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第8章 三つ巴 6話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~雨宮雫

第8章 三つ巴 6話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~雨宮雫

私は今、どこともわからないマンション?アパート?の一室で【キジマ】と呼ばれている丸坊主に明らかにドキュンな感じがする男と2人きりで居た。

後ろ手に手錠をかけられ、勿論私の意志でこんな男とここにいるわけではなく、同僚の楠木咲奈と仕事の真っ最中に知らない男たちに瞬く間に連れて来られていたのだ。

『いやっ・・・こんな・・・こんな部屋で何を・・・』

私の目の前には、天井から吊り降ろされた鎖、その右奥には、まだお世話になった事はないが、産婦人科である分娩台と思われる台。

そして、左の壁際にある陳列棚には、私の知っているもの、知らないものも含めいわゆる大人の玩具と呼ばれるものが、販売店なの?と思えるほど並んでいる。

こんな部屋に連れてこられたのだ・・・される事は1つしかないくらい、大人の女性なら誰でもわかる・・・。

『確か、雫ちゃんと言ったね~俺は美人の女の子には優しいから、心配しないでいいぜ。』

明らかに言っている言葉の内容と、態度に口調が釣り合っていない・・・。
 
この人絶対モテない・・・それに仕事出来なさそう・・・。

嫌だ・・・こんな人になんて・・・絶対!!

いやっ!!神田川主任!助けてっ!!稲垣さんっ!!

私は心の中で尊敬する2人性格や立ち振る舞いは正反対ではあるが片や精神的な強さ、片や男性にも負けないほどの身体能力の強さを持つ【強い女性】の代表のような先輩の名前を呼んでいた。


しかし、そんな私の心の声などどこの誰にも届くはずもなく、無情にも私は後ろ手にされた手錠を引かれて行き、抵抗する体力も気力も既に残されていない私は、一瞬手錠を外されたかと思うと今度は、その私の細い手首に新たな革手錠が片手づつ嵌められて、天井から吊るされている鎖に両手を万歳のようにされ繋がれた。

『雫ちゃんは抵抗しないかい?それなら脚はつながないでおいてやるぜ。』

キジマと呼ばれている丸坊主のドキュンが私に、脚を繋ぐか繋がないかと聞いてくるが、ここまで拘束しておいて、この後脚を繋がれようが繋がれまいが大して抵抗したとしてもその抵抗力に目に見える差などないではないか・・・この男は本物のバカだと思ったが、すでに抗うほどの精神力も私には残されておらず、首を縦に振り、その後この男と目を合わさないという相手にとっては痛くも痒くもないほどの抵抗しかできなかった。

『ものわかりが良い子は好きだね~しかし内心はいきなり、こんなところに連れて来られわけもわかならにうちに、犯されかけている理不尽に恐怖7不満2いらだちくらいの割合のような表情をしているね~ふふふっおっ・・・胸の揉み心地は中々極上・・・そこそこ揉ませてきた胸だね~この胸は』

キジマという男が、ベストのボタンは既に引きちぎられていた私の制服のブラウス越しに胸を強い力で揉みしだく。

『っ!!いやっ・・・そんなにきつくしないで・・・』

私は、ブラウスの上からでも伝わってくるキジマという男の力強さと手の分厚さを感じ、否が応でもキジマの持つ強力な雄度を感じさせられ、こんな状況なのに股間が熱くなるの自覚し自分自身に嫌悪した。

『ほう~制服の上からじゃわからなかったが、雫ちゃんは結構肉付きの良い身体をしてるじゃないの?あの一緒にいた咲奈ちゃんは、華奢な感じがしたけど・・・雫ちゃんにして良かったぜっ!この間犯した人妻の梓という女は顔は良かったが身体はあの咲奈ちゃんのように華奢でね~そろそろムチムチした柔肉を喰いたい所だったんだよっほほう・・・パンスト越しでも伝わるこの太ももの肉感は、熟れた人妻並みだね~雫ちゃん、涼しげな名前にエリートOL様という顔立ちの割には、遊んでんじゃないの?』

キジマの一言一言がカンに障るが、私の身体は裏腹に寒いキジマの言葉に反し、熱を帯びていく。

『っ・・・やめてっそんなに乱暴にしないでっ!』

『雫ちゃんは優しい愛撫が好きかい?ふふふっそれなら今まで雫ちゃんが、相手してきたなよなよした男どもじゃ味わえないほどの激しいセックスを経験させてやるよっ!』

キジマは私の無駄な抵抗ともとれる言葉に、そのように返すと、私の誇りとも言える、宮川コーポレーションの制服を一気にその腕力(かいなぢから)で引き裂くとブラウスのボタンは飛び、タイトスカートのファスナはプチンッという音とともに、床に飛んでいく。

『きゃっ!!(あぁ・・私の制服が・・・・)』

私は悲鳴とともに床に飛んで行った、ボタンやファスナの先を目で追うが、私に念力などあるはずもなく戻ってくることもなく、私の制服を私のこの身につなぎ留めるための金具たちは、1人の粗野なドキュンにおり、私より先に蹂躙されてしまった。

『ほほう・・・やはり仕事中は薄い色の下着着用は、エリートOL様の規則かい?白のブラウスから透けないように気をつかい水色の下着を身につけているおだろうが・・・ほら?水色は濡れるとすぐにわかっちゃうんだぜ?ほら?おっ?雫ちゃん、名前通り濡れやすいんじゃないの?』

そう言いながら私のパンストを、ブラウスのように力づくで破くと、直接私のショーツの上から、股間に中指をフィットさせ、腕を振るわせるようにするキジマは、中指を機械のように振動させる。

う・・・うそっ・・・人間の指って・・・あぁ・・・こんな動きできるのっ・・・!?

