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第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 14話【回想】 エデンの変


第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 14話【回想】 エデンの変


夜の繁華街の光をそのボディで反射させた黒い高級四駆は、店の前にゆっくりととまった。

運転席から降り、店のものにキーを渡して助手席側に回り込んできた錫四郎が、手を差しのばしてくる。

「佐恵子さん、ここだよ。僕の行きつけの店なんだ」

「え、ええ・・この店・・ですか?」

佐恵子は錫四郎の手を取り、車を降りながら何とか笑顔を返してそう言った。

手を引かれながら車を降り、店の外観を眺めた佐恵子は、彼氏にエスコートされているというのに笑顔に陰りが出てしまう。

錫四郎が連れてきた店は、繁華街の道沿いに堂々とある白亜の石張りの重厚な建物であった。

しかし、その白亜を植木からライトアップさせているライトの色が青や赤とけばけばしいすぎる。

白い照明でライトアップしていたならば、高級ホテルのような雰囲気がでるのであろうが、派手なライトが佐恵子的にはせっかくの建物の雰囲気を台無しにしてしまっていると感じていた。

(なんてセンスですの・・)

まあここは高級ホテルではなくクラブなのだからしょうがないのだが、佐恵子のような世間知らずには異様に映ったのである。

そしてさらに、その白亜の建物の周囲にたむろする若い男女の風貌のほうがさらに佐恵子は不安をかきたてる。

店の周りに屯する彼らの年恰好は比較的若いが、着ている服も髪型もいかにも夜の装いなのだ。

男たちはカジュアルな服をだらしなく着ており、夜だというのにサングラスをかけたり帽子をかぶっている者もいる。

そして女たちはこの距離でも匂うほどの香水が香っており、無駄に露出の高い服を着ているのだ。

錫四郎に手を引かれ車から降りてくる佐恵子に対して、そのたむろしている全員の感情がいっきに佐恵子の目を通して頭に流れ込んでくる。

そしていつもどおり、いっきに不快になりかけた感情が、【冷静】によって瞬時に霧散していく。

財閥の令嬢としての日々では決して出会うことのない人たちから、雑に言うと「得体の知れないお高そうなヤツが来た」という感情が一斉に頭に流れ込んできたのだ。

向けられる負の感情によってわいてくる怒りや不快の感情を【冷静】が一気に打ち消す。

佐恵子にとってはいつものことなのだが、気持ちのいいものではない。

【冷静】で感情の高ぶりは強制的に抑えられるが、彼らの感情の内容を遮断できるわけではない。

(なによあの女・・・、場違いな恰好で来ちゃって)

(レクサスにイケメンの彼氏・・あんなださい女に・・むかつくわね)

(そもそもこの店は男連れで来る店じゃねーんだよ。かえれよブス)

初対面だというのに同姓からは容赦のない敵意むき出しの感情が向けられてくる。

(男連れかよ・・。男と離れたすきに声かけてみるか)

(ひゅー・・。ちょっと細いがツラはなかなか・・・)

(足なげー・・。その足無理やり広げて犯してぇー)

そして男たちからは下卑た慣れすぎた感情を向けられる。

実際に言葉が頭に流れ込んでくるわけではない。

ただ、感情が色となって流れ込んでくるだけなのだが、長年この能力に慣れている佐恵子にとっては悪い意味で使いこなしてしまっているのだ。

頭に流れ込んでくる色と同時に、どんな言葉を言っているのかを想像できてしまうのである。

日常的に【感情感知】で他者の感情が目をとおしてとめどなく頭に流れ込んできてしまう佐恵子にとって、【冷静】などの付与術で自身の精神を常に防御していないと佐恵子本人がまいってしまうことは、子供のころからとっくにわかっていた。

【感情感知】は宮川家の者なら、多くのものが覚醒する瞳術だが、同時に付与術も身に着けているものが多いのは、このためだろう。

佐恵子もその例に漏れない。

(人が得体のしれないモノを受け付けないのは慣れてますが、ここにいる者たちはマイナスの評価を下すものが多すぎますわね・・・)

佐恵子は【冷静】のおかげで取り繕った笑顔を少し俯けてため息をつき、目の前の彼に目を向ける。

(それに引き換え・・錫四郎さま・・不思議な方ですわ・・)

佐恵子の眼で見ても錫四郎の感情は驚くほど穏やかで、好意と友愛、そして敬意の色が常に入り交じっている。

錫四郎に眼の能力どころか能力のことは話題にもしていない。

しかし、佐恵子から見れば錫四郎が能力者なのは間違いないことはわかる。

眼のせいでオーラ量が測れてしまうからだ。

錫四郎が無自覚な能力者かどうかわからないが、常人よりもオーラ量が明らかに多い。

(いろいろとお話したいことはありますが・・・まずは確かめなくては・・。私はこの人のことを・・好き・・だと思いますわ)

好きだ。と断言できないのは理由がある。

錫四郎が佐恵子に向けてくれる感情は確かに好意的なモノばかりなのだが、それにしても錫四郎の精神は安定しすぎている。

錫四郎には今まで何度か会ったが常に精神がほぼ一定なのだ。

佐恵子はこんな人には出会ったことがない。

先日プレゼントを渡した時、喜びの言葉もお礼も言ってくれたが、その時も今と同じで、感情の変化がほぼ認められないのだ。

いままでどんな人間でも、そういうときは感情の起伏が大きく見て取れただけに、佐恵子はかえって不安になったのである。

そのほかにももう一つ理由がある。

常に佐恵子が自分自身に付与している【冷静】効果のせいで、自分の感情もよくわからないのである。

【冷静】を常に自分に付与していないと、相手の感情が流れ込んできてしまい、それに自分の感情が反応してしまう。

敵意や嫉妬を向けられる時の自分の感情は【冷静】で霧散させてくれてもいいが、好意を向けられて芽生える自分の感情も霧散させてしまうのだ。

それゆえに佐恵子自身、自分の感情に自信を持てなくなっていた。

【冷静】は自分に付与した瞬間から徐々に効果が弱まりだすが、今の佐恵子でも最長8時間ぐらいは持つ。

学校に行く日は、出かける前と、お昼に掛けるので、学校にいる間は【冷静】は効きっぱなしだ。

そして、錫四郎と会う時間帯のときも【冷静】の効果は薄まってきつつあるとはいえ、ほぼ付与が効いている。

だが、【冷静】などの付与術は【感情感知】と違って、比較的コントロールできる。

すなわち自分の意志で解除できるのだ。

ふだんは錫四郎と会っても解除しなかったが、今日は解除するつもりでいる。

(今夜は・・・今夜こそは・・二人っきりになるときに、錫四郎さまを【感情感知】で見ながら、【冷静】を解除してみますわ・・・これで、わたくしの感情がわかります・・。できればクラブなどではなく、二人きりになれる公園などがよかったのですが・・いたしかたありません・・。この水曜日を逃せばまた来週まで錫四郎さまには会えなくなってしまいます・・・。錫四郎さまのことは凪姉さまにもバレてしまいましたから、長引けば水曜日の自由時間にも見張りや護衛が付いてしまうかもしれません・・・。それどころか凪姉さまが錫四郎さまに干渉する可能性すら・・。その前に自分の気持ちだけでも確認しておかなければ・・)

「佐恵子さん。こっち予約してあるんだ」

薄暗い店内を所狭しと男女がお互いを値踏みし合うようにして、音楽に合わせて身を任せる中、錫四郎は佐恵子の手を引き奥へと進んでいく。

「こ・・こんなところで踊るのですか?」

佐恵子が思っていたダンスとはずいぶん趣が違う。

薄暗い店内で身を寄せ合い音楽に身を任せている男女の中には、明らかに肌を合わせすぎ唇すら重ねている者たちもいるのだ。

「そうだよ。佐恵子さん真面目そうだけどたまにはこういうのもいいんじゃない?」

「きゃっ」

錫四郎に腰に軽く手をまわされただけで、少し悲鳴を上げてしまい佐恵子は自分の口を手で押さえた。

「ご・・ごめんなさい。・・おどろいてしまって・・つい声をだしてしまいましたわ・・」

「緊張しすぎだよ佐恵子さん。すこし何か飲んで落ち着いた方がいいね」

錫四郎は佐恵子の腰に手をまわし、身体をやや抱き寄せて優しくそういうと、近くのボーイに向かって指を鳴らして呼び、グラスを持ってこさせている。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

手渡されたボウルの細いグラスには薄いクリーム色の液体があわ立っている。

錫四郎も佐恵子と同じ形のグラスを手に取り、ぐいとグラスを傾ける。

つられて佐恵子もルージュが付き過ぎないようにリムに唇を当てて、グラスを傾けた。

思いのほか強いアルコールだったが、甘く微炭酸で口当たりがいい。

錫四郎はグラスを空にしているが、佐恵子は二口ほど飲んだだけだ。

グラスから唇を離し、ほぼ密着した錫四郎を見上げる。

見つめてくる錫四郎からは、好意を示す色が複数現れていた。

見える感情色に嬉しくなり、見とれてしまったのかうっかり腰に回された腕に体重をあずけ過ぎそうになる。

しかしいくら何でも体重をかけすぎてしまったと思い、身体を戻そうとするがなぜか腰から下に力が入らないばかりが、足も思った通りに動かせず足元がおぼつかない。

完全に体勢を崩し、崩れ落ちそうになったところで、錫四郎に支えられるように抱きすくめられる。

グラスもきちんと掴んでいられない。

床に落として割ってしまってはいけないという思いから、かろうじてステムの部分を摘まんでいる。

しかし、グラスを水平以上にかたむけてしまい、こぼれた液体が服を濡らしていく。

指に力が入らない。

パリン!

グラスの割れる乾いた音がするも、音楽と人いきれでかき消されてしまう。

こんなあり得ない失態をわたくしが・・・。

「すずしろぅさまの服をよごしてしまい・・まひたわ・・。もうひわけ・・ございましぇん」

「いいんだよ。服なんてすぐ脱ぐからね」

「・・なじぇですの?」

錫四郎に眼を合わせるが、視界が定まらない。

顎も唇も、歯医者で麻酔注射をされたときのように感覚がおぼろだ。

ろれつが回らない。

錫四郎がボーイに割れたグラスを片づけさせようと手招きしているのが見える。

「ふふふ、佐恵子さんが飲んだのはレイプドラッグ入りのシャンパンだよ。この店じゃ公認なんだ。今から起こることはよく覚えてないだろうけどちゃんと家に送ってあげるからね」

笑顔で錫四郎が何事か言ってくれるが、よく聞き取れない。

ぼやける視界が暗転しかけるなかで錫四郎の好意を示す感情色だけが安心できた。

・・・・・・・・・
・・・・
・・


一方、偶然か必然か佐恵子と同じエデンに居合わせた寺野麗華と豊島哲司サイド

「麗華・・・麗華!」

「んぅ?なによう」

普段のポニーテールをおろし、黒髪にジェルをつけてウエイブさせた麗華が熱っぽく返事をする。

「ちょっとくっつきすぎやがな」

「だってしょうがないでしょう?チークダンスなんだし。それにさ、いまさらこのぐらいくっついたからって・・ね」

黑のタンクトップにカーキ色のリブトップ、ボトムはワイドドレープ気味のデニムパンツ姿の姫こと寺野麗華が、店内のチカチカ光る照明で顔を彩りながら、笑顔を向け意味深にウインクしてくる。

