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第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 9話 【回想】豊島哲司と寺野麗華3

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 9話 【回想】豊島哲司と寺野麗華3

アルコールの勢いも借りたとはいえ、学生時代から密かに恋心を寄せていた男の唇に、かなり強引ながらも麗華はついにたどり着いたのである。

姫こと麗華には、言い寄ってくる男は高学歴、お金持ち、イケメン、それらのステータスを複数兼ね備えた魅力的な者も数多くいた。

しかし、麗華は持ち前の勝ち気な性格と、それ以上にこの底抜けにお人好しな幼馴染の気持ちを確かめずに、他の男とそういう関係に発展してしまうのはどうしてもできなかったのだ。

学生時代から今まで何度も麗華なりに哲司にはアプローチを掛けたものの、麗華自身が名付けているこの「朴念仁」は一向に麗華の気持ちに気づいてくれる様子はなかったのである。

二年ぶりに会う今日も、今日の為に新調した服に下着だし、昨日はエステにも行ってある。

しかし「朴念仁」は麗華の服装や髪型や肌、いわゆる容姿に関してなんの言葉もない。

予想していたことだが、気合を入れてお洒落している麗華の気持としては、実はかなりモヤモヤしていた。

それゆえに、このような強引な手に出てしまったのは致し方ないと、「全部この朴念仁のせいだと」目を閉じ大きな背中に腕を巻き付けたまま自己弁護していたのである。

同僚のスノウこと斎藤雪にも、今日哲司に会うことは伝えたくなかった。

しかし、そんな後ろ暗いことをするのを良しとしない性格の麗華は、内心イヤイヤながらもスノウに哲司から「二人の職場の近くで就職したから久しぶりに集まって飲もう」と誘われたことを伝えたのだ。

数日前、麗華は二人が勤めている法律事務所の休憩室で、哲司から「久しぶりに会って飲もう」と誘われていることを、スノウに伝えてみたが、スノウは麗華から見れば、いつもの何を考えているのかわからない表情のまま2秒ほど麗華の顔を凝視して静かに答えたのだった。

「残念ですが、私はその日は用事があるのでいけません。和尚にはよろしく伝えておいてください」

と、スノウはつれなく言ったが、麗華はそのスノウの言葉に内心では、決勝ゴールを決めた日本代表のサッカー選手のようにピッチに両ひざをついて、観客席に両手の拳を握りしめて身体をのけぞらせてガッツポーズしてしまうぐらいに歓喜してしまっていた。

実はスノウが、麗華の哲司に対する気持ちをずっと前から察していて遠慮したということなど麗華は気づいていない。

しかし、もし今回の話が豊島哲司からではなく菊沢宏からの誘いであれば、スノウが麗華を排除すべくとる手段は、麗華が考え付かないような冷徹かつ辛辣で徹底的だっただろうが、スノウにとって菊沢宏が絡まないのであれば、友情のほうが優先だというだけのことであった。

司法試験に現役合格できるほどの才媛の麗華であるが、そのあたりのセンシティブな感情を読み取るのが苦手なため、麗華はスノウが宏に寄せている異常すぎる恋慕心には気づけていない。

ただ、宏さえ絡まなければ、そこ以外はかなり理知的で友達思いな判断ができたスノウの言葉は麗華にとっては偶然にもありがたかったのだ。

妙に男受けのいいスノウのことをできれば哲司に近づけたくないし、何より堂々と哲司と二人っきりで会える!