『あっ・・・あぁぁ・・・うそっ・・・・ど・・・どうしてこんな・・・あぁぁぁぁっ!!!』

私はこれまで、大学時代からそれなりに男性との付き合いはこなしてきたし、年齢からしても人並みかもしくは、それ以上に経験は豊富だと自負していた。

しかし、このキジマの指の動き・・・まるで、ローターを下着の上から当てているのと変わらないような振動を私の陰核にピンポイントで送り込んでくる。

しかもローターとは違うのはそれに体温がある事だ。

程よい熱を帯びたローターがショーツ越しに陰核目掛けて、自慰をする時以上の快楽を伴う微振動を、高速で与えてくる。

経験のない動きに、もはや前戯というには生易しすぎる、クローズテクニックに私のオーガズムへの耐久値は一気に削られ、達するのに時間など必要なかった。

うそうそっ・・・うそっ・・・さわられただけで・・・指で刺激されただけなのに・・あっ・・こんなどこの誰ともわからない人に・・・あぁ・・神田川主任っ!!

『ほほうっ!雫ちゃん!ショーツの脇から透明なそれこそ雫が溢れ出てきているぜ!ここか!?ここが好きみたいだな!ほらっ俺の指はローターより激しく揺れるからよっ!!』

クチュクチュクチュクチュッ!!!

私の陰核という弦が、キジマという奏者に弾かれ、淫靡な音を奏でている。

その音が私の脳幹をより淫らな世界へ誘うと私の、オーガズムの耐久値は一気にエンプティーを指し私は達した。

『やめてっその指の動きっ!!あぁぁぁもうだめっ!!いやっ!!あぁぁぁっ!!!・・・・はぁはぁはぁ・・・・うそ・・・こんなの・・・』

キジマのおよそ人の指の動きとは思えない、私の経験した事のない振動を与えられ、私は不覚にもショーツ越しに大量の淫らな液体を放出してしまっていた。

『澄ましたOLさんが実は感度抜群っていうのは、なんともそそられるね~雫ちゃんっおまえはかなり感度良さそうなエロい女だぜっ!俺の今までの経験では俺の指電マで吹いちゃう子は、俺の巨砲をぶち込むともう我を忘れて喜ぶ女ばかりだったよ。雫ちゃんも俺の巨砲を楽しみにしていると良いぜ。』

そ・・・そんな・・・

私は荒くなった呼吸で、キジマの言葉に何も返す気にもなれず、何も返す言葉も無く、ただ自分自身で湿らせてしまったショーツの心地悪さに嫌悪感を感じつつも、キジマの言葉が、強がりでもなく虚勢でもない事は、キジマの先ほどの指の動きが私の股間にもたらせた悪夢から物語っているという事実を否定できずにいた。

【第8章 三つ巴 6話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~雨宮雫】終わり第8章7話に続く


第8章 三つ巴 7話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~雨宮雫2

第8章 三つ巴 7話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~雨宮雫2

キジマは私の股間を散々、指でいたぶったと思うと、初めて潮というものを吹かされた私の股間へ容赦なく彼の欲望をぶつけてきた。

そして、瞬く間に絶頂に導かれたが、彼の欲望の大きさはそんなものではなかった。

時間はわからなかったが、私が今まで経験してきた男性たちでは、もう2回分は終わっているであろうと思える体感での時間を挿入され続けたまま、彼の動きは信じられない事に更に加速する。

『はぁはぁはぁっ!あぁぁぁぁああああああ!!!もっもう許してください・・・』

パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!

豪語した通り、いや私が想像していたサイズ以上のキジマの男性器が私を天井から吊るし、立たせたままで背後から、私のキジマの指により挿入を許すまでに潤わされた女性器に突き刺さる。

私のヒップにキジマの下腹部が当たる音、私の女性器をキジマの男性器がえぐる音が、何処かもわからないマンションの一室に響き渡る。

普段のSEXでは殆ど声など上げない私だが、我慢しようにも、キジマと言う男を喜ばせたくなくても、喋り声とはまた別の悲鳴に近い声が口内というよりは体内から勝手に発せられる。

パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!

『美人エリートOLのマンコは最高だぜ!ほらっ雫ちゃんよ~!こんなに気持ち良い大砲はぶちこまれた経験ないだろ?君の中の奥はほぼ未開発だったぜ!おぉぉっ!!鳴き声が大きくなってくると締め付けが強くなるタイプかっ!しかし・・・この尻肉も程よく熟れていて、今が食べごろって感じが良いぜっ!!まだまだ逝かせてやるから覚悟しろよっ!!うらぁぁぁぁっ!!』

パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!ズブブッ!バスンッ!!!

キジマの耳障りな声に、意気揚々としている感情が乗せられた口調が、さらに加わると、キジマの腰の動きもその言葉に合わせリズミカルにそして激しさも増す。

『くっ・・・誰があなたのなんかで・・・・あっあぁぁぁぁぁっ!!!いうあっもうそれ以上はっ!!!ああぁぁぁっ!!じゅ・・・じゅうぶんしたじゃないですかっ!!あぁぁぁぁぁっ!!!うそ~!!またっまた・・・きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

私は、吊るされたまま後背位から私を襲う激しい衝撃につま先から脳天まで痺れるほどの、今まで経験した事のない類と度合いの性感を立て続けに浴びせられ、もはや自分が今何をされていうのかさえ、わからなくなっていた。

いや、分かろうとする気がもう無かったのかもしれない。

人は抗えない大きな力を目にした時に、戦う事を辞める事で、アイデンティを保とうとするらしいが今の私がまさしくそうなんだろうと思う。

こんなの・・・我慢するだけ無駄だよ・・・どうせやられるなら、逝くの我慢してもしんどいだけ・・・・

キジマの男性器が私が許した事のない領域に土足で踏み込み、ドアならとっくに壊れているわよと思うくらいの勢いで私の最奥の壁を激しすぎる勢いでノックする。

何処の取り立てやさん?私の最奥には滞納者など住んでいないわ・・・

しかしそのノックは、居住者すらいないはずのドアを打ち続けやがては、ドアは悲鳴をあげ、そこから細胞が繋がっている全身の毛穴まで性の頂きを見せる。

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!またっまた来るっ!!もうだめっ!!おかしくなっちゃうよ~!!やめてっあぁぁぁそれ以上は気持ち良過ぎてっ!!!』

パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!

『ははははっ!!そりゃそうだろっ!俺の大砲を撃ち込まれ、気持ちよくならない女は不感症だぜっ!!そらっ俺もそろそろ・・・ラストスパートいくぜ!!』

パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!パンパンパンパンッ!バチンバチンバチンッ!!

