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第9章 歪と失脚からの脱出 34話 脅威!紅蓮の炎

第9章 歪と失脚からの脱出 34話 脅威!紅蓮の炎

廊下の幅と高さいっぱいに、炎が駆け抜け、業火となった火柱はホテルの内壁に直撃し、そのまま壁を焼き突き抜けていったのだ。

紅音の技術により、周囲に発する熱量をコントロールされていたとはいえ、それでも十分な殺傷能力を保ったままの炎が、爪痕を残しつつ舐めまわし通り過ぎた後は、触れたものは無事では済まされてはいなかった。

業火業風で巻き上げられた黒煙がもうもうと立ち上がるが、壁面に空けられた大穴に一気に吸い込まれ排気されている。

「・・・意外」

紅音は【紅蓮火柱】を発射した格好のまま、風に赤毛が揺られるのをそのままにそう呟いた。

「ああっ!アリサ!・・ごめんっ!千尋!治療を!急いで!」

「は、はい!」

紅音の放った火柱を3人の真正面で一人一身に受け切ったアリサがガクリと膝を付き、そのまま崩れ落ちかけるが美佳帆は背後から抱きとめ、千尋に悲鳴に近い声で叫ぶ。

アリサ以外の3人も炎にまかれ、それぞれに服や肌をススで汚し、軽い火傷も負っているが、真っ向から火柱を受け止めてくれたアリサのおかげでその程度で済んだのである。

しかし、真正面から炎のほとんどを受け遮ったアリサの状態は深刻だ。

「アリサっ・・!美佳帆さん私も千尋を手伝います!」

「ダメよ!スノウは【共有】を解かないで!いまバラバラになったら今以上にどうしようもなくなるわ!」

アリサに駆け寄ろうとしたスノウを、美佳帆がアリサを抱きかかえて振り返らず、正面にいる紅音を睨んだまま、大声で制止する。

抱きかかえられたアリサのタンクトップはボロボロに焼き焦がされ、髪の毛も熱でずいぶんと焼き千切られている。

素材のせいだろうか、スパッツは熱で収縮して変形し、ところどころ円形に穴があいてしまっていた。

「・・・美佳帆さん・・ごめん。次はもう受け止めれない・・かも・・・」

普段の口調に近いが弱弱しい声でそう言うアリサを抱きかかえた美佳帆は、熱で溶かされた髪の毛をかき分け、アリサの顔が露わにするとハッと息を飲んだ。

(ひ、酷い・・)

真っ向から炎を防いだアリサの両手の甲から肘にかけて、皮膚がめくれて赤黒く変色し血がへばりついた酷い火傷状態であり、天然と呼ばれながらも愛らしかった顔は、火傷で見る影もない。

「・・っ!アリサ!!ごめん4人分のオーラを全開で回したけどっ・・!あああ・!千尋!急いで!アリサだけに治療を集中して!」

「でも・・!それだとこの周囲の熱気が!」

「いいから!」

紅音が周囲に展開している無差別攻撃地象【焼夷】が展開されているのだが、美佳帆は迷うことなく千尋にそういった。

千尋は美佳帆に返事するより早く、【脈動回復】をアリサに集中させるが、その瞬間、美佳帆たちの周囲に張り巡らされている【焼夷】による熱気が一気に3人を襲う。

「くうううううううううっ!」

【焼夷】地象による継続ダメージを上回る治療を展開させていた千尋の【脈動回復】の効果範囲が狭まり、アリサ一人に【脈動回復】が集中する。

そのため、途端に3人は耐え難い熱気に再度晒され、一斉に悲鳴を抑え殺し苦悶の表情となったが、おかげでアリサの傷は目に見えて治癒されてゆく。

「もういいかしら?再開しても?」

紅蓮のたった一発の攻撃で被害甚大となり、美佳帆たちはまともに戦える状態ではないのだが、当の紅蓮は無情にもそう言い、美佳帆たちを見下ろし近づいてくる。

薄く笑みを張り付けた表情の紅音は、赤髪を熱風で靡かせ、軽く広げた両の掌には炎が纏っている。

「くっ!・・紅蓮!・・こんな・・まさか・・こんなに差があるはずが・・・!」

美佳帆は、抱きかかえたアリサを何とか立ち上がらせ、紅蓮の歩にあわせて後ずさりながら睨みながら呻く。

「差が無いと思ってたの?この私相手にぃ?」

紅音が大島優子似の愛くるしい顔を邪悪に歪め、愉快そうに言ったその時、またしてもけたたましく防火ベルの音が鳴り響きだし、天井に設置されてるスプリンクラーが勢いよく一斉に噴射する。

