私が思った通りの約束の時間10分前に
部屋のドアがノックされた。
コンコン。。。
一昨日電話で視た通りの几帳面で生真面目な
性格なのだろう。
ここ最近の主流では約束の時間丁度に
訪問と言うのが良しとされる中一昔前の
約束の10分前には訪問と言う古い教えを
大事にしているのであろうこの小田切の息子の
妻に私は既に好感を抱いていた。
いやそれを言うならば昨日電話で視た時に
既に好感を抱いていたのだろう。
そうでなければただの所有マンションの1つのを
義弟の健太に移す事だけの為に私自ら会う事など
しないであろう。
「どうぞお入りください」
私は極力ボリュームを控えたそれでいて
明るめの声で入室を促した。
一昨日電話で視た時にこの小田切の
息子の妻である女先生は
私の素の声がどうも大きすぎて不愉快と
感じると心の中で呟いていたのを感じた。
解っている以上初対面の女性に不快感を
与えるなど何の得にもならないので自分の
裁量で出来る事くらいはしてやるようにして
いるのは商売を始めた頃からの習慣で1度
身に付いた習慣というものは中々抜けるもの
でもなく
「失礼致します
初めまして。
橋元社長様でいらっしゃいますね。
わたくし小田切登記事務所の
小田切響子と申します。
この度は所有権移転登記の件の
ご依頼ありがとうございます。」
ドアが開くと室内に透明感漂う
それでいてその透明感の中に
微量の爽やかではあるが
人を魅了するような香りを漂わせ
ながら彼女はドアを閉めバッグを
両手で持ち足を揃え模範的な姿勢で
直立し私にお辞儀した。
古風・・・
知的・・・
大和撫子とも言えるその
立ち振る舞いの奥底に
眠る人妻である彼女の
まだ解放されていないであろう
淫らな【女】の部分。
私は神経を研ぎ澄ませ久々に
私をここまで押し上げてくれた
【力】を使う。
私は彼女。小田切響子を視ながら
向かい合うソファの下座の横まで
歩を進め彼女に上座を手の平で
指し
「わざわざ
ありがとうございます~
小田切先生。
すみませんな~
お忙しいでしょうに」
と私が座るまで座る気は無さそうなので
先にソファに腰を下ろした。
クリーム色のスーツに薄いピンクの
ブラウスに同じクリーム色の膝が少し出るほどの
丈のタイトスカートという服装でソファの脇に
姿勢正しく立ち尽くしていた小田切響子が
私が腰を下ろすのを確認して
「失礼致します。」
と先にソファにバッグを置き
その後に腰を下ろす。
深く腰掛けずにスーツの
ポケットからハンカチを出し
ハンカチを4分の1に降り
タイトスカートの股間の
ゾーンに置く姿が奥ゆかしく
感じる。
保険の勧誘に来るお姉ちゃんや
OA機器の販売に来るお姉ちゃんになら
それくらいサービスしてや~
ハンカチどけいっ!
と笑いながらがなる所だが
この小田切響子という人妻司法書士は
私の普段の性格をかきけすような
彼女が居るその空間自体に品性を
漂わせるような空気を持っている。
私とは全く正反対の育ちをしてきたのだろうな。
そう思わされる。
「改めまして宜しくお願い致します。
小田切響子と申します。」
彼女がバッグの名刺入れから自分の
名刺を取り出しソファとソファの間に
あるガラスのテーブルに差し出す。
名刺を差し出した彼女の左手の
薬指にはプラチナ製の結婚指輪が
光っていて私の性癖に火を付ける。
私は彼女が入室して来た時から数分では
あるがずっと視ていた・・・
この女・・・
おかしい・・・・
私は動揺しながら内ポケットから
名刺を取り出し彼女の名刺交換に
応えるために自分の名刺を差し出した。
「これはこれは・・・
小田切響子先生ですなっ
改めまして橋元です。
今回は宜しく頼みます。」
一昨日電話では視えた彼女の内面や思考が
一切感じ取れない・・・
私が安定してこの力を使えるように
なってからこのような事は初めてである。
「それでは今回は
所有権の移転という事でございますが・・・」
次々と話を進めて行く小田切響子に
聞かれた事に応えつつ、自分の所有する
オルガノというマンションの住所を伝え
これを売買では無く譲渡として木島健太
という者の所有にしたい旨を伝えつつ
業務の話はうわの空で小田切響子を
視続けた。
普段ならこの距離であるならば彼女の
眠る願望、欲望どころか今考えている
事すら聞こえて来る。
しかしどういうわけかこの小田切響子
からは何も聞こえない。
欲望や願望が無いというのか?
