2ntブログ

■当サイトは既婚女性を中心に描いている連続長編の官能小説サイトです■性的な描写が多く出てくる為18歳歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい■

第9章 歪と失脚からの脱出 20話 銀獣を女に変える着流し男

第9章 歪と失脚からの脱出 20話  銀獣を女に変える着流し男


濡れて肌に張り付くボディーアーマーを脱ぎさり、黑のタンクトップに白い七分丈のオフショルダーチュニック、下は青のデニムパンツに着替えた稲垣加奈子は、深夜の繁華街を、とくにあてもなく歩いていた。

胸元は大きく開いたデザインで、チュニックの裾はヒップを半分ほど隠しているが、腰は絞られており、加奈子の長い脚、豊満な胸、括れた腰のため強調されるヒップがよくわかる。

加奈子は真理の指示通り、二人の私物を取りに行き公麿の隠れ家に持ってきたのだが、真理が公麿と濃厚な時間をすごしているようなので、荷物をそっと玄関先にある収納庫に押し込むと、加奈子自身も狭い収納庫に入って着替え、仕方なくあてもなく外へ繰り出したのである。

佐恵子には安全な場所である公麿のアジトに移動してもらおうと思ったのだが、そのアジトは真理と公麿の空間になっているし、すでに佐恵子は部下である岩堀香澄のマンションへと何故か移動していた。

そして佐恵子も今日はこれ以上移動する元気がなさそうだったので、加奈子は香澄に佐恵子のことをお願いし、そのまま佐恵子には香澄の部屋に泊まってもらうことにしたのだ。

(・・・紅露や松前は、佐恵子さんの自宅マンションに来てたし、警備部門の八尾部長が対応していた・・。聴覚強化で聞いていたけど、八尾さんも佐恵子の行先は知らないみたいだし、紅露や松前も紅音の命令で来てたみたいだけど、佐恵子さんの手がかりもなく今日は引き上げたようだしね。岩堀さんのマンションには今日、明日とか、すぐに手は伸びないだろうし、佐恵子さんもなんだかすごく疲れてたように見えるから心配だわ・・。大丈夫かしら)

加奈子も状況が状況だけに、そわそわしてしまうが、北王子の部屋に帰って仮眠をとることもできず、かといって岩堀香澄の部屋に佐恵子ともどもお邪魔するにはどうも気が引けたのだ。

結果的に、加奈子はどうしたものかと街を当てもなく練り歩いているという状況である。

何かあればすぐに佐恵子のところへ駆けつけるつもりで、岩堀香澄のマンション近くの繁華街を歩き、お腹に何か入れたら、適当にビジネスホテルにでも泊まろうかと思っていた。

深夜を回ったこんな時間帯に、水商売風でもない恰好をした長身で豊満な美女の登場に、人通りの少なくなった歩道では、加奈子が歩くと酔っぱらったサラリーマンや、終電を逃しタクシーを探す男たちが、加奈子の通り過ぎた後、振り返り目で追っているのだが、加奈子は思案中で、それを気にとめず、なにかめぼしい店は無いかとキョロキョロ探しながら歩いている。

「ったく・・わたしも、くたくただってのに・・、真理め~。一つしかないベッドをあの画家と占領しちゃって・・。・・あの恰好で出迎えてあげろとは言ったけど、そのままはじめろなんて言ってないでしょうが・・。ちょっと考えればわかるじゃん?わたしがすぐ帰ってくるってさ・・」

加奈子は自分のスマホが使えなくなってしまったことを、佐恵子に伝えた時に、佐恵子の予備のスマホを手渡されていた。

なにか異変があればすぐに佐恵子からは連絡があるはずなので、そのあたりの心配は和らいではいる。

しかし、今まさに二人で楽しんでいるであろう真理と公麿のことを考えると、モヤモヤとした気持ちが沸きあがり、一人で歩きながらブツブツと口を尖らせた。

深夜を回っているため、普通の飲食店は軒並み閉店している。

「お腹もペコペコだし・・どこでもいいんだけど・・」

加奈子がそう思ったとき、雑居ビルの1Fにコングと書かれたバーらしき店舗の看板が、営業中の派手なネオンを灯していたので、迷うことなく扉を開けた。

カランカランとレトロなドアベル音が響くと、カウンターの中からスキンヘッドの大男が、いかつい顔ながらも愛想のいい笑顔と声で

「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

と声を掛けてきたので、加奈子は

「ええ、一人だけど時間まだ大丈夫?」

と返すと、スキンヘッドのマスターは

「もちろんです。どうぞ」

と笑顔で目の前のカウンターの席を指し、グラスと御絞を用意しだした。

このコングというバーの店内は意外にも広く、奥には個室もあるようで、この時間だというのにかなりの客が入り、流行っているようであった。

店の壁にはお酒の他にも、本日の軽食メニューと題されたボードに、肉料理が列挙されている。

加奈子はお昼のランチ時間から何も食べていないすきっ腹を軽く撫でると、ちょうどいいと思いつつ、マスターに勧められるままカウンターの一番端の席に腰を下ろしたのだった。

「う~ん・・・、これと・・ビールでも頂いちゃおうかな」

加奈子は壁に掛けられたボードのポークチョップのメニューを指さし、ついでにビールを中ジョッキで注文をする。

マスターはテカテカの頭を笑顔で下げ、

「承知しました。お待ちください」

と丁寧に言うと、厨房で料理をし始めた。

さっそく冷えたビールが料理に先んじてカウンターに置かれると、加奈子は喉の渇きから、ぐいっと喉を反らせてジョッキの半分ほどを飲み干した。

「っぷはぁ~!!っくぅ~!!や~っぱ一日の終わりにはこれがなきゃね!」

と、加奈子的にはかなり控えめな声量のつもりであったが、周囲にとっては、けっこうな音量であったらしく、後ろのボックス席の客は手を止め加奈子の背中から様子を見ているし、手を止めず料理をしているマスターも加奈子の気持ちのいい飲みっぷりに対して、笑顔で話しかけてきた。

「おねえさん、いい飲みっぷりですね。料理ができるまでもう少しかかりますので、もう一杯いかがです?」

マスターが低くダンディな声で、突然話しかけてきたことに、「ん?」と思った加奈子ではあったが、今日は支社であの紅蓮相手に大立ち回りもあったことから、空腹もさることながら喉も乾ききっていた。

「じゃあ、もう一杯頂こうかな」

と、スキンヘッドでダンディボイスのマスターにそう言って、ジョッキを一気に空けてしまった。

ポークチョップのオーブン焼ステーキと、ルートビートとサーモンのマリネサラダを食べたところで、加奈子は一息ついた。

「はぁ、生き返る・・。空腹だったからってわけじゃないわね。美味しかったわ。マスター」

加奈子はマスターにそう言うと、ダンディボイスのマスターが、すっとカウンターにグラスを置いてきたのだ。

「ありがとうございます。どうぞ」

「えっ?なにこれ?サービス?」

「いえいえ、あちらのお客様からです」

加奈子が間の抜けた声をあげると、加奈子と同じカウンターの逆の端に座っている男が、軽く手をあげて頷いている。

「ははっ、なによこれ」

映画やドラマなどではよく見るシーンだが、加奈子は人生初の体験に率直な感想を口に出して笑ってしまった。

「カルヴァドスは嫌いなんか?」

キザな男が、カッコをつけてそんなワンシーンを演出したのかとおもったのだが、その男のバーに似合わない場違いな格好に驚いた加奈子は、男のセリフにうまく返せず、笑顔のまま凝視してしまった。

何故なら男は、紺色の着流しに濃紺の帯、そして黒い下駄という格好であったからだ。

「ううん。嫌いじゃないよ。でもなんで私に?」

男の格好にすこし愉快な気持ちになった加奈子は、カルヴァドスの入ったグラスを手で持ち、着流し男に聞き返した。

「あんたの飲みっぷりと、食いっぷり、それとその類まれな美貌と、完璧な形のおっぱいに乾杯したくって・・な」

着流し男は恥ずかしげもなく、しゃあしゃあと加奈子にそう言うと、自らのグラスを手に持ち、加奈子の隣の席へと移動してきた。

「ふふっ、なによ。変わった人ねえ」

風体や発言は、加奈子の言葉通り、かなり変わっているが、男の容姿は加奈子の厳しい男性評価眼から見ても、相当なハイスペックだ。

年のころは30半ばだろうか、そうだとすれば、見た目より若く見えし、相当身体も鍛えているようだ。

それでいて、年齢以上に経験や知識を蓄えていることを醸し出している自信に満ちた表情。

容姿は玉木宏を悪者にしたような見た目だ。

「なになに?なんで隣に隣に来るのよ」

そう言いながらも加奈子は、嫌がる素振りも見せずに、カウンターの上に並べられている皿を、隅に寄せ、男が座りやすいように加奈子自身も椅子の位置をずらし、着流し男が座りやすいようにスペースを作ってやった。

「まあまあ、ええやないかい。あんたみたいな上玉が一人でおるんや。声掛けるなちゅうほうが無理な話やで。あんたもその美貌やし、こんなことは慣れっこやろ?」

加奈子の気を許した仕草に安堵した様子の男は、加奈子の隣に座りながら更に話しかけてくる。

「誰にでもそう言ってるんでしょ?」

着流し男にそう返すも加奈子も、この男が纏う不思議な魅力が気になり始めてた。

「いやいや、そんなことあらへんで?何やその顔・・ホンマやねんって。そもそも俺こないだ日本に着いたばっかりで、電話以外で日本人とまともに喋ったん1年ぶりぐらいやねん」

「ふーん。そうなの?」

着流し男の言葉を聞き流しながらも、加奈子は、まあちょっとぐらい一緒に飲んでもいいかなと思い、カルヴァドスが入ったグラスに口につけ傾けた。

「ええ飲みっぷりや・・・。美人やし、ほんま雰囲気も堂に入っとるちゅうか、自分に自信たっぷりな仕草、男に媚びるでもない、流されるでもないその意志の強そうな顔・・。頭も良うて知性を感じさせる目・・・。あんた、ええところのお嬢様かなんかやろ?どんな人なんか気になるわ」

「そんなことないわよ。・・それに、初対面なのにほめ過ぎだっての。褒めても何にも出ませんよーだ」

「いやいや、ほんまやねん。古い馴染みに急な仕事依頼されて、急いで日本に帰ってきたんやけど、尊敬する恩義ある先輩の頼みや言うても、けっこうめんどい仕事のはずやねん。そう思てたたところに、こんな時間に、こんなところでアンタみたいな上玉みかけたんや。今までの会話で俺のことイヤやなかったら、ちょっと飲むんぐらい付き合うてくれや」

加奈子のことを本気で気に入っている様子の着流し男はそう言うと、自らの持っているグラスを加奈子に向け乾杯を促してきた。

そのとき、奥の個室の方の席から、グラスが割れる音と、英語と、カタコトの日本語での暴言が店内に響いた。

「チクショウガ!ナンデコノオレサマガコンナトコロデクスブッテナキャイケナインダ!」

スキンヘッドのマスターが、騒ぎを聞きつけ大柄な外国人を宥めだしたようだが、英語とカタコトが混ざった騒ぎは止む様子はない。

加奈子も眉を顰めてそちらに顔を向けたとき、どこかで見た覚えのある顔にはっとしてしまった。

(あいつ!・・たしかアレンってやつだわ!周りの奴等も私がオルガノで叩きのめした連中・・。・・・どうしよう)

面倒くさい奴等を発見してしまったという顔になった加奈子だったが、ふぅと溜息をつき覚悟を決めると、やれやれと言う表情で頭をかいて立ち上がりかける。

しかしその時、すぐ近くで大声がした。

「おいおい!ルール守れんヤンキーはゴーホームや!お前ら誰の前で騒ぎ起こしてると思てんねん。みんながおる場所で機嫌よう飲めんのやったら、お前らは自分ちに帰ってバドワイザーでも飲んどけ!こっちは今めったに出会えん上玉口説いとる最中なんや!これ以上邪魔するんやったら外に放りだすぞ!」

加奈子はその怒鳴り声に驚き「え?!」て声をあげて振り向くと、そこには隣に座っている着流し男が、アレン達に怒鳴ると同時に、中指を思いっきり立ててファックユーのポーズをとっていたのだ。

(えええええ?!・・・ど、ど、どうしよう。あいつら相手だと、いくらなんでも普通の人じゃさすがに太刀打ちできないんじゃないの?)

