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第10章  賞金を賭けられた美女たち 33話 剣聖復活!雷帝の最後

第10章  賞金を賭けられた美女たち 33話 剣聖復活!雷帝の最後

張慈円は倒れた女に近づき、髪の毛を掴んで引き上げる。

「ぅ・・」

穂香は口元を血に汚した顔を苦し気にゆがめて、小さな声で呻いた。

穂香の印象深い笑顔はもはやない。

穂香のその表情を見て満足気に頷くと、張慈円は掴んでいた髪の毛を離した。

ゴトリと鈍い音が響き、穂香は顔を血だまりに浅く沈めたまま、微かに震えながら身じろぎしている。

そして微かに胸を上下させているだけで、それも、だんだんとその動きも小さくなりつつあるように見えた。

「くくく、六刃仙もオーラが使えんとなるとまるっきり話にならん程度でしかないのだな。それもそうか、いくら鍛えていようが、オーラが使えんと女である貴様らは肉体的には男にはずいぶん劣るからな」

張慈円は、怒りで肩を震わせている高嶺弥佳子と、伏した大石穂香を交互に見比べて、愉快そうに笑ってそう言っている。

高嶺弥佳子は大石穂香であれば、張慈円に遅れをとることはないと確信していた。

事実その見込みは完全に正しい。

大石穂香がオーラも使え、万全の状態であれば無傷とはいかずとも張慈円を圧倒しきったはずなのだ。

だが、現実にはイレギュラーがつきものである。

「まだかすかに息はあるが、こやつは時間の問題だな。俺の好みではないがなかなかの上玉と言えるであろう。それになにより3億超えの賞金首だからな。無駄に死ぬのは俺も望むところではない。貴様が大人しく俺の言いなりになると言うのであれば助けてやれるのだが・・どうだ?高嶺弥佳子。膝を折って負けを認め、俺に頭を垂れるがよいぞ?」

張慈円は穂香の頭を踏み付けながら、弥佳子に向って挑発するように嘯く。

圧倒的優位を確信し、人質まで得た張慈円はニタニタと笑い、弥佳子が自分好みの反応をするのを期待しているのだ。

弥佳子の隣で張慈円を睨んでいた真理は、怒りで我を失い弥佳子が短気を起こさないかという懸念で、チラリと弥佳子の方へと顔を向ける。

真理は安堵した。

さすがに高嶺の頭領は、仲間が死に瀕していたとしても冷静であったのだ。

先ほどまで、激高し張慈円を罵っていた表情は消え失せていた。

そこには愛刀を正眼に構え、一部の隙も無い恐ろしく無表情な顔の弥佳子がいたのだ。

真理は、高嶺弥佳子という人物に、寒気を覚える。

(・・・うちの佐恵子なら取り乱して喚き散らすところね。まあ、佐恵子の場合はそこが可愛いんだけど・・)

真理は高嶺弥佳子の胆力を素直に感嘆した。

死に瀕した部下を目の前にして、取り乱さない上司を冷酷であると思ったが、取り乱せば得になることは何一つない。

そして真理は、頭を足蹴にされ血だまりの中でほとんど動かなくなっている穂香の方にも目を向ける。

(・・・能天気そうな女だと思っていたのに・・・。高嶺弥佳子はそこまでできる主人ということなのね?そして貴女も命をかけてそれができる。)

真理は、虫の息になっている「気の抜けた炭酸水のような女」と評した大石穂香の捨て身の行動には本当に驚いていた。

真理に、主人の縛めを解かせるため、今日出会ったばかりの真理に主人を託して、自らは捨て石となったのだ。

(宮コー内部じゃ高嶺なんて血も涙もないアウトロー集団だという認識でしかないのに・・・。この人たちのこと私たちは実のところ何も知らなかったんだわ・・・。とはいっても宮川と高嶺は何代も前からずっといがみ合ってるのも事実・・・)

真理の思議を差抉るように、張慈円の嬉し気で不快な声が遮る。

「ほう。やはりそうか。そうこなくてはな。そうでなくては嬲りがいがない。もっとも・・貴様が無様に許しを乞うたとしても、きつい灸をすえるつもりではいたがなあ」

構えた弥佳子に対して、張慈円は満足げに何度もうなずいてから、穂香の頭から足を退ける。

弥佳子や真理にとっては幸運と言えるだろう。

張慈円は大石穂香を盾にして、屈服を迫ってくる様子ではない。

あくまで、弥佳子と真理の二人を力づくでねじ伏せたいのだ。

弥佳子は、張慈円のその慢心にぎりっと歯をかみ合わせるが、同時に安堵もしていた。

部下を人質に取られては、流石に戦えない。

「真理。貴女もその刀を使いなさい。剣の心得がなくとも貴女なら丸腰よりもマシでしょう」

弥佳子は張慈円の挑発を無表情の鉄面皮で受け流し、隣にいる真理に和泉守兼定を拾うように促す。

「ええ」

真理はその指示に素直に従い、拾った刀を鞘から抜き柄を逆手にもって構えた。

慣れない真剣の重さと、冷え冷えと輝く美しい刀身が剣が、刀を使ったことのない真理にも不思議と頼もしく感じる。

(それほど追い詰められてるってわけね・・)

