第9章 歪と失脚からの脱出 10話 北王子公磨の力と秘策 脱出と絶頂
紅蓮こと緋村紅音はその可愛らしい目を釣りあげ苛立ちを露わに隠そうともしていない。
「菊一といい七光りの部下と言い・・なんでこうも私に従わない奴等ばかり・・。圧倒的な力の差がわからないのね?・・そう・・そんなバカな奴らはもう死ねばいいのよ」
紅音は顔半分に火傷を負ったとはいえ、可愛い童顔を邪悪に歪めて3人に向かって静かに言った。
紅音は、苛立っているが同時に久しぶりの戦闘が行えることに心は高揚しだしていた。
全力に近いパワーを振るえる機会などめったにないからである。
そう思うと、紅音はえくぼをつくって目を細めた。
宮コー屈指の能力者、宮川十指にも数えられる神田川真理と稲垣加奈子、プラス得体の知れないメガネを3人同時に相手どったとしても、紅音は負ける気などこれっぽっちもない。
得体の知れないメガネが、意外にも自分と同じスターター系の能力者で、しかも煙だというところが厄介ではあるが、それを考慮してもだ。
紅音にそう思わしめるのは、未だかつて紅音が能力を使った対決で敗北した経験がないからである。
紅音はオーラ量では佐恵子と並ぶほど膨大であるし、使う技能は佐恵子と比べ直接的なものばかりで攻撃力という点においてだけなら佐恵子も大きく圧倒する。
そのうえ、近接戦闘においても、それに特化した稲垣加奈子さえやり方によっては倒せるとすら自負もしていた。
紅音は、唯一自身にまともなダメージを負わせる可能性の高い敵、すなわち正面で構える銀獣こと稲垣加奈子に注意を払いつつ、腰を落として構えた格好のまま、人差指の爪だけに熱を集中すると自らが身につけているタイトスカートのサイド部分を大胆に縦に切裂いた。
「うふふ、いわゆるサービスカットってやつかしら?」
そう言って動かしやすくなった脚を大胆に開くと、再び隙のない流麗な動きで構えを取る。
その滑らかで隙の無い動きの途中で赤い下着が一瞬だけ覗くが、紅音は下着の露出など気にした様子もなく小柄な身長の割に長くそして白い程よく肉付いている艶めかしい太ももを大胆にみせた構えで静止し、口を開いた。
「ふふふ・・。炎さえ使わせなければ、3人でなら私に勝てると思ってるんでしょ?それがどれだけ浅はかな勘違いかってことを思い知らせてあげる・・。すぐに後悔させてあげるわ。ふふふふ・・・」
紅音はそう言うと不敵に笑い、相対する三人に対して、かかってこいと言わんばかりに顎をしゃくる。
「加奈子!気を付けて!紅音とまともにやり合った人の記録なんてなかったから、詳しく調べられなかったけど、体術だけでもたぶん相当な使い手のはずよ」
真理が言い終わると、加奈子をはじめ3人も紅音に向かい構えるが、紅音から発せられるオーラの圧力が3人に叩きつけられた。
「むかつくけど見たらわかるわ・・・!」
「び、びりびりきますね・・!これが・・宮コーの最大戦力の一人に数えられる紅蓮ですか!噂にたがわぬ・・とはこのことですね。以前の宮川さんにもぐっときましたけど、殺気がこもった圧力というのでしょうか・・種類が違います!め・・メガネがずれそうなほど、周りの空気が揺れている・・・」
真理は防御の構えで、敵の力量を計り違えたかもという思いで唇をかみしめている。
公麿は煙を展開しつつ、炎を使っていない紅音の圧力に冷や汗で背筋を濡らしながら哲司に叩き込まれた格闘術の構えで警戒を口にする。
公麿の煙に纏わりつかれているため、炎こそ纏っていないが緋村紅音から発せられているオーラは3人に対して鋭い殺気をはなっている。
しかし、その殺気を跳ねのけ気力充実させた銀獣は髪を逆立たせてオーラを練ると吠えた。
「思い知らせてもらおうじゃないの!【疾風】、【拳気】!!・・・ジュニアのときの借りを返すわ!」
言うや否や加奈子は髪の毛を逆立たせ銀獣となると、床を蹴り空中で一回転し、紅音に踵を振り下ろす。
「さすが加奈子ねっはやい!」
小さく驚きの声を上げた紅音は、獣のごとく飛びかかってきた加奈子の浴びせ蹴りを、両腕を交差し、がっ!と防ぎ、間髪入れず空中の加奈子に蹴り返す。
加奈子も反撃を予想していたのか、持ち前の超反応速度で三日月気味の蹴りを右腕でガードする。
(想像以上に速い・・・脳筋だと思ってた加奈子が付与術を使えるとは・・すこしばかり侮りすぎたかしら・・それに、まだまだ全力ではないはず・・・。付与まで使える肉体強化系となると、丸岳君やはなだと相手するのは厳しいかもしれないわね・・・。ジュニアのころはまるでダメ子ちゃんだったくせに・・こんな能力者に成長するってわかってたら、あの時、仲間にしてやっても良かったわね・・・!これほどの使い手になったうえ、よりによって七光りに従うなんて・・!)
