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第8章 三つ巴 16話 久々の夫婦の時間の終わり 菊沢美佳帆

【第8章 三つ巴 16話 久々の夫婦の時間の終わり 菊沢美佳帆】



宮川コーポレーションの宮川佐恵子達が、橋元一味の張慈円達と相対していた頃、橋元から受けた力【媚薬】のせいで性欲が抑えられなくなっていた事を、主人の宏とホテルにて満たしすっきりした美佳帆は、今、宏と2人でホテルから出て、現在は菊一探偵事務所と大塚達府警の刑事との合同捜査の事務所代わりになっている大塚の別宅でもある西区のマンションへ向かっていた。

美佳帆たちが情事を果たしたホテルは浪速区で、この町では通称『ミナミ』と呼ばれている界隈であったが、ミナミから西区までは徒歩でも10分ほどあれば行くことが可能で、大塚のマンションはその西区の南堀江にあった。

美佳帆は、宮川コーポレーションに出向いていたため、いつもの動きやすいTシャツにホットパンツ姿ではなく、今日は上下グレーのスーツを身に着けていた。

宏にも宮川へ出向く際に、スーツを着せようとしたのだが、

『何で行くところによって着替えなアカンねん。俺は俺やこのままの服で行ったらええやん』

とまるで、お着替えを嫌がる子どもの如く駄々をこねられたので、宏はいつもの黒の綿パンに黒のカッターシャツを着ている。

2人の今の服装でしばらく歩くと、梅雨もあけるか明けないかのこの時期だとさすがに少し汗ばむ。

(ふぅ・・・せっかくすっきりした後に、シャワーも浴びて爽快な気分だったのになぁ・・・もう少し2人で居たかったから、徒歩を選択したけど、こんな事じゃタクシーに乗れば良かったかな?)

と考えながら私の左側を歩く宏を見上げてみると、いつになく難しい顔をしている。

『どうしたの?何か考え事?』

と私が聞くと、宏は

『いや・・・さっきの話なんやけどな・・・あの宮川の生意気な姉ちゃんら・・・あいつら全員相手にして、戦えたかという話なんやけど・・・まあ、あいつらは根本的に危ない奴やないし、敵でもないから良かったんやけど・・・今後な、あいつらくらいの奴らが集団で現れて、美佳帆さんや、所員に手出ししてきたことを考えたら・・・いや、それは十分あると思うねん・・・そんな時に、俺は美佳帆さんや皆を守れるかと思うとな・・・少しナーバスになってしもてたねん』

珍しく真剣な表情をしていたと思ったら・・・やはり宏にとっても、今日の宮川コーポレーションの人たちとの出会いと、駆け引きは日常には無い刺激になったみたいで、確かに私から見ても1対1なら、あの人たちの中で宏と戦えても勝てそうな人はいないと思った。

しかし、能力の相性や、特殊性、そう・・・宏が言うように、あの例えば宮川佐恵子さんが敵になったとして、社員の黒服の方々を操っていたのが彼女の力なら、それを、例えば私たちの仲間の和尚やモゲに向けられて、彼らが操られたとしたら?和尚は唯一と言って良いくらいの宏と五分に渡り合える力の持ち主。

その和尚を宏にぶつける事だって可能はある。。。

(本当に・・・宏の言う通り・・・えげつない能力ね・・・)

『あっでも・・・さっきから私も考えていたんだけど、その宏が言う宮川さんとは、今後上手くいけば共同歩調もあるんじゃない?ほら、橋元の所に、仲間が犠牲になっているわけだし・・・うちも彼女も…それに今はそんな事よりも、まずは、神谷さん・・・彼女も張慈円に連れ去られたのなら・・・スノウのように・・・今は和尚たちが追跡してくれているから今すぐどうこうもないでしょうけど・・・』

『うん・・・まあ、そうなんんやけど、俺もみんなの力を信じてないわけやないし、ただ・・・俺ももう少し強ならなアカン思って、先生の事を思い出していただけやねん。今日本に来ているみたいやしな・・・』

と宏が真剣な表情から、一転懐かしそうな遠くを見るような表情に変わり、

『先生って、宏が能力開発の訓練を受けた栗田教授の事?えっ?そうなの?日本に戻られているんだ・・』

『そうやねん。この間、東京大学から封筒が届いとったやろ?俺宛に、先生は俺に用がある時には、東大の封筒で手紙くれるからなぁ。』

『あっそういえば・・・気にして見ていなかったけど・・・あっそれで、宏もしかして先生にお会いしてさらに訓練受けるとか?そういった事考えているの?』

『うん・・・今すぐは無理やけど、そのつもりや・・・俺が更に腕を上げる事によって、みんなの力も引き出してやれるかもしれんしな。しかしな・・・俺が今1番気にしているのは、その先生からの手紙の中に、【鷹が狩りを始めた様子。汝、気をつけるべし。】って書かれてたんや』

『鷹が狩り?えっどういう・・・?』

私は宏と同じ速度で歩を進めながら、少し首を傾げ聞いてみる。

『うん、これは先生と俺だけが分かる隠語なんやけど、先生は以前な、俺が探偵事務所を開業しても、そいつからの依頼もそいつ絡みの依頼も、絶対受けたらあかん言われている奴らがいて、それが髙嶺言うんやけど、なんでも江戸時代から続く暗殺一家やそうでなぁ・・・俺も先生の話聞いてて、今どきホンマにそんな奴らおるんかいなと思ったんやけど・・・先生は左目が見えへんのやけどな、それが日本にいた時に、その髙嶺言う奴に力見込まれ誘われたんを断った時に、力づくでなんとかしようとするそいつにやられたらしいわ。しかしその髙嶺言うのも先生の絶をくらい、能力が使えんようになったらしいんやけどな。』

宏が、声のボリュームを2音くらい落とし、歩く速度もゆっくりとなりながら、私に説明する。私も宏の話を聞き、

『あの栗田先生の目は、そういう事があったからなのね・・・しかし、その髙嶺っていう人も凄いね・・・あの先生にって私は写真でしか見た事ないけど・・・あの栗田先生の目を壊せるなんて相当狂暴なのね・・・あっでも先生にそのゼツ?それを受け能力が使えなくなったのなら・・・そこまで危険ではないんじゃないの?』

と私は宏の話を聞き、率直に思ったことをストレートにぶつけてみた。しかし、宏の表情は、狂暴そうな暗殺者が動き出したが、実は能力を失っていたという内容とは程遠いほどまた表情が曇り、

『いや、それが先生の手紙に書かれていた内容では・・・先生の絶を受けた人間は、宮川の姉ちゃん風に言えば能力者でも能力者やなくても、気そのものを遮断され、一生一切気の通わん人間になるんやけど、その髙嶺言うんにくらわせた絶は、指刀を差し込んだ時に、先生の指に髙嶺の気が巻き付く感触があったらしく、威力を半分殺されていたみたいなんや、だからその髙嶺が気を使えんかったんは1年くらいらしいわ。それで、力が戻ったようやから、先生はやり残した仕事をするために日本へ戻ってきたんや・・・俺が1番その中でも驚いたんわな・・・その髙嶺言うんは、まだ30歳そこそこの女や言う事や。あの先生とやり合うばけもんなんやさかい、どんだけ見た目も化け物じみてることか・・・ホンマゴリラみたいな女やないやろか?』

宏は最初は真剣にトーンを落とし話していたが、最後にはいつもの宏に戻っていた。

そして、このままこの事については私は深く大きくうなずいただけで、何も返せなかったので、宏も何も言わなかったが、宏はきっと、栗田先生にお会いし、そのゼツ?という技を習いたいんだろうなと私は長年の付き合い、妻としての勘からそう察していた。

宏から、大塚君のマンションに着くまでに受けた、髙嶺という存在の説明では、髙嶺一族は京都出身で江戸時代からどの勢力にも属さずに、大名から暗殺の依頼を受ける事を生業とし、幕末、明治、大正、昭和に平成と時代が過ぎても、そのスタンスは変わらず、一族の長子が必ず後を継ぐことで、家業を継承していっているらしい。

そして、髙嶺には、複数人の幹部から一暗殺者である部下数十人から形成される組織があり、その全員が何らしかの剣術の免許皆伝者にして全員が能力者であるとの事。

私が1番驚いたのは、その能力者の育て方で、髙嶺では、一族の血筋の人間でもそうでない者でも、3歳の頃に一度、能力を発動させた刀で切られるらしい。そして生き残った者のみを暗殺者として育てていくとの事で、宏が言うには、能力者の攻撃を受けた人間は、能力を鍛えなくても、先天性のように発動させることができるようになる可能性があるとの事。

そしてそれは50パーセントくらいの確率でその攻撃を受けた相手と同じ種類の能力が使えるようになるようで、しかし能力自体が使えるようになる可能性としては10パーセントもないらしい。

なので髙嶺では幼少期に切られて生き残ったけど能力の発動しなかった子については、髙嶺が現在、経営する別事業の方の社員へ回されるとの事。

そして能力が発動した子は、その時の当主の身の回りに置かれ、暗殺者集団の1員として重宝されるらしい。

今でも財界政界の大物たちから、果ては海外からも依頼はあるというから、世の闇とはどこまで深いものかと感じた。

そんな事を宏から聞いているうちに、ようやく大塚君の別宅である南堀江のマンションへ到着した。

【第8章 三つ巴 16話 久々の夫婦の時間の終わり 菊沢美佳帆終わり】第17話へ続く


第8章 三つ巴 17話 謎の女性現る

第8章 三つ巴 17話 謎の女性現る



神田川真理は、入社当初より、佐恵子の強い希望で、佐恵子の秘書として配属されていた。

新卒者とは思えない知性、清楚な立ち振る舞いと際立った美貌で、入社当初から、社内では注目を浴びていた人材であり、都内有名私立大学を卒業し、求人倍率500倍を超える宮川コーポレーションの入社試験の筆記部門で、首席で合格した才媛である。

