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【第8章 三つ巴 4話 菊一探偵事務所~邂逅(かいこう)-対決~宮川コーポレーション 菊沢 美佳帆】

菊一探偵事務所~邂逅(かいこう)-対決~宮川コーポレーション

「ほんまなんやねんな。来るちゅーといて来いやて?大手は勝手なこっちゃで」

「ぐずぐず言わないの!・・・宮コーみたいな会社がなぜ橋元のことなんかを知りたがるのか気になるじゃない。それに、神田川さんとのお話じゃ、情報提供だけでも報酬を即お支払いしてくれるみたいだし、欲しがってる情報と一致したら、けっこういただけそうよ?」

「俺、そー言うのより、、まあええわ」


事務所の台所を預かる私のジト目に気が付いたのか、愛しの旦那様が口をつぐんだ。

「どっちにしてもウチには損な話じゃないでしょうし、こんな会社が私たちをどうこうしようなんて思ってないはずだしね。・・もう着くわ。しっかりお願いね」

「しゃーない。仕事やしな」

「そうそう、仕事仕事。ここ最近忙しいばっかりで、収入も減ってるんだからこういう単発のお仕事もこなさないとね。それにその大手さんから定期的なお仕事もらえるきっかけになるかもしれないでしょ?」


「、、美佳帆さんはたくましなぁ。しかし、来るちゅーといて来いってこれはないで。とりあえず評価-50点からスタートやな」

いつもの口調で軽口をたたく旦那様と一緒に、私たちは宮川コーポレーション関西支社と大きく書かれたミラーガラスのカーテンウォールのビルに入っていく。

両開きのガラス戸を押し開き、自動ドアを抜けると受付嬢が二人座っているカウンターがみえる。大理石のホールまっすぐとカウンターまで進むと、受付嬢の一人が声をかけてきた。

「菊一探偵事務所様でしょうか?」

「はい、2時に来るようにと神田川さんから言われてまいりました」


受付嬢の笑顔に私も笑顔で返す。

「はい、神田川から伺っております。2階の応接室へご案内いたします。どうぞこちらへ・・・」

丁寧な応対を受け、エレベーターのほうへ案内してくれる受付嬢の後をついていく。受付嬢に先導されカウンターとエレベーターのちょうど真ん中あたりまで来た頃、私の後ろについてきている宏が少しかがみ、私の耳元で囁く。

「美佳帆さん・・一応警戒な・・・なんか、感じるで・・」

わたしにしか聞こえていないぐらいの声のトーン、前を歩く受付嬢には聞こえてないようだ。

「え?」

振り返って、宏の顔を見上げると、サングラスをしているにもかかわらず、顔が不快に歪んでいるのがわかる。

「大げさに反応せんでもええから・・美佳帆さんは普通にしといてくれたらええよ・・・・。とりあえず害はなさそうやが、この気配がまとわりついてくる感じ・・かなり無遠慮やな。気つけておいてもええかもしれん」

「まさか、なにか仕掛けてくるとは思えないけど・・・わかったわ」

「ああ、油断は禁物や。敵意は感じんけど、呼びつけた理由はこれか・・はっきり言って不快やな。-100点や」


宏に了解の意を伝え、エレベーターに乗り込む。

1階のエントランスが見下ろせるガラス張りの廊下を受付嬢に案内されついていく。宏はああ言ったものの、社内は明るく清潔感があり、廊下といえども、温度も湿度も快適に保たれている。建材などの意匠や、随所に配置されている調度品などは高級感があり、それでいて嫌味がなく洗練されている。

一見、何かの陰謀があるような雰囲気は全く感じられない。

しかし、宏の直感や感覚に何度も助けられてるので、意識を集中し【百聞】を展開させる。社内の雑多な声から重要な情報を聞き出そうと警戒は怠らない。

「こちらでございます」

私があれこれ考えを巡らせている内に、目的の部屋に着いたようだ。受付嬢は私たちに向き直りそう告げると、受付嬢が第2応接室とタグが付けられた扉を丁寧にノックする。

「しつれいします。菊沢さまをご案内しました」

受付嬢はそういうと、私たちが部屋に入りやすいように、ドアの横に立ち笑顔で入室をうながしてくる。

宏はむすっとしたままだが、私は

「ありがとうございます」

と伝え、受付嬢に笑顔を返す。

100㎡ほどの大きな応接室は15階あるビルの吹抜け側、エントランスが見下ろせる面がすべてガラス張りである。たしかエントランス側からはこの部分は鏡に見えたのだが、応接室の中からはエントランスが見渡せるようになっている。

床は落ち着いたあずき色の絨毯が敷かれている。かなり分厚い絨毯で、これなら長時間立っていても脚が痛くなりにくそうだ。

室内には3人の女性が私たちを待っていた。一人は黒い革製の応接セットの正面ソファに腰かけ、その後ろに明るい髪色の長身の女性、そして見知った顔の女性が開けられたドアのすぐそばにいた。

「失礼します」

というと、以前事務所に来てくれた神田川さんが笑顔で話しかけてくる。

160cmは超えているであろう、しっとりした雰囲気の容姿端麗の女性だ。

最近は本当に美人と会う事が多い私だが、先日、事務所に来てくださった岩堀香澄さんや中島由佳子さんと比べても遜色ないと思われる。

知的と言えば岩堀さんの持つイメージにピッタリだが、この神田川さんも先日話したときに知的で聡明な女性だと言うイメージを抱いたが、じつは意外と天然なところもあり、私は内心、微笑ましくおもってる女性である。

