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第9章 歪と失脚からの脱出 24話 菊一三銃士VS髙嶺六刃仙

第9章 歪と失脚からの脱出 24話 菊一三銃士VS髙嶺六刃仙


もうそろそろ明け方だというのに曇天のおかげで月明りさえも感じられない。

孤島の端に道らしい道などあるはずもなく、海から吹き付ける強風のなか3人は道なき岩肌を駆けていた。

海面に着水してから、島まで泳ぎ、海水で濡れた身体を乾かした後、軽食を取ってある程度身体が温まると、即座に作戦を開始したのだ。

吹き荒れる海風と、時折波が岩肌に叩きつけられる音が大きく響く。

濡れて滑る切り立った高い岸壁が、唯一の道だというのに暗闇で視界も悪い。

耳に付けた通信機から聞こえてくる猫語尾の可愛らしい声を頼りに、未だ暗闇に近い視界の中、ほぼ垂直に切り立った岩肌から岩肌へと跳躍を繰り返す。

3人は【暗視】と【肉体強化】を発動させ、常人ならざる速度で進んでいるのだ。

『ひゅ~・・・驚きにゃん。支社長から聞いてたにゃんけど、本当にこんな過酷なルートに誘導しちゃってもいいのか心配してたにゃん』

美琴は菊一の3名。菊沢宏、豊島哲司、三出光春の身体能力に口笛を吹き正直に感嘆した。

事前に宏達の説明を紅音や丸岳から聞かされていたのだが、ここまで高いレベルだと思っておらず、むしろ3人の力をあやしんでいたのだ。

たんなる町探偵が、まさかこれほどの動きができるなど思ってもいなかったのだった。

きっとラブホテルの前でカメラを構え、あんパンを食べながら、ひたすら待ち続けるのが主な日課だと偏見を持っていたのだ。

しかし衛星で捕捉している望遠映像では、3人は切り立った崖を、物凄い速度で飛ぶように進んでいる。

「なんやーミコにゃん?このぐらい昼飯前やで?」

「そうみたいにゃね。・・実は潜入っていったら大抵美琴の仕事だったにゃんよ。モゲちん達が美琴ほど動けるわけにゃい、と思ってたにゃんから正直モゲちん達が起用された時は、不安だし心配だったにゃん。・・・けど、いけそうにゃんね・・」

通信機からは、モゲの得意そうな軽口に対し、正直に言っている様子である美琴の、可愛らしい猫語尾語が聞こえてくる。

「あたぼーよ。惚れてもええんやで?」

『にゃははーん。それはないにゃん』

「も・・モゲちん?・・ってすごいネーミングやな・・」

更に調子に乗ったモゲのセリフをバッサリ切った美琴に、哲司が小声で三出光春のことをモゲちん呼ばわりしたのを指摘するが、美琴は気にした様子もなくウキウキした口調で続けた。

『これだけ速いとこっちも楽ちんにゃん。仕事が早く終わるにゃ~ん。このペースなら10分もしないうちに目的の建物が見えてくるにゃんよ。スレートとトタン張りの錆びだらけの建物にゃよ。西側の方が手薄にゃん。其処から侵入するのが良いと思うにゃんけど、樋口が出入りしている部屋は建物の北側のはずにゃん。建物の見取図はすでに送ってある通りにゃんから、潜入後はヒロポンに行動権限は委任するから、細かい瞬時の現場判断お願いするにゃん。なんせ建物の中は見えないにゃんから・・』

「・・・ヒロポンって・・、まるでご禁制のお薬みたいやん・・」

ヒロポンとは、おそらく宏のことであろう。

哲司は美琴にそう名付けられている宏を、走りながらチラリと見るが宏に変った表情の変化はない。

『そう言った方が美琴的にはしっくりくるにゃん。ちなみにお兄さんのことは俊作って呼ぶことにしたにゃん』

「ぶっ!がーはっは。そっくりや!ないすミコにゃん!ちょっとテツよ。『事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだっ!!』って言うてみてくれや?」