スノウのセリフに無邪気にそう考えた彼氏いない歴25年の残念な美人は、この機を千載一遇ととらえ、哲司の気持ちを確かめ仲を進展させようと思っていたのだ。

実際は気持ちを確かめることもできず、いきなり奇襲をかけてしまうことになってしまったのだが、こうなってしまってはもう後には引けない。

麗華は更に不器用に唇を合わせ、哲司の大きな背中に両手を回してしがみつく。

麗華の一方的な突然の熱烈な行為に対し、哲司は鋼のような肉体を微動だにさせず麗華にされるまま受け止めつづけている。

しかし、麗華にできることはここまでであった。

数多くの男に言い寄られながらも、ほとんど一言で男たちを撃退してしまっていたため、このような場面ではこれ以上どう振舞っていいのか皆目見当もつかない。

自分の方から始めてしまった行為に麗華自身早速行き詰ってしまっているのだ。

目をきつく閉じ、押し付けていた唇には、思った以上に柔らかい哲司の唇の感触が伝わってきている。

アルコール以外の男の匂いが鼻孔を擽り、間近で嗅いだその香りに頭の奥の一部がぐらりとあやしく揺れる。

頬に哲司の無精ひげが擦れるも、その感触すら初めての経験故に麗華の女の部分を高ぶらせてゆく。

はじめて抱き着いた男の身体、男の匂いや逞しさに頭をぼうっとさせ始めた時、麗華に抱き着かれるままに任せていた哲司の身体が動いた。

タンクトップから伸びる男らしい逞しい腕の片方が麗華の腰に回り、もう片方の手は頤を上げさせられるように首筋を支えてくる。

「ひゃっ!‥和尚?」

麗華は自分から抱き着いていながら、哲司の動きに悲鳴を上げてしまう。

「んっ!」

次の瞬間、顔が上を向くようにさせられて、改めて哲司の方から口を口でふさがれたのだ。

哲司の大きな胸板に抱きすくめられ、唇を重ねられる。

重ねてくる唇に、麗華自身も唇を綻ばせるとそこへ哲司の舌が侵入してきた。

「んぅっ!」

突然のことに一瞬だけ驚き、全身を強張らせてしまったが、脳からあふれ出す女の部分が反応しだし麗華も舌で応える。

そのまま大きな体に抑え込まれるようにして、畳に背をつけられた。

腰に回されていた手がいつの間にか胸をブラウスの上からとはいえ、大きさを確かめるように下から上へと何故あげられると、すぐにブラウスのボタンをはずしにかからられる。

「うぅ!・・ああっ!和尚!」

口だけで抵抗を示してみるが、四肢は哲司に預けたままなので全く説得力はない。

みるみるブラウスのボタンは外され、気の強い麗華が身につけているとは思えない、可愛らしいピンクのブラジャーが露わになる。

Fに近いふくよかなサイズの胸を隠すには生地がやや少なめのブラジャー越しに、哲司の大きく逞しい手が伸びる。

「うぅ・・ああ!和尚!あぅ・・いやぁ!・・っんん!」

口だけの抵抗も、哲司の口で封じられ、豊満な胸を初めて男に愛撫される感覚に、麗華の頭の奥底から女の感情が溢れていた。

ブラウスのボタンをすべて外され、ついにブラジャーをぐいと下に引き下ろされてしまったために、ぶるんと張りのある双丘が露わにされる。

つんと尖っている両方の先端が、自分で触っていないのに見ただけでわかるほど、固く反り立っているのが、恥ずかしすぎる。

「んっあっ!和尚!だっ!ダメ!こんなこと!」

自分で誘っておいて麗華のこのセリフは無視されても仕方がない。

実際麗華も、口ではそう言ったものの、肉体の強化もせず、身体は仰向けで腕も足も畳の上に投げ出し、いわゆる大の字の格好でほとんど身体を開いた状態で男に乗られているにまかせている。

いまだに履いているスカートのフォックにも哲司の手が伸び、ファスナーもジッ!と一気に降ろされるが無抵抗のままだ。

麗華の頭の中は、これから始まる初めて行為に不安と期待が入り交じりっているが、口では抗ってしまうものの、身体は受け入れていた。

スカートを脱がされる時、腰を浮かせてしまう自分に赤面する。

赤面したことに狼狽えている間もなく、無防備になった女の部分へ哲司の指が這う。

パンスト越しとはいえ、陰唇から陰核へと優しくも力強く何度も撫ぜられてしまうと、一気に官能が脳へと伝わってくる。

「あああ!うぅぅ!和尚ぅ!」

普段の麗華の気の強い口調を知る者が聞けば、さぞ嗜虐心を擽られる声を麗華は発し腰を引き、内ももを閉じる。

その行動を哲司の膝が許さず、太ももの間をこじ開けるように麗華の足の間に入り込みの膝を入れられ足を閉じれなくされてしまう。

一番の弱点である股間の防備をはがされ、女らしさの象徴である胸の突起は非常事態を示すように硬く尖っている。

それらを護ろうと伸ばした両手を掴まれ、自身の自重で動かせないヒップに敷かれてしまった。

こうなれば弱点丸晒しでなす術はない。

「ああああっ!くぅ!うう!はぁああん!」

パンストと下着という防波堤があるにもかかわらず、歴戦の風俗嬢相手に鍛えられた哲司の指技に翻弄されてしまう。

腕で抵抗を試みることもできなくなった胸の尖りも、こうなるとますます尖りを増し、麗華の羞恥心を高める。

はじめて男に愛撫される麗華にとって比較すべくもないが、哲司の指は淫具のように小刻みに力強く振動するのである。

強烈な電気マッサージ機が指の先端についているような技能を振るう哲司の指技に、週7で自慰をしているだけの性経験しかない、残念なオナニスト女では、哲司の責めの前にはひとたまりもない。

男も寄り付きにくく彼氏いない歴の長い美女はさぞ男に不自由していないと思う者も多いようだが、実はそうではない場合の女性も多い。

気の強すぎる美人がオナニー中毒になってしまうのはは珍しくないことなのだ。

自分の身体の感じるところを知り尽くしている麗華だが、初めて味わう哲司の責めは、麗華の自慰の技術のすべてを越えていた。

下着越し、パンストもまだ脱いでいないのに、哲司の指先は麗華の股間が発した液体で滑り、くちゅりくちゅりと恥ずかしすぎる音を奏でている。

恥ずかしいほど固く反り立ったピンク色の乳首も、指で散々弾かれ羞恥心から更に固くなり、同時に快感を胸から子宮へと送り込んでくる。

「い・・いや!和尚!わたし!!・・あぅう!ダメこれ以上されたら!ダメ!」

自分の両手は自分の身体の自重で、お尻の下に封じられている。

麗華はもう哲司の責めを遮ることはできない。

無抵抗な双丘の先端と、無防備な陰核は恥ずかしいほど硬度を増してしまってどうしようもない。

乳首も陰核も麗華の小指の第一関節ほどの大きさまで肥大していた。

特に陰核がショーツとパンストを押し上げて主張していいるほど勃っている様は卑猥としか言いようがない。

ボールペンのキャップほどの大きさほどまでに勃起させてしまっているクリトリスなど、摘ままれても文句が言えるはずがない。

どうぞ摘まんだり弾いたり、好きにしてくださいと主張しているのと同じである。

「はっぐうう!!!ほっ・・う!!いやっ!うううううぅ!!・・・・・はぅ!・・はぁああん!・っ哲司ぃ!あああああああっん!!だめえ摘ままないでええええ!」

恥ずかしく尖った両方の乳首を、ショーツとパンストを押し上げている陰核を振動する指で摘まみ上げられ、捩じられ、引っ張られ、根元を潰すようにして弄くられて麗華は追い詰めてられていく。

麗華が口で否定しても乳首も陰核も、摘まめるほど固くなりそそり立っているのだ。

こんなに乳首や陰核を勃たせておいて、こんな状況で弄らずにいる男がいるはずがない。

それが麗華のような普段気の強く、頭の良い美女ならなおさらである。

「かっ!くはぁ!摘ままないでえってばあ!!ああああああん!こんなのお!!!・・・・ダメッ!・・・・もうダメっ!いくううううううううううう!!」

身体をびっくん!と一度大きく跳ねさせて、その後も何度もビクンビクンと余韻の余波に身体を痙攣させていたが、哲司は麗華の余韻が収まるまでその逞しい腕と、胸板は麗華を抱きしめる。