「ようこそいらっしゃいました。今日は申し訳ございません。急にお呼び立てしてしまって、ご足労いただき本当に助かりました」

神田川さんが心底、申し訳なさそうに私に挨拶してきた。

「菊沢さんの旦那様ですね。奥様とは何度かお話させていただいたことがあります。私は神田川と申します。この度は無理を聞いていただいてお礼を申し上げます」


宏に向き直り名刺を差し出し、宏に挨拶する。

「ああ・・・どうもっまいど、よろしく」

名刺を受け取り、神田川さんに短く挨拶する宏の態度に、少し注意しようとすると、応接室正面のソファに足を組んで座っているスーツ姿の女性に向かって宏がすぐに口を開いた。

「それより、あんた・・さっきから、それやめてくれへんかな?初対面以前からいきなり失礼過ぎるで」

そういわれた女性、おそらく神田川さんの上司に当たる女性が口を開いた。

「それをやめる・・?何をかしら」

僅かに首を傾げ、薄く笑いを浮かべた表情で宏に聞き返している。

「とぼけるなって、、、なにやってるのか知らんけど、あんたの気配、気持ち悪いわ。俺らが受付にいてたときも、ここから見てたんやろ?悪趣味やで」

宏が苛立ちを隠そうともせず放った発言に、今度は座っていた気の強そうな三白眼女のほうが、不快感を露わにして宏に返した。

「・・・なんですって・・・?」

声量こそ大きくはないが怒気をはらんだ発言と同時に、三白眼女の後ろに立っていた、長身で茶髪の女が宏と三白眼女の間に立って身構える。

「す、すいません!ちょっと宏!」

さすが言ってはいけないことを言った宏をたしなめようとすると、三白眼女が笑い口を開いた。

「なるほど・・そういう事ですの・・ふふふ・・いいわ加奈子。・・これがわかるのなら、私に非がありますね・・。無作法をお詫び致しますわ」

「支社長・・大丈夫かな?・・たぶん・・・この人相当だよ・・」

長身の茶髪女性は振り返らず、宏を警戒したまま三白眼女を支社長と呼んだ。支社長と呼ばれた三白眼女は

「・・大丈夫なはずよ」

と一言だけ言い茶髪女性を制した。

意外にもすぐに非を認めた女性・・しかし、言葉とは真逆で態度にはその様子は全く表れてない。

加奈子と呼ばれた女性を、宏の前から下がらせると支社長と呼ばれた女性が挨拶してきた。

「初めまして、菊沢さま。私が本日お二方をお呼びした宮川です。どうぞおかけになってください」

「ふん・・あんたさっきのやつ、会う人間、全員にやってんのか?どんなつもりか知らんけど関心せんな」

どかっとソファに座り宏も、宮川さんと同じように足を組む。言葉は丁寧だがどことなく態度は大きい相手に合わせているようだ。

「宏・・!なにがあったのか知らないけど、宏も失礼よ。・・・申し訳ありません宮川さん。」

これ以上宏にしゃべらせたらせっかくの商談が台無しになってしまうと思い、相手が話し出す前に謝罪で割って入った。

「・・・いいのですよ。奥様、ご主人の言った通り少々失礼なことをしましたしね。かといって、ご主人にもご納得いただきたいのですが、本当に害はありませんので、ご心配なく。それより奥様もお掛けになって」

脚を組み変え、手を胸の前で重ね私にも座るように促してくる。

宏はソファにどっかりと座って憮然とした表情で踏ん反り返っているし、振り返ると、本当に申し訳なさそうな顔の神田川さんと目があう。神田川さんは苦笑いで無言で頷いている。こんな場所だが、神田川さんて苦労してるのかな?などと心配をしてしまった。

全員座ったのを確認すると、私は切り出した。

「・・では、改めましてよろしくお願いします。菊沢美佳帆と申します。菊沢が二人いるので、私のことは美佳帆と呼んでいただいてけっこうです。菊一探偵事務所の代表代行をしております。
えー、ご存じだと思いますが私たちは府内を中心に探偵業を営んでおりまして、本日はお招きいただいた件・・・橋元不動産の情報ということでよろしいでしょうか?」


宏はしかめっ面だし、この支社長の女性とは話す気もなさそうなので仕方なくいつもの事なのだが私が本題を切り出す。

と言っても、宏が不貞腐れていても機嫌がよくても私が進行役になるのはいつも通りなので結局普段通りねと思いつつ相手の返答を待つ。

神田川さんと稲垣加奈子と呼ばれた茶髪の女性は私たちの正面に座り、宮川支社長は私たちの左側に座っている。

「そうです。先日概要はお伝えした通りです。弊社の社員が現在2名行方不明になっておりまして、先方の橋元不動産に問い合わせても、訪問はしたが、その後のことは知らないとのこと・・。私どもの部下の二人が行方不明になった日の夕方に、橋元不動産の近所の方が、女性の悲鳴らしき声を聞いたという情報があります。
その後ワンボックスカーが事務所から走り去ったという情報もあったので、目撃情報に類似の車種を府内中のレンタカー会社に当たったりした結果・・・弊社社員の行方不明に関しては橋元氏の関与が極めて疑わしいという結論に達しております。
しかし、決定的な証拠がなく、・・・警察も捜索願いは受理してくれていますが、捜査をしてくれているわけではありません。
そこで、橋元氏のことをよく知ると聞く菊沢さんにご助力いただきたいのです。・・・私どもは彼女たちがおそらくどこかに連れ去られてしまったのではないかと考えているのです・・・。
なんでもいいのです。彼らの人となりや拠点となるような場所を教えて頂けると助かります・・」