超罪つくりな男、和尚こと豊島哲司も麗華の服装に合わせてタンクトップにむき出しの筋肉を隠すため黑のトップスを羽織った姿である。

麗華のダイナマイトな胸がきつそうにタンクトップにおさまっているのを間近で見下しながら、どうしても谷間に目が泳ぎそうになるのを堪えて哲司は声を潜める。

「・・そやけどこんな人が多いところでほんまに堂々とやってんのか?」

哲司のセリフに、麗華もうっとりしていた顔をやや引き締めて返す。

「たぶんね・・。私の担当じゃないんだけどさ。こういう案件を受けてる同僚の子がいるってこないだ言ったでしょ?」

周囲を警戒し小声で話しながら、麗華は哲司の胸に顔を寄せながらチークを踊っているのだ。

ここは『エデン』と呼ばれる最近人気のクラブである。

麗華が哲司から頼まれて調べていたグリンピア興業が運営しているクラブだ。

哲司によって麗華がとんでもない被害に合った夜からちょうど1週間後、麗華の仕事の伝手で最近急増しているレイプ被害者の捜査でこのクラブに潜入しているのだ。

麗華の獅子奮迅の働きで、被害者の証言などをまとめ上げこのクラブが巣窟になっているとあたりをつけたのである。

麗華は哲司の為にひと肌もふた肌も脱いでいるのだが、当の哲司はまさか麗華がここまで協力してくれたのは意外だったようで、いささか驚いていた。

「そやけど麗華さすがやな。いくら現役弁護士言うても、自分の仕事もあるのにこんな短期間で調べてくれてほんまたすかるわ。マジ感謝や。サンキュな」

「・・そりゃ・・さ。私だって・・・和尚のためなら・・がんばっちゃうわよ」

哲司の胸に顔を押し付け、真っ赤になったまま小声で言う麗華が、照れ隠しに更に密着してくる。

そのため、かなり弾力のある麗華のダブルダイナマイトが、哲司の腹筋に押し付けられてくることになるが、幼馴染の麗華にこんな積極的なことをされる覚えの無い無自覚な加害者、哲司は織田裕二似の顔で、口を真一文字にして密着している麗華によこしまな棒を固くして当ててしまわないよう念仏を唱え精神を集中させていた。

(南無阿弥陀仏!麗華いったいどないしてしもたんや・・!?めっちゃくっついてくるやんか・・!唇もめっちゃ近いし、息が・・・麗華の息が当たる・・・当たるといえば胸や!・・柔らかすぎず固すぎず・・・すごい弾力のダブルパワーでめっちゃ押し付けてくるやん!なんでや!?こないだまでツンツンキャラやったのに、こないにキャラが変わられたら戸惑うわ!)

困惑する無自覚な加害者、豊島哲司はあの夜の記憶は途中からまったく無い。

あの日、河川敷の粗大ゴミを、重機を使わず素手で持ち上げてトラックに積み込んだ重労働をしていた哲司はその日喉がカラカラだったのだ。

しかし、いくら酒豪の哲司とはいえ、スピリタスをポカリのようにがぶがぶ飲んでしまったのはいけなかった。

当然哲司は麗華に何をしたのか全く覚えていない。

一方、被害者である麗華は、あの日以降、愛してくれた男の為に自分の仕事が終わったあと、あやしい探偵事務所に勤める彼氏になったはずの哲司の手伝いを健気にしているのであった。

「こういう事件の被害者は、本当に氷山の一角のはずなの。でも被害者の女性で3人もこのクラブの名前を口にしてるのよ」

「・・被害者はもっとたくさんおるってことか」

「そういうこと。最初は頼まれて手伝うって感じだったんだけどさ。調べてるうちにこういうのって許せないなってなってきたのよね・・。特に被害者の人と話しちゃうと・・」

「・・せやな。俺も宏が帰ってくるまでに探偵の仕事ちょっとでも慣れとこう思てやってたんやけどな・・。宏の性格からしてもこういうこと我慢できへんやろうし、宏にうってつけの仕事やと思うで。困った人を助けたいってのもあるやろうけど、宏のええところはそれで見返りとか求めそうにないってところやな。そういう不快なことするやつを排除したいだけっていうのも宏の大きな動機な気がするな・・」

「寡黙でつかみどころないけど、ほんといい人よね。宏君って・・。あのスノウが熱を上げるのもわかるわ・・でも私はお・・」

麗華が言いかけた時、哲司は奥の方でかすかなざわめきを聞き逃さなかった。

「しっ!麗華・・聞こえたやろ?!」

「えっ?なにがしっ!よっ!?」

哲司と違い麗華は聴力を強化してなかったので、聞こえなかったようだ。

哲司は不満顔の麗華には後で謝ることにして、耳に能力を集中させる。

「ガラスが割れた音や!・・・それに・・これは・・」

音楽で聞こえにくいが、哲司に聴力をピンポイントに照準を定めて強化されてしまえば、もはや聞き逃すはずがない。

下卑た男たちの笑い声。

幾人かで何かを引きずる音。

哲司は目星をつけた方向に目を向け視力強化もする。

明らかに視線を阻むように不自然に立っている男たち。

しかし、微かに見えた。

「おい!ちょいまてや!」

急に大声を出した関西弁の男に、周囲で何も知らず踊っていた男女たちが一斉に哲司と麗華に目を向ける。

哲司には一瞬だけ見えたのだ。

見間違いなどではない。

ぐったりした髪の長い女が奥の方へと何人かに抱えられて連れていかれるところを。

「おい!とまれ言うてるやろ!」

人をかき分け進む哲司であったが、その様子に気づいたクラブのボディガードたちが駆け寄ってきたのだ。

「騒がないでください!どうしたんですか?!」

口調は丁寧を装っているが、ボディガードたちは哲司たちを奥に行かせないように立ち、明らかに哲司を威嚇している。

「ほう!・・こりゃ・・ほんまに当たりみたいやな・・」

「ね、ねえ・・。大事になっちゃわない?」

戸惑いを見せる麗華を背に護るようにして少し後退った哲司だったが、先ほどの女の様子を見る限り一刻の猶予もなさそうだと感じていた。

(どこかに連れ去られたら終わりや。証拠も無しにされて、うやむやにされてまう)

「どかへんのやったら無理やり通るだけやで」

「摘まみだせ!」

哲司のドスの効いたセリフに対し、リーダー格の男がボディガードたちに嗾ける。

屈強な男たちが哲司に目掛けて、肉薄する。

「どけ!無駄や!」

哲司は筋骨隆々の身体に似合わず流麗な立ち回りで当身を食らわし、致命傷にならないようボディガード二人を一瞬で失神させてしまった。

クラブ内にいた客たちも、この騒ぎで悲鳴を上げ、この乱闘に巻き込まれないよう入口に駆け出し、店内は軽く恐慌状態に陥ってしまう。

その時である。

「きゃっ!」

麗華をボディガードの一人が背後から羽交い絞めしたのだ。

「おい!やめとけや!その女は・・!」

哲司が叫ぶ。

「おとなしくしろ!女に怪我させたくねえだろ!?・・ひっ!?」

ずどん!

ボディガードは麗華を羽交い絞めにしたままそう哲司に叫んだ直後に地面に叩きつけられたのだ。

「きったない手で触らないでよ!私が大人しく囚われの姫なんてやるわけないでしょ!!」

麗華は羽交い絞めにされたまま、背後の男の首に両手をまわし、そのまま力任せに男を地面に叩きつけたのだった。

柔道技でもなんでもない。

ただ、相手の首とアゴを掴んで、腰を曲げながら前に叩付けただけの荒技である。

到底麗華のような見目麗しい女の子がするようなことではない。

「だからやめとけ言うたのに・・。麗華、もうちょっと手加減せんと殺してしまうぞ?そいつ泡ふいとるやないか」

「はぁはぁ・・だって・・いきなりだったし驚いちゃって」

哲司の身のこなしと、思い掛けない麗華の力技でボディガードたちがたじろいていると、ボディガードたちの背後から小柄なボーイが駆け寄ってきて、リーダー格の男に耳打ちしだした。

小柄なボーイが息を切らしながら何事か囁き終わると、リーダー格の男は焦った顔で小柄なボーイに言う。

「来てらっしゃるのか・・・?このことは知らせるな。俺たちだけで対処する」

ボーイは何度か頷いて了承の意を伝えたが、遅かったようである。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 14話【回想】 エデンの変 終わり】15話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 15話【回想】 哲司VS銅三郎 紅音VS銀次郎


第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 15話 【回想】 哲司VS銅三郎 紅音VS銀次郎


ボディガードたちの肩を掴み押しのけながら、その男はゆっくりと現れた。

道を開けたボディガードたちの顔は蒼白になっている。

「なんでこんなことになってんだ?」

見た目の風貌には微妙に似合わないのんびりした口調。

その男の目はつぶれているように細いため、常に笑っているように見える。

だが笑顔のような顔でも、好意的な印象は全く相手に与えない。

整髪剤でこってり光ったリーゼント、白いダブルのスーツ越しでもわかる、はちきれんばかりの肉体、身長は2mを超えているだろう。

クロコダイル革の靴のサイズは、30cm以上はあるだろうか。

「ど、銅三郎さん!・・すぐにすみますんで!」

ボディガードのリーダー格の男が気を付けの姿勢になり、蒼白の顔で声を裏返し銅三郎なる巨漢に訴える。

「いや。俺はなんでこんなことになってんの?って聞いてるんだけど?」

銅三郎はその丸太のような腕をリーダー格に向かってにゅと伸ばす。

「ひっ!?ぎゃあああ!」

銅三郎と呼ばれた巨漢はリーダー格の頭を片手で掴み、そのまま持ち上げたのだ。

銅三郎の握力で、みしみしとリーダー格の頭が不吉な音を上げている。

周囲のボディガードたちも自分たちの上司が持ち上げられる姿を見て、恐懼し尻もちをついているものすらいる。

「わっかんないかなぁ?質問にちゃんと答えないと。・・・ってあれ?」

銅三郎に掴まれていた哀れなリーダー格の男は、掴まれたまま動かなくなったのだ。

「あちゃぁ~、強すぎたか・・・じゃあ、こっちに聞こうかな」

銅三郎は動かなくなったリーダー格の頭から手を離すと、すぐ近くにいたボディガードの一人に向け手を伸ばすそぶりを見せた。

「ひぃい!あの男が急に暴れ出したんです!」

床に倒れ動かなくなった上司の二の舞とならぬように、目を付けられたボディガードが悲鳴を上げながらも、哲司を指さし端的に説明する。

「うん・・。なるほど。じゃあ結局お前ら仕事できてないってことじゃねえか」

銅三郎はそう言うと、躊躇なくボディガードの頭を掴みギリギリと頭を締め付け始めたのだ。

「ぎゃああ!すいません!ぎゃああああ!」

この怪異な巨漢は、人の頭をひと掴みできるほどの手の大きさがある。

銅三郎が手に力を入れると、またもやみしみしと不吉な音がしだす。

他のボディガードはその様子を見て逃げ散り、掴まれた男は同僚たちに見捨てられたことも知らず苦痛から悲鳴を上げ続けている。

「やめんかい!」

巨漢の振る舞いを見かねた哲司が、言うが早いか銅三郎の手を手刀で強かに打ちつけたのだ。

哲司の手刀で銅三郎の手から逃れたボディガードはその場に倒れ込み、頭を握りつぶされかけた激痛で頭を抱えてのたうち回っている。

「痛てえなあ。てめえ誰だ?うちのもんの教育の邪魔してなんのつもりだ?」

哲司に打たれた手首を摩りながら、正面に哲司を捉えのそりのそりと歩を進めてくる。

「麗華!こいつは俺に任せて行ってくれ!奥の部屋や。女の子が連れていかれたはずや!」

「で、でも!」

「大丈夫や。なんてことあらへん。すぐに追いつくから心配せんといってくれ。それよりこの店の外に連れ去られてしもたらどこに行ったか分からへんようになる!行ってくれ!」

哲司は銅三郎から目を逸らさず、背後の麗華とやり取りし、麗華が通る道をつくるために、のそのそと向かってきている銅三郎に一気に距離を詰めた。

常人には到底とらえられない速度である。

「お兄さん頑丈そうやし、ちょいと強めにいくで!」

「おぉ?!」

油断から一瞬で懐まで潜り込まれた銅三郎は、素っ頓狂な声を上げてしまって哲司の渾身の当身を腹部にもろに受けてしまう。

どしん!と鈍い音が響き、銅三郎の身体が衝撃でビクリと揺れる。

その機を逃さず、麗華は脚力を強化し一気に駆け抜け、奥の扉まで跳躍した。

しかし、その跳躍した麗華の足を銅三郎が掴んだのだ。

「なんやて?!」

「えっ!?なに?!」

殴った哲司も驚きの声を上げ、麗華も予想だにしなかった足への感触に驚き声を上げてしまう。

(つ、掴まれた!?哲司に殴られて動けないんじゃないの?それにこの速度なのに私の足を掴んだっ?!)

