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第8章 三つ巴 42話 雷神VS銀獣 

【第8章 三つ巴 42話 雷神VS銀獣】


スタジオ野口は府内東側の郊外にあり、敷地は府道に面してはいるが、建物の周囲は木々に囲まれ、太陽がでている時間帯に訪れた者は、街中の雑踏や騒がしさを暫し忘れ、美しい景色や鳥たちの囀りで心を癒すことができただろう。

オレンジ色の焼瓦の屋根に白い外壁、バルコニーにある淡いグリーン色の金属製の手すりや三角屋根にある風見鶏、広場には褐色のレンガが敷き詰められている。

上空から見ると駐車場の中心にシンボルツリーとして植えられているクスノキの周りに、広場に敷き詰められたレンガ一枚一枚が3種類の色合いで区別されて敷き並べられ、見事な幾何学模様の一枚絵のようであることが分かったはずだ。

「はっ!」

スタジオ野口の敷地外にある大きな白樫の枝から、黒い影が小さい声だが、気合を籠めた掛け声とともに跳躍する。

自身の影が、建物と月の光が重ならないよう注意しながら、眼下の建物周辺を余すことなく警戒し、月の光を浴びて黒い衣装の影は色素の薄くなった髪を靡かせた。

肌に吸い付くように張り付いた光沢のある黒い衣装をまとった女性が建物の上空で呟く。

「正面に4人・・裏口の4人はグラサンと豊島さんが倒したみたいね」

黒い衣装の正体・・稲垣加奈子は本館とは別の風見鶏がついている尖った屋根の先端に音もなく着地すると、建物の正面、道路を挟んで向かいにある街路樹の大きなユリノキに飛び移る。

(さて・・)

と加奈子は心の中で呟くと、玄関付近にいる見張り4人を事が始まる前に、眠ってもらう事に決めた。

加奈子はスタジオ野口の玄関付近で、雑談している黒スーツの男たちの真横にある柱の死角に見当をつけると、唇をペロリと濡らし、街路樹から再び跳躍した。

スタジオ野口の正面玄関扉の外では、4人の見張りが屯していた。
強制捜査から逃げるようにしてここに集められたため、士気は低く、見張りの仕事もまともにするでもない

4人で集まり先ほどから口々にめいめい不平を並べていた。

「ったく・・急にこんなところに移動してこんな時間まで見張りかよ・・!」

「ぼやくなって・・。ボスに逆らうわけにはいかねえだろうが?」

「でもよう・・!どう思う?!あんなに警察が突入して・・!ドットクラブやオルガノにいた奴らとも全く連絡がとれねえんだぜ?本社のほうも今は捜査員が押し寄せて社員たちも事情聴取で帰してもらえねえらしい・・。それに木島さんもサツに捕まったって噂だ・・」

「それマジかよ?!木島さんが・・?・・・・・そういやアマンダにいたダチからも連絡がこねえ」

「・・・こりゃ、ひょっとして・・・もうヤベぇんじゃねえのか?・・・もうこんなことしている場合じゃねえのかも」

四人のうち、夜だというのにサングラスを掛けた見張りの男が不安そうに言う。

焦りの顔でお互いの顔を見合わせたまま、見張りの男たちの間で沈黙が広がる。

「・・・・・ばっくれるか・・?」

サングラスを掛けた見張りの男の発言に、正面にいた見張りが恐る恐る・・、ほかの見張りの反応も窺うように問いかける。

ドサリ・・・。

3人は最初何が起こったのかわからず、口と目を開き、呆けたような顔を、膝をつき倒れ伏したサングラスの同僚の背後に立っている美女に一様に向けた。

「もう遅いわよ?」

身体のラインが露わな光沢のある黒い衣装、そこに窮屈そうに納まった胸、しなやかで長い脚、魅惑的なヒップを強調する括れた腰に片手を置き、もう一方の手は、サングラスを付けた男の首に、たった今一撃食らわせましたよ。という形で止まったままだ。

「てめっ・・・っっ!」

曲者とは思えない美貌の女侵入者の動きを捕えられるものは、3人の中にはいなかった。

加奈子は、誰何を問おうとした男の背後に回り込み、左手で男の口を塞ぐと同時に、右手で首に手刀を食らわせる。

加奈子は口を塞いでいた左手に力を込め、手刀により気を失った男の顔を掴むとすでに倒れているサングラスの男の上に投げ捨てた。

どさっ!と人と人のぶつかる音がして、玄関のエントランスに、気を失ったスーツを着た男2人が折り重なっている。

加奈子なりに物音を立てないようにという配慮の行動なのだが、残った2人の見張りは見えないほどの速さで動く美貌の女に恐怖し、驚き声も出せずにいた。

「中には何人いるの?橋元はいる?能力者は?」

慄く二人を無視して、再び女がしゃべった。

澄んだ涼しい声で矢継ぎ早に発せられた女の質問に呆然としていた男たちは、はっとして意識が戻る。

「言う訳ねえだっ・・・っ!」

女の発言に、反射的に反応してしまったのであろう俺の後ろにいた同僚が、ドスを利かせた声で、反論しかけたのだが発言が途中で止まる。

一瞬遅れて、すぐ隣を高速で通り過ぎた女の風圧と微かな匂いが鼻をくすぐる。女が使用しているシャンプーの匂いと、女の僅かながら汗の匂いの混じった香りが、却って男の心を情欲させる。

しかし、見張りの男が振り返り目にした景色は、およそ色気とはかけ離れた情景だった。腰を落とし、右手を同僚の鳩尾にめり込ませて、女の左手によって同僚の口は塞がれていたのだ。

同僚はくの字に身体を曲げ白目を剥き、塞がれた口からは白い泡を噴出させている。

「わ・・!・・汚ったないわねぇ・・」

女の発言内容にも色気の欠片すらない。

気を失った同僚の口から噴き出した泡が押えた女の掌についたようだ。女は服と繋がっているように見える手袋を男のシャツでゴシゴシと拭うと、倒れている2人の上へと投げ捨て積み上げた。

同僚を投げ捨てた女はまっすぐに立つと、振り返り最後に残った俺にじっと視線を向けてくる。

背を見せて振り返った女の姿は、見事なプロポーションのスタイルが強調されていて、異様な状況だというのに見とれてしまう。

「中に何人いるの?」

女の質問が自分に向けられ、男は自分が見とれていたことに、はた気づき我に返る。

同僚3人を積み上げた女が完全に振り返り、正面に捉えた最後に残った俺に質問してくる。

「7・・人だ・・」

見た目の美しさとは裏腹に、女の纏っている暴威の気配にたじろいで、呻くように答えてしまう。

「ふーん・・それで橋元もいるわよね?」

大理石の床に、少しだがヒールのある女の靴。しかし、全く足音が聞こえない。聞こえるのは外灯に群がっている羽虫の微かな羽音だけである。

足音をさせず近寄ってくる女の質問に、首を縦に振り応える。

「能力者は?」

「能力者・・?」

更に質問をかけてくる女に首を傾げ、鸚鵡返しで聞き返す。俺の答えが不満だったのか、女は眉を顰めると聞き方を変えてきた。

「・・私と戦えそうな奴はいるの?」

「いねえ・・!」

本来ならば敵に情報を与えるなど絶対にしてはいけないことだと分かっているが、同僚の3人を瞬時に倒した相手である。

同僚たちは皆それなりに腕自慢の連中だった。もちろん俺も大抵の奴には負けない自負もあったが、正面にいる女は自分たちとは明らかに違う。

別次元の存在・・。人間の形をした化け物だ・・・。

怖気づいて即答してしまったとしても、誰も責められないだろう。まして、最早この状況を見ている者もいない。

俺の即答した答えに、少しだけ安堵したような、そしてすぐに残念そうな顔になった女が「そう」と短く呟いた直後からの記憶はなくなった。


一方、スタジオ野口内で囚われの身の菊沢美香帆は・・・

「ええか美佳帆さん。美佳帆さんが逝ったら飲むんやで?逝くまで彼らが口に出したザーメンは口に含んだままや?わかったな?」

「か、勝手に話を進めないで!」

逝かされすぎたため、膣や陰核への執拗な責めを少しでも緩めてもらいたくて、アナルか口かを選ばされて後者を選んだ美佳帆は男優達の男根に、四つん這いという屈辱的な格好で奉仕しながら犯されることで話が進んでいた。

橋元一人によって散々逝かされた身体を、今度は男優も混ざって6人で輪姦すると橋元は言ってきたのだ。

美佳帆は恥を捨てて懇願した。

「もう!・お願い!・橋元さん!許して!・・私のことこんなに犯してるじゃない?!・・気が晴れたでしょ?満足したでしょ?!・・この上大勢の相手だなんてもう無理なの!」

橋元の足元に四つん這いで這いつくばり、首と手首を一枚板で拘束された全裸の美佳帆はヒップを突き上げた格好のまま、上目遣いで橋元を見上げながら懇願した。

「何言うてますんや。私が無理言うて手配したんや、彼らには大金払うてますんや。使わんと勿体ないですわ。美佳帆さんもそう言う私の気持ちわかりますやろ?!がはははは」

「無理!無理ぃ!これ以上やられたら狂っちゃう!・・お願い!もう逝かせないで!橋元さんも逝って?・・私の身体で逝ってよ?!・・それでこの呪詛も解けるんでしょ?!もう満足してくれたでしょ?!」

橋元のバカ笑いを責める余裕はなく、美佳帆は汗に濡れた髪を額に張り付かせたまま、首をぶんぶんと大きく振って拒絶の意思を示す。

橋元は満足そうな笑みを顔に浮かべたまま、美佳帆を見下ろしながら白々い態度でため息をつき、無情にも言う。

「いーや?私はまだ一回も逝ってませんのやで?満足するはずあらへんやないですか。美佳帆さんは一生分逝ったから満足したかもしれへんかもしれませんが、それはあきませんな。とおりまへん。自分が逝ったから終わってくれってそれは身勝手が過ぎるちゅーもんや。なあ?そう思いますやろ?みなさん?集まってもらった皆さんは逝くどころか、SEXもまだやちゅうのに・・、美佳帆さんは自分さえよければええっていうんですか?身勝手も度が過ぎますわ。」

「う・・うう!」

美佳帆は橋元の無茶苦茶な言い分に、無様な格好のまま呻くことしかできず、周囲にいる橋元が呼んできた男たちに、同情を促そうと顔を向けるが、目元には仮面をつけた男たちの口元は、蔑みの笑みが張り付いており、美佳帆を許す気は全くないのが容易に感じ取れた。

「い、いや!・・あ、あなたたち!これはまともな撮影じゃないのよ?・・こんなことして、あなたたちも殺されるわ!・・・冗談で言ってるんじゃないのよ?!」

ゆっくり近づいて、手を伸ばしてくる男たちに向かって美佳帆は叫ぶ。

「さて皆さん!女優さんもマンコだけやと皆さん全員を満足させられへんて言うてますから、口も解禁ですわ!たっぷり注いでやってください。ええな美佳帆さん?たっぷり可愛がってもらうんやで?」

男優たちは橋元のセリフに頷いて答えると、無遠慮に美佳帆の身体を弄り出した。

胸や陰核は言うに及ばず、背中や太腿、耳、アナルまでも・・。

「ちょ!!っそっちはダメって言ったでしょうが!」

一度に与えられる愛撫に、媚薬に犯された美佳帆の身体はすぐに過剰に反応し出す。

「あううう!い、いやあ!やめ・・て!!・・はあぁう!」

ガチャリガチャリと身を捩るも、ほとんど抵抗も出来ず、熟れた豊満な身体をいい様に弄ばれ、嬌声を上げさせられ男を楽しませてしまう。

「美佳帆さん。彼らのチンポ噛んだりしたらあきまへんで?そんなことしたら、私、美佳帆さんの【媚薬】解除しまへんからな?わかりましたな?ああ・・、下の口でならナンボでも噛みついてもええでっせ?が~はっはっはっ!!」

男優たちに身体を撫でまわされてるせいで、気づけなかったがすぐ耳元で橋元にそう囁かれた。

「うううう!」

(そ、そんな・・・。本当にただの撮影だと思ってる人に危害は加えられないけど・・、ううう!でも、それって見ず知らずの人に口も犯されるってことじゃない・・!)

混乱と悔しさで呻く口に、男優の指が入ってきた。

背後からは、突き上げたヒップを固定しようと腰を付かむ手が感じられ、橋元ほどの巨根ではないにしても、蜜壺の入口に熱い男根をあてがわれているのが分かった。

「人妻輪姦ショーや!始めたってや!しっかり撮るんやで?がーはっはははは。女優さんは菊沢美佳帆さんや!なんと本名での出演でっせ?検索したらすぐ見つけられる有名人ですわ!ホームページで普段のスカした顔もご覧いただけますちゅー訳や!がははははっ!こりゃ愉快ですな~」

「ちょっ・!!む・・!んんんぅ!!!」

美佳帆は抗議を言いきれなかった。何故なら美佳帆の正面の男が、カウパーまみれの男根を美佳帆の口にねじ込んできたためだ。

さらに余計な気を利かせたカメラマン野口のアシスタントが菊沢事務所のホームページからダウンロードした菊沢美佳帆の顔写真を印刷してきて、何度も逝き顔じゅうを涙と汗と鼻水でファンデーションが落ちかけた美佳帆の顔の隣に並べ、カメラにおさまるように並べた。

顔がよく映る様に髪の毛を掴まれ、レンズのほうに無理やり向けられる。

凛とした表情で映された画像プリントの隣で、美佳帆は目を細め、男優の男根を咥えた顔を並べられ辱めを記録される。

橋元の意図に従うのは癪ではあったが、事情を知らない男のものを噛み切るわけにもいかず、いい様に口を犯されるままにされている自分の状況に頭が灼ける。

ホームページに掲載している自分の顔写真と並べられて撮られているのだ。

美佳帆は羞恥で気絶しそうになりなりながらも、喉奥を名前も顔も知らない男に犯される屈辱に得も言われぬ興奮にその身を焼かれっぱなしでいた。

「むぅううう!むあ!・・んんん!!」

口を乱暴に犯されていると、腰を掴んだ背後の男優についに蜜壺も同時に貫かれた。

「むぅううう!!あふぅ!むぐ!っ!!っ!」

(ひ・・宏!・・私、壊れちゃうよう!は、はやく・・!助けて!)

