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第7章 慟哭 41話 3本目の動画|涙と射精  杉清一

俺は、2本目の動画を見終え、3本目の動画を見る勇気がなくなっていた。
そして、股間には情けなくも愛妻が、大人の玩具で責められ、叫ぶ姿を見てても触れていないのに射精してしまっていたが、俺は3本目の動画を再生しようとも、思春期に夢精してしまったかのようになっている下半身の着替えをしようともせずに呆けていた。

桜子が・・・あんな声を出すとは・・・。

俺とのSEXで、あんなに大声で叫ぶことなど当たり前だが今までは無かった。
あの機械は、そんなに気持ちの良いものなのか?それとも、あんな男どもに良いようにされる嫌悪感から、大声で叫んでいたのだろうか?しかし・・。

あのカンという男は、桜子が『逝った』と口にしていた・・・。
俺は俺とのSEXで桜子が逝ったのかどうかもわからないし、勿論桜子自身が逝ったことを俺に次げることなどもなく、そんなものはアダルトビデオの世界だけのものだと思っていた・・・。

そして、俺は奴らに従うしかないこの状況で、既に終えている事だが、自分の妻が小汚い男どもに犯されている姿が映し出されるのであろう3本目の動画の再生を試みていた。

・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・


動画が再生された瞬間、目の前の俺のスマホの画面に映しだされたのは、女性器に突き刺さるペットボトルのような男性器。

そしてそれが下から上へと激しく動き、その動きに合わせ、女性の・・・顔は映っていないが妻の桜子の嬌声が響く。

ズブッ!!ズブブッ!!!グチュリッ!!!

という音が、黒く人間のものかどうかも疑わしい男性器が、その男性器を迎え入れるのには、狭すぎるであろう女性器をこじ開けるように侵入し、その長すぎる男性器を全て受け入れる事ができなかったのだとわかるのは、おそらくは桜子の女性器の限界地点に、男性の男性器先端が突き当たる所が、俺が画面で見ている、男性器を余している部分なのだろう。

男性はおそらくは、あのマイクという男・・・。
しばらくすると、挿入部分のドアップから少し画面が離れていき、マイクは椅子に座ったまま、桜子を貫き、俺が見ている方向、つまりこの映像を撮っている者はこの光景をマイクに向かって正面から撮っていたので、俺からは桜子の背中が見える。

『あっ・・・あぁぁぁっ!!いやっ!!はげしすぎ・・・うわぁぁぁぁぁっ!!!動かさないでっ!!あっ!!あんっ!!!きついっ!!こなのむりっ!!!』

桜子は細い腰を、マイクの太い腕で固定され、椅子に座るマイクがその日本人では考えられないくらいの黒々と光る男性器を物凄い身体のバネを使い突き上げる。

すると、水滴と粘膜と粘膜がこすれあう肉音がグチュリッ!!と激しく奏でると桜子は仰け反るように体を震わせるがマイクが後ろに倒れ込むことをさせずに腰と背中を抑え、まるで桜子の女性器の最奥に突き立てる自分の強直から逃がさないようにしているように見えた。

『スギサクラコ。オマエノ、ダンナノペニスト、オレノ、コノ、ブラックキャノン、ドチラガキモチイイ?モウ、スデニ、ナンドカ、エクスタシーヲカンジテイルミタイダガ』

そう言いながら、マイクは桜子を突き上げるのを一旦止めると、桜子の細い腰を両手で掴み、その腕力(かいなぢから)にモノを言わせ、腰を自分が突き刺している男性器に押し付けるように、自分の腰の方へ無理やり引き寄せる。

『だっだれが・・・あなたのなんか・・・えっ・・・いやっ・・・きついからっそれ以上は・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!やめてやめてやめてっ!!いやっ!!いくぅぅぅぅぅぅっ!!!・・・・・・』

桜子は限界以上にマイク自身を、女性器の最奥に突き刺され、既に自由になっていた両手で、マイクの分厚い胸板をおそらくは抑えそれ以女性器を蹂躙されないように抵抗を試みていたのだろうが、最後の、俺が聞いた事もないような、絶頂を告げる言葉の後、声も出なくなり、そのマイクの分厚い胸板にぐったりと身を預けていた。

桜子・・・落ちたのか・・・?

柔道の練習では、締め技で落とされてしまう事はよくあり、俺も何度も経験しているし、桜子も柔道経験者、落ちた事の1度や2度はあるだろうが、SEXで・・・・まさか・・・・。

動画はそこで切れていて、俺は何も映っていない、動画の再生し終えたスマホを眺めながら、目から透明の液体が止まらないのと再び俺の男性器から本日2度目の白濁の液体が放出されてしまっている事を自覚しながら動けないでいた。

俺は、しばらくして正気は取り戻してはいないものの、マイクに言われた通り、上司である大塚さんの友人、菊一探偵事務所の代表代行の菊沢美佳帆さんの、今日のスケジュールをメールで送り、ご丁寧に以上のスケジュールに変更があればまた知らせるとまで付け加えてしまっていた。

【第7章 慟哭 41話 3本目の動画|涙と射精  杉清一終わり】

【第7章完】

人物紹介とご挨拶

いつも千景の一夜限りの思い出話をお読み頂きましてありがとうございます。
いつの間にか、官能小説とサイコサスペンス色も強くなってきておりますが、第8章では菊一探偵事務所が大活躍する事となる予定ですので更にサイコサスペンス色が強くなってしまうかも・・・?

それでは、第8章ではまた新たに大きな団体が登場しますので、人物紹介を致します。

宮川佐恵子(みやがわ さえこ)
158cm 57kg 29歳 73,60,88 

宮川グループ会長宮川昭仁の娘。現社長宮川誠は叔父にあたる。
目以外は石原さとみ似。目は退廃的な三白眼。瞳の色はブラウンとイエロー複数色が混ざったアンバーアイ。
宮川企業系列の経済流通大学卒業後、宮川コーポレーションに入社。入社直後は叔父の宮川誠社長付きで教育を受け、28歳で新設の関西支社の支社長に就任する。わがままで高慢不遜、言葉足らずで冷たいというのがもっぱらの評判ではあるが、仕事においては着実に成果を出しつつあり、周囲からは一定の評価は受けつつある。
男性経験は一人で、パートナーいない歴7年。
幼いころより多数の習い事をさせられており、その一つの少林寺拳法によく似た格闘術を使うが、掌、肘、膝を多用しベースである少林寺拳法の原型をとどめていない。関節技や逆技も得意だが、長い足から繰り出す足技を最も得意としている。
また、宮川家の能力開発を受けており、先天的に備わっているスキルを開花させている。それらの強力な能力を用いて、日常的に多用している。

門谷道弘(かどたに みちひろ)
178cm 70kg 35歳 23cm

上田晋也似の短髪でスーツを着こなすデキるビジネスマン。ネクタイは黄色や緑など明るい色を好む。宮川コーポレーション関西支社勤務。宮川支社長付き部長。関西支社のNo4。
宮川企業系列の経済流通大学卒後、そのまま宮川コーポレーションに入社。楽観的な性格だが、野心家で出世欲が強い。鋭い意見を発しても、嫌味がなく敵を作りにくいため、世渡り上手である。また頼れる兄貴的なところもあり、周囲からの信任もあつく、バランス感覚を持ち合わせた常識人且つ人格者。
実際、佐恵子のエモーションメッセージに晒されても、佐恵子に対して負の感情をほとんど持ち合わせておらず、むしろ女性としての佐恵子に関心をもち、人間性や仕事に対する姿勢では信頼と尊敬すら寄せている。それらを視認できてしまう佐恵子には、とても気に入られ重用されている。

稲垣 加奈子(いながき かなこ)
165cm 55kg 29歳 85、60、88(65D 調子がいいと65E)

新垣結衣似の清楚な見た目で社内のファンも多い。男性社員からはガッキーと呼ばれたりと人気も高い。見た目通り社交的でノリもいい。
宮川企業系列の経済流通大学卒業後、宮川コーポレーションに入社。成績優秀だったが、有名大学には進学せず、佐恵子と同じく企業系列大学に入学。宮川佐恵子とは小学生の時からの同級生。我儘で高慢KYな佐恵子と周りとの緩衝役。
宮川コーポレーションでの職位は支社長秘書(ボディガード、なんでもやらされている)。
小学生の頃は、引っ込み思案で周から虐められていたが転校してきた佐恵子と仲良くなり、それ以来佐恵子の数少ない心を許せる親友となる。佐恵子の高慢高潔な考えや行動に感化され、自分の小さな悩みなどが気にならなくなり、明るく社交的な性格になっていった。一見、無欠にみえるが一部ポンコツ属性(人の名前を覚えない、空気を読まないなど)を持つ佐恵子のお守り役になりつつある。学校以外の習い事はすべて佐恵子と同じ教育を受けており、佐恵子と同じく少林寺拳法をベースにした格闘術を使う。格闘術や男の扱いでは佐恵子よりもずいぶん得手で、格闘術では佐恵子と10回対戦しても8,9勝を収める腕を持つ。また、宮川家の能力開発も受けており後天的に能力を開花させている。

神田川 真理
162cm 54kg 29歳 86,62,91 75D

戸田恵梨香似でしっとりとした美人だが、意外とボケも通じる軽い天然キャラ。清楚な見た目のせいで、それらの隠された素の部分は、多くの社員には知られてはいない。素が出ると自分のことをボクと呼ぶ癖がある。そのため、佐恵子や加奈子からは麻里君と呼ばれることがある。
都内有名私立大学を卒業後。宮川コーポレーションに入社。学生時に様々な資格を取得している才媛。入社式の時に、隠してきた能力を同期入社である佐恵子や香奈子に気づかれ、入社式中の水面下で佐恵子らと衝突するが、その後和解、それからは佐恵子や香奈子は良き理解者で良き友人となる。現在の所属は関西支社総務部会計課に籍はあるが、佐恵子の秘書のような扱い(なんでもさせられる)になっている。能力開発ではなく生まれ持って開花していた能力があり、その能力を周囲に言うことなく隠していた。

雨宮 雫
160㎝ 52kg 26歳 85,62,89 70C

宮川コーポレーション社員。現在ある仕事に出かけて以降行方不明、加奈子や真理の部下。

楠木咲奈
158㎝ 49kg 25歳 83,60,85 65C

宮川コーポレーション社員。雨宮雫同様、現在行方不明。加奈子や真理の部下。

以上が第8章序盤で活躍する予定の登場人物になります。

それでは今後とも、千景の一夜限りの思い出話をどうぞよろしくお願いいたします。






【第8章 三つ巴 1話 楠木咲奈、雨宮雫~~神田川主任の依頼~~橋元不動産訪問】


【官能小説一夜限りの思い出話|第8章1話・楠木咲奈、雨宮雫~~神田川主任の依頼~~橋元不動産訪問】

 上下黒のスーツに黒のベスト、生地にはわずかにブラウンのストライプが入っている。スカート丈も短すぎず膝上ちょうどぐらいのタイトスカートである。

ブラウスの色は派手な原色でなければ、特に規制はない。見る人が見ればわかる宮川コーポレーションの制服だと気づかれるだろう。しかしそれは女性社員だけの話であり、男性社員専用の制服は存在しない。

突如2年前から女性社員用の制服だけが支給されるようになったのだ。いまの関西支社長が支社長に就任した際、最初に本社に向けて出した稟議が、女性社員用の制服およびパンプスの支給要請だったらしい。

給与形態が男性より劣るにもかかわらず、何かと物入りなのは女性のほうである、また、会社の受付、窓口を預かる女性の身だしなみや清潔感を統一し、当社のイメージを向上させたい、という理由が稟申採用の表立っての理由である。

しかし、不満のある男性社員の誰もが思っていて公然と口には出せないが、支社長こと宮沢佐恵子が会長の娘、社長の姪だからというのが最大の理由だろう。

しかし、私たちのようにまだ、新入社員に毛が生えた程度の給与しかいただけていない身にとっては、理由はともかくとても助かっている。

以前はスーツ購入、それに掛かるクリーニング代が本気で馬鹿にならなかったが、支給品の制服は洗濯しても大丈夫な素材だ。

それに、制服や靴の選定は、上層部のお偉い様方が趣味に走って決めたわけではなく、女性社員のアンケートで選ばせてくれたのも素晴らしい。毎年、夏服と冬服が年に1度2着づつ支給されることが決定している。

洗濯可の素材だが万一傷んでも来年また支給されるのだ。私のように田舎から都会に出てきて、一人暮らしをしているOLにとっては、ありがたいことこの上ない。

さらに、支社長が女性ということもあり、小さいことも数えれば、女性社員だけにある特典は多い。女性用トイレのほうが洗面化粧台の数が多く広いし、しかもお湯がでる。あと、健康診断で痩せや肥満と診断されず、身長や年齢で割り出された、理想体形と理想体重の数値内で維持をしていると、10万円の美感意識特別手当などという謎の手当があったりするのだ。

制服やパンプスを支給するのも、各自化粧品や食生活を留意し、美意識を保てとの意味らしい。おかげで、特に宮川支社長管轄の関西支店は、女性社員は美しい人が多く、そして女性社員の管理職進出が著しい。

それをやっかむ男性社員もいないではないが、門谷部長を筆頭に、何人もの男性社員が、宮川支社長に重用されているので、理不尽な差はないように思う。

活躍している女性の筆頭は、稲垣先輩や直属の上司である神田川主任だ。仕事もでき、支社長秘書のポストについて高給を貰っているらしいので羨ましい反面、同じ女性が社内で活躍できるという意味では励みにもなる。

しかし、彼女たちは支社長の同期組でもあるし、稲垣先輩に至っては宮川支社長の幼馴染だというのは社内では有名な話だ。

それでも女性にとって活躍しやすい、他社より有利な職場であることには変わりがない。早く彼女たちのような待遇になりたいと、日々仕事をこなしていた矢先、先日から神田川主任の部署になれたのだ。やる気が空回りしないようにして、目をかけてくれている優しい上司にいい報告をしたかったのだが、そう上手くはいかず、いきなり躓いてしまったようだ。

神田川主任から橋元不動産社長のアポイントを取り付けるように命じられていたのだが、電話では全くつかまらず、ついに今日、同僚の雨宮雫と橋元不動産の事務所まで足を運んだのだ。

