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第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 14話【回想】 エデンの変


第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 14話【回想】 エデンの変


夜の繁華街の光をそのボディで反射させた黒い高級四駆は、店の前にゆっくりととまった。

運転席から降り、店のものにキーを渡して助手席側に回り込んできた錫四郎が、手を差しのばしてくる。

「佐恵子さん、ここだよ。僕の行きつけの店なんだ」

「え、ええ・・この店・・ですか?」

佐恵子は錫四郎の手を取り、車を降りながら何とか笑顔を返してそう言った。

手を引かれながら車を降り、店の外観を眺めた佐恵子は、彼氏にエスコートされているというのに笑顔に陰りが出てしまう。

錫四郎が連れてきた店は、繁華街の道沿いに堂々とある白亜の石張りの重厚な建物であった。

しかし、その白亜を植木からライトアップさせているライトの色が青や赤とけばけばしいすぎる。

白い照明でライトアップしていたならば、高級ホテルのような雰囲気がでるのであろうが、派手なライトが佐恵子的にはせっかくの建物の雰囲気を台無しにしてしまっていると感じていた。

(なんてセンスですの・・)

まあここは高級ホテルではなくクラブなのだからしょうがないのだが、佐恵子のような世間知らずには異様に映ったのである。

そしてさらに、その白亜の建物の周囲にたむろする若い男女の風貌のほうがさらに佐恵子は不安をかきたてる。

店の周りに屯する彼らの年恰好は比較的若いが、着ている服も髪型もいかにも夜の装いなのだ。

男たちはカジュアルな服をだらしなく着ており、夜だというのにサングラスをかけたり帽子をかぶっている者もいる。

そして女たちはこの距離でも匂うほどの香水が香っており、無駄に露出の高い服を着ているのだ。

錫四郎に手を引かれ車から降りてくる佐恵子に対して、そのたむろしている全員の感情がいっきに佐恵子の目を通して頭に流れ込んでくる。

そしていつもどおり、いっきに不快になりかけた感情が、【冷静】によって瞬時に霧散していく。

財閥の令嬢としての日々では決して出会うことのない人たちから、雑に言うと「得体の知れないお高そうなヤツが来た」という感情が一斉に頭に流れ込んできたのだ。

向けられる負の感情によってわいてくる怒りや不快の感情を【冷静】が一気に打ち消す。

佐恵子にとってはいつものことなのだが、気持ちのいいものではない。

【冷静】で感情の高ぶりは強制的に抑えられるが、彼らの感情の内容を遮断できるわけではない。

(なによあの女・・・、場違いな恰好で来ちゃって)

(レクサスにイケメンの彼氏・・あんなださい女に・・むかつくわね)

(そもそもこの店は男連れで来る店じゃねーんだよ。かえれよブス)

初対面だというのに同姓からは容赦のない敵意むき出しの感情が向けられてくる。

(男連れかよ・・。男と離れたすきに声かけてみるか)

(ひゅー・・。ちょっと細いがツラはなかなか・・・)

(足なげー・・。その足無理やり広げて犯してぇー)

そして男たちからは下卑た慣れすぎた感情を向けられる。

実際に言葉が頭に流れ込んでくるわけではない。

ただ、感情が色となって流れ込んでくるだけなのだが、長年この能力に慣れている佐恵子にとっては悪い意味で使いこなしてしまっているのだ。

頭に流れ込んでくる色と同時に、どんな言葉を言っているのかを想像できてしまうのである。

日常的に【感情感知】で他者の感情が目をとおしてとめどなく頭に流れ込んできてしまう佐恵子にとって、【冷静】などの付与術で自身の精神を常に防御していないと佐恵子本人がまいってしまうことは、子供のころからとっくにわかっていた。

【感情感知】は宮川家の者なら、多くのものが覚醒する瞳術だが、同時に付与術も身に着けているものが多いのは、このためだろう。

佐恵子もその例に漏れない。

(人が得体のしれないモノを受け付けないのは慣れてますが、ここにいる者たちはマイナスの評価を下すものが多すぎますわね・・・)

