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第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 16話【回想】 麗華VS誘拐犯 紅音VS銀次郎&金太郎

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 16話【回想】 華VS誘拐犯 紅音VS銀次郎&金太郎

麗華は、従業員のみが通る通用口らしき廊下を感に頼って駆けていた。

火災報知機による警報で、避難しようとしている店のスタッフらしきものと幾人もすれ違う。

明らかに従業員ではなさそうな麗華を不審そうに一瞥する者もいたが、ほとんどのものは避難するために慌てた様子で麗華にかまってくる者はいない。

麗華は、視力、聴力、嗅覚を強化し周囲を注意深く見まわしながら奥へと進んでいた。

しかし、いまだに何の手掛かりもない。

先ほど銅三郎なる巨漢に足を掴まれて足止めをくらったおかげで、思いのほか引き離されてしまったのだろうか。

見失ってしまったのかもとじわじわと焦る気持ちがわいてくる。

警報の大音量と逃げ出そうとしているスタッフの騒乱が麗華の気を散らせてもいた。

おまけに店の中は思いのほか広く、いま自分が向いている方角すらわからない。

麗華は今回の潜入に際して『エデン』を調査してはいたが、見取図は手に入らなかったのだ。

もう少し時間を掛けて調査をしていれば、という思いが麗華の焦燥に拍車をかける。

ここまで通ってきた通路や部屋を急ぎながらも手抜かりなく見回ってきたはずだが、やはり手掛かりはなかった。

「どこに行ったのよう!」

麗華が焦慮で気色ばんだ声でそう独り言ちたとき、わずかな空気の流れが感じられた。

麗華は自分の直感を信じ、照明が明るく、天井の高そうなホールらしい空間を前方に認めると、麗華はとりあえずそこへ駆ける。

店の裏口などの通用口かもしれないと思ったが、まさしくその通りであった。

大きなアルミ製の親子トビラの片方が開かれている。

そして、そのトビラの外では、べた付けされていた黒塗りの四輪駆動車のハッチバックドアが勢いよく閉められるところだったのだ。

「ちょっと!」

麗華の声に、ハッチバックドアを閉めていた二人の男が勢いよく振り返った。

麗華は直感した。

たった今、この車に哲司の言っていた女の子を乗せたのだと。

それに二人の男が、まずいところを見られたという顔をしているのも、麗華の感を確信へとかえる。

麗華がホールから車に向かって駆けだそうとしたとき、二人の男は驚いた顔でお互いに一瞬見合わせたが、すぐに好色な顔で頷きあうと、にやけながら襲い掛かってきた。

麗華を獲物として認めたのだろう。

「思ったとおりね!」

麗華はそういうと二人に肉薄する。

しかし二人の男は、麗華を女と思って侮りすぎていた。

一人目の男は麗華を捕えようとして腕を伸ばしたが、麗華は体を回転させて男の背後に回り込む。

男が掴んだのは麗華のカーキ色のトップスだけであり、麗華に背後に回られ腕を首にかけられて足を思いきり払われる。

柔道でいうところの大外刈りのような大技で、盛大にアスファルトの床に叩きつけられた男は、麗華のトップスを手に握ったままのたうち回る。

声にならない苦悶の声を上げ地面で呻く男から、麗華は自分のトップスをひったくり返す。

「返しなさいよ。これお気に入りなんだからね!」

手伝いとはいえ恋人の哲司と二人っきりで過ごすためにチョイスしたお気に入りなのだ。

しかし取り返したトップスは、男が地面をのたうち回るときに、男が顔を抑えたりしたため、男の涎っぽい湿り気が感じられる。

「えっ!?ちょっと!ええええっ!汚ったな!・・な、なに汚してんのよ!これお気に入りだったのよ?!」

麗華は、叩きつけられた地面で嗚咽する男にそう言いながら男の腹部に一発蹴りを加えた。

「おごぉ?!」

背中をアスファルトで強打したうえに、腹部にまで麗華にけられて男は無様に悲鳴をあげる。

そんな木村文乃を気の強そうな雰囲気にした顔立ちの麗華が、このような動きをしたことに、もう一人の男は驚きで立ちすくんでいたが、はっと我に返っていきり立つ。

男の顔には麗華を女と侮っている様子はもはやない。

男に好色な表情は浮かんでおらず、腰に差していた30cmほどのスタンガンを引き抜き麗華に突き出してきたのだ。

しかし、麗華にとっては格闘のド素人で無能力の男が、武器を持っていようとほとんど関係がない。

向かってくる男の顎を掌でカチ上げ、スタンガンを持った男の手を掴むと、腹部を体を回転させ廻し蹴りで蹴り飛ばす。

男の体が勢いよく黒塗りの四輪駆動車に激突してそのボディを凹ませたが、車は仲間であろう二人の男を見捨て、タイヤがアスファルトを摩擦で削る音を路地に響かせて走り出してしまったのだ。

「えっ?!・・こ、このっ!逃がさないわよ!」

まさか仲間を置いていかないと思っていた麗華は慌てたが、麗華はすぐ近くの駐車場まで走り、停めてあった自身の赤い愛車に飛び乗ると、キーを回しアクセルを踏んだ。

がぉん!!

その麗華の様子に、隣のクラブの火事騒動の野次馬となっていた駐車場管理人が気づき、慌てふためいた様子で麗華の車に駆け寄ってくる。

「ちょっとあんた!どさくさに紛れて駐車料金踏み倒す気か?!」

「これ!とっといて!」

麗華は車の窓から身を乗り出すと、駆け寄ってきた駐車場管理人のポケットに1万円札を数枚ねじ込こんで申し訳なさそうな顔でウインクする。

「あっ!これも!」

先ほど男から取り返したカーキ色のお気に入りだったトップスを、駐車場管理人に有無を言わさせず押し付けたのだ。

そして麗華は車を急発進させる。

そして駐車場管理人が驚きのあまり呆然としている間に、麗華は車の窓から身を乗り出して振り返り、立ち尽くす管理人を見やり叫んだ。

「駐車料金と修理代っ!」

麗華がそう言うと同時に、何かが破壊される音が天井の低い駐車場に鳴り響いた。

ばきぃいん!!

麗華は、駐車場の出入り口の侵入防止のバーを車で突き破ったのだ。

そのまま麗華の乗った赤いスポーツカーは、派手なエンジンを響かせ駐車場から飛び出して行ってしまう。

あとには駐車場の真ん中で佇む駐車場管理人が、呆然と麗華が車を走らせていく様子を、唖然と目で追っていた。

駐車場管理人は胸ポケットに突っ込まれたものを取り出すと、広げて数えだす。

そこには、ぐしゃぐしゃになった福沢諭吉が書かれた紙幣が3枚入ってた。

駐車場管理人は、その紙幣と押し付けられた衣服を交互に見、そして麗華が破壊していった駐車場の開閉装置を見やる。

「・・・・これっぽっちであれを弁償・・?」

紙幣とカーキ色のトップスを交互に見て、すこし躊躇いがちにトップスの匂いを嗅ぐ。

女性らしい香りが鼻孔をくすぐり、わずかに衣服には何か液体が付着している。

駐車場管理人ははっと我に返り、周囲をきょろきょろと見まわすとカーキ色のトップスを丸めてジャケットの中に隠し、いそいそと管理人室へと戻っていったのであった。

・・・・・・・・・・・・・・

紅音は口元を手で覆って顔をしかめた。

炎が何かに燃え移らないようにしたとはいえ、部屋中のものを焼いた臭いを嫌ったのだ。

着ていた白いジャケットは煤で見る影もなく焼き切れたうえ煤で汚れ、ポマードで押さえつけていた髪はちぢれ乱れてしまっている。

銀次郎は紅音の炎を真正面から受けきってしまったのだ。

銀次郎は防いだ両手が真っ黒になり、その部分の服が焼き切れている部分を見て目を見開く。

「ごはぁ!はぁ!・・くぉおおお!」

銀次郎は炎による攻撃で喉を焼かれたのと、炎のせいで息ができず、酸素が空っぽになった肺に呼吸を送り込んだ時の痛みで苦悶の声をあげてしまったのだ。

「やるわねえ」

紅音は軽く目を開き、指先で前髪をもてあそびながら意外そうに口を開いた。

紅音が殺すつもりで炎を放ち死ななかったのは、この銀次郎が初めてである。

それゆえに、紅音なりに素直に称賛したのであった。

「私が依頼した話、もう白紙でいいわ。お金も払わない。七光りのことももう放っておいてちょうだい。自分で何とかすることにするわ。私を脅すようなヤツには死んでもらうから」

煤だらけになり、片膝をついた銀次郎を見下し・・といっても膝をついた銀次郎と紅音ではそうさほど身長の差はないが、涼し気な口調で再び凶悪なオーラを両手に纏わせだした。

「こ・・これほどとはな・・。ますます欲しくなるってもんだぜ」

銀次郎は紅音の想像以上の能力に瞠目しながらも、顔に滴る汗を手で拭いながら立ち上がった。

しかし、ダメージは深刻なようで炎で焼かれた衣服はもちろん、焼きはがれて見える隆々とした筋肉も痛々しい火傷を負っている。

「そんななりしてマゾなの?気持ち悪い」

そんなぼろぼろの銀次郎が言うセリフと様子に、紅音はかわいらしい童顔の顔を不快そうにゆがめて言った。

「心配しなくても死ぬまであげるわよ」

紅音は右手の人差し指を立ててそういうと、指先の先端に20cmほどの火球を作って、銀次郎に放りつけた。

事は済んだ。という表情の紅音が放りつけた火球はうなりをあげて銀次郎に着弾する。

どぉおおおおおん!