しかし、橋元不動産の受付でも取り次いでもらえず、橋元社長の帰社時間を聞いてもわからないの一点張りを通されてしまった。そして、まだ橋元不動産の敷地内ではあるが、すごすごと橋元不動産事務所の玄関から見送りしてもらえず二人して出てきたところだ。

「はい、そうなのです。申し訳ございません。・・はい、今から帰社致します。申し訳ありませんでした」

同僚の雨宮雫が、さっそく神田川主任に報告している。

雫も同じタイミングで同じ部署に配属され、私と同様やる気を見せていたのだが、残念な報告しかできないためのせいだろうか、落ち込んだ声に聞こえるのは気のせいではないだろう。

「主任怒ってた?」

「ううん、ご苦労様って、あと気を付けて帰ってきてください。ってさ。怒ってるような感じゃなかったよ」

「そっか。それなら少し安心したけど。でも、アポイントを取るだけの仕事すらできないって思われてたら、辛いなぁ」

「うーん・・・まあ、しょうがないよ・・。噂だけど、前に橋元社長のほうから支社に挨拶来てくれた時があったらしいんだけど、その時、ウチの支社長が門前払いしたらしいから・・・」

「えー!そうなんだ・・・?!じゃあ、橋元社長はそれに怒ってるってこと?それだと、アポイントが取れないのって、支社長のせいじゃん・・?」

思わず、口に出してしまった内容をなかったことにしたくて、とっさに自分の口を両手でふさぐ。もちろん、なかったことにはできず、正面でしっかり聞いていた同僚の雫が小さい声ではあるが、鋭く窘めてきた。

「咲奈・・!主任に言われてるでしょ!いないところでもそういう会話はご法度って」

「ごめん・・。でも雫がそういうこというからじゃん・・」

「ごめんごめん、私も反省・・。宮川支社長の前に行くとなんだか見透かされたような気がするのよね、あの雰囲気、なんだか空恐ろしいわ・・・。こないだ、主任にそれとなくそう言ったら、気のせいじゃないから気をつけなさい。って真顔で言われちゃった・・」

雫が両肘を抱えるようなしぐさで身を震わせながら言った。

「ホントに・・?確かに何となくわかる・・あの優しい主任が気をつけろって言ってるんだから、その通りかもしれないね」

「うんうん、それより、もうここにいてもしょうがないし、主任も帰ってこいって言ってるし、一度支社に帰ろ?それに、人んちの事務所の前で、長話よくないよ」

「うんー、そうだね。帰ろっか」

雫のほうに歩き出し、雫の顔を見ると微妙に視線が合わない。あれ?私の後ろを見てるの?なんだろう?と思った瞬間、雫が叫んだ。

「咲奈!!」

え?どうしたの、大声だして、と思った時には、私の背中、ちょうど肩甲骨の間に何かが押し当てられた感触があった。

バチンッ!!

すぐ近くで大きな音が聞こえた瞬間に、全身に激痛が走る。正面にいる雫が、何かを叫びながら私に駆け寄ってくる姿が見える。雫の後ろには、黒い髭剃りみたいなものをもった二人の男性が駆け寄っているのが見える。

私も、

「雫!後ろ!」

と言おうとしたが、何故か声が出ない。

私の視界が、意思とは関係なく勝手に横へ上へ下へと猛スピードで動く。何かを叫んでいるであろう雫、知らない男たち、雲、事務所の外壁、橋元不動産にある高級車、地面、そして誰かの靴、グルグルと視界が動きそして止まった。

胸や顔を打ち付けたのだろうか鈍痛がある。ウェーブのかかった自慢の亜麻色の髪が地面に投げ出され、先ほど視界にはいった靴が私の髪を踏んでいる。顔にひんやりとした土の感触、僅かに口に入った砂らしき異物の感触を不快に感じながら、私、倒れてるの?と、かろうじて自分の状態を把握できた。

立ち上がろうと両手で地面を押し、顔を上げようとする。

すると、私の髪の毛を踏んでいた靴が持ち上がって視界から消えた。その直後、私の後頭部に衝撃があり、高速で地面と強制キスをさせられる。

顔と口に土の感触が不快に摩擦する。髪の毛に次いで頭まで踏まれたようだ。そして、背中に先ほどよりも強めに、硬い感触が押し付けられ、立ち上がろうと僅かに持ち上げていた私の身体が地面に無理やり押し付けられる。

そしてバチンッ!!と大きな音が再び聞こえた。

耐え難い激痛が再び全身に走る。

「うぎぃうっ!!」

私が絶対にあげないような無様な悲鳴が口から洩れ出た。悲鳴で、口を開いてしまったがために、地面とキスさせられていた口の中に土の味が広がる。訳が分からず、理不尽な仕打ちに悔し涙で視界が滲む。

雫は?と雫の姿を目だけ動かして探すと、雫のくぐもった悲鳴が聞こえた。

「んんんんんんんんんんっ!!!」

声のした方向を頼りに視線を動かすと、雫は二人の男に前後から挟まれていた。一人は背後から雫の右手を背で高くひねり上げ、つま先立ちにさせている。支給されたパンプスの片方はどこかに脱げてしまったのか、左足しか履いていない。正面の男は、この角度からだと横顔しか見えないが、下卑た笑みで雫を正面から見下ろしながら笑っている。

そして、雫の悲鳴が響かないように左手で雫の口を押えているのだ。さらに、男は右手に持っている黒い四角い機械を雫の胸に押し当てトリガーを引いた。トリガーが引かれるとバチンッ!と音が鳴り、雫はエンストした車のように身体を跳ねさせた。

「んんんんんんんぅぅ!!」


「ハハハハ」

信じられないことに、正面の男は雫が悲鳴を上げると笑いだした。

後ろで、雫の手をひねり上げている男も「ヒヒヒ」と笑い、雫の顔を後ろからのぞき込んでいる。そして、正面の男は黒い四角の機械を雫のおなかにあてがうと、再度トリガーを引いた。

「んんんんんんんん!!!」

雫が真っ赤な顔で、つま先立ちになりのけ反った。口を押えられているためか悲鳴を上げきれず、悶絶している。右手を後ろでひねられて身体を逆弓反りでつま先立ちしているせいで、左足のパンプスも脱げてしまった。

雫の口を押え、お腹に黒い機械を押し当てている男は、今度は黒い機械を持っている手で器用に雫のスカートをめくると、黒のパンスト上から黄色いショーツが見える雫の中心に黒い機械を押し当てた。私は男がすぐにトリガーを引くのかと思ったが、男はそんなに優しくなかった。

男は雫の口を押えながら、雫の顔を上から下卑た表情でのぞき込んでいる。雫は涙で濡れた顔を、力なく横にふるふると振っている。

なんてこと、男は雫が絶望している表情を楽しんでいるのだ。男たちは数秒間、雫の表情を楽しむと、無情にもトリガーを引いた。

バチンッ!

「ッッッ!!!」

今度はほとんど声もなく、雫は身体を激しくエンストさせた。下着丸出しの格好で、黒い機械を股間に押し当てられながらガクガクガクッと痙攣し、逆エビ反りの態勢で後ろの男に力なくもたれ、ぐったりと動かなくなった。

あまりにも、惨めで惨い同僚の扱いに更に涙があふれてくる。痛みですでに気を失いかけている私の背中に、蛇足の三度目の激痛が走った。頭を踏まれ地面に組み伏せられている為、地面で全身を痙攣させてしまう、文字通り身も心も泥にまみれてしまった。私の視界は真っ暗になり、意識を失った。

【第8章 三つ巴 1話 楠木咲奈、雨宮雫~~神田川主任の依頼~~橋元不動産訪問】おわり

【第8章 三つ巴 2話 宮川佐恵子・持て余す膂力|門谷道弘・理想の年下の女上司】

【~~最近の日課・早朝トレーニング~~】


シンと静まった道場のほぼ中央に、黒帯に白の胴着姿の女が一字構に近い姿勢で静止している。
静止している時間を問われれば30秒ぐらいだったのかもしれない。しかし、いつまで動かずにいるのかと思えるほどの時間が流れたように見える。

女の形の良い顎から黒髪に汗が伝い、濡れたその先端から零れ、床に落ちた瞬間、女の纏っていた殺気が膨張する。

「フッ!」

気合の籠った短い呼吸を吐き出し、凄まじい速度で女が動く。

素早く流麗で無駄のない足運びは足音がなく、しかし胴着が肌に当たる音を響かせながら、空気を切裂く物騒な風切り音が道場内に響く。

腰近くまで届く直線的な黒髪を躍らせながら、およそ1秒という刹那に、突き4回、蹴り4回、肘と膝をも織り交ぜた攻防一体の演舞、否、女は仮想の難敵を相手に戦っているのだ。

女は猛禽類が獲物を狙い定めたような目をすると、身を低くして懐に滑り込み、だん!と床を鳴らし踏み込むと、難敵の水月に左頂肘を打ち込む。

難敵は身体をくの字に折り曲げ、後方へ2歩蹈鞴を踏んだ。ついに大きな隙が生まれたのだ。そのまま躍歩し、左裏拳でのけ反らせるのかと思ったが、女は踏み込んだ左足を軸にして体を高速で翻した。

屈折させていた左足を伸ばしながら、折りたたんだ右脚を相手の喉目掛けて呻らせる。

遠心力、左足の伸膝運動、さらに折りたたみ引き絞っていた股下75㎝の右足を全速力で開放する。

凶悪な後回し上段足刀蹴をほぼ垂直に放ち、右足の側部を目標の喉に食い込ませたまま静止する。

5秒ほど蹴り上げた姿勢のままでいたが、女はゆっくりと自分の頭よりも高く上げた脚を、膝から折り曲げ、そしてつま先を床に戻した。

「ふぅ・・・」

女は汗で濡れた前髪を煩わしそうにかき上げ、小さくため息をついた。思い通りのイメージで動けなかったのか、はたまた現在直面している状況に、今日もまた向き合わなければならない憂鬱さのせいなのか、勝ったというのに女は苛立っているように見えた。

【門谷道弘~~出世街道~~】

時間的にそろそろだ思い、あらかじめ用意しておいた、新品の国内産高級タオルを用意する。

予想通り、道場の出口には黒髪を汗でしっとりさせた女性が姿を見せた。此方に歩いてきた彼女に、タオルを受け取りやすい高さで丁寧に差し出す。

彼女は差し出されたタオルを歩みも止めず掴み、顔の汗をひとしきり拭う。そしてそのままタオルを顔が隠れるよう頭にかけ、歩きながら帯を解き、胴着の上着を脱ぎつつ、今日最初のオーダーを言った。

「30分したら行くわ、車を用意しておいて」

彼女はそういうと、そのまま私の脇を抜け、道場に据え付けられているシャワールームに向かっていった。

一瞬ではあるが、帯を緩め、胴着の上着をはだけた彼女の、汗で肌に張り付いた黒のノースリーブと女性的なデコルテラインが見えた。

胸の主張は控えめで、せいぜいAといったところだろうか。それに、今日はブラをしてないようだった。張り付いた黒いノースリーブからは僅かに突起が確認できてしまい、一瞬とはいえ、会社では隙のない彼女の油断を捉えた気がして一気にテンションが上がる。胸は小さいが、汗で艶めかしく光る首や胸元、特に溝の深い華奢に見える鎖骨は、健全な男心を擽るには、十分な魅力があった。

彼女が私の直接の上司になって4年になる。最初は6つも年下の女の部下になることには、大いに不満があったが、今では、むしろ彼女のところに配属されてよかったと思うようになっていた。

なぜなら、彼女付きになったことで給料は大幅に上がり、配属された関西支社の業績も右肩上がりである。彼女は我儘、傲慢であり敵には容赦しないが、部下が一定以上の能力で忠実な場合に限り優しかった。

少し早めに家をでて、貸与されている社用車で支社長を道場まで迎えに行くだけで、給与とは別に手当がつく。それに、スーツ姿だけでなく、支社長の汗まみれの胴着姿を見れるようになった。今日に至ってはタンクトップ越しではあるが、ノーブラを確認してしまった。

いろいろと苦労させられる時もあるが、それはどんな上司を持っても何か不満はあるはずだし、それより今の年収や職位を考えると、同年代の者たちより、格段に良く、彼女の周りから脱落した多くのライバルに対して優越感すら感じる。

このまま行けば俺も、いずれは役員にすらたどり着けるはずだ。現に関西支店の多くの業務は、すでに俺無しでは機能しない。彼女も俺のことを、随分頼っているようにも感じる。

・・・相性がいいのかもしれないな。もしかして、まさかの逆玉の展開もありうるのか?などと邪な考えが脳裏にチラつく。

しかし、余計なことを考えて失態があってはいけない。彼女はほんの些細な違和感でも見透かすようなところがある。いわゆる勘が鋭いタイプだ。ぶんぶんと邪念を振り払うように首を振り、彼女の後ろ姿を見送った。

社用車である白の国産高級車まで戻ると、エンジンをかけ車を彼女がいつも現れる扉の近くに着ける。彼女はかなりの寒がりなので、エアコンの温度を高くすることも忘れない。

彼女こと宮川佐恵子は、宮川コーポレーション会長の娘であり、現社長の姪である。宮川コーポレーションは東日本、主に関東と中部地方でインフラ整備や通運事業の大きなシェアを持っており、近年さらに関西地方にまで進出してきた複合企業体である。
本社から教育係という名目の取締役が2名付いてはいるが、関西地域の対外的な責任者は宮川佐恵子であった。

当初は、一族経営の娘など我儘なだけでどうしようもないと思い込み、苦労と辛酸を味わう割に、成果は上がらず出世の道は閉ざされたのかと嘆いたものだった。
しかし、宮川支社長は俺の予想を良い方向で裏切り続け、関西支店での彼女が行う事業は概ね順調である。

宮川支社長は何でも卒なくこなすが、特に交渉術に長けていて、アライアンス企業や下請業者に対し、厳しい要求を突きつけ、絶対に無理だと断られそうな契約内容であっても、彼女が交渉すると成約させてしまうのだ。

結果、破格の好条件で電話、インターネット、テレビ、ガス、電気、運輸などのインフラ整備、運搬業事業の荷役等の取次店の権利を多数獲得し、莫大なロイヤリティ収入を生みつつ、着実にこの地域を宮川グループの傘下に収めつつあった。

