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第9章 歪と失脚からの脱出 21話 一夜限りと割り切らないといけない関係

第9章 歪と失脚からの脱出 21話 一夜限りと割り切らないといけない関係


着流しの男は、よく冷えたスパークリングワインをグラスに注ぎ、服装に似合わず慣れた手つきで軽く燻らすと、加奈子に手渡してきた。

「ほんまよう来てくれた。乾杯や」

「乾杯・・」

チンとグラスを重ね、お互いにいっきに杯を空ける。

程よい炭酸と意外にも高いアルコール度数の刺激が混ざった喉ごしに、加奈子はふぅと息を吐いた。

このホテルなら、香澄のマンションにも公麿の隠れ家にも近い。

最低限そこを確保した加奈子は、あのアレンを容易に蹴り倒したこの着流し男の正体が気になっていた。

(タダモノじゃない)

それはわかるが、未だにお互い名前すら名乗りあっていない仲である。

その程度の仲にも関わらず、妙齢の美男美女がホテルの一室で酒を酌み交わしている。

間違いなくホテルのフロントでは恋人同士、そうでなくても良い仲だと思われたに違いない。

(けっこうなシチュエーションよね)

加奈子はそう思い、正面の男をじっと観察する。

(ふざけてんのかな?それとも趣味?)

着流しという男のファッションに突っ込むが、センスはともかく着物の裾から覗く男の四肢は、よく鍛えこまれているのが見てとれる。

それにコングでの立ち回り、ホテルまでの道のりを歩く男の姿は、警戒心こそ加奈子に向けられていないが、男には隙らしい隙が無く、この着流し男が能力者であることを加奈子はもう疑いすらしていなかった。

(野良・・かな?・・佐恵子さんが言うには、街を歩いていると500人に一人ぐらいは能力者を見かけるって言ってたわね。そのほとんどが能力の存在を自覚してない無意識な野良能力者って言ってた。でも、この人はあのアレンって黒人を一発で倒すくらいだから、さすがに無自覚能力者ってわけじゃないでしょうしね・・)

野良(ノラ)とは、どこの組織にも所属していない能力者か、能力の存在を知らない無自覚な能力者、またはその両方を指した言葉で、宮コー内部では、本来の野良という意味とは、少し違う意味合いで使う単語であった。

「ねえ、名前とか仕事とか聞いてもいいのかな?」

加奈子はソファに腰かけたままグラスを差し出し、空になったグラスにワインを注いでくれている男に聞いてみた。

(グラスやワインに毒の痕跡は無し・・、私に対しては隙だらけ・・。・・・だけど、敵・・・かもしれないし、・・うーん、でも私のカンはそう言わないのよね・・)

