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第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 16話【回想】 麗華VS誘拐犯 紅音VS銀次郎&金太郎

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 16話【回想】 華VS誘拐犯 紅音VS銀次郎&金太郎

麗華は、従業員のみが通る通用口らしき廊下を感に頼って駆けていた。

火災報知機による警報で、避難しようとしている店のスタッフらしきものと幾人もすれ違う。

明らかに従業員ではなさそうな麗華を不審そうに一瞥する者もいたが、ほとんどのものは避難するために慌てた様子で麗華にかまってくる者はいない。

麗華は、視力、聴力、嗅覚を強化し周囲を注意深く見まわしながら奥へと進んでいた。

しかし、いまだに何の手掛かりもない。

先ほど銅三郎なる巨漢に足を掴まれて足止めをくらったおかげで、思いのほか引き離されてしまったのだろうか。

見失ってしまったのかもとじわじわと焦る気持ちがわいてくる。

警報の大音量と逃げ出そうとしているスタッフの騒乱が麗華の気を散らせてもいた。

おまけに店の中は思いのほか広く、いま自分が向いている方角すらわからない。

麗華は今回の潜入に際して『エデン』を調査してはいたが、見取図は手に入らなかったのだ。

もう少し時間を掛けて調査をしていれば、という思いが麗華の焦燥に拍車をかける。

ここまで通ってきた通路や部屋を急ぎながらも手抜かりなく見回ってきたはずだが、やはり手掛かりはなかった。

「どこに行ったのよう!」

麗華が焦慮で気色ばんだ声でそう独り言ちたとき、わずかな空気の流れが感じられた。

麗華は自分の直感を信じ、照明が明るく、天井の高そうなホールらしい空間を前方に認めると、麗華はとりあえずそこへ駆ける。

店の裏口などの通用口かもしれないと思ったが、まさしくその通りであった。

大きなアルミ製の親子トビラの片方が開かれている。

そして、そのトビラの外では、べた付けされていた黒塗りの四輪駆動車のハッチバックドアが勢いよく閉められるところだったのだ。

「ちょっと!」

麗華の声に、ハッチバックドアを閉めていた二人の男が勢いよく振り返った。

麗華は直感した。

たった今、この車に哲司の言っていた女の子を乗せたのだと。

それに二人の男が、まずいところを見られたという顔をしているのも、麗華の感を確信へとかえる。

麗華がホールから車に向かって駆けだそうとしたとき、二人の男は驚いた顔でお互いに一瞬見合わせたが、すぐに好色な顔で頷きあうと、にやけながら襲い掛かってきた。

麗華を獲物として認めたのだろう。

「思ったとおりね!」

麗華はそういうと二人に肉薄する。

しかし二人の男は、麗華を女と思って侮りすぎていた。

一人目の男は麗華を捕えようとして腕を伸ばしたが、麗華は体を回転させて男の背後に回り込む。

男が掴んだのは麗華のカーキ色のトップスだけであり、麗華に背後に回られ腕を首にかけられて足を思いきり払われる。

柔道でいうところの大外刈りのような大技で、盛大にアスファルトの床に叩きつけられた男は、麗華のトップスを手に握ったままのたうち回る。

声にならない苦悶の声を上げ地面で呻く男から、麗華は自分のトップスをひったくり返す。

「返しなさいよ。これお気に入りなんだからね!」

手伝いとはいえ恋人の哲司と二人っきりで過ごすためにチョイスしたお気に入りなのだ。

しかし取り返したトップスは、男が地面をのたうち回るときに、男が顔を抑えたりしたため、男の涎っぽい湿り気が感じられる。

「えっ!?ちょっと!ええええっ!汚ったな!・・な、なに汚してんのよ!これお気に入りだったのよ?!」

麗華は、叩きつけられた地面で嗚咽する男にそう言いながら男の腹部に一発蹴りを加えた。

「おごぉ?!」

背中をアスファルトで強打したうえに、腹部にまで麗華にけられて男は無様に悲鳴をあげる。