『いやぁぁぁぁぁっっ!!!はっはげしすぎます!!あぁぁぁぁぁっ!!こわれるっ!!こっわれるっ!!もうよいです!!もういいですからぁぁっ逝ったっ!!もう何度も逝きましたからぁぁぁそれ以上はっ!!うそぉぉぉぉっ!!死ぬっ!!死んじゃいます~!!!ぎゃぁぁぁぁ・・・・』

私は逝くという事を知っていたが、私の今まで逝く逝くは逝くでは無かったんだなとそんな事を思いながら、全身の毛穴に蟻が這い登ってくるような感覚を味わいながら真っ白になって遠のいてく意識の中で、股間の中に凄く熱いものが充満していく感触を味わっていた・・・。

あぁ・・・中に・・・神田川主任・・・助けて・・・

咲奈は無事かな・・・

こんな簡単な仕事もできない私なんて・・・中に出されても仕方ないわ・・・

あぁ・・・もう何でも良い・・・

このまま・・・

そして私は、天井から吊るされたまま、あとはどうなったのかを知るすべもなく意識がなくなっていった。

【第8章 三つ巴 7話 悪魔の巣窟~オルガノ105室~雨宮雫2 終わり】 第9話へ続く

第8章 三つ巴 8話 雫・咲奈救出作戦|~強襲悪魔の巣窟~ 宮川佐恵子

第8章 三つ巴 8話 雫・咲奈救出作戦|~強襲悪魔の巣窟~ 宮川佐恵子

関西支社のある市内駅前の中心部から、車で15分ほど走らせた場所に目的地の一つのマンションはあった。

「あれね・・こんな近くに・・、雫、咲奈無事でいて」

助手席に座っている真理が、遠目に見えてきた目的のマンションを手元のタブレットのマップと見比べながら呟く。

「まずは一か所目。二人とも、あのマンションの105だっけ・・?にいればいいんだけどね・・・」

運転しながら香奈子も心配そうな口調で真理に答える。

「美佳帆さまのおっしゃってた情報ですと、ここに監禁されている確率が高いわ。次に私達が買収協議をしている港湾地域の倉庫ね。・・・今日中に助け出しますわよ。でないと、襲撃をかけた情報が敵に知られて、対策をとられて咲奈と雫は、どこか違うところに移動させられるでしょうね・・・。加奈子、真理・・・もし、咲奈や雫がいなくても、焦らず、まずは敵を必ず全員捕まえて!・・通信させる暇を与えたり、逃がしたらダメよ?」

後部座席から二人にそう指示しつつ、二人を見る。力強くうなずく二人のオーラは、さすがに充実している。若干の思念の乱れがあるのは、逸っているためだ。

この程度の乱れなら問題ないわね。まあ、此方は宮川の中でも10指に入る手練れの能力者が3人いる。しかもこのスリーマンセルだとバランスも良くて隙も少ない。それに、そもそも私の思念波を防げないような使い手しかいなかった場合、何人いようと、敵に勝ち目はない。

敵能力が不明で、能力には相性があると言っても、このメンバーならよほどのことがない限り負けない。それどころか、過剰戦力だ。

ならば戦力を二分すればいいということなのだが、このメンバーで戦力を二手に分けると、とたんにバランスが悪くなる。前衛の加奈子無しでは、イレギュラーが起きた場合、対処しきれない可能性があり、さすがに危なすぎるのだ。

たしか美佳帆さまのお話では敵能力者は、たった2名程度と言っていた。若干の誤差があっても、多くて5人程度でしょう。

それに敵は、おそらく私達みたいに訓練を受けていないはず、野良能力者が思念の力を手に入れて有頂天になっているだけのチンピラ集団・・というところでしょうね。・・思念だけの勝負だと、今年小学5年生になる私の従弟よりも弱いはず。


今まで、何度も野良能力者に会ったけど、その類の大体が、素人相手に狡い商売や、宗教紛いのことをやっている、つまらない連中がほとんどだった。

凡人が運よく能力開花してても、訓練無しだと、能力の出力も練度も貧弱で、私たちの相手にはならないのは、今までと同じことでしょう。

・・・そういう意味では、今日お会いした菊沢さま夫妻。特にご主人の思念は凄まじかった・・・。何者なのかしら・・?

つい先ほど会ったサングラスの男のオーラを思い出し、体中に沸き上がった鳥肌を、やや鈍い光沢のある黒い服の上から撫ぜる。あのオーラ量と殺気・・・、ぶるりと悪寒まで走らさせる・・・。不快ね・・・、こんな感情抱かされるなんて・・。

「支社長もう着くわ。いきなり突入でいいわよね?」

両肘を抱えて、摩っていると加奈子が聞いてくる。

「・・ええ、、私と真理は正面、玄関からとりあえずチャイム押してから入るわ。加奈子はベランダに回って、チャイムの音がして10秒したら突入して」

不快なグラサン男を思考から追い払い、二人に簡単な指示を出し、軽く深呼吸をする。

雑魚ばかりのはずと言っても、多少の緊張感は沸いてくる。意識を集中させ、再度自分と加奈子と真理に、沈着の感情を付与させる。

「ありがとう」

「もぅー!せっかく荒ぶってたのに・・・」

付与に対して真理がお礼、加奈子が文句を言ってくる。真理に笑顔で返事を返し

「加奈子・・あなたさっきのままだと殺しちゃうわよ?」

運転席にいる加奈子の後頭部を人差指でつつきながら言うと

「・・ダメだったの?」

前を向いているせいで、表情までわからないが、加奈子は半分ぐらい本気かもしれない。

「ダメに決まってるでしょ?喋れる状態で確保して。あとで情報吐かせるのですからね」

「・・と言うことは、喋れたらいい?」

「・・ええ、悲鳴だけとかうめき声だけだせる、とかじゃないならいいわ」

「了解、ばっちり!」

加奈子が振り返り、妙にいい顔でにかっと笑ってサムズアップして元気よく返事した。

・・・念を押したので大丈夫だとは思うけど、などと思っていると、車はマンションオルガノ近くの路上に駐車した。

【第8章 三つ巴 8話 雫・咲奈救出作戦|~強襲悪魔の巣窟~ 宮川佐恵子終わり】第9話へ続く





第8章 三つ巴 9話~強襲悪魔の巣窟2~下っ端のドキュンモブ-茂部天牙(もぶ てんが)

