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第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 6話 【回想】魔眼と銀獣のキャンパスライフ時代2

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 6話 【回想】魔眼と銀獣のキャンパスライフ時代2

佐恵子はスリットの入ったガウチョをなびかせて小走りに路地へと駆け込み、ビルの角からそおっと顔を覗かせ、今駆けてきたばかりの大通りを伺う。

伺う際に無意識に視力と聴力を強化してしまったのは、動物同然の鋭敏な感覚を持つ幼馴染の追跡を警戒したためだ。

大学の裏門から加奈子を振り切るために肉体を強化し、1kmほど全力疾走してきたので息はやや荒い。

歩道を歩く人たちに驚きの目で見られるのを気にして優雅に歩いていくわけにはいかない。

そんな悠長なことをしていれば、たちまち加奈子に追いつかれて車にねじ込まれ、武蔵野の稽古道場に連れていかれるのは必至だとわかっている。

佐恵子にとって認めたくないことだが、最近加奈子には組手では敵わなくなってきているのだ。

10歳まで無能力者だった加奈子の成長を佐恵子ももちろん喜んでいるが、毎回組手で負け続け出すと、面白いはずがない。

「痛っ・」

僅かに顔を歪めた佐恵子は片膝をあげ、ガウチョの裾を少し持ち上げた。

そこは、先日の組手で加奈子に蹴られたところが、生々しい青痣になっていたのである。

脳の使用領域開放のできる佐恵子と加奈子だが、佐恵子の方が脳の使用領域は広いことが宮川の検査でわかっている。

だが、個人の適性や特性に合わせて、得手不得手が出やすいことも宮川の研究でもわかっていた。

加奈子の脳領域開放は10歳以降と遅かったが、加奈子の身体を精密検査すると、もともと筋肉の密度が常人の8倍ほどあることがわかったうえ、開放した脳領域の分野も肉体を更に強化する部位がばかりが開放されている様なのである。

「ったく、馬鹿力なんだから・・。まさか今日見られることはないとは思いますが・・」

派手な青痣だが、押さえてみても思ったより痛みが引いていることに安堵したものの、別の心配で顔を赤らめた佐恵子は、脚を降ろして裾を直す。

今の佐恵子の表情が示す通り、今の佐恵子にとっては加奈子に惜敗しつづけていることも、些細なことに思わせるトキめきがあるのだ。

青痣が布で完全に隠れることを確認すると、佐恵子は目と耳に集中しているオーラを霧散させた。

「ふぅ・・大丈夫そうですわね。まったく加奈子の嗅覚ときたら・・人の体臭を個人別に嗅ぎ分けますからね・・」

そう警戒したものの加奈子の気配がないことがわかるとほっと息をつき、路地をそのまま駆け抜け、念のために角を何度か折れてからようやく大通りに戻り、今度こそ足取りも軽やかに歩き出した。

夏季休暇前の汗ばむ季節だが、佐恵子は多少の暑さも気にならず、これからの時間のことを思って無意識に口を綻ばせてしまう。

街路樹から蝉の声が騒がしく聞こえてくるが、今の佐恵子にとっては、そんな騒音にすら不快さを感じることはない。

目的の喫茶店の扉を開け、レトロなドアチャイムを鳴らせて入ると、いつものお気に入りの席まで店員が案内くれた。

アイスカフェオレを注文し、しばし空調の効いた店内から、初夏とはいえ強い日差しが差す通りを眺め、真新しい左手の腕時計を愛おしそうに眺めては撫で、待ち人を待つ。

空いている時間帯なので、すぐにきたアイスカフェオレにガムシロップを3個流し込んでよく混ぜると、加奈子から全力疾走で逃げた喉の渇きを潤すため、顎をあげて白い喉を見せ一気にグラスを傾けた。

3口ほど飲んで慌ててグラスを置いた佐恵子は、行儀が悪かったかしらと反省して赤面すると、バツが悪そうに周囲を伺って、少し腰を浮かせて椅子に座りなおし、お淑やかを装った。

まだ約束の時間にははやいので、宮川家の息女としてあるまじき姿を見られる心配はないのだが、今のうちにバックからコンパクトを取り出し、鏡でチェックを行う。

鏡に映った内容に満足そうに頷くと、パチンとコンパクトを閉じてバックに戻したところで、カランコロンとドアチャイムが店内に鳴り響いた。

肩には届かないが、男にしては長い髪、白いシャツの前をはだけてインナーを見せた格好ながらも、その青年の持った爽やかな雰囲気がラフさを感じさせない。

青年は入口のトビラの所でキョロキョロしていたが、軽く手を振る佐恵子の姿を見つけると、小走りに近寄ってきた。

「宮川さん。待たせちゃったかな?宮川さんのほうから呼んでくれるなんて珍しいのに遅れちゃってごめん」

慌てた様子で佐恵子の座る席まできた長身の男は、淡い色の髪をかきあげて人懐っこそうな顔を、やや曇らせて佐恵子に詫びた。

「い、いえ、わたくしも今来たところですわ。それにまだ約束の時間になってませんから、錫四郎さまは遅れていませんわ」

佐恵子はそう言っていそいそと席を立ち、錫四郎なる男の為に対面の椅子を引いて座るよう促した。

そんな佐恵子の正面に錫四郎は礼を言って座る。

佐恵子も錫四郎も頬を上気させて微笑んでいるだけで、お互いに暫く見つめ合ったまま何も言わない。

周囲から見れば、付き合いだしたばかりの美男美女が初々しいデートをしているのだとわかるだろう。

「あの、錫四郎さま。何か注文いたしましょうか?」

「あ!そうだね!じゃあ僕はアイスコーヒーで!」

店員を呼び注文をすますと、またもお互い沈黙になる。

決して気まずい沈黙ではないが、おそらくたちまち訪れるであろう『閉幕』に間に合うよう、佐恵子はさっそく本題を切り出した。

「今日お呼びだてしたのは、お祝いを言いたかったからですわ。・・・錫四郎さま。お誕生日おめでとうございます」

佐恵子は笑顔でそう言うと、バッグから小箱を取り出し、テーブルの上に置いたのである。

「あ、ありがとう!宮川さんから祝ってもらえるなんて本当にうれしいよ」

額にかかる淡い髪を手でかきあげ、錫四郎は嬉しそうに小箱を差し出した佐恵子の手を握りしめた。

錫四郎はブラウンの目に線の細い顔、育ちの良さを感じさせるさわやかな好青年である。

錫四郎は、嬉しさのあまり、つい佐恵子の手を握ってしまったことに気づいて、赤面して慌てて手を離しそうになるが、佐恵子の手が逃げずにその場にあることがわかると再び優しく握る。

「あっ・・いえ・・はい。気に入っていただけるといいのですが・・。さ、開けてみてくださいませ」

佐恵子も赤面し、触れられた手を動かしてしまいそうになるが、錫四郎の手に握られるままにして、嬉しそうにはにかんだ佐恵子は、小箱を開けるように促す。

「ありきたりなものですが・・」

佐恵子に促されて錫四郎は箱を梱包している包みを丁寧に解いていく。

そこには曲線のトノーケースが特徴的で、レトロな雰囲気を醸し出すスイス製の腕時計がおさまっていたのである。

「宮川さん・・」

錫四郎は特別ブランドに詳しいわけではなかったが、この腕時計が芸術と技術の融合の極致に近いところにある逸品であることはわかったのである。

誰が見てもそれだとわかる芸術的なデザインで人気のブランド。

独創的な形のケース、芸術品のような文字盤などが有名で、他のメーカーの常識とは違うデザイン性に目が行きがちになるが、そのブランドが内部機構も世界屈指の性能を誇っていることは言うまでもない。

「気に入っていただけましたでしょうか?」

小箱の腕時計を見て、驚いている錫四郎を不安げに伺っている佐恵子の左手首には、小箱に収まった腕時計を小ぶりにしたものがきらめいていた。

「・・・ペア、ですのよ」

佐恵子が恥ずかしそうにそう言って自らの左手に付けたお揃いの腕時計をみせる。

錫四郎は佐恵子の左腕を見て慌てながらも、丁寧に腕時計を取り出すと、ずっしりとした重みのある金属製のベルトを腕に巻き付けた。

「もちろん気に入ったけど・・宮川さん。こんな高価なもの・・。でも、宮川さんとペアなんてすごくうれしいよ。・・・こういうのは男の僕のほうからしないといけないのに」

「うふ・・。お小遣い奮発しちゃいましたわ。でも錫四郎さまに気に入ってもらえたみたいで嬉しいですわ。うふふふ・・・きゃ!?」

俯き、ロングストレートの黒髪で赤面した顔を少し隠した佐恵子だったが、正面のガラス窓の向こうにある光景を見て悲鳴を上げてしまった。

「ど、どうしたの宮川さん?」

「い、いえ・・!今日は来てくださってありがとうございます。今日は本当に楽しかったですわ。また夜電話いたします。それではわたくし、いかなくては・・」

たちまち来ると思っていた『閉幕』は、佐恵子の予想より早く訪れたのだ。

いそいそと会計に立ち寄る佐恵子を訝しがる錫四郎であったが、自分の時計に巻いた佐恵子の気持ちに目を細めると、店の扉を開けこちらを笑顔で振り返って手を振る佐恵子に手を振り返していた。

