第8章 三つ巴 25話 不器用で実直な2人
分厚い木製の扉が少しだけ開き、その隙間からまずは白い手が見えた。
「あの・・、豊島さま。大変お待たせしました。そこでは満足に座るところもございませんし、中にお入りください」
黒い髪、白い肌をした佐恵子が僅かに顔を扉から覗かせ伏し目がちに、豊島哲司に話しかける。
「あ・・え・・よろしんですか?神田川主任にはここで待機しとってくれといわれてるんやけど・・・」
「大丈夫です。私の護衛のお仕事ですし、加奈子や真理も普段は部屋で一緒に過ごす時も多いのですよ・・・。今日はたまたま加奈子には外でいてもらったのですが・・・。あ・・それより今はまず命の恩人にきちんとお礼を言わせてください。それには、ここでは立ち話になってしまいますので・・、どうぞお入りください」
佐恵子は伏し目がちのまま哲司の顔を見ずにそう告げると、扉を大柄な哲司が入れる程度まで開いた。
哲司は佐恵子を見て思わず無遠慮に見つめてしまう。
先日あった時の佐恵子と、いまのカジュアルな部屋着の佐恵子とはまるで印象が違ったからでもあるが、基本的にはもともとインスピレーションで好みだと感じていた為である。
哲司はこの至近距離ではあったが能力を無意識に発動させてしまい視力強化してまじまじと佐恵子を見つめてしまっていた。
間近で見る宮川佐恵子は思いのほか背が低く、華奢に見えた。なぜか僅かに汗ばんだ肌は白くきめ細やかで、首や鎖骨はなんとも女性的な先日、張慈円がアジトに使っていた倉庫で見かけたときは、傷つきながらも、佐恵子の印象は尊大で周囲を見下したような雰囲気を感じられる部分があったのだが、今の佐恵子にはそれがなく、年齢の割には落ち着いた雰囲気がある清楚な女性に見えた。
「今日もうこのセリフ何回も言うたんやけど、ホンマ気にせんといてや。俺も平気やったし」
「何回も・・。そうですか・・、加奈子や真理にも言ってくださったのですね」
今の佐恵子は上下アイボリーのゆったりとしたルームウェアを着ていた。トップスはオフショルだーで丈は腰程度まであり、ボトムスは同じくゆったりとしたワイドドレープパンツ姿であった。
「こんな姿で申し訳ございません・・。でも、豊島さまをあまりお待たせするのはいけないと思いまして・・・」
「そんな気ぃつこてもらわんでも・・・」
遠慮がちな哲司の発言を聞き流し、佐恵子は哲司を室内に入るように促す。
扉をくぐり少し歩くとリビングなのか、応接室なのかよくわからない広い部屋に通され、促されるまま低反発のソファに座って待っていると、佐恵子がコーヒーが入ったガラスポットとカップを二つトレイに乗せて持ってきた。
「雇い主である支社長さんにそんなことしてもろて、なんか恐縮してしまうな」
女性の部屋に入ってお茶を入れてもらう。そういったことに緊張してきた哲司は気を紛らわそうと少し大きめの声で佐恵子に言ってみたが、佐恵子は穏やかな表情で哲司に笑顔を返し、袖を抑えながら哲司の前に湯気の立つコーヒーカップに注ぐ。
そして佐恵子は「どうぞ」と言いソーサーの上にカップを置くと、自らも哲司の向かいのソファに浅く腰掛けた。
二人ほぼ同時にカップに手を伸ばし、コーヒーを啜る。
心地いい空調の聞いた部屋で熱いコーヒーを啜る音と、天井に設置されているシーリングファンが風を起こす音だけが僅かに聞こえる。
『あの・・』
二人の声が重なった。
「あ!支社長どうぞ!」
「いえ・・!豊島さまのほうこそお先に・・」
お互いに異性に不慣れな者どうし遠慮し合っていたが、ここは哲司が先に切り出す。
「あ、あの・・、支社長はこの部屋にお一人で住んでるんですか?」
「・・ええ」
「はは・・、そうでっか。いまもほかには誰も居らへんのんですか?」
「・・・ええ、そうですわ」
「ははは・・、支社長さんみたいな若くて美人の女性の部屋に通してもろて二人っきりとなったら、勘違いしてしまう輩も多いかもしれへんし、気ぃつけなあきませんな!・・・はは、、俺は、全くその点は信用のおける男やから安心してくれてええんですけどね!ははは・・」
(な、なに言うとんや俺は!かなりアホな発言してもうてるで!!・・・あかん!めっちゃ意識してしまうわ!・・・平常心を取り戻すんや!哲司!・・・いつからそんな狼狽えるようになってもたんや!・・・・南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・・!)