「ひひひ、こいつ正真正銘の実名だ。人生終了だなぁ」

アシスタントの男が呟き笑う。

「むぐっ!ちゅぷ!んん!!むあ!ああ!いふぅ!いふぅう!!いうぅ!い・・いううぅ!」

涙と鼻水と涎にまみれた顔をアップで撮影され、背後から打ち込んでくる誰ともわからない男根によって無理やり昇天に導かれ、美佳帆は最愛のパートナーが一刻も早く来てくれることを祈りながら、浅ましく絶頂に身体を震わせた。

美佳帆は百聞を展開することは全くできておらず、このときスノウがスタジオ野口のすぐ100mと離れていない林の中で、美佳帆の好きな洋楽のエンヤのメロディを流し、送ったメッセージには気づくことはできなかった。

こちらは、美佳帆を教出に来た、菊沢宏率いるチームの単独行動を行っている稲垣加奈子サイド。

気を失った見張りを4人重ねて玄関入口に積み上げた加奈子は、背後から気配を消し近づいてくる気配に項の毛を逆立てながらも、その気配に気づいていることを察知されないよう平静に振舞う。

その気配の主はどうやら、加奈子の知る男のようだった。

(ふぅん・・これは・・今度はこっちが待ち伏せされたということね・・。ボスである橋元を囮に使うなんて・・・大胆じゃない。でも・・、こっちにこいつが来てるということは、裏手にはあいつが来てるの?・・・支社長はこいつを欲しがっていたけど・・・。支社長には悪いけど速攻でやっつけて裏手にすぐ戻ったほうが良さそうね・・)

背後の茂みから気配を断ち足音無く近づく気配を感じつつ、加奈子は手加減無しでオーラを込める決意を固めると、必殺のカウンターの間合いを背中で感じ調整する。

背後の気配に、振り向きざまの跳躍で崩券を確実にぶち込める距離まであと一歩となった時、洋館の本館スタジオ野口の内部からガシャーン!というガラスを含んだ何かが派手に音を立てて破壊される音が聞こえてきた。

おそらく、内部でもグラサンたちが暴れ出したのだろう。

「はあっ!」

建物内部の音と同時に、気配の主、劉幸喜は加奈子の背中目掛け新調したばかりの青龍刀で斬りつけてきた。

加奈子は振り返りながら、気配で予測していた軌道で振り下ろされてきた青龍刀を右の掌で回し受けをしつつ、左手で振り向きざまの一撃を繰り出し叫んだ。

「残念でした!さよならっ!!」

加奈子が100%オーラを籠めた崩券を完璧なタイミングで放つと同時に劉にそう言い放つ。

その瞬間、加奈子の側面、気配の全くなかった暗闇から白い閃きが4本、加奈子目掛けて襲い掛かってきた。

「え?!」

加奈子は予想外の個所からの攻撃に間の抜けた声を上げてしまう。

上段からの振り下ろした青龍刀を右手で防ぎ、無防備になった加奈子の胴体目掛けて白く閃きがうなりを上げて加奈子に命中する。

バチンバチン!バチバチ!と音を立て加奈子の胸と太腿、目と腹部付近にと流線形の白い何かが襲い掛かり、そのうち2発がクリーンヒットする。

「きゃ!ぅう!!」

瞬時の判断で、急所の目と胸を狙ってきた攻撃を辛うじて防いだものの、腹部と太腿に大きな衝撃が走る。

「でぇええい!」

全ての攻撃を避けきれず、後ずさった加奈子目掛け、好機とみた劉は踏み込み、前かがみになっている加奈子の腹部を蹴り上げるが、白い閃きでダメージを受けながらも膝で劉の蹴りを完全に防御する。

「ちっ!!」

(このタイミングでも防ぐのかよ!?)

劉は鋭く舌打ちし、心中で感嘆する。

きっ!と顔を上げ、怒りを漲らせた目で睨みつけてくる整った加奈子の顔が劉の目の前にある。

追撃を防がれた劉は美しくも恐ろしい、加奈子の超反応に恐懼し、猛獣同然の相手とこの至近距離でいることに背筋が凍る。

加奈子は、不意打ちを仕掛けてきた狼藉者を容赦なく始末してしまおうと、オーラを込めた手刀で劉の首筋を薙ぎ、吹き飛ばそうとしたが、加奈子のすぐそばにはもう一人の敵がすでに迫っていた。

「ちっ!」

(優男・・っ、この一瞬で2回も命拾いしたわね!!・・これは、躱すのは無理!)

鋭く舌打ちし、劉を心の中で罵ると加奈子は即座に頭を切り替える。

直感と類まれな戦闘センスでそう判断した加奈子は、瞬時にすべてのオーラを腹部の防御に回す。

男は暗器を持っていないほうの手で拳をつくり、加奈子の得意技の崩券を加奈子の腹部に叩き込む。

「ぐっ!かはぁ・・・!」

もう一人の男、張慈円が放った崩券は加奈子を完全に捉え、練り込んだオーラを加奈子の内部に叩き込んだ。

(う、うそ!!?・・直撃とはいえオーラで防御したのにこの威力・・・!)

張慈円の拳がヒットした瞬間にバリバリと放電する音が響きわたり、加奈子は後ろに一回転して吹き飛び建物の壁に激突する。

激突した建物の外壁はひび割れるほどの勢いだ。

にもかかわらず、加奈子は一瞬の隙も見せず即座に起き上がり構えると不意打ちを成功させた二人に吼えた。

「痛いじゃない!!二人がかりだなんて・・・げほっ!・・・・あ、あれ・・?!」

隙を見せず、すぐさま構えた加奈子は、膝が笑い自身の脚が思うように動かないことに狼狽する。

「・・・・い、いまので仕留めきれんとは・・・。貴様・・!」

崩券を放った格好のまま、称賛を口にする張慈円の顔は少しだけ汗が伝っていた。

加奈子の異常な速度での超回避反応と、臓器にダメージもなく吐血すらしない頑健さに攻撃を仕掛けたほうの張慈円も驚いたのだ。

「・・・こないだと随分違うじゃねえか・・それにしても、やっぱり俺が近づいてるのには気づいていやがったんだな・・あの女狐といい・・貴様といい。だが、ボスの気配には気づけなかったようだな!」

張慈円の援護攻撃がなければ、劉幸喜は加奈子のカウンターの一撃で戦闘不能にされていたであろう。さらには、加奈子の怒り任せの手刀で首に致命的な一撃を食らわされたかもしれない。

それが分かった劉幸喜は、その整った顔から完全に血の気が引いていて声はやや上ずっていた。

「ごほっ・・。さ、流石加奈子ちゃん・・。加奈子ちゃんほどの美女になると、二人がかりで歓待してもらえるのね」

建物の外壁を背にして、身体を支えると加奈子は笑みを浮かべて軽口をたたき、劉に視線を向け更に続ける。

「仕方ないじゃない・・。あの時は、支社長が貴方のこと気に入ってて殺すわけにいかなかったから手加減してたのよ。・・・でも今は支社長も見てないし、今回はそう言う命令は言われてないから、この際始末しようとしただけ」


「な、なんだと・・?!」

背を壁に預けながらも、劉のことを邪魔なものでも見るような加奈子の表情に、劉はたじろいだ。

「気にするな劉・・。安い挑発だ・・。それより、強がりは止すのだ稲垣加奈子。今のは貴様の身体に穴を空けるつもりで打った。貴様の素早いオーラの攻防移動は見事だったが、その服の性能に救われたのも否めまい・・・しばらくは立っているのも辛かろう?・・・どうだ?潔く降伏するのであれば、貴様ほどの腕だ・・。俺に忠誠を誓えば命は助けてやるぞ?」

劉との会話に張慈円が割って入る。黒いゆったりとした胴着を着こなした張慈円が油断なく間合いを詰め、加奈子を牽制しながら一応勧誘めいたことを口にする。

(しかし・・こいつの言う通りだとすると、やはり宮川佐恵子は来ていないのだな・・。千原の話では、あと一歩というところで邪魔が入り魔眼を取りこぼしたが、大怪我をさせたとも聞いている・・・。治療係の神田川真理は南川が確実にその首の骨を断ち斬ったと言い切っておった・・・。ならば、ほかの者に治療ができるものがいたとしても、神田川ほど治療には長けておらんはず・・。魔眼は動けんほどの大怪我か・・或いは、死んだか・・いや・・、魔眼が死んだのならば目の前の稲垣はもっと激昂しているはずだ・・・。ええい・・!わからん!・・人質を失ったおかげで杉も粉川も連絡が取れん!・・くそっ!橋元め・・。杜撰な警備をしおって・・!正確な情報がないのはもどかしいものだ!)

内心の苛立ちを加奈子に伝わらないように注意しながら張慈円は加奈子の返答を待つ。

「・・あら?驚いたわね。まさか悪の組織からこの加奈子ちゃんが勧誘されるなんてね。でも、お生憎様、お断りよ。・・・・それにしても、女性を気遣うふりもできちゃうのね?張慈円。・・げほっ・・。でもいくら私に会いたいからって2人もこっちに来ちゃったら不味いんじゃないの?誰が橋元を警護するの?中には能力者はいないんでしょ?早く行かなきゃ、むっつりグラサンの菊沢宏達がすでに突入してるわよ?」

加奈子は背を壁に預けながら、極力ダメージを受けた弱みを見せないよう、張慈円に問いかける。

少しでも、張慈円から受けたダメージを回復させるためと、菊沢宏達が活動しやすいように時間を稼ぐためだ。

「くくく・・。やはりな・・。残念だ・・。それと、橋元にはもう用はない。奴には湾岸計画に食い込む力は最早無かろう。菊沢らに始末してもらうのがちょうど良いだろうよ。・・・貴様らが水島を俺たちに始末させようとしたようにな」


話ながらも歩を進め、張慈円が【白雷】と名付けている暗器の射程距離で構えると、想像以上の戦闘力を有していた稲垣加奈子へ勧誘はすっぱり諦め、攻撃を掛けようとジリジリと迫りにじり寄る。

「・・・へえ!・・張慈円、私あなたのことを随分勘違いしてたようだわ。思ってたより色々考えられるのね?!感心しちゃったわ!」

加奈子は背を預けていた壁から離れると、張慈円に向かってブン!と両手を回し、半身になって両掌を相手に向け、制止し構えた。

「ふん・・・!」

張慈円は流石に加奈子の挑発には乗らず、その蟷螂のような顔に笑みを浮かべ鼻で笑う。

なかなかキツイ一発を貰っちゃったけど、まだまだやれる。加奈子は自分の状態をそう判断し、攻防7:3割合で張慈円に向き直る。

「はぁ!!」

その瞬間、張慈円に構え直した加奈子目掛け、劉が【斬撃】を放つが、加奈子が手を振るうとバチン!と音がして【斬撃】を霧散させた。

「何だと?!お、おまえ・・!」

劉があまりのことに二の句が継げなくていると、加奈子が視線だけ劉に向けてに言い放つ。

「その技はもう何度も見たわ。・・それ以上オーラを乗せられないみたいね。そんなんじゃ私には通じない。威力も速度も見切ったわ。・・・先に言っておくわね劉幸喜?逃げたら先に殺す。私に近づいてきても殺す。・・・張慈円を始末するまでそこで大人しく待ってなさい」

「な、なん・・だとおおお!!・・てめえええ!」

加奈子自身は挑発のつもりではなく、事実と予定を淡々と伝えただけなのだが、劉幸喜は整った顔を真っ赤に染め怒りに任せて吠え、フルパワーで【斬撃】を二連射すると同時に地面を蹴り加奈子に突進する。

その刹那、バチン!と白い閃光【白雷】の一つが劉に命中し張慈円が怒鳴った。

「頭を冷やせ!劉!!安い挑発だと言っているだろうが!・・お前は裏手に回るのだ!奴らと協力して残りの奴らをやってこい!・・こいつは俺がやる」

突進の勢いを殺され、尻もちをついた劉は驚いた顔で張慈円を見ていたが、悔しそうに唇を噛みしめ地面を拳で一撃すると、「わかりました」と言い、立ち上がって裏手に向かって走っていった。

「・・くっ!!」

劉と同時に加奈子に向かっても張慈円は【白雷】を3つ飛ばしていたのだ。

劉の【斬撃】と張慈円が牽制で放った【白雷】、加奈子はそれらを全て撃墜するも、劉に裏手に回られてしまったことに焦りを顔に浮かべる。

(そ、それに奴らですって??)

「さあ、稲垣・・!1対1といこうではないか・・・?・・貴様は女としては俺の好みに程遠い醜女(しこめ)だが、香港三合会新義安最強と歌われたこの張慈円・・・、私直々に相手をしてやろう!」

張慈円から揺らめく黒いオーラが放出され、【白雷】を左手で構えながら、加奈子に拳を向ける。

「し、しこめ??!・・この私の美貌がわからないなんて・・・呆れちゃうわね・・。私のほうこそ胸を貸してあげるわ。ミス宮コーと呼び声高い、この稲垣加奈子ちゃんがね!」


張慈円の名乗りに変に対抗してポーズをとる加奈子であったが、油断なく張慈円の動きに注視しながら、右耳に付けた通信機を通しスノウに伝言を送る。

「ふん・・!容姿の問題ではない・・」

そう言う張慈円のセリフを完全に無視して加奈子は通信機に手を当てる。

「スノウさん!そっちに劉ってのが行ったわ。ほかにも何人かいるみたい。警戒して!こっちには張慈円がいるの!私はこいつをやってから行くわ!」

加奈子の通信イヤホンからスノウの緊張した声で、「りょ、了解!・・張慈円が・・加奈子さん・・気を付けて!」と聞こえてきた。

「・・んん?!スノウ!?・・・斎藤雪が来ているのか!?ふはははは!・・これは俄然やる気が出てきたなっ・・・!」

加奈子の通信内容に異常な反応を示した張慈円を見て、加奈子は「しまった」という表情を浮かべた。

(そ、そっか・・。スノウさんは張慈円に捕まって・・。この蟷螂男に妙に気に入られてるのね・・!ああ!余計なこと言っちゃったわ!)

加奈子の心中の焦りを無視して、不気味に歓喜の表情になった張慈円が加奈子に言う。

「強い割には、倒しても何の楽しみのないヤツだけだと思っていたが、斎藤雪という主菜(メインディッシュ)がいるのならば・・・・、貴様のように冷えてクソ不味い前菜のコースだとしてもやぶさかではない・・!」

蟷螂のような顔で目を吊り上げ不気味に笑う張慈円のオーラが増大する。

「中国人のくせに、何すらすらと流暢な日本語で罵ってんのよ!私が冷えた不味い前菜ですってえ!?ええ??!ミス宮コーだっつってんでしょ?!!」

(それにしても、早く片付けないと・・!これは・・本格的にマズい・・。奴らって・・変な横分けの栄一?あのいい歳したゴスロリ?それともムチムチハムの千原奈津紀?!・・どれでもヤバい・・!支社長も真理もいないけど・・でも・・グラサンと豊島さんがいるのならなんとか凌げるかしら・・・?!)