「くくく、二人まとめて相手をしてやろう」

構えた二人に対し、張慈円は構えすら取らない。

すでに勝った気でいるのである。

「真理。真理も能力は・・やはり使えないわね?」

「ええ。【肉体強化】は全然できないし、【治療】もまるで発動しない・・・。【未来予知】もダメよ」

弥佳子の問いかけに、真理は張慈円に聞こえないよう、弥佳子と頬がくっつくほど接近して、耳元でそう囁いた。

真理の顔の位置からは、弥佳子の表情は見えなかったが、触れている弥佳子の肌からはいささかも動揺している様子はない。

声に出して騒がないところは流石である。

「そうですか。そうだとしても・・・わずかですが勝機はあります」

たっぷりと、ふた呼吸ほどの間を空けて、弥佳子は目に闘志をたぎらせてそう言って真理と目を合わせ力強く頷く。

「真理。手を貸してもらうわよ?」

「もちろんよ」

弥佳子は再び正眼に構え呼吸を整える。

弥佳子の表情は冷静そのもので思考も鮮明であるが、あふれ出す闘気で心拍数は上がっている。

そして隣の真理も、大刀を右手で逆手に持ちって防御の構えながらも、張慈円に対する憤りは弥佳子に負けるものではない。

同僚である銀獣こと稲垣弥佳子の指の骨をほとんどへし折り、左目を奪って一度は死に追いやったのは張慈円なのだ。

結果的に偶然にも居合わせた栗田教授に蘇生を施され加奈子は息を吹き返しが、その代償は大きかった。

加奈子蘇生の触媒として、近しい者のオーラの籠った肉体が必要だったのである。

そのため宮川佐恵子は左の魔眼を失い、力は大幅に失った。

そのせいで対抗派閥の先兵であり、佐恵子の先輩でもあった緋村紅音に対抗することが難しくなり、敵対派閥の台頭を許して支社長の座を追われたのである。

(この男のせいでめちゃくちゃだわ・・・。橋元不動産にいた単なる用心棒ごときと侮っていたのがそもそもの私のミスね・・)

真理の思議を今度は弥佳子が遮る。

「わたしが攻撃します。オーラが使える張慈円相手に挟撃は速度的に無理です。決して挟み撃ちなどをしようと思わぬこと。お互いの背後に回られぬように立ち回るのです。いいですね?」

弥佳子がそう言い終わった瞬間、張慈円が一瞬で間合いを詰め、弥佳子の手首目掛け踵を振りおろしてきたのだ。

「くっ!」

弥佳子は刀を持ち上げ、刀を霞にして辛うじて受け流し、流した勢いを利用して突き返す。

流麗で見事な一閃。

だが、蟷螂は愉快そうに笑った。

「ほほう!このぐらいの速度には対応してくるか?」

張慈円は、反撃の刃を難なく躱すと楽しそうな口調で言い返してきたのだ。

「くっ・・。視力や肉体が強化できないと、あの程度の速度にも対応できないとは・・それに・・」

愉快そうな張慈円に対し、弥佳子は冷静な表情の裏で、激しく苛立っていた。

達人の域にある張慈円とは言え、万全の高嶺弥佳子からすれば欠伸のでる速度である。

しかし、身体がついてこないのだ。

それに攻撃を受けきれたとはいえ、パワーの差は激しすぎる。

両手の霞で受けたにも関わらず、両手は肘まで痺れてしまほどの強撃であったのだ。

それゆえ、必殺の喉元への突き返しも満足な速度が出なかった。

弥佳子は気を取り直して刀を握り直し、息を整える。

「・・・真理。そう何度も受けられません。カウンターの一撃で決めます・・。霞で受けては反撃が遅れてしまいます。・・・私が望む形で張慈円が攻撃する瞬間が見切れればよいのですが・・」