火球が炸裂し、炎が熱と暴風を伴なってふたたび部屋中を荒れ狂う。

紅音の周囲だけは、紅音のオーラによって炎を遮断させているが、紅音は眉間にしわを寄せて不快気な表情になった。

黒煙で見えにくいが、紅音は火球と銀次郎の間に割り込む人影を見逃さなかったのである。

「誰っ!」

誰何と同時に紅音はもう一方の手から火球を放っていた。

ずどぉおおん!

誰だと聞いてるくせに、相手に名乗らせる暇さえ与えない紅音らしい行動であるが、紅音にはわかっていた。

おそらくまた防がれると。

だが、2発目の火球は相手の反撃をさせる機会を潰すための牽制である。

再び着弾した火球が、一発目と等しく炎を巻き上げ、部屋中をうねり回る。

(一発目を防いだからって、これでさすがに反撃はできないでしょうね)

紅音はそう思ったが、刹那でその判断を打ち消す。

舞い上がる炎を上下に割くモノが見えたのだ。

紅音は肉体の反射能力を上げる【即応反射】を即座に発動すると、上半身を反り、火球の着弾と同時に反撃してきた一閃を躱す。

紅音は類まれなる才能と頭脳、そしてあらゆることに関して卓越したセンスを持ち合わせているが、ものすごく短気である。

「舐めんじゃないわよ!死ね!」

反撃させないための攻撃をしたのに、反撃されてしまった怒りで、紅音はキレたのだ。

躱しざまの後方宙返りをして着地した瞬間に、紅音は怒鳴りながら、同時に先ほどよりはるかに強い火力で右手にオーラをまとわせて怒り任せに横なぎに払ったのだ。

「誰だって!聞いてんでしょうが!」

ごおああああ!

室内だから手加減をしなければ、という考えはこの時にはもう紅音の頭の中から彼方へと吹き飛んでいる。

火球の威力の倍はある獄炎が、紅音の腕の振りに合わせて、前方を横なぎの嵐のように荒れ狂ったのだ。

「くっ!」

わずかに紅音自身の防御オーラを上回る火力で攻撃してしまったため、紅音自身が少しだけ身を縮める。

「くそったれが!」

自分の炎でダメージを少し受けてしまっただけなのに、まだ目視できない敵に向かって憤怒に燃えた敵意を向けて罵った。

「こんな小娘がこんな事しでかせるなんてな・・。店がめちゃくちゃだ。銀次郎。大丈夫なんだろうな?」

「あ・・ああ、すまねえ金兄・・」

炎は紅音がすぐに発現を消し去ったが、燃えたものが発する黒煙のせいで、銀次郎と会話している人物はシルエットしかいまだ見えない。

「誰よ!」

紅音が待ちきれずイライラした様子で、今度こそ攻撃せずに聞いた。

この火力の炎に耐える者などいようはずがない。

紅音はじわじわと湧き上がる内心の焦りを打ち消すように大声で誰何したのである。

膝をついた巨漢の銀次郎の前に、長身細身でスーツを着た眼鏡の男が黒煙の合間から垣間見える。

紅音は目を凝らし、相手の挙動に注視しながら探りを入れる。

何しろあの火力の炎を、何らかの方法で防ぎ切った相手なのだ。

(こいつが私の炎を防いだの?あの火力よ?・・この私でもあれ以上の温度ならダメージを負うっていうのに・・)

紅音が訝しがるのも無理はない。

長身細身の男は、服装が乱れていない。

炎は発現させて対象に着弾すると、紅音はたいていの場合すぐに発生させた炎は消している。

そうしないと、余計なモノを焼いてしまう恐れがあるし、なにより人間を相手にした場合、炎が1秒でも触れればそれで相手は即戦闘不能になるからだ。

だいたい1秒ぐらいは対象に触れるように調整している。

炎の扱いを得意とする緋村紅音だが、炎の温度の扱いは紅音をしても難しい。

炎は発現する際に最低温度というものがある。

炎の最低温度は400度。

その温度に達するだけでも相当なオーラ量と集中力が必要である。

紅音にとって最低温度で炎を発動させるのは、本当にコンマ1秒以下でできる。

脳の開放領域の広い能力者の中でも、紅音は異質中の異質なのだ。

並みの能力者ではこうはいかない。

炎を発動するほどのオーラの練り上げができないのだ。

最低温度に達するほどオーラを練りあげることができないか、もしくは単純にオーラ量が足りないためである。

実験したことがないため紅音自身も知らないが、紅音が発現させることのできる炎の最高温度は、一瞬という限定付きであれば、1500度に達する。

しかし、紅音自身のオーラによる防御耐性が1000度までしかないため、それ以上の発現は通常しない。

ただ、紅音の場合怒りにかられるとやってしまうのだ。

ついさっきやってしまったように。

それを目の前の男は防いだのである。

紅音はポーカーフェイスができるタイプではない。

苛立ち、怒りをあらわにしながらも、その表情には焦りがある。

紅音の内心をよそに、誰何された長身痩躯の眼鏡紳士は紅音の誰何に素直にこたえた。

「緑園金太郎。銀次郎の兄でグリンピア興行の代表だ。お前が銀次郎の言ってた緋村紅音だな?銀次郎はえらくお前を買ってたようだが・・・。これは一体全体どういうことだ?ああ?銀次郎」

金太郎は振り返り、うずくまったままの銀次郎を見下ろしてそういうと、銀縁の眼鏡をきらりと光らせる。

銀次郎は兄のその様子に、顔中脂汗を吹きだし、うろたえて口を動かしかけたが、口を開いたのは銀次郎ではなかった。

「あ、あんたの弟に騙されたからその報いをうけさせてるだけよ」

「おい!騙してなんかいねえだろうが!でたらめ言うんじゃねえ!」

「黙れこらあ!!聞いたことにこたえろ銀次郎!どう落とし前つけるのか聞いてんだよ!」

紅音のセリフに反応した銀次郎だったが、金太郎の怒声でその巨体をびくりとふるわせて押し黙る。

その気迫に身をこわばらせたのは銀次郎だけではなかった。

(くそ。なんなのこれ・・・!)

紅音はぞわぞわと背中から首筋にかけてはしる悪寒に、得体の知れない気味悪さを感じ、いつの間にか乾燥した唇を舌で舐めて紛らわす。

「金兄。俺が落とし前をつける。この女にきっちりツケ払わせる」

「できるのか銀次郎?」

「ああ、まかせてくれ」

銀次郎はそういうと、ぼろぼろになった白色だったジャケットを脱ぎ捨て、紅音を睨みつけた。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 16話【回想】 華VS誘拐犯 紅音VS銀次郎&金太郎終わり】17話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 17話【回想】紅蓮の脅威…そして運の悪い男たち


第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 17話【回想】紅蓮の脅威…そして運の悪い男たち


銀次郎は覆いかぶさるように紅音に丸太のような剛腕を振り下ろす。

銀次郎の白いジャケットは焼けただれ、露わになっている肌には血と煤で汚れた火傷が痛々しい。

どおん!

紅音を叩き潰さんと振り下ろされた銀次郎の張り手が地面を揺らすが、手ごたえのなさから銀次郎は即座に横なぎに振り回す。

しかし紅音は小柄と柔軟性を生かし、地面にべっちゃり張り付いてそれを躱していたのだ。

「打たれ強いわね!足りないのかしら?!」

地面にへばりつくように身をかがめていた紅音は、ぴょんと跳躍し、愛らしい童顔をゆがませ可愛らしい声でそう銀次郎を言うと、炎を纏った拳で銀次郎を滅多打ちにする。

「ぐおぉおおお!?」

銀次郎が巨体を縮ませ、紅音の猛攻に耐える。

200cmを超える巨体の銀次郎が、140cmあまりの女に圧倒されている様ははたから見れば異様である。

しかし、紅音が拳を振る速度は常人の目では追えず、銀次郎の体に当たった拳からは猛烈な衝撃音が響いていた。

決して、銀次郎が演技をしているわけではない。

紅音の攻撃が本当に重いのだ。

そして、紅音の両の拳は炎を纏っている。

その両手の連打で銀次郎を突き放し、腕の間合いではなくなった絶妙の距離になったところで銀次郎の巨体を蹴り飛ばす。

そして間髪入れず、紅音は右手にオーラを収束させると吹き飛ぶ銀次郎に向かってぶっ放した。

どぉん!どぉおん!