紅音は付与術による加奈子のスピードとパワーアップに驚きはしたが、冷静に加奈子の戦力を分析しなおしていた。
ジュニアスクール時代の加奈子を知る紅音は、当時の加奈子に優しくして仲間に引き込んでいなかったことを激しく後悔するが、後悔先に立たずとはまさにこのことだ。
いまや自分の宿敵の忠実な尖兵となって牙を剥くようになってしまった。
「くっ!避けるんじゃなくて止めた・・・!・・紅蓮は術のみにあらず・・って勇名は伊達じゃないわけね!」
一方の加奈子は、紅音の心の葛藤など知る由もなく、紅音の蹴りの威力を利用し後方に飛ぶと、空中でグルグル回転して着地し、キッと睨み返してからいまいましげに吐き捨てる。
加奈子の言葉通り、紅音は完全前衛の加奈子と素手でも渡り合えるということだ。
以前なら純粋な素手での勝負であれば、加奈子が少しばかり有利だったかもしれない。
加奈子が張慈円との死闘の後、死から復活するまでに行ったリハビリだけでは、日常生活には全く支障はないものの、戦闘となるとそうはいかなかったのだ。
加奈子は自身の身体の動きが本調子でないことに、苛立つが今すぐにどうこうできるものではない。
加奈子は負担の少ない魔眼技能である付与術を使い、少しだけ心もとなくなっている肉体を補っているが、以前のパフォーマンスには届かない。
「だから言ったでしょ?凡才が天才にたてついているのよ!・・とは言え、さすが七光りの専属ボディーガードね。たいていの奴なら今の私の三日月で血反吐吐いてるはずだからね」
「ふん・・。そっちこそ血反吐はかせて、その顔泣き顔にかえてあげるわ」
加奈子は尊大な言い分の紅音に言い返すが、紅音の近接戦闘スキルに内心かなり焦っていた。
しかし宮コーでも1,2を争う口の悪さの2人の口撃力は五分と五分といったところか・・・。
加奈子はジンジンと痺れる蹴りを防いだ手を摩りながら、以前に千原奈津紀と対峙し圧倒されたた時よりも焦りは大きい。
(相性もあると思うけど・・あのムチムチハム女は刀を獲物として振るってた。でも、この童顔くそビッチは私と同じ徒手空拳・・。しかも十八番の炎を使ってもいないってのに、本気でしゃれにならない!・・なんて奴なの。・・メガネ画家が偶然助っ人に来てくれなかったら・・どうしようもなかったわ)
加奈子は自身の能力に加えて、片目の魔眼での付与を駆使することにより、オーラの消費を抑えつつ130%水準のパフォーマンスで戦えるようになっているはずの自分の浴びせ蹴りを防いだ紅音にゴクリと喉をならし、寒気を覚えた。
移植された魔眼の扱いはまだ慣れていないし、もし付与術以外の技能を使っても佐恵子ほどの威力は出せない。
もし使うとしても、真理と相談して最後の手段ということにしてある。
なにより加奈子のオーラ量に対して魔眼の呪詛技能は燃費が悪すぎるのだ。
さいわい紅音は加奈子が付けているカラーコンタクトのおかげで、付与が魔眼の力によるものだとは気づいていない様子である。
焦燥を募らせる加奈子と裏腹に、紅音は加奈子の力が想像したものより上だったことに、少しだけ加奈子に興味を持ち話しかける。
「加奈子・・思ったよりは少しやるようね?まさか七光りと同じ付与が使えるだなんて感心したわ。・・なによその顔・・・本心よ?・・付与術って技能は地味だけど、とっても難しいからね。だから正直意外だったわ。・・・私の部下になれば死ぬこともないし、贅沢ができたかもしれないのにねえ・・やっぱりあなたもどうしても私を裏切るの?・・・ジュニア時代のときのことは水に流してあげてもいいって言ってるのよ?」
紅音は加奈子の蹴りを受けた手をぶるぶると振り、加奈子の浴びせ蹴りで、痺れていた腕をほぐしながらセリフを返す。
「はぁ?裏切りぃ?!水に流す?!佐恵子さんや会社を、宮川を裏切ってるのはあんたの方でしょうが?!小学生の時から、あなたも才能を見出されて特待生だったじゃない?ずっと宮川家の資金援助の恩恵を受けてきたんでしょ?!そういうの恩知らずって言うのよ!それに、水に流すって・・なにズレたこと言ってんのよ?!」
紅音のあまりにもな言い分に、呆れながらも激昂した加奈子が大声で言い返すが、それを真理が遮った。
「紅音にいまさらそんなこと言っても無駄よ加奈子!私にも付与を!二人で掛かるわ!」
「そりゃそーよね・・らじゃ!」
公麿から借りたジャケットのボタンをしめ、豊潤に肉がついたその下半身を包むには少し小さいと思われるパープルのショーツ姿である神田川真理が煙に包まれた紅音に向かって地面を蹴る。
加奈子は真理に答えると、素早くオーラを練り真理にも付与を飛ばす。
「ふんっ・・!こっちから頼んだわけじゃないわ。私の力を利用するために金をつぎ込んでただけじゃない。加奈子だってそうだったでしょ?すっかり飼いならされちゃって!なぜそれがわからないの?!私達は、凡人どもとは違う!選ばれた者なのよ?本当にいるとすれば神に選ばれたのよ!・・とりわけ私は神の特別な寵愛を受けていると言っても過言じゃないわ・・・・・!真理も・・!その力を凡人共に惜しげもなく使ってやって何やってるのよ?!・・目を覚ましなさい!私と一緒に能力者による統治をこの宮コーを土台にして始めるのよ!?・・・それでも私に逆らうのなら・・・敵になるって言うのなら・・・思い知らせてあげる!物分かりの悪い馬鹿どもに絶望ってやつをね!」
紅音は向かい来る真理と加奈子を同時に相手取りながら吐き捨てる。
「夢見がちな誇大妄想は寝てるときだけにしなさいっての!はあああああ!」
黒いアーマースーツで豊満な胸を初めとするその整ったボディラインを強調されている加奈子が、高速で突きと蹴りの連打を放ち、紅音を狙う。