哲司は麗華の反応から、処女だとわかり始めていたので、最初は陰核を中心に責め、十分に快感と潤いを与えてから麗華を繰り返し何度も責め続けたのである。

痛がらせることなく、執拗とも思えるほど愛撫を重ね、十分に潤させ、何度も果てさせたうえ麗華を導いていく。

麗華の絶頂の余韻が収まると、哲司は勃起陰核と勃起乳首を摘んで振動で刺激し、それから陰唇全体を震わせ、腹部からは直接子宮に振動を送りこみ、麗華を優しく官能の海へ誘っていく。

陰核だけで何度も逝き方を覚えさせられるように、乳首でも膣内の数か所、直接子宮を刺激しての逝き方も覚えさせられていく。

決して自慰ではたどり着けない境地、知ってしまうと自慰ではせいぜい足の付く浅瀬だったと思い知る深みへと優しくおぼれさせられていく。

男の都合だけで使われるのではなく、処女である麗華は十分な女の喜びを与えられながら官能の広大な海へと連れ出されていったのであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
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・・・
・・

頭痛で顔をしかめて寝返りをうった哲司が、カーテンの隙間から差し込んでくる朝日に眩しそうに手で光を遮る。

「うー・・・ん。久々に飲みすぎや・・いてて」

畳の上に敷いた煎餅布団の上で掛け布団を押しのけて半身を起こした哲司が、二日酔いで痛む頭を摩りながら呻く。

哲司は痛む頭を摩りながら、6帖畳の部屋の隅に片づけるように並べられている空き瓶の一つを取って、目をこすりながらラベルを確認する。

「痛つつ・・この痛みはこれのせいか・・・」

ビールやハイボールの缶のほかに、『スピリタス』と書かれたいくつかの空き瓶の一つを手に取り哲司が呻いたとき、キッチンのほうから嗅ぎなれない香りと、人の気配がすることに一気に頭が覚醒しだす。

「あ!和尚!・・・お、おはよ」

そのとき、布団の上に座った状態の哲司に、キッチンからスーツ姿の麗華が顔を赤らめて挨拶してきたのだ。

「お・・おう麗華??おはようさん」

哲司は二日酔いの頭をフル回転させて昨晩のことを思い出す。

「ごめん。起こしちゃったね。もう少ししたら朝ごはんできるからもう少し寝ててよ」

昨晩、麗華と飲んでいたことを思い出した哲司だったが、麗華が麗華らしからぬ口調で優しくそう言ってくる様子に布団の上で困惑していた。

「・・・どないしたんや?」

「え?どないしたんやって・・朝ごはん作ってるのよ。和尚ってお味噌汁にタマネギが入ってても平気よね?」

「ああ・・平気やちゅうか。好きやで?」

「す・・好き?・・そう!よかった」

顔を真っ赤にしながらも機嫌よくそう言ってキッチンに向きなおった麗華の背を見て、哲司はさらに首をかしげる。

(どないしたんや・・。麗華が俺の部屋で朝飯作っとる・・・。昨日泊まるいうてたけど、麗華が朝飯つくるなんて雪でも降るんとちゃうか・・?)

哲司は初夏の蒸し暑さが迫りつつある時期だけにそう独り言を心中で呟く。

てっきり朝マックでもと思っていた哲司だったのだが、麗華はルンルンな様子で味噌汁の入ったお鍋をお玉で混ぜ、フライパンでベーコンとタマゴをいい音をさせながら炒め、狭いキッチンながらも手際よくキャベツを千切りしてレタスとトマトをお皿に盛りつけ、すでに茹でてあったジャガイモを潰してポテトサラダにしてサラダのお皿に添えているのだ。

哲司はそんな麗華を、訳が分からないという表情で訝しむように呆然と布団に座ったまま眺めていた。

すると、麗華がくるりと振りかえり、顔を赤くしてにこっと恥ずかしそうにはにかんでから、すぐにキッチンの方へと身体を向き直る。

(な・・なんや今の表情・・?)

部屋に食材など置いてなかったので、麗華が朝早くに買出しに行ってくれたのは確実である。

しかも、朝ごはんとしてはけっこう手間のかかるものを作っている様子だ。

しかし、哲司は麗華がそんなことをしそうにない性格だと長年の付き合いでわかっているだけに哲司は布団の上で首をかしげるばかりであった。

哲司がいかに酒豪とはいえ、度数96のお酒を5本も空けてしまっていたので、久しぶりの痛飲で昨晩の記憶が途中からさっぱり無いのだ。

織田裕二似のルックスもさることながら、人格的にも文句なしのいい男である豊島哲司なのだが、菊沢宏とは別の意味で罪な男であった。

処女の幼馴染相手に、今まで練習台となった100人以上の風俗嬢で鍛えた性技を駆使して破瓜を奪ったのだが、当人にその記憶は酔っていた為まったくない。

そんな手の付けられない哲司のボンクラぶりを知る由もなく、麗華は25歳と遅まきながらも、想い人相手で女になれた喜びで満ち溢れ、幸せいっぱいの新婚初夜直後のような気持ちで料理しているのであった。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 9話 【回想】豊島哲司と寺野麗華3終わり】10話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 10話【回想】小田切響子の学生時代


第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 10話【回想】小田切響子の学生時代


執事長から葵は秀才故に他との協調性がとりにくく、頭の回転が速すぎて同級生や学校の教員とすら話が合わない子だと聞かされていた。

響子なりに葵を分析したところ、葵は頭が良すぎて、口調が悪いところを覗けば、小柄で童顔ながらも文句なしに美人である。

それに他と協調性が取れないといわれているのは、頭の回転が周囲の同級生より随分早いため、周囲からは少し変わっていると思われてしまうのだろう。

ただ、それは葵の突出した才能の一部が尖りすぎているために周囲にその印象をあたえているだけあり、それ以外はやや知性や感受性が鋭いだけの真面目な女の子そのもの・・・のはずだとも響子は思っている。

