第8章 三つ巴 46話 銀獣散る・・・悲しき走馬灯
幾何学的な模様で美しく敷きならべられていた煉瓦の駐車場はところどころ表面にヒビが入り、ひどいところに至っては砕け散り歩くのは困難なほどだ。
先ほどまで、LEDの灯りで周囲を照らしていた見事な南欧風石柱の灯篭は腰高付近から、砕け倒れてしまっている。
剪定の行き届いていた植栽達は枝から折られ、シンボルツリーとしてあったクスノキに至っては、幹の上部は斑に焦げた模様があり、また幹の背丈ほどの部分には中世西洋の攻城兵器のバリスタの矢でも打ち込まれたかのような穴が空いている。
色とりどりの可愛い小さな花を満開にさせていた花壇は無残に踏み荒らされ見る影もない。
今やスタジオ野口の入口正面付近の駐車場とアプローチは当初の美観は損なわれ、まるで廃墟の様相である。
そんな中、乱れた呼吸を整えようと細身の黒い影が極力大きく息を吸い込み吐き出す。
銀獣から受けた左右連続の猛烈な横鉤突きで抉られた腹部を、やせ我慢で何とかやり過ごそうとするが、激痛で上半身を前かがみにしてしまいそうになる。
しかし、黒い影の人物張慈円は喉奥からこみ上げる血液交じりの苦い液体を吐き捨て、痛みを無視するように胸を張り、自分自身とここまで戦える女を心中で感嘆する。
しかしそれを表情には出さず煉瓦の床に、色素の薄い髪の毛を乱れるままにしてうつ伏せで呻いている女に向かって放つ。
「・・・ふん・・女狐が・・。手こずらせおって」
地面に這いつくばり何とか身を起こそうとしている銀獣こと稲垣加奈子は、いまだ闘志の宿る目で張慈円を睨み上げてくるが、その顔には裂傷による出血と、吐血で血にまみれており、ダメージが深刻なのは見るからに明らかである。
よろよろと、ようやく立ち上がった銀獣であったが、左手で右肩を抑えており痛みにその美しい顔を苦痛に歪ませている。
「・・支社長をおいて・・こ、こんなところでやられるわけには・・」
ゼエゼエと荒い呼吸で肩を揺らし、独り言を呟いた銀獣はカッと目を見開くと、肩を押さえていた左手に力を込める。
ゴキリという生々しい音が妙に響き、銀獣は更に苦悶の表情を濃くして小さく悲鳴を上げた。
どうやら脱臼した肩を無理やり入れたようだ。
白銀色に輝き逆立っていた髪の毛は、最早輝きを失い。色素の薄い髪の毛は汗でしっとりと濡れ、肩で息をしている加奈子の額に張り付いている。
オーラはもうない。
130%ほどオーラ出力で戦っていたのだが、パワーやスピードで張慈円を圧倒できた為、それ以上の力を使わずに戦った結果、戦闘巧者の張慈円に翻弄され徐々にペースを乱されていたのだ。
最初の不意打ちで受けた張慈円渾身の崩拳もまずかった。
井川栄一や南川沙織と連戦を重ねてきた加奈子では、ほぼ全快している張慈円と対等に相対すること適わず最初から無茶であったのだ。
全力になる150%の開放オーラ残量もなく、徐々に体力を奪われこの有様である。
オーラを使わず肉体のみで張慈円と戦うのは無謀すぎるが、ほかに手はない加奈子は痛みで軋む身体に鞭を打ち、構え張慈円を睨に顎をしゃくって張慈円を挑発する。
「くくく・・やはりな・・。貴様のような奴はもはや勝ち目がないと分かってもそうくるものだと分かっていたぞ。そうでなくてはな!・・・それでこそ貴様のような女でも楽しめるというものだ!生意気を抜かしたツケを払わせてやるぞ!」
張慈円は満身創痍の加奈子を観察し愉快そうにそう言うと、間合いを詰める。