壁に銀次郎が激突したと同時に、追撃の火球が銀次郎に着弾したのである。

小さな幼女とも見れる赤髪の紅音に、見るからにスジ者の大男が吹き飛ばされ炎に包まれたのだ。

(まただわ)

紅音は、もうもうと立ち上る黒煙に向かって激しく舌打ちして、キッと視線を金太郎と呼ばれた長身痩躯の男へと向けた。

圧倒的優勢に戦いを進めているにも関わらず、紅音の表情は芳しくない。

(【火球】が効いてない・・。あいつが何かしてるんだわ。忌々しい)

紅音は、金太郎をにらみながら炎撃を纏わせ銀次郎を滅多打ちにした両手の感覚を確かめるように、指を動かす。

(手に纏わせてる炎には問題ないわ。・・問題は今の【火球】。どうして焼け死なない?・・・銀次郎の肉体とオーラ量だと私の炎に耐えられるはずがない)

紅音は、どうしようもなく短気だが、物事にたいする透徹した洞察力を持ち合わせている。

紅音は、七光りのように眼の能力に頼ってオーラの多寡を視認しなくても、ほぼ正確に相手の力量がわかると自負していた。

そしてそれは事実である。

だからこその普段の紅音の振る舞いであり態度なのだ。

低能な者が、自分の無知蒙昧に気づくことができないゆえに他者に対し傲慢になっているのとはわけが違う。

紅音はわかっているのだ。

自分のほうが格上であるということが。

自分のスタイルで戦えば、銀次郎のような脳筋能力者では到底自分に敵うはずがない。

能力者同士には相性があるとはいえ、銀次郎が肉体強化に特化した能力者であれば、炎を自在に操り、肉体の強化も肉体強化特化の能力者とさほど遜色ない紅音に勝てる見込みはないはずである。

銀次郎は肉体強化特化の能力者としては、おそらく国内トップクラスだろう。

紅音の評価はそれであり、それは正しいが、それでも紅音には届かない。

しかし、【炎撃】で殴られ蹴り飛ばされて壁に激突し、受け身もままならない態勢のまま【火球】を食らったにもかかわらず、銀次郎は【火球】のダメージは浅く、いまだに戦意を失っていない。

紅音にとっては銀次郎の戦闘力は想定内である。

しかし、炎によるダメージが通らないのが腑に落ちないでいた。

一方で、銀次郎にとっては、紅音の強さは想像をはるかに超えていた。

炎を使える能力者だとしても、自身の肉体強化の防御オーラを貫通してくるはずはない。

そう高をくくっていたのだ。

それが大いなる誤算だったということを、今身をもって味わっているのだが、兄が登場してくれたおかげで、何とか死なずに済んでいる。

紅音は前髪を人差し指でくるくるともてあそびながら、銀次郎と金太郎を観察しながら考察していた。

(【炎撃】の手ごたえはあった。・・・でも、いまの【火球】のダメージがほとんどない。それにさっきの【龍炎】や【獄炎】にも・・。ということはあっちの男の能力は遠距離能力の阻害・・というわけね。炎を着火させる最初は特に高い集中力と大きなオーラが必要だけど、実は問題はそれ以降・・。着火によって発生した熱エネルギーを燃焼効果で持続させるために次々と連鎖反応を起こさせる必要がある。つまり・・次々とオーラをそこへ供給してやらなければいけないんだけど、さっきからわずかに違和感があるわ。たぶんあいつがなんらかの能力でそれを邪魔して、対象まで燃焼効果をたどり着かないようにしているってわけね。防いでいるわけじゃない。私の能力の発動を邪魔してるだけ。銀次郎が私の炎を完全に防げてないのがその証拠・・・。オーラの供給を邪魔しているということは、距離の問題があるはず。私から遠ければ必然的に自分たちに近い。だから私より早く阻害できる。ネタがわかってしまえばいくらでも対処できるわ・・。それでも少しばかり褒めてやってもいい程度の能力者ってのは認めてあげるけど、私に歯向かうにはチンケすぎる能力よ。阻害できない距離で私に火を使われたらどうなるのかしらね。近すぎたら私が自分の炎のダメージを恐れて火が使えないと高をくくっているのなら・・試してあげるわ。炎に焼かれるのはどっちかってことをね)

「・・ふふっ・・ふふふっ」

金太郎の能力をそう鑑定した紅音が、二人を視界に収めて残忍に冷笑する。

相手の能力のネタが分かったのだ。

紅音の表情には完全に余裕が戻っている。

「おあいにくさま。少し驚かされたけどもうタネはバレてるのよ?」

紅音の作戦はシンプルであった。

接近戦に持ち込み、ゼロ距離で炎をぶち込む。

紅音の防御オーラが防げるぎりぎりの炎を、至近距離で耐えられる者がいるはずがない。

そして、同じ距離なら能力の発動速度で自分が後れを取るはずがないという自信もある。

(近づけば、炎を使わさなければ・・私に勝てると思ってる類の愚物・・・。思い知らせてあげるわ)

北派、南派と中国拳法のいくつかをマスターしている紅音である。

それに加え、今の紅音の肉体強化は現在においては、のちに銀獣と呼ばれる稲垣加奈子よりも強力であった。

(この私を脅して焦らせたツケを払わせてやるわ・・。死をもってね)

女子大生でしかない緋村紅音だが、すでに殺人は何度が犯している。

もちろん証拠を残したことなどない。

容疑者になったこともない。

すべて灰にしてきたし、紅音の肉体強化をもってすれば、現場から短時間で遠くまで離れることが可能だからだ。

(こいつらも灰にして終わりよ。依頼を出した証拠も灰にしてあげるわ。・・・その前に、せっかくだから楽しませてもらうけどね)

紅音は小柄ゆえのリーチの不利をなくすため、炎で巨大な鎌を模り発現させ両手で持ち、腰を落として構える。

そして残忍な笑みを浮かべて上唇を舌でペロリと嘗め回した。

じくじくと身体の芯から淫卑な炎が灯り、それが全身に広がっていくのが紅音には感じられる。

勝利を確信した残忍な猫科の肉食獣が獲物を嬲る興奮に似ていた。

ぶるりと身体を震わせて紅音は口を開いて嗤う。

「うふっ!うふふふふふふふっ・・。この瞬間の心の躍動。たまらないのよね・・!うふふふっ!」

紅音の異常性癖のスイッチが入ってしまったようである。

愛らしい童顔の顔ゆえに、紅音の妖しい表情には不気味さと鬼気迫るものがある。

これから始める相手を死へと誘う舞踏に心が躍っているのだ。

自身に立ち向かってきた愚かな敵が、勝ち目がないと徐々に悟っていき、無駄な抵抗を楽しませてくれる。

こんなはずじゃないと絶望に歪む表情が、痛みで堪えきれなくなった悲鳴が、哀れな命乞いが、紅音の官能を潤わせる。

敵の抵抗をたやすく蹂躙し、嘲笑いながら圧倒的な火力で徐々に打ちのめす。

それらの妄想が、幅広くゆがんだ性癖を持つ緋村紅音の頬を淫卑な朱に染め、妖しく紅潮させていた。

そして、深紅のドレススカートのせいで見えてはいないが、紅音の下着は自身が分泌させた愛液でしっとりと湿らせはじめてもいる。

性的興奮で脳内から分泌されたエンドルフィンに反応し、子宮が収縮して下腹あたりの筋肉を妖しく脈動させる。

目の光はどろりと濁り、呼吸は艶めかしく熱い吐息で乱れ、欲情から膝をすり合わし、炎の大鎌を構えた格好のまま腰を震わせる。

そんな異常な様子の紅音を見やり、金太郎は銀次郎に向かってひきつりながらも、楽し気に口を開いた。

「・・・銀次郎。てめえいい趣味してるなあ。あいつを自分の女にしてえっていってなかったか?変態な上に、【炎の天稟】持ち能力者か・・。とんでもねえ上玉?だな」

「金兄・・。それも俺が押さえつけられるってのが前提の話だったんだ。ここまで手に余るやつとは・・・」

「いまさらそう言ってしょうがない。後の祭りだ。だがまあ心配するな。俺と二人かがりならなんとでもなるだろうよ。こんな変態で強力な能力者だ。今更仲間になんていうなよ?銀次郎。・・・この変態猛獣を鎖でつないだらどんな声で鳴くのか今から楽しみだよなあ?」

金太郎は銀次郎よりずいぶん余裕のある様子である。

「うふふふふふっ!なんとかなる?!私の鳴き声ぇ!?鎖でつなぐぅ!?・・うふっ!うふふふふふふっ!!本当に馬鹿なの?!・・・私があなたたちに今期待してるのは、せいぜい無駄な抵抗して楽しませてちょうだい!ってことよっ!」

紅音はそういうと、性欲と蹂躙欲に歪んだ笑みを浮かべ、銀次郎と金太郎に炎の鎌を振りかぶり、恐るべき速度で躍りかかったのであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ぬぉおおおおおおおおおおおお!」

二人は同じような咆哮を上げ、レスラーがやるように、がっぷりとお互いの両手を組み合わせていた。

言葉通りの純粋な力比べである。

肉体の強さと練り上げられるオーラ量の多寡の鬩ぎあい。

肉体の強さは銅三郎に、オーラの練度は哲司に分があった。

お互いの肉体の強さプラスオーラの量と練度の合計がぶつかり合う。

二人のその合計値は互角。

銅三郎にしても、哲司にしても驚きであった。

「てめぇ・・何もんだ?!」

力比べで自分と太刀打ちできるのは、兄の銀次郎ぐらいしかいないと思っていた銅三郎は、正直驚いていた。

哲司は身長182cmで体重は80㎏を超える。

対する銅三郎は、203cmで体重は150kgを超えていた。

哲司の恵まれた体格をもってしても、銅三郎の巨躯の前には小さく見えてしまうほどだ。

それなのに、哲司を力攻めで押し切れない。

ぱんぱんにパンプアップした肉体を汗で光らせ、頬を伝う汗が顎に達したとき、哲司は無理をして余裕のある顔をつくって、ニヤリと笑い銅三郎の問いにこたえた。

「何者やて?・・俺はな・・正義の味方や!」

哲司のセリフに銅三郎が眉を顰め、何かを言おうとしたとき、銅三郎が哲司を押しつぶそうと全体重をかけていた手ごたえが急になくなる。

がっしゃああああん!

