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第10章 賞金を賭けられた美女たち 2話 宮川コーポレーション関西支社のその後

第10章 賞金を賭けられた美女たち 2話 宮川コーポレーション関西支社のその後

宮川コーポレーション関西支社は先日の火災騒動のおかげで業務の大半は停止しており、いまはヘルメットをかぶった多くの工事関係者らしい人で溢れかえっていた。

幸い晴天に恵まれ作業には支障はなさそうである。

支社の敷地内にはいくつも重機や発電機が運び込まれ、作業員が忙しそうに慌ただしく働いているのが、仮設事務所の2階窓から見下ろせる。

関西支社ビルの上部半分は紅蓮の起こした炎によりほとんど消失しており、10F以下の火災の被害を免れた部分の機能も大部分麻痺している。

そのため、支社敷地内の駐車場などはヘルメットを被った作業員が大勢忙しそうに動き回っていた。

大規模な復旧工事が必要になるほど宮コー関西支社の被害は甚大だったのだ。

情報操作をし、多くの事実を世間に隠すことができても実際いまの宮コー関西支社はほとんど稼働できない状態に陥っている。

だが、そのことに頭を抱える暇も許されない3人の美女が、早朝から忙殺気味の過密な諸問題を猛烈に処理しまくっていた。

「ま~ったく・・あのくそビッチ。やりたい放題やってくれちゃって!紅音はあんな大惨事起こしたのに、また本社勤務に戻っただけって・・・。社長も依怙贔屓があからさますぎるでしょ!?」

白い工事用のヘルメットを被り、制服のスーツ姿の上に工事ジャケットを着た稲垣加奈子は、その括れた腰に左手を当て、右手で日差しを遮るようにして半壊した宮コー関西支社の社屋を見上げて不平を鳴らした。

そして、すぐそこの自販機で買ってきたスポーツ飲料のキャップを空けると、白い喉を反らしてゴクゴクと喉を潤しだす。

「本社がそうなのはいまさらでしょ?紅音は社長の愛人だしあの戦力よ?社長は紅音を手放さないわ・・何があっても。それに、会長が佐恵子に蜘蛛を派遣したことに相当焦ってるでしょうからね。・・蜘蛛に唯一まともに対抗できるカードが紅蓮。・・・だから、なおさらよ」

不平をいいペットボトルの半分を飲み干し、口を尖らせている加奈子の隣で、加奈子と同じような服装をした神田川真理は、顔を上げずにそう言うと、手にした資料と、目の前の長机の上に置いた複数のモニタを難しい顔で眺めては、時折素早く手元のメモ書きにペンを走らせている。

「佐恵子。これの確認と承認もお願い」

真理はそう言って、座ったまま後ろを見もせず資料を持った手を後方にバサリと差し出す。

「ええ・・ありがとう」

佐恵子も真理の方を見ず資料を受け取ると、その資料を長机の隣に置き、先に手にしていたバインダーに挟まれた膨大な資料をパラパラとめくり目を通している。

「だからってそんなあからさまな・・まだあれから1日と経ってないのに、本社のくそビッチの処置決定に一般社員の中じゃ不平満々なのよ?」

佐恵子と真理の作業を横目で見ながら、加奈子はまだ納得しない様子で二人の反応を伺うようにこぼした。

「あら、それでいいじゃない。その体制批判は私たちが浴びるべきものじゃないわ。非難の矛先は私たちじゃない。だから好都合でしょ?問題はこの状況下からの私たちの行動による結果・・・。いま宮川誠社長は紅蓮を庇ったおかげで多くの社員の信用を失ってるわ。こないだ佐恵子が関西支社長を解任されて失脚させられたとき、佐恵子や私たちを潜在的に妬む社員たちはほくそ笑んだ・・。少数とは言えそういう輩はいるし、誠社長と佐恵子、どちらを支持しているかっていいとこ8対2って比率だったわ。今はそういう輩たちを含め、日和見している社員や、社長の威光や方針に盲目的に従う社員の心を動かしやすい時なのよ。佐恵子や私たちに対するネガティブなパラダイムを変化させられる貴重な局面だわ。壊滅的な被害を受けた関西支社をどう再建するかだけじゃ足りない・・。そういう輩たちが持っていた不満ですら改善させてしまうことで、多くの一般社員たちの心情の勢力図を塗り替えられるチャンスってわけ」

加奈子の言葉に真理は資料に目を通しながら涼しい顔でそう応える。

そこに普段の真理スマイルはない。

この仮設事務所には佐恵子ら3人しかいないため、普段の牡丹の花が綻ぶような奥ゆかしい笑顔は必要ないのだ。

真理はそう言い終わったあとも忙しく資料を持ち替え、素早く報告書に目を走らせてページをめくっている。

「宮コー十指の良心・・。菩薩の神田川真理と言われてる真理しゃんの真の姿を皆にも知ってもらいたいですよ・・」

「何言ってるのよ。普段も今も真の姿でしょ?それになにか変なこと言ったかしら?加奈子も実はそう思ってるでしょ?そんなことより、ここは私たちに任せて加奈子は私たちの指示どおり現場が進捗してるか確認してきてちょうだい。下した決定事項と現実の乖離が起こるのは、今は特によろしくないわ。・・・あ、佐恵子これもお願い」