美琴のセリフにモゲが声をあげて笑いだす。

かつて、大人気を博したドラマの主人公の名前なのだが、その俳優が哲司にそっくりなのである。

「なんやねんな・・・」

やれやれといった感じで哲司はため息をついたが、ハッとなってさすがに騒ぎ過ぎたかと、リーダーの宏の方にチラリと顔を向けた。

「ノリが悪いぞ俊作!そんなんやから、すみれに呆れられるんや!」

哲司は、モゲの戯言を背中で聞き流し、宏の眉間に皺が寄せられていないかと様子を探る。

しかし、宏はこの手のことには最早慣れているようで、モゲたちのバカ騒ぎを気にした様子もなく、この暗闇の中だというのに、相変わらずのサングラスを着用し、今のところ周囲にも危険が感じられないため、特に気にした様子もなさそうであった。

哲司はほっと安心するが、はたと気が付いた。

「ん・・?おい宏」

「ん?どないしたんや?」

哲司は、ふと見た宏の横顔に少し違和感を感じ、つい宏に声を掛けてしまった。

二人とも岩肌を飛ぶように駆けているが、そのぐらいの会話をする余裕は十分にある。

「宏・・。いつの間にかグラサン変わっとるやんか」

「な!なに?!・・・。なんでわかるんや・・?」

モゲと美琴の会話にもクールな表情を崩さずにいた宏だったが、哲司のセリフに驚いて顔を向けてきた。

そんな宏の様子を怪訝に思った哲司だが、珍しいものを発見した興奮と、自らが知っていた知識を話たくなり続けた。

「それって前のプラダと同じ形状やねんけど、それ今年出た限定モデルのヤツやねん。フレームの金属の配合と色合いが微妙に違うんや。フレームの内側にもピジョンブラッドでカットしたエンブレムとロゴが嵌め込んであるはずや。たしか、有名な俳優が付けてて人気がでた数が少ないサングラスやねん。ええのう。そんなレアなモノをまんまと手に入れたんか。素直に羨ましいわ・・」

駆けながら宏のサングラスをマジマジと見ながら哲司は、心底羨ましそうな声をあげた。

「ま、まじか・・。これってそんな珍しいもんやったんか・・・。前のんとおんなじって聞いたんやけど・・」

グラサンを普段着用しているといっても、そこまでブランドに拘りのない宏は、サングラスのフレームを摘まみながら、なにやら表情を渋くさせて呟いた。

「いやいや、全然違うねん。形はほぼいっしょやねんけど、発売されはじめた時の値段も初回のと20倍ぐらい違うし、なにより欲しいても、もう手に入らへんねん。今やと価格は跳ね上がっとるし、次のサザビーズとかのオークションで出品されたら、えらい値段つくかもしれへん。・・・そもそもが有名な職人が作った世界で30個だけの限定ハンドメイド生産やからな。・・俺は普段はせえへんけど、俺もグラサンとか腕時計とかそういった小物って結構好きで集めてたりするんや。けどそのグラサン、どないやっても手に入らへんかった超レアモノやねん。・・・それも美佳帆さんからのプレゼントかいな?こないだの結婚記念日に初回モデルのほう貰うとったのに、今度は限定版のほうもプレゼントしてもろたんやなぁ。美佳帆さんの愛も深いのう・・・。きっと手にれるんかなり苦労したはずやで?」

「い、いや・・、あ、あのなテツよ。・・このグラサンが前のと違うって誰でもわかんのか?」

グラサンのことを得意そうに語り、宏と美佳帆の仲を羨むような発言の哲司の様子には触れず、宏は心配そうに聞き返してきた。

「どやろな。俺はけっこうそういうんが好きやからわかるけど、大抵の人はわからへんのと違うか?でも、見る人がみたら一発でわかるで?」

「そ、そうか。そ、それやったらええ・・いや、ええことないな・・」

「・・・・どないしたんや宏?」

宏らしくない様子に、哲司は首を傾げ宏の横顔を眺めていたが、ふとその横顔に動揺が走っているのを感じ聞いてみた。

「・・・まさか他の女から貰うたなんて言わへんやろな。・・・まあ、宏に限ってそれはないか~。女に関してはクールな宏が、あの美佳帆さんだけには猛烈なアタックしよったもんなぁ」