返したセリフとは裏腹に加奈子は冷静に状況を分析する。

張慈円に向かって構えた格好のまま睨みつけると、張慈円と同じくオーラを増幅し膨張させる。

「豊島さん!外に敵!張慈円と交戦中!ほかにも敵影あり!美佳帆さんの確保急いで!」

通信機で簡単に状況を豊島宛に送り、返信で「なんやて!わかった!」と小声で短く返答があったのを確認すると、加奈子はチリチリと髪の毛が項から逆立たせ銀色に発光させた。

(時間が無いわ!いきなり【肉体強化】120%からよ・・!真理も香港三合会新義安の最大戦力だと言ってた張慈円か・・・!これで倒せる相手なら御の字なんだけど・・・。でも、私のスピードについてこなければ私の勝ちよ!)

対峙する張慈円は銀髪化した加奈子を見て「ほう」と一声驚きの声を上げ、目を見開いたが、すぐに目を細め自身も加奈子に合わせオーラを限界近くまで増大させる。

「なるほど・・やはりに出し惜しみができる相手でなないようだな。楽しめそうだ・・ゆくぞ!!」

張慈円は、舌なめずりのようにして唇を湿らすと、立ち上る黒いオーラを纏い加奈子に突進した。

【第8章 三つ巴 42話 雷神VS銀獣 終わり】43話へ続く

第8章 三つ巴 43話 紅蓮の紅音 

第8章 三つ巴 43話 紅蓮の紅音 

斎藤アリサは肩で息をしながらも、膝をついて斬られた肩口を抑えているスノウを庇うように3人の剣士に向かって構えて振り返らずに後ろに声を飛ばす。

「画伯・・!スノウちゃんを!」

「わ、わかってます!」

アリサと同じく肩で息をしているスノウこと斎藤雪に駆け寄り、画伯こと北王子公麿はスノウの肩口に手をかざして傷を癒す。

その様子を、二人を斬りつけた本人である南川沙織はつまらなさそうに見ていた。

スリットの入った真っ黒のタイトスカートのスーツを着こなし、その服装には不似合いと言える対照的なピンク色のネイルを施した白い指には大きなシルバーリングを幾つも嵌め、両手には日本刀・・、いや、脇差か小太刀程度の長さの刃物が握られている。

童顔の沙織は一見すると可愛らしいという表現が一番ぴったりと合うのかもしれないが、彼女を知るものはそれが見た目だけであることをよく知っていた。

「はんっ!あの銀髪がいないじゃない・・・こりゃ肩透かしもいいとこね!」

沙織は両手に刀を持ち万全の態勢で臨んだのであるが、全力を出すべき相手はおらず、更にこちらの人数が多すぎて、戦闘に歯ごたえがないことが不満であった。

「沙織!油断大敵ですよ・・。ここで汚名をそそいでおかないと、僕たちは大手を振って戻れません。それに稲垣加奈子が乱入してきたらすぐさまここは修羅場になります。それにその女たちの体術もなかなか侮れません。さっさと人数を減らしておくべきです!」

沙織のセリフに対して窘めたのは白いスーツをところどころドロと血で汚した井川栄一であった。

「そうですよ。栄一さんの言う通りです。・・・私をこんな時間にこんな辺鄙ところまで呼び出しておいて・・。何かと思って来てみれば・・、やっぱり助太刀と御屋形様との仲立ちじゃないですか。・・私もほとほと自分のお人好しさ加減を反省しています」

凛とした声で、栄一のセリフに続けたのは腰よりも長い黒髪を片手で押さえた女性の剣士だった。

切れ目で儚げな危うさのある美人で、和服が似合いそうな容姿であるが、沙織と同じくスーツ姿だ。違うのは沙織のようなスカートでなくパンツを着用しており、足の長い長身女剣士のスタイルによく似合っていた。

その女剣士の艶のある黒髪は腰まであり、華奢ともいえる身体つきではあるが身長は170半ばもある。

そして更に目を引くのが女剣士の手にした刀、その長さは女の身長ほどもあった。

「ごめんごめん。そう言わないでよ、かおりん・・感謝してるって・・。御屋形様がまともに意見聞いてくれるのって、なっちゃんさんか、かおりんしかいないからさ。・・私達だけで報告するとまた髪の毛短くされちゃうよ・・」

振り返った沙織が以前に髙嶺弥佳子に髪の毛をトラ刈りにされたのを思い出したのか、その表情を暗く曇らせている。

沙織が(かおりん)と呼んだ長身細身の女剣士にそう言うと、長い髪が風に靡くのを抑え、肩を僅かに竦めながら沙織と栄一に応える。

「ふぅ・・わかりましたから、済ませてしまいましょう」

そう言うと、かおりんと呼ばれた長身剣士は自分の背丈ほどある長刀をスラリと抜き、月光を反射させた刀身でゆっくりと弧を描きオーラを凝縮する。

「・・・【斥力排撃】」

長身女剣士が静かな声でそう言うと、両手で持ち掲げた長刀からキィィン!と澄んだ高い音させオーラが放出する。

「・・ま、またそれなの~!?」

アリサが然も嫌そうに唸った。

アリサが先ほどから沙織に何度も打ち込んだ蹴りを、その能力によってほとんど威力を削がれてしまっていたからだ。

アリサの鍛え抜かれた脚の筋肉をオーラで更に強化したキックボクシング仕込みの蹴りは沙織に触れるかなり手前から、空気を圧縮させたようなものに阻害され軌道を逸らされてしまうのだ。

通常なら、アリサの跳躍からの蹴りは、樹齢100年にもなる大木すら真っ二つにするほどの威力なのだが、その威力を全く無効化されてしまって現状の戦況を招いている。

アリサのげんなりした声を無視して、(かおりん)と呼ばれた女の手にした刃から放たれたオーラが栄一と沙織の周囲に纏わり二人を包む。

「・・ま、念には念をいれてってことでいっか」

【斥力排撃】は展開させた対象に対して放たれた攻撃をはじく能力。沙織自身は詳しく知らないし、原理は知る由もないが、生半可な威力ではまともなダメージを与えられない・・。南川沙織は同僚である前迫香織(まえさこ かおり)、通称(かおりん)の能力を思い出し、小声で呟くと、気を取り直してアリサと呼ばれている女に構える。

「さてっと・・そんじゃま・・いきますかー♪」

いつもの残忍な笑みを張り付けた沙織は構えを更に低くし、その童顔を自身の膝の高さほどまで下げてから地面を蹴る。

「きゃは!♪」

大塚マンションで見せたのと同じ笑顔を張り付けた沙織の表情にアリサは一瞬息を飲む。

が、沙織は意にも解せずアリサ目掛けて愛刀の九字兼定と京極政宗をすでに抜刀した状態でアリサに斬りかかる。

「もうっ!舐めないでよね!!」

大塚マンションで真理と一緒にこの南川沙織と対峙した際、沙織は納刀した状態での突進居合を多用していた。

今はあの時とは比べ物にならないぐらい遅い。

(私のこと甘く見てる!後悔させてやるんだから~!)

大塚マンションでは蹴りを躱され、アキレス腱を斬られたことが脳裏に浮かぶが、良くも悪くもアリサは過去を引きずらない。

(あの速度じゃ見切られるってことなんだよね!)

「でえええええい!」

そう思うと気合の籠った声を発し、最大速度で凶悪な笑みを浮かべた、迫りくる狂気のゴスロリ女に敢えて間合いを詰め膝蹴りを放つ。

「っと!!♪」

アリサが打って出てくるとは思わなかった沙織は嬉しそうな顔をしたまま驚き声を上げた。

ガキッ!と金属同士がぶつかるような音が響き、沙織は交差させた二刀でアリサの全体重を乗せた膝蹴りを防ぐ。

「ってめえ!!・・ぅわ!!」

アリサは右膝での飛び膝蹴りから、沙織の顎目掛け左足を思い切り振り上げたのだ。

蹴りで両方の刀を持った手を弾かれた沙織は、歪んだ笑みを張り付けたまま、怒りをあらわに正面のアリサを睨むが、アリサの追撃は続いていた。

沙織の目の前にはすでに空中で身体を捻り、回転し顔を向けたアリサと沙織の視線が交錯する。

キックボクシング仕込みの強烈なソバットが沙織の顔面を捉えた、はずであった。

完全に捉えたタイミングであったはずであるのに、ぶぅん!と空気を切裂く空振り音が暗く静かな林の中に響く。

「ちょっ~・・っと!!もうこれ何なの~!?」

沙織を蹴ったはずの右脚は、沙織には当たらず、沙織の顔を避けるようにして頭上を通り過ぎたのだ。

香織が沙織に纏わせた【斥力排撃】が発動したのであった。

大技を盛大に空振りしたアリサは空中で訳が分からないと言ったような声を上げ、崩した態勢を立て直そうと大慌てで手をバタつかせるが空中ではどうしようもない。

「あーらら・・隙だらけ♪・・ほいっと!」

沙織は場違いな余裕のある声で可愛らしくそう言うと、高速で二刀をヒュンヒュンヒュン!と音を立てて呻らせる。

カカカカッカキン!バチン!バチン!

「うぁっ!?きゃっ!いたっ!!」

左手に握られた九字兼定で垂直に切り上げ、アーマースーツ下腹部付近のジッパーエンドから鎖骨付近のスライダーまで肌を傷付けないよう器用に斬り飛ばし、刀を返しそのまま振り下ろして、アリサの振り上げた右脚の内腿をしたたかに強打する。

それと同時に右手に構えていた京極政宗でアリサの軸足である左脚の内股部分も同時に強打したのだ。

攻撃を受けたアリサは空中で大きく態勢を崩し仰向けで地面に激突する。慌てて起きようとするが、内腿を強打されたため、脚の反応が鈍い。

(早く立て直さなきゃ!)

と焦るアリサの胸に鈍い衝撃が走った。

「ぐふぅ!」

沙織にジッパーを切裂かれ露わになった胸の上を、ピカピカに磨かれ先端がやや丸まったパンプスでどかっ!と踏み抜かれ、再び地面に背中を打ち付けさせられたのだ。

「ぐっ!・・く・くっそ~!・・なんなのよう!さっきからインチキばっかり!」

周囲の地面にバラバラと音を立てて粉々にはじけ飛んだジッパーの破片が飛び落ちる。

悔しそうな声を上げて自分の身体の上に乗って首筋に刀を突きつけている南川沙織をアリサが罵る。

「インチキ・・ね。・・・かおりんの能力は私もそう思うわよっと!♪」

そう言い終わるが否や、沙織は再び二刀をアリサの両肩目掛け鎬地で強打する。
所謂峰打ちというやつだ。

「きゃあああっ!!・・あうぅう!痛い!ああああ!」

両脚両肩ともに鍛え抜かれた鋼で強打され、四肢身動きできなくなったアリサは悔しさと痛みで悲鳴を上げた。

「んんんん~♪いい声♪どう?同性に裸に剥かれておっぱい踏みつけられる気分はぁ?♪」

アリサの露わになった白い腹部や豊満な胸の膨らみを土足で踏み付けている沙織は、目を閉じアリサの上げる悲鳴を堪能する。

「アリサーー!」

あまりにもな仕打ちを受けているアリサに向かってスノウが叫ぶが、そのスノウの状況も芳しくない。

「こらっ!暴れるな」

スノウは井川栄一に手首を掴まれ、鉄扇を手にしたまま後ろ手に腕を決められ、うつ伏せに地面に組み伏されていた。

鉄扇の要の下に空いている穴に通していたパラコードを逆に利用され、手首ごと後ろ手で縛られているところだ。

「加奈子と比べると・・信じられないほど・・楽です」

スノウこと斎藤雪の細く華奢な腕を後ろ手に縛り上げた井川栄一は、立ち上がってスノウを見下ろしながらそう呟いた。

「くぅ!こ、こんなに強いなんて!」

菊沢事務所の中では華奢で戦闘は画伯の次に不得手だとしても、それは菊沢事務所内の話であり、一般的な身体能力を持っている成人男性だと、スノウの身体に触れることもなく、鉄扇で滅多打ちにされるであろう。

スノウは土で服を汚しながらも、何とか立ち上がろうとするが、何故か四肢が異常に重くてほとんど動かせない。

スノウを【治療】していた画伯はすでに井川栄一の問答無用の峰打ちでのされて、仰向けに倒されている。

「何を言うのです。私が【斥力排撃】を纏わせたから、敵の攻撃を気にせず突っ込めたおかげでしょうに・・。それにこんな小規模な作戦に六刃仙が3人もいるのですよ?・・奈津紀には何と説明してあるんです・・?それに御屋形様に報告することを考えると今から胃が痛いですよ」

キン!と澄んだ音をさせて身の丈ほどある長刀を、舞っているような所作で数回回転させながら前迫香織(かおりん)は、頭上で納刀し静かな声で井川栄一に言った。

「助かったよ香織さん。・・・君には借りをつくってしまったね」

香織は栄一の謝辞に肩をすくめ、軽く手を上げた。

「御屋形様には・・うまく言っておきますよ。」

そう言う香織の顔には仲間を思いやる優しい笑顔があった。

(さて、噂の銀獣とやらを見学に行きましょうか・・。もし張慈円と渡り合えるのなら一見の価値ありです。・・話では強化系特化のガチンコタイプと聞いてますが・・、そういうタイプなら私とは相性最悪のはずですし、・・張慈円が困っていたならば助太刀しましょう)

香織は左手で刀の鞘を持ち軽く肩に置くと、沙織や栄一が話していた銀髪女のことを思い出してこの機会に見ておこうと踵を返す。

「か、香織さんどこ行くんです?」

「ちょっとそこまで~すぐ戻りますよ」

栄一の問いかけに、右手を上げ顔だけ振り返りそう言う香織の顔は笑っていた。

栄一は(沙織の笑顔とはえらい違いです・・)と内心で呟くと足元で呻いているスノウを見下ろした。

後ろ手に縛られたスノウは地面にうつ伏せで悔しそうに呻きながら這いつくばっている。

「うぅ・・まだ何もしてないのに!・・美佳帆さん力になれなくてごめんなさい」

黒のミニフレアスカートは捲りあがり、白い肌のヒップに白いTバックが露わになってしまっている。黒のハイソックスに包まれた長い脚は栄一の能力で重くなっており、捲れあがったスカートを直そうと不自由に動く様は栄一の加虐芯に火をつけた。

栄一は口元を歪めると地面にうつ伏せで這いつくばっているスノウに、両肩と膝裏をもう軽く峰打ちをする。

「はっうう!?ああああ!重いぃ・・!?痛い!・・っな、なにをしたの!?」

後ろ手で縛られ仰向けに倒されていたスノウが身体に起こった異常に狼狽して悲鳴を上げる。

【鈍重】刀にオーラを込めた状態での攻撃が成功すると、対象の部位の重量を重くできる。重くできるのは一回の攻撃につきその部位の2倍までで、ダメージではなく送り込んだオーラ量による。

