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第8章 三つ巴 31話 切れた命綱 

第8章 三つ巴 31話 切れた命綱 

日の光はすでに無い時刻、頼りない共用灯の光に照らされている駐車場のアスファルトに僅かな着地音を立てて二人は飛び降りた。

飛び降りた瞬間、通信機を持った二人組の男と目が合う。

飛び降りた女の一人は飛び降り際に、すでに男たちには目星をつけていた。

女は驚く男の片方、通信機を持っていたほうの男に素早く詰めより鳩尾に鉄扇をめり込ませた。振るった鉄扇と同時に、苦悶で男が悲鳴を上げないように左手で口を押えつけながらである。

「キ、キサマラ・・!」

片言の日本語でしゃべり出したもう一人の男を、やはり中国系と確信した女は大胆に露出させた白い美脚を縦に振り抜き男の顎を跳ね上げる。

「ふぅ・・」

見張りについていた二人の男たちは仰向けとうつ伏せでどさりと倒れ込みピクリとも動かなくなる。

二人の男を一瞬で制した女はデニム短パンに黒いTシャツの豊満な身体つきをした羽田美智子似の女、もう一人は肌に吸い付くようなぴったりとした僅かに光沢のある黒いアーマースーツを着込んだ木村文乃似の美女二人である。

二人が激しく動くと、豊潤についた膝から上の肉が揺れるが、それが単に無駄についていた肉では無いことが、地面に寝ている二人のマフィアが物語っていた。

「美佳帆さん・・・アリサが・・あの刀の女・・!」

飛び降りしゃがみこんだ寺野麗華が上階のベランダに一瞬目をやり、美佳帆に狼狽えた様子で話しかけた。

神田川真理に斬りかかった残忍な笑みを浮かべた小柄な女剣士の立ち振る舞いから、只者ではない気配を感じ取った麗華は残してきたアリサや真理、支社長の身が気になっていた。

「しっ・・麗華落ち着いて」

美佳帆は口に右手の人差指を立て麗華を黙らせると、器用に左手でスマホを操作する。

「ひとまず、これで良し・・っと・・・そこまで距離が離れてないから運が良ければ15分ぐらいで宏達が来てくれるわ」

メッセージを送信し終えた美佳帆は、極力平静を装った笑顔をつくり、麗華を落ち着かせようとなるべく優しい口調で言った。

「でも・・!」

慌てた様子で続けようとする麗華を手で制し美佳帆は続ける。

「麗華よく聞いて・・救援は呼んだわ。後は足手まといの私が敵に見つからないように逃げて安全を確保することが皆の為にもなるの。今の私じゃこんな雑魚は倒せても、あんな達人でしかも能力者の相手に満足な戦力になれない。だから麗華・・頼んだわよ?」

オーラがほとんど使えず自分を戦力外だと言う美佳帆の言葉が麗華を落ち着かせた。

「・・・うん!任せてよ美佳帆さん!」

美佳帆の言葉に麗華も自分を取り戻し、力強く美佳帆に頷き応えた。

「お願いね・・。さあ、この見張りの二人がのびちゃってるのはすぐにバレるわ。急ぎましょう」

倒れた男のそばで通信機がガーガーと鳴っている様子を見て、美佳帆がそう言い麗華が頷くと、のびた見張り二人を飛び越えマンションの裏手にある川の堤防まで身をかがめ二人で駆ける。

府内の中心街ではあるが河川の周りは植林がされており、本来なら手入れされていて然るべき護岸公園なのであろうが、ちょうど季節の変わり目で、除草が行き届いておらず、雑草が腰の高さまで伸びている。

また植えられている木々の枝葉も剪定されておらず、繁華街の雑居ビルや看板から注がれる淡い光をうまい具合に遮断してくれていた。

「ついてるわね・・・。ぐーたらな行政のおかげで命拾いできるかもしれないわ」

二人は背を大きなクスノキの下に預け、生い茂っている周囲の雑草より身を低くし、美佳帆は麗華にだけ聞こえるように呟いた。

「普段なら折角の公園をって文句言うところだけど・・今日に限っては敵の目から隠れられるね・・」

麗華も落ち着いてきたのか少しだけ余裕のある発言を美佳帆に返す。

「でも・・やっぱり、すんなりとはいかないか・・。公園の入口あたりには人影もあるし、日本語じゃない人の声や、衣擦れの音も向こうから聞こえる。・・都合よく中国人観光客・・ってわけでもなさそうね・・。張慈円の手下たちよ・・・私たちを探してる会話だわ。麗華が視力強化で暗視して先行して?私が【百聞】で耳の役をするから。二人で分担して見つからないように奴らから身を隠して躱しながら包囲を抜けるわよ」

美佳帆は木の根元に背を預け地べたに腰を下ろしたまま目を閉じ、【百聞】を限界まで広げ注意深くあたりを警戒する。

美佳帆はマンションに到着した時よりもオーラが少しは回復しているのを感じていた。なぜなら、さっき半径20mほどしか展開できていなかった【百聞】であるが、今は25mほどまで展開できている。

敵警戒網を突破するには、少し心もとない【百聞】の範囲ではあるが、麗華に目で警戒してもらい、気配を消しやり過ごしながら焦らずに行けば何とかなりそうだと、美佳帆の心の中には少し余裕が沸いてきていた。

「うん!じゃあ私が目になるね!このままあの橋のところまで行ければ、対岸に逃げられそう・・」

麗華が指さす方には明るく対岸まで延びた橋があった。

「そうね。注意深く進めば行けそうね・・さ、行きましょう・・・」

二人で役割分担をし、案外と大勢居た張慈円の手下らしき人影を躱し、あらかたの警戒網は抜けたかもしれないと思った時、美佳帆の下腹部にあの感覚が僅かに戻ってきた。

「・・・・!・・あ・・れ?(まさか、こんな時に・・・!?)」

「どうしたの?美佳帆さん」

美佳帆の声に驚き振り返った麗華が心配そうに顔を見つめてくる。

「ううん、大丈夫。何でもないわ・・・。このまま油断なく行きましょう。もう一息ね」

美佳帆がそう言うと麗華は「うん」と答え

「見える範囲じゃ人影は見えないです。このまま目に力集中させて暗視するから、美佳帆さんの【百聞】でなにか感じたら教えてください。途中変更があったらその時言ってくださいね」

そう言うと麗華は美佳帆に背を向け、身をかがめた格好で橋の袂目指しゆっくりと進みだした。

(まさか・・冷静と沈着付与が切れた?宮川さん達に何かあったのかしら・・?!)

美佳帆は麗華に悟られないように咄嗟に表情をつくってやり過ごしたが、最初はほんの小さな火種であった疼きが、徐々に下腹部に燃え広がりすぐに猛烈な性的欲求が襲ってきた。

(こ・・これは、完全に効果切れだわ・・!付与が切れるのは・・宮川さんが意識を失った時・・・もしくは・・・・死んだときって聞いてるけど・・まさか・・)

脳裏に浮かぶ不吉な考えを振り払うと、違う感覚が脳を蝕み始めた。

猛烈な黒く甘い疼きが体の芯から湧き上がり出す。やり過ごそうと下唇に歯を立て、気を紛らわそうとするが、やり過ごすにもこの感覚は過ぎ去らないのだ。

宮川佐恵子の能力で抑え込んでいたため忘れていたが、先日まで自分を蝕んでいた耐え難くも甘い疼きに美佳帆はその熟れた身体を耐えきれず捩る。

「うっ・・はぁ・・・アァッ・・・」

草の丈が少し低くなった箇所で膝を着き、臀部を持ち上げるように身をかがめた瞬間に美佳帆の口から甘い声と吐息が漏れた。Tシャツに短パンという軽装姿のままか顎を上げ発情した猫のように仰け反ってしまう。

「どうしたんです?声を出すと見つかっちゃうから・・。それより、このまま進んだらいい?大丈夫そうです?」

麗華は自分の後ろについてきている美佳帆に振り向き声を掛ける。

「・・ええ、あ、あっちに行ってみましょう」

「うん。方向変える時は声を掛けてください。前方に人影はありません」

美佳帆の指示に麗華は頷くと美佳帆の指さしたほうに再び進みだす。

四つん這いの格好で身をかがめ進む美佳帆の股間はついに潤滑油が滲みだしてきていた。

もはや【冷静】と【沈着】は完全に効果が失われたのは確実で、橋元に枷られた【媚薬】が美佳帆の股間を、そして脳を蝕みだす。

媚薬は女性なら誰でも抗う事などできないほどの性感を、解除条件に達するまで与え続けられるのだが、効果は受けた女性の性的経験が豊富なほど、より効果が増すのは、媚薬の能力者の橋元自身も知らないことであったが、菊沢美香帆は、年齢的にもこれまでの経験からみても、橋元の媚薬の効果がこれまで媚薬を受けた女性の中でも最も効果を発する条件を満たしていた。

視力と聴力を強化した者が今の美佳帆を見れば、デニムのホットパンツ姿でヒップを突き上げて這いずり回り、股間からは卑猥な潤滑油の粘着音を奏でている美佳帆はさぞかし淫卑で滑稽に見え、楽しませてしまっただろう。

明るい色のデニムの短パンは股間部分が僅かに濃く変色しつつあった。

(麗華を前に行かせていてよかったわ・・・。こんなところ見られたらさすがに恥ずかしすぎる・・)

美佳帆は股間の摩擦具合から自分が濡れぼそってしまっていることに気付き、内心少しほっとした。

しかし全身に汗をかき、目は虚ろになりかけながらも、何とか正気を保とうと目の前の形の良い麗華のお尻を見失わないよう、そのあとに続く。

どのくらい進んだろうか。麗華に声を掛けられてから何とか100mほど進んだとき、麗華が跨いだ倒木の丸太を、美佳帆も跨ごうとした。

そのとき倒木の折れた枝が美佳帆の胸の中心部をちょうど掠めた。

(うっ!)

