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第9章 歪と失脚からの脱出 29話 最悪な目覚めと来客

第9章 歪と失脚からの脱出 29話 最悪な目覚めと来客

それからどのぐらい経ったのだろうか、まどろみの中で身体が揺さぶられる。

「・・い・・ぶ?!・ゥ!・・ス・・ウ!・・・ス・・ノ・・!・・きて・・お・・て。・・のう!」

「!?・・・・??・・んん・・も、もう・だ・・め・・す・許し・・さい。・・ぁ・・えっ?」

最初は優しく揺すられていたのが、じょじょに強くなり、最終的にはゆっさゆっさと大きく揺らされたことで何とか薄く目を開けると、呼びかけてくる声が、だんだんと聞きなれた声だと分かり、驚き目を開けた。

すると、ベッドのすぐ横に人影があり、その人影が肩をぐわんぐわんと揺すっていたのである。

スノウこと斎藤雪は、なんとか開けた目を忙しく動かして周囲を確認すると、ベッドのすぐ脇に膝をついて、心配そうな顔で覗き込んでいる人影と目が合った。

「み、美佳帆さん!?え!?こ、これは違うんです!わたし・・!」

目を覚ましたスノウは自分が卑猥な夢を見てしまっていたことにすぐ気が付き、なにか粗相や声を聴かれなかったかと、慌てて衣服の乱れや寝具の確認をしようと上半身を跳ね上げた。

「しー!・・・大丈夫?・・汗びっしょりだけど暑かった?」

美佳帆は口の前で人差指を立てて、歯並びの良い白い歯を見せると部屋の入口の方を振り返って確認し、スノウの狼狽には気づかぬ様子で続けた。

「・・スノウ。急なんだけど、とにかく起きて。急いで着替えてちょうだい。手短に言うわね・・緋村支社長が・・いいえ、紅蓮が来るわ・・」

「え?ぐ、紅蓮・・?支社長が?・・どういうことなんですか?」

いきなりのことに、スノウは状況が飲み込めず聞き返した。

「どうやら紅蓮は本気で私たちを始末する気よ。【百聞】で聞いたから間違いない・・宏達が今夜から行ってる作戦も罠だったのよ・・!宏達がやられるなんて考えられないけど、前から念入りに用意してた様子だったわ・・。あの管制室・・どういった理由かわかんないけどオーラを遮断するんだわ・・だから今まで百聞でも聞き取れなかったんだわ」

「え!?所長たちが罠に!?じゃあ・・」

スノウは宏達がという話を聞き、先ほどまでのいやらしい夢を見ていたことも忘れ、少し大きな声をあげた。

しかし、美佳帆は再び口の前に人差指を立てスノウを黙らせるとと早口で続ける。

「宏達のことは宏達に任せましょう。ここからじゃたちまちどうしようも無いわ。簡単に死ぬタマじゃないしね。それより紅蓮は今こっちに向かってきてる。私たちの方こそ大ピンチなの。以前真理さんが言ってたわ。条件十分の紅蓮と一対一でまともに戦えるのは宮コーじゃほとんどいないってね。同じ宮川十指といっても強さだけで数えられるわけじゃないみたい。・・・でも紅蓮はこと戦闘において文句なく突出した存在なんですって。その強さは真理さんたち3人がかりでも勝てるかどうかの相手だそうよ・・。でも能力が強力なぶん、使い勝手の悪い技能も多いみたいで、なにより緋村支社長自身は優秀さゆえの慢心があるのが救いだって言ってたわ。私たちがこの状況をなんとかするには、そこにつけ込むしかないわね・・。さあ、もう行くわ。・・いま紅蓮はちょうどフロントの階段あたりまで来てるわ。アリサとお嬢も起こしてくるから・・スノウも作戦考えながら準備してて」

