭を下げる。

大山田のことはともかく、モブとしても尊敬する徳川とは今後もいい関係でいたいので、香澄のこういった配慮は本心から嬉しかったのだ。

「それに、部長が山さんに付きまとわれても困るっすしね。あの人目を付けた女にはしつこいときもあったっすから念の為っす」

「大丈夫よ。あの子からみたら私なんておばさんでしょ・・まあ、ちょっとハプニングもあったけど、今日は楽しかったわ茂部くん」

香澄は自虐気味にそう言うも、すぐに気を取り直して、アルコールで僅かに頬を紅潮させてた顔で、モブに笑顔でそう言った。

「こ・・こ・・こっちこそ気つかってもらって・・、ありがとうございましったす。・・それに部長、そんなことないっすよ。・・・部長ってお堅いだけなのかと思ってたっすけど・・ぜんぜん・・その・・」

その香澄の表情にモブも、違った理由から顔を赤らめ、ドモり気味に言葉を続けようとするも、ボキャブラリーとこういった経験も少ないモブは口ごもってしまった。

「お堅いだけとは何よ。お堅いだけとは」

平安住宅に在籍していた時の香澄は、それこそ取引先や部下や上司など同僚なども含め皆、岩堀香澄はお堅い仕事人間と口をそろえて言う程、堅い人間であった事実が確かにあった。

親友の常盤広告に勤務する中島由佳子でさえ香澄には、『かすみんは堅すぎるんだからたまには羽を伸ばさなきゃ』とはよく言われていたのだが、香澄も転職をし宮コー参加の宮川アシストに出勤するようになってからは、最初の頃こそ気を張り持ち前の【堅さ】を発揮し社則や法律にそぐわない事なら、上司の佐恵子にさえ意見していたが、最近では自分自身少し丸くなってきたとは自覚していたのだが、ビジネスマンとしては話し方から何から何まで緩いと言わざるをえないモブからすれば、そんな香澄ですらまだまだお堅い女性上司に見えるのであろう。

ただモブの口調も、そのお堅いは決して悪い意味ではなく、厳格や厳粛という規律に厳しい自分すらしっかりと律することができる女性という誉め言葉として使っていたのだが、ボキャブラリーの貧困なモブには今の香澄を評する言葉としては堅いくらいしか出てこなかったのである。

そんなモブの様子に気付かない香澄は、お堅いという単語を聞きとがめ、腰に手を当てジト目で睨んで言い返す。

「い・・いえ!・・違うっすよ!そう言う意味じゃないっす・・。そう言う意味じゃ・・・」

少し怒った仕草をわざと見せて膨れたふりをしていた香澄に、モブはかなり真面目に否定するも語尾が尻すぼみとなる。

「ふふっ冗談よ。でも元気でたみたいね?茂部君・・。明日からまたちゃんと元気に出勤するのよ?宮コーに就職できてお母さんもあんなに喜んでくれてたじゃない。いま辞めなくって良かったって思える日が来るまでしっかりがんばんなさい」

香澄は冗談でそう言ったのであった。

今朝はこの世の終わりだといった表情のモブを元気づける為に、人生の先輩として少しばかり頑張ってみてあげたのであった。

しかし、最近のモブは香澄がそういった配慮をしてあげたくなるほど、仕事を頑張っていたからでもあったのだ。

香澄はそう激励しながら、モブと一緒に働いた宮川アシストでの出来事の一つを思い出していた。

モブが宮川アシストへ勤務し出して暫くしたころの出来事である。

宮川アシストへモブ所縁の人物がアポイントもなく突撃してきたのだ。

身体にぴったりとフィットした七分丈黒ラメのカットソーに、革のタンクトップジャケットにヒョウ柄のミニスカート、髪の毛はかなり白めの金髪ロングストレートの気が強そうなイケイケギャルが宮川アシストに乗り込んできたのだった。

「ごめんくださーい」

ヴィトンのショルダーバックを肩に掛けなおしながら、元気な声でそう言って店に入ってくる金髪ギャルが9cmぐらいありそうなヒールを響かせて入ってきた。

「いらっしゃいませ。どういったご用件でしょうか?」

「あ、えっと・・その・・、このたびは天牙がお世話になってるって聞いて来ました。つきまして・・、ご挨拶と思てまいりました・・んです。茂部天牙の上司の方・・いてはるです?・・でしょうか?」

受付嬢の質問に、金髪ギャルは慣れない敬語を使っているためか、すこしきょどきょどとした様子ながらも、ちょっとおかしな言葉であるがなんとか受付嬢にそう言って頭をピョコと下げている。

「茂部くん。お友達かしら?私用なら手短にね?」

金髪ギャルが受付でそう言っているのが聞こえてきた香澄は、椅子に座っているモブの横顔にそう声を掛けるも、モブの反応はない。

「・・茂部くん?」

金髪ギャルを、目を見開き凝視していたモブは、訝しがった香澄に再度声を掛けられるも、またもや返事ができないどころか、その大きな身体を屈めて自分のデスクから離れ、ガタガタと事務用品に当たりながら、後ろのデスクの下へと隠れてしまった。

しかしそこのデスクの使用者がすでに帰社していることをモブは知らなかった。

宮川佐恵子は、キャスター付きの椅子を滑らせて資料棚からファイルを出し、開いたファイルを見ながら、椅子に座ったまま勢いよく床を蹴って自分の席に戻ってくる。

お行儀の悪い行為だが、まさか自分のデスクのすぐ下に人が潜り込んできているとは思ってもいない佐恵子は屈んでいるモブに椅子ごと衝突してしまった。

「えっ!?きゃ!!?」

がしゃーん!

どしんっ!

そこにあるはずのない重量物に衝突した佐恵子は、椅子からひっくりこけて、悲鳴をあげながら背中から床に落ちる。

いきなり、部下が自分の足元に潜り込んできていて、佐恵子も猛スピードのキャスター付きの椅子に座ってファイルを見ていたのだからこの結果は無理もない。

「く・・。な・・なんですの?!」

強打した腰と後頭部をさすり、ファイルからまき散らされた用紙を払いながら佐恵子が身を起こすと目の前にはモブがいた。

自分の右膝と左膝の間にモブの顔が見える。

そして、すぐにモブは座りなおして 尻もちをついた格好のままの佐恵子へ土下座をして頭を下げた。

「社長!!すんませんっす!!帰ってきてたとは知らなかったんす!!」

モブはそう言ってしばらく固まっていたが、周囲も無言なので不安になってチラと顔を上げる。

しかし、その景色は最初見たときと変わっておらず、捲れたスカートと、一見細身に見えながらも隆線の滑らかな黒パンストに包まれた太もも、そして黑パンスト越しには白いショーツがはっきりと透けて見えていた。

その景色を焼きつけながらも、モブは視線をきるように、頭を慌てて下げる。

(白?!社長は黒ってイメージっすのに!おかげで濃い黒パンストのにパンティラインがバッチリわかって、足とヒップとの境目や大事な部分の柔らかそうな肉質がばっちりわかっちまうっす・・・!・・ってそんなこというてる場合じゃねえっす。この茂部天牙一生の不覚!!いまもっとも死に近づいてる瞬間っす・・!考えろ!どうしたらこの難局をのりきれるかを・・!?)

「モブ。ケガはない?」

頭を下げて猛烈に頭を働かせていると、やけに優しそうな佐恵子の声が伏せている頭越しに聞こえてくる。

(怒ってない?彼氏もできて丸なったって噂も聞くし、こんなことじゃ怒らんようになったってことっすね・・。なんとか許してくれるんじゃ・・?)

モブはそう思ってばっと顔を上げるも、相変わらず景色は変わっておらず、黒パンストに包まれた太腿、透けて見える白ショーツ、そして膝と膝の間にある佐恵子の顔は笑顔であった。

が、佐恵子の表情はすぐに目を細め鬼の形相へとかわる。

イスから突き落とされ後頭部を強打し、下着をバッチリ間近で見られているのに、許してくれるわけがなかった。

「ひいいい!!ふ、不可抗力っす!!ゆるしてください!!」

「いつまで見てるのです!」

がすっ!!

パンプスの裏で顔面を思い切り蹴られたモブは仰向けにひっくり返る。

「マジすんませんっす!」

「言い残すことはそれだけかしら?」

モブ立ち上がりながらも、おでこと目の間付近に、ひし形の蹴り跡と、顎に丸い蹴り跡を刻まれた顔になったまま重ねて謝るが、ゆらりと立ち上がった佐恵子は一歩モブの方へと歩んできた。

そのとき、黄色く高い嬉しそうな女性の声が事務所内に響き渡った。

「おったおった!天牙!おるやんか!なんでそんなところにおるんや?」

「うげえ!」

今度はすぐ隣にきて大声を駆けてきた金髪ギャルに向かってモブは妙な悲鳴をあげる。

「申し訳ありません。どちら様でしょう?ここまで入っていただくわけにはいただけないのです」

「あ・・すんません。ウチこういうちゃんとした会社の勝手ようわかってのうて、えらいすんません。かってはいってたらあかんかったんですね」

社員のデスクが並ぶところまで侵入してきた金髪ギャルに、香澄は丁寧ながらも毅然とそう言うも、金髪ギャルは案外素直に謝ってきた。

「・・・うち天牙の母親です。茂部千代いいます。うちの子がお世話になってる言うんでご挨拶にと思てきましたんです」

申し訳なさそうに香澄に頭を下げた金髪ギャルは、誰も予想だにしない爆弾を投下し事務所全員を沈黙させる。

目が点となっている香澄と佐恵子も、お互いに顔を見合わせ再び金髪ギャルを凝視し、そしてモブにも視線を移して、再度香澄と佐恵子は目を合わす。

「お母さま・・・?でも・・えっと」

香澄が口ごもったのはもっともである。

千代と名乗ったモブの母親は、どこからどう見ても母親に見えないほど若い。

見た目も若い恰好だし、実際に若すぎる。

「・・・うちの母ちゃんです・・」

・・・・・・・・・・・・。

「えええええええええ!?」

モブの小さな呟きの後、少しの沈黙があってから、宮川アシストの事務所全員の声が響く。

どう見ても10台のイケイケギャルにしか見えない金髪ギャルは、茂部天牙の母親だったのだ。

その後応接室で、モブ、千代、佐恵子、香澄の4人は気を取り直して、微妙な空気の中、千代がモブのことをくれぐれもお願いしますということと、見た目ギャルながらもやはり母親のようで、モブを雇ってくれた佐恵子と香澄に涙ながらにお礼を言い、頭を下げて帰って行ったのであった。

モブママの千代の話では、千代は13歳でモブを出産し、なんとか中学を卒業したものの、飲んだくれて暴力を振るう父から離れ、父の暴力に耐えきれずいなくなってしまった母もいないなか、千代はモブを女手一つで育てたというのだ。

夜のバイトを掛け持ち、乳飲み子を育てた千代にもモブ同様、そういう環境で育った者に有りがちな、特有の暗い影がなく、ハキハキと明るいのが印象的だった。

千代の話し方や仕草は、どうしても稚拙な部分があるが、どうにかして息子を育てた母の貫禄が、見た目は金髪ギャルだというのに確かにあったのだ。

「・・茂部くんの家庭でも色々あったのね。きっと茂部くんたちも、人に言えないような苦労をしてきてるんだわ・・・。私もシンママになっちゃったけど、収入も十分あるし、息子もグレずに育ってとっても恵まれてるわよね。それにひきかえ・・・茂部くんの家庭環境の話も聞いたけど、すごく貧しかったのに茂部くんて、ヤクザまがいの道に外れそうになっていたとは言え、ぜんぜんそういうの普段見せないわね。・・基本的に明るいし、未熟からくる困った発言や行動もあるけど、上司の私のいうことも聞くし、案外にちゃんとしてる子なのかもね。神田川さんたちが目を掛けてるだけあって、あながちまるっきりのヤンキーってわけじゃないんだわ・・」

(茂部君たちから私も見習うべきところがあるってことね。・・元夫からちょっと復縁をせまられてるからって、そんなの全然大したことないわ。一回り以上違う後輩に言ったものの、私の方こそ前向きにいかなきゃ・・)

香澄は数か月前の宮川アシストでの出来事で物思いにふけりながら、茂部という青年のことと、自分のこととを比べ、自分は恵まれているのだと自覚しもっと前向きに生きて行かなきゃと思いなおしていた。

モブとはエントランスで別れ、香澄はエレベーターから24階のホールに降り物思いにふけりながら、部屋に向かって歩いている。

(それにしても千代さんって、私と同い年なんだわ・・。私より若く見えるのは髪型や服装のせい・・・ってだけじゃないわよね。・・・そう言った意味でも私も見習って精進すべきだわ・・)

香澄はマンションの廊下を歩き、千代の見た目の若さを思い出し、なにかに決意するような仕草で拳を握りしめて一人奮起しながらも、自分の部屋に近づきつつバッグからキーを撮してドアのカギを開ける。

「ただいまー。・・・・ん?」

バッグを置き、ジャケットを脱ぎながら部屋の雰囲気がいつもと違うことに肌が粟立つ。

息子が塾から帰ってくる時間にはまだ少しあるので、部屋が無人なのは当たり前なのだが、見慣れた部屋内に、説明しがたい違和感が立ち込めているのだ。

きちんと片付けられたキッチンのシンク、キッチンテーブルに置かれたグラスの花瓶に昨日活けたダリアとガーベラも出社する前とかわりない。

別段普段と違ったところがあるようにも見えない。

しかし、何かがいつもと違うのだ。

「な、なんなの・・・?」

香澄は直感に従い、冷蔵庫の裏に隠してある護身用の木刀を手に取り、部屋の中心へと移動して身構え周囲を伺う。

香澄が木刀を手にしたことにより、より一層違和感の気配が濃厚となるも、能力者として目覚めて日の浅い香澄は直感に従いきれずにいた。

(な・・なに!?これ?!・・危険・・ってこと??)

なにかはわからないが、粟立つ肌が、首筋の毛がチリチリと逆立つような感覚が香澄の脳に警鐘として伝えてくる。

「だっ!誰かいるの?!出てきなさい!!」

香澄は玄関ドアまで後ずさりして、ドアを背にして部屋の中へと木刀の切っ先を向けて大声を上げる。

香澄は無意識に【肉体強化】をし、それに加え木刀を握ったことで【肉体強化】と重ね掛けが可能な上位互換技能【剣気隆盛】まで発動している。

香澄に実戦の経験値があれば、もっと初動は変わったかもしれない。

しかし日常生活がもっぱら平和であった香澄は、まさかそんなはずがあるわけがないと躊躇してしまっていたのだ。

沈黙が続き、まだ緊張の糸を切るまいと再度意気込んだ香澄の背後で勢いよく玄関ドアが開いた。

ばちぃっ!!!

「きゃっ!!んんん!!」

突如開いた玄関から侵入してきた何者かが、香澄の腰にスタンガンを押し付けたのであった。

香澄は突然の激痛に悲鳴を上げてしまうも、声をそれ以上あげられないよう口を侵入者の手で塞がれてしまったようだ。

ばちぃい!!

「んくぅ!!?」

「なかなか勘がいいねえ。・・それにタフさ。この電圧で気を失わないたぁやっぱ能力者だなあ。大当たりってやつだね」

侵入してきた覆面男は、スタンガンの引き金を再度引いて香澄をのけ反らせると、羽交い絞めにしながら嬉しそうな声でそう言った。

げしっ!

ばきっ!

激痛に耐えながら香澄は、得意そうに言う男の足の甲を、かかとで踏み付け、痛みで前かがみになった男の顔面に、自分の後頭部を思い切り叩きつけたのだ。

「ってえ・・!このあまぁ」

覆面男は衝撃で玄関ドアにぶつかりながらも、一撃でノックアウトせず香澄にむかってそう言い注意深く距離を詰めてくる。

香澄も覆面男が怯んだ隙にリビングの中央まで戻って木刀をぶぅんと振り回すと、タイトスカートから足どころかブルーの下着が見えてしまうのも構わず、キッチンテーブルの天板に足を掛けると、隅っこまで一気に押し蹴った。

そして、木刀を十分振えるスペースをつくってから正眼に構え直す。

腰に撃たれた電撃が香澄の身体中を駆け巡っているが、今はそれどころではない。

ここはマンションの24階、覆面男に玄関を封鎖されているということは、目の前の覆面男を倒さなければ逃げることもできないということだ。

「残念。木刀を持った私に勝てる人なんかそういないわ。観念なさい?!」

しかし自分のスタイルにまで持ち込んだ香澄は、幾分ゆとりができたのか、覆面男に切っ先を向けたままゆっくり言い放つ。

覆面男も香澄が木刀を構えている雰囲気から香澄の実力を感じ取ったのか、それ以上近づけず、明らかに動揺しているのが覆面越しにも伝わってくる。

香澄のほうから覆面男にじりっと距離を詰めた時、、香澄の背後から更にもう一つの影が襲い掛かってきたのだ。

(っ?!二人いたの?!)

ぶぅん!がっ!

香澄は焦ったものの、空気の動きでそれを察知して、身体を翻して迫りくる一閃を木刀で撃ち落とす。

奥の脱衣所にすでに忍び込んでいたもう一人の覆面男が放った飛び蹴りを、木刀で撃ち落としたのだ。

二人となった覆面男から距離をとり、香澄は背中を取られないよう素早く移動し、和室とリビングを隔てる戸襖へ背中を預けて木刀を構え曲者二人を睨む。

「何が目的なの?!貴方たち程度が二人いても無駄よ!」

香澄は悪漢二人にそう毅然というも、内心は全力で気力を振り絞っていた。

それも当然で、いくら厳しい剣道の練習を重ねてきたとはいえ、こんな場面に出くわすことなど想定して普段すごしているわけではない。

香澄の心臓は緊張から早鐘のようにドキドキと鳴りっぱなしだ。

香澄の問いかけに覆面男たちは応えず、じりっじりっと間合いをはかるように少しずつ近づいてくる。

香澄も男たちがそのまま逃げ去ってくれるという淡い期待を捨て去り、覚悟を決めてゴクリと喉を鳴らす。

そして覚悟を決めた香澄は正眼から刃を平に倒し、どちらにも対応できるような構えになって腰を落とした。

腰を下げたときに、先ほどスタンガンで撃たれた腰が悲鳴を上げるが、治療は後だ。

すでに、ダメージを負っている香澄は、長期戦を避けるために、一気に香澄の方から打ち込むべき・・と思った時、背後の戸襖が外れ突如香澄の背にのしかかってきたのだ。

「きゃっ!?」

どしん!