【9話で登場する新しい登場人物】

茂部天牙(もぶ てんが)
188cm 78kg 19歳 8cm
通称モブ。本名なのでしょうがないにも関わらず、本人はモブと呼ばれることを嫌っている。府内の高校を中退し、チームを作ってバイクなどで暴走行為をしていた。親類や先輩のコネで、何度か就職するも長続きせず直ぐ辞めてしまっている。
暴走行為を続けるうちに、ヤクザに目を付けられるが、イザコザのケツ持ちを張慈円のグループに依頼したところから、橋元一味との接触が始まる。
現在は、橋元一味の木島健太のところで預かられているが、体格意外に取り立てて、見るべきところがなく、木島にも使いっ走りとして使われている。
府内屈指の低偏差値高校を中退したにも関わらず、自分は頭が良く、機転が利くと思っている害のある楽天家。
小さいころから長続きしないが、空手やボクシングを多少嗜んでいて、ドキュン仲間には顔が利く。また、センスや器用さがなく集中力も乏しいため、能力はまったく使えないが、無駄に思念量は多いので、根性だけはあり諦めが悪い。
雫や咲奈の見張りをしていたが、オルガノを強襲した佐恵子に、瞬く間に打ちのめされたのを恨みに思っている。佐恵子によって瀕死の重傷を負わされるも、本人は憶えていないが真理の治癒能力で治してもらっている。


第8章 三つ巴 9話~強襲悪魔の巣窟2~下っ端のドキュンモブ-茂部天牙(もぶ てんが)

「ちっ・・」

悪態を口に出して言うわけにはいかないので、誰にも聞こえない大きさで舌打ちを打つ。

このあたりで一番のグループだと進められて木島さんのところにお世話になっているのだが、ろくな仕事もなく、もっぱら木島さんの使い走り扱いだ。買い出しに行ったり、仲間のメシをつくったりと、地味な仕事ばかりしかない。アウトローな組織だからもっと派手なのかと思ったら、案外退屈だよな・・・。

だが、今日はいままでの使いっ走りよりはマシな用事を言いつけられた。今日は急に木島さんから呼び出されて、言われた買い出しを渡すと、数日前から監禁していると噂だった、女の見張りを命じられた。今、目の前にいる椅子に手錠で繋がれた女だ。木島さんはたしか雫ちゃんと呼んでいた。

女を見張りだしてかれこれ1時間ほどたつが、まったく喋らないし動きもほとんどない。

目は虚ろで一言も喋らないが、顔もスタイルもよく、かなりの美形だ。時折、目を閉じ考え事をしているようだが、俺の問いかけにも答えないし、食い物や飲み物を勧めても、水を少し飲んだだけで、まったく喋らねえ・・。

椅子につながれている女の姿は、そこはかとなく哀愁が漂っている。ベストは破られ、よく見るとスーツもところどころ傷んでいる。ブラウスに至ってはボタンがほとんどなくなっていて、黄色のブラジャーにおさまっている豊満な胸の谷間には、僅かだが青痣が見て取れる。

・・木島さんが味見した後か・・・。こんないい女を、使い捨てるように乱暴に犯したんだな・・。

いいよなあ・・。俺にもまわってこねえかなぁ・・。

奥の部屋では、元クルーザー級ボクサーのアレンさんが、もう一人の女を連れ込んでるはずだ。

木島さんはというと、俺に見張りを言いつけてから自室にこもったままだ。シャワーでも浴びて、俺がチェーン店で買ってきた牛丼でも食ってるのだろう・・。

さっき、俺がオルガノに到着したときには、この部屋にはもう一人女がいた。艶のある亜麻色髪が印象に残る多部未華子によく似た女だった。たしか名前を咲奈ちゃんとよばれていた。

その咲奈は、アレンさんに引きずられるように連れて行かれているとき、俺に助けを乞うような目で訴えてきたのだが、もちろん助けるわけがない。むしろ、その縋るような目と表情をたっぷりと脳裏に記憶させてもらって、今日帰ってからは、その表情をおかずにするつもりだ。

あの咲奈という女も、いい女だったな。嗜虐心をくすぐる目で、たまんねえ表情してやがった・・。ああいう女の助けを乞う言葉を無視して、犯しまくってやりたいぜ・・。

しかし、俺にはそういう役得は回ってきそうもない。

目の前にいる、雫という女にもう少し反応があれば楽しめるのだが・・・。

木島さんに何度も犯されたはずの女は、すこし放心気味で、壊れかけているように見えた。

俺は退屈を紛らわそうと、所在なく部屋を歩き回ったりしていたが、アレンさんと咲奈が入っていった部屋の扉に耳を当ててみる。

かっこいい行為ではないが、どうせ見ているのは、木島さんに犯されて放心している女だけだ。

オルガノは遮音設計でかなりの高級仕様である。更にこの部屋は防音対策を施されているのだが、僅かに女が悲鳴を上げている声が聞こえる。防音扉のせいで、音は小さいのだが、それが余計に女の嬌声の激しさを物語っていると言えた。

「・・・くそっ・・」

聞いていると想像が膨らみ、欲求不満になりそうなので扉から耳を離す。すると、ちょうど雫と目があった。

後ろ手で椅子に拘束されながらも、乱れた服装を直すこともできず俺のことを見上げている。その目には、侮蔑と軽蔑があふれていた。雫という女は一言も発していないが、目が語っていた。「このゴミめ!」と・・。

