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第10章  賞金を賭けられた美女たち 27話 恐怖の袁揚仁の精神汚染

第10章  賞金を賭けられた美女たち 27話 恐怖の袁揚仁の精神汚染


(殺った!)

腕の振り、身体の捻転、間合いのすべてが噛み合った自らの突きに、沙織は必殺を確信する。

3尺弱ほどの瓶割刀の切っ先が、グラサンの喉を裂き、喉笛、そしてその奥にある脊椎をも切断する映像が、刃が届かぬ前から、脳にそのイメージを明確に伝えてくる。

沙織はすでに背後の袁揚仁に集中している。

身体を思いきり捻転させた勢いを殺さずに、左手で口に咥えていたメスを、振り返り様、背後に投げつけた。

びゅん!と空気を切り裂く物騒な音と共に、蛍光灯の光を銀色に鈍く反射させて唸りをあげる。

そして、沙織はそのまま間髪を入れず、瓶割刀から右手を離すと、握りこんでいたもう一本のメスに、ありったけのオーラで【鬼気梱封】を籠め、牽制と目くらましで放っていた一投目のメスが死角になるように全力投擲したのだ。

(こっちが本命だ!喰らえっ!)

沙織は心中でそう吼えると、一投目の軌跡の下を狙い通り被るように進む刃に軌道に満足して会心の笑みを浮かべる。

すでに手を離していた瓶割刀からは、その切っ先から、のどの皮膚を裂き、そのまま喉笛に風穴を空け、脊椎をも上下に切断した感触が伝わってきていた。

顔はすでに背後の袁揚仁に向けているので視認はできないが、グラサンを屠ったのは確実である。

(よし!)

そして、沙織の狙ったとおり、袁揚仁は一投目を辛うじて身を逸らせて躱したものの、死角で見えなくした狡猾な二投目は、袁揚仁の左胸に深々と刺さり、白衣を赤く染めた。

沙織はそのまま回転の勢いを殺さず、グラサンの方へと身体を向けて瓶割刀の柄を左手で掴みなおしつつ、倒れるグラサンを視認し喉を裂き、柄に右手を添えて袁揚仁の方へと正眼に構えなおす。

「はぁ!はぁ!・・ざまあみろ・・だ!」

確かに二人が倒れているのを確認した沙織は、沙織らしい勝鬨をかすれた声で上げた。

そして、びゅん!と白刃を振るい、血のりを床に飛ばしてから、沙織はガクリと膝をつく。

残り少なかった精神力をこの刹那にほとんどすべて使い切ってしまったのだ。

そのままお尻を床にぺたりと落とし、ぜえぜえと荒い息をしたまましばし座り込む。

へたり込んだが、刃が毀れるのを嫌うように刀を抱くようにして荒くなった息を整え、汗を腕で拭った。

「はぁ!はぁ!・・やっちゃったけど・・、襲ってきたのはこいつらだし・・、はぁ!はぁ!・・しょうがないよね・・」

全裸で床に尻を付け、片膝を立てた格好のまま、オーラを使い果たしたために、疲労から滝のように流れ出した汗が身体を伝うにまかせ、沙織はその小さな体を薄暗い廊下の蛍光灯で光らせていた。

十秒ほどの休憩で呼吸を整え終わると、沙織は立ち上がる。

沙織はペタペタと足音をさせて、仰向けに倒れている袁揚仁に歩みよった。

「ちっ、けっこう血がついちゃってるなぁ・・キモいけどアンタの白衣貰っていくから」

沙織はそう言うと、袁揚仁の左胸に深々と突き立ったメスを引き抜いて無造作に床に投げ捨て、袁の身体を転がすようにして白衣を剥いでいく。

「ぶかぶかだけど裸でいるよりはマシだしね」

血に染まった白衣を羽織ってそう言うと、長すぎる袖を折りながら、倒れているもう一人の男に目を向ける。

「こいつがなっちゃんさんを海に・・・でも、なっちゃんさんの仇はとれた・・ってことになるのかな。・・・穂香は、御屋形様とコイツとも一緒に来てたって言ってたけど・・襲ってきたんだから、やっぱり敵ってことでよかったんだよね」