「ちっ!またずぶぬれになっちゃうじゃない。・・あぁ・・その子が使った技の正体・・大体わかったと思うんだけど・・。たぶん4人でオーラを共有してるんでしょ?・・・それで斎藤雪はあなたに操縦任せますって言ったのね?きっと4人ぶんのオーラを今はあなたが操ってるって訳じゃない?・・でも、ご愁傷様4人集まっても私に届かないみたいね。まぁ・・付け焼刃にしては頑張ったんじゃない?もっと普段からそれの練習してたらもう少し寿命が延びてたかもしれないけどね」

激しく噴射される水を浴びながら、忌々し気にスプリンクラーを見上げた紅蓮は、視線を4人に戻し両手に灯した炎の量を増やし美佳帆たちにそう言うと、再度、先ほど放った紅蓮火柱の構えをとった。

「菊沢美佳帆。あなたが4人を動かしてるんでしょう?面白い技能だわ・・。ふふっ、でも次は誰を盾にするのかしら?伊芸千尋?斎藤雪?・・それとも自分?まさか、そのボロボロになってる斎藤アリサをまた盾にするのかしらね?ふふふっ!そいつはもう戦えないでしょう?そいつが動けるうちにもう一回盾に使うのが一番いいって自分でもわかってるんじゃないの?ふふっ・・さあ、見物ね。命惜しさに次は誰を捨て駒に使うのかしら?!」

紅音は斎藤雪が使った技能をそう見当づけて、美佳帆を煽るように手の甲を口に当てて哄笑しながら挑発する。

「こっ!このっ!そんなことするわけないじゃない!・・・千尋急いで!」

「ふぅん?・・なるほどなるほど。そいつがあなたたちの回復係なのね?」

美佳帆に抱えられたアリサに寄り添うようにして治療をしている千尋を見て、紅音は哄笑をやめ、目を細め千尋を見やる。

「くっ!」

紅音の視線に気づいた千尋は小さく悲鳴を上げ、一瞬治療を止めそうになるが、目をきつく閉じ、紅蓮に狙われている恐怖を押し殺して治療を再開し出す。

その千尋の様子を見た紅音は、残忍な笑みをより深くし、頬を紅潮させブルリと身を震わせた。

何を思ったのか紅音は、紅蓮火柱の構えを解き、左手の人差指をピストルのように構えると千尋に照準を合わせるように指を向ける。

「ほらっ!」

紅音がそう言うと、猛烈な速度の深紅の熱線が千尋目掛け発射された。

突然のその熱線はあまりにも速く、アリサの治療に集中している千尋の首筋を貫通したかに見えた。

が、その瞬間バチン!と音が鳴り響き、毛足の長い絨毯の上に黒い鉄扇が勢いよく叩きつけられ、じぅ!と毛足の長い絨毯が黒く焼き焦がした。

スノウが鉄扇を投げ、千尋を貫こうとした深紅の熱線を遮って床に叩き落としたのである。

「紅蓮・・あなたっ!・・人の命をなんだって思っているのですかっ?!」

スノウは美佳帆が脳波で飛ばしてきた指示どおり、美佳帆愛用の鉄扇【舞姫】を投げつけて言うと紅音を睨みつける。

【焼夷】による熱ダメージに耐えている苦悶の表情のまま、治療する千尋、そしてその千尋を守るように、【焼夷】の熱に耐えながらもスノウは愛用の鉄扇【細雪】を構えている。

「ふふふっ!人の命はいのちよ。尊いものよね。ただ、あなたたちは敵。私の部下にならないのなら敵だわ・・。敵は殲滅するのが普通じゃないの?ふふふふふっ」

スノウの問いにそう答えた紅音の頬は紅潮している。

偏った性癖を持った紅音は、性に関する許容範囲が広く、伊芸千尋や斎藤雪の苦悶の表情でも興奮できてしまうのだ。

頬を紅潮させ残忍な笑みを浮かべたまま、千尋とスノウ目掛け、再度指をピストルのように構えて熱線を連射する。

「ほらほらぁ!・・うふっ!・・いいわね・・!うふふっ!・・あはははっははははっ!」

構えているスノウを避けるようにして、わざと背後の千尋を狙った無数の熱線をスノウは右に左へと身体をひねって鉄扇を振るい、アリサの治療をしている千尋を守ってはたき落とす。