牽制してくる加奈子の左ジャブを、左手でいなし半身で躱すと同時に、がら空きの腹部に右肘をめり込ませ、衝撃で前かがみになった加奈子の右頭部の髪の毛ごと掴むと、そのまま身体を開き加奈子を地面に再び叩きつける。
「ぐふぅ!」
空中で一回転させられて背中を地面に強打させられてしまった加奈子は、痛みで悲鳴を上げる。
すぐに目を開けるも、当然窮地のままであり目の前には不気味に笑う張慈円の顔が間近にある。
張慈円は加奈子の左手を掴んだまま手首を直角に折り曲げて体重をかけ、加奈子の手首と肘、そして肩の3点を同時にキメる。
「あっ!くぅ!・・っ!っっっっ~~!!!」
「くくくくく!いい表情だ!もっと叫んでもよいのだぞ?!」
苦痛に歪む加奈子の顔を歪んだ笑顔で堪能しながら張慈円は言い放つ。
「っ~~!!んんんんん!」
せめて悲鳴をあげまいと下唇に歯を立てて声を我慢している加奈子の顔を見ながら張慈円は興奮で下腹部が膨張してくるのを感じていた。
「くくくくく・・いいぞ。いい顔だ!どうだ?稲垣!・・貴様のような女でも楽しみ方はあると言った意味が解ったか?!」
痛みでそれどころではない加奈子は何とか逃れようと、両足を回転させ張慈円の頭を狙う。
しかし、それを予期していた張慈円はあっさり蹴りを躱し、加奈子を開放すると、今度はその脚を掴んで捻り加奈子をうつ伏せにする。
加奈子の両脚首をキメたまま加奈子の腰の上に勢いよく座ると同時に、張慈円は身体をのけ反らし加奈子の足の裏が加奈子の肩に付くほど引き上げる。
所謂、逆エビ固め、ボストンクラブというプロレス技のような見た目で、それをより厳しく逸らした格好である。
「ああああああ!!や、やめろお~っ!!あぐう!」
「・・・これでは貴様の表情が楽しめんな」
激痛でのたうつ加奈子の発言を無視して、少しでも痛みを和らげようと上体を逸らしている加奈子の髪の毛を、加奈子の両足をキメていた右手で器用に掴むと張慈円の手首に巻き付けた。
「っっ~!!~~っ!!!!っ!かはっ!!~~っ!!」
「これでよい」
更に身体を逸らせた状態にされた加奈子は悲鳴らしい悲鳴を上げることもできず、苦痛に歪む顔をすぐ間近で張慈円がニタニタした表情で観察している。
立ち技と違い寝技や関節技は双方の技術の優劣が現れやすい。
そしてその差は致命的な結果となる。
立ち技で敵わない場合は最悪逃げるという手が残されているが、寝技や関節技で相対する敵に及ばない場合はそういう訳にはいかないのだ。
それに今の香奈子はオーラもなく身体へのダメージも深刻で、とてもまともに戦えるような状態ではない。しかし、張慈円は解っていて加奈子にとどめを刺さず悲鳴をあげさせ苦悶の表情を楽しんでいるのだ。
加奈子の髪の毛を巻き付け引き絞り、足首にしっかり括り付け、セルフボストンクラブの格好で固定してしまう。
その態勢でひとしきり憐れな格好の加奈子を足蹴にして甚振ると、楕円形の形に逆エビぞりで固定されている加奈子の右腕を掴む。
「くくく・・。こちらの腕は先ほど脱臼したほうだな?・・・どれ」
張慈円が薄笑いを浮かべながら無常に手首を捻りあげるとコキッと乾いた音がして加奈子の右肩が再び脱臼する。
「きゃあああああ!・・・ああああっ!!っ~~!・・・張慈円~~!!・・さっさと殺りなさいよ!!なんなのよ!!?」
「くははははは!痛かろう?!・・・さあこちらの腕もだ」
「や、やめ!やめて!もう嫌!!やだヤダヤダ!!やだ!!やだああああぁぁぁぁ!!!」
逃れようともがく加奈子の左腕を掴み、右腕と同様に加奈子の背面で左腕をキメて左肩を外す。