「だからそんなの誰が喜ぶって言うの?!いっそう弱者を虐げるだけだわ!」
真理もジャケットに薄紫色の下着で隠し切れない妖艶な身体を隠しいるというしまらない姿ながらも言う事はきっぱり言い切ると、加奈子とタイミングを合わせ紅音に攻撃を浴びせる。
「危険思想の炎術者の炎は僕が無効化させておきます!でも油断しないでください!」
そう言うと公麿も紅音に攻撃する隙を伺うが、煙を紅音の周囲に展開させることを最優先としているため、紅音と少し距離をとりつつ二人にエールを送る。
本来は、張慈円が過去に暴れまわった各地に、残していった暗器を後にこっそりと持ち帰り、独自に暗器とオーラを融合させた戦闘術も研究していた公磨は今も懐に張慈円の暗器に加え独自に開発したいくつかの暗器を忍ばせているが、今は紅音の炎を封じるための煙の展開に力を使っているので暗器を使えずにいた。
紅音は少し離れて、隙を伺っている公麿にも常に注意を怠ることはなく、加奈子と真理を同時に相手にしている。
「・・くそメガネ!・・いまいましい邪魔を・・」
紅音は【知っている】真理や加奈子より、【知らない】公磨への方に不気味さを感じ、物騒な視線を公麿に飛ばすと、真理と加奈子の二人同時の猛攻に、後ろに後ずさりつつも驚異的な身体能力と格闘センスで、ダメージを受けず防ぎきっている。
「くっそ・・!な、なんてやつなの?!噂以上すぎる!」
「これほど・・とはっ・・!加奈子と二人がかりでも・・こんな・・ここまで攻めきれないなんて・・!」
加奈子と真理が攻撃を緩めることはないが、紅音の素手による戦闘能力の誤算を口にする。
身長でも真理や加奈子の方が10cm以上勝り体躯でも圧倒している2人がまるで小さな少女に踊らされているかのように見える。
「うふふ!火が使えなければ・・二人がかりならなんとかなると思ってたんでしょ?さっそく絶望感じてきてるのかしら?・・・いい顔ね・・そんな顔でそんなこと言われると私ゾクゾクしてきちゃうじゃない・・」
真理と加奈子の蹴りや突きをかろうじて躱し防ぎながら、紅音はその童顔の頬を赤く染め、目は妖しく濁った光をたたえ、うっとりしだしている。
いかに紅蓮と言えど、不得意な分野で、神田川真理と稲垣加奈子が相手どっているのだ。
さすがに、わずかばかり押されている。
しかしサディストでもマゾヒストでもあり、バイセクシャルでもある紅音は防戦一方の現状にも異常な性癖のせいで、恍惚とした表情で戦いながら口を開いて続ける。
「ハァハァ・・あなた達みたいに美人で聡明な女が、フフッ・・驚きと焦燥で表情が歪んでいく・・・クッ・・おいしそうよねえ・・熱くなってきちゃうわ!ふふふ・・・!・・うふふふふふふふふふふっ!」
息を切らせ、攻撃を避けきれずかすめだした状況にそぐわない紅音のうっとりとした表情と発言に、真理と加奈子はぎょっとした表情になってしまい、一瞬だけ動きが遅れた。
紅音にとってはその一瞬で十分だった。
紅音は薄く笑みを浮かべ、紅い瞳をきらめかせると、少しタイミングのズレた加奈子の中段後ろ回し蹴りを大開脚して身を床にべったり伏せて躱すと、その伸ばした脚で真理の軸足を払った。
一瞬、紅い隠す個所の少なめのショーツが丸見えになるが意に介することもなくオーラを脚に集中させる。
「ふっ!・・はっ!!」
紅音は気合の籠った声を発すると、真理のブラジャーの中心部分を下側から人差指で引っ掛け、自らの足を勢いよく閉じて素早く低い位置まで跳躍して、真理の腹部を蹴り抜いた。
「きゃっ?!」
真理は紅音に蹴られた勢いのまま後方に吹っ飛び、包むものがはがされ豊かなサイズの胸元の双球が激しく上下に揺れながら後方にいた公麿に背中から激突する。
「ぐっ!!」
借り物のジャケットに真理の下半身を包むにしては小さくも思える薄紫色のショーツ姿という半裸の真理は、公麿に何とか受け止めてもらったものの、二人は床にもつれて倒れ込んだ。
「ま、真理!」
中段回し蹴りを空振った加奈子が後方に振り返り真理に向かって叫ぶ。
「真理の心配?加奈子は余裕があるのねぇ?」
紅音の邪悪で愉快そうなハァハァと息の切れた小声がすぐ耳元で聞こえ、加奈子の首筋から耳にかけて紅音の舌が這った。
加奈子はその感触にぎょっとし、慌てて紅音に一撃食らわせようと肘を振り回しながら紅音に向きなおったが、加奈子の肘鉄は空しく空振りに終わる。
加奈子の肘を半歩下がって腰を落とした紅音は、封じられているはずの炎を両腕に纏わせ、今まさに殴ろうと構えていた。
「えっ?!」
炎を纏った紅音に加奈子が驚きの声を上げた瞬間、紅音がその小柄な体を沈めて間合いを詰めて高速で技を振るった。
「うふふふふふふふふっ!あはは!」
紅音が火傷を負った童顔を可愛らしく歪め笑いながら加奈子に連打を浴びせる。
ボディに拳を3発、顎に肘打ちを1発、顔に後ろ回し蹴りをお見舞いされ、赤い炎に包まれたまま加奈子も吹き飛ばされ、どしーん!と音を響かせて支社長室の壁に激突する。
「んふふー・・クリーンヒットぉぉ。・・・ダメじゃないメガネ?しっかり煙を展開してないと。それとも憧れの真理がパンツ1枚で飛んできたから動揺した?しっかり煙を展開してないとせっかくのハンデが無くなっちゃうでしょ?・・炎撃をまともにくらっていままで立った奴はいないけど・・手応え的にはいまいちだったから加奈子ならまだ楽しませてくれるかしら?」
紅音は愉快そうに自身の周りの炎を躍らせ、蹴り抜いた脚をそのままに右手の指先に引っかかっているパープルのブラジャーをくるくる回しながら壁に激突した加奈子と、真理を受け止めきれず二人して倒れ込んだ真理と公麿に言う。