弥佳子は相変わらず冷静を装ってはいるが、内心ではそうもいかない。

今の攻防でわかってしまったのだ。

速度だけであれば何とか対応はできるが、パワーの差は如何ともしがたいということに。

くわえて張慈円には電撃がある。

徒手空拳のついでに電撃を放たれたりすれば、今受けたダメージの比ではないだろう。

今の弥佳子に、張慈円の膂力と電撃の同時攻撃を捌き切ることはできない。

救いなのは張慈円がすでに勝った気でおり、全力で戦っていないというところである。

蟷螂は、羽を毟った2匹の蝶をたっぷりと甚振るつもりなのだ。

「くくくっ・・。思ったより随分楽しめそうだ。こういう遊び方はな、稲垣加奈子と戦った時に思いついたのだぞ?・・SEXで甚振るのも戦いで甚振るのも、本質は同じのようであるな。簡単には終わらんぞ?覚悟するのだな・・。くくくくっ」

ニタニタと笑った蟷螂が、羽をもぎ取られた蝶たちを嬲らんとゆっくりと距離を詰めてきたのだ。

15分後―

弥佳子は受け身をとって起き上がり、ぜぇぜぇと肩を上下させて額から滴る血が目に入らないよう、電撃で焼き焦げた袖で血を拭う。

しかし一緒に戦っていた仲間は躱しきれなかったようである。

「真理・・!」

張慈円が広範囲に放った電撃を躱しきれず、真理は電撃で身体をのけぞらせて倒れこんだのだ。

戦いの最中であるというのに、弥佳子は倒れた真理に駆け寄り膝をつく。

その弥佳子の行動を、敵である張慈円は邪魔することなく咎めもしない。

ただニタニタと笑い楽しんでいる風ですらある。

「だめ・・はぁはぁ!・・見えても今の私じゃ躱しきれないわ・・。先が見えてない弥佳子がこんなに躱せるなんて・・悔しいけどさすがね・・」

「真理。あなたはよく頑張った。六刃仙にはしてあげられないけど、十鬼集にはなんとか任命してあげられるほどには強いわ。・・あとは私がやるからもう休んでなさい」

「はぁはぁ・・くっ・・。なによそれ・・。褒めてる?貶めてるの?・・・それに弥佳子もボロボロじゃない・・・」

真理はそう言いながらも、隣で膝をついて険しい表情ではあるが、優しい口調で奮闘をねぎらってくる弥佳子の様子をまじまじと眺めた。

どうやら張慈円は、本当に弥佳子や真理を簡単には仕留める気はないらしい。

刀をまともに振れなくなるようにと、張慈円は弥佳子の両腕を執拗に狙ったのだ。

服の袖は破け、弥佳子の左腕は肘が明らかに折れており、力なくダラリと垂れ下がり、左手がもう役に立たないのは一目瞭然である。

刀を持っている右手も、肩から下の服は千切れて、打撲と裂傷がひどい。

特に刀を落とさせようと狙われた指はどれも青紫色に痛ましいほど腫れあがっていた。

くわえて、その他の部位、胴や足もおびただしい攻撃を受け1デニールのパンストは、チリヂリに敗れ、蹴撃によって腫れた痣を隠しきれていない。

「弥佳子こそ・・もうボロボロじゃない。なんでそんな冷静な顔してられるのよ・・まったく・・。痛くないの?」

「痛がっても痛みは引かないわ」

「そりゃそうだけど・・。ねえ、弥佳子・・・言いにくいけど生き残る為なら・・」

真理がそこまで言った時、弥佳子は真理に背を向けて立ち上がり片手で構えて張慈円に向きなおった。

「屈しないわ。何があっても」

見上げた背中越しにそう言われ、真理も覚悟を決める。

(・・・日本で唯一宮コーに従わない組織の長ですものね・・。ほんとうに流石ね)

ただ、このままでは敗北はほぼ確実なのは濃厚である。

真理は、戦いの最中もなんとか有利にならないかと思考を巡らせていたが、良い解決策は今の瞬間まで思いつかなかったせいでこの有様なのだ。

「神田川もここでリタイアか?・・そろそろ俺の電砲も我慢が効かなくなってきたからな。いい加減に終わりにするか・・・。どうしても貴様の口から命乞いを聞きたかったのだが、それは嬲るときにでも聞かせてもらうとするか」