白いフレアミニスカートを靡かせ、エメラルドグリーンの下着が露出するのにも構わず、スノウは舞うように鉄扇を振るい、紅音の放つ熱線を必死で叩き落とす。

紅音は指先から連射しつつ、舞のようなスノウのそれを楽しそうに見ていたが、はぁはぁと興奮から息を切らし出し、恍惚の表情のまま非情なことを口にした。

「あなた・・斎藤雪・・喋れないと思ってたし、そんに動けるなんて知らなかったわ。そんな短いスカート履いてクルクル回って・・見えちゃってるわよ?もっと踊ってもらおうかしら?・・両手でいくわよ?・・うふっ!うふふふふふっ!」

「くっ!そんなっ!・・これ以上は・・もっと撃てるっていうの?!」

スノウは、愉快そうに熱線を連射してきている赤髪の変態を睨んでそう言うと、これ以上は防ぎきれない。と歯を食いしばって呻いたとき、紅音は急に表情を素に戻して左側に飛び退った。

「よ・・避けた!?・・そんなっ!」

そう言ったのは美佳帆であった。

美佳帆は、愛用の鉄扇【舞姫】とは別にもう一本腰に差していた【白鶴】を操り、スノウと千尋に集中して油断しきっているであろう紅音のできるだけ死角から、こめかみ目掛け放ったのだがギリギリのところで気付かれ躱されたのだ。

「あぶないあぶない・・。そんな鉄の塊投げつけてくるなんてひどいじゃない?でも、今のはいい線いってたわよ。部下を囮にして戦わせておいて隙をみて攻撃・・・。菊沢美佳帆・・?なかなかのとんだクソ上司ね!」

空中で一回転して着地した紅音は、自分の頭部をかすめグルグルと旋回する鉄扇を一瞥すると、美佳帆に視線を戻し罵ってから両手を4人に向けた。

「でも・・今の攻撃はひやっとしたわ・・ムカついたからお礼しちゃう!」

そう言い、ニヤリと顔を歪めると紅音の両手から一度に10本の熱線が同時に発射された。

『キャッ!』

突然紅音の10本の指から発射された熱線に美佳帆とスノウの悲鳴が重なる。

紅音は全ての指先から熱線を同時に発射できるのだが、あえて一発づつ撃ち美佳帆たちを甚振っていたのだ。

スノウと美佳帆は鉄扇を振るいなんとか熱線を6つまで防いだのだが、スノウの右膝、左太ももに直撃し、一つはフレアミニの裾を掠めた、そしてもう一つはスノウをかすめて外れたかと思われたが、スノウのすぐ後で治療に専念している千尋の喉を貫いていた。

「あ・・・ごほっ・・」

くぐもった声にはならない音がしてドサリと床に倒れる音と同時に美佳帆とスノウが音のしたほうを振り返る。

「千尋っ!あああ!」

「千尋!?」

美佳帆とスノウが音のした方を振り勝ったとき、喉から血を流した千尋が絨毯の上に倒れ、深紅の絨毯の上に、赤い液体が更に広がりだしていた。

スノウもフレアミニに炎がまとわりつき、下着を隠しきれなくなった超ミニにされてしまったが、そんなことに構う余裕なく、床に倒れ込んだ駆け寄り膝を付いて即座に治療の淡い緑色を両手に灯すと傷口の喉にかざす。

「ち、千尋ぉ・・!死んだらイヤだよ!」

「おしかったわねえ?全部防がないと。ま・・、そいつが回復役みたいだったから時間差で撃って狙ってみたのよね」

狙いが上手くいったからか、紅音は得意そうにそう言った。

アリサと千尋の治療を一人でしだした、スノウ自身も両足を撃ち抜かれて満足に動けないというのに、重症の仲間二人同時に治療を施している。

千尋が明らかに致命傷を負い、チーム一のアタッカーであるアリサも瀕死状態だ。

こうなった美佳帆の判断は早かった。

得意そうに喋っている紅音を無視し、狼狽えるスノウを叱咤するような大声を張り上げたのだ。

「スノウッ!!千尋とアリサを連れて逃げて!・・宮川さんとジンくんがもう近くまで来てるはず!・・なんとか逃げて!・・私は・・!ここで刺し違えてでも紅蓮を止めるからっ!」

