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第10章  賞金を賭けられた美女たち 16話 神田川真理の回想~蜘蛛、最上凪の力~


第10章  賞金を賭けられた美女たち 16話 神田川真理の回想~蜘蛛、最上凪の力~

車中の後部座席は車の進行方向に向いておらず、車の左右の側面に平行となるよう配置されていて、搭乗者は向かいあって座っている。

運転手と助手席に座っている者を除けば、後部座席には4人の男女がいた。

菊沢美佳帆の夫である菊沢宏、その正面には高嶺製薬社長兼、高嶺暗殺集団の頭領である高嶺弥佳子、そしてその隣にはやや明るい髪の毛を緩いソバージュにしたにこやかな女性、大石穂香だ。

つい数時間前までは考えられない組合わせの面々である。

真理の正面に座る二人の女性は各々すぐ脇に刀を抱えるようにして持っている。

タイトスカートのスーツ姿の二人の女性は、上場企業高嶺製薬の幹部という立場を持っているが、それが全てではない。

高嶺製薬と言えば国内五大製薬会社の一つに数えられる大企業で、歴史は古く古都である京が創業地だが、もともとの発祥は富山の薬行商が始まりであると言われている。

江戸時代から薬の行商を兼ねて全国にネットワークを持ち、関所を抜け大名や大商人たちの後ろ暗い依頼をこなしてきた歴史があるのだ。

それゆえ、高嶺製薬が一部上場企業となった現代においてもその裏稼業は陰ながら、この国中の影の部分に食い込み色濃い影響力を持っている。

裏の世界では高嶺製薬と言えば、暗殺組織だと認識されているほどには名は知られているのだ。

そして、その17代目となる頭領の高嶺弥佳子と、六刃仙の一人、大石穂香が真理達の正面に座っていた。

その二人は宮コーにとっては、味方とは到底言い難い組織の幹部であり、また剣撃を攻撃の主体とする彼女らがこの距離で座っているので危険極まりない。

しかし、今は真理の能力【未来予知】には今は、危険反応は全く感じられなかった。

20秒程度先のことであれば、絶対の能力である【未来予知】を持つ真理はそれを狭い範囲の車中だけに展開しているが、今のところ全く危険は感知できないのだ。

そして、その能力を展開しているのをおそらく気付いている目の前の剣士二人も、真理のその行為を咎めることもない。

(余裕ね。どうぞご勝手にってこと?私の能力を知らないわけないのに・・。・・やっぱり今私たちに危害を加えるつもりはないか・・。いいわ。いい機会ね。高嶺や香港三合会の情報って完全にブラックボックスだから貴重な情報を得られる機会ととらえるべきだわ。今後も宮コーの妨げになるのは間違いない二つの組織だもの。かなり危険だけど、菊沢部長も一緒だしね。それに・・・備えあれば憂いなしだわ)

真理はその備えである最上凪から手渡された3つのアトマイザーの感触を、忍ばせた内ポケットにあるのを確認し、鈍い光沢のアーマースーツの上からそのふくらみを確認するように抑える。

最古参の秘書主任である最上凪は蜘蛛と呼ばれるだけあって、オーラを糸に変換できるが、さらに蜘蛛らしく毒もオーラで精製できるのだ。

渡されたアトマイザーは小型で、内包している毒も少量だが、その威力が絶大なのは真理も知っていた。

真理もその威力を、かつて凪が敵を屠る時に一度だけ見たことがあったからである。

目に見えないほどの細い糸で宙吊りにされていた男の口に、凪が一滴だけ深緑の液体を垂らしたのだ。

美しく艶やかで白い人差指から垂らされたその濃緑の水滴は、凪の白い指とは裏腹に禍々しいモノであった。

その濃緑の水滴が指先から離れ、糸で締めあげられ悶絶する男の唇に落ちて口内へ伝い落ち、舌の粘膜に触れた瞬間に男はビクンと仰け反って絶命したのだ。

即死だった。

今思い出しても身震いする。

しかし毒を飲まされる側からすれば、逆さに吊るされこれからどのような拷問を受けるのかと考えれば、瞬く間にその恐怖や痛み、辱めから解放されるだけある意味救われているのかも知れない。