香港に髙嶺、今はいろんな曲者共が、いつどんな手を使って近づいてくるかわからない。

コングというバーでの先ほどの一件も、加奈子を欺くためのお芝居という可能性も捨てきれないのだ。

普段おちゃらけたように見える稲垣加奈子だが、実のところ頭も相当キレるし、立場上必要な警戒心は十分に持ち合わせている。

加えてイレギュラーに対する対処能力は、力ずくでも良いということなら、佐恵子や真理よりはるかに優秀だ。

「名前か~。うーん」

「どうしたの?名前聞かれるとマズいワケでもあるの?」

加奈子のグラスに注ぎ終わった男は、自分のグラスにも手酌でシュワシュワと気泡が弾けている液体を注ぎながら唸っている。

加奈子は何故?と首を傾げ、男の表情を探る。

「えっとな。特にやましいことは何も無いんやねんけど。俺なりのゲン担ぎやねん」

「ゲン担ぎ?」

「そや、ゲン担ぎ。お互いの名前知らんほうがええねん」

そう言うと着流しの男は、加奈子の正面から加奈子の座っているソファの方へ歩み寄り、加奈子のすぐ隣に腰を下ろした。

「・・そうやってすぐ近づいてくるのもなんだか手慣れた感じよね」

加奈子は笑顔ではあるがそう言うと、着流し男の動きを注視しつつ、万一のため最低限反撃可能な間合いを空けて座りなおす。

「ははは、嫌がることはせえへんよ。嫌やったら遠慮せんと言うてや?・・ただ、アンタみたいな上玉を、黙って眺めとくなんてことは俺にはできへんからなぁ」

「あら?変なことしないって言ったじゃない」

加奈子は飲みなおす条件で言った内容を再び伝えてみたが、着流し男は白い歯を見せて笑顔になると更に続けた。

「アンタの嫌がることはせえへん、イコール変なことせえへんってことや。・・正直に言うとな、マジでアンタのことめっちゃ気に入ったんや。身も蓋もない言い方なんやけどな・・。かといって俺の商売やと所帯ももたれへん。今回もいつまで日本におって、いつ向こうに帰るかわからへんし。行ったら行ったで、次に日本に戻ってくるんもまったく見当もつかんときとる身の上なんや・・」

「ふーん・・・大変な仕事なのね。でも、それがなんのゲン担ぎなの?」

着流し男の言葉に1つのウソも混じっていないのは、これまでの加奈子の経験からまず間違いないだろうと加奈子の直感がそういうが、ウソが無い着流し男の話す内容にますます興味が出てきて少々焦れた加奈子は質問をはさむ。

「そやな・・。名乗らん方が口説くんも上手くいくちゅう俺なりのゲンもあるんやけど、要するにそういう仲になっても、もしアンタが俺のこと気に入ったとするやろ?でも、俺の生活やと、アンタを不幸にさせるだけやからな。お互い今夜限りにして、名前知らんほうがええ思てんねん。・・でもまあ、今日だけ言うても、それも呼びにくいやろし、俺のことはサブローとでも呼んでくれたらええ。アンタも差し支えない範囲で言うてくれるんでええよ。仮名ってやつやな。追及せえへん。俺もずっとアンタとも呼びにくいしな。アンタも俺が名乗ってなかったからしゃあないんやけど、さっきからずっと俺のこと、固有名詞や代名詞ですら呼べてないもんな」


そう言って男はグラスを一気に傾け空にする。

(・・・なるほど。何となくそういうジンクスじみたことを気にしてるってことかな・・?うーん、佐恵子さんみたいに完全に言葉と感情の真偽がわかるわけじゃないけど、私のことを知っていて近づいたって感じじゃなさそうね・・・でも容姿はともかくこの男の持っている空気感というか隙だらけに見え隙がない感じ・・・、なんだか誰かに似ているよね・・・誰だろ・・・?)

加奈子の能力は純粋な肉体強化であり、筋力及び五感の能力超向上である。

栗田の神業で左目に魔眼を宿したと言っても、佐恵子のように器用に使いこなすことができるわけでもない。

使える魔眼技能は、いくつかの付与と恐慌のまがいモノだけだ。

よって、男の言葉を見極めることは能力では無理だが、加奈子の今まで生きてきた経験則からは、やはりサブローと名乗る男が嘘をついているようには見えない。

「どや?マジでアンタみたいな上玉を見つけて、アタックせえへんなんてこと俺には出来へんのや。一夜限りの関係でお互い楽しまへんか?・・・こういうん嫌いなんか?心に決めた男でもおるんやったら・・いやそれでもアンタみたいな上玉諦められへん・・。どやねん?アンタもまるっきし俺のことキライなんやったら、ここに座っとらへん。そやろ?」