「離さんかい!」

足を掴まれていた戦慄から我に返った麗華が反撃するよりも早く、気炎を吐いて哲司が銅三郎の手首を再び打ち上げ気味の手刀で払ったのだ。

「麗華!行け!」

そういう哲司の顔に、先ほどまで表情にあった余裕はない。

この一瞬のやり取りで麗華にも分かった。

風貌怪異な巨漢はそれほどの相手だということだ。

「でも!」

麗華も哲司のセリフと表情で、瞬時にこの巨漢相手に自分では足手まといになると察したものの、だからこそ恋人をこんな強敵の前に置いていきたくない。

「ええから!俺なら大丈夫や!楽勝やから心配せんと行ってくれ!連れ去られた子は見た感じ意識ないはずや。連れて行かせんといてやってくれ!頼む麗華」

「わ、わかったわ!でも・・早く来てよね!」

哲司と目があったのは一瞬だけだったが、麗華は哲司を信じることにし、そう言って奥の扉を勢いよく開けて駆けて行く。

「頼んだで麗華」

麗華が行ってくれたことに安堵した顔になった哲司は、再び銅三郎なる巨漢に向きなおる。

「いってぇ。楽勝だとぉ?てめえ・・ミンチにしてやるぜ」

手刀で打たれた手首を摩り、殴られた腹あたりを手でパンパンと払った銅三郎が怒りで顔を赤くして哲司を睨みつけてくる。

といっても目はつぶれたように細いので、睨んでいるかどうかはわかりにくい。

そして、そう言う銅三郎は、哲司の攻撃に対し、ほとんどダメージらしいものを負った様子はない。

「おいおい、ミンチにしてやるって穏やかなやいな。俺らは客やのに店の店員らが俺らをいきなり襲ってきよったんやで?それに、なんや奥の部屋に気失った女の子引っ張りこむんが見えたんや。・・おまえらやっぱりこんなことしてるんやな?」

銅三郎は哲司のその問いかけにはこたえず、距離を詰めてくる。

(やっぱりそういうことかい)

銅三郎の反応に確信を持つと、近づいてくる巨漢との戦闘は避けられないと察した哲司は、肩をコキコキと鳴らして上着を脱ぎ棄てる。

上着を脱いだことで哲司の筋骨たくましい肉体をタンクトップという生地の少ない服が強調するが、目の前に銅三郎のような巨漢がいると、哲司の隆々とした肉体ですら小さく見えてしまう。

(腹に入れたんはかなり手加減したけど、最後の手刀は手首折るつもりぐらいでやったんやぞ!・・・こいつめちゃめちゃ強いやんけ!それに見た目からして完全にスジもんやなないかい!スジもんにもこんな気合入った能力者がおるんかいな!麗華の速度にも難なくついていってたし・・こりゃやばいもしれへんな・・)

表情こそ織田裕二似の顔で眉間にしわを寄せ、渋く決めてはいるが、哲司の内心は銅三郎の想定外すぎる強さと、ヤクザ者と殴り合いをしてしまうと今後どうなるのだろうかということに焦りまくっていた。

倒れているボディガードと哲司と銅三郎以外、ホールの人はすでに外に逃げていない。

細い目の為に笑っているように見える表情の銅三郎。

しかし、笑っているのではないのは明白である。

「兄ちゃん、覚悟はできてるよな?」

銅三郎はそう言うと、腕を思いきり振りかぶり哲司に襲い掛かってきた。

・・・・・・・・・・・・・・

一方、エデンのVIP室が多く集中する地下室3階では、紅音は用を終え部屋を後にしかけたところであった。

「じゃあまた来るわ銀次郎。何か進展があったらすぐ教えてよね」

かなり不本意な金額を要求されたが、「七光り」を貶めることができそうなことに溜飲をさげることにした紅蓮こと緋村紅音は、そう言いながら銀次郎に背を向け手をひらひらと振ってドアに向かう。

しかし、銀次郎は帰ろうとする紅音の背を一歩追うようにして歩を進めると、手を紅音の肩に置いた。

「ちょっと待て。お前の要件はそれで済んだんだろうが、こっちにはまだ用があるんだよ」

銀次郎の言葉に、紅音は歩みを止め顔だけ振り返り「なによ」とそっけなく言う。

「来春、宮コーに入るんだってな?」

銀次郎の言葉に紅音の目じりが吊り上がった。

紅音は肩に置かれた銀次郎の巨大な手をゆっくり払って、向き直る。

紅音の表情は緊張感があふれ周囲の空気がやや捻じれるほどの、オーラが収束しだす。

「私のこと・・・調べたの?」

巨漢の銀次郎と間近で対峙しているため、紅音はほぼ見上げるような恰好であったが、目じりを釣り上げたまま低い声で聴き返した。

「悪いとは思ったが、おまえさんどう見ても普通じゃねえからな。興味持つなってのが無理だぜ。その尋常じゃねえオーラ量、オーラを炎に変換する高度な技術、さっきみせた肉体強化も相当なもんだ。それになにより、女だてらにその肝っ玉。・・・さっきはうちの組織に入るのは袖にされちまったが、緋村、お前さんが宮コーに入るってのも悪かねえんだよ。俺たちとしちゃあな・・・」

紅音を見下ろしながら肩をやや竦めてそういう銀次郎だったが悪びれた様子は見受けられない。

むしろ前のめり的に、小柄な紅音に覆いかぶさるように口説いている話の続きなのだ。

組織にも引き込めず、自身の女としても囲えないなら、宮コーという強力な巨大企業へのパイプ役を紅音に担わそうとしているのである。

しかし、銀次郎の好意的な勧誘にもかかわらず、紅音は両手を開き気味にして腰当たりで開き、手のひらを銀次郎に向け、完全に警戒体制だ。

見るものが見ればわかる。

紅音の両の掌には練られたオーラが収束し、危険な量で纏わりついていう。

紅音ほどの術者がこれほど練り上げたオーラなら、周囲を巻き込む大火災を一瞬で発動させることが可能だろう。

ただ室内なので、威力を抑えなければという冷静さを紅音は当然持っている。

熱で建物が崩落してしまうと、いかに紅音といえども深刻なダメージを受けかねない。

しかし炎の威力を弱めて発動したとしても、室内では紅音自身も炎にまかれてしまうことはわかっている。

ただそれは炎の強さを、自身を覆う防御オーラ以下の火力にすればいい。

そして、その操作は紅音にとってたやすいことであった。

能力を発動させるときは全力で発動したい紅音にとってはストレスになるが、紅音は致し方なしと内心で舌打ちして納得することにする。

「落ち着けよ。悪い話じゃねえ」

紅音の危険すぎる雰囲気を察してなお銀次郎は動ずる素振りすらみせない。

紅音の炎に耐えきる自信があるのだ。

それが過信か確信なのかは別として、銀次郎のその態度は紅音を相当イラつかせた。

「とっとと続きを言いなさいよ」

先ほどより紅音の声量は大きくなってきている。

紅音は我慢や駆け引きは好きではない。

紅音には当然銀次郎の勧誘内容が大体推測できているが、直接聞かないと納得できない性格でもある。

「宮コーが一昨年に1社、そして今年に入って2社、大手ゼネコンを傘下にしたのは知ってるよな?」

「バカにしてんの?もちろん知ってるわよ」

紅音にとっては知ってて当たり前のことを聞かれ、イラついた口調で銀次郎に返す。

「俺たちの仕事にも影響することだ。うちは公共工事にも絡んでるからな。それなのによう、宮コーが国内大手5社のうち3社も傘下にするなんてとんでもねえ。金だけの問題じゃねえのは明らかだ。あんなでけえゼネコンなら国土交通省からの天下りもたくさんいる。それなのにいくら資金力があるからって一企業である宮コーが3社も買い付けるなんてのは無茶苦茶だ。ゼネコンは官僚や政治家どもと太いつながりがあるんだぞ。それに宮コーが入札を牛耳りだすと俺らのシノギが少なくなるってわけだ」

「でしょうね。で?それが?」

紅音は、銀次郎の不満にイラついた口調ながらも冷ややかかにこたえる。

「そこで緋村、おまえさんだよ。調べさせてわかったんだが、ただの新卒入社じゃねえ。成績もずば抜けてたみてえだが、それだけじゃねえ。小中高、大学も宮コーの支援をうけてる超がつく特待生じゃねえか。宮コーを改めてすげえと思ったぜ。ずっと前から緋村の才能を見出して資金をつぎ込んでたってことだ。そんな緋村をただの新卒どもと同じように扱うわけねえと思ったら案の定ってわけだ。おまえさん、いきなり秘書主任って幹部職での採用なんだってな。こりゃ俺たちにとっちゃ都合がいいってわけだってことになったんだよ」

「・・・・へぇ」

紅音は低い声でそう言って、目をすぅと細める。

「だからよ。お前みたいなのがうちに入ってくれりゃあとは思ったんだが、ダメならセカンドプランを提示しろって兄貴に言われてんだ。俺としちゃあ、お前みたいな上玉の能力者が入ってくれるにこしたこたぁないんだがな・・。いいもんだぜ?アウトローもよ。それにお前みてえな好みの上玉を逃したくねえんだよな」

銀次郎は、紅音の警戒レベルがレッドゾーンに突入したことには気づいていたが、それでもなお続けた。

怪異な容貌の銀次郎が好色そうに笑みを浮かべ、紅音を改めてしげしげと嘗めるように眺めまわす。

「今すぐに返事が欲しいな。うちに入るか、宮コーに入って俺らに協力するか・・。でないと、入社直後に幹部職員に確定してるようなエリートさんがこんな依頼しただなんてバレちまったら困るんじゃねえのか?このさいおとなしく俺の女に収まっとくほうが面倒はおきねえし、うちに入った後も俺の女ってだけで顔が利くぜ?」

紅音は駆け引きも交渉も好きではない。

駆け引きは自分より低能な者にしか通じない技法であり、交渉などは対等に近い二者間で有用な手法である。

紅音は誰に対しても、自分はそのどちらでもないという自負があった。

だからこそ、格下のみに通用する『脅し』という行為は、紅音にとって到底我慢できる行為ではないのだ。

紅音のことを調べたにしては、銀次郎は紅音の気性までは調べ切れていなかったのであろう。

紅音にとってはごく自然なことだが、紅音は当然キレた。

(万死に値するわ!)

コンマ1秒にも満たぬ時間で紅音の掌にオーラが収束し、能力が発動する。

「爆ぜろっ!!」

紅音の突き出した両手のひらの先端から、深紅の熱線が銀次郎に向かってうねる龍のごとく襲い掛かった。

ずあっ!どおぉおおおん!

龍のように見えた炎の濁流は銀次郎を一気に包み込み、そのまま勢いを殺さず銀次郎の背後にあった黒檀に机を灰にしてそのまま壁に激突して、部屋中を舐りつくすように舞い上がったのであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一方、エデンの1階のダンスホールでは二人の男が対峙していた。

ずどおぉおん!