佐恵子は【冷静】のおかげで取り繕った笑顔を少し俯けてため息をつき、目の前の彼に目を向ける。

(それに引き換え・・錫四郎さま・・不思議な方ですわ・・)

佐恵子の眼で見ても錫四郎の感情は驚くほど穏やかで、好意と友愛、そして敬意の色が常に入り交じっている。

錫四郎に眼の能力どころか能力のことは話題にもしていない。

しかし、佐恵子から見れば錫四郎が能力者なのは間違いないことはわかる。

眼のせいでオーラ量が測れてしまうからだ。

錫四郎が無自覚な能力者かどうかわからないが、常人よりもオーラ量が明らかに多い。

(いろいろとお話したいことはありますが・・・まずは確かめなくては・・。私はこの人のことを・・好き・・だと思いますわ)

好きだ。と断言できないのは理由がある。

錫四郎が佐恵子に向けてくれる感情は確かに好意的なモノばかりなのだが、それにしても錫四郎の精神は安定しすぎている。

錫四郎には今まで何度か会ったが常に精神がほぼ一定なのだ。

佐恵子はこんな人には出会ったことがない。

先日プレゼントを渡した時、喜びの言葉もお礼も言ってくれたが、その時も今と同じで、感情の変化がほぼ認められないのだ。

いままでどんな人間でも、そういうときは感情の起伏が大きく見て取れただけに、佐恵子はかえって不安になったのである。

そのほかにももう一つ理由がある。

常に佐恵子が自分自身に付与している【冷静】効果のせいで、自分の感情もよくわからないのである。

【冷静】を常に自分に付与していないと、相手の感情が流れ込んできてしまい、それに自分の感情が反応してしまう。

敵意や嫉妬を向けられる時の自分の感情は【冷静】で霧散させてくれてもいいが、好意を向けられて芽生える自分の感情も霧散させてしまうのだ。

それゆえに佐恵子自身、自分の感情に自信を持てなくなっていた。

【冷静】は自分に付与した瞬間から徐々に効果が弱まりだすが、今の佐恵子でも最長8時間ぐらいは持つ。

学校に行く日は、出かける前と、お昼に掛けるので、学校にいる間は【冷静】は効きっぱなしだ。

そして、錫四郎と会う時間帯のときも【冷静】の効果は薄まってきつつあるとはいえ、ほぼ付与が効いている。

だが、【冷静】などの付与術は【感情感知】と違って、比較的コントロールできる。

すなわち自分の意志で解除できるのだ。

ふだんは錫四郎と会っても解除しなかったが、今日は解除するつもりでいる。

(今夜は・・・今夜こそは・・二人っきりになるときに、錫四郎さまを【感情感知】で見ながら、【冷静】を解除してみますわ・・・これで、わたくしの感情がわかります・・。できればクラブなどではなく、二人きりになれる公園などがよかったのですが・・いたしかたありません・・。この水曜日を逃せばまた来週まで錫四郎さまには会えなくなってしまいます・・・。錫四郎さまのことは凪姉さまにもバレてしまいましたから、長引けば水曜日の自由時間にも見張りや護衛が付いてしまうかもしれません・・・。それどころか凪姉さまが錫四郎さまに干渉する可能性すら・・。その前に自分の気持ちだけでも確認しておかなければ・・)

「佐恵子さん。こっち予約してあるんだ」

薄暗い店内を所狭しと男女がお互いを値踏みし合うようにして、音楽に合わせて身を任せる中、錫四郎は佐恵子の手を引き奥へと進んでいく。

「こ・・こんなところで踊るのですか?」

佐恵子が思っていたダンスとはずいぶん趣が違う。

薄暗い店内で身を寄せ合い音楽に身を任せている男女の中には、明らかに肌を合わせすぎ唇すら重ねている者たちもいるのだ。

「そうだよ。佐恵子さん真面目そうだけどたまにはこういうのもいいんじゃない?」

「きゃっ」

錫四郎に腰に軽く手をまわされただけで、少し悲鳴を上げてしまい佐恵子は自分の口を手で押さえた。

「ご・・ごめんなさい。・・おどろいてしまって・・つい声をだしてしまいましたわ・・」

「緊張しすぎだよ佐恵子さん。すこし何か飲んで落ち着いた方がいいね」

錫四郎は佐恵子の腰に手をまわし、身体をやや抱き寄せて優しくそういうと、近くのボーイに向かって指を鳴らして呼び、グラスを持ってこさせている。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