つい先ほどまで、せっかくいい気分なりかけていたというのに、加奈子は手で顔を隠すように覆うと、着流し男とアレン達の様子を伺いだした。

(いざとなれば・・出て行かないとね)

と思おもってはいるが、これだけの大言壮語を言う着流し男の面子とやらも考慮し、出るタイミングをはかる。

加奈子がそんな心配しているうちに、アレン達ボクサー崩れの連中は、スキンヘッドのマスターを手で押しのけ、周囲の客を威圧しながら、のしのしと着流し男のすぐそばまで迫ってきた。

「オマエナニカモンクデモアルノカ?オカシナカッコシヤガッテ、アタマモオカシイノカ?コノオレサマヲ、ソトニホウリダスダト?ゼヒヤッテモラオウジャナイカ。ナア?!」

黒人の大男。元クルーザー級のプロボクサーであったアレンはそう言うと、周囲の取り巻きのボクサー崩れたちにも笑うように促し、自身も白い歯を見せ大声で笑いだした。

「お客さん!困りますよ!・・・ったく、警察なんざ呼びたくないんだが・・」

アレン達の後ろからスキンヘッドのマスターが、困ったような声をあげているが、それに着流し男が答えた。

「警察なんか呼ばんでええでマスター?そいつらの飲み代も俺が払うたるし、きっちり追い出してやるさかい心配せんでええ」

着流し男はそう言うと、ゆらりと立ち上がりアレンの前まで歩いていくと、人差指をアレンに向けて、クイクイと倒し挑発しだした。

「おら。先に打たせてやるから、かかってこんかい」

着流し男のセリフにアレンは、取り巻き達の顔を見まわしながらハハハハハ、と笑っていたが、不意に憤怒の表情に変わり、突如着流し男に殴り掛かった。

「フン!!」

190cmを越える黒人の大男が、右ストレートを繰り出したその動きに、店内の女性客はこぞって「キャー!」という声をあげたが、当の着流し男は口を歪め、詰まらなさそうにひょいと躱すと、アレンのボディに下駄を履いた足をめり込ませた。

「グボォオオオ!」

着流し男は、腹を抱え膝をついてうずくまるアレンの横を通り過ぎると、いきり立って次々と殴り掛かってくる取り巻きのボクサー崩れたちに対し、

「ゴーホーム。ゴーホームや。行儀悪いヤンキーはゴーホーム言うてるやろ」

と言いながら、ボクサー崩れたちを吹き飛ばさないように立ち回り、店内を壊さないよう、他の客に迷惑にならないよう、ヤンキーたちの鳩尾を下駄で蹴り、蹲らせて戦意を削いでいった。

(・・・・こ、この人何者なの?あのアレンて奴のパンチは少なくとも常人の域じゃなかった・・。それを難なく・・この着流し男・・いったい・・)

