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第10章  賞金を賭けられた美女たち 23話 高峰弥佳子VS張慈円3


第10章  賞金を賭けられた美女たち 23話 高峰弥佳子VS張慈円3


腹部に受けた強打のせいで息が詰まり、反射で滲んだ涙のせいで、視界がぼやけ、薄緑色の床が歪んで見える。

そこに、ダメージによって肺呼吸ができず筋肉が弛緩し、やや開いてしまっていた唇から水滴が零れた。

(涙・?・・よ、涎・・?!私が・・・?!)

薄緑色の床を濡らした数滴の滴りが、自身の涎だと悟り羞恥で顔を染めた瞬間、視界がぐるりと回る。

「・・っ!」

無理やり上を向かされたのだ。

高嶺弥佳子は天井から照らされるまばゆい光量に目を細めるが、そこへ天井からの光を遮るように、勝ち誇った笑みを張り付けた張慈円の顔が割り込んできた。

腹部を打たれ膝をつき、両手で身体を支えていた弥佳子は、張慈円に髪の毛を掴まれのけ反るような恰好にされてしまったのだ。

痛みと羞恥、それに加え理解しがたい状況に、弥佳子は柳眉切れ長の目を細め、眉間にしわを寄せて顔を悔しませる。

しかし、弥佳子のように気の強い女のその表情は、張慈円の嗜虐心をより大きくさせてしまうだけだ。

「たまらんなその顔!」

息がかかるほどの距離でそう言った張慈円の顔を払いのけようとするも、力なく払った手はむなしく掴まれ、ぐるりと両手首を背中で一束ねに掴まれてしまった。

「どうした?!さっきの動きといいなんだ?んん~?女らしい動きではないか?」

「っ・・か・・ぐ・・」

目を吊り上げ不気味に勝ち誇った表情のままの張慈円は、苦悶の表情で口元に羞恥の雫のあとをぬぐえぬまま、言葉もまともに発せない状態の弥佳子を嘲って言う。

オーラによるガードもなく、カウンターで功夫の達人である張慈円の強烈な崩拳をもろに食らった弥佳子は状況が理解できずにいた。

(ば・・莫迦な・・。呼吸ができない・・。このダメージの大きさ・・直撃したというのですか・・?み、見えなかった・・。張慈円ごときの動きが・・?!しかし、【鷹視】による先の先は発動しませんでした・・。ど・・どういうことです!?)

「解せん・・という表情だな。わからんか?くくくくっ!」

張慈円はそういうと、蟷螂のような顔を再び弥佳子に近づけ、弥佳子の口元の涎のあとを舐めとるように下を這わせ弥佳子の唇を奪った。

「んんっ!!?」

弥佳子の全身に嫌悪感による鳥肌が走るが、受けたダメージが大きすぎて身をよじって躱すこともできない。

「ぷはっ!・・はぁはぁ・・!き・・貴様ごときに・・!!」

唇を奪われた時間は一瞬であったが、弥佳子に動揺を与えるには十分すぎた。

張慈円はそんな弥佳子の表情とセリフを満足気に、自身の唇に舌なめずりをしつつ続ける。

「いい味だ。匂いも極上だな。・・さて、貴様はいまオーラが使えんはずだ。袁に聞かされた時は半信半疑であったが、事実のようだな」

そういうと更に、弥佳子の顎に舌を這わせ頬までなめあげ、のこった雫を堪能し、そのまま弥佳子の髪に顔をうずめ、蟷螂は捕らえた収穫に満足したように笑いながら言う。

張慈円の発言と行為を極力無視し、弥佳子は痛みと酸素不足によるダメージで、朦朧としたまま右手にオーラを練り腰の刀に手を伸ばそうとした。

しかし、張慈円の言葉どおりオーラは発動せず、張慈円に掴まれた右手はびくとも動かなかない。

「くくくくっ!非力よのう!どれ・・」

ごきっ!

「がっ!・・きゃあああああっ!!」

張慈円は一束ねにしていた弥佳子の両手首から手を放すと、右腕だけを掴んで、ぐいっと下に引き、弥佳子の右肩の関節を外したのであった。

「もろいもろい・・。どうした?オーラで防御せんと、生身の膂力にオーラの力を加算した能力者のパワーには対抗できんぞ?・・といっても、この部屋にいる限り女はオーラを使えんのだがな」

「あっ・・・あぁ・・っく!」

(このタマゴ部屋にそんなカラクリがあろうとは・・!そのために私ごと落とし穴に・・!)

弥佳子のだらりとぶら下がった右手は垂らされたまま放置され、左手首だけを厳しく背中で引き上げられる。

「ここは能力者の男と女を戦わせる闘技場なのだ。オーラの使える思いあがった女を無力化させ、能力が使えるままの男とたたかわせるためのなぁ」

そう言いながらも、張慈円の舌が弥佳子の首筋を這いまわり、弥佳子の髪の毛に鼻をうずめるようにして匂いを堪能している。

(ま・・まずい。いくら何でも張慈円とオーラ無しで戦うにはあまりにも・・!せめて離れられれば・・刀も振るえるし、おそらく速度だけなら生身でも対抗できるかもしれないのですが・・っ!)

