今日は私の古くからこの町で商売敵と言うべきか
商売仲間と言うべきか古賀と言うそれはそれは
とてつもない悪い男から紹介して貰った真面目な
登記屋・・・
今は土地家屋調査士とか司法書士とか堅苦しい
賢そうな名前のついた先生が来る予定になっていた。
私は自社ビルの最上階の6階の社長室で自分の
デスクの前でタバコを吹かしながら待つ。
まだ時間は約束の17時30分に30分ほどあるが
本来ならば自分名義のマンションを義弟の
健太名義に変更するくらいの依頼は社員や
秘書にでも任せるのだが今日は特別に自分で
依頼話をしてみようと思った。
あの狸の古賀が紹介してくれた登記屋は
30代の男だと聞いていたので仕事さえきちんと
できる男なら問題ないだろうと思い古賀の顔を
立てる意味でも紹介してくれた小田切と言う登記屋
を使う事にした。
小田切と言う名は古くからこの町で表でも裏でも幅を
効かせてきた私は聞いた事があった。
モラルの塊のような男。
法律に反する依頼は一切受けないと言う
融通の利かない男。
そういう噂しか聞かなかったのでこの私としては
当然そのような堅い男とは会う機会はなかった。
おそらくは古賀が紹介してくれたのはその息子
だろう・・・・
そう思ったが親が親なら子も子だろう・・・
小田切と言う男の息子なら腕は確かだろうから
まあ良いかなくらいに思っていた。
しかし私に連絡をしてきたのは電話でも解るくらい
聡明な美人の女が電話してきた。
いや電話で話しただけで美人と言うのはおかしいと
思うだろうが私には解るのだ。
何を言っているかと思うだろうが私は昔から少し
特殊な力を持っていた。
この力が無ければ中卒で腕力だけが自慢でただの鳶であった
この私が42歳でこの町の裏の顔とまで呼ばれる事にはならなかった。
いやなる事が不可能だった。
今では府会議員のドンとまで呼ばれるジジイが私に頼みごとを
持ってくるくらいだ。
私がこの力に初めて気づいたのは21歳の時だった。
鳶の仕事をさぼり親方から呼び出され小言どころか
2,3発拳を貰い地面に這いつくばっていた時・・・
『お前には期待しているんだから
しっかりしろ!』
と声が聞えた。
その時は親方が言ったものだと思い
「すみませんでした・・・
ありがとうございます」
と口から出ている血を袖で拭きながら
立ち上がりそう言うと親方は
「何だ?橋元
お前は殴られたのがそんなに
嬉しいのか?」
と笑いながら肩を貸してくれて
その後ラーメンを食べに連れて行って
くれた。
この時は親方は何も言っていなかったみたいなのだ。
この日を境に私には【声】が聞えるようになった。
最初は雑音ばかり聞こえうるさかったが慣れることに
より聞きたい相手の声だけを聞けるようにコントロール
することができるようになってきた。
そして気づいた事は私に聞こえる声とはその人間の
願望、欲望、欲求の類の望みなのである。
それが解った時私はただうるさいだけだったこの力を
与えてくれた神に感謝した。
そしてどうやら力は進化しているようだった。
聞こえる声の願望はその人間が心底欲しい物
物欲、性欲、出世欲など様々だが本人すら気づいていない
その人間の奥底に眠る欲望もある。
そして力は進化しこういった部屋の中くらいの
距離に居る場合はその時その人間が考えている事
まで解るようになってきた。
そして最近では電話などで会話している相手の容姿
や内心考えている事まで解る。
これは文字通り解るで聞こえるのではなく
私に響く形で解るのだ。
私はこの力が進化していきこれらの事ができるように
なった時に鳶を辞めてもっと大きな事をしようという
野望に目覚めた。
親方は本当に良い人であった。
私が良い人と判断する良い人は本当に
良い人である。
考えている事が解るのだから当然だろう。
しかし良い人は世の中を上手く渡っていけないだろう。