佐恵子が外に出ると、喫茶店の外には白いワンピースを着た華奢な女性が、同じく白い帽子で強い日差しを遮って立っていたのである。

汗一つかいてない白ワンピースの女性、最上凪。その最上とは対照的な、汗だくの加奈子も疲れた表情で佐恵子を出待ちしていたのだ。

その二人の姿が、先ほどの席から見える窓から見えたので悲鳴を上げてしまったのだ。

いくら加奈子から逃げ切ったといっても、最上凪の糸から逃れるのは困難を極めるのは佐恵子もわかっていたことである。

それにしても今日は恋人の誕生日だというのに、逢瀬の時間は短すぎた。


「あの男、調査と監視が必要。佐恵子、あの男と交際して長い?深い仲?」

「・・いくら凪姉さまでも口出し無用のことですわ」

「そうはいかない」

「無用と申し上げましたわ」

喫茶店を出てすぐに、佐恵子は黒塗りの高級車にねじ込まれたのである。

肘を車のドアについて、佐恵子は隣で座る白いワンピースを着た最上凪の問いかけに対し、そっぽを向いたまま口をとがらせて反論していた。

渋滞気味の道路を走る車の中、しばらく気まずい沈黙が続く。

そんな中、佐恵子の捜索に駆けずり回る羽目になった加奈子が口を開いた。

「佐恵子さん。プレゼント渡すだけならちゃんと言っておけば凪姉さんも私をあんなに責めたりしなかったと思うんですよ・・・」

控えめな口調でそういう加奈子には、散々探し回ったのであろう苦労が見て取れる。

加奈子の健康的だが白い肌は汗でしっとりと湿っているし、着ている白のカットソーにもうっすらと汗がにじんでいた。

「いまの凪姉さまの言葉を聞いたでしょう?錫四郎さまのことを言っても許してくれないのは確実ですわ。だから黙って行くしかありませんでしたの。それに、今日は彼の誕生日でしたわ。・・・プレゼントをお渡ししたらすぐ戻るつもりでした。実際そうしたでしょう?」

加奈子の言葉に、やはり視線を合わせず窓の外を眺めたまま、佐恵子は投げやりな口調で返す。

そんな様子の佐恵子に今度は白ワンピースの女性、佐恵子と加奈子の教育係の一人である最上凪が躊躇いがちに口を開いた。

「佐恵子。・・・いま佐恵子に男性交際は認められていない。貞操を護ることも佐恵子の義務の一つ。卒業すればその年に然るべき相手とのお見合いが予定されている。あの男との接触は今日限りにしたほうがいい。これ以上情を育てないほうが、あとあと苦しまなくて済む」

凪なりに言葉を選び、佐恵子をできるだけ刺激しないように気を使った言い回しのつもりだが、佐恵子の細い目はたちまち恨みの呪詛を爛々と燃え上がらせ、勢いよく振り返って凪を睨み、口を開いたのである。

「貞操を護れ?ふんっ!誰のために?!何のためにですの?!凪姉さままで、叔父様と同じようなことおっしゃいますのね!?叔父様はわたくしのことがお嫌いなのですわ。・・・でなければ、あのような者たちと縁談など!常盤や麻生の令息たちのいずれかと結婚なんて考えただけでもおぞましい・・!麻生にいたっては今年42歳ですのよ?わたくしは19。歳が違いすぎます!それに・・わたくしはあの者たちの感情が見えるのです!叔父様にも見えているはずですのに・・!わたくしのことを血筋のある政略道具として見てるだけではなく、すでに数多くいる愛人たちと同じベッドで嬲ろうと思っているような輩に嫁がなければなりませんか?!愛人たちと一緒にですよ・?それまで貞操を護っておけと?!冗談じゃありません!・・・そんな結婚受け入れられるわけがないではありません!・・宮川の人間としての自覚はあるつもりですが、こんな前時代なこと・・!・・どうにかなりませんの?!あんまりですわ・・!」

佐恵子はそこまで一気にそう吐き捨てると、再び車窓のほうを向いてみるともなしに外を睨みつけて黙ってしまった。

そして俯き、長い黒髪で表情を隠した佐恵子は、肩を小刻みに震わせだす。

そんな様子を加奈子は本当に気の毒そうに見ていることしかできないことに耐えかねて、隣で座る最上に助けを求めるように目を向けるが、最上もその無表情な顔に、困窮がにじみている。

最上凪も加奈子も佐恵子のことを大切に思っているが、巨大組織である宮川の避けようのない大きな流れに抗う術など持っていないのだ。

「・・・こんなことでしたら、わたくし・・錫四郎さま・・」

左手の時計を撫で、俯いたままそう呟いた佐恵子に、誰も何も答えることはできなかったのである。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 5話 【回想】魔眼と銀獣のキャンパスライフ時代2終わり】6話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 7話 【回想】豊島哲司と寺野麗華

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 7話 【回想】豊島哲司と寺野麗華

ずっしりと重みのある最後の段ボールを荷台に乗せた豊島哲司は、額の大汗を手拭いで拭うと、大きく息をついた。

「ふぅ。これでおわりやなっと!」

手に付いたホコリをパンパンと叩いてふるうと、哲司は持参してきていたペットボトルの水を、喉を鳴らして一気に飲み干した。

今年25歳になる豊島哲司は都内の小さな探偵事務所に勤務していた。

哲司は、京都の有名な観光地である寺の住職の息子である。

しかし、いきなり本業を継ぐのを良しとしない方針の父親の勧めもあり、10年は社会勉強をしてこいと言い渡されたのだ。

大学卒業して2年間は定職に就かず、国内外を旅とも言えない放浪生活をしていたのだが、数か月前から『何でも屋!兼☆探偵事務所yeah!八王子店』に厄介になっている。

屋号は八王子店と名乗ってはいるが、この探偵事務所は、八王子店以外他に店舗はない。

哲司は大学卒業後の2年間、日本内外でアルバイトなどをして日銭を稼ぎ、定職に就かなかったのだが、今回が初めての正社員としての働き始めたのだ。

定職に就かなかった哲司がどういう心境の変化で就職しようという気になったのかというのも、親友である菊沢宏から国際電話で伝えてきた内容のせいであった。

親友である菊沢宏は大学卒業と同時に、宏の父親の伝手で渡米してしまったのだが、来春にも日本に帰国するというのだ。

その時に「日本に帰ったら探偵事務所を開業する」からと哲司を創立のメンバーに誘ってきたのである。

哲司は住職の父に言われたとおり見識を広めるということを、なんとなく雲を掴むような感覚でしかとらえられず、どうも日々無駄に過ごしてしまっていると思っていたところであったものであるから、哲司の心の中で親友の誘いに得たりと思ったのである。

父親に言われた見聞を広めるという具体的に目的もない行動の日々に、哲司は何事においてもどうもやりがいを見いだせず日々浪費してしまう感覚に苛まれていたので、宏からの誘いは、自身の心の方針を決める指標となったのである。

宏が日本に帰ってくるのは来年の春3月中旬ということだったので、それまでの間少しでも探偵業がどういう仕事か知るために、哲司は都内で探偵事務所を開業しているところへと片っ端から履歴書を送りまくったのだ。

しかし京都にある日本屈指の難関国立大学、京都大学法学部卒業という輝かしい肩書をもってしても卒業後2年間の放浪生活のせいで、履歴書は甚だ怪しい経歴と自己紹介文で埋まってしまい、哲司の経歴と人格は、多くの採用担当者からとっても怪しく思われてしまったのである。

しかも、勤務希望期間は1年で来春には退職したいという旨を履歴書に堂々と馬鹿正直に記載している為、まともに取り合ってくれる会社が少ないのだ。

せっかく資格蘭に書いた司法試験合格という記載も、甚だ疑わしく見える。

「高学歴で世間知らずな変わり者」

そういう「扱いにくい人間」というレッテルを貼られてしまうのは、哲司の履歴書を見れば致し方ないとも言える。

そんな中、数多く応募した探偵事務所の中から、唯一採用通知を哲司に届けてくれたのは、『何でも屋!兼☆探偵事務所yeah!八王子店』と屋号に☆やら!マークのついた怪しげな探偵事務所一社だけだったのだ。

「しっかし、探偵事務所言うても、実際何でも屋みたいな仕事ばっかりやねんなあ」

首に巻いたタオルで顔の汗をぬぐいながら、哲司は一人ぼやいてみせる。

実際、哲司が入社して3か月の間、与えられた仕事内容は引っ越しの手伝いや、ゴミ屋敷の掃除、建築現場の解体作業などばかりなのだ。

脳領域の開放を物心がつく前に身につけてしまっている哲司にとって、常人なら過酷すぎる肉体労働も、哲司にとっては単なる作業としか感じることができず退屈になりかけているのだ。


「なーんか俺が思ってる探偵業と違うんよなぁ・・。宏が思とる探偵事務所とも違う気がするし、このままここで続けてええもんなんか・・どうなんやろか」

川沿いの高速道路の高架橋近くで、不法投棄された粗大ゴミを積み込んだトラックの傍らで哲司はぼやいた。

少し考えこみ始めた哲司はちょうどいい大きさの石に腰をおろし、雲一つない夏の空を眩しそうに見上げて汗をタオルで拭う。

そんなときである。

「いたいた!おしょー!来てあげたわよー!」

哲司の背中に、少し離れた道路の方から哲司の学生時代の愛称を大声で呼ぶ者がいた。

豊島哲司のことをその愛称で呼ぶ者は両手で数えるほどしかいない。

遠目にもわかる女性らしいプロポーション。

出るべきところは出て、引っ込むべきところは引っ込んでいるポニーテールの美女。

黑のぴったりとしたタイトスカートに同じく七分丈のジャケットを着こなし、手を振って哲司のいるところへと、道路のフェンスを華麗に飛び越えてくるところであった。

常人にはとても飛び越えられるような高さではない3mほどのフェンスを、難なく飛び越えてくることから、彼女も脳領域を解放した能力者である。

その彼女はいかにもできるキャリアウーマンという颯爽とした歩き方であり、彼女の背後に停めてある赤いスポーツカーも、並みのサラリーマンの収入で買うには難しい金額の車種である。