ちなみに宮川佐恵子が次点、そして、稲垣加奈子と続く。

佐恵子が、側近として真理を強く希望した理由は、知性や人物もそうだが、その特異な能力を欲してという理由が最も大きかった。

【未来予知】数秒から数十秒先の、危険に関する未来を予知でき、【治療】は自身もしくは対象の思念を消費して、傷や体力を回復させることができる能力を持ち合わせていたためである。

何方も非常にレアな能力で、佐恵子は探し求めていた宝石を見つけたかのように喜び、真理とは公私を問わず、可能な限り真理を伴うようになった。

真理も当初は、佐恵子の、過剰な干渉に戸惑いを見せていたが、徐々に慣れてきて、現在では、できる限り佐恵子の希望に、応えるように心掛けるようになっていた。

佐恵子は、長い付き合いで、真理の【未来予知】の精度が非常に高いことを知っていた。

真理は事故には合わない。また、食中毒等も然りである。

もし仮に、雪崩や土砂崩れ、さらに火山弾に見舞われても、真理の身体能力なら、よほど大きな規模でない限り、すべてを見通し回避しきるだろう。

戦闘においてもそうだ。【未来予知】のせいで真理に攻撃を当てるのはすごく難しい。さらに詠春拳と合気道を使うので、下手に手を出すと、逆に手痛い反撃の的になってしまう。

仮に、攻撃が当たったとしても、厄介なことに【治療】がある。しかも、能力の並行使用の使い手なので手に負えない。

その真理が大声で、「避けて」と叫んだのである。

佐恵子は、そんなに大きな真理の声を聞いたのは初めてであった。

その声に驚き、振り返ると、いつの間にか目と鼻の先にまで迫った、モブと呼ばれていた男がいた。

血まみれの顔で歯を食いしばり、オーラを膨張させている。

佐恵子は正直驚愕した。モブという男程度に、扱えるオーラの量と流れではない。スピードも体術も先ほどとは、まるで別人だ。

(この動きはまるで・・・私・・?)

その驚きが、刹那だけ反応を鈍らせた。

モブの蹴りが佐恵子の顎を、完璧に捉え、佐恵子の長い髪の毛が蹴られた衝撃で大きく靡く。

脳を揺らされ、ぼやけた視界に、モブのドヤ顔が映る。

(は、速いっ・・!・・・血・・・?ダメージ??!・・バカな・・私のオーラをも貫いたというの・・・?!)

「佐恵子!!」

真理が悲鳴に近い声で叫ぶ。

「くらえ!」

辛うじて倒れず、グラつく佐恵子に対し、モブが更に、お得意の必殺パンチを放つため振りかぶった。

(う・・動け!動きなさい!!・・うううっ!・・ひ、膝が、わらって足が動かない・・・!)

ばきぃ!

左頬にモブのワンパターン右ストレートパンチがまともに入り、後方に吹っ飛び一回転して仰向けに倒れる。

「どうだ!このクソアマ!!思い知ったぐぶぅうっ!!!あぶっはぁあ!!」

勝鬨を上げようとしていたモブに、加奈子が、コンクリートの地面を砕く勢いの踏み込みで、背中と肩を同時にぶつける体当たりをモブに喰らわせ、左足を軸に後回蹴りでモブを蹴り飛ばす。

加奈子に蹴られた衝撃で、モブは、口から血をまき散らしながら、きりもみ状態で張慈円を目掛けて飛んでいく。

「ふん!」

張慈円は一声発し、身を捻り躱す。

がしゃーん!・・どさっ

モブは倉庫の壁に激突して、埃だらけの麻袋が積まれた荷物の上に落ちて動かなくなった。

加奈子は、蹴り飛ばしたモブには目もくれず、仰向けに倒れた佐恵子に駆け寄り抱き起した。

「し、支社長?!ま、真理ぃぃ――!!」

「わかってる!わかってるけど、この人たちをどうにかしてよ!」

真理を呼ぶが、加奈子が抜けたため、アレンと劉を二人同時に、相手しだした真理が、加奈子に向かって叫び返す。

「うっしゃ!」

加奈子は佐恵子を抱えて跳躍すると、中二階にある金属格子の足場に、佐恵子を横たえた。

「だ、大丈夫?!支社長!」

「ぐ・・ごほっ!・・っ・・い・・・よ・・」

「・・・。真理と交代してくるから、少しだけ待ってて!」

佐恵子のダメージは大きそうだが、生きている。ならば、とにかく真理だ。佐恵子の言葉を待たず、加奈子は中二階からすぐさま飛び降りた。

「真理!行って!」

飛び降りながら、アレンの背中を蹴り飛ばした加奈子が真理に叫ぶ。

「ええ!」

劉の横なぎの一閃を、しゃがんで躱し、その勢いで今度は、真理が跳躍する。

「くっそ!こいつ!全然当たらねえ!どうなってやがる!」

跳躍する真理を見上げながら、劉が怒鳴る。

「次は私が相手よ!」

劉は返事の代わりに青龍刀の斬撃を、加奈子目掛けて飛ばす。

ばちん!

加奈子は飛んできた斬撃を左手で弾き、そのまま劉に突進する。

「こいつらは、どうして効かねえんだよ!」

迫りくる加奈子に悪態をつきながらも、青龍刀を上段から切り込み応戦する。

さっきまで戦っていた真理という女とは、まるで違う戦闘スタイルに劉は面食らう。

獰猛な肉食獣のように容赦なく、重い攻撃が銃弾のように襲い掛かってくる。

アレンは戦闘開始前から、すでに加奈子という女に重傷にされていたうえ、先ほど更に上乗せで攻撃を浴びていた。アレンがいま立ち上がろうとしているのは、まさに奇跡だろう。

立ち上がったとしても、アレンは戦力にはもうなるまい。

ボスは?とみると、中央の鉄骨の柱に身を預け、頭を抱えなにやら、呻いたり、首を振って意識を保とうとしているように見えた。

あの佐恵子という女に、なにかされたのだろうが、すぐに回復するようなものなのだろうか。

外傷は見受けられないが、ボスにあれだけのダメージを与えるとは、とんでもない奴だ。

先ほど、すごい動きを見せたモブは、麻袋の向こう側に落ちて、ここからでは確認できない。

目の前で、髪の毛を逆立てている加奈子というヤツの、打撃面積を最大限に使った、体当たりと、空気を切裂く音を響かせた回蹴りを喰らったのだ。

流石にモブも、もう起きてはこないだろう。下手すれば本当に死んだかもしれない。

「ちくしょう・・!なんて日だ!」

劉幸喜は肚を括ると、目の前の獰猛な女だけに集中することにし、青龍刀を構えなおした。

真理は、カツンと音を響かせ、格子の床に着地すると、仰向けに寝かされた佐恵子に向かって走り寄りながら声をかける

「佐恵子!もう大丈夫よ」

しかし、あと数歩というところで、真理の【未来予知】が最大限の警鐘を鳴らす。

真理の視界全体が一気に死地になり、安全な場所は見当たらない。

「動かないでくださいね」

背中から掛けられた冷ややかな声に、真理はビクリとなり動きを止める。動けば、死ぬ。真理にはそれがわかった。

「真理!なにやってんのよ!」

階下でアレンをヘッドロックで決めながら、劉に膝蹴りを喰らわせた加奈子が、真理を見上げて、怒鳴る。

「・・・そ、そんなこと言われたって・・・」

安全地帯は、いま自分がいる空間しかない。少しでも動けば、そこは死地だ。それが視認できる真理は、一気に噴出した汗で、全身をびっしょりと濡らせながら、かろうじて呻いた。

仰向けになり、浅い呼吸をしている佐恵子まで、あと数歩だ。しかし、ここからでは【治療】は届かない。

佐恵子が寝かされているところは、死地の圏外ではあったのがせめてもの救いであった。

「動けば斬ります」

背後の影は、再度真理にそう念を押すと、倉庫の薄暗い照明の灯りの下までゆっくりと歩みでた。

白のブラウスに、上下黒のスーツ、下は膝上のタイトスカート姿に薄い黒色のパンストに身を包む女性で、身長は真理とほぼ同じぐらい、160cmは超えているだろうか。左手には1mほどの黒い棒を持ち、長さや反りの形状から、それが日本刀であることは容易に想像できた。

カツンカツンと金属の格子床をゆっくりと歩き、固まっている真理のすぐ後ろまで歩みを進めると、掛けている眼鏡を右手でくいっと直し、一同を見回してから、女性は誰ともなしに問うた。