声を押し殺して早口で言った美佳帆に、スノウは聞き返したかったが、美佳帆は再度「急いでね」とだけ言い残すと、慌てた様子で部屋から足音無く駆けて出て行ってしまった。

出て行った美佳帆をベッドの上から見送ると、準備しようとスノウはバっと毛布をどけた。

その瞬間、むわぁと自身が発した汗と尿と女の臭いが鼻をつき、こんな状況だというのに先ほどまで、何をしてしまっていたのかが一目でわかる光景が飛び込んできた。

「あぁ・・こんな・・やっちゃってる。・・あんな奴の夢をみるなんて・・」

自分の臭いとはいえ夢の中で卑猥なことを思い出し、無意識に衣服まで乱してしまっていることに、スノウは一人で赤面し唇を噛む。

スノウは既婚ではあるが、自宅に帰らず、ずっとこの宮コーのスイートルームで暮らしていたのだ。

実は夫とは随分前から離婚調停中で別居している。

すでに別居していた為、家に帰らずとも夫に文句はいわれない。

いまは美佳帆と同じ部屋で、このグランドスイートルームに二人で住んでいたのだった。

この部屋は、二人で泊ってもゆとりがある広さで、リビング以外にも寝室が3つもあり、それぞれに鍵も掛けられ居心地も良く気に入っていたのだが、とてもそんな状況ではなくなった。

「いそがなきゃ・・あの紅蓮が私たちを・・・どうやったら・・あの炎を・・どうしたら・・考えるのよ・・」

頭を目まぐるしく回転させながら、一気にパジャマを脱ぎベッドの上に脱ぎ捨てた。

すると一刻を争う状況だと聞かされわかってはいたが、パジャマを脱ぎ捨て下着だけになったことで、ズリ下がっているショーツが目に入った。

毛布や衣服で隠れていた自分の様子を見て再び赤面し下唇を噛む。

ラヴィジュールのショーツは薄い恥毛が覗いてしまうほど、ずり降ろしてしまっているし、下着の中に右手を突っ込み派手に弄っていたのだろう。

そのエメラルドグリーンの生地は、卑猥な水分でところどころ濃いグリーンに変色させてしまっている。

右手はと見ると、主に中指と薬指は、少し渇き始めた白濁し泡立った粘着質の液体が付着し、愛液と尿の混ざったような淫卑な香りを放ち、指と指を開閉するとにちゃと糸を引いた。

今日は本気下着で、上下お揃いの下着で、ショーツはサイドストリングのティーバックである。

なぜなら今日は密かに恋慕している上司が出張に行く日であったので、幾日か会えなくなる寂しさを抑え、仕事を急いで片付け、見送りの数時間前に部屋まで戻り、シャワーを浴びてこの下着に着替え、ミニフレアとノースリーブブラウスで見送ったのだった。

これは幾日か会えなくなる時にスノウが行っている秘密の儀式で、特に効果も意味もない。

ただ、密かに恋心を寄せている男を、見送るときの誰にも知られてない習慣としていることだった。

とは言っても上司とはそういう男女の関係ではなく、スノウの一方的な片思いなのであるが、慕う相手のことを想うとせめて下着を意識することで、この叶わぬ思いを少しだけ慰めることができたのである。

その習慣は20年近く続いているが、実際空しいし、知られれば痛い女としてドン引きされてしまうだろうと悩んでもいる。

そんな異常だが、どこか一途でいじらしい習慣をした日に、スノウが今さっきまで見ていた夢には、上司とはまるで違う人物が現れ、自身の身体に刻まれたトラウマを抉りまくる内容だったのだ。

(・・たまに夢で見ちゃう・・。嫌なのに・・こんなに感じてしまって・・私ったら・・)

自己嫌悪になりかけるがぶんぶんと頭を振り、ばっとベッドから跳び起きた。

「だめ・・切り替えなきゃ・・!」

(あの時、スタジオ野口で私達を髙嶺の白スーツの変態剣士とゴスロリ二刀女から守ってくれた炎術使い・・。宮コー最大戦力の一人に数えられるあの紅蓮が今度は敵なのよ・・。・・髙嶺の剣士等をほとんど一人で追い払った紅蓮を私達なんかが・・いったいどうすれば・・。所長や和尚とも全然違うタイプの強さだわ・・。あれほど術者でありながら、熟練の近距離能力者以上だとも言われてる・・。・・白スーツの変態剣士に放ったあの火柱でも、私達じゃ当たったら即アウトだわ・・考えるのよ。・・こっちにできる最善手・・あいての嫌がることを徹底的にやるのよ・・!)

