第9章 歪と失脚からの脱出 52話 キレた銀獣の復讐
意思通り動けてるわけじゃないの?
経験や蓄積した熟練度はそのままに、通常能力で強化できる筋力や五感の性能を越えて発動する技・・・だと思ったんだけど?
それにしては・・・。
弱すぎる・・。
「うあぁああ!」
無駄。
そんなんじゃ十分な威力を発揮する剣筋にならないでしょ?
足の踏ん張りが足りないし、腰の回転と腕の振りのタイミングがずれ過ぎてる・・。
もうさっきの剣速で振るうには、身体強化が足りないってこと・・。
何がしたかったの?
最初の一撃には正直焦ったけど・・どんどん動きが悪くなっていってるじゃない・・。
ここまでのリスクを背負って発動しなきゃいけないほどの大技じゃないの?
「ねえ!何のつもりなのよ!?」
「あああああっ!」
「ああああっ、じゃないわよ!なにかほかに言えないの?!」
ゴスロリの目・・・。
勝てないと悟って私に怯えてるの?
てことは意識あるの?
不完全発動?
でも戦うのを止めようとしない。
前に大塚さんのマンションの屋上で戦った時は、気味が悪いぐらいの笑顔であんなに手こずらされたってのに・・。
いまのゴスロリ女・・いったいどういう状況なのよ・・。
「ザザゥ・・加奈子!豊島さんも見つけたわ。そっちはどう?」
ん・・真理。
でも今は・・。
「交戦中!手が離せない!」
・・ってほどでもないけど、こいつが私を油断させてるだけかもしれないしね。
「高嶺のゴスロリ?」
「ええ!もうすぐ終わるから後で連絡する!ブツッ!」
グラサンに風俗通いも無事・・、あとはあの油っこい顔の男、たしか千尋さんの彼だっけ・・。
真理達はそのまま千尋さんの彼を捜索してもらったほうが良さそう。
それにしてもゴスロリ・・このままなら自滅しそうだけど、能力を解除しないならこっちも手を抜く気はないわ・・。
って、でももう心配なさそうね。
またその太刀筋。
・・さっきよりさらに遅い。
「ふっ!」
「っぐぁ!」
もう隙だらけ・・。
右膝粉砕。
今の手応えだと脛骨体に深刻なダメージを与えたはず。
勝負あり・・ね。
もう機動力ないでしょ?
左足首の負傷に加えて、右膝も使い物にならない。
それにしても軸足を蹴らせるなんて、以前のこいつじゃ考えられないくらいどんくさい動き・・っていうかもうまともな動きじゃなくなってる・・。
「ああああっ!」
もうっ!しつこい!
「ぎゃう!」
脆すぎる手応え・・。
もう身体にまともな防御も纏ってない。
あっさり折れた。
鎖骨なんて急所砕かれるなんて、ほんとにもうどうしようもないわね・・。
これで両手も上がんないでしょ?
さあ、諦めなさいよ。
「ああ・・ぅうあ!」
「さあ、あなたを生かしておけなんて命令受けてないからね。覚悟しなさい?」
落とした刀ももう掴む握力もないみたいだし、鎖骨は砕いてるから腕もまともにうごかせない。
「あっ!あああっ!」
喋れないのって今使ってる能力のせい?
それしか言えないのかしら?
「まだやるの?」
「あぅ!がああ!」
「しつこいっての。能力解除してちゃんと喋りなさいよ」
アゴにもろに直撃・・。
もう全然ダメね。
こんな蹴りも避けられなくなってる。
本当は最初に見せたスピードとパワーがもっと持続する技能なんでしょうけど、グラサンとかと戦って消耗しすぎて、まともに発動しなかったのかもね・・。
ハム女もあのザマだったし。
菊一の男たち・・やっぱかなりやるのね。
それにしてもゴスロリ・・倒れたらもう立ち上がれないぐらい消耗してる。
でもそんな程度じゃ全然気が晴れない。
「何よその顔?涙流しちゃって、綺麗な顔が台無しよ?まえみたいに笑いなさいよ」
「あぁ!ぐ!ごはぁ・・きゃあ!ぎぎぎぎぎ・・!くっそ!」
踏み付けてる私の脚を、腕の力でもう防ぎきれてない。
でも喋れるってことは完全にオーラが切れて解除されたってことかな・・。
「万全な状態で戦えなかったのは残念だったでしょうけど・・、なにか言い残すことはある?」
「く・・そ・・!と・・とっとと殺せよ!」
イライラするわねえ・・。
このゴスロリ、自分がやったこと忘れてんじゃないの?