変な会話になってしまったと思い、寺の息子らしく心頭滅却させようとしていると、正面には固く閉じた膝の上に手を置き、目を伏せ、床の一点を見つめながら顔を赤くして無言でいる佐恵子が目に入った。
(う・・!な、なんやこの反応と表情は・・・、どうやら怒ってはなさそうや・・・。俺のアホな発言、大丈夫やったんとちゃうか・・・?むしろ、いけたんか?めちゃキレられるんかと思たけど・・・大丈夫な感じやな・・・・。それにしても、めちゃ可愛らしいやないか・・・・。もしかして、こないだの俺の白刃取りの出会いで、ホンマに白馬の王子効果が出とるんやろか・・・?)
哲司は正面に座ってモジモジしている佐恵子をつい凝視してしまっていると、その視線に気づいた佐恵子が慌てた様子で立ち上がった。
「わ、わたくしとしたことが・・、お茶請けも用意せずに・・、す、少し失礼致しますわ・・」
顔を真っ赤にした佐恵子は哲司の返答も待たず、スリッパの音をパタパタとさせながら奥の部屋に歩いて行ってしまった。
「あ!・・そんなんホンマに気にせんでください・・」
哲司は慌てて佐恵子の後ろ姿に声をかけるが、佐恵子はパタパタと音をさせて奥に消えてしまった。
「な、なんや・・・あんな表情みせられると年甲斐もなく緊張してまうな・・あつぅ!!!」
哲司は佐恵子の去った奥の部屋を見ながら呟くと、まだ熱いコーヒーを思い切り口に含んでしまい、一人で吹き出し、吹きこぼしたコーヒーを拭き掃除する羽目になっていた。
「はぁはぁ・・・ま、真理ぃ~・・!・・・恨むわよぉ・・・。なんで今日に限って豊島さまを連れてきたのよ・・・」
大理石でできたアイランドキッチンのワークトップに突っ伏し、佐恵子は恨み節を独白した。
オーラの枯渇した佐恵子は何故かある一定までオーラ量が回復するまで、性欲が我慢しがたい程に溢れてしまうのだった。
今日の早朝に冷静付与の効果が切れてしまい暫く我慢していたのがいけなかった。我慢してしまったせいで触り出してしまった反動は大きく、真理と哲司が来る少し前まで一人で慰めていたのである。一人で1時間ほど慰め、何度も果て少しは落ち着いていたのだが、哲司と話という話もしないうちに下腹部がうずきだしてしまったのだ。
普段【冷静】を付与し続けている反動なのかもしれないが、付与が切れるとどうしても少し疼いてしまう。
しかも、ある一定までオーラが回復しないと、【冷静】のようなほぼオーラを消費しないような技能すら使えなくなってしまう。
このままでは不味いと思い、佐恵子はまだ使えないだろうと分かってはいたが、一応【冷静】を自身に付与しようと、目に力を集中する。
「・・・うう・・、だ、ダメだわ・・・上手く練れない・・・こんな簡単なこともできなくなるなんて・・・」
佐恵子は続けて何度か技能を使えないか試してみたが、やはりまだダメだったことに焦る。
(す、少し・・・すっきりしたほうが・・・、いえ・・何を考えているの・・・。今更いきなり豊島さまを外に追い出すなんてことも・・・ダメ・・・変に思われるわ・・・。それに、まだお礼も一言も言えてないというのに・・・・!ああ・・こんなことになるなんて情けないですわ・・・)
ダメだとは頭ではわかっているが、佐恵子は丈の長いワイドドレープパンツの裾を太ももまでまくり上げ、手で下着の上から女芯を摩った。
(はぁああん・・)
声こそは我慢できたが、佐恵子は背中を反らせ、顎を突き出し快感に酔いしれた顔を上げた。
(こ、こんなの・・我慢できない・・。やはり一度だけ・・・んん・・!)