「えっと・・そろそろお夕食にしましょうか?ここまで良い匂いがしてきましたね」

姉が去り、少し寂しそうな表情の葵をできるだけ明るい気持ちにさせようと、葵の背を押しダイニングの方へと促すと、葵が期待のこもった表情で聞いてきた。

「ごはんごはん!お腹減ったよね。響子さんの分も用意してくれてるはずだし一緒に食べようよ。ご飯食べたらまたアレやろうよ!」

響子は一瞬だけ迷ったが、葵とアレをするのは響子も楽しんでいるし、さっき葵の姉にもアレに付き合うように言われている。

響子はにっこりとして快く返事を返したのだった。

「ええ、いいですよ」

「いやったー!」

葵は響子の返事に、小さな身体全身で喜びを表すように飛び跳ねる。

浜野響子は、東都大学理学部に通いながら、親の負担をできるだけ減らそうと家庭教師のアルバイトをしてる女子大生である。

大学に入学したての頃は、かつて棋院で鍛えた棋力をもって碁会場でアルバイトをして学費の足しにしていた。

アルバイト代は学生としては相場だし、なにより碁会場のような自分の趣味と一致するアルバイト先であるのに響子は満足していた。

そんな響子が働く碁会場に、ある日無理やり連れてこられた感満載の表情の葵が現れたのである。

葵は、彼女の担任の教師が葵のずば抜けた記憶力が碁に向いているのではないかと思い連れてこられていたのだ。

葵はクラスでも打ち解けられず、中学校の授業内容では簡単すぎてやる気を失いかけて、不登校になりかけていたのである。

「ほら、葵くん。これが囲碁だよ。この白と黒の石を打って陣地の広さを競う競技なんだ。先生、葵くんならすごく上手になると思ってるんだ」

少し必死な感じで熱っぽく説明する担任の男性教諭の様子とは真逆のテンションで、葵は碁石の入った碁笥に入った白い石を一つ摘まみ、興味なさそうに死んだ魚のような目で眺めている。

いまでは、まったく学校にすら通っておらず家で自宅学習になってしまっているが、葵が中学2年に上がったばかりのころは、葵の周囲は葵のことを彼らなりに何とかしようとしていたのだ。

この真面目な男性教諭もその一人である。

葵は、碁会場の主である自称アマ8段の人の好さそうなおじさんからルールの説明を、とてつもなく興味なさそうな表情で一通り聞いてから、覚束ない手つきで碁を打ち始めたのだ。

響子はその日のことをよく覚えている。

碁石を握りなれてない仕草の白く細い指先が、碁石をびしぃ!とかっこよく打つ自称アマ8段のおじさんを、指し方の可愛らしさとは裏腹に鋭い一手一手で追い込んでいくのだ。

そもそも、初心者の葵はハンデをもらい、九子の置き碁から始まったのだから、すでに自称アマ八段のおじさんは開幕から物凄く窮地に陥っていた。

9目ハンデをもらっていたとしても普通ド素人が初めてアマ8段という猛者と戦えば、勝ち目はない。

だが、そうはならなかった。

葵の指が石を置く度に、自称アマ8段のおじさんは、人の好さそうな顔からだんだんと脂汗が噴出し、中盤以降は信じられないと言った表情になって劣勢になってきた基面と、つまらなさそうに碁を初めて打つ中学生の葵を見比べては、震える手でなんとか石を落とさずに指していたのだが、結局は途中で投了してしまったのだ。

「思ったより面白いけど、もういいかなぁ。またしたいとは思わないよ。この最初から置いてる石がなければもう少し楽しめたかもね」

碁盤の前で突っ伏し、自信を喪失した自称アマ8段のおじさんの様子など気にした風もなく、葵はそう担任の教師に言ったのである。

「そ、そうか・・。葵くんには合わなかったか・・」

葵に何か興味を持ってもらおうと腐心している様子の善良そうな担任の教師は、思惑が外れるにしてもハズレ過ぎたことに当惑しながら言葉を絞り出していた。

碁会場きっての猛者と謎の美人中学生との対決に、かなりの熱気を帯びて観戦していた弥次馬たちは、葵の白けた様子に冷水を浴びたように一気に静まり、この不思議な少女が碁に興味を持たなかったことに落胆していく様子が場に広がっていく。

皆、この中学生がこの碁会場に通うことになると思っていたアテがはずれて落胆しているのである。

ただ、響子だけはこの不思議な少女の信じられない棋力に目を輝かせたのだ。

「今度は私がお相手いたしましょう」

響子はついそう声に出してしまっていた。

響子は普段から慎ましく、差し出がましいことを絶対に言わない美人女子大生アルバイターと思われていただけに、その響子の発言で周囲は再び熱を帯びた目で二人を取り囲みだした。

「えーー・・・もういいよ~」

響子の発言に、葵は心底イヤそうにそう言ったが、響子の方がこの不思議な子に俄然興味が湧きだしていたのである。

「お時間とらせませんよ。私ともう一戦だけ。お願いできるかしら?ね?」

「う~ん。まあ・・いいよ。どうせ帰ってもやることないし。でも一戦だけだよ?」

にっこり笑顔で対戦を誘ってくる響子の様子に、どこか通ずる部分を感じたのか葵は渋々頷いたのだった。

「ありがとう」

響子は小さな対戦者に笑顔でそう言うと、座布団に正座して座る。

相手の思考が映像として流れ込んでくる特技があるとはいえ、響子は高校生まで棋院に通っていたのだ。

響子は純粋に碁が好きである。

10年以上碁に触れてきた響子にしても、この子の若さで、初めて囲碁を打ってここまでの打ち手は見たことがない。

素直に対局してみたくなったのだ。

「置き石なしの互戦でやりましょう。コミは六目半で良いでしょう。」

響子の提案に、すっかり葵の棋力に度肝を抜かれていた碁会場の客たちは、めいめいに歓喜の声を上げて色めき立った。

「こりゃあ見ものだ」

美人大学生と、突然現れた美少女中学生との一局が突如始まったのだ。

響子はこの碁会場では敵なしの強さである。

自称アマ八段のおじさんよりもずいぶん強い。

元院生でもあり、プロ試験は辞退して受けていなかったが、院生1位になっていた事も何度もある響子の実力はプロレベルなので当たり前ではあるのだが…。

ただ、響子は自称アマ八段のおじさんに花を持たせるために勝ったり負けたりしていたので、自称アマ八段のおじさんの自尊心を砕くことはないようにしていたが、目の前の少女にはその必要はなさそうに感じたのだ。