弥佳子は自身の首を這いまわる張慈円の舌の動きをできるだけ意識しないようにしながら、掴まれている左手に力を込める。

「無駄だ。こうなっては貴様に勝ち目はない。先ほど貴様に打たれた俺の電砲も痛みから回復してきた。ここは、能力者の女を無力化させ敗北させるためだけの場所ではないのだぞ?くくくくく」

張慈円はそういうと、弥佳子を掴んだままタマゴ部屋の壁際の一角にある端末まで近づくと、弥佳子の髪の毛を放し、その手で何やら操作し始めた。

「・・むぅ・・同じ三合会のシステムのはずだが・・。袁の奴め。改良しすぎ・・おっ!よしよし」

張慈円が同胞である袁揚仁の悪態をつき始めたところで、うまく操作ができたようで満足げな顔になって、操作を再開し出す。

ガシャン。ウィー――ン!

機械的な音と共に、壁の一部が開き、部屋の中央部分には床の一部が円形にせり上がって1mほどの高さのところで止まったのだ。

弥佳子も音のしたほうに顔だけ向けると、すぐに表情を強張らせた。

「・・お、おのれ!張慈円!・・貴様の思うようになど断じてさせません・・!」

開いた壁には、女を甚振る為だけの道具らしきものが、ずらりと並んでおり、タマゴ部屋の中央にせり出した円形状のベッドは、厚みが10cmほどあるが、アクリルのように透明で、円の外周部分には手足の動きを封じる枷がいくつも取り付けられていたのだ。

「よしよし!いいぞ。くくくっ!喜べ高嶺弥佳子。ここは能力者女を無能力化させて叩きのめし、そして凌辱している様を上階の部屋から観賞すると同時に、袁の運営するサイトに配信する施設なのだ。・・あいにく今客は・・おらんようだが・・。いや・・観客には神田川真理もおったな・・。くくくっ。あとでヤツもゲームに参加してもらうとするか・・。もっとも生きていれば・・だがな・・くくくっ」


「・・ど、どういう意味です?!」

掴まれた髪の毛を下に引っ張られているため、顎を上に突き出した格好のまま、真理が死ぬかもしれないという張慈円のセリフに語気を強める。

「くくくっ、言った通りの意味だ。見てみろ。さっきの部屋には俺以外にももう一人いたのだぞ・・?気づかなかったのか?・・ふざけた格好のよくわからん奴だが、おそらく実力は俺と変わらんかもしれんな・・。いや・・底知れんやつだ・・・」

「な・・なんですって?!」

弥佳子は張慈円が発したセリフが、嘘やはったりではないことを、張慈円のやや不快そうな表情から読み取ったのだ。

張慈円は弥佳子の疑問を無視し、タマゴ部屋を見下ろすようにぐるりと並んでいる一室の一つに顔を向ける。

そして、観客席がある部屋の一つ、先ほど弥佳子や張慈円がいた部屋に目をうつしたのだ。

そこには神田川真理が、張慈円を睨むようにして窓を叩き、そしてガラスを割ろうと後ろ回し蹴りを窓に向かって放ったところだった。

純粋な肉体強化系の能力者ではないにしても、神田川真理の蹴りは凄まじい威力である。

しかし、タマゴ部屋の方にはその蹴りによる衝撃や音もほとんどタマゴ部屋の方に聞こえてこない。

それでも神田川真理は部屋を隔てる分厚いガラスを蹴り破ろうと、何度もガラスを蹴っているが、とよほど頑丈な造りでできているようでガラスにはヒビすら入っていない。

「くっ・!・・真理!神田川真理!!こちらに来てはいけません!!!貴女も能力が使えなくなるわ!!穂香と一緒にいる菊沢宏を呼んできなさい!あの者ならこの部屋の影響をうけません!!それにっ・・張慈円を目の前にして集中してしまっていたとはいえ、私に気配を察知させないほどの者がその部屋にはいるかもしれないのですよっ!?」

しかし真理には弥佳子の振り絞った声が聞こえていない。

神田川真理は助走をつけるため、弥佳子の視界からいったん見えなくなると、助走をつけてそのままの勢いで飛びあがり腰をひねって、渾身の後ろ廻し蹴りをガラスに食らわせた。