加奈子は自分が出て行かなければいけないと思っていたのだが、着流し男の予想外の強さに目を見張っていた。

~~~~~

「すまんかったな。怖い思いさせて」

支払いを済ませコングを出た着流し男は、済まなさそうに頭をかきながら加奈子に頭を下げる。

アレン達は着流し男に蹴り倒され、逃げるようにコングから去っていったのだ。

最初言っていた通り、着流し男はアレン達の飲み代をきっちりカードで支払ったようで、マスターも恐縮していた。

そのうえ、加奈子の飲んだ分と食事代もなぜか着流し男は支払うと言ってきかなかったのだ。

着流し男曰く、迷惑をかけたし、怖い思いをさせた謝罪だということなのだが、加奈子としては、そういう事にしておいた方が男のメンツも保てるものかと思い黙っていた。

「ったく・・せっかく機嫌よう飲めると思った矢先やったちゅうのに・・、えっと、ねえさん?もう流石に家帰る時間やろ?タクシーでも呼ぼか?あいつらがまだ近くうろついてるかもしれへんし、近くやったら俺が送っていくけど?」

ああいう喧嘩の場で力を奮わずに終わった経験がない加奈子は、着流し男のセリフに、新鮮さを感じていた。

「ありがと。でも、うーん・・」

どこに帰ろう。と悩んだ加奈子は口ごもる。

すると着流し男は、口ごもっている加奈子の様子に、「おっ、脈があるのか?」という表情になり、

「もしよかったらなんやけどな、俺そこのリーガルホテルのスイートで泊ってんねん。ねえさんさえよかったらやで?・・俺と飲みなおすん付き合えへん?」

着流し男の意外な提案に加奈子は「はっ?」と顔を上げるが、男の顔には一応思い切って誘ったんや。という表情が少しだけ浮かんでいた。

着流し男の表情に、加奈子はイタズラっぽい笑顔を向けると、

「いいけど、変なことしないって約束できる?」

「できるできる。OKや。せえへんで。ねえさんが嫌がることはせえへんってことで、飲みなおすとしよか」

加奈子の少し意地悪なセリフに着流し男は即答すると、「こっちや」と言って歩き出す。

加奈子は、「場所なら知ってるって。そのホテルはうちの系列だからね」と心の中で呟くと、先を歩く着流し男に追いつく。

しかし、着流しを着て周囲から浮いている男と一緒に並んで歩くのには、さすがに抵抗があった加奈子は、少し離れてついて歩いたのだった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 20話 銀獣を女に変える着流し男終わり】21話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 21話 一夜限りと割り切らないといけない関係

第9章 歪と失脚からの脱出 21話 一夜限りと割り切らないといけない関係


着流しの男は、よく冷えたスパークリングワインをグラスに注ぎ、服装に似合わず慣れた手つきで軽く燻らすと、加奈子に手渡してきた。

「ほんまよう来てくれた。乾杯や」

「乾杯・・」

チンとグラスを重ね、お互いにいっきに杯を空ける。

程よい炭酸と意外にも高いアルコール度数の刺激が混ざった喉ごしに、加奈子はふぅと息を吐いた。

このホテルなら、香澄のマンションにも公麿の隠れ家にも近い。

最低限そこを確保した加奈子は、あのアレンを容易に蹴り倒したこの着流し男の正体が気になっていた。

(タダモノじゃない)

それはわかるが、未だにお互い名前すら名乗りあっていない仲である。

その程度の仲にも関わらず、妙齢の美男美女がホテルの一室で酒を酌み交わしている。

間違いなくホテルのフロントでは恋人同士、そうでなくても良い仲だと思われたに違いない。

(けっこうなシチュエーションよね)

加奈子はそう思い、正面の男をじっと観察する。

(ふざけてんのかな?それとも趣味?)

着流しという男のファッションに突っ込むが、センスはともかく着物の裾から覗く男の四肢は、よく鍛えこまれているのが見てとれる。

それにコングでの立ち回り、ホテルまでの道のりを歩く男の姿は、警戒心こそ加奈子に向けられていないが、男には隙らしい隙が無く、この着流し男が能力者であることを加奈子はもう疑いすらしていなかった。

(野良・・かな?・・佐恵子さんが言うには、街を歩いていると500人に一人ぐらいは能力者を見かけるって言ってたわね。そのほとんどが能力の存在を自覚してない無意識な野良能力者って言ってた。でも、この人はあのアレンって黒人を一発で倒すくらいだから、さすがに無自覚能力者ってわけじゃないでしょうしね・・)

野良(ノラ)とは、どこの組織にも所属していない能力者か、能力の存在を知らない無自覚な能力者、またはその両方を指した言葉で、宮コー内部では、本来の野良という意味とは、少し違う意味合いで使う単語であった。

「ねえ、名前とか仕事とか聞いてもいいのかな?」

加奈子はソファに腰かけたままグラスを差し出し、空になったグラスにワインを注いでくれている男に聞いてみた。

(グラスやワインに毒の痕跡は無し・・、私に対しては隙だらけ・・。・・・だけど、敵・・・かもしれないし、・・うーん、でも私のカンはそう言わないのよね・・)

香港に髙嶺、今はいろんな曲者共が、いつどんな手を使って近づいてくるかわからない。

コングというバーでの先ほどの一件も、加奈子を欺くためのお芝居という可能性も捨てきれないのだ。

普段おちゃらけたように見える稲垣加奈子だが、実のところ頭も相当キレるし、立場上必要な警戒心は十分に持ち合わせている。

加えてイレギュラーに対する対処能力は、力ずくでも良いということなら、佐恵子や真理よりはるかに優秀だ。

「名前か~。うーん」

「どうしたの?名前聞かれるとマズいワケでもあるの?」

加奈子のグラスに注ぎ終わった男は、自分のグラスにも手酌でシュワシュワと気泡が弾けている液体を注ぎながら唸っている。

加奈子は何故?と首を傾げ、男の表情を探る。

「えっとな。特にやましいことは何も無いんやねんけど。俺なりのゲン担ぎやねん」

「ゲン担ぎ?」

「そや、ゲン担ぎ。お互いの名前知らんほうがええねん」

そう言うと着流しの男は、加奈子の正面から加奈子の座っているソファの方へ歩み寄り、加奈子のすぐ隣に腰を下ろした。

「・・そうやってすぐ近づいてくるのもなんだか手慣れた感じよね」

加奈子は笑顔ではあるがそう言うと、着流し男の動きを注視しつつ、万一のため最低限反撃可能な間合いを空けて座りなおす。

「ははは、嫌がることはせえへんよ。嫌やったら遠慮せんと言うてや?・・ただ、アンタみたいな上玉を、黙って眺めとくなんてことは俺にはできへんからなぁ」

「あら?変なことしないって言ったじゃない」

加奈子は飲みなおす条件で言った内容を再び伝えてみたが、着流し男は白い歯を見せて笑顔になると更に続けた。

「アンタの嫌がることはせえへん、イコール変なことせえへんってことや。・・正直に言うとな、マジでアンタのことめっちゃ気に入ったんや。身も蓋もない言い方なんやけどな・・。かといって俺の商売やと所帯ももたれへん。今回もいつまで日本におって、いつ向こうに帰るかわからへんし。行ったら行ったで、次に日本に戻ってくるんもまったく見当もつかんときとる身の上なんや・・」

「ふーん・・・大変な仕事なのね。でも、それがなんのゲン担ぎなの?」

着流し男の言葉に1つのウソも混じっていないのは、これまでの加奈子の経験からまず間違いないだろうと加奈子の直感がそういうが、ウソが無い着流し男の話す内容にますます興味が出てきて少々焦れた加奈子は質問をはさむ。

「そやな・・。名乗らん方が口説くんも上手くいくちゅう俺なりのゲンもあるんやけど、要するにそういう仲になっても、もしアンタが俺のこと気に入ったとするやろ?でも、俺の生活やと、アンタを不幸にさせるだけやからな。お互い今夜限りにして、名前知らんほうがええ思てんねん。・・でもまあ、今日だけ言うても、それも呼びにくいやろし、俺のことはサブローとでも呼んでくれたらええ。アンタも差し支えない範囲で言うてくれるんでええよ。仮名ってやつやな。追及せえへん。俺もずっとアンタとも呼びにくいしな。アンタも俺が名乗ってなかったからしゃあないんやけど、さっきからずっと俺のこと、固有名詞や代名詞ですら呼べてないもんな」


そう言って男はグラスを一気に傾け空にする。

(・・・なるほど。何となくそういうジンクスじみたことを気にしてるってことかな・・?うーん、佐恵子さんみたいに完全に言葉と感情の真偽がわかるわけじゃないけど、私のことを知っていて近づいたって感じじゃなさそうね・・・でも容姿はともかくこの男の持っている空気感というか隙だらけに見え隙がない感じ・・・、なんだか誰かに似ているよね・・・誰だろ・・・?)

加奈子の能力は純粋な肉体強化であり、筋力及び五感の能力超向上である。

栗田の神業で左目に魔眼を宿したと言っても、佐恵子のように器用に使いこなすことができるわけでもない。

使える魔眼技能は、いくつかの付与と恐慌のまがいモノだけだ。

よって、男の言葉を見極めることは能力では無理だが、加奈子の今まで生きてきた経験則からは、やはりサブローと名乗る男が嘘をついているようには見えない。

「どや?マジでアンタみたいな上玉を見つけて、アタックせえへんなんてこと俺には出来へんのや。一夜限りの関係でお互い楽しまへんか?・・・こういうん嫌いなんか?心に決めた男でもおるんやったら・・いやそれでもアンタみたいな上玉諦められへん・・。どやねん?アンタもまるっきし俺のことキライなんやったら、ここに座っとらへん。そやろ?」

隣で熱心に口説いてくる着流し男のセリフを聞きながら、加奈子の心は揺れはじめていた。

確かに男が言うように、全くその気がないのならノコノコとついてくることはなかった。

加奈子は自称ミス宮コーを名乗るってはいるが、宮コー社員から見ればそれは誇張ではない。

自負通りの美貌を持ち合わせているし、プロポーションもそのあたりのモデルより断然良い。

加奈子の明るい性格も相まって話しかけやすいこともあり、言いよってくる男の数は幼馴染の佐恵子より圧倒的に多く、実はあのミスパーフェクトの真理よりも多かった。

しかし、男性経験は佐恵子なみに残念で、経験人数は二人だけ、しかも最初の相手は髙嶺六刃仙の一人、井川栄一であった。

加奈子は最初追い詰めたつもりだったが、巧妙に佐恵子や真理と引き離されただけで、当時自分より格上の使い手であった井川栄一に、一対一に持ち込まれてしまい無残な目にあったのだ。

加奈子の美的感覚からすれば、井川栄一は間違いなくブ男で生理的に受け入れがたい男でった。

思い出してしまうと嫌悪感を示す悪寒とサブイボがぞわぁと背中を駆け巡るが、その憎い敵に与えられた快感も思い出してしまい、加奈子は目をきつく閉じてぶんぶんと顔を振る。

そして、今隣で一生懸命口説いてくれている着流し男の顔をマジマジと見ると、ブ男の栄一などとは比べようもないイケメンが熱弁を振るって一夜限りの求愛をしてくれている。。

加奈子はこういう男が、一夜限りと言わず、本気で口説いてくれないかと思いもしたが、よくよく考えれば自分も着流しの男が語ったように、明日とも知れない身であると、はたと気が付いたのだった。

三十路前にして上場企業宮川コーポレーションの幹部ではあるが、佐恵子の秘書は危険な仕事で、現につい数か月前死にかけたばかりだ。

それにいまは宮川コーポレーションの社員ですらないかもしれない。

先ほどの騒動のせいで、緋村紅音が加奈子の社員登録を抹消しているかもしれないからだ。

そんな加奈子が、着流しの男の一夜限りの提案を、「軽薄だ」、「不純だ」「とにかく今やりたいだけでしょ?」と言えるような立場ではないと思い至ったのだ。

(そっか・・。幸せな結婚、幸せな家庭って難しいんだ・・・。佐恵子さんや美佳帆さんみたいに、運よく能力者の恋人見つけて、お互いの立場も、何もかも理解してくれる人を見つけるってだけでも・・、私も・・、この人も・・同じように難しいんだわ。この人もほぼ間違いなく能力者・・。人に言えないような仕事の一つや二つはしてるんでしょうね。でも私も同じなんだわ・・。・・・私、仕事とはいえ人すら殺したことがある・・。だからこそ、この人も俺に深く関わらないほうがいいぞってスタンスなんだわ。それって・・・私も・・同じだわ・・)

大学に進学する際、佐恵子が「私に着いてきてくれるの?引き返せなくなるわ」と言ってくれたが、そう言う意味もあったのかと、加奈子は改めてわかった気がした。

しかし気付いたところで、選んだ道に後悔などない。

だが、突然発生した心の空虚さは如何ともしがたいものがあった。

急に発生したこの空虚さを手っ取り早く埋めるため、着流し男の提案を安易に飲むのも、なんだかプライドが許さない。

かといって加奈子はこの機会・・いや、誘いを袖にするのはどうなのか・・とも思っていた。

だから、相手を試すという訳でもないが、男に飲んでもらいやすく、それでいて自分に有利で、いざとなれば匙加減(さじかげん)もイニシアチブもこちらにある方法を思いつく。

加奈子は顔を上げ、着流し男の目をじっと見つめた。

男は、急に加奈子に見つめられたので熱心に口説いていたのをやめ、びっくりしたような顔をしている。

驚いた表情のサブローの顔の前に、人差指を出して加奈子は口を開いた。

「・・・条件が二つ」

「よっしゃ、なんなり言うてや」

サブローは前のめりになっていた姿勢を改め、加奈子の隣に座りなおして姿勢を伸ばした。

「名前なんだけど・・仮称・・カナコよ。サブローさん」

「OKやカナコ。一気に親密になったな。それで?もう一つは?」

サブローは、加奈子の一つ目の条件を聞くと目を丸くさせてから、笑顔になり、そして気ぜわしくもう一つの条件を、手振りを交えて催促してきた。

「もう一つは飲み比べ・・・これで私に勝ったら・・一晩お付き合いしてあげるわ」

加奈子は人差指に加えて中指を立て、Vサインのように指を二つ立てると、加奈子にしては珍しく蠱惑的な表情を浮かべて言ったのだった。

それもそのはずで、加奈子なりに、かなり思い切った発言だからである。

顔には出でいないが、今の加奈子の心拍数はかなり高い。

女の口から「一晩お付き合いする」と言ってしまっているのだ。

経験も多くない加奈子にとっては、相当なセリフである。

加奈子は、はしたなすぎたかも、と心拍数を更に上げはじめたが、サブローは破顔し声をあげた。

「よっしゃ!決まりや。やっぱカナコ、あんたはええ女や。わかりやすいし、男をやる気にさせる方法わきまえとるなあ。望むところやで!・・言葉通りきっちり一晩限りや・・お互い楽しもや?」

サブローの様子に内心安堵した加奈子は、余裕を取り戻し斜めに構えてサブローを挑発するような表情になると、

「ふふふん。もう勝った気でいるの?ちょっと気が早いんじゃない?・・言っとくけど、口だけの男なんてお断りなんだからね」


と腕を組んでツンと顎を上げた仕草で言って見せた。

加奈子の発言は、安い女だと思われたくない気持ちも強いが、実際お酒の強さにはめっぽう自信があったからである。

そして、もしもベッドインすることになったとしても、加奈子は経験こそ少ないとしても、実際体力はめちゃめちゃあるほうだし、力もめちゃめちゃ強い。

加奈子は、もしもそういう気分になって身を任せたいと思ったとしても、お互い機嫌よくベッドインするには、サブローに対してお酒の手加減してやる必要があると思っている。

いわゆる酔ったふりという手だ。

それとベッドでも、サブローが1度か2度満足したら、こちらが満足してなくても、男の面目を潰さないでいてあげるぐらいのつもりでもいる。

だが、サブローは加奈子の心境や思い上がり気味な打算など気づいた様子もなく、機嫌よく加奈子の手を両手で取り握りしめると、