「なんや!?」

哲司は銅三郎のボーリングの玉ほどもある拳を躱して、建物を揺さぶった轟音と振動の気配を探る。

「ちょこまかうごくんじゃねえ!」

火災報知器がけたたましい音を立てて鳴り響きだしたが、銅三郎はそれにはまったく関心を示さない。

銅三郎は哲司にすっかりご執心である。

「こんなときに火事かい?どっからや?!」

奥の扉とは別の非常口と書かれた扉から、悲鳴をあげながら大挙して人がダンスホールに入ってくる。

しかし逃げ出した者たちは、哲司や銅三郎たちにはほとんど見向きもせず、そのまま玄関口や裏口に向かってしてゆく。

避難する人たちには全く関心がない素振りで、銅三郎は先ほどから何発か哲司からもらっている個所をさすって苛立ちをその顔面にあらわにしていた。

なぜなら、銅三郎の攻撃は一度も哲司に当たっていないのである。

銅三郎の細い目のせいで笑顔のように見えるが、顔面は怒りで真っ赤だ。

「何が起こってんや・・?ここでこいつとやりあってる場合やないんやないか?」

頭に血が上っている銅三郎とは裏腹に、哲司は考えるべきことがさらに増え冷静を通り越し、焦り始めていた。

銅三郎の打たれ強さから推測するに、攻撃力も相当であると見当がつく。

それゆえ、哲司は必殺の間合いを詰め切れずにいるのだ。

それにくわえて麗華の安否、そしてこの爆発音である。

警察や消防が現場に来るのも時間の問題だろう。

しかし、目の前の銅三郎なる巨漢のヤクザの身のこなしや強さ、そして目は細くて確認しずらいが、隙がないと哲司の直感が言っている。

やり過ごすのも無理だし、逃げ出すのも無理だということだ。

哲司は覚悟を決めた。

雑念をすっぱり捨て、ふぅーと大きく息を吐き、腰を低くして構えなおす。

そして、不敵な笑みを浮かべると、銅三郎のような巨漢に対しいては明らかに挑発となるセリフを投げかけた。

「力の強さ比べといこか!?」

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 15話 【回想】 哲司VS銅三郎 紅音VS銀次郎 終わり】16話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 16話【回想】 麗華VS誘拐犯 紅音VS銀次郎&金太郎

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 16話【回想】 華VS誘拐犯 紅音VS銀次郎&金太郎

麗華は、従業員のみが通る通用口らしき廊下を感に頼って駆けていた。

火災報知機による警報で、避難しようとしている店のスタッフらしきものと幾人もすれ違う。

明らかに従業員ではなさそうな麗華を不審そうに一瞥する者もいたが、ほとんどのものは避難するために慌てた様子で麗華にかまってくる者はいない。

麗華は、視力、聴力、嗅覚を強化し周囲を注意深く見まわしながら奥へと進んでいた。

しかし、いまだに何の手掛かりもない。

先ほど銅三郎なる巨漢に足を掴まれて足止めをくらったおかげで、思いのほか引き離されてしまったのだろうか。

見失ってしまったのかもとじわじわと焦る気持ちがわいてくる。

警報の大音量と逃げ出そうとしているスタッフの騒乱が麗華の気を散らせてもいた。

おまけに店の中は思いのほか広く、いま自分が向いている方角すらわからない。

麗華は今回の潜入に際して『エデン』を調査してはいたが、見取図は手に入らなかったのだ。

もう少し時間を掛けて調査をしていれば、という思いが麗華の焦燥に拍車をかける。

ここまで通ってきた通路や部屋を急ぎながらも手抜かりなく見回ってきたはずだが、やはり手掛かりはなかった。

「どこに行ったのよう!」

麗華が焦慮で気色ばんだ声でそう独り言ちたとき、わずかな空気の流れが感じられた。

麗華は自分の直感を信じ、照明が明るく、天井の高そうなホールらしい空間を前方に認めると、麗華はとりあえずそこへ駆ける。

店の裏口などの通用口かもしれないと思ったが、まさしくその通りであった。

大きなアルミ製の親子トビラの片方が開かれている。

そして、そのトビラの外では、べた付けされていた黒塗りの四輪駆動車のハッチバックドアが勢いよく閉められるところだったのだ。

「ちょっと!」

麗華の声に、ハッチバックドアを閉めていた二人の男が勢いよく振り返った。

麗華は直感した。

たった今、この車に哲司の言っていた女の子を乗せたのだと。

それに二人の男が、まずいところを見られたという顔をしているのも、麗華の感を確信へとかえる。

麗華がホールから車に向かって駆けだそうとしたとき、二人の男は驚いた顔でお互いに一瞬見合わせたが、すぐに好色な顔で頷きあうと、にやけながら襲い掛かってきた。

麗華を獲物として認めたのだろう。

「思ったとおりね!」

麗華はそういうと二人に肉薄する。

しかし二人の男は、麗華を女と思って侮りすぎていた。

一人目の男は麗華を捕えようとして腕を伸ばしたが、麗華は体を回転させて男の背後に回り込む。

男が掴んだのは麗華のカーキ色のトップスだけであり、麗華に背後に回られ腕を首にかけられて足を思いきり払われる。

柔道でいうところの大外刈りのような大技で、盛大にアスファルトの床に叩きつけられた男は、麗華のトップスを手に握ったままのたうち回る。

声にならない苦悶の声を上げ地面で呻く男から、麗華は自分のトップスをひったくり返す。

「返しなさいよ。これお気に入りなんだからね!」

手伝いとはいえ恋人の哲司と二人っきりで過ごすためにチョイスしたお気に入りなのだ。

しかし取り返したトップスは、男が地面をのたうち回るときに、男が顔を抑えたりしたため、男の涎っぽい湿り気が感じられる。

「えっ!?ちょっと!ええええっ!汚ったな!・・な、なに汚してんのよ!これお気に入りだったのよ?!」

麗華は、叩きつけられた地面で嗚咽する男にそう言いながら男の腹部に一発蹴りを加えた。

「おごぉ?!」

背中をアスファルトで強打したうえに、腹部にまで麗華にけられて男は無様に悲鳴をあげる。

そんな木村文乃を気の強そうな雰囲気にした顔立ちの麗華が、このような動きをしたことに、もう一人の男は驚きで立ちすくんでいたが、はっと我に返っていきり立つ。

男の顔には麗華を女と侮っている様子はもはやない。

男に好色な表情は浮かんでおらず、腰に差していた30cmほどのスタンガンを引き抜き麗華に突き出してきたのだ。

しかし、麗華にとっては格闘のド素人で無能力の男が、武器を持っていようとほとんど関係がない。

向かってくる男の顎を掌でカチ上げ、スタンガンを持った男の手を掴むと、腹部を体を回転させ廻し蹴りで蹴り飛ばす。

男の体が勢いよく黒塗りの四輪駆動車に激突してそのボディを凹ませたが、車は仲間であろう二人の男を見捨て、タイヤがアスファルトを摩擦で削る音を路地に響かせて走り出してしまったのだ。

「えっ?!・・こ、このっ!逃がさないわよ!」

まさか仲間を置いていかないと思っていた麗華は慌てたが、麗華はすぐ近くの駐車場まで走り、停めてあった自身の赤い愛車に飛び乗ると、キーを回しアクセルを踏んだ。

がぉん!!

その麗華の様子に、隣のクラブの火事騒動の野次馬となっていた駐車場管理人が気づき、慌てふためいた様子で麗華の車に駆け寄ってくる。

「ちょっとあんた!どさくさに紛れて駐車料金踏み倒す気か?!」

「これ!とっといて!」

麗華は車の窓から身を乗り出すと、駆け寄ってきた駐車場管理人のポケットに1万円札を数枚ねじ込こんで申し訳なさそうな顔でウインクする。

「あっ!これも!」

先ほど男から取り返したカーキ色のお気に入りだったトップスを、駐車場管理人に有無を言わさせず押し付けたのだ。

そして麗華は車を急発進させる。

そして駐車場管理人が驚きのあまり呆然としている間に、麗華は車の窓から身を乗り出して振り返り、立ち尽くす管理人を見やり叫んだ。

「駐車料金と修理代っ!」

麗華がそう言うと同時に、何かが破壊される音が天井の低い駐車場に鳴り響いた。

ばきぃいん!!

麗華は、駐車場の出入り口の侵入防止のバーを車で突き破ったのだ。

そのまま麗華の乗った赤いスポーツカーは、派手なエンジンを響かせ駐車場から飛び出して行ってしまう。

あとには駐車場の真ん中で佇む駐車場管理人が、呆然と麗華が車を走らせていく様子を、唖然と目で追っていた。

駐車場管理人は胸ポケットに突っ込まれたものを取り出すと、広げて数えだす。

そこには、ぐしゃぐしゃになった福沢諭吉が書かれた紙幣が3枚入ってた。

駐車場管理人は、その紙幣と押し付けられた衣服を交互に見、そして麗華が破壊していった駐車場の開閉装置を見やる。

「・・・・これっぽっちであれを弁償・・?」

紙幣とカーキ色のトップスを交互に見て、すこし躊躇いがちにトップスの匂いを嗅ぐ。

女性らしい香りが鼻孔をくすぐり、わずかに衣服には何か液体が付着している。

駐車場管理人ははっと我に返り、周囲をきょろきょろと見まわすとカーキ色のトップスを丸めてジャケットの中に隠し、いそいそと管理人室へと戻っていったのであった。

・・・・・・・・・・・・・・

紅音は口元を手で覆って顔をしかめた。

炎が何かに燃え移らないようにしたとはいえ、部屋中のものを焼いた臭いを嫌ったのだ。

着ていた白いジャケットは煤で見る影もなく焼き切れたうえ煤で汚れ、ポマードで押さえつけていた髪はちぢれ乱れてしまっている。

銀次郎は紅音の炎を真正面から受けきってしまったのだ。

銀次郎は防いだ両手が真っ黒になり、その部分の服が焼き切れている部分を見て目を見開く。

「ごはぁ!はぁ!・・くぉおおお!」

銀次郎は炎による攻撃で喉を焼かれたのと、炎のせいで息ができず、酸素が空っぽになった肺に呼吸を送り込んだ時の痛みで苦悶の声をあげてしまったのだ。

「やるわねえ」

紅音は軽く目を開き、指先で前髪をもてあそびながら意外そうに口を開いた。

紅音が殺すつもりで炎を放ち死ななかったのは、この銀次郎が初めてである。

それゆえに、紅音なりに素直に称賛したのであった。

「私が依頼した話、もう白紙でいいわ。お金も払わない。七光りのことももう放っておいてちょうだい。自分で何とかすることにするわ。私を脅すようなヤツには死んでもらうから」

煤だらけになり、片膝をついた銀次郎を見下し・・といっても膝をついた銀次郎と紅音ではそうさほど身長の差はないが、涼し気な口調で再び凶悪なオーラを両手に纏わせだした。

「こ・・これほどとはな・・。ますます欲しくなるってもんだぜ」

銀次郎は紅音の想像以上の能力に瞠目しながらも、顔に滴る汗を手で拭いながら立ち上がった。

しかし、ダメージは深刻なようで炎で焼かれた衣服はもちろん、焼きはがれて見える隆々とした筋肉も痛々しい火傷を負っている。

「そんななりしてマゾなの?気持ち悪い」

そんなぼろぼろの銀次郎が言うセリフと様子に、紅音はかわいらしい童顔の顔を不快そうにゆがめて言った。

「心配しなくても死ぬまであげるわよ」

紅音は右手の人差し指を立ててそういうと、指先の先端に20cmほどの火球を作って、銀次郎に放りつけた。

事は済んだ。という表情の紅音が放りつけた火球はうなりをあげて銀次郎に着弾する。

どぉおおおおおん!