声を発することは何とか我慢できたが、胸の突起を弾いた衝撃が脳と子宮に伝わり一瞬身体を逸らし、美佳帆は快感に身を震わせる。

(声を上げてはダメ・・。麗華まで見つかっちゃう)

【媚薬】の効果に蝕まれた美佳帆の【百聞】はもはや半径2mも展開できていない。しかも、その狭い範囲ですら穴だらけであった。

(こんなんじゃ・・【百聞】を使わなくても聞こえるわね・・・無駄に疲れちゃうだけだわ)

美佳帆は自虐気味に言うと【百聞】を解いた。流石に、付与が無くなり【媚薬】に犯された今の自分の状態を麗華に伝えなければと思い、前を行く麗華を見ると、15mほど前に麗華のお尻が見えた。

(え・・?こんなに引き離されちゃったの?!)

宮コーで支給されたアーマースーツでぴったりと形を浮き出させた形の良いヒップを左右に揺らせながら進む麗華に声を掛けるにはすでに遠すぎる距離だ。

美佳帆は慌てて小さく声を出す。麗華が聴力も強化していることを期待して。

「麗華・・!・・ちょっと待って!」

小声で、しかし何とか麗華まで聞こえるかもしれない声の大きさで麗華に向かって声を掛ける。

しかし、麗華の動きは止まることなく進んで行ってしまう。

「麗華・・・!」

この大きさの声はまずいと口を押えた美佳帆であったが、無情にも麗華はそのまま茂みの向こうまで進み、草で視界は覆われ見えなくなってしまった。

(れ、麗華・・・どうしようこのままだと二人とも見つかってしまうかも・・。私ったら・・・ドジ・・!)

美佳帆は胸への刺激で気を散らせてしまったことを一瞬だけ後悔したが、すぐに気を取り直し、なんとか麗華に追いつこうと前進する速度を速める。

「はぁはぁ・・」

股間の疼きと急いだせいで美佳帆の呼吸が荒くなる。

なんとか麗華が見えなくなった茂みまで何とか進むも、麗華の姿はない。方向を変える指示があれば声を掛けるということになっていたので、麗華は忠実に守ってしまっているのだろうか。

「でも・・・ここなら見つからなさそうね・・」

美佳帆がいるところはちょうど雑草と低樹木で茂みの塊になっていて、周囲からは見えないように覆える場所であった。

美佳帆はスマホを取りだすと麗華にラインを送る。

(少し遅れたから、待ってて。すぐに追いつく。心配しないで)

送信すると、美佳帆は息を整えようと一息つき茂みの中に腰を下ろした。


雑草地帯を四つん這いで突き進み、公園のフェンスまで到着した麗華は、緊急事態だからと言い聞かせ、腕力を強化させフェンスを引きちぎり人が通れるほどの大きさの穴をつくると少し安心した口調で

「ここを超えたらもう少しで橋です。ここまで来ればさすがに抜けたんじゃないかな」

後ろにいるであろう美佳帆に言う。

「ねえ美佳帆さん。そろそろもう一度所長や和尚に連絡してみたほうがよくない?」

麗華は何故か返答のない美佳帆に振り返り目を見開いた。

「え・・!?あれ??・・美佳帆さん!?」

振り返った先には自分が這い進んで草がかき分けられた暗い道がぽっかりとあるのみで、そこに菊沢美佳帆の姿はなかった。

「な!・・どうして・・?!」

麗華は思わず続けて声を上げてしまった。美佳帆を逃がすために二人で進んできたというのに肝心の美佳帆の姿が無くなってしまっている。

麗華は破ったフェンスを抜けると河川堤防ののり面を駆け上がり、水門の上まで一気に跳躍する。

目立つ行動には間違いないが、美佳帆を探そうと高いところから視力強化をし暗視を強めるが、生い茂った木々で遮られ美佳帆の姿は見つけられない。

続いて聴力を強化してみるも、喧噪なども聞こえず美佳帆がとらえられたような様子でもない。

「く・・。美佳帆さんは調子が悪いって言ってたのに・・・あーもう!・・私がどんどん進んじゃったから・・・・」

麗華は焦る気持ちを何とか落ち着けようとしたが、無意識に水門の上にある手すりを潰さんばかりに握りしめ潰してしまう。

「ヤッパリ・・・オイオリテコイ!オマエ!マイクノアシヲオッタオンナダナ!コッチニイタゾ!!」

遠くにいるであろう美佳帆を探知しようと集中していたところに、麗華は突如真下に近い位置から大声で声が掛けられた。

張慈円からあまり戦力として信用されていないため、かなり離れたところの見張りを言い渡されてたアレンは、結果的にそれが幸いして麗華を発見することができてしまったのだ。

「ちっ!せっかくここまで地べたをヨチヨチ隠れて進んできたってのに!!このボンコツ外人!今はあんたの相手なんかしてる場合じゃないってーの!!」

麗華はつい大声で悪態をついて少し離れた下の堤防の上に立っている黒人の大男を罵った。

「オリテコーイ!!」

麗華の流暢な罵声が日本語でよく聞き取れないアレンは、麗華の悪態を無視して自分の主張を大声で叫ぶ。

さっさと片付けてしまうことを決心した麗華はふん!と一声発すると握りつぶした手すりを飛び越えアレンの前に飛び降りた。

「さあ!さっさとやりましょ!あんたの両足もマイクって奴と同じようにへし折ってあげるわ!!」

焦りからやや冷静さを失っている麗華はアレンを挑発するとワイドスタンスに構え指先で手招きする。

(・・・・・?・・・・・あれ?・・・こいつ依然と雰囲気違わない・・・?)

降りてきた麗華の張り付いた服装をニヤついた顔で舐めまわすように眺め、ボクシングスタイルで構えたアレンは妙に自身が漲っており、怪訝に思った麗華は眉を潜めて観察する。

「フフフ・・・。チョウノダンナノテシタモアツマッテキタヨウダナ。ダガアンシンシナ!サシデアイテシテヤルカラヨ。アッチノホウモナ!!」

そう言うのがコングだったかのようにアレンは麗華目掛けて一気に距離を詰めてきた。

【第8章 三つ巴 31話 切れた命綱 終わり】32話へ続く


第8章 三つ巴 32話 超越者と超越者の過去

第8章 三つ巴 32話 超越者と超越者の過去


私は愛弟子の菊沢宏君に、近々我が宿敵とも呼べる髙嶺と一戦交えるかもという連絡を受けていて、彼が今籍を置いている探偵事務所の近くまで彼に会う為に来てみると、その道中で黒髪の淑女が2人傷つき瀕死の状態で居るのを見つけた。

医師である限り放っておくことが出来るはずもなく、レディは優先的に助けるのが私のポリシーでもあったのでその2人の女性をとりあえず治療することにした私に治療した後、神田川真理と名乗った女性が丁重なお礼を述べた後、

『何処のどなたかも存じ上げないあなた様に、こんな事をお願いするのは非常に心苦しいのですが、ハァハァ・・・その先で、私の同僚が私たちをこんな目に合わせた人たちと交戦中だと思います。あなた様が只者ではないと・・・わかります・・・かなりの腕利きとも・・・なので・・・その・・・私の同僚を・・・あぁ・・ハァハァ…』

そこまで話して、治療直後の美女、神田川真理さんは、意識が遠のいていってしまった。

私は聞こえたか聞こえなかったかはわからないが、

『治療費にあなたの同僚の救助費は神田川さん、あなたの身体で頂きますね~』

と軽く冗談めかして言い終わるが早いか私の足は、神田川さんの指の差した方へ足を向けて動いていた。

神田川さんの指の差した方へ急いで向かってみると、1人の若い女性をよってたかって、リンチしているのが見えたので本気ではないが、とりあえず私は戦う事が嫌いなのでモチベーションを神田川さんを抱くためにという理由付けをして助ける事にした。

しかし、縁は異なもの味なものというが、まさか私の視界に映る女性を囲っている見覚えある黒スーツに日本刀軍団の中に、本当に1人顔を覚えている女性も居た事に、その者たちが髙嶺の者である事を理解する。

確か・・・あの短いスカートから覗く白く美しくも豊満な太もも・・・それに感情の起伏の無さそうな無表情眼鏡美人・・・髙嶺当主の髙嶺弥佳子の懐刀の千原とかいう・・・凄腕の剣士だったような・・・

そうあれは丁度1年と少し前の事、私がまだ米国に渡る前の話・・・私が勤務する東大病院へ髙嶺弥佳子という者の使いと言う事であの千原という美女がやってきた。

そして私は元来女性の誘いは断らぬ事をポリシーとしていたので、快く彼女の招きに応え、たまには京都旅行も良いものかと思い軽い気持ちで用件も気にせずに美女の誘いに乗ったのだが・・・。

そのあと、私は髙嶺弥佳子という女性と千原奈津紀という私に直接会いに来た女性と3人で宴に招かれたがその場で彼女たちは、およそ平成のこの時代に生きている人間とは思えないような事を、何の躊躇もなく口走った。

彼女らが言うには、自分たちは江戸時代から続く暗殺一家で、表向きは大手ゼネコンを経営している実業家だが、裏では日本のみならず各国の要人を大金で消し去る稼業を生業としている。
そして、髙嶺の裏の実働隊の人間は皆、特別な力を持っていて、皆、江戸時代から伝わる剣術の免許皆伝者である。
その実働隊の能力を鍛えるため、またその実働隊の指揮を執る1人として私に力を貸してほしいと言ってきたのだ。

確かに私は速読を始め、超記憶術などを実務に活かせるよう指導しているカルチャースクールを経営しているがその中でもたまに、もともと素養のある者では私の1番弟子の菊沢宏君のような特殊な能力に目覚める才能のある人物もいる。私自身がそうであるように、確かに脳を鍛え、チャクラともオーラとも念とも呼べる人が誰もがもともと持っている力を引き出し自由に使えれば、格闘術と複合すればオーラを使えない人間などいくら達人であっても相手にはならないし、その気になれば人を殺めることなどもたやすい。