「指定の時刻になりました。張慈円様はどちら様ですか?」

「俺だ。連絡した張慈円本人だ」

倉庫の中央で仁王立ちしている張慈円が、女に向かって応えた。佐恵子の恐慌のせいで、顔色は真っ青だが、それを出さずに堂々と答える。

「本人に違いないようですね。初めまして、髙嶺から参りました。わたくし、千原奈津紀と申します」

「ご足労いたみ入る!だが、見てのとおり取り込み中だ。商談は、こいつらを始末してからと言うことで、お願いしたいが、よろしいか?」

「た・髙嶺ですって・・こんな時に・・」

仰向けで、浅く呼吸をしていた佐恵子が、僅かに身を起こして唸った。

千原奈津紀と名乗った一見出来の良いキャリアウーマンにしか見えない女性は、中二階から張慈円を見下ろしながら続けて問いかける。

「始末できるのですか?」

「手を貸してくれるのと言うのか?」

千原は、表情なく一瞬だけ考えると、抑揚のない声で返す。

「依頼も受けていないのに、それはできません」

「正式に依頼するぞ?こいつらは宮川だ。お前たちにとっても、積年の相手ではないのか?」

「それも党首の判断次第です。しかし・・・手は貸すかどうかは、保留としても、ここでむざむざと、魔眼佐恵子を見逃す手はありませんね」

そう言うと、奈津紀は倒れている佐恵子に向き直り、カツンカツンと音をさせ歩き出す。

「ぐ・・・はぁ、はぁ、・・・・」

佐恵子は、荒い息をしながら、肘を使い仰向けのまま後ずさる。

奈津紀が、動けず汗びっしょりの真理の横まで来た時、階下で加奈子が吼えた。

「全開だ―――――!!」

劉が加奈子の喉元を、目掛けて一閃させた青龍刀を、鎬地側から器用につかみ取ると、バキン!と音を立てて、握力だけで砕き割った。

「なっ!?ぐおっ!!」

柄だけになった青龍刀を握った劉の鳩尾を蹴り抜くと、加奈子はしゃがみ、太腿を膨張させ、奈津紀目掛けて1階から飛びかかる。

「おらぁあああ!」

加奈子が、太腿を限界まで引き絞って大跳躍しながら、放った飛び蹴りを、奈津紀は身をかがめて躱す。

「真理今よ!」

加奈子が真理に言う。

「わかってる!」

真理の目の前から死地が消えていた。それを確認すると同時に、真理も佐恵子のところに駆け出していた。

「佐恵子!一気にいくから我慢して!」

真理は、佐恵子の隣に跪くと、両手をかざし力を集中する。

「うぅ・・真理・・面倒かけ」

「しゃべらないで!」

佐恵子が言い終わる前に、真理は能力を発動する。緑色の光に包まれた両手を、佐恵子の顔かざし、顔ごと緑色の光に包まれる。

「埃をまき散らして・・」

「支社長はやらせないわ!」

埃を嫌いながら口元を右手で抑えた、奈津紀に対して、髪の毛を逆立て、湯気が立ち上るようなオーラを纏わせた加奈子が吠え、突撃する。

加奈子の能力は【能力向上】、普段は50%ほどの発動状態であるが、今の加奈子は限界を超えた150%の状態である。

非常に強力ではあるが、100%以上の使用時間は非常に短いというリスクを背負う。

50%でもオリンピック選手やプロレスラーでも2,3人程度即座にねじ伏せることができるほど加奈子は強い。

単純な膂力向上のみに特化している分、純粋に素手での殴り合いの勝負であれば、ほぼ無敵である。

しかし、加奈子は野性的な感で、奈津紀の戦闘力をほぼ正確に感じていた。限界の150%で対峙するべき相手だとみたのだ。

「はあああ!」

奈津紀は、左手の親指で刀のツバを押し上げながら、腰を落とし、右手を柄にかけ抜刀し、突撃する加奈子と場所を交差するように踏み込み、そして納刀する。

実際はすさまじく速いのだが、流麗な動作ははっきりと目に焼き付き、演舞でも見ているかのようであった。

突撃した加奈子と、今は納刀しているが、確かに抜刀した奈津紀が場所を交差させる。

「おや!?・なるほど・・斬れないのですねその服・・。それにしてもすごいスピードですね。まるで飢えた獣のようですね、美しい容姿とは正反対の戦い方をなさる方のようですね。」

奈津紀は加奈子を振り返りながらそういった。

「く・・・!」

加奈子は飛び退り、自分の身体の表面を走った、刃の感触を確かめるように、剣先が走った太腿を摩りながら、距離をとる。

(じょ、冗談でしょ・・!?この速度に、合わせてきたっての・・?!!)

加奈子は肌を粟立たせた。

今の加奈子は、持ちうるすべての能力を全開放している。長く持って10分、それ以上使えばオーラはガス欠になってしまう。

奥の手の、フルパワー状態での攻撃を躱された上、太腿に一太刀も受けた。

加奈子は少しだけチラリと振り返り、佐恵子と真理の様子を確認する。

まだ座ってはいるが、佐恵子が上体を起こし、血色も戻りつつある姿に、加奈子はホッと胸をなでおろした。

【第8章 三つ巴 第17話 謎の女性現る終わり】第18話に続く

第8章 三つ巴 18話 髙嶺の凶刃

第8章 三つ巴 18話 髙嶺の凶刃

最大値からすれば、相当消費しているとは言え、佐恵子のオーラ量は膨大だ。

真理は、その膨大なオーラを使わず、最大出力で発動させた【治療】で佐恵子のキズと体力の回復にかかる。

佐恵子は特異体質で、オーラを一定以上使い過ぎた日以降、オーラ量が一定値以上まで回復するまでの間、特徴的な症状に陥ってしまう。

真理は、その症状のことをわかってはいたので、佐恵子のオーラを消費するのをためらい、自身のオーラを使用し【治療】に使う。

【未来予知】を発動しながら、自分のオーラを使って【治療】を行っているので、当然、真理自身のオーラの難しい調整を余儀なくされる。

高度なオーラ使用技術が必要であるが、真理は何とか、その難行をこなす。

真理は、自身のオーラがガリガリと削られていくのを感じる。

できれば大きくメモリ消費する【未来予知】を解除したいが、あの奈津紀のスピードを考えると、【未来予知】を展開させていても対応できるか不安であった。

いつ奈津紀の矛先がこちらに向けられるか、気が気ではない。

それにしても、佐恵子のダメージは思いのほか大きく、あのモブが放った攻撃にしては、威力があり過ぎたのが気になっていた。

しかし、その詮索は後だ。

真理は佐恵子の回復に全力を注ぐことに集中する。難しいオーラのコントロールを強いられるため、額には汗の玉が浮き始めた。

能力全開の加奈子が、千原奈津紀を抑えている間に、佐恵子を回復させなければ、全滅する。それほどに、あの千原奈津紀という髙嶺の女の戦闘力は高い。

「あんなのがいるなんて・・」

真理は、内心の焦りを呻くように、言葉にして吐き出した。

真理自身、先ほど、奈津紀の剣の間合いに晒されたときに、その殺気の圧力に押しつぶされそうであった。【未来予知】で感知したときにはすでに、彼女の間合いの中だった。

はやく佐恵子を戦線復帰させ、敵から魔眼と呼ばれ、恐れられる力を振るわす以外に、あの千原奈津紀を撃退することは無理だろう。

その力を最大限発揮させるためにも、佐恵子のオーラは無駄にはできない。

近距離戦闘ではあの加奈子が苦戦しているほどの手練れである。はっきり言って、近接戦闘では佐恵子に勝ち目はない。

しかし、能力は使い手の、性格や性質、嗜好や相性などが大きく反映する。

佐恵子は加奈子に比べると、肉体活性能力こそ高くはないが、能力は多彩で、微弱ながら念動力も用いることができる。

だが、佐恵子の真骨頂は精神感応や思念同調系の複合技能であり、それらは、対象の精神や脳波まで操作し、至近距離であれば、対象を完全に支配化におけるほど強力な思念波を飛ばすことができる。また、味方には付与を、敵には呪詛ともなりうる反則的な技能を複数持っている。

佐恵子が目を使えるようになるまでは、急いで回復させなければと、真理は焦りを堪えながらも、【治療】に集中していた。

「か・・加奈子が・・・真理・・・面倒をかけ・・ますわ・・ね・・。まさか・・あんな雑魚に・・遅れを・・とるなんて・・」

「今は気にしないで・・もうすこしよ・・佐恵子・・・」

「彼女は・・千原・・奈津紀・・。・・髙嶺の幹部の一人・・髙嶺弥佳子の側近・・。刀を持ち歩く時代錯誤の違法集団・・ですわ。たしか、なんとか無念流とやらの使い手です。・・・こんな時に・・まさか・・髙嶺の登場とは・・・」

随分と顔色が戻った佐恵子が、加奈子相手に、刀を振り回して、応戦している女性を見やりながら、真理のひざ元で呟く。

【治療】を発動しながら、加奈子と奈津紀の超人的な攻防を見ていた真理は、佐恵子を気遣いながらも、自身の周囲を【未来予知】で警戒を怠らない。真理自身もそうだが、今の佐恵子を攻撃されてしまっては、元も子もなくなる。