和室に隠れていた3人目の覆面男が、戸襖ごと香澄の背中から押し倒したのだ。

「でかした!」

「ひゃっはー!」

床に戸襖ごとうつ伏せで倒れ込んだ香澄は、身を捩ろうとするも、次々と背中に背負っている戸襖に男たちが乗ってきて身動きが取れない。

「くっ!もう一人いたの?!ど、どきなさい!!お・・重い!!」

うつ伏せになりながらも諦めず立ち上がろうとするが、3人の男に背に乗られればそう簡単に動けるものではない。

香澄の必死の抵抗も空しく、50cmほどあるスタンガンの先端が、戸襖を突き破り無防備な香澄の身体に向かって突きあてられる。

香澄は自分が何をされるのかがわかり、顔を青くし、全身を強張らせ叫んだ。

「そんなっ!・・やっ!やめなさいっ・・・!!きゃあああああああああ!!」

叫びはすぐに悲痛な悲鳴へと変わる。

背中や腰、お尻といった無防備な個所に電極を青く光らせたスタンガンの先端が3本も襖を突き破り押し付けられ、ばちんっ!ばちんっ!と何度も引金を引かれはじめたのだ。

「ああああっ!!いやああ!!きゃああああ!!」

ばちんっ!ばちんっ!ばちんっ!・・

「こいつまだ気を失わねえのかよ。けっこうな強化系なのかもな。不意打ちじゃなきゃあぶねえところだったのかもだぜ。くわばらくわばら」

「叫べ叫べ。このマンションしっかりした防音でたすかるぜ・・。・・しかしよぉ、へへっ、コレはコレでおもしれえな」

「ひひひっ、ここか?ここが痛えのか?ひひひっ、ひひひっ!」

ばちんっ!ばちんっ!ばちんっ!・・

香澄の背にある戸襖の上に3人がかりで乗っている覆面男たちは、スタンガンを香澄の背やヒップがある当たりに見当をつけ、スタンガンで襖を突き破り電極のついた先端を香澄に押し当てては引金を引いているのだ。

「いやっ!!もうおねがい!!あああくぅ!!!降りてえ!もうやめてっ!!いやっ!もうっ!!だからっ!・・ああぅ!・・や・・やめてっ!!・・きゃあああああ!!」

ばちん!ばちんっ!ばちんっ!・・・

「まだ意識があるみてえだなぁ」

「ひひひっ。ここか?こここがケツだろ?ええ?左右交互で最後は真ん中のインターバルだ。ひひひっ」

「くあ・・っ・・!も・・きゃぁあ!!もう抵抗しない・・からっ!!・・やめっ・・てえええ!!・・・っ・・!!・・・・っ!・・・ぁぁ・・」

背中や首筋や腰や太腿、特にヒップには執拗に何度もスタンガンを押し当てられ、戸襖の下で悲鳴を上げていた香澄は、男達の嗜虐心が満足するまで引金を引かれ続け、気を失うまで悲鳴をあげさせられたのだった。

【第10章 10話 賞金を賭けられた美女たち 10話 岩堀香澄VSゴミ男3名終わり】11話へ続く

第10章 10話 賞金を賭けられた美女たち 11話 雫と咲奈そしてモブの香澄救出作戦


第10章 賞金を賭けられた美女たち 11話 雫と咲奈そしてモブの香澄救出作戦

モブはマンション玄関のガラス戸の奥へと消えて行く香澄の後姿に見とれていた。

自分とは一回りも年齢の離れている、お堅いところもあるメガネ美人の先輩が背を向けていることをいいことに、遠慮なく香澄の整ったプロポーションに見とれていたのだ。

エレベーターホールのほうへ曲がるとき香澄は一瞬モブの方へ顔を向けて手を振ってきたので、モブはよこしまな視線が気付かれたのかと慌てたが、その心配はなく香澄は笑顔で手を振り終わると、そのまま奥へと消えて行った。

「はぁ・・部長って綺麗っすよね。・・いままで厳しいことも言われたっすけど、今日はすげえ優しかったっす。俺が落ち込んでたからわざと明るく接してくれたんすね・・。部長や支社長とあわよくば、やれたらいいななんて不謹慎なこと思って栗田先生に俺の残念な息子を、マーベラスなマグナムに改造してもらったっすけど・・。普通に可愛いっすよ部長・・。・・俺の新型、部長に使いてえっす・・。きっと気に入ってもらえるはずっす。部長も離婚したって言ってたし、俺も結婚してねえし問題ねえはずっす。・・俺にもチャンスがありゃいけるっす・・。ってでも部長って母ちゃんと同じ歳か・・・。いままで俺が付き合ったのって、大体年下か同い年までっすもんね・・・。最近、俺も周りに年上が増えたせいで、好みが変わってきたのかもしれねえっす。部長も支社長も菩薩モドキも暴力鬼もみんな俺より年上っすけど、みんな若い女にはないそれぞれ違った色気があるっす。そういやみんな独身っすね。てことは一晩共にするのは問題ねえっすよね。頭のよさや能力じゃ敵わねえっすけど、俺ベッドの上じゃみんなに貢献できるかもしれねえっす。あの人たちも男に抱かれて、気持ちよさそうな表情浮かべるんすよね・・。そう想像しただけでもたまんねえっす。って・・でも、母ちゃんと歳が似通った人たちにこんな気持ちになるなんて、なんか複雑っす」

そうぼやきながらも、モブは香澄だけではなく、配慮もできる大人な香澄と、その他、普段周囲にいる美人の才媛たちの容姿だけでなく人柄や生き方などに、徐々に惹かれだしていたのだ。

モブは普通に考えたらこれまでの自分なら話すどころか近づく事すら憚られる高嶺の花に邪な妄想を抱きながら、そろそろ帰ろうとし、マンションの入口にある自動販売機に向かって歩き出した。

小銭を入れ、すでに酔いは醒めているが、水のペットボトルを指すボタンを押したとき、そんなモブの背中に声が掛けられる。

「・・こんなところで何してるのよ?」

突然背後からどこかで聞いたことのある声色を掛けられた声にモブは咄嗟に振りかえる。

部長がまた降りてきてくれたのかと、淡い期待を寄せるも、声色が全く違う。

それに掛けられた声には、些か批判的な棘が含まれていたのだが、振り返った時、モブはその含まれた棘の理由がわかった。

「やめなよ。雫」

「いいから・・きっちり言っておかないとおさまんないわ・・!」

振り返ったモブの前には、二人の若い女性がいた。

雫と呼ばれた黒髪ショートストレートの女性と、その黒髪ショートの雫と呼ばれた女性を、窘めるようにしている亜麻色ロングの女性がいたのだ。

若い女性といっても、モブより年上であり、宮川コーポレーション関西支社所属の雨宮雫と楠木咲奈であった。

「お・・ぅ」

モブはこんな場所で意外な二人組に声を掛けられたことに、上手く返事ができなかった。

それも当然で、つい数か月前まで木島の根城であるオルガノというマンションで、目の前の二人の美女を監禁し、見張りをしていたのがモブだったからだ。

「おぅ、じゃないわよ、おぅじゃ。ちゃんと喋りなさいよ。バカなだけじゃなく言語障害なの?!なんでこんなところにいるのって聞いてるのよ!このくず野郎」

亜麻色ロングの咲奈が心配そうに止めようとするも、黒髪ショートストレートの雫の目は吊り上がっている。

「い・・いや。部長を家まで送っただけっす・・。」

「見てたから知ってるわよ!そんなことじゃなくて、なんでアンタなんかがここにいるのかって言ってるのよ!・・なんで・・アンタみたいなクズが秘書主任なんかに選ばれたのよ・・!私たちにあんなことした奴らの仲間だったくせに!」

モブもこの二人のことは良く覚えている。

非難されるのも仕方ないとモブも理解している。

二人は木島と木島の部下であったアレンに犯されたのだから。

そのとき、モブ自身が二人に手を出してないとはいえ、木島一味の下っ端として咲奈と雫が逃げないよう見張りをしていたのだ。

「すんまんせんっす・・」

モブには大きな体を小さく縮めて頭を下げるぐらいしかできなかった。

「・・・出て行きなさいよ!」

「え・・?」

頭を上げると、目に涙を溜めた雫がモブを睨みつけていた。

出て行けと言われた意味が、モブにも分かったがこれほどまでに嫌われているということと、目の前ではっきりと言われたことに、デカい図体ながらも二十歳になったばかりの青年の心には深く突き刺さったのだ。

モブのしていたことは確かに許されることではない。

以前のモブなら逆切れしていたかもしれない。

しかしモブも、この数か月の出来事と接する人間たちの影響で少しは成長していた。

それに、やっと就職の決まったことを喜んでくれた母親を落胆させるわけにはいかないという思いが込み上げてくる。

そんなモブにできることはもはや限られていた。

「すんませんっす」

その場に膝を付き、モブは二人に再び頭を下げた。

「すんませんじゃないわよ!すんませんで済まないでしょうが?アンタのしたことは・・!・・出て行きなさいよ宮コーから!あんたが主任たちや支社長の周りでちょろちょろ動き回って、バカ顔をしてるのを見るたびにこっちはイライラするのよ!今日だって私たちは呼ばれなかったのに、なんでアンタは呼ばれるのよ・・!・・・アンタが秘書主任だなんて・・・・認めないわ!」

完全に涙目になった雫は悔しそうに言い放つ。

「ほんますんませんでしったっす」

二人の女性の前で土下座しているモブは、重ねてそう言うのがやっとだった。

モブは反省しているなどというセリフは目の前の二人には吐くことなどできなかった。

被害者からすれば加害者に反省してほしいなどと望んでいないのは、低学歴のモブでも理解できる。

被害者が加害者に求めているのは厳格な罰のみだ。

被害者にとって加害者の反省など何の価値もない。

「反省してます」とは加害者の心を慰める為だけの加害者側にとって都合のいい方便なだけだ。

「っ!・・でてけ!出て行きなさいよ!宮コーから・・!」

マンションの入口付近で行われている異様な出来事に、マンションに出入りする人々の視線が3人に、特に土下座しているモブに突き刺さるが、モブは頭を上げない。

上げられなかった。

10分。それ以上たったかもしれない。

「・・雫。もう行こうよ・・」

ようやく咲奈が口を開く。

咲奈も雫を窘めているものの、モブのことを許していないのは、その目に現れていた。

実は咲奈も雫も、あの事件から少し出世し待遇が良くなっていた。

そのため、このマンションの一室を社宅として与えられているようになっており、モブと香澄がマンションへ二人で帰って来たのをちょうど目撃したところだったのだ。

雫も咲奈も、最初モブと香澄が一緒に歩いているのを発見したが、無視して自分たちの部屋に戻ろうとしたのだ。

しかし、雫はどうしてもモブにたいして抑えきれない感情が爆発し、自販機で水を買っていたモブに詰め寄った次第である。

「・・・ふん・・。あんたみたいなチンピラが宮コーの秘書主任だなんて・・!信じられない!」

雫は土下座しているモブにそう吐き捨てると踵を返した。

モブはようやく頭を上げて、去っていく雫と咲奈の背中にもう一度頭を下げた。

その時である。

モブの横目に信じられないモノが一瞬だが映ったのだ。

「冗談だろ?!」

モブの突然上げた声に、雫と咲奈も振り返る。

振り返った雫が、再びキッと目を釣りあげてモブに詰め寄る。

「何が冗談よ!」

「い・・いや、違うっす!いま・・!」

「何が違うのよ!」

モブが頭を下げた時に、マンションの非常口すぐに止まっていた白いワンボックスカーに覆面をした男たちが乗りこみ、一人は確かにぐったりとした香澄らしき人物を肩に担いでスライドドアを開け、車の中に投げ込んだのだのが見えたのだ。

「くっ!まずい!このままじゃ逃げられちまう!」

ばたんっ!とドアを閉めたワンボックスカーはすでにエンジンは付けられていたようで、ギャギャギャッ!とタイヤとアスファルトが摩擦する音を響かせて、マンションの駐車場を勢いよく横切りだす。

「え!?なに?!」

咲奈と雫も突然急発進したワンボックスカーを訝り、雫も詰め寄っていたモブから走り去ろうとしている車へと視線を移してそう言った。

「くそ!部長が・・!」

「なに?どういうこと?!」

駐車場を爆走し、公道に飛び出そうとしかけているワンボックスカーに、モブは慌てた様子で周囲を物色しながら、聞いてくる雫の質問に応える。

「岩堀部長が攫われたっす!いくら強化した俺の足でも車に追いつけねえ!・・どうすりゃ・・!くそ!車なんてもってねえっすよ!」

「部長って岩堀部長?!なんでよ!なんで攫われたのよ!?」

「そんなのわかんねえっすよ!」

雫の更なる疑問にモブも苛立った声で返したとき、咲奈が二人にむかって大声で呼んだ。

「二人とも!追いかけるわよ?!はやく乗って!!」

そう言った咲奈は、がぉん!!!とエンジン音を鳴り響かせたスポーツカーに乗っていたのだ。

咲奈が乗っているディープブルーのオープンカーには大きな三又銛のエンブレムが刻まれている。

「ひゅ~!マセラティかよ!おとなしそうな顔に似合わねえっすけど、良い趣味してるっす。頼むっす!!」

咲奈の大人しそうで上品な顔立ちと、車の好みのギャップに驚きながらも、モブはそのオープンカー飛び込む。

「似合わないってなによ!文句があるなら走ってきなさいよ!」

「もうっ!そいつも乗せて行くの?!」

普段とは違う強い口調で咲奈が乗り込んできたモブに言い放ち、そして雫も不満そうな声をあげながら車に乗り込む。

「しょうがないわ!」

咲奈がそう言ったその瞬間、ギャギャギャギャ!!!と急発進した三又銛のオープンカーは、咲奈、モブ、雫の3人を乗せ、白いワンボックスカー目掛けで爆走しだす。

「しっかり掴まってて!」

ハンドルを握る咲奈の表情には、先ほどまで雫の背に隠れ気味になり、雫を引き留めようとしていた表情はない。

「咲奈!!咲奈っ?!大丈夫よね?!熱くなりすぎないでね!!」

「ええ!!まかせといて!!」

雫のセリフにモブは不安になるも、当の咲奈は意に介した様子もなく、頼れるいい声で返事を返してくる。

モブの不安を他所に、咲奈は華麗なハンドルさばきで、ドリフトを決め公道へと飛び出し、ギアをガコッガコッ!と入れなおしてアクセルペダルを水平まで踏み抜く。

がおおおおおおおおん!

「上手え・・!これなら追いつけるっす!俺も運転にゃ自信あるけどこりゃすげえっす!」

車の性能の差は歴然で、けっこう離されていた距離がみるみる縮まり、追っている白いワンボックスカーの姿が近づいてくる。

「岩堀部長って・・ついこないだ入社した不動産部の部長さんでしょ?!」

「そうっす!」

「なんで狙われてるのか心当たりある?!」

「ぜんぜんわかんねえっす・・!」

風をきり激走するなか雫はモブに再度聞きなおすも、今のところ攫われる理由は本当によくわからないようだ。

以前攫われたことのある雫や咲奈も当人たちが原因で攫われた訳ではないのだ。

このモブや攫われている岩堀部長も身に覚えのないことなのかもしれない。

そう思った雫は、前を走るワンボックスカーを睨んでいるモブの横顔を見てその質問をするのを止める。

「・・とにかく、いまは手伝ってあげるわよ・・」

「・・・恩にきるっす・・」

あんなにモブを非難していた雫のセリフにモブは驚いた。

そしてモブが素直に感謝の言葉をかえし終わったころには、ワンボックスカーのすぐ隣に並走していた。

「止まれ!うちの社員を攫ってくなんていい度胸ね!そんなことさせないわよ!!」

猛スピードのオープンカーから、咲奈は亜麻色の髪を靡かせ、普段のおっとりとした見た目と声とは、全く違う勇ましい様子で、ワンボックスカーを運転している覆面男に怒鳴ったのだ。

咲奈も雫も自分が攫われた経験から、攫われた女性がどんな目にあうかを、身をもって知っているのである。

一刻も早く助け出さなければならない。

できれば、敵のアジトに連れていかれる前にだ。

そうすれば、少なくとも決定的な辱めは受けにくい。

車の中で受ける辱めならまだマシだ。

せいぜい身体中を触りまくられるぐらいで済むかもしれない。

咲奈も雫もそれがよく解っていたし、もう二度とあんな目にもあいたくなかった。

それに、あんな思いを他の女性にしてもらいたくなかった。

それが部署こそ違うとはいえ、誉れ高き宮コーの同僚というならば猶更である。

2人とも、宮コーの社員である事には本当に誇りをもっており、宮コーの社員であるがために、あのような目にあったというのにも関わらず、その誇りだけは今も変わらず否、あの時に自分を信じられない強さで助けてくれた加奈子や直属の上司の麻里、そして立場をわきまえず自ら率先して助けに来てくれた佐恵子など上役の女性たちの温かさ、そしてそんな女性になりたいという気持ちは一層強くなり宮コーの同僚には今や家族のような思いもあった。

その気持ちの変化があったからこそ、本来なら2~3発はぶんなぐって然るべきモブすら、そうせずに今こうして車に同乗させているのである。

そしてモブはともかく、同じ女性社員である岩堀部長がさらわれた。もう二度と自分たちのような思いをする女性社員を出したくない。その思いがあったから、こんな突然の事件にも咄嗟に反応できたのだ。

「止まれっつってんでしょうが!」

ハンドルを握った咲奈の口調が、攫われた女性が辿る運命を想像してしまったようで先ほどより荒くなっている。

並走されだしたことで、覆面男は明らかに動揺した素振りを見せ、慌ててアクセルを踏むも、V8エンジン搭載で最大出力460ps、最大トルク520Nmを誇る咲奈の愛車が、薄汚れた型落ち中古のワンボックスカーに引き離すパワーなどあるはずがない。

「無駄無駄!逃がさないわよ!?」

そう言って咲奈はアクセルを踏みハンドルを操作して、破れかぶれで体当たりしてくるワンボックスカーを華麗なハンドルさばきで躱す。

走行車や対向車の間すり抜け、2台のカーチェイスが続く。

「止まる気ないわね・・・!」

暫く走って咲奈が焦れたように呟く。

咲奈は雫に目を向けるも、雫は首をぶんぶんと激しく横に振る。

咲奈の視線には「運転を代われる?」という意味があったのだが、雫は運転のほうはからっきしなので慌てて首を振って拒絶したのである。

「なんか手があるっすか?運転俺でよかったらかわるっすよ?」

雫と咲奈のやり取りで、咲奈の言わんとしていることを感じ取ったモブが咲奈に提案する。

「・・・キミ・・運転イケる口なの?」

「ああ。まかせとけっす!」

咲奈のワイルドな口調での質問にモブは自信たっぷりに即答する。

モブのセリフと表情をじっと見た咲奈は、ふっと笑うと頷いた。

「いいわ。ただし私の愛車にキズつけたらタダじゃおかないからね?」

「上等っす!」

モブの返答をきいた咲奈は笑顔で頷くと、ハンドルを離し運転席のシートと、運転席側のドアの上に足を乗せ、車の上に立ちあがる。

そしてモブは咲奈が座っていたシートにすかさず滑り込みハンドルを握る。

「OK!すげえ馬力っすけど問題ねえっす!」

咲奈からモブへと運転がかわったが、モブのドライビングテクニックも咲奈に引けを取らない。

「やるわね」

咲奈がモブを見下ろしそう賞賛するも、すぐに視線を目標へと移す。

「ちょっと乱暴だけど仕方ないわ。雫!援護して!?」

「ええ、わかってるわ!安心して!」

咲奈が車の上で立ったまま、助手席に移動した雫に援護を要請し、雫も咲奈がしようとしていることを察して返事を返す。

「遥か先の追い風に乗り、軌跡を留めず吹き抜けろ。全ての雲を巻き、青い旋律となって舞い上がる力と成れ・・・」

「いけないっ!させないわ!」

がぁん!!

「きゃっ!?」

亜麻色髪を靡かせて運転席の上に仁王立ちとなり、胸の前で、印を結ぶようにしていた咲奈が紡ぎ終わり、技能を発動しようとした瞬間、ワンボックスカーの窓が開き拳銃が突き出されて火を噴いたのだ。

咲奈を狙って放たれた銃弾は、雫が咄嗟に発動した水玉に突っ込んだため、軌道が逸らされ咲奈には当たらなかったのだ。

銃声に驚き、技能の発現を中断させられて悲鳴を上げた咲奈は、身を屈めるように運転席の上でしゃがむ。

「うぉう!撃ってきやがったっす!ここ日本っすよ?!二人とも怪我はねえっすか?!」

「咲奈?!大丈夫よね?!当たってないわね?!私が【水玉】で銃弾を防ぐから撃っちゃって!」

モブと雫がそう言ってしゃがみこんだ咲奈を見上げる。

「うぉ!!」

モブは自分の席のシートと運転席側のドアに足をそれぞれ乗っけてしゃがんでいる咲奈のスカートの中を見上げた拍子に見てしまい慌てて顔を前に向ける。

「上見るな!」

がんっ!!

