「ソレハデスネ。
カミヤサオリサン。
アナタガワタシニ
カテレバオシエマショウ。」
私が振り向いたその先。
港区の丁度果て、海沿いにある
倉庫から出てきた張慈円がそう言った。
私は驚きもしたが、もっと別の恐ろしさも感じた。
張・・・!?
彼がここに居ると言いう事は・・・
予め私がここに逃げる様に他の
アジア系のマフィア、張の部下たちは
私をここへ解っていて追い込んだ?
もしかして、私たちの動きがバレているとは
思っていたけど・・・
菊沢さんが居る限りハッキングをされる事は
ありえない。
私も色々なハッカーを見て来たが彼女以上の
ハッカーを知らないし、橋本の手下にそんな
人が居るとも思えない・・・
だとしたら・・・
考えたくは無いが橋本対策チームの誰かが・・・?
いやそんな事あるはずがない・・・
私は再びチタン製の短棒を構える。
私の眼は既に張慈円の服の長い袖に集中していた。
「ホカノモノニ
テダシハサセマセン。
カミヤサン。
アナタガカテバ、ワタシタチガ
ナゼナゼココニ
アナタトアラキサンガ
クルトワカッタカ
オシエマショウ。」
1対1・・・
約束を守る人間ではない事は解っているが・・・
この余裕・・・
1対1とは自信があるからの発言ね。
張慈円か・・・
正直橋本の部下の中では1番会いたくなかった相手だわ。
ボクサーのマイクは菊一探偵事務所の寺野さんが足を折った
と聞いているし、今存在する中で間違いなくこの男が1番厄介。
菊一探偵事務所の斉藤雪さんですら不覚を取った相手・・・
おそらく今捕らえられている伊芸千尋さんの相手もこの男・・・
あの伊芸さんでも・・・
伊芸さんは斎藤さん以上に腕が立つ人だったのに・・・
救出された斎藤さんの話では、張は暗器使いの名人のほかに
身体に電流を宿し、それを自由に発する能力を持っているらしい。
能力者の集団の菊一探偵事務所の方たちならともかく
私は普通の人間だって・・・
勝てるのか?この男に・・・
しかし情報はともかく今ここでこの男を私が捕獲できれば
橋元としても実働部隊の元締めが居なくなりかなり彼の逮捕に
近づける・・・
そうなれば本部長も橋本に脅され、警官を導入しないという事も
ないだろう・・・
「ドウシマシタ?
ウゴカナイノデスカ?
ソレトモウゴケナイ?
シカシ、カミヤサン、
アナタモカナリキレイナ
ヒトデスネ~
ハシモトサンニ
ケンジョウスルノガ
モッタイナイクライダ。」
ふんっ・・・
私を捉えれば私を犯すのはこの男じゃ
なく橋元か・・・
まあどちらでもこの男たちに
捕まればどうなるかくらいは
解っているわよ。
しかし相手が橋元なら、直前まで
大人しくしていて、一気に橋元を
捕らえることも可能か・・・
いや私は何を考えているのだ。
張慈円・・・
この男を今ここでとらえる事の方が
重要。
私は張の暗器の距離感を図るために少しづつ
短棒を構えながらじりじりと張との距離を詰めていく。
すると張が手の先が見えない長い袖の服を
着た腕がゆらりと揺れると私の腰の辺りまで
何かが伸びてきた。
シュンッ!!
えっ?何?
私は何が伸びて来たか確認ができないまま
それを間一髪で交わす。
「ハンノウイイデスネ。
カミヤサオリサン。
ソノホソイコシヲトラエタカッタノデスガ・・・」
捕らえる?
確かに今伸びてきた物は、揺れながら
伸びてきたところを見ると、帯状の物?
ゴムか布か・・・?
私は張の暗器の正体が解らないまま
少し距離を取った。
私たちには今拳銃は1丁しかなく、それは大塚さんが
使用している。
私はこの相手にこそ拳銃が必要であるなと痛感しながら
張の袖から目を離せずに居た。
《第7章 慟哭 33話 張慈円VS神谷沙織 終わり》