手渡されたボウルの細いグラスには薄いクリーム色の液体があわ立っている。

錫四郎も佐恵子と同じ形のグラスを手に取り、ぐいとグラスを傾ける。

つられて佐恵子もルージュが付き過ぎないようにリムに唇を当てて、グラスを傾けた。

思いのほか強いアルコールだったが、甘く微炭酸で口当たりがいい。

錫四郎はグラスを空にしているが、佐恵子は二口ほど飲んだだけだ。

グラスから唇を離し、ほぼ密着した錫四郎を見上げる。

見つめてくる錫四郎からは、好意を示す色が複数現れていた。

見える感情色に嬉しくなり、見とれてしまったのかうっかり腰に回された腕に体重をあずけ過ぎそうになる。

しかしいくら何でも体重をかけすぎてしまったと思い、身体を戻そうとするがなぜか腰から下に力が入らないばかりが、足も思った通りに動かせず足元がおぼつかない。

完全に体勢を崩し、崩れ落ちそうになったところで、錫四郎に支えられるように抱きすくめられる。

グラスもきちんと掴んでいられない。

床に落として割ってしまってはいけないという思いから、かろうじてステムの部分を摘まんでいる。

しかし、グラスを水平以上にかたむけてしまい、こぼれた液体が服を濡らしていく。

指に力が入らない。

パリン!

グラスの割れる乾いた音がするも、音楽と人いきれでかき消されてしまう。

こんなあり得ない失態をわたくしが・・・。

「すずしろぅさまの服をよごしてしまい・・まひたわ・・。もうひわけ・・ございましぇん」

「いいんだよ。服なんてすぐ脱ぐからね」

「・・なじぇですの?」

錫四郎に眼を合わせるが、視界が定まらない。

顎も唇も、歯医者で麻酔注射をされたときのように感覚がおぼろだ。

ろれつが回らない。

錫四郎がボーイに割れたグラスを片づけさせようと手招きしているのが見える。

「ふふふ、佐恵子さんが飲んだのはレイプドラッグ入りのシャンパンだよ。この店じゃ公認なんだ。今から起こることはよく覚えてないだろうけどちゃんと家に送ってあげるからね」

笑顔で錫四郎が何事か言ってくれるが、よく聞き取れない。

ぼやける視界が暗転しかけるなかで錫四郎の好意を示す感情色だけが安心できた。

・・・・・・・・・
・・・・
・・


一方、偶然か必然か佐恵子と同じエデンに居合わせた寺野麗華と豊島哲司サイド

「麗華・・・麗華!」

「んぅ?なによう」

普段のポニーテールをおろし、黒髪にジェルをつけてウエイブさせた麗華が熱っぽく返事をする。

「ちょっとくっつきすぎやがな」

「だってしょうがないでしょう?チークダンスなんだし。それにさ、いまさらこのぐらいくっついたからって・・ね」

黑のタンクトップにカーキ色のリブトップ、ボトムはワイドドレープ気味のデニムパンツ姿の姫こと寺野麗華が、店内のチカチカ光る照明で顔を彩りながら、笑顔を向け意味深にウインクしてくる。