「てめえ、なんだその目は!立場わかってんのか?!」

無抵抗で弱者のはずの女にそのような目で見られるのは我慢できなかった。

立場を理解していない生意気な女に向かって、手を振り上げた瞬間、チャイムが鳴った。

ピンポーン。

「ちっ!誰だよ!」

間の悪いタイミングでチャイムを押したヤツに悪態をつく。

今度の舌打ちは、誰かに聞こえてもいいつもりで、つい大きな音を出してしまった。
苛立ちを隠さず、乱暴にボタンを操作しモニターを映す。

「こんにちは。開けてくださらない?木島さまにお渡ししたいものがありますの。どなたかいらして?」

今さっきまで苛ついていた、感情はどこかに吹き飛んで行ってしまった。なぜなら、モニターには初めて見る、今まで見たこともないような美女が映っていた。しかも、なぜかかなりアップで映っている。

モニター越しでもわかる、俺らの仲間内の女連中とは明らかにレベルが違う。どっかのアナウンサーやモデルみてえな顔してやがる。いや、そんな顔とも違う・・・雰囲気がちがう。

いや、それよりも、こんな来客パターンの時は、どうしていいか聞いてねえ。とりあえず木島さんに聞いてみないと・・。

「ねえ、聞こえてらっしゃる?私のこと待たせたら酷いですわよ?」

ふてぶてしく堂々とした口調の女がモニターに越しに喋る。この女の口調、ひょっとして、最近入った下っ端の俺が知らないだけで、うちの組織の偉い奴なのかもしれない。もしかしたら、木島さんや張慈円さんの女かも・・。

それによく見ると美人には違いないが、妖艶で蠱惑的な笑みを浮かべた表情と目、そして口調が何とも逆らいがたい。不思議な目の色が光ったように見え、心臓が鷲掴みにされたような感覚になる・・。

・・・そうだよな、こんな女がカタギのわけがねえ。たぶん俺ら側の人だ。木島さんの名前だしてるぐらいだし、こんな女が、木島さんと釣り合うような気もしないけど、木島さんの女か知り合いに違いねえ。

「ちょ、ちょっと待ってください」

とりあえず、したてにでた口調で答える。

「・・ええ、急いでね」

幸い幹部の女であろう人物の機嫌を損なわずに済んだようだ。

ドタバタと慌てて、廊下に出て玄関に向かう。玄関の扉が見え、再度、扉の向こうにいるはずの女に声をかける。

「いま、開けますんで・・」

がちゃりとサムターン錠を回し、チェーンロックを外す。
ドアノブを掴んで開くと、モニターに映っていた女が目の前にいた。全身鈍い光沢のある黒ずくめのアンダーアーマーのような服を着ている女が二人いた。

「・・本当に開けてくれたのね」

手前にいるモニターに映っていた女が、腕を組んで立っていた。女は俺を上から下まで観察しつつ、口を開く。

女の第一声は、呆れたような口調のそれだった。女の顔に先ほどの妖艶で蠱惑的な笑みは微塵もない。俺に向けられた目は、路傍の石か、視界の端に入ったアリでも見ているような目だ。

それにモニター越しには、伝わってこなかったが、扉を開けた瞬間から、異様な雰囲気があたりに充満している。何かはよくわからないが、言葉では表現できないカンというやつだ。

頭が、動物の本能というべき箇所が、危険警鐘を最大音量で鳴らしている。

な、なんだこいつら・・!

吹きあがる冷や汗に構う暇もなく、本能に従い、急いでドアノブを掴み、ドアを引き閉めようとする。

しかし、目の前の黒い塊が、ドアを閉じる速度より早く、迫ってきた。

「ぶっ!!・・・・がはっ!」

お、俺の声?

胸と背中に激しい衝撃を受け一瞬のうちに廊下の床で、尻もちを搗いている。
どうやら何かの衝撃で、後ろに吹き飛ばされて廊下の壁に激突したようだ。壁が割れ、白いボードの破片が廊下に散乱している。

さっきまで自分が立っていたところには、右脚を踏み込み、右の手の掌をこっちに向けた格好で静止している女が見えた。

「真理、入り口確保しておいて」

「わかりました」


俺に攻撃した女が、攻撃姿勢を解き手首をコキコキと鳴らしながら、後ろにいた女と会話している。

やばい・・。こいつら敵だ。しかも尋常じゃねえ・・。木島さんやアレンさんに知らせねえと・・・。えっ?、、、こ、、声が出ねえ・・。く、、口から血が・・。

「ごほっ・・」

「加奈子。そっちは?」

俺を攻撃したほうの女が、つかつかと廊下をまっすぐ進んできて、俺を見下ろしながら、耳元に手を当てながら通信している。

「ええ・・、ええ・・。本当に?!よかった・・・。ん・・?そっちにも敵がいるのね。大丈夫?・・・そう、わかったわ。こっちには、まだ部屋がいくつか残ってるの。このマンションに、咲奈もいる可能性が高いわね・・・。加奈子は雫をもう絶対に敵にわたさないようにね。で、部屋にいる敵全部始末して、その部屋確保してて。こっちの二部屋調べたらすぐに合流するから」

色素の薄い半開きの目を、一瞬見開き喜びの表情を見せると、すぐに表情は戻り、的確に指示を下しだす。俺が雫という女を見張っていた部屋の隣には、アレンさんの手下のボクサー崩れが5人と、帰ってきていればだが、張慈円さん子飼いの劉さんが待機していたはずだ。

しかし、目の前で通話している女は全く動じた様子もなく、自分の仲間に、ボクサー崩れどもを全員始末しろと指示している。

「真理!雫確保よ」

入口に陣取っている、黒髪の美女に向かってそういうと、黒髪の美女は両手を胸の前で握りしめ、頷き返している。

おそらく、さっきまで俺が見張っていた雫と言う女を仲間が見つけたのだろう。言葉も通じにくく態度もでかいが、あのボクサー崩れどもは強い。しかし、この侵入者の女の強さは尋常ではない。俺は、一撃でのされてこの様だ。アウトロー組織に入って、派手な仕事を望んでいたが、組織に入って早々こんな失態をして、ブタ箱行きなんて御免だ。

それに、このままやられっぱなしで良いとこ無しだと、俺の組織内での立場が無くなっちまう、下手すりゃ木島さんやアレンさんに殺されちまうかもしれない・・・。

「うぅ・・、ごぼっ!」

おい、お前ら!こんなことしてタダで済まねえぞ!