実際彼女は哲司とは同じ大学の同窓生であり、卒業後は都内の大手法律事務所にずっと勤めている。

それに、宏や哲司と同じく在学中に現役で司法試験に合格したエリートなのだ。

「お!」

哲司は、聞き覚えのある幼馴染の声に気づいて伸びをしていた身体を戻すと、立ち上がって振り返り笑顔で手を振った。

「麗華か。ほんまに来てくれたんか?!ひっさしぶりやなー!元気そうでよかったわ」

「はぁ!?来いつったのは和尚でしょうが?!・・それに連絡寄こすにしても久しぶりすぎるんじゃないの?!」

気の強そうな声で言い返してきたのは哲司の幼馴染の一人、愛称は「姫」。

黙っていれば誰もが認める美人なのだが、通称、「残念な美人」という女性としては無念すぎるレッテルを貼られている女、寺野麗華、その人であった。

麗華とちょっとでも会話をすればわかることだが、彼女のお転婆ぶり、言葉遣いの荒さ、気の強さに、昨今増殖中の草食気味な男性諸君は、瞬く間に怖気づき麗華と距離を取り出すのである。

しかも、麗華も哲司と同じく京都大学法学部の卒業生なだけあって、頭の回転も非常に速い。

女と侮り、迂闊なことを麗華に対して口走ろうものなら、荒々しい言葉遣いで理詰めに論破され、男のプライドをズタズタに引き裂れて再起不能とされてしまうのである。

いままで麗華に言い寄った多くの男性は、麗華という美しい駿馬を乗りこなすどころか、近づく前に鋭利なスパイク付きの強靭な蹄でボコボコにされてしまうのである。

しかし当の本人は、自分は美人なはずなのに何故にこんなにモテないのかと密かに悩んでいる始末である。

今のところ本人にモテないことに対する改善の兆しが見えない為、美人で頭のいい気の強すぎる麗華は、彼氏無し歴=年齢という記録を絶賛更新中であった。


気の強すぎる美人は誰にも手を出されていないのある。

そんな彼女の周囲にいる男の中で、麗華から「朴念仁」とあだ名されてしまっている豊島哲司だけは、麗華のスパイク口撃に唯一耐えると言っていいタフさを持つ稀有な男となっているのだ。

「いやいや。すまんすまん!怒るなって。麗華仕事が忙しそうやったから、来れたらでええで。ってぐらいの軽い気持ちだったんや。気ぃ悪うにすんなや」

なだめる哲司に向って麗華はずいずいと歩を進めながら、コンビニで買ったばかりの冷えたポカリのペットボトルをかなりの速度で哲司に投げて寄こしながら、口撃を続ける。

「何よそれ!哲司がや~っとまともに就職したって連絡寄こしてきたからこの忙しいのに美人の幼馴染が顔見せに来てあげたのよ?!それなのに『来れたらええってぐらいの軽い気持ちだった』ですって?!信じらんない!それに何よその恰好!・・・司法試験まで合格しといてなんでそんなことしだしたのよ?!馬っ鹿じゃないの?!・・この際だからついでに言っときますけどね私に会いたいって男はたくさんいるんだからね!そんな中わざわざ和尚の為にこんな水や木しかないようなところまで来てあげたのに・・・軽い気持ちで呼んだだなんて言わないでよね・・」

言葉尻は声が小さくなったが、麗華の目は鋭いままだ。

実際、麗華に会いたいという男は多いには違いないが、二回目会いたいという男は今のところ皆無である。

「すまん言うてるやろ!あ!そや!俺今日はこれで仕事あがりなんや!一杯奢るから勘弁してくれや。・・・な?」

「奢るったって・・!和尚あんたねえ・・」

麗華はジャケットにきつそうに納まったFに近い豊満な胸を揺らして、腰に手を当て、哲司の鼻先に人差し指を押し付ける。

麗華が相手を口撃するときのいつものスタイルに入ったのを見計らって、手慣れた哲司は早々に白旗を上げて手を合わせたのだ。

哲司はさっさと謝ってしまうのが吉だということを、麗華との長年の付き合いでよくわかっている。

「ま・・まあ、私も忙しい身だけど今日はもう直帰するだけだし・・。和尚も反省してるみたいだし・・、久しぶりに会った同窓生の誘いを断るのはやぶさかじゃないから・・・いいわよ。でも、・・・私を誘うにしたって和尚、大丈夫なの?・・・そのお金とか・・今の仕事ってお給料大丈夫・・なの?・・・それに、そんな恰好でどこに連れて行ってくれるっていうの?」

麗華は哲司に誘ってもらったことが満更でもない様子だったが、誘った男の懐具合を心配するというタブーを犯したうえ、哲司の格好の難点を見て眉をひそめたのだ。

哲司は盛り上がった筋肉が強調する汗びしょびしょのタンクトップに、ボトムはニッカポッカに足袋という姿である。

たしかに麗華のような美人キャリアウーマンを飲みに誘うにはかなり無理がある恰好である。

麗華としてもこのまま労働者たちが雑多に座るドブ板飲み屋にでも連れていかれるかもしれないという心配をしたのだろう。

しかし今の哲司の身なりはお金があるように見えないが、もともと哲司の実家は現在も観光地でもあるうえ、大昔からある有名な歴史的な古刹である。

各地で転々とアルバイト生活をしてきただけの哲司だったが、無駄遣いをする性格ではない。

たまにこっそりと風俗店に行くぐらいしか無い娯楽ではお金を使わないのだ。

よって今はアルバイトでの稼ぎしかない哲司なのだが、生活には困らないし少しばかりの貯えもあった。

「あー・・・。お金は心配あらへん。でもこの服はたしかに問題やな・・。そやな・・このトラック会社に置いて着替えてからでええか?どうせ会社があるあたりまで戻らへんと店もないしな」

「ったく。じゃあこんなところに呼び出さずに最初からそっちに呼んでほしいわよ。私だってこんな辺鄙なところにいるクライアントなんて一人しかいないんだからね・・。予定合わせるのだってこっちはこっちで大変だったのよ?・・で、どこよ。和尚の会社って」

「八王子や」

「ま、いいわよ。って会社に戻ってからって、それからまた和尚んちに行って着替えるの?」

「そや。それなんやが麗華。会社から俺の下宿先まで麗華の車で送ってくれへんか?・・そのほうが早いし頼むわ。ええやろ?」

哲司は道路に路駐してある麗華の愛車を目ざとく見つけていたのであった。

「え・・うーん・・・ま、まぁ・・いいわよ」

哲司の汗だくドロだらけの姿に、麗華は自分の愛車のシートが汚れることを躊躇する様子を見せたが、麗華の頭の中でなにかと天秤にかけた結果、哲司のお願いはなんとか通ったようである。

「でもね言っとくけど、私の車の助手席に座った男なんかいないんだから感謝してよね」

麗華の「私は自分の車で男とドライブした経験はありませんよ」という墓穴掘りの刺々しい言い回しも寛大な哲司には通用せず、哲司は「悪いな」と若かりし頃の織田裕二似の顔で爽やかにはにかんで良い笑顔を見せるぐらいの度量を持ち合わせていた。

10年後に、麗華とはタイプの違う尊大な彼女と付き合うのに必要な土台は、すでにこの時には出来上がっていたのである。

「じゃ、じゃあ行くわよ。さっさとトラックに乗りなさいよ。和尚の運転について行くからさ」

やや顔を赤くさせた麗華が、照れた顔を隠すように振り返って愛車へと歩き出したその時、哲司の携帯が、陰りはじめた夕焼け空にけたたましく鳴り響いた。

「もしもし!あ、社長!はい!はい!ばっちりです!はい・・・・終わりました。・・え?・・ええ・・・はい・・・え?・・・はい・・・ええ・・」

どうやら哲司の勤める会社からの電話だと麗華も気づくと、歩みを止めて憤然気味に腰に手を当てる。

「すまん麗華」

電話を切った哲司は開口一番そう言った。

「なによ?!」

「説明する前から怒んなって」

腰に手を当てたまま勢いよくそう言った麗華に、哲司は両手を広げてまあまあという仕草をしながら言い返す。

「いや、ちょっと会社に帰ったら社長が話ある言うてな。話自体はすぐ終わるって言うんやけど、麗華すまんけどその話が終わるまで待ってくれるか?10分ぐらいで済むらしいから」

「なんだ、そんなこと・・」

哲司の説明に麗華はあからさまに安堵した様子でそう言いかけたが、すぐに気を取り直して残念な美人ぶりを炸裂させる。

「私をそんなに待たせるなんて、ほんっとに特別なことなんだからね?」

麗華はくびれたウエストに手を当てて、もう一方の手の人差し指を哲司の鼻の頭に突き付ける、いつものスタイルになって念を押すように言う。

「わかっとるって、まあやっと探偵らしい仕事を俺にも任せてくれそうなんや。あとで飲みながら麗華にも話すわ」

携帯をポケットにおさめた哲司はそう言うと、トラックに乗り込み麗華に向って「ほないくでー?」とエンジンキーをドルン!と回したのであった。

「もう!?ちょっと!急にエンジンかけないでよ!排気ガスもろに浴びちゃったじゃない!」

「す、すまん!」

「ったく。信じらんない!」

浴びた排気ガスを手で払い、麗華はゴホゴホと咳ばらいをしながらブツブツと悪態をつく。

久しぶりの再会した二人は、学生時代となんら変わらぬ微笑ましいやり取りをしながら仲良く車を八王子方面へと走らせたのであった。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 7話 【回想】豊島哲司と寺野麗華終わり】8話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 8話 【回想】豊島哲司と寺野麗華2

