第9章 歪と失脚からの脱出 14話 猫柳美琴と菊一三銃士
シャワーで濡れていた髪も乾き、ジャケットの袖を通したところで扉がノックされた。
「いいわ。入って」
紅音は扉の方を見ずに姿鏡に映った自身の身だしなみを整えながらそう言うと、スーツ姿の大柄で長髪の男が入ってきた。
確認せず入室の許可を出したのは、この部屋まで来れるのは限られた人間だけだということを紅音は知っているからだ。
支社長室はめちゃめちゃに荒れてしまっているので、紅音は15階にあるスイートルームの一室を借り切っていた。
入ってきた男は鏡に向かい、身だしなみを整えている赤毛の背中に声をかけた。
「今日は災難だったな」
「・・来るのが遅い。まんまと逃げられちゃったじゃない」
紅音は鏡の方を向いたまま振り返りもせず、顔の火傷が完治していることを確認するように真紅の前髪をかき上げつつ、ブラシで髪を梳いている。
大柄で長髪の男、丸岳貴司は紅音の声色にすこし非難が含まれていることを察し、素直に「すまなかった」と低い声でこたえた。
紅蓮と恐れられる紅音と、敬語で話をしなくてもいい数少ない人物がこの丸岳貴司であった。
かつて肌を何度か重ね情事を貪り合ったことがある二人だが、近年その機会は全くなくなっている。
しかし、その信頼関係は損なわれているわけではない。
現在宮川誠の愛人としておさまっている緋村紅音に手を出すわけにはいかないのだ。
入社当初とは違い、二人を取り巻く状況は大きく変わっている。
丸岳は密かに紅音とよりを戻したいとは思っているが、それは紅音の性格を考えると無理だと分かっているので口には出さずにいる。
かつてそういう仲であったことも、最早誰にも知られるわけにもいかない。
社長の宮川誠に知られれば、紅音や丸岳にとって良いことは何一つないからだ。
「北王子公麿・・・っ」
丸岳の胸中を他所に、身だしなみを整え終わった紅音が姿鏡を見ながらふいに口にした人物には、丸岳はもちろん知っていた。
元菊一事務所のメンバーで、たしかメガネをかけたインテリ風の男だ。
かなり変わったところがあると噂は聞いているが、上層部からオーダーされている仕事の出来もいいし、丸岳が懇意にしている女子社員数人からの情報では、女子社員の間ではかなり人気もあるらしい。
たしかに、男である丸岳からみても、自分とジャンルこそ違えど、ルックスに関して言えばイケメンな部類に入るように思う。
今はああいうのが人気あるのか、俳優の星野源をもう少し細くしたようなとても戦いに向いているとは思えない風貌のイメージがる。
ただ、それは北王子に限らず、突然入社した元菊一メンバーたちはあらゆる人達からその特異な才や存在感から注目が集まっているし、菊沢宏、豊島哲司なども本人不在のまま、今は女子社員の中では噂の渦中の人である。
特に独身であるらしい豊島哲司と北王子公麿には宮コーの女子社員は興味津々の様子だ。
しかし、菊一のメンバーには既婚者も結構いるのだが、それでもおかまいなしなのはここ最近の時勢ともいえる。
逆に男子社員からは、菊沢美佳帆、伊芸千尋、斎藤雪、斎藤アリサ、今は行方不明となっている寺野麗華の美女たちのことが、少ない情報に尾ひれがつき囁かれている。
悲しい余談だが、三出光春と言われるニコラスケイジ風の濃い顔の男は、女子社員からの人気は低いらしいが、その原因は彼の禿げあがった頭髪から代表される風貌が原因ではなく、彼自身が持つ隠すこともしないだらしないオーラを充満させているからに他ならない。
女子社員の噂話は時として大いに役立つが、丸岳にとって彼らの容姿より、警戒すべきは、彼らが一流の能力者であるが、まったく能力が不明であるということだ。
是非とも味方に引き込んでおきたいものであるが、町探偵などをやっていた者達である。