若いのに大したお嬢様だと感心する。
ただ、最近少し気がかりなのは、インフラ取次の事業で得た、膨大な個人情報をもとに、関西支店も不動産事業に乗り出したのだ。

それ自体は問題なく、むしろ宮川コーポレーションの常套手段だと言える。手順は計画通りで問題ないのだが、現在関西支店の不動産事業は芳しくない、関西支店唯一の赤字部署だ。

このままでは俺の順調なビジネスマンライフを失速させる恐れがある。ここ数日、ただでさえ機嫌が悪そうに見られがちな宮川支社長の機嫌が、本当に悪いのもそのせいだろう。

出社してからの、支社長と俺のスケジュールを端末で確認し、不動産事業の梃入れアイデアを頭で巡らせる。周りから恐れられている上司を、普段の癖で心の中では【ちゃん】付けで呼びつつ、

「佐恵子ちゃんの憂いを取除くのが俺の出世街道~」

と誰にも聞こえない小声で呟きながら端末を操作し、電話で9時には到着すると支社に連絡をいれると、支社長を車の前で待つことにした。

【第8章 三つ巴 2話 宮川佐恵子・持て余す膂力|門谷道弘・理想の年下の女上司終わり第8章3話へ続く】

【第8章 三つ巴 3話 佐恵子の力と門谷という男|宮川佐恵子・門谷道弘】

【宮川佐恵子~~能力者―筋肉質―八色~~】

「ふぅ・・。門谷さんに見られてしまったようね・・」

先ほどタオルを受け取った際、発せられる門谷さんの感情の色の変化が見えてしまい、下着をつけていない胸の尖っていた部分を見られてしまったのが鮮明に伝わってくる。

佐恵子には特異な能力がある。宮川家の者は、皆幼いころから脳活性のトレーニングを受けている。能力開花しないものも多いが、その中でも佐恵子は優秀なほうであり、二つの得意能力を開花させていた。

汗で肌にへばり付く、黒のノースリーブを脱ぎ胴着のパンツ、そして白のTバックショーツを脚から抜き取り脱衣所の籠に入れ、鼓動を確かめるように胸を両手で触りながらつぶやいた。

しかも、あんな近くで見られたせいで、渡してくれたタオルでつい顔を隠してしまった。
門谷さんには、今日もこんな早い時間に出勤させてるし、いつも無理な命令も嫌な顔せず聞いてもらっているのに、さっきは少し冷たい言い方になってしまったわと反省する。

浴室に入り45℃で熱めに設定されているレバーを倒すと、熱いシャワーで髪を濡らし、全身の汗を洗い流す。

ひとしきり、熱いシャワーで汗を流すと、浴室の壁にある大きな姿鏡で自分の身体を確認する、身長158cmで女の割にはかなり引き締まった身体は、服を着ていると一見華奢に見える。しかし、少しお腹や脚に力を入れると、筋肉のスジが浮かび上がった。

「・・・・スタイル維持のためにトレーニング再開したんだけど、やり過ぎかしら?」

と誰ともなく呟き、薄っすらとシックスパックになった腹筋を撫で、筋肉が露わな脚やお尻を摩る。遠目に見ればスタイル的には胸以外は問題ないわね、と思いつつも、やはり間近で見ると筋肉がやや気になった。

一切ウエイトトレーニングなどしていないので、筋肉があるといっても、ボディビルダーのような身体ではない。これで服をきていたら、むしろ着痩せして見える。実際、ちゃんと食事を摂っているのかいるのか、心配される時があるほどだ。

シャワーで汗を流し、タオルで身体の水分を拭い去ると、全裸で脱衣所のデジタル体重計に乗った。表示板の数字の停止を待つ。しばらくするとピッという電子音がして57kgと表示される。

「・・・体重だけ見ると、重いわね」

そういうと、外していた腕時計で時間を確認する。門谷さんに言った時間まであと15分しかない。気にはなるが、体重やスタイルはすぐにはどうしようもないと考え、自分で言った時間に間に合うよう、急いで支度をする。

ジャケットにタイトスカート、植物を模した刺繍入りのパンティーストッキング、ベストも身に着ける。ブラウスは薄いピンクであるがそれ以外はすべて黒である。普段からブラウスの色が変わる程度で、大抵黒を基調とした服装で統一していた。女性社員には制服を支給しているが、これは自前のものである。

いつもの手順を手早くすすめる。髪を乾かし、化粧を済ませ、最後にややふっくらした唇にお気に入りのルージュを引き、唇を合わせぱっと開く。

「よし、できた」

化粧道具をポーチに仕舞い、バッグに投げ込むと急いで車に向かう。

道場の門まで向かうと、車の前でドアを開いている門谷さんが見えた。柿、黄、薄緑のオーラを2:4:4で纏わせている。
私は、男性相手に限るとここ数年では彼にしか見せたことのない笑顔で言った。

「おまたせしましたわ、いきましょうか」

本当の意味で、信頼できるお気に入りの部下をねぎらい、後部座席に乗り込んだ。

【宮川佐恵子、門谷道弘~~信頼~~】

支社長室の革製の椅子に深く腰掛け、脚を組み、目を細めて渡した資料に目を通している。
資料に目を走らせる顔は冷静で無表情なように見えるが、わずかに苛立っているように感じられた。それは提出した資料には良いことは一つも書いてないからかもしれない。


「・・・すでになにか対策はしていますの?」

支社長は資料から目を離し、顔を上げ聞いてくる。俺は立っているため、座った支社長は上目遣いだ。

しかしいい角度の上目遣いの顔が拝めたのは一瞬で、支社長は目を落とし、渡された資料の用紙を、ベージュ色のマニキュアが施された白い指で、几帳面に揃えファイルに戻すと、今度は目を合わせず、細く長い腕をのばしてファイルを俺に返してくる。

俺は、気を取り直しファイルを受け取りながら、正確に伝えなければと口を開く。
経験上、支社長には正攻法しか通じないことはわかっている。

今回、取り繕う言い方など不要だが、彼女にはなぜか嘘や言い訳は絶対に見抜かれるし、そういうことを彼女は非常に嫌う。脱落していった俺のライバル達は、皆その類のことで失脚し、関西支社から排除されていったのだ。

報告書の概要を頭の中で思い返す。
今回の湾岸部開発の計画を進めるにあたって、どこから嗅ぎつけてきたのかわからないが、橋元不動産なるこの地域では有名な不動産会社が、計画に一口乗らせてほしいと要請があったのだ。うちと協力したほうが宮川コーポレーションのためになるし話がスムーズに進むと・・・。

その件は支社長にも一応報告したが、支社長の反応は俺の予想通りで、一言「無視してください」と言っただけだった。

そして橋元氏を追い返した日から1か月ほどたった先週末から、いままで順調に進んでいた湾岸部開発のプロジェクトが突如暗礁に乗り上げた。

ようやく契約まで漕ぎつけた地権者たちからこぞって契約解除を申し入れがあり、近隣住民も計画に反対運動を起こしだし、府警にまで近隣住民から苦情が寄せられ、当社に警察から注意喚起が来る始末だ。
それに府のほうまで計画自体を白紙に戻さないかと言ってきた。

そこで、おそらくこれらの原因である橋元氏の会社に二人、話し合いに向かわせたのだが、今度はこちらが門前払いされてしまったのだ。

支社長が伸ばした手からファイルを受け取っていると、支社長室の入口のほうからコンコンと音がし、「失礼します」という女性の声がした。

こちらの返事を待たずドアが開かれると、カップが二つ置かれたトレーを持った女性が入ってきた。コーヒー豆を焙煎した香ばしい香りが部屋に広がる。女性は慣れた所作で支社長の机の前まで進むと、支社長の机にソーサーを置き、「どうぞ」というとソーサーの上にカップを置いた。

「・・ありがとう」

僅かに不機嫌そうな表情で支社長が言う。

(・・・この子にはいつも冷たいな、、、今度からお茶汲みは違う子に頼もう)

などと思っていると、女性はソファの間に置かれているテーブルに俺の分であるもう1セットのコーヒーを置くと、女性は「失礼しました」と言い、部屋の二人に一礼して支社長室から出て行った。

「門谷部長も座ったら?今日もお忙しいでしょうけど、少しぐらい座る時間あるんでしょう?」

先ほどの女性従業員に向けた表情とははまるで違う優しく、明るい口調で支社長が促す。
支社長は机の引き出しから白い丸い砂糖の入った陶器を取り出しつつ、手のひらでソファを指し、俺に座るように勧めてくる。俺は促されるまま応接ソファに向かうと

「失礼します」

と言ってソファに腰掛ける。
支社長は、カップにスプーンで5杯の砂糖を投入して、カチャカチャとコーヒーを混ぜている。

俺の前に置かれている、湯気を立てているコーヒーの入ったカップからは、香ばしい匂いが発せられていたが、匂い楽しむまでにとどめ、まずは支社長に最初聞かれた対策について口を開いた。

「ええっと、すでに地権者たちには契約書にも記載しているとおり、現況では契約解除は不可能であることを、手分けして伝えに向かわせております。法的には当社は過失などなく、契約書通りに解釈すると、寧ろ地権者が契約不履行事項に抵触していますので、地権者に関しては問題なく解決するでしょう。あと、府のほうには、地権者と同じく白紙になどできるような状態ではないので、これらも問題はないですが、一応、本日私が話を付けに行くことになっています。警察のほうは、さらに問題は少なく放っておいても大丈夫でしょう」

さらに続けようとしたとき、大変甘くなっているであろう黒い液体を啜っていた支店長が口を開いた。

「問題は、反対運動ね・・・」

啜っていたカップをソーサーに置くと、支社長が額を抑え、溜息をついた。

「おっしゃる通りです。ですが時間はかかりますが解決はできます」

「・・・・そうね。・・でも時間をかけて計画を遅れさせるわけにはいかないわ。本社もこの件で突いてきてるし・・・・今回はお金を使って解決しましょう」

「上限はいかがいたしましょう?」

「・・・2か月以内、それで再開してくださる?」

金額の上限を確認したかったのだが、期間を指定してきた。金額の上限は問わないということか、といっても上限がないというよりも任せるという意味だろうと解釈する。

「承知いたしました。2か月いただければ何とかなると思います」

「そうよね。期待しているわ・・・門谷部長」

目を閉じ天井に向いていた顔をこちらに向けると、妖しい美貌に笑みが綻んだ。(期待している)などとは年下の女性に言われるセリフとしては高慢と言わざるを得ないが、この笑顔を向けられれば大抵の男性はコロリと転ぶのではないだろうかと思う。

内心の動揺を顔には出さず、俺以外の奴らにも、この笑顔で労をねぎらってくれると、支社内の男性社員にはとくに効果があるんだがなあ、、と内心の希望を心中でつぶやきつつ、年下の女ボスに丁寧に了承の意を返す。

「お任せください」

「お任せしますわ」

支社長の綻んだままの顔での即答に安堵し、カップを手に取り、ようやく暖かく程よい酸味を味わった。

【稲垣加奈子、神田川真理~~ガッキーとボクっ娘】

ようやくコーヒーに口を付けたところで、再び支社長室の扉がノックされる。
返事を待たず、支社長室の落着いた色合いの木質ドアがやや乱暴に開くと見慣れた女性が二人入ってきた。

「失礼します。・・・・あれ?門谷さん!またここにいたんですか?みんな待ってましたよ?!」

「門谷部長、今日も支社長をお迎えに上がってたんじゃないんですか?10時から府庁で大事な仕事があるというのに、本当にお疲れ様です」

二人とも社内で1,2の人気のある女性だ。対照的な印象の二人だが、非常に優秀で支社長も重用している。それに二人とも支社長とは同期入社でもあるし、部長である俺に対して部長とは呼ばず話しかけてくる彼女は宮川支社長の幼馴染だ。

「えええ?支社長、今朝も道場に言ってたんですか?行くときは私も誘ってって言ったじゃないですかぁ」

入ってきた二人のうち、髪の毛の明るいやや長身のほうの女性が支社長に不平を言う。

「え、、?ええ、、でもあなた、大体二日酔いで朝起きないじゃない、、それより門谷部長、そろそろ府庁に行く時間でしょう?これから稲垣と神田川とも打ち合わせなの。・・・長引いてしまったわね、今度から資料をもう少し簡潔にまとめておいて欲しいですわ」

「承知しました。次は気を付けます。それでは行ってまいります」

やや釈然としない注意を受けたが、素直に謝罪し下げていた頭を上げると、複雑そうな表情の支社長に見つめられていた。支社長はなにか言いたそうな気がしたが、時間はそろそろ本当にぎりぎりだったので、来訪女性社員二人に軽く挨拶を済ませると、立ち上がると急いで支社長室を後にした。

「やっぱり、二人ともまだ帰ってないみたい、、あの連絡の後、支社に帰ってこないから部署の子たちにも聞いてみたんだけど、、、、」

「二人とも市内に一人暮らししてるから、さっき実家のご両親に連絡させていただきました。、、、やはり、両方のご両親にも連絡は来ていないみたいです。、、警察には捜索願を出しておきましょうか・・?」

門谷部長が役員室から退室し、ドアが完全に閉まるの確認すると、稲垣加奈子は首を振り報告してくる。

真理は現在行方不明になっている、雨宮雫、楠木咲奈のご両親に報告したばかりで、ご両親の心配に当てられたのであろう、真理自身も美しい顔を陰らせている。
そんな二人の不安と困惑が色濃く伝わってくる。

湾岸地域開発事業の推進は門谷さんに任せておけば、再開まである程度時間の猶予があれば漕ぎつけるはずだけど、こっちのことまで負担はかけられないわね。

頼りになる年上の部下の負担を考え、加奈子と真理に調べさせていたのだ。雨宮雫と楠木咲奈が行方不明になって今日で3日目である。門谷さんには欠勤していると伝えているが、一昨日、二人は橋元不動産で門前払いをされた報告を受けてから連絡が途絶えており、実は昨日も今日も無断欠勤なのだ。