「きゃう!」

加奈子の悲鳴で、真理は顔を上げ悲鳴の方向を見る。

「スピードが落ちてきましたし、動きが荒くなってきました」

奈津紀の振るう和泉守兼定が加奈子の胸部を走ったのである。奈津紀は刀を握りなおし、上段に構えながら、静かにそう言った。

「はぁはぁ・・まだまだよ!」

白刃が走った胸部分に手をやり、斬れてはなく、ダメージもないことを確認しながら、加奈子が気合を振り絞る。

「行きますわ!真理」

これ以上、加奈子一人に奈津紀を、押し付けておくのは危険だと感じた佐恵子が、飛び起きた。

体力は半分程度の状態だが、痛みはもう感じない。完全回復には程遠いが、これ以上寝ているわけにはいかない。

「ぁ・・」

オーラをほぼ使い果たし、額に汗を浮かべ、力尽きかけた真理の制止する声は小さく、佐恵子には届かなかった。

佐恵子は加奈子の横に並び構えると、目に力を集中し始めた。

「支社長・・よかった・・大丈夫ですか?」

加奈子は、横に並んだ佐恵子に安堵した表情で声をかける。

「魔眼佐恵子・・?瀕死であったはずですが・・・あれほどの深手を、・・素晴らしい回復能力ですね。」

奈津紀は、回復した佐恵子と、後方で、肩で息をして蹲っている真理を見比べ、純粋に称賛を送る。

「加奈子!お願い!もう少し頑張ってもらいますわ!・・・【拳気】・・!!【疾風】・・!!」

佐恵子は、奈津紀の発言を無視し、増幅し練ったオーラを、加奈子に向けて発動させる。筋力と反射速度を外側から活性化させる付与を加奈子に送ったのだ。

「うっ!」

加奈子は、ドクンと身体を震わせせると、オーラが一気に体内に流れ込み、力が漲るのを感じる。

「あなたにはこれですわ!くらいなさい!【恐慌衰弱呪】!!!」

続けて、佐恵子は奈津紀に向き直り、張慈円を苦しめた呪詛より凶悪な技を飛ばす。

佐恵子の両目から発せられた、禍々しくどす黒いオーラの塊が奈津紀目掛け襲い掛かる。

しかし、そこに奈津紀の姿はなく、予想外の方向から抑揚のない涼し気な声が聞こえた。

「何度も回復されては面倒ですので、先に始末させていただきました」

戦慄した二人がほぼ同時に降り返ると、そこには刀を持った奈津紀が立っており、その足元にはうつ伏せで、真理が転がっていた。

技を発動させる一瞬の隙を突かれ、後方の真理のところまで、一気に間合いを詰められたのだ。

オーラを使い果たし、無防備な真理は、千原奈津紀という抗いがたい強敵に対して、もはや対抗するカードを持たず、成す術もなく一刀のもと打ち据えられていた。

「ま、真理・・・?」

佐恵子自身も大技を空撃ちしてしまい、ゼェゼェと呼吸しながら、うつ伏せでピクリとも動かない真理に、佐恵子が震えた声で呼びかける。

「てんめぇぇぇーーー!!」

能力全開に加えて、佐恵子からの付与を掛けられた加奈子が吠えながら、突進する。

「中々の速さっ!」

予測を上回る速度で迫る加奈子に、奈津紀が白刃を光らせ構えるが、一瞬の油断を突かれ、刀の間合いではなく、拳の間合いまで近づかれてしまう。

「加奈子!援護しますわ!」

勝機と見た佐恵子も、ガス欠気味の身体にムチを打ち、2対1で奈津紀を一気に追い込もうと、目に力を集中しつつ、身体活性を限界まで発動させ、突進しようとした瞬間、視界の外から声を掛けられた。

「てめえの相手は俺だぁ!」

驚いた佐恵子は、声の方向に顔を向けると、そこには再び彼がいた。

茂部天牙である。顔や頭からは出血しており、顔は埃と汗と血に汚れているが、目には闘志が宿っている。

「ハァハァ・・あ、あなた・・。あなたなどに構っている暇はありませんわ!取り込み中です!失せなさい!」

加奈子から、あれほどの攻撃を受けたというのにモブのオーラは多すぎることが、多少気にはなったが、佐恵子は面倒そうにモブに言い放った。

「知るか!行くぜ!」

そう言うが早いか、モブは疾風怒濤の勢いで佐恵子に肉薄する。

佐恵子は声が出せなかった。口の形が「え」を発音する形をとっただけである。

「っっぐぅ??!!!っっっっっっ!!!」

モブは金属の格子状の床を踏み抜く勢いの踏み込みで、背中と肩を同時にぶつける体当たりを佐恵子に食らわせ、左足を軸に後回蹴りで佐恵子を蹴り飛ばす。

モブに蹴られた衝撃で、佐恵子は、口から血をまき散らし、長い髪を激しくなびかせながら、きりもみ状態で飛んで行き、壁に激突した。

「おお・・」

感嘆の声を上げたのは、佐恵子に【恐慌】をかけられてた張慈円であった。

つい今しがたまで、ひどい二日酔いのような症状と、全身の倦怠感と悪寒に襲われていたのが、嘘のようになくなっていた。

宮川佐恵子はモブの攻撃を受け、完全に気を失ったのである。結果、張慈円に掛けていた能力も霧散したのでった。

「し、支社長―!!」

佐恵子が飛んで行った方に向かって加奈子が叫ぶ。

加奈子は、佐恵子のところまで一気に飛ぼうと力を籠め、跳躍しようとするも、付与されていた【拳気】と【疾風】もすでに霧散していたため、自分自身の急な動きの減退に狼狽する。

「っ!・・しまった」

佐恵子によって付与されていた、筋力と反射速度が失われ、肉体と感覚のバランスに大きく誤差が生じた加奈子は、大きく態勢を崩してしまう。

奈津紀ほどの達人にとっては、それは、大きすぎる隙であった。

「人の心配をしている場合ではありませんよ」

口元に薄く笑みを浮かべ、加奈子の隙を見逃さずに、そう言うと、奈津紀は愛刀和泉守兼定を加奈子目掛けてヒュン!と空気を切裂き唸らせる。

加奈子の対刃スーツのファスナートップが弾け飛び、ファスナーの下限である臍下まで、一気に切裂かれる。

斬られ弾け飛んだ、ファスナートップが金属の格子床に落ちチン!と澄んだ音を立てた。

澄んだ音と同時に、窮屈そうに納まっていた加奈子の豊満な双丘が、勢いよくこぼれ、真っ黒なスーツの中から、真っ白な肌とピンク色の突起が露わになった。

驚くべきことに奈津紀の剣先は、肌をキズ一つ付けず、耐刃性能の薄いファスナー部分のみを、見事に切裂いたのであった。

ファスナー部分を失ったスーツは左右に開ききり、服の様相をなしてはいない。

激しく動き回っていた加奈子の白い肌は、激しく呼吸している為、胸や腹部は女性らしいラインを一層際立たせている。

呼吸で、動くたびに汗で濡れた肌は、倉庫の薄暗い照明を跳ね返し、その場とのギャップがエロティックさを助長させる。

加奈子がはだけた服を掴み、自らの胸を隠さないのは、奈津紀によって、首筋ぎりぎりに突き付けられた刀のせいであった。

「くっ・・・ぅ」

「チェックメイト・・・中々頑張りましたが、ここまでです。」

顎をのけ反らせ、首から臍までを露出させられた加奈子が、悔しさと無念さで僅かに呻き、奈津紀は、無表情で抑揚のない声で勝利を告げた。

【第8章 三つ巴 18話 髙嶺の凶刃終わり】19話へ続く

第8章 三つ巴 19話 地獄に和尚

第8章 三つ巴 19話 地獄に和尚

「そいつもそこへ連れて来い!」

張慈円は倉庫の1階から、中二階で倒れたままになっている真理を指さし、モブに指図する。

「はい!わかりました!」

モブは汗と血で汚れた顔ではあったが、元気よく返事すると、倒れた真理のところまで、カンカンと格子床を鳴らして駆け寄っていった。

「手伝ってやるよ・・」

加奈子に蹴られ、腹を痛そうに摩っていた劉も、手を貸そうとモブに続く。

モブに蹴り飛ばされ、麻袋の束に埋もれていた佐恵子は、アレンによって引きずり出され、倉庫のコンクリートの床で、うつ伏せにされ、ワイヤーロープで縛られようとしていた。

張慈円の指示でアレンは、佐恵子の目を封じるように命令されているのである。

アレンは嬉々として頷き了解したのであった。

アレンは意識が朦朧としている佐恵子の長い髪の毛を引っ張り、身体を逸らさせると、乱暴にワイヤーロープで両目を覆い隠すように巻き付けだした。

「や・・やめて・・・!お願いだから・・乱暴にあつかわないでぇ・・」

アレンは、すでに後ろ手で拘束され、あわあわと半裸で嘆願する加奈子を下卑た表情で眺めながら、佐恵子の後頭部をガッと踏み、ワイヤーローブで顔を擦るようにして食い込ませ、ギリギリと音が鳴るほど引っ張り食い込ませた。

「う・ぅ・・!!や・・やめ・・」

ワイヤーロープで目を押しつぶすように塞がれ、ささくれ立った針金が、佐恵子の顔や肌を傷つける。

佐恵子は、顔に巻かれたワイヤーを取除こうと手を伸ばすが、その手には力がなく、食い込んだワイヤーに、指でカリカリと爪立てるだけしかできていない。

力をほとんど使い果たしたうえ、モブによる攻撃で意識が朦朧としている佐恵子は、アレンにされるがままで、僅かに抵抗を口にするのがやっとである。

麻袋を荷締めするために使われていたのであろう、埃だらけで、ささくれ立ったワイヤーロープを、目隠しのように巻き付け、後頭部できつく真結びを施し終わったアレンは加奈子に言い放つ。

「オマエガモット、ショウフノヨウニ、ジョウズニオネガイデキテリャ、カンガエテヤッタンダガナ。フハハハハ!」

そう笑うとアレンは、ワイヤーを取除こうとしていた佐恵子の両手を、黒い大きな手で掴み、佐恵子の背中まで回し、肩甲骨付近まで持ち上げ、まだまだ余長のあったワイヤーロープで両手首を手の甲が当たるように拘束してしまった。

「がっ!・・うくぅ・・!ぐぅ!・・く・・ぅ!はぁ!!・・ぁ・・はぁはぁ!」

佐恵子の手首は、ほぼ首の後ろぐらいまで引き上げられ、ヒジとヒジがくっつきそうなほどだ。

手を戻そうとすると、顔に巻き付いたワイヤーで顔がのけ反らされ、佐恵子が息苦しそうな声を上げている。

「ひ、ひどい・・こんな縛り方・・・緩めてあげてぇ・・」

後ろ手で縛られた加奈子が、こぼれた胸を隠すこともできず、アレンにすがるように嘆願するが、勝ち誇った顔でアレンは加奈子の両乳首を乱暴に摘まむと、乳房が伸びるほど引っ張りながら言い放つ。