「ああああ!うううぅ!こ、こんなことして!ただで済むとおもって・・ああああああっくぅ!!」
脂汗をびっしょりとかいて悪態を口にし出した加奈子を無視して、張慈円が加奈子の右手の小指を、加奈子の手の甲の側へ一気に折り曲げたのだ。
「何か言ったか?俺の聞き違いか?んん?」
加奈子の脇に座りこみ加奈子の形の良いヒップを特殊スーツ越しにパチンと叩きつつ、張慈円がわざととぼけたようなセリフを楕円形に逆エビぞりの形に固定された加奈子に投げかける。
「このおおお!張慈円~~!!許さない!絶対許さないわよ!!」
「まだ9本あるな・・」
「な、何言って・・・!!く・・っくっそーーー!・・・きゃゃああああああ!!」
加奈子のセリフを無視して張慈円は加奈子の右手の薬指をへし折ったのだ。
「魔眼の小娘はまだ生きているのか?どうなのだ?」
「ああああっ!・・うう!・・この!!このっ!殺す!」
質問に答えず、痛みで悶絶しながらも罵る加奈子の中指が、張慈円によって容赦なく折られる。
「あああっ!!くぅ!!つぅ・・っくはっ・・!!」
加奈子の右肩は脱臼しているうえ右腕の上には張慈円の尻に敷かれている。
左腕も脱臼させられており、反対側にいる張慈円には届かないし、まともに動かすこともできない。
「くくく、さっさと言わんから痛い思いをするのだ」
「し、支社長が死ぬわけないでしょうが!」
厳しく身体を逸らされ顎をあげさせられた格好でも、加奈子は張慈円を横目で睨みながら痛みに耐えつつ毅然と言い放つ。
「そうだ。その調子だ。素直であれば痛い思いはしなくても済むぞ?それにしても、やはり死んではいないのか・・。それはそれで・・ふむ・・」
張慈円の妙な冷静なセリフを聞き、ハッとした表情になった加奈子は口を真一文字に噤んで歯を食いしばり、目を閉じた。
「ん?どうした・・?そうか・・なるほど。魔眼に義理立てしようというのだな?」
折った加奈子の小指、薬指、中指をグリグリと甚振りながら、張慈円がさも愉快そうに仰け反ったの加奈子を覗き込むように聞いてくる。
「・・・・黙れ・・!一瞬でもあんたのことを支社長に許してもらって、使えないかと進言しようと思った自分を全力で後悔してる。死ぬほど反省してるだけよ!・・それより、さっさと私のこと殺した方がいいわよ?今回偶然私に勝てたからって次は無いわ!」
オーラもなくなり、絶体絶命の加奈子であったが、カッと見開いた目には強い意思があり、張慈円を睨みながらはっきりと言い放つ。
「くくく、しかし、その格好では何を言っても滑稽にみえてしまうな」
逆エビぞりの格好で凄んだ加奈子は赤面させたが、その顔を隠すこともできず悔しそうに張慈円を睨む目に力を込めギリギリと歯を噛みしめる。
折られた指、脱臼させられた肩などが痛すぎてどこがどう痛いのか加奈子はもうよくわからなくなっていた。
「・・魔眼の能力にはどういうものがある?恐慌と眼光と言ったな?ほかにはどういうモノがあるのだ?弱点はないのか?」
加奈子の羞恥や痛みを他所に張慈円は質問を続ける。
「張慈円・・あんたのデカいんでしょ?・・・自分で自分のをしゃぶってれば!?・・っひぎぃ!!」
ぼきぃ!と生々しい音とともに付け根から折られた加奈子の右手の親指はあり得ない方向まで開き、開いたまま戻らなくなった。
「聞いたこと以外のおしゃべりは禁止だ。二度言わんぞ?」
仰け反らされたままの加奈子は痛みで悲鳴を上げまいと歯を食いしばりぶるぶると小刻みに震えている。
「魔眼の弱点はなんだ?」
「・・・・・・死ね!クズ野郎!」
ぼきぃ!ばきっ!