 神田川さんは行方不明になった二人の社員とは親しかったのだろうか・・・。そのように感じるのは先日会った時より、神田川さんは橋元氏関与に確信を持っているように感じる。調べた結果なのだろう。話していてだんだんと彼女の声は少しだけ大きくなっていった。うまく抑えているが、神田川さんの動揺が伝わってくる。私だって、スノウやお嬢のことがあったから痛いほど神田川さんの気持ちがわかった。

「神田川さん、心中お察しいたします。いただいた質問には私たちが知りえた範囲の情報ではありますが、お答えできると思います。まず橋元氏一味に関して言いますと、警察の手に余る悪党集団です。目的のためには手段を択ばず、非道なことも厭いません。
・・例えば、御社と利権のことで争っているのだとしたら、どんな手を使っても邪魔はしてくるでしょう。特に彼らは女性相手だと・・ひどい目に・・・合わせます・・・。」


私の言葉を聞き終わると、神田川さんが手を額に当て目を閉じ、呻くように呟く。

「行方不明の二人は、二人とも女性です・・」

 先ほど紹介を受けた茶髪の女性、稲垣さんが神田川さんを横から支えている。支えている稲垣さんの顔色も悪い。きっと神田川さんと同様行方不明の二人の安否が心配なのだろう。

「なるほど、それほどですか・・・菊沢さまも奥様も能力者ですよね?・・美佳帆さまのオーラ量、そしてもう見せてくれてはいませんがご主人のオーラ量、常人のオーラ量じゃありませんわ」

コーヒーを啜っていた宮川さんがカチャと陶器のソーサーにカップを置くと、普通の会話ではありえない内容をさらりと聞いてきた。隣に座る宏が発する気配が重くなるのを感じる。

「はい?・・・オーラといいますと?」

急に全く違うことを話だす宮川支社長のほうを向き、何の事か私にも推測はつくものの宮川さんの真意を知りたく質問する。

「思念ですわ。人は皆、思念と呼ばれるオーラを纏ってますわ。私は癖でいつも見てしまいますの。思念量が膨大でもたまにノースキルの方もいらっしゃるみたいですが、大抵なにかの能力をお持ちだと思います。
・・・ご主人は先ほど私がオーラを見ていることにご立腹したんだと思います。・・まさか気づく人がいるとは思わなかったので・・・不快な思いをさせてごめんなさい。
えっと、つまり何が言いたいかというと、常人以上のオーラ量をお持ちのお二人でも橋元氏一味は手に余るのか・・?と思った次第です。・・・橋元さまと菊沢さま・・・面識ありますよね?仲はよろしいのですの?それとも仲はよろしくないですの?」


そう言うと、ソーサーに置いたカップにスプーン山盛りの砂糖を3杯入れ、くるくるとコーヒーを混ぜている。

そして、お茶請けとして添えられて置いてあった、和三盆の落雁を5つ口に含みカリカリという音をさせながら上目遣いで、宏の目をサングラスごしに見つめている。そして続いて私にも目を合わせてくる。

妖艶で不思議な色、アンバーアイというのだろうか、ブラウンやイエロー複数の色が混ざった色合いで、目を合わせられると逸らすことを忘れ思わず見入ってしまう目に悪戯っぽい笑みをたたえている。目を逸らさずにいると宮川さんの不思議な色合いのアンバーアイが照明の加減のせいか光ったように見えた。

「ふぅん・・・なるほど・・・。では、能力者の質や数は・・・?それ以外の問題はございますの・・・?橋元氏に財力や政治力がそこまであるとは思えませんが・・・もしくは橋元一味には相性の悪い能力者がいる・・?それとも・・・いまの奥様の状態や能力に関係があることですの?」

何やら勝手に納得し、そして、カマかけだろうか、何かを見透かしたような態度で質問を浴びせてくる。宮川さんの少し異様な様子に内心驚くが、表情に出すほど未熟ではない。宏も隣で、不信がっているのか気配が一段と重くなっている。

「宮川さんのご指摘にお答えいたします。橋元一味は先ほどもお伝えした通り、目的の為なら悪事も厭わないという点で危険です。・・・それと能力者は正確に人数はわかりませんが少なくとも2名はいます。財力や政治力という点においては正確な数字はわかりかねますが、概算で把握している範囲では相当な資産家でありますし、そのため政治力もそれなりにありますね」

「ふぅん・・・2名程度、、なのですか。・・・それで、最後の質問には答えてくれないのですか?・・・それと、なかなか大変そうですわね」

人差指を下唇に当てつつ、あわされていた視線が私の股間に移り、再び目を合わせ質問を重ねてくる。面白がっているのと心配しているのと興味があるという表情だ。

確かに、橋元との接触があってから、私の下半身の異常な疼きが治まらないことを言っているのかもしれないとは思ったが、そんなことがバレるわけがない。夫の宏にすら気づかれないようにしているというのに、今日、初対面の宮川さんにわかるわけがない。

・・・まさか、【百聞】に気づいている・・・?見つめてくる宮川さんの瞳が再びぼんやり光った気がした。

・・・もしかして!・・・この人、私に何か力を使ってる・・・!?しまった・・・!まさか、さっきの質問の時から・・・!?