グラサンを殺してしまうのは御屋形様の逆鱗に触れるかもしれない行為と分かっていたが、沙織にはグラサンを殺してしまう以外の選択肢は思いつかなかったのだ。

「・・殺らなきゃ・・殺られてたのはこっち・・。きっと御屋形様にわかっていただけるはず・・」

喉を切り裂かれ、大量の血だまりの中で仰向けに倒れたグラサンをそのままうち捨てて行こうかと思ったが、沙織は遺骸のそばへと歩み寄る。

「いつもはさ、殺った相手にこういうことしないんだけど・・・なっちゃんさんにちゃんと報告したいし、御屋形様にも説明しないといけないから貰ってくよ?」

そう言ってサングラスに手をかけ、白衣の胸ポケットにしまう。

そして、見開いたままの宏の視線を嫌うように、手のひらで瞼を閉じてやった。

「さ・・とりあえず一度かおりんと穂香のところにもどろっかな・・」

瓶割刀を鞘に納め背中に背負い、胸の前で背負い紐を結んでそう言ったところで、両手が動かなくなった。

「ん?」

ありえない話だが、最初は結んだ紐が、慣れない白衣の布と接触して引っかかっただけだと思ったが、そうではないことはすぐに分かった。

手首まで折っていた白衣がキツク手首に巻き付いているのだ。

「なっ!?なんだ?!」

沙織は狼狽して、とっさに両手で振り解こうとするが、その両手がすでに動かない。

「くっ!?」

いきなり膝が強制的に曲げられる。

白衣の裾の部分も、生き物のように動きだし、沙織の足に巻き付いてきたのだ。

ガクンと視界が下がり、両膝が床に激突する痛みで顔をしかめてしまう。

そして、その顔に今度は衝撃が走った。

両腕が動かせない為、顔面を床で強打してしまったのだ。

「痛ってえ・・!」

足も動かせない。両ひざは踵がお尻にくっつくほど折り曲げられており、足を延ばすことができない。

うつ伏せのまま、流れた鼻血も拭けずにもがいていると、今度は肘が左右に開き、そのまま抗えない強さで引っ張られ、背中で両肘が合わさってしまう。

「い・・っ!?」

素晴らしい柔軟性を持っている沙織だが、いきなりの身体の動きの痛みで、悲鳴を上げかける。

痛みに耐えながらも、沙織は身体に起こっている異変を確認しようと首を動かた。

身体が操られ、動かされている感覚ではない。

沙織は目を疑った。

羽織った白衣がすでに白衣ではなく、白く硬質で、それでいて柔軟性に富んだ物質に変化し、沙織の身体の表面を這いまわっているのだ。

「わっ!?き、きっしょ!な、なんだってんだよ!」

両足をたたまれて縛られ、肘と肘を背中でくっつけたまま沙織は狼狽しつつも、恐怖を振り払うように大声で怒鳴る。

背中に背負っている瓶割刀は背骨にそってまっすぐになり、両足首を縛っている白衣と連結されてより強固に固定されてしまう。

肘と肘の間にも鞘が挟まり縛られ、手首と手首も鞘を中央にして首の後ろほどで固定してしまったのだ。

「くそ!!くっそ!なんだよ!袁揚仁の服が・・・?!死んだ後でも発動するなんて聞いたことねえぞ!・・それとも・・他に誰かいるのか!?」

沙織の後ろ髪にも、もはや白衣と呼べなくなった白い物体が絡みつき、それは項を這い、首筋まで届くと、頤を持ち上げるようにしてのけ反らせたまま固定してしまう。

自らが背負った刀に手足を折りたたまれて縛られている恰好になった沙織は、屈辱と恥辱にまみれながらも、周囲に向かって怒鳴る。

「誰だ出てきやがれ!」

しかし周囲に気配はない。