そんな木村文乃を気の強そうな雰囲気にした顔立ちの麗華が、このような動きをしたことに、もう一人の男は驚きで立ちすくんでいたが、はっと我に返っていきり立つ。

男の顔には麗華を女と侮っている様子はもはやない。

男に好色な表情は浮かんでおらず、腰に差していた30cmほどのスタンガンを引き抜き麗華に突き出してきたのだ。

しかし、麗華にとっては格闘のド素人で無能力の男が、武器を持っていようとほとんど関係がない。

向かってくる男の顎を掌でカチ上げ、スタンガンを持った男の手を掴むと、腹部を体を回転させ廻し蹴りで蹴り飛ばす。

男の体が勢いよく黒塗りの四輪駆動車に激突してそのボディを凹ませたが、車は仲間であろう二人の男を見捨て、タイヤがアスファルトを摩擦で削る音を路地に響かせて走り出してしまったのだ。

「えっ?!・・こ、このっ!逃がさないわよ!」

まさか仲間を置いていかないと思っていた麗華は慌てたが、麗華はすぐ近くの駐車場まで走り、停めてあった自身の赤い愛車に飛び乗ると、キーを回しアクセルを踏んだ。

がぉん!!

その麗華の様子に、隣のクラブの火事騒動の野次馬となっていた駐車場管理人が気づき、慌てふためいた様子で麗華の車に駆け寄ってくる。

「ちょっとあんた!どさくさに紛れて駐車料金踏み倒す気か?!」

「これ!とっといて!」

麗華は車の窓から身を乗り出すと、駆け寄ってきた駐車場管理人のポケットに1万円札を数枚ねじ込こんで申し訳なさそうな顔でウインクする。

「あっ!これも!」

先ほど男から取り返したカーキ色のお気に入りだったトップスを、駐車場管理人に有無を言わさせず押し付けたのだ。

そして麗華は車を急発進させる。

そして駐車場管理人が驚きのあまり呆然としている間に、麗華は車の窓から身を乗り出して振り返り、立ち尽くす管理人を見やり叫んだ。

「駐車料金と修理代っ!」

麗華がそう言うと同時に、何かが破壊される音が天井の低い駐車場に鳴り響いた。

ばきぃいん!!

麗華は、駐車場の出入り口の侵入防止のバーを車で突き破ったのだ。

そのまま麗華の乗った赤いスポーツカーは、派手なエンジンを響かせ駐車場から飛び出して行ってしまう。

あとには駐車場の真ん中で佇む駐車場管理人が、呆然と麗華が車を走らせていく様子を、唖然と目で追っていた。

駐車場管理人は胸ポケットに突っ込まれたものを取り出すと、広げて数えだす。

そこには、ぐしゃぐしゃになった福沢諭吉が書かれた紙幣が3枚入ってた。

駐車場管理人は、その紙幣と押し付けられた衣服を交互に見、そして麗華が破壊していった駐車場の開閉装置を見やる。

「・・・・これっぽっちであれを弁償・・?」

紙幣とカーキ色のトップスを交互に見て、すこし躊躇いがちにトップスの匂いを嗅ぐ。

女性らしい香りが鼻孔をくすぐり、わずかに衣服には何か液体が付着している。

駐車場管理人ははっと我に返り、周囲をきょろきょろと見まわすとカーキ色のトップスを丸めてジャケットの中に隠し、いそいそと管理人室へと戻っていったのであった。

・・・・・・・・・・・・・・

紅音は口元を手で覆って顔をしかめた。

炎が何かに燃え移らないようにしたとはいえ、部屋中のものを焼いた臭いを嫌ったのだ。

着ていた白いジャケットは煤で見る影もなく焼き切れたうえ煤で汚れ、ポマードで押さえつけていた髪はちぢれ乱れてしまっている。

銀次郎は紅音の炎を真正面から受けきってしまったのだ。

銀次郎は防いだ両手が真っ黒になり、その部分の服が焼き切れている部分を見て目を見開く。

「ごはぁ!はぁ!・・くぉおおお!」

銀次郎は炎による攻撃で喉を焼かれたのと、炎のせいで息ができず、酸素が空っぽになった肺に呼吸を送り込んだ時の痛みで苦悶の声をあげてしまったのだ。

「やるわねえ」

紅音は軽く目を開き、指先で前髪をもてあそびながら意外そうに口を開いた。

紅音が殺すつもりで炎を放ち死ななかったのは、この銀次郎が初めてである。

それゆえに、紅音なりに素直に称賛したのであった。

「私が依頼した話、もう白紙でいいわ。お金も払わない。七光りのことももう放っておいてちょうだい。自分で何とかすることにするわ。私を脅すようなヤツには死んでもらうから」