「それはいったい、、?私の状態というのがなんのことをおっしゃっているのかよくわからないのですが」

宮川さんの能力に抵抗できるかわからないけど、負けじと目に力をこめ、鉄面皮をつくり極力平静を保ち聞きなおす。こんな大勢がいる場で的確に私の状態を説明されても困るのだが、宮川さんが答えるよりも早く反応する人がいた。

ばきぃ!!

・・・・と机を強くたたく音にはっとなり、音の原因の人物のほうを見る。机を破壊した人物、宏が怒鳴る。

「それをやめろというとんのや!」

宏の正面に座っていた長身茶髪の稲垣さんが跳ねた。人間の速度とは思えない素早さで宏と宮川さんの間に滑り込んでいる。絨毯を踏み抜き、がっ!と木質の床を露出させるほどの踏み込み、鋭い目つきで宏の一挙手一投足すべてを警戒しつつ、引き絞った弓のような気を充満させている。

「てめぇ!!グラサン!!支社長に当たるところだっただろうが!!」

茶髪を振り乱し、威圧感のあるハスキーな声で、宏に怒号する稲垣さんの右手には、宏が粉砕した机の破片が握られていた。

この人、宏が叩き壊した机の破片を、空中で掴みとったの・・?!稲垣さんの身体能力も超人なみ・・この人たちやっぱり私や宏、事務所の面々同様能力者だわ。

「あたってないやないか。おおげさなやっちゃな!ぎゃんぎゃんと盛りのついた猫のように喚き散らすなやっ」

「なんだと~!?この二流ホストがっ!」

舌戦でも一触即発の宏と稲垣さん。

わたしが何かをされたのかもしれないが、私自身に自覚がない。でも宏が私にされたことを怒ってくれているんだとは漠然とわかったが、とりあえずなんともない。それに、このままだと3対2で、しかもここは相手の懐の中・・。

「待って!」

立ち上がろうとしている宏の右肩を掴み制止する。すると宮川さんも稲垣さんにむかって制止するよう話しかけている。

「ありがとう加奈子。でもどいて。大丈夫だから、そんなのに当たらないわ。それに前に立たれたら話がしにくいじゃない。・・・・・真理、大丈夫でしょ?」

「はい、、大丈夫です。でも、どうか穏便にお願いします」

私の正面に座る神田川さんが何とか穏便に済ませたそうな様子で宮川さんに答える。

「でも支社長・・この三流ホスト!・・!」

「なんやっ!さらに格が下がっとるやないか!」

いや、そこは別にツッコむ必要もないのだけど・・・とこんな状況で私も思ったが、宮川さんの前に仁王立ちしている稲垣さんは宮川さんにもっと何か言いたそうな空気のまま言葉を止めた。

それにしても、マズい。やるにしても、能力不明の3人相手にこの配置と態勢はマズ過ぎる。

・・それに、宮川さんと神田川さんの会話・・なにが大丈夫なんだろう。宏がその気になったら、そっちも無傷じゃいられないと感じているはず・・。特に茶髪の稲垣さんの注意は宏に集中している。

もしこの場で最悪の事態になったとしても宏が負けるなんて想像できないけど、神田川さんもなにか能力を使っている・・?

私の鉄扇はバッグの中だけど1秒もあれば取りだせる・・などと思考を巡らしている間にも宮川さんが宏に対して先手を打つ。

「菊沢さまのご主人・・・再度、能力を使ったことはお詫びしますわ。でも、先ほども申し上げた通り、私が今使っている能力自体に害はございませんの。それより、奥様はこの部屋に入ってきたときからずっと能力を使ってますわね?それに奥様のオーラ・・・かなり偏ってますわ。精神状態の偏った方が、私たちにとって未知の能力を展開させてる状況です。私も多少苛立っておりますのよ?・・・少々警戒してこちらも能力を使い対策をとろうと思いますの・・・。あと・・質問させていただくぐらいよろしいのではなくて?」

「よう言うわ!美佳帆さんが使う前からあんたが先につかっとったやろが!」

宏が活火激発の様相で宮沢さんの問いかけ応える。宏から私に怒気が向けられることなどないのだが、宏が怒りを表す姿は見ていて怖い。

それに、対策と・・質問・・?宮川さんの能力かしら?それとも、神田川さん?こんな状況ではこちらも【百聞】を解除するわけにはいかない。

怪しい動きがないか応接室周辺に変化がないか意識を集中する。

「害はないと申し上げましたし、私は一度解除しましたわ」

宏の怒気に晒されながらも、泰然と脚を組み背もたれに身体を預けた態勢のまま、面倒そうな態度で、確認するかのように宮沢さんが答える。

「そんなんわかるかい」

「私は一度解除したと言ってますの」

「やかましわ。美佳帆さん帰ろ。こいつ話にならんわ。橋元のことわからんで困るんこいつらや」

「・・・そうはいきませんわ」

宮川さんが今まで笑みとは違う凶悪な笑みを浮かべ、アンバーアイの瞳が光る。

彼女から圧力が発せられると同時に、ドカッと大きな音がして、私たちが入ってきた応接室の両開きの木質ドアが勢いよく開くと、あずき色の質のいい絨毯の上を革靴で駆け、黒いスーツ姿の男たちが5人勢いよく入ってきた。全員手には50cmほどの黒い棒を持っている。スタンガン!?