「あなた支社長や真理にしたこと覚えてる?」
「な、なんだよ・・!」
「まずこう」
がん!
「ぶっ!」
真理の顔は刀の柄で殴られて、顔に真っ青な青痣がついてたんだから。
いまの私の拳ぐらいの威力だったはずなのよね。
「次にここ」
すぶ・・ぶぶっ!
「いっ!?・・っきゃああああっ!・・・・っ!ちくしょう!!」
硬度を増した人差指で折れた左鎖骨のすぐ上を付き刺してあげる。
真理はこの状態で首を半分ぐらい切断された佐恵子さんの治療をさせられたのよ?
「なに喚いてんのよ。あんたはこの状態で治療しなくて良いんだから、真理が味わった苦痛より随分マシなのよ?」
「くぅ!うううう!ぎ、銀獣!・・こ、殺せ!もう殺せ!」
「殺すわよ。でもまだ話の途中。あなた次に何したか覚えてる?」
「な・・?・・ぐっ!まさか!・・てめえ・・!」
「次にあんたが佐恵子さんにしたこと覚えてるのか?って聞いてんのよ!」
「し・・しるかっ!」
「まあいいか。別に覚えてなくても。でも私の手刀じゃあ再現しにくいから・・どうしようかな」
あ、いいのがあるじゃない。
カチャリ。
「ひっ!・・ち・・ちくしょう!ちくしょう!」
その反応、何したか覚えてるじゃん。
「刀のことなんて知らないけど、これってかなりの業物なんじゃないの?・・このあたりかな?」
「ひ、一思いに殺せよ!た・・たのむ!」
「好き勝手ほざいてんじゃないわよ。・・・それに、自分の刀でさあ。ぶっ刺されるのってどんな気分なの?」
「・・ぎ、銀獣ぅ~!」
「まだ刺されてないからわかんないよね?じゃあ後で感想聞くから」
ずぶううううう!
「ぎゃあああああああああぁぁ!!」
佐恵子さんのあの傷・・肩口から肺に達して刺さってた。
でも普通に刀を刺しただけじゃあんな傷口にならないのは見たらわかる。
だから、あんたがこの状態から何をしたのかもよく知ってる。
ぐりっ!
「ぎっ!!!!!!っ!!ごぼっ!・・・っ!がっ!ごっぼ!・・っ!」
「痛い?こうやって刺した刀を回転させたでしょ?佐恵子さんも同じぐらい痛かったのよ?・・くるしい?肺に血液が流れ込んで呼吸ができないよね?佐恵子さんもそれをあじわったの。喉に血が逆流して苦しいでしょ?・・自分の血をたっぷり味わえてる?・・・で?感想は?」
「ごぼっ!・・・」
「ごぼっ!じゃないわよ。感想は?って聞いてんでしょ?」
まあいいわ。
これで終わり。
最後にあんたが真理にしたことそのままやってあげる。
真理は運よくエロ先生に助けてもらえたけど、あんたはそのまま逝きなさい。
「さよなら」
グッ・・!
ぐっ?
え?刀が振れない。・・刀に・・・糸?
これは!?
「な、凪ねえさん?」
何時の間にこんな近くに!
ていうか、なんで邪魔を?!
裏切り?凪ねえさんが?・・あの反則的な強さの蜘蛛が敵なの!?
私の能力じゃ相性が悪すぎる・・・!
蜘蛛の糸に対抗できるのなんて、くそびっち紅音の炎ぐらいしか・・!
はっ!?
蜘蛛がここにいるってことは?佐恵子さんは?!
モブなんかに蜘蛛が止められるはずがない!!
でも、凪ねえさんが佐恵子さんを襲うなんてありえない・・!
凪ねえさんは会長の直属の部下よ?!
どういうこと?!
蜘蛛は佐恵子さんともあんなに仲良しなのに?
何故?!
「・・・?加奈子。命令」
「え?」
凪ねえさんの目、怒ってる?
何に対して?
「・・・何をする気?」
それこっちのセリフなんだけど・・。
ゴスロリへのとどめを邪魔したり、それに命令って?
もっとちゃんと喋ってよ凪ねえさん!
「えっ?い、いや・・命令って?誰の?」
がんっ!!
「ぶっ!??」
痛ったーーーーーい!!
い、石?
どこから?
「頭を冷やす」
いまの凪ねえさんがやったの?