「そんな!美佳帆さん!できません!」

スノウは珍しく美佳帆の言いつけに反論した。

しかし、美佳帆は誰の反論ももはや聞く気は無かった。

「行きなさい!もう治療できるのはスノウ!あなたしかかいないわ!アリサ!辛いでしょうけど、なんとか立って!スノウと一緒に行くのよ!さあ、行きなさい!・・スノウ!行って!宏を・・頼んだわよ!」

そう言うや否や、美佳帆は背後を顧みず両手に愛用の鉄扇【舞姫】と【白鶴】を握り、正面の紅音に向き睨みつけた。

「お涙ちょうだい。でも、あなたたちはここで終わり」

「終わらないっ!」

茶化すように言った紅音に対し、美佳帆は怒鳴りつけた。

4人のオーラの四分の三を自身に集めた美佳帆は、宮コー最強の一角と謡われる紅蓮を突き崩さんと躍りかかる。

軽口をたたき余裕を見せた紅音であったが、4人のオーラのほとんどと、すでに死を覚悟した美佳帆の決死の勢いに、完全に攻撃を防ぎつつも防御に専念させられる。

「くっ!菊沢美佳帆・・!ここにきて、やる・・じゃない!」

炎を発動させる隙を与えてくれない美佳帆の鉄扇を使った決死の猛攻に、紅音も表情を険しくさせる。

まだまだ酷い火傷が痛々しいアリサが、美佳帆の声が聞こえたのか、何とかのろのろと立ち上がり、スノウは撃ち抜かれた両脚を引きずりながらもアリサを支えながら口を開いた。

「スノウちゃん・・ごめん・・まだうまく動けないの・・痛い・・顔と腕が・・・痛くて・・。あっ!スノウちゃん・・脚から血がでてる!」

なんとかそう言ったアリサの衣服は焼けてボロボロで、体の至る所が火傷で赤黒く焼けただれていた。

愛らしかった顔も千尋にある程度回復してもらったとはいえ、体にある他の火傷とそんなに見た目は変わらないほどひどい。

「あぁ・・アリサいいの・・。わかってるわ。ここから離れたら自分のも治せるし、アリサも治してあげるから我慢して・・アリサも辛いでしょうけど千尋を運ばないと・・肩を貸して」

紅蓮の攻撃を真正面から受けたアリサの見た目は、スノウからしても息を飲むほど深刻だった。

それにスノウ自身も右膝と左腿を撃ち抜かれている、しかし、今は喉を貫かれた千尋の方がもっと重症だ。

「うん・・でも美佳帆さんは・・?」

アリサは焼けただれた自分の腕や身体をひとしきり眺めて、スノウや千尋の怪我にも顔を悲しませたが、背後で戦う美佳帆を気遣う。

「大丈夫・・・・あとで来るから先に行っててって」

「・・・・スノウちゃん。・・うん」

アリサもスノウの言っていることが嘘だと分かったが、それだけ言うとスノウの肩に何とかぶら下がってぐったりと動かない血まみれの千尋に肩を貸す。

なんとかまだ脈はあるが、千尋は喉を熱線で貫通させらており、止めどなく血が流れだしている。

スノウが淡い緑色の光を纏った手のひらで、優しく千尋の首を包むようにしてあてがい重症のアリサと両脚を撃ち抜かれたスノウが血まみれで意識のない千尋を抱えるようにして、背後で戦う美佳帆に背を向け、できる限りの全力でといってもヨチヨチと駆けだした。

「ゼェゼェ・・!あの子たちだけでも!」

後輩3人の気配が遠ざかるのを背中で感じた美佳帆は、やや安心し、正面だけに集中しようと息を切らしつつ、右手に握った鉄扇を、手首を捻らせて舞わすと腰を落とし低い構えから、旋風を巻き起こす勢いで紅蓮に迫る。

「近すぎるわよ菊沢美佳帆っ!・・ハエのようにブンブン纏わりついて!」

攻撃を仕掛けてくる美佳帆とは別に二つの鉄扇を宙が宙に舞い、死角から無軌道に紅音を襲う。

「減らず口をっ!あの子たちをあなたなんかにやらせないわ!」

美香帆自身も限界まで肉体の能力を引き出し、紅音に炎を発動させまいとできるだけ接近戦の徒手空拳で攻撃を加え続けているのだ。

紅音に炎を発現させる一瞬の隙すら作らせない猛攻で、美佳帆は連打を浴びせ続けていたのだが、3人が離れすぎたのか徐々に自身に集中させていたオーラが減少し始める。

どす!