「先生?これで最後だからね?」

葵は周囲の雰囲気に少し戸惑っていたが、担任の教師にそう念を押してから、響子と向かい、再度座布団の上に座る。

先手は葵からだ。

誰にも教えられていない、今日初めて囲碁を始めたというのに自分に近い第四辺の隅に、コトリと黒い碁石を置く。

(この子・・・)

響子は、その一手に粟立つ肌に合わせて心臓が喜ぶように躍動するのを感じていた。

響子の置く白石が、黒石のすぐそばに置かれると、葵もまったくよどみなく定石どおりに打ち返してくる。

(本当に今日初めて囲碁を打ったんだとしたらすごいわ・・)

響子は葵の非凡を越えたセンスに感嘆しつつ、石を置いていく。

しかし、両者が打ちはじめてしばらくすると葵の表情が徐々に険しくなり、10手も打ちあったころには中学生とは思えない目に殺気を灯した危険な形相になった。

「ねえ。さっきからなにやってるの?」

中学生の女の子とは思えないドスのきいた低い声でそう言ったのである。

「ど、どうしたんだ葵くん?」

担任の男性教師は葵の様子に、慌てた様子で聞き返しているが、葵は鋭い眼を響子に向けたまま無言だ。

響子はその中学生の視線に心の芯が冷えて、背中に汗が一気に噴き出たのを覚えている。

「なに・・って?」

ようやく口を開いた響子は葵という中学生の迫力にタジタジとなりながらも、なんとか表情を引きつらせずに答えることができた。

びしぃ!

葵は応えず、白く細い指が、碁盤に黑石が砕けんばかりに叩きつけるように打つ。

先ほどのやる気のなさそうな顔とは全く別人の形相で葵は響子の目を睨みながら指したのだ。

(み、みえなくなったわ・・)

先ほどまで、葵が次に打つ手、その次に打つ手と見えていたのが突然見えなくなったのだ。

響子は今までにない経験に戸惑うも、ずっと戸惑っているわけにもいかない。

葵の視線を受けながらも、響子は打ち返す。

響子の打った一手を見て、葵は少しだけ表情を和らげてから「ふぅ」と笑った。

葵が異様な威圧感を発したのはこの一瞬だったので、碁会場のギャラリーは、葵が発した殺気ともいえる気迫に気づくことなく、珍しい組み合わせの対戦者たちを、わいのわいのと興味津々で観戦している。

その後は、粛々と盤上は進み5目半の差で響子の勝ちで幕を閉じた。

ドキドキと早鐘のように打つ心臓を、誰にも気づかれないようにして響子はほっと胸をなでおろした。

(さっきのこの子の気迫・・・いったい何なのかしら・・。そのあとから、この子が打とうとしてるイメージが全然見えなくなったわ。地力だけでも勝てたけど、この子・・いったいどういう子なの?)

響子は自分の特異体質で相手の思考したイメージが映像となって流れ込んでくるが、途中から全く見えなくなったのだ。

ただ、長年培った囲碁の実力は葵を純粋に上回っていた。

それに純粋に葵と呼ばれる少女との一局は楽しめたのである。

対局が終わった時、響子は自分の背中がじっとりと汗ばんでいることに初めて気が付いたのだ。

この少女との対局は、ただの碁の対局とは違う緊張感があったのだ。

(この対局の緊張感・・。ほんとうに合戦みたいな緊張感があったわ)

「あ~あ、負けちゃった」

一方の葵は、さきほど中学生とは思えない気迫のこもった殺気を一瞬だけ叩きつけてきた様子は最早全くなく、あっけらかんとした様子でそう言ったいる。

ともかく、これが二人の出会いで、日常の退屈しのぎがてら葵は響子がいる碁会場にしばしば来るようになり、仲を深めていったのだ。

そして葵はすぐに響子に懐きだし、響子が最高学府である東都大学生ということを知ると、響子を家庭教師として雇ってほしいと父親に駄々をこねたのであった。

葵の強引すぎる提案に、響子も最初は戸惑っていたが、碁会場でのアルバイトよりはるかにいいお給料で勧誘されていたし、なにより響子もこの葵のことを可愛く思えてきていたので、この外観が城のようなお屋敷に家庭教師として住込みで働くことになったのである。

外観は銀灰色で中世の城を思わせる大きな屋敷、大理石の床や壁にこれでもかと飾られた調度品は、どこかアンバランスで調和がとれていないが、どちらかと言えば庶民の家庭に育った響子にとって、金持ちの美的感覚というのはわからない。

純和風だった実家からすると、かなり落ち着かない雰囲気の屋敷だが、葵と打ち解けていくにつれ、そんなことは気にならなくなっていった。

葵は140cmほどの華奢で小柄な少女、青みがかった艶のある黒髪に、大きな目、若い子特有の透き通るようでいて張りのある白い肌、スカートから伸びたスラリと伸びた足、胴もまだまだ細すぎるが、胸はほんのり膨らみ、腰はすでに括れ、女の身体になりつつある前の美少女だ。

大きく見開いた目の中の黒い瞳は、色が濃すぎて光の加減で少しばかり青く見える。

中学生と言われれば大人びているが、大学生と言われても通用するぐらいには大人びた顔、いや目に宿る知性がこの子を童顔ながらも大人びて見せるのだろう。

なんとも不思議なあやうさのある美しさを持つ美少女だ。

まさしく城と言ってもいいような屋敷にいる住込みの家政婦たちや執事は、響子が家庭教師として葵の面倒をみてくれるようになって、困った天才少女のお守り役を担ってくれていることに本気でありがたがっている。