しかし、その『力』をこうもはっきりと悪用している事を人前で堂々と公言する彼女たちを私は心底おそれた。

本来なら美女の頼みは断れぬ私で、いつも笑顔は絶やさない私もこの時はさすがに顔が引きつっていくのを自覚できたほどであった。

しかし・・・この髙嶺弥佳子という女性・・・医師である私もあのドラマは見ていたので、あのドラマに出ていた戸田恵梨香ちゃんにそっくりな容姿なのに・・・ドラマの彼女とは正反対のような無感情な・・・しかもどういう育てられ方をすれば、このような人を塵芥のように扱う発言が出来るものなのか・・・。

『栗田教授・・・我が髙嶺に協力できない人間など生きている価値がございません。今すぐここで冥府にお送り致しましょう。』

私は、彼女から発する絶大なチャクラ量、しかも攻撃的な圧倒的な殺気ともいうべきチャクラを受け流しながら背中に久々に冷や汗という柄にもないものをかきながらも笑顔は崩さずに、

『おやおや・・・お若く聡明に見えるのに育った環境で人間は、こうも偏った考え方になるものなのですね。。。その慢心を聊か戒めて差し上げましょうか』

これが私と髙嶺の因縁の始まり・・・開戦宣言とも呼べる私と髙嶺弥佳子との約1年前のやりとりだった。

そしてその時に傍らにいた、髙嶺弥佳子と同等同種のまがまがしいチャクラを放つ千原という女性が今私の目の前で麗しきレディをその手にかけようとしていた。

(この黒スーツに日本刀の方々を見ると、どうもあの方と相まみえた事を思い出します・・・。私の点穴…絶からまさか舞い戻ってくるとは・・・あの髙嶺の六代目当主は、相当厄介な相手のようで・・・・それに今目の前にいる、あの眼鏡が似合うナイスボディのレディも・・・)

・・・宮コー軍団と髙嶺&張慈円一派が激しく凌ぎをけずっているおよそ400日前の事・・・・

『栗田教授!あなたをここへお招きした私の顔を見事に潰して下さいましたね。御屋形様、ここはわたくしが教授を粛清致します。』

京都の右京区の某所にある、時代錯誤の建物もこの町ではさほど目立つことなく景観に溶け込んでいるのは、周囲には国宝や文化遺産が数多く建立する街並みだからであるが、それでも、今、栗田教授の目の前にいる2人の女性は時代錯誤どころか現代と、幕末を混同したような恰好をしていて、普通に道を歩いていたら100%警察に連行されるような出で立ちであった。

2人の女性は豊満なその肢体を黒のリクルートスーツで包み込み、ともに機能重視なのかかなり膝上のタイトスカートの腰元には、鞘を差している。そのうちの1人、千原奈津紀という眼鏡をかけ、肩くらいまでの美しい直毛の黒髪の女性は、私に向かい信じられない常人離れした速度で、本物の日本刀を打ち込んできた。

(こらこら・・・そんな物騒な物を振り回しちゃいけないよ・・・っと・・・これは!)

私は通常の体裁きでは私の合気では交わせないと思い、速読で千原という女性の動きを読み取った。私は思念を使い速読を試みれば、動くものすべてがビデオ再生をスローにしたように見る事が出来るので、これは私の見切り速度が異常に上がるわけで実際に動くものが遅くなるわけではないのだが、それでも千原という女性の動きは、スローどころか瞬く間に切っ先が私の目の前にあった。

私は彼女の抜いた日本刀の切っ先を指で摘まむようにすると、

『覇っ!あなたは少し大人しくしていてくださいね。いや~しかしお美しいのに・・・もったいない・・・髙嶺などに与しなければ、きっと楽しい人生を送ることができましたでしょう・・・今度私と2人でもっと楽しい事を致しましょうね、お嬢さん』

と彼女にささやき、彼女には申し訳ないがいわゆる金縛りにかけさせてもらった。しかし彼女のオーラの強さから推測するに長くて3分、もしかしたら2分ほどしか停止させれないと判断したので、私の目的、髙嶺弥佳子のオーラを封じ込める事を急ぐ必要があった。

『え・・・・う・・動けない・・・』

『普通は喋る事もできないのですが・・・お嬢さん、あなたは恐ろしい女性ですね・・・』

私の、不動縛りにかけられ話せるとは・・・ここまで肝が冷える思いをするのは久方ぶりであった。

『奈津紀さん!・・・さすが、栗田教授、これが噂に聞くあなたのオリジナル・・・不動縛りですか・・・しかし、あなたのお力でも奈津紀さんを何分止めておけるのかしら?』

(う~ん・・・さすが・・・見破られておりますね~彼女を不動縛りにかけながら、髙嶺の当主と戦うのはいささか骨が折れます・・・今すぐ帰りたいのですが、そうもいかないですし・・・仕方ありません。美女と楽しくディナーの後にお楽しみタイム・・・と考え鼻の下を伸ばしていた自分を殺したい気持ちですよ~)

『う~ん・・・困りましたね・・・私を仲間に引き込むことや、あなた方が繰り返し行っている暗殺業をやめるという事をお考えいただけないですか?お美しい六代目当主さん。そうでないと、私はあなたの持つそのお力を封じ込めなくてはいけなくなります。聞いてしまいましたからね、あなた方が行っている行為・・・そんなものとてもこの平成の世ではまかり通るものではありませんよ。』

シュッ!!!!! 

グシャッ!!!!!!

私が最後に笑顔で彼女を諭してみるが、言葉を吐き終えた瞬間、私は速読を使う間もなく、私の左目に熱さを感じた・・・なんと彼女のあまりにもの突きの速さに読み切る事もかなわないまま、私の左目には眼鏡越しに彼女の刀が突き刺さっていた。

『栗田教授!あなたのたわ言などに耳を貸すつもりはありません。このまま逝っておしまいなさい。あなたの唯一無二である類まれなる特殊な能力を見込んで助力を申し出たわたくしがバカでした。』

(なんという速度・・・人間のそれとはとても思えません・・・しかも・・・このまま突き刺したままにしておくと、どうやらこの刀から私のチャクラを吸い続けるようですね・・・まさに生気を吸い取る妖刀とでもいうべきか・・・彼女の能力なのか・・・これは絶しかないですねやはり・・・)

私は、白のカッターシャツが私の目から流れ落ちる鮮血で赤く染め上げていくのを、突き刺されていない方の右目で確認しながら、さすがにこうなるといつも笑顔を絶やさない私も笑顔ではおれずに、

『痛いですね~さすがに・・・目はいけませんよ目は・・・私の目は、そこら辺の宝石より価値があるのですよ・・・しかし、片目とあなたの能力の交換なら・・・お釣りがきますね・・・あなたから近づいてきてくれて良かったですよ。』

私の目に食い込む、刀を抜かせないよう、彼女の右手首を掴み、合気で極めると一瞬宙に浮いた髙嶺弥佳子のCカップかDカップくらいであろう左胸の下に2本指を差し込むと、オーラをコントロールする器官で点穴に指を打ち込んだ。

点穴は本来、東洋医学では治療不可能な病を、人間が誰しも持つ自然治癒力を高めるために、オーラを活性させ病を治す為に突く治療なのだが、逆に点穴の動きを止めてしまい、本人の意思でオーラを操れるいわゆる能力者相手でも一切オーラを練れなくする事もできる。

この点穴を切られた人間は男性であれば射精感を女性であればいわゆる潮吹きと同じ噴出感を伴い大きく絶頂してしまった後に、オーラは一切使う事ができなくなる。もちろん自然治癒力も大きく低下するし、オーラを乗せた技や、オーラを活用した能力などの使用もできない。

ただ彼女の場合は、元来持つ卓越した剣術があるので、戦闘力の全てをはぎ取る事ができるわけではないが、私も今この場で彼女を絶命させるだけの余裕はなかった。

それは、今不動縛りで動きを止めている千原奈津紀が動けるようになったときに、髙嶺弥佳子と変わらないのではないかと感じるほどの力を持つ彼女を含めた2人を同時に相手にする事は難しく、髙嶺弥佳子を絶命させる事を目的として戦えば、千原の復活までに決着をつけれる自信も保証もなっかた。

(宏君を連れて来ればよかったなぁ・・・彼と2人で2VS2なら何とかなったかもしれないのに・・・まさか美女2人相手に戦う事などは予想していなかったですしね。次に宏君に会うときには、是非、点穴の突き方・・・絶を伝授しなければ・・・)

私に点穴を突かれた髙嶺弥佳子は、表情を変えず涼しげな眼で私を見据えていたが、一瞬その眼が内部からの抗う事を許さない性感がこみあげてきて、うつろになり大きく下半身を揺らせ震わせたかと思うと、

『くっ・・・栗田・・あなたまさか・・・この私に・・・うっ・・・あぁっ・・・』

『すみませんね~目を失わされたのですから、これくらいは・・・点穴を突かれると、男性は射精、女性は絶頂してしまうのですが、それと同時に、オーラも練れなくなります。これで、悪さは金輪際できませんからね。せめてものお詫びに極上の快感はプレゼントです。』

そんな事を述べながら、私は左目に突き刺さっている刀を抜くと、髙嶺弥佳子はその場に膝をつき、肩で息をして大きな絶頂の後の、余韻に浸りながら再び私に涼しげな視線をぶつけてきた。

私は眼からの出血もひどく追い打ちなどかける余裕もなく、いち早くこの場から立ち去ろうと考えていると、

『御屋形様!!!!』

先ほどの髙嶺弥佳子の突きと同等の速度の突きが私の肩をかすめた。

私は目からの鮮血で染まる白のカッターシャツをさらに肩のかすった千原の刃による傷で染め直してしまうと、すでに髙嶺弥佳子にかなりの量のチャクラを吸い取られていたので、チャクラ量も点穴を突く技、絶を使いのこり僅かとなっていて、とてもこの達人の女性を相手する力は残っていなかった。

『お若いですね~荒い打ち込みです。千原さん、脱力こそ更なる精進への道ですよ。しかし・・・私も年ですな・・・年はとりたくないものですね・・・ここであなたのお相手は出来ません。ベッドの上ならば話は別ですけどね。ハハハッ』

『この期に及んで減らず口を・・・お・・・御屋形様大丈夫ですか!?』

千原奈津紀は私をかすめた刃を納め、膝をつく髙嶺弥佳子に駆け寄った隙に、私はその場からいち早く立ち去りその後、アメリカの知人の病院で眼の治療も含め今日まで身を隠していたのだ。愛弟子の宏君には、髙嶺とかかわるべからずとの手紙を残して。