「ハハハハ!オマエラ、イイザマダ!・・・イマカラ、フタリトモタップリカワイガッテヤルカラナ!イタイカ?!イナガキ!!・・・オレサマハ、モットイタカッタゾ!!」

「痛っ!!!!・・・っく・・解いて・・あげて!」

「ダメダナ!チョウノダンナノ、キョカガアルマデハ、ガマンシテヤルガ・・・・ソウダ!!コイツモ、オマエト、オナジヨウニ、ペアルックニ、シテヤルカ」

アレンは佐恵子の服のファスナートップを摘まむと、一気にずり下げ、さらに襟をつかみ、肩を露出させるように思い切り開いた。

汗に濡れ、掘りの深い鎖骨を露わにして、佐恵子の膨らみの乏しい双丘が露わになる。

「ハハハハ!コドモナミダナ、オイ!」

床に転がされ、両目をワイヤーロープで塞がれた佐恵子は、露出させられた胸を隠すこともできずに、苦しそうにゼェゼェと呼吸をしている。

「も、もうぅ・・・」

加奈子がアレンを非難するような声を控えめに上げながら、縛られて不自由な身体を、佐恵子に重ねて、佐恵子の胸が隠れるように覆いかぶさる。

上半身を臍下まで、露出させられ、ワイヤーのない顔部分は埃で黒く汚れ、鼻血を垂らしたままの佐恵子には、普段社内で権勢を振るっている、姿からは想像もできなかった。


「どうするのです?」

奈津紀は、アレン達からすこし離れたところで、アレンや佐恵子たちのやり取りを眺めながら、張慈円に向きなおって質問する。

「交渉に使う・・。これ以上の材料はないだろう。その前に、たっぷりと楽しませてはもらうがな」

簡潔に、だが、好色な顔で張慈円は答える。

「それは、少々問題です。ですが、いま私が聞いているのは、我ら髙嶺に依頼していた件のほうはどうか・・。と聞いているのです」

奈津紀は、佐恵子たちを眺めながら答える張慈円の好色な表情を、侮蔑しつつも顔には出さず話を進める。

「むろん依頼する。電話で話した通りだ。宮コー本社が本腰をいれてくると、まだまだ能力者を送り込んでくるだろうからな。本国から離れて活動している俺たちだけでは人手不足だ。手伝ってほしい。宮川は能力者も多いし、どいつもこいつも、まともな訓練を受けているせいで侮れんからな・・。金額は先日提示した通りでいいのだな?。・・・・・今回の件で、我らも痛手を被ったが、あの宮川昭仁のガキを捕らえることができたのは、幸先がいい。人質としても最高だ・・・くくく」

奈津紀は、遠目に唯一まともに意識のある加奈子を一応警戒はしつつも、機嫌の良さそうな張慈円に、当然の要求をする。

「さようでございますか、承知いたしました。張慈円様の意向は分かりました。ですが、まだ依頼を受けるかどうかは私としても不明です。此度の会合にて、話し合いの上、党首に報告し決定していただく流れになるかと存じます。加えて、この度の一連の騒動も報告いたします。・・・・つきまして、依頼前でしたが私の独断で魔眼佐恵子は捕らえるべしと判断し、結果的に張慈円様に手を貸しました。・・・彼女を捕獲できたのは私の働きあってのことです。速やかに宮川佐恵子の身柄は当方にお引渡しくださいますように」

「な、なんだと・・!あいつの身柄を抑えなければ、そもそもの目的が達成できん!宮川を湾岸開発から完全に撤退させ・・」

「香港三合会に属する新義安のみで、日本関西の空と海からもたらされる利益を、牛耳る目的が達成できない・・・と言いたいのですか?・・・新義安頭領の張慈円様」

「きさま・・!」

「まだ、宮川を退場させるには早すぎます。裏社会で生きているあなたたちでは、宮川のように堂々と事を進めることは不可能ですからね。特に、魔眼はピースとしては外せません。味方につけるか脅して利用するか・・いずれにしても、打ち出の小槌を完成させるまでは必要です。宮川にも彼女ほどの能力者は、そう多くいません。そう言った意味で今回捕獲しました。いったい誰が魅了や操作を使わずに計画を進められるというのです」

「そんな心配は・・」

「あります。あなた方のやり方では、打ち出の小槌を完成させる前に、宮川に完全に敵対行動をとられ、あなたの組織を徹底的に潰しに掛かかられるでしょう。そんな無駄な時間を費やされるのは、ぜひともご遠慮願いたいものです」

「・・・新義安もずいぶんと、甘く見られたものだな」

張慈円からオーラが立ち上り、殺気が充満する。

しかし、奈津紀は僅かに眉を顰めはしたが、ほぼ無表情なポーカーフェイスで話を切り返す。

「それはそうでしょう。私が手を貸さなければ、負けていた。・・・・そうですよね?確かに、彼女は、宮川の最大戦力の一人です。護衛の二人も、さすがと言える腕でした。・・・・・・しかし、新義安頭領の張慈円様が、魔眼佐恵子が相手とはいえ、負けたという噂が流れるのは不都合がありませんか?・・・それとも、商談はご破談。彼女の身柄を争って、今から、私を相手に戦ってみますか?」

奈津紀は左手の親指を鍔にかけ、僅かに押し上げる。

ポーカーフェイスな表情とは裏腹に、奈津紀から刺すような鋭いオーラが発せられ、奈津紀を中心に5m程度、ひと呼吸一太刀可能な範囲でオーラが広がる。

「ぐ・・・!」

「・・そういうところは好感が持てます。せいぜい利口に生きることですね。宮川のように欲張らず、一組織のみで独占しようとさえしなければ、我らの党首も鬼ではありませんよ」

奈津紀の指から力が抜け、キン!と澄んだ音をさせて、鍔が鞘に落ちる。

張慈円は発していたオーラを抑え、苦虫を噛み潰したような顔になると、佐恵子たちのほうを見やる。

「・・・しかし、あいつらには俺の組織の人間が少なからず世話になっている。少しばかり、可愛がるぐらいは構わんだろう?」

アレンに半裸にさせられ、胸を弄ばれている佐恵子と加奈子を見ながら、張慈円は問いかける。

「・・・・時間がかかる事は遠慮願いたいですね。本日中には帰りたいので」

流石に、張慈円の好色ぶりに疲れたような声で奈津紀が答えると、聞いたことのない声が倉庫内に響いた。

「心配あらへん!時間はとらせえへんで!!」

気配を消し、限界まで近づいてきていた豊島哲司は乱雑に置かれた木箱の隙間を駆け抜け、張慈円目掛け渾身の右ストレートを放つ。

「おっ!・・・お前は!昼間の!」

不意を突かれた張慈円は、とっさに癖で左手を使い防御してしまう。
しまった・・・。と思った時にはもう遅い、昼間哲司に殴られ、左手の骨にはヒビが入っていたのだ。

「ぐぁ!!」

傷を負っていた左手で、再度哲司の強打を受け止めてしまう。

「うぉぉぉぉぉりゃああ!」

哲司が攻撃する寸前、三出光春は倉庫の入口付近から、長さ4mほどの木の角材を槍投げの投擲のようなフォームで、掛け声と当時に張慈円目掛けぶん投げる。

角材は、うなりを上げて一直線に進み、殴り終えた哲司の十数センチ横をかすめ、張慈円に直撃する。

哲司の攻撃を防御しきれず、後ろに吹っ飛んでいる張慈円に、更に木材の柱が突き刺さったのだ。

「ごっ・・・がっ!!」

木の角材は、張慈円にぶつかった衝撃で砕け散り、衝撃の大きさを物語る。張慈円は後方に吹っ飛び、麻袋の束の中に突っ込んだ。

「次はアンタが寝る番よっ!」

角材の投擲と同時に黄色い掛け声が響き、天窓から降ってきた寺野麗華の延髄蹴りがアレンにさく裂する。

「ゴアアアアアア!」

耳障りな悲鳴を上げながらアレンが、悶絶し倉庫に置かれていた木箱を壊しながら転倒する。

「あ、あなたは・・・あなたたちは?誰でもいい・・解いて!この縄を・・・!」

加奈子はいきなり現れた、自分より年上であろうと思われるが、若い服装をした女性に、縛られた後ろ手を見せながら言った。

「私、菊沢探偵事務所の寺野麗華!あなたが宮川さん?」

「そう!違うけどそう!私は稲垣加奈子!宮川の人間よ」

「聞いてるわ稲垣さんね!」

麗華はそう言うと、加奈子の手の拘束を解く。

「ありがと!向こうの二人も仲間?」

加奈子は佐恵子の拘束を解きながら、麗華と名乗る年上の美女に尋ねる。

「そう!あいつら二人にかかったら、さすがの張慈円も・・と思うんだけど」

「上にも・・!敵がいるわ・・私の仲間もいるの!」

簡単に麗華に説明しながら、佐恵子を拘束していたワイヤーロープを解いたり、引きちぎったりしながら、ようやく佐恵子を戒めから解放する。


「・・・(これほどの手練れがこの人数ですと、さすがに全員を始末するには私も相当消耗しそうですね。。。魔眼佐恵子だけでも何とか持ち帰りたいところですが・・・)」

奈津紀は見慣れぬ、しかもかなりの手練れと思われる3人の侵入者に、成り行き上ではあるが、思わぬ大きな収穫(佐恵子)を得たと思っていたのに、その収穫を持ち帰るのには、かなり骨が折れそうと思い、こんな所で怪我も負いたくないので当初の目的(張慈円との商談)だけ果たして帰る事だけになるかも知れない。佐恵子は持ち帰れそうなら隙を見て持ち帰るかとすぐさま気持ちを切り替えていた。

そして、当然この場に居たのだ。張慈円の一味とみなされ、攻撃はされる奈津紀ではあったが、哲司が攻撃してくる瞬間に、倉庫の鉄骨の梁の部分まで、跳躍していたのである。階下と中二階を見下ろしながら、階下で暴れる突然の闖入者たちのかなりの手練れと思われる3人の戦闘力を冷静に分析する。