銅三郎は急に前のめりになり、哲司の背面にあったインテリア用の水槽にその巨体を投げつけられたのだ。

哲司は巴投げの要領で、背中を地面につけて銅三郎が押してくる力を利用し、腹部を蹴りながら投げ飛ばしたのだ。

あふれ出る水槽の水で店内はガラスの混じった濁流で満ちる。

「痛たたたた・・・!なんちゅう馬鹿力や!・・っと!こんなやつこれ以上相手にしとる場合やない!麗華を追わんと・・」

哲司は床から跳ね起き店のカウンターに飛び乗ると、銅三郎と握り合っていた自分の両手をぶんぶんと振ってはさすり、ふぅふぅと両手に息を掛けていたが、慌ててカウンターから裏口に飛び込んだ。

びしょ濡れになった銅三郎が、ようやく憤怒の形相で哲司を探しながら立ち上がったが、すでに哲司は走り出した後で、哲司の姿はない。

「どこに行った!逃げるんじゃねえ!」

銅三郎は割れたガラスであちこち出血していたが、それにはかまわずすでに姿の見えない哲司に向かって怒鳴ったのであった。

びしゃびしゃになった店内で、銅三郎が哲司を探していたが、すでに哲司は店前に群がる野次馬たちをかき分け、麗華の車のところへと戻ってきていた。

しかし、肝心の麗華はいないし、麗華の車もない。

哲司が慌ててあたりをぐるりと見まわすと、駐車場の入り口にある壊れた開閉器のところに、複雑な顔をした男の姿があった。

そして、見覚えのある色の衣服を抱えている。

麗華がさっきまで来ていたカーキ色のリブトップだ。

「おい!その服どないしたんや!」

とっさにそう怒鳴ってしまった哲司に、声を掛けられた男は驚いて振り向いたものの、すぐに怒鳴られる理由などないことに気づき訝し気な顔になって言い返した。

「あん?!」

怒鳴られたことへの苛立ちで、駐車場係の顔には哲司に不審と怒りが混ざった表情になっていたが、哲司はかまわず男の両肩に手を置き揺さぶる。

「その服!その服着てた女どないしたんやって聞いてるんや!なんでその服あんたが持っとるんや?麗華は?麗華はどこや?!黒タンクトップ着た胸でっかい女や!その服脱いでるんやったら、めっちゃ谷間が目立ってたはずや!・・・あんた運がええな!」

哲司も焦る気持ちを抑えきれず肩を揺さぶり怒鳴ったが、男が怒鳴り返してきた。

「なにが運がええじゃあ!運は最悪じゃああ!!あんたあの女の連れか?!」

「そうや!」

「じゃああんたが弁償してくれるんだろうな!あれ見てみいや!!運がええどころの話ちがうだろうがよおお!」

「は?」

哲司は間の抜けた声を上げ、ここでようやく目をしばたたかせる。

男が怒鳴って指さした方向には、駐車場入り口に設置してあるポールを開閉させるための装置が、根元から無残に破壊されて横たわり、時折電気の火花をバチバチと光らせていたのだ。

「その麗華ってあんたの連れの女があれをぶっ壊していったんだ。弁償代つってこれだけおいてな!」

駐車場管理人の男はそういうと、哲司の顔の前にぐしゃぐしゃになった1万円札を3枚突き出す。

「え?は?・・あー・・・えっと・・。3万?・・・えっと・・そ、そうなんか・・そりゃ気の毒に・・」

哲司は麗華がここでとった行動がなんとなく想像できてしまったせいで、言葉を失ってあいまいにこたえる。

「そうなんかじゃねえよ!これっぽっちでどうしろっていうんだよ!環状線からは遠いていっても、ようやく自分の商売の土地が持てたばっかりなんだぞ!あんたの女がやらかしたことだ!どうしてくれるんだ!」

駐車場管理人は狼狽えだした哲司の胸倉をつかんで、いきり立つ。

「あ~・・そりゃすまんかったな。俺からもよう言うとくわ・・」

哲司がばつが悪そうに頭を掻きながらそういうと、男はポケットからおもむろに携帯を取り出しプッシュし始めた。

「あ、はい。事件です。ええ、場所は・・」

「わかったー!わかったわかった!わかったから落ち着こう!な?!」

哲司は目の前の男が110番通報したのだとわかると、大声を上げ男のスマホを押さえた。

「大丈夫です!なんかの間違いです!ほな、さいなら!」

哲司は、そう一方的に電話口に向かって言うと、電話を切ってしまう。

「何やってんだあんた!・・・そういうことならやっぱりあんたが支払ってくれるんだろうな?」

管理人がそういったところで、管理人のスマホが鳴り出した。

おそらく110番通報された警察が、不審な電話の切り方を怪しんで掛けなおしてきたのだろう。

電話に出ようとする男を哲司は手で制し、口を一文字にきつく結んで神妙に頷く。

「わ、分かった。俺が弁償する」

そういった哲司に対して、男は胡散臭そうな者でも見るように、哲司をつま先から頭のてっぺんまでじろじろと見つめてからスマホを耳に当てた。

「はい。ええ、すいません。手違いでした・・。ええ・・・。はい。申し訳ありません」

男は警察にそういうと、通話を切りスマホをポケットにしまう。

ため息をつき、哲司のほうに向きなおって男は哲司に慎重な口調で言う。

「・・今更嘘でしたはなしだからな?あんたの連れの車のナンバーは監視カメラに写ってるし、知りませんは通用せんからな」

「わかっとる。・・・せやけど勉強したってや」

頭を下げてそういう哲司に向かって、男は再度ため息をつき、壊れた開閉器を見てもう一度深くため息をついたのであった。

「しばらく商売にならねえよ・・」

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 17話【回想】紅蓮の脅威…そして運の悪い男たち終わり】18話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 18話【回想】 緋村紅音の増長ゆえの失態…そして凪姉さま登場



第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 18話【回想】 緋村紅音の増長ゆえの失態…そして凪姉さま登場


「うふふふふふふっ!楽しませてくれるじゃない!さあさあっ!もっと早く立ち上がらないと死んじゃうわよぉ!?」

フロア中に地勢ダメージを継続的に与える【焼夷】を軽めに展開し、悪魔が持つような邪悪な形にしたような炎の大鎌を、金太郎と銀次郎を二人同時に切り捨てんと横凪に振り回す。

金太郎も銀次郎も寸でのところで、鎌の軌跡から飛びのいて逃れるが、その二人の動きを見て紅音の口角が邪悪に吊り上がった。

避けられなかったとすれば、膝から下を斬り飛ばしてしまう一閃、だが避けたとしても想定済みという表情。

どちらにしても楽しめるという歪んだ笑顔。

紅音が振るった大鎌の軌跡のあとを追うように、空間が捩じれ豪風を巻き起こしながら炎が濁流となり二人を襲う。

【獄炎】

炎の大鎌を躱し態勢を崩した金太郎と銀次郎に、風を孕んだ炎の奔流が襲う。

タイミング、速度、術の範囲のすべてが到底躱せるようなものではない。

「ぐおぉおおおお!」

「ぐうぅ!」

二人の身体中を舐り尽くすように舞う炎から、金太郎と銀次郎は、目などの急所だけは守るように顔を覆って苦悶の声を発しながら炎をやり過ごす。

「どうしたの?!どうしたのよう!?動きが悪くなってきてるわよ!うふふふふっ!」

性的興奮からはぁはぁと息を乱した紅音が笑い、内股で脚を擦りながら、立ち上がろうとしている二人にゆっくりと距離を詰める。

圧倒的な火力の前に、焦燥に満ちた金太郎と銀次郎の表情を交互に見た紅音は、二人が凝視している前で、彼らの表情で感極まり、顎を突き出して、濁った目を潤ませ、腰を震わせてた。