「あああ!うぐう!っ~・・・!!はぁはぁ!っ~~っ!!」
加奈子の人差指は第二間接後逆に曲げられ、その直後根本を更に手の甲にくっつけるようにして強引に倒されたのだ。
今は加奈子の右手の指は全てが折られ、指はあちこちな方向に不気味に折れ曲がり広がったままでいる。
「くくくく・・。いい声を上げるではないか。もっと楽しみたいが・・ここではな・・・。しかし、その目つきはいただけんな。・・・態度を改めんともっと厳しい責めになるぞ?・・言え!・・・あの宮川の小娘、魔眼の弱点を言うのだ。視界に入るだけで危険と言わしめるあの目で出来ることを洗いざらい話せ。」
張慈円は真一文字に口を噤み睨み上げてくる加奈子の視線を見据えながら、言い聞かせるようにゆっくりと問いかける。
張慈円は加奈子の顔を右手で掴み、掴んだ手の親指を加奈子の左目に宛がった。
言葉はないが口を割らないと次は目だ。と言っているのは加奈子にも伝わったが、加奈子の表情は変わらず張慈円に答える。
「・・魔眼に弱点なんかないわ!知ってても絶対に言うもんですか!それより【恐慌】の味はどうだった?!後遺症があるでしょう?夢でうなされたりしてない?暗がりが怖くなったでしょう?」
張慈円と目を合わせたまま加奈子は挑発し、張慈円の反応を探る。
「あははははは!ざまあみろだわ!うなされてよく眠れないんでしょ?!夜一人でトイレに行けなくなっちゃった?」
張慈円の表情がわずかに曇り、目を吊り上げたのを加奈子は見逃さず、声を上げて嗤う。
ずぶっ!
「あぐっ!」
「二度は言わんと言わなかったか?」
加奈子の左目に張地円の親指が突き刺され、加奈子の視界の左半分が真っ赤になり温かい液体がほほを伝う。
「貴様はここで殺すつもりであったが、気が変わった。もっと体に聞いてやる」
のけぞった格好で視界は半分に減り、痛みで脳がジンジンと響くが、張慈円のセリフは聞こえていた。
加奈子は右目だけを動かし確認すると、張慈円はスマホを取り出し中国語で連絡をしだしている。
中国語はほとんどわからないが、おそらく加奈子自身を拷問するために連れ帰ろうと部下に連絡しているのだと察した加奈子は覚悟を決めた。
(万事休す・・・か・・。ぶん殴りたくっても拳が握れないや・・・左目ももう・・)
右手を握ろうとするが全く動いてくれない。少しでも動かそうとするといろんなところに激痛が走った。激痛を堪え機能してない左目の眼球を意識して動かそうとしてみるも、動いている感触はあるのだが視界の半分はやはり失われたままだ。
痛みで頭がガンガンする。まだまともに頭が働いているうちにと加奈子は、張慈円がスマホでの会話に集中していることを確認する。
(私が捕まってしまったら重要な情報を敵に知られすぎてしまうわ。口を割らなくっても、そういう能力者がいたらと思うと・・。支社長・・ごめんなさい。生涯支社長の剣であり盾になると誓ってたんだけど・・。真理、あとはお願いね・・)
加奈子はのけ反った格好で舌をできるだけ突き出し、恐怖で一瞬だけ躊躇したが意を決して思い切り歯を食いしばった。
激痛が走り、口の中が暖かい液体で満たされ、脳をつく甘い匂いが口中に充満すると同時に、その液体によって呼吸が妨げられる。
「ごぼっ!!がっ!ごぼぼっ!」
涙と血で視界がよく見えない。生命活動を停止しようとしているためか、すぐ隣で張慈円が何かを叫んでいるがよく聞き取れない。
体中の感覚が鈍いのか、痛みが引いていく。息が苦しい。右目もよく見えなくなってきた。張慈円が何か口走りながら頬を掴んで口に指を突っ込んでくるのが煩わしいが、手足も動かせず成すがままだ。
でも口に指を突っ込まれているはずなのに触られている感覚も遠のいていく。
今度は寒い。暗い。怖い・・。
~~~~~~
・・・これは夢?