そんな人間はこの世にいないというのが
私の持論だった。
おかしい・・・
明らかにおかしい・・・
私は話しの途中であるが
「あっ
小田切先生~
一生懸命話してくれてるところ
すみませんな~
ちょっとトイレに
行って来ても宜しいかな?
コーヒー飲みすぎたかな~
小便近いですわ~
ははははっ」
と言い席を立った。
「はい。
どうぞ。
それでは続きは橋元社長が
お戻りになられてから致しますので。」
と行儀よく美しい形の膝に両手を
揃えたまま立ち上がりトイレに行く私を
見送ってくれた。
おかしい・・・
何だあの女っ・・・
私の力が無くなったとでもいうのか!
それともあの女だけが視えないのか?
一昨日の電話では彼女の容姿まで視えた
のだぞっ!
声も聞けた・・・・・
彼女の貞操観念の程も伺えたっ!
誰かまでは解らんが旦那以上に
尊敬し忠誠を誓い憧れている
男も居るはずなんだっ!
その男と肉体関係があるのかどうかや
あの清楚な立ち振る舞いをする人妻が
旦那にどれくらい抱かれているのか
どんな体位が好きなのか?
SEXに不満を抱えているのか?
本当はどのように抱かれたいのか
などあの女自身も気づいていない
所まで今日は視てやろうかと思っていたのにっ!
おのれ~小田切響子!
お前はどれだけガードが堅いんだっ!
うん?ガードが堅い・・・
そういう問題なのか?
今までこういった事は1度も無かった私は
2階の経理課に行き他愛も無い話をしに
来ていた。
経理課に勤務して4年目の斉藤静香32歳の
既婚女性だ。
派遣社員で来て貰っていた後に直接雇用
することになったウチの4人居る経理課の
1人である。
子供も居るし稼がなくてはいけないという
彼女は直接雇用するという話に大喜びで
実に今もよくやってくれている。
直接雇用後は宅建の勉強もし
経理には必要ないのに宅建も取得し
簿記は元々2級まで持っていたという
努力家でもある。
「お疲れさま~斉藤さんっ
今日も忙しいかね?」
「あっ社長っ!
お疲れさまです。」
(あれ?社長・・・
確か17時30分から
来客で・・・
私ももうすぐ18時だし
帰ろうと思っていたから
帰る準備してたよ~
まさか社長が来るなんて~)
「ああ・・・
ちょっとこの帳簿を取りにね。
わざわざもう仕事時間も終わりの
斉藤さんに持ってきてもらう
わけにも行かないからね~
帰る準備もしなきゃいかんだろう~
ははははっそれじゃお疲れさま~」
「あっそんなっ
おっしゃっていただいたら
お持ちしますのに~
お疲れ様です~」
(あ~もうっ
帰る準備してたの
バレてるし~
社長って本当に
いつもドキッとする
事言うのよね~こわい~)
私は急ぎエレベーターで
6階の社長室に向かった。
聞こえるじゃないかっ!
小田切響子にしたように
神経を集中しなくても
通常の力でも完全にうちの
社員の声なら聞こえるのだ。
彼女は何者なんだ?
彼女だけが特別か?
私はこの力を今まで誰にも
話した事が無い。
どうしてこのような力が備わったか
何が原因かも解らないのでこのように
使えなくなった時にどう対処すれば良い
かなど解るはずもなかった。
それが私に関係ないただ会話する程度の
人間のみが視えなく聞こえないのであれば
さして問題もないが久々に現れた自分自身で
抱きたいと思うような女相手にこの力が使えないのは
無性に腹がたった。
誰に?
小田切響子にか?
