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第10章 賞金を賭けられた美女たち 3話 商談前の戯れ

第10章 賞金を賭けられた美女たち 3話 商談前の戯れ

「ったく5階のデスクにいると思ったのに、おかげで探したじゃないのよ!手間取っちゃったわ!はやくはやく!」

加奈子は階段を駆け下りながら、後ろの男を急かす。

二人の男女は宮川コーポレーション関西支社の全壊した10Fから一気に階段を駆け下りてきている真っ最中だ。

トレードマークであるサングラスを掛け、ベージュのチノパンに濃紺のジャケット、インナーには黒いTシャツ姿という、宮コーが指定している男性社員の服装を完全に無視した菊沢宏は、前を駆けるようにして階段を飛び降りるように走り降りる加奈子に促されるまま階段を降っていた。

昨日宮川コーポレーション関西支社長に再任した宮川佐恵子からは、菊一メンバーにおいては、昨日の災難によるハードワークを穴埋めするために、本日はメンバー全員休暇が言い渡している。

しかし、宏は半壊した支社に菊一メンバーの中で唯一出社していたのであった。

孤島Sで華僑の倣一味と行動を共にしていた麗華のことが気になってしかたがなかったからである。

麗華が去った行先はもちろん、麗華の立ち振る舞いも気になっていた。

もともと麗華は口調も荒く、あの美貌であるにもかかわらず男受けがイマイチ芳しくない程お転婆だったのだ。

宏としても菊一事務所を運営していた際において、麗華は誰とペアを組ますか、どんな仕事をさせるか・・ということを考慮しなければいけないタイプのメンバーだった。

けっして悪い人間ではないのだが、麗華は良い言い方をすれば素直だったのだ。

その麗華が、華僑の倣に対しては深い敬意をもって接していた態度が腑に落ちない。

洗脳系の能力だと見当はつけているものの、そう決定してしまうにも、今後麗華の捜索を続けるにも情報が足りないと感じた宏は、自身の部署にある麗華の手がかりになる情報をかき集めていたのだ。

妻の美佳帆や部下のスノウが、大塚刑事の部下である杉刑事や粉川刑事を使って集めてくれていた資料を手に、佐恵子らが詰めている仮設事務所へと伺うつもりであった。

そして佐恵子らの仕事のタイミングをみて、麗華捜索の依頼を掛け合うタイミングをはかっていたのだ。

しかし、休憩もなくぶっ続けで働いている佐恵子ら3人のタイミングがつかめず、宏はそわそわしながらも、所在なく紅蓮が破壊した10Fの様子を見に行っていたというわけだ。

それが稲垣加奈子を走り回らせてしまった理由なのだが、そもそも今日休みのはずの宏が社内にいたこと事態が幸運なのであって、加奈子に文句を言われるようなことではない。

少し前の宏なら、加奈子の態度や、佐恵子ら3人の都合などお構いなしに麗華のことや自分の考えを優先させただろう。

だが宏は自分自身も宮コーという体制の中に身を投じたことで、佐恵子ら3人の常人離れした仕事に対する取組み姿勢に、徐々に感じいり始めていたのだ。

(俺の方が年上やのに、俺ばっかりが我通すわけにいかへんからな・・まったくあのねえちゃんら・・まだまだなところあるやろけど、普通あれだけの力を個人でもっとったら、もっと好き勝手自由気ままになんぼでも生きていけるちゅうのに、あの社会に対する献身性は大したもんや・・見上げた奴等やでホンマ・・)

階段を下りながら思惑に耽る宏は、前を駆け降りる加奈子の背中を見やる。

(この女もそうや。これほどの肉体強化能力があるんやったら、どんな世界でもやっていけるはずやって言うのに、宮コーに・・あの宮川のお嬢様のところにおるんはそれなりの理由があんねんな)

妻の美佳帆と初商談で3人とこの宮コー関西支社で出会った時は、最悪に近い印象で、じゃじゃ馬三人娘と一括りにしていた認識が、今や完全に変わっていることに宏自身も驚いていた。

それだけに宏の加奈子に対する口調も、菊一メンバーに対するような口調になってきている。

「わかっとる。急いどるやないかい。せやけど俺に同席してくれって珍しいな?俺を訪ねてくる奴は大抵直接俺のとこに来るねんけど・・・。宮コーにきた客で俺が会わんといかんヤツなんてそうおらへんやろ?」」