ほとんど動かせない不自由な頭を左右に振り、目を走らせるも、うつ伏せで芋虫のようにみじろぐのがやっとの沙織では、自分の周囲を十分に見回すことができない。

せめて、オーラによる攻撃を防ごうと【不浄血怨嗟結界】を張ろうとするも、もはや沙織にそれを展開する余力は残っていなかった。

菊沢宏の制止を無視し、袁揚仁に斬りかかる前にその技能を展開していれば、今の結果にはなっていなかったはずである。

袁揚仁は、沙織が菊沢宏の制止を聞かず斬りかかってきた瞬間、沙織の脳へと直接精神汚染攻撃をしかけていたのだ。

菊沢宏が鋭く舌打ちをしたのは、袁の攻撃の射程内に沙織が入ってしまったからでった。

沙織は、躍歩縮地で一気に距離を詰めようとした瞬間に、袁の強力な術中に囚われていたのだ。

白衣を羽織ったのは幻覚の中。

いまだに薄青い患者衣を纏った沙織は、背中に背負った刀の鞘に、足首を交差させ、右の肘を鞘の左に、左の肘を鞘の右側にして鞘を背面で抱えるようにしている。

両手は刀の鍔を、指で絡めてがっちりと握りこんでいるのだ。

「くっそ!てめえ!やめろっ!誰に何してんのかわかってんのか!?くそっ!タダじゃおかねぇ・・!」

無理な恰好で拘束されているため、患者衣の裾はめくり上がり、沙織の白い臀部が丸見えになって、その中央の秘部も露わになってしまっている。

沙織は、幻覚の中では元気に怒声を浴びせているのであろう。

現実の沙織も幻覚の中で上げている怒声と同じセリフを口走ってしまっている。

しかし傍目に見れば、沙織の見た目だけで言うと、そういう趣味の者が、床でセルフ拘束プレイをしているように見えてしまう。


現実では…


「くそっ、思った以上に強力な催眠やな・・。・・やっぱり無理やりにでも止めるべきやったか・・」

宏は袁揚仁の側刀蹴りを防いでそう言うと、距離をとるようにさがって、床で芋虫のように転がっている沙織を庇うように位置をとる。

沙織が袁揚仁の術中に一瞬で嵌り、一人幻覚の中で戦っている間にも、宏と袁揚仁は拳を交えていたのだ。

(このにいちゃん・・とんでもない術式展開の速さや・・・。その子がオーラ防御を展開せんと、油断しとったとはいえ、一瞬で絡めとりよった・・。俺もコイツの精神波攻撃の防御で手一杯やったけど、無防備やったらその子みたいに一瞬で取り込まれてまうってわけか・・・。精神に直接働きかける技能使える能力者が栗田師匠や宮川支社長以外にもおるとはな・・。俺も多少使えるには使えるけど、コイツのは俺の精神攻撃よりだいぶ射程も長いし、ずいぶん強力や。それに、宮川支社長みたいにタメも長う無いし、発動後の隙も少ないときとる。並みの使い手やあらへん。・・・ガチの殴り合いやったらどうにでもなりそうやが・・、そう甘うない。・・アイツもそれがわかってるから、距離詰めさせへん戦法を熟知しとる・・。その子の縮地もでたらめな速さやったけど、射程と術の威力で、その子の速度を上回って一気に仕留めよった・・。張慈円とはぜんぜん違うタイプや。・・・だてに香港三合会の幹部やないちゅうわけやな・・)

宏は、袁揚仁を油断なく注視しながら後退り、無様な恰好で拘束され、うつ伏せで床に這いつくばっている沙織の傍まで近寄ると、腰を落として沙織の首筋に手を当てて脈を診る。

(脈は荒いが無事や・・。死ぬような幻覚はみせられてへんみたいやが・・これは・・。エグイ幻覚みせられてるみたいやな・・。くそっ!・・もうちょっとだけ頑張るんや・・。壊れんなよ・・・!)

