あの見積書をFAXする時に
キチンと目を通していれば・・・
本当に悔やまれる。
悔しくて悔しくて仕方がない。
私はあの超絶ナルシストの稲垣に
土下座を強いられた。
しかもドットクラブという
聞いた事も無いようなSMホテルで・・・
あの我儘王子の考える事など
理解もできないがあのような
ホテルで私を土下座させようと
考えている事
事態が理解不可能だが
先程お手洗いでスマホで
調べた限りとてつもなく
怪しげな室内の紹介が
されていた。
あの画像でみたような
器具に私を拘束して
何かする気なのだろうか・・・
考えただけで吐きそうだ。
どうする?
行く行かない?
もうすぐ就業時間が終わる。
ついさっきLINEが届いた。
稲垣からだ。
【稲垣真一:土下座して謝って
みる気があるならさっき渡した
場所に何時くらいに来れるか
返信ください。
就業時間までに返信無ければ
謝罪の意思なしとみなします。
謝罪してもいつものふてくされた
態度なら僕の気は全く変わらない
けどね。
謝罪しても変わるかどうかは
解らないけどそれは中村さん次第
だから。
それでは意思表示を宜しく】
文章だけでもこれほど
人を苛立たせる事ができる
なんてある意味天才だわ。
何でこんな人が営業成績
1位を取れるのだろう・・・
しかしそのような男に
借りができてしまい今
土下座を要求されているのも
事実。
そして彼に謝罪をしなければ
ほぼ100%今の仕事の契約の
次の契約更新が貰えない。
非正規雇用の弊害だわ。
しかしそんな愚痴を言っていても
何の解決にもならない。
主人の弘樹君に相談できる事
でも無いし・・・
もしかしたら主人なら
聞いてくれるかもしれないが
もうそんな時間すら無い。
田尾さんに相談する?
田尾さんなら・・・
しかしいくら田尾さんが
工事部門の実力者であっても
営業部門の人事にまで口出し
できないし・・・
とりあえず・・・
謝罪に行こう。
彼の事が好き嫌い関係なく
私も軽率であったのは確かだし。
土下座するかどうかは別として
そして私は就業時間終了間際に
【中村美香子:先程頂いた
メモの場所へ終業1時間後の
19時にお伺いします。】
とだけ送った。
稲垣からは
【稲垣真一:賢明な判断だと思うよ】
とだけ帰ってきた。
そして終業のチャイムが鳴り私は
スマホで調べたドットクラブなる
ホテルへ向かった。
佐川鋼管工事からは私鉄で駅2つ
移動すれば駅の東出口を出て妖しい
歓楽街の中にそのドットクラブ
はあった。
場所だけ確認して私はまだ入らずに
時間ぎりぎりになってから行こうと
思い自動販売機でアイスレモンティーを
買い飲んでいたら、黒いスーツを着た
見るからにチャラそうな男の子に声を
掛けられた。
内容は
結婚していますか?
私は正直に
はい
と応える。
良い仕事があるのですが
興味ないですか?
無いと言ったら嘘に
なるし今はタイミング的に
いつもより興味はあるが
男性がとてつもなく
妖しすぎたのでとりあえず
無いです
と応える。
男性はそうですか残念です。
だいたい時給で最低5000円くらいには
なるのでもし興味出たら
連絡下さいと名刺を渡された。
男性は意外にあっさり
引きさがり去っていった。
渡された名刺には
【人妻専門ヘルス:舞姫】
と書いてあった。
時給5000円?
今のおよそ4倍じゃない・・・
しかしこれは・・・
明らかに風俗よね・・・
名刺には店名と手書きの
携帯番号でカタカナでヒロキ
と書いている。
偶然ね。
主人と同じ名前だったが
見た目が違い過ぎでしょ?
と笑いがこみ上げるが
この後の事を考えたら
すぐに笑う気も無くなった。
おそらくはこの携帯番号が
今の若い茶髪のチャラそうな
男の子の番号ね。
20歳そこそこのチャラそうな
男の子に風俗店の勧誘を受けて
いるとあっというまに時間は
経っていて稲垣に部屋に行くと
連絡した終業1時間後の19時
にあと10分を切っていた。
仕方ない・・・
腸が煮えくり返る思いでは
あるがミスはミス・・・
土下座はともかく謝るだけでも
しなきゃ・・
万が一でも首になったら・・・
私は稲垣が私を許すまで
彼の土下座を始め色々あの
口調で嫌味や勘に触る事を
言って来られた時に自分が
キレてしまわない自信が無かった。
そしてここに来るまでは
辞めるという選択肢はなかったが
さっき渡された名刺・・・
時給5000円・・・
いやいやありえないでしょ・・・
例え本当に時給が5000円だとしても
風俗よっ!
勤めたとして・・・
弘樹君に何て説明するのよっ・・・
佐川鋼管工事辞めたけどすぐに
仕事決まったわ・・・
佐川鋼管工事よりは通勤は
少し遠くなるけど
時間は同じくらいだから?
普通の事務の仕事だよ。
って言えば信じそうだけど・・
ありえないありえないっ!
私はこの時風俗の仕事と天秤に
掛けるほど稲垣に謝罪をする事
稲垣と同じ空間に居なければならない事に
ストレスを感じていた。
辞めれない状況の仕事を辞めたく
なるほどに彼は私の天敵。
受け付ける事ができない
人種であったのだ。
そして19時を前にして私は洋風の
建物のような濃い目の赤に塗られた
建物に入り稲垣に指定された部屋に
向かっていた。
《第5章 悲報 第16話 謝罪か退職か 中村美香子》
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