と凄むつもりだったのだが、立ち上がることもできず、口から出たのは言葉にならない、くぐもったうめき声と、血だけだった。

喋ろうとしたせいで、ヒビが入ったのか折れたのかわからないが、女に打たれた胸あたりが悲鳴を上げる。

「うぐ・・!」

うまく動けず喋れないうえ、呼吸するのですら激痛がはしる。

目の前にある床の上に、土足で上がり込んでいる女の靴が見えた。足音がしなかったため、気づくのが遅れ、思いのほか近くまで来られていることに驚いて見上げると、女は少しだけ目を見開き、首を傾げ、少し驚いたような表情で俺を見ていた。

間近でみるとすげえ美人だ。雫って女も美しかったが、好みの問題だろう。こういうスカしてお高く止まった女のほうが俺にとってはそそる。

長い黒髪、シャープな顎、ふっくらとした唇、目だけが半開きのギャップが印象に強く残る。

腰回りのラインは完璧だが、胸は意外にも小さい・・。ぴっちりとした衣装のせいで、身体のラインがよくわかる。

こんな女をめちゃめちゃに犯してやりてぇ・・。胸や背中の痛みを堪えながらも、目の前の女相手に不埒な妄想をしていると、女が口を開いた。

「・・?。こんなに実力差を見せられても萎えないのね。・・速すぎて見えなかっただけかしら?・・それとも単なるバカなの?」

女にこんな表情で見られるのは初めてだ。俺のことを見下しているというか、理解できないものを見ているような目だ。

困惑と激しい怒りが吹き上がるが、体が動かず、呼吸もまともにできなくては、どうしようもできない。しかしこのままだと、後で確実に木島さんたちに制裁されちまう。

それに、この生意気女の見下した綺麗な顔を、泣き顔にして謝らせてやったら、どんなに気持ちいいだろうと想像すると、力が沸いてきた。

ガクガクと信じられないぐらい笑う膝を奮い立たせ、肋骨の痛みに耐えながら立ち上がると、目の前の女目掛けて殴り掛かろうと構える。

「へぇ・・・」

女が意外そうに、感嘆の声を上げる。それにしては全く構えもせず無警戒な様子で不思議そうに俺の動きを見ている。

この組織では入ったばかりで下っ端だが、街の不良連中の中じゃ、俺の腕っぷしに敵うやつなんかいやしねえんだ!さっきこの女の攻撃を貰っちまったのは不意を突かれただけだ。

くらえ!

体重を乗せた渾身の右ストレートが女の顔面を捉えた。そう感じたのは今までの経験だとこのタイミングで避けられた経験がなかったからだとすぐにわかった。

拳に手ごたえがなく、女は半身になって右腕の外側に身体を躱す。女が躱したのを目でとらえたと同時に、右腕の肘と手の甲を掴まれた感触があった。その瞬間、視界がぐるりと縦に回転する。

どしん!

「ぐぇ!」

空中で1回転させられ、今度は壁ではなく、廊下の床で強かに背中と後頭部を打ち付ける。
俺の意思とは裏腹に声にならない声がでてしまう。

「珍しいわね。まだ心が折れてないなんて・・。精神と実力がそこまで乖離していると、かえって惨めね。でも、さすがにもう動けないでしょう?」

女は短くため息をつき、俺を見下ろしながら更に続ける。

「ドア開けてくれてありがとう。おかげでドアを蹴り破らなくてすんだわ。・・念の為に聞くけどあなた木島さんじゃないわよね?・・・・・そう・・でしょうね・・。情報だと丸坊主だと聞いているし・・。・・・あなた、しばらく動けないでしょうから、そのまま寝てなさい。聞くこと聞いたら後で病院ぐらいには連れて行くように手配してあげるから」

勝手に質問して勝手に納得している。お礼なのか、心配しているのかわからないようなセリフを言うと、女は玄関ドアのほうに向きなおり、入り口あたりにいるもう一人の女に向かって、指示をだしている。

「・・真理、この子、最小限で回復させてやって・・・」

「わかりました・・。その吐血量だと、肋骨が肺か何かに刺さっているようですね。死なないようには処置しておきます」

「お願い・・。ごめんね」

「いえ、大丈夫ですよ」

玄関の入口にいた黒髪の女が近づいてきて、仰向けに倒れている俺のとなりに跪いてきた。

俺を投げ飛ばした女はとみると、

「ったく・・受け身も取れないなんて・・・。自分の自重で死にかけるって、弱すぎて手加減難しいじゃない・・。加奈子にああ言ったものの、これじゃあ、しめしがつかないわね・・」

と、小声でブツブツと文句を言いながら、廊下の分岐を木島さんの部屋のほうへツカツカと歩いていってしまった。

「ごぼっ・・・!」

たしかに、半開き目女の言う通りやばい。口から出てるのこれ全部俺の血なのか?俺はこのまま死ぬかもしれない。すげえ痛いし、吐血のせいと、胸の痛みで、まともに呼吸ができない。

かろうじてできる浅い呼吸を、するたびに肋骨の痛みがひどい。打ち付けた背中と後頭部を襲うガンガンとした痛みに耐えながら、半開き目女の後ろ姿を睨み、女の特徴を記憶に刻み込んでいく。

半開きの目、不思議な色素の目・・。厚い唇、長い黒髪・・・。ぜってえ復讐してやる。その面、、泣きっ面にしてやるからな・・・。

飛びそうな意識の中で、名前も知らない半開き目女に復讐を誓っていると、隣で跪いていた美女が、俺の胸の上で手をかざす。

「もう寝てなさいね」

そう言う女の手は、ぼんやりと緑色の光に包まれていた。何をされるのか不安でその手を振り払おうとする。しかし、俺の胸の上で翳された女の手から発せられる光には暖さがあり、不思議と痛みが引いていく。呼吸が楽になり、痛みが引いていく心地よさに目を閉じると、意識はゆっくりと薄れていった。