「いや・・あのな・・誤解せんといて欲しいんやけど・・・これは・・えっとな・・」

「え・・・?・・ま、まさかマジなんか・・・?」

2割ぐらいは冗談のつもりで聞いてみたのだが、宏の反応はすこぶる歯切れが悪い。

宏の珍しい反応に、哲司は引き締めた表情になると、力強く頷いて言い出した。

「・・・いや、ええで。宏も男や。嫁に言えれんことの一つや二つあっても可笑しない。安心せえ!聞かんかったことにするわ!・・・・幸いモゲはミコにゃんとキャッキャうふふな感じで話しとるから、聞こえてないみたいやし、誰にも内緒にしといたる」

妙な親切心と男の友情とでもいうモノなのか・・、哲司は宏の顔を見ながら大真面目に言っている。

「いや・・そんなんやないんや・・」

宏はなんと説明しようかと思いながらも、サングラスを渡してきたときの佐恵子と、それまでの経緯を思い出す。

(病院であの女に殴られたときに、美佳帆さんにプレゼントして貰ろうたグラサンがぶっ飛んでいってしもて、かっ!となりかけたけど・・、あいつも幼馴染が死にかけとったんや・・。あんなに涙溜めて、目泳がせて・・気が動転してたんやろな・・。しかし、どうしてもグラサンの小さいネジ部品がみつからんくなってもうたんや・・。そのせいで、おさまり悪くなってたんやけど、気にせずそのままグラサンつけてたら、あの女が1週間ぐらいして俺の部屋に来よったんや・・・。
何の用事かと警戒したもんやが、お詫びや言うてる割に、デカい態度で、ぜんぜん悪びれた様子もなかったんやけど、・・とりあえず同じ形や言うし、俺も美佳帆さんからもらったグラサンを壊してしもたんを美佳帆さんに言うは何となく嫌やったから、受け取ったんや・・・。
しかし、これがこんな危険物やったとは・・・!・・佐恵子さんってテツの彼女なんやろ・・?ここでストレートにあの女から貰うたって言うたら、テツはどう思うんや・・・?どうなるんや・・?更に訳わかれへん話にならへんか・・?)

どう言うたらええものか・・と宏は口ごもってしまっていると、哲司は心配そうな口調で更に続けた。

「しっかし、そんなもんくれるちゅうことは、相手の女は本気やぞ?・・俺なんかが心配することちゃうけど、美佳帆さんに気付かれんように上手いこと早めに手打えよ?」

「ぉ・・ぉぅ・・」

哲司のセリフに何も言い返しにくくなった宏は、こめかみを引きつらせたまま真剣な表情になり、妙な発音で返事をするのが精いっぱいだった。

(・・・本気・・?何に本気なんや?・・・たしかに、美佳帆さんと二人ではじめて宮コーに行ったときと比べると、あの女の態度はずいぶん変ったような気がする・・せやけど、そういう感情あるわけがないわ・・)

宏はそう言いながらも、顔を赤くし、目を合わせずサングラスが入った箱を突き出して、「受け取ってくださる?」とチラチラと目を合わせてくる宮川佐恵子の様子を思い出していた。

(・・・違うな・・。妙にクソ真面目で潔癖なところがあるけど、ようわからへん女やねん。悪党やないんは間違いないが、変わり者であることも間違いあらへん。まあ・・でかい組織運営ってやつは俺にはわからへんけど、あの女、経営手腕では新聞やテレビで取り上げられたし、そういうスキルは専門家からも評価されてるみたいやったな。変わってる人間は、何もかも変わってるもんやとは思うが・・・・、しかし・・いくら何でも、あれが愛情表現なわけがない。単なる損害賠償や。そういったことをするんに、あの女のプライドがついていかれえへんかっただけの表情や。間違いない)