超罪つくりな男、和尚こと豊島哲司も麗華の服装に合わせてタンクトップにむき出しの筋肉を隠すため黑のトップスを羽織った姿である。

麗華のダイナマイトな胸がきつそうにタンクトップにおさまっているのを間近で見下しながら、どうしても谷間に目が泳ぎそうになるのを堪えて哲司は声を潜める。

「・・そやけどこんな人が多いところでほんまに堂々とやってんのか?」

哲司のセリフに、麗華もうっとりしていた顔をやや引き締めて返す。

「たぶんね・・。私の担当じゃないんだけどさ。こういう案件を受けてる同僚の子がいるってこないだ言ったでしょ?」

周囲を警戒し小声で話しながら、麗華は哲司の胸に顔を寄せながらチークを踊っているのだ。

ここは『エデン』と呼ばれる最近人気のクラブである。

麗華が哲司から頼まれて調べていたグリンピア興業が運営しているクラブだ。

哲司によって麗華がとんでもない被害に合った夜からちょうど1週間後、麗華の仕事の伝手で最近急増しているレイプ被害者の捜査でこのクラブに潜入しているのだ。

麗華の獅子奮迅の働きで、被害者の証言などをまとめ上げこのクラブが巣窟になっているとあたりをつけたのである。

麗華は哲司の為にひと肌もふた肌も脱いでいるのだが、当の哲司はまさか麗華がここまで協力してくれたのは意外だったようで、いささか驚いていた。

「そやけど麗華さすがやな。いくら現役弁護士言うても、自分の仕事もあるのにこんな短期間で調べてくれてほんまたすかるわ。マジ感謝や。サンキュな」

「・・そりゃ・・さ。私だって・・・和尚のためなら・・がんばっちゃうわよ」

哲司の胸に顔を押し付け、真っ赤になったまま小声で言う麗華が、照れ隠しに更に密着してくる。

そのため、かなり弾力のある麗華のダブルダイナマイトが、哲司の腹筋に押し付けられてくることになるが、幼馴染の麗華にこんな積極的なことをされる覚えの無い無自覚な加害者、哲司は織田裕二似の顔で、口を真一文字にして密着している麗華によこしまな棒を固くして当ててしまわないよう念仏を唱え精神を集中させていた。

(南無阿弥陀仏!麗華いったいどないしてしもたんや・・!?めっちゃくっついてくるやんか・・!唇もめっちゃ近いし、息が・・・麗華の息が当たる・・・当たるといえば胸や!・・柔らかすぎず固すぎず・・・すごい弾力のダブルパワーでめっちゃ押し付けてくるやん!なんでや!?こないだまでツンツンキャラやったのに、こないにキャラが変わられたら戸惑うわ!)

困惑する無自覚な加害者、豊島哲司はあの夜の記憶は途中からまったく無い。

あの日、河川敷の粗大ゴミを、重機を使わず素手で持ち上げてトラックに積み込んだ重労働をしていた哲司はその日喉がカラカラだったのだ。

しかし、いくら酒豪の哲司とはいえ、スピリタスをポカリのようにがぶがぶ飲んでしまったのはいけなかった。

当然哲司は麗華に何をしたのか全く覚えていない。

一方、被害者である麗華は、あの日以降、愛してくれた男の為に自分の仕事が終わったあと、あやしい探偵事務所に勤める彼氏になったはずの哲司の手伝いを健気にしているのであった。

「こういう事件の被害者は、本当に氷山の一角のはずなの。でも被害者の女性で3人もこのクラブの名前を口にしてるのよ」

「・・被害者はもっとたくさんおるってことか」

「そういうこと。最初は頼まれて手伝うって感じだったんだけどさ。調べてるうちにこういうのって許せないなってなってきたのよね・・。特に被害者の人と話しちゃうと・・」

「・・せやな。俺も宏が帰ってくるまでに探偵の仕事ちょっとでも慣れとこう思てやってたんやけどな・・。宏の性格からしてもこういうこと我慢できへんやろうし、宏にうってつけの仕事やと思うで。困った人を助けたいってのもあるやろうけど、宏のええところはそれで見返りとか求めそうにないってところやな。そういう不快なことするやつを排除したいだけっていうのも宏の大きな動機な気がするな・・」