宏は、沙織が死に直結する幻覚を見せられていなさそうなことを、表情に出さずにほっとしたもの、見せられている幻覚に見当がつき、不快気に眉間を寄せた。

そして、幻覚の為にヒップや腰を振ってしまって、めくり上がった臀部とその中心まで露わにしてしまっている部分を隠すように、患者衣の裾を直してやった。

沙織の表情は恥辱と屈辱に耐えるように目を閉じ、涙で顔をぐちゃぐちゃにして嬌声を上げまいと可愛い犬歯を見せて歯を食いしばって耐えている。

幻覚内で態勢を替えられたのであろう。

沙織は自力でごろりと仰向けになり、患者衣を完全にはだけ、手足を背中で拘束したままの格好で、蛍光灯の光で白く光った汗に濡れた裸体を惜しげもなく晒し、荒い呼吸で胸と腹を艶めかしく光らせている。

「ちっ・・」

宏は自身の防御力が下がるにもかかわらず、慌ててアーマースーツの上着を脱いで上半身裸になると、沙織に掛けてやる。

そうしている宏に袁揚仁は隙を突いて攻撃はせず、代わりに声を掛けてきた。

「ふーん・・改めて聞くけどさ君は誰なんだい?高嶺弥佳子の部下なのかい?それとも宮コーの手先なのかい?・・・僕はその子がさっき言ってた通りで袁揚仁。香港三合会の夢喰いの袁揚仁と言えばわかるのかな?」

宏と袁揚仁は、軽くではあるが今まさに干戈を交えた仲である。

袁揚仁は絡め手で戦う自身の戦法に上手く対処してくるサングラスの男に、強く興味を掻き立てられ出していたのだ。

(僕の神経干渉に気づいて防御網張ってくるなんて芸当は、初対戦だとほとんど対処できない奴だらけなのに、この男は対処してきた。僕以外にもそういう使い手と戦ったことがあるのかもしれない・・。それに体術だけみても、張慈円の上をいくかもしれない・・。まともに戦ったら僕に勝ち目は薄いな・・。これほどの使い手は久しぶりに見るなあ。何者なんだ・・?高嶺の子たちの話しじゃ、張慈円を探してるって言ってたな。何者なんだ・・・?)

袁揚仁は対峙している男が、沙織がせめて裸体を晒さないように自らのジャケットを駆けてやっている様を観察ながら、その男の実力の高さを、拳を交えたことで、認めさせられていた。

そして、できれば自分の運営する変態サイトのハンターとしてスカウトできないかとすら思い始めているのだった。

もっとも、自身の妻や仲間達が賞金首として掲載されているサイトを運営する袁揚仁などに、宏が組するわけもないのであるが、袁揚仁はもちろんそんなことは知る由もない。

「その名は聞いたことあるわ。せやけど興味はないな。俺は個人的な用があって、張慈円を探しとるだけや」

袁揚仁の観察するような視線に気づきながらも、袁揚仁の真意などに興味のない宏は立ち上がって振り返りながらそう返す。

「なるほどね・・。張慈円を恨んでる人はこの国じゃ多いだろうからね。彼はやり口が荒っぽすぎるのさ。でも僕は張慈円ほど荒っぽくはないはずだよ?」

袁揚仁は苦笑し、宏に警戒を解いてもらう仕草として両手を広げてにこやかに切り返す。

「はぁ!はぁっ!・・・くぅ!!いっくぅ!・・ああ!もう!もうやめてくれ!二個も入れないでくれ!・・ち・違っ・・!そっちは違うだろ?!ああっく!い、いやだ!・・許してくれよ!抵抗できないからさ!・・ああ!やめろぉ!後ろには入れないで!!・・うっぐっ・・!・・う・・!ひっく・・えぐ・・!このやろう・・!そっちはダメだっつっただろぉ!?・・・あああああああ!?切って・・スイッチ切ってくれよ!ひっ!なっ!・・や、やめろ!踏まないでくれ!!踏まれるなんて嫌だ!あああっ!っくっ!うくっ!・・・足をっ!足をどけてくれぇ!!・・こんな逝きかた嫌だっ!・・ああああっ!!!いくっ!」