モブの頭に衝撃が走る。

「いてっ!」

「このスケベ!ちゃんと運転してなさい!」

ごりっ!

さらにモブの脇腹を鈍痛が襲う。

「おごっ!?・・は、はいっす!」

頭頂部を咲奈に小突かれ、脇腹を雫の拳に抉られたモブは苦悶の声をあげるも、素直に返事を返す。

(グリーンっす・・ありがとうございますっす)

モブが今日は災難なのか役得日なのかわかんねえっす。と思っている間に咲奈は再度技能発言の為に紡ごうと立ち上がる。

ワンボックスカーから突き出された拳銃から、銃弾が何発も放たれるも、そのすべてが雫の生み出した【水玉】にじゅぼっ!じゅぼっ!と絡めとられ速度を失って軌道を逸らされていく。

「咲奈!今のうちよ!あんな鉄砲なんか当てさせないから!」

「ありがとう雫!・・・遥か先の追い風に乗り、軌跡を留めず吹き抜けろ。全ての雲を巻き、青い旋律となって舞い上がる力と成れ・・・【疾風走波】!!」

ぐわぁ!!

紡ぎ終わった咲奈が両手を突き出し、ワンボックスカー目掛け青い風の塊となったオーラが唸りを上げ、ワンボックスカーに牙を剥く。

タイミングを見計らって放ったその風の塊は、ワンボックスカーに直撃し包み込むと、車体を空中に持ち上げ公道から弾き飛ばした。

「っくっ!?部長も乗ってるんっすよ?!それに歩道には通行人も!!」

ハンドルを切り、ききききっ!と車体を横滑りさせて路肩に停車させたモブも、吹き飛ばされたワンボックスカーが、高々と舞い上がり歩道に落下しだしたことに焦った声をあげる。

「心配いらないわ」

そう言ったのは雫であった。

「はあああ!」

咲奈は両手で風を操り、ワンボックスカーの落下の速度を緩めると車体を植栽の上へとゆっくり下ろし、タイヤが浮いて走行できないような状況にしてしまったのだ。

「マーベラス!ナイスすぎるっす!」

咲奈の技能と機転に、モブは親指を立てて再び上を向き笑顔を向けたところで咲奈に顔面を踏まれる。

がすっ!

「いでっ!」

「上を向かないでって言ったじゃないですか・・」

ハンドルから手を離した咲奈の口調は元に戻っていたものの、踏み付けの威力はかなりあったようでモブは悲鳴を上げて両手で顔面を抑える。

「二人ともまだよ!あいつ等まだ逃げる気だわ!」

雫の声で、ワンボックスカーのを方を見るとモブと咲奈のやり取りの間に、3人の覆面を付けた男たちがぐったりした女性を背負い車から飛び降り、路地裏へと駆けだしているところだった。

「追うっす!・・二人とも車出してくれてサンキュでしたっす!」

モブはオープンカーから飛び降り、二人に振り向きもせず覆面男たちを追って駆け出した。

「私たちも行きます!」

「ここまで来て帰るってわけにいかないでしょ?!」

そんなモブの背にそう言った咲奈と雫も、車から飛び降り駆け出しかけたところで、拡声器を使ったような大きな声が鳴り響く。

「おらあ!お前らなにやっとんじゃあ!止まらんかい!!」

雫が声の方に顔を向けると、そこにはスピード違反と信号無視で、公道を激走してきた自分たちを追ってきた警官たちがパトカーを止め、咲奈の愛車を囲みながら、逃げようしているように見えるモブたちに怒鳴っていたのであった。

「ど・・どうしよう・・」

「説明してる時間なんてないわ!」

咲奈と雫がそう言うも、先を行くモブも無線で先回りしていたのであろう警官たちに行く手を遮られて掴みかかられていた。

「はなせっ!逃げられちまうっすよ!人が攫われたんっす!!はやく追わねえと・・」

「あばれるなって!話はちゃんと聞いてやるから!」

モブも両脇を警官に羽交い絞めにされ、パトカーに乗せられようと連れていかれそうになっている。

「・・・しょうがねえ・・っす。こんなことで部長を見捨てることなんてできねえっす」

宮コーの社員として、警察の世話になり、大事になってしまうのを一瞬でも心配してしまったことにモブは激しく後悔し、両脇を掴んでいた警官の二人に見事な動きで当身を喰らさせ気絶させたのだ。

どさりと二人の警官がほぼ同時に崩れ落ちる。

モブは神妙な顔でやっちまったという表情を一瞬だけ浮かべたが、すぐに迷いのない顔になった。

「・・あんた・・」

モブの公務執行妨害を目の前でみた雫も、驚いた表情でそう言うもすぐに「よくやった」という表情になって頷いた。

「行くっす!」

「ええ!」

「アンタが仕切らないでよ!」

モブの掛け声に咲奈と雫もそれぞれ答えてモブに続く。

一瞬だけ足止めされてしまったが、まだ遠くには行ってないと思いたい3人は気絶した警官二人を飛び越え、背後から制止の警告をする警官たちを振り切り、覆面男たちが逃げていった路地裏へと駆けこんで行ったのであった。

【第10章 賞金を賭けられた美女たち 11話 雫と咲奈そしてモブの香澄救出作戦終わり】12話へ続く

第10章 12話 賞金を賭けられた美女たち 12話 賞金首岩堀香澄

第10章 12話 賞金を賭けられた美女たち 12話 賞金首岩堀香澄

「ずいぶん暴れられちまったけど上手くいったなぁ。まだ値は張らねえが、俺らがこれから育てるつーことで・・にひひ、腕がなるぜい」

覆面をした男の一人、清水光一はそう笑って得物を見下ろした。

ワンボックスカーの後部座席、フラットシートの上には、目を閉じぐったりとしたスーツ姿のアラサー眼鏡美人が仰向けに横たわっているのだ。

この眼鏡美人の思わぬ反撃で、清水の頬には青痣ができてしまっているが、覆面のせいで今は見えない。

清水は青痣になってしまっていることを知らず、香澄に後頭部をぶつけられた頬を痛そうにさすりながらも、捕えた得物の見目麗しさと、いま正にパンスト越しとはいえ、いやらしい手つきで揉むというよりは握るに近い所作で堪能している太腿の肉質に大いに満足していた。

「しっかし、3人がかりであんなに手こずるたぁ思わなかったなぁ。宮コーの能力者は伊達じゃねえってことだな。今後はもっと慎重にいかねえと危ねえかもしれねえ。・・・でも紅蓮クラスはともかく、このぐらいの強化能力者なら罠に嵌めたり、人数集めりゃなんとかなるってことだな。ちょっと手間取ったけどなんとかゲットできたし、今日からたっぷり可愛がって稼いでもらうとするかあ」

「はい!楽しみっすね・・。へへっ、こいつはどんな能力持ってんのかなぁ」

その満足そうな清水に合わせ、大山田も興奮した声で返事を返す。

大山田は紅蓮こと緋村紅音の能力を一欠片だが手に入れているのだ。

そのため大山田は、清水や金山よりも、能力を持つ女を犯す性犯罪に手を染める理由が増えているといえる。

犯せば犯すほど強くなれる【強奪】は、ゲス男大山田本人にとっては天啓かと思える能力だが、能力を持つ女性にとっては悪夢でしかない。

能力開花している女性達にとっての救いは、大山田が能力者としては未だにザコだというところだ。

しかし、それも積み重なればいずれは脅威と成り得る。

「あー、大山田ちゃんの能力なんかずるいよねえ。俺らより得しちゃってんじゃん・・。まあその分、分け前とか順番で差つけっからよろしくー」

「うっ・・は、はいっす」

清水のセリフに、大山田は馬鹿ながらも清水に逆らえば役得を得られなくなることぐらいはわかるようで、不承不承応えた。

できれば汚されてない新品の能力持ちの女を抱きたいが、清水と縁が切れれば能力を持つ女を狩るのは難しくなる。

そのあたりの女をしつこくストーキングして犯すだけなら、大山田だけでも訳もないことだが、大山田は知ってしまったのだ。

能力者女を犯すのは普通の女を犯すより数倍気持ちがいいということを・・。

そのうえ、【強奪】持ちの大山田が犯せば、その女の持つ能力も奪えてしまう。

大山田と犯された女の力の差が大きければ大きい程、強奪する割合が増えるということが、【強奪】を得た大山田には感覚として脳に伝わってきている。

よって大山田が強くなればなるほど、女から強奪できる能力の割合が増す。

大山田がより【強奪】能力を発揮する為には、能力開花している女を犯せばいいのだ。

今はまだ大山田の能力は、一般的な能力者やノラ能力者と比べてもまだまだ未熟である。

しかし、初手からトップクラスの能力者である紅蓮を犯したことで、一般人としてもクソ雑魚だった大山田の力は一気に開花し、そして大きく飛躍しているのだった。

それを身体と脳で実感できてしまっている大山田は、自分が何をしていけば強くなれるのかがよく解っていた。

【強奪】の強奪率は相手の力の1%~99%。

大山田が紅蓮から奪った力は、大山田と紅蓮の圧倒的な能力差のせいでたった1%である。

しかし、紅蓮の能力の大きさは膨大で、大山田は1%しか奪えなかったとはいえ、以前の自分の力とは、明らかに違い過ぎるパワーを自身に感じられるようになっていた。

小柄で華奢な体格の紅蓮こと緋村紅音であっても【肉体強化】を発現すれば、握力だけでも400kgを超える。

何のトレーニングもなく、いきなり握力が4kgも増えれば、いかに鈍感な大山田でも体感できてしまうほど違いは感じられる。

それが握力だけでなく、すべての筋力、そして聴力や視力、動体視力までもの能力値が上昇しているのだ。

その為、大山田は【強奪】を積み上げることで、最強を目指せる可能性すら感じ始めていた。

炎のような扱いが難しい能力は、ライターの火程度が発現できるほどしか奪えていないが、もともと紅蓮の発火能力の上限値をしらない大山田には、自分に発火適正が乏しいということは知る由もなかったのである。

しかし、紅蓮の【肉体強化】能力のほうは、普段から鍛えてもいなかっただらしない大山田のぶよぶよの身体にとって、効果てき面で分かりやすかったのだ。

「異存ないですよ清水さん・・」

バカな大山田でも、いまは清水に従っていたほうがいいというぐらいの計算はできた。

他人の精子で汚された女でも、大山田にとっては二つの意味でご馳走である。

そして清水達の女性能力者狩りのバイブルともなっている、会員制の動画投稿サイトで賞金首とされている女性能力者は一般女性と比べてもすこぶる美人比率が高い。

能力者という概念を最近知った大山田でも能力者女性は美人が多いのだと感じていた。

「わかってるねえ大山田ちゃん。話もまとまったところで得物もバッチリ捕まえたし、長居は無用!金山ちゃん!出しちゃってよ!」

「オーケー!」

大山田の返事に清水は上機嫌で返し、運転席の金山にそう言うと、金山は運転席から振り向かず返事を返してアクセルを踏みこんだ。

ぎゃぎゃぎゃぎゃ!

車が急発進し、マンションの駐車場内だというのに猛スピードで走りだす。。

「さてと」

未だに念のため覆面をしたままの清水はそう言って前菜ついでにパンスト越しに堪能した太ももの感触がまだ残る手を離し、香澄を眺め、今後のプランを整理するように香澄の太ももを揉んでいた手で顎をさする。

清水の考えるプランとは、香澄を凌辱する手順はもちろんのこと、いまだエントリーしたてで、賞金額の低い香澄の金額をいかに釣りあげていくかということも含まれている。

賞金額が1000万とまだ少ない獲物を、せっかくオークション前の賞金首をまんまと捕らえたのだ。

料理の手順を間違わないように注意しなければならない。

清水は、捕えた香澄の痴態を小出しにして、世界の牝能力者陥落動画サイトにいるプロ変態たちを上手く誘導して、あわよくば賞金額を釣りあげる算段なのだ。

「やっぱり・・まずはとりあえず・・、いままでのノラ牝と同じように一発強制絶頂させっか。んで、その動画の反応でサイトの奴等がこの女の人気もわかるしな・・。いい声で鳴いたり、反応が変態受けする牝であることに期待!」

清水は好き勝手な希望を述べ、宮コーの新人能力者であるアラサー眼鏡こと岩堀香澄の料理法を、ある程度清水がパターンにしている凌辱正攻法に決定する。

「大山田ちゃん。SMホテルに着くまでに一発だけこの眼鏡ちゃん露出させながら逝かせっから。抵抗できないように、このインシュロックで縛り上げちまっちゃってよ。で、縛り終わったら無理やり起こしちゃおうか」

4車線の国道を法定速度の40kオーバーで爆走するワンボックスカーの中で、清水は大山田にそう言ってインシュロックの束を大山田に投げ渡した。

「うっす!ひひひっ、楽しみっすね。ホテルに着くまでオレのがたちっぱなしっすよ」

大山田は能力者持ち女を犯すのが目的ではあるが、単純に好色家でもある。

そのため目的である【強奪】発動に至るまでの過程も十分楽しめるのだ。

大山田は、薄気味悪い笑い声を上げそう言いながら、清水に投げ渡された特殊繊維質のインシュロック束を受けとり、香澄の手首を後ろ手に縛り上げ、手早く次々とそれを肘まで幾つも付け縛っていく。

二人がせっせと香澄に取り付けている特殊繊維のインシュロックは、1本で耐荷重100kgもある。

その拘束具が香澄の手首から肘にかけて20本以上。

清水が下半身を担当し、足首から膝までで30本以上巻き付けられる。

すなわち腕には2t、足には3tの荷重に耐える拘束が施されてしまったのだ。

さすがに清水はノラとはいえ能力者の端くれを長くやっている男なのだ。

能力者持ち女を何度も襲って犯したことがある犯罪のプロである。

それゆえに、女の能力者が【肉体強化】して発現できる膂力の上限をある程度経験で知っているのだ。

清水達が手にかけてきた多くの女性ノラ能力者には、スポーツ選手や格闘家も少なからずいたのである。

そんな彼女たちは無意識に【肉体強化】を使っているのだが、瞬間的にその力を発揮できてもせいぜい1t程度の者達がほとんどであるということを清水達は経験としてわかってた。

香澄自身もまだ知りえていないことだが、香澄の【肉体強化】で発揮できる膂力の上限は、清水の目算通り今のところせいぜい1t程度だったので、香澄一人ではもはやどうやっても逃れえない状況にされてしまったのである。

「へへへっ、できたぜっと」

ものの2分も立たない間に、タイトスカートから伸びるしなやかな脚を膝下から足首にかけてギチギチに拘束し終わった清水は、香澄の熟れた太腿をパチンと叩き、満足そうに言った。

「こっちも完了っす。ひひひっ、こいつ自力じゃもう動けねえっすね」

好色な口調でそう言った大山田によって、香澄の手首から肘にかけては、ブラウスの上から同じく特殊繊維のインシュロックが厳しく施されてしまっていた。

拘束しやすいようにうつ伏せにされていた香澄は、大山田に肩を、清水に足を持たれてごろりと仰向けに無理やり返される。

「うぅ・・」

手足をインシュロックでギッチギチに拘束された香澄は、気を失ったまま不自由な格好でうっすら口を開き、艶めかしい声をあげて呻いた。

香澄は気を失いながらも、腕と足が自由に動かせなくなったことからか、微かな呻きを上げただけで目は覚めない。

しかし、大山田は清水の目配せを受けると、茶色の小瓶をポケットから取り出し、いまだ気を失って目を閉じている香澄の鼻先に、ピンセットで摘まんだガーゼを小瓶のなかの液体で湿らせてから押し付けたのだ。

「うっ!?あくっ?!なっ?いやっ!・・な、なに??!なんなの?!うくっ!」

香澄は突然襲った刺激臭に、堪らず強制的に意識を取り戻させられて鼻に押し付けられているモノを払おうと手を動かそうとするも身を捩らせただけである。

高濃度のアンモニアを嗅がされたのだ。

「おはよう。香澄ちゃん」

覆面をしたままの清水にそう言われた香澄は、一瞬どういう状況かわからず狼狽したが、すぐに先ほどの男だと気づき、覆面をした清水から距離をとろうと後ずさる。

しかし、後ずさるどころか全くまともに手足を動かすこともできなかったことに、焦った香澄は、内心の不安を見透かされないように、足元にいる清水と、自分の頭を膝で挟んで座るようにしている大山田を睨んで声を荒げた。

「貴方たち・・!こんなことしてどういうつもりなのよ!!?」

しかし手も足もギッチギチに拘束されたままでは、香澄の怒声も効果は乏しい。

「元気いいねえ。その調子でしばらくは頼むよ?・・よいしょっと・・」

きっ!と清水を睨んでそう言い放った香澄の膝の上に、清水は香澄の怒声など意に介す様子もなくそう言ってお尻を下ろして座り込む。

「ひひひっ」

同じく香澄の腕を抑えていた大山田も、清水の意図を察して、香澄の腕をまっすぐ頭の上に伸ばして、香澄の腕の上にケツを下ろして座り込んだのだ。

香澄は両腕両脚を拘束されたままピーンと伸ばした状態で、仰向けの格好で両腕と両脚の上に座られてしまったのだ。

「な・・なにを?」

香澄は極力平静を装い、顔に恐怖や不安が現れないように顔の装いを固くして、自分の脚の上に座っている清水に問いかけた。

「何をする気って?そりゃ・・アンタみたいなエロい身体した女攫ってやることっつったらさあ・・エロいことにきまってるでしょ?」

そう言って笑った清水は、後ろに隠し持っていた電気マッサージ器を手で持ち上げて香澄からよく見えるように上げて見せた。

「うっ・・!それを私に?・・ああっ!!?っく!」

生真面目な香澄でも、その器具が本来の使用目的以外で使われることぐらいは知っていた。

そしてその威力も・・。

香澄が拒絶の声をあげる前に、清水は振動音響かせ小刻みに震えているヘッド部分を香澄の股間に押し付けてきたのだ。

膝と肘の上に体重を掛けられている香澄は、電マが与えてくる甘美な刺激にビクンと腰を跳ね上げてしまう。

「へっへー、さすが熟れてるだけあっていきなりいい反応じゃない。香澄ちゃんもしかして溜まってた?」

「何をいってるのよ?!あ、貴方たち!いったいどういうつもり?!こ・・こんなことをして・・きゃっ!?あっ!!」


清水は香澄の抗議を聞き流し、閉じられた香澄の脚の付け根に電気マッサージ器のヘッドをグリグリと押し付けてくる。

「うぅっ!」

(な・・なんで・・こんなに・・すぐ、ここ最近忙しくて何もなかったから・・なの?!・・でも、こんなもので・・いいようにやられてたまるものですか!)