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 8話 【回想】豊島哲司と寺野麗華2


「そのゴミ、まさか今から荷下ろしするっていうんじゃないでしょうね?」

麗華は愛車の真っ赤なスポーツカーからスラリと長い脚を覗かせて降り、両手を腰に当てて荷台の縁に立って作業している哲司を見上げながら問いかける。

「いや、これはあした産廃業者までもっていくんや。夜積みしたままにしてまた明日やなあ」

荷崩れしないようにとラッシングベルトの張り具合を確認していた哲司は、振り返らずに麗華にそう言って荷台から飛び降りる。

「ほな、ちょっと事務所寄ってくるから麗華はこの辺で待っといてくれや」

そう言って哲司は麗華の返事を待たず、事務所のある二階へと駆けていった。

哲司はカンカンと足音をさせて金属製の階段を登り、くたびれたアルミドアを開けて、元気に挨拶しながら事務所へと消えてしまった。

返事をしそびれた麗華は、哲司の姿が見えなくなったところで腰に手を当てたままあたりを見回す。

「ここで待ってろねぇ・・」

周囲を見回すと、そこは店舗裏側の1階で倉庫兼駐車場となっているスペースあった。

かなりの広さはあるようだが、訳の分からない物が乱雑と置かれてるせいで、そんなに広くなくなってしまっている。

麗華は2階の扉の方を見上げて聴力を強化した。

すると、事務所内の話し声が聞こえてくる。

麗華は生まれつき人より脳を使える範囲は広い。

一般的に人は脳の10%程度しか使いこなせていないと言われているが、麗華は12%近く使えるのだ。

数字でたった2%足らずの差でしかないが、その僅かな差がもたらす影響は大きい。

麗華の脳開放領域は身体能力を向上させる箇所が多い。

その中の一つの聴力強化をさせて麗華は耳を澄ます。

「いやー!てっちゃん!今日は助かったよ☆さすがのてっちゃんでもあの量は今日中に無理かと思ってたんだけど、改めて惚れ直したちゃった・・・」

部屋の主が哲司に話し始めたのであろう。

初めて聴くファンキーな女の声が聞こえてきたが、哲司の声は普通のボリュームのようで、ここまで聞こえない。

麗華は、哲司と話している人物が女ということに一瞬で不快な気持ちになるが、ファンキーな口調の相手とは違って、哲司はかなり迷惑している様子が伺える。

「馴れ馴れしくてっちゃんなんて呼んじゃって・・!でも声色から察するに結構な歳よね・・。和尚の朴念仁ぶりならまあ大丈夫かな・・」

哲司の反応に安心したのか、麗華はどうせ後で内容は哲司から聞けるしと思い能力を解除する。

おそらく今哲司と大声で話している人物が、この怪しさ満点な屋号名を付けた探偵事務所の社長なのだろう。

麗華は会話の内容を盗み聞きするために聴力を強化したのではなかったので、すぐに聴力強化を解除すると、今のうちにと思い事務所のほうを目で伺いながら階段下にあるトイレへと歩き出した。

「うわっ!きったないわねえ!」

トイレの扉を開けた麗華が、ついそう罵ってしまうほど汚いトイレ内は汚いし、異臭が漂っていたのだ。

麗華は少し躊躇いを見せたものの、鼻をつまんでトイレの換気扇のスイッチをばん!と乱暴に押し、しぶしぶトイレへと入る。

そして、洗面台の上に壁掛けされている曇った鏡に自分の姿を映した。

写りの悪い鏡に苦戦しながらも、角度を変え顔や髪型のチェックする。

そして、化粧ポーチから片手で器用にビューラーとルージュを取り出し、睫毛を整え、唇に色を塗り足す。

そしてポニーテールを一度解き、手早く入念にブラシをかけてから留めなおした。

仕上げにパフで頬の色むらを調整し終わると、汚いトイレの中、曇った鏡に向かって笑顔をつくり、いろんな角度でチェックしてから満足そうに頷く。

「よし・・!いつも通り完璧・・!」

気の強さを隠しきれない大きな目、自信の溢れる魅力的な口元を吊り上げて笑顔を鏡に映す。

しかし、頷いて満足そうなにしていた顔が思い出したように急にはっとなった。

麗華はおもむろにブラウスのボタンを3個開けて胸元をチェックしてから、スカートを腰までたくし上げがに股気味に中腰になって、パンストを指で前へ開くようにして引き伸ばして、下着をチェックしだした。

誰かに見られたら顔から火が噴き出すような恥ずかしい恰好で入念にチェックした結果、今日の為に下ろした薄いピンク色の上下お揃いの下着は汚れても無いし、毛が下着から「こんにちは」していることもないことが確認できた。

本当はこのトイレがウォッシュレットトイレであってほしかったところだが、個室を覗いてみた限りこの汚いトイレは和式でそんなものはない。

しかし、哲司に会う前に公共機関のトイレでキレイにしてきたし、それ以降は用をたしていない。

とりあえず嗅覚強化して自分の口臭もチェックしたし、歯も綺麗だ。

もちろん腋の匂いや汗のチェックもぬかりない。

「よし・・・!完璧・・!」

麗華は曇った鏡に頷くと、汚いトイレを出て事務所を見上げれる場所まで移動して何事もなかったようにいつもの気の強い表情に戻って腰に手を当てる。

見た目は素晴らしいプロポーションだし、木村文乃似の文句のつけようのない美貌の麗華だが、対男性戦績は毎回不戦負になってしまう理由に、本人はまるっきし心当たりがない。

麗華本人は知らないが、麗華の勤める会社では麗華は「残念な美人」で通ってしまっているのだ。

一般的に見ても、どう卑下してみても、麗華は自分の美貌が平均より下だとは思ってないし、むしろかなりイケてると思っている。

それなのになぜか男性とはうまくいかないのだ。

それだけに、麗華は久しぶりに連絡のあった幼馴染で、ずっと本命だと思っている哲司に対し、今日こそはと思っているのだ。

モヤモヤと思いを巡らせている間に、今までの戦績の経験からまたもや嫌な予感に駆られだしたところで、上階のドアがガチャガチャと鳴り始めた

哲司の言ったとおりそこまで時間がかかることもなかったようで、すぐにドアが開き、哲司が挨拶をして降りてきたのである。

「遅いじゃない!どれだけ待たせるのよ」

「いやーすまんすまん!」

見上げて腰に手を当て、憤然と言った麗華に対し、哲司が謝りながら急ぎ早に階段を駆け下りてくる。

自分の何が男性を遠ざけているのか全く分からない麗華は、いつも通りの口調で哲司に悪態をつく。

学生時代から仲間内には麗華の態度は許してもらえているが、その中でも哲司は特に寛容なのである。

「ほないこか。麗華運転たのむな。さっき通った道ちょっと戻ってくれや」

「・・ったく。じゃあ行くわよ。和尚の部屋ってここから遠いわけ?」

「いや、すぐや」

麗華より早く車に乗り込む哲司に、麗華はあきれたような口調で言いながらも、シートに腰をおろしドアを閉めてハンドルを握ってアクセルを吹かす。

哲司の下宿は言った通り、本当に会社のすぐそばであった。

「よっしゃここや。ここで停まってくれ。駐車場なんて借りてないから、麗華ここで路駐して待っとってくれな。そっこーでシャワー浴びて着替えてくるから」

「わ・・・・ょ」

住む古びた2階建ての長屋の前で、哲司はシートベルトを外しながらそう言いかけると、麗華が口を開いた。

「ん?麗華なんちゅうたんや?」

「私も行くわよ!って言ったの!」

「い・いや、俺の部屋汚いし、それに路駐しとく訳にもいかんやろ?」

哲司は部屋に来られるのは本当に困る。と焦った顔でそういうが、麗華はガォン!とアクセルを吹かし、無言ですぐ隣にあるコインパーキングへと車を乗り入れる。

急発進したせいで哲司は態勢を大きく崩すが、バックで駐車しようとしている麗華に食いつくようにして言った。

「麗華マジで俺の部屋汚いんやって!」

「汚いのは知ってるわよ。男の一人暮らしなんてどうせ散らかしてるんでしょ?ありがたく思いなさい。私が片づけるの手伝ってあげるって言うんだから」

「いやいや!なに言うとんのや!ありがたないわ!マジで汚いんやって!」

「せっかく手伝ってあげるって言ってるのになに?!あ!それとも私に見せたくないものでもあるわけ?!」

「いやそりゃあるやろ!近くにええ居酒屋があるからそこに行こうや?!」

「見せたくない物があるのね?!一人暮らしだとか言って女の子でもいるんじゃないの?」

「おらんわい!なんでそうなるんや!」

「あやしい!じゃあ別に和尚の部屋で飲んでもいいじゃない?!」

車の中でワイワイと騒ぎ始めたが、結局いつもどおり哲司が折れた。

「わかった・・!ほなけどマジで汚いし、俺の部屋やと今酒も足らんし、ツマミもなんもないから、麗華コンビニで買うてきてくれや。その間に俺が座れるスペースぐらいは作っとくから」