スノウたちでは歯が立たなかった髙嶺の剣士たちを、文字通り凄まじい火力で追い払った紅蓮が、今度は自分たちに牙を剥いてくるのだ。

スノウはベッドの上に立ってパチンと頬を叩くと、今まで数多くの迷宮入り事件を解決してきた菊沢探偵事務所の秘書たる立場で培った頭脳をフル回転させながら、汚した下着の上に動きやすい服を身につけだした。

美佳帆たちが紅蓮の動きを気取り、準備を万全にし始めていた頃、ホテルのフロントには紅蓮こと緋村紅音と、サイドテールのイケメン巨漢女こと中原はなが少しばかり口論になっていた。

「紅音ちゃん・・ほんまにやるん?・・あの人らさすがに可哀そうや・・。佐恵ちゃんが頼み込んで半分無理やりウチに就職させられたんやで・・?そのうえ・・言うとおりならんからって・・」

彫りの深い頬に割れた顎、しかしながらやや明るい色素の髪の毛をサイドテールで揺らしている。

はなのその美しく力強い目には長い睫毛が、意思の強そうな唇には濃い赤のルージュが引かれ、そのゴツイ手の爪には可愛いライトピンクのマニキュアが施されていた。

宮川コー十指の名物であり良心の一人、中原はなである。

「だ~か~ら!・・何回も言ってるでしょ?!あいつらはもう敵なの!敵は始末しないとね!?」

そう決めつけて言う紅音の口調と態度に、はなはその大きな体を小さく縮めている。

しかし、はなは小柄な紅音を見下ろしながらであるが上目遣いで更に続ける。

「敵って言うほどやないと思うんやけど・・。現にちゃんと彼らも紅音ちゃんの命令聞いて作戦に行ってくれたやん・・。それに真理ちゃんや加奈ちゃんまで・・・・。・・いくら佐恵ちゃんの力が貧弱になったから言うても、佐恵ちゃんが会長に泣きついたら、さすがに紅音ちゃんでもヤバないん?まあ、佐恵ちゃんの性格やったらそれはせえへんとは思うけど・・。さすがにいろいろヤバいって・・。菊一の人らも今からでも遅うない・・殺すことあらへんやん?通信回復して救援送り込んだりいな・・敵地のなかに放り込んで梯子外した酷い作戦やんか・・」

「うるさい!でっかい図体して情けないわね・・!怖気づいたの?!はな?!」

大島優子似の可愛らしい童顔、赤い巻き毛を揺らして手で薙ぎ払うように言う紅音の仕草は、堂に入っており、そう言った横暴な態度や発言が良く似合ってしまう。

宮コーの大抵のものは紅音に恐れをなし、勘気に触れないようにしている。

それは、はなも他の者同様であったが、今日は違った。

このようなことは、紅音自身の為にもならないとはなは思っているのだ。

「そや、正直怖いわ・・。紅音ちゃん・・。佐恵ちゃんと仲良うやったらええやん・・。いまは怒っとると思うけど、まだ佐恵ちゃんもまだ話しできると思うで?・・菊一を宮コーに取り込んで仕切っとたんは佐恵ちゃんやったやろ?真理ちゃんや加奈ちゃんも襲って、菊一の人らまで手出したら、佐恵ちゃんもホンマに紅音ちゃんに対して引けんようになる」

普段は聞き分けよく、よい返事をしてくれるのはなが、ここまで言い返してくるのを珍しく思った紅音は、声のトーンを少し落として確認するように聞き返す。

「・・引かなくっていいじゃない。私がアイツに負けると思ってるの?こないだオーラぶつけ合って白黒きっちりつけたの見たでしょ?私の圧勝。はなも居たでしょうが」

「せやな・・戦ったらまず間違いなく紅音ちゃんが勝つやろ・・。紅音ちゃん強いもんな。おまけに仕事も優秀やし、私と違うて華奢に見えて女らしいやん・・マジで羨ましいわ」