張慈円は勝ち誇ってそういうと、もはやまともに刀を振ることもできなくなった弥佳子に狙いを定め、トドメを刺さんと腰を落とした。

その時である。

タマゴ部屋の照明がチカチカと点灯したのだ。

眩いと言えるほどの光量だった部屋の灯りが、ほんの1秒足らずの瞬きだったとはいえ、光量が多いからこそ、その異変はわかりやすかった。

「む?」

張慈円も天井を仰ぎ見るようにして足を止める。

そしてもう一度チカチカと点灯すると、部屋に降り注いでいた緑色の光が完全になくなったのだ。

タマゴ型を囲む中二階にある部屋から差し込む灯りだけしかなくなってしまう。

「うぉっ!?」

我に返った張慈円が突如襲ってきた横凪の一閃を後方宙返りで躱したのだ。

「ようやく・・・力が振るえるようになりましたね。覚悟しなさい!!」

額から流した血で左目を瞑ったままの弥佳子が、オーラを練り上げ刀を振るったのである。

「くっ・・。なんだ?故障か?電力が切れたのか?!」

張慈円はあたりを見回し狼狽してそう言ったが、高嶺弥佳子が一閃を振るっただけで追撃してこないことに、動きを止める。

「ん?どうした?オーラは戻ってももう身体はボロボロか?・・・そうだな。散々いためつけてやったからな?いまさらオーラが戻ってもしょうがあるまい?その左手、その指で刀などまともに触れるわけがなかろうな?くははははははっ!」

一瞬焦った表情を見せたももの、張慈円は再び勝ち誇った顔になって哄笑しだした。

「そうなると・・・」

ニヤついた表情のまま張慈円は顎に手を当て、床を蹴った。

がっ!

弥佳子の横を通り過ぎ、倒れていた神田川真理を引きずり起こしたのだ。

「離しなさい!」

「黙れ!回復されてはたまらんからな!貴様も2億ほどの首だ。殺しはせんが気を失っておれ!」

叫び藻掻いた真理であったが、背後から組み付かれ、背後から首を絞められてはどうしようもなかった。

手と足を1,2度バタつかせただけで、あっけなく動かなくなる。

ダラリとなった真理を張慈円は床に落とした。

「張慈円・・勘違いしているようですね。回復などしなくても、貴方程度は今の私でも十分です」

そうは言ったものの、実は弥佳子はそれだけ口にするのがやっとであった。

張慈円の動きは見えていたが、真理を助けようとしても、もはや身体が動かなかったのだ。

(無念すぎます・・・。このようなところでこの程度の男に・・・!)

弥佳子の冷静な鉄面皮が崩れかける。

「そうだ・・貴様のその表情が見たかったのだぞ?どれ・・もう少しよく見せてみろ!」

「黙りなさい!」

怒号と同時に弥佳子が残った力を振り絞り【剣気隆盛】を刃に乗せて、右手だけで刀を振るう。

しかし、足の踏ん張りも効かず、片手だけで振った剣撃は流石に隙が多い。

張慈円は、半身になって刃をやり過ごすと、そのまま身体を弥佳子の方へと滑らせてわき腹に拳を叩きこんだ。

「ぐっ!!」

弥佳子が薄暗くなったタマゴ部屋の壁に叩きつけられた。

しかし、それにしては衝撃音がない。

もはや勝ちを確信した張慈円は、部屋が多少暗くなったとしても暗視を使ってはいなかったが、違和感を感じ目にオーラを集中させる。

張慈円が目にオーラを集中させた瞬間、弥佳子を受け止めた背後にいた影が飛び掛かってきた。

ほとんど無傷の張慈円でも、油断をしていれば反応できないほどの速度。

「ぐあっ!?」

頬に衝撃が走り、張慈円は口から血吐きながら横転した。

動転した張慈円が、横転から素早く起き上がった時、聞きなれた声が張慈円の耳に飛び込んできたのだ。

「人は、斬られるのより殴られる方が屈辱を感じるそうですね。どうでしたか?」

凛とした声。

すらりと立った女性が張慈円に言い放ったのだ。

「奈津紀さん!」

壁を背にした弥佳子がその名を呼ぶ。

「御屋形様。私のせいでこのような大惨事を引き起こしてしまい、申し開きのしようもありません。あとで甘んじて責めはお受けいたします。・・・しかし、罰を受ける前に今はこの男を斬ることをお許しください」