こんなでっかい石どこから?!
あ!後頭部ものすごく大きなたん瘤ができてる・・!
「私に殺気を向けるなんて、普段だったら許さないところ」
な、なるほど。
私が凪ねえさんに殺気を向けちゃったこと超怒ってんだ・・・。
「す、すいません凪ねえさん!私、気が昂っちゃってて」
「もういい。それより命令。殺すなって」
「命令って・・さ、佐恵子さんからですか?」
コクリ。
怒った顔のままでの肯首。
怖え・・!
いつも無表情か、微笑なのに・・怒った凪ねえさん超怖い。
それもそっか。疑って本気の殺気を叩きつけちゃったんだし・・。
でも・・、ゴスロリを殺すなって。
・・・それを伝えにきたの・・?
真理から連絡を受けた佐恵子さんが、ゴスロリと対抗する為に、凪ねえさんをこっちに向かわせたってことなのかな?
・・捕まえろって命令なのかな・・?
凪ねえさん、もうちょっと詳しく説明してよ!
うっ!・・凪ねえさんの眉間にしわが・・・。
また、石を飛ばしてくる?!
さっき石の投擲、幾ら強化してても痛いから、もうやだ!
「わ、わかりました・・!」
でもゴスロリは佐恵子さんや真理まで殺そうとしたヤツなのに・・。
ん?!
どうしたの?
凪ねえさん?どこ見てるんですか?
「えっ!?戦闘ヘリ?!」
白い光?!
凪ねえさんが避けたのと逆方向に向かって地面を思い切り蹴る。
どがっ!
なに?!これ!?オーラの矢?
「沙織―!」
これを撃ったのはあいつか?!
ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
ヘリからの機銃掃射!
「咲奈!雫!」
私が言うまでもなく避難してる。
よし、それなら・・。
仲間を助けにきたって訳ね?!
で、そのままヘリでトンズラするって計画か。
ちっ!脇役っぽい黒服野郎が固定機銃ガンガン撃ってくる!
それにさっきハム女を背負って逃げた長髪の女、弓矢の能力か!
やっかいね!この距離で相手が上空だとこっちからじゃ手出しが・・!
おおおおお!凪ねえさん!スパイダーネット!?
「【奔雷】!!」
バチバチバチバチバチバチ!
凪ねえさんが飛ばした巨大な投網みたいな糸が、青白い雷で焼き切られ力なく燃えながら地面に落ちていく。
「・・!」
ヘリごと包むみたいに飛ばした蜘蛛投網が・・!
凪ねえさんの糸は火に弱い。
糸の網を焼き払われた上、ヘリからの機銃掃射を受けて凪姉さんが飛び退り、ヘリと距離をとらされてる。
あの雷・・あんなのが出来る奴は一人しかいない!
やっぱりまだいたか・・。
「張慈円!」
グラサンたちもあいつは仕留めきれなかったのね!
「前迫!チャンスは一度だけだぞ!それ以上は本土まで燃料がもたん!それにわかっているな?!」
「もちろんです!いっきに寄せてください!!」
ゴスロリを回収するつもりね・・!させるか・・!
「【弓箭激光】!!」
ちっ!さっきの矢!?こんなに連射できるの?!
「くらえぃ!【奔雷】!」
うざああい!
でもスーツも着て能力強化した私にはそんなのが少々当たってもどうってことないわ!
一気に行く!
みすみす逃がすかっての!!
ガガガガガガガガガガガッ!
ちっ!機銃まで私の方へ向いてる!
「沙織!手を!」
くっ!間に合わない!
虚ろな目をしたゴスロリも最後の力を振り絞って、ほとんど動かないはずの右手をなんとか伸ばしてる!
矢も電撃も銃も何発か貰っちゃったけど痛みはない。
もう少しなのに・・動きが止められる??!
なんで?!
ヘリの風圧?!
くそっ!風圧うざい!
でも風圧だけでこんなに圧される??!
間に合わない・・ああっ!!
・・やられた・・むざむざゴスロリを・・!
地面にたたきつけた拳で、岩石質な地面に亀裂がはいる。
「加奈子!」
らしくもなく慌てて駆けて近づいてきた凪ねえさんの声も残念そう。
え?糸?サイズ採寸ですか?
私が凪姉さんの糸で作った服欲しがってたの、佐恵子さんから聞いてくれたんですか?
でも今採寸?いまは作戦中ですよ凪ねえさん・・?
