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第9章 歪と失脚からの脱出 26話 達人5人とバカ1人


第9章 歪と失脚からの脱出 26話 達人5人とバカ1人


もうもうと立ち上がっていた砂ぼこりを海風が攫い、ひと際高い波が岸壁に打ち付けた時、3人の姿は完全に露わになった。

沙織の灯した礫の明かりが、3人をぼんやりと照らす。

「・・・っ!?」

髙嶺の三剣士は、眼下の3人を視認したとき、皆一様に美しい顔をしかめ、目を細めて声にならない声をあげた。

香織の攻撃を受け、3人の男達はダメージを負っている。

海水に濡れ、顔はホコリで汚れ、頭や顔には出血が見て取れるのだが、髙嶺の三剣士たちにとっては香織の技を受けているにもかかわらず、生きていること、しかしそれよりも問題なのは・・・。

「なっ・・?なんであいつら服を着てないわけ?!」

沙織が崖下を指さしながら、目を見開きファーを顎の下に下げて、奈津紀と香織に聞く。

「・・・・さ、さあ?わかりません。私の方が沙織より来るのが遅かったのですよ?最初から着てなかったのでは?どうなのですか?香織?」

奈津紀も崖の下で、どう見てもダメージを受けているっぽい筋骨隆々の男3人が、無駄に肉体をアピールしているような格好でポーズをとっている異様さに、奈津紀にしては珍しく冷や汗を頬に伝わせて、隣の香澄に聞いている。

「いえ、着ていました・・。しかし、なぜ・・?特に貴方!」

他の二人はともかく、最初に攻撃を仕掛けた頭髪の少ない男は、何故か全裸で完全にポージングをしているのだ。

香織が指さしたのはもちろんモゲである。

「なぜ言われてもな・・。あんなピッチピチのスーツ着てたから肌と服の間に、砂利やら割れた石の破片が挟まってチクチク痛かったから脱いだんや!お前のせいやぞ!?痛ったいし服もボロボロにしやがって!・・・その上にや、あんた一人だけズボン履いてからに・・ほかの二人見習わんかい!」

モゲは、いわゆるフロント・ラットスプレッドというボディビルダーの規定ポーズに近い恰好で、髙嶺の3剣士を見上げるようにして立ち、勃っていたのだが、逆に香織を指さし怒鳴り返した。

叫んでいる全裸男の世迷言を無視し、奈津紀は眼下でポーズをキメる三人の筋骨を冷静に観察して、その筋肉が飾りではないことを正確に見抜いていた。

(・・・香織の剣技を受けて、あの様子・・・。そしてあの身体・・・・そして、あのサイズ・・・。・・?)

奈津紀が3人の力を、その筋肉から冷静に分析しようと眺めていたのだが、上半身が裸である哲司、宏と見て、最後に全裸のモゲに目を移したとき、さすがに全裸であるため見るともなく、巨大なアレが目に入ってきたのだ。

髙嶺の剣士は性的な拷問に対する訓練も一通り受けており、人並みの男性経験は訓練の一環で受けている。

男の裸などで、いちいち騒ぎはしないが、半年ほどの訓練を受けたのは3人とも、遥か昔のことであり、ここ最近は男の裸を見る機会などそうそうなかった。

それに、数多く行った訓練での行為の中で、あんなサイズの持ち主は見たことが無かった。

それは、奈津紀もそうであったし、香織も沙織も同様である。

「ねえねえ、全裸ハゲのアレ・・。すっごく大きくない・・・?・・すごいよ。へそより上に反り返ってるじゃん・・馬とでもやるの・・?それに、なんで大きくさせてんの・・・?かおりんの技くらっただけでしょ?興奮する要素って皆無じゃん・・?痛めつけられて喜ぶマゾってやつ・・・なの?」

「あの男の性癖は知りませんけど、私の技にそんな不埒な効果はありません・・。私の技を受けてあんな風になるのは、何故かとても嫌ですね・・・」

美女三剣士が、思いもよらぬところで規格外の男性のサイズを前にし、戸惑いながら観察していると、崖下にいる当のモゲが叫んだ。

「真ん中の女は美佳帆さん並みのムチムチ太腿で赤。隣の白ファーのお人形さんはファーに合わせて白。・・・俺に不意打ち食らわした女はサービス悪いな。パンツスーツかいや。お前こそが脱がんかい!何色や?!言えー!」

どがっ!