火球が炸裂し、炎が熱と暴風を伴なってふたたび部屋中を荒れ狂う。

紅音の周囲だけは、紅音のオーラによって炎を遮断させているが、紅音は眉間にしわを寄せて不快気な表情になった。

黒煙で見えにくいが、紅音は火球と銀次郎の間に割り込む人影を見逃さなかったのである。

「誰っ!」

誰何と同時に紅音はもう一方の手から火球を放っていた。

ずどぉおおん!

誰だと聞いてるくせに、相手に名乗らせる暇さえ与えない紅音らしい行動であるが、紅音にはわかっていた。

おそらくまた防がれると。

だが、2発目の火球は相手の反撃をさせる機会を潰すための牽制である。

再び着弾した火球が、一発目と等しく炎を巻き上げ、部屋中をうねり回る。

(一発目を防いだからって、これでさすがに反撃はできないでしょうね)

紅音はそう思ったが、刹那でその判断を打ち消す。

舞い上がる炎を上下に割くモノが見えたのだ。

紅音は肉体の反射能力を上げる【即応反射】を即座に発動すると、上半身を反り、火球の着弾と同時に反撃してきた一閃を躱す。

紅音は類まれなる才能と頭脳、そしてあらゆることに関して卓越したセンスを持ち合わせているが、ものすごく短気である。

「舐めんじゃないわよ!死ね!」

反撃させないための攻撃をしたのに、反撃されてしまった怒りで、紅音はキレたのだ。

躱しざまの後方宙返りをして着地した瞬間に、紅音は怒鳴りながら、同時に先ほどよりはるかに強い火力で右手にオーラをまとわせて怒り任せに横なぎに払ったのだ。

「誰だって!聞いてんでしょうが!」

ごおああああ!

室内だから手加減をしなければ、という考えはこの時にはもう紅音の頭の中から彼方へと吹き飛んでいる。

火球の威力の倍はある獄炎が、紅音の腕の振りに合わせて、前方を横なぎの嵐のように荒れ狂ったのだ。

「くっ!」

わずかに紅音自身の防御オーラを上回る火力で攻撃してしまったため、紅音自身が少しだけ身を縮める。

「くそったれが!」

自分の炎でダメージを少し受けてしまっただけなのに、まだ目視できない敵に向かって憤怒に燃えた敵意を向けて罵った。

「こんな小娘がこんな事しでかせるなんてな・・。店がめちゃくちゃだ。銀次郎。大丈夫なんだろうな?」

「あ・・ああ、すまねえ金兄・・」

炎は紅音がすぐに発現を消し去ったが、燃えたものが発する黒煙のせいで、銀次郎と会話している人物はシルエットしかいまだ見えない。

「誰よ!」

紅音が待ちきれずイライラした様子で、今度こそ攻撃せずに聞いた。

この火力の炎に耐える者などいようはずがない。

紅音はじわじわと湧き上がる内心の焦りを打ち消すように大声で誰何したのである。

膝をついた巨漢の銀次郎の前に、長身細身でスーツを着た眼鏡の男が黒煙の合間から垣間見える。

紅音は目を凝らし、相手の挙動に注視しながら探りを入れる。

何しろあの火力の炎を、何らかの方法で防ぎ切った相手なのだ。

(こいつが私の炎を防いだの?あの火力よ?・・この私でもあれ以上の温度ならダメージを負うっていうのに・・)

紅音が訝しがるのも無理はない。

長身細身の男は、服装が乱れていない。

炎は発現させて対象に着弾すると、紅音はたいていの場合すぐに発生させた炎は消している。

そうしないと、余計なモノを焼いてしまう恐れがあるし、なにより人間を相手にした場合、炎が1秒でも触れればそれで相手は即戦闘不能になるからだ。

だいたい1秒ぐらいは対象に触れるように調整している。

炎の扱いを得意とする緋村紅音だが、炎の温度の扱いは紅音をしても難しい。

炎は発現する際に最低温度というものがある。

炎の最低温度は400度。

その温度に達するだけでも相当なオーラ量と集中力が必要である。

紅音にとって最低温度で炎を発動させるのは、本当にコンマ1秒以下でできる。

脳の開放領域の広い能力者の中でも、紅音は異質中の異質なのだ。

並みの能力者ではこうはいかない。

炎を発動するほどのオーラの練り上げができないのだ。

最低温度に達するほどオーラを練りあげることができないか、もしくは単純にオーラ量が足りないためである。

実験したことがないため紅音自身も知らないが、紅音が発現させることのできる炎の最高温度は、一瞬という限定付きであれば、1500度に達する。

しかし、紅音自身のオーラによる防御耐性が1000度までしかないため、それ以上の発現は通常しない。

ただ、紅音の場合怒りにかられるとやってしまうのだ。

ついさっきやってしまったように。

それを目の前の男は防いだのである。

紅音はポーカーフェイスができるタイプではない。

苛立ち、怒りをあらわにしながらも、その表情には焦りがある。

紅音の内心をよそに、誰何された長身痩躯の眼鏡紳士は紅音の誰何に素直にこたえた。

「緑園金太郎。銀次郎の兄でグリンピア興行の代表だ。お前が銀次郎の言ってた緋村紅音だな?銀次郎はえらくお前を買ってたようだが・・・。これは一体全体どういうことだ?ああ?銀次郎」

金太郎は振り返り、うずくまったままの銀次郎を見下ろしてそういうと、銀縁の眼鏡をきらりと光らせる。

銀次郎は兄のその様子に、顔中脂汗を吹きだし、うろたえて口を動かしかけたが、口を開いたのは銀次郎ではなかった。

「あ、あんたの弟に騙されたからその報いをうけさせてるだけよ」

「おい!騙してなんかいねえだろうが!でたらめ言うんじゃねえ!」

「黙れこらあ!!聞いたことにこたえろ銀次郎!どう落とし前つけるのか聞いてんだよ!」

紅音のセリフに反応した銀次郎だったが、金太郎の怒声でその巨体をびくりとふるわせて押し黙る。

その気迫に身をこわばらせたのは銀次郎だけではなかった。

(くそ。なんなのこれ・・・!)

紅音はぞわぞわと背中から首筋にかけてはしる悪寒に、得体の知れない気味悪さを感じ、いつの間にか乾燥した唇を舌で舐めて紛らわす。

「金兄。俺が落とし前をつける。この女にきっちりツケ払わせる」

「できるのか銀次郎?」

「ああ、まかせてくれ」

銀次郎はそういうと、ぼろぼろになった白色だったジャケットを脱ぎ捨て、紅音を睨みつけた。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 16話【回想】 華VS誘拐犯 紅音VS銀次郎&金太郎終わり】17話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 17話【回想】紅蓮の脅威…そして運の悪い男たち


第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 17話【回想】紅蓮の脅威…そして運の悪い男たち


銀次郎は覆いかぶさるように紅音に丸太のような剛腕を振り下ろす。

銀次郎の白いジャケットは焼けただれ、露わになっている肌には血と煤で汚れた火傷が痛々しい。

どおん!

紅音を叩き潰さんと振り下ろされた銀次郎の張り手が地面を揺らすが、手ごたえのなさから銀次郎は即座に横なぎに振り回す。

しかし紅音は小柄と柔軟性を生かし、地面にべっちゃり張り付いてそれを躱していたのだ。

「打たれ強いわね!足りないのかしら?!」

地面にへばりつくように身をかがめていた紅音は、ぴょんと跳躍し、愛らしい童顔をゆがませ可愛らしい声でそう銀次郎を言うと、炎を纏った拳で銀次郎を滅多打ちにする。

「ぐおぉおおお!?」

銀次郎が巨体を縮ませ、紅音の猛攻に耐える。

200cmを超える巨体の銀次郎が、140cmあまりの女に圧倒されている様ははたから見れば異様である。

しかし、紅音が拳を振る速度は常人の目では追えず、銀次郎の体に当たった拳からは猛烈な衝撃音が響いていた。

決して、銀次郎が演技をしているわけではない。

紅音の攻撃が本当に重いのだ。

そして、紅音の両の拳は炎を纏っている。

その両手の連打で銀次郎を突き放し、腕の間合いではなくなった絶妙の距離になったところで銀次郎の巨体を蹴り飛ばす。

そして間髪入れず、紅音は右手にオーラを収束させると吹き飛ぶ銀次郎に向かってぶっ放した。

どぉん!どぉおん!

壁に銀次郎が激突したと同時に、追撃の火球が銀次郎に着弾したのである。

小さな幼女とも見れる赤髪の紅音に、見るからにスジ者の大男が吹き飛ばされ炎に包まれたのだ。

(まただわ)

紅音は、もうもうと立ち上る黒煙に向かって激しく舌打ちして、キッと視線を金太郎と呼ばれた長身痩躯の男へと向けた。

圧倒的優勢に戦いを進めているにも関わらず、紅音の表情は芳しくない。

(【火球】が効いてない・・。あいつが何かしてるんだわ。忌々しい)

紅音は、金太郎をにらみながら炎撃を纏わせ銀次郎を滅多打ちにした両手の感覚を確かめるように、指を動かす。

(手に纏わせてる炎には問題ないわ。・・問題は今の【火球】。どうして焼け死なない?・・・銀次郎の肉体とオーラ量だと私の炎に耐えられるはずがない)

紅音は、どうしようもなく短気だが、物事にたいする透徹した洞察力を持ち合わせている。

紅音は、七光りのように眼の能力に頼ってオーラの多寡を視認しなくても、ほぼ正確に相手の力量がわかると自負していた。

そしてそれは事実である。

だからこその普段の紅音の振る舞いであり態度なのだ。

低能な者が、自分の無知蒙昧に気づくことができないゆえに他者に対し傲慢になっているのとはわけが違う。

紅音はわかっているのだ。

自分のほうが格上であるということが。

自分のスタイルで戦えば、銀次郎のような脳筋能力者では到底自分に敵うはずがない。

能力者同士には相性があるとはいえ、銀次郎が肉体強化に特化した能力者であれば、炎を自在に操り、肉体の強化も肉体強化特化の能力者とさほど遜色ない紅音に勝てる見込みはないはずである。

銀次郎は肉体強化特化の能力者としては、おそらく国内トップクラスだろう。

紅音の評価はそれであり、それは正しいが、それでも紅音には届かない。

しかし、【炎撃】で殴られ蹴り飛ばされて壁に激突し、受け身もままならない態勢のまま【火球】を食らったにもかかわらず、銀次郎は【火球】のダメージは浅く、いまだに戦意を失っていない。

紅音にとっては銀次郎の戦闘力は想定内である。

しかし、炎によるダメージが通らないのが腑に落ちないでいた。

一方で、銀次郎にとっては、紅音の強さは想像をはるかに超えていた。

炎を使える能力者だとしても、自身の肉体強化の防御オーラを貫通してくるはずはない。

そう高をくくっていたのだ。

それが大いなる誤算だったということを、今身をもって味わっているのだが、兄が登場してくれたおかげで、何とか死なずに済んでいる。

紅音は前髪を人差し指でくるくるともてあそびながら、銀次郎と金太郎を観察しながら考察していた。

(【炎撃】の手ごたえはあった。・・・でも、いまの【火球】のダメージがほとんどない。それにさっきの【龍炎】や【獄炎】にも・・。ということはあっちの男の能力は遠距離能力の阻害・・というわけね。炎を着火させる最初は特に高い集中力と大きなオーラが必要だけど、実は問題はそれ以降・・。着火によって発生した熱エネルギーを燃焼効果で持続させるために次々と連鎖反応を起こさせる必要がある。つまり・・次々とオーラをそこへ供給してやらなければいけないんだけど、さっきからわずかに違和感があるわ。たぶんあいつがなんらかの能力でそれを邪魔して、対象まで燃焼効果をたどり着かないようにしているってわけね。防いでいるわけじゃない。私の能力の発動を邪魔してるだけ。銀次郎が私の炎を完全に防げてないのがその証拠・・・。オーラの供給を邪魔しているということは、距離の問題があるはず。私から遠ければ必然的に自分たちに近い。だから私より早く阻害できる。ネタがわかってしまえばいくらでも対処できるわ・・。それでも少しばかり褒めてやってもいい程度の能力者ってのは認めてあげるけど、私に歯向かうにはチンケすぎる能力よ。阻害できない距離で私に火を使われたらどうなるのかしらね。近すぎたら私が自分の炎のダメージを恐れて火が使えないと高をくくっているのなら・・試してあげるわ。炎に焼かれるのはどっちかってことをね)