「あくぅ・・うぅ・・はぁはぁ・・んんんぅ・・・はぁはぁ」

紅音は軽くイッたのである。

紅音のその異常すぎる様子に、二人は一瞬だけ瞠目していたが金太郎はすぐに我に返った。

「おい銀次郎!錫四郎はどうした?!一緒じゃねえのか?!」

「すまねえ!仕事に行かせてる・・!こっちに来させるには時間がかかる!」

銀次郎の答えに金太郎は眉間に皺を寄せ、渋い顔をしたが、銀次郎の方こそ金太郎に聞いてきた。

「銅三郎は一緒に来てたんじゃねえんですか?!」

「店には来てる!俺と一緒にきたからな!そのうち騒ぎに気付いて駆けつけてくるはずだ」

「はやく来てもらいたいもんだぜ・・!」

銀次郎は絶頂の余韻に浸っている紅音を眺めながら、顎を滴り落ちかけた汗を拭って言う。

「・・はぁはぁ・・。うふっ!・・・あなたたちぐらいのが何人こようと大勢に影響しないけど、途中参加は大歓迎よ。うふふっ!はぁはぁ・・!呼びなさいよ!まとめて灰にしたほうが探す手間が省けるわ!」

紅音は絶頂であふれた愛液が、内ももを伝うぬめった感触を両内ももで感じていた。

「ほらぁ!さっさと呼びなさいよ!」

紅音はそう言うと左手を払って、二人を仕留めるつもりはない程度の火力の炎で煽る。

金太郎も銀次郎も、紅音の言葉どおりにそれぞれスマホを取り出し操作しだした。

「うふふふっ!情けないわねぇ!自分たちが敵わないからって・・ねえ?!でも、いいわ!楽しみが増えるだけよ!」

紅音は二人の様子を揶揄いながらも、スマホの操作ができる程度に火力と攻撃速度を落としてやる。

「舐めやがって!変態女が!」

銀次郎が炎と鎌を躱しながら、歯ぎしりして紅音を睨むが紅音にとって、今その表情は性的興奮を増大させるオカズにしかならない。

「あはぁ!・・ふぅふぅ!・・アンタみたいな大男が・・はぁん!・・そんな悔しそうな顔で・・!くぅうう!勝てると思ってた?!私に勝てると思ってたのぉ!?ダメだったでしょ?!ダメそうでしょ?!・・・興奮しちゃうじゃないのよっ!!あうっ!!!!」

紅音は腰をガクンと震わせ、両ひざから崩れかけて何とか堪える。

2度目は1度目より随分深く達したようである。

俯き加減で、赤い前髪を垂らして表情は見えないが、紅音の可愛らしい唇から涎が垂れているのが見える。

「一人が100だとすると、二人なら200だ」

唐突なセリフに、紅音は絶頂の余韻で濁りはてた目を薄く開き、前髪を指でどかせて声を発した金太郎を見やる。

「はぁ?・・・何言ってんのよ」

紅音は訳の分からないセリフに対し、にやりと笑ってそう言うと、ゆらりと鎌を構えた。

「言葉通りだ。だが三人なら400になる。・・・4人なら800だがな。たいしたもんだぜ・・・。緋村紅音、お前はたった一人でも300ぐらいだろうよ。本当にたいした玉だ・・。だからこそ今からどんな声で鳴くのか楽しみだ」

意味不明な金太郎のセリフを聞いていた紅音だったが、途中から濁った目に冷静さを取り戻しだしていた。

「何、言ってるの・・?」

紅音が再びそう聞いたとき、金太郎と銀次郎がニヤリと邪悪に歪んだ。

「兄貴たち!待たせちまってすまねえ!」

紅音がその声に振り返ると、そこにはホールの入口には銀次郎にそっくりな顔の大男がこちらに向かってそう怒鳴っていたのだ。

「銀次郎!」

「応!」

紅音の背後で金太郎と銀次郎の声が響いた。

紅音が振り返りざま大鎌を一閃させるが、それを銀次郎が左手で防いだのだ。

「えっ!!?」

銀次郎に防げるはずのない威力を込めた一撃を防がれたことに、紅音は驚きの声を上げてしまう。

紅音の思考回路が乱れると同時に、腹部に速く重い一撃が叩き込まれた。

「ぐ!?」

金太郎のボディブローをもろに喰らって吹き飛ばされる。

(あいつの攻撃力で、私を飛ばせるはずなんてないはず・・・?!)

しかし、防御オーラを貫通し内臓が悲鳴を上げているのは紛れもない。

そして、殴られたダメージと金太郎の能力発動阻害をゼロ距離で喰らったため、銀次郎が防いでいた炎の大鎌が霧散し消え失せてしまう。

床に着地したものの、勢いを殺しきれず転がった紅音は、フロアに入ってきた銅三郎にサッカーボールを蹴るように、銀次郎のほうへと蹴り飛ばされた。

どがっ!

「きゃっ!?」

紅音は蹴られながらも空中で態勢を立て直し、何故にこうも奴らの動きが速くなり、攻撃力も上がった理由を必死で考える。

「ぐっ!?」

銅三郎にシュートされた紅音は、訳も分からないうちに銀次郎にガッチリとキャッチされてしまい、両腕を背後に回され、首に丸太のような太い腕を巻かれて、拘束されたのだ。

足が地面に届かない。

封じられた腕も、びくとも動かすことができない。

「ば・・ばかな!なんで?!どうしてっ?!」

狼狽し、疑問を口にして背後の銀次郎を振り解こうとするが、全開で肉体強化をし、炎を纏った両手で銀次郎の腕を掴み剝がそうとするも、銀次郎の巨椀はびくともしない。

「へへへへへっ。こうなったらもう無駄だってもんだぜ緋村ぁ」

耳のすぐそばで銀次郎の声が響く。

紅音が何か言い返そうとしたときに、正面には金太郎が拳を振り上げていた。

「お仕置きの時間だぜ?」

金太郎はそう言うと、紅音の腹部を両手で滅多打ちにしだしたのだ。

「がはっ!?うっ!なっ!?・・・きゃっ!い・・!いやっ!・・・なんで!っああっ!!」

先ほどまで対峙していた時より、明らかに金太郎も銀次郎も強い。

「おらおらおら!まだまだ全力じゃねえんだぞ!」

どすっどすっどすっ!

銀次郎という巨漢にガッチリと羽交い絞めされた紅音は、金太郎のラッシュで腹を殴られ続ける。

「ごほっ!がっ!!?・・あっ!ぐう!」

躱すことも防ぐこともできず、腹部にオーラを集中させて防御するも、金太郎の拳は重すぎる。

これ以上喰らい続けると気を失ってしまう。

「調子に・・っ!のるなっ!」

紅音はそう言うと、金太郎の顎を蹴り砕こうと足を振り上げた。

しかし、その足は銀次郎によって背後から掴まれてしまう。

「くっ・・くそっ!・・なんで?!どうして!!?なんでこんなに?!さっきと全然違うじゃない!死にかけてまで手を抜いてたって言いうの?!」

紅音は両手首を銀次郎に背面で掴まれ、そして、両足首も銀次郎の片手で掴まれてしまったのだ。

「訳も分からず喚いてやがる・・・。それにしても兄貴たちずいぶん危なかったんだな」

近づいてきた3人目の男がそう言って近づいてくる。

銀次郎とそっくりな顔だが、髪型が少し違うしこちらは眼鏡をかけていない。

「日頃から念のためにできるだけ二人で行動してるってのに、まさかこんなヤツがいるなんて思わなかったもんだからな。助かったぜ銅三郎」

金太郎がそう労うと、銅三郎は怪異な双眸を光らせ笑顔で兄に頷いた。

「さっきムカつく奴がいてよう。・・こいつってそいつの仲間なんじゃねえのかって思うんだよな」

銅三郎が羽交い絞めされた紅音の目の前まで近づいて、紅音の顔を、女としての価値を鑑定するように好色な目で眺めまわす。

「ぺっ!」

銅三郎の顔に紅音がツバを吐いたのだ。

紅音は強がりながらも、ほとんど身じろぎができないため顔は強張っている。

銅三郎はポケットから取り出したハンカチで顔を拭くと、にんまりと不気味に笑った。

そして、おもむろに紅音のドレスの胸元を掴むと、下に引き破る。

「きゃああああ!」

悲鳴を上げながらも、自分の防げる範囲ギリギリの炎を周りに舞わせ、銀次郎と銅三郎を焼き尽くそうとするが、2人は苦悶の表情にはなるものの、期待するダメージを与えるほどではない。