紅音は彼らを何とか傘下に置きたがっていたが、丸岳はおそらく束縛を嫌う連中の集まりだという見当をつけており、当初から難しいとは思っていた。
全員能力者と聞いているが、能力の種類やオーラ量など詳しいことはわからない。菊沢宏がメンバーのそれを公にはしていないからだ。
能力者が自身の能力を明かしたがらないのは当然なのだが、彼らがすでに入社して3か月、能力を探る様に仕事を与えているが、いまだ芳しい成果は上がっていない。
先ほど現場からの報告では紅音は真理、加奈子に加えてそいつとも戦ったらしいと聞いている。
姿鏡に映る紅音の美しい顔は邪悪な笑みが張り付いていたため、丸岳は紅音の希望についておおよその予想は出来ていたのだが、念のため聞いてみた。
「その北王子がどうかしたのか?」
「あいつだけは必ず私の手で殺すから」
「そうか・・。すでにそういうつもりだったはずだが、わざわざ口にすると言うことはよっぽどむかついたんだな?」
紅音のセリフに丸岳は短く答えた。
「ええ!あいつはレアに焙ってからゆっくり殺してあげようと思ってるの。・・でも、のこりの奴等も予定通りよ」
「けっこうな予算と根回しが必要だったしな・・。紅音の思惑通り一石三鳥となればよいが・・。・・奴らはもうそろそろ集まるはずだ。先に美琴のやつに待機させているんだが、中止ではないんだろ?」
丸岳は以前から企てていた作戦開始のため紅音を呼びに来たのだった。
「そうね・・。思わぬ展開で真理や加奈子と戦うことになって慌てたけど、予定通り彼らには行ってもらうわ」
「それはよかった。いまからキャンセルされたのでは言い訳が思いつかんところだった」
「ええ」
紅音の同意の返答に、言い訳を考えなくてもよくなった丸岳は軽く笑みを漏らし安堵しているように見えた。
「ところであの神田川と稲垣、それとその北王子とういやつ、戦ってどうだった?・・いや、すまん。宮川十指の二人がいたとしても紅蓮相手ではどうにもならんな・・」
今後の参考までにと思い、丸岳は思い出したかのように振り返り紅音に声を掛ける。
「・・そうでもないわ。逃げられてしまったから苦戦した・・ってこと。転生炎も使わざるを得ないほど攻撃も受けたわ」
「まさか。そ、そんなにか?・・紅音が自己回復をしているところなんて俺でも見たことないぞ?」
いつも尊大な紅音がそういうセリフを言う意外さに驚いた丸岳は、自己回復技能を使わせるまで紅音を追い詰めた3人を軽く見ていたと驚く。
「・・北王子公麿というクソメガネ野郎が私の能力の発現を阻害する能力を持っているわ。だからとっとと殺すの。総出で捜索してちょうだい。数で掛かられると面倒。それにクソ加奈子が魔眼を持ってる。片目だけのようだけどね」
紅音の脳裏に北王子の最後っ屁で味あわされた屈辱が思い出され、すでにおさまった陰核が僅かに反応するが、同時に憎悪が胸を焼き、その沸き上がったわずかな快感をギリッと音をさせて歯をかみ合わせることで打ち消した。
「なに?北王子は炎の発現を阻害するのか?あいつは戦えんと聞いたから今回の作戦には入れなかったのだが?・・入れるべきだったか・・。それに稲垣が魔眼だと!?しかし、北王子でそのレベルだと言う事は、我々は菊一の奴らの力を見誤っていたかも知れないな・・・」
紅音の炎能力を阻害する北王子の力にも驚いたが、稲垣加奈子が魔眼能力を使うということにもっと驚いて呻いた。
魔眼を使える人間が増えるとなるとは由々しき事態だ。
オリジナルの方の宮川佐恵子の方も魔眼は使えるままなのか、それとも稲垣加奈子だけがつかえるのか、まさか二人とも使えるのか。
丸岳は事態の大きさに眉を顰めその端正な表情を曇らせた。
魔眼の威力はそれほど脅威なのだ。以前の力を持つ宮川佐恵子が眼力瞳術を発動すればみな震えあがったものだ。