凪が発生させる糸は、張力や粘性を調整でき、刺突性や斬撃性を持たせることもできるのは真理も知っている。

その糸だけでも凶悪であるのに、毒の威力も殺傷能力はまた凶悪なのだ。

しかし情報を持って入り人間が相手の場合はまた別の話である。

その毒の入ったアトマイザーを服の上から確認するように抑えて、真理は初めて凪が能力を使って戦っていた時のことを思いだす。

否、あれは戦いなどではなかった。

あまりにも一方的な殺戮であった。

5年ほど前、宮川家に侵入した曲者たちを凪が排除したときのことである。

真理や加奈子も連絡を受け、当時佐恵子も住む宮コー本社近くの宮川邸に急行したのだ。

都内の閑静な住宅街にあるひと際大きな屋敷が宮川家の本宅である。

当時佐恵子と、父の昭仁はそこに住んでおり、最上凪が会長秘書兼ボディガードとしてその屋敷に寝泊まりしていたのだ。

真理や加奈子も外部からの宮川家に対する強硬な攻撃は、その時が初めてでまだまだ入社して間もないころである。

宮川本宅に侵入した侵入者を排除せよ。と深夜に通達があったものの加奈子も真理も、どこか現実としてとらえきれずにいた。

そんな心情のまま、佐恵子の本宅へと駆けつけ門をくぐったのである。

門をくぐったすぐに匂いがした。

匂いの正体はすぐに分かった。

人間らしき死体が、門から玄関に掛けて2か所で散らばっていたのである。

一か所は無数のサイコロほどの大きさの肉片が血だまりの中で散乱しており、もう一か所は、足を投げ出し、両腕の関節はあり得ない方向へと曲がって、壁を背にへたり込んだ人間らしき形のモノの顔面に、1ミリにも満たない太さの鋭利な針のようなものが顔が見えなくなるほど突き刺さっていたのだ。

その光景と充満する血の匂いに戦慄した真理と加奈子の二人の耳に、屋敷内から阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてくる。

銃声と音感の狂った高さでの男の悲鳴。

真理も加奈子も、悲鳴のする屋敷内へ飛び込むも、悲鳴の正体が複数あることから、この断末魔の悲鳴が、侵入した曲者たちの悲鳴だと直感していた。

玄関を抜け、廊下を走り、会長の書斎へと急ぐ。

角を曲がり、会長の部屋の入口のすぐそばには、右手に銃を持った男が壁に背を預けたまま立っていた。

しかし、その男の足元にはおびただしい血と臓器が散らばり、かろうじて立ったままの下半身の下には、肩口から腰に掛けて袈裟懸けに二つにされた、男の上半身が目を見開いたまま、血に濡れて床に落ちていた。

その凄まじい死骸をも通り過ぎ、真理達が会長の部屋へと入った時、最後の一人となった侵入者は、会長の部屋に美しく張り巡らされた幾何学模様の蜘蛛の巣の中央に囚われていたのだ。

そして糸によって宙に浮いたように見える最上凪が、穏やかな顔で、覆面を取られ恐怖に引きつった男の口元へその白い指先を向けていたのだ。

「来るのが遅い」

凪は真理達をチラと一瞥してそう言うと、その白い指先から濃緑の水滴を滴り落としたのだ。

あとで聞いた話では、最後の一人からは情報を吐かせるだけ吐かせた後、その毒で絶命させたとのことであった。

襲撃の連絡を受け、佐恵子らの身を案じ遅参した真理と加奈子は、入社数か月目にして、その凄まじい光景を目の当たりにしたのだった。

凪に屠られた曲者たちの最後は、最後の一人を除いて凄惨を極め、各々自分の血だまりの中で絶命していた。

そして、あれだけの凄惨な殺し方をしておきながら、自らは返り血を全く浴びず、凪の着る白いワンピースには一滴の血痕すらなかったのだ。

(・・会長はあんなバケモノをどこから連れてきたのかしら・・・。会長の命令にも従うし、佐恵子のことを気に入ってるからいいようなものの・・、他の十指と違って、蜘蛛だけは出自も経歴も不明。そしてあの強さに容赦のなさ・・。私、得体のしれない制御できないモノってキライなのよね・・)

当時宮コーに入社間もないころの出来事を思い出して、真理はごくりと生唾を飲み込み、ぶるりと身震いをしてしまう。

あの一件以来、本当の意味で宮コーの幹部社員としての覚悟ができたのだと真理は思っている。

味方でありながらも、真理をしてここまで肝を冷やさせるのが蜘蛛こと最上凪なのである。

凪に呼び出されたモブが、動物的直観で凪に恐怖したのも無理はないのだ。

その蜘蛛の唯一の弱点らしいものと言えば、糸は燃えるということでる。

そう、火で燃えるのだ。

それゆえに、蜘蛛に対抗しうる唯一のカードが紅蓮と言われているのだ。

あの蜘蛛に対抗しうるからこそ、紅蓮こそ十指最強と紅音は謡っていたのだが、当の最上凪はそのような俗的なランキングに興味がなさそうで、紅音の挑発ともとれる発言を聞き流し、ただただ宮川会長の傍らに侍って、美しいが憂いを含んだ無機質な表情で佇んでいるのみであった。


