先週,
会社の後輩の中島由佳子に
かなり込み入った相談を受け
ある探偵事務所を紹介してあげた。
彼女がそのお礼にと昨夜
居酒屋で夕飯とお酒を奢って
くれたのだが
彼女と話していた
他愛もない会話から
由佳子も私と
同じ会社の常備薬を
使っていてしかも
同じ営業担当だと知った。
剛田さん。
気さくな人でかれこれもう
2年以上家に薬を
点検に来てくれていた。
彼はあの私が生まれる
前から続く長寿番組。
水戸光圀さんの
諸国漫遊の旅を描いた
時代劇に出演している
忍びの飛猿役の
俳優さんに似ている人で
最初は少し
見た目的に怖かったが
今では私の毒舌にいつも
タジタジである。
そして由佳子から
聞き捨てならない事も
聞いた。
剛田さんは鍼灸師の
免許も持っていて
由佳子は既にもう
何度もそのサービスを
無料で受けているらしい。
しかも凄くマッサージがお上手だと・・・
今では肩の凝りに足のむくみも
随分マシになってきたと
喜んでいた。
私なんて週に一度自腹で
全身の疲れを癒すために
マッサージに通ってると言うのにっ!
これは次に来た時に
抗議しなきゃと思い
今日は有給で私はお休み。
それを前回来た剛田さんに
伝えてあったので
既に今日の14時には
定光製薬の剛田さんが
来ることになっている。
家は主人が今首都圏に
転勤になりもうすぐ1年になるので
メカ音痴の私は
パソコンを買い替えたり
子供のテレビゲームの
設置などことあるごとに
剛田さんを
便利屋さんとして頼っていたが
彼にはもう一つそんな
凄い特技があるなんて
知らなかった。
私は今日は午前中から
1駅離れたモールに買い物に
行って来て帰宅後
お盆が過ぎたというのに
猛暑日が20日以上続く
この暑さに参りシャワーを浴びた後
薄紫の下着だけの姿で居た為に
さすがにもうそろそろ剛田さんが
来るのにこのままの恰好じゃ
マズイだろうと思い
上にノースリーブの
黒のタンクトップを
身に着け下には
ソファに脱いだまま
で置いてあった黒の
ミニ丈のキュロットパンツを
履いた。
薬箱を用意してリビングのテーブルに
置くと最近では剛田さんが来ると
小一時間くらいは雑談に付き合わせて
いたので飲み物にアイスコーヒーと
ワッフルケーキを用意していた。
リビングのソファに掛けてTVから
映し出されるワイドショーを
眺めていると主人が車を転勤先に
持って行って居るために駐車スペースが
丸丸1台分空いていて剛田さんは定光製薬の
営業車をそこに停めるのが定番になっていた。
もう今では慣れたもので私に断りを入れずに
停めて下さいねと伝えてあるので
私の車の横に車を停める音が聞こえて
くると剛田さんが来たのが分かる。
時間は13時56分・・・
さすがにピッタリね~
毎回毎回見事なものだわ~
うちの若い営業の子にもこの
剛田さんの時間にピッタリの
几帳面な仕事っぷりを
見習わせたいわね~
もう私が勤務する常盤広告では
中堅を越えベテランの域に差し掛かる
私は先輩や上司の人数よりも
後輩や部下の人数の方が多いくらいに
なってきていたのでどうしても
考えも年より臭くなる。
車のエンジンの音が聞えなくなると
玄関のインターフォンが鳴る。
ピンポーン。。。
私は玄関先まで小走りで行くと
玄関を開ける。
いつも通りスーツ姿の大きな身体の
剛田さんが予備の薬の入った
黒のケースを持ち立っていた。
「こんにちは~西崎様。
今日もまだまだ暑いですね~
昔でしたらこの季節は残暑という
言葉をもう使っていたのですが
今では残暑どころか
依然猛暑ですものね~」
礼儀正しく挨拶もできるし
季節なりの挨拶も織り交ぜ
何度会っても飽きない
できる営業マンの見本のような
立ち振る舞いで玄関の中に
入って来る剛田さん。
「こんにちは~
剛田さん。
いつも時間通りで
本当にお見事ね。
剛田さんは渋滞に巻き込まれたり
事故に遭遇したりはしないのかな?