オーラを色で識別され心中思っていることを知られてしまうのだ。
思考や忠誠心を計られ、佐恵子がその気になれば抗うのが難しい力強さで屈服させられてしまう。
抵抗力の弱い者に対しては手を触れずに死を与える技能すらあると聞く。
それは能力値で佐恵子に劣るもの全ての宿命であり、逃れえない災難であった。
しかし今は佐恵子が何らかの理由でオーラ量が減り、力を前ほど使えなくなったため、宮コーでは今や紅音の派閥が大いに膨らんでいる。
稲垣加奈子が、もし魔眼持ちとなるとそういった日和見主義な連中たちが、また浮足立つに違いなかった。
「七光りのところにも松前さんと紅露さんに行ってもらったわ。・・聞きたいことが山ほどできたからね」
「そうか・・・、いまのあの人相手になら二人で行けば絡めとれるだろう。しかし力を失っていたとしても、あの人がおとなしくしゃべるとは思えんが・・」
いまの宮川佐恵子なら松前や紅露の二人で行けば、どうにでもなるだろうとは思うが、さすがに一族直系の令嬢に手荒な真似をするわけにもいかない。
丸岳が宮川佐恵子のことをあの人と呼んでしまうのは、潜在的にまだ彼女のことを怖れているからである。
それに、慇懃に質問して、はたしてあの尊大なお嬢様が大人しく聞きたいことを言ってくれるとはとても思えなかった。
「聞き方なんていくらでもあるでしょう?・・オーラも少なくて魔眼のないあいつなんて雑魚能力者よ。おまけに社長もあいつのこと毛嫌いされているようだし、多少荒っぽくやってもいいんじゃないかしら?・・・冗談よ。ただ聞くだけ。聞いておかないとね。加奈子も恐慌を使ったのよ。由々しき事態だわ。事の真相を確かめてから本社に報告するから、丸岳君はまだ秘密にしててよね。丸岳君にしかまだ話してないんだから」
紅音が佐恵子を毛嫌いしているのは昔からなのだが、大局を見ると現時点で、宮川佐恵子をどうこうしてしまうのは、色々面倒は多そうであった。
荒っぽい手段を取りたい紅音は、言いかけて途中からまだ無理だと判断したようで、肩を竦め、首を振りながらそういった。
紅音も少し穏便に済ませざるをえないと思ったのを察した丸岳は、その件について考えるのは後回しにして、今に集中することにした。
「俺だけに言ってくれるとは光栄だな。しかし恐慌か・・。それは確かに由々しき事態だ。それを耐えたお前もさすがだと言わざるを得ないがな。・・・紅音。まだ、昭仁会長を支持する人も多い。手荒になりすぎん方がいいと思うのだが・・まあ、その匙加減は俺にはわからんし紅音に任せるが・・。さて、そろそろ俺は行く。美琴だけであいつらと一緒にいさせていると碌なことにならんような気がするからな」
「ええ、お願い。私もすぐ向かうわ」
言いたいことの半分以上を飲み込み、そう言う紅音の背に一礼し丸岳は部屋を後にした。
一方、宮川コーポレーション関西支社屋上にある塔屋の一室では、3人の男達と一人の女性が談笑をしていた。
「なんやさっき非常ベルがなったけど大丈夫やったんか?」
「もう鳴り止んどるやないか。テツよ。それよりいまはこの子や。こんな可愛い子を前にして興味示さんのは失礼に値するんやで?なあ?みこにゃん?それで?みこにゃんは幾つなんや?」
「えーっと、今年24にゃん」
「おおー若い!どおりで肌の張り艶がええと思たんや!」
「にゃーん?モゲさん面白い人にゃんですね」
みこにゃんこと猫柳美琴は細い目を更に細めて猫さながらのポーズで右手のこめかみに当てて愛嬌を振りまいている。
チャームポイントの八重歯は右側だけ大きく上唇から少し覗かせているのが、更に猫っぽさを彷彿させる。
細身でしなやかな身体つきだが、案外と身長は高そうで160cmはありそうだ。
宮コーの指定スーツに身を包んでいる美琴は、先ほど自己紹介で今回の作戦のオペレーターを務めると自己紹介をしていた。