「・・ふふっ・・ふふふっ」

金太郎の能力をそう鑑定した紅音が、二人を視界に収めて残忍に冷笑する。

相手の能力のネタが分かったのだ。

紅音の表情には完全に余裕が戻っている。

「おあいにくさま。少し驚かされたけどもうタネはバレてるのよ?」

紅音の作戦はシンプルであった。

接近戦に持ち込み、ゼロ距離で炎をぶち込む。

紅音の防御オーラが防げるぎりぎりの炎を、至近距離で耐えられる者がいるはずがない。

そして、同じ距離なら能力の発動速度で自分が後れを取るはずがないという自信もある。

(近づけば、炎を使わさなければ・・私に勝てると思ってる類の愚物・・・。思い知らせてあげるわ)

北派、南派と中国拳法のいくつかをマスターしている紅音である。

それに加え、今の紅音の肉体強化は現在においては、のちに銀獣と呼ばれる稲垣加奈子よりも強力であった。

(この私を脅して焦らせたツケを払わせてやるわ・・。死をもってね)

女子大生でしかない緋村紅音だが、すでに殺人は何度が犯している。

もちろん証拠を残したことなどない。

容疑者になったこともない。

すべて灰にしてきたし、紅音の肉体強化をもってすれば、現場から短時間で遠くまで離れることが可能だからだ。

(こいつらも灰にして終わりよ。依頼を出した証拠も灰にしてあげるわ。・・・その前に、せっかくだから楽しませてもらうけどね)

紅音は小柄ゆえのリーチの不利をなくすため、炎で巨大な鎌を模り発現させ両手で持ち、腰を落として構える。

そして残忍な笑みを浮かべて上唇を舌でペロリと嘗め回した。

じくじくと身体の芯から淫卑な炎が灯り、それが全身に広がっていくのが紅音には感じられる。

勝利を確信した残忍な猫科の肉食獣が獲物を嬲る興奮に似ていた。

ぶるりと身体を震わせて紅音は口を開いて嗤う。

「うふっ!うふふふふふふふっ・・。この瞬間の心の躍動。たまらないのよね・・!うふふふっ!」

紅音の異常性癖のスイッチが入ってしまったようである。

愛らしい童顔の顔ゆえに、紅音の妖しい表情には不気味さと鬼気迫るものがある。

これから始める相手を死へと誘う舞踏に心が躍っているのだ。

自身に立ち向かってきた愚かな敵が、勝ち目がないと徐々に悟っていき、無駄な抵抗を楽しませてくれる。

こんなはずじゃないと絶望に歪む表情が、痛みで堪えきれなくなった悲鳴が、哀れな命乞いが、紅音の官能を潤わせる。

敵の抵抗をたやすく蹂躙し、嘲笑いながら圧倒的な火力で徐々に打ちのめす。

それらの妄想が、幅広くゆがんだ性癖を持つ緋村紅音の頬を淫卑な朱に染め、妖しく紅潮させていた。

そして、深紅のドレススカートのせいで見えてはいないが、紅音の下着は自身が分泌させた愛液でしっとりと湿らせはじめてもいる。

性的興奮で脳内から分泌されたエンドルフィンに反応し、子宮が収縮して下腹あたりの筋肉を妖しく脈動させる。

目の光はどろりと濁り、呼吸は艶めかしく熱い吐息で乱れ、欲情から膝をすり合わし、炎の大鎌を構えた格好のまま腰を震わせる。

そんな異常な様子の紅音を見やり、金太郎は銀次郎に向かってひきつりながらも、楽し気に口を開いた。

「・・・銀次郎。てめえいい趣味してるなあ。あいつを自分の女にしてえっていってなかったか?変態な上に、【炎の天稟】持ち能力者か・・。とんでもねえ上玉?だな」

「金兄・・。それも俺が押さえつけられるってのが前提の話だったんだ。ここまで手に余るやつとは・・・」

「いまさらそう言ってしょうがない。後の祭りだ。だがまあ心配するな。俺と二人かがりならなんとでもなるだろうよ。こんな変態で強力な能力者だ。今更仲間になんていうなよ?銀次郎。・・・この変態猛獣を鎖でつないだらどんな声で鳴くのか今から楽しみだよなあ?」

金太郎は銀次郎よりずいぶん余裕のある様子である。

「うふふふふふっ!なんとかなる?!私の鳴き声ぇ!?鎖でつなぐぅ!?・・うふっ!うふふふふふふっ!!本当に馬鹿なの?!・・・私があなたたちに今期待してるのは、せいぜい無駄な抵抗して楽しませてちょうだい!ってことよっ!」

紅音はそういうと、性欲と蹂躙欲に歪んだ笑みを浮かべ、銀次郎と金太郎に炎の鎌を振りかぶり、恐るべき速度で躍りかかったのであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ぬぉおおおおおおおおおおおお!」

二人は同じような咆哮を上げ、レスラーがやるように、がっぷりとお互いの両手を組み合わせていた。

言葉通りの純粋な力比べである。

肉体の強さと練り上げられるオーラ量の多寡の鬩ぎあい。

肉体の強さは銅三郎に、オーラの練度は哲司に分があった。

お互いの肉体の強さプラスオーラの量と練度の合計がぶつかり合う。

二人のその合計値は互角。

銅三郎にしても、哲司にしても驚きであった。

「てめぇ・・何もんだ?!」

力比べで自分と太刀打ちできるのは、兄の銀次郎ぐらいしかいないと思っていた銅三郎は、正直驚いていた。

哲司は身長182cmで体重は80㎏を超える。

対する銅三郎は、203cmで体重は150kgを超えていた。

哲司の恵まれた体格をもってしても、銅三郎の巨躯の前には小さく見えてしまうほどだ。

それなのに、哲司を力攻めで押し切れない。

ぱんぱんにパンプアップした肉体を汗で光らせ、頬を伝う汗が顎に達したとき、哲司は無理をして余裕のある顔をつくって、ニヤリと笑い銅三郎の問いにこたえた。

「何者やて?・・俺はな・・正義の味方や!」

哲司のセリフに銅三郎が眉を顰め、何かを言おうとしたとき、銅三郎が哲司を押しつぶそうと全体重をかけていた手ごたえが急になくなる。

がっしゃああああん!

銅三郎は急に前のめりになり、哲司の背面にあったインテリア用の水槽にその巨体を投げつけられたのだ。

哲司は巴投げの要領で、背中を地面につけて銅三郎が押してくる力を利用し、腹部を蹴りながら投げ飛ばしたのだ。

あふれ出る水槽の水で店内はガラスの混じった濁流で満ちる。

「痛たたたた・・・!なんちゅう馬鹿力や!・・っと!こんなやつこれ以上相手にしとる場合やない!麗華を追わんと・・」

哲司は床から跳ね起き店のカウンターに飛び乗ると、銅三郎と握り合っていた自分の両手をぶんぶんと振ってはさすり、ふぅふぅと両手に息を掛けていたが、慌ててカウンターから裏口に飛び込んだ。

びしょ濡れになった銅三郎が、ようやく憤怒の形相で哲司を探しながら立ち上がったが、すでに哲司は走り出した後で、哲司の姿はない。

「どこに行った!逃げるんじゃねえ!」

銅三郎は割れたガラスであちこち出血していたが、それにはかまわずすでに姿の見えない哲司に向かって怒鳴ったのであった。

びしゃびしゃになった店内で、銅三郎が哲司を探していたが、すでに哲司は店前に群がる野次馬たちをかき分け、麗華の車のところへと戻ってきていた。

しかし、肝心の麗華はいないし、麗華の車もない。

哲司が慌ててあたりをぐるりと見まわすと、駐車場の入り口にある壊れた開閉器のところに、複雑な顔をした男の姿があった。

そして、見覚えのある色の衣服を抱えている。

麗華がさっきまで来ていたカーキ色のリブトップだ。

「おい!その服どないしたんや!」

とっさにそう怒鳴ってしまった哲司に、声を掛けられた男は驚いて振り向いたものの、すぐに怒鳴られる理由などないことに気づき訝し気な顔になって言い返した。

「あん?!」

怒鳴られたことへの苛立ちで、駐車場係の顔には哲司に不審と怒りが混ざった表情になっていたが、哲司はかまわず男の両肩に手を置き揺さぶる。

「その服!その服着てた女どないしたんやって聞いてるんや!なんでその服あんたが持っとるんや?麗華は?麗華はどこや?!黒タンクトップ着た胸でっかい女や!その服脱いでるんやったら、めっちゃ谷間が目立ってたはずや!・・・あんた運がええな!」

哲司も焦る気持ちを抑えきれず肩を揺さぶり怒鳴ったが、男が怒鳴り返してきた。

「なにが運がええじゃあ!運は最悪じゃああ!!あんたあの女の連れか?!」

「そうや!」

「じゃああんたが弁償してくれるんだろうな!あれ見てみいや!!運がええどころの話ちがうだろうがよおお!」

「は?」

哲司は間の抜けた声を上げ、ここでようやく目をしばたたかせる。

男が怒鳴って指さした方向には、駐車場入り口に設置してあるポールを開閉させるための装置が、根元から無残に破壊されて横たわり、時折電気の火花をバチバチと光らせていたのだ。

「その麗華ってあんたの連れの女があれをぶっ壊していったんだ。弁償代つってこれだけおいてな!」

駐車場管理人の男はそういうと、哲司の顔の前にぐしゃぐしゃになった1万円札を3枚突き出す。

「え?は?・・あー・・・えっと・・。3万?・・・えっと・・そ、そうなんか・・そりゃ気の毒に・・」

哲司は麗華がここでとった行動がなんとなく想像できてしまったせいで、言葉を失ってあいまいにこたえる。

「そうなんかじゃねえよ!これっぽっちでどうしろっていうんだよ!環状線からは遠いていっても、ようやく自分の商売の土地が持てたばっかりなんだぞ!あんたの女がやらかしたことだ!どうしてくれるんだ!」

駐車場管理人は狼狽えだした哲司の胸倉をつかんで、いきり立つ。

「あ~・・そりゃすまんかったな。俺からもよう言うとくわ・・」

哲司がばつが悪そうに頭を掻きながらそういうと、男はポケットからおもむろに携帯を取り出しプッシュし始めた。

「あ、はい。事件です。ええ、場所は・・」

「わかったー!わかったわかった!わかったから落ち着こう!な?!」

哲司は目の前の男が110番通報したのだとわかると、大声を上げ男のスマホを押さえた。

「大丈夫です!なんかの間違いです!ほな、さいなら!」

哲司は、そう一方的に電話口に向かって言うと、電話を切ってしまう。

「何やってんだあんた!・・・そういうことならやっぱりあんたが支払ってくれるんだろうな?」

管理人がそういったところで、管理人のスマホが鳴り出した。

おそらく110番通報された警察が、不審な電話の切り方を怪しんで掛けなおしてきたのだろう。

電話に出ようとする男を哲司は手で制し、口を一文字にきつく結んで神妙に頷く。

「わ、分かった。俺が弁償する」

そういった哲司に対して、男は胡散臭そうな者でも見るように、哲司をつま先から頭のてっぺんまでじろじろと見つめてからスマホを耳に当てた。

「はい。ええ、すいません。手違いでした・・。ええ・・・。はい。申し訳ありません」

男は警察にそういうと、通話を切りスマホをポケットにしまう。

ため息をつき、哲司のほうに向きなおって男は哲司に慎重な口調で言う。

「・・今更嘘でしたはなしだからな?あんたの連れの車のナンバーは監視カメラに写ってるし、知りませんは通用せんからな」

「わかっとる。・・・せやけど勉強したってや」

頭を下げてそういう哲司に向かって、男は再度ため息をつき、壊れた開閉器を見てもう一度深くため息をついたのであった。

「しばらく商売にならねえよ・・」

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 17話【回想】紅蓮の脅威…そして運の悪い男たち終わり】18話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 18話【回想】 緋村紅音の増長ゆえの失態…そして凪姉さま登場