「・・・ふ、ふふん、でしょ?当然よ。わかってるじゃないのよ。はな。わかってるなら良いのよ。ふふふん、やっぱりさすがはなね。ちゃんとわかってるわね。・・ことが成った暁には、はなのことは良くしてあげるから安心して?」

てっきり否定されると思っていた紅音は、はなの素直なセリフに少し戸惑ったが、生来の単純な自尊心から胸を張り、腕を組んで顎を逸らし、目を閉じ微笑を浮かべた表情でそう言った。

しかし、はなは言いにくそうに続けた。

「でも紅音ちゃんに勝たれへんにしても、佐恵ちゃんは引かへんと思う・・」

紅音は、腕を組み、胸を張った状態で微笑から驚いた表情になり、はなにかえす。

「なんでよ?そんなことないんじゃない?あの七光りも命は惜しいでしょ?だから、私に恐れをなして、私の命令どおり子会社にすごすご引っ込んだじゃない?あんなに自信たっぷりで啖呵きったのに、情けないったらないわ。あの時の七光りの顔、悔しそうな半泣きで傑作だったわね・・。・・・失敗ね・・私も慌ててたわ・・撮影でもしとけば何度も楽しめたのに・・」

はなのセリフを怪訝そうに一蹴した紅音であったが、あの時の佐恵子の様子を思い出したのか満足気に頷いていたかと思うと、今度は惜しいことをしたといった様子で悔しがっている。

「やめたりぃなそんな悪趣味な・・。・・・でも、紅音ちゃんにはそう見えるんやな・・。ウチには、佐恵ちゃんは、泥水啜ってでもやりかけてた仕事を、何とか恰好がつくところまではやり切ろうとしてるだけに見えるんやけどな・・。宮川の意地なんか、佐恵ちゃん自身の矜持なんやろか・・」

はながそこまで言うと、紅音ははなから視線を逸らし一瞬考えるようにそのかたちの良い顎を手で触るが、すぐに苛立った表情ではなに向き直る。

「あの七光りがそんな殊勝なわけないでしょ?はなは七光りのことを買い被りすぎよ!・・まったくどいつもこいつもあの女がなんだっていうのよ!私の方がずっと優れてるでしょう?!まったく・・みんな血筋や権威に弱すぎるんじゃない?!」

感情の起伏が激しいお天気な紅音は、はなのセリフに晴れから一気に大雨まで変化させて声を荒げた。

そんな様子の紅音にはなは、疲れたような顔を上げと言っても、小柄な紅音を見下ろして言う。

「・・紅音ちゃんって、ウチ等より遥かに佐恵ちゃんとの付き合い長いやろ?」

「そうね!それがどうかしたの?!」

はなのセリフに、更にイライラを募らせた様子の紅音が早口で聞き返す。

「紅音ちゃんが凄いんはウチも知っとる。でも、たぶん佐恵ちゃんもウチ以上に紅音ちゃんの凄さって知ってると思うんよ。・・紅音ちゃん・・・佐恵ちゃんに勉強や運動の成績やとたいてい勝ってた言うてたな?」

「そうよ?あの七光りもなかなかだったけど、ずっと次点。まあ私がいるから一位は取れないわよね。宮コーのプライマリーカリキュラムのときから数値じゃほとんど負けてないわ。語学や数学、運動能力、オーラ量もね」