「・・・ふぅ~ん。まあ、それでもいいわ」

麗華は、ようやく車から降りれた哲司にそう言うと、ガコン!とギアを入れると勢いよく車を発進させたのであった。

「ふぅ・・。相変わらず『姫』やのう・・」

哲司はそう言って、勢いよく走り去る赤いスポーツカーを眺めながらため息をつく。

「そや!その姫が帰ってくる前に掃除せんと・・!何言われるかわからへん・・」

飽きれ気味に車を見送った哲司だったが、あの散らかった部屋を麗華が帰ってくるまでに片づけなければと、慌てて部屋に戻っていったのである。

ほどなくして、哲司があらかた部屋を片付け終わった時に、隣のコインパーキングに勢いよく車が入ってくる音が聞こえた。

麗華は、哲司の部屋の扉を開けるなり悪態をついた。

「きれいにしてるじゃない。これじゃ私が掃除しなくても全然平気ね。でもどうして散らかってるって嘘ついたよの?!」


「急いで掃除したからきれいになったんやって。それより麗華、ドア開けっぱなしにされたら虫が入ってくるからはよ入ってくれ」

「そ、そうなの?ごめん」

麗華は珍しく素直にそう言って慌てて扉を閉めると、両手に持ったビニル袋を玄関の床に下ろし、高いヒールを脱いで神妙な足取りで部屋へと入ってきた。

「おじゃましまーす」

急にしおらしい声色になっておずおずと部屋に入ってきた麗華の様子に、朴念仁の哲司は特に何も感じることなく「こっちにすわってくれや」と言って座布団を敷いた席を笑顔で指さしている。

「き、きれいにしてるじゃない?最初からそんなに散らかってなかったんじゃない?」

キョロキョロと哲司の部屋を見回しながら麗華は落ち着かない様子で畳の上に敷かれた座布団の上にキチンと正座してそう言った。

「まあ、あんまり部屋におらんからな。そやけど、洗濯せなあかん服脱ぎ散らかしてたから、洗濯機に入れて掃除機かけたんやで」

哲司が言った通り、脱衣所のほうからは洗濯機がウォンウォンと頑張っている音が聞こえてきていた。

「ほな、飲もか。麗華ともマジで久しぶりやもんな。こうやって飲むんも1年以上ぶりかー」

そう言って席を立ち、グラスとつまみ用の皿をカチャカチャと用意し出した哲司の背を確認して、麗華は無意識に部屋に他の女の気配がないか鋭敏な感覚でチェックして安心できたおかげで、少し調子を取り戻し、口を開いた。

「1年ぶりどころじゃないわよ。卒業して2年になるからね」

「もうそないなるんやなぁ。早いもんや」

ちゃぶ台にグラスと皿を置いて座った哲司が、ビニル袋からビールを取り出しぷしゅ!といい音を立てて開け、麗華のグラスに注ぎながら言う。

一杯奢ると言いながらも、哲司の部屋で飲むことになったので、買ってきた酒やツマミは全て麗華が支払ったのであるが、麗華もそんなことを気にした様子もない。

「ほんとにね。学生時代が懐かしいわ」

哲司と麗華は、懐かしさもあってしばらく学生時代の昔話や、お互いの近況を冗談交え話し合ったのである。

お互いに飲める体質の哲司と麗華は、どんどんと酒も進み、畳には空き缶と空き瓶が増えていく。

小一時間してすっかりいい気分になった麗華は、タイトスカート姿だというのに膝を崩し哲司の目のやり場を少し困らせてしまっていた。

「って感じでスノウばっかりモテちゃってさ。どうしてうちの男どもはこんなに見る目がないのかっていうか、わからんちんばっかりっていうか・・・。私って言うグラマラスな美女がすぐ近くにいるってのに全然わかってないのよ!・・たまたまなんだけどなんでスノウも私と同じ会社に就職しちゃったかなー。でもあの子ってばどうも私に対抗心燃やしてるところがあるのよね。スノウもスノウで言い寄ってくる男をその気にさせといて、告白してきたところで『好きな人がいます』だもんね。あれじゃ男の方もたまらないわよ。・・・悪い子じゃないんだけど、男ってああいう無口でも大人しい子が好きなもんなのかしらねぇ?」


「ははは・・・そりゃそうやろ」

哲司がスノウと麗華のやり取りを想像して油断してしまい、乾いた笑いを発して本音を呟いた瞬間に、容赦のない麗華の速射砲が飛んできた。

「ちょっと!?そりゃそうやろ。ってどういう意味?!もしかして和尚もスノウのこと好きなの?!」

頬を酒で赤くさせ、上機嫌で話していた麗華だったが、哲司がしてしまった当たり前の反応に猛抗議しだし濡れ衣をかぶせてきたのだ。

これはマズいとおもった哲司は、社長のせいで今日の本題なった話に慌てて切り替える。

「ちがうって!誤解や!俺はどっちかって言うと麗華みたいに明るい女の子のほうが好きやで?!・・・そ、そや!麗華。今日さっき社長に言われた仕事なんやけどな、ついに探偵っぽい仕事依頼されたんや!それでちょっと麗華に頼みたいことができてな」

矛先を逸らそうと、かなり大げさな手ぶりで言う哲司に、麗華も美しい顔に疑問を浮かべて振り上げかけた拳と、上げかけた腰をおろして座りなおした。

「そ・・そうなんだ?・・どんな話だったの?」

麗華も哲司の「スノウより私みたいな明るい女の方が好き」発言に完全に気勢を逸らされて、一気に大人しくなる。

それに、麗華も探偵という仕事に縁が深いわけでもないので、探偵っぽい仕事という話に興味津々なのだ。

「人さらいの調査やな」

織田裕二似の爽やかな笑顔で得意げにあっさりと言い切った哲司に対し、麗華は驚きながらも、当然の反応を見せたのである。

「いや、それ警察の仕事でしょ?!」

麗華の冷ややか気味な反応に、哲司は目を瞑ってちっちっちっ!と人差し指を立てた仕草を見せて、麗華を少しばかり苛つかせてから得意そうに言い返す。

「最近女子大生が攫われてんのニュースでしってるやろ?どうもアレ絡みやねん」

「だから!警察に任せときなって話でしょ?!」

「最後まで聞かんかい。この人さらい事件はな、都内のけっこうええ大学の生徒ばっかりさらわれてるみたいなんや。捜索依頼が出されてるだけでも20件越えてるねん。警察も最初は動いてたけど、誘拐事件が始まりだしてまだ半年もたたんちゅうのに、捜査はほとんど打ち切られてるんや。捜査本部は置かれてるが名目ばっかりで、肝心の捜査はほとんどやってない。警察もまともに動かれへんようなキナ臭い事件ってことで俺らみたいな探偵の出番ってわけなんや」


苛立ち気味の麗華の反論に対し、哲司はやや興奮気味である。

「でもそれって・・・危なすぎるんじゃない?」

苛立ち顔からすっかり心配顔になった麗華が、哲司にそう言うも哲司はちゃぶ台に数枚の顔写真をと置くと、麗華の両肩をガッチリつかんで続けた。

「きゃっ!?」

「そこでや、このグリンピア興業の奴らがあやしいらしいんや。俺はこいつらの尾行を依頼されたんやけど麗華。おまえの法律事務所ってここの顧問弁護士引き受けとるやろ?俺がこいつら尾行して尻尾つかむさかい、その裏取りで情報まわしてくれへんか?」

「ええええっ!?無理よそんなの!」

麗華は肩を掴まれ、間近に迫る哲司の顔にドギマギしながらも、事が事だけにきっぱりと言い切ったのだが・・。

「頼むわ。危ないことさせるわけやないから!」

熱心な哲司の懇願に、麗華はしぶしぶ頷くことになったのである。

「でもさ、私もまったくのタダってわけにはいかないんじゃない?」

ちゃぶ台に置かれた数枚の顔写真を手に持って目を通しながら、麗華は上目遣いで麗華からの承諾を得て満足顔の哲司の顔を盗み見る。

「ああ、俺にできることやったらなんなりと言うてや?」

哲司は明日からの初めての探偵らしい仕事の妄想に胸を躍らせて、機嫌よく言う。

「じゃあさ、今日はもう遅いし・・・、あの・・シャワーとか・・貸してもらっても・・・・いい?」

数枚の顔写真で真っ赤な顔を隠しながら、麗華は思い切ってそう言ってみたが、哲司からはあっさりとこたえが帰ってきた。

「ああ。来客用ってわけやないんやが、予備の布団もあるしな。なんもせえへんから安心して酔いつぶれてええで」


哲司の答えに目を輝かせかけた麗華であったが、あまりにも下心も屈託も感じさせない哲司の笑顔に気が付くと、目を吊り上げてワナワナ肩を震わせ出し、持っていた顔写真がぐしゃ!となるほど握りしめてからばん!とちゃぶ台に置いた。

「ありがと!それじゃあね!」

「どないしたんや?もう帰るんか?」

「そうよ!ばか!」

起ち上ってドタドタと玄関に向かう麗華は、酔いもあってか空き瓶を踏んでしまい倒れそうになる。

「きゃっ!?」

そんな倒れかけた麗華を哲司がしっかりと抱きとめたのである。

「アホいうなや。電車ももうないし、飲酒運転するわけにいかへんやろ?今日は泊っていけや」

若かりし頃の織田裕二似の哲司に間近で心配そうな顔で言われれば、お転婆な麗華も、酔いにも助けられて赤面した顔を逸らせ頷くしかなかった。

「うん・・今日は泊っていく」

小さな声でそう言った麗華は、照れを隠すように哲司の大きな背中へと両手を回し、思い切って哲司と唇を一気に重ねたのであった。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 8話 【回想】豊島哲司と寺野麗華2 終わり】9話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 9話 【回想】豊島哲司と寺野麗華3

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 9話 【回想】豊島哲司と寺野麗華3

アルコールの勢いも借りたとはいえ、学生時代から密かに恋心を寄せていた男の唇に、かなり強引ながらも麗華はついにたどり着いたのである。

姫こと麗華には、言い寄ってくる男は高学歴、お金持ち、イケメン、それらのステータスを複数兼ね備えた魅力的な者も数多くいた。

しかし、麗華は持ち前の勝ち気な性格と、それ以上にこの底抜けにお人好しな幼馴染の気持ちを確かめずに、他の男とそういう関係に発展してしまうのはどうしてもできなかったのだ。