佐恵子はキッチンの床に膝立ちになり、下着の上から既に堅さを帯びた陰核を擦っていた右手を黒いショーツをずらして脇から指を入れて這わせた。
くちゅ・・。
「あぁ・・」
佐恵子は意図せず僅かに漏れた喘ぎ声に慌てて、左手で口を押えて塞ぐ。
(うぅ・・・気持ちいい・・)
声を出すまいと下唇を固く噛み、鼻を鳴らしながら右手を動かす。肩幅ほどに開いた膝立ちの格好で、おでこをキッチンのキャビネットに押し付け、あさましく右手をを動かし続ける。
照明も付けていない薄暗いキッチンに、卑猥な水音と、かみ殺した荒い息づかいだけが僅かに響き、発情した雌の匂いが充満しはじめた。
佐恵子の右手の動きが一段と早くなり、全身に力が入ったかと思うと、「うぐっ!はぁ・・ん!」と下唇を噛みしめ我慢していた口からは、堪えきれない嬌声が漏れ、膝でぐいぐいと床を擦り、脚の指は固くと閉じ全身をガクガクと小刻みに激しく震わせた。
「はぁはぁはぁ・・・うぅ!」
一度果てれば落ち着くと思っていたのは嘘である。そう思い込みたかっただけで、一度始めてしまうと次を求めてしまう可能性のほうが高いと佐恵子は最初から分かっていた。
キッチンの床に膝とおでこを付け、左手はトップスを捲りノーブラの薄い胸の突起を摘まむ。
パンツの裾から入れた右手は相変わらず股間をまさぐり、突起した陰核と濡れぼそった膣を交互に責める。
ワイドドレープパンツの右脚側はほとんど捲りあがり、右脚はほぼ露出している状態である。
(はぁはぁ・・こんなこと・・いけませんわ・・。豊島さまがリビングにいらっしゃるのに、早く戻らないと変に思われてしまいます・・・。・・でも・・あと一回・・あと一回果てたら・・)
「あぅ!」
甘美な快感が股間から腹部にまで広がり、あげまいと堪えている声が漏れてしまう。声が漏れると同時に、身体が痙攣しゴツンと頭をキッチンにぶつけてしまう。
これ以上声を出すと気づかれてしまうかもしれない、哲司も能力者なのだ。聴力強化をしているかもしれない。
そう思ってしまった瞬間、もともとマゾ気質な部分を持ち合わせている佐恵子の中でスイッチが入ってしまった。
気付かれるかもしれない。こんな姿を見られるかもしれないという濁った感情が、ハイオクガソリンとなり脳に流れ込んでくる。
普段は能力で付与をして精神強化を施しているが、その仮面を今は付けることができない。
せめて声は上げないようにと、浅ましくキッチンマットを噛みしめて、お尻を高く突き上げ、右手で膣内深くを中指と薬指を突き込み、股間の尖った性感帯の裏側あたりを激しく擦る。
キッチンマットをきつく噛みながら、鼻息を鳴らし佐恵子は哲司が来てから2度目の絶頂を自慰で味わった。
佐恵子が退室してから、自分で吹き出して汚してしまったテーブルを拭き終わり、さらに高そうな絨毯に付いてしまったコーヒーのシミを何とか落とせないか奮闘していたが、どうやっても無理なので正直に謝ることを決心した哲司はようやくソファに座りなおした。
「ふぅ・・・しゃあない・・。謝って許してもらうしかあらへん・・。しっかし、高いんやろなぁ・・これ・・まさかこの手触り、シルクか・・・?冗談やろ・・?冗談であってくれ・・絨毯やで・・?」
絨毯について詳しく精通しているわけではない哲司であるが、魚をモチーフとしたメダリオンデザインのウールとは思えない手触りの絨毯を摩りながら呟き、変な汗が噴き出してきているのを感じた。
「・・・しかし、遅いな・・。トイレにでも行ってるんやろか・・・。・・どないしよ・・。様子見てきたほうがええんちゃうか」
時計を見ると佐恵子が席を立ってからもう20分は経っている。
(さすがに長ないか・・?・・・ふむ、俺の仕事は護衛やし、なんかあってからでも遅いしな。声かけながらちょっと様子見に行くべきや・・・。はっ!新参者の俺がどの程度機転が利くのんか試してるんかもしれへん!絶対そうや!そうだとしたらしまったなぁ・・、ちょっと行動が遅かったかもしれへん!)