「そうだけど、今回は特別。高嶺が来たらしいのよ」

「なんやて?・・高嶺ってあの高嶺か?高嶺の誰が来たんや?!なんで先にそれを言わんのや?!」

「敵が来たって言ったじゃない!高嶺の誰って、高嶺弥佳子よ。高嶺製薬の社長!会社同士だと表向き、ウチと接点なんて皆無だからね。・・・来た理由って・・きっとSでのことでしょ!」

宏は階段を駆け下りながら、先日Sで立ちはだかった眼鏡の似合う美貌の女剣士、千原奈津紀のことを思い出し、その勝負の顛末が不本意な結末に終わったことに苦い表情を浮かべる。

「・・わかった。急ぐで!」

宏はやや伏せ気味になっていた顔を上げると、加奈子の背中に力強い声でそう言った。

一方、1Fエントランス脇にある応接室ではモブこと茂部天牙が苦しそうに手足を不自由にバタつかせ、空中でもがいてた。

「ひどい」

「ちょっ!?ぐるじい!!・・いでで!・・な、何のつもりっすか?!」

空中でもがくモブを、呆れ顔で眺めていた白づくめの女、最上凪は眉間にしわを寄せてから軽くため息をつくと指を弾いた。

どさっ!

「いてっ!」

全身真っ白のゆったりとしたワンピース姿の凪は、大理石の床で尻を強打したモブに背を向ける。

「なんなんすか!?力を試すって言われたって・・!いきなりこんな仕打ちするなんてあんまりっすよ!」

「もういい。静かにする」

その白い華奢な背中に向かって抗議の声を上げたモブであったが、振り返って静かに言う蜘蛛のセリフに背筋を凍らせた。

けっして大きな声ではない。

言葉も乱暴ではなく、細い透き通った声で静かに言った蜘蛛に怖気づいたのだ。

身長190cm近くもあり、恵まれた体格のモブが、見た目か細い女の発した言葉に言い返すことができないでいるのだ。

「な・・なん・・!?」

街ではどんな不良共やヤクザにもここまでビビったことはない。

しかしそのモブも、凪に真正面から見据えられると、言葉が口からうまく発せられず、身が・・いや心が竦んでしまったのだ。

モブは数か月前オルガノで支社長こと宮川佐恵子と初めて対峙した際も、異様な気配に直感が最大警鐘を鳴らしたことを思いだしていた。

目の前にいる掴めば壊れそうに見える華奢な女が発する言葉には、かつてのアラームを超える凄みがあった。

いや、言葉だけでないその目、雰囲気、オーラ、凪も決して威圧しているわけではないのだが、今のモブにははっきりとわかる。

能力者としての自分との差が、どれだけ開いているかわからないぐらい開いていることを感じてしまったが故の恐怖であった。

疑い、僅かな期待、そして失望からの侮蔑。

それはモブと出会ってからの最上凪の心境の変化である。

最初はモブも最上凪のことをキレイな姉ちゃんだな。ぐらいにしか思ってなかったのだが、上司である宮川佐恵子が姉さまと敬称を付けて呼び、周囲から蜘蛛と畏怖されている人物が只者であるはずがなかったのだ。

しかしいまははっきりとわかる。

モブの目の前にいる華奢な女は自分より上位の能力者だということが・・。

それも圧倒的に上だということが、一瞬のやり取りであったが身に染みてわかったのだ。

しかし、それをそう感じ取れたのはモブが能力者として確実に一定レベル以上に成長した証でもある。

両肘をかるく掴むようにして両腕を組み、首をかしげて尻もちをついたままのモブを見下した格好のまま凪は口をひらく。

「私は望まない」

静かな声でそう言い、見下ろしている冷淡な目には侮蔑は消え、落胆が感じ取れる。

「・・・へ?・・な・・なにをっすか?」

「だまる。必要ない」

言葉足らずでいったい何を言っているのかモブにはイマイチわからないが、目の前にいる蜘蛛こと最上凪はどうやら自分に興味を失ったのだとわかった。

言葉も少ないし、表情にもほとんどあらわれていないが、はっきりとソレが態度や雰囲気で伝わってくる。

しかし、モブはいくら恐怖に心が支配され、凪を失望させてしまったとはいえ、最上凪は味方であるという認識から、かなり怖気ながらも質問する。

「わ・・わかんねえっすよ。なにを望まねえんすか?!なにが必要ないんすか?!俺がここにいるのを望まねえってことっすか?!それとも俺なんて必要ないってことっすか?!俺・・これでも前よりは随分マシになったんすよ・・。オフクロにもようやく安心してもらえて俺・・ここなら・・ここなら今までの俺のクソみてえな人生やり直せそうなんすよ・・!もう一度やらしてくださいっす!お願いします!」