(・・・若すぎへんか?・・・大丈夫なんやろか)
きゃっきゃっと、はしゃぐ美琴たちを横目に菊沢宏はサングラス越しに美琴を疑りながら観察していた。
(くそっ・・こういう時あのお嬢様みたいにオーラが見えたらええんやが、無い物ねだりしてもしゃーない。しかし、歩き方や立ち振る舞いからすると、こいつもタダモノやなさそうやな。逆にこの年でこんな仕事任されるちゅうことやと判断しとったほうがええちゅうことか・・。いったい宮コーにはどのぐらい能力者がおるんや・・)
宏が冷静にサングラス越しに美琴を観察していると、美琴と目が合ったが美琴は警戒している様子もなく笑顔と愛嬌を宏にも振りまき続けている。
「この子なら語尾ににゃんがついててもなんか許せてまうな・・不思議や」
哲司もモゲと美琴の会話に合わせてそのようなことを言っている。
15分ほど前に作戦のため集まった菊沢宏、豊島哲司、三出光春はこの塔屋にすでに待機していた宮コー本社から先日着任したばかりのこの猫柳美琴と、特にモゲこと三出光春はすっかり打ち解けていた。
「相変わらずやのう・・。モゲよ・・」
そうモゲに言いながら豊島哲司は心中では不安がさざ波の様に波打っていた。
これから行う潜入捜査のことではない。
作戦実行2時間前までに、モゲと共謀してお互いの彼女を交換して、お互いの彼女に自分たちをアピールする作戦のことだ。
しかし、テツはすっかりその気にさせてしまった千尋と、きっちりあのあと結ばれ、お互い初めての能力者同士でのSEXを体験した二人は、いままで体験したことのない強烈な快感に溺れ、時間ギリギリまで貪り合ってしまっていたのだ。
哲司の心配を他所に、モゲは猫柳美琴という宮コーの女性社員相手に上機嫌でしゃべりまくっている。
「せやねん~みこにゃん。こいつらもなかなかのデカさやけど、デカさは俺やな!俺のが一番や!たぶん日本一やで?!」
アーマースーツが肌にぴちっとはりついているため、股間の膨らみも確認しやすい。
モゲが、がしっ!と自分の股間を手で押さえ美琴に笑顔で猥談を持ちかけているが、美琴もにゃーんと笑い満更でもなさそうである。
(・・・モゲ・・こんな無邪気に・・。モゲは佐恵子さんとはなんも疚しいことなかったんやろな・・。それに引き換え俺は・・、学生時代の憧れのマドンナからあんなに求められたら断られへんやろ・・。しかし、はぁ・・どないしよ。さっきは今度から千尋はモゲの誘いに応じるはずやって太鼓判押してもたけど・・)
哲司は隣で機嫌よくしゃべりまくっているモゲを横目に、草臥れた笑顔で適当に相槌を打つしかできないでいた。
しかし、当のモゲこと三出光春は、哲司の予想に反してきっちり佐恵子のことを犯しまくっていた。
しかも、7年ぶり人生2度目のSEXという、性経験浅い佐恵子にとってはエグすぎる内容のフルコースをお見舞いしていたのだ。
哲司と千尋が時間ギリギリまで繰り広げたようなとろけるような口づけ、甘く熱い濃厚なSEXではなく、心を折るマウンティングだった。
無理やり何度も逝かされ、許しを懇願している佐恵子を縛り力づくで押さえつけ、呪詛を深めるという目的のために、卑猥なオモチャを複数駆使して、日本最大と豪語している肉棒で散々佐恵子にアクメを覚えさせたのだった。
オモチャと自称日本一の棒を使って、二つの穴奥からと、恥骨の上部から拳で子宮を圧迫し、可能な限りあらゆる方向から同時に子宮を潰すようにして責められた佐恵子は、味わったことのない快感で失禁すらし、何度も気を失った。
しかし、快感で気を失っても、絶頂をもって気絶から覚醒させられ、そしてまた気絶させられるという行為を繰り返し味あわされ続け、すっかり従順に躾けられてしまった。