煤だらけになり、片膝をついた銀次郎を見下し・・といっても膝をついた銀次郎と紅音ではそうさほど身長の差はないが、涼し気な口調で再び凶悪なオーラを両手に纏わせだした。

「こ・・これほどとはな・・。ますます欲しくなるってもんだぜ」

銀次郎は紅音の想像以上の能力に瞠目しながらも、顔に滴る汗を手で拭いながら立ち上がった。

しかし、ダメージは深刻なようで炎で焼かれた衣服はもちろん、焼きはがれて見える隆々とした筋肉も痛々しい火傷を負っている。

「そんななりしてマゾなの?気持ち悪い」

そんなぼろぼろの銀次郎が言うセリフと様子に、紅音はかわいらしい童顔の顔を不快そうにゆがめて言った。

「心配しなくても死ぬまであげるわよ」

紅音は右手の人差し指を立ててそういうと、指先の先端に20cmほどの火球を作って、銀次郎に放りつけた。

事は済んだ。という表情の紅音が放りつけた火球はうなりをあげて銀次郎に着弾する。

どぉおおおおおん!

火球が炸裂し、炎が熱と暴風を伴なってふたたび部屋中を荒れ狂う。

紅音の周囲だけは、紅音のオーラによって炎を遮断させているが、紅音は眉間にしわを寄せて不快気な表情になった。

黒煙で見えにくいが、紅音は火球と銀次郎の間に割り込む人影を見逃さなかったのである。

「誰っ!」

誰何と同時に紅音はもう一方の手から火球を放っていた。

ずどぉおおん!

誰だと聞いてるくせに、相手に名乗らせる暇さえ与えない紅音らしい行動であるが、紅音にはわかっていた。

おそらくまた防がれると。

だが、2発目の火球は相手の反撃をさせる機会を潰すための牽制である。

再び着弾した火球が、一発目と等しく炎を巻き上げ、部屋中をうねり回る。

(一発目を防いだからって、これでさすがに反撃はできないでしょうね)

紅音はそう思ったが、刹那でその判断を打ち消す。

舞い上がる炎を上下に割くモノが見えたのだ。

紅音は肉体の反射能力を上げる【即応反射】を即座に発動すると、上半身を反り、火球の着弾と同時に反撃してきた一閃を躱す。

紅音は類まれなる才能と頭脳、そしてあらゆることに関して卓越したセンスを持ち合わせているが、ものすごく短気である。

「舐めんじゃないわよ!死ね!」

反撃させないための攻撃をしたのに、反撃されてしまった怒りで、紅音はキレたのだ。

躱しざまの後方宙返りをして着地した瞬間に、紅音は怒鳴りながら、同時に先ほどよりはるかに強い火力で右手にオーラをまとわせて怒り任せに横なぎに払ったのだ。

「誰だって!聞いてんでしょうが!」

ごおああああ!