地味だが、相手に行動阻害を継続で与える呪詛能力で、栄一らしい嫌味な能力だ。

かつて二条橋の上で、あの銀獣すらもこの能力で自由を封じ、動きが鈍くなった銀獣の四肢を更に重くて、首から上だけは自由にさせて凌辱したのだ。

重くさせても、術者の栄一にその重さは影響がない為、動けなくなった無抵抗の銀獣の意識だけを残したまま銀獣の初めてを奪い、泣いて抵抗しながらも、敵相手に何度もアクメを与えられて屈辱に濡れた銀獣の表情を堪能しつつ、何度も精を注ぎ込んだのだ。

足元で無抵抗になり這いつくばっているスノウを見ていると、かつての性交体験が頭の中に甦り、本人では紳士を装ってるつもりの顔が醜く歪んだ。

「ふふふふ!・・聞いているよ。君は張慈円にたっぷりと仕込まれたんだってね?・・加奈子とは随分タイプが違うが、やっぱり女は君みたいに非力な癖にプライドの高い女が最高だね・・。プライドが高くて力も強いなんて女はサイテーさ。その点君は優秀なほうだよ」

栄一は訳の分からない歪んだ持論をしゃべりながら、下半身をショーツ丸出しにされているスノウを見下ろし、自身の中心部が滾ってくるのを感じていた。

愛刀三日月宗近の切っ先をスノウのヒップを包んでいるTバックの小さな布地が集中している個所に当て刃の先端をクルリと回転させ布を巻き付かせた。

元の形に戻ろうとする生地は刃に切断切断され、Tバックはパチン!と音を立て三方に弾け無残にもスノウの白いヒップと薄めの陰毛に覆われた秘部が露わになる。

「・・・っ!!こ、この下種!」

スノウは自由に動く首を持ち上げそう言うと、見下ろしている栄一を睨み上げる。後ろ手にパラコードで縛られて腕はびくともさせられない。脚も何故か根が生えたように重く思うように動かせないスノウは悔しさと情けなさで目尻に涙を溜めながらも栄一を睨み続ける。

「おぉ・・動くこともできないのにその顔。その視線!これは・・、たまりませんね・・」

加虐心を大いに掻き立てられた栄一はスノウの感想を呟くと、睨み上げてくるスノウのすぐそばに座り、髪の毛を掴み更に上を向かせて好色な笑みを浮かべた。

「くっ!」

髪の毛を掴まれ仰け反らされたスノウは白い喉を露わにさせられながら悔しそうに呻いた。

「見るに堪えない。たまらないのはこっちのセリフ」

突如、聞きなれない声が暗がりの林のほうから響き、とっさにそちらに目を向けた瞬間、栄一は目を剥いたように見開いた。

火?

次の瞬間、ごう!と音がして栄一の身体全体が火炎の一閃に包まれる。

「うぎゃあああああああ!」

「きゃっ!」

「井川君?!」

アリサの乳房を土足で踏みつぶし、喉元に切っ先をあてがっていた沙織は栄一の悲鳴のほうに顔を向け叫ぶ。

スノウは動かない身体をできるだけ縮め、顔を伏せて炎をやり過ごす、が音と業風は肌で感じられるのに、不思議と熱による熱さを感じない。

(こ、これは・・オーラによる炎・・!対象だけにダメージを与えるように熱の範囲を調整してる・・。地面に落ちてる木の葉や木々も燃えていない・・・のにこの威力・・!とんでもない高等技術だわ!何者なの?!)

スノウは自分に害が及ばないことを確信すると、炎が飛ばされてきた方向に首を向ける。頭で理屈は解るが簡単ではないことをやってのけた人物を、視力強化と暗視を使い暗闇の中に視線を飛ばす。

スノウのすぐ隣で紅蓮の炎に包まれた栄一は、炎が消え、白いスーツは燃えてほとんどなくなり、ベルトとベルト下の布地が僅かに残っているだけで、ほぼ全裸に焼き尽くされている。髪の毛もチリチリになった井川栄一が足を踏ん張り、手を顔の前で交差させた状態で立っていた。

「お、おのれ~!!何者だぁ!!」

そんな恰好でも生きているのは前迫香織に施してもらった【斥力排撃】のおかげである。

ススで顔を黒く汚した栄一が、炎が飛んできた方向に大声で叫ぶがダメージは大きく、その場に片膝をつく。

「なるほど・・・さすが、髙嶺と言ったところかしら?この私の【火炎】をまともにくらっても事切れないとは・・ね。はな!その全裸の変態からノーパンの女を引きはがして介抱をして!」

両手に炎を宿した小柄なスーツ姿の女が、栄一を、蔑みを込めた目で見ながら同じスーツを着こなした(はな)と呼ばれた女性に指示を出す。

「まかしとき!って紅音ちゃんがもう瀕死にしてもうとるやん・・。私の見せ場なしやないの。・・それにノーパンの女って・・もうちょっと言い方あるやろうに・・きっとあの子が雪ちゃんやで?今後、紅音ちゃんの部下になるんやし、優しいにしいよ?」

はなと呼ばれた体格のいい女性が目の前の小柄な女性の背に向けて微かな不満を口にする。

「丸岳君、そっちの女を始末するわよ。」

紅音と呼ばれた小柄な女性は、はなの不満には答えず、続けて後ろに立っていた長髪のダークスーツを着こなした男性に振り返らずそう指示を出す。

「ククク・・。着任早々お祭り騒ぎですね。まあ退屈しなくてよさそうですが」

たれ目の長髪男は悪党のような笑い方をして髪をかき上げ、小柄な女性の指示に、素直に軽く頭を下げ了承の意を示す。

「な、何者なんだよてめえら!」

沙織がアリサの身体の上から飛び降り、二刀を納刀し柄に手を掛け、腰を落として構え最大警戒した様子で怒鳴る。

「??・・あなた達、自分たちが戦ってる相手を知らないのですか?」

「わーかってるわよ!!宮コーでしょうがよ!!名前聞いてんだよ!!馬鹿がっ!!」

小首を傾げ淡々とした様子で語る赤髪の小柄な女性の態度に苛ついた沙織が、ギラついた目で睨みながら怒鳴る。

「汚い言葉・・・。答える義理も無いですね。・・・いきますよっ・・っはあっ!!」

【紅蓮火柱】

大きく目を見開いた赤髪の小柄な女性はそう言うと両手を高く掲げ振り下ろした。

次の瞬間、スタジオ野口に膨大なオーラが収束し、ぼぅ!!と音を立て大きな火柱が立ち上がった。

暗くひっそりとした林の中が突然発生した炎の光で周囲広範囲を明るく照らす。

火柱の高さは十数メートルにも及び、範囲は建物全体をほぼ包み込んでいる。

バチバチバチバチ!と炎が爆ぜる音を響かせて炎よりなお赤い紅蓮の火柱が立ち上り、建物を焼き尽くしていく。

赤髪の女は、ゼエゼエと大きく息を吐き肩で息をしており、その背を(はな)がやれやれと言った表情で撫でている。

「いきなり大技連発やね、紅音ちゃん。・・そんな飛ばさんでも大丈夫やで、うち等もおるし」

「・・まったくだ。社長から証拠を消せとは言われてるのは解るが、後でもよかっただろう?」

「ぜぇ・・ぜぇ・・やることは・・ぜぇ・・先にやっておかないと・・ぜぇ・・落ち着かないのよ!・・ぜぇ・・あの七光り女の・・ぜぇ・・尻ぬぐいなんでしょ・・。やっとドジ踏んだわね・・ふぅ・・一気に失脚させてやるわ」

大柄な女と長髪男が赤毛の女を気遣うように声をかけるが、目に欲望の濁った光をたたえて顔を上げた紅音は、汗で濡れた額を拭いながら言った。

「・・紅音ちゃん・・社長から特権もろうとるちゅうても、支社長さんと仲良うしてや?・・案外と悪い子やないし、噛みついても大人しいなるタマとちがうで?・・真理ちゃんも加奈ちゃんも、生粋の支社長派やしメンドクサイことになるわ・・仲良うやってよ?」

はなが心配そうに背中越しに声を掛けるが、紅音は「相手次第ね」とだけ振り向かずに言いう。

突出した恐るべき能力を持つ紅音の小さな背中を見ながら、大柄なはなと長髪のたれ目の丸岳は顔を見合わせてやれやれと肩をすくめた。


【第8章 三つ巴 43話 紅蓮の紅音 終わり】44話へ続く


第8章 三つ巴 44話 宏と哲司 銀獣VS白雷

【第8章 三つ巴 44話 宏と哲司 銀獣VS白雷】

スタジオ野口の裏口付近にいた見張りらしき男たちを、有無言わさず乱暴に薙ぎ払い、ずかずかと屋敷内に侵入していく宏の背を追いながら哲司は急ぎながらも罠などがないかあたりを注視して続く。

(宏のやつ相当焦っとるな。俺かて佐恵子さんが攫われてたら冷静でおれるかどうかわからへん。・・まして宏は長年連れ添った妻の美佳帆さんが捕まっとるんや、しょうがあらへん。こんな時こそ俺が冷静でおってやらなな・・。まあ、佐恵子さんが捕まって助けを待っとる姿なんて、うまいこと想像できへんけどな・・。)

付き合いの長い相棒の心中を慮りながらも、あり得そうもない想像を頭から振り払う。

「ど、どこや!・・1階にも2階にも居る様子あらへんぞ!」

一通り屋敷内の部屋を走り回り、扉を開けて回った宏は応接室の真ん中で立ち、周囲を伺うようにきょろきょろとあたりを伺い誰ともなしに言う。

しかし焦りはあるが宏の頭は冴えており、オーラは心身に漲り五感が研ぎ澄まされている。

「そこか!」

微かに流れ出る空気の動きと、僅かに漏れ出てくる女の声。

(くっ・・!美佳帆さん!)

宏は応接室においてある主賓用の豪華な椅子を片手で掴むと投げ捨て、その奥においてある木目の美しい光沢のあるサイドボードに向かって拳を突き出す。

がしゃん!!
ぱりーん!!

宏に投げ捨てられた豪華な椅子が内窓にあたり窓ガラスを破壊し、サイドボードのガラス戸と、納められていた高級酒のボトルが派手な音を立てて周囲に散らかる。

「おいおい!宏気づかれてまうぞ?スイッチか何かしらあったんと・・」

「この程度の大きさの屋敷や。気づかれてまうんはどうしようもない・・。それに隠し部屋言うてもそんな広うないはずや!一気にいく!」

「せやな!わかった!」

サイドボードの裏面にあった、ハンドル付で金庫の入口のような見た目をした、重厚な金属性の扉を、足の裏で蹴りつけている宏の背中に哲司が声を掛けるが、哲司もすぐに同意する。

「な、なんだ貴様ら!」

隠し扉の裏にいたスーツを着た髭面の大男が、乱暴すぎる突然の侵入者達に向かって大声で怒鳴る。

「ここで正解みたいやな!」

サングラス越しに大男を確認した宏は、金属製の扉を凹まして蹴り抜きざみ、速度を緩めず無警戒にもそのまま大男に突っ込んで言い放つ。

「ひぃ!」

スーツを着た強面髭面の大男だったが、厚み5cmはあろうかという金属の扉をキックでぶち抜いて侵入してきたグラサン男に完全に肝を冷やされたようで、そのイカツイ顔を覆うようにして床に身を竦めて小さく悲鳴を上げた。

「おいデカブツ!この奥に女監禁してるんか?橋元はおるんやな?!」

グラサンは付けているが鬼の形相の宏が縮こまったデカブツに怒鳴ると、デカブツは体格に似合わぬ、小鹿のように高い声で必死に言い訳を始めた。

「ひぃ!い、います!橋元さん、いえ!橋元はこの奥に!連れてきた女もそこにいます!橋元が呼んだ男たちと一緒にその女を輪姦(まわ)しとるところです!俺はなんもしてません!みてません!だから命だけはたぎゅ・・」

鬼気迫る宏の様子に手で顔を覆い、怯えながら嘆願している男は最後まで喋ることなく事切れた。

「輪姦すやて・・?」

指先を髭面大男の眉間に突き刺したままの宏は、ぼそりと呟いた。

「お、おい!宏・・」

もしかしたらと危惧はしていたが、宏の有無を言わせぬ怒りに満ちたオーラが背中越しでも十分充満しているのが見て取れる。

本当に皆殺しにするつもりだと分かった哲司はそこまで言って口を噤んだ。

そのとき、哲司の耳にノイズの混じった稲垣加奈子の緊張した声が響く。

「なんやて?!わかった!・・」

髭面の大男の眉間から指を引き抜き、男が来ていたスーツで拭っている宏も、突然の哲司の声に顔を向ける。

「どないしたんや?!」

やや狼狽えた声で宏が哲司に促す。

「稲垣さんからや!外に張慈円が来とる。稲垣さんと交戦中や!・・今度はこっちが待ち伏せされたんや!」

哲司のセリフに宏はグラサンを指で押し上げ眉間をつくるが、一瞬考えたようではあるがはっきりと言い切った。

「そうかもしれへんけど、間違いなくこの奥に美佳帆さんがおる!さっき微かにやが声が聞こえたんや・・聞き違いやあらへん」

哲司の返事を一応待つつもりだったが、その心配はなかった。

「ここまで来て罠の心配してもしょうがあらへん!美佳帆さんも助けて待ち伏せも潰す!でええな!」

「すまんな・・テツ・・いくで!」

哲司は宏の心配を吹き飛ばす返事をすると、宏もそれに応えると同時に力いっぱい扉を蹴破った。




レンガの敷き詰められた歩道を足音なく歩いていた長身長髪の女剣士は、はたと歩みを止め、店庭に植えられている植栽に視線をむけて静かに言った。

「・・何者です?」

長髪長身の女剣士こと、前迫香織は長い髪を抑えながら長刀の鞘を植栽・・否、植栽の影に潜む気配に突き付け姿を隠した気配の反応を待つ。

隠れている気配は香織の問いかけに一瞬動揺したような微妙な空気の流れを発したが、意を決したように声を出した。

「・・俺がいるのを見破ったのかよ・・?」

そう言いながら、ゆらりと外灯の下に身を晒した男は乾いた笑い声を微かに発し、やや疲れた表情に見で香織にそう言った。

「・・当然です」

香織が目を細め、首を僅かに傾げたのは、現れた男が想像していたものよりずっと男前だったからだ。香織は植栽の影から現れた褐色の肌に整った顔立ちの男の正体や戦闘力を、表情と身のこなしで見抜こうと観察する。