話しながらも手を止めず作業を進めている真理の様子に、加奈子は肩をすくめて頷いて了承の意を示す。

「わかりましたわ。それにしても真理、さすがに速いわね・・。眼が満足に使えない状態だと、真理と双輪の対になるにはわたくしでは役者不足ですわ・・」

「十分ですよ佐恵子。それより眼がきつくなったら言って?」

「まだ頑張れそうですわ」

改めて真理の優秀さに感嘆している佐恵子と真理の机の上には、ブラックコーヒーの入っていた紙コップがいくつも並んでいる。

昨日、Sと呼ばれる島から帰ってきたばかりであるが、休む暇などいまの支社の状態ではありえなかったのである。

佐恵子たち3人は早朝から山積している問題の処理に追われているのだ。

Sから帰った日の昨晩だけは佐恵子も真理も慌ただしいながら、短いが恋人と甘い時間をすごすことができた。

しかし今朝は3人とも5時から出社してもう4時間もぶっ続けで働きっぱなしである。

究極のホワイト企業を目指す宮川佐恵子であるが、その規定は自分に適用する気はさらさらなく、側近である真理や加奈子もその範疇に含めてしまっている。

それでも3人に不満はない。

優秀な美女3人は己が能力を十分に発揮できることで、身も心も充実しているのである。

自分の能力を発揮できる職場、それに加奈子以外の二人は自らの美貌に釣り合う彼氏もいる。

昨晩も、佐恵子は哲司と、真理は公麿と、加奈子は自分の指と濃厚な時間をすごせたのであった。

ただ、唯一自身も満足できたのは真理だけであり、佐恵子はモゲの施した呪詛のおかげで一度も満足することができなかったし、加奈子も一応は満足を得ることができたものの、2度目を一人で迎えたところで空しくなりふて寝してしまったのでっあった。

そんな恋人との濃厚な時間を慌ただしく過ごさなくてはいけない理由は、稲垣加奈子が愚痴っていたように紅蓮こと緋村紅音の暴走によって起こった業務の不具合、そして緋村紅音の支社長退任、それによる今後の再建計画の見通し、半壊した支社の再建で、いまや宮コー関西支社は蜂の巣を突いたような忙しさとなってしまっているからであった。

各部署から送られてくる膨大な報告書などを真理と佐恵子が高速で資料に目を通して、処理していく。

そして、宮川コーポレーション関西支社において、もっとも優秀な頭脳たる組織運営能力をもっているのは宮川佐恵子も認めているように、神田川家の令嬢、魔眼佐恵子の腹黒い参謀でありながらも、普段の笑顔は聖なる後光が迸っている宮コー十指の良心、菩薩と呼ばれる神田川真理であった。

ちなみに、真理の真の正体を知るモブからは密かに菩薩モドキと呼ばれている。

菩薩モドキとモブに密かに揶揄されながらも、真理の処理能力は本物で、【未来予知】の能力も相まって、問題の処理速度は常人のそれをはるかに上回っている。

資料を手にした瞬間に【未来予知】が働き、資料を作成した者の思惑や狙いとしている結果の期待値などが頭に流れ込んでくるためだ。

紅蓮こと緋村紅音が3か月とはいえ宮コー関西支社長に就任していた間に、偏向していた運営方針の是正、それによる歪み、そして今回の大惨事による被害及び復旧計画などのことで、真理はその能力と優秀な頭脳をフル稼働させてことに当たっている。

宮コーの各部署は言うに及ばず、下請けや協力業者、宮コーとアライアンス契約をしている企業も今回の騒動でかなり動揺していた。

それらの情報をまとめ上げ、出来得る限り最善と言える方策を導き出さねばならない。

ハインリッヒの法則において1件の重大な事故の裏には29の軽微な事故があり、その裏には300もの異常があると言われているが、真理は最大限の効果を導き出すべく、その一つすら逃さぬよう対処すべきと考えていた。

各部署の報告書の提出者は、さすが宮コーの部長職以上の者達で、細部まで細かく書かれ、その一冊一冊が目を通すのも膨大な時間を要するボリュームであるにも関わらず、真理はそれらの分厚い資料を高速で読み進めていく。

