おそらくこのテナントの
4階は一切使われていないのであろう。
1階から3階までとは打って変わっての
静けさだ。
ぎりぎり日本語が通じる外国人2人に
挟まれる形で私は階段を上り4階へ
着いた時にそう思った。
この界隈では10階以上のビルが
立ち並ぶので周辺のビルの物陰になり
窓から入って来る太陽の光が乏しいのも
4階の寂しさを感じさせる。
なるほど・・・
橋元社長が自分で使うために
ワンフロアを空けているのね。
しかも用途は仕事に使うのではなく
自分の趣味や悪事の為と言うのは
深町さんの話と照らし合わせるとそう結論づく。
私は4階に着いた瞬間どの部屋に
お義父様が居るか解っていたので
2人を置いてけぼりにするくらいの
速度で歩き部屋の前で一瞬立ち止まり
この部屋で間違いないと確信すると
勢いよくドアノブを開けた。
後ろから私を車の中まで探しに来た
アジア風の外国人2人が私を押しのけ
中に入るが私はドアノブを開けた瞬間
あまりにもの部屋の光景に絶句して
その後涙がこぼれてきて先程の
ビジョンアイで外国人の男から
絵を見た時以上の怒りがこみ上げてきていた。
「お義父様!!」
私が絶句して立ち止まっている状態から
一転部屋の右隅に天井の下に
通る鉄パイプに繋がれている鎖に
上半身は裸の状態で腕を後ろ手に
縛られそこから鎖で繋がれている
お義父様の元に駆け寄ろうとすると
大柄な黒人系の外国人の男に腕を
摑まれ取り押さえられた。
「オネエサンチョットマッテ」
「放して下さい!お義父様っ!
響子ですっ!大丈夫ですかっ!
起きてくださいっ!お義父様っ!」
私は黒人系の外国人の男に
取り押さえられ動けない。
そしてお義父様ばかりに集中して
いた視線は私に話しかけてきた
人の声により部屋全体を見渡せる
までには冷静さを取り戻す。
「いらっしゃい~
小田切響子先生。
すみませんな~
アンタのお義父さん
アンタの仕事を断りに
来たまでは良かったのですが
私の事が余程嫌い
だったのか急に
暴れだしましてな~
取り押さえるのに一苦労
でしたわ~
なあ水島さん」
橋元社長!
この人がお義父さんを・・・
私がもう二度と会いたくないと
思っていた橋元社長がそこに居た。
そして部屋の窓際にある机の前に座る
橋元社長の横に今橋元社長が声をかけた
少し前頭部が広めのオールバックの
キツネのような容姿の水島と呼ばれた男が
居る。
「ええ。
それはそれは
もう。
しかしあれだけ
暴れられるとただで
返す訳には行きませんな~
社長。」
「それは
この小田切響子先生が
迎えに来てくれたのですから
この響子先生に責任を取って
もらうことにしますわ~
ははははっ
先生も酷いですな~
私の仕事を断るのは
良いけどそんな事は自分で
言いに来て貰わな困りますわ~
う~ん。。。
今日は・・・どうかなぁ・・・」
ビシーーーーンッ!!!
はぅっ・・・
これはあの時の・・
私の心を掴もうと・・
あっ掴まれたっ!
油断していたっ
あの時は
冷静だったから
何とか弾き返せたが・・
この人・・
一体何者なの?
今何をしたの・・・
「橋元社長・・・
お義父様が暴力を振るう
ような方じゃないのは
あなたもお会いしてお解り
なのではないですか・・・
そんな事お義父様がするわけ
がありません。
それにあのような酷い
事は早く止めて下ろして
あげてください。
私が仕事をお受けできないのは本当に
申し訳ございません。
それに関しては私が悪いのであって
お義父様には責任はございませんから・・・
お願いします。
お義父様を解放してあげて下さい。」
私は黒人系の大柄な男性に腕を掴まれ
動けない状態で橋元社長を正面から
見据え懇願するように強く抗議をするように
訴えかけた。
「ええ。
ええ。
かまいませんとも。
この人にはもう用はないですからな~
私が用があったのは小田切響子先生
アンタなのですからな~
ほうほう。
今日は調子が良いみたいですわ~
色々解りましたよ~
アンタの事が・・・
ふんふん。
さっきお義父様の
省三先生とも色々お話しさせて
もらいましたがね~
アンタ達相思相愛ですか~?
そうじゃなきゃたかだか旦那の父親の
事でそこまで血相変えて怒らんでしょ~?」
「へ~そうなのですか?
社長?」
橋元社長は私の目をみつめ
口調はふざけてはいるが真剣な
表情で信じられない事を言う。
その横で聞いていた水島と呼ばれた
男が無言で応えない私の変わりに
橋元社長に応じる。
(この人はまさか・・・
私と同じ力を・・・
いや厳密に言うと同じでは
無いかも知れないかもしれない
しかし何らしか相手の心の
奥底まで覗けるような力が
あるとでも言うの?
私のビジョンアイとはまた
違うのだろうけどさっき
心を掴まれた絵が見えた・・・
それがそうなのかも・・
それでなければ私のお義父様に
対する思いがたった2度会った
だけで解るはずなどない・・)
私は橋元社長から視線を反らし
大柄な黒人系の男に腕を掴まれ
動けないま斜め下の床を見ていた。
「その通りですわ~
小田切先生。
いやしかし本当に義理の
お義父さんとSEXしたいと
思っていたとはね~
がはははっ
そんなふしだらな方にはとても
見えんがね~
しかし今アンタが考えている事は
全部正解ですわ~
がはははははっ」
えっ?