「・・へっ」

褐色肌の整った顔立ちの男は、香織のセリフに一瞬目を見開き驚いた表情になるが、すぐに自嘲気味にかたを竦めると溜息をついた。

男の自虐ともとれる反応にさらに目を細め、首を傾げた香織は鞘を付けたままの切っ先を僅かにしゃくり男にそれ以上の説明を促す。

「・・俺は劉だ。香港だよ。あんたは髙嶺なんだろ?・・よろしく頼むぜ」

劉幸喜は名乗ると、草臥れてはいるがその整った顔に笑みを浮かべ長髪長身の女剣士に手を上げ軽く頭を下げて挨拶をした。

劉の言葉に香織の表情は激変した。警戒に満ちていた表情は消え去り、一気に女性的な優しい表情になる。

「これは・・失礼いたしました。劉幸喜さんですね。聞き及んでいます。この度はご依頼頂き光栄です。ご依頼いただいたからには髙嶺の名に恥じぬ働きをお見せする所存です」

香織は突き付けていた刀を腰の後ろに隠すと、劉に向かって丁寧にお辞儀をしてみせる。

香織の頭の中で、仲間から聞いていた情報と一致したためだ。かといって、香織の動きに隙はないのだが、表情は随分和らいでいる。

(へぇ・・)

劉は内心で長髪長身の女剣士の振舞いに感心していると、女は更に続けた。

「申し遅れました。私は髙嶺六刃仙が一人、前迫香織と申します。お見知りおきください」

お辞儀から顔を上げ、切れ長の目でじっと劉を見つめてくる目にはクライアントを敬う敬意が含まれており、香織の烏の濡れ羽色で艶のある黒髪を静かにかきあげる所作が女性らしさを感じさせる。

「ああ、俺は劉幸喜だ。劉でいいぜ。よろしく頼む。そっちは3人と聞いていたんだが、あんたとは初顔だな」

劉はそう言うと、美女を前にすると出てしまう癖でつい右手で差し出してしまい、「しまった断られる」と思ったのだが、意外にも前迫香織は劉の差し出した手を即座にすっと握りそれに応えた。

「どうかされましたので?」

握手したまま動かない劉を不審に思ったのか、劉の手を握ったままほんのわずかに首を傾げた香織が、怪訝そうに聞いてきた。

「い、いや・・。なんでもない」

つい先日出会った他の六刃仙達とは随分違う印象の為、戸惑いがでてしまった劉は慌てて手をパタパタと振り取り繕う。

「クライアントである張慈円さんが戦闘中のはずです。苦戦されているようであれば、助太刀しようと思い向かっておりました。張慈円さんはあちらに?」

香織の表情にやや疑問符が浮かんでいるのは、張慈円の仲間である劉幸喜がボスである人物を差し置いてこんなところに隠れていた為であろう。

「い、いや!・・ボスはこっちはいいから裏手にまわって髙嶺と残りの奴らを始末してこいとのことだ」

「そう・・ですか」

劉の慌てた言いように、表情を顔には出してはいないが、香織は劉の反応を観察する目がやや強まるも、そのまま劉の言葉を待った。

「あー・・ともかく俺は裏手にまわるぜ・・?そういう命令だからな。あんたはもし、うちのボスが無いとは思いたいんだが、苦戦してたら頼む。なにしろ相手はあの稲垣香奈子だ」

うちのボスが負ける姿を見たこともないし、想像もできないが、あの脳筋の獣女ならもしかすると、という不安が頭によぎった劉は目の前にいる前迫香織にそう言ってしまってから、赤面した。

自分がとても太刀打ちできない相手を、高嶺六刃仙とはいえ儚げで華奢な女性に依頼している自分が情けなく感じてしまった為だ。

香織の背は170cmと高いが、握手で握っている手は繊細で、厚みも薄くとても華奢だ。

(く・・、俺はなんて情けないんだ・・)

「・・・あ、あの・・?」

やや頬を紅潮させた前迫香織が控えめな声をあげたので、劉は、はっとなりどうしたのかと顔を上げ訝しがる。

「そろそろ手を・・」

「おっ・・!すまん!つい考え事をしてしまって!別に他意はないんだ」

慌ててそう言い、手を離したものの、劉はつい今さっきまで香織の女性的な手の滑らかさや、華奢さを確かめるように親指で香織の手の甲を撫でるように触ってしまっていたのだ。

「そう・・ですか・・。では私は向かいますので失礼します」

香織はそう言うと一礼し、さっき劉が通ってきた通路のほうに歩き去っていった。

劉は隠れていたのが難なく見破られてしまったのと、考え事をしてしまっていたせいで初対面の女性に誤解されたかもしれないと思い、自分自身に飽きれ、香織の背を見ながら呻いた。

「なんてこった・・。どうかしてるぜ」




両の手から【白雷】を閃かし、褐色のレンガの上に着地した張慈円は対象の獣を視界から見失うまいと即座に顔を上げる。

「ええい!煩わしい!」

張慈円はそう吼えると、熟練された技術を駆使し、両手で暗器【白雷】を操って、銀色の女豹に迸らせる。

オーラの乗った【白雷】が地面や木々を打ち払うたびに、木々やレンガの破片が飛び散り、バチバチと電撃が弾ける。

張慈円の攻撃は確実に何度か銀獣こと稲垣香奈子にヒットしているのだが、いつまで経っても銀獣の動きが鈍くなる様子はない。

むしろ、ますます速くなっている。

「ちっ!」

張慈円はするどく舌打ちをする。

(ちょこまかと!・・最初の崩拳と合わせて3度のクリーンヒットをものともしないタフさ・・そしてこの速度・・!)

8本の【白雷】を掻い潜り、香奈子の低い姿勢からの猛烈な左フックを張慈円は闇歩法で躱し、後方に宙返りして躱す。

加奈子の拳が、うなりをあげた黒い暴風となって張慈円の背後にあった石の街頭柱を粉砕する。

(・・そしてこの破壊力・・!)

【白雷】を両手で構えるなど今まで数えるほどしかなかったのだが、8本の暗器を銀獣は信じられない速度で右に左に上にと躱し距離を詰めようとしてくる。

張慈円はとっととケリをつけるつもりで焦っていたのだが、稲垣加奈子との戦闘に妙な高揚感を覚え始めていた。

「くくくく」

自然と笑い声をあげてしまった自分に張慈円は自分自身で驚くが、素直に受け入れることにした。

稲垣加奈子という難敵との戦闘を楽しんでしまっているのだ。

お互いに動きが止まり、10mほどの距離を置き対峙する。

「何笑ってんのよ」

加奈子は顎に滴る汗を左手の甲で拭い、鋭い目で張慈円を睨みながら言う。

「いや・・気分を悪くさせたか?くくく・・。気にするな」

不気味に笑う張慈円の意図がわからず、苛立った声をあげた加奈子は内心では張慈円以上に焦っていた。

(この電気蟷螂野郎!想像以上だわ!・・舐めてたかも・・。最初にいいのをもらちゃったのが痛かったわね・・・。力を入れると痛む・・。ほかにも攻撃を貰ったところが悲鳴を上げてる・・。パワーもスピードも私のほうが上なのに・・!むかつくけど・・こいつ純粋に戦いが上手なんだわ。うまく間合いを取らせてもらえない。あの武器さえ躱したらどうにでもなると思ったけど・・・)

「来んのか?・・では少し話すか。・・・稲垣・・前言を撤回するぞ。貴様は詰まらなくはない。なかなかのものだ」

加奈子の苛立ちや焦燥を他所に、張慈円がしゃべり出した。

「はん・・。やっと加奈子ちゃんの美貌に気が付けたのね。感心感心・・」

さらに意図がわからないことをいう張慈円の発言に加奈子は軽口で返しつつ、少しでもダメージを回復させようと呼吸を整える。

「くくく・・。そういう事だ。貴様のような女の楽しみ方を思いついたのだ。貴様は強い。いままで出会った女の中では文句なしの一番だ。・・・強い女を力でねじ伏せ犯すのも悪くはないと思うようになってきたぞ?」

そういう張慈円の顔には邪悪で好色な笑みが浮かんでいる。

「・・お生憎様。あんた全然私の好みじゃないから願い下げ。ねじ伏せられないし他を当たりなさい」

加奈子は両手で身震いするような仕草をし、手のひらを拒絶の意味を込めてひらひらと振ってこたえる。

しかし、頭の片隅でもしそうなったことを考えると、怖気と同時に陰鬱な想像もしてしまいそうになりぶんぶんと頭を振って妄想を追い払う。

「稲垣・・。なかなかに惜しいものだ。お前ほどの使い手を殺してしまうのは忍びない」

「あんたが手を引けばいいじゃない。あんたはイケメンでもないし、あんたのしてきた悪事は許せないけど、敵じゃないなら私も戦闘狂なわけじゃないから、数発殴るぐらいで許してあげるわよ?」

張慈円は加奈子の発言に、笑いながら首を横に振り続けた。

「くくく、貴様は面白いことを言うな。しかしそうもいくまい。・・・なぜ一企業の宮川があれほどの大プロジェクトを一社で独占できているのかを考えたことはあるのか?・・宮川はたしかに大企業だがもっと大きな企業はいくらでもある。日本政府が宮川一社に委託するには不自然であるし異常だ。IR推進法が採決され可決されるまえからの出来レースであったのであろう?おそらくは一族ぐるみで魔眼を使い、政府要人を軒並み操作したな?・・その作戦には宮川佐恵子も参加したと聞いている。貴様も当然知っているな?」

張慈円は感による憶測も含むが、自らの推察を宮川一族直系の側近である稲垣加奈子にぶつけてみた。

「さあね」

張慈円の問いかけに、加奈子は無表情を繕い真顔で短く答えた。

稲垣加奈子を詳しく知る者がみれば、加奈子が返事を返した表情は不自然に映ったことであろう。

「・・ふん。思った通り嘘は上手くないな。・・宮川は少しばかり・・いや・・、かなり欲張りすぎている。表社会も支配し裏では我々のような勢力までも排除したいのか?・・魔眼の力は強力だ。強力すぎる。貴様の飼い主である宮川佐恵子も相当傲慢で排他的な性格の持ち主のようであるしな・・。我々としては、どうしても除いておかねば、いずれ徐々に勢力を削られ香港や華僑等は奴等の前に膝を屈するか、さもなくば太平洋の荒波に追い込まれ海の藻屑と消えるであろう。・・・稲垣、貴様もすでに魔眼の傀儡ではないのか?裏社会にも曲がりなりにも秩序や法・・仁義はあるのだぞ?・・宮川のやり方は他を一切許さぬ傲慢そのものではないか!」

張慈円はそう言い切ってしまってから、薄く笑い頭を振る。

「どうかしているな。すでに貴様は宮川の傀儡・・。何を言っても無駄であったな」

自嘲し肩を竦めた張慈円が、乾いた笑い声を微かに滲ませつつも諦めたような口調で言いながら加奈子を見やる。

「・・支社長は私たちに絶対に目は使わないわ。・・そんなこと今まで一度もない。出会った時からずっとよ。・・・・もし、張慈円。もしあなたが・・・大人しく支社長に降るなら、きっと慈悲をくださるわ。・・支社長は能力者を集めてる・・。あなたが悪人で殺人犯だとしても・・・あなたが大人しく言う事を聞くと支社長が確信したら・・たぶんあなたを殺さないはずよ」

加奈子は佐恵子や真理から、香港三合会がベトナムやフィリピンでも勢力を削られ、組織としてはすでにガタガタだということ聞かされていた。

そして今、ここ日本でも他国で失った勢力を拡充するため張慈円自ら乗り込んできたという訳だ。

しかし、橋元を足掛かりに数年かけた湾岸計画も宮川によって橋元不動産は無力化され、結果、張慈円の苦労は徒労となり、計画はほぼ行き詰まり頓挫させられたのだ。

その上、宮川の能力者にも対抗しなくてはならなくなり、苦し紛れに髙嶺に依頼をしたはがいいが、あの髙嶺弥佳子率いる筋金入りのアウトロー集団が湾岸計画をむざむざと香港だけに渡すことはないだろう。

それらの推測がつくため加奈子はついそのようなことを口走ってしまったのであるが、加奈子の感情とは逆に目の前の電気蟷螂からはどす黒いオーラを立ち上らせ激昂した。

「この俺に・・降れだと?!慈悲をくれてやるだと?!!・・ガキどもめらが!増長しおって!!」

そう怒鳴ると、どちらかと言えば今まで受け気味であったが、初めて張慈円のほうから距離を詰め両手の暗器【白雷】を振るう。

(いまさら分かり合えるわけないか・・・)

今まで以上の速度を見せ、先ほどとは違う気迫と形相で迫る張慈円の迫力に気圧されそうになりながらも、ズキリと痛むお腹を気づかれないようにして、加奈子は迎撃態勢をとった。


【第8章 三つ巴 44話 宏と哲司 銀獣VS白雷終わり】45話へ続く

第8章 三つ巴 45話 橋元逝く・・そして炎上

【宮川コーポレーションメンバー】

現社長宮川誠派

緋村紅音(ひむら あかね)
145cm 45kg 31歳 80,54,82 65C
通称:紅蓮(チビ魔人、火遊び枕営業、赤ビッチ:稲垣加奈子が勝手に命名)
宮川コーポレーション本社勤務。宮川コーポレーション現社長宮川誠の側近兼愛人。
某アイドルグループの大島優子をさらに小柄にした容姿で、髪は艶のある美しい赤毛セミロング。
宮川コーポレーションが全国から能力者をかき集めだしたころに新卒入社した生れつきの能力者。
非常に強力な発火能力を有しており、発火能力のみならず肉体強化も並みの能力者以上の使い手で才能の塊。
能力の才能に恵まれているだけでなく、頭脳も明晰で有名国立大学を首席で卒業。
当時の周囲からの評価は、気は強く他を寄せ付けない近づき難さはあるが聡明で頼れる存在とのこと。
しかし、その聡明で整った顔の裏側では、自己顕示欲や物欲が強く渦巻いており、手段を選ばない非情さと、大胆な行動力を兼ね備えた怜悧狡猾で邪知深い人物である。
自己評価が高く、自身に副わない対応や待遇を不満に思っている。
実際に緋村紅音の能力値は平均的に非常に高く、そのためか能力の系統はまったく違う、よく似た能力値の2個下の後輩、一族という事で、組織から優遇されがちである宮川佐恵子のことを毛嫌いしている。
多様かつ極めて攻撃的な技能を複数保有している上に、中国拳法も独自で北派南派のいくつかをマスターしており、遠近隙の無い戦闘力を持つ。

丸岳 貴司(まるがく たかし)
191cm 85kg 31歳 15cm
通称:(オールバック、垂れ目筋肉:稲垣加奈子が勝手に命名)
宮川グループ傘下の丸岳家の御曹司。丸岳家は代々医者の家系。
例に漏れず丸岳貴司も医師免許を取得しており、宮川コーポレーションに籍を置いているが、丸岳家が運営する京都府の総合病院の理事も兼任している。
宮川グループが能力者の収集をし始めた第一次募集組と同じ入社。緋村紅音と中原はなとは同期だが、丸岳だけは入社試験を受けずに宮川参加企業の子息ということで縁故入社している。
黒髪長髪のオールバックで髪を後ろで一つに結っており、の江口洋介を垂れ目にして酷薄にした顔立ち。胸板は厚く、筋肉質な体躯の持ち主。
丸岳家の道場で幼少期より日本武術を鍛錬しており師範代の肩書も持っている上に能力者でもある。肉体強化系の能力を保有しているとされている。
普段からダーク色のスーツを着こなし知的な見た目通り冷静沈着で仕事も出来る。
社内では余裕のある態度と口調で過ごしているため、独身という事と、ミステリアスさを感じさせる雰囲気が意外と女性社員に人気が高い。
緋村紅音とよく行動を共にしているため、宮川誠派と目されている人物。

