予定通りね。
そう思い私は車に
整体の道具を取りに
行っている剛田さんを
待っていた。
月に使っても3000円にも
満たない額の常備薬の
会社の営業さんに
1度マッサージに行けば
5000円はかかる
分を浮かせてもらったり
して良いのかしら?
そうは言っても由佳子も
やって貰っている事だしね~
マッサージが必要なのは
どちらかと言えば年長者の
私なのよ~
確かにここ最近は足のむくみに
背中のだるさが厳しく
週に2度もマッサージに
行ってしまう事もあるほどで
剛田さんが鍼灸師の資格を持ち
マッサージが非常に上手いと
の由佳子からの情報は
私が紹介してあげた
探偵事務所の情報の
見返りとしては十分であった。
再度玄関が開き
剛田さんがリビングへ戻り
「お待たせ致しました」
と登場する。
手に持つケースは
常備薬の補充用の
薬が入っていた黒の
ケースからおそらくは
整体用の器具が入っている
銀色のケースに変わっていて
スーツの上着も車に
置いてきたのか
白のYシャツとスーツの
下はそのままで
ネクタイまで
外していた。
私は剛田さんを待っていた
間にフローリングから
ソファへ座りなおしている。
「いいえ~
急な事でごめんなさいね~
え~と・・・
場所はここでも
良いのかしら?」
剛田さんはリビングの入り口で
立ち尽くしたままで
「そうですね。
この部屋ですと
テーブルをどけて
お布団を敷いて頂ければ
大丈夫ですが・・・
たいていは西崎様が
おっしゃるように
リビングで布団を敷いてか
ベッドがある寝室での
施術になります。」
さっきより堂々と
している感じがするのは
剛田さんの大きな
身体で立ったまま
居るからなのか
何だか定光製薬の
営業マンではなく
整体師の剛田さんに
なったような
気がしてきた。
「そうね~
それでは
適当に敷ける布団も
収納棚の奥底から
引っ張り出さなきゃ
なので~
寝室でお願いしようかしら?
それでも大丈夫よね?」
「はい。
勿論です。
寝室での施術を
させて頂いている
お客様が3割4割
いらっしゃいますので。
ただあまりにも柔らかい
クッション性の強い
お布団をベッドに
お敷きの場合は
布団をどけて
ベッドに直接
シーツを敷いての
施術となる事が
ある事だけご理解
下さい。」
「は~い。
あまり柔らかい感じでは
ないと思うけど・・・
それは剛田さんが
判断してくれれば
良いわ~
布団が必要ないなら
言ってね。
あっ寝室は2階だから
こっちこっち・・・」
私はリビングのソファから
立ち上がるとリビングを
出て玄関から上へ繋がる
階段の方へ行き
剛田さんが
「かしこまりました。
それではその時は
申し上げますね。
あっ寝室は
2階なのですね」
と言いながら
私の後ろからついてくる。
「そうなのよ~
もう子供も1人で
寝るように
なって
ほらここが子供部屋
なのだけど
それで今はこっちで
1人で広く有意義に
使わせて貰ってるのよ」
私は2階に上がると
今年中学1年生に
なった子供の部屋を
指を差しながら
剛田さんにここが
子供部屋と話し
その横の今は主人は
首都圏に単身赴任
になり1年になるので
1人で広く使っている
ダブルベッドがある寝室
のドアを開けると
寝室へ入って行った。
失礼しますと
剛田さんも私に続き
入って来ると
私はカーテンを閉め切っている
寝室の電気を付ける。
そして普段1人で広く使い
寝ているベッドの脇に
腰を掛けながら
「どうかしら?
この布団じゃ
整体をしにくいかな?」
剛田さんは銀色のケースを
化粧台の前にある椅子に
「ここ使わせて下さいね」
と私に断り置くと
私の座るベッドに
歩を進めてきて
「そうですね~
実際施術をしたときに
西崎様のツボに指が入るか
入らないかが問題ですので・・・
触った感じは高級そうな
お布団にベッドですが
掛け布団がかなりフカフカ
な分敷布団は大丈夫かと
思いますので
まずは始めてみましょうか?
もし途中で柔らかすぎて
施術に支障をきたすよう
でしたら申し上げます」
私の横で布団を押しながら
話す剛田さんは常備薬の
説明をしてくれる
時より余程プロっぽく見えた。
「そう。
それなら
また問題ありそうなら
教えてね」
「かしこまりました。
それでは準備をしたら
まずは西崎様の全身を
指圧にて特にお疲れな
箇所それにその原因などを
特定させて頂きますね」
「お~
プロみたいっ
何かいつもより
かっこよく見えるんだけど~」
と本気でそう思ったので
何かいじるような適当な
言葉がみつからず
つい口から出てしまった。
「はははっ
一応国家試験には
合格しておりますので
しかしそれでは普段は
全くダメという事ですね」
と剛田さんが頭の後ろに
手を当てながら化粧台の椅子に
乗せてある銀色のケースを
取りに行きケースを
持ちベッドに戻ってきた。
「う~ん。
それはマッサージの腕
次第で普段の剛田さんに
対する印象も変わるかもね~」
私がベッドの脇に座ったまま
足を組み替えて少し整体の
ハードルを上げてやろうと
いじわるそうに言ってみる。
「はははっ
西崎様は私が今
施術を行っているお客様で
1番の強敵のようですね~
これは気合が入りますよ」
剛田さんはベッドの脇の
床に置いた銀色のケースを
開け大きなバスタオルを
2枚取り出すと
「あっ
すみません。
西崎様。
シーツの上にこちら
敷かせて頂きますので
少しだけ宜しいでしょうか?」
と私の口撃に全く動じず
私にバスタオルを敷くから
ベッドから立つように
言ってくる剛田さん。
私は余程自信があるのかな?
良いじゃない~
と思いながら
「気合を入れてくれて
嬉しいわ~」
と座っていたベッドから
立ち上がると
剛田さんは
「すみません」
とだけ言うと
掛け布団をどけてベッドの
下手に移動させて
敷布団の上にバスタオルを1枚
大きく広げた。
「それでは西崎様
こちらの上に
まずはうつ伏せになって
頂いて宜しいでしょうか?」
「うつ伏せね。」
私は剛田さんが敷いてくれた
バスタオルの上に
いつも使っている枕に
手をそろえて額を当てるように
うつ伏せに寝ると
「はい。
これで良い?」
「はい。
ありがとうございます。
それではとりあえず
全身の固まり具合を
確認する為に少し
指圧に入らせて頂きますね」
剛田さんはうつ伏せになった
私にもう1枚のバスタオルを
かけると首に手を当てて来た。
「はい。
お願いしますね~」
「こちらこそ。
宜しくお願い致します。
どうですか?
強さはこれくらいで
大丈夫ですか?」
首筋に剛田さんの親指が
刺さるように入る。
「うっ・・・
剛田さん力強いね~
うん。
それくらいが丁度
良いかな?
私強めが好きなの」
「かしこまりました。
それではこれくらいで
全身を指圧しますので
また強さの加減で
ご希望があれば
途中でもおっしゃって
下さい」
こうして私は由佳子から聞いた
剛田さんの整体を見事受ける事に
成功し剛田さんの指圧が始まって
いった。
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