私はカァァァと頬が熱くなるのを
感じた。
お義父様が気絶されている事
だけが救いだった。
しかし心を覗かれそれを人前で
公言されると言う事がここまで
恥ずかしい事であったとは・・・
それにあの下品な笑い方が私の
集中力を欠くのに凄く力を貸している。
あの音階は私には天的なようだ。
「へ~そうなんですか?社長?
こんなにお上品な顔している先生なのに
何という淫乱な女なんでしょうな~
ははははっ」
横にいる水島と言う男も私には受け付けない
人種であるように思える。
しかしこの状況下で私は何としても
お義父様だけは無事に取り返したいと
思っていた。
あの橋元社長が私の心を覗けるならそれも
もう気づいているはず。
そしてこの横で私を掴み動けなくして
いる男から見える絵は私を犯している
絵だ。
最初からこの人達はお義父様と
引き換えにこの私に辱めを与える
事を目的としていたのだ。
それが解れば私がどう応じるかも
橋元社長には伝わっているはずだ。
どうぞお好きなように・・・
その代わりにお義父様には
これ以上危害は加えないと約束
して下さい。
私はそのように心で念じてみた。
「素晴らしいっ!
凄い覚悟ですな~
小田切響子先生・・・
アンタのような方を私は
探してたんですわ~
そこで1つ提案なんですがな。
アンタの覚悟は解りましたわ~
しかしもう1つアンタとお義父様が
ここから無傷で帰る方法があるんですわ~
アンタ私と同類ですわな~?
人間性の事を言うてるんやないですよ~
まあアンタならこの意味解ると思いますが
そこでね。
アンタ私と組みませんか?
今後もビジネスパートナーとしてね。
そうすればこの小田切省三先生も
アンタも今すぐここから立ち去って
貰って結構ですわ~
それが無理ならアンタがその隣に居る
マイクから見た景色を演じてもらう事
が私への謝罪になりますかな~」
この人は悪魔だ・・・
この悪魔のような人から出された
提案は悪魔の手先になる事がここから
立ち去る条件だった。
それに応じなければ私は誰にかは
解らないし
もしかしたらここにいる
人全員かも知れないが
ここでこの人たちの
慰み者になりその見返りに
お義父様は助かる。
どちらにしてもお義父様にこれ以上の
危害を加える気は本当に無さそうだと言う
事だけは解ったのでひとまず安心した。
しかし・・・
私は悪事に手を貸す気は無い。
ましてや橋元社長が欲しいのは
私のビジョンアイの力だと彼は
私にだけ分かるようにそう言っている。
そんな事できるはずもない・・・
だとしたら・・・
私は・・・
それならせめてお義父様をこの
部屋から退室させてから・・・
「強情な人ですな~
アンタももう結論は出たみたい
ですな~
おい。
張起こしっ!」
水島と言う男の反対側の橋元社長の
脇に立っていたアジア風の外国人。
張と呼ばれた男がお義父様に近づいていく。
「お願いします。
お義父様に乱暴はしないでくださいっ!」
「いやいや。
響子先生。
乱暴はしませんわ~
アンタがお義父さんを
救う為に今から頑張る姿を
お義父様にも見てもらわんとな~」
「えっ・・・
嫌っそんな・・・
わたくしあなた方の
言う通りに致しますから
せめてお義父様は
先にここから退室させて
下さい。」
私は懇願するが橋元社長は
また下品な笑い方で大笑い
しただけで張と言う男は
電気ショックを与える様な
機械。
あれがスタンガンという物
なのだろうか?
私もTVでしか見た事無い物だが
そのスタンガンをお義父様を当て
バリバリッという音が鳴る。
「お義父様っ!!」
私はマイクと呼ばれた外国人を
振りほどくくらい暴れたが力では
かなわずに羽交い絞めにされたまま
叫んでいた。
「うっ・・・・
橋元っ!・・・
お前と言う男は・・・
!!
響子さんっ!!
響子さん何故来たっ!
深町君はっ!?
深町君は一緒じゃなかったのかね?
橋元娘には一切手出しするのでは
ないぞっ!
私が仕事を引き継ぐからっ!」
「お義父様っ!
ごめんなさいっ!私のせいでこんな・・・」
「いや響子さん良いんだ・・・
橋元っ!私が仕事を・・」
バリバリッ!!
また張と言う男がお義父様にスタンガンを
当てる。
「あぐぅっ!!」
「オマエウルサイ。
スコシハダマルッ!」
「がはははっ
さすが張。
私が言いたい事を
よく解っている。
小田切先生~
今から響子先生は
あなたを救う為に
一肌脱いでくれるんですから~
あなたもよ~く見ておいて
くださいよ~」
「なっ何をバカな事をっ!
橋元やめてくれっ!
娘には手出しせんでくれっ!
頼むっ!
響子さんバカな事は
するんじゃないぞっ!
響子さんっ!」
バリバリッ!
「オマエダマレッ!
アノオンナニモコレクラワセルゾッ!
ツギクチヒライタラ
アノオンナノニョインニコレアテル!
イイナ!」
「うぐっ!
うっ・・・」
「やめてくださいっ!
お義父様わたくしは大丈夫
ですから・・・
お義父様に乱暴しないでくださいっ
橋元社長どうすれば
宜しいですか?」
私はこれ以上お義父様にあの
スタンガンを当てられるのを
見て居られなくて
早く橋元社長の
言う
【責任の取り方】
を聞き
実行したかった。
お義父様を起こされたのは
誤算で非常に恥ずかしいし
もしかしたら主人の恵三さんの
前でされるよりも嫌かも知れないが
今何より優先すべきものは
お義父様の無事であった。
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