モブは、最上凪に及第点を付けてもらえなかったと感じたのだ。

今まで好き勝手に生きてきたが、ここ最近の自分は出来過ぎている、ツキ過ぎているということもわかっていた。

しかし、それだけに簡単には諦められなかった。

ここで凪に見限られ、宮コーを去らなければならないように仕向けられるかもしれないと思うとモブは是が非でも、何にでも縋りたい思いに駆られていた。

そんな様子のモブを凪は冷ややかに観察している。

神田川真理や稲垣加奈子の職位称は「主任」と呼ばれているが、それは正確ではない。

能力者であり且つ役員のボディガードを兼ねる側近は「秘書主任」という職位が与えられ、部長クラスと同等かそれ以上の権限がある。

そしてモブも佐恵子が支社長に返り咲いたせいで、役員のボディガードとして自動的に「秘書主任」の辞令が下っていた。

モブ本人はまだよくわかっていないが、それは大変な出世である。

府内トップの低偏差値高校を中退したモブでは、本来到底到達できるボジションではない。

雨宮雫や楠木咲奈のように名門大学を主席に近い成績で卒業し、能力開発を受けているエリートたちですらまだその職位ではない。

ついこないだまでヤクザどころか、裏ビデオ作製販売が主な収入源という半グレ組織の下っ端構成員であったモブこと茂部天牙というチンピラなどが成れるものではないのだ。

ゆえにモブの預かり知らぬところで、昨日からモブは、秘書主任を目指しているエリート候補生たちの中では噂の人物であった。

最上凪は現会長宮川昭仁の側近であり当然秘書主任であり、秘書主任としては最古参である。

その凪としても新米の秘書主任には興味があったのだ。

しかも、ポッと出の無名の新人がいきなり秘書主任になったばかりか、可愛い妹分の側近になるとはいかなる人物か・・と疑い、そして少し期待していたのだ。

若いが能力者として優れている、もしくは近くに置いておきたいほど頭脳が明晰か、もしかしたら佐恵子が男として気に入ったのかもしれない・・、それならば応援は吝かではないが・・とすら最上凪はモブのことを見ていたのだ。

しかしである・・。

いま見たが、実力は全力でなかったにしても大したことがないと推測できる。

以前モブが受けたという筆記試験結果も閲覧したがひどすぎる。

恋人という線も「そんなわけありませんわ」と苦笑い気味にはっきり佐恵子本人から完全否定された。

(野良犬や野良猫みたいに能力者なら誰でも拾ってくる癖治ってないわね・・。能力者の力が貴重なのはわかるけど、だからこそ、その品性が大事。この男が裏切らないという保証でもあるというの?魔眼で見たと言っても、人の心は移ろいやすい。ずっと監視が必要な人物が主任秘書だなんて反対だわ。加奈子からはこいつを警戒するようにって忠告されてる。真理にいたっては、こいつのことは実験動物ぐらいにしか思ってない節がある。加奈子や真理がいるときに悪さは出来ないでしょうけど、秘書主任は役員近くに侍り、権限は絶大で機密情報も手に入れやすい・・。弱い心の人間ならすぐに腐敗する。だけど佐恵子は・・・甘やかされ育ったせいで自分には誰もが優しく接してくれると思ってる気質が抜けてない・・私が来たからには私がしっかりしないと)

「・・・」

モブの懇願する必死に近い視線を、美しい無表情の鉄面皮で跳ね返しながら凪は考えを巡らせるも言葉にはしない。

しかしモブの懸命さとしつこさに、凪もモブを諦めさせる引導を渡さんが為、もう一度チャンスを与えることにした。

「・・・・もう一度」

凪はかなり長い沈黙の後、静かな声で言った。

するとモブの目に途端に希望の光が灯った。

「ありがとうございまっす!」

モブは勢いよく立ち上がってそう言いながら、ばっ!と腰を90度折り、頭を下げる。

先ほどモブは凪に実力を測られた。

モブにとって最初、凪は容姿が華奢で頼りない女性に過ぎず、「力を見る」と言われても全力でかかれなかった。

それゆえ、モブの見せた力を「ひどい」と評価されてしまったのだ。

しかし、宮コー十指の蜘蛛、紅蓮とは相性の悪い能力と言われながらも、紅蓮に対抗しうる戦力と言わしめる碧眼の蜘蛛最上凪を見た目通りと侮り手を抜くことは最早ない。

当の最上凪はモブの奮起になど興味はない様子で人差指をちょいちょいと曲げて、かかってこいと合図をする。

(全力でいくぜ!栗田先生直伝の・・・!)