そして最後はやめてほしければ、中に出してくださいと言え!と言いつけられ、力でも振りほどけず、快楽地獄から逃げたい一心で佐恵子は屈服のセリフを口にしてしまい、モゲの白濁した迸りを膣奥で受け止めることでようやく解放されたのだった。
高慢で生意気な、高嶺の棘のある花をソールの分厚いブーツで乱暴に踏みにじることでモゲは気持ちよく佐恵子の内部で弾けることができた。
そのうえ、ぜいぜいと苦しそうに呼吸している厚めの唇を舌と指でこじ開け、下の口に放出したスペルマとほぼ同量の唾液も佐恵子の口の中に注ぎ込み、飲み干させたのだ。
行為中にこれ以上後ろの穴だけで逝く無様を晒したくなければ、モゲの1200万ほどある借金を肩代わりしろと言い、確かに約束もさせた。
条件を満たしたことで呪詛も発動している。今後今日以上の絶頂を味あわない限り、この生意気女はモゲを見ると発情するし、この日の行為を思い出し自慰し続けることになるのだ。
しかも、今日味合わせた絶頂以上のアクメを体験しない限り、身体は疼くがほんの浅くしか絶頂することはできない。
(能力者とSEXするときは、行為中もオーラ防御解いたらあかんのやで?勉強になったやろ?バカお嬢様。あんなん手足縛られたまま真剣の刀持った達人相手と戦ってるようなもんや。まあ、お嬢様はSEXじたいが2回目や言うてたし、せいぜい一人で自慰しとったぐらいの経験しかほとんどなかったんやろな。今回俺が相手やったんが運の尽きや。ご愁傷さま)
恥ずかしがり拒否する佐恵子を、しないとまたお尻で逝かせると脅し、オナニーもさせてみたが、仰向けで両足をV字にピーンと伸ばしたスタイルでクリと膣を指で弄るスタイルだった。まるでオナニーを覚えたての女そのものだった。
身体を突っ張り伸ばして腰を浮かし自らの指を忙しく動かし果てる姿もばっちり撮影してやった。
しかしすでに呪詛が張り付いているため、忙しく手を動かし腰を浮かせて仰け反って無様に絶頂する様を見せたとしても、恥ずかしい思いをしてやっと逝けたというのに、浅い絶頂しか味わえなかったようで、不満そうな声をあげて逝き、泣きそうで困惑した表情をしていたのが最高に笑えた。
(今後お前はその浅い絶頂で我慢するしかないんやで?ええ気味や。まあ高い授業料やと思とけや。疼くけど浅いアクメしかできへんようになった身体で一生すごしたらええわ。俺に生意気な態度取った罰や。もし、また俺に抱かれに来ても重ね掛けしてやるからな)
モゲはいまだ目隠しをして、縄化粧を施された佐恵子を見下ろし、仕事の出来栄えに満足そうに頷いた。
佐恵子は能力呪詛による大量の媚薬を施され、しかも逝ってもほんの浅くしか逝けなくなった身体にされてしまっていた。
縛られ不自由な格好のまま、ベッドに突っ伏し動けず泣いている佐恵子の様子までもカメラにおさめたことで、モゲは上機嫌で鼻唄を歌っていたが、ふと佐恵子が愛用しているティーセットのシュガーカップが目入った。
(たしかこの女えらい甘党やと聞いたことがあるな・・)
モゲは、良いことを思いついた。と思いカップまで近づき蓋を開けると、砂糖を半分ほど洗面台の排水溝に水で流し捨て、生意気な風俗嬢に使う砂糖とほぼ色合いの同じ粉末状の媚薬を半分以上補充し、人差指で混ぜてから蓋を戻した。
モゲは、これでよし。と下卑た笑みを浮かべると、未だベッドでしくしくとすすり泣きをしている佐恵子を目隠しと手錠、そして縄化粧をしたそのままにして、シャワーを浴びて着替え、この場に集合したのである。
ここに来る途中、事前に哲司と示し合わせていた部屋で合流し【認識交換】を解除して、「今度から佐恵子さんもテツの誘いに応じるはずやで!あ!そや!あの女、浮気はしとらんかったみたいやから安心せえ!」と笑顔で哲司に言ったのだった。