あの時、千原奈津紀が主人の髙嶺弥佳子の事を気にせずに私との交戦を優先していたら、私も、もしかしたら命を落としていたかもしれない。それほどの相手なのである。

今私の目の前で、麗しきレディをいたぶっているこの千原奈津紀という女性は。

そしてセンスを疑いたくなる白づくめのスーツに日本刀の男性が1人、少女と見間違えるほどの若い容姿なのに黒スーツに日本刀を二本差している女性が1人。この者たちも只者ではないのは容易にわかるし髙嶺という集団の恐ろしさもうかがえる。

『お嬢さん。大丈夫ですか?』

千原奈津紀以外に、達人が2人もいるじゃないですかぁ・・・と一瞬テンションは下がってしまったものの私は、神田川真理さんという、目の前の大ピンチの彼女を助けた暁には一晩を共に出来るかもしれない極上の美女に助けるように言われたはずの対象の女性にいつも通り優しく笑顔で声をかけた。

【第8章 三つ巴 32話 超越者と超越者の過去終わり】33話へ続く

第8章三つ巴 33話 プロフェッサー現る 

張慈円は劉幸喜との通信を切ると手下に声を掛けた。

第8章33話 プロフェッサー現る 

「おい・・もう一度だけ聞くぞ。ここに飛び降りてきたときには確かに二人いたのだな?」

その声は静かではあったが怒気が漲っていた。張慈円に喉を掴まれ宙に持ち上げられている男は足をばたつかせながら血まみれの顔で張慈円に何度も頷く。

「そうか・・絶好の機会にまんまと逃げられおって・・・役立たずが!」

バチバチバチバチッ!

冷血なセリフと同時に張慈円の右手に青白い光が迸る。

張慈円に喉を掴まれていた男は身体を痙攣させ足を更にばたつかせた。喉を握りつぶされながら掴まれている男は声を出すこともできずもがいていたが、だらりと垂れ下がり動かなくなる。

「いいか?言ったはずだ。菊沢美佳帆を捕えろと・・。まんまと逃げられるようなマヌケは俺の部下にはいらん!・・・アレンが片割れのほうを見つけた。半分行け!しくじれば次にこうなるのは貴様らだ!肝に銘じておけ!」

【放電】により動かなくなった男を部下たちの前に投げ捨て恫喝同然のセリフで部下たちを嗾ける。

部下たちは一様に青ざめた顔で張慈円から逃げるようにアレン達が見張っていた水門のほうへと我先へと走っていった。

「そう遠くヘはいけまい・・」

張慈円は大急ぎで逃げ去るように向かう部下の後ろ姿に苛立ちを覚えながらも蛇のような目で冷静に得物を逃さぬよう頭を回転させる。

(ここと通信が途絶えてから2分と経ってはおらん・・。周囲は部下たちが50人以上で包囲しているのだ・・・。しかも橋元の情報が確かなら奴はまともにオーラが使えん。肉体強化を計り強引に進んだとしても警戒網に引っかかる・・。・・奴の能力はなんだ?おそらく完全な武闘派ではないはずだ・・・。もしそうであったならば、小田切響子を拉致したときや以前エレベーターの前で対峙したときにはもっとプレッシャーを感じたはずだ・・。通信系や感知系・・・。とすれば・・)

「・・・劉か」

考え事をしてはいたが、張慈円は足音なく背後に降り立った気配に振り向かずに声を掛ける。

「はい、俺です。髙嶺の奴らの様子を見てきました・・・。稲垣加奈子以外全滅です。しかし3対1だったので流石に脳筋の獣女も時間の問題でしょう」

劉は張慈円に近づきながら報告を告げる。

「その顔だと髙嶺の連中の腕は劉の想像を超えていたようだな・・?まあ、それは後で聞くとしよう」

劉のほうに向きなおった張慈円は冷静を装っている劉の顔をみてそう言うにとどめ続けて指示を出す。

「それより今はアレンの応援に行ってくれ。菊沢美佳帆ではないもう一人の女を発見したようだ。寺野麗華という奴だ。オーラに多少目覚めたとはいえアレンだけでは荷が重かろう。・・・殺さずに捕らえるのだ。菊沢の居場所を吐かさねばならん」

「承知しました」

張慈円の言葉に了解の意を示した劉が闇に走り消えると、張慈円は残った手下を連れ雑草の生い茂った護岸公園に向かい手下たちに大声で怒鳴った。

「周囲をかためろ!この公園に隠れているはずだ!木の上や茂みの中も見落とすな!」

菊沢美佳帆の耳には【百聞】を使わずとも張慈円の張り上げた声が良く聞こえていた。

一方、劉が張に報告していた、取り囲まれ最早万事休すと思われている稲垣加奈子方面では・・・

「おやおや・・・3対1とは感心しませんな」

物静かで場違いな声に稲垣加奈子は耳だけ注意を向け反応する。

背後から聞こえてきた声は、距離からするとそこは空中のはずだ。

(味方のはずがない。更に新手・・・私もここまでね・・いいわ・・!4対1だろうと全員片付けてやるわ!・・支社長死なないで・・)

加奈子は自分のオーラをすべて使い切ろうと覚悟を決めた時、目の前の千原奈津紀が背後に現れた声の主に向かって忌々しげに呻いた。

「栗田教授・・・!」

普段は抑揚のない無感情ともいえる口調の千原奈津紀らしからぬ声に驚いた南川沙織と井川栄一は銀髪を逆立たせた加奈子を警戒しつつも、栗田と呼ばれた男に目だけ向けた。

「このじいさん・・?栗田ってまさか・・」

「・・浮いてる・・!念動力ってこと?・・・おじーちゃん燃費悪い能力もってんじゃん!」

栄一と沙織はいきなり現れたグレーのスーツを着こなし空中に浮いている初老の紳士に警戒を強める。

「日本に帰っていたのですね・・・」

千原奈津紀が眉を顰め、視界に稲垣加奈子と初老の紳士を捕えた顔には僅かに迷いがあるように見える。

「なっちゃんさん!このおじーちゃん知ってるの?!・・どうすんのよ?!」

初老の紳士の得体の知れなさと、奈津紀の焦燥を敏感に感じ取った南川沙織が二刀を初老紳士と稲垣加奈子に一刀ずつ向け奈津紀に問いかける。

「油断禁物ですよ。その者は御屋形様の力を封じた男です」

「このじじいが・・!」

「な・なるほど・・・!好々爺然とした顔なのにこの圧力・・!合点がいきました」

奈津紀の答えに沙織と栄一は初老の紳士に対しての警戒をさらに強める。

「これはこれは・・やはり髙嶺さんの美人付き人さんではないですか?あなたも髙嶺さんと同じくブスリといかがですか?あなたのような危険思想の方には美人といえどもきつーい注射が必要ですからね~」

加奈子の背後に浮いている初老の紳士は、加奈子以外の注目を浴びながら物腰の柔らかそうな仕草と声色で奈津紀に笑顔でそう言った。

「戯言を。目的のものは手に入れましたが、ここであなたも始末すれば御屋形様の恨みも晴らせますね・・」

「やっ!!!」

千原奈津紀の隙とも呼べない僅かな気の逸れを感じた加奈子は、迷うことなく千原奈津紀を間合いに捉え踏み込んでた。

「あなたは・・!執拗も度が過ぎます」

千原奈津紀はさすがに何度も間合いに入られまいと愛刀和泉守兼定を加奈子に突き出し牽制すると、同時に加奈子目掛け美しくも筋肉と脂肪が丁度良い割合でついている肉付きの脚で蹴りを放つ。

刺撃と蹴りを何とか防いだ加奈子は苛立ちを隠さず吼え、先ほどよりも速い速度で奈津紀に迫る。

「邪魔だあああ!支社長から離れろ!」

オーラで極限まで硬度を高めた手刀と貫手で奈津紀を襲うも、奈津紀の剣術と体捌きで防御に徹せられてはいかに加奈子といえども攻め切れない。

「てめっ!調子に乗り過ぎ!!」

奈津紀を猛撃で追い詰める加奈子の背後から二刀を背に振りかぶり沙織が一気に間合いを詰め襲う。

「沙織!後ろ!」

奈津紀は加奈子の猛攻を愛刀で防ぎつつ、沙織に注意を飛ばす。

「いけませんなぁ」

のんびりとした声の主は、いつの間にか屋上に降り立ち沙織に向けて右手を向け念動力で九字兼定と京極政宗を念動力で捕らえ掴んでいた。

「う・・うおぉ?か・・刀が振り抜けない!・・・井川君!!」

刀を振り抜こうと身体を捩じり切った格好で止まったままの沙織は焦った声で、背後にいるはずの栄一に援護を求める。

「こっちも・・!動けないんですよ!!」

栄一も三日月宗近を抜刀する構えから動けず柄を掴んだまま老紳士の左手が向けられた先で固まっていた。

「私の刀を・・離せぇ!」

「くそ!・・・二方向同時にこんな強力な思念を飛ばせるとは・・・!」

沙織と栄一は封じられた動きのまま呻くと老紳士は笑顔で静かに笑った。

「はっはっはっ・・、お若いですな。強力なオーラと剣術の腕にかまけた驕りがあるから、そのような油断をするのですよ・・・・どれ、これはどうですかな・・・破っ!!!」

老紳士は笑顔のままそう言うとオーラを練り上げ髙嶺の三人に衝撃を放つ。

「きゃ!!」

「ぬぅお!」

「くっ!」

屋上の埃を巻き上げ同時に3人がそれぞれ後方に大きく吹き飛ばされる。

髙嶺の3人は吹き飛ばされながらも刀を離さず、空中で身を捻り着地し老紳士に向かって刀を構える。

老紳士の放った衝撃波により倒れ伏せていた佐恵子の髪の毛か大きく靡いたとき、奈津紀の隙を見逃さず加奈子が佐恵子のところまで駆け抱きあげていた。

「支社長・・支社長・・!」

(い・意識がない・・・。真理がいないんじゃ・・・間に合わないわ!)