「おぉー・・最高や!オーライオーライ。わかっとるって。酒もベッドでもタフなところ証明したるから。自分を抱く男ってやつに納得したいタイプなんやろカナコは?・・ええで、それを言うても許される上玉やカナコは!任せとけや!俺、そんな煽られると燃えてくる性質やねん。それよりカナコ・・いま言うたセリフ、後で許してって泣くことになっても容赦せえへんかもしれんで?」


と笑顔ながら真剣に言っている。

「ふふ!いいの?サブローこそ、ベロンベロンに酔っ払って、早漏なとこ私に見られちゃうかもよ?・・そっちこそ、あとで恥かいても知らないんだから」

サブローのその無邪気さに、好感を重ねると同時に意地悪も重ねたくなった加奈子は更に挑発する。

「問題なしや。カナコ、たぶん今日限りもうお互い会わへん。カナコはミステリアスなところあるけど、カタギのニオイがするからな。俺みたいなヤツとはそういうワンナイトって関係がマジでええと思うわ。・・ほな、気取り直してさっそく飲み直ししよや」

加奈子の意地悪な挑発など意に介した様子もなく、サブローは一瞬「ワンナイトだけ」という関係に哀愁を滲ませたが、加奈子のことを本当に案じたようなセリフを言い、スパークリングワインをブランデーに持ち替えて、グラスを新しいものに替え、琥珀色の液体を注ぎなおしたのだった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 21話一夜限りと割り切らないといけない関係】

第9章 歪と失脚からの脱出 22話 銀獣を淫獣にしてしまう男

第9章 歪と失脚からの脱出 22話 銀獣を淫獣にしてしまう男



「ぁぁ・・。だ、だめよぉ。・・・うんん。まだ、勝負の途中でしょ・・」

首筋に男の唇が触れると、加奈子は下唇を噛み、白い喉を露わにのけ反らせて女性らしい声をあげた。

「ダメやないやろ?俺の方が3杯もリードしとんや。もう降参やろ?」

ソファに浅く座る加奈子を、隣に座ったサブローが背後から抱きしめ、オフショルダーチュニックから露出している加奈子の少し汗ばんだ白い首筋を唇で堪能している。

「ま、まだ・・」

加奈子は強がりを言おうとしたが、言葉にならない。

サブローは本当に酒豪で、酔ってやや酩酊している加奈子とは違い、まだまだ余裕がある様子だ。

テーブルに置かれた加奈子のショットグラスには、ヘネシーがなみなみと注がれたままである。

サブローに背後から抱きすくめられながらも、飲み比べに負けじと、手をグラスにのばそうとするが、やっぱりもう飲むのは無理だ。

もう一杯だって飲めない。飲みたくない。

しかもサブローのターンにするには、これを3杯も空けなくてはいけないのだ。

加奈子が負けを認めかけ、諦めそうになったとき、先ほどから首筋を這いまわる唇の感触に加え、肩に回されていたサブローの手が鎖骨をひとしきり撫でると、そのまま谷間を露出させている豊満な胸へと伸びてきたのだ。

「ああっ!きゃ・・!、ま、まだ!だ、めでしょ・ぉ?」

服の上からの刺激とはいえ、この不意打ちに加奈子は、意図せず男を挑発してしまうような声で不平をあげる。

「まだって言うってことは、もうそろそろ諦めつくってことやな。・・カナコ・・酔った顔も可愛いなぁ」

ソファに座った加奈子を背後から抱きしめ、上から覗くように見ているサブローは、加奈子の左の胸を軽く、服の上から撫でながら愛おしそうに囁きかけてくる。

加奈子はまさか飲み比べで、こんな展開になるとは予想していなかった。

自称ミス宮コーで女優の新垣結衣似でもあり美貌にも自信をもっているが、美貌に格闘と同じぐらいお酒の強さも自負していた加奈子は、本当に飲み比べで負けるとは思いもしていなかったのだ。

適当に酔ったふりをしようと思ったのだが、そんな必要はなく、サブローはとんでもなく酒に強かったのだ。

しかしサブローもまさかこの新垣結衣似の抜群のプロポーションを誇る加奈子が、この国では知らない者もいないほどの超巨大企業の宮コーの幹部社員で銀獣と敵対組織から恐れられる存在であるとは想像もしていないであろう。

そんな銀獣である時の影は微塵も見せない1人の可愛い酔った女性と化している加奈子は、サブローの整った顔にも、酔って桜色に染めた顔を覗き込まれ、アルコールで色づいた顔を更に赤くさせてしまい目を逸らせる。

首筋にかかるサブローの吐息、自慢の胸を異性に触らせているという非日常的な刺激に加え、先ほどから「可愛い」を連発されてしまっては、銀獣と恐れられる加奈子も、自らがメスであることを自覚せざるを得ない。

とはいっても、元来負けん気の強い加奈子は、こうなりたいという欲望が無かったわけではないのであろうが、勝負と名の付くものは勝たずにおれない性格から自分から降参の言葉を言えそうもない加奈子に、サブローが助け舟を囁いてきた。

「なかなか降参言わへんな・・・。せやけど、もうカナコにこれ以上飲ませたら続きができへんようになってしまいそうやからな。そのカナコのショットグラス、俺が空けたら俺の勝ちや。それでええな?」

サブローは優しい声でそう言うと、加奈子の返事を待たず、テーブルに置かれた加奈子のショットグラスを手に取り、ぐいっと飲み干してテーブルに置いた。

「俺の勝ちやな?カナコ」

笑顔でそう言い顔を覗き込んでくるサブローに加奈子は

恥ずかしそうにコクンと頷いた。

(いい香り…ウルトラマリンかしら…着流しにウルトラマリンって…本当に変わったひ・・・と・・・)

そう思った瞬間、加奈子の口が塞がれる。

「んんん?!」

突然の濃厚で優しいキス。

最初は驚いたが、すぐに目を閉じ、サブローに唇を貪られるに任せ、加奈子も舌で応える。

軽く撫でられていただけの胸も、手つきが変わり、胸を揉みしだかれ声をあげさせられる。

そして、ひとしきり加奈子の胸の感触を堪能したサブローはキス続けながらも、手慣れた手つきでチュニックの裾から手を入れ加奈子の自慢の豊満な胸を包むピンクのブラジャーを上にずらした。

明るい部屋で露わとなった加奈子の見事なEカップは数える白い胸を優しく鷲掴むと、すでにこれでもかと硬くさせている乳首を人差指と親指で弄んできたのだ。

「んはぁ・・あう!んんんん!(他人に胸を触られたのっていつぶりだろう・・・)」

直接胸を責められ、吐息を漏らした加奈子の口を塞ぎなおすように、濃厚なキスが続けられる。

サブローは、今度はデニムに手を伸ばし、ファスナーを外し始めてしまう。

「あ!・い、いやぁ・・んん・!」

加奈子はキスの僅かな隙を見つけ、言葉だけの否定を口にするが、サブローはその社交辞令を無視し、キスも手を止めないで続ける。

口ではそう言ったものの、加奈子自身もサブローが作業しやすいように、ヒップをソファから浮かし、デニムパンツを脱がしやすくしてしまっている。

「ほんま可愛い女やな・・。イヤイヤいうても、キスも身体も全然嫌がってないで?」

サブローは脱がせたデニムパンツを隣のソファに投げ、露わになった加奈子の引き締まってはいるが魅力的な脚線美を撫でながら言う。

「ああ・・!恥ずかしいわ!私だけ、いっぱい脱がされちゃってるじゃないの・・」

加奈子はピンクのバタフライティーバックが露わになっているのを今更恥ずかしがるように、膝をソファの上にあげ、正面から見ると膝を交差するようにして隠した。

「その恥ずかしがる仕草がええんや。ショーツも紐パンなんか履いて、色っぽいのつけてるなぁ。ほら、俺の勝ちやったんやから、素直にならんかい」

サブローは恥ずかしがる加奈子の背後に完全に回ると、胸を弄んでいた手は加奈子の左膝を掴んで股を広げるように動かした。

同じく右膝も・・。

「ああああ!・・だ・だめよう!」

ショーツを履いているとはいえ、ソファの上でM字開脚に近い恰好に身体を広げられた加奈子は、顔を反らし、両手は忙しそうに股間と顔を行ったりしたりしながら、どちらも隠そうと無駄な努力をしている。

恥ずかしがる加奈子の表情を、愛おしそうに眺めながら、サブローは構わずチュニックとブラを纏めて掴むと一気に上をずり上げた。

加奈子の形の良い豊満な双丘が完全に露出されぶるんと現れる。

「ああああ!や、やだ!・・恥ずかしい!」

ピンクのブラジャーを上にずらされる時、先端を堅く尖らせてしまった乳首が擦れ、自分の乳首が痛いほどそそり立っているのが嫌でもよくわかる。

ソファーの正面には大きな姿鏡が置いてあり、両足をM字に広げられ、乳房を丸出しにされた女性が写っている。

加奈子は自分のあられもない姿を、確認させられるように顎を掴まれ鏡の方へ顔を向けさせられた。

お揃いのピンクのブラジャーとショーツ。ショーツはティーバックのバタフライショーツで隠す生地部分も少ない。

ブラジャーは捲られ、生地の薄いショーツもその中心部分はすでに濃いピンク色が縦に長い楕円形の模様をつくってしまっていた。

「だだ、だだだめ!」

姿鏡に映った自らの恥ずかしいショーツの有様に、慌てて股間を右手で隠し、左手は鏡のほうへ向けて、まるで見ないでと言っているように手のひらを広げてしまう。

「もう準備ばっちりなんやなぁ、カナコ。どや?初対面の知らん男に接吻されまくって洪水のように濡らせてしもた気分は?ほんでも、その恥ずかしいシミ、バレたんがまた感じてくるやろ?・・ん?・・それにしてもカナコ・・」

そう言うとサブローは、加奈子の手首を片手で束ねるように掴むと、加奈子の頭の後ろまで持ち上げた。

そして無防備になったショーツ周りに、もう一方の手を伸ばし、Vラインをなぞる。

「ひあああぁ」

加奈子は情けない声をあげてしまうが、サブローは構わずに加奈子のショーツをぐいっと少しだけ下にずらした。

「ちょっ!・・いや!うううう!」

サブローは加奈子のショーツの中に手を突っ込み、肝心な部分には触れないように、恥骨付近やIラインを確かめるように優しく撫でまわした。

「カナコ・・・生まれつきか?」

「・・うぅ」

女性自身である部分周辺をしっかりと確かめられた加奈子は、返事にならない声を上げ、目を逸らし頷くのがやっとだった。

「パイパンなんか。ますます気に入ったで」

「恥ずかしい・・」

「せやな。恥ずかしいよなぁ。下着も濡らしてもてるし、今日会ったばっかりの男に見られてしもてなあ。それにパイパンマンコも見られてしまう訳や。パイパンやからよう見えてしまうでえ」

(歳は聞いてないけど27,8ってところやろな・・。生娘ではないにしても・・この恥ずかしがりよう・・)

サブローは、年の割に恥ずかしがりまくる加奈子を面白がるように煽る。

(演技やのうてホンマに恥ずかしがっとる・・・。こんな上玉やからてっきり経験豊富やと思とったんやが、案外経験少ないんかもしれん)

加奈子の両腕は、いまは頭の後ろで手首をつかんで固定しているので、脚は自由に動かせるはずなのに、M字にされた脚は開いたままで、加奈子なりにサブローを頑張って喜ばせようとしている。

(恥ずかしがっとるけど、それがええみたいやな・・どれ・・)

サブローは加奈子の手を掴むと、一度降ろさせ背中に回させた。

「な、なにするの・・?」

加奈子が少し不安そうな声をあげるが、サブローは「ちょっとこうやってみ」といい加奈子の手を背中で交差させる。

そして右手で左の、左手で右のバタフライショーツの紐の部分を加奈子の指でつまませたのだ。

「カナコ。引っ張りすぎたらあかんで?ショーツの紐ほどいて、自分から御開帳してまうぞ?」

背中で腕を交差させ、ショーツの紐を親指と人差し指で摘ままされた加奈子は、自ら解いてしまわないように胸を突き出すような恰好で、セルフ拘束のような恰好にされてしまった。

「うぁあああ。こ、こんなの・・!」

「どや?気に入ってもらえたか?紐パンなんて履いとるからや。自分の姿よう見てみ?」

サブローは、両腕を背中で交差させた不自由な格好の加奈子の顎を再び掴むと、姿鏡を見せるように顔を正面に向けさせる。

「ああ!うう・・!」

後ろ手では左右逆手で紐パンを摘ままされ、紐を解いてしまわないよう胸をそらせてたM字開脚の女が、顔を真っ赤にして欲情しているのが見える。

「恥ずかしい女がおるやろ?・・さ、続けるで」

サブローはそう言って加奈子の正面にまわり、無防備になった胸を揉み、ショーツごしに固くなった陰核を探し当て愛撫し始めた。

「あああああ!」

加奈子はようやく与えられた本格的な快感に、脚を閉じようとしてしまったが、脚を閉じようとすると摘ままされている紐がしゅと音を立て、結び目が少し緩んだ感触に驚いて、慌てて足を広げる。

「あふぅ!んんんんん!こ、これ!・・ああ、意地悪ぅ」

結果、腰も前面に突き出すようになってしまい、自ら陰核をどうぞ触ってくださいと言わんばかりの格好になってしまうのだ。

「楽しんでくれてるみたいやなぁ」

形よく先端を堅く尖らせた乳首を舌で転がし、加奈子の美しい顔をよりシャープに見せる細い顎をあげて仰け反って喘いでいる加奈子の表情を楽しみながらサブローは満足そうに言う。

ほぼ全裸で胸と腰を突き出し、身体を開いた状態の加奈子を正面から愛撫を続けているサブローは、加奈子の鍛え上げられた、それでいてきめ細かく白い肌を無遠慮に撫でまわし堪能している。

(それにしてもカナコの身体・・めちゃめちゃ鍛え込んどる・・・。なんでや?・・・この鍛え方は尋常やない。なんかのプロアスリートか・・・?しかし、下半身だけやのうて、背筋や腕までも・・いったい何のスポーツやねん・・。あかん、俺あんまスポーツに詳しないねん。しかも日本のプロアスリートやとしてもわからんしな。・・でももし、そうやとしたら俺とは違った意味で素性明かしにくいんやろな。有名な選手で、内心正体がバレへんかドキドキしながら楽しんどってくれたら嬉しいんやが・・)

服の下に隠されていた加奈子の豊満ボディの正体が、女として男を誘う魅惑的なプロポーションという性能だけではなく、実質的な機能をも持ち合わせていることに、サブローは素直に感嘆つつも、明後日の方向に妄想を膨らませてしまっていた。

サブローが妄想しながら、ショーツ越しに陰核を責めていると、加奈子の引き締まった腹筋が上下に収縮し、サブローの指が怒涛の勢いで送り込んでくる快感に反応している。

それを見て、加奈子が本気で感じているのを確信したサブローは、少しぐらいなら痛みが加わっても快感になるやろと思い、乳首を軽く甘噛みてやりながら、もう一方の乳首も指で転がしてやる。

そして、同じく乳首なみに硬化させている陰核も、ショーツ越しに摘まみあげクリクリと転がしてやると、加奈子は今まで以上にのけ反って可愛らしい声を上げだした。

「きゃう!ああっ!・・い、いやあ!」

(・・美人すぎて男が近づき難かったんやろか・・。こんな軽い刺激でも、めちゃめちゃ感じまくるほど経験少ないやんか・・。かなりのM気質やのに、全然開発されとらん)

サブローは加奈子の喘ぎ声が大きくなったことと、刺激を与えている陰核周辺のクロッチの湿り具合が増したのを見て確信する。

ショーツのクロッチ部分は、すでに加奈子の愛液ですっかり湿っていたが、今の刺激で更に溢れてきており、ショーツ越しに擦ってやっても、にちゃにちゃと粘着音を発し出したのだ。

陰核責めが相当気に入ったのだと感じたサブローは、湿った布ごと陰核を摘まみなおして、軽く恥骨に押し付けるようにすると、さらに時計回りにくるくると回転させた。

「あああぅ!だ、だめえ!そんなことされたら!」

「クリは感じるよなぁ?カナコ?・・そんなことされたらどうなるんや?」

「い、逝っちゃうから!」

「はは、はっきり言うてもたな。逝ってもええで?しっかし、初対面の男に逝くところ見られるんやぞ?なかなかな快感やろ?ほら、一夜限りやでカナコ。思いっきり乱れても後くされなしの相手や。遠慮せんと思いっきり恥ずかしいところ晒してしまえや」


一夜限りというサブローのセリフに、加奈子もその気になってきてしまう。