タマゴ部屋のほぼ中央で張慈円が下手に動けないように牽制しながら、奈津紀は静かに、それでいて当主に対し恥じるようにして言ったのだ。

弥佳子はそんな奈津紀に対して、笑みを浮かべて言ってやる。

「許可します。本来は私がやりたいところですが、奈津紀さんが適任でしょう」

「・・畏れ入ります」

奈津紀はその言葉に対し、隙をつくり過ぎないように軽く、しかし深い感謝と謝罪の念を込めて頭を下げた。

「貴様!どうやって出てこれたのだ?!袁の見張りがいたであろう?封環はどうしたのだ?!だれが千原の拘束を解いたのだ?!」

取り乱して喚く張慈円を横目に、奈津紀は羽織った患者衣をはためかせて、真理のところまでくると、片膝をついた。

「神田川真理。助力感謝します。貴女は御屋形様と穂香をお願いします」

「・・まかせていいわよ」

笑顔で頷く真理に、奈津紀は頷くと、真理が握っていた和泉守兼定をそっと受け取ると立ち上がった。

真理に背を向け、張慈円に向きなおる。

「この部屋の動力室はさきほど私が破壊しました。これでフェアに戦えますね。張慈円様?」

かちゃり!と抜き身の刃を構えた奈津紀の表情は、怒りでも悲しみでもない表情でそう言ったのだ。

しかし、白衣を羽織っただけでまともな服こそ着ていない千原奈津紀だが、傷は完治しており、オーラも十分で気力が溢れているのが肌で感じられる。

張慈円は、奈津紀の脅威を嫌というほど知っていたはずだったが、敵として本気で相対した場合との違いに瞠目していた。

慌ててオーラを全開で開放し、体中に紫電を纏って構えなおす。

バチバチと全身に紫電を纏いながらも、張慈円の汗は止まらない。

奈津紀も張慈円に呼応するようにオーラを開放させた。

張慈円のように激しく波打っていないが、刺すような冷たいオーラであり、そして奈津紀を中心に濃厚な死の気配が広がる。

「・・・すごいわね・・」

穂香に膝枕をして【治療】をしていた真理が、思わず声に出してしまったのだ。

かつて張慈円のアジトである港倉庫では、千原奈津紀の今展開しているオーラの中に真理はすっぽり入ったことがあるのだ。

(あの気配を向けられたら生きた心地はしないわよね・・。張慈円でもあの取り乱しようだもの)

「ごほっ!・・まりりん・・。穂香より先に御屋形様を診てよ~」

真理が全身に鳥肌を感じていると、膝元からのどかな声が聞こえた。

「その御屋形様が貴女を先に治せっていってるの。肋骨が折れてて肺に刺さってるし、貴女ちょっとにおうわね・・。それに口から吹いてる血が私にかかったわ・・」

「・・まりりん面白いね。穂香まりりんのこと気に入ったかも~」

穂香が張慈円に突貫するとき、一瞬の目配せだけで穂香の意図を真理が組んでくれたのが嬉しかったのだ。

「まりりん。なっちゃんどう?」

今だに首すら回せない穂香は、視線を二人に向けることができなかったのだが、すでに静かになった部屋の様子を知りたがったのだ。

真理の目には見えていた。回復も少しは進んだことだし穂香の脇を持ち上げ、見やすいように身体を引き上げてやる。

顔を引きつらせ紫電を纏った張慈円が吼えたところだった。

「千原!!俺が貴様をたっぷり可愛が・・・」

張慈円の反応速度を超えた奈津紀の和泉守兼定が、張慈円の首を一閃で断ち切ったのだ。

首は薄暗くなったタマゴ部屋の宙に舞い、恐懼の表情を張り付かせた張慈円がセリフの続きを言おうと口を何度か開かせていたが、言葉にはならず奇怪な呼吸音しか発せていない。

卑劣な手で女を凌辱した自慢話などを、この場にいる誰もが聞きたくなかった。

千原奈津紀自身がもっとも忘れたくて忘れられない恥辱を刻み込んだ張慈円は、首と胴が離されたのだ。

そしてその首は、ぶんぶんと回転して首から、汚らわしい血をまき散らしながら、最後はぐしゃり!と床に落ちたきり目を開いたまま動かなくなった。

「御屋形様!」

首が床に落ちたと同時に刀を鞘に納めた奈津紀が、弥佳子に駆け寄り膝をつく。

「・・・反省会は後ですよ奈津紀さん。真理。私もお願いします」

「ええ」

穂香をあらかた治療し終えた真理はそう言うと弥佳子に駆け寄ったのであった。

弥佳子、奈津紀、穂香、真理の4人が集まり、いまだ敵陣の中だと言うのに笑顔である中、部屋の中央には張慈円の胴体と、半分つぶれた顔が目を見開いたまま転がっていた。

香港三合会最強と謳われた雷帝張慈円であったが、最後の最後は趙慈円の数多い女性遍歴の中でも最高級の美味をむさぼった相手に首を切り落とされての最後であった。

【第10章  賞金を賭けられた美女たち 33話 剣聖復活!雷帝の最後終わり】第11章へ続く
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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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