「き、北王子さん・・よけようと思えば避けられたはず・・」
真理が身を起こしながら、尻で下敷きにしてしまっている公麿に声を掛ける。
「いくら強くてもあなたは女性です。それに一目惚れをしてしまった女性を受け止めず避けろって言うんですか?・・僕にそんなことできませんよ。でも、僕のせいで加奈子さんが・・・!」
ブラジャーを奪われた真理は、公麿に貸してもらったジャケットと、下半身は刺繍入りのレースが施されたパープルの下着のみに姿なので動くたびに着衣でも男性を魅了してしまうその肢体に付く官能的な白い柔肉が今は柔肉を拘束する布地から解放され自由に揺れている。
そのかたちの良い豊満な胸をジャケットから少しのぞかせ、公麿の腕に抱きとめられたままの格好で、口からこぼれた血を手の甲で拭きつつ、ぶつかった衝撃でダメージを受けたっぽい公麿を気遣う。
「真理!メガネ画家!無事!?・・私は大丈夫だから・・!無事ならとにかくあいつに火を使わせないで!悔しいけど火まで使われると、いくらなんでも手に負えないわ・・・!」
紅音による炎を纏った連打を浴びた加奈子は、大きなダメージを受けたのをやせ我慢して飛び起きると真理と公麿に叫んだ。
加奈子は無事だと自分で言っているが、ノーダメージなわけがないのは見ても明らかだ。
「炎が使えなくても結果は同じだと思うけど・・すこしは寿命が延びる・・かしら?」
紅音はそう言いながら、指先でくるくると弄んでいたパープルのブラに火をつけて灰にしようとしたが、再び煙に囲まれたため、ブラは肩紐部分が片方燃えただけで、紅音の指先から飛んでいきパサリと絨毯の上に落ちた。
「ちっ・・また煙・・・・」
「もうあなたには火を使わせません!」
舌打ちをした紅音に対して、公麿は気丈に真理を庇うよう立って言い返すと、紅音に再び煙をまとわりつかせたのだ。
紅音の周囲に舞っていた炎が、公麿の煙によって鎮火していくと紅音は鋭い目つきで公麿を睨む。
「本当にうっとうしいわね。あんまり頑張るとろくなことにならなってのに・・。でもそろそろ終わりにしましょうか。私的にはいまいち不完全燃焼だけど、あなた達はそれ以上もう手はないみたいだし、騒ぎになって警察に駆け付けられても面倒だしね」
そう言うと紅音は、お互いをかばい合うようにして立っている真理と公麿のほうにむかって無遠慮に距離を詰める。
「加奈子!お願い!」
真理は振り返って加奈子に意味深な視線を送る。
「あらあら、一番ひどくやられてる加奈子をまだ戦わせようって言うの?・・さすがの真理もなりふり構ってられないってことかしら?」
紅音はわざとらしくお道化た口調で真理を非難するように言うが、加奈子は真理のその言葉にコクリと覚悟を決めたように頷いた。
「あら?さすが加奈子ね。やっぱりまだ楽しませてくれるの?」
加奈子に向かって薄ら笑いを浮かべている紅音に、脚を肩幅まで開いた加奈子は、腰を落とし身構え目を見開いた。
「ビィィィィィム!!・・じゃない【恐慌】よ!!」
加奈子は意味不明な雄叫びの直後に魔眼技能を叫ぶと、突如加奈子の左目からどす黒い閃光が紅音に向かってほとばしる。
「っ?!えぇ??・・なっ?!えええええ???」
紅音は完全に虚をつかれた。
紅音が加奈子の放った技を頭でなんなのか理解する前に、加奈子の左目から放たれたどす黒い光は紅音に直撃し、紅音の目から脳に達して、全身のオーラをかき乱し体内を暴れまわる。
佐恵子のそれとは、随分光の量が少ないがその効果は抜群であった。
「うぐうううううううう!!っきゃああああああああああ!」
紅音は両手で顔を抑え、真っ赤な髪を振り乱しながら悶えて悲鳴を上げている。
「う、上手くできたわ・・。はぁはぁ・・はぁはぁ・・くっ・・すごい脱力感・・こんなにオーラ消費したら・・こっちがフラフラになっちゃう」
慣れない魔眼技能を放った加奈子は、全身に汗をびっしょり濡らし、肩で息をしているが、真理が間髪入れず声を上げる。
「加奈子!今しかないわ!一気にたたみかけるわよ!?」
「らじゃ!」
借り物のジャケットと紫のショーツだけを身につけた真理は、なりふり構わず紅音に向かって駆け出し、疲れ果てている加奈子にも攻撃に参加するようけしかける。
加奈子も脱力感で悲鳴を上げる身体に鞭を打ち、紅音に肉薄する。
「お、おのれ!加奈子ぉおおおおおお!。あなたっ!魔眼を!・・魔眼を七光りから奪ってたの?それで付与まで・・!」
恐慌により脳をかき回された紅音が、苦悶の表情で真理と加奈子を迎撃するも、恐慌による呪詛のせいで、さきほどとは違いその動きはまるっきりなっていない。
「くっ・・!きゃっ!ぐふっ!・・・おのれ!・・くぅ!・きゃう!・こ、こんなバカな・・!ぐえっ!・・や・やめ!くぅ!・・いいかげんに!・・ぐっ!」
紅音は迫りくる真理と加奈子の容赦ない猛攻の前に、半分程度は何とか防いでいるが、顔に腹に何度も攻撃を受け、壁際まで一気に追い詰められている。
「これはチャンスですね・・!」
部屋の隅に追い詰められ、加奈子と真理にぼっこぼこに殴られ防戦一方になった紅音をみた公麿は、勝機と察し、哲司に叩き込まれた格闘技を振るわんと紅音に向かって突進する。
「き、北王子さん!だめよ!!」
その瞬間、真理が悲鳴に近い声を上げた。
真理の【未来予知】の網に、死に次ぐ濃い警戒色が紅音の周囲を覆ったのだ。
公麿が紅音に駆けだした瞬間、煙のコントロールが僅かにみだれ、紅音を覆っていた煙がほんの少しだけ隙間ができたのだ。
一瞬だった。紅音の深紅の髪の毛が炎のように舞い上がる。
煙の僅かな隙間から紅音のオーラが膨張し煙を押しのけ、紅音の全身を業火が覆い舞った。
ごおおおおおおおおおおおおおお!!