サブローが押し付けてくる陰核への刺激をもっと貪ろうと、はしたなく腰をぐいぐいと突き出してしまう。

乳首と陰核への愛撫も加奈子の喘ぎ声に合わせて、激しくなる。

(ああああ!だめ!もう!)

加奈子は恥ずかしさから無駄に絶頂を我慢していたが、もうそれも限界に達したことを悟った。

「逝く!!っああああ!!!」

弾ける瞬間、加奈子は頤を跳ね上げ髪を振り乱して、ソファの背面に後頭部をぶつける勢いでのけ反った。

足の指は開き切り両足も天井に向けてあげられている。

逝ってしまった恥ずかしさから、両手で胸、そして顔を覆うように手を伸ばすと、摘ままされていた紐を自ら解いてしまい、逝った瞬間と同時に最も恥ずかしい部分を自ら曝け出してしまった。

「あっ!?・・だめ!い、いや!」

加奈子は紐をほどいてしまったことにすぐ気づくが、紐パンは一度解いてしまえば、すぐに履きなおすのは無理な構造のショーツだ。

養老の滝のごとく淫液を物凄い勢いで垂れ流す水元の秘唇や加奈子の快感の度合いを表すように固く勃起しきった陰核を自ら露わにしてしまった加奈子は、見慣れないほど普段とは違う無毛の自らの秘所を隠そうと慌てて身を丸くした。

そんな加奈子を強引に立ち上がらせ、正面から抱きすくめたサブローは、果てて息も絶え絶えの加奈子に濃厚な口付をする。

「んんんんん!んはぁ!んん!ちゅ!」

加奈子も積極的にサブローのキスに応え、サブローの背中に両腕を回して抱き着く。

着流しを着たままではあるが、引き締まったサブロー体躯、加奈子の豊満な胸が、サブローの鍛え上げられた胸板に押しつぶされるほどきつく抱きしめ合い、口づけを交し合う。

熱愛中のカップルのような口付けを3分ほどしていた二人だが、ようやく唇を離し見つめ合った。

ハァハァと息を切らし、見つめ合う二人。

サブローが恥ずかしげもなく加奈子に囁く。

「カナコ可愛かったで・・」

「・・・(サブロー…私の正体を知ってもそう言ってくれる?)」

と、聞きたくても聞けない言葉を心の中で呟く加奈子。

鼻と鼻、唇と唇がくっつきそうな至近距離でそう言われた加奈子は、なんとも言い返せず恥ずかしそうに一度眼を逸らして、そしてはにかんでサブローを見つめ返す。

口では何も言えず、それが精いっぱいだった。

「・・カナコだけほとんど全裸になってしもたな。それだけ首に巻き付けてても、もうしゃーないやろ」

サブローはそう言うと、加奈子の肩に引っかかっている白のチュニック、黑のタンクトップ、ピンクのブラジャーを纏めて引き上げ、本当に加奈子を全裸にしてしまう。

「ひゃっ!」

加奈子は、いきなり一糸まとわずの格好にさせられ、慌ててその豊満な胸を両手で隠し、腰を引いて両ひざを合わせた。

「ほんまにええ身体しとるのう・・。今日限りで手放すんがマジで惜しいわ・・。ちょっと摩っただけで逝ってまう感度も最高やし・・。素直にマゾっ気が強いんもええ感じや。・・・しかしプライドが案外高そうな雰囲気もあるから・・カナコ、普段見くびられんような仕事してるやろ?」

「ば!ばか・・・言わないでよぅ・・お互い詮索しないんでしょぅ(私だってあなたの事をもっと知りたいと思い始めちゃうじゃないの・・・)」

手をあげサブローに一瞬抗議するような仕草を見せ、声を大きくさせかけた加奈子だったが、恥ずかしそうに拗ねた表情で胸元を隠して身を縮めてしまっている。

(可愛ええ・・。ほんまに可愛ええな。もしも許される身やったら・・・こんな女がええわ)

身をよじり、身体を隠すようにしている加奈子の仕草にサブローは、正直にそう思った。

しかし、首を横に振ると、

「そやったな。すまん・・追及せえへんで。・・しっかし、そんな顔みせられたら・・。俺も我慢できへんし、そろそろ・・」

サブローは気を取り直し、そう言うと濃紺の帯を素早く外し、着流しをするりと脱いでしまった。

ボクサーパンツだけの姿になったサブローの股間は、大きく膨らんでいる。

「カナコも全裸やしな」

サブローはそう言うとパンツを下ろした。

ぶるんと現れたそれは、20cmほどはあるだろうか・・。

加奈子は自分に対してエレクトしてくれている大きなそれを、胸を隠しつつ、まじまじと見入ってしまった。

(・・・あんな大きいのが・・わたしに・・みっ見た事ないってあんなの・・・)

加奈子のはしたなくゴクリと喉を鳴らしそうな表情に、サブローは

「ほなら、まずは俺のを口で味わってもらおか・・・。どいうのが入ってくるのか、しっかり上の口でリハーサルしてからや」

と言って、加奈子の手を取り、自分の前に跪かせたのだった。

(・・・どのぐらいあるやろかこの女・・・。最低でも80ぐらいいければええんやけど・・。さっきのクリイキで13や。まあ、最初のクリイキはけっこう高い数字でるから、中やと10~12・・・最高に刺さっても15ぐらいか・・。でもまあ、大抵の女は4,5回てとこやろな・・。ともあれ、暫くしゃぶらせたらわかることや・・。100以上とかあったら最高なんやが・・)

サブローの内心の計算と思惑など知る由もない加奈子は、はにかみ、おずおずと素直に跪いて、サブローに頭を撫でられつつも頭を押さえらている。

そして、その20cmはあろうかというサブローの弩張りを、口にあてがわれようとしていた。

加奈子はいま思念、オーラを身に纏っていない。

普段、防御系のオーラを纏うということは、「警戒してますよ」というサインでもあり、防御思念は特定の相手に警戒心を向けると、相手にも伝わりやすいという特性をもっている。

だから親しい能力者同士でそれをするのは、少し失礼に当たるのだ。

当然、最初はサブローのことを警戒していたのだが、加奈子は相手に悟らせないよう巧妙にコントロールしていたし、触れるほど近づかれることはなかった。

もちろん普段はコントロールなどせず、むしろ、ある程度周囲にわかるように展開している。

加奈子や真理も、勤務中は立場上常にオーラを纏って警戒せざるを得ないからだ。

KYなうえ、標的とされやすい佐恵子に至っては、誰の前でも無遠慮に防御思念を全力展開している有様だったが、今はオーラが上手く使えず、狭い範囲で、できるだけ展開しているようだ。

以前の彼女の、刺すような圧迫感は【感情感知】を展開しているのと同時に、強力な防御思念も展開している為であるのだ。

だがいまの加奈子は、自らを絶頂に誘ってくれたサブローに気を許している。

いまの加奈子は防御思念を纏っておらず、いわゆる0オーラ状態である。

加奈子が、唇にあてがわれていた弩張を、控え気味に恥ずかしそうな顔で舌を少し這わしはじめると、サブローはかるく掴んでいた加奈子の頭を、髪の毛ごと少し強引に掴みなおして、一気に喉奥まで貫いた。

「んぐぅ!?」

加奈子は性経験の少なさとその知識不足ゆえ、セックス時でも、能力を使ってくる男がいるということを全く知らないのであった・・・

【第9章 歪と失脚からの脱出 22話 銀獣を淫獣にしてしまう男 終わり】23話へ続く


第9章 歪と失脚からの脱出 23話 サブローの魔技【負債】

第9章 歪と失脚からの脱出 23話 サブローの魔技【負債】

ソファに座ったサブローの前に跪いた加奈子は、硬く反った弩張を喉まで使い奉仕している。

「んっんっんっ・・!ちゅぷ・・」

加奈子自身、男に対しここまで奉仕するのは初めての経験である。

(こんなに硬くなって・・私を見て興奮してくれてるんだわ・・)

そんな男の前に全裸で膝をつき、口で奉仕をして喜んでもらう・・。

性経験の少ない加奈子は、最初こそぎこちない仕草であったが、持ち前の呑み込みの早さを発揮し、男がどうすれば良くなるのかがわかってき始めていた。

サブローの反応も加奈子の熟練度が上がってきたのを示すように、僅かに反応を変えてきている。

(・・あぁ・・こんなに頭が痺れるなんて・・。いきなり押し込まれたときは驚いたけど・・それはそれで・・ああ・・)

普段押さえつけているM気質を抑えることもなく、加奈子は舌と口内を巧みに使い、全裸で頭を振る。

跪いた脚の両内腿には、すでに幾つも水滴が伝った跡があり、それらは膝に達しては絨毯を汚してしまっていた。

普段は明るく、気さくを装いつつも、職務上一線を明確にし、既定のスーツで身だしなみをかため、凛と澄ましている自分を思い出す。

だが、いま全裸で膝をついている姿とのギャップに思いをはせると、加奈子の胸の双球の先端はさらに硬度をまし、股間は更に潤いが増していくを感じてしまうのだった。

普段とはかけ離れた一夜限りの行為に背徳感がつのると、背中には鳥肌が粟立ち、普段は男性顔負けの仕事をこなしている加奈子を自分は女性だと嫌でも強く自覚させる子宮や陰核は、先ほど与えてもらった全て初めての強さの快感や刺激を強請るように、周囲の筋肉を痙攣させてきている。

口で奉仕、子宮は下の口にもそれを寄越せと言わんばかりに、筋肉を収縮させ腰をいじましく揺らせ、準備が整っていることを男にアピールするかのようにわななきだしている。

(・・挿入してほしい・・これを・・)

女性の脳は子宮にもあると言われるが、加奈子の脳はその第二脳の信号を受け、すでに操縦桿をすっかり奪われている。

「ああ・・ん!んちゅ・・さ、サブロー・・・おねがい・・もう・・」

サブローは、自らの足の間で熱い吐息を時折交じらせ、潤んだ目で見上げてくる女に見下ろした。

今日バーであったばかりのカナコと名乗る女と目を合わせ、そのセリフを聞き満足した表情で口角をあげる。

「まだや。せっかくやし、そのおっぱいも使うてやってみせてくれや」

「お、おっぱいも・・?」

サブローの言っていることがわからないほど初心ではない加奈子は、自身の自慢の胸を両手で持ち上げるようして恥ずかしがっている。

「こ、こう?」

経験が薄い分、普通はするものなのか?と考え素直に従える加奈子は唾液で湿らせたサブローの弩張りを双丘の間で挟むと、その先端を口に含んだり舌を這わせたりして見た。

上目遣いでサブローの反応を伺うように両手と口を動かしている。

「おぉ・・ええで。そのぎこちなさが商売女みたいやなくてええな。・・おっぱいも口も使うて男に奉仕するん気もちええやろ?」

上目づかいで頷き、舌を出している加奈子は言葉で煽られ、さらに女の部分を火照らせられる。

「んんっ・・ちゅぷっ」

豊かな双丘で20cmほどの弩張をはさみ、さらに両手で自身の胸を押さえ刺激を与える。

加奈子は、先端の鬼頭には優しくチロチロと舌を這わせたり、浅く口に含み喜んでもらう。

(は、はやく・・ほしい)

卑猥な奉仕をしながらも加奈子は、目の前のこれを自分に入れてほしいという思いでいっぱいであった。

サブローは、バーで見たこの女を見た時、サブローの豊富な経験をもってしても墜とすのは困難かもしれないと思わしめる女であったが、なぜかこの女も隙があるように見えたので、一応念のために口説いてみたが、こんなに上手く行き、墜とせばここまで従順になるとは思いもよらなかった。

(・・普段はもっと気の強い女なんやろな・・。パイズリまで披露してくれるとはなぁ・・。一夜限りということでタガをはずしとるんやろ)

そんな加奈子の蕩けぶりに満足しつつも、サブローはこの女に掛ける能力の発動条件が満たされたのを感じた。

(10分たったな・・どれ・・)

サブローは、一生懸命に口を窄め、一心不乱に頭を振っている加奈子の頭を両手で掴むと、能力を発動させる。

(・・んん??・・はぁ?!・・う、嘘やろ・・?224ってか!・・ツラやスタイルだけやのうてこっちの方も・・大概やな・・)

サブローは加奈子の頭を見下ろしながら、関知した値に驚きつつもサディスティックな笑みを浮かべてしまう。

200超えの女など初めてだったのだ。

それどころか100を超えた女は、ここ1年ほど見たことがない。

(・・きっつい思いさせるかもしれへんけど、その分狂わせたるからな・・。カナコの人生で、最高に気持ちよかった男として記憶に残らせてもらうで。これで、また自慰の時に、俺を思いだして、股間擦る女が増えるんやと思うと堪らんわ・・)

サブローは加奈子の頭を再度押し下げ喉奥を犯し、今の表情を見られないようにしてから薄く笑う。

「んんんっ!!・・・・っ!・・っ・・・んはぁ!」

喉奥を犯されるように突かれていた加奈子は、酸素を求めて、吐息を吐きだしながら顔を上げる。

口からは涎を糸のように引き、一夜限りという言葉で、二度と会う事もないであろう、相手に蕩けた顔を向け乱れ切っていた。

その糸を伝うように再び弩張を口に含む。

「よっしゃ・・」

サブローはそう言うと、跪いた加奈子を持ち上げ、脚を開かせ膝の上に乗せた。

「きゃっ!・・・わっ!・・ちょっ!ひゃ?」

急に持ち上げられ、普段はその2本の美しい脚は、自身や佐恵子を守るために振るうのだが今日は1人の男性を前にしても無力に開脚した格好でサブローの膝の上に跨らされた加奈子は恥ずかしがるが、サブローはかまわず、すでにぬめりきった加奈子の股間に、弩張りが陰核を潰すように押し当ててきた。

かたちの良い豊満な双丘はサブローの顔のすぐ前にあり、すぐさまその先端は弄び始められる。

「ああああ!こんな格好・!」

両手首は腰の後ろで、サブローの左手でまとめて掴まれ、そそり立った乳首を舌と右手で転がし回してくる。

愛液で滑った陰核には、サブローの固くなった弩張が押し当てられ、はしたなくも愛液を潤滑油として腰をぬちゃりぬちゃりと押し付けてしまう。

「ああっ!恥ずかしい!見ないでえ!」

サブローの弩張に陰核を押し付け、快感を貪るように腰を振りたくる加奈子は羞恥からでたセリフを吐くが、腰の動きはより一層速くなってしまう。

「ははっ・・見ないでって、カナコが勝手に動いとるだけやんけ」

「そ、そんなこと言われたってえ・!」

煽られ羞恥から言葉は出るが、腰の動きは止まらない。

陰核も気持ちいいが、本能は男の弩張を内部に欲しがっている。

加奈子は、恥ずかしさとは裏腹に、更に腰を大きくグラインドさせて、なんとか弩張の先端を舌の唇で捕らえ自らに誘おうとする。

しかし、サブローは素早く腰を引いてしまったのだ。

「あああんっ!」

加奈子は、サブローに断わらず、一気に奥に飲み込んでしまおうとしたのだが、その行為は不発に終わり、不満そうな声をあげた。

「はははっ、惜しかったな。まだ入れさせへんで?なにどさくさに紛れて挿入れようとしてんねん。スケベ女が、ええ?」

不満そうな声をあげ、怨めしそうに見つめてくる加奈子を、サブローは愉快そうに罵り嗤った。

「うぅ・!くぅ!」

スケベ女と罵られた加奈子は、腹立たしさもあるが、それよりも更に被虐心を掻き立てられたようで、腰のグラインドを更に激しく続ける。

「なんや?入れさせへんで?・・・あぁ、自分で擦りつけて、もう一回クリ逝きするとこ見せびらかす気なんやな?・・・・はははっ、初対面の男のチンポにクリ擦り付けて逝くんや?ホンマにスケベな女やなあ。ええで?逝き晒すところみててやるからな」

「かはぁ・・!ひぐっ!・・そんな意地悪言われたってぇ・・止まんないっ・・よう!」

腰の後ろで掴まれたままの手首、白い喉をのけ反らして加奈子は喘ぐ。

ぬちゃぬちゃと粘着音をさせ、男の膝の上で快楽を貪る。

まだ刺し込まれてもいないのに、加奈子は再度頂上に一人で登り始めた。

「ああっ!逝くっ!また逝くわ!ああ!恥ずかしい!!」

「ちゃうわ。逝かせて頂きます。って言うんや」

絶頂限界、身体も仰け反らせた加奈子にサブローはそう言うと、ヒップをぴしゃりと叩いてやる

「いっ!・・逝っ!・・逝かせて頂きますぅ!!」

サブローの指示通りのセリフを口走った加奈子は、言い終わると同時に仰け反った格好のままガクガクと痙攣し、今日2度目の深く長い快感を全身で貪ったのであった。