「真理、捜索願は出しておいて。それと、橋元という人、、知り合いの伝手を使って少しだけ調べてみたんだけど、善良な市民ってわけじゃないみたいね。外国人をいっぱい囲って愚連隊みたいなのを取り巻きにしてる危険人物・・・・。咲奈や雫のこともあるから急ぎたい気持ちもわかるけど、橋元の情報がもっと欲しいわ。急だったけどなにかわかった?」

二人の捜索願いを警察に依頼しスマホをしまうと、加奈子が心配を口にしている。

「情報が欲しいのはわかるけど、そんなに時間がないんじゃ・・?」

と焦る加奈子を遮って、心当たりを提案する。

「それなら私に心当たりがあります。菊一という探偵事務所が市内にあるのですが、佐恵子はご存知?」

この部屋には私たち3人しかいないので名前で呼ぶ。

「知らないわ」

私の質問に即答した佐恵子は短く答えさらに続ける。

「大丈夫なの?探偵なんて、、、菊一探偵、、聞いたこともないけど・・・。探偵って、なんだかアウトローな仕事ってイメージしかないの」

佐恵子は興味のないことは憶えてくれない。菊一探偵事務所についての報告は初めてではないのだが、予想通りの反応だったので、用意していた返事を返す。

「評判はかなりいいみたいですし、凄腕だと聞きますよ。それに府内で有名人だと目されている方達の情報はだいたいすでに収集しているとも聞いたことがありますので、佐恵子のことも調べられてるかもしれないですよ?」

佐恵子の性格を考え、意地悪で少し煽るような言い方をしてしまうが、そのほうが効果は高いことは分かっていた。

「わかったわ。・・・・内容は、、橋元不動産について聞きたい、と、すでに橋元不動産や橋元氏についてこちらにとって有用な情報を持っているのであれば情報提供料をお支払いする。この内容でその探偵を呼んでくれる?」

「承知しました。いつ・・」

「今日の14時でどう?予定空けておくわ」

「・・・14時ね、、大丈夫かしら」

「予定は合わせてもらって、、14時に2階の応接室で、あそこならエントランスに入った時に見えるから」

言い出したのは私だし、佐恵子がこういう反応するのも予想はしていた。急遽訪問してもらうことに変更させてもらっても、電話で話した感じでは、気分は害さない人のような気がする。菊沢さんに我儘を言ってしまうが決心する。

「わかりました、、実は菊一探偵事務所には午後から私が伺うことになっていたの。予定を変更してこちらに向かってもらうようにお願いしてみます。今から連絡とりますね?」

「ええ、お願い。さすが真理ね」

「まだ先方の了承得てないから、待ってて」

佐恵子の強引さに苦笑しつつ、ジャケットのポケットからスマホを取り出し、【菊一探偵事務所・菊沢美佳帆さん】と表示されているのを確認し操作する。

【第8章 三つ巴 3話 佐恵子の力と門谷という男|宮川佐恵子・門谷道弘終わり 第8章4話へ続く】


【第8章 三つ巴 4話 菊一探偵事務所~邂逅(かいこう)-対決~宮川コーポレーション 菊沢 美佳帆】

菊一探偵事務所~邂逅(かいこう)-対決~宮川コーポレーション

「ほんまなんやねんな。来るちゅーといて来いやて?大手は勝手なこっちゃで」

「ぐずぐず言わないの!・・・宮コーみたいな会社がなぜ橋元のことなんかを知りたがるのか気になるじゃない。それに、神田川さんとのお話じゃ、情報提供だけでも報酬を即お支払いしてくれるみたいだし、欲しがってる情報と一致したら、けっこういただけそうよ?」

「俺、そー言うのより、、まあええわ」


事務所の台所を預かる私のジト目に気が付いたのか、愛しの旦那様が口をつぐんだ。

「どっちにしてもウチには損な話じゃないでしょうし、こんな会社が私たちをどうこうしようなんて思ってないはずだしね。・・もう着くわ。しっかりお願いね」

「しゃーない。仕事やしな」

「そうそう、仕事仕事。ここ最近忙しいばっかりで、収入も減ってるんだからこういう単発のお仕事もこなさないとね。それにその大手さんから定期的なお仕事もらえるきっかけになるかもしれないでしょ?」


「、、美佳帆さんはたくましなぁ。しかし、来るちゅーといて来いってこれはないで。とりあえず評価-50点からスタートやな」

いつもの口調で軽口をたたく旦那様と一緒に、私たちは宮川コーポレーション関西支社と大きく書かれたミラーガラスのカーテンウォールのビルに入っていく。

両開きのガラス戸を押し開き、自動ドアを抜けると受付嬢が二人座っているカウンターがみえる。大理石のホールまっすぐとカウンターまで進むと、受付嬢の一人が声をかけてきた。

「菊一探偵事務所様でしょうか?」

「はい、2時に来るようにと神田川さんから言われてまいりました」


受付嬢の笑顔に私も笑顔で返す。

「はい、神田川から伺っております。2階の応接室へご案内いたします。どうぞこちらへ・・・」

丁寧な応対を受け、エレベーターのほうへ案内してくれる受付嬢の後をついていく。受付嬢に先導されカウンターとエレベーターのちょうど真ん中あたりまで来た頃、私の後ろについてきている宏が少しかがみ、私の耳元で囁く。

「美佳帆さん・・一応警戒な・・・なんか、感じるで・・」

わたしにしか聞こえていないぐらいの声のトーン、前を歩く受付嬢には聞こえてないようだ。

「え?」

振り返って、宏の顔を見上げると、サングラスをしているにもかかわらず、顔が不快に歪んでいるのがわかる。

「大げさに反応せんでもええから・・美佳帆さんは普通にしといてくれたらええよ・・・・。とりあえず害はなさそうやが、この気配がまとわりついてくる感じ・・かなり無遠慮やな。気つけておいてもええかもしれん」

「まさか、なにか仕掛けてくるとは思えないけど・・・わかったわ」

「ああ、油断は禁物や。敵意は感じんけど、呼びつけた理由はこれか・・はっきり言って不快やな。-100点や」


宏に了解の意を伝え、エレベーターに乗り込む。

1階のエントランスが見下ろせるガラス張りの廊下を受付嬢に案内されついていく。宏はああ言ったものの、社内は明るく清潔感があり、廊下といえども、温度も湿度も快適に保たれている。建材などの意匠や、随所に配置されている調度品などは高級感があり、それでいて嫌味がなく洗練されている。

一見、何かの陰謀があるような雰囲気は全く感じられない。

しかし、宏の直感や感覚に何度も助けられてるので、意識を集中し【百聞】を展開させる。社内の雑多な声から重要な情報を聞き出そうと警戒は怠らない。

「こちらでございます」

私があれこれ考えを巡らせている内に、目的の部屋に着いたようだ。受付嬢は私たちに向き直りそう告げると、受付嬢が第2応接室とタグが付けられた扉を丁寧にノックする。

「しつれいします。菊沢さまをご案内しました」

受付嬢はそういうと、私たちが部屋に入りやすいように、ドアの横に立ち笑顔で入室をうながしてくる。

宏はむすっとしたままだが、私は

「ありがとうございます」

と伝え、受付嬢に笑顔を返す。

100㎡ほどの大きな応接室は15階あるビルの吹抜け側、エントランスが見下ろせる面がすべてガラス張りである。たしかエントランス側からはこの部分は鏡に見えたのだが、応接室の中からはエントランスが見渡せるようになっている。

床は落ち着いたあずき色の絨毯が敷かれている。かなり分厚い絨毯で、これなら長時間立っていても脚が痛くなりにくそうだ。

室内には3人の女性が私たちを待っていた。一人は黒い革製の応接セットの正面ソファに腰かけ、その後ろに明るい髪色の長身の女性、そして見知った顔の女性が開けられたドアのすぐそばにいた。

「失礼します」

というと、以前事務所に来てくれた神田川さんが笑顔で話しかけてくる。

160cmは超えているであろう、しっとりした雰囲気の容姿端麗の女性だ。

最近は本当に美人と会う事が多い私だが、先日、事務所に来てくださった岩堀香澄さんや中島由佳子さんと比べても遜色ないと思われる。

知的と言えば岩堀さんの持つイメージにピッタリだが、この神田川さんも先日話したときに知的で聡明な女性だと言うイメージを抱いたが、じつは意外と天然なところもあり、私は内心、微笑ましくおもってる女性である。

「ようこそいらっしゃいました。今日は申し訳ございません。急にお呼び立てしてしまって、ご足労いただき本当に助かりました」

神田川さんが心底、申し訳なさそうに私に挨拶してきた。

「菊沢さんの旦那様ですね。奥様とは何度かお話させていただいたことがあります。私は神田川と申します。この度は無理を聞いていただいてお礼を申し上げます」


宏に向き直り名刺を差し出し、宏に挨拶する。

「ああ・・・どうもっまいど、よろしく」

名刺を受け取り、神田川さんに短く挨拶する宏の態度に、少し注意しようとすると、応接室正面のソファに足を組んで座っているスーツ姿の女性に向かって宏がすぐに口を開いた。

「それより、あんた・・さっきから、それやめてくれへんかな?初対面以前からいきなり失礼過ぎるで」

そういわれた女性、おそらく神田川さんの上司に当たる女性が口を開いた。

「それをやめる・・?何をかしら」

僅かに首を傾げ、薄く笑いを浮かべた表情で宏に聞き返している。

「とぼけるなって、、、なにやってるのか知らんけど、あんたの気配、気持ち悪いわ。俺らが受付にいてたときも、ここから見てたんやろ?悪趣味やで」

宏が苛立ちを隠そうともせず放った発言に、今度は座っていた気の強そうな三白眼女のほうが、不快感を露わにして宏に返した。

「・・・なんですって・・・?」

声量こそ大きくはないが怒気をはらんだ発言と同時に、三白眼女の後ろに立っていた、長身で茶髪の女が宏と三白眼女の間に立って身構える。

「す、すいません!ちょっと宏!」

さすが言ってはいけないことを言った宏をたしなめようとすると、三白眼女が笑い口を開いた。

「なるほど・・そういう事ですの・・ふふふ・・いいわ加奈子。・・これがわかるのなら、私に非がありますね・・。無作法をお詫び致しますわ」

「支社長・・大丈夫かな?・・たぶん・・・この人相当だよ・・」

長身の茶髪女性は振り返らず、宏を警戒したまま三白眼女を支社長と呼んだ。支社長と呼ばれた三白眼女は

「・・大丈夫なはずよ」

と一言だけ言い茶髪女性を制した。

意外にもすぐに非を認めた女性・・しかし、言葉とは真逆で態度にはその様子は全く表れてない。

加奈子と呼ばれた女性を、宏の前から下がらせると支社長と呼ばれた女性が挨拶してきた。

「初めまして、菊沢さま。私が本日お二方をお呼びした宮川です。どうぞおかけになってください」

「ふん・・あんたさっきのやつ、会う人間、全員にやってんのか?どんなつもりか知らんけど関心せんな」

どかっとソファに座り宏も、宮川さんと同じように足を組む。言葉は丁寧だがどことなく態度は大きい相手に合わせているようだ。

「宏・・!なにがあったのか知らないけど、宏も失礼よ。・・・申し訳ありません宮川さん。」

これ以上宏にしゃべらせたらせっかくの商談が台無しになってしまうと思い、相手が話し出す前に謝罪で割って入った。

「・・・いいのですよ。奥様、ご主人の言った通り少々失礼なことをしましたしね。かといって、ご主人にもご納得いただきたいのですが、本当に害はありませんので、ご心配なく。それより奥様もお掛けになって」

脚を組み変え、手を胸の前で重ね私にも座るように促してくる。

宏はソファにどっかりと座って憮然とした表情で踏ん反り返っているし、振り返ると、本当に申し訳なさそうな顔の神田川さんと目があう。神田川さんは苦笑いで無言で頷いている。こんな場所だが、神田川さんて苦労してるのかな?などと心配をしてしまった。

全員座ったのを確認すると、私は切り出した。

「・・では、改めましてよろしくお願いします。菊沢美佳帆と申します。菊沢が二人いるので、私のことは美佳帆と呼んでいただいてけっこうです。菊一探偵事務所の代表代行をしております。
えー、ご存じだと思いますが私たちは府内を中心に探偵業を営んでおりまして、本日はお招きいただいた件・・・橋元不動産の情報ということでよろしいでしょうか?」


宏はしかめっ面だし、この支社長の女性とは話す気もなさそうなので仕方なくいつもの事なのだが私が本題を切り出す。

と言っても、宏が不貞腐れていても機嫌がよくても私が進行役になるのはいつも通りなので結局普段通りねと思いつつ相手の返答を待つ。

神田川さんと稲垣加奈子と呼ばれた茶髪の女性は私たちの正面に座り、宮川支社長は私たちの左側に座っている。

「そうです。先日概要はお伝えした通りです。弊社の社員が現在2名行方不明になっておりまして、先方の橋元不動産に問い合わせても、訪問はしたが、その後のことは知らないとのこと・・。私どもの部下の二人が行方不明になった日の夕方に、橋元不動産の近所の方が、女性の悲鳴らしき声を聞いたという情報があります。
その後ワンボックスカーが事務所から走り去ったという情報もあったので、目撃情報に類似の車種を府内中のレンタカー会社に当たったりした結果・・・弊社社員の行方不明に関しては橋元氏の関与が極めて疑わしいという結論に達しております。
しかし、決定的な証拠がなく、・・・警察も捜索願いは受理してくれていますが、捜査をしてくれているわけではありません。
そこで、橋元氏のことをよく知ると聞く菊沢さんにご助力いただきたいのです。・・・私どもは彼女たちがおそらくどこかに連れ去られてしまったのではないかと考えているのです・・・。
なんでもいいのです。彼らの人となりや拠点となるような場所を教えて頂けると助かります・・」


 神田川さんは行方不明になった二人の社員とは親しかったのだろうか・・・。そのように感じるのは先日会った時より、神田川さんは橋元氏関与に確信を持っているように感じる。調べた結果なのだろう。話していてだんだんと彼女の声は少しだけ大きくなっていった。うまく抑えているが、神田川さんの動揺が伝わってくる。私だって、スノウやお嬢のことがあったから痛いほど神田川さんの気持ちがわかった。