そう仮定すると哲司は立ち上がり、奥の部屋に向かって遠慮がちに声をかける。
「宮川支社長~・・・。いてますか?なんか問題発生ですかいな?」
暫く返事を待って耳を澄ましてみたが、全く反応はない。
「ふむ・・」
何かを捜索するときや捜査するときに、無意識に身体能力を上げてしまうのはもはや職業病であろう。
哲司は無意識に能力を使い五感を研ぎ澄ます。
(・・・・え・・?)
哲司は聞き間違いかと思い、無意識に発動させた能力向上を聴力に合わせ極限に研ぎ澄ます。
哲司の感覚では、この階層に人の気配は哲司ともう一人しかない。もう一人は言うまでもなく、さっきまでここにいた佐恵子であろう。
そう遠く離れていないところにその気配はあった。
(ふぅーふぅー・・んん・・くぅ・!んんん!・・・・はぁ!・・・ふぅー!)
安定していない呼吸音に混ざってほかの音も聞き取れる。服が擦れる音。粘着質な水音。何かがぶつかる音。呼吸の合間に混ざる嬌声。
「う、嘘やろ・・」
哲司は立ち上がった場所から動けずに、最初はそう呟くのがやっとだった。
自分の能力で得た情報はほぼ正確なのは、今まで経験で分かっていた。何せ間違うと生死にかかわることもあるからである。
それだけ鍛えているつもりでもあるし、自信もあった。
(・・しかしなんでまた・・・こんなタイミングで・・・?バレるやろ・・・?声は押殺してる?・・バレたくはない?・・うーん、わからん!・・しかし、こういうこと考えるんは野暮や・・。イレギュラーが起きた時ほど基本に忠実に任務のみに集中するんや。しかし・・、中島由佳子さんといい宮川支社長といい、何で俺はこういう現場に出くわす傾向にあるんやろか・・?)
数秒だけ考えたが佐恵子が何をしているのかが分かった哲司の判断は明確で早かった。
聴力強化を解除しその他を強化して佐恵子の周囲を警戒し、自分自身はソファに座りなおした。
それから更にちょうど2時間ほど経った。
最初に佐恵子が持ってきていたガラスのポットに入っていたコーヒーをちょうど哲司が飲んでしまったところで、佐恵子が部屋に帰ってきた。
「お、お待たせしましたわ・・」
戻ってきた佐恵子は、部屋から出て行ったときと比べると、顔色や雰囲気は幾分普段に近づいて戻っていた。
「お、支社長。お茶請けを待ちきれんで全部コーヒー飲んでしまいましたけど、よろしかったですか?って・・お茶請け楽しみにしてたんやけど、支社長、手ぶらですやん・・」
「・・・豊島さま。・・・ご心配おかけしました。もう落ち着きましたので・・。お茶請けはまた後で用意いたしますわ」
「どないされたんです?気分でも悪かったんですか?・・それは気づきませんで申し訳ないです」
「ふふ・・、豊島さま・・お優しいのですね・・」
佐恵子は頬を赤く染めながらも、先ほどよりも口調はかなりハキハキしている。
「え、ええ、俺優しいんですわ。たぶん、菊一事務所で一番やとおもいます。ははは」
「・・・本当に、私にとっては実際そうだと思いますわ」
佐恵子はそう言いながら、哲司の向かいのソファに腰を下ろす。
「先日のこと、きちんとお礼を言いたかったのですの・・。本当にありがとうございました。私自身の過信から、あのような窮地に陥ってしまいましたわ・・。豊島さまたちが来なければ今頃私は連れ去られ囚われていたでしょう。・・・正直に申し上げますと、あのとき菊沢様の奥様から応援の人員があると聞いたときは、能力者が多くいるという事には驚きましたが、はっきり言って戦力としては期待していなかったのです・・。いまはその思い込みの軽率さに恥ずかしい気持ちでいっぱいです」
「ええんや・・。宮川支社長。そうやって思えただけであんたの中で何か得たもんがあったんやろうし、結果的に俺ら事務所の人間も優遇してくれるみたいやし、ええことばっかりですわ」
「・・ありがとう」
佐恵子は哲司に素直にそう言うと俯き黙ってしまう。しかし、直ぐに顔を上げ思い切った様子で哲司に言う。