「面倒な・・」

奈津紀は、一言そう言うと、倉庫の窓から更に面倒事が近づいてきているのが目に入り、もう一度同じセリフを口にしてしまう。

赤いライトを光らせながら、数台のパトカーがこの倉庫目掛けて、迫ってくるのが見えたのだ。

「ほんとうに面倒ね・・」

奈津紀が、中二階に目を移すと、すでに加奈子と闖入者の女によって、モブは1階に蹴り落され、ピクリとも動かない。

青龍刀を香奈子によってすでに破壊された劉も、本来の力を発揮できず、闖入女の猛烈なキックラッシュで防戦一方に陥り、蹴りを防御し、たまらず階下に落下する。

張慈円はとみると、瓦礫に突っ込んだようで、もうもうと埃が立ちあがりよく見えない。

「仕方ありません・・しかし、せめて魔眼だけでも・・・」

奈津紀はそういうと、梁から倉庫の天井ギリギリまで飛び、佐恵子に狙いをつけると、空中で一回転し勢いをつけ、刀を閃かす。

とはいっても、殺すつもりはない。身体に刃が届く寸前で刃を返し、打撃ではなく「斬られた」と思い込ませることによって、戦意を断つつもりだ。

完全に気配を消しての落下攻撃であったが、割れた天窓から月の光が差し込んでおり、奈津紀の影が地面に映る。

オーラもほぼ尽き、満身創痍であったが、佐恵子は影に気付いていた。

振り返り、奈津紀を仰ぎ見る魔眼には、最後のオーラを振り絞った光が宿っていた。

「むっ!・・・」

奈津紀はとっさに、思念防御を展開し、魔眼の攻撃にそなえつつも、佐恵子の右肩に狙いを定め落下する。

「こ、これでも・・くらいなさい!」

そう言うと、フラフラの佐恵子は本当に最後の力を振り絞り、能力を発動させる。

【眼光】

佐恵子の目が眩い光を放ち、一瞬だが倉庫全体が真昼より明るくなる。

佐恵子の使える技能で、オーラ量をあまり消費しない目晦ましの技である。大技を使うにはガス欠であったし、今の集中力では発動に時間がかかりすぎる為、消去法で選んだ結果だが、最も効果的な技と言えた。

「くっ!目眩ましですか・・。このような小細工無駄です!」

眩い光を一人だけ一身に浴びた、奈津紀は佐恵子が放った眩い光に、視力を一気に奪われる。

しかし、すでに佐恵子の立ち位置は完全に把握している。

それに、そこからどう動くかも、五感を研ぎ澄まし、ほぼ正確に予測できた。

「はぁ!!」

ほぼ目の見えていない奈津紀は、必中の確信をもって、佐恵子の右肩目掛け刃を振り下ろす。

そして刃が当たる寸前に、峰打ちにすべく、刃を返そうとする。

しかし、その刃を返せなかった。

振り下ろした刀は音もなく、何者かの手によって、受け止められていたのだ。

奈津紀は眩んだ目を、眩しそうに開けると、そこには先ほど張慈円を殴り飛ばした男が、刃を両手で受け止めていた。

「うぉぉぉ・・・・ぅ!・・デキるとは思とったけど、実際にやるんはめっちゃ怖いな」

「莫迦な・・」

奈津紀と佐恵子の間には、先ほど張慈円を殴り飛ばした男が入り込み、奈津紀の振り下ろした和泉守兼定を両の掌でガッチリと挟み込んでた。

佐恵子を殺さないように手加減した一振りとは言え、斬撃を白刃取りされたことに、驚きと屈辱の感情が一瞬だけ胸を焼くが、冷静に、刀を奪われまいと、刀を掴んでいる男の両手、目掛け蹴り抜き、同時に刀を引き抜く。

「痛てっ!」

手首を蹴られた男が、なにか場違いな声を上げているのが、下の方で聞こえたが、奈津紀は倉庫の梁まで跳躍し、続けて天窓に跳躍しそのまま夜の闇に消え見えなくなった。

「なんやったんや・・・大変な太刀筋やったで・・ようまあ受け止めれたもんや・・・あんな鋭いと知っとったら、前に出られんかったかもしれん・・あれも橋元の一味なんやろか・・」

哲司は、刀を振るうムチムチのスーツ姿の美女が、蹴った瞬間と、梁に飛び移った瞬間のパンチラをしっかりと脳裏に記憶しながら、振り返ると、尻もちをついて、細い目を見開きハァハァと荒い呼吸をしている佐恵子に話しかける。

「・・っと。大丈夫か?あんたが宮川さんやな?・・立てるか・・?」

哲司は佐恵子に向かって手を差し伸べ、佐恵子も哲司の手を取ろうと手を伸ばす。

「支社長~!!」

哲司は佐恵子に抱き着いてきた加奈子に押しのけられ「うぉ!」と声を上げた。

「なんやねんな・・」

「菊沢事務所の豊島さんですね?この度は本当にありがとうございます」

「あ、ああ・・あんたが姐さんの言ってた神田川さんやな?あんたも無理せんでええで?ふらふらやないか」

麗華に支えられた真理が脇腹を抑えながらも、丁寧な口調で深々と頭を下げながら哲司にお礼を言う。

「哲司~・・あかんわ!張慈円のカス見当たらへん。相当なダメージのはずなんやが、手下ともどもも、逃げてもたわ。外は真っ暗やし、バラバラで追いかけるんは無理や・・それに、ここにはお嬢は・・・おらんようや・・・神谷さんも・・・くそっ!」

「そこに一人倒れてるじゃない。あとで美佳帆さんに拷問してもらうし、とりあえず縛っとく?」

張慈円が突っ込んだ瓦礫の中をかき分け、見当たらなかったことをモゲこと三出がぼやくと、麗華が大の字で床に転がっているモブを親指で指しながら言った。

「ああ、たのむわ。しっかし、また張に逃げられてもたなぁ・・ここにはモゲが調べた限り、お嬢も神谷さんもおらんようやし・・・姐さんに報告しにくいわ」

頭をガリガリとかきながらスマホを取りだし、画面を操作していると、操作している腕を佐恵子にちょいちょいとつつかれた。

「こ・・この度は・・あなたがいらっしゃらないと・・わたくしの命はありませんでしたわ・・。あの・・本当にありがとうございました・・」

「お、おぅ・・なんやそんなん気にせんでええで?」

振り返り見下ろすと、顔じゅう傷だらけだが、哲司にとっては、なかなか好みの顔をした佐恵子が、哲司を30cmと離れていない距離から見上げながらお礼を言ってくる。

哲司は内心ドギマギしながらも、できる限り平常心で答えるが、すぐ隣で見ていた麗華が「ヒューヒュー♪」とわざとらしく合いの手を入れる。

「あほ姫!何言うんや」

「でもさあ・・和尚。あんな登場されたらさ、女の子なら誰だって、そうなっちゃうって。私だってそう言うの憧れちゃうもん。それがたとえ和尚だとしてもさ?白馬の王子様と勘違いしちゃうのはしょうがないよ」

「おまえはいちいちトゲトゲしいな!たとえ和尚だとしてもってなんやねん!黙っとけ!」

哲司と麗華の漫才のような掛け合いを見ていた佐恵子は、ポケットから小さな紙を取り出すと、そっと哲司の手を取り握らせ、哲司だけにわかるように目配せすると、すっと哲司から離れた。

「おーい。団体さんのお着きやで。面倒な事情聴取が始まりそうやけど、とんずらするわけにはいかんのやろ?」

倉庫の入口のほうでモゲこの三出光春が集まりつつあるパトカーを指さしながら、みんなに問いかける。

「そやな・・警察ならあとで大塚さんに連絡してもろて、なんとかなるやろし、このまま待機やな」

哲司はこのまま自分たちだけが去り、ボロボロの宮川の連中を置いていくのはかわいそうに感じたからでもあった。

「全員動くな!両手を頭の上にあげてその場に跪いて!錦君!武器を持ってないかチェックして!」

「了解!」

拳銃を構えた女の号令で、警官隊が周囲を囲む。全員油断のない動きで、哲司たちの周りを包囲しだし、中心にいる女が、きびきびと部下に指示を出している。

「おいおい、こいつらいきなり拳銃構えてるで?」

モゲが両手を上げながら、制服を着た警官たちをみてそう呟く。

「政府直属特別捜査官の霧崎美樹です。私の権限で発砲できます。おとなしく指示に従ってください!」

警官隊が照らす照明の逆光でよく見えないが、女は仁王立ちで手帳をかざし名乗りを上げた。


【第8章 三つ巴 19話 地獄に和尚終わり】20話へ続く

第8章 三つ巴 20話 能力者集団結成

第8章 三つ巴 20話 能力者集団結成


佐恵子は、パトカーの後部座席で体の大きな警察官と、指揮を執っていた女性捜査官に挟まれるようにして、長時間座る羽目になり、力を使い過ぎた疲労は限界まで達していた。

隣に座った、お堅い捜査官からは質問攻めにされ、さすがに辟易していたところだ。

「・・・着替えたいですわ」

質問に疲れてきた佐恵子は、ポツリと呟いた。

隣に座る捜査官は、形の良い綺麗な眉を、片方だけピクンと跳ね上げたが、佐恵子は気にする気にもなれなかった。

たしか、霧崎何某と名乗っていたが、心身の疲労は限界に達しており、覚える気にすらならない。

その霧崎美樹は、佐恵子に気づかれないようにため息をついた。

そのとき、霧崎が座っている側の窓ガラスがノックされた。

パワーウィンドウを開けた霧崎が、目で促すと、ノックした若い捜査官は「これを」と言って、霧崎に資料を手渡す。

「先ほども、申し上げましたが、弁護士を通してお話させていただきます。・・・この場で、お互いの言質も取らず発言するほど、素直ではございませんの」

佐恵子の発言を聞きながら、美樹は資料に書かれている内容に目を走らせる。

資料から顔を上げた美樹は、一瞬だけ眉間にしわをよせると、佐恵子のほうを向いた。

「結構です。宮川さんでしたね。では、後日会社のほうにお伺いさせていただきます。長時間おつかれさまでした」

「・・・ええ、お疲れ様」

先ほどまでのしつこい質問責めから一転し、あっさりと佐恵子は開放された。

パトカーから出ると、加奈子と真理、門谷さん、それに支社の警備部門の人たちも大勢もいた。

(なるほど、門谷さんが手を回してくれたのね)