動きが遅くなり始めた美佳帆の一瞬の隙をつき、飛び襲い来る鉄扇の合間をかいくぐって、腰を落とした紅蓮は美佳帆の鳩尾に拳をめり込ませた。

「ぐっ!」

がちんっ!

美佳帆は前のめりに身体をくの字に折り曲げて呻いた瞬間、顎を紅音が手のひらで打ち上げた音が妙に響いた音を立てる。

「かっ・・は!」

「頑張ったわねえ・・。逃がした3人・・フロントにははなが待機してるのよ?身を挺して逃がしたあの子たちも今頃死んじゃってるでしょうね」

顎をかちあげられて脳震盪をおこした美佳帆は膝から崩れ落ちかけるが、紅蓮は美佳帆のカットソーの襟首を左手でつかみ、美佳帆を無理やり立たせると顔を寄せてそう言った。

「ぐ、・・紅蓮!・・まだ・・よ!」

「たいした強情よ。菊沢美佳帆・・・。逃げた3人もすぐにあなたを追わせてあげるから、先に逝ってなさい。・・せめて苦しまずに一瞬で塵にしてあげるわ

小柄な紅音に襟首を掴まれて、無理やり立たされている美佳帆は、朦朧とした意識の中、息も絶え絶えにそう言ったが、残忍な笑みを貼り付けた紅音は右手に容赦なく炎が収束させる。

(ここまで・・ね。みんな・・・宏・・。・・先に行くね。・・いつまでも待ってるから、宏は急がなくていいから・・ゆっくり来て・・。スノウ・・逃げ延びれたら・・宏のことお願い・・)

【共有】でスノウの深い感情を今なら知ってしまっている美佳帆は覚悟を決め、目を閉じたとき、聞きなれたが、切羽詰まった悲鳴に近い声色がホテルの廊下に響く。

「紅音!!おやめなさいっ!」

声にピクリと反応し紅蓮が収束させている右手の炎が一瞬止まった。

スプリンクラーの水音のなかでもその声はよく通ったのだ。

死を覚悟し目を閉じていた美佳帆が薄く開けると、そこには普段のスーツ姿ではない、ぴっちりとしたトレーニングウェアのようなものを着た宮川佐恵子がいた。

「・・・宮川さん?」

振り返らずに美佳帆を掴んだままの紅音は声の正体を察し、顔をしかめたが、美佳帆の呟きに、襟首をつかんだまま、半身に振り返り佐恵子に向かって言った。

「・・・佐恵子。来ちゃったのね」

美佳帆の襟首を掴み、肩で手持ち上げたまま紅音は佐恵子に完全に向き直った。

「佐恵子。私になにか用?見ての通り立て込んでてね。いまあなたに割いている時間はないの」

「・・紅音!その手を離すのです!・・遅くなりましたわ美佳帆さま!・・・紅音、短気をおこしてはやまってはダメよ!」


「宮川さん。ちょっとピンチに見えるけど私は大丈夫・・きゃっ!!」

持ち上げていた美佳帆がそう言うのをチラと不快気に一瞥した紅音は、美佳帆を壁に向かって投げつけたのだ。

「ちょっと黙ってなさい。菊沢美佳帆」

背から壁に激突させられ呻いている美佳帆にそう言うと紅音は腰に手を当て、首を振る。

「紅音!もうやめなさい!美佳帆さま達を害しても貴女の思った通りにはなりませんわ!」

「ちっ・・うっさいわね・・。菊沢美佳帆。佐恵子に連絡してたのね・・面倒なことを・・!」

紅音は、そう言う佐恵子に舌打ちをしてから小声で美佳帆を罵倒すると、壁に投げつけた満身創痍の美佳帆を見下ろして本当に忌々しそうにして言った。

「あなたの覚悟に免じて苦しまずに殺してあげようかと思ったけど・・、面倒なヤツ呼んだわね・・。完全に気が変わったわ。ちょっと待ってなさい菊沢美佳帆。佐恵子にはもう帰ってもらうから・・・。それからじっくり甚振ってあげる。・・・同性の年増を甚振るのも趣向としてはいいかもしれないわね?」