目を閉じぐったりと仰向けで顎を上げた佐恵子の身体は少し冷たく感じられた。涙が出そうになるのを堪え加奈子は佐恵子を敵に渡すまいと両手でしっかりと抱え奈津紀を睨む。

「一度ならず二度までも・・・魔眼を奪い返されるとは・・」

睨まれた奈津紀は、視線は加奈子と佐恵子を捕えてはいたが、老紳士のほうに正眼に構えて目標を切り替えようとすり足で老紳士との間合いを詰める。

「しかし、栗田教授・・あなたは魔眼以上に仕留めておきたい相手です・・。沙織、栄一さん。栗田教授を仕留めますよ」

奈津紀は加奈子にも注意を割きつつ老紳士に向き構え二人にそう指示をするが、沙織がすかさず反論してきた。

「なっちゃんさん!・・ジジイ仕留めるったって・・銀髪はどうするのよ?・・そいつ無視してジジイと戦うなんて無理くさくない?!」

「大丈夫です。こんなオーラの放出長くは続きませんよ。・・・そうでしょう?稲垣加奈子」

視線は加奈子に合わせたまま沙織に答えている奈津紀の口元が僅かに上がる。

「・・はぁはぁ・・絶対に・・・護る・・!」

銀髪を逆立たせた女豹と化した加奈子は滝のような汗をかきながら肩で息をしつつもはっきりと奈津紀に言い放つ。

「まあまあ、お嬢さん無茶はいけませんなぁ・・。レディにそんな無理をさせるのは私の主義に反しますので、ここは私の頑張りを見ていてください。お礼はけっこうですよ・・・?あなたと同じような服を着た神田川真理さんに身体で払ってもらうという約束をしていただきましたから」

決死の加奈子の口調とは対照的に、老紳士は場違いな温和な声で加奈子に声を掛ける。

「ま、真理が生きてるの?!」

佐恵子を抱えたまま加奈子が老紳士に問うと、にっこりとした笑顔ですぐに答えは返ってきた。

「はい、さきほどのことです。治療させていただきましたよ。それにもうすぐしたら私の一番弟子も仲間たちと一緒に到着するようですから、安心してください」

「真理が生きてる・・治療してくれた・・ってことは・・お爺さん!支社長も治してください!」

「はい。お代は神田川さんからということになってますからな」

相変わらず敵も健在であるが、笑顔の老紳士の返答を聞き加奈子は最悪の事態は免れたと安堵すると、悲観的な気持ちを切り替え奈津紀に向き直る。

「沙織!栄一さん!撤退します!張慈円さまは目的を達成したとのこと。各自散開!長居は無用です」

「ちっ」

「承知したよ!」

舌打ちと了解のセリフと同時に二人は隣のビルに向かって飛ぶ。

「ま、まちなさい!!」

佐恵子を抱えたままで追うことはできず、飛び去る背中に向かって加奈子は呼び止めるが、オーラの使い過ぎで膝に力が入りきらずよろめいてしまう。

「お嬢さん。無理なオーラの使い方をしてるからですな・・。今はもう無理はせんほうがいいでしょう。幸い引いてくれましたしな・・。私も年ですからこれ以上長引いたら困ると思っていたところなんですよ。それより貴女が抱えているレディも治療致しましょう。」

老紳士は汗びっしょりの加奈子に好々爺然とした笑みを浮かべ、ゆっくりと加奈子に近づきそう言った。

「あ!・・支社長をお願いします!真理も治してくれたんですね?・・支社長治りそうですか?あと、下には真理以外にも3人いるはずなんです!みんな無事ですか?みんな治療してくれたんですか?」

加奈子は抱えた佐恵子を老紳士に見せるようして近づき矢継ぎ早に質問を浴びせる。

「まあまあ落ち着きなさいお嬢さん。色々一度に聞かれても私もいま来たばかりでよく状況は解ってないのですよ。とりあえずその長髪の美人さんを診ましょう」

老紳士は慌てる加奈子を宥めると、抱えられている佐恵子を覗き込みながら言った。

「そ、それもそうだわ・・!お願いします!」

加奈子は佐恵子を床にそっと横たえ「どうですか?」と佐恵子に向かって跪いて見ている老紳士に声を掛ける。

「これはいけません・・」

老紳士の眉間には皺が寄り難しそうな顔でそう言うと加奈子を見上げた。

 【第8章33話 プロフェッサー現る 終わり】34章に続く

第8章 三つ巴 34話 じゃじゃ馬の誤算

第8章 三つ巴 34話 じゃじゃ馬の誤算

特殊な金属繊維で編み込まれたアーマースーツの肩口と腹部を手で払うような仕草をし、打たれた箇所のダメージを確認する。

豊満な身体を押し込まれたアーマースーツは靭性を発揮し、美しい肢体を覆い、河に反射する街の灯りと、頼りなくぼんやりとした外灯の光を反射させ、麗華の身体のラインをくっきりと浮き立たせていた。

(オーラでがちがちに強化してるからとは言え、この服だと耐えられるわ・・。これなら勝てる!・・急がないと、美佳帆さんが・・・!)

麗華は焦る気持ちを打ち消すように両の拳を握りしめ、正面で膝を付き、息を切らせている大男を見下ろす。

「コンナバカナ・・!オレサマノパンチヲナンパツモクラッタハズダ!ナゼダ・・!?ナゼタオレン?!」

スキンヘッドで黒人、しかも身長2m近いアレンが目をギョロリと見開き睨みつけてくるさまは、大抵のものであれば威圧され萎縮してしまうであろう。

しかし、睨まれた当の本人はモデルのような容姿とプロポーションを露わに強調した服装で、有利な状況に浸るでもなく、むしろ焦りを感じさせる表情で構えアレンに更に攻撃を加えようとにじり寄る。

「悪いけどあんたに時間かけてる場合じゃないのよ!一気にかたをつけさせてもらうわ!」

跪いていたアレンは多少ふらつきながらも慌てて立ち上がり、腹部を何度も打ち込まれたせいでやや傾いた構えではあるがファイティングポーズをとり麗華を迎え撃たんと、痛み歪む顔ではあるが気迫が満ちている。

「コノアイダノオンナドモトイイ・・コイツトイイ!ジャップノオンナハ、ドイツモコイツモ・・・!」

先ほどの麗華とのやり取りでスピードもパワーも、目の前の美貌の女のほうが僅かに上回っている。アレンは急所への決定打はなんとか防いでいるが、幾度も顔や脚にクリーンヒットを受けてしまっていた。

しかし、アレンは元来女性軽視の精神のせいで正確な判断ができず、戦いを諦めることができずにいた。

「コノ!コイツ!・・・ガアアアア!ナゼアタラン!」

冷静さを失いかなり大振りなラッシュを麗華は難なく躱す。

「命まではとらないわ!でも、痛い思いぐらいは覚悟しなさい!」

麗華は大きな目で鋭くアレンを睨みながら、そう言い重いアレンの連打を躱しながら隙を伺う。

「ホザケェ!・・イタイメヲミルノハオマエダ!コノメスブタ!」

麗華は頭に血が上ったアレンの大振りだが破壊力抜群の右ストレートを、身体を翻して躱すと同時に、踏み込んだアレンの右膝を内側から左足のローキックで打ち砕く。

「ギャアアアアア!・・・アシガ・・オレノアシガアアア・・・・!!」

踏み込んだアレンの右脚は麗華のローキックによって不自然な方向に折れ曲がり、クルーザー級であるアレンの右脚はアレン自身の体重を支え切れず妙な方向に折れながらアレンが崩れ落ちる。

「・・・あんたみたいな悪党の悲鳴でも、聞いていい気分はしないわね・・」

アレンの取り巻いていた中国系のチンピラどもは途中で隙をみて麗華を襲ってきたため、すべて麗華に打ちのめされ麗華とアレンの周りですでにうめき声をあげて倒れていた。

「・・急がなきゃ!」

周りを見回し、自分が来た方向を確認すると、倒れているチンピラを一人二人と飛び越え、公園と護岸遊歩道を隔てる2mほどの高さのフェンスの上管に飛び乗ったところで、低いが冷静で場違いな声を掛けられた。

「おいおい・・もうやられちまったのかよアレンの奴は・・。奴は女難の相でもでてるのかねえ。・・って俺も最近は女難の相ばっかりか」

フェンス近く、麗華のやや右後ろあたりからの声に、麗華は飛び乗ったフェンスの上で猫のようなしなやかな仕草で、美しい顔を声のほうに向けた。

「・・・見覚えがある顔だわ」

麗華はフェンスの上で身を丸くしながら何方にでも飛べるよう、声の主、劉幸喜の動きを注意深く観察しながら声を掛けた。

「覚えててくれたのかい?・・・あのときはみっともなかったから忘れてくれててもよかったんだがな・・」

劉幸喜は腰に手を当て片方の手で後頭部をかきながら、やれやれと言った様子で首を振り、自嘲めいたセリフで麗華に応えた。

「・・・私、今急いでるから・・貴方のお仲間も、ほら・・あのとおり」

麗華は劉幸喜から視線を外し、先ほどまで立ち回っていた付近に寝転がっているアレンやチンピラたちを顎でしゃくって劉に確認するように促す。

「貴方も今日は忙しいでしょ?今度また時間がある時にでも、ゆっくりお話でもしましょ?」

寺野麗華は黙ってさえいれば木村文乃によく似ていて清楚でお淑やかそうな美人である。その寺野麗華にそう声を掛けられたら気分が高揚しない男性はほとんどいないであろう。

そう言った麗華の顔には笑みはなく、ややもすると緊張した面持ちではあるが、その緊張を宿した美貌は損なわれるどころか研ぎ澄まされた刃物ように美しい。

劉幸喜も世間の男と同じで、例に漏れず美女は大好きではあったがそれ以上にプロでもあった。

「ふっ・・ビジネスクラスでたまたまお前が隣に座って話も合い、降り際にいまと同じセリフを言われたら・・連絡先でも聞くんだがな」

劉は肩をすくめ少しだけその整った顔を綻ばせたが、目は笑ってはいなかった。

「どうしても今しないといけない話だ。こないだ俺を2階から蹴り落してくれた礼もしないといけねえし・・。その礼を次回に持ち越すのはあんたみたいな美人相手にあまりにも失礼だろ?」