「寡黙でつかみどころないけど、ほんといい人よね。宏君って・・。あのスノウが熱を上げるのもわかるわ・・でも私はお・・」

麗華が言いかけた時、哲司は奥の方でかすかなざわめきを聞き逃さなかった。

「しっ!麗華・・聞こえたやろ?!」

「えっ?なにがしっ!よっ!?」

哲司と違い麗華は聴力を強化してなかったので、聞こえなかったようだ。

哲司は不満顔の麗華には後で謝ることにして、耳に能力を集中させる。

「ガラスが割れた音や!・・・それに・・これは・・」

音楽で聞こえにくいが、哲司に聴力をピンポイントに照準を定めて強化されてしまえば、もはや聞き逃すはずがない。

下卑た男たちの笑い声。

幾人かで何かを引きずる音。

哲司は目星をつけた方向に目を向け視力強化もする。

明らかに視線を阻むように不自然に立っている男たち。

しかし、微かに見えた。

「おい!ちょいまてや!」

急に大声を出した関西弁の男に、周囲で何も知らず踊っていた男女たちが一斉に哲司と麗華に目を向ける。

哲司には一瞬だけ見えたのだ。

見間違いなどではない。

ぐったりした髪の長い女が奥の方へと何人かに抱えられて連れていかれるところを。

「おい!とまれ言うてるやろ!」

人をかき分け進む哲司であったが、その様子に気づいたクラブのボディガードたちが駆け寄ってきたのだ。

「騒がないでください!どうしたんですか?!」

口調は丁寧を装っているが、ボディガードたちは哲司たちを奥に行かせないように立ち、明らかに哲司を威嚇している。

「ほう!・・こりゃ・・ほんまに当たりみたいやな・・」

「ね、ねえ・・。大事になっちゃわない?」

戸惑いを見せる麗華を背に護るようにして少し後退った哲司だったが、先ほどの女の様子を見る限り一刻の猶予もなさそうだと感じていた。

(どこかに連れ去られたら終わりや。証拠も無しにされて、うやむやにされてまう)

「どかへんのやったら無理やり通るだけやで」

「摘まみだせ!」

哲司のドスの効いたセリフに対し、リーダー格の男がボディガードたちに嗾ける。

屈強な男たちが哲司に目掛けて、肉薄する。

「どけ!無駄や!」

哲司は筋骨隆々の身体に似合わず流麗な立ち回りで当身を食らわし、致命傷にならないようボディガード二人を一瞬で失神させてしまった。

クラブ内にいた客たちも、この騒ぎで悲鳴を上げ、この乱闘に巻き込まれないよう入口に駆け出し、店内は軽く恐慌状態に陥ってしまう。

その時である。

「きゃっ!」

麗華をボディガードの一人が背後から羽交い絞めしたのだ。

「おい!やめとけや!その女は・・!」

哲司が叫ぶ。

「おとなしくしろ!女に怪我させたくねえだろ!?・・ひっ!?」

ずどん!

ボディガードは麗華を羽交い絞めにしたままそう哲司に叫んだ直後に地面に叩きつけられたのだ。

「きったない手で触らないでよ!私が大人しく囚われの姫なんてやるわけないでしょ!!」

麗華は羽交い絞めにされたまま、背後の男の首に両手をまわし、そのまま力任せに男を地面に叩きつけたのだった。

柔道技でもなんでもない。

ただ、相手の首とアゴを掴んで、腰を曲げながら前に叩付けただけの荒技である。

到底麗華のような見目麗しい女の子がするようなことではない。

「だからやめとけ言うたのに・・。麗華、もうちょっと手加減せんと殺してしまうぞ?そいつ泡ふいとるやないか」

「はぁはぁ・・だって・・いきなりだったし驚いちゃって」

哲司の身のこなしと、思い掛けない麗華の力技でボディガードたちがたじろいていると、ボディガードたちの背後から小柄なボーイが駆け寄ってきて、リーダー格の男に耳打ちしだした。

小柄なボーイが息を切らしながら何事か囁き終わると、リーダー格の男は焦った顔で小柄なボーイに言う。

「来てらっしゃるのか・・・?このことは知らせるな。俺たちだけで対処する」

ボーイは何度か頷いて了承の意を伝えたが、遅かったようである。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 14話【回想】 エデンの変 終わり】15話へ続く
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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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