真理はその蜘蛛に、支社でこれら毒と薬の入ったアトマイザーを渡されていたのだ。

(得体のしれない人だけど、佐恵子のこととなれば無条件に信用できる一人・・よね?ちょっと苦手だけど・・。でもあの蜘蛛が会長から離れて佐恵子のところに派遣されるなんて、会長の身辺警護はどうなっているのかしら)

真理が更に疑問を掘り下げるように物思いに耽りはじめると、パタンとタブレットのモニタを閉じる音が正面から聞こえてきた。

おそらく作業がひと段落したのであろう。

真理の斜め前に座る高嶺弥佳子が、操作していたタブレットから顔を上げて、バッグにしまっていたところであった。

そして弥佳子は、ふぅと一息吐くと、ようやくと言った様子で、正面に座るサングラスの男に笑顔を向けて、脚を組みなおしたのだ。

真理も蜘蛛が会長の元から離れた理由を知りたかったが、情報の足りない今いくら考えてもおそらく無駄だという結論に達し、高嶺の頭領の動向のほうへと注意を向ける。

4人を乗せているバンは、普通車としては大きな車種だが、向かいあって座るとその距離は案外近い。

弥佳子の正面に座って腕を組んでいる宏の膝に、弥佳子の足先が触れんばかりの距離まで近づいて、その長く肉付きの良い脚が組みなおされるも、サングラスを掛けたその表情は変わらない。

「ふふっ、菊沢さん?奈津紀さんの和泉守兼定を返していただき改めてお礼をいいますよ」

弥佳子は部下を除けば車内にいる唯一の男に、下着が見えても構わないというつもりで足を組み替えたのだが、サングラスの奥の表情は読み取れなかったようだ。

宏から返してもらった兼定の黒漆拵えの鞘を優しく撫でながら、サングラスの奥の表情を読み取ろうと微笑を向けてそう言っている。

「ええねん。もともと俺のんやないんやし、相手に返せそうでほっとしたわ。それレプリカちゃうんやろ?モノホンの銘刀にオーラ鍛錬入魂させたもんか・・。エグイ切れ味に、信じられん強度やった。あの女の剣を受けた時、俺の鉄扇にキズがついてもたんやからな」

相変わらずのぶっきらぼうな表情と口調で宏がそう返したことに、弥佳子はその鋭い目元を驚きで見開き、少し身を乗り出してきた。

「奈津紀さんが兼定を使って振るった猛剣を鉄扇で受け止めたのですか?・・・むしろその鉄扇に興味が湧きましたね。今お持ちですか?」

「持ってるけど貸さへんで?」

「どうしてですか?貸せとはいってませんよ?見せてください」

弥佳子と宏のやり取りに、弥佳子の隣に座る六刃仙の一人である大石穂香が笑みを深めて、危険な雰囲気になり掛けたのをサングラス越しに捉えた宏はため息をついた。

さきほど支社でこの大石穂香という剣士の性格を知った宏は、しぶしぶ腰に差している鉄扇に手を伸ばす。

「はぁ、これや」

腰のベルトに刺していた鉄扇を弥佳子の方へ、柄を向けて突き出す。

「ほう・・・。どれ・・これは」

宏の手から鉄扇を受け取った弥佳子は、興味深そうにしげしげと眺めはじめた。

当主の思惑通りに事が進んだことに気をよくしたのか、大石穂香も普通の笑顔でニコニコとしている。

「ふむ・・。素晴らしい。なかなかのモノですが、銘が打ってありませんね?これほどのモノです。さぞ名のある名工の作と見受けますが?」

暫く宏の鉄扇を鑑定するようにして見ていた弥佳子は、宏に問いかける。

「それはうちの奥様作や」

「なんと。・・其方にもこれほどのモノを入魂できる工匠がいようとは・・。菊沢さんの奥様さまにも興味が湧いてきました。この仕事が終われば是非奥様にもお会いしたいですね」