スカートの中に突っ込まれたヘッドが、パンストとショーツの上からとはいえ、しばらくそういった行為から遠ざかっていた香澄の陰核に、快感という刺激を即座に与えてくる。

「ひひひっ、そっこーで感じてやがるこの女」

伸ばした腕のヒジを敷くように座った覆面を付けた大山田は、下卑た笑いを上げて香澄の反応を嘲る。

その声に香澄はキッと視線を上に向けると、目の前にはスマホのレンズが向けられていた。

「えっ?・・やっ・・!やめなさい!撮るなんて!!」

「ひひひっ、いい顔してやがる」

香澄は撮られていると気づいて、レンズから顔を背けようとするも、自分の両腕で頭を挟み込むようにさせられている上、両肘は頭の上で大山田に尻に敷かれているのだ。

「っく・・ううぅ!」

股間に絶え間なく与えられる刺激で、表情が崩れそうになるのを必死に我慢しながら香澄は、悔しそうな声をあげる。

「やっ!?・・ちょっ!ああっくっ・・・うぅっ!」

「にひひ、可愛い水色・・。濡れちゃうとよくわかる色だねえ」

顔の間近に向けられているレンズに気を取られていた香澄だったが、電マを突っ込まれているスカートが清水によって捲られたのだ。

パンスト越しとはいえ、香澄の履いている薄い水色のショーツが露わになる。

感じまいと貝殻を閉じるようにして足を閉じ刺激に耐えている香澄は、自分のショーツを男たちに見られてしまったこと、膝の上に座っている清水にもビデオカメラを向けられていることに驚いたのだ。

「そ、そっちも?!だめよ!撮らないで!」

「撮る撮る。撮らないでどうするのさ。そんなに腰引いちゃって可愛いねえ。そうしないと感じ過ぎちゃうのバレバレだよ?」

香澄の拒絶の言葉を無視して、清水が香澄のスカートをたくしあげ、薄いベージュのパンストに包まれた、淡い水色のショーツ目掛け、電マのヘッドを支える部分が曲がるほど押し付けてくる。

ヴヴヴヴヴヴヴヴッ!

「うぁ!や・・やめなさい!こんなことしてなんの・・つもり・っ!?きゃっ!?」

ヴヴッヴヴヴヴウウヴィ!ブブブウブブッ!

「へへっ。お前いい感じだなあ。嫌がりながらも気持ちいいのが我慢できないタイプだな。ほら、もっと楽しめよ?」

感度の良さそうな香澄の反応に気をよくした清水はそう言いながら、香澄の腰を持ち上げて、香澄のヒップの下にクッションを敷き込んでしまう。

香澄は足と手をピーンと伸ばしたまま固定された上、ヒップの下に敷かれたクッションのせいで、腰を引けなくなり清水の方へ突き出すようにさせられてしまったのだ。

「あああっ!だめ!」

香澄はとっさに焦った声をだしてしまう。

ヴヴヴヴヴヴ!

脚をきつく閉じているとはいえ突き出した股間に、電マが再び押し付けられる。

「あああっっく!!」

香澄は脳まで突き抜けてくる甘い振動に目をきつく閉じ、頤をばっ!と上げ大山田が構えるレンズに感じた顔を差し向けてしまう。

「ひひひっ。感じた顔接写だぜ」

「こいついいねえ」

「っっ!っっ!!んんっ!!」

普段のSEXでも感じた顔をパートナーには見せず、枕やシーツで顔を隠していた香澄だったが、いまやそれすら許されず、玩具で感じさせられた顔を隠すこともできずにいた。

せめて声だけでもと、感じ始めた声を漏らさずにしているが、その我慢している努力や表情すら男達のオカズになってしまう。

しかし、インシュロックを何十個も付けられている香澄にそれ以外にできることはない。

大山田は下卑て勝ち誇った嘲笑をあげ、清水も満足そうな感嘆上げた時、香澄を乗せたワンボックスカーが一気に加速し、そしてすぐに急な横揺れをして清水達を慌てさせる。

「おいおいおーい!安全運転でたのむよぉ~?いまいいところなんだぜ?」

遠心力に耐えながら金山に言った清水だったが、金山がスピードを出しハンドルを切った理由はすぐに分かった。

「くそっ。避けやがった・・。おい、そっちはお楽しみみてーだが、追ってきやがるやつらがいる」

金山が焦った声をあげて清水に援護を求めるよな声をあげる。

「ふりきっちゃってよ!だいぶこの車も手加えてるからさ!こっちも手が離せないところさあ!」

「くそっ!あとでおぼえてろ!」

「きっちりふりきっちゃって!」

清水は金山にそう言うも、追ってきているディープブルーのオープンカーはスモーク越しのバックウィンドウからみるみる追いついてくるのがよく見える。

「くそっ!クソ速え!」

「ちょっと手が離せねえんだわ。動画も撮っちゃってるしな。そっちはなんとかしちゃってよ!」

金山が焦るのを通り越した苛立った声をあげるが、清水と大山田は感じ始めた香澄に夢中だ。

香澄は悪漢たちの様子に気付き、首だけ起こして、ワンボックスカーのバックガラスから外を覗き見る。

そこにはスモーク越しで色はよくわからないが、いかにも外車ですという感じの派手なオープンカーがすぐ後ろまで迫ってきており、モブと見慣れない二人の若い女性が乗っていたのだ。

「茂部くん!」

「なにっ?!」

香澄の上げた声に驚いた声をあげたのは、覆面を付けたままの大山田である。

香澄に正体がバレないよう、清水や金山たちもお互いの名前を呼び合わないように注意している。

大山田も当然気を付けているのだが、モブが追いかけてきたことにはつい声をあげてしまったのだ。

清水が大山田に対して、口を滑らすな!と目で言ってくるのが大山田には伝わってきた。

「こっちはつづけちゃうよ?頑張ってふりきちゃって!」

「ああ!・・そのかわりそいつ犯すときゃ1番にやらせてもらうからな!」

清水の指示に金山も条件を付けて返事を返す。

「くぅ!!」

香澄はスモーク越しに見えるモブの姿を認めながら、股間に電マを押し当てられ感じさせられている異常な状況に余計に感じ始めてしまっていた。

(茂部くんが・・助けに来てくれたんだわ・・。でもあんな年下の後輩が近くにきているのに、私こんなモノで甚振られてる感じさせられてる・・!なさけないわ・・!)

ヴィヴィヴィヴィッヴィイヴィ!

「ああっ!・・くぅ」

相変わらず顔も、股間側からもレンズで隙なく撮影されている香澄は、助けが来ているというのにもかかわらず、いや、近くに顔見知りが来てくれたせいで余計に感じてしまい、昇る速度が上がり始め出してしまっていた。

ヴィヴィヴィヴィヴィチッヴィチッ!ヴィヴィチッ!

電マの振動にも水音を跳ね上げさせる音が混じりはじめてしまい、香澄は出来るだけ声を我慢するも羞恥で顔を染め始める。

「おっ!?香澄ちゃん。感じやすそうなのに頑張ったけどこうなったらもう我慢できないねえ?」

バリバリバリバリッ!

そう言った清水は、香澄の下半身を包んでいるベージュのパンストを乱暴に引き裂いたのだ。

「きゃっ!?」

いきなりのことに驚いた香澄は思わず悲鳴を上げてしまう。

破られたパンストを確認しようとしたとき、清水が、引き裂かれたパンストから覗く、露わになった豊かに上質な肉質をアピールするかのように揺れる白い2本の太ももの中心部の股間にレンズを向けているのが目に飛び込んできた。

「へへっ。・・・・香澄ちゃん。濡れちゃってるねえ。パンツに地図書いちゃってるじゃない。はははっ。必死で我慢してる顔してたのにさ。こっちは全然我慢できなかったんだねえ?」

「ひひひっ、無理やり当てられた電マで、顔も知らねえ男に感じてなっさけねえ女!欲求不満なんだろ?ええ?」

「くっ!」

(ほんとに濡らしちゃったの・?!でも・・ああ・・下着を汚すほど濡らしちゃうなんて・・!・・ずっと遠ざかっていたから身体が反応しちゃったんだわ・・!こんな奴等に・・・!!く・・くやしいい!!)

男達のセリフに香澄は悔しそうに顔を背けるも、その僅かな身じろぎすら許されず、大山田に頭を鷲掴みにされ顔の正面にレンズを向けられる。

さて香澄ちゃん。逝きたくなったらちゃんと言うんだよ?おじさん優しいから言えばちゃんと逝かせてあげるからね?」

「ひひひっ!おまえこっからが本番なんだぜ?恥のかき時の始まりってやつだ」

再び香澄の股間に押し当てられた電マヘッドが、下着越しに陰核を虐めだす。

「っ!!?」

再開した刺激に香澄はかろうじてもれそうになる声を我慢できた。

しかし、すでに昇りだした快感は香澄の意思に反して止まる様子はない。

ヴィチッヴィチッヴィチッヴィチッヴィチッヴィチッ!

「ひひひっ、情けねえなあ」

ヒップに敷かれたクッションのせいで腰を引き、快感を弱めることもできない。

ヴィチッヴィチッヴィチッヴィチッヴィチッヴィチッ!

「ぜんっぜん逃げられねえだろ?」

上下の男たちに、腕と足をがっちり抑えられ上下から撮影されている。

ヴィチッヴィチッヴィチッヴィチッヴィチッヴィチッ!

「いい顔だぜ。バレてないつもりなのか?おまえが感じまくってるのはバレバレなんだぜ?ひひひっ」

昇りだし感じている顔を隠すこともできない。

「ふっ・・ぅ!っ・・・!ん!」

(だ・・だめ!このままじゃ・・逝っちゃう!!)

異常な状態に頭が真っ白になりだし、ニヤついた男たちに嘲りと、罵声を浴びせられながらも成す術なく電マで逝かされてしまうと覚悟した香澄は、羞恥の瞬間の顔をせめてできるだけ背けようとしたが無理だったので目をきつく閉じてやり過ごそうと身構える。

その時である。

股間をがっつり捉えていた振動が止んだのだ。

「・・ぇ?」

真っ赤な顔でじっとり汗ばんだ顔を起こし、股間の方をみると再び電マが押し当てられた。

ヴィチッヴィチッヴィチッヴィチッヴィチッヴィチッ!

「あくっ!!?ああん!」

我慢していた声が漏れてしまう。

「へへへっ、簡単には逝かせないよ香澄ちゃん?ホテルに着いたらいっぱつ逝かせてあげるから、それまでは寸止めさ。おじさん寸止めするのプロ級だから絶対逝かせないよ?・・もっとも逝かせてくださいってちゃんとお願いできたら逝かせてあげてもいいんだよ?」

「ひひひっ、地獄だっつったろ?ひひひひひっ」

「こ・・この・・!っっっ!!く!!」

清水と大山田のセリフに香澄は二人を交互に睨んで批判を飛ばそうとするも言葉にならなかった。

すぐに絶頂がそこまで迫っていたからである。

逝く!

そう思った瞬間に股間に与えられていた刺激がパっ無くなり、2秒後に再開される。

「っ!!??ちょ!?・・あくぅ!」

い、逝く!!

そう思った瞬間に股間に与えられていた刺激がパっとなくなり、2秒後に再開される。

「あぐっ!?っくあ!なにを?・・ああ!!」

逝くぅ!!

そう思った瞬間に股間に与えられていた刺激がパっとなくなり、2秒後に再開される。

「嫌ぁ!!こんなの嫌ぁ!」

逝っちゃぅう!!

そう思った瞬間に股間に与えられていた刺激がパっと無くなり、2秒後に再開される。

「ああっ!やっ!やめっ!!やめてぇ!!」

逝っくぅ!!

そう思った瞬間に股間に与えられていた刺激がパっとなくなり、2秒後に再開される。

「だめっ!だめ!」

ダメ逝く!!

そう思った瞬間に股間に与えられていた刺激がパっとなくなり、2秒後に再開される。

「やめて!やめなさいっ!」

逝く!!逝っちゃう!!

そう思った瞬間に股間に与えられていた刺激がパっとなくなり、2秒後に再開される。

「やめて!やめて!もやめて!きゃああああ!」

逝くぅ!!!ダメえ逝くぅ!!

そう思った瞬間に股間に与えられていた刺激がパっとなくなり、2秒後に再開される。

「も・・もう!もうだめ!止めてえ!ダメよ!」

ダメ!逝っちゃう!

そう思った瞬間に股間に与えられていた刺激がパっとなくなり、2秒後に再開される。

「あああああっ!!」

声を我慢していたことも忘れ、香澄が寸止め地獄のループに嵌って絶叫し出す。

「いいねえいいねえ!香澄ちゃん人気出るよ!ツラもいいし声もデカいし感度もいいし、反応も申し分なし!」

「ひーひひひっ!まだまだホテルまで長いぜぇ?!まだ30分は寸止め地獄だあ!顔も真っ赤で部屋で木刀構えてた時の面影なんてありゃしねえ。牝なんて一皮剥きゃアへ顔で喚き散らし出すもんだなあ!」

「あくっ!!あああっ!やめっ!!やめええ!!」

電マ2秒インターバル地獄真っ最中の香澄には、男達のセリフはまともに聞こえていなかった。

清水が自分で言うように、清水の電マさばきは見事で香澄を決して昇らせず、そして決して降ろさせず甚振り始めたのだ。

レンズを向けられ、動きも制限されたまま、汗だくになって股間からも牝の匂いは車中に発し、香澄は逝かされず弄ばれ痴態を録画されていく。

逝けず止まずのゾーンに入った香澄は、2秒インタターバル地獄で、オルガズムに達することなく清水の電マさばきから逃げられなくなって甚振られつづけた。

そして、その寸止め地獄が10分ほど続けられたとき、運転席で一人奮闘していた金山が怒声を上げた。

「やろお!しつこい奴等だぜ!!」

がぁん!!

怒声と銃声が鳴り響くのはほぼ同時だった。

「お、おい!!撃つな!!」

「うるせー!撃ち殺してやる!」

清水らしからぬ険しい声での制止に金山は清水の声を上回る怒声を吐き、車外で並走しているオープンカーに拳銃の照準を合わせ再びトリガーを引いている。

「おいおい!熱くなんなって!」

清水の声は金山には最早届いていないようで、引金を何度も引き続けている。

「だめだ・・こいつ熱くなったら聞きゃしねえ・・」

清水は金山を止めるのは諦め、香澄の膝に座ったままひとまず香澄の寸止め地獄責めを中断し、オープンカーに乗る3人に目を向ける。

オープンカーを運転している男は華麗なハンドルさばきで、金山が寄せる体当たりを躱しぴったりとこちらと並走し、運転席の上に立った髪の長い女は、どうやら何かを発動しようと紡いでいる真っ最中だ。

そして、金山の撃った銃弾を黒髪の女が発現させたであろう大きな水の塊がとらえ、威力を削いでしまっているのだ。

「はぁ?!こいつら全員・・くっそ!洒落にならんじゃん!こいつら全員宮コーの能力者か・・!?・・やべえやべえやべえ・・!!くそっ!!」

追われているのを知りながら、金山一人に対処を任し、香澄を甚振ることに熱中しすぎたことを清水は今更ながら後悔して吐き捨てた。

その時、清水達が乗っているワンボックスカーにどっ!!と衝撃が押し当り、車中にあるもの全てが宙に浮く。

清水達も例外ではない。

頭や身体を車内の天井で強打し、そしていきなり無重力になる。

「ぐおっ・・?!」

「痛てっ!!?」

「おああああっ!!」

「きゃ!!」

車内にいる4人はめいめい悲鳴をあげ、身体をあちこちぶつけ身を丸くする。

車が上空に投げ出されたと分かった清水は落下に備え身構えたが、その心配はなかった。

車がゆっくりと歩道にある植栽の上に降り始めたからだ。

「ちっ!あのまま地面に叩きつけりゃ俺たちをやれたかもしれねえってのに・・!俺らを捕える気か・・!そうはさせねえ・・!」

清水はゆっくり落下する車内の窓から、両手をこちらにむけ車体をコントロールするようにしている女に向かって鋭く舌打ちして吐き捨てた。

「おい!ダッシュでずらかるぞ!その女担げ!ぜったい連れて帰るぞ!?」

清水は清水らしからぬ様子で形振りかまわず叫んで指示したことに、頭を打って起き上がり掛けた大山田はびくっとした表情になったが、慌ててぐったりとした香澄を抱きおこす。

いまの清水には普段のチャラチャラした雰囲気はない。

「心配すんな!その女、手足縛ってたせいで思い切り頭打ってやがった。たぶん気うしなったみたいだからよ。そのほうが都合がいい・・。わかったら、とっとと逃げるぞ?!あんな奴等に捕まったら終わりだ!急げ!!?」

「了解っす!」

「お・・おう!」

清水の慌てた怒声に、大山田は香澄を担ぎ、金山も熱くなりすぎていたのを反省したようすで返事を返す。

そして清水は覆面がきちんとかぶれているか確認すると、勢いよくスライドドアを開け一目散に路地裏へと駆けだす。

弥次馬の通行人たちを突き飛ばしながら、二人も清水へと続き路地裏に駆け込んだのであった。

【第10章 12話 賞金を賭けられた美女たち 12話 賞金首岩堀香澄終わり】13話へ続く


第10章  賞金を賭けられた美女たち 13話 ダメ男の模範とそれを克服した男

第10章  賞金を賭けられた美女たち 13話 ダメ男の模範それを克服した男


「まてー!ごらぁ!逃げても無駄だぞ!」

後ろからクソ生意気な声が聞こえてくるが、常に冷静沈着なオレは振り返って言い返したりはしない。

そんなことをすれば、いくら俊足と名高いこの俺でも追いつかれてしまう恐れがあるからだ。

身の程知らずにも俺様を追ってきている集団の先頭は、よく知る男、後輩のモブこと茂部天牙の野郎だ。

デカい図体を生かした力任せなことしかできない不器用なヤツだと思っていたが、細い路地裏に散乱しているゴミ箱などを華麗に飛び越えて、図体に似合わない俊足を見せ、徐々に距離を詰めてきやがりやがるのは、きっと俺の足の調子が悪いからだろう。

万全の状態なら、俺がモブなんかに後れを取るはずがない。

学生時代にタイマンしてやったときだって、あの日は朝から腹の調子が悪かったせいだ。

大山田種多可は本気でそう思っていた。

大山田は天才なのだ。

自分に都合の悪いことについて言い訳を考えることについてはだが・・。

何をやらせてもオールラウンドにできない人間ほど、言い訳を考える才能は素晴らしいのは、どのダメ人間にも共通する。

そして、ダメ人間だからこそ真実からかけ離れた結果を導き出すのであった。

モブの奴が俺らの店で見せた力・・、俺の能力とそっくりだった。

あんな奴でも能力者だってのか?

俺らの周りで、ほかに力を持ってる奴なんていなかったが、よりによってあんな野郎が・・、腕にガスボンベを仕込んでないとすると、あいつも火を使う能力者か?

ちっ、面白くねえ。

特別なのは俺だけで十分だってのによ。

まあ、モブが多少能力を持ってたって俺に敵うわきゃねえ。

そんなことあっていいわけねえんだ。

・・・あいつ一人だけで追ってきてやがるんなら、ギッタギタの返り討ちにしてやるところだが、卑怯にも3人がかりか・・。

逃げながら、後ろをチラりと振り返ると、モブだけでなくモブの後に続くショートストレートの黒髪と、亜麻色ロングの女もモブの後に続いて追ってきているのだ。

1人相手に3人たぁ男の風上にも置けねえなあ!なんであんな卑怯なクズ野郎が宮コーなんかに就職できてんだ・・?!あの会社の平均年収って1000万超えてんだろ?くそっ!面白くねえ!なんでこの大山田様って天才をスカウトしねえで、モブなんかに目付けてんだ?!どうせスカウトした奴も脳みそ空っぽだろ?!