むかつく生意気な女に中出しSEXし、借金も全部背負わせ、疼くがまともに逝けない身体にしてやったことにモゲは今大変満足していた。
「みなさんもアーマースーツばっちりにあってますにゃん。急ピッチでつくってもらったかいがあるにゃん」
いままだ女性用しかなかったアーマースーツだが、菊一メンバーが加入したことにより、宮川佐恵子がずいぶん前に作成を急がせていたのだが、それがようやく完成したのだ。
美琴はそれを今日の作戦のために本社より持参してきていた。
「揃っているわね」
4人がいる塔屋の扉が開き、赤髪小柄な女性と、大柄で長髪の男性が紅音に続いてすぐ入ってきた。
扉を開けながら言ったのは紅蓮こと緋村紅音である。
「支社長!お待ちしておりましたにゃん!」
猫柳美琴は紅音の姿を認めると、背筋を伸ばし敬礼のようなポーズをとるが、それを紅音は手をあげただけで応え宏達に向かって声を掛けた。
「説明は聞いたかしら?」
「おっ!緋村支社長やないですか!わざわざ支社長自らお出ましとは、よっぽど重要な作戦なんですな。それと、なんや今日ボヤがあったみたいですけど大丈夫でしたか?め組の火消し三人衆がここに揃ってまっせ?なんでも言うてや?」
神妙な顔で聞いた紅音を、いまだ上機嫌のままなモゲが割って入り茶化す。
「おい!きさま!支社長に向かってなんて口をきくんだ!」
モゲの態度に紅音の背後に控えている丸岳が声を荒げるがそれを紅音が制止した。
「いいわ。時間も押してるし進めましょう。菊沢部長、作戦は聞いているわね?」
冷静にそう言ったものの紅音はギラリと視線だけでモゲに殺気を叩きつけると、宏に向き直った。
紅音の熱を帯びた殺気に一瞬たじろいだモゲだが、その紅音の視線はすぐに隣にいる宏に向けられたため、ほっと安堵する。
「ああ、ばっちりやで。ここまで大規模な作戦は久しぶりやな。・・・しかしこんな大胆な作戦俺らみたいな新参者に任せてええんか?」
「・・あなたたちが適任なのよ。期待してるわ。ここから関空までヘリで移動して、宮コーの私設便で貨物に紛れて現地上空まで飛んで頂戴。そこで運悪く貴重な貨物3つをロストしてしまうことになってるわ。落下地点は座標で確認してるわね?落下地点からの指示は、ここにいる美琴が通信で行うからそのつもりで」
「おいおい。やっぱこの子がオペレーターやるんかいや?ちょっと若すぎる気がするんやけど、ほんまに大丈夫なんか?」
宏は紅音のセリフに、美琴と紅音を交互にみながら心配そう言った。
「にゃん!大丈夫にゃん!安心するにゃん!何度も説明したにゃん。菊沢部長は美琴のこと信用できないのかなにゃ?」
心外とばかりに可愛くポーズをとった美琴が、宏に向かって可愛らしい仕草で抗議する。
(ぜんっぜん大丈夫そうに見えんし、信用できそうにないんやけど・・)
宏はグラサンで表情を隠しているため、悟られないが今回の作戦の難易度を考えればかなり不安だ。
「心配するな、菊沢部長。俺も管制室にいる。直接話するのが美琴なだけで、指示は俺からもでる。安心してくれていい。それに、美琴はお前らが思ってるほど無能ではないと思うぞ。見た目はあれだが・・腕は確かだし、判断力も野生の動物なみだ。方向感覚も暗闇でも間違うことは無いし、視野も広い」
宏の表情に気が付いた丸岳が、美琴の肩を背後から軽くポンと叩きフォローする。
「そうにゃん!」
丸岳のフォローに美琴は胸をどん!と叩きどうだと胸を張っている。
(・・・直感的で、野性的な能力者なんやろな・・。適性を聞くと現場向きのような気がするんやけど・・、たぶん現場には向かへんやろな・・。この子のテンションやと潜入捜査は無理や・・)
もう少し具体的な能力を聞きたかったが、どうせ聞いても話してくれないだろうと思い宏は聞くのをやめた。下手に聞くとこちらの能力も詮索される恐れがあったからだ。