中原 はな(なかはら はな)
185cm 77kg 31歳 98,73,103 80C
通称:(イケメンレディビルダー:稲垣加奈子が勝手に命名)
宮川コーポレーション本社勤務。宮川佐恵子、神田川真理、稲垣加奈子の2個先輩で緋村紅音、丸岳貴司とは同期組。
容姿は渋く掘りの深いイケメン顔に可愛らしいサイドテールやツインテール、そして圧倒的な肉体の持ち主・・。幼少期より空手一筋で鍛え上げた鋼の肉体を持つ能力者。
趣味は筋トレと柔軟運動、そして相撲観戦という女性らしからぬ偏りぶりであるが、宮コーの変態異常者揃いの能力者の中では神田川真理と並ぶ双璧の常識人。
見た目のゴツさとは裏腹に、協調性を旨とする平和主義者な為、頼っている社員は多い。
お人好しな面があるため宮コー内部での派閥争いに、いつも巻き込まれているが、本人はどちらにも仲良くしてもらいたいと思っている。
好きな男性のタイプはジャーニーズ系のイケメンではなく角界の猛者で、浴衣を着て髷を結っている男性を見ると、すき油の匂いに引き寄せられるのかフラフラと近づいていく。
以前、中原はなの誘いで宮川佐恵子、稲垣加奈子、神田川真理が相撲観戦に行ったときに、1畳程度しかない枡席に4人で座っている様子が社内のブログに貼られているが、座っているはなの巨躯に3人が枡の隅に押しのけられている図で、その絵は、はなのボリュームを説明するときによく使われている。
能力は肉体強化しか保有していないと記録されているが、内緒の隠し持った能力があり、本人以外誰も知らない。

〇宮川コーポレーション調査部(元菊一探偵事務所)

菊沢宏(きくざわ ひろし)
172cm 61kg 35歳 15cm
通称:グラサン(三流ホスト、むっつりグラサン:稲垣加奈子が勝手に命名)
菊一探偵事務所元代表であり、菊沢美佳帆を妻に持つ。古流武術、芹沢流の免許皆伝者。
膨大な思念量と屈強な肉体の持ち主。普段からお堅いフォーマルな恰好を良しとせず、Tシャツにジャケット、スラックスで黒を基調にラフに着こなしている。容姿はGLAYのテル似ではあるが、普段は寡黙で表情をそう動かすことなない。
普段からトレードマークであるサングラスを愛用しているのは、魔眼とは異なるが能力解放時に目が赤く発光してしまうのを隠すためである。
美佳帆には芹沢流の扇子術のみを伝授した。【肉体活性】、【残り香】、【キルマインド】など多彩な力を持ち、指刀では指が名刀の如く切れ味と化すことができる。
学歴も高学歴ながら、同高校大学の先輩の妻、美佳帆には普段はアホ扱いをされているのは直情的な性格から子供っぽい一面を見せるためである。
高い戦闘能力と様々な経験から、多様な対応力を持っており、思慮深く女性には絶対に手をあげないなどフェミニストな面もある。しかし、口数が少なく言葉も使いも荒くなりがちなので、初対面の人には怖がられる時も多い。
宮川コーポレーションと橋元一味の抗争が激化していく中、自身や会社を守る為、能力者集めに執心している宮川佐恵子に、熱烈な懇請を受ける。
当初は乗り気でなかったものの、凶悪な能力者と対峙した際に仲間を自分だけでは守り切れないかもしれないという葛藤と、愛妻の菊沢美佳帆や宮川佐恵子に好意を持ちつつあった副所長の豊島哲司の後押しもあり、命令は受けないなど、いくつかの条件付きで宮川コーポレーションの社員となった。
現在は宮川コーポレーション関西支店調査部部長という肩書を持っている。上場企業の部長職になったが相変わらずスラックスにジャケット姿のスタイルを崩さず、菊沢美佳帆の頭痛の種になっている。

菊沢 美佳帆(きくざわ みかほ)
155cm 48kg 38歳 83,62,87 75C
通称:百聞の美佳帆、大蔵大臣(外ヅラ菩薩、熟女枠:稲垣加奈子が勝手に命名)
菊沢宏の妻で菊一探偵事務所の所長代行。菊沢宏や豊島哲司と同じ高校に通っていて当時からの顔見知り、そして宏らの2個先輩である。
常に前向きで周囲に優しく明るく接する、菊一事務所のリーダー的存在。体調によって多少変動するが能力は半径100mにも及ぶサークル形内での傍受能力【百聞】を得意とする。
肉体の強化も行えるが、それほど得意ではない。それを補う為に菊沢宏からは芹沢流軍配術を指南されており、普段から美佳帆のバッグには鉄扇という物騒なものが忍ばされている。
また知識欲旺盛で、多数の資格を取得している勉強家にして事務所の頭脳、その知識は時に非常にマニアックな部分まで掘り込んでいるときがあり周囲を驚かれることもある。
マスターした技能の中にはハッキングやキーピッキングなど、まさに探偵っぽいものは国際クラスの腕前である。
此度の橋元一味との抗争に巻き込まれているうちに、橋元不動産社長橋本浩二に目を付けられ【媚薬】という呪詛を貼り付けられてしまい、抗い難い性欲に塗れた熟れた豊満な身体を橋元に堪能されてしまう。

豊島 哲司(とよしま てつじ)
182cm 84kg 35歳 16cm
通称:(支社長のイイ人、以前は風俗通い、白刃取りの彼:稲垣加奈子が勝手に命名)
菊沢宏らと同じ高校出身。中、高、大学と陸上競技で短距離走をしていたが、社会人になってからは仕事の持ち場的に、短距離選手とはかけ離れた仲間の盾役に相応しい体形に鍛錬して身体を作り上げている。
実家は京都にあり、知らないものがいないほど有名なお寺で、そこの跡取り息子である。性格は正直者でやや暑苦しいところもある正義漢。見た目もそこそこ暑苦しく織田裕二似のルックス。
普段は寡黙ながらもルックスと渋い表情の合間に時折みせる、白い歯が印象に残るは笑顔が武器になっており、実は女性にはモテている。しかし女性と話すと緊張しすぎる体質もあり20代前半までは彼女ができず、大学を卒業するころにようやく初めての彼女ができた。
もともと高い身体能力に加え、常人離れしている握力を持つ。稲垣加奈子と能力の偏りは似ており肉体強化に全振りした構成である。スピード重視が加奈子とするとパワー重視の哲司である。
つい最近まで彼女無しの独身で、仲の良いモゲとよくつるんで遊んでいたのだが、宮川コーポレーションの宮川佐恵子と出会い、哲司がほぼ一目惚れしてしまう。
相手の感情を色で識別できてしまう佐恵子に、その想いはすぐ気づかれてしまい付き合うことになったが、お互いに中学生なみの恋愛経験値しかないため、今のところキスまでしか進展していない。


~~本編~~

第8章 三つ巴 45話 橋元逝く・・そして炎上

黒いストレッチャーの上にヒップを突き出した格好で顔を押し付けられている美佳帆は、汗と精液で汚れた顔を動かし、たった今けたたましい音を発して吹き飛んだ扉の方に顔を向けた。

「ま、待ったよ~・・宏ぃ・・」

疲れ果て絶望しかけていた美佳帆の顔と目に色が戻る。

全裸でこんな状況と恰好だが、美佳帆の前にはグラサンを掛けた旦那と、その背後には意図的にこちらを見ないようにしている副所長の豊島哲司が部屋の隅にいた男たちに向かって走り出す。

「美佳帆さん!すまん!!待たせすぎた!」

それだけ言うと美佳帆が置かれているストレッチャーまで走る。

「き、菊沢宏!・・何故ここが!」

「とっとと離れんかい!このカスが!!」

美佳帆の髪を掴み、口を犯していた一物を隠しながら、服を探す橋元であったが、走りながら怒鳴る宏に両手で掴まれ、壁に向かって投げられ叩きつけられる。

「ぐぇ!・・ひぃ・・ひぃ・ま、ま、ま、まて!お前の淫乱妻の痴態を撮ってあるんや。もし、私にこれ以上乱暴したら、あんたら夫婦はもちろん事務所やってただじゃすま・・」

壁際に全裸で尻もちをついた橋元は、鬼気迫る表情の宏に右手を挙げて声をあげるが、

ばきぃ!!ぼきぃ!!

「ぎゃーーーーー!」

橋元は自らの話の途中で突如悲鳴を上げる。

投げ出していた橋元の両膝を宏が無言で踏み砕いたのだ。

「橋元お前は万死に値するんやが、なぶる趣味は無いんや!目ざわりや!もう死ねや!もっと早う殺すべきやったんや・・!」

宏はそう言うと右手の指先にすでに集中していたオーラを鋭利な形状に変え橋元の首を切り飛ばした。

栗田教授直伝の点穴を応用した技能で指先のオーラを切れ味の鋭い刃物のように変化させる技能である。

宏と哲司がこの部屋に突入してから15秒ぐらいの出来事で、スタジオに集まっていた他の面々は呆気にとられたまま呆然といまだに立ったままである。

「え?」「なにこれ?演出?」「え?血?まじ?」とAV男優たちが口々に現実を脳が容易に受け入れられずにいる発言をしているが、一人だけカメラを構えたスタジオ野口の支配人である野口啓介が悲鳴を上げた。

「ひいいいい!わ、私は橋元さん、いや橋元に頼まれただけだったんだ!・・いわくつきの女だとしか聞いてなかった。知らなかったんだ!助けてくれ!!私は無関係なんだ!ひいいい!」

床にごろりと橋元浩二の首が転がるのを、引きつった顔で悲鳴をあげつつ後ずさりし見ながら、続いて橋元の首を切り落とした、グラサン男の宏に目を見開いて嘆願する。

が、宏は床を蹴り野口に迫ると無言で右手を薙いだ。

ビシャアアアア!音をさせ、野口の立っていた後ろの壁面に赤い液体が飛ぶ。

呆然と見ていたAV男優たちの顔や身体に生暖かい赤い液体と、べっちゃりとした肉片が付着する。

先ほどまで目の前で叫んでいたカメラマンの顔の上部半分が吹き飛び、自分たちの身体に野口啓介の一部が飛び散ってきたのだと悟ると、AV男優たちは一斉に悲鳴を上げた。

「ぎゃああああああああ!」

一瞬で男たちの阿鼻叫喚の大合唱となるが、宏は無言で腕を振る。

哲司も止めることはせず、着ていたジャケットを美佳帆に掛け、ストレッチャーに拘束されていた美佳帆を介抱している。

美佳帆も、宏は大して怒っていないときは、ギャーギャーうるさいが真に怒りの頂点にある時は、無言でその腕を振るい続ける事を知っていた。

そして今がまさにそれで、こうなると誰が何と言おうと止まらないし、自分が今の姿で居る事に対しての怒りである事に、嬉しくもあり同時に先ほどまで自分の身体にされていた仕打ちを思い出すと胸が締め付けられるような痛みに襲われた。

周囲はカメラマンも含め宏から見て男優だと断定した男たちは、みんなほぼ全裸で下半身を露出させている。

露出させていた下半身の男性器はみな一様につい直前に使用した形跡が見て取れた為、宏は頭に血が上るのを感じたが、迷うことなく全員を殺すことにした自分の判断に何の躊躇もなかった。

「・・・」

両手を真っ赤に汚した宏は動く者がなくなると、ゆっくり美佳帆のいるほうに向きなおり、美佳帆に駆け寄る。

哲司に掛けてもらったジャケットを両手で押さえながら美佳帆は近づいてくる宏の胸に身体を預けるようにして倒れ込んだ。

「すまん!美佳帆さん・・!」

「へへへっ・・、やっぱり来てくれたね・・。ほんのちょっとだけあいつ等に触られたけど、宏達が助けに来てくれたから何とか無事よ」

汗と何かの液体で顔面ぐちゃぐちゃの美佳帆は、明らかな嘘で宏に強がってみせたのであるが、宏は無言で自身のジャケットも脱ぎ美佳帆の顔を拭いた。

「う、うわっぷ・・・あ、ありがと。宏」

スタジオの隅で、二人して見つめ合い立っている宏と美佳帆に控えめに哲司が声を掛けてきた。

「撮影されてたみたいやったから、機材は全部破壊しておいたで・・。無事・・・とは言えんけど美佳帆姐さんも取り返したし・・・橋元もあの様や・・」

哲司は破壊した機材の山を親指で指しながら言った後、床に転がっている橋元の首を見やりながら言葉を更に続ける。

「ああなってしもたら、呆気ないもんやな・・。能力者あったっちゅうても、橋元は戦えるような能力やなかったんやろな。・・・あ!そや・・、姐さん!身体はどうです?宮川支社長の予測やと、女性を蝕むような呪詛があるはず言うてましたけど、どないです?」

橋元が事切れたのであれば、呪詛は霧散するはずだと聞いていた哲司は美佳帆に言う。

宏も「そ、そや!美佳帆さんどないや?!」と美佳帆の肩を抱きかかえたまま聞いている。

「・・そ、そういえば・・無いわ・・。大丈夫みたい・・。あんなに酷かったのに嘘みたいに平気よ!」

「そ、そうか!よかった~!」

美佳帆の答えに宏は安堵した様子で今日初めて笑顔になり、美佳帆の肩を強く抱きながら言った。

「美佳帆さん取り戻せたけど、外には色々居るみたいなんや・・。宏は美佳帆さん連れて行ってくれや。張慈円のカスも来とるみたいやし、俺が助太刀にいってくるさかい」

哲司が宏と美佳帆を気遣いそう言ったところで、宏と哲司の表情が引き締まり緊張が走る。

「な、なんや!?」

「これ不味ないか?・・!これは」

「え?どうしたの?」

宏と哲司の緊張したセリフに驚いた美佳帆が二人の顔を交互に見上げ聞くが、二人は美佳帆の問いかけには答えずオーラを放出する。

「え?え??」

披露しきった美佳帆は感じ取れなかったのは無理もないが、周囲は強大なオーラが渦となり収束しつつある状況でこれから何かしら周囲に変化をもたらすことが確実なように思えた。