【第8章 三つ巴 9話~強襲悪魔の巣窟2~下っ端のドキュンモブ-茂部天牙(もぶ てんが)終わり 】第10話へ続く


【第8章 三つ巴 10話~強襲悪魔の巣窟3~ 稲垣加奈子】

第8章 三つ巴 10話~強襲悪魔の巣窟3~ 稲垣加奈子

悪者の住処だとというのに、かなり仕様の良いマンションのようで、ベランダ側の共用部分は駐車場でもないにも関わらず、かなり管理が行き届いている。日よけに白樫やクスノキが植えられ、しかも定期的に剪定業者が入っているようだ。芝も綺麗に刈り込まれており、雑草はほとんど見受けられない。

支社長と真理とは車で別れ、私だけマンションの南側の庭の方に回り込んできたのだ。
マンションの配置図と見取図を小さく折りたたんだメモの紙を、手で握りつぶしポケットに押し込む。

能力で強化した五感で周囲を警戒しつつ、常人離れした脚力で、物陰から物陰へ跳躍する。

105号室は・・・っと、あれね。頭の中に叩き込んだ配置と平面図を思い出しながら、待機場所を探す。

「よっ・・と、悪党のくせに良い所に住んでるわねえ・・」

ほとんど足音をさせず、敷地の隅にある受水槽施設に着地する。再度五感のソナーを働かせ、あたりに気配がないことを確認すると、薄暗くなりかけた夕闇に紛れ、気配を完全に消す。105号室の窓は全室カーテンが掛けられ、中を伺うことはできない。いくら視力強化しても、遮蔽物がある限り無駄なのだ。

「そろそろよね・・・」

ペロリと唇を湿らせ、合図を待つ。合図とはチャイムの音だ。インターホンが壊れている、もしくは消音設定していない限り何かしらの音がするはずなのだ。

それにもし、音がしなかったとしても、チャイムを押したタイミングで真理からショートメールが届く手はずになっている。

咲奈や雫のことが気になるが、沈着付与のおかげで逸る気持ちは抑えられ、これから戦闘になる可能性も高いというのに感情の高ぶりも一定限度で抑えられる。強制的に冷静な状態だ。一定の感情値を超えようとすると沈静化される不思議な状態である。

「これ、なんだか慣れないのよね・・・」

支社長の能力で、怒りや恐怖などの感情異常を無効化する付与がされているのだが、いまだにちょっと慣れない・・。

これって、自分の内なる感情も抑制されちゃうのよね。

そう思いつつも、受水槽施設の影で気配を殺し、聴覚を研ぎ澄ます。

・・・・すっごく長く感じる・・まだかしら。

時間を確認してみるが、ここに身を潜めてまだ2分ほどだ。

・・焦れるわね。

今度はそう思ってから、2秒も経たないうちに合図があった。

ピンポーン。ブブブ・・。

能力で研ぎ澄ませ聞き取ったチャイム音と、胸ポケットに入れているスマホの振動は、ほぼ同時だった。

10・9・8・・・

音と振動の合図と同時に心の中でカウントダウンを始める。

・・・3・2・・・GO

きっちり頭のなかでテンカウントを数えると、音もなく、受水槽から105号室のベランダ目掛けて跳躍する。色素の薄い髪を靡かせ、7mほどの距離を助走もなく、脚力のみで到達する。目立つ行動ではあるが、周囲に人の気配はないし、視線も感じない。それらは、すでに確認済みである。

「やっ!」

着地と同時に、引き絞った右腕を気合とともに突き出す。
パキン!と乾いた音をさせ、ベランダにある履き出し窓の、ペアガラスを貫手で貫通すると、そのままクレセント錠を指で弾く。

クレセント錠ががちゃりと、少し大きな音をたてるが、もはや音を気にしてもしょうがない。そのままガラスを貫通した腕を抜き、アルミ部分に手をかけ部屋の中に入る。

カーテンを外から開くと、見知った顔の女性が、乱れた服装で椅子に拘束されている。いきなり窓ガラスが割れ、外から何者かが侵入してきたのだ。中にいた女は何事かと怯えた表情だったが、私の顔を見た瞬間、一気に顔色が戻った。

「雫!・・・おまたせ!遅くなってごめん・・」

「あ、ああ、先輩!稲垣先輩!」

雫に一言声をかけると、雫の周りにいる男どもを一通り観察する。男たちは一様に大柄で、筋肉質な身体つきだ。全部で5人、全員日本人じゃなさそうだ。
5人は、たったいま奥の部屋から出てきて、玄関のほうに向かおうとしていたところに、私が窓から入ってきたので、驚いて振り向いたような状態だ。

「ナ、ナンダ?!テキ?!」

「イリグチノホウカラ、オオキナオトガシタゾ!」

「モブボーイ!ドコイッタ!?」

「コッチカラモカ?!テキ?オンナダゾ?!」


英語も混ざっているようだが、たどたどしい日本語で狼狽えているムキムキの外人達を無視して、雫に聞くべきことを聞く。

「雫!咲奈は?咲奈もここにいるの?」

「たぶん、います!こっちの扉が外じゃないなら、この扉の向こうの部屋に・・・!あの黒人の男に・・・ああ・・・でも、先輩!先輩まで捕まっちゃう!逃げてください!」

ここに咲奈もいるのなら、話は早い。雫の話しぶりからも、一刻でも早く助け出したほうがいい状況ともわかる。

「大丈夫!任せて!!私、実は強いのよ!・・ハッ!」

目を合わせ雫に了解の意を伝えると同時に、床を蹴る。身体能力を強化した私を、常人が捉えるのはほぼ無理だ。目で追う事すら難しい。今の私のスピードやパワーは野生の虎以上の性能に強化してある。

雫が座っている椅子の一番近くにいた、大柄な黒人に向かって突進し、膝を男の鳩尾に食い込ませる。突進のスピードとエネルギーを、大柄な黒人の身体に膝蹴りによって、すべて押し付けた。

どすん!!と重く鈍い音と「ウッ!」という男の小さな声が聞こえる。

膝蹴りの衝撃で、突進の速度を完全に殺すと、座っている雫の腰に手を回して、バックステップで、私と一緒に部屋の隅まで椅子に座った雫ごと一気に引っ張る。

「ひぃ!!きゃああああああ!?」

私に椅子ごと引っ張られている雫が悲鳴を上げる。
椅子を少し持ち上げて引っ張ったので、ほとんど雫に衝撃はないはずなのだが、乱暴な行動だったのには違いがない。とりあえず抗議は後で聞くことにして、雫を椅子ごと、部屋の隅に滑らせ、私の背中の後ろに隠した。