凄く良い交通安全のお守りを
車に吊るしているとか?」
私はいつものように
笑顔で中に入るように
手で促しながら
褒め下手な私は少し
皮肉るような冗談を
交える。
「あっ失礼しますっ
それでは・・・」
と脱いだ靴を玄関を向けて
大きな身体をしゃがませて
揃えた剛田さんが立ち上がると
いつも思うが本当に大きい。
167㎝ある私が見上げなきゃならない
くらいの大きさで15㎝くらいは剛田さんの
方が大きく感じる。
そのままリビングへ入りソファに
手の平で座るように促す。
剛田さんはリビングへ
入ってきながら
「いえいえ。
お守りなどは一般的な
物ですよ~
わたくし共は西崎様の様に
逆にお約束の時間通り
いらっしゃってくれる方が
有り難く中々奥様方も
忘れられてたり急用が
入ったりでお時間のお約束
してもお会いできない事も
あるのでそんな中でも
月1回2回の点検は必ず
お伺いする必要があるので
わたくしの方だけでも時間通り
お伺いしないとスケジュール通り
終わらないのですよ~」
ソファに座るよう促すが
フローリングに正座し
黒のケースを床に置くのも
いつもと同じ剛田さん。
「製薬会社の営業さんも
中々大変なのね。
剛田さんかなり優秀そうだから
うちへ来ない?
優遇するわよ~」
と剛田さんがテーブルと
ソファの間に正座するので
私が剛田さんの斜め前の
テーブルの短い辺の前
いわゆるお誕生日席に
正座するのもいつもの
パターンで私も半ば
本気の冗談を言ってみる。
今私の勤める常盤広告の
営業は女性は先月ついに
私を追い越し営業成績が
1位になった中島由佳子を
始め
【できる女】
は多いのだが男性の営業が
どうも骨が無くて困っていた。
しかし多分年上の剛田さんが
うちに来てくれても
扱いに困るのは事実で
正直来ては欲しいが無理だと
解っていてコミュニュケーション
変わりの冗談でそう言った。
「えっ!?
それはそれは光栄ですがぁ・・・
西崎様がキャリアウーマンで
いらっしゃるのは
存知上げていましたが
未だにどのような
業種のお仕事をされて
いるかは・・・
存じ上げていなかったですね~」
そう言えばそんな話は今までして
こなかったわね。
だからきっと由佳子と私が
先輩後輩で
面識ある事も知らないのかも
これは今日は色々楽しみだわ。
そう思いながら私は飲み物を
出す為にグラスを
取りに立ち上がり
リビングの隣にある
キッチンへ向かいながら
「言っていなかった?
私広告代理店の営業を
しているのよ~
常盤広告っていう
会社なんだけどね~」
キッチンから後姿のまま
そう言ったので
剛田さんがどのような
反応をしたか
見れなかったが
もし由佳子も私と同じように
剛田さんが来るたびに
世間話をしているのなら
もしかしたら
仕事の話もしているかもしれない。
だとしたら
あ~!
って心の中でなっているかも
と思うと面白くなりそのまま
グラスにコーヒーと
レモンティーを注ぐと
氷を足して
お盆に乗せて振り向くと
「あ~!!
常盤広告さんって・・・
じゃあもしかして
西崎様と中島様は
同僚ですか?」
やっぱり。
予想通りの反応で面白くて
笑いたいが今笑うとお盆の
上のコーヒーにレモンティーが
こぼれてしまうので
ここは腹筋を頼りに
ぐっと堪えながら
「そうよ~
中島由佳子は
私の後輩なの~」
「え~
こんな美人が2人も
居る会社になら
お誘い受けたら
行っちゃいそうですよ~」
剛田さんは先程の私の
差押しに冗談で
乗って来る。
私はテーブルの剛田さんの
前にコーヒーの入った
グラスを置き
自分の前にレモンティーの
入ったグラスを置くと
またテーブルの剛田さんの
斜め前お誕生日席に
正座した。
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