「宮川佐恵子と言いますわ。日本は初めてで慣れませんの。よろしくお願いいたしますわ」
「およしなさい!わたくしの目の前で弱い者いじめは許しませんわ!」
「あなたも泣かないで・・。あなたは純粋で優しいだけよ」
「わたくしの家もこちらですの。稲垣・・加奈子さん?一緒に帰りましょう?」
「稲垣さん・・!あなたすごい力ね!こんなの誰にも真似できないわ・・!」
「お父様!ご紹介させてください。こちらは稲垣加奈子さん。私の日本での初めてできたお友達ですの。すごく力が強いですのよ?ほら!知恵の輪がこんなに・・!こんな解き方思いつきませんでしたわ!」
「ご両親は毎晩お仕事で夜遅くまで帰ってらっしゃらなくて加奈子さんはいつも一人で待ってるそうですの。わたくしとここでお稽古やお勉強して過ごしてもいいかしら・・・?・・・ありがとうお父様!大好き!」
これは・・・ジュニアスクールの時・・・?
支社長が転校してきたときだわ・・。
くすっ・・。支社長・・いまと全然変わらないですね・・・。
私の両親が無理して見栄で入学させてくれたインターナショナルスクール・・支社長が転校してくるまでは地獄だったわね・・。
周りはお金持ちばかり・・。古びた服や靴を着せられているのに、人一倍身体も大きくって、胸の発育もはやくて目立っていた私は10歳になるころから周りに虐められてた・・・。
2個上の緋村紅音のグループの子たちにちょっかい出されてよく泣いて帰ってたっけ・・。
そんな時、すごいお金持ちが来るって噂が流れて支社長が転入して来たのよね・・。
驚いちゃった・・。あんなに大勢の取り巻きがいる緋村紅音に転校初日から毅然と立ち向うんだもん・・。
あれから私の人生変わったんだと思う・・。
「会長。そんなことは私がやりますから!」
「ふふ、大丈夫よ加奈子。これも生徒会長たる者の職務ですわ。造作もないことです 」
「だけど・・生徒会活動の他に文化祭と体育祭、それに広報業務までしてたら来月の模試に響いちゃいます!」
「加奈子・・。そんなのこなすのは当然だわ。私は宮川なのよ・・・。普通の学生とは違いますの。加奈子、あなたは無理しなくてもいいのよ?」
「そんなことありません!私にだってできます!」
「・・そう?・・さすが加奈子ね」
ジュニアハイスクールに上がってから支社長は血が目覚めたのか、12歳で生徒会長に立候補して当選しちゃったんだよね。
そうそう・・紅音のやつが僅差で負けて地団駄踏んでたわね・・。
支社長の自宅で私も同じように習い事させてもらってたけど、支社長はどんどん人の上に立つようになっていっちゃったんだよね。
なんでもこなしちゃうんだもん・・。置いていかれないようにいつも必死だった・・。
でも、それが嬉しくて支社長がそういう立場になるのが自然で当たり前だと思ってたし、今でもそう・・。
「そうよ加奈子!その調子!思念が身体を纏ってるわ!そのまま維持して!・・・すごいわ!かなりのオーラ量よ!これであなたもオーラを使えるようになるわ!」
10歳からという思念開発としては遅すぎるスタートを切った私でも15歳のときになんとか脳領域の開放ができた。
支社長、自分のことのように喜んでくれたっけ・・。
支社長の一族が魔眼と呼ばれる眼力瞳術の遺伝一族で、思念波と呼ばれる力を操り財界や政界に大きく影響力を持ってると分かり出したのは私の能力が開花してから・・。
支社長のお父様に呼ばれてお話されたっけ・・・。
思念のこと、宮川家のこと、かいつまんでた部分もあるけど、当時の私によくわかるように丁寧に説明してくれた・・。
「加奈子ちゃん。うちの佐恵子をよろしく頼むよ。佐恵子は大人になるにつれて敵も多くなる。これは避けられないことなんだ。そんなとき加奈子ちゃんみたいな良い子が佐恵子の側にいてくれたらおじさんは安心だよ」
宮川昭仁会長はそう言って私の手を両手で握って言ってくれたの。
その時から、私は宮川家の為に、いえ・・支社長の為に生きようと思ったんだわ・・。
「あんたたち!会長を襲おうなんて身の程知らずもいいとこね!」