「神田川さん、心中お察しいたします。いただいた質問には私たちが知りえた範囲の情報ではありますが、お答えできると思います。まず橋元氏一味に関して言いますと、警察の手に余る悪党集団です。目的のためには手段を択ばず、非道なことも厭いません。
・・例えば、御社と利権のことで争っているのだとしたら、どんな手を使っても邪魔はしてくるでしょう。特に彼らは女性相手だと・・ひどい目に・・・合わせます・・・。」


私の言葉を聞き終わると、神田川さんが手を額に当て目を閉じ、呻くように呟く。

「行方不明の二人は、二人とも女性です・・」

 先ほど紹介を受けた茶髪の女性、稲垣さんが神田川さんを横から支えている。支えている稲垣さんの顔色も悪い。きっと神田川さんと同様行方不明の二人の安否が心配なのだろう。

「なるほど、それほどですか・・・菊沢さまも奥様も能力者ですよね?・・美佳帆さまのオーラ量、そしてもう見せてくれてはいませんがご主人のオーラ量、常人のオーラ量じゃありませんわ」

コーヒーを啜っていた宮川さんがカチャと陶器のソーサーにカップを置くと、普通の会話ではありえない内容をさらりと聞いてきた。隣に座る宏が発する気配が重くなるのを感じる。

「はい?・・・オーラといいますと?」

急に全く違うことを話だす宮川支社長のほうを向き、何の事か私にも推測はつくものの宮川さんの真意を知りたく質問する。

「思念ですわ。人は皆、思念と呼ばれるオーラを纏ってますわ。私は癖でいつも見てしまいますの。思念量が膨大でもたまにノースキルの方もいらっしゃるみたいですが、大抵なにかの能力をお持ちだと思います。
・・・ご主人は先ほど私がオーラを見ていることにご立腹したんだと思います。・・まさか気づく人がいるとは思わなかったので・・・不快な思いをさせてごめんなさい。
えっと、つまり何が言いたいかというと、常人以上のオーラ量をお持ちのお二人でも橋元氏一味は手に余るのか・・?と思った次第です。・・・橋元さまと菊沢さま・・・面識ありますよね?仲はよろしいのですの?それとも仲はよろしくないですの?」


そう言うと、ソーサーに置いたカップにスプーン山盛りの砂糖を3杯入れ、くるくるとコーヒーを混ぜている。

そして、お茶請けとして添えられて置いてあった、和三盆の落雁を5つ口に含みカリカリという音をさせながら上目遣いで、宏の目をサングラスごしに見つめている。そして続いて私にも目を合わせてくる。

妖艶で不思議な色、アンバーアイというのだろうか、ブラウンやイエロー複数の色が混ざった色合いで、目を合わせられると逸らすことを忘れ思わず見入ってしまう目に悪戯っぽい笑みをたたえている。目を逸らさずにいると宮川さんの不思議な色合いのアンバーアイが照明の加減のせいか光ったように見えた。

「ふぅん・・・なるほど・・・。では、能力者の質や数は・・・?それ以外の問題はございますの・・・?橋元氏に財力や政治力がそこまであるとは思えませんが・・・もしくは橋元一味には相性の悪い能力者がいる・・?それとも・・・いまの奥様の状態や能力に関係があることですの?」

何やら勝手に納得し、そして、カマかけだろうか、何かを見透かしたような態度で質問を浴びせてくる。宮川さんの少し異様な様子に内心驚くが、表情に出すほど未熟ではない。宏も隣で、不信がっているのか気配が一段と重くなっている。

「宮川さんのご指摘にお答えいたします。橋元一味は先ほどもお伝えした通り、目的の為なら悪事も厭わないという点で危険です。・・・それと能力者は正確に人数はわかりませんが少なくとも2名はいます。財力や政治力という点においては正確な数字はわかりかねますが、概算で把握している範囲では相当な資産家でありますし、そのため政治力もそれなりにありますね」

「ふぅん・・・2名程度、、なのですか。・・・それで、最後の質問には答えてくれないのですか?・・・それと、なかなか大変そうですわね」

人差指を下唇に当てつつ、あわされていた視線が私の股間に移り、再び目を合わせ質問を重ねてくる。面白がっているのと心配しているのと興味があるという表情だ。

確かに、橋元との接触があってから、私の下半身の異常な疼きが治まらないことを言っているのかもしれないとは思ったが、そんなことがバレるわけがない。夫の宏にすら気づかれないようにしているというのに、今日、初対面の宮川さんにわかるわけがない。

・・・まさか、【百聞】に気づいている・・・?見つめてくる宮川さんの瞳が再びぼんやり光った気がした。

・・・もしかして!・・・この人、私に何か力を使ってる・・・!?しまった・・・!まさか、さっきの質問の時から・・・!?

「それはいったい、、?私の状態というのがなんのことをおっしゃっているのかよくわからないのですが」

宮川さんの能力に抵抗できるかわからないけど、負けじと目に力をこめ、鉄面皮をつくり極力平静を保ち聞きなおす。こんな大勢がいる場で的確に私の状態を説明されても困るのだが、宮川さんが答えるよりも早く反応する人がいた。

ばきぃ!!

・・・・と机を強くたたく音にはっとなり、音の原因の人物のほうを見る。机を破壊した人物、宏が怒鳴る。

「それをやめろというとんのや!」

宏の正面に座っていた長身茶髪の稲垣さんが跳ねた。人間の速度とは思えない素早さで宏と宮川さんの間に滑り込んでいる。絨毯を踏み抜き、がっ!と木質の床を露出させるほどの踏み込み、鋭い目つきで宏の一挙手一投足すべてを警戒しつつ、引き絞った弓のような気を充満させている。

「てめぇ!!グラサン!!支社長に当たるところだっただろうが!!」

茶髪を振り乱し、威圧感のあるハスキーな声で、宏に怒号する稲垣さんの右手には、宏が粉砕した机の破片が握られていた。

この人、宏が叩き壊した机の破片を、空中で掴みとったの・・?!稲垣さんの身体能力も超人なみ・・この人たちやっぱり私や宏、事務所の面々同様能力者だわ。

「あたってないやないか。おおげさなやっちゃな!ぎゃんぎゃんと盛りのついた猫のように喚き散らすなやっ」

「なんだと~!?この二流ホストがっ!」

舌戦でも一触即発の宏と稲垣さん。

わたしが何かをされたのかもしれないが、私自身に自覚がない。でも宏が私にされたことを怒ってくれているんだとは漠然とわかったが、とりあえずなんともない。それに、このままだと3対2で、しかもここは相手の懐の中・・。

「待って!」

立ち上がろうとしている宏の右肩を掴み制止する。すると宮川さんも稲垣さんにむかって制止するよう話しかけている。

「ありがとう加奈子。でもどいて。大丈夫だから、そんなのに当たらないわ。それに前に立たれたら話がしにくいじゃない。・・・・・真理、大丈夫でしょ?」

「はい、、大丈夫です。でも、どうか穏便にお願いします」

私の正面に座る神田川さんが何とか穏便に済ませたそうな様子で宮川さんに答える。

「でも支社長・・この三流ホスト!・・!」

「なんやっ!さらに格が下がっとるやないか!」

いや、そこは別にツッコむ必要もないのだけど・・・とこんな状況で私も思ったが、宮川さんの前に仁王立ちしている稲垣さんは宮川さんにもっと何か言いたそうな空気のまま言葉を止めた。

それにしても、マズい。やるにしても、能力不明の3人相手にこの配置と態勢はマズ過ぎる。

・・それに、宮川さんと神田川さんの会話・・なにが大丈夫なんだろう。宏がその気になったら、そっちも無傷じゃいられないと感じているはず・・。特に茶髪の稲垣さんの注意は宏に集中している。

もしこの場で最悪の事態になったとしても宏が負けるなんて想像できないけど、神田川さんもなにか能力を使っている・・?

私の鉄扇はバッグの中だけど1秒もあれば取りだせる・・などと思考を巡らしている間にも宮川さんが宏に対して先手を打つ。

「菊沢さまのご主人・・・再度、能力を使ったことはお詫びしますわ。でも、先ほども申し上げた通り、私が今使っている能力自体に害はございませんの。それより、奥様はこの部屋に入ってきたときからずっと能力を使ってますわね?それに奥様のオーラ・・・かなり偏ってますわ。精神状態の偏った方が、私たちにとって未知の能力を展開させてる状況です。私も多少苛立っておりますのよ?・・・少々警戒してこちらも能力を使い対策をとろうと思いますの・・・。あと・・質問させていただくぐらいよろしいのではなくて?」

「よう言うわ!美佳帆さんが使う前からあんたが先につかっとったやろが!」

宏が活火激発の様相で宮沢さんの問いかけ応える。宏から私に怒気が向けられることなどないのだが、宏が怒りを表す姿は見ていて怖い。

それに、対策と・・質問・・?宮川さんの能力かしら?それとも、神田川さん?こんな状況ではこちらも【百聞】を解除するわけにはいかない。

怪しい動きがないか応接室周辺に変化がないか意識を集中する。

「害はないと申し上げましたし、私は一度解除しましたわ」

宏の怒気に晒されながらも、泰然と脚を組み背もたれに身体を預けた態勢のまま、面倒そうな態度で、確認するかのように宮沢さんが答える。

「そんなんわかるかい」

「私は一度解除したと言ってますの」

「やかましわ。美佳帆さん帰ろ。こいつ話にならんわ。橋元のことわからんで困るんこいつらや」

「・・・そうはいきませんわ」

宮川さんが今まで笑みとは違う凶悪な笑みを浮かべ、アンバーアイの瞳が光る。

彼女から圧力が発せられると同時に、ドカッと大きな音がして、私たちが入ってきた応接室の両開きの木質ドアが勢いよく開くと、あずき色の質のいい絨毯の上を革靴で駆け、黒いスーツ姿の男たちが5人勢いよく入ってきた。全員手には50cmほどの黒い棒を持っている。スタンガン!?

嘘・・・!そんな・・?!まったく【百聞】で感知できなかった。

室内の誰からも指示が出ていないにも関わらず、入ってきた男たちは打ち合わせでもしていたのかと思うほどの素早さで動き出す。

一人は入口を固め、私と宏の後ろに2人、神田川さんの左右に一人ずつが移動しスタンガンを構えている。

私も身構えようと、バッグから鉄扇を取りだし、ソファから立ち上がりかけたが、【百聞】を使っていたにも関わらず気づくのが遅れ、不意を突かれた動揺と、あまりにも素早い黒服たちの動きに対応しきれなかった。

できるだけ対応しやすいよう、鉄扇を膝の上に置き、仕方なくソファに浅く座りなおす。

「それが賢明ですわ・・奥様まだお掛けになっていてください。まだ何も聞いてませんもの。私の部下が囚われているかもしれない場所。心当たりあるのでしょ?ご主人ではなく奥様がお答えになって。ご主人はそのまま動かないでください。奥様が私の質問に嘘偽りなくお答えいただけたら、この度予定していた報酬をお支払い致しますわ」

そう言うと宮川さんは脚元に置いてあった小さなアタッシュケースを掴み、宏によって半破壊された机の上にどんと置く。

先ほどから照明の加減かもしれないと思ったが宮川さんの目がぼんやりと光っている。今ならはっきりとわかる、見間違いじゃない!

「話はおわりや言うとるやろ。こんな荒事にしてなんのつもりや」

宏は机の上に置かれた小さな銀色のアタッシュケースに目をやるも、宮川さんのほうに向きなおり商談の終わりを告げる。

「いいえ、このままだと絶対に帰しませんわ。・・・さあ、奥様、ケースを開いて中身をご確認なさって」

そう言うと脚を組みなおし、背もたれに身体を預け、顎をしゃくり、私にアタッシュケースを開けるように促してくる。

尊大な態度だが、嫌味を感じない。おそらく生まれたときからそういう仕草をし続けているのだろう。

違和感がないと、妙に感心していると急に宮川さんが慌てた様子で指示を出す。

「加奈子!真理!グラサンを警戒して!・・すごいオーラだわ・・。・・ご主人、動かないでくださいます?!」

「動くなやて?あんたら次第や。後ろの黒服と前の黒服、茶髪のねーちゃん、そっちの美人さん、あんた・・・・まとめて5秒やな」

静かな声で宏が誰ともなく言う。声は静かだが今にも溢れそうな物騒な気配を漂わせている。

「こいつっ!」

稲垣さんが宏を睨む。

「・・そんなに簡単にはいかなくってよ?それに・・この状況ではご自身はともかく奥様は守り切れませんわ。スタンガンも痛いでしょうけど、私や加奈子に攻撃されるのはもっと痛くってよ?奥様のこと大事なのでしょう?・・・動かずにいるほうが賢明ですわ・・・・」

おそらく宏のオーラとやらが見えたのだろう・・・。宮川さんは驚きの表情を一瞬見せたが、微笑のポーカーフェイスを付けなおしている。

しかし、微妙に隠しきれてはいない。それだけ宏の力が想定外だということね。私は無事じゃすまないという脅しがいい証拠、などと相手の考察をしていると、宮川さんが宏を警戒しつつも、ゆっくりと私のほうに向きなおる。

宮川さんの言う通り、今の私は橋元と接触して以降の股間の疼きのせいで、まともに力が発揮しきれない、それを見越されているのか?見越されてはいないのか?真意はわからないが、実際には宮川さんの言う通り今の私は宏には足手まといなのが歯がゆい。

「さあ、奥様、いい加減にもう能力を解除していただけないかしら。そしてケースの中をご確認なさって。そして橋元一味の能力者数、能力の種類、拠点としている場所、アジト、ねぐらの類をすべて教えてくださればよいのです。正直にお答えいただけたと感じたらそのケースをお持ち帰りいただいても結構ですわ。正直にお答えいただけない場合は・・・・無事には帰れませんけどね」

左側にはおそらく能力を発動して、今にも踏み込んできそうな気炎万丈の稲垣さん、右正面には、憂いの表情だが隙なく静かに座っている神田川さん。

ほぼ間違いなく稲垣さんも、神田川さんも能力者のはず、(私や加奈子に攻撃されるのはもっと痛い)ということは、神田川さんは攻撃してこない?もしくはそういう能力じゃない。