紅音は壁を背に床にへたり込んでいる美佳帆に顔を近づけてそう言って脅かすと、再度佐恵子に向き直った。

「み、宮川さん・・こんなことになって・・。もっと紅蓮に対抗・・できると・・思っ・・・たんだけど・・」

床に座り込み壁を背にした美佳帆は、オーラを使い切った脱力感から声をかすれさせていた。

「美佳帆さま。・・・わたくしが不甲斐ないためにこんな目に・・。さっきアリサさまたち3人にそこで会いましたわ。香澄が付き添って・・病院に連れて行ってくれているはずですわ。いまはそれだけしか言えませんが・」

「なんですって・・?佐恵子がなんでここまでこれたのかと思ってたけど・・。チッ!はなは何をしてるのよ・・・!」

佐恵子と美佳帆の会話を聞いていた紅音はそう短く吐き捨てると、スマホを取り出し丸岳に連絡を取り出す。

「丸岳さんに話をしても無駄ですわよ。先ほどこのような暴挙にこれ以上関わらぬよう言いましたわ」

慌ててスマホを取り出し操作しだした紅音に、佐恵子は静かにそう言ったのだ。

「な・・丸岳くんが佐恵子のいうこと聞いたって言うの・・?!」

そう言い驚いた紅音のスマホの着信音が途切れ、丸岳と通話が繋がる。

「丸岳くん!いったいなにやってるのよ!」

「紅音・・。公安の連中も来た。本社にしょっちゅう来ていたあの霧崎美樹だ。奴らは能力者同士の犯罪捜査の専門でもある。この動きの速さ・・橋元の一件以来こっちの動向にはずっと網を張っていたのかもしれん。ひとまず今は・・」

通話が繋がった瞬間に紅音はスマホに向かって怒鳴りつけるが、丸岳は極力冷静に紅音に説明し出したのだが、話の途中でスマホを耳から離し、紅音は佐恵子に食って掛かった。

「佐恵子!・・公安を呼ぶなんてあんた何考えてるのよ!宮コーが受ける社会的ダメージをわかってのことなの?!」

「・・・人の命にはかえられないわ。私がもっと強ければ、公安など呼ばず、あなたのことも守ってあげられたのですが・・」

「なによそれ!私を守るですって?!私より弱いくせに、佐恵子はいっつも私を見下してくるわね・・!そういうのがいちいち勘に触るのよ!」

「紅音・・。あなたがわたくしを執拗に嫌っているのはわかっています。わたくしは感情が見えるのですよ・・?紅音はわたくしをに嫌ってもいますが、認めてもいる・・。そうでしょう?・・・そうであるなら少しはわたくしの言い分をきいてください。こんなことしても、きっと紅音の思った通りにはなりませんわ。美佳帆さまたちに何の罪があるのです。大義名分の無い粛清なんて紅音にとってもマイナスにしかならないですわ」

「・・・いまここの責任者は私よ。社に害を与えないという解釈は私がするの。こいつらは将来私の害になる。この私がそう判断したの。決定は変わらないわ」

「・・・紅音。どうして・・こんな判断あなたができないはずありませんわ!」

「・・佐恵子・・あんたはいっつもそう。そうやって私を見下してっ!・・私の方が2個も年上で能力もあるのよ?!現に佐恵子は私にずっと負けてたじゃない!こないだだって・・!」

「・・・ええ、紅音。貴女は本当にすごいですわ。・・・貴女があの学校に先輩としていてくれたからわたくしは貴女に勝とうと頑張れた部分がありますわ・・。でもわたくし、努力の甲斐も空しく、わたくしは貴女を点数で超えられることは、数えるほどしかありませんでした・・。そして、おそらく戦いでも、まともに戦えばわたくしに勝ち目は薄いでしょう」

「薄い?無いの間違いじゃない?こいつら菊沢美佳帆たちだって4人がかりでもこのザマなのよ?あなたの頼みとする魔眼も私には通用しなかったでしょ?それに佐恵子、あなたどういうつもりか知らないけど加奈子に魔眼をひとつあげたでしょ?それで力の制御ができなくなってるんじゃないの?そんなんで私に勝てる?!」