「人の嫁をたとえに出すなや!それに隠せ!」

その宏は、隣で場違いな発言をしているモゲの後頭部に一撃食らわせ、先ほどモゲが脱いだブーメランパンツをモゲにぶつける。

「なんでパンツまで脱いだんや!」

「い、いや・・石が入って気持ち悪かったし・・」

「周りは、履いてないほうが気持ち悪いねん!」

モゲのように全裸ではないが、香織の大技を一番近くで受けた宏の衣服もボロボロに破れ、上半身は全裸になってしまっている状態で、モゲと宏が珍しく漫才をしだした。

哲司も宏と同じような格好になってしまっているが、海水で全身水浸しなため、寒さで前かがみになっていただけで、決してモスト・マスキュラーのポージングをしているわけではなかったのだ。

「おいおい。二人とも敵さんの前やで?・・きっとこんなペースの相手なんて初めてのはずやから、絶対に戸惑ってるはずやぞ?・・ちょっと自重したほうがええような・・」

そう言いかけた哲司は逆光になっている崖上を、能力を使い見通すと見覚えのある顔を発見した。

「お、あの真ん中の女。赤い下着の女な・・。・・・あいつ、あの時倉庫で佐恵子さんに唐竹割ぶちかまそうとしてた女や!」


「なんやて?白刃取りしたって話の女か?」

「ああ、間違いあらへん。真ん中の赤パンツの女がそうや。んで、左隣におる白パンの幼女がたぶんアリサの言うてたヤツやと思う。右側のサービス悪いパンツスーツの長身ねーちゃんのことは知らへんな・・」

「そうか・・。ならあのパンチラっていうか、パンモロしてる女らはやっぱり全員髙嶺ってことやな。・・・女ばっかりかいや・・やりにくいのう・・」

眼下から聞こえてくる、人を下着の色で区別している無礼な3人に、奈津紀は無表情ながらも、こめかみに血管を浮かせている。

「・・・脱げ・・・ですって?」

香織もそう言ってワナワナと肩を震わせているだけであるが、そんな真似ができない白パンはにっこりした笑顔から始まり、結局吼えた。

「・・・冥途の土産に見るだけならいいよ♪・・なんて言うとでも思ったか!!首を胴体からお別れさせてやる!・・二つに割れろっ!!」

沙織は肩と腰の柄に手を伸ばし、二刀抜きざま【刀閃】を全裸で一人あっちの戦闘態勢にもなっているニヤついた表情のモゲに、照準を合わせて放とうとした。

しかしモゲは、沙織が技を放とうと柄を握った時、沙織の技の発動よりも先に放ったものがあった。

「ちっ!?」

沙織は鋭く舌打ちをして、それをかろうじて躱したため、大きく態勢を崩してしまう。

沙織の得意技の一つである、恐るべき威力の【刀閃】の一つはモゲの身体のすぐそばをかすめ、もう一つは発動すらせず、刀が空しく空を切ったのみである。

「うっひょー。当たったら痛ったそうやな・・・。盛大にすっころんでくれたから、またよう見えたわ・・。しかし、さっきのといい、こいつらガチの奴等や・・。あんなエロい身体してパンモロ拝ませてくれてんのに、真面目にやらなあかん連中や」

「いつも真面目にやってくれや!」

不完全ながらも発動した真空の刃が、モゲをかすめて後ろの地面を切裂き、海面にぶつかって水を爆散させているのを見て言うセリフに、哲司が突っ込みを入れる。

「ともあれナイスやモゲ。テツ、モゲ、予定には程遠いが、わかっとるな?あいつらの隙みて一気に行くぞ?こっちの侵入はもうバレとるし、派手なっても構わへんやろ。・・ええな?いきなりこんな状況や!自分の命最優先で張慈円狙いだけで行くぞ?!」