袁揚仁のセリフを遮るように、不自由な恰好で床で這うこともできずいる沙織が、悲痛な叫び声をあげだしたのだ。

幻覚の中の沙織は厳しく拘束され床に仰向けにされた状態で、ローターを膣に2個、アナルに1個押し込まれスイッチを入れられたのだ。

そのうえ、沙織を見下ろすように取り囲んでいる男女が沙織の胸や顔、そして秘部を足蹴に踏み付けてきたのだ。

沙織は仰向けのままの踏まれまいと、拘束された身体を右に左にゆすって逃げているが、逃げ切れるものではない。

うつ伏せに転がって身を守ればいいように見えるが、幻覚内ではそうできないように足で踏まれ抑えられているのだ。

幻覚の中では沙織は自分でも気づかない性癖をほじくり返され、それを幻覚として見せられているに過ぎない。

しかし幻覚内での行為とは言え、幻覚中でも実感は実体に受けているものと変わりはなかった。

快感は快感だし、痛みは痛みとして感じる。

そして、幻覚内で迎えた死は現実の死でもある。

「・・三合会の袁揚仁か・・。・・どうやら、俺は個人的な理由で、どうもアンタのこと好きになれそうになさそうや」

宏の声のトーンが低くなった。

宏を気に入った袁揚仁とは異なり、宏は袁揚仁の発言、仕草、先ほど香織や沙織とのやり取り、そして沙織を囚えている幻覚の中身を推し量って袁揚仁をクズ認定したのだった。

その宏の声のトーンに、袁揚仁の表情が笑顔のまま固まる。

宏の冷たい言葉の裏に、激しい怒気が隠れているのを見抜いた袁揚仁は、上手く懐柔しようと試みたのだが、少し路線を変えてみる。

(なんだかピュアな人のようだね・・。南川にはもう少し違う夢を見せてやるべきだったかな・・)

袁揚仁は、男はみんな好みこそ違えど、女に対しては性欲や征服欲をもって従わせたいと思っているはずだと思っている。

宏にもそういう欲が無いわけではないが、宏と袁揚仁では心の清廉さが違い過ぎるのだ。

「・・・せやけど、この女を見てる幻覚から解放して張慈円の居場所言うんやったら、半殺しで勘弁したる。・・もともとオマエなんかに興味はあらへんからな。それで終わりにしてやるわ?・・というわけや。とりあえずその不愉快な幻覚解いてやれや・・オマエにとったら敵なんかもしれんけど、女にこんな幻覚みせてオマエマジで胸悪いわ・・・。それからでええで?張慈円の居場所言うんは?」

沙織は手足を背中で自ら拘束し、仰向けで嬌声を上げ時折身体を振るわせている。

脳を支配され、不自由に拘束された格好で、体内にいかがわしい大人のオモチャを複数入れられて、大人数に弄ばれている幻覚でも見せられているのだ。

「はぁ!はぁっ!・・やめろっ!もう何度も・・っ!・・もうやめてくれっ!降参しただろ?!嬲らないでくれっ!!こんな玩具で・・!足で・・踏まれて果させないでくれよぉおお!ああああっ!私は六刃仙なんだぞ!?・・こんなことされたの知られたら降格されちまうんだ・・!いや・・それどころか粛清の対象になっちゃう!・・後生だ!私が死んだら・・!弟の治療費がはらえなくなっちまうんだよぉ!頼む!殺すなら殺してくれ!・・こんな凌辱を六刃仙の私が受けたなんて知られたらダメなんだ!あああっ!やめてええ!」

絶頂を迎えても、幻覚の中では沙織の心を折る宴は続いている。

犯されるでもなく、弄ばれてただただ遊ばれているのだ。

犯されてしまったのならば、果ててしまっても言い訳が立つ。

男が女を性欲のはけ口に使うのも、女としてある程度理解できる。

しかし、沙織は犯されているのではない。

普段の沙織を袁揚仁も菊沢宏もほとんど知らないが、沙織があげている悲痛な叫びを沙織を知る者が知れば、さぞ驚かせただろう。

単三電池数個で動くプラスチック製のおもちゃを女性器と排泄器官にねじ込まれ、大勢の男女に取り囲まれて顔や胸、そして股間を踏まれ刺激される幻覚を見続けさせられているのだ。