柳眉を跳ね上げ、佳絶の女剣士は先ほどより驚いた様子である。

弥佳子は、しばらくその重さや長さを確認しつつ、扇子を開いて仰ぎ、パチリと閉じては、手と指で鉄扇の使い心地を確かめるように舞わせている。

しかし、最後は多少名残惜しそうにしながらも弥佳子は鉄扇の柄を宏に向け返してきた。

その一連の所作は暗殺集団のトップとは思えないほど女性的かつ優雅で、剣士というよりも、舞踊でも嗜み、身も心も成熟した妖艶な女の色香すら漂っている。

しかし宏は、弥佳子のその優雅で色っぽい所作など知ったことではないようで、妻から貰った大事な鉄扇をひったくるようにして取り返すと、腰の後ろのベルトに差してしまった。

「なるほど・・」

弥佳子も宏という人物を少しわかったようで、鉄扇をひったくられたにも関わらず、笑顔でそう言ったのであった。

そのときである。

「なんかさー、似てるよね~?」

その二人のやり取りの隣で、大石穂香がやや大きめの声でそう言った。

弥佳子と宏のやり取りを見ていた真理は、その突拍子もなく屈託のない声に顔を向けると、真理の顔を伺いみるようにして緩いソバージュの剣士、大石穂香が顔を近づけてきてそう言っているのだった。

「何にですか?私が何かに似ているのですか?」

真理はいつものキラースマイルの表情を穂香に返して、そう言葉でも返すも、内心では穂香の発言の意図することを探ろうと、顔には出さず、頭を目まぐるしく活動させだす。

「なーんかさ。うーん・・・やっぱり似てるのよね~」

「穂香さん、そんなにジロジロ見ていては失礼ですよ?神田川家のご令嬢に失礼というものです。ごめんなさいね神田川さん」

形の良いアゴに手を当てて首を傾げている穂香の様子を弥佳子が困った子ね、といった調子で窘める。

おそらく、この大石穂香という剣士の行動や発言は毎度のことなのであろう。

頭領である高嶺弥佳子も、またですか、やれやれ・・といった様子なのが伝わってくる。

そんな問題児でも、高嶺の6人の最高幹部である六刃仙の一人に据えられているのだ。

(加奈子と渡り合うほどの腕前・・。気の抜けた炭酸水みたいな口調と顔だけど、剣の実力は確かなのね。高嶺弥佳子は高嶺製薬でも無能な者に対する厳しさは苛烈と言われてる。・・・でもこの気の抜けた炭酸水女を六刃仙に据えて、バカな発言や行動をある程度許しているということは・・・相当腕が立つ・・そういうことよね)

心中では毒舌家の真理は、大石穂香のことを「気の抜けた炭酸水」と評価したものの、穂香は容姿だけでいえば、十分美人なのだが、まとった雰囲気がものすごく緩いため、そう評したのだ。

「御屋形さまに似てない~?・・目元や眉は御屋形様のほうがずいぶん鋭いけど、口元や顎とか耳とかってクリソツだよ~。あと肩幅とか・・。・・・えいっ、鎖骨の形とかも・・・ほらね~」

「えっ?きゃっ!?」

真理が、あまりのことに声をあげる。

鎖骨の形を確認するために、穂香が真理の着ているアーマースーツのファスナー部分をジッ!とお臍の上ぐらいまで下ろしたのだ。


【未来予知】は悪意に反応し、決めた対象の人物に及ぶ危険、さらに自身の身体に触れる感覚に反応する。

危険がない行為や、悪意がない行為自体はいかに【未来予知】といえども感知しにくいのだ。

20秒以内と言っても、1~20秒の間で察知できる危険の種類は様々である。

当然、ファスナーのツマミ部分だけを摘まんで引き下ろすという行為にも、反応したのだが、穂香がそうしようと思ったのは行為に及ぶ1秒にも満たない寸前だったのだ。

それゆえ、真理の能力が穂香の行動を察知し、真理が行動を起こすより早く、穂香は素早くファスナーを引き下ろしたのであった。

「こらこら穂香さん。何をしてるんですか!・・神田川さんに謝りなさい」

「だって~」

頭領に腕を掴まれてそう言われた穂香は、そう言いながらしぶしぶとファスナーのツマミから手を離した。

「・・でも神田川さんもお淑やかな顔してなかなかの凶器を隠してましたね」

弥佳子も部下の突然の不躾を繕うように、軽く冗談めかして言いながら、軽く穂香の側頭部をグーで小突いていた。


「御屋形様いたい~」

弥佳子と穂香のやり取りを見て真理はジッ!と勢いよくファスナーを上まで上げ直し、今度はフォックも締めなおす。

そんな真理を見ながら弥佳子は口を開いた。

「神田川と高嶺は親交があったと聞きます。ずいぶん昔のことですけどね。高嶺が洛中の久我や細川と懇意にしだした時代、洛中の名家と親しい間柄だった神田川家と高嶺家で親交が始まったと聞き及んでいます。・・かつては両家の間で何度か嫁ぎ合ったことあるとも・・。ですので、神田川さんが私と似ているのは、そういう時期の名残なのかもしれませんね。・・・でも今は親交は途絶えていますし、今の神田川は京の洛中や堺より、幕府の庇護を受けた元豪商、かつては札差として江戸の春を謳歌し財を成した宮川家と懇意ですね。・・とても残念です」