嘘・・・!そんな・・?!まったく【百聞】で感知できなかった。

室内の誰からも指示が出ていないにも関わらず、入ってきた男たちは打ち合わせでもしていたのかと思うほどの素早さで動き出す。

一人は入口を固め、私と宏の後ろに2人、神田川さんの左右に一人ずつが移動しスタンガンを構えている。

私も身構えようと、バッグから鉄扇を取りだし、ソファから立ち上がりかけたが、【百聞】を使っていたにも関わらず気づくのが遅れ、不意を突かれた動揺と、あまりにも素早い黒服たちの動きに対応しきれなかった。

できるだけ対応しやすいよう、鉄扇を膝の上に置き、仕方なくソファに浅く座りなおす。

「それが賢明ですわ・・奥様まだお掛けになっていてください。まだ何も聞いてませんもの。私の部下が囚われているかもしれない場所。心当たりあるのでしょ?ご主人ではなく奥様がお答えになって。ご主人はそのまま動かないでください。奥様が私の質問に嘘偽りなくお答えいただけたら、この度予定していた報酬をお支払い致しますわ」

そう言うと宮川さんは脚元に置いてあった小さなアタッシュケースを掴み、宏によって半破壊された机の上にどんと置く。

先ほどから照明の加減かもしれないと思ったが宮川さんの目がぼんやりと光っている。今ならはっきりとわかる、見間違いじゃない!

「話はおわりや言うとるやろ。こんな荒事にしてなんのつもりや」

宏は机の上に置かれた小さな銀色のアタッシュケースに目をやるも、宮川さんのほうに向きなおり商談の終わりを告げる。

「いいえ、このままだと絶対に帰しませんわ。・・・さあ、奥様、ケースを開いて中身をご確認なさって」

そう言うと脚を組みなおし、背もたれに身体を預け、顎をしゃくり、私にアタッシュケースを開けるように促してくる。

尊大な態度だが、嫌味を感じない。おそらく生まれたときからそういう仕草をし続けているのだろう。

違和感がないと、妙に感心していると急に宮川さんが慌てた様子で指示を出す。

「加奈子!真理!グラサンを警戒して!・・すごいオーラだわ・・。・・ご主人、動かないでくださいます?!」

「動くなやて?あんたら次第や。後ろの黒服と前の黒服、茶髪のねーちゃん、そっちの美人さん、あんた・・・・まとめて5秒やな」

静かな声で宏が誰ともなく言う。声は静かだが今にも溢れそうな物騒な気配を漂わせている。

「こいつっ!」

稲垣さんが宏を睨む。

「・・そんなに簡単にはいかなくってよ?それに・・この状況ではご自身はともかく奥様は守り切れませんわ。スタンガンも痛いでしょうけど、私や加奈子に攻撃されるのはもっと痛くってよ?奥様のこと大事なのでしょう?・・・動かずにいるほうが賢明ですわ・・・・」

おそらく宏のオーラとやらが見えたのだろう・・・。宮川さんは驚きの表情を一瞬見せたが、微笑のポーカーフェイスを付けなおしている。

しかし、微妙に隠しきれてはいない。それだけ宏の力が想定外だということね。私は無事じゃすまないという脅しがいい証拠、などと相手の考察をしていると、宮川さんが宏を警戒しつつも、ゆっくりと私のほうに向きなおる。

宮川さんの言う通り、今の私は橋元と接触して以降の股間の疼きのせいで、まともに力が発揮しきれない、それを見越されているのか?見越されてはいないのか?真意はわからないが、実際には宮川さんの言う通り今の私は宏には足手まといなのが歯がゆい。

「さあ、奥様、いい加減にもう能力を解除していただけないかしら。そしてケースの中をご確認なさって。そして橋元一味の能力者数、能力の種類、拠点としている場所、アジト、ねぐらの類をすべて教えてくださればよいのです。正直にお答えいただけたと感じたらそのケースをお持ち帰りいただいても結構ですわ。正直にお答えいただけない場合は・・・・無事には帰れませんけどね」

左側にはおそらく能力を発動して、今にも踏み込んできそうな気炎万丈の稲垣さん、右正面には、憂いの表情だが隙なく静かに座っている神田川さん。

ほぼ間違いなく稲垣さんも、神田川さんも能力者のはず、(私や加奈子に攻撃されるのはもっと痛い)ということは、神田川さんは攻撃してこない?もしくはそういう能力じゃない。

宮川さんがペラペラしゃべってくれる情報で敵の戦力を冷静に分析していると、警戒の中心にいる宏が口を開いた。

「何が入っとるかわからんようなもんうちの美佳帆さんに開けさせられるかい。あんたがこっちに見えるようゆっくりあけや」

宮川さんが感づいている通り、【百聞】を展開していたのは事実で、それを気づかれるとは思わなかったし、宮川さんが何かの能力を使っていたのは何となくわかったが、なにをして、どんな能力なのかはわからなかった。