~~~~~~~

【負債】:女が快感でどのぐらい逝き続けられるのかを数値化した能力で、【負債】を掛けられた対象の女は、逝くたびにその快感に応じた値が累積していく。その累積値が、逝き続けられる最大に達した状態で、男の射精を身体に受けると、そのSEXで味わったすべての絶頂を一度で味あわなければならない。サブローが独自に開発したSEXにのみ使用できる能力である。ちなみに相手が能力者の場合だと普通の女性が50の値の負債を射精時に一気に浴びるとするならば能力者の場合はその8倍の400の絶頂時の快感を浴びることはサブローもまだ知らない。ちなみにサブローが数値化した1で普通の女性がローターで自慰をしたときに感じる快感くらいである。

「きゃうううっ!サ、サブロー!もう!私!・・ああああ!また!・・・」

正常位、騎乗位で散々逝かされた加奈子はそれで十分満足していたのだが、今は四つん這いにさせられバックで貫かれていた。

「何回逝ったんや?ええ?こんなに連続で逝かされたことないやろ?!」

サブローはそう言いながらも、加奈子のヒップにバチンバチンと腰を打ち付け、ペースを落とさず突き上げてくる。

「くぅうう!はぅ・・ま、またぁ!・・・っ!い!っ逝かせて頂きますっ!!」

バックになってから3度目の絶頂に身を震わせ、加奈子は躾けられた通り叫んで逝き晒した。

「そやそや、ちゃんと断ってから逝くようになぁ。俺はまだ一回も逝ってないねんで?そなのに、カナコは遠慮もせんと逝って逝って逝きまくってるんやからな。そうやって口だけでも謙虚なとこ見せへんかったら、挿入れてくれてる男に対して失礼やろ?」

そう言うとサブローは少し腰の動きを緩めて、シーツに突っ伏した加奈子の頭を後ろから掴んで持ち上げた。

「ははっ、バーで会うた時と顔全然ちゃうな。ほら鏡みてみい。目逸らすなや?」

加奈子の正面には姿鏡が置かれており、自らのあられもなく乱れ嬌声をあげる姿を見せられながら、背後から貫かれていた。

サブローのセリフに加奈子は顔を背けようとするが、顔を鏡に向けるよう掴まれピストンを再開される。

「あん!あん!あん!っあ!ああ!」

もともと体力の多い加奈子は容易に気を失うこともできず、何度も何度もサブローの弩張りに絶頂を与えられていた。

加奈子はすでに18回逝っている。

1時間という短い間で、サブローのテクニックと絶倫な体力に責めぬかれて息も絶え絶えだが、意識はいまだしっかりしており、気も失えず快感の波は高く維持されたままだ。

(・・くっ!カナコのマンコすごい締め付けや・・。鍛えこんでるみたいから、中もめっちゃキツい。まさかこっちが先に参ってまうわけにはいかへんからな・・。せっかくため込ませた負債がパァになってまう。せやけど今ので200超えたな。あと2回ぐらいか・・。飛ばしたるからなカナコ)

「ひああ!ま、また!・・・ああああああ!また逝かせて頂きますうう!」

四つん這いで、後頭部がお尻にくっつかんばかりに仰け反った加奈子が、汗に濡れた髪を振り乱して大声をあげて果てる。

「カナコ。もう一回や!もう一回逝かせてやるからな。俺もそろそろやし、加奈子の中に出すで?ええな?」

ゼエゼエと絶頂の余韻に顎を震わせていた加奈子だが、中に出すと言われてさすがに驚いて振り返る。

「だ、だめよぅ!中なんて!」

「なに言うとんや。最初っからゴムもつけとれへんやろ?それに中に出す言われてから、カナコのマンコもっと締め付けてきてるで?カナコの下の口は欲しがっとるみたいや。いやらしい女やでほんま」

「だ、だからって!中にだなんて・・!ああああ!!」

サブローは加奈子の抗議を無視して、括れた腰をがっちりと掴むと深く速くピストンをはじめた。

今までのストロークも強烈だったが、明らかにペースの上がったピストンに加奈子はサブローの終わりが近いことを悟った。

そしてそれが終わると中に出されてしまう。

ダメだと頭では分かっているのに、そう考えるとカナコの突起部分は全て固く尖り、愛液は更に溢れ、膣や子宮口は男の放出を吸い上げようと筋肉を収縮させだす。

「ああああ!あああっ!だめ!だめなのにぃ!あああ!!また!!逝くぅ!!っ逝くぅう!!」

サブローの激しいピストンのさなか、加奈子は20回目の絶頂を、全身を震わせた。

「っ!・・・っ!!!」

ヒップを突き出し仰け反ったまま、汗まみれのカナコは声もなく目を瞑り、美しい顔を快感に歪め、それを全身で味わっている。

長い長い強烈な余韻に耐えている顔を、姿鏡に映しサブローを楽しませてしまっているのも知らずに逝き顔を晒し続ける。

そして加奈子が逝った瞬間、サブローが掛けていた【負債】も上限に達し加奈子を飛ばす条件があと一つを除いて満たされた。

「逝かせて頂きますって教えたやろ?ちゃんと言われへんかったからお仕置きや」

打ち付ける腰の速度を落とすことなくサブローは無情にそう言うと、加奈子の腰を更に引き打ち込んでくる。

ばちん!ばちん!ばちん!・・・。

「ひあぁ!!ゆ、ゆるして!!も、もう!!ほんとにダメ!!もう十分逝ったからああ!!」

四つん這いになっていた加奈子は、制止させようととっさに右手をサブローの方に向けようとしたが、加奈子のマンコを使ってサブローも弾けた。

生暖かいモノが肌に迸った感覚があった瞬間、たった今逝ったばかりだというのに、加奈子の股間が否・・、全身に信じがたい絶頂が一気に襲ってきた。

「きゃああああああああああ!!!(うそうそうそうそっ!なにこれ!?)」

絶頂の快感値は数値にして一回12平均ぐらい。

それを20回で約240の快感値が加奈子を襲ったのだ。

が、サブローすら気づいていないが、加奈子は能力者なのでその実、加奈子が今受けている絶頂値は加奈子の限界値の240ではなく1920なのである。いわば橋元の媚薬を3,4回重ね掛けされたうえに能力者に犯されたくらいの快楽であろうか?