でも、ま、いっか。今ので敵は全部逃げちゃっただろうし。
凪ねえさんの気が向いてるうちにお願いしちゃおう。
あれ?凪ねえさんって白以外の糸だせたんですね。
赤じゃないですか。
色が付けれるんなら、私的には青がいいんですけど、けっこう濃い青。って凪ねえさん聞いてます?
別にブラが欲しいわけじゃないですから、胸ばっかりに巻き付けないでくださいよ。
ちょっ!?だからって顔とかやめてください!
うぷっ!マスクもいりませんってば!
凪ねえさん製のマスクなんて豪華かもしれませんけど、勿体ないですってば!
希望は佐恵子さんが着てたようなトップスとかワンピが欲しいんです・・。
あれの青バージョンとかいいな。
肌触りがいいからインナーも魅力的なんですけどって・・だから凪ねえさん聞いてます?悪赤いマスクとかどっかの暴走族みたいだからいらないし、セクシーだけど真っ赤なブラもらっても私見せる人いないんですってば・・。
「加奈子っ!!大丈夫?!」
あれ?真理も来てくれたのね?
捜索はもういいの?
私は大丈夫だけどゴスロリに逃げられちゃったのよ・・。ごめん。真理の仇でもあったのに・・。
「じっとしてて!公麿もお願い!」
「もちろんです!」
え?治療?だれか怪我したの?
咲奈や雫まで。
4人がかりって豪華・・って私なんともないんだけど?
痛たたた?!
な?!なに??急に超痛い!!?
「もう少しよ加奈子!」
なにがもう少しなのよ?!痛い!痛い!痛いってば!
「胸と首はふさがったわ!公麿?」
え?だ、だれの胸と首がふさがったって?!
「なんとか!・・砕けてた頬骨も再生できました。すぐに駆け付けられたのと4人も治療できる人がいたから何とかなりましたね。スプラッタ気味になってたのはさすがに肝がひえましたよ・・」
「この穴の大きさだと25mm弾ね・・。9mm弾を想定してるスーツじゃ厳しすぎたんだわ。それに航空機銃の高連射性・・加奈子の頑丈さがあっても・・。・・・まったく無茶して・・もう少しで悲劇になるところだったじゃないのよ!バカ!バ加奈子!もう少し気を付けなさいよ!」
「バカとはなによ!」
わっ!?・・え?真理?
なんで抱き着いて?
真理ってそっち系じゃないでしょ?清楚な顔して肉食系じゃない?こっそり真理が男を時々つまみ食いしてたの知ってるんだから。私の視力や聴力を侮っちゃいけないわ。
それにこんな人前で・・。
なんで私の方が照れなきゃいけないのよ。
「声も問題ないみたいね」
涙目の真理の顔がこんなに近くに・・。
「え?・・・わっ!私血まみれじゃない!?なんで?!」
「もう大丈夫ですよ。傷口はすっかりふさがってます。それにしても危ないところでしたね加奈子さん」
「先輩・・無茶しないでくださいよぉ」
「もうダメかと思ちゃったじゃないですかぁ」
「メガネ画家・・、咲奈、雫・・ひょっとして私・・また死にかけてた?」
真理や凪ねえさんも含めた全員が首を縦に振る。
マジで・・?
・・・・ごめん。
マジ凹むわ・・・。
「あっ!通信!待ってね」
そう言った真理が私にまわしていた手を解き立ち上がる。
「はい・・はい!ではさっそく手配いたします」
真理の様子に全員の目が集中するなか、通信を終えた真理が、目に涙を溜めてはいるものの、ふだんのキラースマイルの笑顔をみんなに向けて振り向いた。
「三出さんも無事よ。さ、撤収しましょう」
【第9章 歪と失脚からの脱出 52話 キレた銀獣の復讐 終わり】53話へ続く
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中でも私がこよなく愛する加奈子ちゃんの登場の時は
一層楽しく読ませて頂いてます。
ただなぁ~
加奈子ちゃん、無茶ばかりで瀕死になる場面が多くて悲しいです。(╥﹏╥)
とは言え、楽しみにしておりますので、
これからも頑張って下さい!
いつも一夜をお読み頂き、そしてコメントをありがとうございます。
加奈子、久々の登場になってしまいましたが、大変物語でも重要な役割を担う人物ですので、今後も登場機会も多いかと思います。
そして性格的にどうしても、戦いに巻き込まれることも多くピンチな場面も多々ありますが暖かく見守ってやってくださいませ。