大山田がそう罵ったとき、モブたちが追いかけっこをしている2kmほど東にある宮川コーポレーション関西支社内では、高嶺弥佳子にざっくりとショートカットに散髪されてしまった宮川佐恵子が鏡の前に座らされていた。

スタイリストたちによって、上場企業の重要なビジネスパーソンでもあり、宮コーの広告塔も兼ねている佐恵子の新たな髪型を提案し、希望や意見を求め、同意を促してきているが、いまだに首まで斬られてしまったかもしれないとショックを受け、呆然としている佐恵子は、大山田の罵りのせいなのか、突然盛大にくしゃみをしてしまっていた。

佐恵子の何の予備動作もないくしゃみのせいで、スタイリストが佐恵子の短くなった髪にあてがっていたハサミの刃が、佐恵子の髪を更に短くカットしてしまっていた。

生まれながらにして、才能に恵まれたお嬢様は唯一運には恵まれていないのだ。

裕福とはいえ家庭の環境、親族の不仲、生まれながらにして背負った境遇、男運など・・あまり恵まれているとは言い難いが、本人にはそれが普通だと思っていたのが救いである。

ふぁさぁ・・と案外大量に床に落ちた佐恵子の髪の毛を見たスタイリストは顔を青くして、頭を下げてくるも、急に動いたのは佐恵子なので強くも責められず、佐恵子は長年かけて腰までとどく見事な黒髪だったのが、いまや耳も隠せないほど短くなって鏡に映る自分の姿に涙目で怨めしそうに睨み、唇を噛んでいた。

そんな様子の佐恵子に加奈子がそわそわと世話を焼き、凪が慰めるように背中を撫で、真理が憂いの表情を顔に張り付けたまま、誰にも分らない程度でプルプルと小刻みに顔を震わせていた。

宮コー関西支社内で幹部たちがそれぞれ心境を揺さぶられているとは知らず、モブたちの路地裏チェイスと大山田の妄想肥大は続いている。

大山田は路地裏を右へ左と曲がり、なんとかモブたちを巻こうと全力で走っていた。

だいたい、みんな俺に対する接し方がなってねえ!親も世間も政治もみーんな俺をもっと賞賛しやがれってんだ!俺にたいする然るべき態度ってのがあんだろーがよ?!いかに俺が温厚で平和主義者だからっても、限度があらぁ!決めたぜ!これからは大山田様を舐めた態度の女は有無言わさず【強奪】してやる。男はみんな炎で消し炭にしてやるぜ!

と、出来もしないことを心の中で言う癖のある大山田は気分よく妄想に浸って追われているという現実逃避をはじめていた。

つい先ほど大の男3人がかりで、女一人に襲い掛かかり、後ろから不意打ちを決めた調本人かつ、無抵抗になった女に、スタンガンを20発以上撃ち込んだことを完全に棚上げして、思考能力微弱者特有の「都合の悪いことは何でもかんでも自分以外の何かのせい症候群」重症患者の大山田は脳内でお花畑満開の妄言を言うことによって、セルフ脳内麻薬を汁ダクに分泌しハイにキマっていた。

しかし、いくら脳内で自分は虎だと粋がってみても、リアルの大山田はひいき目に見てもネコに狩られるネズミである。

だいたい、能力者といっても今の大山田では一般女性一人を素手で犯すのも難しいし、いくら炎が使えると言っても人間一人を消し炭にするほど炎を発現するだけのオーラは、大山田をさかさまにして、雑巾のように絞ってもオーラの量が足りないのだ。

妄想で自分を慰め、幾分気分の良くなった大山田だったが、後ろを再度振り返った時、追いかけてくるモブとの距離が縮まっていることに驚愕した。

「くそっ!韋駄天の大山田様の足についてくるたぁ・・!・・さてはあいつ脚にもなにか仕込んでやがるな・・?!それにしても・・なんで全員俺を追っかけてくるんだ!?」

香澄を肩に背負い、覆面を被ったまま全速力で走っている大山田は、少ない脳みそを総動員しても、なぜ全員自分を追ってきているのかがわからなかった。

「ヒーローだからピンチが似合うのはわかるけどよ・・」

大山田は導き出した斜め下の結論を呟いてみるが、その結論は間違っているし、事態が好転することもない。

いくら紅蓮から【強奪】し、筋力や体力を向上させているとはいえ、気を失った女を一人担いだまま全力疾走するのは大変な重労働である。

そんな状況でもかなりの速度で走っている大山田はたしかに頑張っていると言えるが、そろそろ体力も限界である。

清水には途中でバラけて逃げることを提案され、そのほうが大山田自身も逃げ切りやすいと思って、清水のその提案に大賛成したのだが、全員が自分を追いかけてくるのは想定外だった。

女を担いでいれば、それを取り返そうと追いかけられるのは当然、という結論に達しないところが大山田のスゴいところである。

大山田は香澄を肩に担ぎながらも、能力者として目覚める前の自分とは比べ物にならないぐらい強化されている脚力を使い、全速力で走っているがその差はじりじりと縮まり、すぐ後ろを駆けてきているモブの足音がすぐ後ろで聞こえてきている。

くそっ!モブのくせに!!

もう真後ろまで迫ってきているモブの気配に大山田は大いに焦った。

そして、ついに逃げるのを諦め急ブレーキしそのまま後方に向かって短い脚を振り上げる。

がつんっ!

鈍い音が路地裏に響いた。

覆面をした大山田の顔面にモブの右ストレートが直撃したのだ。

大山田が振り向きざまに放った回し蹴りはモブの左腕で受け止められ、そのまま走ってきた勢いを乗せた右ストレートを顔面に叩き込まれたのだ。

モブは、香澄を担いだまま後ろに倒れようとした大山田の胸ぐらを掴んで支えると、香澄を右手で抱きかかえて、大山田をそのまま左足で蹴り飛ばした。

「ぐえっ!」

相当な勢いで蹴られた大山田は、お尻からアスファルトに路地に尻もちをつき、その勢いを殺しきれず二回転して雑居ビルの壁に後頭部を打ち付け無様な悲鳴を上げてようやく止まることができた。

「部長!部長?!大丈夫っすか?!」

「・・ぅ・・茂・・茂部くん?」

「怪我はないっすか?!部長!」

転げた大山田を無視し、モブは香澄を抱きかかえて無事を確かめるように声を掛ける。

モブに抱きかかえられた香澄は、うっすらと目を開けてモブを確認すると力なく笑顔を向けてくるのがやっとで、明らかにどこか怪我をしている様子である。

「どきなさい!」

ぐったりした香澄の様子に狼狽しているモブの後ろから雫が声をかけ、モブに抱きかかえられている香澄をゆっくりと受け取るように抱きかかえた。

「もう大丈夫ですよ。岩堀部長」

雫は香澄を抱きかかえて声をかけるが、香澄はまたもや意識を失ってしまったのだ。

「雫。どうなの?」

「外傷はほとんどないけどけっこうやられてるわ。・・きっとスタンガンね。こういうゴミ共が好んで使うってことは、スタンガンって使い勝手がいいのかもね・・」

かつて自分たちもスタンガンで襲われたことがある二人は、香澄の衰弱した様子を見て気が付くところがあったのだろう。

咲奈も雫もぎりっ!と歯ぎしりしながら地面にへたり込んでいる大山田を睨むが、香澄の治療が先決と思い至ったようで、香澄を雫の膝枕の上で、二人がかりで治療を施し出した。

「あんたはそいつふん縛っちゃって」

「了解っす。でも縛るもんなんてねえんで、動けなくなるまで殴るっすよ」

気を失った香澄を治療しながらそう言った雫に、モブも腕をぽきぽきと鳴らしながら応え、覆面をしたままの大山田に近づいていく。

「ひぃいい!」

背後はもうビルの壁なのでそれ以上後ずさりできないにもかかわらず、大山田はモブの雰囲気に怖じ気て無様な声をあげる。

そして、大山田はポケットからスマホを取り出し、何やら操作し出したのだ。

「今更無駄っすよ。仲間に連絡何てさせねえ」

ごきっ!

感情を感じさせないモブのセリフと同時に、鈍い音が響く。

大山田がスマホを握っていた左手の付け根あたりにモブの蹴りが刺さったのだ。

そして空中に舞った大山田のスマホをモブがキャッチする。

「ぐうううう!!うう!や・・やめてくれ!俺は下っ端なんだ!頼まれただけなんだ!見逃してくれ!この通りだ!」

モブの蹴りの激痛から、大山田は口から涎を垂らして土下座をし、必死で命乞いを始める。

「・・んん?頼まれりゃなんでもしていいってもんじゃねえっすよ。ってどっかで聞いたことある声っすね・・。まあいっか。連れ帰って支社長に見せりゃなんも隠すことなんてできやしねえからな」

モブがそう言って首を傾げながら、大山田が被っている覆面に手を掛けようと近づく。

「ちょっと!汚いわね!吐かさないでよ!そいつ連れて帰るったって、そんな汚いのを私の車に乗せないわよ?!」

その時、香澄を雫と一緒に治療している咲奈がマスクの口から血と涎を垂らしている大山田を見て不満をあげた。

普段おとなしい楠木咲奈という女性は、こと車のこととなると人格が変わるようであった・・。

「だ、だいじょうぶっすよ。あの高級車にはのせねえっす・・。暴力鬼・・いや、稲垣主任に連絡するんで、社の誰かに車寄越してもらうっす。稲垣主任にさっきの警察のこともお願いしなきゃいけねえっすしね。こんなつまんねえのをあんな車に乗せることねえっす」

モブが香澄を治療している咲奈の方へ向かってそう言った時、聞き慣れない声が聞こえた。

「まったく・・ね。つまらん仕事さ」

「ぼやいても仕方ない」

モブの左右から二つの声がしたのだ。

いったい何時からそこに居たのか、モブから5mほど離れた路地裏の壁に、それぞれ違う男がそこにはいた。

二人とも年のころは30前後だろうか。

見た目の服装や容姿は取り立てて目立つところはないが、二人が纏っている雰囲気は明らかに一般人のそれではない。

「えっ!?」

雫と咲奈もその二人の気配に声を掛けられるまで気づけなかったらしく、二人揃って驚きの声をあげて交互に二人の男に目を向けている。

「何もんだ?あんたら?」

モブも二人の気配に全く気づけなかったのだが、ヤンキーあがりのモブは、こういう時にこそ狼狽えて弱みをみせることが最も悪手であることを身に染みてわかっていた。

そのため、自分よりおそらく格上でしかも能力者であろう雰囲気を放っている二人の男に挟み撃ちされながらも、内心はともかく表情はやる気十分の気迫で言い返せたのだ。

「威勢のいいこって」

「めんどくさい。さっさと済ませよう」

二人の男はモブの問いには答えず、無防備ともいえる様子でモブとの間を詰め始めた。

肩をすくめ、気障に言ったダサい和柄のジャンパーを着た男と、そこまで背が高くないため、高級ブランド品ぽい黒いロングコートが絶望的に似合ってない男がモブを左右から挟み込む。

モブの体格や雰囲気からすれば、モブに凄まれればたいていの者はビビッてしまうだろう。

しかし、突如現れたダサい服装の二人の男たちはそんな様子を微塵も見せない。

(こりゃ・・やべえな)

モブはそう直感しながらも口と表情には出さず、視線だけを咲奈と雫に向けて「逃げろ」と目と表情で合図を送る。

「くくっ、身構えるなって」

そんなモブに気が付いたのか、和柄ジャンバーの方が短く苦笑して言った。

和柄ジャンバーの口元を抑え気障に笑う仕草にイラっとしながらも、モブは全身を伝う冷や汗を悟られないように、近づく二人を警戒し腰を落とす。

モブは、さっき逃げ出した覆面男の仲間が戻ってきたのかと一瞬思ったが、あの二人とは明らかに雰囲気が違うし、現れたダサい服装の二人は覆面すらしていない。

へたり込んでいるもう一人の覆面男、大山田に目を向けるが、その大山田も突如現れた二人の謎の男の様子に完全にきょどっている。

(こいつらの仲間じゃねえ?・・なんでじゃあこんなタイミングでこんな奴らが現れたんだ?今の俺じゃ手に負えねえ・・。今朝手合わせした凪の姐さんとじゃ、この二人はとても比べられねえけど、俺だと1対1でもたぶんこいつらに勝てねえ・・。さて・・どうするか。一人ぐらいは、って無理か。・・やられるにしてもせめて一発づつぐらいはぶん殴ってやらねえとな・・)

モブも苦手な思考を働かせるが、この男たちが現れた理由は皆目わからないので、考えるのをとっととやめ、どうやれば一矢報えるのかとできることに集中し頭を切り替えていた。

そして、横目で雫と咲奈が香澄を抱えてモブに頷き、去ろうとしているのを見てモブは笑顔で二人に頷き返す。

「お兄さんがた、どういう了見か知らねえが、やるなら相手になんぜ?」

格上と思われる能力者二人に対し、モブは平静を装い挑発して見せる。

モブが挑発をしたのは、負傷した香澄たちを無事逃がすため自分に注意を向ける為だ。

「生きてるな?・・よし」

「くっ?!」

しかしモブの心配をよそに二人の男は、へたり込んでいる覆面男の方に興味がある様だった。

黑ロングコート男の声が間近で聞こえたことに、モブは慌てて振り返ると、へたり込んで身を丸くして震えている大山田に向かって黒ロングコート男が声を掛けていたのだ。

「おい!そいつにゃ俺も用があるんだ。勝手なマネはしねえでもらおうか?!」

とモブが、黑ロングコートの肩に手を置いて振り向かせようとするが、モブの手は振り払われ振り向きざまに黒ロングコート男のボディブローがモブの腹部に突き刺さる。

が、モブのガードが寸前で間に合い男の拳の威力をなんとか打ち消せていた。

「へぇ?こいつ・・そこそこつかえるんだな?」

黒ロングコート男が驚いた表情のモブに、意外そうな様子とのんびりした口調でそう言ったのだ。

「ほっときましょう。面倒はごめんです」

モブの背後にいる和柄ジャンバーが自分の前髪を指でぐるぐるいじりながら気障なセリフで黒ロングコートにそう言う。

「・・だな」

黒ロングコートも和柄ジャンバーの意見に同意のようだ。

和柄ジャンバーと黒ロングコートはモブを警戒しつつも、へたり込んだ大山田のところまで近づいてきた。

そして、完全にきょどって自分を挟むようにして立っている男二人を交互に見上げている大山田の肩に二人は手を置き二人揃って呟いた。

「【転移】(ゲート)」

その瞬間モブの目の前で3人を黒い光が包み込み、光が霧散し出す。

「なんだ?!ゲートってなんだよ?!」

ゲートの意味が解らず、攻撃されると思ったモブは両手で光を防ぐようにして身構えてそう叫ぶが、光は徐々に輝きを失っていった。

「いねえ・・。どういうことだ・・?」

その光が消え去った後3人の姿はかき消えていたのだった。

「おい!お前!散々走らせやがって!!」

モブが一人放心していると、大声を上げ背後からモブの背中に体当たりをしてくる男がいた。

「っと!?」

モブが気配に気づき半身に身を捻って、男のタックルを躱すと、もう一人迫ってきた男がモブのスーツの襟首を持ち身体をすでに翻らせていた。

(背負い??速っ!?・・やべっ!)

油断していたとはいえ、モブの強化した身体能力に迫る速度でもう一人の男が背負い投げを仕掛けてきたのだ。

「くっ!」

咄嗟に腰を落とし、モブも中学生時代に少しかじった柔道技である裏投げで、背負いを返そうと男のスーツのズボンを掴む。

「やるな!」

必殺と確信していた会心の背負いを防がれた男は、悔しい表情ながらも何故か嬉しそうな声をあげて組みなおす。

モブと掴み合いながらも正面を向き、背負いを仕掛けてきた男はスーツ姿ながらも丸坊主で、先にタックルいや、たぶん諸手刈りという柔道技を仕掛けてきた男も同じく丸坊主であった。

「卓也気を付けろ!警官を二人一瞬でやったやつだ!」

「わかってる!今ので十分わかったぜ!こいつのヤバさは・・んん?・・君は?」

背負いを防がれたのが余程ショックだったのか、スーツに坊主頭の二人はモブのことを相当警戒しかけていたが、モブの顔を見て気が付いたようだ。

「おい君!さっきの仲間の女も身柄は確保してる!おとなしくしなさい!・・・って・・・あっ!君は宮川さんとこの?たしか・・茂部くんか?」

組み合ったままどうするべきかと迷っているモブに向かって、最初に諸手刈りを仕掛けてきた方の背の高い丸坊主がそう叫んだ。

二人の丸坊主男はモブの顔を見て気が付いたようだが、モブは気が付けない。

「いきなり襲い掛かってきて大人しくしなさい!って素直に言うこと聞けるか・・って!?さっきの仲間の女ってあの二人を?確保した??!それになんで俺の名を??!」

モブは咲奈と雫もこの男たちに捕まってしまったのかと慌てたが、スーツ姿の坊主男は、モブを振り払うと、みだれたジャケットとカッターシャツの襟を整え、内ポケットから黒い手帳を見せてきた。

「忘れたのか?刑事の粉川だ。ついこないだ一緒に食品工場に行っただろう?ほら、美佳帆さんたちと・・」

「同じく杉だ。暴走行為に公務執行妨害、それに傷害も加わるかな。とりあえず事情ぐらいは聞こうか?茂部君・・・。」

「おっさんたち・・・ああ!あの時の!刑事さん達っすか!」

モブもようやく、美佳帆、スノウ、佐恵子たちと寺野麗華の情報を探りに同行してもらった時の刑事たちだと気が付いた。

「ああ・・。さっき警官二人やっちまったの俺っす・・」

モブは大山田達を追う為に、大勢の通行人の前で制服を着た警官二人を当身で気絶させたことを思い出し、手のひらで顔を覆うようにして天を仰いだのである。

「おっさんって言われるほど年は食ってないはずだが・・まあ、そうだ。大人しくついてきなさい」

「・・それにしても宮コーの社員たる君が大変なことをしでかしたな?大事にならんようにしたいが、事によるぞ?」

「・・・しかたねえっす。あとで支社長か主任に連絡させてくださいっす」

杉と粉川に両脇を挟まれ、モブはパトカーまで連行されていったのだった。

【第10章  賞金を賭けられた美女たち 13話 ダメ男の模範とそれを克服した男 終わり】14話へ続く

第10章  賞金を賭けられた美女たち  14話  お嬢様と和尚様の情事

【第10章  賞金を賭けられた美女たち  14話  お嬢様と和尚様の情事】

自室の玄関ドアを開け、ぐったりと疲れた身体を引きずるようにして玄関に入りパンプスを脱ぐ。

普段は脱げば揃えるのだが、今日はそんな元気もない。

玄関のタイルには脱がれたパンプスが片方倒れたままだ。

閉まる玄関ドアの向こうで凪姉さまの姿が見えたが、今日は部屋まで入ってくる気は無いらしい。

凪姉さまが背を向け歩き去りだしたのが一瞬だけ隙間に見えて、扉に遮られ見えなくなる。

扉が閉まってしばらく佐恵子は遠ざかっていく最上凪の気配を探っていたが、凪の気配が十分遠ざかったのを確認すると大きくため息をついた。

「あ“ぁ”~・・・づがれだ・・・。あーー!つかれた!つかれた!凪姉さまもなんだかすごく口うるさくなって・・・!前はもっと優しかったですのに・・。それに、高嶺製薬の・・・!・・なんなのよあいつ!もう!・・なにがサービスしてあげたよ!あーもう!勝手に来て勝手になに勝手なことしてくれちゃってるの!」