宮川さんがペラペラしゃべってくれる情報で敵の戦力を冷静に分析していると、警戒の中心にいる宏が口を開いた。

「何が入っとるかわからんようなもんうちの美佳帆さんに開けさせられるかい。あんたがこっちに見えるようゆっくりあけや」

宮川さんが感づいている通り、【百聞】を展開していたのは事実で、それを気づかれるとは思わなかったし、宮川さんが何かの能力を使っていたのは何となくわかったが、なにをして、どんな能力なのかはわからなかった。

目を見つめられたときはそうかもしれないと感じたけど、部屋に入ってきた黒スーツ姿の警備員も会話無しに、突入させてきた。

遠くで打ち合わせさせて、この部屋に近づいてきたのか、それとも最初からこの部屋の周囲に伏せていたのか・・・。注意してたけど、会話で応接室への突入の合図ではなかったはず。

いったい何時どうやって指示を・・。警戒していたのに気づけなかった・・・。いたずらに相手を警戒させて、こんな状況をつくってしまった原因を作った自分に苛立つ。

私の能力も直接的な害を与える能力じゃないっていうのに・・・。いえ、今そんな事問題じゃないわ。せっかく宏に注意してもらってたのに、敵に警戒心を与えて、何の情報も得られず宏も危険にさらしてしまった。足手まといになってしまった・・・。

「宏・・ごめん」

「ええよ、美佳帆さんはなんもわるない。悪いんはこいつらや。こいつらが先に仕掛けてきたんは間違いないんや。大丈夫やから、こんなやつら。こいつらさっさとノシてはよ帰ろや」

まさに四面楚歌で敵だらけだというのに、やけに優しい声で、相手にとっては物騒なことをさらっ言ってくれている。

「ふふふ、怖いですわ・・・。ですが、お二人にとって幸いなことに、私はまだ商談中だと思っておりますの。菊沢さんの為にも、商談がご破談にならないよう私も願ってます」

そう言うと、宮川さんは両脚を絨毯から少しだけ浮かし、少し勢いをつけて立ち上がると、机の上のアタッシュケースの上部をポンと叩いた。すると、ガチョと玩具の箱が開くような音がしてアタッシュケースが開く。中には1cm幅の帯封がされた小束の紙幣が10束。それを5cmほどの大きな帯封でさらにまとめられているのが2束みえる。

「2千万円ございますわ。これは私なりの精一杯の誠意です。これで私の部下を救う情報と時間を買いたいのです。私はただ正直に答えて頂きたいのです。
 ご主人のおっしゃったとおり、お二人がエントランスにはいってすぐから私は能力を使っておりましたわ。しかし、この応接室に入られたとき、奥様も使ってらっしゃいましたわね。
 おそらくお互いの誤解からこういった状態になったのだと思いますが、こうなった以上絶対に無駄にはしたくないのです。部下が行方不明になってもう3日です。
 あと数時間・・あと数分早ければ・・・などと後悔はしたくないのです。さあ、相手の能力者の数、能力の種類、敵のアジト、拠点の場所、知ってる範囲でお答えください。
 無駄を省くために最初に断っておきますが、私には嘘は絶対に通じませんわ。嘘がなく、私の欲しい情報をお答えいただけたら、そのケースをお持ちになり安全に帰れます。嘘なら・・・私の時間を無駄にし、私の誠意に応えなかった人は帰えさない。それだけのこと・・その時は、どちらが5秒で済むのか教えて差し上げまわ。・・・さあ、慎重にお答えください」


え?!たかが情報提供に多すぎない?ちらりと宏を見ると、同じようなこと思ったようで、

「アホちゃうかこの女」

と顔に書いてあるのが見えた。

「菊沢さん・・・お願いいたします。本当に正直にお答えください。ぜったい悪いようにはなりません。こんな状況ですが、支社長を・・私たちを信じてください。ボクが保証致します」

2千万円のツイン札束タワーに若干ドン引きしている私たちには気づかず、真剣な面持ちの神田川さんが悲痛に近い声で私に訴えてくる。

「真理っ・・・また興奮して、男の子言葉になってるよ・・・」

と稲垣さんが言うと、

「真理・・もう黙って。答えによっては敵かもしれないのよ?警戒してて・・・さあ、菊沢さまの奥様、本当にこれが最後ですわ。いろいろ誤解があっただけで、私たちは敵同士ではないと思いたいのです。それに私は、ただ情報を欲しているだけですの。嘘なく、有益な情報と判断出来きましたら、商談成立ですわ。ただ、奥様がお答えください」

・・・本当にそれだけ?ここで無駄に時間を消耗したり、無駄な戦いをしてもしょうがない。宏を見ると、サングラス越しでも目が合ったとわかる。

・・この程度の修羅場は、今までにもたくさんあった。捕まって拷問されたり、凌辱されたことすらある。そんなことに比べれば、まったく大したことがない。話し合いすら通じそうな相手で、うまくいけば報酬すら手に入る。それに今日は私にとっての世界一信頼できるパートナーがすぐ隣にいる。その世界一のパートナーが言ってくれた。

「ええよ美佳帆さん。好きにしても・・俺の勘やけど大丈夫やろ・・それにどうころんでも俺がどないかするから」

・・・・・・。普段はボーとしているくせに、最悪の場合8対2で対決という事態になるかもしれないのに、自信たっぷりに言い放つ旦那様を誰かに見てもらいたい、知ってもらいたいという乙女な衝動が股間から脳天に突き抜ける。

すごく頼もしいじゃない・・。宏・・もし、悪い方向にどうにかなった時はお願いね。・・それと、たぶん宮川さんも部下のために必死なだけのはず・・・。

それにこの人、見るからにお嬢様だけど、部下の為にポンと2000万円をかけて救い出そうなんて・・・普通しないしできない。
お金に汚い人は5万とみてきたが、ここまでお金に執着が無い人も初めてな気がする。この行動の全てが部下の為だとしたら、すごく良い人じゃない?・・・よし!

「・・わかりました宮川さん・・・知っていること正直にお話します。まずは、みんな座りましょ?そんなに殺気立ってたら疲れるでしょ?」

【百聞】を解除し、極力にっこりとした表情でそう言い、彼女たちの反応を待つ。

宮川さんの能力はおそらく人を操る・・それも同時に複数人。その能力は、さすがに私たちには使ってきてない、、害がある能力は私達には使ってないと言っていたし、さすがにそんなことすれば、完全な敵対行為。

あとはオーラ量が見えると言った。それに嘘は絶対に通じないとも・・相手の強さや発言の真贋を見抜く能力・・?どちらにしても恐ろしくも便利な能力。

私たちも橋元一味を相手にしながら、宮コーみたいなほぼ資金力が無限で、面倒な能力を持っている敵を作るのは馬鹿げてる。

神田川さんが初めてウチの事務所に来た時からの仕込みが嘘じゃないなら、彼女たちも橋元たちを敵視しているはず、それなら私達は味方同士になりえる相手のはずよ。さあ、どう出るの?

三白眼のアンバーアイがぼんやりと輝き私を凝視する。時間にして3秒ほどだとは思うけど、長く感じる。

宮沢さんふぅと息を吐きだしさっきの凶悪な笑みが別人と思ってしまうほど素敵な笑顔を見せる。

「・・感謝いたします奥様。商談になりそうですわね。まずはお茶を入れなおさせます」

宮川さんも最悪のパターンを想定にいれていたのだろう。そうならずに済んだのを確信したのか、ずいぶん安堵した様子だ。

彼女のこの変化・・たぶん私の何かを読み取ったのだ。・・しかしそれは宮川さんの能力に抵抗できなかったということ・・。

私は能力解除しているけど、宮川さんは能力を使っている様子・・でも宮川さんのこの安堵の表情は演技じゃないように思う。

稲垣さんも、神田川さんも気づかれないようにしているつもりのようだが、大きく息を吐きだし、緊張が途切れたのを私と宏は見逃さなかった。・・いま宏と私が踏み込んだら形勢は一気に動くはずだけど、宏も私も動かない。もうその必要がないと私も宏も分かっているからだ。

宮川さんが数度瞬きすると、わたしたちを囲んでいた、黒スーツの警備員は無言で応接室から出ていく。そして、眉間を指でマッサージするようなしぐさをしながら宮川さんが再びふぅと息を吐きだした。不思議な色味の瞳のままだが、もう光ってはないように見える。

応接室の壁に設置されている時計から、電子音が鳴る。たしか曲名は「it’s a small world」だ。ふとメロディにつられて時計を見ると午後3時を指している。

今しがた私たちが知り得た情報をあらかた話し終えたところだ。あれだけ濃厚なやり取りをしたにも関わらず時間にして1時間ほどの出来事だったことに驚く。

宏が壊した机は応接室の隅に移動され、新たに用意された机に、3度目のコーヒーとお茶菓子が置かれている。

コーヒーを運んできた女性が、半壊した応接机を怪訝な表情で一瞥したが、とくにそれには触れず「失礼しました」と応接室を出て行った。

宮川さんが、机に置かれたお茶菓子を指先で掴むと口に放り込み、むぐむぐという擬音が聞こえそうなぐらい美味しそうにほおばっている。

ラッピングからみるとゴディバのトリュフアソートだ。先ほどからお茶が出される度に補充されるお茶菓子のすべてを宮川さん一人で食べている。こんなに食べてるのに太らないのかしらと心配してしまう。

「とってもよくわかりましたわ、奥様。嘘偽りはございませんでしたわね。大変助かりましたわ」

ほおばったチョコを甘くなりすぎているだろうコーヒーで流し込むと宮川さんはそういった。

「以上が橋元一味についての情報のすべてです。もしかすると話し忘れがあるかもしれませんが、もし思い出したことがあればご連絡差し上げます。・・・・それと、不躾を承知でお聞きするのですが、宮川支社長の能力は人の言葉の真偽がわかるというものでしょうか?」

答えてくれるとは思えなかったが、私に対して思い切り能力を使ってきたのだ。答えてくれてもいいんじゃない?と思い聞いてみる。

「・・ふふふ、それは内緒ですわ。私もお二人の能力は気になりますが、お答えくださらないでしょう?お二人のオーラがそう言ってますわ。それに、鋭い美佳帆さまの御想像通りということで宜しいではございませんか」

「・・・そういうことにしておきます」

ほぼ、案の定の回答だったので、深く追求せずにおく。

「それより今得た情報をもとに私たちはさっそく行動を起こそうと思ってますの。商談も成立しましたし、そのケースはお持ち帰りください。真理、加奈子、まずは雫と咲奈が囚われている可能性の高そうな木島とかいうヤツのマンションに行くわ。次は港の倉庫よ。今日中に2か所強襲します。準備して。動きやすい恰好よ?3時半には出るわ」

質問には答えてくれない。それは仕方のないことなのだが、私の話した内容を疑いもせず、さっそく行動するのはさすがと言うべきか・・。

発言の真偽はわかる能力だとしても、あれだけ危険性を踏まえて説明したというのに、指示された稲垣さんと神田川さんも宮川さんに了解の意を示している。

「本当にお気を付けください」

橋元たちの力を知る私は、そういわずにはいられなかった。宮川さんは私と目を合わすと、にっこり微笑んで

「本日は、本当にありがとうございます」

と言った後、少しためらった様子を見せながら、意味深なことを言ってきた。

「・・・奥様。もし、いまの状態がお辛いなら、1日という単位でよろしければ私が解消してあげられますわよ?」

「なんのことやねん?」

宮川さんが言い終わる前に、間髪いれず宏が怪訝さを隠さずに割り込んでくる。割り込んできた宏に対して、宮川さんが宏をじっとみる。

「無粋・・・・腕は立ちそうなのに・・鈍感だわ・・。こういう男のほうが母性をくすぐられるのかしら・・?」

後半は声が小さく宏は正確には聞き取れなかったようだが、私は思わず吹き出しそうになってしまった。

「なんやて?あんたまた美佳帆さんになんかしようとしてたんやろ?黙って見過ごせるわけないやないか。なにが鈍感やねん」

「うふふふ、、あははは・・・」

宮川さんが声を出して笑った。稲垣さんと神田川さんが意外そうな顔でこちらの様子を伺っている。

「ふふふ、いいご夫婦ですわね。・・・奥様、困ったら真理に連絡してください。お力になれると思いますわ。・・・ご主人、ご心配なさらずに・・私は奥様には何もしてませんわ。ただ観察させてもらっただけです。それに・・・今日はご主人にしてもらったほうが解決するかもしれませんしね」

「わけわからんことはええから、これで話は終わりでビジネス終了ってことでええんやな?」

「けっこうですわ。私たちもすぐ出かけなければいけないので、お見送りはできませんが」

「ほな帰ろ。美佳帆さん」

しっかりとアタッシュケースを閉め、ケースの柄を握ると私も挨拶する。

「いろいろありましたけど、今日はありがとうございました。もしお力添えが必要な時は神田川さんに連絡致しますね」

隣の宏は頭を下げていないようだが、私はペコリと深くお辞儀をする。

顔を上げると宮川さん、稲垣さん、神田川さんも頭を下げ、顔を上げたところだ。神田川さんが重ねて目礼をしてくる。

「では失礼します」

応接室にいた3人の見送りはなかったが、宮コーの制服を着た二人の女性社員にエスコートされ宮川コーポレーションのビルから何事もなく出てきた。右手に持つケースはずっしり重いが、私の足取りは軽い。

多くのビジネスマンが行きかう歩道を歩きながら宏に話しかける。

「宏、今日はありがとう。一緒で心強かった」

「・・人が大勢おるところでそんなこと言われると照れるやんか」

「さあ、事務所に帰る前に久々の二人っきりね。どっか寄っていきましょ」

「美佳帆さん、えらい機嫌ええな、、どっか寄るんは賛成やけど」

「神田川さんはもちろん、稲垣さんや宮川さんも思ったよりいい人だったわね」

「稲垣っておれに怒鳴ったやつやん・・・。しかもオレ三流ホストよばわりされてんやで。それと、おれはあの半開き目の小娘、キライやねん。なんか、いけすかんわ。ごじゃごじゃと小細工しやがってからに」

「そう?稲垣さんと口の悪さは宏も似たようなものよ。それに宮川さんも、あれぐらい腹芸をしてくれたほうがやりがいあるわよ?ふふふ、少しスリルあったけどいい仕事だったわね。1時間で2千万よ?!」