『きゃあああああああああああああ!!!!』
真理と加奈子は紅蓮の火柱に吹き飛ばされ、悲鳴を上げながら宙を舞っていた。
「こ、こんなバカげた威力の炎を一瞬で?!神田川さん!!稲垣さん!!」
公麿は、再び紅音の炎を無効化させようと慌てて紅音の周囲に煙をコントロールする。
「させるかああ!死ねっ!くそメガネっ!!!」
煙が完全に紅音を覆う前に、紅音は公麿に向かって腕を突き出し必殺の威力がある火球を放つ。
真理と加奈子に蹴る殴るの連撃をくらわされ、吐血し満身創痍の紅音だが、炎を使ったオーラの発動は見事なほど速かった。
しかし、紅音の掌から発せられた火球が、手から離れる瞬間、真理が吹き飛ばされながらも空中で身体をひねり、放った蹴りが紅音の腕をかすめ、火球の軌道を僅かにずらせた。
公麿の数十センチ横をボーリングの玉ぐらいの大きさの火球がギューンと唸りを上げて猛スピードで通り過ぎ、壁に着弾して炎と暴風をまき散らす。
ごあああああああああああ!
紅音は左手では頭を押さえ、右手では加奈子にヒビをいれられた脇腹を抑えている。
「間一髪・・です。神田川さん・・ありがとうございます」
公麿は煙なしで直撃すれば確実に死んでいた威力の火球がさく裂した後方を確認し、冷や汗をかいた顔を真理に向けて言った。
真理は立ち上がり態勢を立て直して公麿に笑顔を返す。
「ちっ!・・力の制御ができない!火が弱すぎる・・・。全員生きてるじゃないのよ・・これが恐慌・・。加奈子ぉ!真理ぃ!よくも私をこんなに殴ったり蹴ったりしてくれたわね!・・こんなに人に殴られたのは初めてだわ!・・しかもよりによってあの女の技まで!!」
ゼエゼエと肩で息をしている紅音は、火球が着弾して支社長室中に吹き荒れる炎と風に乱れる髪の毛をそのままにして、3人を忌々し気に睨みつけて叫んだ。
「いい顔になったわね?・・散々ボコってやったのにまだ随分元気じゃない?もっとおかわりが欲しいの?そうよね、ジュニアのとき私にした借りは返しきれてないわよね?」
加奈子も慣れない魔眼の発動の為か、疲労の濃い顔で軽口を返すが、真理が加奈子の肩を後ろから掴み、まだ戦おうとしそうな加奈子を制止し、小声で呟いた。
「ダメよ・・・。加奈子・・あなたもう空っぽでしょ?紅音は身体こそボロボロだけど、まだまだオーラは十分あるわ。・・・紅音は以前の佐恵子なみにオーラがあるのよ?あんなのを幾つも連発できるはずよ。・・それにこんな騒がしくなっちゃうと、紅音の部下も集まってくる」
紅音を巻き上げた火柱と、支社長室の壁に着弾した火球の熱と炎で支社長室のすべての窓ガラスが割れ、エントランス側と外側が外部へと繋がり、10階にある支社長室には外部から入った風が吹き抜けている。
おまけに炎と熱でスプリンクラーが作動し、その噴射口から豪雨のような水が発射されだした。
ビルの遥か下の方で落下したガラスが派手に砕け散る音が微かに聞こえ、ジリリリリリリリリリリリリリリリリ!とけたたましく火災報知器の音が鳴り響きだす。
「ここまであの紅蓮を追い詰めたってのに・・!諦めるの?!」
小声だった真理に対して、水を滴らせながら加奈子は悔しそうに聞き返す。
「見て。この強風とスプリンクラーのせいで北王子さんの煙で完全に紅音を封じられないわ。それに対して、紅音の炎は風を味方にできるし、スプリンクラー程度の水じゃぜんぜん火が弱まってない。紅音に触れる前に蒸発してるわ・・。加奈子・・くやしいけど限界よ。あんな火の玉が直撃したら、私が回復を使うまでもなく死んじゃうわ・・。当初の予定どおりにいくわよ」
「・・・メガネ画家のおかげでここまで追い詰めることができたのに・・。でも、もともと真理を回収して速攻で逃げる作戦でしたしね。あのビッチに魔眼をお見舞いできたということで、悔しいけど・・今日のところは退散かな。真理の言う通り、垂れ目筋肉たちが集まってきたらシャレにならないし」
真理に諭されて納得した加奈子は頭を切り替えて、少し離れたところの公麿に顔だけ向けた。
「メガネ画家!逃げるわよ!この風のなか厳しいでしょうけど、できるだけ紅音に火を打たせないで!今の威力見たでしょ?!あいつはスタジオ野口みたいなでっかい建物でも一瞬で灰にかえられるのよ!煙でできるだけ妨害して援護して!」
加奈子は公麿に向かって叫ぶと、真理の腰に手を回し、荷物を運ぶようにして抱えると、公麿のところまで跳躍し、もう一方の腕で公麿も抱えようとする。
地上70m付近にある支社長室の窓はすべて熱と炎によって破られているため、室内は風が容赦なく吹き込み、もはや紅音の全身を煙で覆うことは困難になっていた。
「はぁはぁ!・・逃がすわけないでしょうが!!」
恐慌をまともにくらったうえ、加奈子と真理に連打を浴びた紅音は、さすがに大ダメージを受けたようで、身体を引きずるようにしながらも手負いとは思えない素早い動きで3人を逃がさないよう回り込み、距離を詰めて烈火のごとく怒鳴った。
スプリンクラーに水に打たれ、全身水浸しになっているはずの紅音だが、身体の表面のみに熱を展開し豪雨のように噴射される水を、肌に着水する前に全て蒸発させている。
「ご心配なくお二人にはもう打たせませんよ。・・僕の失態で、絶好の機会を潰してしまった挽回をさせてください。・・さあ!お二人は先に!真理さん、これを・・・。そこで落ち合いましょう。僕は残ってお二人が逃げる時間を稼ぎます」