ドォン…。

さすがに能力者である神田川真理の渾身の蹴りに、施設の強化ガラスといえども手応えがあったようだ。

「ヨシッ!ナントカイケソウ!」

弥佳子の目には真理の唇がそう動いたのが見え、真理の焦燥の表情の中にも希望の笑みが浮かんだの見えたが、張慈円の呟いたセリフのせいで嫌な予感しかしない。

「真理!いいから逃げなさい!!」

しかし真理は、再び強化ガラスを蹴らんと助走を付ける為に視界から消え、ふたたび神田川真理が走ってきた。

先ほどより速い速度で・・。

走って来たのではなかった。

ドォン…。

神田川真理の身体がくの字になって背中から強化ガラスに激突したのだ。

「ま・・真理!!?」

弥佳子は悲鳴に近い声を上げて目を見開き、神田川真理がいる室内に目を凝らす。

そこには真理を吹き飛ばしたであろう黒い頭巾を被った男がゆらりと現れ、弥佳子と張慈円を一瞥してきた。

しかし、弥佳子や張慈円を一瞥したのみで、黒頭巾・・、目だけを残して忍者のような黒装束に身を包んだ男は、目の前の壁に背をあずけてへたり込んでいる真理に目を向けた。

「真理!に・・逃げなさい!その男は!!くっ・・!あんなものまでいたのですかっ!」

普段からスーツ姿に太刀を佩いた高嶺弥佳子が言えたものではないが、その黒装束の忍者ルック男のことは弥佳子の知っている男だった。

知っていると言っても親しい仲ではない。

分かっているのは、そのふざけた姿の男が、おそらく凄腕の同業者であろうということだけ。

「そのものはおそらく高嶺でも標的に掛けて倒しきれなかった者の一人ですっ!!真理独りでとても勝てる相手ではありませんっ!!逃げっ・・・っ!!」

弥佳子の言葉は腹部への殴打により中断されてしまう。

「がっ・・!ぐふぅ!」

先程打たれた箇所を重ねて打たれたのだ。

弥佳子の意識と呼吸は再び途切れそうになる。

「高嶺弥佳子。自分の心配をしたらどうだ?貴様はオーラも使えん状態で、いまからこの雷帝の相手をせねばならんのだぞ?戦いにおいてもSEXにおいてもな・・。もう戦いは終わっておるか・・くははははっ」

張慈円は蟷螂顔の目を不気味に吊り上げて哄笑すると、弥佳子が腰に佩いていた二振りの銘刀を乱暴に取り外した。

「こんなもので俺を切ろうとしたのだな・・」

刀の造詣にそこまで詳しくない張慈円でも、この二振りの拵えが一流品であることぐらいはわかる。

一つは先ほど凌辱した千原奈津紀が佩いていた和泉守兼定。

もう一つは弥佳子の愛刀であろう中曾根虎徹である。

張慈円は抵抗する弥佳子を無理やり立たせ、ジャケットの袖に二つの銘刀を両方から通しだしたのだ。

「な・・なにを!」

右の袖から入れられた和泉守兼定の鞘は、左の肩口まで、左の袖から入った中曾根虎徹の鞘は右の肩口まで通されてしまった。

「や・・やめ・・!何を!!」

弥佳子は張慈円のしようとしていることがわかり、狼狽したが膂力のみでの抵抗は全く歯が立たない。

「くくくっ!こんな扱いなどされたことがあるまい?!」

弥佳子が太刀を佩くためにタイトスカートに帯びていた特殊なベルトを、張慈円は抜き取ると、和泉守兼定と中曽根虎徹の鍔同士をつないで縛り上げたのだ。

「ああっ・!!お・・おのれ!おのれっ!」

高嶺剣客十七代目統領であり高嶺製薬代表取締役である高嶺弥佳子が、いまだかつて受けたことのない屈辱である。

両腕は自身の得物である二つの太刀によって案山子のように固定され、それらをベルトで固定されてしまった。

張慈円の手から離された身体をよじって、弥佳子は身をよじるが、オーラの無い非力な状態では二つの銘刀を縛っているベルトすら千切ることができない。

案山子姿になった弥佳子の無防備な胸を張慈円が軽く突き飛ばす。

どさっ。

受け身も取れず無様に尻もちをつかされた弥佳子は、きっ!と張慈円を睨みあげるが、両手は案山子のように左右に伸ばしたまま固定され、スカートは尻もちをついたときにめくれあがってしまっている。

濃紺の下着を光沢のある1デニールのパンスト越しに大いに露出させてしまった状態では、弥佳子の鷹のように鋭い眼力も滑稽なだけである。

「さて・・覚悟はいいか?高嶺弥佳子?」

「・・っく・・・!」

逆光になって近づいてくる張慈円に、言葉にならない呻きしかあげられずにいた。

高嶺弥佳子は、生れてはじめて敗北するかもしれないという恐怖が心に広がり、それが純白の絹に墨汁を落とされていくような落ちない染みのように広がりだしていた。

【 第10章  賞金を賭けられた美女たち 23話 高峰弥佳子VS張慈円3 終わり】24話へ続く
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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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