響子と葵はまだ数か月程度の付き合いしかないが、響子は葵のことを妹のように可愛がり始めていたのだった。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 10話【回想】小田切響子の学生時代 終わり】11話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 11話【回想】小田切響子と緋村紅音

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 11話【回想】小田切響子と緋村紅音


宮コー十指、作者的能力者強さランキング

(まだ6人しか登場してませんけど・・・)

1.緋村紅音(紅蓮)【クソビッチ】

  「まあ当然の結果よね。あたりまえだわ」-緋村紅音

2.最上凪(蜘蛛)【ポンコツ】

  「ランキング?・・興味ない」-最上凪

3.石黒実花(幻魔)【腹黒】

  「あらん。後塵を拝しちゃったわねん。でもこのあたりが順当かしら」-石黒実花

4.稲垣加奈子(銀獣)【ミス宮コー】

  「いやいやいや!私の方が(腹黒より)強いでしょ?!」-稲垣加奈子

5.宮川佐恵子(魔眼)【フラットチェスト】

  「もう少しリハビリがすすめば後れなど取りません・・」-宮川佐恵子

6.神田川真理(菩薩)【菩薩モドキ】

  「強さを競い合うなんて、みなさん女性ホルモンが足りないんじゃないんですか?」-神田川真理

能力の相性などによってはランキング通りの勝敗にはなりません。
上記の能力者強さランキングでの(  )内は宮川十指に数えられる彼女たちの二つ名で、【  】内は稲垣加奈子がナイショで勝手に名付けている愛称です。

宮コー十指、作者的エッチさランキング

1.神田川真理(肉食)
真理は【忘却】技能を持っているので、つまみ食いした男の記憶を消しています。食べた男の数は・・・人(真理の名誉のため自主規制)。お上品な顔をして宮コー十指の中ではぶっちぎりでエッチな肉食女性です。ただその肉食ぶりの痕跡を残すことなく、そして誰にも知られずにいるため、今日も牡丹が綻んだような笑顔で周囲の男たちを勘違いさせています。男性諸君は憧れの高値の花、神田川真理をせっかく抱けても記憶に残らないという仕様となっております。

「あら?いけませんよ?〇〇さんには奥様がいらっしゃるじゃありませんか。でもどうしてもというのであれば吝かではありませんが・・」-神田川真理

2.緋村紅音(バイセクシャル)
実は自分より強い男に激しく抱いてもらいたい願望がある緋村紅音。しかし、個人として猛烈すぎる強さであるため願望が叶うことはない。そのうえ宮川誠の愛人であるので、宮川を恐れて紅音にちょっかいを出す男はいない。自分から他の男を物色することもできずにいるので、かなり欲求不満気味。その鬱屈から社内の同姓に手を出すも、紅音自身がM気質であるのに虐めてほしい女性ばかりが懐いてきて、紅音は辟易していました。

「ふにゃちんばっかりで、ろくな男がいないじゃないのよ!」-緋村紅音

3,石黒実花(オープンスケベ)
石黒実花は性に開放的。魅力的な男にアプローチされるのは大好きで、石黒のメガネに適った男はベッドを共に過ごしやすい。ただ、石黒に『男』という範疇に入れてもらえなかった男は「その他大勢フォルダ」にぶち込まれて能力でデクにされるという噂が絶えない。

「ベッドでは逞しくない男だったとしても、私にかかればあなたも高性能なバイブになれるわ。そのほうが貴方も恥をかかなくてすむでしょう?私も楽しめるしね」-石黒実花

4,稲垣加奈子(パイパンドM)
普段凛としていて活発な印象を与える明るい美人、ミス宮コーと自他とも認める稲垣加奈子はドM。ベッドでは男にリードしてもらいたい子ちゃん。好きなスタイルはバックで、お尻を叩かれながらされるのが大好物。能力発動しすぎると髪の毛の色素が薄くなるのが原因なのか、下の毛はいつの間にかなくなってしまってつるつる。本人はパイパンなのをかなり気にしている。

「四つん這いになれとか・・・私、毛がないからさ・・・丸見えになっちゃうじゃん・・ゴクリ」-稲垣加奈子

5,宮川佐恵子(むっつりスケベ)
宮川佐恵子は【冷静】の状態を得る技能を常に自身に付与している為、普段は余裕のある蠱惑的な笑みを湛えたお堅い鉄面皮。しかし、ただ恋愛に臆病なだけで自分が傷つくことから逃げているだけである。本性はむっつりスケベで【冷静】の効果がきれたり、オーラが枯渇して自制がきかなくなると、休日はほとんど自慰に耽ってしまう。
そうなってしまうことに対して自己嫌悪になるほど恥じている。

「わたくしが、こんなことしてるなんて知られたら立場も失ってみんなに笑われてしまいますわ!」-宮川佐恵子

6.最上凪(見た目は清楚清廉)
無表情で無口。何を考えているかわからない表情の最上凪は、他を寄せ付けない圧倒的な戦闘力を持っている。しかし性に関しては実は以外に普通である。ストレートに誘えばワンチャンスは十分ある女性なのだが、強さ的に宮コー内部では紅蓮と並ぶほどの名を馳せているため、誰からのアプローチもない。本人は何故自分はモテないのかと実は少しだけだが密かに悩んでいる。
誘えば案外とチョロいかもしれないのだが、宮コー内部では誰も声を掛けてくる猛者がいないのが現状。
ただ、最近モゲこと三出光春がやたらと話しかけてくるのだが、それに関しては本気で嫌がっている。
一時期は、宏を既婚者と知らなかった時に、佐恵子には宏がお似合いだと勧めようとしていた時期もあり、男性を見る目はあるし、凪自身も宏が好みだったようでもある。