加奈子が公麿を抱えようとしていた手を、公麿は笑顔で制すると、真理の手を取り、殴り書きした分厚い画用紙の切れ端を握らせた。
「北王子さん?!残るって?・でもこの風じゃ、あなたの煙だけであの紅音の火を無効化するのは難しいのでは・・?それに炎を封じても、手負いとはいえ紅音は素手でも・・」
「大丈夫ですよ!彼女の周りは無理でも自分の身ぐらいは煙で守れますから・・・あの女がいかに優れた炎術者でも僕にとどめはさせません。安心してください。僕がしんがりを務めます。安心して行ってください」
真理は北王子の言葉に納得できない様子で、まだ何か口を開こうとしたところで加奈子が声を上げた。
「真理・・来たわ・・!よりによってデブの紅露と垂れ目筋肉よ!・・一人ずつなら私だけで十分だけど・・紅蓮がいる今はこれ以上は無理!」
支社長室に続く廊下のはるか向こうではあるが、視力強化をした加奈子が二人の存在を見つけたのだ。
彼らもまた紅音がまき散らした炎によって道を遮られているため、幸いこちらにはすぐ来れないでいる。
「お別れはすんだかしら?・・これは使いたくなかったんだけど・・・本当に忌々しい奴等ね・・・このダメージじゃ・・使わざるをえない・・・ふぅ・・・・【転生炎】!・・くはぁ・・!」
紅音が使うのを躊躇った技能を発動させると、紅音の足元から鳥の形に酷似した炎が現れ、紅音の身体を焼き始めた。
「な・・?!」
「え?!」
「自分で自分を・・?!」
真理、加奈子、公麿が炎に包まれ苦しそうに悶えている紅音を見て絶句する。
「くぅうううう!ああ!熱い!熱いぃ!・・こんなにダメージを負わされるなんて・・!こんなことまで私にさせるなんて・・!許さないわよ!」
紅音の着ていた衣服は焼け落ち、肌がみるみる露わになる。
全裸になった紅音は、小柄ながらも豊満なパーフェクトボディを身を屈め両手で肩を抱くようにして隠し、自らを包む金色の炎の熱に耐えている。
ガソリンで負わされた顔の火傷、真理と加奈子の攻撃によって痣がついた肌、加奈子の殴打によりヒビの入った腕と肋骨付近をより強い炎が纏わり焙っている。
「ぐううううう!あっつううううい!あああああ!」
服と傷口は激しく燃えボロボロと焼け落ちていくが、紅音の悲鳴とは裏腹に、金色の炎が上がっている個所は焼けただれていく様子はない。
紅音は熱さに耐える為、肩を抱いている手に力が入り爪で傷つけてしまっているが、それさえも金色の炎が焼き切っていく。
「こ、これは・・?!」
受けたダメージが大きいほど術者に与える熱量が多く、炎の熱さを感じるがその金色の炎によるダメージはなく、傷を急速に回復させているのだ。
真理が紅音の【転生炎】なる技能の効果を理解し始めた時、加奈子が声を上げた。
「真理っ!行こう!いまなら画家も一緒に行けるよ!」
そう言うや否や加奈子は右手に真理、左手に公麿を、抱え床を蹴った。
しかし、紅音が目を見開き加奈子に向かって右手を薙ぎ怒鳴った。
「させるか!」
転生炎によって金色の炎に包まれた紅音が、加奈子の跳躍した方向を予測し、右手から深紅の火柱を水平発射したのだ。
「うげえ!」
まさか技能を使っている途中にもう一つ技能を使ってくるとは思ってなかった加奈子は、女性らしからぬ悲鳴を上げ、イナバウアーのように身体を逸らしてその深紅の火柱を回避し、手を使わないブリッヂのような態勢で、尻もちならぬ頭もちをついた。
「きゃああああ!加奈子!気を付けてよ!いま死地が一直線に見えたわ・・!さっきより炎の威力が断然上がってる!」
「わわわわわ!稲垣さん!僕のことはいいですから!」
加奈子に抱えられた二人が抗議を上げるが、幸い二人とも火炎に触れることなく無事だ。
後日、宮川コーポレーション関西支社から発射された赤い一閃を、たまたま撮影に成功した者により、動画投稿サイトにアップしたことでニュースになる。
しかし、各民放や大手新聞、地方新聞でも全く報道されることもなかったので、その映像は加工されたものだと判断され噂は収束していくことになるのだが、実際は紅音が放ったものだ。
「そう急がないでよ・・!逃がさないって言ってるでしょ?!・・・もう少しだから・・はぁはぁ・・ぐううう!」
手から火柱を放ったままのポーズの紅音の顔は、ガソリンで負った火傷が消えさっていた。
「ま、真理・・!あいつ回復してるわ!」
「そのようね・!自力回復もできるなんて・・本当にやっかい・・それにいまの火柱の威力と色・・・恐慌の効果も解除しつつあるみたいよ・・治せるのは物理ダメージだけじゃないのね・・」
せっかく与えたダメージを転生炎がその金色の炎で浄化しているのだ。
物理的な傷だけでなく、呪詛さえも焼き落とし浄化しているとう真理の見解は当たっていた。
「さあ、僕が防ぎますから!お二人は今のうちに!」
「真理!・・ここは!・・丸岳や紅露まできたらお手上げだわ・・私たちが早く行かないと、メガネ画家も逃げる時間が無くなる!この状況であいつらに捕まったら・・」
死んだほうがましって思えるような目にあうわ!と言いかけて加奈子は口をつぐんだ。
一度拾った命はただではない。死んだほうがまし、などという軽率な発言をしてしまいそうになって加奈子は口を手で押さえた。
「そのとおりです稲垣さん!神田川さん・・約束します。僕もきっと逃げ切ってみせますから!」
公麿のセリフに強い決意を感じ取った真理は、両手を合わせて公麿の背中に声を掛けた。