2人は紅音の炎に耐えているのだ。

「ど・・どうして!?この炎に耐えられるはずない!私でもこれ以上は耐えられないのよっ?!」

紅音の正面にいる銅三郎は紅音の問いかけには答えず、銀次郎に声を掛けた。

「銀兄、ずいぶんやられちまってるようだし、ここは銀兄に譲るぜ」

銅三郎はそう言うと、銀次郎とポジションを変わるよう紅音の背後に回り込み、同じように紅音の腕と足を鷲掴みにしてしまった。

銀次郎は悪いなと銅三郎に言うと、紅音の正面に立ち無防備になった紅音の胸元に手の平を置く。

「な・・何するつもりよ!・・3人がかりじゃないと勝てないだなんて情けない奴らね!」

「さっきお前遠慮なく呼べって言ってただろうが」

銀次郎はそう答えると、紅音の胸を撫ぜそのまま腹部へと滑らし、破れたドレスのスカート部分へと指を這わす。

にちゃりと指先で湿り気を確認した銀次郎は、好色に口元を緩ませて紅音を見やる。

「・・くっ・・くぅ・・やめろ!やめろよ!ぐはっ!?」

紅音は全力で肉体強化をし、炎も自分の周囲に舞わせて抗うが、金太郎に腹部を強打される。

「ごほっ!ほごっ!・・・てめえ!」

殴ってきた金太郎をギロリと睨み、再び能力を発動しようとしたところで再度腹部に拳が叩き込まれた。

「がはっ!」

「抵抗したり炎を出そうとしたら、何発でもくれてやるぞ?」

ごほごほと咽る紅音を見下しながら、金太郎は勝ち誇った口調で言う。

銀次郎に下着を掴まれ、引きちぎられる。

「あっ!・・・や・・やめろぉ」

「へっ、さっきは人前で平気で逝きまくってた癖に、今度は恥ずかしいのか?」

露わになった秘部を銀次郎の巨大な指がぬるりぬるりと撫でまわす。

「あくっ!やめろっつってんだろぉ!・・がふっ!!!」

炎を出しかけたところで金太郎に殴られ解除させられる。

「へへへへへっ」

下卑た笑いが耳元で聞こえその声で息が耳にかかる。

羽交い絞めにしている銅三郎が嘲笑ったのだ。

紅音の自信に満ちていた心が、少しずつ根元から揺らぎ始める。

銀次郎の3cmはある人差し指が入口にあてがわれた。

「やめろっ!ごほっ!!?」

とっさに肉体を強化し、炎を放ちかけたところでまたもや腹部に強烈な一撃をもらい、金太郎の能力で炎の発現と、肉体強化が解除される。

羽交い絞めされた身体は、銅三郎によって腹部が殴られやすいよう、膣も突き出すような恰好で犯されやすいよう、紅音の臀部を猛烈な力で前方へと押されている。

殴られた衝撃で身体をくの形に縮めようとしても、お尻と腰を猛烈な力で後ろから押され突き出さされてしまう。

紅音の肉体強化では抵抗できない。

さあどうぞお腹を殴ってください。マンコも甚振ってくださいという恰好だ。

先ほどまで身体を焼いていた性欲とは違う種類の炎がちろちろと紅音の身体を蝕みだす。

紅音は蹂躙欲で興奮できてしまう。

する方でもされる方でもだ。

銀次郎は紅音の赤い恥毛をひとしきり撫で、指でつまんで引き抜く。

「痛っ!」

恥毛を毟られるという屈辱で、銀次郎を睨み付けるが、すぐにあてがわれた3cmはある人差し指が一気に突き込まれる。

「あうっ!」

恥毛を引き抜かれたことを抗議するどころか、下手な男の一物よりも大きな銀次郎の人差し指であっけなく果てるさまを見せびらかせてしまう。

「へへへへっ、まだまだ何回でも甚振ってやるぜ」

銀次郎は、逝き果てた紅音の膣内をねっぷりと甚振ってから、愛液で濡れた人差し指をゆっくり引き抜く。

そして、今度は中指をあてがった。

「俺一人で11人分味わえるからよ。たっぷり楽しめや」

「やめっ!おふっ?!んんんんんぅ!!」

銀次郎の中指が突っ込まれ絶頂に一気に押し上げられた瞬間、金太郎に腹を殴られ、口には銅三郎の太い指が突っ込まれたのだ。

殴られた腹部がなぜか痛みより甘い疼きが広がってくる。

口に突っ込まれた銅三郎の指を噛み切ろうと力を込めるが、肉体強化も満足にさせてもらえないうえ、銅三郎の指は硬化していてとても噛み切れない。

(なんなのこれぇ)

そして子宮の中から広がってくる甘美な疼きに、紅音は白い腹を捩じらせて身もだえる。

「【淫紋】が効いてき出したな」

【淫紋】とは下腹部表面に呪詛を貼り付ける技能で、施された女は感度が上がってしまうという下卑た技能だ。

10年後、紅音はOnaholeと下腹部にタトゥーを彫られてしまうことになるのだが、それも【淫紋】の一種である。

金太郎の【淫紋】は、錫四郎の【淫紋】と重ね掛けることによって、通常の【淫紋】よりはるかに強い効果を発動させられる。

子宮口に届く一撃を受ければ、問答無用で深く絶頂させられる凶悪な呪詛である。

子宮口に届くものであれば、なんでもいい。

男根だろうがバイブだろうが指だろうがである。

一突き目の挿入でも激しく身体を痙攣させてイキ果てるのだ。

そして二突き目でも、同様である。

すなわちどんな短小な男でも、自信を付けることができるSEX練習用サンドバック女にされてしまうのだ。

そして、【淫紋】呪詛を貼り付けられた女は、銀次郎と銅三郎の手の指全てで逝かされてしまうと、呪詛を解除することができなくなる。

おまけに【淫紋】は絶えず発情させる効果もあるので、一突きされれば逝ってしまう、SEXすると男が果てる前に百回以上逝かされて白目をむき、粗相をしてしまうとわかっていても男を求めてしまうのである。

「これが定着した女は言いなりだ」

金太郎のセリフに、銀次郎も銅三郎もにやりと下卑た表情で頷き合った。

緑園4兄弟は獲物となった女を、兄弟全員で壊れるまで輪姦するのが緑園流である。

特に銀次郎と銅三郎は、3cm以上の太さで15cm以上の長さがある手の指全てを使い、女を嬲り尽くすのだ。

4人に輪姦されるだけでも大変だが、銀次郎と銅三郎の二人だけで22人分はある計算になる。

そのうえ全ての指で女を絶頂させると、金太郎の付与した【淫紋】がその女に定着し、常に発情した牝状態になった挙句、4兄弟の命令を断ることができない奴隷となってしまうのだ。

「錫四郎がいねえから完全な【淫紋】にならねえが、とりあえず銀次郎と銅三郎、20回逝かせちまいな。錫四郎には後でやらせよう。20回っつてもこいつ勝手に欲情してたからすぐに終わりそうだな」

「ああっ!くぅうう!!また・・っ!あああっ!」

銀次郎は紅音が達したことを、指が締め付けられる感触で確認し、逝かせたGスポットを甚振るようにしつこく擦り倒してから、ゆっくり右手の小指を引き抜いた。

「次は左手だ。緋村、おまえさん俺の条件をすんなり飲んでた方がよかっただろ?兄弟全員のオモチャにされるより、俺の女になったほうが楽だったんだぜ?」

右手のすべての指を終わらせた銀次郎はそういうと、左手の親指を紅音の秘部にあてがう。

不自由な恰好で縛められ、すでに5回、自分で逝ったのも入れれば7回逝った紅音は首をいやいやと振って涙をこぼす。

金太郎に殴られたり、撫でられる腹部からは絶え間なく疼きが送り込まれ、何度逝っても渇くことがない。

次の順番を待っている銅三郎も、次はこの指を使うんだぞと知らしめるように、紅音の口をすべての指で次々と犯してくる。

(こんな奴らに・・・いいようにやられて終わり・・・なの?この私が・・・?)

絶頂を送り込まれ続け、朦朧とする紅音に銀次郎が顔を近づけて囁く。

「お前が依頼した女は、クスリも使うからもっとひでえことになる予定だったんだぜ?ばっちり撮影もして、人生も頭も壊しちまうんだよ。お前はここで暴れまわったから、すぐにはそうできねえが、後でお前に陥れられる予定だった女と同じことをしてやるぜ」

銀次郎の親指で絶頂させられ、身体をひきつらせビクビクと痙攣する紅音の脳裏に、七光りと呼ぶ佐恵子の顔が浮かんだ。

(こ・・こんなの・・私がこんな目に合うなんて・・。七光りがこんな目に合うはずだった・・の?)

気に入らない、目の上のたんこぶ、一族の娘というだけで、厚遇されているから思い知らせてやりたい。

レイプでもされればいい。

そう思っていた。

だが実際にこの身でそれを受けると、こんな惨めな気持ちになるということが、実感できてしまう。

(ここまでのこと・・・される謂れはないわ・・七光りといえども・・)

口に突っ込まれた指で、悲鳴も上げられず、拘束されているせいで涙も拭えない。

逝くと同時に、嬲るように腹部を殴ってくる。

殴られているのに、それですら逝き果てさせられる。

これも何かの能力なのだろう。

殴られて逝くのは、想像以上に屈辱だ。

そして、男根ではなく指などで果てさせられるということも屈辱である。

しかも、これを記録に納めながらされるなど、耐えられない。

そのうえことが完遂されれば、こいつらの奴隷の身分になってしまったうえ、発情しっぱなしなんて。

発情のレベルがどんなものかわからないが、今腹から送り込まれてくる淫らな波長が常にある状態なのだろうか。

狂ってしまう。

(・・・なんにも知らない佐恵子にこんなことを計画した報い・・・なわけ・・?)