「ごめんごめん・・椅子に繋がれてるし、敵のど真ん中にいたから、しょうがなかったの!そこだと安全だから少し待ってて。すぐこいつら片づけるから!」

「は、、はひ」

遠心力で振りみだれた髪の毛を直すこともできず、ハァハァと息を切らし、目を見開いた驚きの顔で、雫が心ここにあらずといった返答を返す。

「カタヅケルダト?!」

「ネーチャン!シヌホドコウカイサセテヤルゼ!」

「ワタシタチ、ボクサーヨ?オマエモ、スコシヤルミタイダケド、ゴニンモタオスノムズカシイ!」

「5人?もう4人だと思うけど?」


口々にいきり立った口調の外人ボクサー達にそう言うと、先ほど膝蹴りを食らわせた大柄な黒人が、どさり!と音を立てて、膝をつき、蹲るように突っ伏した。

「コ、コノアマァ!」

蹲り動かなくなった男の一番近くにいた、一人の外人が私に向かって吠えて、身構えステップを踏みつつ距離を詰めようとしてくる。

そのとき、左耳から通信音がした。

「あ・・ちょっと待って・・・。はい、支社長、私です。いま裏から入って、ちょうど雫を確保したところです。・・・こら!待てって言ったでしょ!」


支社長からの通信に耳を抑え答えていると、一番近くにいた男がステップを踏み、床を鳴らしながら、殴り掛かってきた。

左ジャブの連打を、難なく躱しながら、支社長に答える。

「はい、戦闘中ですけど、こっちには大したのはいなさそうです」

途中もう一人が加わり、二人がかりになるが、何人いようが能力解放した私にとっては遅すぎる。

「はい・・遅いし、弱そうです。問題ありません」

最初に殴り掛かってきた男の、ジャブ連打からの右ストレートを、身を沈めて躱し、逆に男の顎にショートアッパーを打ち込む。打ち込まれた男は、顔じゅうの汗を天井に向かって、まき散らしながら仰け反っている。

「オォー!!シット!ファックビーッチ!」

殴り掛かってきていないうちの一人が、放送禁止用語っぽい言葉を叫ぶが今は無視だ。

「はい、ここにいるっぽいです」

二人目の男が大振りで放った左ストレートも、右足を軸に身体を回転させ、左足の後ろ回し蹴りで、二人目の男の左こめかみを打ち下ろしつつ、繰り出してきていた左ストレートごと地面にたたき落とす。

振り下ろされた左の踵に打ちぬかれ、どがっ!と男は床に叩きつけらた。その直後、初めにショートアッパーを喰らわせた男が、膝から崩れ落ちて動かなくなった。

「はい!了解!」

支社長との通信を切り、残身の構えをとる。

「せ・・・せ・・せんぱい・・。す、すごーーい!!すごい!!かっこいいです!やっちゃってください!!ぼっこぼこに!!」

興奮した雫の声が、後ろから背中に突き刺さる。

正面の二人に注意を払いつつ、後ろを振り返り、雫に向かって笑顔でウインクする。

「もう少し待っててね。あと二人始末したら手錠外してあげるから」

雫にそう言うと、残りの二人に向きなおって言い放つ。

「という訳で、急ぐから二人いっぺんにどうぞ」

構え直し、正面の二人に、にっこりと微笑みかける。構え直した構えを、左右で再度切り替え直し、突き出した左手の指をクイクイと手招きして挑発する。安い挑発だったが、効果覿面だった。

「ファック!!」

「サンオブアビッィィィッチ!!」


二人はそう叫びながら、私に向かって一気に間合いを詰めてくる。武器も持たずにファイティングポーズをとっている。やはりこの二人もボクシングスタイルのようだ。

でも・・・、遅いのよね。ぽつりとそう呟くと、丹田に気合を込め放つ。

「はっ!!」

僅かに左の男が、突出していたので、其方の男に向かって跳躍する。そのまま正面から攻撃してしまうと、男の突進の勢いに、私の勢いが加算され、殺してしまいかねない。

面倒よね・・。

男の突進速度より、遥かに上回る速度での跳躍中に呟くと、男の背後に回り、首に手刀を一閃させる。もう一人の男は、情けないことに私の姿を見失ったようだ。

「ホワッット!・・・ドコダ!」

「ここよ」


最後の男の問いかけに答えてやると、男は振り向いたが、振り向いた男の鳩尾には私の肘が突き刺さっている。

後ろで手刀を食らわせた男が倒れる音がし、目の前で鳩尾を抑え、蹈鞴を踏んでいる男が、仰向けに倒れ泡を吹き動かなくなった。

「制圧完了!」

ふぅと息を吐き出し、残身のポーズをとりつつ、部屋にあった鏡で自分の姿をチラ見しながら、表情も作って余韻に浸っていると、雫からすごいコールが浴びせられてきた。

「先輩すごいです!すごい強いんですね!すごい、すごい、すごいです!」

もちろん忘れていた訳ではないが、見られていた気恥ずかしさに、僅かに赤面してしまう。

「ごめんごめん!いま解いてあげるからね」

とりあえず、支社長の言ったとおり雫と部屋は確保できたわね。でも、私が結構暴れちゃったから、さすがに侵入はここの敵全員に知れ渡っちゃったでしょうけど・・・。

それにしても、あとどのぐらい敵はいるんだろ・・・。

心配してもしょうがないんだけど、いまぐらいのばっかりなら100単位でいても平気よね・・。
そう思いつつ、左耳に手を当て通信をオンにする。

「支社長。雫と部屋確保完了です」

手短に報告すると、「了解」と短く返答があった。
しばらく待機だけど、雫を解放して手当しないと・・。
支社長も真理も大丈夫だと思うけど、早く来てね。

【第8章 三つ巴 10話~強襲悪魔の巣窟3~ 稲垣加奈子 おわり】11話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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