「必ず!・・・帰ってきてください北王子さん!・・・どんなに傷ついてもボクが癒してあげますから・・そしてあなたとの素敵な未来を私に見せてくださいっだからっ絶対帰ってくると約束してください!」
「神田川さんのその言葉・・・ほかのどんな言葉より励みになりますよ・・!さあ、行ってください!あの紅蓮から逃げおおせた初めての人間になってみせます!」
真理と加奈子を紅蓮から庇うように立つ公麿は顔だけ振り返り、笑顔で言った。
「真理、久々にボクっ子が出たわね。・・ねえ、メガネ画家、真理が自分のことをボクって言う時は、真理が本当に素の時だけよ?だからいまの真理のセリフは本心ってこと。泣かしちゃだめよ?さぁ!・・・真理いいわね?・・・メガネ画家・・死なないで・・帰ってこないと真理が泣くわ・・・帰ってこなかったら私があなたのことぶん殴るからね!必ず帰ってきて!」
真理と公麿に加奈子はそう言い、真理を抱えたまま床を蹴り、割れた窓の向こうに向かって跳ねる。
「ちっ・・!逃がすか!」
いまだ転生炎による回復中のようで、その場から動けないでいる紅音が加奈子の背中目掛け両手から火球を飛ばす。
「ダメですよ!僕がいる限りはお二人に指一本触れさせません!」
自身の身体を煙で覆いつくした公麿が二つの火球の前に飛び出し、身を挺して阻んだ。
その二つの火球は、先ほど紅音が苦し紛れに放った火球とは比べ物にならないほど大きく、そして深い紅色をしている。
直径50cmはある二つの炎の塊がスプリンクラーから噴射される水を蒸発させながらうなりをあげ公麿に直撃した。
ぼ、ぼ・・っん!!
公麿が発生させた大量の煙によって火力は不完全燃焼となりずいぶん弱まったが、火球が飛来する物理的な質量は食い止めきれず、公麿は派手に吹き飛ばされ回転しながら後方に転がり床に膝をつくが、転がりながらも即座に立ち上がり今度は反対の方向へ駆け出す。
「ちぃ!!いまいましい!」
舌打ちと同時に紅音を包んでいた金色の炎がひと際大きな光を放つと、徐々に光を失っていった。
転生炎による治療が完了したのだ、対象は自分自身のみで、膨大なオーラを消費するが、一日に一回という限定条件で傷や呪詛などを完全に治す技能である。
「く・・ちょこまかと・・!」
完全回復し、転生炎による移動不可の条件の解除はした紅音が走る公麿を逃がさないように追う。
全裸になった紅音は、駆ける公麿に指先から火球を連射するが、予想してたよりメガネの男の身のこなしはよく、背中を少しかすめただけで直撃はしない。
転生炎で全裸になってしまった紅音は片手で胸を隠しているため、流石にすこし動きが鈍いせいでもある。
「・・・なんとかうまく行きました・・さあ、ここからは僕が約束を守る番です・・。それにしても緋村支社長も小柄とはいえいい身体されてますね。いや・・むしろそういう趣味の方もいらっしゃいますし・・・とにかく、いい被写体です。あ、僕はなんでもいける口なので、緋村支社長は十分ストライクゾーンですよ?」
公麿はふざけたようなセリフ言いながら、紅音と距離をとり、障害物に身を隠しつつ、この高さから飛び降りてもなるべくダメージの少なそうな場所に見当をつけており、飛び降りれるポイントに近づきつつあった。
紅音の指先から放たれる無数の小さな火球を躱しながら支社長室を逃げ回り、紅音が使っていた高級な木製の机を倒して、その天板を背にして隠れた。
飛び降りても着地しやすく、そしてすぐ逃走できそうなポイントに飛び降りれそうな窓まであと一歩のところまで来た。
「ストライクゾーンですって?・・失敬な!そもそもあなたのような男が見てもいいような身体じゃないのよ!・・メガネ・・殺す前に名前を聞いておきましょうか?」
できればその机を焼きたくない紅音は、テーブルの裏に身を屈めている公麿に対して、紅音が今更さらながら名前を聞く。
すると、物陰に隠れていたというのに、わざわざ律儀に出てきた公麿は眼鏡をくいっと上げるとポーズをとって、芝居がかったセリフを口にした。
「菊一探偵事務所の竹中半兵衛と呼ばれた男、北王子公麿と申します。菊一探偵事務所の事件解決率が驚異的なのは私の頭脳と能力のおかげです!しかし私は菊一探偵事務所では戦闘は守備範囲外で1番弱いのです。なので緋村社長、あなたは物凄く強いようですが、我が事務所の所長や副所長と戦えば5分で殺されることでしょう。」
そう言いながらも、胸と股間は隠すように立っている全裸の紅音を、記憶していくようにメガネがきらりと光った。
「のこのこ出てきたわね。名乗りとしても遺言としても意味不明だけど・・。冥途の土産に私の身体をその目に焼き付けて、全国の竹中半兵衛ゆかりのものに詫びながら逝きなさい。そして私が町探偵ごときに遅れをとるわけないでしょ!・・死ね!くそメガネ!」
お別れの言葉を言った紅音が、右手をあげ、回避できないよう広範囲に炎を展開させる技能を発動しだし、頭上に高速でオーラを集中しだす。
その瞬間、公麿は左手でメガネをくいっと上げながら右手で紅音を制すようなポーズをとって叫んだ。
「支社長お待ちを!」
「・・なに?」
公麿の制止のセリフに紅音は命乞いかと思い動きを止める。
紅音の技能発動を止めたことに内心ほっとした公麿は、それが表情にでないように芝居がかったセリフを続けた。
「・・いいんですか?僕がこの場から立ち去るのを邪魔すれば、あなたを24時間毎日、僕の能力で描き続け日々何をしているか全国にネットを使いばらまきますよ。嫌なら僕が立ち去るのを黙って見ていてください」