一般人が見れば読んでいないのでは?と思えるような速度でどんどん手にした紙をめくっているのだ。

そしてそれと同時に、愛用の万年筆がはしり素早く要点を纏め、対処案をメモ用紙に書きなぐっている。

書類の山をひっくり返さなければならない、もしくは各部署の部長クラス以上の者たちと熟考しなければならないような案件を、真理は一人で分析、判断、対処案を出していく。

もちろんそのようなことはいくら真理が【未来予知】の能力や真理の地頭だけで処理できるはずもない。

真理の頭の中には、宮コーの社内規定はもちろん法律、コンプライアンス、ビジネススキルのありとあらゆることが詰まっているからできる芸当である。

それらを熟知していなければできないことを真理は常人離れした頭脳を駆使し、もう4時間もぶっ通しで続けているのだった。

そんな真理がまた一つ分厚めの報告書をまとめ上げ、後方に座る上司の佐恵子に資料を回し、次なる報告書を目にしたとき真理の動きが止まった。

「え・・?」

真理のもとに集まってくる報告書類を高速で処理しまくっていた真理があげた声に反応して佐恵子も顔を上げた。

「どうかして真理?・・そろそろ休憩でもいれましょうか?・・わたくしも真理の処理速度に追いつけなくなってきましたわ」

目元を指でマッサージして背筋を伸ばした佐恵子は、自身の首を手で揉みながら真理に声を掛ける。

真理のもとに寄せられている報告は多岐にわたる。

重要な案件もあれば、郵便物などの簡易なモノもあった。

「佐恵子・・これは・・・。こんなことはさすがに想定してなかったわね」

真理はそう言うと、佐恵子の方へと完全に椅子ごと向き直ったのだ。

真剣な顔の真理の様子に佐恵子も真理が手にしている1枚の紙に目を落す。

「え!?」

「・・どうします?佐恵子」

真理が手にしている1枚の紙はエントランスに常駐している受付嬢たちが使うメモ用紙であった。

そこには予期しない人物の名が、達筆な文字で枠からはみ出す大きさで記載されており、来訪目的欄は同様の書体で商談と書かれていた。

宮コーに飛び込み営業をかけてくる営業マンは少なくない。

しかし、本日外部からの来訪者は原則シャットアウトしている。

ということは、この来訪者は門にいる警備守衛の制止を無視し、どうどうと正面から侵入してきたということだ。

そして、その者の来訪は佐恵子にとっても真理にとっても意外過ぎた。

「・・真理。モブと凪姉さまをお呼びして。そのあたりにいるはずですわ。それと・・わたくしたち以外にも今日は誰か能力者は来ていませんの?」

真理の手から用紙をとった佐恵子は、正面の真理にそう言い、社内を先ほどまで巡回していた加奈子に目を向ける。

「あ!えっと、グラサンが5階の自分のデスクのところにいました。あんな大怪我してたのにあの男タフですよね・・」

加奈子は佐恵子の問いに応えて、唯一元菊一事務所のメンバーで本日出社している男を見かけ、挨拶を交わした今朝のことを思いだす。

「そう・・菊沢部長が・・それは心強いですわ・・。では、加奈子は菊沢部長を1Fのエントランス脇にある応接室に連れてきて。大至急ですわ」

「わかりました。ってでも何があったんです?」

「・・敵よ。たぶん敵が来たの。報告が間違いではないのならね・・。だから加奈子も菊沢部長と一緒にくるのよ?」

「わ、わかりました!真理。急いで帰ってくるからここはお願いね!」

加奈子はそう言うと駆け出していき、佐恵子は真理を伴い蜘蛛こと最上凪と元底辺ドキュンのモブがいそうな場所へと足を運ぶ。

最上凪はモブなる得体のしれない無名の男が、妹のようにかわいがっている佐恵子の側近ボディガードに突然なったことに不安を感じたようで、その実力を試したいと言いだし、先ほどモブを連れ出していったのである。

「佐恵子も支社長に再任させられたばかり・・、いま支社は紅蓮がまき散らした難題だらけというのに、このうえ・・いったい何なんでしょうね。先日のSでのことが関係しているんでしょうけど・・なぜいまウチに・・?」

そう、宮川佐恵子が神田川真理の上司に返り咲き、宮川コーポレーション関西支社長へと再任したのであった。

紅蓮こと緋村紅音の暴走、そして逮捕という宮コーの大スキャンダルは報道されることはなかったが、宮コー内部は大混乱になり、その混乱をそのまま佐恵子に丸投げした形になっているのだ。

「・・きっと緊急で重要な用で訪れたのですわ・・。ただし、その者にとってですが・・。わたくしたちにとっては碌なものではないでしょう。しかしその報告が本当であれば対処しないわけにはまいりません。まったく・・この忙しいときに・・」

真理の問いに佐恵子は歩く速度を緩めず苦い表情で、自身に降りかかってくる災難には最早諦めている表情で応えた。

【第10章 賞金を賭けられた美女たち 2話 宮川コーポレーション関西支社のその後終わり】3話へ続く

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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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