そこまで言うと劉は右手を腰の後ろに回し、新しい青龍刀の柄に手をかけた。

「こないだはお気に入りの青龍刀を宮川のとこのじゃじゃ馬女にぶっ壊されてな・・・信じられるか?あいつ鎬のほうから刀を掴んで握力だけで刀身を砕いたんだぜ?・・・間近でみてて鳥肌が立っちまったぜ・・・って、まあ今はこの通り獲物も持ってるし、こないだみたいにいいようにやられねえ・・ってことが言いたかっただけだ・・・覚悟しな?!」

劉は言い終わる前に青龍刀を振り抜き、【斬撃】を麗華に向けて2発放ち間合いを詰める。

「っく!・・ったくクソ面倒な野郎!」

学生時代にお嬢ではなく姫と呼ばれその美貌でありながら、男子生徒たちからの受けが悪かった口調が今でも時折顔を覗かせる。

劉の攻撃に悪態をつき風を切り唸る【斬撃】を躱すようフェンスを鳴らし宙に舞う。

膝丈の雑草が生い茂った地面に着地したときにはすでに劉が目の前まで迫っていた。

青龍刀による剣撃と功夫を織り交ぜての蹴撃に麗華は防戦に陥る。

「っく・・こないだとは随分違うじゃない?!」

青龍刀もなくオーラも使い果たしていた先日とは違い、目の前の劉はこないだ中二階から蹴り落した男とは同じとは思えない動きで麗華を手数で圧倒してきた。

「そりゃどうも!・・先に聞いておきたいんだが、もう一人の年増の女はどうした?・・一緒にいただろ?」

「・・いくらイケメンでも、女性のことそんな風に言うなんて感心しないわね!!・・もう先に行ったわよ!」

言い放ったと同時に打ち放った麗華の蹴りは、青龍刀の腹で防がれ僅かに劉の動きを止めるのに成功した程度の効果しかなかった。

「失礼。覚えたばかりの日本語を使いたがる時期なんだよ・・!それにしてもあんた、あんまり嘘がうまくないな。あんたがさっき急いで行こうとしてた方向はフェンスの向こう側・・つまりさっきのマンションの方角だ。ってことはだ・・はぐれたか・・図星だな・・・顔にそう書いてあるぜ」

「うるさい!」

誤魔化すようにそう言うと、間合いを詰め劉に連打を浴びせる。

「無駄無駄・・得物もある俺に勝てるやつなんてそうそういないし、それに今日はあんたが疲れてるようだぜ?」

青龍刀を自身の身体のように振るい閃かし、麗華の攻撃を防ぎ、いなした後、攻撃を浴びせ返す。

劉の振るう青龍刀が麗華の左肩を捕え、ギリリと聞きなれないな金属音が響く。

「おっと、こっちが刃毀れしちまうか・・・あんたも良いもん着てるな・・!でも・・ってことは手加減しないで済むな・・助かるぜっと!!」

劉がそう言うと右手を高速で麗華目掛け振るい5つの剣閃が胸に3、両足に1ずつ加えられ無防備になった腹部に劉の右脚が食い込んでいた。

「くっ!!ううう!!」

蹴りの勢いで後ろに吹き飛ばされ、麗華は護岸ののり面にズリズリと擦られ転がっていく。

「あんた、そこそこ力も強いし動きも早いけど、まだまだだなぁ・・。命のやり取りだっていうのに遠慮してるっていうか、場数が少なすぎるってやつだぜ・・。それに、オーラの使い方が拙すぎる。ま、このアドバイスが次に生かせないのが残念だがな」

麗華の腹部を抉った右脚を下ろし、倒れた麗華に近づきながら青龍刀を向け油断なく歩んでくる。

「げほ・っ・・も、もう!・・張慈円の腰ぎんちゃくで脇役かと思ってたら・・貴方・・案外やるじゃない・・痛つつ・・」

置きあがり素早く切られた箇所を手のひらで確認しながら、劉に向かって相変わらずの悪態をつく。

「俺が脇役だってぇ・・?はっはっは・・嫌いじゃないぜ?気の強い女はよ」

劉は麗華の挑発気味の発言に対して本当に愉快そうに笑いながら言った。

しかし、当然のことながら劉とは対照的に麗華は苛立っていた。

(美佳帆さんとは逸れるし・・和尚は宮川さんとくっついちゃうし・・弱いと思ってたこの男は強いし・・・!)

「あー・・・ちまちま防いだりしようとするからオーラの移動が面倒なのよね。防御に回したり攻撃に回したり・・さっさと告ればよかったのに、ちまちまうじうじ・・・面倒・・本当に面倒!」

麗華の独り言のような大きな声での独白に劉は興味を持って頷き言い返す。

「男に振られちたのか?もったいねえな。でも自信持てよ。あんた相当な美人だぜ。俺で良ければ何時でも相手してやるから・・っと!」

劉が言い終わらないうちに無言の麗華が傷めた脚を庇いつつも猛スピードで劉に襲い掛かる。

「この!お前が言うな!何がわかるっていうのよ!」

「わからねえけど!八つ当たりはよくねえし・・・言っただろ、こういうところが下手なんだよ!」

麗華の大振りのフックを屈んで躱した劉は、麗華の鳩尾に肘を食い込ませそのまま肩で体当たりし麗華を吹き飛ばす。

「ぐうぅふ!・・・はぁ・・」

かろうじて転倒を免れた麗華ではあったが、今の衝撃で口からは僅かに血が流れ出て臓器を少し傷めてしまっていた。先ほど蹴られる前に青龍刀で攻撃された左膝も青龍刀の背で打たれたのか、ジンジンとした痛みが頭まで響いてくる。

「・・・あんたはオーラの攻防移動ができてねえんだよ。拳にオーラが乗ってねえ。防御したい所にオーラがねえ。だから思ったようにダメージを与えられねえし、その服に頼り切りで防御もおろそか・・つまり経験不足が敗因だ・・・。さて、と授業料ももらえねえし・・・そろそろ尋問タイムといくぜ?」

劉は青龍刀を器用に回しながらゆっくりと麗華との距離を詰めてくる。

(まずい・・・。この優男がこんなに強いなんて・・。真理さんはこの劉って男を一人で押さえてたって聞いたけど・・。ショック受けちゃうなぁ・・・)

「・・尋問?」

間合いを詰めてくる劉に対し、麗華は逆に劉と距離をとるように傷めた左足を引きずり、退がりながら聞き返した。

「ああ・・、ついでにお前も連れて行くが、今日の目的は宮川佐恵子と菊沢美佳帆だ。宮川佐恵子は奴らが捕らえてたし、菊沢のほうも時間の問題だろう」

「え!?・・・支社長が?アリサや真理さん達は?!」

あっさりとした口調で言う劉のセリフに麗華は思わず聞き返してしまう。

「名前言われたって誰が誰だかよくわかんねえよ・・。普通に考えたら死んだんじゃねえかな?」

「・・・し、死んだですって・・?あの人たちがそう簡単に死ぬわけないわ!」

出会って短い時間ではあるが、宮川佐恵子や稲垣加奈子、神田川真理、彼女たちがそんな短時間でやられるとは麗華にはどうしても思えなかった。

「まあ問答してもしょうがねえ。とにかく目的以外は殺すつもりだったんだ。生け捕りできるならそれに越したことはないってこと。今ここで死ぬか、後で死ぬかもしれないが生きながらえるかもしれないならどうする?・・選ばせてやるよ。戦ってみて勝ち目がないのは解っただろ?」

劉は青龍刀を右肩に担ぐようにして持ち、麗華に問う。

麗華は一瞬何を言われているのかわからなかったが、すぐに察し怒りがこみ上げ、そして悟る。

(たしかに・・私だけじゃ・・ど、どうしたら?・・美佳帆さん・・・和尚・・!)

劉の提示した選択肢を頭の中で反芻し、絶対にどちらも選べないと麗華が頭を振った時、劉が右耳に手を当てた。

「ん・・はい・・・。ええ・・捕らえましたか。・・こちらはアレンの奴が・・・っあ!」

劉が通信している会話を聞いて推理を働かせた麗華は、痛みで悲鳴を上げる左足と脇腹を無視して、最後の力を振り絞り府内中心を流れる大きな川目掛けて飛び込んだ。

劉は慌てて川岸に駆け寄ったが、暗い水面は麗華が飛び込み乱した波紋が不規則に揺れているばかりで、人の気配はもはや見当たらなかった。

「いえ・・・なんでもありません。・・一足遅く、もう一人の女はアレンをやって逃亡したようです・・」

劉は自身のボスである張慈円に正確ではない報告をし、通信を切ると、いまだに乱れている水面を眺めながら「ちっ」と舌打ちし、仕方なくアレン達のほうに向かった。

【第8章 三つ巴 34話 じゃじゃ馬の誤算終わり】35話へ続く

第8章 三つ巴 35話 菊沢宏間に合わず!連れ去られた美佳帆

第8章 三つ巴 35話 菊沢宏間に合わず!連れ去られた美佳帆

目隠しをされているせいで視界は真っ暗であった。

両手は後ろ手にされ、ワイヤーで縛られご丁寧に手錠までされている。

これでは生半可な筋力強化をしても引き千切るのは私の力では無理である。

縛られた手首や足首はうっ血しないギリギリで拘束されているため、ジンジンと鈍痛がするが、放り込まれた車の後部座席のシートは思ったよりクッションが良く、不幸中の幸いではあるが、腰掛けたお尻は痛くない。

車に放り込まれる時に張慈円の【放電】を受けながらであったので、そうとう暴れてしまいかなり乱暴に投げ込まれ暫く張慈円相手に取っ組み合い・・、と言ってもすでに両手を拘束されていたためさしたる時間稼ぎも出来なかった。

いまは後部座席に張慈円と、今しがた乗り込んできた張慈円の側近と思われる男に挟まれ後部座席の真ん中に座らされ、仕方なくとりあえずおとなしく座っていることにしている。