いや彼女にではない。
普段なら理不尽な腹の立て方も
平気でする私だが彼女にはそんな
気持ちすら湧かせない程、澄んだ
空気を放出している。
だからこそあの小田切響子の奥底に
ある・・・
いやあのような女でも必ずあるはずの
淫らな部分を徐々に引き出してやるのを
楽しみにしていたのにっ!
そうだ腹が立っているのは自分自身になのだ。
まるで狙っていた女をホテルにまで連れて行くことに
成功したのに大事な所で勃起せずに自分自身に
腹を立てているかのような気分で私は自分の部屋に
戻った。
まあ良い・・・
彼女には仕事は頼んだんだ。
今後会う機会も幾度となくあるだろう。
彼女が視れなくても抱けないわけではないし
仕事もこれ1件ではない。
何なら登記関係は全て彼女に任せても
良いのだ。
私は必ず彼女が視れるように聞こえるように
なるまで諦めんよ。
部屋に戻り笑顔で
「すみませんな~
小田切先生っ
あっさっき秘書が持って
来たお茶もう冷めてますかな?
と思ってトイレの横の自動販売機で
コーヒーこうて来ましてな~
小田切先生のような上品な先生は
缶コーヒーなんて飲みませんか?」
彼女はまた立ち上がりトイレから帰った
いや、力が使えるかどうかを確認に
行き帰った私を迎えてくれながら
「いえ。
そんな事ありませんですよ。
それにわたくしも橋元社長は
もっと怖い方かと思っておりました
からそのようにご自身でコーヒーを
買われてくる姿をお見受けして
親しみを感じます。
ありがとうございます。
頂きます。」
と立ったまま手をヘソの辺りで揃えお辞儀
する彼女を見て私は彼女を何とかものにしたい。
自分が抱けなくとも最悪、
私の裏の仕事の部下たちの誰かに
抱かせその姿を見てみたいそう思う気持ちが
より一層高まった。
お互いソファに座り私が買って来た缶コーヒー
を飲みながらまた小田切響子が仕事の受注に
必要な話の続きをしていたが私はまた話し半分で
彼女を視続けた。
やはり視えない・・・
そして聞こえなかった。
経理の斉藤静香に関しては聞こえた。
軽めにしかリーディングしていないので
表面上の意識しか聞いていないがその
気になれば彼女相手ならどんな体位が好きか
最近いつSEXしたか?
逝ったか?逝かなかったか?
浮気経験はあるのか?
それ以外にも私が知りたい事まで
あの距離で居れば
読み取る事ができるだろう。
私の調子が悪いわけではないのだ。
小田切響子が特殊なのだ。
そう考えながら彼女にリーディング・・
私はこの力を自分自身でリーディングと
呼んでいた。
誰に話す訳でもないが・・・
そのリーディングを試み続けたが最後まで
彼女の欲望を知る事はできず彼女の道程も
視る事ができなかった・・・
小田切響子の話を聞きながら肉眼で見える
清潔感漂うスーツに包まれた彼女の腕から胸
タイトスカートから伸びる美しいパンストに包まれた
脚などを見ていると
「・・・・・・・・・・
それでは橋元浩二様から
木島健太様への所有権の移転を
この手順で進めて参りますね。
先程も申し上げましたが念のために
もう1度申し上げますが今回の所有権の
移転につきましては、通常の不動産取得税が
木島健太様にかかります。
贈与税にはなりませんのでその点も顧問の
税理士の方に詳しく相談しておいてください。
それではわたくしからは本日は以上となります。
さっそく明日から手続きを進めさせて頂きますので
何かあれば携帯の方にご連絡頂ければ大抵は出ますので。
それでは本日はありがとうございました。
コーヒーご馳走様でした。
社長様実は私もコーヒーは缶の方が好きです。」
そう言いながら笑顔で立ち上がりドアの方へ歩を進める
小田切響子のしなやかな身体に品性溢れる立ち振る舞いに
最後に見せたまだ可愛いという形容詞も十分使える笑顔に
私は魅せられていた。
そしてこの力を持つようになり初めて視えない小田切響子に
一昨日電話で話した時以上に興味を持ちそれはもう執着と言う
レベルにまで達していた。
しかし私は魅せられたこの小田切響子に禍々しい欲望を
抱いているのを自分自身でリーディングしていた。
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