隣で熱心に口説いてくる着流し男のセリフを聞きながら、加奈子の心は揺れはじめていた。

確かに男が言うように、全くその気がないのならノコノコとついてくることはなかった。

加奈子は自称ミス宮コーを名乗るってはいるが、宮コー社員から見ればそれは誇張ではない。

自負通りの美貌を持ち合わせているし、プロポーションもそのあたりのモデルより断然良い。

加奈子の明るい性格も相まって話しかけやすいこともあり、言いよってくる男の数は幼馴染の佐恵子より圧倒的に多く、実はあのミスパーフェクトの真理よりも多かった。

しかし、男性経験は佐恵子なみに残念で、経験人数は二人だけ、しかも最初の相手は髙嶺六刃仙の一人、井川栄一であった。

加奈子は最初追い詰めたつもりだったが、巧妙に佐恵子や真理と引き離されただけで、当時自分より格上の使い手であった井川栄一に、一対一に持ち込まれてしまい無残な目にあったのだ。

加奈子の美的感覚からすれば、井川栄一は間違いなくブ男で生理的に受け入れがたい男でった。

思い出してしまうと嫌悪感を示す悪寒とサブイボがぞわぁと背中を駆け巡るが、その憎い敵に与えられた快感も思い出してしまい、加奈子は目をきつく閉じてぶんぶんと顔を振る。

そして、今隣で一生懸命口説いてくれている着流し男の顔をマジマジと見ると、ブ男の栄一などとは比べようもないイケメンが熱弁を振るって一夜限りの求愛をしてくれている。。

加奈子はこういう男が、一夜限りと言わず、本気で口説いてくれないかと思いもしたが、よくよく考えれば自分も着流しの男が語ったように、明日とも知れない身であると、はたと気が付いたのだった。

三十路前にして上場企業宮川コーポレーションの幹部ではあるが、佐恵子の秘書は危険な仕事で、現につい数か月前死にかけたばかりだ。

それにいまは宮川コーポレーションの社員ですらないかもしれない。

先ほどの騒動のせいで、緋村紅音が加奈子の社員登録を抹消しているかもしれないからだ。

そんな加奈子が、着流しの男の一夜限りの提案を、「軽薄だ」、「不純だ」「とにかく今やりたいだけでしょ?」と言えるような立場ではないと思い至ったのだ。

(そっか・・。幸せな結婚、幸せな家庭って難しいんだ・・・。佐恵子さんや美佳帆さんみたいに、運よく能力者の恋人見つけて、お互いの立場も、何もかも理解してくれる人を見つけるってだけでも・・、私も・・、この人も・・同じように難しいんだわ。この人もほぼ間違いなく能力者・・。人に言えないような仕事の一つや二つはしてるんでしょうね。でも私も同じなんだわ・・。・・・私、仕事とはいえ人すら殺したことがある・・。だからこそ、この人も俺に深く関わらないほうがいいぞってスタンスなんだわ。それって・・・私も・・同じだわ・・)

大学に進学する際、佐恵子が「私に着いてきてくれるの?引き返せなくなるわ」と言ってくれたが、そう言う意味もあったのかと、加奈子は改めてわかった気がした。

しかし気付いたところで、選んだ道に後悔などない。

だが、突然発生した心の空虚さは如何ともしがたいものがあった。

急に発生したこの空虚さを手っ取り早く埋めるため、着流し男の提案を安易に飲むのも、なんだかプライドが許さない。

かといって加奈子はこの機会・・いや、誘いを袖にするのはどうなのか・・とも思っていた。

だから、相手を試すという訳でもないが、男に飲んでもらいやすく、それでいて自分に有利で、いざとなれば匙加減(さじかげん)もイニシアチブもこちらにある方法を思いつく。