久しぶりに心も財布も充実できる仕事だったので、ついたくさん話しかけてしまう。問題は山積みだが、今日くらいはいいだろうと宏と強引に腕を組む。

宮川さんには見抜かれてしまってたとおり、私の下半身は限界まできている。まっすぐ事務所には向かわず宏の腕をやや強引に引っ張りホテル街を目指して歩いて行った。

【第8章 三つ巴 4話 菊一探偵事務所~邂逅(かいこう)-対決~宮川コーポレーション 菊沢 美佳帆終わり。8章5話に続く】

【第8章 三つ巴 5話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~楠木咲奈】

【悪魔の巣窟~オルガノ105室~楠木咲奈】

ぼんやりとではあるが意識はあった。おそらく同僚の雨宮雫も私と同じように車に荷物のように載せられたのだろう。私のすぐ近くに、雫のものと思われる呼吸音が聞こえたていたからだ。

私の手足は拘束されているのか、怪我でもして身体がうまく動かないだけなのかわからないが、ほぼ動かせない。身体の痺れと倦怠感が酷い。

それに視界は真っ暗なのは、私の顔にはすっぽりと黒い袋が被せられている為のようだ。おかげで自分の呼吸で、暑苦しいし、息苦しい。

意識は朦朧としていて、記憶はとぎれとぎれだか、暗い視界の中、車で運ばれているのであろうことは推測できた。どのぐらいの距離を車で移動したのかはよくわからない。

時折、片言の日本語と、おそらく中国語と思われる言語での会話が耳に入る。内容はほとんど聞き取れなかったが、男たちは口々に不平らしきものを言っていた。

「マタ、オレタチニハマワッテコナイ」

「シタッパハ、キケンナシゴトバカリ」

かろうじて聞き取れた片言の日本語の内容はその程度だ。何かの事件に巻き込まれてしまったようだが、私達はいったいどうなってしまうのだろう。

人から恨まれるような覚えは全くない。

人違いで襲われたのだろうか。それとも無差別に女性を襲っているだけなのだろうか?後者の理由だとすると、問答無用でお先真っ暗だ。

きっと、雫も一緒に車で運ばれているのだろう。こんな映画やドラマの展開のような出来事が自分に降りかかってくるなどとは馬鹿げている。

しかし、摩耗し混濁した意識のなかでなぜか冷静に、これからの自分がどうなってしまうのかを考えてしまう。これから自分たちに降りかかってくるかもしれない、様々な想像と不安が頭のなかによぎる。

両親にもずいぶん会ってないなぁ・・・。

せっかく上場企業に就職できたのに、就職してからはほとんど会えてない。年末年始やお盆にもっと時間を取って帰ればよかった。

・・・このままお別れになっちゃうの?・・・そこまで考えると涙があふれてきた。

「うっ・うっ・・・・・

自然と嗚咽が口から洩れてしまう。

「シズカニシテロ!」

片言の日本語で怒鳴られると同時に、記憶に新しいさっき聞いた音がした。

バチン!!

「きゃあああああああああああ!!」

私の顔のすぐそばで大声が聞こえる。

雫の声だ!

悲鳴だけでなく隣で暴れていて、ドタドタと雫の脚や体が車の床や、私の背中や頭に当たる。

「オイ、コエヲダシタノハ、コッチダゾ」

「ソウナノカ?・・・コッチカ」

バチン!!

「きゃああああああっっ!!」

今度は私の声!脇腹に堅い物を押し当てられ、そこから全身に激痛が走る。私の泣き声で間違えて雫が先に折檻されたんだわ・・。

私と間違えられて・・ごめん・・。雫・・。

袋を被せられ、車の荷台に横たえられたまま、痛みで気を失い、意識がブラックアウトする。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・


「そこだ、そこに座らせろ」

すぐそばで、声が聞こえたせいで意識が戻る。
どうやら両脇を抱えられ、椅子に座らせようとされているようだ。

椅子らしきものに腰掛けさせられると、顔に被せられていた袋が乱暴に取り払われる。
自分の呼吸で暑苦しくなっていた顔に涼しい外気が気持ちいい。しかし急に袋を取り払われたため、かなり眩しい。

両手は背中で手錠をされているようで、顔を覆うこともできない。
眩しさで目をくらませていると、パシパシ!と左の頬を軽く打たれる。

「う、、うう・・」

眩しさと、頬を打たれる衝撃に呻いてしまう。

どういった状況なのか・・海外にでも売られてしまったと思ったが、まだ日本っぽい。

ようやく目が慣れてきて、見える範囲の家具や調度品は何となく親しみのある日本で販売されていそうなものに見えたからだ。

「おー、なかなかじゃん。若いって聞いてたけど、上出来、上出来。二人揃って当たりだな」

私の正面には、中肉中背で20代半ば、私達とそう変わらない年齢に見える男が、私の顎を掴み、機嫌よさげな声で、品評するかのような発言をする。

隣を見ると、同じように座らされた雫と目があった。雫も背中の後ろで手錠をされて拘束されている。

「雫!」

「咲奈!」

思わず、お互いに名前を呼び合う。無事な雫の姿が確認できて、少しだけ安堵する。雫も同じ思いだったのだろう。私に目を合わせて、うんうんと頷いている。

「へー、君が咲奈ちゃんで、そっちが雫ちゃんか。いい名前だな」

目の前の男の発言に口を噤む。今更名前ぐらい知られてしまっても、仕方ないのだが、できるだけ個人的な情報は渡さないほうがいいいと咄嗟に考えた結果だ。雫も黙ってしまっている。

「キジマサン、ワタシウレシイネ。コノオンナタチ、ホントウニ、スキニシテモ?」

筋肉質で大柄な黒人の男が、黙った私たちを舐めるように見まわしながら、木島と呼ばれた男に聞いている。

え?・・・好きにする?

片言の日本語なので私の聞き間違えかもしれないが、いま確かに、(この女たち、本当に好きにしても?)と言ったように聞こえる?

「おお、アレン、もちろん構わないぜ。部下には寛大なのが俺の流儀だ。喜びは部下にも分け与えねえとな」

「アリガトウゴザイマス。サスガ、キジマサン、ハナシガワカル」

大柄な黒人の男はアレンという名前らしい。大柄な体を小さくして、木島に向かって頭を下げている。

なに勝手なこと言ってるのよこいつら・・・と思っていると、

「勝手なこと言わないでよ!」

木島とアレンに向かって、声にだして雫が叫んだ。

木島は雫をつま先から頭のてっぺんまで、まじまじと眺めると

「ん わかった。じゃあ、最初はお前からな」

木島はそう言うと、雫を立たせようと肩を掴む。

「い、いや!なんで・・こんな!さ、咲奈・・!助けて!」

黒人の大男のアレンと木島に挟まれ、奥の部屋に連れて行かれそうになる。

止めようと、立ち上がりかけると、手錠は椅子に固定されていたようで、ガチャン!と金属音がしただけで、椅子から離れられない。

このままじゃ雫が連れて行かれちゃう!何とか木島とアレンを止めようと再度椅子から立ち上がろうと無駄な努力をして、手錠が手首に食い込み痛みで顔をしかめる。

「だ、、だめ!」

痛みに構わず、木島とアレンに叫ぶ。

「やめておいたほうがいい」

部屋の入口のほうから、低いが、よく通る男の声がした。

声に釣られて、部屋の入口を見ると、細身で長身の男が、入り口のドアの隣の壁に背を預けている。身長は180cm近くあるだろうか。紺のカッターシャツを第二ボタンまで開け、黒のゆったりとしたスラックスを履いている。

両手はスラックスのポケットに入れられているが、その佇まいにどことなく隙がない。見た目は俳優の三浦春馬君に似ているが、肌の色は褐色だ。もっとも、俳優ですと紹介されても通用しそうなぐらいのイケメンであることにかわりはない。

顔に被せられていた袋を取られたときには、たしかそこには人はいなかったと思うんだけど・・・。

こんな場面で、正義の味方が現れたのかしら?などと、都合のいいほうに頭が解釈しようとする。

「・・・おい、劉。そりゃどういうことだ?今のは俺に言ったのか?ああ!?」

木島が劉と呼んだ男に向かって凄む。

「そうだ、お前に言った。ボスからの指示では、この女達は後日交渉に使うと言っていた・・・。あまり勝手なことはしないほうがいい。交渉材料の価値は損なわないほうがいいだろう」

凄む木島に慌てる様子もなく、劉と呼ばれたイケメンは静かに答えた。

「・・・んだとぉ!?ボスってのは兄貴のことか?!それとも張慈円のことか?!ええ?!」

木島が顔を赤くし、劉に向かって更に凄む。

「どっちもだ。ともかく忠告はした」

慌てた様子もなくそう言い、壁から離れると、木島とアレンに背を向け、部屋のドアに向かい部屋から出て行ってしまった。

「劉!俺にそんな態度とりやがって!後で後悔するぞ!」

木島はこれ以上にないというぐらい顔を赤くして、劉の後ろ姿に怒鳴ったが、もう劉と呼ばれた男の姿は、すでに見えなくなっていた。

・・・・正義の味方だと思った自分が馬鹿だった。悪党の内輪揉めだ。私たちの状況は変わらない。イケメン=正義の味方という公式は成り立たなかった。

絶望感に打ちひしがれたのは雫も同じようで、がっくりと項垂れている。雫も期待したのだろう・・。

雫は、顔を真っ赤にしたままの木島とアレンによって奥の部屋に連れて行かれてしまった。

私はそれをただ見ているしかできなかった。

「雫・・・・」

手錠で椅子に拘束され、座ったまま項垂れた格好で呟く。

主任・・・稲垣先輩・・・支社長・・・。支社でも強烈な個性を発する人たちの顔が浮かぶ。

こんな悪党集団の暴力に対抗できるはずもないはずだが、あの人たちなら何とかしてくれそうな気がしてしまう。

お願い・・・誰か助けて・・。

私が心の中で今身近で最も頼りがいのある人たちの顔を思い浮かべ助けを請う気持ちを念じていると絞められたドアの向こうから、雫の反抗を示す声とも悲鳴とも聞こえる声が聞こえて来て私は固く目を閉じたのは、本来は塞ぎたい耳を塞ぐ術が無かったからである。

【第8章 三つ巴 5話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~楠木咲奈】おわり第8章6話へ続く

第8章 三つ巴 6話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~雨宮雫

第8章 三つ巴 6話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~雨宮雫

私は今、どこともわからないマンション?アパート?の一室で【キジマ】と呼ばれている丸坊主に明らかにドキュンな感じがする男と2人きりで居た。

後ろ手に手錠をかけられ、勿論私の意志でこんな男とここにいるわけではなく、同僚の楠木咲奈と仕事の真っ最中に知らない男たちに瞬く間に連れて来られていたのだ。

『いやっ・・・こんな・・・こんな部屋で何を・・・』

私の目の前には、天井から吊り降ろされた鎖、その右奥には、まだお世話になった事はないが、産婦人科である分娩台と思われる台。

そして、左の壁際にある陳列棚には、私の知っているもの、知らないものも含めいわゆる大人の玩具と呼ばれるものが、販売店なの?と思えるほど並んでいる。

こんな部屋に連れてこられたのだ・・・される事は1つしかないくらい、大人の女性なら誰でもわかる・・・。

『確か、雫ちゃんと言ったね~俺は美人の女の子には優しいから、心配しないでいいぜ。』

明らかに言っている言葉の内容と、態度に口調が釣り合っていない・・・。
 
この人絶対モテない・・・それに仕事出来なさそう・・・。

嫌だ・・・こんな人になんて・・・絶対!!

いやっ!!神田川主任!助けてっ!!稲垣さんっ!!

私は心の中で尊敬する2人性格や立ち振る舞いは正反対ではあるが片や精神的な強さ、片や男性にも負けないほどの身体能力の強さを持つ【強い女性】の代表のような先輩の名前を呼んでいた。


しかし、そんな私の心の声などどこの誰にも届くはずもなく、無情にも私は後ろ手にされた手錠を引かれて行き、抵抗する体力も気力も既に残されていない私は、一瞬手錠を外されたかと思うと今度は、その私の細い手首に新たな革手錠が片手づつ嵌められて、天井から吊るされている鎖に両手を万歳のようにされ繋がれた。

『雫ちゃんは抵抗しないかい?それなら脚はつながないでおいてやるぜ。』

キジマと呼ばれている丸坊主のドキュンが私に、脚を繋ぐか繋がないかと聞いてくるが、ここまで拘束しておいて、この後脚を繋がれようが繋がれまいが大して抵抗したとしてもその抵抗力に目に見える差などないではないか・・・この男は本物のバカだと思ったが、すでに抗うほどの精神力も私には残されておらず、首を縦に振り、その後この男と目を合わさないという相手にとっては痛くも痒くもないほどの抵抗しかできなかった。

『ものわかりが良い子は好きだね~しかし内心はいきなり、こんなところに連れて来られわけもわかならにうちに、犯されかけている理不尽に恐怖7不満2いらだちくらいの割合のような表情をしているね~ふふふっおっ・・・胸の揉み心地は中々極上・・・そこそこ揉ませてきた胸だね~この胸は』

キジマという男が、ベストのボタンは既に引きちぎられていた私の制服のブラウス越しに胸を強い力で揉みしだく。

『っ!!いやっ・・・そんなにきつくしないで・・・』

私は、ブラウスの上からでも伝わってくるキジマという男の力強さと手の分厚さを感じ、否が応でもキジマの持つ強力な雄度を感じさせられ、こんな状況なのに股間が熱くなるの自覚し自分自身に嫌悪した。

『ほう~制服の上からじゃわからなかったが、雫ちゃんは結構肉付きの良い身体をしてるじゃないの?あの一緒にいた咲奈ちゃんは、華奢な感じがしたけど・・・雫ちゃんにして良かったぜっ!この間犯した人妻の梓という女は顔は良かったが身体はあの咲奈ちゃんのように華奢でね~そろそろムチムチした柔肉を喰いたい所だったんだよっほほう・・・パンスト越しでも伝わるこの太ももの肉感は、熟れた人妻並みだね~雫ちゃん、涼しげな名前にエリートOL様という顔立ちの割には、遊んでんじゃないの?』

キジマの一言一言がカンに障るが、私の身体は裏腹に寒いキジマの言葉に反し、熱を帯びていく。

『っ・・・やめてっそんなに乱暴にしないでっ!』

『雫ちゃんは優しい愛撫が好きかい?ふふふっそれなら今まで雫ちゃんが、相手してきたなよなよした男どもじゃ味わえないほどの激しいセックスを経験させてやるよっ!』

キジマは私の無駄な抵抗ともとれる言葉に、そのように返すと、私の誇りとも言える、宮川コーポレーションの制服を一気にその腕力(かいなぢから)で引き裂くとブラウスのボタンは飛び、タイトスカートのファスナはプチンッという音とともに、床に飛んでいく。

『きゃっ!!(あぁ・・私の制服が・・・・)』

私は悲鳴とともに床に飛んで行った、ボタンやファスナの先を目で追うが、私に念力などあるはずもなく戻ってくることもなく、私の制服を私のこの身につなぎ留めるための金具たちは、1人の粗野なドキュンにおり、私より先に蹂躙されてしまった。

『ほほう・・・やはり仕事中は薄い色の下着着用は、エリートOL様の規則かい?白のブラウスから透けないように気をつかい水色の下着を身につけているおだろうが・・・ほら?水色は濡れるとすぐにわかっちゃうんだぜ?ほら?おっ?雫ちゃん、名前通り濡れやすいんじゃないの?』

そう言いながら私のパンストを、ブラウスのように力づくで破くと、直接私のショーツの上から、股間に中指をフィットさせ、腕を振るわせるようにするキジマは、中指を機械のように振動させる。

う・・・うそっ・・・人間の指って・・・あぁ・・・こんな動きできるのっ・・・!?