宏がグラサンで隠した表情で一人納得している横で、哲司も勝手に納得し宏の肩をポンと叩いて優し気な口調で言ってきた。

「ええってことや。長い人生、人に言われへんようなことの一つや二つ起きるって。・・俺の親父もようそう言うてたわ」

目を細め何故か遠くを見ているような目の哲司には何も答えず、もうこの件に関しては誰にも黙ってたらええと、宏がそう決心したとき、少し前を駆けているモゲが騒ぎ出した。

「もしもしもしもし?!ミコにゃん???!もしもーし!!ミコミコもしもし?!」

「うっさいわモゲ。静かにせんかい」

急に壊れたモゲに、即座に哲司が注意を飛ばすが、

「どないしたんや?」

宏は冷静にモゲに問いかけた。

「どないもこないも・・急に回線が途切れたんや・・・。もうちょっとで帰ったらお茶でもしよかって話になりそうやったのに・・・」

3人は速度を落とさず岩肌を駆けながら会話をしている。

モゲが肩を落とし、眉間に皺を寄せ、眉を垂らして情けなくそう言った時、頭上で下弦の月が煌めいた。

今日は曇天。

月など有るはずがない。

「モゲっ!上や!」

哲司が怒鳴る。

「間に合わん!ガードせえ!!」

宏も哲司とほぼ同時に叫ぶ。

「へっ?!・・ぁがっあああ?!!!!」

ずどーーーん!

『モゲーーー!』

宏と哲司の声が重なる。

間の抜けた表情のモゲの背中に、避ける間もなく白い何かが激突し、そのまま猛スピードで、モゲごと遥か眼下の波が打ち付ける岩場に激突したのだ。

「三対一だった故・・、声も掛けず仕掛けた無礼をお詫びします」

崖の頂上より少し上、声の主は空中にいた。

物静かなのに、この強風のなかでも凛としたその声はよく通る。

驚くべきことに、その声の主は宙に浮いていたのだ。

「お、おまえは・・何もんやねん。香港か?」

頭上で雲を背負って見下ろしてくる、線の細い黒髪長髪の美女に哲司は誰何する。

「いいえ、私は高嶺六刃仙が一人・・前迫香織・・貴方がたの命をもらい受ける者です。お覚悟を」

先ほどの鋭く白い何かを放った人物とは思えない、落ち着いた物静かな声で、女は名乗りを上げた。

「た、髙嶺やて・・?」

「ひ、宏・・。香港以外で・・髙嶺もおるなんて目論見が違い過ぎへんか?」

宮コーの潜入の情報では高嶺の「た」の字もなかったはずである。

「くっ・・。どうなってるんや。ミコにゃん!聞こえてるか?!」

状況の説明をと思い、宏が通信機に向かって怒鳴ってみるが、空しくザザザザ…と機械的なノイズ音がするのみである。

「クソっ!つながらへん・・。どういうこっちゃ」

宏や哲司のやり取りを、観察するように静かに眺めていた香織は、少しだけ待ってやっていたが、そんな義理もないなと思い、抜き身の長刀を頭上でくるりと回し鋭い目つきで構え直す。

「まずはひとり・・・。お次はどちらが?それともお二人でいらっ・・っく!!」

細身でパンツスーツを着た長身の香織が、一人始末し、残りの宏と哲司を値踏みしだしたとき、突如、長い髪を大きく靡かせて、白い何かを打ち込んだ先から、投げ返されてきた人の頭ほどもある岩石を、慌ててのけ反り避けたのだった。

「くっそ!いきなりなんやねんな!!痛ってーー!ちっくしょう!いててて!」

「モゲ無事か?!油断しすぎや!」

「無事なワケあるかい!めっちゃ痛いちゅうねん!」

岩場に激突したモゲは頭から出血はしているが、大声で悪態をつき全身を摩りながらも騒いで声を掛けた哲司に言い返している。

「今ので死んでない・・・というのですか?なるほど・・・ならば!」

投げ上げられてきた岩石のスピードと、モゲの頑丈さに驚いた香織は、モゲ以外の二人も当然侮りがたしと認めたようで、切れ長の目を更に鋭くし3人を睨みつけて言い放つ。

香織は身の丈ほどある長い抜き身の長刀を白く光らせ、下弦の月が地上に矢を打ち込むかの如く、刀身を弓のような形状に歪ませると、髪の毛を靡かせて空中で片膝を折り、白く光る弦状のオーラをおもいきり引き絞った。

「風を孕み月影を具せ、黄昏を裂き留まる事無く疾く駆けよ!我が刀身、良弓難張なれど刃を矢摺りとし、己が身を弓弝、我が克気を鏃と成せ!」

香織は空中で弓を引き絞ったような態勢のまま、淡白く光った刀身を弓に見立て、オーラを充満させ3人に向けている。

「・・紡ぎ言葉ってやつか!」

宏は焦った声をあげたが、敵は明らかにこちらを先に捕捉していたうえ、問題の敵は手の出せない上空で構えている。

こちらからは攻撃しにくく、向こうからはこちらを一方的に駆逐しやすい態勢である。

紡ぎ言葉は予め術者が決めておいたオーラを込めた言葉を発することで、付与に近い能力を得ることができるが、発揮できる効果は技を放つ一瞬で、しかもその技能の直前に紡がなければ効果は全くないものである。