そして、そのような幻覚ですら果ててしまうことを露呈してしまっている。

普段は勝ち気な沙織も、拘束された格好で身じろぎもままならない恰好で、男女複数人に足で愛撫されては、自慰すらほとんどしない欲求不満気味の身体では我慢できなかったのだ。

「ふふふ、聞いたかい?傑作だよ。笑えるね。気丈に頑張っても僕の幻覚からはちょっと自力じゃ抜け出せないからね。僕に脳にジャンクションされた時点でその子の隙は丸見えだし、その幻覚も僕が無理やり見せてるわけじゃないんだよ?その子が潜在的にそういうことで発情しちゃうっていのが僕にはわかっちゃうからね。まあ、無理やり死ぬような夢もみせられるけど。それじゃあ、せっかくの女を十分に楽しめないからね。その子は好みじゃないけど、女は恥辱や屈辱で心を折るに限るよ」

沙織は床に後頭部をこすりつけ、涎を垂らし、のけ反った顔には屈辱と恥辱と快楽で歪んでいる。

「・・・大抵この手の能力は、能力を解除したあとでも記憶は残る・・・。お前の術も相手の記憶自身は操作まではできへん。せやから、今見せてる幻覚もしっかり記憶に残るわけや?・・そやろ?」

「へえ・・ご名答。君はなかなか博識だね。知り合いに精神系の能力者でもいるのかい?僕みたいな能力者は珍しいタイプなんだけどね?」

宏の怒気をはらんだ質問に、袁揚仁はお道化た感じすら漂わせて感心してみせる。

「大抵の能力者がオーラを攻撃の手段とするときに、肉体を強化するか、もしくはオーラを何かに変質させてる人が多いんだよね。・・同胞の倣華鹿女史もオーラを冷気に変換させてるけど、肉体強化はともかく、人間を攻撃するのにオーラを変質させる必要なんてないんだ。直接脳をオーラで攻撃すればいいんだからさ。燃費もずっといい。オーラを何かに変質させるのはイメージしやすくて簡単だけど、その具現化した物質や現象にどうしても効果や威力が依存しちゃうからね。炎や雷ならともかく、冷気なんて特に限界値が低いよ。-270度ぐらいにしかならないからね。いくらイメージしやすいからって、倣女史の氷じゃ殺傷能力がどうしても低くなっちゃうのは道理さ。せっかくオーラ量が豊富なのにもったいない使い方してると思うよ。まだ倣華鹿女史が連れてるザビエラみたいに振動とか上限のない現象を具現化するほうが利口さ。まあ、・・彼女は精神防御がそんな強く展開できないみたいだから、僕の射程に入ったらなんとか篭絡できそうだけどね。肉弾戦で彼女を打ち負かすのは相当タフな作業が必要になると思うけど、直接脳に精神攻撃したらあっけないはずさ。その子みたいにね。・・・その子の剣技をまともに相手にしてたら、いくら僕・・いや、張慈円だってタダじゃすまないはずさ。・・でも、・・いくら強くても僕にかかればあの様・・・。まともに戦えば勝てる相手にあんな目に合わされて、あんななさけない恰好で喘いじゃって笑えるったらないよ。」

袁揚仁は饒舌にそう言って沙織を指さした。

そう言って笑う袁揚仁の顔は整った顔ではあったが、邪悪な嗜虐心に満ちた内面がにじみ出ている。

そして、床の上で身体をびくびくと動かし、身じろぎも満足にできず喘いでいる南川沙織を見て愉快そうに声を上げて笑ったのだ。

「はははっ、能力を持った強い女がのたうち回るのはやっぱりいいもんだね。その子は全然好みじゃないけど、それでも十分楽しめるよ。君もそうは思わないかい?別に彼女は味方じゃないんだろ?」

その言葉に、宏の眉の角度が上る。

「・・・張慈円も救いようのないカスやが、お前も同類のドブ臭さがするな。これ以上俺の機嫌が悪ならんうちに、この子の幻覚解けや。この子はオマエの幻覚にまるっきり抵抗できてへん。もうオーラがないっちゅうことや。勝負はついとるやろが?」