「加奈子。それぐらいでいいわ。次またわたくしたちに、危害を加えるようなことを企てる気概などなさそうですからね」
普段の尊大な態度と、清廉だけど強引な方策を推し進める生徒会長宮川佐恵子はハイスクールになっても健在で、少数派の意見を汲み取らない独裁会長と呼ばれ、校舎の内外でもよく襲われたっけ・・・。
前代未聞の6年間生徒会長を務めた長期政権で、あの学校の伝説として残ってるもんね・・。
「少数派の意見・・・?そういうの意見じゃありませんわ。クラスに1人ぐらいどうしたって変なのがいるでしょう?それよ。そんなの少数意見じゃないわ。頭のおかしい考えってこと。検討に値しないわ」
「会長・・またばっさりですね。・・・まあ・・、もうすこしオブラートに包むべきじゃないかと・・」
「あんな〇産党みたいなこと言われても相手にできませんわ。言ってる本人にもメリットは無いし、一体全体どういうつもりですの?理解できませんわ」
「も、もう会長は黙っててください!私たちが対処しておきますから!」
ハイスクールの時は本当に色々あった・・。
会長も女としてすごく綺麗になってきたし・・、まあ美貌やスタイルに関して言えば加奈子ちゃんのほうが一歩リード・・いえ二歩リードしてるとはいえ、お金持ちで成績優秀な美人の生徒会長は、いい意味でも悪い意味でもイベント発生源だったもんね・・。
「加奈子。わたくし宮川系列の経済流通大学に進学いたしますわ。・・・加奈子はどうするの?」
「今更ですよ~会長。もちろん私も行きますってば!ていうか、そんなの愚問です」
「そう・・ありがとう。加奈子がいてくれたら心強いわ。でも加奈子の偏差値ならもっと良い所あるわ。本当にいいの?難なくいけるでしょう?」
「だから~愚問ですってばぁ。それにそれを言うなら支社長だっていろんな選択肢あるじゃないですか」
「わたくしは・・そこがわたくしにとって都合がいいだけですわ。わたくしは運命から外れられないし、わたくし自身そんなつもりもないけど、加奈子・・・あなたはこれ以上わたくしに着いてきたら引き返せなくなってしまうわ。・・・本当にいいの?宮川に・・私のところにずっといてくれるって言うの?」
「・・・愚問ですってば。私んちみたいな貧乏な家でこんな英才教育コース通ってこれなかったし、会長に会えたのだってすごい感謝してるんです」
「・・そんなのはいいのよ。加奈子の本当の意思で決めてもらいたいの」
「何度も言わせないでください。それに会長・・見えてるんでしょ?私のオーラや感情」
「・・そうだけど、揺さぶれば変わる人もいるわ。大勢ね・・。」
「私は変わらなかったでしょ?」
「・・ええ、もう聞かないわ。行くわよ加奈子」
「はーい」
「・・ありがとう」
「え?何か言いました?」
「何も言ってないわよ」
大学に入って支社長はハイスクールの時より大人しくなったけど、性格はもちろん相変わらずで周囲を振り回してた・・。
支社長が学校理事長を兼ねている宮川昭仁会長の娘だということは伏せられていたから、比較的平和に過ごせたというのもあるけど、支社長はどこにいててもやっぱり支社長だったよね・・。
あんまり話してくれなかったけど、支社長一度だけ男の人とお付き合いしてすぐ別れちゃったよね。
「わたくし・・なんでも上手くできる・・だなんて思いあがってましたわ・・」
支社長のあんな顔見るの初めてで、わたしも心が締め付けられたの覚えてる。
・・・そう言えば、豊島さん支社長と上手くやっていってくれるかしら・・。
モゲって呼ばれてるギャンブル依存症の男と仲が良いみたいだから、ちょっと要注意よね・・。
しっかり見張っておかなきゃ・・。
大学在学中に私たちは専攻の経済学の単位はもちろん法学や語学、情報処理の単位も、宮川家の計らいでどんどん取得していかされたよね・・。
死ぬほどハードだったけど、世の中ってこんなに学べることが多いんだってわかって、まだまだだなと思い知らされたっけ・・。
あれだけストイックに勉学に励んでるのに一日3時間のトレーニングも・・。
でもそのおかげで大学2年あたりのころから組手で支社長にほとんど負けなくなったのよね。