紡ぎ言葉は敵を目の前にして、隙だらけになることを代償としているがゆえに、その威力の跳ね上がり方には凄まじいものがあった。

香織は【斥力】を足元の岩場に使い、自らを空中という安置に置くことで、紡ぎ言葉を安全に言い切ったのである。

「テツ!モゲ!さっきのと段違いのが来るぞ!」

できることと言えば、上空で危険な女をの攻撃のタイミングを注視し、二人に大声で叫ぶだけだった。

「もう遅い!【弓箭激光】!!」

香織が弦をはじけさせると、刀身が逆方向に弾み、先ほどモゲを貫いた白い光の正体が、香織の左手の握り部分から無数の白い光の矢となり、幾百本と放たれた。

ズドドドドドドドドドドドドッ!

「どんだけやねん!」

宏は香織の技の威力に瞠目し、オーラを纏って防御する。

香織の放った無数の矢で、辺りは一面フラッシュを何百も光らせたように明るくなり、けたたましい炸裂音を響かせ崖と岩肌の形状を抉り続ける。

オーラ上の白矢を打ち尽くし、眼下でもうもうと立ち上がる砂ぼこりを見ながら、香織は呼吸を整える。

「はぁ・・はぁ・・。・・・なんということでしょう。手応えが軽い。・・・いったい何者なのです・・」

まさか侵入者がここまでの手練れとは思わず、一人でも奇襲を敢行したのは勇み足だったか?と内心ほぞを噛むが、どうしようもなかったのだ。

あらかじめ情報のあった海岸線から近づく3つの影は、香織のオーラによる察知能力ですでに捕捉していた。

誤算なのは、事前に情報があったとはいえ、あまりにも進んでくる速度が速かったことである。

香織が【弓箭激光】を打ち込んだ波打ち際を、油断なく注視していると、崖の飛び出た先端に、足音なくショートカットで小柄な女が膝を揃えて折り曲げ着地した。

「おまたせ!かおりん!樋口が離れるのなかなか許してくれなくってさ・・」

白いファーを左手で少し降ろし、人形のような整った顔を覗かせた南川沙織が遅参したことを詫び、香織と同じく眼下を見下ろしつつ呟いた。

「さっきの轟音・・かおりん。もうぶちかましてんじゃん・・」

香織の技は放たれた後は光を失っており、眼下の波打ち際はほぼ暗闇である。

香織や沙織ももちろん暗視ができるとはいえ、明るいに超したことはない。

そう思った沙織は右手を一振りし、崖の下へと、右手小指から小さな礫を十数粒バラまいた。

礫が地面に落ちる遥か上空に在るうちから煌々と礫は淡く灯りだし、点灯の役目を果たす。

「いなさそうだね。粉々になったんじゃないの?」

「いえ・・かなりの手傷は負わせたと思いますが、おそらくまだ。・・全部で3人いました・・。うち一人は私の初撃が直撃しましたが、信じられない硬さで仕留めきれずです」

香織は、下を注視したまま沙織の予想を否定し、いまだ警戒を緩めていない。

香織の強力な範囲攻撃を受けても、生きている。

油断できない相手ということだ。

沙織も目を細め物騒な表情になると、香織と同じく警戒を強める。

すると、

「遅くなりました・・」

「あれ?なっちゃんさんも来たの?あっちの警護はいいの?」

(・・なっちゃんさん・・。このクソ寒いのに、相変わらずあんな短いスカートで、パンストもぺらっぺら・・・。・・見せたいのかな?・・確かに男ってガリより、ちょっとむっちりしてる方が好みって聞くし・・うーん・・でもなっちゃんさんも男の噂って全然ないよね・・。まあ私もだけど・・)