宏も精神を直接攻撃する手法を心得ているだけに、それに抵抗できなかった者がどうなるかよくわかっていた。

宏も、探偵業で情報を人から引き出すとき、相手の脳に直接干渉し、冷たさや熱さを感じさせる幻覚を感じさせて尋問するときがあるからだ。

オーラの量や、その操作の巧拙の差が大きければ、仕掛けられた方は抵抗することはほとんどできないことを、経験を持って知っていたのだ。

肉体強化の優劣で勝負するのならば、敵わなければ逃げる手が残されている。

術系の能力であっても、炎や氷、水や風などはわかっていれば対策がとれる。

しかし、精神感応系の能力の優劣の差は、勝敗を即座に分けるほど凶悪なのだ。

精神汚染攻撃を遺伝で目を発動器官として、高確率で継承し続ける宮川一族が恐れられるのはその能力の種類の為でる。

それに南川沙織の容姿は、宏から見れば二十歳前後に見えたことも、同情と憤りを助長していた。

実際に宏は沙織の年齢を完全に誤解して20前後だと思っているのだ。

「こんなまだ女にもなってないような子を・・!」

「?・・君は年上好みなんだね?・・・でも、この子は僕のこと2度も蹴ってくれたからね。お仕置きが必用なのさ」

南川沙織の年齢を知っている袁揚仁からすれば、宏の発言の意味が分からなかったが、とにかく袁揚仁は南川沙織をまだ許すつもりはないようである。

しかし宏の脳内では、すでに袁揚仁を張慈円と同じフォルダに入れてしまっていた。

すなわち「殺すリスト」フォルダにである。

宏は、南川沙織が大塚マンションを強襲し、斎藤アリサのアキレス腱を斬り、神田川真理の首を斬ったことも知っている。

それでも袁揚仁が女に対して行う、女性蔑視で女を甚振るのを快楽とする行為を容認することは宏の性格上吐き気を催す行為なのだ。

宏が必要以上に、袁揚仁の沙織に対する行為や、女性に対する考え方に大きな怒りを感じてしまうのは、宏の謎の死を遂げた父の教えとその父の相棒であり、実質の宏の師匠でもある栗田教授の影響が大きい。

それに、術に完全にはまってしまっているということは、幻覚の内容を変えられてしまったら、袁揚仁は南川沙織をすでに容易に殺せるということも意味している。

「もう十分やろ?術解除せえ言うてるやろが?」

「何を言い出すかと思えば・・、勝負で負けたんなら、そういうことも含めて受け入れるべきだよ。甘いこと言うね君は。それにその子は高嶺六刃仙の一人。君は高嶺じゃないんだろ?関係ないじゃないか?それにあんなに強さに自信を持っててイキリ散らしてた女がだよ。見てみなよ?はははっ!涙と涎と鼻水だらけの顔で鳴きわめいてるんだよ?ははははっ!笑わずにいられるわけないじゃないか?あははははははっ!」

「バカ笑いやめや・・もうええわ。お前ちゅう人間がようわかった・・。胸糞悪いゴミ野郎が。もう言葉は不要や。いくで?」

宏は、小さな声ながらも感情を露わにして怒気を孕んだ拳をきつく握りしめて構えなおした。

声は小さいが、そこに含まれた怒りは大きく、それは袁揚仁にも伝わったようである。

追ってきた張慈円を今度こそ確実に仕留めることを目的としていた宏だが、目の前の男に集中することに決めたのだ。

宏のセリフと態度に、香港三合会三幹部の一人、夢悔いの袁揚仁の顔から笑みが完全に消えた。

「・・従わない男は全くの価値ゼロだからね。仲間に誘ってあげようと思ったのに・・。もう、後悔しても遅いよ?」

そう言うと袁揚仁は両手を腰の高さで左右に広げて、初めて構えらしい構えを取ったのであった。

【第10章  賞金を賭けられた美女たち 27話 恐怖の袁揚仁の精神汚染終わり】28話に続く
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筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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