第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 18話【回想】 緋村紅音の増長ゆえの失態…そして凪姉さま登場


「うふふふふふふっ!楽しませてくれるじゃない!さあさあっ!もっと早く立ち上がらないと死んじゃうわよぉ!?」

フロア中に地勢ダメージを継続的に与える【焼夷】を軽めに展開し、悪魔が持つような邪悪な形にしたような炎の大鎌を、金太郎と銀次郎を二人同時に切り捨てんと横凪に振り回す。

金太郎も銀次郎も寸でのところで、鎌の軌跡から飛びのいて逃れるが、その二人の動きを見て紅音の口角が邪悪に吊り上がった。

避けられなかったとすれば、膝から下を斬り飛ばしてしまう一閃、だが避けたとしても想定済みという表情。

どちらにしても楽しめるという歪んだ笑顔。

紅音が振るった大鎌の軌跡のあとを追うように、空間が捩じれ豪風を巻き起こしながら炎が濁流となり二人を襲う。

【獄炎】

炎の大鎌を躱し態勢を崩した金太郎と銀次郎に、風を孕んだ炎の奔流が襲う。

タイミング、速度、術の範囲のすべてが到底躱せるようなものではない。

「ぐおぉおおおお!」

「ぐうぅ!」

二人の身体中を舐り尽くすように舞う炎から、金太郎と銀次郎は、目などの急所だけは守るように顔を覆って苦悶の声を発しながら炎をやり過ごす。

「どうしたの?!どうしたのよう!?動きが悪くなってきてるわよ!うふふふふっ!」

性的興奮からはぁはぁと息を乱した紅音が笑い、内股で脚を擦りながら、立ち上がろうとしている二人にゆっくりと距離を詰める。

圧倒的な火力の前に、焦燥に満ちた金太郎と銀次郎の表情を交互に見た紅音は、二人が凝視している前で、彼らの表情で感極まり、顎を突き出して、濁った目を潤ませ、腰を震わせてた。

「あくぅ・・うぅ・・はぁはぁ・・んんんぅ・・・はぁはぁ」

紅音は軽くイッたのである。

紅音のその異常すぎる様子に、二人は一瞬だけ瞠目していたが金太郎はすぐに我に返った。

「おい銀次郎!錫四郎はどうした?!一緒じゃねえのか?!」

「すまねえ!仕事に行かせてる・・!こっちに来させるには時間がかかる!」

銀次郎の答えに金太郎は眉間に皺を寄せ、渋い顔をしたが、銀次郎の方こそ金太郎に聞いてきた。

「銅三郎は一緒に来てたんじゃねえんですか?!」

「店には来てる!俺と一緒にきたからな!そのうち騒ぎに気付いて駆けつけてくるはずだ」

「はやく来てもらいたいもんだぜ・・!」

銀次郎は絶頂の余韻に浸っている紅音を眺めながら、顎を滴り落ちかけた汗を拭って言う。

「・・はぁはぁ・・。うふっ!・・・あなたたちぐらいのが何人こようと大勢に影響しないけど、途中参加は大歓迎よ。うふふっ!はぁはぁ・・!呼びなさいよ!まとめて灰にしたほうが探す手間が省けるわ!」

紅音は絶頂であふれた愛液が、内ももを伝うぬめった感触を両内ももで感じていた。

「ほらぁ!さっさと呼びなさいよ!」

紅音はそう言うと左手を払って、二人を仕留めるつもりはない程度の火力の炎で煽る。

金太郎も銀次郎も、紅音の言葉どおりにそれぞれスマホを取り出し操作しだした。

「うふふふっ!情けないわねぇ!自分たちが敵わないからって・・ねえ?!でも、いいわ!楽しみが増えるだけよ!」

紅音は二人の様子を揶揄いながらも、スマホの操作ができる程度に火力と攻撃速度を落としてやる。

「舐めやがって!変態女が!」

銀次郎が炎と鎌を躱しながら、歯ぎしりして紅音を睨むが紅音にとって、今その表情は性的興奮を増大させるオカズにしかならない。

「あはぁ!・・ふぅふぅ!・・アンタみたいな大男が・・はぁん!・・そんな悔しそうな顔で・・!くぅうう!勝てると思ってた?!私に勝てると思ってたのぉ!?ダメだったでしょ?!ダメそうでしょ?!・・・興奮しちゃうじゃないのよっ!!あうっ!!!!」

紅音は腰をガクンと震わせ、両ひざから崩れかけて何とか堪える。

2度目は1度目より随分深く達したようである。

俯き加減で、赤い前髪を垂らして表情は見えないが、紅音の可愛らしい唇から涎が垂れているのが見える。

「一人が100だとすると、二人なら200だ」

唐突なセリフに、紅音は絶頂の余韻で濁りはてた目を薄く開き、前髪を指でどかせて声を発した金太郎を見やる。

「はぁ?・・・何言ってんのよ」

紅音は訳の分からないセリフに対し、にやりと笑ってそう言うと、ゆらりと鎌を構えた。

「言葉通りだ。だが三人なら400になる。・・・4人なら800だがな。たいしたもんだぜ・・・。緋村紅音、お前はたった一人でも300ぐらいだろうよ。本当にたいした玉だ・・。だからこそ今からどんな声で鳴くのか楽しみだ」

意味不明な金太郎のセリフを聞いていた紅音だったが、途中から濁った目に冷静さを取り戻しだしていた。

「何、言ってるの・・?」

紅音が再びそう聞いたとき、金太郎と銀次郎がニヤリと邪悪に歪んだ。

「兄貴たち!待たせちまってすまねえ!」

紅音がその声に振り返ると、そこにはホールの入口には銀次郎にそっくりな顔の大男がこちらに向かってそう怒鳴っていたのだ。

「銀次郎!」

「応!」

紅音の背後で金太郎と銀次郎の声が響いた。

紅音が振り返りざま大鎌を一閃させるが、それを銀次郎が左手で防いだのだ。

「えっ!!?」

銀次郎に防げるはずのない威力を込めた一撃を防がれたことに、紅音は驚きの声を上げてしまう。

紅音の思考回路が乱れると同時に、腹部に速く重い一撃が叩き込まれた。

「ぐ!?」

金太郎のボディブローをもろに喰らって吹き飛ばされる。

(あいつの攻撃力で、私を飛ばせるはずなんてないはず・・・?!)

しかし、防御オーラを貫通し内臓が悲鳴を上げているのは紛れもない。

そして、殴られたダメージと金太郎の能力発動阻害をゼロ距離で喰らったため、銀次郎が防いでいた炎の大鎌が霧散し消え失せてしまう。

床に着地したものの、勢いを殺しきれず転がった紅音は、フロアに入ってきた銅三郎にサッカーボールを蹴るように、銀次郎のほうへと蹴り飛ばされた。

どがっ!

「きゃっ!?」

紅音は蹴られながらも空中で態勢を立て直し、何故にこうも奴らの動きが速くなり、攻撃力も上がった理由を必死で考える。

「ぐっ!?」

銅三郎にシュートされた紅音は、訳も分からないうちに銀次郎にガッチリとキャッチされてしまい、両腕を背後に回され、首に丸太のような太い腕を巻かれて、拘束されたのだ。

足が地面に届かない。

封じられた腕も、びくとも動かすことができない。

「ば・・ばかな!なんで?!どうしてっ?!」

狼狽し、疑問を口にして背後の銀次郎を振り解こうとするが、全開で肉体強化をし、炎を纏った両手で銀次郎の腕を掴み剝がそうとするも、銀次郎の巨椀はびくともしない。

「へへへへへっ。こうなったらもう無駄だってもんだぜ緋村ぁ」

耳のすぐそばで銀次郎の声が響く。

紅音が何か言い返そうとしたときに、正面には金太郎が拳を振り上げていた。

「お仕置きの時間だぜ?」

金太郎はそう言うと、紅音の腹部を両手で滅多打ちにしだしたのだ。

「がはっ!?うっ!なっ!?・・・きゃっ!い・・!いやっ!・・・なんで!っああっ!!」

先ほどまで対峙していた時より、明らかに金太郎も銀次郎も強い。

「おらおらおら!まだまだ全力じゃねえんだぞ!」

どすっどすっどすっ!

銀次郎という巨漢にガッチリと羽交い絞めされた紅音は、金太郎のラッシュで腹を殴られ続ける。

「ごほっ!がっ!!?・・あっ!ぐう!」

躱すことも防ぐこともできず、腹部にオーラを集中させて防御するも、金太郎の拳は重すぎる。

これ以上喰らい続けると気を失ってしまう。

「調子に・・っ!のるなっ!」

紅音はそう言うと、金太郎の顎を蹴り砕こうと足を振り上げた。

しかし、その足は銀次郎によって背後から掴まれてしまう。

「くっ・・くそっ!・・なんで?!どうして!!?なんでこんなに?!さっきと全然違うじゃない!死にかけてまで手を抜いてたって言いうの?!」

紅音は両手首を銀次郎に背面で掴まれ、そして、両足首も銀次郎の片手で掴まれてしまったのだ。

「訳も分からず喚いてやがる・・・。それにしても兄貴たちずいぶん危なかったんだな」

近づいてきた3人目の男がそう言って近づいてくる。

銀次郎とそっくりな顔だが、髪型が少し違うしこちらは眼鏡をかけていない。

「日頃から念のためにできるだけ二人で行動してるってのに、まさかこんなヤツがいるなんて思わなかったもんだからな。助かったぜ銅三郎」

金太郎がそう労うと、銅三郎は怪異な双眸を光らせ笑顔で兄に頷いた。

「さっきムカつく奴がいてよう。・・こいつってそいつの仲間なんじゃねえのかって思うんだよな」

銅三郎が羽交い絞めされた紅音の目の前まで近づいて、紅音の顔を、女としての価値を鑑定するように好色な目で眺めまわす。

「ぺっ!」

銅三郎の顔に紅音がツバを吐いたのだ。

紅音は強がりながらも、ほとんど身じろぎができないため顔は強張っている。

銅三郎はポケットから取り出したハンカチで顔を拭くと、にんまりと不気味に笑った。

そして、おもむろに紅音のドレスの胸元を掴むと、下に引き破る。

「きゃああああ!」

悲鳴を上げながらも、自分の防げる範囲ギリギリの炎を周りに舞わせ、銀次郎と銅三郎を焼き尽くそうとするが、2人は苦悶の表情にはなるものの、期待するダメージを与えるほどではない。