学生時代から今まで何度も麗華なりに哲司にはアプローチを掛けたものの、麗華自身が名付けているこの「朴念仁」は一向に麗華の気持ちに気づいてくれる様子はなかったのである。

二年ぶりに会う今日も、今日の為に新調した服に下着だし、昨日はエステにも行ってある。

しかし「朴念仁」は麗華の服装や髪型や肌、いわゆる容姿に関してなんの言葉もない。

予想していたことだが、気合を入れてお洒落している麗華の気持としては、実はかなりモヤモヤしていた。

それゆえに、このような強引な手に出てしまったのは致し方ないと、「全部この朴念仁のせいだと」目を閉じ大きな背中に腕を巻き付けたまま自己弁護していたのである。

同僚のスノウこと斎藤雪にも、今日哲司に会うことは伝えたくなかった。

しかし、そんな後ろ暗いことをするのを良しとしない性格の麗華は、内心イヤイヤながらもスノウに哲司から「二人の職場の近くで就職したから久しぶりに集まって飲もう」と誘われたことを伝えたのだ。

数日前、麗華は二人が勤めている法律事務所の休憩室で、哲司から「久しぶりに会って飲もう」と誘われていることを、スノウに伝えてみたが、スノウは麗華から見れば、いつもの何を考えているのかわからない表情のまま2秒ほど麗華の顔を凝視して静かに答えたのだった。

「残念ですが、私はその日は用事があるのでいけません。和尚にはよろしく伝えておいてください」

と、スノウはつれなく言ったが、麗華はそのスノウの言葉に内心では、決勝ゴールを決めた日本代表のサッカー選手のようにピッチに両ひざをついて、観客席に両手の拳を握りしめて身体をのけぞらせてガッツポーズしてしまうぐらいに歓喜してしまっていた。

実はスノウが、麗華の哲司に対する気持ちをずっと前から察していて遠慮したということなど麗華は気づいていない。

しかし、もし今回の話が豊島哲司からではなく菊沢宏からの誘いであれば、スノウが麗華を排除すべくとる手段は、麗華が考え付かないような冷徹かつ辛辣で徹底的だっただろうが、スノウにとって菊沢宏が絡まないのであれば、友情のほうが優先だというだけのことであった。

司法試験に現役合格できるほどの才媛の麗華であるが、そのあたりのセンシティブな感情を読み取るのが苦手なため、麗華はスノウが宏に寄せている異常すぎる恋慕心には気づけていない。

ただ、宏さえ絡まなければ、そこ以外はかなり理知的で友達思いな判断ができたスノウの言葉は麗華にとっては偶然にもありがたかったのだ。

妙に男受けのいいスノウのことをできれば哲司に近づけたくないし、何より堂々と哲司と二人っきりで会える!

スノウのセリフに無邪気にそう考えた彼氏いない歴25年の残念な美人は、この機を千載一遇ととらえ、哲司の気持ちを確かめ仲を進展させようと思っていたのだ。

実際は気持ちを確かめることもできず、いきなり奇襲をかけてしまうことになってしまったのだが、こうなってしまってはもう後には引けない。

麗華は更に不器用に唇を合わせ、哲司の大きな背中に両手を回してしがみつく。

麗華の一方的な突然の熱烈な行為に対し、哲司は鋼のような肉体を微動だにさせず麗華にされるまま受け止めつづけている。

しかし、麗華にできることはここまでであった。

数多くの男に言い寄られながらも、ほとんど一言で男たちを撃退してしまっていたため、このような場面ではこれ以上どう振舞っていいのか皆目見当もつかない。

自分の方から始めてしまった行為に麗華自身早速行き詰ってしまっているのだ。

目をきつく閉じ、押し付けていた唇には、思った以上に柔らかい哲司の唇の感触が伝わってきている。

アルコール以外の男の匂いが鼻孔を擽り、間近で嗅いだその香りに頭の奥の一部がぐらりとあやしく揺れる。

頬に哲司の無精ひげが擦れるも、その感触すら初めての経験故に麗華の女の部分を高ぶらせてゆく。

はじめて抱き着いた男の身体、男の匂いや逞しさに頭をぼうっとさせ始めた時、麗華に抱き着かれるままに任せていた哲司の身体が動いた。

タンクトップから伸びる男らしい逞しい腕の片方が麗華の腰に回り、もう片方の手は頤を上げさせられるように首筋を支えてくる。

「ひゃっ!‥和尚?」

麗華は自分から抱き着いていながら、哲司の動きに悲鳴を上げてしまう。

「んっ!」

次の瞬間、顔が上を向くようにさせられて、改めて哲司の方から口を口でふさがれたのだ。

哲司の大きな胸板に抱きすくめられ、唇を重ねられる。

重ねてくる唇に、麗華自身も唇を綻ばせるとそこへ哲司の舌が侵入してきた。

「んぅっ!」

突然のことに一瞬だけ驚き、全身を強張らせてしまったが、脳からあふれ出す女の部分が反応しだし麗華も舌で応える。

そのまま大きな体に抑え込まれるようにして、畳に背をつけられた。

腰に回されていた手がいつの間にか胸をブラウスの上からとはいえ、大きさを確かめるように下から上へと何故あげられると、すぐにブラウスのボタンをはずしにかからられる。

「うぅ!・・ああっ!和尚!」

口だけで抵抗を示してみるが、四肢は哲司に預けたままなので全く説得力はない。

みるみるブラウスのボタンは外され、気の強い麗華が身につけているとは思えない、可愛らしいピンクのブラジャーが露わになる。

Fに近いふくよかなサイズの胸を隠すには生地がやや少なめのブラジャー越しに、哲司の大きく逞しい手が伸びる。

「うぅ・・ああ!和尚!あぅ・・いやぁ!・・っんん!」

口だけの抵抗も、哲司の口で封じられ、豊満な胸を初めて男に愛撫される感覚に、麗華の頭の奥底から女の感情が溢れていた。

ブラウスのボタンをすべて外され、ついにブラジャーをぐいと下に引き下ろされてしまったために、ぶるんと張りのある双丘が露わにされる。

つんと尖っている両方の先端が、自分で触っていないのに見ただけでわかるほど、固く反り立っているのが、恥ずかしすぎる。

「んっあっ!和尚!だっ!ダメ!こんなこと!」

自分で誘っておいて麗華のこのセリフは無視されても仕方がない。

実際麗華も、口ではそう言ったものの、肉体の強化もせず、身体は仰向けで腕も足も畳の上に投げ出し、いわゆる大の字の格好でほとんど身体を開いた状態で男に乗られているにまかせている。

いまだに履いているスカートのフォックにも哲司の手が伸び、ファスナーもジッ!と一気に降ろされるが無抵抗のままだ。

麗華の頭の中は、これから始まる初めて行為に不安と期待が入り交じりっているが、口では抗ってしまうものの、身体は受け入れていた。

スカートを脱がされる時、腰を浮かせてしまう自分に赤面する。

赤面したことに狼狽えている間もなく、無防備になった女の部分へ哲司の指が這う。

パンスト越しとはいえ、陰唇から陰核へと優しくも力強く何度も撫ぜられてしまうと、一気に官能が脳へと伝わってくる。

「あああ!うぅぅ!和尚ぅ!」

普段の麗華の気の強い口調を知る者が聞けば、さぞ嗜虐心を擽られる声を麗華は発し腰を引き、内ももを閉じる。

その行動を哲司の膝が許さず、太ももの間をこじ開けるように麗華の足の間に入り込みの膝を入れられ足を閉じれなくされてしまう。

一番の弱点である股間の防備をはがされ、女らしさの象徴である胸の突起は非常事態を示すように硬く尖っている。

それらを護ろうと伸ばした両手を掴まれ、自身の自重で動かせないヒップに敷かれてしまった。

こうなれば弱点丸晒しでなす術はない。

「ああああっ!くぅ!うう!はぁああん!」

パンストと下着という防波堤があるにもかかわらず、歴戦の風俗嬢相手に鍛えられた哲司の指技に翻弄されてしまう。

腕で抵抗を試みることもできなくなった胸の尖りも、こうなるとますます尖りを増し、麗華の羞恥心を高める。

はじめて男に愛撫される麗華にとって比較すべくもないが、哲司の指は淫具のように小刻みに力強く振動するのである。

強烈な電気マッサージ機が指の先端についているような技能を振るう哲司の指技に、週7で自慰をしているだけの性経験しかない、残念なオナニスト女では、哲司の責めの前にはひとたまりもない。

男も寄り付きにくく彼氏いない歴の長い美女はさぞ男に不自由していないと思う者も多いようだが、実はそうではない場合の女性も多い。

気の強すぎる美人がオナニー中毒になってしまうのはは珍しくないことなのだ。

自分の身体の感じるところを知り尽くしている麗華だが、初めて味わう哲司の責めは、麗華の自慰の技術のすべてを越えていた。

下着越し、パンストもまだ脱いでいないのに、哲司の指先は麗華の股間が発した液体で滑り、くちゅりくちゅりと恥ずかしすぎる音を奏でている。

恥ずかしいほど固く反り立ったピンク色の乳首も、指で散々弾かれ羞恥心から更に固くなり、同時に快感を胸から子宮へと送り込んでくる。

「い・・いや!和尚!わたし!!・・あぅう!ダメこれ以上されたら!ダメ!」

自分の両手は自分の身体の自重で、お尻の下に封じられている。

麗華はもう哲司の責めを遮ることはできない。

無抵抗な双丘の先端と、無防備な陰核は恥ずかしいほど硬度を増してしまってどうしようもない。

乳首も陰核も麗華の小指の第一関節ほどの大きさまで肥大していた。

特に陰核がショーツとパンストを押し上げて主張していいるほど勃っている様は卑猥としか言いようがない。

ボールペンのキャップほどの大きさほどまでに勃起させてしまっているクリトリスなど、摘ままれても文句が言えるはずがない。

どうぞ摘まんだり弾いたり、好きにしてくださいと主張しているのと同じである。

「はっぐうう!!!ほっ・・う!!いやっ!うううううぅ!!・・・・・はぅ!・・はぁああん!・っ哲司ぃ!あああああああっん!!だめえ摘ままないでええええ!」

恥ずかしく尖った両方の乳首を、ショーツとパンストを押し上げている陰核を振動する指で摘まみ上げられ、捩じられ、引っ張られ、根元を潰すようにして弄くられて麗華は追い詰めてられていく。