銀次郎が最後の指をあてがってきたとき、紅音はらしくもなく後悔し出していた。

銀次郎が左手の小指の動きを速めだす。

(ダメ・・・我慢できない。逝く!)

ぶぅん!!

「ぐああああああああ?!」

紅音が不自由な弓なりの格好で拘束されたまま、諦めて絶頂を受け入れた時、部屋に空気を切り裂くような轟音が響き、銀次郎が苦悶に満ちた大声を上げる。

「な、なんだ?!ぐっ!?」

「がふっ!?おごっ!?」

腹部を白い何かで強打された金太郎、同じく白い何かで顎を打ち上げられて銅三郎はもんどりうって倒れた。

大声を上げた銀次郎は、背中のジャケットごと線状に複数破れ、そこから血潮が噴出し、両手で背中のキズを抑えようとしていたが、ほどなくして動かなくなっていく。

「・・・なぜ?」

フロアの入口に立った白く細い人影が、か細い声でそう言い首を傾げていた。

「なんだお前は?!どうやって?誰が何で攻撃したんだ?!今のはお前がやったのか?!」

膝立ちながらも態勢を立て直した金太郎が大声で誰何するが、白い人影は応える気はないらしい。

緑園兄弟の最大の能力は、【叢狩】という能力である。

血を分けた兄弟が揃えば、致命的な弱点を発生させてしまうものの、爆発的な能力の向上が見込める技能である。

個々として非常に強い力を持つ緑園4兄弟であるが、4人揃うと更に手に負えなくなるのだ。

女を嬲っていたため、油断もあった。

先ほど【叢狩】の効果がなかった銀次郎は仕方ないにしても、効果のあった金太郎と銅三郎にダメージを与えてきたことに金太郎は戦慄したのだ。

両手の指先を身体の前で揃えた白ずくめの女は、傾げていた首を戻すと足音もなく楚々と近づいてくる。

白い細身のロングワンピース。肌も服と同じくらい白く、靴も白だ。

胸元まで垂らしたストレートの髪も白く、近づいてきてわかったことだが、本人はかなり気にしている毛深めの睫毛すら白い。

吹けば飛ぶような細さ、抱きしめれば折れてしまいそうな腰、ワンピース越しでもわかるスレンダーでスラリとした体形。

憂いを含んだ清楚な顔立ちには感情が認められず、そこから何も読み取れない。

そして、そんな真っ白な女の目は翠色に光っていた。

金太郎と銅三郎はその得体のしれない不気味さに後退りしたが、紅音は近づいてくるモノの正体をもちろん知っている。

紅音にとって味方とも言い難い人物だと思っているが、敵ではない。

紅音は引きちぎられ床に落ちていた衣服を両手で拾い、裸体を隠して呟いた。

「・・蜘蛛。どうしてここに?」

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 18話【回想】 緋村紅音の増長ゆえの失態…そして凪姉さま登場 終わり】19話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 19話【回想】紅蓮と蜘蛛

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 19話【回想】紅蓮と蜘蛛

白ずくめの女が紅音の傍まで歩き進むのを金太郎と銅三郎も止められずに、ただ黙ってみていた。

おそらく先ほどの攻撃はこの女によるものなのは確実だが、どんな攻撃を受けたのか皆目見当がつかなかったからだ。

金太郎と銅三郎は殴打によるダメージだが、倒れて呻く銀次郎の背中の裂傷は明らかに切傷である。

凪の儚さのある美貌と、真っ白い姿、光る碧眼も相まって、金太郎と銅三郎の二人は、警戒からとりあえず様子を見ることにし、手を出さずにいるのである。

「・・無事?」

そんななか、蜘蛛と呼ばれる白ずくめの女最上凪は、紅音のすぐそばまで近寄ると、床に座り込んだ紅音に問いかけた。

紅音は凪のその問いには答えず立ち上がり、破れた衣服を身体に巻き付けて腋の下で括り付けている。

紅音は破れた服でなんとか胸を隠したが、形のいいCカップの乳房のほとんどは露出してしまっており、乳房がなんとか隠れている程度でしかない。

「佐恵子はどこ?」

そんなあられもない恰好をなんとか取り繕った紅音の様子などお構いなしで、凪は静かにもう一度聞く。

「糸・・切れた。さっきまで繋がっていた」

紅音のこたえるのを待たず凪は再び静かに口を開いた。

声量も声色も穏やかに聞こえるが、実は凪がここまで言葉をつづけるのは珍しい。

光った眼光が表すのは発しているオーラ量が多いため。

凪の感情は明らかに高ぶっているのだ。

紅音はそこまで聞いて、凪の心情とこの場に現れた理由に察しが付き、表情を隠すように口元を拭う。

「・・さあね。ここにはいないみたいよ」

目を逸らし、きまりが悪そうに言う紅音の口調と表情に、凪は無表情ながら眉間にやや皺を寄せる。

「・・そう」

凪は紅音の返答に対し、少し間をおいて無表情でそう静かに呟いたのだ。

(糸を佐恵子に付けて見張ってた・・・?蜘蛛の能力は糸って言われてるわね・・・。迂闊・・・気づかなかったわ・・糸なんて見えなかった・・いつからなの?・・・じゃあ私の企みにも気づいてた・・?もしかして私を粛正するためにきたってこと・・?)

紅音は凪の無表情から読み取ろうと探るように見て、身体で隠した後ろ手で指先にいつでも炎を出せるようにオーラを集める。

凪は、そんな紅音の様子に興味はなさそうで、細く白い指先を顎に当て、少しだけ思案しているような素振りである。

だが次の瞬間、凪は紅音に向ってふいにその手を紅音に向けた。

殺気もオーラを練る予備動作もないが、その手の平には膨大な量のオーラが纏っている。

警戒していたのも関わらず、完全に不意を付かれたことに紅音は慌てた。

「くっ!?」

(問答無用ってわけ?!コイツの能力は糸の形状を変えることで斬撃や殴打になるはず!でも所詮は糸による単純な物理攻撃でしょ!焼き尽くしてやるわ!!)

凪の能力と強さを噂では知っている紅音は流石の反応速度であった。

負傷し、先ほどから何度も絶頂したというのに、術式の展開は凪の能力の発動と同時だ。

迫りくるであろう数えきれない糸の束を焼き尽くさんと炎を前面に発現させる。

だが、凪の能力は予想しない方向から文字通り降り注いできた。

大量に・・。

ばしゃあああ!!!

凪は、淡い緑色の液体を紅音の頭上で大きな水滴の形状で発生させたのだ。

じゅう!と派手に鎮火する音がし、炎によって半分以上蒸発させられた緑色の液体がもうもうと気体になる。

そしてその液体が異様な臭いを発しながらも、蒸発させきれなかった高温液となった半分ほどが紅音に降り注いでしまったのだ。

「きゃああああ?!熱っ!!?熱っつ!?」

紅音は突然頭上から降り注いだ得体のしれない液体で、全身びしょびしょの濡れネズミにされてしまったのだ。

紅音は拳を振り上げ八重歯をむき出しにして凪をぎらりと睨みつける。

それに対し凪は、やや驚いた表情で紅音を見て口を開いた。

「何してる」

「それはっ!こっちのセリフでしょうがっ!」

凪のセリフに間髪入れずそう反応した紅音は、こめかみに血管を露わに激昂し、凪に掴みかかりかけたものの、金太郎に殴られていた腹部の痛みがかなり和らいでいることに気づく。

「・・え?・・あれ?・・これは・・?」

凪が発現させたのは、凪が能力で生成した液状の薬だったのだ。

紅音はそうとは知らず、薬を煮沸し、半分以上蒸発させたうえ残りの薬液を熱湯に変えて浴びてしまったのだ。

紅音がエデンにいるのはやましいところがあったので、佐恵子の教育係の凪から攻撃を受けると思ってしまった。

紅音の複雑な表情とは違い、凪は紅音が薬液を燃やそうとしたことに対して無表情である。

しかし、紅音には見える。

いや、紅音の完全な思い込みの勘違いなのだが・・。

紅音にとって凪の顔は「せっかく治療してやろうとしたのに、なにやってるんだコイツ?」という表情に見えてしまっているのだ。

凪は純粋な気持ちで、宮コーに入社予定の特待生を治療しただけである。

(しかし、コイツって糸だけじゃなく治療薬も発現させられるの・・?)