「・・あげましたわ。加奈子を失うわけにはいきませんから・・蘇生には近しい者の強力な触媒が必要だったのです。・・片目になったせいか上手く力が使えませんが、後悔はしていませんわ」

「蘇生・・?そんなことできる奴が・・?・・まあ、いいわ・・!それでもやるの?さすがに佐恵子に手を出すと色々上が五月蠅そうだし、丸岳くんも難色示すから我慢してたんだけどね!」

「紅音・・わたくしたちいがみ合わなければいけないのですか?・・わたくしの何が気に入らないのか今の紅音の話を聞いて少しはわかりました。わたくしたちにとって足りなかったのは、お互いの理解・・話し合う時間ですわ。・・・あなたの力・・わたくしよく分かっているつもりですわ。生まれついての魔眼のせいで、わたくしのオーラ量は膨大です。ですが、わたくしのオーラ量に匹敵する数少ない人物の一人が紅音ですの。その力を得るには並の才能やセンス、そして努力ではなかったはずです。少しでも自己研磨したわたくしならそれがわかっているつもりです。・・いつか・・わたくしとわかり合えて、紅音と力を合わせられる日が来るかもしれないと思ってましたのに・・。美佳帆さまたちを手にかけてしまうと、わたくしも貴女に対して引けなくなりますわ。そんなことにはなりたくないのです。・・・紅音に、わたくしの紅音に対する感情を見せてあげたいですわ・・。自分で見たことがありますが、紅音に対してはわたくしも一人の人間ですから、感情を抑えきれず色々に思うところは確かにあります。ですが、紅音に対する負の感情は、わたくしそう多くありませんのよ?」

「・・私に敵わないと分かって口でお上手を言う作戦かしら・・?・・じゃあ佐恵子・・あなたが私に従いなさいよ」

「そうではありません。以前から思っていた本心ですわ。でも・・紅音に従うこと・・それはできませんわ」

「なによ?佐恵子あなた何が言いたいのよ?」

「紅音。わたくしに協力してほしいのです」

「私の方が優れているのにあんたの下に付くなんて絶対イヤ」

「・・・わたくしでは紅音を説得する弁を持たないのかもしれません。しかし、わたくしにはやりたいことがあるのです。紅音に従ってしまうと、目的とは程遠いことをしなくてはならなくなりますわ。もっと時間が取れて、わたくしのことをわかってもらえたら・・・紅音にわかっていただけると、きっととても頼りになりますわ」

「・・・」

支社の壁には穴があき、風が吹き抜け消化設備から噴き出している水しぶきに二人は打たれ続けながらも舌戦をしていたが、紅音は思いもよらない佐恵子のセリフに沈黙してしまった。

そのとき、まだ通話中であった紅音の握ったスマホから、普段冷静な丸岳貴司らしからぬ、焦った大声が聞こえてきた。

「紅音!公安の連中の対応に気を取られ過ぎて抜けられた。そっちにとんでもない奴が行ったぞ!紅露や松前もそいつにやられた!強いぞ!油断するな!」

握ったスマホから声が聞こえた時、フロントの方から廊下を凄まじい速さで滑るように向かってくる黒い影があった。

「丸岳くん?!・・いま何て言ったの?!」

佐恵子の遥か後方に、不審な黒い影を視界の端に認めながらも紅音は、丸岳が伝えてきた内容を確認しようとスマホを耳に当てなおした時、すでに黒い影は紅音の目の前まで跳躍し、空中で足を引き絞り蹴る直前の態勢をとっていた。

紅音は黒い影の思いがけない速度に息を飲むが、反射的に【即応反射】という反応速度を向上させる技能を瞬時に発動させて、迎撃を試みる。

しかし、怪しい黒い影は紅音の超反応の速度すら上回った。

(この速さ・・・オーラの量に強さっ菊沢宏!?まさか・・・いやちが・・)

紅音がそう思った瞬間、男が

「赤い髪!てことは、お前が紅蓮やな?!」

と口走ったときにはもう腹部に激痛が走り、

「なっ?!速っ!?ぐぇっ!!」

黑づくめの脚絆に覆面、そして足袋という見るからに怪しい恰好の男が、登場と同時に紅音は腹部を貫く強烈な飛び蹴りを食らわせていた。

【第9章 歪と失脚からの脱出 34話 脅威!紅蓮の炎終わり】35話へ続く



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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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