「あああ!!ぐうぅうう!きゃああああああああ!!!・・・(しっ死んじゃうぅぅぅぅ)」

加奈子はベッドの上で、あまりの快感に髪を振り乱し暫くのたうち回っていたが、すぐに目を反転させ気を失ってしまった。

「はぁ!はぁ・・!あ~~・・気持ちえがった~・・・。って、カナコ、気失ったか。そらそうやろな・・。20回分の逝った気持ちよさを一回で体験したんやもんな」

サブローは気を失った加奈子を気遣いながらも、自身も久しぶりのSEXに大満足していた。

「ああは言うたが、ほんまに中に出したらかわいそうやしな・・。そういうプレイやっちゅうだけや。どや?中に出すって言われた方が興奮するやろ?」

ベッドにうつ伏せに突っ伏したまま、気を失って動かなくなった加奈子にそう言ってみるが、当然返事があるはずもない。

サブローは、ベッドに横になって気を失っている加奈子の髪の毛を優しく撫でてやりながら、頬に軽くキスをする。

「・・・カナコか・・・」

サブローは少し寂しそうな顔をしてそう言ったが、加奈子の身体を拭いてやり、シーツをかけると、シャワー室へと消えて行った。

サブローは、射精の瞬間に引き抜き、中には出さず加奈子の形の良いヒップ目掛けて放出していたのだった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 23話 サブローの魔技【負債】終わり】24話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 24話 菊一三銃士VS髙嶺六刃仙

第9章 歪と失脚からの脱出 24話 菊一三銃士VS髙嶺六刃仙


もうそろそろ明け方だというのに曇天のおかげで月明りさえも感じられない。

孤島の端に道らしい道などあるはずもなく、海から吹き付ける強風のなか3人は道なき岩肌を駆けていた。

海面に着水してから、島まで泳ぎ、海水で濡れた身体を乾かした後、軽食を取ってある程度身体が温まると、即座に作戦を開始したのだ。

吹き荒れる海風と、時折波が岩肌に叩きつけられる音が大きく響く。

濡れて滑る切り立った高い岸壁が、唯一の道だというのに暗闇で視界も悪い。

耳に付けた通信機から聞こえてくる猫語尾の可愛らしい声を頼りに、未だ暗闇に近い視界の中、ほぼ垂直に切り立った岩肌から岩肌へと跳躍を繰り返す。

3人は【暗視】と【肉体強化】を発動させ、常人ならざる速度で進んでいるのだ。

『ひゅ~・・・驚きにゃん。支社長から聞いてたにゃんけど、本当にこんな過酷なルートに誘導しちゃってもいいのか心配してたにゃん』

美琴は菊一の3名。菊沢宏、豊島哲司、三出光春の身体能力に口笛を吹き正直に感嘆した。

事前に宏達の説明を紅音や丸岳から聞かされていたのだが、ここまで高いレベルだと思っておらず、むしろ3人の力をあやしんでいたのだ。

たんなる町探偵が、まさかこれほどの動きができるなど思ってもいなかったのだった。

きっとラブホテルの前でカメラを構え、あんパンを食べながら、ひたすら待ち続けるのが主な日課だと偏見を持っていたのだ。

しかし衛星で捕捉している望遠映像では、3人は切り立った崖を、物凄い速度で飛ぶように進んでいる。

「なんやーミコにゃん?このぐらい昼飯前やで?」

「そうみたいにゃね。・・実は潜入っていったら大抵美琴の仕事だったにゃんよ。モゲちん達が美琴ほど動けるわけにゃい、と思ってたにゃんから正直モゲちん達が起用された時は、不安だし心配だったにゃん。・・・けど、いけそうにゃんね・・」

通信機からは、モゲの得意そうな軽口に対し、正直に言っている様子である美琴の、可愛らしい猫語尾語が聞こえてくる。

「あたぼーよ。惚れてもええんやで?」

『にゃははーん。それはないにゃん』

「も・・モゲちん?・・ってすごいネーミングやな・・」

更に調子に乗ったモゲのセリフをバッサリ切った美琴に、哲司が小声で三出光春のことをモゲちん呼ばわりしたのを指摘するが、美琴は気にした様子もなくウキウキした口調で続けた。

『これだけ速いとこっちも楽ちんにゃん。仕事が早く終わるにゃ~ん。このペースなら10分もしないうちに目的の建物が見えてくるにゃんよ。スレートとトタン張りの錆びだらけの建物にゃよ。西側の方が手薄にゃん。其処から侵入するのが良いと思うにゃんけど、樋口が出入りしている部屋は建物の北側のはずにゃん。建物の見取図はすでに送ってある通りにゃんから、潜入後はヒロポンに行動権限は委任するから、細かい瞬時の現場判断お願いするにゃん。なんせ建物の中は見えないにゃんから・・』

「・・・ヒロポンって・・、まるでご禁制のお薬みたいやん・・」

ヒロポンとは、おそらく宏のことであろう。

哲司は美琴にそう名付けられている宏を、走りながらチラリと見るが宏に変った表情の変化はない。

『そう言った方が美琴的にはしっくりくるにゃん。ちなみにお兄さんのことは俊作って呼ぶことにしたにゃん』

「ぶっ!がーはっは。そっくりや!ないすミコにゃん!ちょっとテツよ。『事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだっ!!』って言うてみてくれや?」

美琴のセリフにモゲが声をあげて笑いだす。

かつて、大人気を博したドラマの主人公の名前なのだが、その俳優が哲司にそっくりなのである。

「なんやねんな・・・」

やれやれといった感じで哲司はため息をついたが、ハッとなってさすがに騒ぎ過ぎたかと、リーダーの宏の方にチラリと顔を向けた。

「ノリが悪いぞ俊作!そんなんやから、すみれに呆れられるんや!」

哲司は、モゲの戯言を背中で聞き流し、宏の眉間に皺が寄せられていないかと様子を探る。

しかし、宏はこの手のことには最早慣れているようで、モゲたちのバカ騒ぎを気にした様子もなく、この暗闇の中だというのに、相変わらずのサングラスを着用し、今のところ周囲にも危険が感じられないため、特に気にした様子もなさそうであった。

哲司はほっと安心するが、はたと気が付いた。

「ん・・?おい宏」

「ん?どないしたんや?」

哲司は、ふと見た宏の横顔に少し違和感を感じ、つい宏に声を掛けてしまった。

二人とも岩肌を飛ぶように駆けているが、そのぐらいの会話をする余裕は十分にある。

「宏・・。いつの間にかグラサン変わっとるやんか」

「な!なに?!・・・。なんでわかるんや・・?」

モゲと美琴の会話にもクールな表情を崩さずにいた宏だったが、哲司のセリフに驚いて顔を向けてきた。

そんな宏の様子を怪訝に思った哲司だが、珍しいものを発見した興奮と、自らが知っていた知識を話たくなり続けた。

「それって前のプラダと同じ形状やねんけど、それ今年出た限定モデルのヤツやねん。フレームの金属の配合と色合いが微妙に違うんや。フレームの内側にもピジョンブラッドでカットしたエンブレムとロゴが嵌め込んであるはずや。たしか、有名な俳優が付けてて人気がでた数が少ないサングラスやねん。ええのう。そんなレアなモノをまんまと手に入れたんか。素直に羨ましいわ・・」

駆けながら宏のサングラスをマジマジと見ながら哲司は、心底羨ましそうな声をあげた。

「ま、まじか・・。これってそんな珍しいもんやったんか・・・。前のんとおんなじって聞いたんやけど・・」

グラサンを普段着用しているといっても、そこまでブランドに拘りのない宏は、サングラスのフレームを摘まみながら、なにやら表情を渋くさせて呟いた。

「いやいや、全然違うねん。形はほぼいっしょやねんけど、発売されはじめた時の値段も初回のと20倍ぐらい違うし、なにより欲しいても、もう手に入らへんねん。今やと価格は跳ね上がっとるし、次のサザビーズとかのオークションで出品されたら、えらい値段つくかもしれへん。・・・そもそもが有名な職人が作った世界で30個だけの限定ハンドメイド生産やからな。・・俺は普段はせえへんけど、俺もグラサンとか腕時計とかそういった小物って結構好きで集めてたりするんや。けどそのグラサン、どないやっても手に入らへんかった超レアモノやねん。・・・それも美佳帆さんからのプレゼントかいな?こないだの結婚記念日に初回モデルのほう貰うとったのに、今度は限定版のほうもプレゼントしてもろたんやなぁ。美佳帆さんの愛も深いのう・・・。きっと手にれるんかなり苦労したはずやで?」

「い、いや・・、あ、あのなテツよ。・・このグラサンが前のと違うって誰でもわかんのか?」

グラサンのことを得意そうに語り、宏と美佳帆の仲を羨むような発言の哲司の様子には触れず、宏は心配そうに聞き返してきた。

「どやろな。俺はけっこうそういうんが好きやからわかるけど、大抵の人はわからへんのと違うか?でも、見る人がみたら一発でわかるで?」

「そ、そうか。そ、それやったらええ・・いや、ええことないな・・」

「・・・・どないしたんや宏?」

宏らしくない様子に、哲司は首を傾げ宏の横顔を眺めていたが、ふとその横顔に動揺が走っているのを感じ聞いてみた。

「・・・まさか他の女から貰うたなんて言わへんやろな。・・・まあ、宏に限ってそれはないか~。女に関してはクールな宏が、あの美佳帆さんだけには猛烈なアタックしよったもんなぁ」

「いや・・あのな・・誤解せんといて欲しいんやけど・・・これは・・えっとな・・」

「え・・・?・・ま、まさかマジなんか・・・?」

2割ぐらいは冗談のつもりで聞いてみたのだが、宏の反応はすこぶる歯切れが悪い。

宏の珍しい反応に、哲司は引き締めた表情になると、力強く頷いて言い出した。

「・・・いや、ええで。宏も男や。嫁に言えれんことの一つや二つあっても可笑しない。安心せえ!聞かんかったことにするわ!・・・・幸いモゲはミコにゃんとキャッキャうふふな感じで話しとるから、聞こえてないみたいやし、誰にも内緒にしといたる」

妙な親切心と男の友情とでもいうモノなのか・・、哲司は宏の顔を見ながら大真面目に言っている。

「いや・・そんなんやないんや・・」

宏はなんと説明しようかと思いながらも、サングラスを渡してきたときの佐恵子と、それまでの経緯を思い出す。

(病院であの女に殴られたときに、美佳帆さんにプレゼントして貰ろうたグラサンがぶっ飛んでいってしもて、かっ!となりかけたけど・・、あいつも幼馴染が死にかけとったんや・・。あんなに涙溜めて、目泳がせて・・気が動転してたんやろな・・。しかし、どうしてもグラサンの小さいネジ部品がみつからんくなってもうたんや・・。そのせいで、おさまり悪くなってたんやけど、気にせずそのままグラサンつけてたら、あの女が1週間ぐらいして俺の部屋に来よったんや・・・。
何の用事かと警戒したもんやが、お詫びや言うてる割に、デカい態度で、ぜんぜん悪びれた様子もなかったんやけど、・・とりあえず同じ形や言うし、俺も美佳帆さんからもらったグラサンを壊してしもたんを美佳帆さんに言うは何となく嫌やったから、受け取ったんや・・・。
しかし、これがこんな危険物やったとは・・・!・・佐恵子さんってテツの彼女なんやろ・・?ここでストレートにあの女から貰うたって言うたら、テツはどう思うんや・・・?どうなるんや・・?更に訳わかれへん話にならへんか・・?)