疲れた顔ではあったが、みんなに笑顔を向けながら、門谷さんだけには目礼を送る。

「支社長!」

加奈子が呼びながら、近づいてくる。真理もヨタヨタと近づいてきており

「佐恵子・・。顔の傷も力が回復したら治しますからね・・」

真理が顔の傷を摩りながら、安心させてくれる。

「ええ・・、ありがとう。心配かけたわね・・。とりあえず今日は帰りましょう。明日の朝反省会をしましょう・・」

佐恵子がいつもの速度ではない速度で歩を進めながらそう言うと、

「ええ、きっちりと反省会をしなければいけませんね」

と、話の途中で珍しく門谷さんが割って入ってきた。

門谷さんになんの説明もなく、私や加奈子や真理が満身創痍になっているのだ。説明をしないわけにはいかないなと思い、素直に謝罪を口にする。

「・・ごめんなさいね。門谷さん。あとで説明しますわ」

佐恵子は、珍しく素直に謝罪すると、

「ええ、しっかりと説明をお願いします。・・・ですが、いまは休養が何よりも急務のようですね。滞りなく手配しておりますので、こちらの車にどうぞ」

と、門谷さんのすこし険しかった表情が、いつもの営業スマイルにもどると、普段は使わない普通車のミニバンに乗るように促す。

佐恵子、真理、加奈子が一言ずつお礼を言いながら、車に乗り込む。

車に乗り込にシートに身を沈め、窓から外を見ると、菊一事務所の連中が、若い捜査官を中心に警官に取り囲まれ、事情聴取されていた。

そこに、霧崎が加わり、更に質問をされている。

凶刃から私を守ってくれた織田裕二似の人、ニコラス・ケイジに似た、頭髪が後退した顔の濃い男、黙っていれば木村文乃に似ている豊満な肉体をしたお転婆な女・・・。

菊一探偵事務所の、その3人がジェスチャーを交えて、身振り手振りを交え、大げさに説明している様は見ていて、何となく笑えてしまった。

佐恵子はひさしぶりに、【感情感知】を発動していない。オーラが無くなり過ぎて、発動するのも億劫なほど消耗していたためだ。

だが【感情感知】を使わなくても、何となく彼らが善人であることは、その様子を見ていると伝わってきた。

車の窓は閉まっているし、距離も少し離れているため、会話は聞こえないが、その様子を、佐恵子は疲れ果てた表情で、しかし優しい声で、

「貸しを返さないといけませんわね」

「ええ、そうですね」

何気なく呟いてしまった発言に、真理が追従してくれた。

「支社長、あのかなり腕の立つ熱血男に何か渡してましたよね?」

「え?いえ、なに?なにも?」

加奈子の質問に内心ドキッとし、さすがに獣並みの感覚を持った加奈子には気づかれたか・・と思ったが、とっさに、嘘をついてしまった。

「ええぇ~?支社長~なにか白いの渡してたじゃないですか~」

「名刺よ!名刺を渡しただけ!危ないところを助けてもらったわけですからね・・。連絡が取れなかったら後でお礼も言えないじゃない」

「ふぅ~ん・・・。じゃあ、いまなんで嘘ついたんですか?支社長のそういう反応珍しいですよね・・・」

「う、うるさいわね」

自分の顔が少し、紅潮してしまっていることを悟られまいと、外を眺めたまま加奈子に返す。

その様子を、真理がクスクスと笑って眺めていたところに、運転席に門谷さんが入ってきた。

「そろそろ、出発します。前後をうちの警備の車が走るので、そんなにスピード出ませんけど、20分ほどで保養施設に到着します。もちろんそちらの警備も万全ですので、ご安心ください」

いそいそとシートベルトを閉めながら、説明してくれる門谷さんを見ながら、「ええ、ありがとう」と謝辞を述べたと同時に車は発進した。

佐恵子は車内の時計に目をやるとデジタルは、PM22:10と表示されていた。

こんな時間だというのに、スーツをきっちと着こなし、てきぱきと仕事をこなしてくれる、門谷さんにお礼を言うと、佐恵子は過度の疲れから、すぐに微睡んでしまった。

翌日、

「ふぅ・・やっと帰ったわね・・・」

日は明け、昨夜とはまた別の意味で疲弊した表情で佐恵子が呟くと、

「仕方ありません・・。スマートに片づけられなかったせいで、大事になってしまいましたしね」

と佐恵子同様に疲弊しているが表情には出さずに真理は答えた。

「朝は、門谷さんにも説明させられましたしね・・。疲れました」

と、加奈子も2人と同様に疲れている意志を示す。

2階の応接室から階下を見下ろし、霧崎美樹と錦雄二が正面玄関から出ていく様子を確認すると、嘆息が混じった発言をしながら背伸びした。

雨宮雫、楠木咲奈という従業員を保護していると連絡があり、引き取りに行ったのだが、保護ではなく軟禁されており、引き取りに行った我々に対しても襲ってきたので、必死に抵抗した。

苦しい言い訳ではあったが、おおむねの説明はそれで通した。

連絡があったというところ以外は、あながち間違いでもない。

あの霧崎と言う捜査官なら、直ぐに裏をとり、辻褄が合わないことには気づくだろうが、話していて感じたことなのだが、彼女の狙いは、私達以外のほかの事、ほかの人物にあるようであった。

「それにしても、昨日は気づかなかったけどあの女も能力者ね・・・。やっかいなことにならなければいいけど」

呟き、利害が一致すれば協力はするが、邪魔ならば・・。と物騒なことを考え始めた佐恵子は頭を振る。

その排他的で傲慢な考えが今回の失敗につながったからだ。

自分の力に絶対の自信を持っていた為に、目を使わずに楽しんでしまったり、モブという敵の力量を見誤り、油断で大ダメージを負い、髙嶺の千原という思いがけない強敵の出現で、あわやというところまで追い込まれたのだ。

あの織田裕二が来なければ・・。

「どうしました?まだどこか調子が悪いですか?菊一探偵事務所に伺うのは後日にします?」

赤面しかけて、ぶんぶんと頭を振っている佐恵子に、真理が不思議そうに声をかけてきた。

「いえ、行きますわ」

「わかりました。車は準備できているはずですので」

「あの人たち飲むかなぁ・・」

(飲まないときは・・・)

加奈子の発言に、またもや物騒な考えをしそうになった頭を慌てて、停止させる。

(菊沢夫妻に昨日の3人・・・今の支社の戦力だけでは難しいですわね・・・)

ただ戦うだけなら、いろいろと方法はあるかもしれないが、佐恵子が望む形に持っていくには、難しいように思えた。

「とりあえず、提案はしてみましょう。断られた場合は、それから手を考えましょう・・それと、はなを本社から呼びました。1週間ほどでこちらに着任するはずですわ。」

「よく許可が出ましたね・・・」

真理が意外そうな顔で尋ねるが、すぐに察したような顔になり

「松前常務に呼ばせたのですね?」

「そう、名目は彼らの護衛ということですけどね。こっちに来てしまえば、此方のものです」

佐恵子は含みを持たせた笑みで、真理に答えると

「はなはなかー。久しぶりですね。これで、支社長の護衛ももっと強固になるのです」

嬉しそうにそういう加奈子に佐恵子は預けていた者がいたことを思い出し、聞いてみる。

「加奈子、彼の様子はどうなの?」

「あ、彼ですね・・。まだ、昨日の今日ですよ。まだまだ重症です。あいつあんなに動き回っていたのに、すごい怪我だったみたいで、まだ監視カメラ付きの独房個室のベッドの上ですよ。・・・支社長が言ってた能力開花の可能性を測るにも、本人がまだお眠です・・・。あとで真理しゃんにお願いしないといけないかも・・それとバカなのは殴られ過ぎじゃなく元々のようです。」

「ええぇ・・、ボク、もう昨日からフル稼働で、疲れてるからまた今度ね・・」

真理が更なる重労働の依頼を、幼い駄々をこねている男の子の口調で断る。

真理は、興奮したり冗談を言うときは、【身内】の前では、男の子言葉になる癖がある。

「あう・・ボクにそう言われると思ったのです」

加奈子も真理に合わせ、真理の事をボクと言い、断られた事に肩を落としながら。

私達が派手に大けがをしていたので、真理のオーラが回復した端から真理のオーラを使い怪我を直してもらったのだ。

回復系の力を持つのは、今は真理だけなので、どうしても真理への負担が大きくなる問題を何とかしたいとは、佐恵子も常々考えていた事でもある。

「ありがとう真理・・・。真理がいてくれなければ顔にキズが残ったままだったかもしれません」

ワイヤーで傷だらけにされていた顔に手をやり、キレイに治っているのを再確認しながら、真理に改めてお礼を言う。

「そんな・・気にしないでください。それと、あの男も、ひと段落したら回復させてあげます。加奈子に言ったのは冗談ですよ。それに咲奈と雫の試験もありますし、合わせてあの男も検査をしてみるつもりです」