「豊島さま!・・豊島さま・・・あの・・今私は能力が回復してます・・。えっと、きちんと説明いたしますわ・・・。私は能力を使い過ぎると回復に少し時間がかかるのです。その間、護衛を必要としますが、いまはもう能力をほとんど使えます・・・。その・・えっと・・、つまり今は豊島さまの感情も見えてしまうということなのです・・・!」
佐恵子は前かがみになり、顔を赤くして哲司の反応を待つ。
「え、ええっと。ほ、ほな今後も気ぃつけて警護の任に当たった際は頑張りますわ。そ、それと・・俺の感情ですか・・・?」
「ええ、菊沢さまから聞いてはおられないのですか?」
「少し聞いてはおるんやけど・・けど、嘘を見破るとか、もしかしたら人を操作するとかそういった能力かもしれへんって、あくまで推測の範囲の話ですわ・・・」
「そうですわ・・概ね合ってます。そのうち詳しくご説明する機会もあるかと思いますが・・、いまは、私の【感情感知】のお話を致しますね。・・・【感情感知】は視界に入る人の感情がどのような状態か色で視認する能力ですわ。わたくしのパッシブスキルで意識してないと常時展開してしまうので、便利なようで案外うっとうしく感じるときもあるのですが・・・、その・・えっと・・・いま、豊島さまの感情も・・丸見えでして・・うれしく思ってはおりますが・・恥ずかしくもありますし・・・その、聞いてみてもよろしいですか・・?」
顔を真っ赤にした佐恵子は、上目遣いで哲司に問う。
「え??聞くとは?ええですけど、なにをですか?」
「さっきの私の姿を見ました?」
「・・といいますと」
佐恵子の目に映る哲司の感情色に変化はない。
見ていないということだ。
「ま、まあ!で、では・・聞きました?私のあのときの声を!・・私が退室している間に私が何をしているかわかりましたか?」
「え?ええええ?えっと!それは、その、あのう、わかりません!!」
哲司から発せられていた感情色が激しく変化する。発言に嘘があると明確な変化が見て取れる。
「ううううう!!と、豊島さま!見えるとお伝えしましたでしょ?!・・・豊島さま恥のかきついでに知っておいてください!・・私オーラが枯渇すると、そのう・・我慢できなくなってしまいますの!今日のことは豊島さま・・!お墓まで誰にも内緒で持って行ってくださいませ!約束してください!」
「は、はい!や、約束します!俺、最初にも言いましたけど信用できる男ですから!」
真っ赤な顔を両手で押さえながら、はぁはぁと息を切らせ、言い切った佐恵子は豊島の発言を聞き、指の間から覗き豊島のオーラを見る。
「ま、守っていただけそうですわね・・・」
「当たり前ですわ。言われんでも誰にも言うつもりありませんでしたし、支社長にお願いされたらなおさらですわ。安心してください」
「・・・本当に守っていただけそうですわね」
「二言はあらへんですわ。安心してください」
「・・・・見えてます・・。・・いいのでしょうか・・。もう一つ聞いても?」
内緒にしてくれるということと、もう一つ明確な哲司の感情が見えている佐恵子は、幾分落ち着きを取り戻して、ひと呼吸おいて問いかけた。
「なんでも聞いてください。支社長には隠し事はできないみたいやし・・。ほな、けど、俺にとっては、それってたぶんあんまり関係あらへんかもしれません」
「本当に・・・わたくしでよろしくて・・・?」
「もちろんです。俺のほうこそですわ。支社長が駄菓子屋の娘だろうが、財閥の令嬢であろうが、宮川さんは宮川さんや・・・。初対面の時からインスピレーションでずっと見てしもうてましたわ。‥さすがにそうじゃなかったら、白刃取りなんかできんかったと思います。でも、支社長、見えるなら俺の気持ちって最初から気づいてたんとちゃいます?」
「ええ、でもすぐ枯渇してしまったので・・すぐ見えなくなって確信がもてなかったのです。あああ・・・。ブレない・・そんな恥ずかしい発言をしてるのに色がブレてませんわ・・。こちらこそよろしくお願いいたしますわ・・。・・・今後はお名前でお呼びしてもよろしいですか・・?」
前のめりになり哲司を伺う佐恵子を哲司はテーブル越しに抱き寄せ、肩を抱くと唇を重ねた。
【第8章 三つ巴 25話 不器用で実直な2人 終わり】第26話へ続く