危機と断定した二人の行動は早かった。

宏と哲司は長年のコンビネーションで言葉なく、阿吽の呼吸で美佳帆を間に挟み最大でオーラを放出させ防御障壁を展開する。

「ど、どうしたのよ!?二人とも!?」

「美佳帆さん、後で説明する!動かんとリラックスしてくれてたらええねん。テツ!気張れよ!」

「まかせとけや!チームの盾は俺やねんで?!」


哲司のセリフの直後に周囲の景色が歪み、続いてに轟音が響く。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

3人の姿を紅蓮色の渦が包み込み、高熱と噴き上げる業風が襲う。

周囲の撮影機材や照明器具などが熱で変形し、ガラス製品はパリンと音を立てて砕け散る。床や壁面はコンクリートのようで炎の高熱に形状変化はないようだが、金属は融解され、コンクリートの表面に付着していた石油系の建材などがバチバチと爆ぜる音をさせながら、消し炭と化してゆく。

周囲に転がっていた亡骸が、水分を奪われ黒い塊に変化していく。更に熱で徐々に変形させられていく様は、悶え苦しんでいるように見えるが、熱と業風は止む気配はなく周囲を焼き尽くす。形状をとどめることができなくなるほど炭化したそれらは、紅蓮色に染まる世界の中で塵ほどの大きさまで分解されて、空中に霧散していった。

府内で警察さえも牛耳り不動産業を一代であれほど成長させ、【読唇】【媚薬】という常人離れした力を用い、悪事の限りを尽くして栄華を極めようとしていた橋元浩二であるが、炎であの世に送られようとしている様は、周囲の亡骸となんら変わりないように見えた。

【第8章 三つ巴 45話 橋元逝く・・そして炎上< 終わり】46話へ続く

第8章 三つ巴 46話 銀獣散る・・・悲しき走馬灯

第8章 三つ巴 46話 銀獣散る・・・悲しき走馬灯


幾何学的な模様で美しく敷きならべられていた煉瓦の駐車場はところどころ表面にヒビが入り、ひどいところに至っては砕け散り歩くのは困難なほどだ。

先ほどまで、LEDの灯りで周囲を照らしていた見事な南欧風石柱の灯篭は腰高付近から、砕け倒れてしまっている。

剪定の行き届いていた植栽達は枝から折られ、シンボルツリーとしてあったクスノキに至っては、幹の上部は斑に焦げた模様があり、また幹の背丈ほどの部分には中世西洋の攻城兵器のバリスタの矢でも打ち込まれたかのような穴が空いている。

色とりどりの可愛い小さな花を満開にさせていた花壇は無残に踏み荒らされ見る影もない。

今やスタジオ野口の入口正面付近の駐車場とアプローチは当初の美観は損なわれ、まるで廃墟の様相である。

そんな中、乱れた呼吸を整えようと細身の黒い影が極力大きく息を吸い込み吐き出す。

銀獣から受けた左右連続の猛烈な横鉤突きで抉られた腹部を、やせ我慢で何とかやり過ごそうとするが、激痛で上半身を前かがみにしてしまいそうになる。

しかし、黒い影の人物張慈円は喉奥からこみ上げる血液交じりの苦い液体を吐き捨て、痛みを無視するように胸を張り、自分自身とここまで戦える女を心中で感嘆する。

しかしそれを表情には出さず煉瓦の床に、色素の薄い髪の毛を乱れるままにしてうつ伏せで呻いている女に向かって放つ。

「・・・ふん・・女狐が・・。手こずらせおって」

地面に這いつくばり何とか身を起こそうとしている銀獣こと稲垣加奈子は、いまだ闘志の宿る目で張慈円を睨み上げてくるが、その顔には裂傷による出血と、吐血で血にまみれており、ダメージが深刻なのは見るからに明らかである。

よろよろと、ようやく立ち上がった銀獣であったが、左手で右肩を抑えており痛みにその美しい顔を苦痛に歪ませている。

「・・支社長をおいて・・こ、こんなところでやられるわけには・・」

ゼエゼエと荒い呼吸で肩を揺らし、独り言を呟いた銀獣はカッと目を見開くと、肩を押さえていた左手に力を込める。

ゴキリという生々しい音が妙に響き、銀獣は更に苦悶の表情を濃くして小さく悲鳴を上げた。

どうやら脱臼した肩を無理やり入れたようだ。

白銀色に輝き逆立っていた髪の毛は、最早輝きを失い。色素の薄い髪の毛は汗でしっとりと濡れ、肩で息をしている加奈子の額に張り付いている。

オーラはもうない。

130%ほどオーラ出力で戦っていたのだが、パワーやスピードで張慈円を圧倒できた為、それ以上の力を使わずに戦った結果、戦闘巧者の張慈円に翻弄され徐々にペースを乱されていたのだ。

最初の不意打ちで受けた張慈円渾身の崩拳もまずかった。

井川栄一や南川沙織と連戦を重ねてきた加奈子では、ほぼ全快している張慈円と対等に相対すること適わず最初から無茶であったのだ。

全力になる150%の開放オーラ残量もなく、徐々に体力を奪われこの有様である。

オーラを使わず肉体のみで張慈円と戦うのは無謀すぎるが、ほかに手はない加奈子は痛みで軋む身体に鞭を打ち、構え張慈円を睨に顎をしゃくって張慈円を挑発する。

「くくく・・やはりな・・。貴様のような奴はもはや勝ち目がないと分かってもそうくるものだと分かっていたぞ。そうでなくてはな!・・・それでこそ貴様のような女でも楽しめるというものだ!生意気を抜かしたツケを払わせてやるぞ!」

張慈円は満身創痍の加奈子を観察し愉快そうにそう言うと、間合いを詰める。

牽制してくる加奈子の左ジャブを、左手でいなし半身で躱すと同時に、がら空きの腹部に右肘をめり込ませ、衝撃で前かがみになった加奈子の右頭部の髪の毛ごと掴むと、そのまま身体を開き加奈子を地面に再び叩きつける。

「ぐふぅ!」

空中で一回転させられて背中を地面に強打させられてしまった加奈子は、痛みで悲鳴を上げる。

すぐに目を開けるも、当然窮地のままであり目の前には不気味に笑う張慈円の顔が間近にある。

張慈円は加奈子の左手を掴んだまま手首を直角に折り曲げて体重をかけ、加奈子の手首と肘、そして肩の3点を同時にキメる。

「あっ!くぅ!・・っ!っっっっ~~!!!」

「くくくくく!いい表情だ!もっと叫んでもよいのだぞ?!」

苦痛に歪む加奈子の顔を歪んだ笑顔で堪能しながら張慈円は言い放つ。

「っ~~!!んんんんん!」

せめて悲鳴をあげまいと下唇に歯を立てて声を我慢している加奈子の顔を見ながら張慈円は興奮で下腹部が膨張してくるのを感じていた。

「くくくくく・・いいぞ。いい顔だ!どうだ?稲垣!・・貴様のような女でも楽しみ方はあると言った意味が解ったか?!」

痛みでそれどころではない加奈子は何とか逃れようと、両足を回転させ張慈円の頭を狙う。

しかし、それを予期していた張慈円はあっさり蹴りを躱し、加奈子を開放すると、今度はその脚を掴んで捻り加奈子をうつ伏せにする。

加奈子の両脚首をキメたまま加奈子の腰の上に勢いよく座ると同時に、張慈円は身体をのけ反らし加奈子の足の裏が加奈子の肩に付くほど引き上げる。

所謂、逆エビ固め、ボストンクラブというプロレス技のような見た目で、それをより厳しく逸らした格好である。

「ああああああ!!や、やめろお~っ!!あぐう!」

「・・・これでは貴様の表情が楽しめんな」

激痛でのたうつ加奈子の発言を無視して、少しでも痛みを和らげようと上体を逸らしている加奈子の髪の毛を、加奈子の両足をキメていた右手で器用に掴むと張慈円の手首に巻き付けた。

「っっ~!!~~っ!!!!っ!かはっ!!~~っ!!」

「これでよい」

更に身体を逸らせた状態にされた加奈子は悲鳴らしい悲鳴を上げることもできず、苦痛に歪む顔をすぐ間近で張慈円がニタニタした表情で観察している。

立ち技と違い寝技や関節技は双方の技術の優劣が現れやすい。

そしてその差は致命的な結果となる。

立ち技で敵わない場合は最悪逃げるという手が残されているが、寝技や関節技で相対する敵に及ばない場合はそういう訳にはいかないのだ。

それに今の香奈子はオーラもなく身体へのダメージも深刻で、とてもまともに戦えるような状態ではない。しかし、張慈円は解っていて加奈子にとどめを刺さず悲鳴をあげさせ苦悶の表情を楽しんでいるのだ。

加奈子の髪の毛を巻き付け引き絞り、足首にしっかり括り付け、セルフボストンクラブの格好で固定してしまう。

その態勢でひとしきり憐れな格好の加奈子を足蹴にして甚振ると、楕円形の形に逆エビぞりで固定されている加奈子の右腕を掴む。

「くくく・・。こちらの腕は先ほど脱臼したほうだな?・・・どれ」

張慈円が薄笑いを浮かべながら無常に手首を捻りあげるとコキッと乾いた音がして加奈子の右肩が再び脱臼する。

「きゃあああああ!・・・ああああっ!!っ~~!・・・張慈円~~!!・・さっさと殺りなさいよ!!なんなのよ!!?」

「くははははは!痛かろう?!・・・さあこちらの腕もだ」

「や、やめ!やめて!もう嫌!!やだヤダヤダ!!やだ!!やだああああぁぁぁぁ!!!」

逃れようともがく加奈子の左腕を掴み、右腕と同様に加奈子の背面で左腕をキメて左肩を外す。

「ああああ!うううぅ!こ、こんなことして!ただで済むとおもって・・ああああああっくぅ!!」

脂汗をびっしょりとかいて悪態を口にし出した加奈子を無視して、張慈円が加奈子の右手の小指を、加奈子の手の甲の側へ一気に折り曲げたのだ。

「何か言ったか?俺の聞き違いか?んん?」

加奈子の脇に座りこみ加奈子の形の良いヒップを特殊スーツ越しにパチンと叩きつつ、張慈円がわざととぼけたようなセリフを楕円形に逆エビぞりの形に固定された加奈子に投げかける。

「このおおお!張慈円~~!!許さない!絶対許さないわよ!!」

「まだ9本あるな・・」

「な、何言って・・・!!く・・っくっそーーー!・・・きゃゃああああああ!!」

加奈子のセリフを無視して張慈円は加奈子の右手の薬指をへし折ったのだ。

「魔眼の小娘はまだ生きているのか?どうなのだ?」

「ああああっ!・・うう!・・この!!このっ!殺す!」

質問に答えず、痛みで悶絶しながらも罵る加奈子の中指が、張慈円によって容赦なく折られる。

「あああっ!!くぅ!!つぅ・・っくはっ・・!!」

加奈子の右肩は脱臼しているうえ右腕の上には張慈円の尻に敷かれている。

左腕も脱臼させられており、反対側にいる張慈円には届かないし、まともに動かすこともできない。

「くくく、さっさと言わんから痛い思いをするのだ」

「し、支社長が死ぬわけないでしょうが!」

厳しく身体を逸らされ顎をあげさせられた格好でも、加奈子は張慈円を横目で睨みながら痛みに耐えつつ毅然と言い放つ。

「そうだ。その調子だ。素直であれば痛い思いはしなくても済むぞ?それにしても、やはり死んではいないのか・・。それはそれで・・ふむ・・」

張慈円の妙な冷静なセリフを聞き、ハッとした表情になった加奈子は口を真一文字に噤んで歯を食いしばり、目を閉じた。

「ん?どうした・・?そうか・・なるほど。魔眼に義理立てしようというのだな?」

折った加奈子の小指、薬指、中指をグリグリと甚振りながら、張慈円がさも愉快そうに仰け反ったの加奈子を覗き込むように聞いてくる。

「・・・・黙れ・・!一瞬でもあんたのことを支社長に許してもらって、使えないかと進言しようと思った自分を全力で後悔してる。死ぬほど反省してるだけよ!・・それより、さっさと私のこと殺した方がいいわよ?今回偶然私に勝てたからって次は無いわ!」

オーラもなくなり、絶体絶命の加奈子であったが、カッと見開いた目には強い意思があり、張慈円を睨みながらはっきりと言い放つ。

「くくく、しかし、その格好では何を言っても滑稽にみえてしまうな」

逆エビぞりの格好で凄んだ加奈子は赤面させたが、その顔を隠すこともできず悔しそうに張慈円を睨む目に力を込めギリギリと歯を噛みしめる。

折られた指、脱臼させられた肩などが痛すぎてどこがどう痛いのか加奈子はもうよくわからなくなっていた。

「・・魔眼の能力にはどういうものがある?恐慌と眼光と言ったな?ほかにはどういうモノがあるのだ?弱点はないのか?」

加奈子の羞恥や痛みを他所に張慈円は質問を続ける。

「張慈円・・あんたのデカいんでしょ?・・・自分で自分のをしゃぶってれば!?・・っひぎぃ!!」

ぼきぃ!と生々しい音とともに付け根から折られた加奈子の右手の親指はあり得ない方向まで開き、開いたまま戻らなくなった。

「聞いたこと以外のおしゃべりは禁止だ。二度言わんぞ?」

仰け反らされたままの加奈子は痛みで悲鳴を上げまいと歯を食いしばりぶるぶると小刻みに震えている。

「魔眼の弱点はなんだ?」

「・・・・・・死ね!クズ野郎!」

ぼきぃ!ばきっ!

「あああ!うぐう!っ~・・・!!はぁはぁ!っ~~っ!!」

加奈子の人差指は第二間接後逆に曲げられ、その直後根本を更に手の甲にくっつけるようにして強引に倒されたのだ。

今は加奈子の右手の指は全てが折られ、指はあちこちな方向に不気味に折れ曲がり広がったままでいる。

「くくくく・・。いい声を上げるではないか。もっと楽しみたいが・・ここではな・・・。しかし、その目つきはいただけんな。・・・態度を改めんともっと厳しい責めになるぞ?・・言え!・・・あの宮川の小娘、魔眼の弱点を言うのだ。視界に入るだけで危険と言わしめるあの目で出来ることを洗いざらい話せ。」

張慈円は真一文字に口を噤み睨み上げてくる加奈子の視線を見据えながら、言い聞かせるようにゆっくりと問いかける。

張慈円は加奈子の顔を右手で掴み、掴んだ手の親指を加奈子の左目に宛がった。

言葉はないが口を割らないと次は目だ。と言っているのは加奈子にも伝わったが、加奈子の表情は変わらず張慈円に答える。

「・・魔眼に弱点なんかないわ!知ってても絶対に言うもんですか!それより【恐慌】の味はどうだった?!後遺症があるでしょう?夢でうなされたりしてない?暗がりが怖くなったでしょう?」

張慈円と目を合わせたまま加奈子は挑発し、張慈円の反応を探る。

「あははははは!ざまあみろだわ!うなされてよく眠れないんでしょ?!夜一人でトイレに行けなくなっちゃった?」

張慈円の表情がわずかに曇り、目を吊り上げたのを加奈子は見逃さず、声を上げて嗤う。

ずぶっ!