「ええ、忙しいとは思うけどお願いね」

「冗談でからかうなんてひどいのです」

真理は、加奈子に向かってクスリと笑うと「いきましょう」と言って、応接室の出口にほうに歩いていった。

今3人は菊一探偵事務所に、昨日、救ってもらったお礼という名目である交渉を持ち掛けに来ていた。

そして菊一探偵事務所の応接室には、菊一探偵事務所の所長、菊沢宏に、その妻で所長代理の菊沢美佳帆が、佐恵子、真理、加奈子と向かい合っていた。

私たちの目の前に居る3人。

宮川コーポレーションの、関西支社、支社長にその部下2人、彼女らは私たちに昨日、依頼を持ってきたクライアントなのではあるが、本日はまた私たちが驚く大きな商談を持ちかけてきたのだ。

この宮川佐恵子と言う人の発言には、私も正直昨日から驚かされる事ばかりであった。

「なんやて?それは、つまりどういうことや・・・?」

神田川さんと私でずっと宮川コーポレーションの意向を聞き、話していたのだが、隣に座る部屋の中でもトレードマークのグラサンをかけたままの私の旦那さまが話に入ってきた。

「有態に申し上げますと、御社を買いたいと申し上げております」

神田川さんは、私から旦那の宏に向きなおり、簡潔に質問に答える。

「今まで通り、業務は行っていただいて結構です。今までのクライアントも、こちらでどうこうと働きかけすることはございません。私どもから、調査等の依頼案件は増えるとは思いますが、基本的に今まで通り活動なさってください」

来客用のソファの真ん中に宮川佐恵子、左側に神田川真理、宮川さんの後ろには稲垣加奈子、その神田川さんの提案に、最初はポカーンとしてしまっていたが、冷静にパチパチと頭の中で算盤を弾く。

「・・・条件があるのでしょう?」

私は、眼前で脚を組み座る、宮川さんに負けじと、脚を組み替えながら聞くと、旦那さまの宏がまた口を挟む。

「ちょいまち美佳帆さん・・条件とかそういう問・・」

「少し待って、聞くだけよ。ね?宏」

今回の話の、宮川さんの真の目的に、それがなんであるかの当たりをつけた私の直感はおそらく正しい。私の直感通りなら、橋元一派ひいては張慈円と繋がる怪しげな一族と構えるのに、私たち所員の能力での助力を宮川さんは欲しいだけで、我が探偵事務所を自由にしたいわけではない。

要は自分たちを絶対に裏切らない傭兵が欲しいのだと私は感じていた。

「うむむ・・美佳帆さん、金が絡むと怖いんやもんなぁ・・・」

宏が私が圧をかけるように諭したので子どものようにぶつぶつ言いながら拗ねているが会話の邪魔をしないよう大人しくなったので、神田川さんが

「よろしいでしょうか?」

と声をかけてきたので、手で促す。

「もし承諾していただけた場合ですが、その際は弊社、宮コーからの依頼を最優先でお願いします。給与その他出来高払いになります。詳細はそちらの用紙をご確認ください。それと、宮コー関西支店の5階に空きテナントが300㎡ほどありますので、今後はそこをお使いください。それと、金額ですが・・・」

神田川さんはいつものにこやかな様子とは違い、引き締まった表情で、淡々と説明を行い、最後に契約書面を机の上に置き、私の前についと持ってきた。

「からやないか・・」

隣で宏が、呆気にとられたように呟くのも無理はない。

神田川さんが差し出した契約書面には金額が記載されていなかったのだ。

「金額はご記載ください」

神田川さんの隣で、目を閉じ、脚を組んで聞いていただけの宮川さんが、静かにそう言った。

「ただし、契約金を受け取ってすぐに退職するなどと言うことはお考えにならないように・・菊一探偵事務所の方々が、そのような事をする方々でないのは勿論存じ上げてはおりますが・・・詳細は契約書にも書いてございますので、熟読してくださいませ」

念を押すようにそう言うと、再び目を閉じ黙ってしまった。

「わかりました、少し相談するのでお待ちいただけます?」

私は金額欄が空いているのは、いくら書いても大丈夫だということなのだろうが、あまりにも無謀な金額を記載すると、前に座っている宮川さんが黙ってはいない気がした。

パーテーションで仕切られている、奥の部屋まで宏を引っ張っていき、小声で宏と相談する。

相談と言っても、契約内容を聞いた時点で私の意思は固まっていた。

「あのね宏・・、みんなにも相談しないといけないとは思うんだけど」

「み、美佳帆さん・・ちょっと、おれは今更サラリーマンなんて嫌やで?あの女のいう事なんか聞けるかい。どんな無理難題ふっかけられるか・・」

「・・・聞こえてますわよ?」

「うお!」

掛けられた声に宏が大げさに驚いて、振り返るとそこには宮川佐恵子が立っていた。

「み、宮川さん・・こちらはスタッフルームでして・・」

「存じ上げておりますわ・・。扉にスタッフオンリーと書いてありましたから・・・。それでも、きちんと私の口からもお願いしたかったのです・・」

宮川さんはコツコツ足音をさせ喋りながら、私達の間近まで歩いてきた。

「ご存じの通り、我々宮川はコングロマリット企業体で、家業という稼業を持ちません。利益が上がるものであれば、違法なものや倫理に欠けること以外は、何でも見境もなくやってまいりました。・・故に敵も多く、私達自身で自分たちの身を守らなければなりません」

私達の方を向いてはいるが、どこか遠くを見ているような目で、滔々と宮川さんが語りだした。

「私たち一族は能力者です。・・・世間では超常の力と呼ばれている力も、あなた方からすれば、才能や努力の延長線上にあるものだとは理解していただいていると思います。・・・我々宮川はあくまで社会の味方であり、自衛手段として能力を開花させ使用してます。・・・時にはビジネスにも使用いたしますが、そのルールは私達にも適用されます」

「つまり、自分たちが使う以上、相手も使って構わない。と?」

私は話の腰を折ってしまうかと思ったが、つい聞いてしまった。しかし、即座に質問として返っててきた。

「対等ではないと?そうお思いですか?」

「いえ、全然そう思わないですよ。私たちも力を使って仕事をしてますから。それだからこの人数でこの街1番の探偵事務所とまでこの短期間で言われるほどになったのですから。ただ、私たちもこれまではあの橋元の所の張慈円のような相手も能力者で、悪党な場合は苦労しますけどね」

この宮川さんという方は、その普段の態度の大きさは育ちと生まれながらの立場が原因であると思われるが、持っている本質は正義感の塊と思える。

うん?態度が大きく、正義感の塊?

そう思った時私は思わず吹き出しそうになってしまった。性別や性格や温度差は違えど、私の旦那様の宏とそっくりじゃない!そう思い笑いを堪え表情は真剣な表情のまま、宮川さんをみつめていると、宮川さんが私の言葉に対して、

「その通りでございます。ご理解いただいたと解釈します・・。宮川は大きくなりました。ますます、大きくなるでしょう。一族の能力者だけでは宮川を守れないほどに・・・。そして、ご指摘のとおり、敵対する勢力にも手強い能力者が居る場合もございます・・・。私の部下をもうご存知ですよね?」

「神田川さんと稲垣さんね?あの2人は宮川さんの一族じゃないんでしょ?」

「彼女たちは私には過ぎた部下です。ですが、一族ではありません。つまり、私たちには社員や私たちに関わった人々、そして私たち自身を守るには能力を悪用する輩に抗う力が足りないのです・・。組織を守るにはもっと優秀で強い人材が必要なのです。そこで、お互いに折り合う条件を提示できればと、この度提案させていただいたのです」

やはり、特大企業の創始者の一族、そのご令嬢だけあり、お若いのに大した迫力と説得力である。真剣に話す宮川さんの言葉には私の心に突き刺さる何かがあった。

「せやけど、俺いまさら宮仕えはできへんで・・・?」

先日の尊大な態度とは裏腹な宮川さんの態度に、少々警戒しながら宏が口を出した。宏は元来、自分の行動を束縛されるのを何より嫌う。彼も宮川さんの力になりたいと今の話を聞き思ったのだろうが、宮川コーポレーションの一部になるという事だけが引っかかるのだろう。

「命令ではありません。・・あくまで依頼としましょう。その他報酬規程の出来高払いに反映させます。ですが・・・菊沢様・・・あまた方は依頼の優先順位を間違うようなお方には見えませんわ・・。私からのお願いです。私の元に来てください」

そう言うと、宮川佐恵子は長い髪が床に付くほど、頭を下げた。

宏と二人で頭を下げた宮川さんを凝視する。

5秒・・・もっと立ったかもしれない。あのプライドの高い宮川さんが、ポーズと言えども、こんなに長時間頭を下げるだろうか・・。

何か言わなければ、と焦っていると、頭を下げる宮川さんの後ろから見慣れた顔が現れた。

「ええんやない?この内容やと仕事は増えそうやし、俺らの給料も絶対に増えるやん?それに駅前にあるあのでっかいビルの5階やろ?・・契約書に書いてあるけど、家賃も格安で光熱費込みやんか。俺は副所長として賛成でええで?」

和尚こと哲司が契約書をバサバサとさせながら、軽い口調で言った。

「て、哲司さま!」

少し慌てた声をだし、下げていた頭を上げ、宮川さんが後ろを振り返る。

「うん俺もそれでええわ・・。しかし命令は聞かへんで・・?内容は所長代理と副所長が承認してるから間違いあらへんのやろ・・・。あとは、美佳帆さん・・金額やが俺が金に興味ないん知ってるやろ?・・あとは任せるで・・」

さすがに宏も、条件付きではあるが了承の意を示す。

「任せておいて」

宏の言葉を聞いた私は、一言そう言うと、哲司が持っていた契約書を、パッとひったくり、さらさらと金額を書く。

「宮川支社長、これで如何?」

にっこり笑って、宮川さんに向かって見えるように、契約書を返す。

「もちろん結構ですわ」

にっこりと笑みをたたえ差し出してきた宮川さんの手を掴み、私達はがっちりと握手した。


【第8章 三つ巴 20話 能力者集団結成終わり】21話へ続く

筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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