沙織の心の声など知る由もなく、奈津紀はそのむっちむちの太ももを曝け出して、二人に歩み寄ってきた。

「・・・張慈円さまが、これ以上侵入者はないから、こちらを手伝いに行けと、しつこく言いましてね・・」

「へぇ・・?そうなんだね・・。でも、あの人、なっちゃんさんを連れ歩くの大好きなのにさ・・行ってこいだなんて珍しいよね」

「沙織にまでそう見えてるのですか・・?」

「え?・・う、うん。だって、違わなくない?・・・あの人、いっつも・・・『千原はどこに行った?』、『千原、少し意見を聞きたいのだが』、『・・千原、貴様はどう思う?』、『おい、千原を呼んで来い』ってことばっかり言ってるじゃん。・・・私やかおりんには、そんなこと絶対言ってこないよ?」

「そ、そうですか・・。まあいいでしょう・・・それより、侵入者の方をとっとと済ませてしまいましょうか」

目の両端を人差指で吊り上げ、わざと低いだみ声をだし、張慈円の顔マネと声マネをしている沙織の様子に、眉間を指で少しマッサージするような仕草を見せてから、奈津紀は気を取り直して侵入者に意識を向けた。

そんな二人とは対照的に、緊張の糸を切らず、眼下にもうもうと立ち込める埃ほこりを、視力強化と暗視で注視していた前迫香織が眼下から目を逸らさず、奈津紀に声を掛けた。

「奈津紀。来てくれてよかったかもしれません。相手は3人・・・。その者達は、私の紡ぎ切った【弓箭激光】を受けても仕留めきれないほどの者達です」

香織の発言に、普段表情の変化の少ない奈津紀さえも、大きく目を見開かされた。

「なんと。・・・潜り込んだのはどのような鼠輩かと思いきや・・虎の類のようですね。宮川本社にいる強力な能力者共が送り込まれてきた・・と考えるのが妥当でしょうか。それほど樋口さまの持っている情報が重要で、尚且つ、その裏切りが許せないのでしょうね・・・。もしかすると、紅蓮、幻魔、蜘蛛とやらの二つ名持ちの者どもかもしれません」

「紅蓮ね・・・あいつか・・。それと、あとの玄米と蜘蛛とかは?・・・そいつらは銀獣と比べるとどうなの・・?」

戦闘狂だが、沙織にも感情はある。

紅蓮と呼ばれる赤髪巻き毛は、馬鹿げた威力の炎で、目の前で同僚を黒焦げにしてくれたし、
舐めていたとはいえ、沙織自身も、もう少しで銀獣から致命的な一撃を受けそうになった記憶がよみがえり、ゴクリと喉を鳴らして奈津紀に聞き返している。

紅蓮も目の前で同僚を黒焦げしてくれたのだ。

「幻魔と蜘蛛です・・。玄米などという二つ名の者などはいません。・・・その者達のほうが、名が知られているので強い・・と考えるのが妥当でしょうね・・でも、私は紅蓮を見たことがあります。さっき見た中にはいません・・」

沙織の問いかけに答えたのは香織であった。

「なるほど・・」

香織の言葉に奈津紀が頷く。

香織は、スタジオ野口で、紅蓮が六刃仙の一翼である井川栄一を、一撃で戦闘不能にし、あわや一撃でオーバーキルというほどの攻撃を準備動作無しで放ってきたのを、目の当たりにしたのだ。

不意打ちとはいえ、香織が【斥力排撃】を栄一に纏わせてなければ、完全に栄一は事切れていたはずだ。

栄一があのようになってしまったため、あの時は逃げの一手しか取れなかったのだが、この度はそのような状況に追い込まれたくはない。と香織は最初から油断なく全力に近い力で戦っている。

「油断大敵ということです。油断のない我らに斬れぬものなどありませんし、敗れることなどありえません。香織、沙織・・。行きますよ?」

奈津紀の言葉に二人は頷き、香織は長刀を弓のようにつがえ構え直し、沙織も二刀居合の構えを取る。

盤石の迎撃態勢を取り直した六刃仙の3人は、油断なく巻き上がっている埃が晴れるのを待つ。

やがて、徐々に巻き上げられていた砂ぼこりが猛烈な海風で吹き流され、更に荒波が散らばった砕けて石を攫うと、沙織の放った礫が灯す光に、岩石を押しのけながら3つの人影がゆらりと現れた。

【第9章 歪と失脚からの脱出 24話 菊一三銃士VS髙嶺六刃仙終わり】25話へ続く

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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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