「あぐっ!」

「二度は言わんと言わなかったか?」

加奈子の左目に張地円の親指が突き刺され、加奈子の視界の左半分が真っ赤になり温かい液体がほほを伝う。

「貴様はここで殺すつもりであったが、気が変わった。もっと体に聞いてやる」

のけぞった格好で視界は半分に減り、痛みで脳がジンジンと響くが、張慈円のセリフは聞こえていた。

加奈子は右目だけを動かし確認すると、張慈円はスマホを取り出し中国語で連絡をしだしている。

中国語はほとんどわからないが、おそらく加奈子自身を拷問するために連れ帰ろうと部下に連絡しているのだと察した加奈子は覚悟を決めた。

(万事休す・・・か・・。ぶん殴りたくっても拳が握れないや・・・左目ももう・・)

右手を握ろうとするが全く動いてくれない。少しでも動かそうとするといろんなところに激痛が走った。激痛を堪え機能してない左目の眼球を意識して動かそうとしてみるも、動いている感触はあるのだが視界の半分はやはり失われたままだ。

痛みで頭がガンガンする。まだまともに頭が働いているうちにと加奈子は、張慈円がスマホでの会話に集中していることを確認する。

(私が捕まってしまったら重要な情報を敵に知られすぎてしまうわ。口を割らなくっても、そういう能力者がいたらと思うと・・。支社長・・ごめんなさい。生涯支社長の剣であり盾になると誓ってたんだけど・・。真理、あとはお願いね・・)

加奈子はのけ反った格好で舌をできるだけ突き出し、恐怖で一瞬だけ躊躇したが意を決して思い切り歯を食いしばった。

激痛が走り、口の中が暖かい液体で満たされ、脳をつく甘い匂いが口中に充満すると同時に、その液体によって呼吸が妨げられる。

「ごぼっ!!がっ!ごぼぼっ!」

涙と血で視界がよく見えない。生命活動を停止しようとしているためか、すぐ隣で張慈円が何かを叫んでいるがよく聞き取れない。

体中の感覚が鈍いのか、痛みが引いていく。息が苦しい。右目もよく見えなくなってきた。張慈円が何か口走りながら頬を掴んで口に指を突っ込んでくるのが煩わしいが、手足も動かせず成すがままだ。

でも口に指を突っ込まれているはずなのに触られている感覚も遠のいていく。

今度は寒い。暗い。怖い・・。


~~~~~~

・・・これは夢?

「宮川佐恵子と言いますわ。日本は初めてで慣れませんの。よろしくお願いいたしますわ」

「およしなさい!わたくしの目の前で弱い者いじめは許しませんわ!」

「あなたも泣かないで・・。あなたは純粋で優しいだけよ」

「わたくしの家もこちらですの。稲垣・・加奈子さん?一緒に帰りましょう?」

「稲垣さん・・!あなたすごい力ね!こんなの誰にも真似できないわ・・!」

「お父様!ご紹介させてください。こちらは稲垣加奈子さん。私の日本での初めてできたお友達ですの。すごく力が強いですのよ?ほら!知恵の輪がこんなに・・!こんな解き方思いつきませんでしたわ!」

「ご両親は毎晩お仕事で夜遅くまで帰ってらっしゃらなくて加奈子さんはいつも一人で待ってるそうですの。わたくしとここでお稽古やお勉強して過ごしてもいいかしら・・・?・・・ありがとうお父様!大好き!」

これは・・・ジュニアスクールの時・・・?

支社長が転校してきたときだわ・・。

くすっ・・。支社長・・いまと全然変わらないですね・・・。

私の両親が無理して見栄で入学させてくれたインターナショナルスクール・・支社長が転校してくるまでは地獄だったわね・・。

周りはお金持ちばかり・・。古びた服や靴を着せられているのに、人一倍身体も大きくって、胸の発育もはやくて目立っていた私は10歳になるころから周りに虐められてた・・・。

2個上の緋村紅音のグループの子たちにちょっかい出されてよく泣いて帰ってたっけ・・。

そんな時、すごいお金持ちが来るって噂が流れて支社長が転入して来たのよね・・。

驚いちゃった・・。あんなに大勢の取り巻きがいる緋村紅音に転校初日から毅然と立ち向うんだもん・・。

あれから私の人生変わったんだと思う・・。

「会長。そんなことは私がやりますから!」

「ふふ、大丈夫よ加奈子。これも生徒会長たる者の職務ですわ。造作もないことです 」

「だけど・・生徒会活動の他に文化祭と体育祭、それに広報業務までしてたら来月の模試に響いちゃいます!」

「加奈子・・。そんなのこなすのは当然だわ。私は宮川なのよ・・・。普通の学生とは違いますの。加奈子、あなたは無理しなくてもいいのよ?」

「そんなことありません!私にだってできます!」

「・・そう?・・さすが加奈子ね」

ジュニアハイスクールに上がってから支社長は血が目覚めたのか、12歳で生徒会長に立候補して当選しちゃったんだよね。

そうそう・・紅音のやつが僅差で負けて地団駄踏んでたわね・・。

支社長の自宅で私も同じように習い事させてもらってたけど、支社長はどんどん人の上に立つようになっていっちゃったんだよね。

なんでもこなしちゃうんだもん・・。置いていかれないようにいつも必死だった・・。

でも、それが嬉しくて支社長がそういう立場になるのが自然で当たり前だと思ってたし、今でもそう・・。

「そうよ加奈子!その調子!思念が身体を纏ってるわ!そのまま維持して!・・・すごいわ!かなりのオーラ量よ!これであなたもオーラを使えるようになるわ!」

10歳からという思念開発としては遅すぎるスタートを切った私でも15歳のときになんとか脳領域の開放ができた。

支社長、自分のことのように喜んでくれたっけ・・。

支社長の一族が魔眼と呼ばれる眼力瞳術の遺伝一族で、思念波と呼ばれる力を操り財界や政界に大きく影響力を持ってると分かり出したのは私の能力が開花してから・・。

支社長のお父様に呼ばれてお話されたっけ・・・。

思念のこと、宮川家のこと、かいつまんでた部分もあるけど、当時の私によくわかるように丁寧に説明してくれた・・。

「加奈子ちゃん。うちの佐恵子をよろしく頼むよ。佐恵子は大人になるにつれて敵も多くなる。これは避けられないことなんだ。そんなとき加奈子ちゃんみたいな良い子が佐恵子の側にいてくれたらおじさんは安心だよ」

宮川昭仁会長はそう言って私の手を両手で握って言ってくれたの。

その時から、私は宮川家の為に、いえ・・支社長の為に生きようと思ったんだわ・・。

「あんたたち!会長を襲おうなんて身の程知らずもいいとこね!」

「加奈子。それぐらいでいいわ。次またわたくしたちに、危害を加えるようなことを企てる気概などなさそうですからね」

普段の尊大な態度と、清廉だけど強引な方策を推し進める生徒会長宮川佐恵子はハイスクールになっても健在で、少数派の意見を汲み取らない独裁会長と呼ばれ、校舎の内外でもよく襲われたっけ・・・。

前代未聞の6年間生徒会長を務めた長期政権で、あの学校の伝説として残ってるもんね・・。

「少数派の意見・・・?そういうの意見じゃありませんわ。クラスに1人ぐらいどうしたって変なのがいるでしょう?それよ。そんなの少数意見じゃないわ。頭のおかしい考えってこと。検討に値しないわ」

「会長・・またばっさりですね。・・・まあ・・、もうすこしオブラートに包むべきじゃないかと・・」

「あんな〇産党みたいなこと言われても相手にできませんわ。言ってる本人にもメリットは無いし、一体全体どういうつもりですの?理解できませんわ」

「も、もう会長は黙っててください!私たちが対処しておきますから!」

ハイスクールの時は本当に色々あった・・。

会長も女としてすごく綺麗になってきたし・・、まあ美貌やスタイルに関して言えば加奈子ちゃんのほうが一歩リード・・いえ二歩リードしてるとはいえ、お金持ちで成績優秀な美人の生徒会長は、いい意味でも悪い意味でもイベント発生源だったもんね・・。

「加奈子。わたくし宮川系列の経済流通大学に進学いたしますわ。・・・加奈子はどうするの?」

「今更ですよ~会長。もちろん私も行きますってば!ていうか、そんなの愚問です」

「そう・・ありがとう。加奈子がいてくれたら心強いわ。でも加奈子の偏差値ならもっと良い所あるわ。本当にいいの?難なくいけるでしょう?」

「だから~愚問ですってばぁ。それにそれを言うなら支社長だっていろんな選択肢あるじゃないですか」


「わたくしは・・そこがわたくしにとって都合がいいだけですわ。わたくしは運命から外れられないし、わたくし自身そんなつもりもないけど、加奈子・・・あなたはこれ以上わたくしに着いてきたら引き返せなくなってしまうわ。・・・本当にいいの?宮川に・・私のところにずっといてくれるって言うの?」

「・・・愚問ですってば。私んちみたいな貧乏な家でこんな英才教育コース通ってこれなかったし、会長に会えたのだってすごい感謝してるんです」

「・・そんなのはいいのよ。加奈子の本当の意思で決めてもらいたいの」

「何度も言わせないでください。それに会長・・見えてるんでしょ?私のオーラや感情」

「・・そうだけど、揺さぶれば変わる人もいるわ。大勢ね・・。」

「私は変わらなかったでしょ?」

「・・ええ、もう聞かないわ。行くわよ加奈子」

「はーい」

「・・ありがとう」

「え?何か言いました?」

「何も言ってないわよ」

大学に入って支社長はハイスクールの時より大人しくなったけど、性格はもちろん相変わらずで周囲を振り回してた・・。

支社長が学校理事長を兼ねている宮川昭仁会長の娘だということは伏せられていたから、比較的平和に過ごせたというのもあるけど、支社長はどこにいててもやっぱり支社長だったよね・・。

あんまり話してくれなかったけど、支社長一度だけ男の人とお付き合いしてすぐ別れちゃったよね。

「わたくし・・なんでも上手くできる・・だなんて思いあがってましたわ・・」

支社長のあんな顔見るの初めてで、わたしも心が締め付けられたの覚えてる。

・・・そう言えば、豊島さん支社長と上手くやっていってくれるかしら・・。

モゲって呼ばれてるギャンブル依存症の男と仲が良いみたいだから、ちょっと要注意よね・・。

しっかり見張っておかなきゃ・・。

大学在学中に私たちは専攻の経済学の単位はもちろん法学や語学、情報処理の単位も、宮川家の計らいでどんどん取得していかされたよね・・。

死ぬほどハードだったけど、世の中ってこんなに学べることが多いんだってわかって、まだまだだなと思い知らされたっけ・・。

あれだけストイックに勉学に励んでるのに一日3時間のトレーニングも・・。

でもそのおかげで大学2年あたりのころから組手で支社長にほとんど負けなくなったのよね。

支社長は喜んでもくれたけど、すごい悔しかったみたいで、あれから毎日内緒で特訓してましたよね・・。

でも私は支社長に勝てるようになってすごい嬉しかった。

だって、これで支社長が自分で勝てない敵が現れた時、私の出番ってことだもんね。

卒業旅行は2週間海外いろんなところ行きましたよね・・。

常夏の島でビキニではしゃいだり、でもその二日後には北米のロッキー山脈でスキーを楽しんで汗を流して、極寒のアラスカの露天風呂で背中洗いあいましたよね。

こんな美女二人が歩いてるんだもん。ナンパもいっぱいされたけど、支社長の男性に対して冷たいこと・・。

もう男はこりごりって暫く支社長の口癖でしたよね。

卒業旅行から帰ってきてすぐに宮川コーポレーションの研修が始まって、そこで初めて真理と出会ったんだよね・・。

「・・加奈子。あの子。ほら、黒髪ボブのあの子」

「あの子がどうかしたんですか?」

「只者じゃないわ。加奈子は何か感じない?」

「うーん・・。私ほどじゃないにしてもまあまあの美女ってところですね。・・とまあ、冗談はさておき・・あの子強いですよ。体幹がしっかりしてるし隙が無い。・・・かなりの使い手だと思います」

「そう・・。加奈子がそう言うなら相当腕が立つんでしょうね・・。でもそれだけじゃないわ」

「というと?」

「あの子、能力者だわ」

「・・また霊感商法や新興宗教家とか?」

「いいえ、私達が学生の時に潰してきたような人達とは違う。そんなチャチなオーラじゃないわ。私たちと遜色ない量と力強さよ・・」

「えっ!そんなのって・・あの子警戒しておきます」

「ええ・・お願い。スパイや敵だったりした時は頼りにしてるわ」

真理は研修の時から目立ってわね。いままで私達の周りには佐恵子さんや私以上に目立つ人がいなかったから、ああいうの初めての感覚だった。

温和で清楚、美人で頭脳明晰・・。

非の打ちどころがないっていうのは真理の為にある言葉ね・・。

・・・親しくなればそのうち真理しゃんの天然ぶりと、真っ黒い部分が見えてくるんだけど・・。

でもそんなこと言ったら、あの僕っ子にすごい良い笑顔で仕返しされる・・。

「神田川真理と申します。よろしくお願いしますね。宮川さんに稲垣さん・・。お二人ともすごくお綺麗で皆さんの目を引いてましたよ。それに、もしかして宮川さんって・・苗字が同じだけど・・宮川コーポレーションの宮川さんとご関係が・・?」

「ええ、ありますわ。今の社長は私の叔父様ですの」

「ちょ、佐恵子さん!そんなあっさりバラしちゃっていいんですか?」

「いいのよ。内緒にしててくださる?・・神田川・・真理さん?」

「え、ええ・・」

「それより神田川さん。その力はどうやって身につけたのです?・・・わたくしあなたにすっごく興味ありますの」

「え?えっと・・、もう集合時間に遅れちゃいますよ?・・急ぎますのでまた後程・・」

あの時からしばらく真理は支社長のことすっごく警戒してたなぁ・・。

でも研修の最終日に地震が起きて・・、真理が予知能力で地震を察知してみんなで避難させてくれたっけ・・。

それで支社長と私で真理を問い詰めたんだよね・・・。

出会った時はあんなにぎくしゃくしてて、支社長のアプローチに、何年も冷たかったのに今だと真理もすっかり支社長を信頼してくれてる。

あれ・・・?

これって世間でよく言うあれなの・・・・?

昔のことこんなに思い出すなんて・・・・・。

走馬燈・・?・・・覚悟はしてたはずなのに、やっぱやだなぁ・・・。

【第8章 三つ巴 46話 銀獣散る・・・悲しき走馬灯 終わり】47話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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