『あっ・・・あぁぁ・・・うそっ・・・・ど・・・どうしてこんな・・・あぁぁぁぁっ!!!』

私はこれまで、大学時代からそれなりに男性との付き合いはこなしてきたし、年齢からしても人並みかもしくは、それ以上に経験は豊富だと自負していた。

しかし、このキジマの指の動き・・・まるで、ローターを下着の上から当てているのと変わらないような振動を私の陰核にピンポイントで送り込んでくる。

しかもローターとは違うのはそれに体温がある事だ。

程よい熱を帯びたローターがショーツ越しに陰核目掛けて、自慰をする時以上の快楽を伴う微振動を、高速で与えてくる。

経験のない動きに、もはや前戯というには生易しすぎる、クローズテクニックに私のオーガズムへの耐久値は一気に削られ、達するのに時間など必要なかった。

うそうそっ・・・うそっ・・・さわられただけで・・・指で刺激されただけなのに・・あっ・・こんなどこの誰ともわからない人に・・・あぁ・・神田川主任っ!!

『ほほうっ!雫ちゃん!ショーツの脇から透明なそれこそ雫が溢れ出てきているぜ!ここか!?ここが好きみたいだな!ほらっ俺の指はローターより激しく揺れるからよっ!!』

クチュクチュクチュクチュッ!!!

私の陰核という弦が、キジマという奏者に弾かれ、淫靡な音を奏でている。

その音が私の脳幹をより淫らな世界へ誘うと私の、オーガズムの耐久値は一気にエンプティーを指し私は達した。

『やめてっその指の動きっ!!あぁぁぁもうだめっ!!いやっ!!あぁぁぁっ!!!・・・・はぁはぁはぁ・・・・うそ・・・こんなの・・・』

キジマのおよそ人の指の動きとは思えない、私の経験した事のない振動を与えられ、私は不覚にもショーツ越しに大量の淫らな液体を放出してしまっていた。

『澄ましたOLさんが実は感度抜群っていうのは、なんともそそられるね~雫ちゃんっおまえはかなり感度良さそうなエロい女だぜっ!俺の今までの経験では俺の指電マで吹いちゃう子は、俺の巨砲をぶち込むともう我を忘れて喜ぶ女ばかりだったよ。雫ちゃんも俺の巨砲を楽しみにしていると良いぜ。』

そ・・・そんな・・・

私は荒くなった呼吸で、キジマの言葉に何も返す気にもなれず、何も返す言葉も無く、ただ自分自身で湿らせてしまったショーツの心地悪さに嫌悪感を感じつつも、キジマの言葉が、強がりでもなく虚勢でもない事は、キジマの先ほどの指の動きが私の股間にもたらせた悪夢から物語っているという事実を否定できずにいた。

【第8章 三つ巴 6話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~雨宮雫】終わり第8章7話に続く


第8章 三つ巴 7話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~雨宮雫2

第8章 三つ巴 7話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~雨宮雫2

キジマは私の股間を散々、指でいたぶったと思うと、初めて潮というものを吹かされた私の股間へ容赦なく彼の欲望をぶつけてきた。

そして、瞬く間に絶頂に導かれたが、彼の欲望の大きさはそんなものではなかった。

時間はわからなかったが、私が今まで経験してきた男性たちでは、もう2回分は終わっているであろうと思える体感での時間を挿入され続けたまま、彼の動きは信じられない事に更に加速する。

『はぁはぁはぁっ!あぁぁぁぁああああああ!!!もっもう許してください・・・』

パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!

豪語した通り、いや私が想像していたサイズ以上のキジマの男性器が私を天井から吊るし、立たせたままで背後から、私のキジマの指により挿入を許すまでに潤わされた女性器に突き刺さる。

私のヒップにキジマの下腹部が当たる音、私の女性器をキジマの男性器がえぐる音が、何処かもわからないマンションの一室に響き渡る。

普段のSEXでは殆ど声など上げない私だが、我慢しようにも、キジマと言う男を喜ばせたくなくても、喋り声とはまた別の悲鳴に近い声が口内というよりは体内から勝手に発せられる。

パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!

『美人エリートOLのマンコは最高だぜ!ほらっ雫ちゃんよ~!こんなに気持ち良い大砲はぶちこまれた経験ないだろ?君の中の奥はほぼ未開発だったぜ!おぉぉっ!!鳴き声が大きくなってくると締め付けが強くなるタイプかっ!しかし・・・この尻肉も程よく熟れていて、今が食べごろって感じが良いぜっ!!まだまだ逝かせてやるから覚悟しろよっ!!うらぁぁぁぁっ!!』

パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!ズブブッ!バスンッ!!!

キジマの耳障りな声に、意気揚々としている感情が乗せられた口調が、さらに加わると、キジマの腰の動きもその言葉に合わせリズミカルにそして激しさも増す。

『くっ・・・誰があなたのなんかで・・・・あっあぁぁぁぁぁっ!!!いうあっもうそれ以上はっ!!!ああぁぁぁっ!!じゅ・・・じゅうぶんしたじゃないですかっ!!あぁぁぁぁぁっ!!!うそ~!!またっまた・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

私は、吊るされたまま後背位から私を襲う激しい衝撃につま先から脳天まで痺れるほどの、今まで経験した事のない類と度合いの性感を立て続けに浴びせられ、もはや自分が今何をされていうのかさえ、わからなくなっていた。

いや、分かろうとする気がもう無かったのかもしれない。

人は抗えない大きな力を目にした時に、戦う事を辞める事で、アイデンティを保とうとするらしいが今の私がまさしくそうなんだろうと思う。

こんなの・・・我慢するだけ無駄だよ・・・どうせやられるなら、逝くの我慢してもしんどいだけ・・・・

キジマの男性器が私が許した事のない領域に土足で踏み込み、ドアならとっくに壊れているわよと思うくらいの勢いで私の最奥の壁を激しすぎる勢いでノックする。

何処の取り立てやさん?私の最奥には滞納者など住んでいないわ・・・

しかしそのノックは、居住者すらいないはずのドアを打ち続けやがては、ドアは悲鳴をあげ、そこから細胞が繋がっている全身の毛穴まで性の頂きを見せる。

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!またっまた来るっ!!もうだめっ!!おかしくなっちゃうよ~!!やめてっあぁぁぁそれ以上は気持ち良過ぎてっ!!!』

パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!

『ははははっ!!そりゃそうだろっ!俺の大砲を撃ち込まれ、気持ちよくならない女は不感症だぜっ!!そらっ俺もそろそろ・・・ラストスパートいくぜ!!』

パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!

『いやぁぁぁぁぁっっ!!!はっはげしすぎます!!あぁぁぁぁぁっ!!こわれるっ!!こっわれるっ!!もうよいです!!もういいですからぁぁっ逝ったっ!!もう何度も逝きましたからぁぁぁそれ以上はっ!!うそぉぉぉぉっ!!死ぬっ!!死んじゃいます~!!!ぎゃぁぁぁぁ・・・・』

私は逝くという事を知っていたが、私の今まで逝く逝くは逝くでは無かったんだなとそんな事を思いながら、全身の毛穴に蟻が這い登ってくるような感覚を味わいながら真っ白になって遠のいてく意識の中で、股間の中に凄く熱いものが充満していく感触を味わっていた・・・。

あぁ・・・中に・・・神田川主任・・・助けて・・・

咲奈は無事かな・・・

こんな簡単な仕事もできない私なんて・・・中に出されても仕方ないわ・・・

あぁ・・・もう何でも良い・・・

このまま・・・

そして私は、天井から吊るされたまま、あとはどうなったのかを知るすべもなく意識がなくなっていった。

【第8章 三つ巴 7話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~雨宮雫2 終わり】 第9話へ続く

第8章 三つ巴 8話 雫・咲奈救出作戦|~強襲悪魔の巣窟~ 宮川佐恵子

第8章 三つ巴 8話 雫・咲奈救出作戦|~強襲悪魔の巣窟~ 宮川佐恵子

関西支社のある市内駅前の中心部から、車で15分ほど走らせた場所に目的地の一つのマンションはあった。

「あれね・・こんな近くに・・、雫、咲奈無事でいて」

助手席に座っている真理が、遠目に見えてきた目的のマンションを手元のタブレットのマップと見比べながら呟く。

「まずは一か所目。二人とも、あのマンションの105だっけ・・?にいればいいんだけどね・・・」

運転しながら香奈子も心配そうな口調で真理に答える。

「美佳帆さまのおっしゃってた情報ですと、ここに監禁されている確率が高いわ。次に私達が買収協議をしている港湾地域の倉庫ね。・・・今日中に助け出しますわよ。でないと、襲撃をかけた情報が敵に知られて、対策をとられて咲奈と雫は、どこか違うところに移動させられるでしょうね・・・。加奈子、真理・・・もし、咲奈や雫がいなくても、焦らず、まずは敵を必ず全員捕まえて!・・通信させる暇を与えたり、逃がしたらダメよ?」

後部座席から二人にそう指示しつつ、二人を見る。力強くうなずく二人のオーラは、さすがに充実している。若干の思念の乱れがあるのは、逸っているためだ。

この程度の乱れなら問題ないわね。まあ、此方は宮川の中でも10指に入る手練れの能力者が3人いる。しかもこのスリーマンセルだとバランスも良くて隙も少ない。それに、そもそも私の思念波を防げないような使い手しかいなかった場合、何人いようと、敵に勝ち目はない。

敵能力が不明で、能力には相性があると言っても、このメンバーならよほどのことがない限り負けない。それどころか、過剰戦力だ。

ならば戦力を二分すればいいということなのだが、このメンバーで戦力を二手に分けると、とたんにバランスが悪くなる。前衛の加奈子無しでは、イレギュラーが起きた場合、対処しきれない可能性があり、さすがに危なすぎるのだ。

たしか美佳帆さまのお話では敵能力者は、たった2名程度と言っていた。若干の誤差があっても、多くて5人程度でしょう。

それに敵は、おそらく私達みたいに訓練を受けていないはず、野良能力者が思念の力を手に入れて有頂天になっているだけのチンピラ集団・・というところでしょうね。・・思念だけの勝負だと、今年小学5年生になる私の従弟よりも弱いはず。


今まで、何度も野良能力者に会ったけど、その類の大体が、素人相手に狡い商売や、宗教紛いのことをやっている、つまらない連中がほとんどだった。

凡人が運よく能力開花してても、訓練無しだと、能力の出力も練度も貧弱で、私たちの相手にはならないのは、今までと同じことでしょう。

・・・そういう意味では、今日お会いした菊沢さま夫妻。特にご主人の思念は凄まじかった・・・。何者なのかしら・・?

つい先ほど会ったサングラスの男のオーラを思い出し、体中に沸き上がった鳥肌を、やや鈍い光沢のある黒い服の上から撫ぜる。あのオーラ量と殺気・・・、ぶるりと悪寒まで走らさせる・・・。不快ね・・・、こんな感情抱かされるなんて・・。

「支社長もう着くわ。いきなり突入でいいわよね?」

両肘を抱えて、摩っていると加奈子が聞いてくる。

「・・ええ、、私と真理は正面、玄関からとりあえずチャイム押してから入るわ。加奈子はベランダに回って、チャイムの音がして10秒したら突入して」

不快なグラサン男を思考から追い払い、二人に簡単な指示を出し、軽く深呼吸をする。

雑魚ばかりのはずと言っても、多少の緊張感は沸いてくる。意識を集中させ、再度自分と加奈子と真理に、沈着の感情を付与させる。

「ありがとう」

「もぅー!せっかく荒ぶってたのに・・・」

付与に対して真理がお礼、加奈子が文句を言ってくる。真理に笑顔で返事を返し

「加奈子・・あなたさっきのままだと殺しちゃうわよ?」

運転席にいる加奈子の後頭部を人差指でつつきながら言うと

「・・ダメだったの?」

前を向いているせいで、表情までわからないが、加奈子は半分ぐらい本気かもしれない。

「ダメに決まってるでしょ?喋れる状態で確保して。あとで情報吐かせるのですからね」

「・・と言うことは、喋れたらいい?」

「・・ええ、悲鳴だけとかうめき声だけだせる、とかじゃないならいいわ」

「了解、ばっちり!」

加奈子が振り返り、妙にいい顔でにかっと笑ってサムズアップして元気よく返事した。

・・・念を押したので大丈夫だとは思うけど、などと思っていると、車はマンションオルガノ近くの路上に駐車した。

【第8章 三つ巴 8話 雫・咲奈救出作戦|~強襲悪魔の巣窟~ 宮川佐恵子終わり】第9話へ続く





筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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