「ふん・・まったく・・やっと抵抗は無駄だと悟ったか」

私の左側に座った張慈円が、やや疲れた口調で呟いた。

「・・ボス、だいぶ苦労したようですね」

右側に座った声の低い男が、張慈円を気遣うように声を掛けているのが聞こえる。

「抵抗する相手を殺さんように、まして怪我をさせんようにとらえるのは想像を超える難しさだ・・・。なまじ手加減をしていては思わぬ反撃をもらい、ともすれば逃げられるなどという失態を侵しかねんからな・・・。おい、もう大丈夫だ。さっさと出せ!」

張慈円が低い声で運転席に座っているである手下に指示すると短く「了解」と答えた声がした直後に車が動き出す。

茂みに隠れていた際、張慈円の声が聞こえたものの数分後、私は張慈円に見つかってしまったのだ。

持っていた鉄扇で応戦し、張慈円の左手首に強かに小手打ちを決めたのであるが、さしたるダメージを与えた様子もなく、逆に鉄扇に掴まれ【電撃】を流され手放してしまい、鉄扇は奪われてしまった。

「ふん・・鉄扇か・・。味なものを使う」

張慈円は私から奪った鉄扇を広げたり仰いだりしている様子であったが、カチン!と勢いよく扇子を閉じる音を響かせたかと思うと、ホットパンツからむき出しの太ももを突き、膝頭から上へゆっくりとなぞるように滑らせた。

「・・・・!」

自分自身が使っていた武器で太ももを撫ぜられるという愛撫に使われてしまう屈辱で、血が沸騰しそうになるが、股間が、そして胸もがそれ以外の期待に反応をしめしてしまう。

はしたない反応を敵に悟られないよう、無言を貫き、口を真一文字にして、鉄面皮を作り上げ、鉄扇から与えられる甘美な感覚を表に出さぬよう押し殺す。

「ふん・・無様なものだな菊沢美佳帆・・。俎上の鯉とはまさにこのこと。・・貴様は油のよく乗った鯉だ。・・俺自身が相手をしてやれんのが残念だが・・」

張慈円は私の太ももを相変わらず鉄扇で撫ぜながら、徐々に太ももの上部に近づかせつつもなお続ける。

「そうそう・・・貴様の部下の斉藤雪、伊芸千尋・・・どちらも極上だったぞ?・・あの二人はもはや普通の男では満足すまい。・・・奴らから何をされたのか聞いたのであろう?送った映像はどうであった?お前もこっそり保存して使ってもよいのだぞ?くはは」

張慈円の挑発だと分かっていても、その下品な発言につい身を乗り出し、目隠しをされたままではあるが張慈円のほうに向き視界は真っ暗であるが睨みながら言う。

「スノウやお嬢がどれだけ悔しかったか!・・・私を攫っても宏達がすぐに助けに来るわ!宮コーだって黙っちゃいない!・・張慈円!いくらあなたの腕が立っても、もう時間の問題なのよ?!覚悟することね!あなたは謝ってももう許してあげないわ!」

身を乗り出した瞬間から張慈円とは逆方向に座っている側近らしき男に後ろ手の手錠を掴まれ動きを止められてはいたが、そこまで言い放ったところで張慈円が「ふん・・」と鼻で笑った。

「菊沢美佳帆・・。ホットパンツまでシミが広がっている姿でそんなセリフを言っても滑稽なだけだぞ?」

「え?」

目隠しをされているせいで自分では確認できないが、まさかそんな恥ずかしいことになっているとはと思い、間の抜けた声を上げてしまう。

「自分では見えんし、自分の発した匂いには気づかんものなのか?」

その次の瞬間、張慈円は嘲笑気味にそう言うと、鉄扇で私の股間を軽く打った。

「ひぃ!!・・っく・・・ぅぅうううう!!んんん!!」

狭い車中に中腰で立っていたのだが、股間を鉄扇で軽く打たれただけで逝きそうになり、お尻を後ろに突き出し必死に逝くまいと耐えようとして、恥ずかしい声を上げてしまう。

「ふはははっ、宮コーの連中は全滅したらしいぞ?・・それにしても、たまらん牝反応だな。どうだ?自分の武器で感じさせられるのは?・・劉、年増女のデカい熟れた尻を押し付けられ大変だろうが少し我慢しろ。ふははは」

「そんな?!宮川さん達が・・まさか・・!」

張慈円が愉快そうに笑う声がすると、パシン!という音が私の股間から聞こえた。

「・・ひぃあ!・・・だ、だめ!!んんんんんんんんぅ!!」

媚薬に犯された身体と脳は、宮川さんたちの心配を押しのけ、鉄扇での軽い一撃、ただそれだけで浅く絶頂に達してしまい、前かがみでお尻を右隣りの男に更に押し付け、荒い吐息を激しく吐いている顔は、目隠ししたままであるが髪の毛を掴まれ、張慈円の顔の目の前でじっくりと観察されている視線を感じる。

「ボス・・この女もうすごく濡らしてますね。匂いがすごいですよ」

ヒップを押し付けている男からそう言われ、逝ってる途中ではあるが重ねて羞恥心を煽られる。

さっきからこの男は私が膝を閉じないよう、張慈円が叩きやすいように私の膝を掴んでいる。

「ふん・・・まあ、お前は人質であるが、その前に慰み者だ。だが、相手は俺ではない。お前に【媚薬】という呪詛をかけた本人が相手を所望しているのでな。これ以上俺からは可愛がってやれん。その状態では辛いだろうが、しばらく時間がかかる。疼いた身体で浅く逝っただけでは満足できんだろうが、もう・・そうだな小一時間かかる・・。それまで我慢しておれ。ふふふ・・、気の利いたおねだりができれば俺や劉から触ってもらえるかもしれんぞ?ふははははっ」

張慈円が愉快そうに笑い、私のことを蔑んでいる声が聞こえるが、浅い絶頂間に身を振るわされ、満足できない窮屈な快感で身体をくの字に折り曲げ痙攣させてしまう。

自分自身の武器で刺激され絶頂を与えられるという屈辱にまみれながらも、浅くしか逝かせてくれない張慈円を怨めしく思い、美佳帆は媚薬に犯された身体を捩らせ、絶頂した顔を観察され身を捩る。

「くくく、浅ましいな。・・・そう発情せんでも、もうしばらくしたらたっぷり可愛がってもらえるぞ?ふふふ」

そう煽られると、無理やり座らされ張慈円と隣の男に片方ずつ膝を掴まれ、限界まで広げられる。

両手は後ろ手で、足首も拘束されたままの美佳帆は蛙のように脚を開かされ、恥ずかしくも染みを広げた部分のホットパンツの上から、弄ばれる。

「到着するまで退屈しなくて済みそうだな・・くくく」

淫卑な香りを充満させた黒塗りの高級車は、その車中に淫卑な香りと、熟れた身体を弄ばれ、いいように上げさせられた美佳帆の嬌声で溢れていた。


菊沢美佳帆が脚を開かされ胸を揉みしだかれながら鉄扇での2度目の浅い絶頂を味わったちょうどその時、菊沢宏は能力を全開で開放し一人先んじて大塚の隠れ家マンションまでたどり着いていた。

「美佳帆さーーん!」

よほど全速力で走ったのだろう。夜だというのにトレードマークのサングラスは外さず、普段のむすっとした表情とは違い、焦った表情に大粒の汗を滴らせ、ぜいぜいと息も切らせながら、エレベーターを待つのももどかしく、非常階段で一気に2階まで駆けあがり愛妻の名前を呼ぶ。

宏はめちゃめちゃに散らかった大塚の部屋の扉や室内の惨状に一瞬顔が怯むが、部屋に入ったすぐのところで蹲っている斎藤アリサが目に入り駆け寄る。

「アリサ!大丈夫か?!・・脚やられたんか?・・・すまん!こんな目にあわせてしもて・・・・ん?血は止まっとる・・・?・・なんでや・・?」

宏は部屋に敵が潜んでいないかを五感を研ぎ澄ませて警戒しつつも、素早くアリサが蹲っているところまで駆け寄り、優しく肩を抱きながら声を掛ける。

アリサの右足首には血がべったりと付着していたが、すでに渇いて凝固しており、新しい傷は見当たらない。

「あ、あのね・・所長。私は大丈夫。知らないおじーちゃんに、なおしてもらったの。・・傷はふさがったんだけど、頭フラフラして上手く動けなくて・・・。それより、二刀の女と真っ白い悪趣味な服着たやつらがいてね。二刀女が引きずって屋上に行った・・」

「ちょっと待て!落ち着けや!それよりも、みんなは?美佳帆さんは?!・・みんな屋上なんやな?」

宏は、意識はあるようだが、一度に説明しようと慌てているアリサをできるだけ落着かそうと質問を簡潔にして問いかける。

「ううん、ちがう。私たちが防いでる間に美佳帆さんはベランダから避難したの。屋上にいるのは二刀の女たち・・。私と真理さんはそいつに斬られて・・。真理さんも治してもらってたから死んでないと思う。加奈子さんは白い悪趣味な奴と勝負って言ってて、でも、支社長さんは大怪我させられて連れてかれちゃった。・・そのとき二刀女が屋上までこいつ連れて行くのダルいって言ってたから、きっと屋上にいると思うの」

「そ、そんなあほな・・壊滅的やないか・・!く、くっそー・・!屋上からビル伝いに移動する気か・・それともヘリでも呼んでんのか・・・?」

見た目通りの悪い状況に、宏はギリリと歯ぎしりの音をさせ、太く逞しい拳を自身の手のひらに打ち付けた。

「アリサもそんだけ血が流れてしもたんなら動けんで当然や・・。やが、もうちょっとしたらテツとモゲがくる。それから公安の奴らも来よるはずや。それまで、一人にするけど勘弁してくれや?」

「うん・・大丈夫。でも、所長気を付けて・・・・あの人たちとんでもなく強い・・!」

普段の無邪気なアリサの面影はなく、目を伏せ小刻みに震えながらそう言う姿からよほどのショックを受けているのであろう。

「どこのだれか知らんけど後悔させたる。・・・まかしとけや。本気出したら俺も実はとんでもないんやで?」

抱いていたアリサの肩を一度だけ優しくポンと叩くと宏は極力優しい声でアリサにそう言って、奥の散らかったリビングに目を移すと、壁を背に脚を投げ出した格好で俯いている神田川真理が目に入った。