「【念動力】!!!」

モブの両手から放たれたオーラの波動が凪を捉え、後方へと吹き飛ばす。

「・・!」

(念動力?まさか本当に念動力とは・・?こんな燃費の悪い技能を使えるのには驚き。・・でもすぐにガス欠になるんじゃ・・?)

凪はそう分析しつつ念動力によるオーラの波動を逸らし、その影響の範囲から逃れるように脱して応接室の大理石の壁に足だけで張り付く。

「おおおおおっ!【拳気】、【疾風】、【即応反射】!」

念動力を躱されたことに同様するでもなく、凪が回避する一瞬の隙にモブは自身を強化する付与術を発動させていた。

「・・・」

(付与に逆技技能まで・・見た目によらず器用。肉体強化もしつつここまで偏った技能を使うとなれば、さっきのは本気じゃなかったのね。これなら戦力として使えるかも)

「先生直伝っ!!【執刀】!!」

そう言うとモブの右手の人差指と中指から30cmほどの青白いオーラの刀身が現れる。

「おらぁぁぁ!!ああ??!」

発現したオーラの刃を構え、雄叫びを上げ勢いよく地面を蹴ったモブが突如困惑の声をあげる。

「・・っく・・」

呻いたのは凪であった。

モブの首、数センチという所まで白刃が迫っており、その刃は空中でなにかに動きを阻害されたかのようにブルブルと震えている。

「だ・・だれだてめえ?!」

そう叫んだのはモブであり、そのモブの目の前に、いつの間に現れたのか見たこともない佳絶柳眉の美女がスーツ姿で会議室の長大なテーブルの上に片膝を付いて刀を抜き放っていたのだ。

「あ・・あっぶねえ・・!」

モブはここでようやく女が自分の首を切り落とす為に放った一閃の刃を目視し、顔を青く染めて呻った。

「後ろ!飛べ!」

壁に足だけで張り付くように立っている最上凪が、モブとスーツ姿の女剣士にそれぞれ手を向けて踏ん張りながら、今日一番の大声をあげた。

凪によって部屋中に一気に見えないほどの細さの糸が張り巡らされており、その糸の何百本かで女が放った神速の一閃を受け止めているのだ。

見えない糸の張力により、部屋中にギリギリッと不可解な不協和音を奏でている。

「うっす!」

凪のセリフの意味や、部屋中に響く音のすべてを理解したわけではないが、モブは直感を信じ、凪に言われた通りに刀の発現を止めて後方へと地面を蹴る。

「うおっ?!おあああ?!なんで?!!」

モブは確かに後方へと飛んだにも関わらず、あり得ない軌道で空中を滑空し、背面の壁ギリギリを滑るようにして空中を移動して、スーツ姿の女のずいぶん手前にいる最上凪の背中まで引っ張られるようにして飛んでいったのだ。

「な・・なんなんすかいまの?!」

「黙る。忙しい」

背に隠したモブを肩越しにチラリと見やり、凪が呟く。

「付与。私にも」

「・・・ガス欠っす・・面目ないっす」

高燃費の念動力、発動させた執刀も高燃費であり、モブはオーラを使い果たしていたのだ。

「・・・いい」

自身の背で隔した若く多彩な能力者を戦力と期待しかけた凪は、落胆しつつもそう言って気を取り直し、目の前の女に意識を集中する。

「久しぶりですね。・・たしか最上さんでしたか?つい抜いてしまいましたが、すぐに栗田ではないと分かったので斬り飛ばすつもりではなかったのですよ?それより、宮川会長はご壮健ですか?」