「まあええやろ。・・・わかった。作戦は頭に入っとるし、地形もほぼ完ぺきに覚えてるからな。潮の流れや満ち引きも問題あらへん。最悪指示がスカポンタンでもこっちの3人で連携取れれば大丈夫や。ただ潜入の経験上必ずイレギュラーは起きるもんや。こっちじゃ俯瞰的な見方はできへんからな。衛星も使うんやろ?その時は的確な指示頼むで?」
「任せておけ。俺も潜入捜査は何度もしているし、管制室からの指示も何度も経験している。今回はお前たち3人で行ってもらった方が、息が合うと判断したためだ」
「さよか。まあ、情報通りならさして問題ないと思うで。宮コー下部組織の汚職の処理ってだけの話やもんな」
宏に応えた丸岳は、宏から見ても能力的には信頼できるように思えたが、どうやらこの男が紅音の一番の側近であるようだ。そのため能力は信用できても、それ以外は信用できない。
「ああ、成功させてくれ。宮川重工業は扱っているモノがモノだけに、ことは慎重を要する。頼むぞ」
グラサン越しに見つめられる視線に疑念を感じとったのか、丸岳は言葉短めに締めくくった。
「さあ、時間も押してるわ。足も来たし向かってちょうだい。いいわね?とにかくまずは、宮川重工業の幹部の関与の決定的な証拠が欲しいの。見当はついてるけど潜入して音声と画像が欲しいわ。情報通りなら、その幹部も何かしらの能力者よ。おそらく護衛もいる。ただ、私達みたいな宮コーの社員じゃないはずよ。うちの能力者は私が全員把握してるからね。今回身内にそういう不届き者はこの幹部だけよ。能力者が居たとしてもたぶん、足がつかないように傭兵的な野良能力者を使ってるはずだわ。野良でも、たまに貴方たちみたいな突出した能力者もいるけど、大抵はプロレスラーに毛が生えた程度の戦闘力しかないはずよ。でも油断しないで。能力の相性によっては足元すくわれるわ」
紅音の言うように、塔屋の窓越しに屋上のヘリポートに黒いヘリコプターがローター音を響かせ近づいてきているのが、目でも確認できる。
「わかっとるわ。俺もこの世界でやってきてるんやで。能力の相性や適性はある程度熟知しとるつもりや。それに対する対応もな・・・紅蓮のあんたとやっても勝つと思うで?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ冗談とも取れない宏のセリフに、紅音は先ほど北王子というクソメガネが捨て台詞で宣った捨てセリフを思い出す。
(我が事務所の所長や副所長と戦えば5分で殺されることでしょう。・・・だったかしら?町探偵如きが・・この私に比肩するヤツが何人もいてたまるもんですか。)
紅音は頭に一瞬で頭に血が上り何か言おうと一歩前に進んだときに、肩に丸岳の大きな手が置かれた。
「菊沢部長!これ以上余計なことは言うな!さあ、出発してくれ!」
紅音の気配が大きくなると察した丸岳が、紅音の激昂を抑えるように宏達に大声で促す。
「・・・菊沢部長・・お手並み拝見といこうじゃないの!」
紅音は、丸岳に置かれた肩の手をゆっくりと払うと、熱を帯びたオーラを纏い、怒りをあらわにした表情で紅音は宏になんとかそういうだけにとどめることができた。
「おっ。我慢の限界って顔やけど、そんなんで腹立ててたら、組織のトップなんて務まらへんで?町探偵風情と思とる俺らの力をとくと御覧あれってな。・・ほなら、テツ!モゲ!気合入れていくで!」
「応っ!」
目には怒気を強く孕んだ紅音のセリフに、宏は怖気る様子もなく軽口で更に返し、紅音に反論させる間も与えず、哲司とモゲを伴い、二人も宏に応じてヘリに飛び乗ったのであった。
【第9章 歪と失脚からの脱出 14話 猫柳美琴と菊一三銃士 終わり】15話へ続く
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