「どうも生理的に受け付けない」-最上凪


―本編-

「葵さん、本日のお勉強はここまでです。もうリー群論やホモロジー代数学もずいぶん理解してきましたね。すごいわ。私が中校生の時はまだまだ基礎数学すら終わってなかったのに、本当に葵さんの理解力には驚かされます。・・・・この調子なら来月には解析学もはじめても大丈夫そうですね」

「えーーー!やーっと今日の勉強が終わったところなのに次の話ししないでよぉおおお~!それにしても長い!一日4時間の勉強時間は長すぎるよおぉお!」

葵と呼ばれた小柄で可憐な少女は、見た目の愛らしさには似つかわしくない口調で、青み掛かった艶のある髪をぶんぶんと揺らして首を振り、盛大に悪態をついた。

大理石の白い柱8本で支えられた天上の高い部屋の真ん中で、葵はそう言うと、マホガニーの椅子に反り返り、家庭教師である澄んだ目が特徴的な清楚な美人を拗ねた目で見上げた。

「学校に行きたくないから家で勉学に励めるようにしてと言ったのは葵さんじゃないんですか?学校から許可は得ているとはいえ、本当は午前、午後、夕食後に2時間ずつ勉強をさせるようにと葵さんのお父様から言われてるんですよ?そこを葵さんが4時間で6時間分頑張るからって言うから今のスケジュールにに変更させてもらったんです。・・それとも最初の言いつけ通りのスケジュールに戻しましょうか?」

椅子に浅く腰かけ身体を大の字に近い恰好にして座っている葵に対して、指定されているメイド服のような服装を着用している美女はそう言うと、少し悪戯っぽい笑顔を向ける。

「ごめんごめん!4時間でオッケ!響子さんの配慮にマジ感謝してるからぁ!響子さんと遊ぶ時間がなくなっちゃうじゃん!」

「まあ・・」

抱き着いてそう言う葵に対し、響子はそう言われたことに嬉しそうな顔で目を閉じ、うんうんとうなずき葵の頭をなでてやる。

響子は家庭教師としての仕事が終わった後は、葵と囲碁対局しているのだ。

中学生の女の子の趣味としてはかなり渋いが、葵は今囲碁に嵌っている。

それに響子にとって、ゲームと言えば基盤での火花散る静かな駆け引きが醍醐味の囲碁しかしらないので、女子大生の響子も渋い趣味の持ち主といえる。

(わたしの好みがちょっと古いだけなのかもしれないわね・・・。現に大学の友達じゃ碁をする人なんて一人もいないし・・)

心中でそう呟く響子に、葵は抱き着きながらゲームの時間をとり上げないでと、半分ウソ泣きを交えたそぶりで訴えている。

「今日こそは!今日こそは響子さんに勝つ!って毎日思うんだけど、いつもあと少し足りないのよね!今日こそは響子さんが一敗地にまみれた顔を拝むんだから!」

囲碁歴は響子のほうがはるかに長い。

しかし、葵は響子の指導もあって囲碁歴3か月にして驚異的な成長を見せ、めきめきと頭角を現してきているのだ。

「葵さん、もう中学生になったのですから、いつまでもそんな言葉遣いではダメですよ。前の家庭教師さんには言葉遣いのこと何も言われなかったのですか?」

響子は、葵の艶のある黒髪を撫でつつ見下ろしながらそう聞くが、葵から返答はない。

艶のある黒髪を響子に撫でられるにまかせたままで無言である。

響子が聞こえなかったのかな?と思って再度聞きなおそうとしたところで葵が抱き着いている響子の肩越しを見て「あっ!」と歓喜の声を上げたのだ。

「どうしたの?」

目を見開いた葵に対しても、響子は笑顔で優しく聞き返してやるが、葵や響子たちがいる部屋の外がなにやら騒がしくなってきていたのを感じていた。

部屋の外では家政婦たちがざわめき、執事が足音を乱れさせている気配が感じ取れる。

そしてしばらくすると、葵たちがいる部屋の両開きの扉がばん!と開かれた。

「お姉ちゃん!」

葵が響子から離れ、満面の歓喜を浮かべてお姉ちゃんに飛びついた。

かなりの勢いで抱き着いた葵を、葵の姉は難なくキャッチしてぐるんと抱きすくめたまま葵を一回転振り回してから降ろしてやる。

肩甲骨あたりまである赤髪が印象的な美少女、葵と双子だと聞かされてもそうかと納得してしまう容姿。

ただ、お姉ちゃんと呼ばれた葵の姉は、容姿は双子同然ほどに似ているが、目の鋭さや纏う雰囲気はまるで違う。

「ただいま、葵」

背丈や容姿は似ているのに、この赤毛の姉からは暴を含んだ圧迫感が発せられているのである。

響子は、初対面の葵の姉に対して、その存在感に圧倒されながらも雇い主の娘に失礼があってはいけないと、丁寧に頭を下げた。

「はじめまして。浜野と申しまして、葵さんの家庭教師をさせていただいております。以後お見知りおきください」

その姉は、丁寧に挨拶して自己紹介をした響子に対し、頭のてっぺんからつま先まで響子をジロリと一瞥すると、形のいい顎をつんと持ち上げて言ったのである。

「ふん?はじめましてですって?」

赤毛の姉は響子の挨拶に対して心外だと眉をひそめて語気を強めた。

葵の姉とは言え、見た感じそうさほど葵とは年は変わらないように見える少女から、年齢不相応なセリフが帰ってきたことに、響子は絶句する。

ワインレッドのワンピースに膝までの黒いレギンス、ワンピースと色をそろえたやや高めのヒールも、歩き方、髪をかきあげ、響子より背が低いにも関わらず見下すような仕草の一つ一つが女優の演技のように洗練されている。