一人になった佐恵子は、らしからぬ口調で不平を爆発させ、涙目で短くなった髪の毛を両手で触る。

人目のない自宅だからこそ、佐恵子は遠慮なく不平を大声で口にしているのだ。

スタイリストに整えてもらったが、あまりの短さを再度確認しようと、佐恵子は玄関に置いてある姿鏡の前まで膝立ちでにじり寄り鏡の正面に座る。

「うぅ・・。こんなことって・・」

失った髪を未練がましく思いながら、鏡に映る自分の姿を涙目で確認し、真理や凪に言われたセリフが思い出す。

「佐恵子。髪は残念・・。でも、そもそもあの攻撃には殺気が無かった。斬撃を飛ばすなんて芸当は物理的な刃じゃない。刃そのものがオーラ。オーラである以上強くオーラを纏っているモノにはダメージはとおりにくい。だから高嶺は佐恵子の身体じゃなく、オーラをほとんど纏っていない佐恵子の髪を狙った。私も佐恵子が怪我を負う可能性の高い剣圧による攻撃を防ぐことだけに専念した。アイツは最初から佐恵子を殺すつもりじゃなく、力を見せつけて揶揄っただけ。佐恵子の身体に直接斬撃を浴びせようとしても、私の力を知ってるアイツは私が阻止するのはわかってるだろうし、そんなの私が絶対に許さない。それに、あのサングラスも佐恵子の防御にまわってくれた。・・あの男、私の予想より強い。実はあの場面で余計な動きをされると困るから、あのサングラスを糸で少し拘束してた。それなのに数百本とはいえ、私の糸を破って、佐恵子を護ろうとしてくれた。・・あの糸を破るということはサングラスは相当な強さだし、なにより破った後、佐恵子を護ろうとした。あいつは佐恵子のパートナーとして見込みがある。・・・あのモブという男とは段違い。二人の男を迷ってるのかもしれないけど、選ぶなら断然サングラスにすべき。私はサングラスを推す。・・佐恵子なかなかいいセンス。サングラスで目元は見えないけど、顔立ちもなかなかの好み・・・。なんでもない。・・それより、佐恵子。髪のことはもう仕方ない。そんなことより宮川グループ次期総裁の立場の貴女はもっと堂々とすべき。そんな顔や態度は佐恵子に相応しくない」

「佐恵子。そんな態度じゃ社員たちの望まざる憶測を呼ぶわ。その髪のことは、関西支社長再任の所信表明の覚悟の表れとして発表することにするわね。・・・・・・プッ!」(あやうく笑いそうになっちゃうじゃない・・・。処女を奪われた生娘でもないでしょうに、佐恵子ったら、髪を切られたぐらいでなんて可愛い顔するの。私をキュン死にさせるつもりなの?髪を斬られて呆然自失の表情から、下唇を噛んであんなに悔しそうに涙溜めて・・・、ああ、佐恵子って本当におバカで可愛いわ。【未来予知】で見てたから敢えて止めなかったんだけど、大正解ね・・・。豊島さんも風俗嬢を指名するときにショートカット娘を指定してるぐらい、ショートカット大好きって情報があるし、落ち込んで帰った佐恵子が豊島さんに「ショートカット似合う」とか言われたら、佐恵子単純だから、その泣きそうな表情から、いきなり明るくなってまた私を楽しませてくれるはずよね。・・もう、わかりやすくて可愛いんだから・・!蜘蛛や菊沢部長という強いカードに護られて、私の【未来予知】でも守ってもらってるのを知ってる佐恵子だから、余裕綽々で高嶺を見てた表情からの落差が可愛すぎるわ。・・・公麿も【過去画念写】出来るようにならないかしら・・そしたら描写してもらって私の作ったネット掲示板に張り付けて癒しの一つにするのに・・。そうだわ・・公麿に、明日出社した佐恵子を描くようにお願いしとかなきゃ・・。きっと豊島さんに喜んでもらってホクホク顔で来てる佐恵子のおマヌケな顔をきっちり描いてもらっておかないとね・・・。私は高嶺弥佳子に同行しなくちゃいけなくなったから、ちゃんと公麿に言っておかないと・・・いまから興奮しちゃうわね)

あまりウジウジしていると凪や真理に、手厳しくたしなめられるし、佐恵子は社にいる間は何とか我慢していたうっぷんを吐き出したのであった。

凪は真摯に心配してくれているが、真理のほうは発言の10倍以上心の中で、ヨコシマなことを考えているのは佐恵子には知る由もない。

佐恵子を大事に思っているのは真理の本心ではあるが、佐恵子のことをいじって楽しんでいるのもまた本当なのだ。

もともと魔眼でも真理の心中は読まれにくかったのに、魔眼を常時発動できなくなった佐恵子に真理の心中を把握するのは難しいので、真理の脳内はいまや随分と本能に素直になっているのだった。

「髪ぐらいっていいますけど・・、あれじゃ高嶺に屈して要求を全部飲んだみたいじゃない。・・く・・屈辱ですわ・・あの女・・わたくしにこんなことを・・、ああぁ・・でも、菊沢部長も私の髪の毛のことなんかまったく気にした様子もなく、張慈円と決着をつけたい為にあの女の提案にノリノリでしたし・・・もう少しわたくしのこと心配してくださってもよかったのでは・・?!」

そう言った佐恵子はスリッパも履かず、玄関のところでへたり込んで突っ伏した格好になった。

哲司という恋人がいるというにも関わらず、宏に少しは気に掛けてもらいたいと思っている佐恵子は、宏の鈍感さを恨みがましそうに呟いた。

しかし、「宏恋慕愛好会(仮)」新参者の宮川佐恵子は、その程度の身悶えは宏を遠巻きに恋慕している女性たちにとっては序の口もいいところということを佐恵子はまだ知らない。

それにしても、今の佐恵子の格好は、財閥の令嬢で、巨大会社の一方面の全責任を負っている者とは思えない格好である。

膝を付き、頬を床に付けて手は膝のところまでダランと伸ばして、お尻を持ち上げた姿なのだ。

高い能力や強い精神力を持っていたとしても、佐恵子はまだ30歳にも満たない女である。

誰かに、優しくしてもらいたい時もあるし、甘えたい時もあるし、正直こんな重責を負う立場の家に生まれなければということも考えなかったわけでもない。

普段周囲の者には優しくしてもらっているはずだが、佐恵子のオフィシャルな立場に関する態度や振舞いについては、真理や凪は厳しいのだった。

仕事中は常に周囲の目に気を配り、立ち振る舞いや言動に注意を払っているぶんプライベートな空間に帰ってこれたことで、佐恵子の緊張の糸をだるんだるんに緩めているのだ。

「ううぅ・・、明日も仕事がてんこ盛りですわ・・。明日からは真理もいないし・・どうすれば・・。・・・とにかくシャワー浴びて何か口に入れたら休まないと・・・」

暫く廊下にお尻を突き上げたまま突っ伏していた佐恵子であったが、いつまでもそうしているわけにもいかず、そう言って顔を上げた。

その時部屋の奥の方から佐恵子の方を伺う気配に気が付いた。

「誰?!」

バッと身を起こし自室の奥、リビングの方からこちらを伺う気配に向けて佐恵子は誰何する。

「佐恵子さん・・?やっぱり佐恵子さんやな!なんや物音するからと思たら・・いつもよりだいぶ早いけど、帰ったんやな。おかえり佐恵子さん!」

リビングから覗く顔、そこには唯一合鍵を渡してある人物の顔があった。

「哲司さま!?」

佐恵子は警戒を解き、みだれた服装をいそいそと整え、やや乱れたジャケットの皺をのばし、ずり上がったタイトスカートの裾を直して哲司に向き直る。

「ああ昨日合鍵もろうたし佐恵子さんが仕事から帰ってくるんに合わせてご飯でもつくっとこう思てな・・って、佐恵子さん・・そんなことよりっ!・・俺の為にイメチェンしてくれたんか?!俺ショートがめちゃくちゃ好きって誰かに聞いたん?めっちゃええやん!似合っとるで!俺、佐恵子さんに髪切ったらもっとベッピンになると思うって言いたかったんやけど、佐恵子さんの長い髪もあまりにも綺麗やから言いにくかって遠慮してたんやけど・・・やっぱりショートええやんっ!っていうかこっちのが滅茶苦茶俺好みやって!・・・佐恵子さん今夜もはなさへんでっ!というか一生離さん!」

「え!・・ま・・まあ!」

そう言って抱き着いてくる哲司に佐恵子は驚き戸惑いつつも、大きな体に抱擁されるに任せてその背に手を回し、目を閉じる。

先ほどまで髪を切られて嘆いていたことも忘れ、真理の予想どおり、幸せいっぱいな気分に包まれる単純な佐恵子であった・・。

Sから戻ってきた昨晩、哲司とベッドで睦んだあと佐恵子は部屋の合鍵を渡していたのだ。

「そ・・そんな。ありがとうございます。そんなこと言われると・・、わたくし本気にしますわよ・・」

「もちろん本気にしてくれや。こんなええ女誰が手放すかい・・。もう俺のもんやで」

先ほどまで高嶺弥佳子に斬られて失った髪の毛と自尊心を嘆いていたが、恋人の一声で気分は180度変わってしまったのだから、いくら才媛の令嬢と言われていても、女の脳は子宮にあると言われているだけあって、佐恵子も例外ではなくその部分は単純であった。

「哲・・んっ!・・ん」

再度恋人の名を呼ぼうとするが、その恋人にきつく抱きしめられ、唇を唇で塞がれる。

そしてそのまま哲司が器用に佐恵子の上着のボタンを片手ではずし、ブラウスの上から控えめなバストをやや乱暴に下から持ち上げるように揉みしだく。

「んんっ・!」

「かわいいな。普段あんなに澄ました佐恵子さんでも、こんな女の顔になるんやもんな。・・昨日は明日早い言うとったから、遠慮したけど今日はもう寝かせへんで?腕ふるって作った料理よりさきに、佐恵子さん頂いてもええよな?」

「そんな・・折角のお料理が醒めてしまいますし、・・シャワーも浴びておりませんわ・・それに、明日も仕事がたくさんありまして・・今日のように早朝から出かけますから・・」

とろんと目を潤ませ、濡れた唇を僅かに開いて、軽い抵抗の建前を口にする佐恵子。

言葉の内容とは裏腹に、抵抗の説得力は皆無の表情である。

むしろ簡単に応じる軽い女だと思わせなくない女のメンドクサイ部分を覗かせてしまっているのだが、さすがに哲司は心が広い。

「何時から仕事なん?」

「5時には・・。加奈子にもその時間に来るようには伝えてますし・・」

「5時かぁ・・ほな4時まではベッドでおれるな」

「えっ!4時?!・・哲司さまそれではあまりにも・・!きゃっ!」

哲司は、佐恵子の建前の抵抗の防波堤を難なく突破し、佐恵子をお姫様抱っこにして部屋の奥へと歩き出す。

途中横切るリビングには哲司が調理した料理の数々が並んでいるが、それには目もくれず通り過ぎ、バスルームも過ぎ去って寝室の扉を開け、佐恵子をベッドにどさっと落とした。

「きゃっ・・。哲司さま!わたくしシャワーも浴びておりませんのよ?んっ!」

再び唇が塞がれる。

仰向けに倒された身体の上には、哲司の大きな体が覆いかぶさっている。

哲司はすでに上着を脱いでおり、ムキムキの上半身を佐恵子の身体に押し付けてくる。

「ああっ!シャワーを・・んっ!いけませんわ!わたくし今日は忙しくてたくさん汗を・・あんっ!」

「佐恵子さんの匂いなら金払うてでも嗅ぎたいいう男がぎょうさん居るはずやし問題あらへん。それに佐恵子さんの匂いごっつええ匂いなんやで?こんな匂い振りまきながら仕事しとったんかいな。花が虫を呼び寄せる習性と同じや」

そう言われてしまえば佐恵子も馬鹿正直に信じ、強張らせていた身体の力を解く。

腕を頭の上に持ち上げられ、ブラウス越しとはいえ脇が無防備になるが、哲司は首筋や脇にも顔を埋め、佐恵子の匂いを嗅ぎ、吐息で佐恵子を愛撫しだした。

「ああっ、哲司さま。いやんっ!」

佐恵子はみるみる服をはだけられ、時折口を塞がれながらも、あられもない姿にされてゆく。

「綺麗や。こんなきめ細かい肌やのに、普段やお堅いスーツ姿で、パンストも黒にして極力露出減らしてるん勿体ないわ」

すっかり裸にされてしまった佐恵子は、口数少なく赤らめた顔を俯かせて両手で胸を隠して、ベッドの上に座っている。

「わ・・わたくしだけ全裸ですわ・・」

「佐恵子さん、昨日は明日の朝早いから言うてたから遠慮したけど、やっぱり佐恵子さんみたいな女抱くんそんな配慮できへんわ。・・・今日からはたっぷり抱かせてもらうからな」

そう言うと哲司は、全裸で恥ずかしそうにしている佐恵子の肩に手を置き、再びベッドに倒し込む。

キングサイズのベッドの上で二人の男女がもつれ合う。

佐恵子が下に組み敷かれ、哲司が佐恵子の口、首、脇、胸に唇を這わす。

「あぁ・・うぅ・・部屋‥明るいですわ・・照明を・・消してくださいませ」

「佐恵子さん、どうせ暗うしても同じや。俺らは夜でもよう見える。知ってるやろ?」

左胸を揉まれながら、右の乳首を舌で転がされている佐恵子はそう言ったが、哲司の言い分はもっともだ。

見ようと思えば、暗闇でも大抵の能力者なら暗視できてしまう。

昨晩初めて佐恵子を抱いた哲司は、モゲが約束を果たし佐恵子が夜の営みの誘いを断らないようにしてくれたんのだと安心したが、昨晩の行為そのものは様子見であったのと、明朝早くに社に行かなければならないと言った佐恵子に配慮したのだ。

しかし、今日もそんなことを言われてももう我慢は出来なかった。

哲司は昨晩の佐恵子が満足にオルガズムに達していないことをわかっていた。

せっかく自分好みの極上の女を彼女にすることができたというのに、満足させられなかったということが、哲司のプライドに火をつけたのだ。

それだけに哲司は、いままで風俗嬢相手に培った技を使い、佐恵子を夜は完全に自分好みの女に教育していくと決めていたのである。

ましてや昨夜抱いた佐恵子とは、また別人と思えるほど今日の佐恵子は髪型が変わりより哲司好みにカスタマイズされているのだ。その経緯を知らない哲司には、気の利く才媛が哲司の好みを良く知る菊一の誰かから聞き出し、自分好みの髪型にカットしてきてくれたと思うのも無理はない。

そして元々胸は控えめが好みで、育ちの良さが普段の立ち振る舞いにも出てしまうような気品の女性が超ストライクゾーンであった哲司は髪まで自分好みになった佐恵子をまた初めて抱いた時以上に新鮮な気持ちで抱けると言う気持ちになり哲司史の中でも大げさではなく1番高揚した気持ちで我を忘れるくらい興奮していた。

「あんっ!いや!はずかしいですわ」

哲司の右手が佐恵子の白い太ももを割って入り、すでに潤った秘唇に触れたのだ。

キスと愛撫だけでぬるりと湿らせてしまっているのを知られた佐恵子は、恥ずかしそうに身を捩るが、今日は簡単には逃がしはしない。

佐恵子の右足首を掴み、左太ももを押し付ける。

「いや!哲司さま!あああっ!は・・はずかしすぎます!」

佐恵子は、仰向けに開脚させられ、明るいベッドルームで女の股間のすべてを露わにされたのだ。

手で股間を隠そうとする佐恵子であったが、右脚で佐恵子の左脚を抑えなおした哲司は佐恵子の両手首を掴んで言う。

「綺麗や佐恵子さん。・・・隠したらあかん。ええな?」

そう言われた佐恵子は、真っ赤な顔でおずおずと手をお腹のところまで戻し、股間に注がれる哲司の視線に耐える。

そして、堪らなくなったのか股間を隠すのは禁じられているので、両手で顔を隠すように覆ってしまった。

そんなことをしても、佐恵子の秘唇からわき出す透明の潤いは増すばかりである。

「佐恵子さん。・・・普段澄ましてるのに、こんなに濡らしてエッチやなあ」

哲司はそう言って、秘唇からあふれ出しそうになっている透明の液体を指ですくうと、すぐ上にある包皮を押しのけかけている突起物になすくりつけた。

「ひぁん!」

陰核を覆っている包皮の中を、陰核の外周をぐるりと回す感じで、愛液を擦り付けて陰核を刺激してやる。

「全部出たで?・・・財閥令嬢の勃起クリや。・・ははっ、パンパンになってるなあ」

哲司の指先の刺激によって、佐恵子の陰核は包皮を完全にめくりあげて主張している。

「い・・いゃ・・」

佐恵子は、顔を両手で覆ったまま、蚊の鳴くような声でそう言うのがやっとである。

視界を自ら塞いだ佐恵子の股間に、哲司が顔を近づける。

濡れた陰核と秘唇に、哲司の吐息があたっただけで、陰核はビクンと上下に反応し、陰唇はヒクッと震わせた。

(佐恵子さん・・息が触れるだけでこんな敏感やのに、昨日は一回も深く逝ってなかった様子や・・。性経験が少ない言うてたから、開発されとらんのかもしらん・・。まあそれでもええ。昨日挿入した感じやとめっちゃ料理し甲斐がある身体や・・。時間は今日だけやのうてたっぷりあるんや。佐恵子さん俺以外やとダメな身体にしてやるからな)

哲司は恥ずかしそうに顔を隠し、股間を露わにさせられてプルプルと羞恥に震え、恥ずかしい愛液を沸かせている佐恵子の陰核を唇で包んだ。

「あうっ!」

陰核を口で摘ままれた佐恵子は、背中をのけ反らし、脚を閉じようとするが、脚を閉じるのは哲司の両手が許さない。

股間に埋められた哲司の頭を佐恵子が両手で掴む。

哲司は両手を佐恵子の両足の下から、佐恵子の乳房まで這わし、陰核と両乳首を摘まんで責めてやる。

「ああっ!て・・つじ様ああ!こんなことっ!ああっ!」

佐恵子は太ももを閉じるが、すでに股間に埋められた哲司の頭で、それ以上閉じることはできない。

弱点の陰核は、哲司の口の前にあり、集中砲火から逃げることは最早できない。

そして、ふくらみの控えめなバストの先端で興奮を主張している、佐恵子のそれぞれの乳首を親指と人差し指で優しく摘まみ、こねくり回し、時には弾きもして、硬くさせている乳首を弄り倒す。

「ああっ!シャワーもあびてませ・・・んっ!のに!そんなところ・・舐められたらあっ!ああうう!」

チュパチュパと粘着質な水音をさせられては、更に佐恵子の秘唇から愛液が沸いてくる。

「だ・・だめ・・ですわ!」

ひと際佐恵子の背中が仰け反ると、軽く果ててしまったようだ。

ぜえぜえと息を荒くしている佐恵子を、哲司は佐恵子の足の間から眺めている。

(・・・逝ったは逝ったけど、一回目のクリ逝きやのにそんな深ないな・・。まだ照れがあるんやろか・・・?まあええ。昨日に続いて今日も佐恵子さん堪能させてもらおか。締め付けは極上やねんけど、俺の一物を受け入れるには、まだまだ浅いからな。この槌で俺好みに土木工事してやるからな佐恵子さん。今の佐恵子さんの膣やと、どんな小さい一物の男からでも精子搾り取ってまう名器やろうけどな・・・。俺でしか感じれんようなところまで開発してしまうからな)

一度軽くオルガズムに達した佐恵子の腰を掴むと、哲司は、愛撫はそこそこに切り上げ、開発工事に取り掛かる。

「て・・哲司さま・・。ああ・・来てくださいませ」

身体を開かされ、腰を掴まれた佐恵子は雄々しく反った哲司の一物を見て、潤んだ目で言う。

性経験の少ない佐恵子ではあるが、佐恵子からすれば哲司とのセックスは3度目である。

一度目は哲司のふりをしたモゲであったのだが、哲司やモゲクラスの一物のサイズを標準的なサイズだと佐恵子は思っている。

以前学生時代に、一度だけ関係を持った男性の一物のサイズなどとは比べ物にならない程大きい。

そんな佐恵子の女性器のサイズからすれば、とても受け入れられそうにもない哲司の一物があてがわれる。

たいていの女性ならその大きさに期待と不安が半々ぐらいにはなるのだろうが、佐恵子は良くも悪くも未経験過ぎた。

あてがわれた凶悪なサイズの一物を見て、目を潤ませ哲司に厚い眼差しを送っているのだ。

哲司は佐恵子が経験不足でそういう表情をしているのをわかっているが、あえて無視して腰を沈める。

どっちみち哲司の一物を受け入れてもらうしかないのだから。

ミチミチミチッ!