「・・・??・・はぁ?・・命乞いじゃないわけ?・・なによそれ?なんの能力??・・念写みたいなものも使えるって言うの?・・でも、じゃあ、あなたをここで殺してしまったらそれができないようになるから問題なくない?」
紅音はきょとんとした表情になり少しだけ考えてから公麿に言葉を返した。
「さすが聡明と言われる緋村支社長・・バレましたか。しかし十分です!せっかくの大技が台無しになったようですし!私も紳士のはしくれですので、今日はまだ温存しておいた武器を使わずにこの場を去りたく武士の情けも含めた提案だったのですけどね。しかし、逃げおおせたあかつきには、人の名前を聞いておきながら、僕のことをくそメガネと呼んだ報いをして差し上げます!では!」
公麿の言葉に耳を傾けてしまったせいで、紅音が収束させていたオーラの半分以上が霧散してしまっている。
そう言うと公麿は全力で地面を蹴り、あらかじめ見当をつけておいた着地ポイント目掛けその身を暗闇に投げ出した。
そして後ろ手で、公磨が遊び半分で作った暗記を1つ投げるとその暗器は紅の無防備の足と足の間を射貫く。
「しまった!」
大技の途中でオーラを練りきる前に中断させられた紅音は、予定していた広範囲に炎をまき散らす技能を発射することができず、右手を挙げたまま、オーラを収束させるか霧散させて追うかを迷っている隙に公麿は割れた窓に向かいダイブしたのだ。
窓から飛び降りた公麿を見た紅音は、大技を諦めて練っていたオーラを霧散させると、窓際まで駆け寄り両手10本のすべての指に小さな火球を生み出して、公麿が落下していくと思われる方向にすべて発射する。
10本の紅い閃光が暗闇を切裂き、そのすべてが空しく地面に着弾する。
紅音は暗視と視力強化を行うが、すでに公麿の姿は確認できない。
紅音は発射させた火球に着弾の手応えが感じられないことに、ぎりっと音をさせて歯ぎしりすると、眼下の暗闇のなかに着弾した火球が発生させた灯りを見下ろしたまま、濡れるにまかせて暫く立ち尽くしていた。
そして屈辱にも自分の股の間を射抜いた公磨の置き土産は、時代劇でよく見るようなクナイというような武器で、そのクナイは紅音の背に刺さっているが、クナイに繋がれた数珠のような物体が、絶妙に紅音の股間に絡みつき振動をしていた。
ブルルルル・・・・
所謂、クナイにローターを数珠のように繋いだだけのものなのだが、公磨のオーラが付与されていて、公磨の手から離れると自動的に振動するようになっていて、紅音の足の間を抜いたクナイがローターを数珠状に引っ張り、その先は公磨が立ち去る前に窓際の壁にもう1本のクナイを突き刺していたので、紅音はクナイとクナイに繋がれた数個のローターの上に跨っている格好に一瞬でされてしまい、しかもうまい具合に陰核を弾きまくる高さに当たっていた。
「くっ・・・あぁっ!!あの・・・くそメガネ!あぁぁっっ!!こんな物を投げ・・・・どこまでこの私をっ!!
くっ・・・これどうなっているのよっ!外れない・・・いやっ!あっあぁぁぁ・・・だめっ!おっおぼえておきなさいっ!この変態メガネっ!あんっ!!」
激しい戦闘で真理や加奈子を相手にしていた事で、高揚していた紅音は、メガネの奇妙な男の残していった彼手製の暗器と呼ぶにはあまりにもふざけた武器?により、肉体的なダメージは無かったが、精神的なダメージ、屈辱、そして瞬く間の絶頂を味合わされると言う仕打ちを受け、紅音の殺すリストの1番上に北王子公磨の名は刻まれることとなった。
(これだけコケにしておけば、緋村支社長も、神田川さんを(ついでに稲垣さんもだけど)しつこく付け狙わずに、僕への復讐にご執心になるでしょう。僕なら哲司君や宏君に相談して、あの2人と一緒に戦えば死ぬことは無いだろうし、とにかく彼女の怒りの矛先を僕に向けるのには成功しただけでも僕としては上出来だ・・・。まだ隠し玉もあるし、次に戦う事があれば命がけで緋村社長を止めないと・・・どんな手を使ってでもね・・・男だからこそ思いつく技もあることを緋村社長に知ってもらえるでしょうね。さすがに神田川さん(稲垣さんもだけど)の前では使えない技もあるし・・・)
真正面から戦えば、いくら哲司に鍛えられ、煙の能力に目覚めた公磨でも紅音の前では、命は無いと思われる。
しかし、相性と元々自分が最強と自負している紅音と自分を最初から弱者と自覚している公磨とでは、準備やその心構えに大きな差が出る。
能力者同士の戦いにおいて、その準備や心構えの差で死ぬものと生き残るものが入れ替わることなど多々あるのだが、それは今まで菊一探偵事務所で常に現場を見てきた公磨に一日の長がありそうであった。
【第9章 歪と失脚からの脱出 10話 北王子公磨の力と秘策 脱出と絶頂 終わり】11話へ続く
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やっぱり真理と加奈子のコンビは良いですね!
佐恵子を加えた三人が理想ですが…
それはそれ、真理がエッチな姿にされて戦っているのもゾクゾクしちゃいます。
公麿様の秘技には脱帽です。
高慢ちきな紅音に辱めを与えてくれて、ありがとうございます!
引き続き、楽しみにしております。
加奈子&真理びいきなのもいつもコメントを下さる内容でわかります^^
この3人は今後の活躍も予定しておりますので、9章もこの3人には活躍してもらう予定ですよ。