装飾品のネックレスやピアスも一流品と一目でわかるが、この赤毛の女にとってそれらすら、自分を引き立てるためのモノのように感じさせる雰囲気を纏っていた。

予期せぬ言葉を浴びせられた響子がぽかんとしてしまっていると、葵そっくりの赤毛の女性が続けて口を開いた。

「記憶力がわるいのかしら?そんなグズだと葵の家庭教師はまかせられないんだけど?東都大学3年理学部の浜野響子さん」

初対面にも関わらず、かなりの暴言を吐かれたことに響子は言葉を失ってしまい、言葉を返せないでいると、そんな響子に姉に抱き着いていた葵が口を開いた。

「お姉ちゃん!家庭教師は響子さんがいいよう!」

「そう?でもねえ・・同じ大学に通ってる先輩であるこの私を知らないなんてどうかしてるのよね」

葵のセリフに赤毛の姉は、形のいい顎に指先を当ててから、その手を赤毛の前髪にやって髪を弄んで、迷った素振りを葵に見せている。

「あっ・・!」

響子はそのセリフで一気に赤毛の暴君を思い出した。

大学内で知らない者はおそらくいない人物。

黙ってさえいれば、12歳の妹と容姿が酷似しているが、この姉の年齢は響子より一つ上の22歳のはずである。

そして、目の前で前髪をもてあそぶ仕草には見覚えがあった。

前髪を指先でもてあそぶ赤毛の美女に、なぜ気づけなかったのだろうかと響子は心の中で叫ぶ。

わかっていればアルバイトを断っていたかもしれないというのに、ここで働きだしてすでに3か月も経ってしまっている。

(いままで、一度もこの屋敷にいたことなかったのに・・!)

葵の苗字を思い出して、響子は目の前の赤毛の女性の妹かもしれないと思い当らなかった自分の迂闊さを呪いたい気分だった。

「緋村・・紅音さん・・」

「なんだ。やっぱり私のこと知ってるじゃない。まあ、当然よね。葵からはずいぶん気に入られてるみたいだけど、なんで私のことすぐに分からなかったの?同じ学校なのに私のこと見たことないわけないでしょ?」

「申し訳ありません。普段学校での服装とかなり違っていましたので・・・。それに大学ではお話する機会も恵まれませんでし、紅音さんを近くで見たことなかったのから気づけませんでした」

紅音は学校内でも赤い原色系の衣装を身につけていることが多いが、今日のようにドレスに近い普段着姿など見たことがない。

響子は緋村紅音のような人目を惹き、周囲を平伏せさせるようなタイプの人とは、できるだけ関わらないようにしていたのだ。

それに、本当の妹のようにかわいがっている愛くるしい葵の姉が、まさかこの緋村紅音だとは想像もつかなかったのである。

「お姉ちゃん!響子さんをいじめないでよ!」

深々と頭を下げる響子を見かねたのか、葵が響子を庇うように声を上げる。

「わかったわよ葵・・。今度の家庭教師は良いっていってたわね」

三食ついてて、部屋も用意してくれてるせっかくの高額アルバイトを首になる。

ただ、それでもいいかもしれない。と思ってしまった響子だったが、妹である葵のセリフは、赤毛の姉には効果てきめんで、紅音の顔に現れていた剣が、妹の頭をなでている間にみるみるなくなってゆく。

妹とほぼ同じ身長の赤毛の姉は、葵の頭をなでるのを止め、響子の方へと視線をもどす。

「葵から聞いているわ。ずいぶんと葵は貴女のこと気に入ってるみたいね。・・勉強は私が教えてあげてもいいんだけど、私は忙しいしそれに・・・この子私と二人っきりになるとずっとこの調子だからね。勉強になりゃしないのよ。貴女のことは私も知ってたわ。なかなか成績優秀ってゼミの教授も言ってたしね。浜野さんなら中学生の葵の勉強なら十分みてあげられそうよね」

「ありがとうございます・・」

尊大な言葉を重ねる小柄な赤毛の美少女と言っても通用する姉、響子より1つ年上であるはずの緋村紅音のセリフに、響子はそつなく頭を下げてやり過ごす。

「葵も貴女のこと認めてるみたいだし、しっかり励みなさい」

艶のある赤毛を手で優雅に払うと、葵の姉、いや最高学府である東都大学に通う者なら知らない者はいない人物、緋村紅音は尊大で他を見下すような仕草で、どこか逆らい難い雰囲気があふれ出させながらそう言ったのだ。

「は、はい。ありがとうございます」

再度頭を下げた響子の態度に、紅音は満足そうな表情で、顎を突き出してロールした髪を肩の後ろに払う。

「ええ、私から見ても貴女が今まで来た家庭教師の中じゃ本当に一番マシそうだしね。葵、しっかり学びなさい。この子、一応お姉ちゃんと同じ大学に来れてる理学部の子だから数学はそこそこできるはずよ」

「うん!お姉ちゃんみたいになれるように頑張る!響子さんもやっぱりすごいんだね。お姉ちゃんと同じ大学で、お姉ちゃんにこんなに絶賛されるなんて!」

響子は今までのやり取りの中のどこに絶賛があったのかと盛大に首を傾げたい心境だったが、苦笑いを何とか押し殺して葵になんとか頷いてやることができた。

「じゃあ浜野さん、夕食後も葵と遊んでくれてるんでしょ?私は出かけるからしっかりお願いね」

響子は雇い主の長女に失礼が無いよう、「いってらっしゃいませ」と頭を下げる。

葵にも初対面のときに強烈な印象を受けたが、その姉である紅音はまた違った種類の強烈な印象を響子に与え、去り行く小さな背中からあふれる存在感をまき散らしながら、颯爽と去って行ったのであった。

最後まで、姉が出かけていく姿を惜しんでいた葵の姿を響子は姉妹愛もいろいろあるのねと感慨深げに見ていたのである。

しかし、響子の仕事はあくまで葵の家庭教師なので、今後もそこまであの紅音お姉ちゃんと絡むことはないだろうと思おうとし、自分に言い聞かせたのだった。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 11話【回想】小田切響子と緋村紅音 終わり】12話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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