それはこの力を得て特にそう思うようになった。
所詮この世の中には欲望のない人間など居ない。
少なくともこの私が見て来た人間の中には居なかった。
そしてそれを我慢する人間が世に言う良い人と言われる人である。
しかし良い目に合うのはその欲望の声を張り上げ主張する人間なのだ。
私は親方のようにはなりたくなかった。
しかし声を張り上げ品性を落としてまで良い目をしたくない。
それならば私に良い目を見させてくれる相手には
相手の欲望を満たしてあげれば良いだけの事。
私にはそれが解るのだから。
私は鳶をしながら宅建の免許を取り25歳で不動産屋として
独立した。
この力のおかげで商売に困る事はなく順調に会社は
成長した。
しかしこの力の素晴らしさは富を得るだけでは
無かった。
これだけの今の地位と富があればたいていの女は抱ける。
女を抱くときにこの力のおかげで相手には極上の快楽を与えれる
ようになったのだ。
しかしそれでも地位と富だけでは抱けない人種も居る。
金で転ぶ女だけではないというのもあるが相手が既婚者
の場合だ。
そして旦那に操を立てている人妻。
私の女性への興味は時が経つに連れて移り変わり今はもう金を
手に入れるよりも地位を向上させるよりもそれらだけでは
手に入らない、人妻の本性を暴きそれを映像に収める
事だけにしか興味が無くなっていた。
自分が直接抱くことも楽しいが、雄力が圧倒的に秀でた
男に抱かせたりするのも楽しいものだ。
橋元は吸っていたタバコを灰皿で消し
新しいタバコに火を付け2本目を吸いながら
さらに物思いにふける。
しかし人妻なら誰でも良いと言うわけでは無い。
ある程度の容姿が必要という事は言うまでもないが
そこに金や権力に屈しない強靭な精神力も合わせ
持つ女が理想である。
中々そういう女は居ないのである程度ハードルを
下げても充分楽しめてはいるが。
しかしこの力があるから全ての事が上手く行くとは限らない。
人の願望欲望そして決断と言うものは日が経てば変わる
事もある。
この間私の裏の楽しみの相棒と言うべき水島さんが失敗
したあの大原という青年。
彼は私とBARで話した時点では完全に私の指示通りに
動く気になっていた。
彼は心の中でも
「岩堀主任とSEXできるなら仕方ない」
と言っていた。
まあ金は本当にいらないタイプだったみたいだが
あの男は性欲で釣れた口だったんだが・・・
おそらくは直前で心の底にある気持ち自体が変わった
んだろう。
あれが良い例だ。
ふぅ~
タバコの煙を大きく吹き出し短くなったタバコを
灰皿で消すと時間は17時18分・・・・
電話で話した小田切の息子の妻というあの女・・・・
あれは良い女だ・・・・
久々に私が直接仕事したくなるほどにね・・・
直接会って【声を聞いて】みないとまだ判断が
付かない部分もあるがあの女・・・
旦那に操を立てているがもしかしたら旦那以上に
操を立てている?
感じた感覚では操を立てると言うよりは忠誠を
誓っているという感覚かな?
いや尊敬?憧れ?
そういう男がいるはずだ。
それに加え電話越しに【視えた】あの容姿・・・
見た目から優等生と解る気品と知性も併せ持ち
金にも困っていないだろう・・・
身体も細身に見えるが中はそこそこ熟れだして
いるだろう・・・
私の目もそこまで視えるようになれば便利なのだが
力の進化とは本人の望み通りいくものではないらしい。
しかし小田切の息子の妻・・・
学歴などは私とは天と地ほどの差があるのだろう・・・
面白いゲームが楽しめそうだ・・・
橋元が腕に嵌めているスイス製の高級腕時計を見ると
針は17時20分を指していて橋元の読み通り社長室の
部屋がノックされた。
《第4章 寝取る者に寝取られる者 第8話 千里眼 橋元浩二 続く》
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