麗華が口で否定しても乳首も陰核も、摘まめるほど固くなりそそり立っているのだ。

こんなに乳首や陰核を勃たせておいて、こんな状況で弄らずにいる男がいるはずがない。

それが麗華のような普段気の強く、頭の良い美女ならなおさらである。

「かっ!くはぁ!摘ままないでえってばあ!!ああああああん!こんなのお!!!・・・・ダメッ!・・・・もうダメっ!いくううううううううううう!!」

身体をびっくん!と一度大きく跳ねさせて、その後も何度もビクンビクンと余韻の余波に身体を痙攣させていたが、哲司は麗華の余韻が収まるまでその逞しい腕と、胸板は麗華を抱きしめる。

哲司は麗華の反応から、処女だとわかり始めていたので、最初は陰核を中心に責め、十分に快感と潤いを与えてから麗華を繰り返し何度も責め続けたのである。

痛がらせることなく、執拗とも思えるほど愛撫を重ね、十分に潤させ、何度も果てさせたうえ麗華を導いていく。

麗華の絶頂の余韻が収まると、哲司は勃起陰核と勃起乳首を摘んで振動で刺激し、それから陰唇全体を震わせ、腹部からは直接子宮に振動を送りこみ、麗華を優しく官能の海へ誘っていく。

陰核だけで何度も逝き方を覚えさせられるように、乳首でも膣内の数か所、直接子宮を刺激しての逝き方も覚えさせられていく。

決して自慰ではたどり着けない境地、知ってしまうと自慰ではせいぜい足の付く浅瀬だったと思い知る深みへと優しくおぼれさせられていく。

男の都合だけで使われるのではなく、処女である麗華は十分な女の喜びを与えられながら官能の広大な海へと連れ出されていったのであった。

・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・

頭痛で顔をしかめて寝返りをうった哲司が、カーテンの隙間から差し込んでくる朝日に眩しそうに手で光を遮る。

「うー・・・ん。久々に飲みすぎや・・いてて」

畳の上に敷いた煎餅布団の上で掛け布団を押しのけて半身を起こした哲司が、二日酔いで痛む頭を摩りながら呻く。

哲司は痛む頭を摩りながら、6帖畳の部屋の隅に片づけるように並べられている空き瓶の一つを取って、目をこすりながらラベルを確認する。

「痛つつ・・この痛みはこれのせいか・・・」

ビールやハイボールの缶のほかに、『スピリタス』と書かれたいくつかの空き瓶の一つを手に取り哲司が呻いたとき、キッチンのほうから嗅ぎなれない香りと、人の気配がすることに一気に頭が覚醒しだす。

「あ!和尚!・・・お、おはよ」

そのとき、布団の上に座った状態の哲司に、キッチンからスーツ姿の麗華が顔を赤らめて挨拶してきたのだ。

「お・・おう麗華??おはようさん」

哲司は二日酔いの頭をフル回転させて昨晩のことを思い出す。

「ごめん。起こしちゃったね。もう少ししたら朝ごはんできるからもう少し寝ててよ」

昨晩、麗華と飲んでいたことを思い出した哲司だったが、麗華が麗華らしからぬ口調で優しくそう言ってくる様子に布団の上で困惑していた。

「・・・どないしたんや?」

「え?どないしたんやって・・朝ごはん作ってるのよ。和尚ってお味噌汁にタマネギが入ってても平気よね?」

「ああ・・平気やちゅうか。好きやで?」

「す・・好き?・・そう!よかった」

顔を真っ赤にしながらも機嫌よくそう言ってキッチンに向きなおった麗華の背を見て、哲司はさらに首をかしげる。

(どないしたんや・・。麗華が俺の部屋で朝飯作っとる・・・。昨日泊まるいうてたけど、麗華が朝飯つくるなんて雪でも降るんとちゃうか・・?)

哲司は初夏の蒸し暑さが迫りつつある時期だけにそう独り言を心中で呟く。

てっきり朝マックでもと思っていた哲司だったのだが、麗華はルンルンな様子で味噌汁の入ったお鍋をお玉で混ぜ、フライパンでベーコンとタマゴをいい音をさせながら炒め、狭いキッチンながらも手際よくキャベツを千切りしてレタスとトマトをお皿に盛りつけ、すでに茹でてあったジャガイモを潰してポテトサラダにしてサラダのお皿に添えているのだ。

哲司はそんな麗華を、訳が分からないという表情で訝しむように呆然と布団に座ったまま眺めていた。

すると、麗華がくるりと振りかえり、顔を赤くしてにこっと恥ずかしそうにはにかんでから、すぐにキッチンの方へと身体を向き直る。

(な・・なんや今の表情・・?)

部屋に食材など置いてなかったので、麗華が朝早くに買出しに行ってくれたのは確実である。

しかも、朝ごはんとしてはけっこう手間のかかるものを作っている様子だ。

しかし、哲司は麗華がそんなことをしそうにない性格だと長年の付き合いでわかっているだけに哲司は布団の上で首をかしげるばかりであった。

哲司がいかに酒豪とはいえ、度数96のお酒を5本も空けてしまっていたので、久しぶりの痛飲で昨晩の記憶が途中からさっぱり無いのだ。

織田裕二似のルックスもさることながら、人格的にも文句なしのいい男である豊島哲司なのだが、菊沢宏とは別の意味で罪な男であった。

処女の幼馴染相手に、今まで練習台となった100人以上の風俗嬢で鍛えた性技を駆使して破瓜を奪ったのだが、当人にその記憶は酔っていた為まったくない。

そんな手の付けられない哲司のボンクラぶりを知る由もなく、麗華は25歳と遅まきながらも、想い人相手で女になれた喜びで満ち溢れ、幸せいっぱいの新婚初夜直後のような気持ちで料理しているのであった。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 9話 【回想】豊島哲司と寺野麗華3終わり】10話へ続く

第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 10話【回想】小田切響子の学生時代


第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 10話【回想】小田切響子の学生時代


執事長から葵は秀才故に他との協調性がとりにくく、頭の回転が速すぎて同級生や学校の教員とすら話が合わない子だと聞かされていた。

響子なりに葵を分析したところ、葵は頭が良すぎて、口調が悪いところを覗けば、小柄で童顔ながらも文句なしに美人である。

それに他と協調性が取れないといわれているのは、頭の回転が周囲の同級生より随分早いため、周囲からは少し変わっていると思われてしまうのだろう。

ただ、それは葵の突出した才能の一部が尖りすぎているために周囲にその印象をあたえているだけあり、それ以外はやや知性や感受性が鋭いだけの真面目な女の子そのもの・・・のはずだとも響子は思っている。

「えっと・・そろそろお夕食にしましょうか?ここまで良い匂いがしてきましたね」

姉が去り、少し寂しそうな表情の葵をできるだけ明るい気持ちにさせようと、葵の背を押しダイニングの方へと促すと、葵が期待のこもった表情で聞いてきた。

「ごはんごはん!お腹減ったよね。響子さんの分も用意してくれてるはずだし一緒に食べようよ。ご飯食べたらまたアレやろうよ!」

響子は一瞬だけ迷ったが、葵とアレをするのは響子も楽しんでいるし、さっき葵の姉にもアレに付き合うように言われている。

響子はにっこりとして快く返事を返したのだった。

「ええ、いいですよ」

「いやったー!」

葵は響子の返事に、小さな身体全身で喜びを表すように飛び跳ねる。

浜野響子は、東都大学理学部に通いながら、親の負担をできるだけ減らそうと家庭教師のアルバイトをしてる女子大生である。

大学に入学したての頃は、かつて棋院で鍛えた棋力をもって碁会場でアルバイトをして学費の足しにしていた。

アルバイト代は学生としては相場だし、なにより碁会場のような自分の趣味と一致するアルバイト先であるのに響子は満足していた。

そんな響子が働く碁会場に、ある日無理やり連れてこられた感満載の表情の葵が現れたのである。

葵は、彼女の担任の教師が葵のずば抜けた記憶力が碁に向いているのではないかと思い連れてこられていたのだ。

葵はクラスでも打ち解けられず、中学校の授業内容では簡単すぎてやる気を失いかけて、不登校になりかけていたのである。

「ほら、葵くん。これが囲碁だよ。この白と黒の石を打って陣地の広さを競う競技なんだ。先生、葵くんならすごく上手になると思ってるんだ」

少し必死な感じで熱っぽく説明する担任の男性教諭の様子とは真逆のテンションで、葵は碁石の入った碁笥に入った白い石を一つ摘まみ、興味なさそうに死んだ魚のような目で眺めている。

いまでは、まったく学校にすら通っておらず家で自宅学習になってしまっているが、葵が中学2年に上がったばかりのころは、葵の周囲は葵のことを彼らなりに何とかしようとしていたのだ。

この真面目な男性教諭もその一人である。

葵は、碁会場の主である自称アマ8段の人の好さそうなおじさんからルールの説明を、とてつもなく興味なさそうな表情で一通り聞いてから、覚束ない手つきで碁を打ち始めたのだ。