「あああああ!ああっ!!」

滑った膣口から愛液をこぼしながら、佐恵子にとっては大きすぎる哲司の一物を受け入れようと、潤滑油を更に溢れさせる。

「ああっ!哲司さま!哲司さまが入ってきましたわ!あああっ!」

佐恵子がそう口走るも、哲司の一物はいまようやく鬼頭が入った程度である。

口を大きく開け、好きな男に身体を使われているという満足感から、佐恵子は快楽以外の幸せを文字通り下の口で噛みしめてる。

「佐恵子さん。まだまだやで?」

哲司は慎重に腰を沈める。

「ああっん!かっ・・・っ・・ぅっ!・・」

佐恵子は口をパクパクさせて自身に侵入してきた哲司を堪能する。

未だに哲司はピストンをしていないというのに、佐恵子はモゲに施された浅いアクメしか感じられない呪詛に見舞われ、連続で浅いアクメをしまくっている。

白い肌はピンク色に染まり、普段自信に満ち蠱惑的な笑みで男性諸君を見下すようにしている佐恵子の普段の表情とは程遠い。

目を閉じ顔を紅潮させ、口をOの形にして、声らしい声をだせずパクパクとさせて、浅いアクメの波に翻弄されている。

(まだ半分も入ってないのに、佐恵子さんの奥に当たったな・・。まだ思い切り逝けてないみたいやな。しかしこのカズノコ天井を押しつぶし開発してしまえばこれまで感じた事など無い深い快感を与えてあげれるはずや・・・日にちをかけてやりたいのもやまやまやが今日の俺は興奮しすぎて容赦ないのも事実・・・というか最上の奥逝きを佐恵子さんに知ってもらい佐恵子さんの膣奥に哲マークの刻印を押してやるねん!どれ・・)

哲司は挿入した金剛が佐恵子の腹を内壁から抉るような角度になるように、佐恵子の腰を持ち上げる。

「きゃっ!!うっん!!」

まともにまだピストンもしていないというのに、佐恵子は釣り針に掛かった魚のように、哲司の金剛に膣のお腹側を突き上げられた可愛い悲鳴を上げる

そして、哲司はまだ敢えてピストンをせず、Gスポットと子宮口の両方を押しつぶすように、ゆっくりと鬼頭で、膣壁を擦り上げていく。

「ああああああああっ!あああああああんっ!」

哲司のいきりたった金剛はまだ半分ほどしか入っていないが、佐恵子の膣内はぎっちぎちに満たされて内壁を擦り上げられているのだ。

男性器の大きさなど関係ないよ。

というセリフを雑誌や女性の口からよく聞くが、そんなことは断じてない。そんなものは稚拙な恋愛と稚拙なSEXで淡いパステルカラーの幻想を抱きいざ現実を知ったらすぐに壊れるような薄い幼稚な関係しか築けない精神が未熟なもの同士の言い分である。

事実数をこなせば大きさ、形、硬さ、そしてテクニックはセックスに置いて物凄く重要である。数をこなしていくほどそれは顕著にわかるようになっていくのなのだ。

男女のそれらを総称して相性というのだが、セックスに関しては、動きが受け身にならざるえ得ない場面が多い女性より、男性の方がテクニックを要求されてしまうのは当然のことである。

そして、そのテクニックを使うにも獲物の長さや太さや硬さが重要となるのである。

哲司の得物の性能やテクニックは、SEXに関しては毎日5~8人も相手をしている百戦錬磨の風俗嬢を100%メロメロにしてしまうレベルである。

性経験の浅い佐恵子など、哲司に掛かられてはひとたまりもない。

そして、哲司はSEXに能力を使い、佐恵子は無防備でもある。

極めつけは、佐恵子と哲司の性器の相性は、哲司にとっては良すぎるのだ。

佐恵子の膣のサイズでは、哲司の獲物に太刀打ちは出来ない。

10cm弱の深さしかない膣では、20cm近い一物の前に蹂躙されるしかないのだ。

結果、哲司の一物は十分な余力を残し、佐恵子の最奥を抉りつくす。

「ああっ!て・・・哲司さまあ!わたくし・!何度ももう!果ててます・・わ!!ああんっ!」

浅いアクメで何度も身体を震わせている佐恵子はそう言うが、哲司は当然満足していない。

締め付けこそきついが、哲司の一物は半分程度しか佐恵子に刺さっていないのだ。

そのため、佐恵子が何度達しようが、哲司が達するのはまだまだ先だ。

逆に佐恵子は何度も昇天させられることになるが、哲司は佐恵子のオルガズムの浅さが不満だった。

(よっしゃ・・。佐恵子さんにほんまの女のオルガズムって言うんを教え込んだろ。まあ普段から自分を会社を厳しく律するような性格の佐恵子さんやさかい、それが普段から当たり前になり逝っても全開放というわけにはいきにくい感じに出来上がってしもてんやろうなぁ。でももう佐恵子さんももうすぐ三十路や、そろそろほんまもんの女の喜びを知ってもらわんとな。そしたらもっとSEXに応じてくれるようになるやろうし、なにより俺の一物が根本まで入るぐらいまでは最低開発せんとな)

「ああっ!ああああん!」

そんな哲司の思惑は知る由もなく、佐恵子は送り込まれてくる快感に、ベッドに行けば案外大きいその声を奏でっぱなしである。

哲司とのSEXに避妊具はつけていない。

それだけでも佐恵子の感度は相当に上がっている。

(わたくしと・・ああぅ!避妊具なしで・・こういうことを・・・!わたくしを孕ませても宮川に婿になるお覚悟がおありなのですね‥哲司さま・・・。私の通る茨の道を共に来てくださいますのね?!・ああっ・・!愛しておりますわ!)

生挿入という行為を男の覚悟の表れだと、超前向きにとらえている佐恵子は恥ずかしさから口には出せずにいたが、心中で吹っ切れた。

そんな考えでは、ゲス男にころりと騙されかねない世間知らずと言われても仕方ないのだが、ラッキーなことに佐恵子を抱いている哲司はゲス男ではなかった。

哲司はピストンすらせず、佐恵子の膣を反り返った金剛でおなか側に突き上げるようにしているだけで、佐恵子を昇天させた。

「ああっ!な・・なんですの?!こ、こんなにっ!?あああああああああっ!逝くっ!逝くぅう!!」

哲司の大きな背中に両手を回し、全力で受け入れようと脚も哲司の腰に絡みつかせ、佐恵子はいわゆる大好きホールドという形になると、モゲの呪詛を吹き飛ばす深いオルガズムに達することができたのであった。

そして余談ではあるが、ここ最近特に菊沢宏へ真っ当に、もしくは横恋慕的に心を浮つかせる女性が急増中(実は学生時代からそうなのだが)であり佐恵子も例に漏れずその1人であったが、佐恵子が幸せなのは宏とジャンルこそ違え同等の人格、能力を持つ男にその横恋慕をかき消してもらえる相手が恋人であるという事を本人もまだ気づいていなかった。

そんな宏菌に侵されかけていた世の多くの女性たちが宏を想い指や大人の玩具で慰めなければいけない夜を過ごすことに比べ、佐恵子は幸せにも恋人とのSEXで真なる深い性感の深淵を知り、裏では魔眼と恐れられるその眼球は絶頂を極める一般女性と同様白目を剥き掛け快感にたえ、荒れ狂うオルガズムの大波をなんとかやり過ごしたが、ポテンシャルのを半分しか発揮していない哲司の性行為における荒業は、再び佐恵子のモゲの呪詛から解放され性感の頂きを極めた膣をピストン無しでえぐり始めさらなる佐恵子暦における性感の頂きの新記録樹立に挑戦中し続けるのであった。


【第10章  賞金を賭けられた美女たち  14話  お嬢様と和尚様の情事終わり】

第10章  賞金を賭けられた美女たち 15話 クイーンホーネット&パウダースノウ

第10章  賞金を賭けられた美女たち 15話 クイーンホーネット&パウダースノウ

宮川佐恵子が髙峰弥佳子にショートカットにイメチェンをされた夜、佐恵子が哲司に心身ともに大きな慰めを施されていたころ、菊沢美佳帆はまだ宏と部屋を共にはできておらず、斉藤雪の部屋で過ごしていた。

本日は2人とも出勤していないので美佳帆は、宮コーの調査部部長代理に就く前の服装、カットソーの白のサマーニットにデニム地のホットパンツという美佳帆のもうトレードマークと言うべきかユニフォームのようになりつつある【らしい】服装でパソコンのモニターの前で座っていて、同じく今日は休暇であったこの部屋の主であるスノウこと斎藤雪も【らしい】薄幸の佳人のようなイメージの純白のオフショルダーのワンピースタイプの部屋着で過ごしていてこれまた美佳帆同様向かい合うもう1台のパソコンの前で座っていた。

美佳帆が本来戻るべき部屋の部屋主の菊沢宏はと言えば、自身の副官的存在の髙峰六刃仙筆頭千原奈津紀を接戦の末、経緯はどうあれ打ち倒した事に興味を持たれ、彼女に同行する流れとなりまだ部屋には戻っていなかった。

その連絡も電話ではなく、LINEで受けた美佳帆は同じくLINEで【了解。気を付けて行って来てね。】と返しただけで連絡はあるが本来電話ができない時に緊急連絡が必要な時にしかLINEをしなかった宏から、急な出張の連絡がLINEで来ることに美佳帆自身も少なからず宏との溝を感じていた。

そんな美佳帆が少し浮かない表情でパソコンのモニターを眺めながら、同じくパソコンの前に座っているスノウを眺め、

『こうして2人してパソコンを前にしているとあの頃を思い出すわね。』

と、普段の美佳帆の表情に戻り、ホットパンツから惜しみなく覗かせるこれまで幾人もの男性を魅了してきた脚を組み替えながらつぶやいた。

『あの頃って…あぁ…大学時代の‥‥』

と、スノウも顔を上げ正面にモニター越しに座る美佳帆に視線を合わせぼそりと呟いた。

『そうそう…あの頃はまさか私と同等の力を持つ天才ハッカー【パウダースノウ】が、自分と同じ大学に通う1回生の子だとは思わなかったわよ~』

と美香帆が懐かしそうにスノウから視線を外し遠くを見るように言うと、

『私もですよ。まさかあの尊敬する【クイーンホーネット】さんが大学の先輩だったなんて…』

2人が言う、パウダースノウにクイーンホーネットとは、今でもハッカーとして活動している斎藤雪に菊沢美佳帆のハッカーネームである。

斎藤雪と菊沢美佳帆は、ともに世界的に有名なハッカーであり斉藤雪は初めて菊沢宏と出会うきっかけとなった、北王子公麿を助けてもらうためにゲームセンターに宏と哲司に声をかけにいったあの中学1年生の時には既に高度なハッキング技術を有していた。

しかしその技術は小学5年生の中学受験生であった雪が、勉強の合間にネット上で当時、国内最強のハッカーと有名であったクイーンホーネットからチャットを通じて習った技術だったのだ。

そしてお互いがお互いを知らないまま、雪は大学入学時には本格的にパウダースノウと名乗りハッカーとしての活動を開始する。

そして雪が最初にした主な活動が、あの師匠でもあるクイーンホーネットが雪が入学した京都の国立大学の研究機密情報をハッキングしようとしている行為を阻止するという物だった。

クイーンホーネットこと美佳帆はこれまでも国内海外問わず、自分が興味を持ち見たい情報は、どんな機密情報であっても自由に閲覧してきたので、このパウダースノウというハッカーが自分が突破したファイアウォールを次々と上書きして防御することに最初はいら立ちを感じていたが、オリジナルのファイアウォールまで展開させてきたことに正直驚き尊敬の念すら抱き始めていた。

そしてそのサイバーバトルは、ハッカー界では今でも語り継がれている名勝負で、美佳帆はこのパウダースノウが展開するファイアウォールを突破するのは難しいと感じ、突破するふりを繰り返しながら同時に、このパウダースノウと名乗るハッカーがどこの誰だか知りたくなりパウダースノウの居場所を特定することを同時進行させたのだ。

そして、結果クイーンホーネットはパウダースノウの展開する防御を突破することが出来なかったのだが、パウダースノウの居場所は突き止めることに成功する。

そしてパウダースノウの居場所を突き止めたクイーンホーネットこと菊沢美佳帆は、

『えっ?これって…ここ?』

当時、遊び半分で大学の近くの京都市右京区にあるネットカフェからハッキングをかけていた美佳帆は、パウダースノウのIPアドレスを暴き出すと自分と同じネットカフェからであることに声をあげてしまったのだ。

そしてパウダースノウが座っている個室の席まで暴き出した美佳帆は、斎藤雪が座っていた個室の扉を開け、

『初めまして。パウダースノウさん。クイーンホーネットです。』

と笑顔で声をかける。

これが菊沢美佳帆と斎藤雪の出会いであった。

『あの時は心臓が停まると思いましたよ~。あの尊敬するクイーンホーネットのハッキングを邪魔してやったと喜んでいたらまさか私の居場所を特定され、しかもそこにクイーンホーネットが現れるし…』

スノウも当時の事を思い出しながら美佳帆にそう言った。

『でもここにクイーンホーネットとパウダースノウが存在するのだから…麗華の居場所や麗華の情報も掴めると思うの私たち2人なら。』

『そうですよね。私ももう少し視野を広げて色々と探ってみます。』

そして今日1日かけて美佳帆と雪は麗華に繋がると思われる情報を表から裏から洗いなおしていて今に至るのだが、再度作業を再開した美佳帆と雪はある怪しいサイトを見つける。

『ねえねえっ!スノウ!ちょっとこれ見て!何!?何なのこれ!?』

『えっ?何ですか?』

そう言いスノウは自分の座っていた端末の前の椅子から組んでいた細い脚を戻して立ち上がり美佳帆の隣に寄ってくる。

『こっこれは・・・!?』

『運営元は公開されていないも、おそらくは香港三合会の1つだと思われるわ。こんなAV女優でもない一般の能力者の女性の痴態がこのような高額で求められているって気分が悪くなっちゃったわよ。』

スノウは美佳帆が見るように即した女性の痴態の動画や画像がさらされているサイトにくぎ付けとなり、美佳帆の脇からマウスを取り画面をスクロールさせていく。

『あっ…美佳帆さんこれ‥私や美佳帆さんや…千尋ちゃんにアリサちゃんまで…あっ!麗華ちゃんも…宮川支社長や稲垣さんや神田川さんとか…みんな賞金がかけられていますね…しかも凄い金額…』

『えっ?あっホントだねっ…私たち思わぬところで有名人になっていたってことね…香澄さんまで…それにさとちゃん(菊沢美里)も…凄い金額…この10億の賞金が賭けられている高峰弥佳子って高峰の総帥かしら?高峰らしき剣士の女性も軒並み凄い金額ね。やっぱりこのサイトと麗華が行方不明になり、記憶を失っている事と何か関係があるのかも?スノウもこのサイトの利用者や運営元や関係者らしき怪しい人たちをとりあえず当たってくれる。私ももうしばらくこのサイトに結び付きそうな所を当たってみるわ。』

『わかりました…しかしこのサイト…私たちが能力者と知っている人からの情報提供が無ければ賞金もかからないわけですよね。情報元はどこなのでしょう?それも気になるので調べてみます。』

『そうね…そうしましょう…それとこのサイトに関してはもう少し詳しくわかるまで2人だけの秘密という事にしていてね。他のみんなも今はそれどころではないし、確かな裏が取れるまでは当面は私たち2人でウェブ上のみで調べていきましょう。』

美佳帆がそう言ったのは、あの時焼けて無くなったはずだが、もしかしたらスタジオ野口で橋元にされた一連の行為が、どこかで残っていてまさかこのサイトに既にさらされていないかという不安から出た言葉でもあり、美佳帆の手は既にカチカチとまずは自分の動画が出ていないか調べ始めていた。

美佳帆から、このサイトを当面は2人だけの秘密と提案されたスノウも、

『はい。わかりました。』

と答えたのもやはり、スノウも張慈円に監禁されていた時にされた行為の動画が、まさかとは思うが既にアップされているんじゃないかという一抹の不安があり、自分の動画が出ていないかを美佳帆と同じ気持ちでチェックし始めていたからであった。

2人は、無言で能力者の女性の性行為や凌辱動画が高額の賞金を賭けられアップされている入会規定が物凄く厳しい裏サイトに、既に賞金こそ賭けられているが自分たちの痴態は晒されていないことに一様にホッとして、このサイトに関わる情報を調べ始めていったのであった。

【第10章  賞金を賭けられた美女たち 15話 クイーンホーネット&パウダースノウ 終わり】16話へ続く

第10章  賞金を賭けられた美女たち 16話 神田川真理の回想~蜘蛛、最上凪の力~


第10章  賞金を賭けられた美女たち 16話 神田川真理の回想~蜘蛛、最上凪の力~

車中の後部座席は車の進行方向に向いておらず、車の左右の側面に平行となるよう配置されていて、搭乗者は向かいあって座っている。

運転手と助手席に座っている者を除けば、後部座席には4人の男女がいた。

菊沢美佳帆の夫である菊沢宏、その正面には高嶺製薬社長兼、高嶺暗殺集団の頭領である高嶺弥佳子、そしてその隣にはやや明るい髪の毛を緩いソバージュにしたにこやかな女性、大石穂香だ。

つい数時間前までは考えられない組合わせの面々である。

真理の正面に座る二人の女性は各々すぐ脇に刀を抱えるようにして持っている。

タイトスカートのスーツ姿の二人の女性は、上場企業高嶺製薬の幹部という立場を持っているが、それが全てではない。

高嶺製薬と言えば国内五大製薬会社の一つに数えられる大企業で、歴史は古く古都である京が創業地だが、もともとの発祥は富山の薬行商が始まりであると言われている。

江戸時代から薬の行商を兼ねて全国にネットワークを持ち、関所を抜け大名や大商人たちの後ろ暗い依頼をこなしてきた歴史があるのだ。

それゆえ、高嶺製薬が一部上場企業となった現代においてもその裏稼業は陰ながら、この国中の影の部分に食い込み色濃い影響力を持っている。

裏の世界では高嶺製薬と言えば、暗殺組織だと認識されているほどには名は知られているのだ。

そして、その17代目となる頭領の高嶺弥佳子と、六刃仙の一人、大石穂香が真理達の正面に座っていた。

その二人は宮コーにとっては、味方とは到底言い難い組織の幹部であり、また剣撃を攻撃の主体とする彼女らがこの距離で座っているので危険極まりない。

しかし、今は真理の能力【未来予知】には今は、危険反応は全く感じられなかった。

20秒程度先のことであれば、絶対の能力である【未来予知】を持つ真理はそれを狭い範囲の車中だけに展開しているが、今のところ全く危険は感知できないのだ。

そして、その能力を展開しているのをおそらく気付いている目の前の剣士二人も、真理のその行為を咎めることもない。

(余裕ね。どうぞご勝手にってこと?私の能力を知らないわけないのに・・。・・やっぱり今私たちに危害を加えるつもりはないか・・。いいわ。いい機会ね。高嶺や香港三合会の情報って完全にブラックボックスだから貴重な情報を得られる機会ととらえるべきだわ。今後も宮コーの妨げになるのは間違いない二つの組織だもの。かなり危険だけど、菊沢部長も一緒だしね。それに・・・備えあれば憂いなしだわ)