2人は紅音の炎に耐えているのだ。

「ど・・どうして!?この炎に耐えられるはずない!私でもこれ以上は耐えられないのよっ?!」

紅音の正面にいる銅三郎は紅音の問いかけには答えず、銀次郎に声を掛けた。

「銀兄、ずいぶんやられちまってるようだし、ここは銀兄に譲るぜ」

銅三郎はそう言うと、銀次郎とポジションを変わるよう紅音の背後に回り込み、同じように紅音の腕と足を鷲掴みにしてしまった。

銀次郎は悪いなと銅三郎に言うと、紅音の正面に立ち無防備になった紅音の胸元に手の平を置く。

「な・・何するつもりよ!・・3人がかりじゃないと勝てないだなんて情けない奴らね!」

「さっきお前遠慮なく呼べって言ってただろうが」

銀次郎はそう答えると、紅音の胸を撫ぜそのまま腹部へと滑らし、破れたドレスのスカート部分へと指を這わす。

にちゃりと指先で湿り気を確認した銀次郎は、好色に口元を緩ませて紅音を見やる。

「・・くっ・・くぅ・・やめろ!やめろよ!ぐはっ!?」

紅音は全力で肉体強化をし、炎も自分の周囲に舞わせて抗うが、金太郎に腹部を強打される。

「ごほっ!ほごっ!・・・てめえ!」

殴ってきた金太郎をギロリと睨み、再び能力を発動しようとしたところで再度腹部に拳が叩き込まれた。

「がはっ!」

「抵抗したり炎を出そうとしたら、何発でもくれてやるぞ?」

ごほごほと咽る紅音を見下しながら、金太郎は勝ち誇った口調で言う。

銀次郎に下着を掴まれ、引きちぎられる。

「あっ!・・・や・・やめろぉ」

「へっ、さっきは人前で平気で逝きまくってた癖に、今度は恥ずかしいのか?」

露わになった秘部を銀次郎の巨大な指がぬるりぬるりと撫でまわす。

「あくっ!やめろっつってんだろぉ!・・がふっ!!!」

炎を出しかけたところで金太郎に殴られ解除させられる。

「へへへへへっ」

下卑た笑いが耳元で聞こえその声で息が耳にかかる。

羽交い絞めにしている銅三郎が嘲笑ったのだ。

紅音の自信に満ちていた心が、少しずつ根元から揺らぎ始める。

銀次郎の3cmはある人差し指が入口にあてがわれた。

「やめろっ!ごほっ!!?」

とっさに肉体を強化し、炎を放ちかけたところでまたもや腹部に強烈な一撃をもらい、金太郎の能力で炎の発現と、肉体強化が解除される。

羽交い絞めされた身体は、銅三郎によって腹部が殴られやすいよう、膣も突き出すような恰好で犯されやすいよう、紅音の臀部を猛烈な力で前方へと押されている。

殴られた衝撃で身体をくの形に縮めようとしても、お尻と腰を猛烈な力で後ろから押され突き出さされてしまう。

紅音の肉体強化では抵抗できない。

さあどうぞお腹を殴ってください。マンコも甚振ってくださいという恰好だ。

先ほどまで身体を焼いていた性欲とは違う種類の炎がちろちろと紅音の身体を蝕みだす。

紅音は蹂躙欲で興奮できてしまう。

する方でもされる方でもだ。

銀次郎は紅音の赤い恥毛をひとしきり撫で、指でつまんで引き抜く。

「痛っ!」

恥毛を毟られるという屈辱で、銀次郎を睨み付けるが、すぐにあてがわれた3cmはある人差し指が一気に突き込まれる。

「あうっ!」

恥毛を引き抜かれたことを抗議するどころか、下手な男の一物よりも大きな銀次郎の人差し指であっけなく果てるさまを見せびらかせてしまう。

「へへへへっ、まだまだ何回でも甚振ってやるぜ」

銀次郎は、逝き果てた紅音の膣内をねっぷりと甚振ってから、愛液で濡れた人差し指をゆっくり引き抜く。

そして、今度は中指をあてがった。

「俺一人で11人分味わえるからよ。たっぷり楽しめや」

「やめっ!おふっ?!んんんんんぅ!!」

銀次郎の中指が突っ込まれ絶頂に一気に押し上げられた瞬間、金太郎に腹を殴られ、口には銅三郎の太い指が突っ込まれたのだ。

殴られた腹部がなぜか痛みより甘い疼きが広がってくる。

口に突っ込まれた銅三郎の指を噛み切ろうと力を込めるが、肉体強化も満足にさせてもらえないうえ、銅三郎の指は硬化していてとても噛み切れない。

(なんなのこれぇ)

そして子宮の中から広がってくる甘美な疼きに、紅音は白い腹を捩じらせて身もだえる。

「【淫紋】が効いてき出したな」

【淫紋】とは下腹部表面に呪詛を貼り付ける技能で、施された女は感度が上がってしまうという下卑た技能だ。

10年後、紅音はOnaholeと下腹部にタトゥーを彫られてしまうことになるのだが、それも【淫紋】の一種である。

金太郎の【淫紋】は、錫四郎の【淫紋】と重ね掛けることによって、通常の【淫紋】よりはるかに強い効果を発動させられる。

子宮口に届く一撃を受ければ、問答無用で深く絶頂させられる凶悪な呪詛である。

子宮口に届くものであれば、なんでもいい。

男根だろうがバイブだろうが指だろうがである。

一突き目の挿入でも激しく身体を痙攣させてイキ果てるのだ。

そして二突き目でも、同様である。

すなわちどんな短小な男でも、自信を付けることができるSEX練習用サンドバック女にされてしまうのだ。

そして、【淫紋】呪詛を貼り付けられた女は、銀次郎と銅三郎の手の指全てで逝かされてしまうと、呪詛を解除することができなくなる。

おまけに【淫紋】は絶えず発情させる効果もあるので、一突きされれば逝ってしまう、SEXすると男が果てる前に百回以上逝かされて白目をむき、粗相をしてしまうとわかっていても男を求めてしまうのである。

「これが定着した女は言いなりだ」

金太郎のセリフに、銀次郎も銅三郎もにやりと下卑た表情で頷き合った。

緑園4兄弟は獲物となった女を、兄弟全員で壊れるまで輪姦するのが緑園流である。

特に銀次郎と銅三郎は、3cm以上の太さで15cm以上の長さがある手の指全てを使い、女を嬲り尽くすのだ。

4人に輪姦されるだけでも大変だが、銀次郎と銅三郎の二人だけで22人分はある計算になる。

そのうえ全ての指で女を絶頂させると、金太郎の付与した【淫紋】がその女に定着し、常に発情した牝状態になった挙句、4兄弟の命令を断ることができない奴隷となってしまうのだ。

「錫四郎がいねえから完全な【淫紋】にならねえが、とりあえず銀次郎と銅三郎、20回逝かせちまいな。錫四郎には後でやらせよう。20回っつてもこいつ勝手に欲情してたからすぐに終わりそうだな」

「ああっ!くぅうう!!また・・っ!あああっ!」

銀次郎は紅音が達したことを、指が締め付けられる感触で確認し、逝かせたGスポットを甚振るようにしつこく擦り倒してから、ゆっくり右手の小指を引き抜いた。

「次は左手だ。緋村、おまえさん俺の条件をすんなり飲んでた方がよかっただろ?兄弟全員のオモチャにされるより、俺の女になったほうが楽だったんだぜ?」

右手のすべての指を終わらせた銀次郎はそういうと、左手の親指を紅音の秘部にあてがう。

不自由な恰好で縛められ、すでに5回、自分で逝ったのも入れれば7回逝った紅音は首をいやいやと振って涙をこぼす。

金太郎に殴られたり、撫でられる腹部からは絶え間なく疼きが送り込まれ、何度逝っても渇くことがない。

次の順番を待っている銅三郎も、次はこの指を使うんだぞと知らしめるように、紅音の口をすべての指で次々と犯してくる。

(こんな奴らに・・・いいようにやられて終わり・・・なの?この私が・・・?)

絶頂を送り込まれ続け、朦朧とする紅音に銀次郎が顔を近づけて囁く。

「お前が依頼した女は、クスリも使うからもっとひでえことになる予定だったんだぜ?ばっちり撮影もして、人生も頭も壊しちまうんだよ。お前はここで暴れまわったから、すぐにはそうできねえが、後でお前に陥れられる予定だった女と同じことをしてやるぜ」

銀次郎の親指で絶頂させられ、身体をひきつらせビクビクと痙攣する紅音の脳裏に、七光りと呼ぶ佐恵子の顔が浮かんだ。

(こ・・こんなの・・私がこんな目に合うなんて・・。七光りがこんな目に合うはずだった・・の?)

気に入らない、目の上のたんこぶ、一族の娘というだけで、厚遇されているから思い知らせてやりたい。

レイプでもされればいい。

そう思っていた。

だが実際にこの身でそれを受けると、こんな惨めな気持ちになるということが、実感できてしまう。

(ここまでのこと・・・される謂れはないわ・・七光りといえども・・)

口に突っ込まれた指で、悲鳴も上げられず、拘束されているせいで涙も拭えない。

逝くと同時に、嬲るように腹部を殴ってくる。

殴られているのに、それですら逝き果てさせられる。

これも何かの能力なのだろう。

殴られて逝くのは、想像以上に屈辱だ。

そして、男根ではなく指などで果てさせられるということも屈辱である。

しかも、これを記録に納めながらされるなど、耐えられない。

そのうえことが完遂されれば、こいつらの奴隷の身分になってしまったうえ、発情しっぱなしなんて。

発情のレベルがどんなものかわからないが、今腹から送り込まれてくる淫らな波長が常にある状態なのだろうか。

狂ってしまう。

(・・・なんにも知らない佐恵子にこんなことを計画した報い・・・なわけ・・?)

銀次郎が最後の指をあてがってきたとき、紅音はらしくもなく後悔し出していた。

銀次郎が左手の小指の動きを速めだす。

(ダメ・・・我慢できない。逝く!)

ぶぅん!!

「ぐああああああああ?!」

紅音が不自由な弓なりの格好で拘束されたまま、諦めて絶頂を受け入れた時、部屋に空気を切り裂くような轟音が響き、銀次郎が苦悶に満ちた大声を上げる。

「な、なんだ?!ぐっ!?」

「がふっ!?おごっ!?」

腹部を白い何かで強打された金太郎、同じく白い何かで顎を打ち上げられて銅三郎はもんどりうって倒れた。

大声を上げた銀次郎は、背中のジャケットごと線状に複数破れ、そこから血潮が噴出し、両手で背中のキズを抑えようとしていたが、ほどなくして動かなくなっていく。

「・・・なぜ?」

フロアの入口に立った白く細い人影が、か細い声でそう言い首を傾げていた。

「なんだお前は?!どうやって?誰が何で攻撃したんだ?!今のはお前がやったのか?!」

膝立ちながらも態勢を立て直した金太郎が大声で誰何するが、白い人影は応える気はないらしい。

緑園兄弟の最大の能力は、【叢狩】という能力である。

血を分けた兄弟が揃えば、致命的な弱点を発生させてしまうものの、爆発的な能力の向上が見込める技能である。

個々として非常に強い力を持つ緑園4兄弟であるが、4人揃うと更に手に負えなくなるのだ。

女を嬲っていたため、油断もあった。

先ほど【叢狩】の効果がなかった銀次郎は仕方ないにしても、効果のあった金太郎と銅三郎にダメージを与えてきたことに金太郎は戦慄したのだ。

両手の指先を身体の前で揃えた白ずくめの女は、傾げていた首を戻すと足音もなく楚々と近づいてくる。

白い細身のロングワンピース。肌も服と同じくらい白く、靴も白だ。

胸元まで垂らしたストレートの髪も白く、近づいてきてわかったことだが、本人はかなり気にしている毛深めの睫毛すら白い。

吹けば飛ぶような細さ、抱きしめれば折れてしまいそうな腰、ワンピース越しでもわかるスレンダーでスラリとした体形。

憂いを含んだ清楚な顔立ちには感情が認められず、そこから何も読み取れない。

そして、そんな真っ白な女の目は翠色に光っていた。

金太郎と銅三郎はその得体のしれない不気味さに後退りしたが、紅音は近づいてくるモノの正体をもちろん知っている。

紅音にとって味方とも言い難い人物だと思っているが、敵ではない。

紅音は引きちぎられ床に落ちていた衣服を両手で拾い、裸体を隠して呟いた。

「・・蜘蛛。どうしてここに?」

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 18話【回想】 緋村紅音の増長ゆえの失態…そして凪姉さま登場 終わり】19話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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