支社長は喜んでもくれたけど、すごい悔しかったみたいで、あれから毎日内緒で特訓してましたよね・・。
でも私は支社長に勝てるようになってすごい嬉しかった。
だって、これで支社長が自分で勝てない敵が現れた時、私の出番ってことだもんね。
卒業旅行は2週間海外いろんなところ行きましたよね・・。
常夏の島でビキニではしゃいだり、でもその二日後には北米のロッキー山脈でスキーを楽しんで汗を流して、極寒のアラスカの露天風呂で背中洗いあいましたよね。
こんな美女二人が歩いてるんだもん。ナンパもいっぱいされたけど、支社長の男性に対して冷たいこと・・。
もう男はこりごりって暫く支社長の口癖でしたよね。
卒業旅行から帰ってきてすぐに宮川コーポレーションの研修が始まって、そこで初めて真理と出会ったんだよね・・。
「・・加奈子。あの子。ほら、黒髪ボブのあの子」
「あの子がどうかしたんですか?」
「只者じゃないわ。加奈子は何か感じない?」
「うーん・・。私ほどじゃないにしてもまあまあの美女ってところですね。・・とまあ、冗談はさておき・・あの子強いですよ。体幹がしっかりしてるし隙が無い。・・・かなりの使い手だと思います」
「そう・・。加奈子がそう言うなら相当腕が立つんでしょうね・・。でもそれだけじゃないわ」
「というと?」
「あの子、能力者だわ」
「・・また霊感商法や新興宗教家とか?」
「いいえ、私達が学生の時に潰してきたような人達とは違う。そんなチャチなオーラじゃないわ。私たちと遜色ない量と力強さよ・・」
「えっ!そんなのって・・あの子警戒しておきます」
「ええ・・お願い。スパイや敵だったりした時は頼りにしてるわ」
真理は研修の時から目立ってわね。いままで私達の周りには佐恵子さんや私以上に目立つ人がいなかったから、ああいうの初めての感覚だった。
温和で清楚、美人で頭脳明晰・・。
非の打ちどころがないっていうのは真理の為にある言葉ね・・。
・・・親しくなればそのうち真理しゃんの天然ぶりと、真っ黒い部分が見えてくるんだけど・・。
でもそんなこと言ったら、あの僕っ子にすごい良い笑顔で仕返しされる・・。
「神田川真理と申します。よろしくお願いしますね。宮川さんに稲垣さん・・。お二人ともすごくお綺麗で皆さんの目を引いてましたよ。それに、もしかして宮川さんって・・苗字が同じだけど・・宮川コーポレーションの宮川さんとご関係が・・?」
「ええ、ありますわ。今の社長は私の叔父様ですの」
「ちょ、佐恵子さん!そんなあっさりバラしちゃっていいんですか?」
「いいのよ。内緒にしててくださる?・・神田川・・真理さん?」
「え、ええ・・」
「それより神田川さん。その力はどうやって身につけたのです?・・・わたくしあなたにすっごく興味ありますの」
「え?えっと・・、もう集合時間に遅れちゃいますよ?・・急ぎますのでまた後程・・」
あの時からしばらく真理は支社長のことすっごく警戒してたなぁ・・。
でも研修の最終日に地震が起きて・・、真理が予知能力で地震を察知してみんなで避難させてくれたっけ・・。
それで支社長と私で真理を問い詰めたんだよね・・・。
出会った時はあんなにぎくしゃくしてて、支社長のアプローチに、何年も冷たかったのに今だと真理もすっかり支社長を信頼してくれてる。
あれ・・・?
これって世間でよく言うあれなの・・・・?
昔のことこんなに思い出すなんて・・・・・。
走馬燈・・?・・・覚悟はしてたはずなのに、やっぱやだなぁ・・・。
【第8章 三つ巴 46話 銀獣散る・・・悲しき走馬灯 終わり】47話へ続く
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私がこよなく愛する加奈子ちゃんが壊されました。
(T_T)
駄目だぁ~悲し過ぎる。。。
加奈子が少し痛い目にあっちゃいました^^;
今後の展開はネタバレになるのでお伝えできないですが、
こんな感じになっちゃいましたが、是非楽しみに加奈子を
今後も応援頂ければと思います^^
今後とも是非よろしくお願い致します。