「そうなんだ~。ほら御屋形様。この子、目元隠すと御屋形様にクリソツだよ~」

当主に頭を小突かれたというのに、穂香は懲りずに真理の顔に手のひらを向けて、真理の目元が隠れるようにして、弥佳子と真理を交互に見ては嬉しそうにそう言った。

「・・・言われてみればそうですね。【未来予知】に興味があったのと、その能力が潜入ミッションには打ってつけと思って神田川さんを指名したのですが、私も貴女の能力以外に、貴女自身に親近感がわいてきました。今回の件、どうぞよろしくお願いしますね」

「ええ、此方こそお願い致します」

暗殺集団のトップとも思えぬにこやかな笑みを向けられた真理もそう応えたが、真理も、言われてみればと思い、見過ぎない程度に弥佳子の顔をマジマジと観察して、なるほど、似てるかもと思ってしまった。

真理の目元は、母親似であるのだ。

目以外は、父や祖父とも似ていなかったが特に気にしたこともない。

その母は控えめな性格ながらも、娘が家から飛び出した今も名門神田川家の妻として頑張っていることを真理は思い出す。

(お母さま元気にしているかしら。今回の仕事が終わったら一度顔を見せに行ってもいいかもしれないわね)

高嶺の頭領と自分の背格好や容姿が似ているのは偶然だと思うが、それで高嶺弥佳子が自分に対して親近感を持ったほうが、仕事がしやすくなると真理は考えている。

それよりも、いま真理は菩薩の笑顔とは裏腹に、ヌケタン女(気の抜けた炭酸水のような口調と表情の女)の突然の行動に憤っていた。

(それより・・・いきなりなにするのよこの子・・。【未来予知】での探知がものすごく直前だったわ・・・。ということは、このヌケタン女、考えずに行動するタイプね・・。思いついたら即動いちゃうタイプだわ・・。それに、思いついてからの行動がものすごく早い・・。苦手なタイプね・・)

そして、先ほど丸出しにされたノーブラの胸を隠すように抑えながらチラリと隣に座る宏の様子を伺った。

サングラスで隠れてはいるが、宏は口をへの字にして腕を組んでいる。

「・・見ました?」

「・・すまん」

真理のジト目での発言に宏は正面を向き、腕を組んだ格好のまま気まずそうに応え返してくれた。

「はぁ、不可抗力です」

真理はそう言うと、正面のヌケタン女を菩薩の笑顔で睨みつける。

(・・・菊沢部長にはもっと然るべきシチュエーションで見てもらうかもしれなかったのに・・。効果が半減だわ・・ったく・・何してくれてんのよ)

いわゆる普通の女性とは違う斜め上の嗜好を地で行く真理は、心中で穂香を罵ったものの、真理の表情には菩薩の笑顔が浮かんでいる。

そのためか、ヌケタン女と真理に心中で罵られている大石穂香は、真理の心境など知らず、真理の菩薩の笑顔にニコニコと笑顔を返していた。

神田川真理がただの気の良い才媛ではないことを少し感づいている菊沢宏だけは、笑顔の真理が濃厚なオーラを発していることに少しだけ気づいていたが、丸出しにされた真理のバストをガッツリ見てしまった自分がこのタイミングで何かを言うのは憚られたようで、宏は相変わらずむっつりと腕を組んで座っているだけであった。

「到着いたしました」

真理が憤懣を心中で募らせ、心中で更に毒舌を並べようとしたときに運転席から、後部座先の面々へと、いや当主の高嶺弥佳子に向けて声が掛けられる。

「では皆さん。張慈円が迎える最後の日です。幸い月も出てますから、クズとは言え、張慈円を往生させるには良い夜ですよ。行きましょうか」

高嶺弥佳子はそう言うと、腰に二振りの刀を差して車から降り立った。

その表情は猛禽類が獲物を狙うようでありながらも、佳絶の見目は損なわれてはいないのであった。

【第10章  賞金を賭けられた美女たち 16話 神田川真理の回想~蜘蛛、最上凪の力~終わり】17話へ続く
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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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