響子はその日のことをよく覚えている。

碁石を握りなれてない仕草の白く細い指先が、碁石をびしぃ!とかっこよく打つ自称アマ8段のおじさんを、指し方の可愛らしさとは裏腹に鋭い一手一手で追い込んでいくのだ。

そもそも、初心者の葵はハンデをもらい、九子の置き碁から始まったのだから、すでに自称アマ八段のおじさんは開幕から物凄く窮地に陥っていた。

9目ハンデをもらっていたとしても普通ド素人が初めてアマ8段という猛者と戦えば、勝ち目はない。

だが、そうはならなかった。

葵の指が石を置く度に、自称アマ8段のおじさんは、人の好さそうな顔からだんだんと脂汗が噴出し、中盤以降は信じられないと言った表情になって劣勢になってきた基面と、つまらなさそうに碁を初めて打つ中学生の葵を見比べては、震える手でなんとか石を落とさずに指していたのだが、結局は途中で投了してしまったのだ。

「思ったより面白いけど、もういいかなぁ。またしたいとは思わないよ。この最初から置いてる石がなければもう少し楽しめたかもね」

碁盤の前で突っ伏し、自信を喪失した自称アマ8段のおじさんの様子など気にした風もなく、葵はそう担任の教師に言ったのである。

「そ、そうか・・。葵くんには合わなかったか・・」

葵に何か興味を持ってもらおうと腐心している様子の善良そうな担任の教師は、思惑が外れるにしてもハズレ過ぎたことに当惑しながら言葉を絞り出していた。

碁会場きっての猛者と謎の美人中学生との対決に、かなりの熱気を帯びて観戦していた弥次馬たちは、葵の白けた様子に冷水を浴びたように一気に静まり、この不思議な少女が碁に興味を持たなかったことに落胆していく様子が場に広がっていく。

皆、この中学生がこの碁会場に通うことになると思っていたアテがはずれて落胆しているのである。

ただ、響子だけはこの不思議な少女の信じられない棋力に目を輝かせたのだ。

「今度は私がお相手いたしましょう」

響子はついそう声に出してしまっていた。

響子は普段から慎ましく、差し出がましいことを絶対に言わない美人女子大生アルバイターと思われていただけに、その響子の発言で周囲は再び熱を帯びた目で二人を取り囲みだした。

「えーー・・・もういいよ~」

響子の発言に、葵は心底イヤそうにそう言ったが、響子の方がこの不思議な子に俄然興味が湧きだしていたのである。

「お時間とらせませんよ。私ともう一戦だけ。お願いできるかしら?ね?」

「う~ん。まあ・・いいよ。どうせ帰ってもやることないし。でも一戦だけだよ?」

にっこり笑顔で対戦を誘ってくる響子の様子に、どこか通ずる部分を感じたのか葵は渋々頷いたのだった。

「ありがとう」

響子は小さな対戦者に笑顔でそう言うと、座布団に正座して座る。

相手の思考が映像として流れ込んでくる特技があるとはいえ、響子は高校生まで棋院に通っていたのだ。

響子は純粋に碁が好きである。

10年以上碁に触れてきた響子にしても、この子の若さで、初めて囲碁を打ってここまでの打ち手は見たことがない。

素直に対局してみたくなったのだ。

「置き石なしの互戦でやりましょう。コミは六目半で良いでしょう。」

響子の提案に、すっかり葵の棋力に度肝を抜かれていた碁会場の客たちは、めいめいに歓喜の声を上げて色めき立った。

「こりゃあ見ものだ」

美人大学生と、突然現れた美少女中学生との一局が突如始まったのだ。

響子はこの碁会場では敵なしの強さである。

自称アマ八段のおじさんよりもずいぶん強い。

元院生でもあり、プロ試験は辞退して受けていなかったが、院生1位になっていた事も何度もある響子の実力はプロレベルなので当たり前ではあるのだが…。

ただ、響子は自称アマ八段のおじさんに花を持たせるために勝ったり負けたりしていたので、自称アマ八段のおじさんの自尊心を砕くことはないようにしていたが、目の前の少女にはその必要はなさそうに感じたのだ。

「先生?これで最後だからね?」

葵は周囲の雰囲気に少し戸惑っていたが、担任の教師にそう念を押してから、響子と向かい、再度座布団の上に座る。

先手は葵からだ。

誰にも教えられていない、今日初めて囲碁を始めたというのに自分に近い第四辺の隅に、コトリと黒い碁石を置く。

(この子・・・)

響子は、その一手に粟立つ肌に合わせて心臓が喜ぶように躍動するのを感じていた。

響子の置く白石が、黒石のすぐそばに置かれると、葵もまったくよどみなく定石どおりに打ち返してくる。

(本当に今日初めて囲碁を打ったんだとしたらすごいわ・・)

響子は葵の非凡を越えたセンスに感嘆しつつ、石を置いていく。

しかし、両者が打ちはじめてしばらくすると葵の表情が徐々に険しくなり、10手も打ちあったころには中学生とは思えない目に殺気を灯した危険な形相になった。

「ねえ。さっきからなにやってるの?」

中学生の女の子とは思えないドスのきいた低い声でそう言ったのである。

「ど、どうしたんだ葵くん?」

担任の男性教師は葵の様子に、慌てた様子で聞き返しているが、葵は鋭い眼を響子に向けたまま無言だ。

響子はその中学生の視線に心の芯が冷えて、背中に汗が一気に噴き出たのを覚えている。

「なに・・って?」

ようやく口を開いた響子は葵という中学生の迫力にタジタジとなりながらも、なんとか表情を引きつらせずに答えることができた。

びしぃ!

葵は応えず、白く細い指が、碁盤に黑石が砕けんばかりに叩きつけるように打つ。

先ほどのやる気のなさそうな顔とは全く別人の形相で葵は響子の目を睨みながら指したのだ。

(み、みえなくなったわ・・)

先ほどまで、葵が次に打つ手、その次に打つ手と見えていたのが突然見えなくなったのだ。

響子は今までにない経験に戸惑うも、ずっと戸惑っているわけにもいかない。

葵の視線を受けながらも、響子は打ち返す。

響子の打った一手を見て、葵は少しだけ表情を和らげてから「ふぅ」と笑った。

葵が異様な威圧感を発したのはこの一瞬だったので、碁会場のギャラリーは、葵が発した殺気ともいえる気迫に気づくことなく、珍しい組み合わせの対戦者たちを、わいのわいのと興味津々で観戦している。

その後は、粛々と盤上は進み5目半の差で響子の勝ちで幕を閉じた。

ドキドキと早鐘のように打つ心臓を、誰にも気づかれないようにして響子はほっと胸をなでおろした。

(さっきのこの子の気迫・・・いったい何なのかしら・・。そのあとから、この子が打とうとしてるイメージが全然見えなくなったわ。地力だけでも勝てたけど、この子・・いったいどういう子なの?)

響子は自分の特異体質で相手の思考したイメージが映像となって流れ込んでくるが、途中から全く見えなくなったのだ。

ただ、長年培った囲碁の実力は葵を純粋に上回っていた。

それに純粋に葵と呼ばれる少女との一局は楽しめたのである。

対局が終わった時、響子は自分の背中がじっとりと汗ばんでいることに初めて気が付いたのだ。

この少女との対局は、ただの碁の対局とは違う緊張感があったのだ。

(この対局の緊張感・・。ほんとうに合戦みたいな緊張感があったわ)

「あ~あ、負けちゃった」

一方の葵は、さきほど中学生とは思えない気迫のこもった殺気を一瞬だけ叩きつけてきた様子は最早全くなく、あっけらかんとした様子でそう言ったいる。

ともかく、これが二人の出会いで、日常の退屈しのぎがてら葵は響子がいる碁会場にしばしば来るようになり、仲を深めていったのだ。

そして葵はすぐに響子に懐きだし、響子が最高学府である東都大学生ということを知ると、響子を家庭教師として雇ってほしいと父親に駄々をこねたのであった。

葵の強引すぎる提案に、響子も最初は戸惑っていたが、碁会場でのアルバイトよりはるかにいいお給料で勧誘されていたし、なにより響子もこの葵のことを可愛く思えてきていたので、この外観が城のようなお屋敷に家庭教師として住込みで働くことになったのである。

外観は銀灰色で中世の城を思わせる大きな屋敷、大理石の床や壁にこれでもかと飾られた調度品は、どこかアンバランスで調和がとれていないが、どちらかと言えば庶民の家庭に育った響子にとって、金持ちの美的感覚というのはわからない。

純和風だった実家からすると、かなり落ち着かない雰囲気の屋敷だが、葵と打ち解けていくにつれ、そんなことは気にならなくなっていった。

葵は140cmほどの華奢で小柄な少女、青みがかった艶のある黒髪に、大きな目、若い子特有の透き通るようでいて張りのある白い肌、スカートから伸びたスラリと伸びた足、胴もまだまだ細すぎるが、胸はほんのり膨らみ、腰はすでに括れ、女の身体になりつつある前の美少女だ。

大きく見開いた目の中の黒い瞳は、色が濃すぎて光の加減で少しばかり青く見える。

中学生と言われれば大人びているが、大学生と言われても通用するぐらいには大人びた顔、いや目に宿る知性がこの子を童顔ながらも大人びて見せるのだろう。

なんとも不思議なあやうさのある美しさを持つ美少女だ。

まさしく城と言ってもいいような屋敷にいる住込みの家政婦たちや執事は、響子が家庭教師として葵の面倒をみてくれるようになって、困った天才少女のお守り役を担ってくれていることに本気でありがたがっている。

響子と葵はまだ数か月程度の付き合いしかないが、響子は葵のことを妹のように可愛がり始めていたのだった。

【第11章 人工島カジノ計画に渦巻く黒き影 10話【回想】小田切響子の学生時代 終わり】11話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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