室内だから手加減をしなければ、という考えはこの時にはもう紅音の頭の中から彼方へと吹き飛んでいる。

火球の威力の倍はある獄炎が、紅音の腕の振りに合わせて、前方を横なぎの嵐のように荒れ狂ったのだ。

「くっ!」

わずかに紅音自身の防御オーラを上回る火力で攻撃してしまったため、紅音自身が少しだけ身を縮める。

「くそったれが!」

自分の炎でダメージを少し受けてしまっただけなのに、まだ目視できない敵に向かって憤怒に燃えた敵意を向けて罵った。

「こんな小娘がこんな事しでかせるなんてな・・。店がめちゃくちゃだ。銀次郎。大丈夫なんだろうな?」

「あ・・ああ、すまねえ金兄・・」

炎は紅音がすぐに発現を消し去ったが、燃えたものが発する黒煙のせいで、銀次郎と会話している人物はシルエットしかいまだ見えない。

「誰よ!」

紅音が待ちきれずイライラした様子で、今度こそ攻撃せずに聞いた。

この火力の炎に耐える者などいようはずがない。

紅音はじわじわと湧き上がる内心の焦りを打ち消すように大声で誰何したのである。

膝をついた巨漢の銀次郎の前に、長身細身でスーツを着た眼鏡の男が黒煙の合間から垣間見える。

紅音は目を凝らし、相手の挙動に注視しながら探りを入れる。

何しろあの火力の炎を、何らかの方法で防ぎ切った相手なのだ。

(こいつが私の炎を防いだの?あの火力よ?・・この私でもあれ以上の温度ならダメージを負うっていうのに・・)

紅音が訝しがるのも無理はない。

長身細身の男は、服装が乱れていない。

炎は発現させて対象に着弾すると、紅音はたいていの場合すぐに発生させた炎は消している。

そうしないと、余計なモノを焼いてしまう恐れがあるし、なにより人間を相手にした場合、炎が1秒でも触れればそれで相手は即戦闘不能になるからだ。

だいたい1秒ぐらいは対象に触れるように調整している。

炎の扱いを得意とする緋村紅音だが、炎の温度の扱いは紅音をしても難しい。

炎は発現する際に最低温度というものがある。

炎の最低温度は400度。

その温度に達するだけでも相当なオーラ量と集中力が必要である。

紅音にとって最低温度で炎を発動させるのは、本当にコンマ1秒以下でできる。

脳の開放領域の広い能力者の中でも、紅音は異質中の異質なのだ。

並みの能力者ではこうはいかない。

炎を発動するほどのオーラの練り上げができないのだ。

最低温度に達するほどオーラを練りあげることができないか、もしくは単純にオーラ量が足りないためである。

実験したことがないため紅音自身も知らないが、紅音が発現させることのできる炎の最高温度は、一瞬という限定付きであれば、1500度に達する。

しかし、紅音自身のオーラによる防御耐性が1000度までしかないため、それ以上の発現は通常しない。

ただ、紅音の場合怒りにかられるとやってしまうのだ。

ついさっきやってしまったように。

それを目の前の男は防いだのである。

紅音はポーカーフェイスができるタイプではない。

苛立ち、怒りをあらわにしながらも、その表情には焦りがある。

紅音の内心をよそに、誰何された長身痩躯の眼鏡紳士は紅音の誰何に素直にこたえた。

「緑園金太郎。銀次郎の兄でグリンピア興行の代表だ。お前が銀次郎の言ってた緋村紅音だな?銀次郎はえらくお前を買ってたようだが・・・。これは一体全体どういうことだ?ああ?銀次郎」

金太郎は振り返り、うずくまったままの銀次郎を見下ろしてそういうと、銀縁の眼鏡をきらりと光らせる。

銀次郎は兄のその様子に、顔中脂汗を吹きだし、うろたえて口を動かしかけたが、口を開いたのは銀次郎ではなかった。

「あ、あんたの弟に騙されたからその報いをうけさせてるだけよ」

「おい!騙してなんかいねえだろうが!でたらめ言うんじゃねえ!」

「黙れこらあ!!聞いたことにこたえろ銀次郎!どう落とし前つけるのか聞いてんだよ!」

紅音のセリフに反応した銀次郎だったが、金太郎の怒声でその巨体をびくりとふるわせて押し黙る。

その気迫に身をこわばらせたのは銀次郎だけではなかった。

(くそ。なんなのこれ・・・!)

紅音はぞわぞわと背中から首筋にかけてはしる悪寒に、得体の知れない気味悪さを感じ、いつの間にか乾燥した唇を舌で舐めて紛らわす。

「金兄。俺が落とし前をつける。この女にきっちりツケ払わせる」

「できるのか銀次郎?」

「ああ、まかせてくれ」

銀次郎はそういうと、ぼろぼろになった白色だったジャケットを脱ぎ捨て、紅音を睨みつけた。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 16話【回想】 華VS誘拐犯 紅音VS銀次郎&金太郎終わり】17話へ続く
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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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