目を見つめられたときはそうかもしれないと感じたけど、部屋に入ってきた黒スーツ姿の警備員も会話無しに、突入させてきた。

遠くで打ち合わせさせて、この部屋に近づいてきたのか、それとも最初からこの部屋の周囲に伏せていたのか・・・。注意してたけど、会話で応接室への突入の合図ではなかったはず。

いったい何時どうやって指示を・・。警戒していたのに気づけなかった・・・。いたずらに相手を警戒させて、こんな状況をつくってしまった原因を作った自分に苛立つ。

私の能力も直接的な害を与える能力じゃないっていうのに・・・。いえ、今そんな事問題じゃないわ。せっかく宏に注意してもらってたのに、敵に警戒心を与えて、何の情報も得られず宏も危険にさらしてしまった。足手まといになってしまった・・・。

「宏・・ごめん」

「ええよ、美佳帆さんはなんもわるない。悪いんはこいつらや。こいつらが先に仕掛けてきたんは間違いないんや。大丈夫やから、こんなやつら。こいつらさっさとノシてはよ帰ろや」

まさに四面楚歌で敵だらけだというのに、やけに優しい声で、相手にとっては物騒なことをさらっ言ってくれている。

「ふふふ、怖いですわ・・・。ですが、お二人にとって幸いなことに、私はまだ商談中だと思っておりますの。菊沢さんの為にも、商談がご破談にならないよう私も願ってます」

そう言うと、宮川さんは両脚を絨毯から少しだけ浮かし、少し勢いをつけて立ち上がると、机の上のアタッシュケースの上部をポンと叩いた。すると、ガチョと玩具の箱が開くような音がしてアタッシュケースが開く。中には1cm幅の帯封がされた小束の紙幣が10束。それを5cmほどの大きな帯封でさらにまとめられているのが2束みえる。

「2千万円ございますわ。これは私なりの精一杯の誠意です。これで私の部下を救う情報と時間を買いたいのです。私はただ正直に答えて頂きたいのです。
 ご主人のおっしゃったとおり、お二人がエントランスにはいってすぐから私は能力を使っておりましたわ。しかし、この応接室に入られたとき、奥様も使ってらっしゃいましたわね。
 おそらくお互いの誤解からこういった状態になったのだと思いますが、こうなった以上絶対に無駄にはしたくないのです。部下が行方不明になってもう3日です。
 あと数時間・・あと数分早ければ・・・などと後悔はしたくないのです。さあ、相手の能力者の数、能力の種類、敵のアジト、拠点の場所、知ってる範囲でお答えください。
 無駄を省くために最初に断っておきますが、私には嘘は絶対に通じませんわ。嘘がなく、私の欲しい情報をお答えいただけたら、そのケースをお持ちになり安全に帰れます。嘘なら・・・私の時間を無駄にし、私の誠意に応えなかった人は帰えさない。それだけのこと・・その時は、どちらが5秒で済むのか教えて差し上げまわ。・・・さあ、慎重にお答えください」


え?!たかが情報提供に多すぎない?ちらりと宏を見ると、同じようなこと思ったようで、

「アホちゃうかこの女」

と顔に書いてあるのが見えた。

「菊沢さん・・・お願いいたします。本当に正直にお答えください。ぜったい悪いようにはなりません。こんな状況ですが、支社長を・・私たちを信じてください。ボクが保証致します」

2千万円のツイン札束タワーに若干ドン引きしている私たちには気づかず、真剣な面持ちの神田川さんが悲痛に近い声で私に訴えてくる。

「真理っ・・・また興奮して、男の子言葉になってるよ・・・」

と稲垣さんが言うと、

「真理・・もう黙って。答えによっては敵かもしれないのよ?警戒してて・・・さあ、菊沢さまの奥様、本当にこれが最後ですわ。いろいろ誤解があっただけで、私たちは敵同士ではないと思いたいのです。それに私は、ただ情報を欲しているだけですの。嘘なく、有益な情報と判断出来きましたら、商談成立ですわ。ただ、奥様がお答えください」

・・・本当にそれだけ?ここで無駄に時間を消耗したり、無駄な戦いをしてもしょうがない。宏を見ると、サングラス越しでも目が合ったとわかる。

・・この程度の修羅場は、今までにもたくさんあった。捕まって拷問されたり、凌辱されたことすらある。そんなことに比べれば、まったく大したことがない。話し合いすら通じそうな相手で、うまくいけば報酬すら手に入る。それに今日は私にとっての世界一信頼できるパートナーがすぐ隣にいる。その世界一のパートナーが言ってくれた。

「ええよ美佳帆さん。好きにしても・・俺の勘やけど大丈夫やろ・・それにどうころんでも俺がどないかするから」

・・・・・・。普段はボーとしているくせに、最悪の場合8対2で対決という事態になるかもしれないのに、自信たっぷりに言い放つ旦那様を誰かに見てもらいたい、知ってもらいたいという乙女な衝動が股間から脳天に突き抜ける。

すごく頼もしいじゃない・・。宏・・もし、悪い方向にどうにかなった時はお願いね。・・それと、たぶん宮川さんも部下のために必死なだけのはず・・・。

それにこの人、見るからにお嬢様だけど、部下の為にポンと2000万円をかけて救い出そうなんて・・・普通しないしできない。
お金に汚い人は5万とみてきたが、ここまでお金に執着が無い人も初めてな気がする。この行動の全てが部下の為だとしたら、すごく良い人じゃない?・・・よし!