「おう!わかった!」

大雑把には3人の分担は決まっていた。

一人は張慈円の始末、もう一人は樋口の回収、残る一人は脱出経路の確保と苦戦している方の援護である。

しかし、髙嶺の三剣士の出現はあまりにも予想外で、潜入も察知されていたようであるし、宮コーの潜入計画が杜撰だったと言わざるを得ない。

そのうえ、宏は先ほどからこっそり試しているが、やはり通信は回復していない。

(・・・これは脱出予定のランディングポイントに迎えは無い・・・って考えるんが正解やろな・・。あのクソ女・・・!最初っからこういうつもりやったんや!俺らを嵌めて、あわよくば情報漏洩も阻止したいってか?!クソが・・!・・張慈円だけでも仕留めたいんやけど、まずはこいつら片づけてからやな・・。しかしあのクソ女、俺らにこんなことしてくるってことは、美佳帆さんらの方にもきっと手回してくるはずや・・・。くそっ、宮コーに入ったら所員がちょっとは安全になるかもしれへんって思ってたってのに!・・俺の判断ミスで、またみんなを危険に晒してしてしもうたんか?!・・・・麗華もおらんようになってしもて・・、それでも俺を信じてついて来てくれてるみんなが、また・・・!・・・美佳帆さん・・俺が戻るまで、なんとか凌いでくれ・・。・・・しかし、いまはこいつらと張慈円や!)

「くそっ!とりあえず一気に目的地まで行くで!?」

宏は内心の焦燥を打ち消すようにそう言うと、半裸の男たちは、一斉に倉庫の方角に向かって猛スピードで駆けだしたのだ。

「沙織!大丈夫ですか?!」

奈津紀が、態勢を崩して後方中返りし膝をついた沙織に駆け寄る。

「ごめんなっちゃんさん。油断しないって約束したのに・・。でも、当たってない。大丈夫・・これ飛ばしてきた・・ビー玉なんて・・ふざけたヤツ・・」

技を放つ直前に左手の九字兼定は【刀閃】の発動を止め、【不浄血怨嗟結界】を発動させていたのだ。

そう言って沙織は、左手で受け止めた透き通った緑色のビー玉を見せる。

「・・・あらかじめ練っておいたオーラをこれに込めていたのですね・・。ですから沙織の技より速く打てたのです。咄嗟にそれができるとは、侮れない者どもです・・」

未だ熱を持ったビー玉を沙織から受け取って指で摘まみ、しげしげと見ていた奈津紀は、久方ぶりの敵が、改めて強敵だと認識しなおしていた。

(なにしろ、殺すつもりではない一振りだったとはいえ、宮川佐恵子の戦意を断つために放った一撃を受け止めた者の仲間です・・。しかし、御屋形様を落胆させたくはありませんし、呆れられるようなことがあってはなりません)

奈津紀が、そう決心を固めていると、ずっと眼下を油断なく警戒していた香織が仲間二人背を向けて走り出した。

「奈津紀!沙織!追いましょう!奴等が!」

香織はそう言うが早いが、奈津紀と沙織の返事を待たず眼下の3人を追い、すでに駆け出していたのだ。

「わかりました。幸い相手も3人のようです。香織!周囲に敵影はもうありませんね?!」

香織の声にすぐに反応して駆けだした奈津紀は、香織の背に問いかける。

「ないわ!あの3人だけ!でも・・・でも【見】で探れば探るほど、強いと感じさせられる!みんな気を付けてください!」

香織は追う3人の背中から目を逸らさず、振り返りもせず奈津紀に応える。

「上等・・じゃない!」

奈津紀とほぼ同時に追いかけてきた沙織も、普段の顔になり駆けながら低い声で呟いた。

切り立った海岸線を疾走するする6つの影を、宮コーの衛星はしっかりと追い捉えていたのだった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 26話 達人5人とバカ1人終わり】27話へ続く
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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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