真理自身が流したのであろう血だまりの中にぺちゃりとお尻を付け、目を瞑っているが、光沢のあるアーマースーツに包まれた豊満な胸は微かに上下に動いていた。

「くそ・・・側近がこのザマや・・・。もう一人のじゃじゃ馬のほうの側近は、まだ屋上で戦こうとるんか・・?・・・真理さんよりあのじゃじゃ馬が戦闘寄りな能力なはずやが・・じゃじゃ馬子一人で持たしとると期待するしかないな・・」

宏は真理の首筋に手を当て体温と脈を確認し安心すると、美佳帆を探そうとベランダのほうに向かう。

「アリサ!美佳帆さんはこっから飛び降りたんやな?」

アリサはいまだ顔色が戻らないが極力表情を強く保ち、ベランダから身を乗り出しながらこっちを振り向いて聞く宏に、力強く2度頷いて見せた。

「よっしゃ・・!」

アリサの点頭を確認し宏がベランダを飛び越えようと、身を乗り出しかけたとき、丸太のような太い宏の腰に何かが巻き付いた。

「ま、まって・・」

傷はふさがっているが肩口と首から噴き出した血で全身を染めた神田川真理が縋るように宏の腰に手をまわしてきたのであった。

「神田川さん・・。意識あったんか。言いたいことは想像できるけど、俺は美佳帆さん探しにいくで?」

そう言うと宏は腰に回された真理の血まみれの手を振りほどこうとするが、力尽きかけた女の力とは思えない強さで真理はしがみついてくる。

「さ、佐恵子を・・助けてください。屋上で・・たぶん加奈子が一人で戦ってます・・。きっと加奈子ならまだ持ちこたえてます・・。おねがい・・。佐恵子を失ったら、おしまいだわ・・・」

敵の斬撃を背後から受けたせいで、真理の黒く艶のある髪は首の中ほどでバッサリと切られており、顔色に血の気もなく意識を保つのがやっとといった様子のであったが、息も絶え絶えに訴える様子は宏であっても美しいと感じさせる魔力があった。

宏は愚直に美佳帆一筋である為、真理の魔性の魅力に当てられたわけではない。

しかし、宏はグラサンを右手の人差指で押し上げながら真理の目の前に跪いた。

「・・・美佳帆さんの安否は?さっきから連絡とってるんやけどつながらへん。あんたらで捕捉できとるんか?」

宏が極力ある感情を抑えようとしている様子を感じ取った真理は、同時にこの男には御為倒しは逆効果と感じ取っていた。

真理はひと呼吸おいてから、口を開くことにし、正直且つ簡潔に答えることにした。

「・・・ごめんなさい」

真理はグラサン越しに宏を見つめ、申し訳なさそうにそう言った。

目の前の宏は無表情ではあったが、怒りが膨張しているのが真理には感じられた。

「でも所長!美佳帆さんは麗華ちゃんも一緒だよ!きっと大丈夫」

宏の怒りを感じ取ったのは真理だけではなく、アリサが宏の背に向かって真理を庇うように情報を補足する。

「・・お願いです。佐恵子を・・・私も、行きます。・・この服は斬れない素材だから・・盾ぐらいにはなれます・・私を引きずって行って使ってください・・」

真理は宏の腰にしがみつきながらなんとか立ち上がり、屋上へ向かおうとふらつく足取りでリビングから玄関へ向かおうと歩き出し、3歩と進まないうちに血で濡れた床に脚をとられ、滑り転び、血の跡だらけのフローリングに強かに倒れ落ちた。

「わかった・・・。麗華も一緒なんやったら、二人ともいっぺんにやられるなんてことはそうそうないやろ・・。真理さん、あんたは休んどき。そんな体で来られても足手まといやしな。・・屋上には俺が行ったるから」

宏は、滑りこけた真理に肩を貸し、アリサの隣に並べて座らせると、ぶっきらぼうではあるが真理の要求にこたえる旨を伝えた。

「・・あ、ありがとうございます。恩に着ます」

真理の謝辞を背で受けると、真理とアリサを部屋に残し部屋を飛び出し、一気に非常階段を屋上まで駆け上がる。

途中階段の至る所に血痕があるが、おそらく大怪我させられたらしい宮川支社長のものだろうと推測しながら、屋上階に近づく前から足音を完全に消し、屋上の様子を五感で警戒しつつ階段を上がってゆく。

そのとき、黒い影が非常階段の共用灯の淡い灯りを遮り、宏の真上に躍り出た。

「な?!」

(アホな!この俺の気配に気づいたんか!?)

宏は、先手で頭上を取られたせいで些か慌てたが、一瞬だけだが見えたシルエットと動き方で正体が判り、相手に戦意が無い旨を伝えるよう、黒い影に向かって制止するよう軽く手を上げた。

「・・・っ!・・・グラサン!・・よかった・・。また敵かと思ったの。驚かせてごめん」

カンッ!と金属製の手すりに股を割り、両足で着地した稲垣加奈子が驚きと安心を同時にその美しい顔に浮かべ、突き出そうとしていた青白く力強いオーラを纏った手を止めたまま制止した。

「ええよ。・・もう上には敵はおらんのかいな?敵は二人以上いたんやろ?全部あんたがやったんか?」

「・・・・違うけど、敵はもういないわ」

宏が手と頭を振り、加奈子に説明を求めるように促すと、今度は加奈子の顔は悔しさと悲しさが混ざった表情に変わり、非常階段の手すりから飛び降りた。

「どういう事や・・?」

「説明する。こっちへ・・・支社長を護衛しないと・・」

宏は少し前に降りた加奈子の背に質問を投げかけると、二の句を次ぐ前かに加奈子に遮られてしまった。

前を加奈子に先導されながら、屋上を数歩歩いたところで、屋上の中心部にある塔やを背にして座っている血まみれで目を瞑っている宮川支社長がいた。

しかしそれよりも目についたのは宮川支社長の前にいる人物である。

そこには、懐かしい人物が膝をつき佐恵子に向かって治療の淡い緑色のオーラを灯していた。

「しっ師匠!!・・栗田教授ですか?!」

宏は思わず恩師である懐かしい人物の名前を呼び駆け寄る。

「お、お~、随分と久しぶりですね宏君。やっときましたな・・。老体に鞭を打ってなんとかしのいだところですよ。まあ、いまこのお嬢さんを治してますから、ちょっと待ってくださいね」

宏のほうを振り返り一瞥しただけで、すぐに佐恵子に向き直り治療の灯を強く発光させながら、弟子との再会の会話もそこそこに治療を続ける。

「師匠・・・。こっちにきてくれてたんですね。助かりました!」

栗田は背中越しで弟子の声を聞きつつも、傷の深い佐恵子の治療に集中していて応えることはしない。

「・・・いけませんって言ってたけど、なにがいけないんです?支社長は治るんですか?!」

稲垣加奈子は栗田が治療前にいったセリフが気になり、治療中にもかかわらず栗田に話しかける。

「お静かにお静かに。少し集中させてください」

栗田は治療の灯を絶やさず、加奈子に振り返らずにそれだけ言った。

「・・わかりました。すいません。静かにしてます。お願いします・・・」

加奈子はそれ以上何も言えず、宏と二人並んで、栗田が治療を終えるまでの数分間無言でじっと待っていた。

「やれやれ・・・。来日早々働ぎ過ぎですな・・。たっぷりと追加報酬をいただかなくては・・」

栗田は肩をぐるんと回し、額を手のひらで拭う仕草をすると、本当に疲れたといった感じで呟いた。

栗田の手先から、淡いが力強い緑色の灯が消えると、あたりは外灯の頼りない光だけに包まれる。

「どうです?支社長は治ったんですか?!いけませんって言ってたけど大丈夫でしたか?なにがいけなかったんですか?!」

それまでじっと動かず周囲に注意を払っているだけの加奈子が、栗田の横に駆け寄り跪いて栗田と佐恵子の顔を同時に見ながら慌てた様子で栗田に問う。

「もちろんです。随分深い傷ではありましたが問題はないでしょう。貴女も私の治療中、周囲を警戒していてくださってありがとうございます。・・・いけませんと言ったのは、・・これですな・・、このお嬢さんのバストサイズですな・・はははは」

加奈子のほうを向きにっこりとした笑顔で優しくそう言いい、本気とも冗談ともとれない発言をして笑うと、加奈子の肩を優しくたたいた。

加奈子は徐々に顔色が良くなっていく佐恵子が回復していっているのは解っていたが、栗田の言葉を聞いて改めて安堵し、大きく息を吐き出しその場にへたり込んだ。

「ありがとう。よかった・・・」

加奈子は栗田に一言そういうと、緊張の糸が切れたようで、正座を崩した格好のまま動かなくなった。

「師匠!お疲れ様です」

「いえいえ、宏君もなんだかすごく汗びっしょりですねえ。私も老骨に鞭をうちましたよ」

脅威が去り、一命を取り留めた佐恵子と、力を使い果たして動けないでいる加奈子に栗田はジャケットの上着を佐恵子にかけ、ジャケットの中に着こんでいたストールを加奈子の肩に掛けながら宏を労う。

「・・・師匠はいつでも女性にお優しいですね」

栗田が身に着けていたジャケットやストールは宏のようにブランドに疎いものでもわかるほどの高給そうな一品であった。

それらを惜しげもなく汗と血に汚れた彼女らに優しく掛ける恩師の紳士ぶりを、宏は本心から誇らしく思い、見習うべきだと思ったからこその発言であったのであるが、

「幾つになっても、美しい女性に惹かれてしまいます。こればっかりはやめられませんからなぁ・・」

しかし当の本人は、宏の畏敬の念には気づかず、恥ずかしそうにして苦笑まじりにそう答えた。

【第8章 三つ巴 35話 菊沢宏間に合わず!連れ去られた美佳帆終わり】36話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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