「・・わかりました宮川さん・・・知っていること正直にお話します。まずは、みんな座りましょ?そんなに殺気立ってたら疲れるでしょ?」

【百聞】を解除し、極力にっこりとした表情でそう言い、彼女たちの反応を待つ。

宮川さんの能力はおそらく人を操る・・それも同時に複数人。その能力は、さすがに私たちには使ってきてない、、害がある能力は私達には使ってないと言っていたし、さすがにそんなことすれば、完全な敵対行為。

あとはオーラ量が見えると言った。それに嘘は絶対に通じないとも・・相手の強さや発言の真贋を見抜く能力・・?どちらにしても恐ろしくも便利な能力。

私たちも橋元一味を相手にしながら、宮コーみたいなほぼ資金力が無限で、面倒な能力を持っている敵を作るのは馬鹿げてる。

神田川さんが初めてウチの事務所に来た時からの仕込みが嘘じゃないなら、彼女たちも橋元たちを敵視しているはず、それなら私達は味方同士になりえる相手のはずよ。さあ、どう出るの?

三白眼のアンバーアイがぼんやりと輝き私を凝視する。時間にして3秒ほどだとは思うけど、長く感じる。

宮沢さんふぅと息を吐きだしさっきの凶悪な笑みが別人と思ってしまうほど素敵な笑顔を見せる。

「・・感謝いたします奥様。商談になりそうですわね。まずはお茶を入れなおさせます」

宮川さんも最悪のパターンを想定にいれていたのだろう。そうならずに済んだのを確信したのか、ずいぶん安堵した様子だ。

彼女のこの変化・・たぶん私の何かを読み取ったのだ。・・しかしそれは宮川さんの能力に抵抗できなかったということ・・。

私は能力解除しているけど、宮川さんは能力を使っている様子・・でも宮川さんのこの安堵の表情は演技じゃないように思う。

稲垣さんも、神田川さんも気づかれないようにしているつもりのようだが、大きく息を吐きだし、緊張が途切れたのを私と宏は見逃さなかった。・・いま宏と私が踏み込んだら形勢は一気に動くはずだけど、宏も私も動かない。もうその必要がないと私も宏も分かっているからだ。

宮川さんが数度瞬きすると、わたしたちを囲んでいた、黒スーツの警備員は無言で応接室から出ていく。そして、眉間を指でマッサージするようなしぐさをしながら宮川さんが再びふぅと息を吐きだした。不思議な色味の瞳のままだが、もう光ってはないように見える。

応接室の壁に設置されている時計から、電子音が鳴る。たしか曲名は「it’s a small world」だ。ふとメロディにつられて時計を見ると午後3時を指している。

今しがた私たちが知り得た情報をあらかた話し終えたところだ。あれだけ濃厚なやり取りをしたにも関わらず時間にして1時間ほどの出来事だったことに驚く。

宏が壊した机は応接室の隅に移動され、新たに用意された机に、3度目のコーヒーとお茶菓子が置かれている。

コーヒーを運んできた女性が、半壊した応接机を怪訝な表情で一瞥したが、とくにそれには触れず「失礼しました」と応接室を出て行った。

宮川さんが、机に置かれたお茶菓子を指先で掴むと口に放り込み、むぐむぐという擬音が聞こえそうなぐらい美味しそうにほおばっている。

ラッピングからみるとゴディバのトリュフアソートだ。先ほどからお茶が出される度に補充されるお茶菓子のすべてを宮川さん一人で食べている。こんなに食べてるのに太らないのかしらと心配してしまう。

「とってもよくわかりましたわ、奥様。嘘偽りはございませんでしたわね。大変助かりましたわ」

ほおばったチョコを甘くなりすぎているだろうコーヒーで流し込むと宮川さんはそういった。

「以上が橋元一味についての情報のすべてです。もしかすると話し忘れがあるかもしれませんが、もし思い出したことがあればご連絡差し上げます。・・・・それと、不躾を承知でお聞きするのですが、宮川支社長の能力は人の言葉の真偽がわかるというものでしょうか?」

答えてくれるとは思えなかったが、私に対して思い切り能力を使ってきたのだ。答えてくれてもいいんじゃない?と思い聞いてみる。

「・・ふふふ、それは内緒ですわ。私もお二人の能力は気になりますが、お答えくださらないでしょう?お二人のオーラがそう言ってますわ。それに、鋭い美佳帆さまの御想像通りということで宜しいではございませんか」

「・・・そういうことにしておきます」

ほぼ、案の定の回答だったので、深く追求せずにおく。

「それより今得た情報をもとに私たちはさっそく行動を起こそうと思ってますの。商談も成立しましたし、そのケースはお持ち帰りください。真理、加奈子、まずは雫と咲奈が囚われている可能性の高そうな木島とかいうヤツのマンションに行くわ。次は港の倉庫よ。今日中に2か所強襲します。準備して。動きやすい恰好よ?3時半には出るわ」