紅音は怒りつつも凪の治療能力に、警戒を強めて感嘆する。

凪は紅音の2歳年上という若さで、すでに宮川コーポレーション宮川昭仁社長の秘書主任を務めている。

秘書主任という立場故に、幼少期より特待生として宮コーから教育支援を受け、来春入社予定の緋村紅音のことも当然知っていたのであった。

ただ、凪が紅音を知っているほど、紅音は凪のことについて詳しくは知らない。

紅音は最上凪という秘書主任がいるとは知っていたし、社長と一緒にいるのを見たことはあった。

しかし、凪がビジネスパーソンではなく純粋な護衛要員であり、言葉数が少ないポンコツコミュ障だとは知りようがなかったのである。

最上凪が凄腕能力者で社長のボディガードにいるということだけは噂で知っていたし、社長のそばに楚々と影のように立っている姿も見たことはあった。

凄腕といっても、どうせ私に適うはずもない程度の者だろうとタカをくくっていた蜘蛛こと最上凪が、予期せずこの場に突然現れたのだ。

能力者である凪に言葉もなく、いきなり目の前で術を発動されたら警戒されても仕方ない。

味方を治療しようとしたとはいえ、凪の言葉が足りないのも悪い。

いっぽう、紅音は佐恵子を陥れようとしてたやましさがあり、それゆえに凪から攻撃されると早とちりしてしまっての行動である。

「治療するなら治療するって先に言いなさいよ!」

濡れた髪を手で拭いながら怒鳴る紅音に対し、凪は相変わらずの無表情のまま、今度は紅音に指先を向ける。

しかし今度は無言でオーラを収束させた指を突き付けてきた凪の行動に、再び紅音はビクンと反応して身構えた。

破れて肌の露出が多くなった紅音の胸元に、凪はまたもや一言の断りもなく、糸を巻き付けだしたのだ。

「だ~か~ら!いきなりやるなつってんでしょうがっ!」

巻き付けてくる糸を、とっさに発現させた炎で焼いてしまった紅音が凪に食って掛かって怒鳴る。

「見せていたい・・?」

凪は同じ女として、かろうじて乳房が隠れているだけの紅音の胸元を不憫に思ったゆえの行動であったのだが、紅音に猛烈に拒絶されたことに対し、ためらいがちに信じられないという表情で首を傾げてそう言ったのだ。

紅音は凪に向かって、怒りで顔を赤く染めて怒鳴り返す。

「そんな訳ないでしょうが!先に言えつってんの!なんにも説明されずにいきなり指先突き付けられて、こんな至近距離で能力発動されたら誰だって警戒するわよ!わかんないのっ?!」

「わからない」

真っ赤な顔の紅音とは対照的に真っ白い顔のままの凪は、小首をかしげ、ためらいがちに呟いた。

凪が銀次郎に深手を負わせ、いまから緑園兄弟の3人を相手に戦うのだが、将来紅蓮とよばれる緋村紅音と、蜘蛛こと最上凪は阿吽も斯くやという抜群の相性ぶりを三兄弟に見せつけだしたのである。

「なんだ・・あいつは?緋村の仲間じゃないのか・・?」

「それより銀次郎!大丈夫か?ずいぶん深くやられたな・・今治療してやる」

金太郎と銅三郎は、銀次郎を介抱しながらも、紅音と突然現れた白ずくめの女とのやり取りをチラチラと警戒している。

「はぁああ?!だから~!目の前で急に術を発動されたら誰だって警戒するって言ってんの!」

「五月蠅い。本当に佐恵子みてない?糸はこの建物内で切れた」

紅音の言葉に、一見物静かに見える凪が無表情ながらも紅音に再び質問しかえす。

「うるさいですって?!あんたねえ少しばかり先に会社に入ってるからって、この私に大きな態度とらないでよね!?」

凪は一見物静かに見える。

楚々とした風貌の深窓の令嬢に見えるだろう。

「佐恵子の保護が最優先。緋村を助けたのはついで。知らないなら話すことない。だから五月蠅いと言った」

鼻先まで詰め寄った紅音に対し、凪は表情を変えずそう言いきったのだ。

一見楚々と見えても、凪はかなり苛立っている。

凪がそれだけしゃべるのは、感情が高ぶっている証拠なのだが、紅音にとってはそんなことなどどうでもよく、「ついでに助けた」と言われたのが、高いブライドを激しく傷つけたのだ。

「ついでに助けたですって?!この私を?!」

「そう。相手は3人。苦戦してもしょうがない。恥じることはない。さっきの凌辱も誰にも話さない。安心する」

「なっ!・・なんですってえぇ!」

食って掛かりかけた紅音の反論の怒号を完全に無視して、凪は両手をかざす。

瞬間、目に見えないきらめきが、部屋の空間全てで照明の光と、スプリンクラーから噴射される水しぶきを弾いた。

緑園兄弟を中心にして、そのきらめきの一つ一つが空気を切り裂く唸りを上げ収束したのだ。

ぎしいいぃい!!

「ぐああああ!」

目に見えない細さの糸が幾万本と集まり、3兄弟を締め上げだす。

見えないほどの細さと言えども、集まらば見える。

白銀色に輝く糸の束ががっちりと3人を捉えているのが。

「拘束」

凪は目を翠色に輝かせ、腕を交差し、白く細い指の先端から出ているであろう糸を手繰ってそう言った。

3兄弟の動きを完全に封じ、地面に糸で伏せかけた瞬間、業火が3人に向かって迸る。

ごああああああああああ!

「くそったれ兄弟が焼き殺してやる!」

紅音が咆哮と同時に、両手から火柱を発射させたのだ。

動けなくなった3兄弟を見て好機を悟った紅音の行動は早い。

しかし、炎が火柱となって進むにつれ、ぶちぶちと部屋中に奇怪な音がこだまし、3兄弟を縛めていた糸が緩みだす。

「止す」

凪が紅音にそう言うが、紅音がやめるはずがない。

凪の糸が紅音の炎の温度に耐え切れず、焼き切れていっているのだ。

拘束しきった緑園3兄弟をそのまま業火が包み込んでしまえれば問題なかったのだが、3人とも辛くも紅音の炎の放射線状から脱する。

「死ぬかと思ったぜ!」

「金兄!この糸も無力化できねえんですか?!」

「多すぎて無理だ!」

中途半端に糸に絡まった状態の3人が、スプリンクラーで水浸しになった床に這ったまま糸まみれで言う。

紅音の炎で凪の糸から分断された糸には、凪の力は及ばないようで、3兄弟は絡まった糸を手で引きちぎり剝いでいく。

一度は捕らえた3兄弟が再び自由を取り戻しかけたのを見た凪は、そうはさせじと能力を再び発動させる。

同時に、紅音も3兄弟を焼き尽くさんと能力を発動させた。

「【八重鎖網緊糸縛】」

「死ね!【紅蓮火柱】!!」

凪が発した膨大な量の糸と、紅音の発した深紅の炎が3兄弟に迸り、空中で接触してお互いに相殺し合う。

バチバチとけたたましく爆ぜる音を発しながら、糸が焼き切られ、糸に纏うオーラが紅音の炎の勢いを猛烈に劣化させる。

お互いの能力が阻害し合っているのだ。

「邪魔」

「アンタがやめろっての!!」

「殺したら聞けない」

「こいつら何も知らないわよ!」

「なぜ言い切れる」

「うっさいわね!知らないわよ!」

「・・少し静かにする」

3兄弟に向かってお互いに能力を放出していた二人が、言い争いだしたが、見た目ほど気の長くない凪が先に紅音に仕掛けたのだ。

横にいる紅音に向って、左手の人差し指と薬指を器用に操り、糸を飛ばしたのである。

紅音が両手を突き出した格好で、【紅蓮火柱】を発していたのだが、片手が不意に空中に引っ張られる。

その為、火柱の軌道が大幅に反れ、荒れ狂う炎となって部屋中を駆け巡りだした。

「ちょっ!?なにやってんのよおお!!?」

「さっさと能力を解除する」

「あんたが解除しなさいよっ!」

「強情」

「危ないから!早く解除しなさいってば!私たちに当たるでしょおぉお!?この火柱の熱はシャレにならないから!!」

片手だけで【紅蓮火柱】を発射し、制御不能となった紅音が慌てた様子で言っているが、慌てたいのは3兄弟の方であろう。

「ぐあああああ!」

「あ、兄貴ぃ!!」

予測不能となった火柱が、部屋中を荒れ狂い、3兄弟を無軌道に炙り出したのだ。

そして暴れ狂う炎の奔流が、部屋中を破壊し焼き尽くし、当の紅音本人も術の発射反動で身体を翻弄されているのだ。

制御不能となった炎に巻かれ、3兄弟が悲鳴を上げる中、凪は炎が3兄弟を焼き殺してしまわないように糸を飛ばしながら、紅音に絡めた糸を剥ごうとするも、紅音が暴れまくるので上手くいかない。

「じっとする!」

ついに凪にしては大きな声を出した。

「無理だってば!」

右手を完全に背中側に回され糸で拘束されたままの紅音が、左手から発する【紅蓮火柱】を制御しきれずにぐるぐる回って、部屋中に火炎放射してしまっている。

「・・・ここはなんていう地獄ですか?・・・阿鼻叫喚地獄でしょうか?・・」

凪に遅れて到着した加奈子は、この有様をホールの入口から見て呆然と呟いたのだった。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 19話【回想】紅蓮と蜘蛛終わり】20話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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