加奈子は顔を上げ、着流し男の目をじっと見つめた。

男は、急に加奈子に見つめられたので熱心に口説いていたのをやめ、びっくりしたような顔をしている。

驚いた表情のサブローの顔の前に、人差指を出して加奈子は口を開いた。

「・・・条件が二つ」

「よっしゃ、なんなり言うてや」

サブローは前のめりになっていた姿勢を改め、加奈子の隣に座りなおして姿勢を伸ばした。

「名前なんだけど・・仮称・・カナコよ。サブローさん」

「OKやカナコ。一気に親密になったな。それで?もう一つは?」

サブローは、加奈子の一つ目の条件を聞くと目を丸くさせてから、笑顔になり、そして気ぜわしくもう一つの条件を、手振りを交えて催促してきた。

「もう一つは飲み比べ・・・これで私に勝ったら・・一晩お付き合いしてあげるわ」

加奈子は人差指に加えて中指を立て、Vサインのように指を二つ立てると、加奈子にしては珍しく蠱惑的な表情を浮かべて言ったのだった。

それもそのはずで、加奈子なりに、かなり思い切った発言だからである。

顔には出でいないが、今の加奈子の心拍数はかなり高い。

女の口から「一晩お付き合いする」と言ってしまっているのだ。

経験も多くない加奈子にとっては、相当なセリフである。

加奈子は、はしたなすぎたかも、と心拍数を更に上げはじめたが、サブローは破顔し声をあげた。

「よっしゃ!決まりや。やっぱカナコ、あんたはええ女や。わかりやすいし、男をやる気にさせる方法わきまえとるなあ。望むところやで!・・言葉通りきっちり一晩限りや・・お互い楽しもや?」

サブローの様子に内心安堵した加奈子は、余裕を取り戻し斜めに構えてサブローを挑発するような表情になると、

「ふふふん。もう勝った気でいるの?ちょっと気が早いんじゃない?・・言っとくけど、口だけの男なんてお断りなんだからね」


と腕を組んでツンと顎を上げた仕草で言って見せた。

加奈子の発言は、安い女だと思われたくない気持ちも強いが、実際お酒の強さにはめっぽう自信があったからである。

そして、もしもベッドインすることになったとしても、加奈子は経験こそ少ないとしても、実際体力はめちゃめちゃあるほうだし、力もめちゃめちゃ強い。

加奈子は、もしもそういう気分になって身を任せたいと思ったとしても、お互い機嫌よくベッドインするには、サブローに対してお酒の手加減してやる必要があると思っている。

いわゆる酔ったふりという手だ。

それとベッドでも、サブローが1度か2度満足したら、こちらが満足してなくても、男の面目を潰さないでいてあげるぐらいのつもりでもいる。

だが、サブローは加奈子の心境や思い上がり気味な打算など気づいた様子もなく、機嫌よく加奈子の手を両手で取り握りしめると、

「おぉー・・最高や!オーライオーライ。わかっとるって。酒もベッドでもタフなところ証明したるから。自分を抱く男ってやつに納得したいタイプなんやろカナコは?・・ええで、それを言うても許される上玉やカナコは!任せとけや!俺、そんな煽られると燃えてくる性質やねん。それよりカナコ・・いま言うたセリフ、後で許してって泣くことになっても容赦せえへんかもしれんで?」


と笑顔ながら真剣に言っている。

「ふふ!いいの?サブローこそ、ベロンベロンに酔っ払って、早漏なとこ私に見られちゃうかもよ?・・そっちこそ、あとで恥かいても知らないんだから」

サブローのその無邪気さに、好感を重ねると同時に意地悪も重ねたくなった加奈子は更に挑発する。

「問題なしや。カナコ、たぶん今日限りもうお互い会わへん。カナコはミステリアスなところあるけど、カタギのニオイがするからな。俺みたいなヤツとはそういうワンナイトって関係がマジでええと思うわ。・・ほな、気取り直してさっそく飲み直ししよや」

加奈子の意地悪な挑発など意に介した様子もなく、サブローは一瞬「ワンナイトだけ」という関係に哀愁を滲ませたが、加奈子のことを本当に案じたようなセリフを言い、スパークリングワインをブランデーに持ち替えて、グラスを新しいものに替え、琥珀色の液体を注ぎなおしたのだった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 21話一夜限りと割り切らないといけない関係】
コメント
ついに加奈子が!
こんばんは。いつも楽しく読んでいます。僕が密かに気に入っていた加奈子がいよいよ良い感じになってきましたね。続き楽しみです。
2019/08/04(日) 03:57 | URL | マットマートン #-[ 編集]
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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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