質問には答えてくれない。それは仕方のないことなのだが、私の話した内容を疑いもせず、さっそく行動するのはさすがと言うべきか・・。

発言の真偽はわかる能力だとしても、あれだけ危険性を踏まえて説明したというのに、指示された稲垣さんと神田川さんも宮川さんに了解の意を示している。

「本当にお気を付けください」

橋元たちの力を知る私は、そういわずにはいられなかった。宮川さんは私と目を合わすと、にっこり微笑んで

「本日は、本当にありがとうございます」

と言った後、少しためらった様子を見せながら、意味深なことを言ってきた。

「・・・奥様。もし、いまの状態がお辛いなら、1日という単位でよろしければ私が解消してあげられますわよ?」

「なんのことやねん?」

宮川さんが言い終わる前に、間髪いれず宏が怪訝さを隠さずに割り込んでくる。割り込んできた宏に対して、宮川さんが宏をじっとみる。

「無粋・・・・腕は立ちそうなのに・・鈍感だわ・・。こういう男のほうが母性をくすぐられるのかしら・・?」

後半は声が小さく宏は正確には聞き取れなかったようだが、私は思わず吹き出しそうになってしまった。

「なんやて?あんたまた美佳帆さんになんかしようとしてたんやろ?黙って見過ごせるわけないやないか。なにが鈍感やねん」

「うふふふ、、あははは・・・」

宮川さんが声を出して笑った。稲垣さんと神田川さんが意外そうな顔でこちらの様子を伺っている。

「ふふふ、いいご夫婦ですわね。・・・奥様、困ったら真理に連絡してください。お力になれると思いますわ。・・・ご主人、ご心配なさらずに・・私は奥様には何もしてませんわ。ただ観察させてもらっただけです。それに・・・今日はご主人にしてもらったほうが解決するかもしれませんしね」

「わけわからんことはええから、これで話は終わりでビジネス終了ってことでええんやな?」

「けっこうですわ。私たちもすぐ出かけなければいけないので、お見送りはできませんが」

「ほな帰ろ。美佳帆さん」

しっかりとアタッシュケースを閉め、ケースの柄を握ると私も挨拶する。

「いろいろありましたけど、今日はありがとうございました。もしお力添えが必要な時は神田川さんに連絡致しますね」

隣の宏は頭を下げていないようだが、私はペコリと深くお辞儀をする。

顔を上げると宮川さん、稲垣さん、神田川さんも頭を下げ、顔を上げたところだ。神田川さんが重ねて目礼をしてくる。

「では失礼します」

応接室にいた3人の見送りはなかったが、宮コーの制服を着た二人の女性社員にエスコートされ宮川コーポレーションのビルから何事もなく出てきた。右手に持つケースはずっしり重いが、私の足取りは軽い。

多くのビジネスマンが行きかう歩道を歩きながら宏に話しかける。

「宏、今日はありがとう。一緒で心強かった」

「・・人が大勢おるところでそんなこと言われると照れるやんか」

「さあ、事務所に帰る前に久々の二人っきりね。どっか寄っていきましょ」

「美佳帆さん、えらい機嫌ええな、、どっか寄るんは賛成やけど」

「神田川さんはもちろん、稲垣さんや宮川さんも思ったよりいい人だったわね」

「稲垣っておれに怒鳴ったやつやん・・・。しかもオレ三流ホストよばわりされてんやで。それと、おれはあの半開き目の小娘、キライやねん。なんか、いけすかんわ。ごじゃごじゃと小細工しやがってからに」

「そう?稲垣さんと口の悪さは宏も似たようなものよ。それに宮川さんも、あれぐらい腹芸をしてくれたほうがやりがいあるわよ?ふふふ、少しスリルあったけどいい仕事だったわね。1時間で2千万よ?!」

久しぶりに心も財布も充実できる仕事だったので、ついたくさん話しかけてしまう。問題は山積みだが、今日くらいはいいだろうと宏と強引に腕を組む。

宮川さんには見抜かれてしまってたとおり、私の下半身は限界まできている。まっすぐ事務所には向かわず宏の腕をやや強引に引っ張りホテル街を目指して歩いて行った。

【第8章 三つ巴 4話 菊一探偵事務所~邂逅(かいこう)-対決~宮川コーポレーション 菊沢 美佳帆終わり。8章5話に続く】

コメント
ドキドキします
ピリピリしている緊迫の状況がヒシヒシと伝わる描写に興奮を覚えます。
そんな中でも、時折、入れこまれる、ちょっとした洒落の効いた表現にも笑わされているところが楽しいです。
これからも緊迫感のある表現と、時折織り込まれるほっとする洒落の効いた表現でドキドキさせてくださいませ。
楽しみにしております。
2018/05/15(火) 21:59 | URL | カリスマ店員 #-[ 編集]
カリスマ店員様
千景の一夜をお読みいただきありがとうございます。
展開については、現在はシリアスな物語へと移行していっておりますので、そのアクセントとして会話を通じて、少しの笑いも混ぜていけたらなと思っており、その点に気づいてくださったのは筆者としても嬉しく思います。

最近は、濃厚な絡みのシーンがなかなかなく、淫らなシーンを期待して下さっている読者様方にはヤキモキさせる思いかなとは思いますが、日常的なシーンも、絡みへ繋がる大切な物語の一部と思いお読みいただければなと思います。
今後とも是非、一夜限りの思い出話をどうぞよろしくお願い致します。
2018/05/16(水) 21:45 | URL | 千景 #-[ 編集]
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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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