「・・どの口が。飛んで火にいるなんとやら」

「ふふっ、虫は蜘蛛と呼ばれる貴女のほうがお似合いなのでは?」

そう軽やかに笑って会議室の中心にあるテーブルの上に立ちあがり、抜き放っていた白刃、備前長船を流麗な動作で鞘に納めた女、高嶺17代目当主高嶺弥佳子がそこにはいた。

「その男・・栗田にしては若すぎますね。ですがその刀身の光・・忘れもしません・・!」

柳眉を吊り上げ、凪の後ろにかくまうようにされている大柄なモブに鋭い目を向ける。

「御屋形様~。穂香にさっき大人しく待ってろって言ったのに御屋形様が始めちゃってるじゃないですか~。ってことで穂香も混ざって良いですよね~?」

「御屋形様。穂香さんも・・散々待たされましたが、ここの主人がようやく表れたようです」

弥佳子の入ってきた扉から、二人の女性が現れた。

一人は緩そうな表情の豊満なロングソバージュの女性、もう一人はいかにもお堅そうな細身のベリーショートの女性である。

「・・・私としたことが・・。そのオーラについ反応してしまいました。そこのデク男。隠れてないで出てきなさい。穂香さんの言ったとおり、女の背に隠れて恥ずかしくはないのですか?しかし、まさかその若さで天穴を使えるとは・・宮コーめ・・。まあ、まずは話し合いでしたね。穂香、静いいわね?」

当主の言葉に二人の部下の女性は軽くだが恭しく頭を下げ了承の意を示す。

「デ、デクって?・・俺のこと?!」

カツカツとヒールの音を響かせて上座の一番上等な席にドサリと座って足を組んだ弥佳子に向かってモブが声をあげた。

「貴方以外に誰がいるのです」

肘置きに頬を付き、モブに微笑を向けて揶揄うように弥佳子は声を掛ける。

「だっさーい。女の背中に隠れちゃって。ママー助けてーって?」

弥佳子のすぐ後ろに追従してきていた、ロングソバージュの豊満な女剣士の方が身振りを交えてモブを更に揶揄う。

「んだとぉ!?」

穂香と呼ばれた女の挑発にモブが激昂し声を荒げると同時に、穂香と呼ばれる豊満な女性もにこやかな表情を崩さず、隙の無い動きで白刃を鞘から引き抜いた。

モブは前に出ようとガッつくが、凪の糸がそれを許さない。

「やっぱやっちゃおっかなぁ~」

そう言い、ソバージュ女の表情の笑みが深まったところで、斬り飛ばされた会議室の扉のほうから声が掛けられた。

「武器はお仕舞になさって。戦いをしに来たわけでもないのでしょう?」

会議室の入口に真理と加奈子に左右を護られた佐恵子が現れ、部屋の上座で座っている弥佳子たちに声を掛けたのであった。

「ずいぶん待ちましたよ。宮川佐恵子さん。ここも私の手の者から聞いていた報告より随分ひどい有様で、ご心労お察しします。」

「心にもないことを・・。凪姉さま、モブも此方へ」

弥佳子のセリフに佐恵子はカツカツと音を響かせ歩きながら横目でそう返すと、真理、加奈子、宏を伴って仕方なく下座の席に座る。

凪もモブも壁から降り、下座へと向かう。

「なんで俺たちがこっちなんすか・・?あいつ等偉い奴等なんすか?俺なんであの女に殺されかけたんすか?!全然知らねえ女っすよ?!」

「疑問。我慢できない?」

不平を漏らしたモブは、凪に呆れた口調で叱責を浴びせかけられ、他の女にそう言われた覚えでもあるのか「うっ」と呻いて黙ってしまった。

そんな調子のモブ以外は、わざわざ出向いてきた高嶺の頭領に、佐恵子たちは緊張の面持ちで身構えており、佐恵子以外は誰も座る事無く、商談とやらが開始されたのであった。

【第10章 賞金を賭けられた美女たち 3話 商談前の戯れ終わり】4話へ続く
コメント
ありえなさそうな組み合わせ希望
こんばんは。第1話からずっと読んでいます。
香澄のファンですが、最近では真理や佐恵子も好きです。
しかし千景さんの小説はやはり絡みのシーンが1番の見せどころだと思いますので、今後希望するのはえっ?その2人がそうなるの?と思わされるような組み合わせでの絡みが見たいですね。例えばモゲと真理や、みかほと北王子のような本来の相手ではない感じが僕は興奮します!是非お願いします。
2020/04/11(土) 23:18 | URL | 香澄のファン #-[ 編集]
香澄ファン様
第1章からお読み頂き、そして素晴らしいご意見ありがとうございます。
ご提案は展開次第ではございますがその組み合わせ望んでいる方がいらっしゃることを頭に置いておきますね。
今後とも是非一夜をよろしくお願い致します。
2020/04/12(日) 00:44 | URL | 千景 #-[ 編集]
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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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