再び晴れになった紅音が鼻をならし、得意そうに反り返って言うが、はなは「せやな」とだけ言い、いままで何回も聞いた紅音のセリフに頷いていた。

「せやけど紅音ちゃん・・なんて言うたらええんやろ・・。そういうこと以外で佐恵ちゃんに勝った。って思ったことあるん・・?・・インターナショナルスクールのとき、佐恵ちゃんに生徒会選挙で勝ったこと一度でもあるん?佐恵ちゃん、あんな風に見えても案外社員からの人望あるで?・・・紅音ちゃんは能力者以外の社員の名前とかぜんぜん知らへんやろ?・・実は佐恵ちゃんって興味ないこと全然おぼへてくれんのよ。ウチがいくら相撲のこと言うても、全然覚えてくれへんし、サッカーや野球のルールは最低限知ってるみたいやけど、誰がどこの球団でどんな選手がおるかなんて、めっちゃ有名な選手やないと全く知りもせん。流行ってるドラマや、ハリーポッターやスターウォーズみたいな世界的なベストセラーもタイトルは知ってても、ちょっと見て興味なかったら全く興味示さん。でも、佐恵ちゃんは宮コーの社員、身の回りの人間のことはよう知ってるで?・・社員の家族構成まで把握してる・・旦那さんや奥さんがどこに勤めてるか、子供さんが何人いて何歳かとか・・大体知ってるんやで?・・・組織のリーダーとしてこれってすごない?」

「・・・なにが言いたいのよ。それはただあの七光りが利用できそうなものを、より姑息に使いこなそうと、小細工するために神経すり減らしてるだけでしょう」

はなの思い切った力説に対し、紅音は目をすぅっと細めると、たちまち曇り空になり、反論を許さぬ様子で静かな声で言った。

紅音の曇り空にもかまわずはなは続ける。

「ううん、ちゃうと思う。身の回りの人達を大切に思ってるってことやない?・・・まあ敵や不正汚職する身内にも酷い時があるんも確かやけど・・。佐恵ちゃんの【感情感知】・・あれのおかげで自分の感情も、発言や態度や仕草次第で、相手に伝わってるのがよくわかるって佐恵ちゃんが言うてた時があるんや・・。せやから佐恵ちゃんって無意識にそのあたりが身についてるんやないかな思うんよね・・」

「じゃあ私は人の気持ちがわかってないって言いたいの?!私が部下を虐げてるって言うの?!そんなわけないじゃない。七光りとやり方は違うけど、私にだって当然できてるわよ!宮コーの能力者だってほとんど私の方に靡いてるでしょ?!私のことをあの七光りより好いているってことの証明じゃない!」

脅しを含めたセリフをはなに否定された紅音は、再度活火し大声をあげる。

「せやけどそれは・・。やっぱりあの子カリスマあるんよ・・。一見すると態度は不遜で誤解されやすいけど、全体的に佐恵ちゃんがやってたことって大概がうまく行ってきたし、・・最初はまたとんでもないこと言いだしたって思うことあっても、後になって振り返ってみたら、佐恵ちゃんがやってきたことってほとんど真っ当なことばっかりやん・・。紅音ちゃんは・」

どかんっ!!!

はなのセリフを遮り、紅音は赤毛を翻し身体を回転させて脚を振り回すと、200kgぐらいはありそうなホテルのカウンターが壁から剥がれ、はなのすぐ隣をかすめて勢いよくエントランスまでぶっ飛んでいった。

がしゃーん・・!

「はな!それ以上言うならいくらはなでも、もう許さないわよ?!・・ふ、ふん!・・よくわかったわ!あとで覚えておきなさい!・・・はなはここにいて!付いてこなくていいわ!ここを封鎖してなさい!いいわね?!」

ごおおおおおおおお!

紅音はそう怒鳴り終わると、吹き飛とんで転がっているカウンターにこぶし大ほどの火球を、腹立ち紛れな表情で投げつけ発火させると、はなに背を向け、振り返りもせず、怒りに任せた歩調でずかずかと行ってしまった。

「・・わかった。もう言わへんよ」

エントランスでバチバチと音を上げ、燃えているカウンターのすぐそばにあるソファに座ったはなは、怒りで肩をいからせ階段を上っていく紅音の小さな背中に向けて、疲れた声で小さく呟いたのだった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 29話 最悪な目覚めと来客終わり】30話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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