真理はその備えである最上凪から手渡された3つのアトマイザーの感触を、忍ばせた内ポケットにあるのを確認し、鈍い光沢のアーマースーツの上からそのふくらみを確認するように抑える。

最古参の秘書主任である最上凪は蜘蛛と呼ばれるだけあって、オーラを糸に変換できるが、さらに蜘蛛らしく毒もオーラで精製できるのだ。

渡されたアトマイザーは小型で、内包している毒も少量だが、その威力が絶大なのは真理も知っていた。

真理もその威力を、かつて凪が敵を屠る時に一度だけ見たことがあったからである。

目に見えないほどの細い糸で宙吊りにされていた男の口に、凪が一滴だけ深緑の液体を垂らしたのだ。

美しく艶やかで白い人差指から垂らされたその濃緑の水滴は、凪の白い指とは裏腹に禍々しいモノであった。

その濃緑の水滴が指先から離れ、糸で締めあげられ悶絶する男の唇に落ちて口内へ伝い落ち、舌の粘膜に触れた瞬間に男はビクンと仰け反って絶命したのだ。

即死だった。

今思い出しても身震いする。

しかし毒を飲まされる側からすれば、逆さに吊るされこれからどのような拷問を受けるのかと考えれば、瞬く間にその恐怖や痛み、辱めから解放されるだけある意味救われているのかも知れない。

凪が発生させる糸は、張力や粘性を調整でき、刺突性や斬撃性を持たせることもできるのは真理も知っている。

その糸だけでも凶悪であるのに、毒の威力も殺傷能力はまた凶悪なのだ。

しかし情報を持って入り人間が相手の場合はまた別の話である。

その毒の入ったアトマイザーを服の上から確認するように抑えて、真理は初めて凪が能力を使って戦っていた時のことを思いだす。

否、あれは戦いなどではなかった。

あまりにも一方的な殺戮であった。

5年ほど前、宮川家に侵入した曲者たちを凪が排除したときのことである。

真理や加奈子も連絡を受け、当時佐恵子も住む宮コー本社近くの宮川邸に急行したのだ。

都内の閑静な住宅街にあるひと際大きな屋敷が宮川家の本宅である。

当時佐恵子と、父の昭仁はそこに住んでおり、最上凪が会長秘書兼ボディガードとしてその屋敷に寝泊まりしていたのだ。

真理や加奈子も外部からの宮川家に対する強硬な攻撃は、その時が初めてでまだまだ入社して間もないころである。

宮川本宅に侵入した侵入者を排除せよ。と深夜に通達があったものの加奈子も真理も、どこか現実としてとらえきれずにいた。

そんな心情のまま、佐恵子の本宅へと駆けつけ門をくぐったのである。

門をくぐったすぐに匂いがした。

匂いの正体はすぐに分かった。

人間らしき死体が、門から玄関に掛けて2か所で散らばっていたのである。

一か所は無数のサイコロほどの大きさの肉片が血だまりの中で散乱しており、もう一か所は、足を投げ出し、両腕の関節はあり得ない方向へと曲がって、壁を背にへたり込んだ人間らしき形のモノの顔面に、1ミリにも満たない太さの鋭利な針のようなものが顔が見えなくなるほど突き刺さっていたのだ。

その光景と充満する血の匂いに戦慄した真理と加奈子の二人の耳に、屋敷内から阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてくる。

銃声と音感の狂った高さでの男の悲鳴。

真理も加奈子も、悲鳴のする屋敷内へ飛び込むも、悲鳴の正体が複数あることから、この断末魔の悲鳴が、侵入した曲者たちの悲鳴だと直感していた。

玄関を抜け、廊下を走り、会長の書斎へと急ぐ。

角を曲がり、会長の部屋の入口のすぐそばには、右手に銃を持った男が壁に背を預けたまま立っていた。

しかし、その男の足元にはおびただしい血と臓器が散らばり、かろうじて立ったままの下半身の下には、肩口から腰に掛けて袈裟懸けに二つにされた、男の上半身が目を見開いたまま、血に濡れて床に落ちていた。

その凄まじい死骸をも通り過ぎ、真理達が会長の部屋へと入った時、最後の一人となった侵入者は、会長の部屋に美しく張り巡らされた幾何学模様の蜘蛛の巣の中央に囚われていたのだ。

そして糸によって宙に浮いたように見える最上凪が、穏やかな顔で、覆面を取られ恐怖に引きつった男の口元へその白い指先を向けていたのだ。

「来るのが遅い」

凪は真理達をチラと一瞥してそう言うと、その白い指先から濃緑の水滴を滴り落としたのだ。

あとで聞いた話では、最後の一人からは情報を吐かせるだけ吐かせた後、その毒で絶命させたとのことであった。

襲撃の連絡を受け、佐恵子らの身を案じ遅参した真理と加奈子は、入社数か月目にして、その凄まじい光景を目の当たりにしたのだった。

凪に屠られた曲者たちの最後は、最後の一人を除いて凄惨を極め、各々自分の血だまりの中で絶命していた。

そして、あれだけの凄惨な殺し方をしておきながら、自らは返り血を全く浴びず、凪の着る白いワンピースには一滴の血痕すらなかったのだ。

(・・会長はあんなバケモノをどこから連れてきたのかしら・・・。会長の命令にも従うし、佐恵子のことを気に入ってるからいいようなものの・・、他の十指と違って、蜘蛛だけは出自も経歴も不明。そしてあの強さに容赦のなさ・・。私、得体のしれない制御できないモノってキライなのよね・・)

当時宮コーに入社間もないころの出来事を思い出して、真理はごくりと生唾を飲み込み、ぶるりと身震いをしてしまう。

あの一件以来、本当の意味で宮コーの幹部社員としての覚悟ができたのだと真理は思っている。

味方でありながらも、真理をしてここまで肝を冷やさせるのが蜘蛛こと最上凪なのである。

凪に呼び出されたモブが、動物的直観で凪に恐怖したのも無理はないのだ。

その蜘蛛の唯一の弱点らしいものと言えば、糸は燃えるということでる。

そう、火で燃えるのだ。

それゆえに、蜘蛛に対抗しうる唯一のカードが紅蓮と言われているのだ。

あの蜘蛛に対抗しうるからこそ、紅蓮こそ十指最強と紅音は謡っていたのだが、当の最上凪はそのような俗的なランキングに興味がなさそうで、紅音の挑発ともとれる発言を聞き流し、ただただ宮川会長の傍らに侍って、美しいが憂いを含んだ無機質な表情で佇んでいるのみであった。


真理はその蜘蛛に、支社でこれら毒と薬の入ったアトマイザーを渡されていたのだ。

(得体のしれない人だけど、佐恵子のこととなれば無条件に信用できる一人・・よね?ちょっと苦手だけど・・。でもあの蜘蛛が会長から離れて佐恵子のところに派遣されるなんて、会長の身辺警護はどうなっているのかしら)

真理が更に疑問を掘り下げるように物思いに耽りはじめると、パタンとタブレットのモニタを閉じる音が正面から聞こえてきた。

おそらく作業がひと段落したのであろう。

真理の斜め前に座る高嶺弥佳子が、操作していたタブレットから顔を上げて、バッグにしまっていたところであった。

そして弥佳子は、ふぅと一息吐くと、ようやくと言った様子で、正面に座るサングラスの男に笑顔を向けて、脚を組みなおしたのだ。

真理も蜘蛛が会長の元から離れた理由を知りたかったが、情報の足りない今いくら考えてもおそらく無駄だという結論に達し、高嶺の頭領の動向のほうへと注意を向ける。

4人を乗せているバンは、普通車としては大きな車種だが、向かいあって座るとその距離は案外近い。

弥佳子の正面に座って腕を組んでいる宏の膝に、弥佳子の足先が触れんばかりの距離まで近づいて、その長く肉付きの良い脚が組みなおされるも、サングラスを掛けたその表情は変わらない。

「ふふっ、菊沢さん?奈津紀さんの和泉守兼定を返していただき改めてお礼をいいますよ」

弥佳子は部下を除けば車内にいる唯一の男に、下着が見えても構わないというつもりで足を組み替えたのだが、サングラスの奥の表情は読み取れなかったようだ。

宏から返してもらった兼定の黒漆拵えの鞘を優しく撫でながら、サングラスの奥の表情を読み取ろうと微笑を向けてそう言っている。

「ええねん。もともと俺のんやないんやし、相手に返せそうでほっとしたわ。それレプリカちゃうんやろ?モノホンの銘刀にオーラ鍛錬入魂させたもんか・・。エグイ切れ味に、信じられん強度やった。あの女の剣を受けた時、俺の鉄扇にキズがついてもたんやからな」

相変わらずのぶっきらぼうな表情と口調で宏がそう返したことに、弥佳子はその鋭い目元を驚きで見開き、少し身を乗り出してきた。

「奈津紀さんが兼定を使って振るった猛剣を鉄扇で受け止めたのですか?・・・むしろその鉄扇に興味が湧きましたね。今お持ちですか?」

「持ってるけど貸さへんで?」

「どうしてですか?貸せとはいってませんよ?見せてください」

弥佳子と宏のやり取りに、弥佳子の隣に座る六刃仙の一人である大石穂香が笑みを深めて、危険な雰囲気になり掛けたのをサングラス越しに捉えた宏はため息をついた。

さきほど支社でこの大石穂香という剣士の性格を知った宏は、しぶしぶ腰に差している鉄扇に手を伸ばす。

「はぁ、これや」

腰のベルトに刺していた鉄扇を弥佳子の方へ、柄を向けて突き出す。

「ほう・・・。どれ・・これは」

宏の手から鉄扇を受け取った弥佳子は、興味深そうにしげしげと眺めはじめた。

当主の思惑通りに事が進んだことに気をよくしたのか、大石穂香も普通の笑顔でニコニコとしている。

「ふむ・・。素晴らしい。なかなかのモノですが、銘が打ってありませんね?これほどのモノです。さぞ名のある名工の作と見受けますが?」

暫く宏の鉄扇を鑑定するようにして見ていた弥佳子は、宏に問いかける。

「それはうちの奥様作や」

「なんと。・・其方にもこれほどのモノを入魂できる工匠がいようとは・・。菊沢さんの奥様さまにも興味が湧いてきました。この仕事が終われば是非奥様にもお会いしたいですね」

柳眉を跳ね上げ、佳絶の女剣士は先ほどより驚いた様子である。

弥佳子は、しばらくその重さや長さを確認しつつ、扇子を開いて仰ぎ、パチリと閉じては、手と指で鉄扇の使い心地を確かめるように舞わせている。

しかし、最後は多少名残惜しそうにしながらも弥佳子は鉄扇の柄を宏に向け返してきた。

その一連の所作は暗殺集団のトップとは思えないほど女性的かつ優雅で、剣士というよりも、舞踊でも嗜み、身も心も成熟した妖艶な女の色香すら漂っている。

しかし宏は、弥佳子のその優雅で色っぽい所作など知ったことではないようで、妻から貰った大事な鉄扇をひったくるようにして取り返すと、腰の後ろのベルトに差してしまった。

「なるほど・・」

弥佳子も宏という人物を少しわかったようで、鉄扇をひったくられたにも関わらず、笑顔でそう言ったのであった。

そのときである。

「なんかさー、似てるよね~?」

その二人のやり取りの隣で、大石穂香がやや大きめの声でそう言った。

弥佳子と宏のやり取りを見ていた真理は、その突拍子もなく屈託のない声に顔を向けると、真理の顔を伺いみるようにして緩いソバージュの剣士、大石穂香が顔を近づけてきてそう言っているのだった。

「何にですか?私が何かに似ているのですか?」

真理はいつものキラースマイルの表情を穂香に返して、そう言葉でも返すも、内心では穂香の発言の意図することを探ろうと、顔には出さず、頭を目まぐるしく活動させだす。

「なーんかさ。うーん・・・やっぱり似てるのよね~」

「穂香さん、そんなにジロジロ見ていては失礼ですよ?神田川家のご令嬢に失礼というものです。ごめんなさいね神田川さん」

形の良いアゴに手を当てて首を傾げている穂香の様子を弥佳子が困った子ね、といった調子で窘める。

おそらく、この大石穂香という剣士の行動や発言は毎度のことなのであろう。

頭領である高嶺弥佳子も、またですか、やれやれ・・といった様子なのが伝わってくる。

そんな問題児でも、高嶺の6人の最高幹部である六刃仙の一人に据えられているのだ。

(加奈子と渡り合うほどの腕前・・。気の抜けた炭酸水みたいな口調と顔だけど、剣の実力は確かなのね。高嶺弥佳子は高嶺製薬でも無能な者に対する厳しさは苛烈と言われてる。・・・でもこの気の抜けた炭酸水女を六刃仙に据えて、バカな発言や行動をある程度許しているということは・・・相当腕が立つ・・そういうことよね)

心中では毒舌家の真理は、大石穂香のことを「気の抜けた炭酸水」と評価したものの、穂香は容姿だけでいえば、十分美人なのだが、まとった雰囲気がものすごく緩いため、そう評したのだ。

「御屋形さまに似てない~?・・目元や眉は御屋形様のほうがずいぶん鋭いけど、口元や顎とか耳とかってクリソツだよ~。あと肩幅とか・・。・・・えいっ、鎖骨の形とかも・・・ほらね~」

「えっ?きゃっ!?」

真理が、あまりのことに声をあげる。

鎖骨の形を確認するために、穂香が真理の着ているアーマースーツのファスナー部分をジッ!とお臍の上ぐらいまで下ろしたのだ。


【未来予知】は悪意に反応し、決めた対象の人物に及ぶ危険、さらに自身の身体に触れる感覚に反応する。

危険がない行為や、悪意がない行為自体はいかに【未来予知】といえども感知しにくいのだ。

20秒以内と言っても、1~20秒の間で察知できる危険の種類は様々である。

当然、ファスナーのツマミ部分だけを摘まんで引き下ろすという行為にも、反応したのだが、穂香がそうしようと思ったのは行為に及ぶ1秒にも満たない寸前だったのだ。

それゆえ、真理の能力が穂香の行動を察知し、真理が行動を起こすより早く、穂香は素早くファスナーを引き下ろしたのであった。

「こらこら穂香さん。何をしてるんですか!・・神田川さんに謝りなさい」

「だって~」

頭領に腕を掴まれてそう言われた穂香は、そう言いながらしぶしぶとファスナーのツマミから手を離した。

「・・でも神田川さんもお淑やかな顔してなかなかの凶器を隠してましたね」

弥佳子も部下の突然の不躾を繕うように、軽く冗談めかして言いながら、軽く穂香の側頭部をグーで小突いていた。


「御屋形様いたい~」

弥佳子と穂香のやり取りを見て真理はジッ!と勢いよくファスナーを上まで上げ直し、今度はフォックも締めなおす。

そんな真理を見ながら弥佳子は口を開いた。

「神田川と高嶺は親交があったと聞きます。ずいぶん昔のことですけどね。高嶺が洛中の久我や細川と懇意にしだした時代、洛中の名家と親しい間柄だった神田川家と高嶺家で親交が始まったと聞き及んでいます。・・かつては両家の間で何度か嫁ぎ合ったことあるとも・・。ですので、神田川さんが私と似ているのは、そういう時期の名残なのかもしれませんね。・・・でも今は親交は途絶えていますし、今の神田川は京の洛中や堺より、幕府の庇護を受けた元豪商、かつては札差として江戸の春を謳歌し財を成した宮川家と懇意ですね。・・とても残念です」

「そうなんだ~。ほら御屋形様。この子、目元隠すと御屋形様にクリソツだよ~」

当主に頭を小突かれたというのに、穂香は懲りずに真理の顔に手のひらを向けて、真理の目元が隠れるようにして、弥佳子と真理を交互に見ては嬉しそうにそう言った。

「・・・言われてみればそうですね。【未来予知】に興味があったのと、その能力が潜入ミッションには打ってつけと思って神田川さんを指名したのですが、私も貴女の能力以外に、貴女自身に親近感がわいてきました。今回の件、どうぞよろしくお願いしますね」

「ええ、此方こそお願い致します」

暗殺集団のトップとも思えぬにこやかな笑みを向けられた真理もそう応えたが、真理も、言われてみればと思い、見過ぎない程度に弥佳子の顔をマジマジと観察して、なるほど、似てるかもと思ってしまった。

真理の目元は、母親似であるのだ。

目以外は、父や祖父とも似ていなかったが特に気にしたこともない。

その母は控えめな性格ながらも、娘が家から飛び出した今も名門神田川家の妻として頑張っていることを真理は思い出す。

(お母さま元気にしているかしら。今回の仕事が終わったら一度顔を見せに行ってもいいかもしれないわね)

高嶺の頭領と自分の背格好や容姿が似ているのは偶然だと思うが、それで高嶺弥佳子が自分に対して親近感を持ったほうが、仕事がしやすくなると真理は考えている。

それよりも、いま真理は菩薩の笑顔とは裏腹に、ヌケタン女(気の抜けた炭酸水のような口調と表情の女)の突然の行動に憤っていた。

(それより・・・いきなりなにするのよこの子・・。【未来予知】での探知がものすごく直前だったわ・・・。ということは、このヌケタン女、考えずに行動するタイプね・・。思いついたら即動いちゃうタイプだわ・・。それに、思いついてからの行動がものすごく早い・・。苦手なタイプね・・)

そして、先ほど丸出しにされたノーブラの胸を隠すように抑えながらチラリと隣に座る宏の様子を伺った。

サングラスで隠れてはいるが、宏は口をへの字にして腕を組んでいる。

「・・見ました?」

「・・すまん」

真理のジト目での発言に宏は正面を向き、腕を組んだ格好のまま気まずそうに応え返してくれた。

「はぁ、不可抗力です」

真理はそう言うと、正面のヌケタン女を菩薩の笑顔で睨みつける。

(・・・菊沢部長にはもっと然るべきシチュエーションで見てもらうかもしれなかったのに・・。効果が半減だわ・・ったく・・何してくれてんのよ)

いわゆる普通の女性とは違う斜め上の嗜好を地で行く真理は、心中で穂香を罵ったものの、真理の表情には菩薩の笑顔が浮かんでいる。

そのためか、ヌケタン女と真理に心中で罵られている大石穂香は、真理の心境など知らず、真理の菩薩の笑顔にニコニコと笑顔を返していた。

神田川真理がただの気の良い才媛ではないことを少し感づいている菊沢宏だけは、笑顔の真理が濃厚なオーラを発していることに少しだけ気づいていたが、丸出しにされた真理のバストをガッツリ見てしまった自分がこのタイミングで何かを言うのは憚られたようで、宏は相変わらずむっつりと腕を組んで座っているだけであった。

「到着いたしました」

真理が憤懣を心中で募らせ、心中で更に毒舌を並べようとしたときに運転席から、後部座先の面々へと、いや当主の高嶺弥佳子に向けて声が掛けられる。

「では皆さん。張慈円が迎える最後の日です。幸い月も出てますから、クズとは言え、張慈円を往生させるには良い夜ですよ。行きましょうか」

高嶺弥佳子はそう言うと、腰に二振りの刀を差して車から降り立った。

その表情は猛禽類が獲物を狙うようでありながらも、佳絶の見目は損なわれてはいないのであった。

【第10章  賞金を賭けられた美女たち 16話 神田川真理の回想~蜘蛛、最上凪の力~終わり】17話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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