どう言うたらええものか・・と宏は口ごもってしまっていると、哲司は心配そうな口調で更に続けた。

「しっかし、そんなもんくれるちゅうことは、相手の女は本気やぞ?・・俺なんかが心配することちゃうけど、美佳帆さんに気付かれんように上手いこと早めに手打えよ?」

「ぉ・・ぉぅ・・」

哲司のセリフに何も言い返しにくくなった宏は、こめかみを引きつらせたまま真剣な表情になり、妙な発音で返事をするのが精いっぱいだった。

(・・・本気・・?何に本気なんや?・・・たしかに、美佳帆さんと二人ではじめて宮コーに行ったときと比べると、あの女の態度はずいぶん変ったような気がする・・せやけど、そういう感情あるわけがないわ・・)

宏はそう言いながらも、顔を赤くし、目を合わせずサングラスが入った箱を突き出して、「受け取ってくださる?」とチラチラと目を合わせてくる宮川佐恵子の様子を思い出していた。

(・・・違うな・・。妙にクソ真面目で潔癖なところがあるけど、ようわからへん女やねん。悪党やないんは間違いないが、変わり者であることも間違いあらへん。まあ・・でかい組織運営ってやつは俺にはわからへんけど、あの女、経営手腕では新聞やテレビで取り上げられたし、そういうスキルは専門家からも評価されてるみたいやったな。変わってる人間は、何もかも変わってるもんやとは思うが・・・・、しかし・・いくら何でも、あれが愛情表現なわけがない。単なる損害賠償や。そういったことをするんに、あの女のプライドがついていかれえへんかっただけの表情や。間違いない)

宏がグラサンで隠した表情で一人納得している横で、哲司も勝手に納得し宏の肩をポンと叩いて優し気な口調で言ってきた。

「ええってことや。長い人生、人に言われへんようなことの一つや二つ起きるって。・・俺の親父もようそう言うてたわ」

目を細め何故か遠くを見ているような目の哲司には何も答えず、もうこの件に関しては誰にも黙ってたらええと、宏がそう決心したとき、少し前を駆けているモゲが騒ぎ出した。

「もしもしもしもし?!ミコにゃん???!もしもーし!!ミコミコもしもし?!」

「うっさいわモゲ。静かにせんかい」

急に壊れたモゲに、即座に哲司が注意を飛ばすが、

「どないしたんや?」

宏は冷静にモゲに問いかけた。

「どないもこないも・・急に回線が途切れたんや・・・。もうちょっとで帰ったらお茶でもしよかって話になりそうやったのに・・・」

3人は速度を落とさず岩肌を駆けながら会話をしている。

モゲが肩を落とし、眉間に皺を寄せ、眉を垂らして情けなくそう言った時、頭上で下弦の月が煌めいた。

今日は曇天。

月など有るはずがない。

「モゲっ!上や!」

哲司が怒鳴る。

「間に合わん!ガードせえ!!」

宏も哲司とほぼ同時に叫ぶ。

「へっ?!・・ぁがっあああ?!!!!」

ずどーーーん!

『モゲーーー!』

宏と哲司の声が重なる。

間の抜けた表情のモゲの背中に、避ける間もなく白い何かが激突し、そのまま猛スピードで、モゲごと遥か眼下の波が打ち付ける岩場に激突したのだ。

「三対一だった故・・、声も掛けず仕掛けた無礼をお詫びします」

崖の頂上より少し上、声の主は空中にいた。

物静かなのに、この強風のなかでも凛としたその声はよく通る。

驚くべきことに、その声の主は宙に浮いていたのだ。

「お、おまえは・・何もんやねん。香港か?」

頭上で雲を背負って見下ろしてくる、線の細い黒髪長髪の美女に哲司は誰何する。

「いいえ、私は高嶺六刃仙が一人・・前迫香織・・貴方がたの命をもらい受ける者です。お覚悟を」

先ほどの鋭く白い何かを放った人物とは思えない、落ち着いた物静かな声で、女は名乗りを上げた。

「た、髙嶺やて・・?」

「ひ、宏・・。香港以外で・・髙嶺もおるなんて目論見が違い過ぎへんか?」

宮コーの潜入の情報では高嶺の「た」の字もなかったはずである。

「くっ・・。どうなってるんや。ミコにゃん!聞こえてるか?!」

状況の説明をと思い、宏が通信機に向かって怒鳴ってみるが、空しくザザザザ…と機械的なノイズ音がするのみである。

「クソっ!つながらへん・・。どういうこっちゃ」

宏や哲司のやり取りを、観察するように静かに眺めていた香織は、少しだけ待ってやっていたが、そんな義理もないなと思い、抜き身の長刀を頭上でくるりと回し鋭い目つきで構え直す。

「まずはひとり・・・。お次はどちらが?それともお二人でいらっ・・っく!!」

細身でパンツスーツを着た長身の香織が、一人始末し、残りの宏と哲司を値踏みしだしたとき、突如、長い髪を大きく靡かせて、白い何かを打ち込んだ先から、投げ返されてきた人の頭ほどもある岩石を、慌ててのけ反り避けたのだった。

「くっそ!いきなりなんやねんな!!痛ってーー!ちっくしょう!いててて!」

「モゲ無事か?!油断しすぎや!」

「無事なワケあるかい!めっちゃ痛いちゅうねん!」

岩場に激突したモゲは頭から出血はしているが、大声で悪態をつき全身を摩りながらも騒いで声を掛けた哲司に言い返している。

「今ので死んでない・・・というのですか?なるほど・・・ならば!」

投げ上げられてきた岩石のスピードと、モゲの頑丈さに驚いた香織は、モゲ以外の二人も当然侮りがたしと認めたようで、切れ長の目を更に鋭くし3人を睨みつけて言い放つ。

香織は身の丈ほどある長い抜き身の長刀を白く光らせ、下弦の月が地上に矢を打ち込むかの如く、刀身を弓のような形状に歪ませると、髪の毛を靡かせて空中で片膝を折り、白く光る弦状のオーラをおもいきり引き絞った。

「風を孕み月影を具せ、黄昏を裂き留まる事無く疾く駆けよ!我が刀身、良弓難張なれど刃を矢摺りとし、己が身を弓弝、我が克気を鏃と成せ!」

香織は空中で弓を引き絞ったような態勢のまま、淡白く光った刀身を弓に見立て、オーラを充満させ3人に向けている。

「・・紡ぎ言葉ってやつか!」

宏は焦った声をあげたが、敵は明らかにこちらを先に捕捉していたうえ、問題の敵は手の出せない上空で構えている。

こちらからは攻撃しにくく、向こうからはこちらを一方的に駆逐しやすい態勢である。

紡ぎ言葉は予め術者が決めておいたオーラを込めた言葉を発することで、付与に近い能力を得ることができるが、発揮できる効果は技を放つ一瞬で、しかもその技能の直前に紡がなければ効果は全くないものである。

紡ぎ言葉は敵を目の前にして、隙だらけになることを代償としているがゆえに、その威力の跳ね上がり方には凄まじいものがあった。

香織は【斥力】を足元の岩場に使い、自らを空中という安置に置くことで、紡ぎ言葉を安全に言い切ったのである。

「テツ!モゲ!さっきのと段違いのが来るぞ!」

できることと言えば、上空で危険な女をの攻撃のタイミングを注視し、二人に大声で叫ぶだけだった。

「もう遅い!【弓箭激光】!!」

香織が弦をはじけさせると、刀身が逆方向に弾み、先ほどモゲを貫いた白い光の正体が、香織の左手の握り部分から無数の白い光の矢となり、幾百本と放たれた。

ズドドドドドドドドドドドドッ!

「どんだけやねん!」

宏は香織の技の威力に瞠目し、オーラを纏って防御する。

香織の放った無数の矢で、辺りは一面フラッシュを何百も光らせたように明るくなり、けたたましい炸裂音を響かせ崖と岩肌の形状を抉り続ける。

オーラ上の白矢を打ち尽くし、眼下でもうもうと立ち上がる砂ぼこりを見ながら、香織は呼吸を整える。

「はぁ・・はぁ・・。・・・なんということでしょう。手応えが軽い。・・・いったい何者なのです・・」

まさか侵入者がここまでの手練れとは思わず、一人でも奇襲を敢行したのは勇み足だったか?と内心ほぞを噛むが、どうしようもなかったのだ。

あらかじめ情報のあった海岸線から近づく3つの影は、香織のオーラによる察知能力ですでに捕捉していた。

誤算なのは、事前に情報があったとはいえ、あまりにも進んでくる速度が速かったことである。

香織が【弓箭激光】を打ち込んだ波打ち際を、油断なく注視していると、崖の飛び出た先端に、足音なくショートカットで小柄な女が膝を揃えて折り曲げ着地した。

「おまたせ!かおりん!樋口が離れるのなかなか許してくれなくってさ・・」

白いファーを左手で少し降ろし、人形のような整った顔を覗かせた南川沙織が遅参したことを詫び、香織と同じく眼下を見下ろしつつ呟いた。

「さっきの轟音・・かおりん。もうぶちかましてんじゃん・・」

香織の技は放たれた後は光を失っており、眼下の波打ち際はほぼ暗闇である。

香織や沙織ももちろん暗視ができるとはいえ、明るいに超したことはない。

そう思った沙織は右手を一振りし、崖の下へと、右手小指から小さな礫を十数粒バラまいた。

礫が地面に落ちる遥か上空に在るうちから煌々と礫は淡く灯りだし、点灯の役目を果たす。

「いなさそうだね。粉々になったんじゃないの?」

「いえ・・かなりの手傷は負わせたと思いますが、おそらくまだ。・・全部で3人いました・・。うち一人は私の初撃が直撃しましたが、信じられない硬さで仕留めきれずです」

香織は、下を注視したまま沙織の予想を否定し、いまだ警戒を緩めていない。

香織の強力な範囲攻撃を受けても、生きている。

油断できない相手ということだ。

沙織も目を細め物騒な表情になると、香織と同じく警戒を強める。

すると、

「遅くなりました・・」

「あれ?なっちゃんさんも来たの?あっちの警護はいいの?」

(・・なっちゃんさん・・。このクソ寒いのに、相変わらずあんな短いスカートで、パンストもぺらっぺら・・・。・・見せたいのかな?・・確かに男ってガリより、ちょっとむっちりしてる方が好みって聞くし・・うーん・・でもなっちゃんさんも男の噂って全然ないよね・・。まあ私もだけど・・)

沙織の心の声など知る由もなく、奈津紀はそのむっちむちの太ももを曝け出して、二人に歩み寄ってきた。

「・・・張慈円さまが、これ以上侵入者はないから、こちらを手伝いに行けと、しつこく言いましてね・・」

「へぇ・・?そうなんだね・・。でも、あの人、なっちゃんさんを連れ歩くの大好きなのにさ・・行ってこいだなんて珍しいよね」

「沙織にまでそう見えてるのですか・・?」

「え?・・う、うん。だって、違わなくない?・・・あの人、いっつも・・・『千原はどこに行った?』、『千原、少し意見を聞きたいのだが』、『・・千原、貴様はどう思う?』、『おい、千原を呼んで来い』ってことばっかり言ってるじゃん。・・・私やかおりんには、そんなこと絶対言ってこないよ?」

「そ、そうですか・・。まあいいでしょう・・・それより、侵入者の方をとっとと済ませてしまいましょうか」

目の両端を人差指で吊り上げ、わざと低いだみ声をだし、張慈円の顔マネと声マネをしている沙織の様子に、眉間を指で少しマッサージするような仕草を見せてから、奈津紀は気を取り直して侵入者に意識を向けた。

そんな二人とは対照的に、緊張の糸を切らず、眼下にもうもうと立ち込める埃ほこりを、視力強化と暗視で注視していた前迫香織が眼下から目を逸らさず、奈津紀に声を掛けた。

「奈津紀。来てくれてよかったかもしれません。相手は3人・・・。その者達は、私の紡ぎ切った【弓箭激光】を受けても仕留めきれないほどの者達です」

香織の発言に、普段表情の変化の少ない奈津紀さえも、大きく目を見開かされた。

「なんと。・・・潜り込んだのはどのような鼠輩かと思いきや・・虎の類のようですね。宮川本社にいる強力な能力者共が送り込まれてきた・・と考えるのが妥当でしょうか。それほど樋口さまの持っている情報が重要で、尚且つ、その裏切りが許せないのでしょうね・・・。もしかすると、紅蓮、幻魔、蜘蛛とやらの二つ名持ちの者どもかもしれません」

「紅蓮ね・・・あいつか・・。それと、あとの玄米と蜘蛛とかは?・・・そいつらは銀獣と比べるとどうなの・・?」

戦闘狂だが、沙織にも感情はある。

紅蓮と呼ばれる赤髪巻き毛は、馬鹿げた威力の炎で、目の前で同僚を黒焦げにしてくれたし、
舐めていたとはいえ、沙織自身も、もう少しで銀獣から致命的な一撃を受けそうになった記憶がよみがえり、ゴクリと喉を鳴らして奈津紀に聞き返している。

紅蓮も目の前で同僚を黒焦げしてくれたのだ。

「幻魔と蜘蛛です・・。玄米などという二つ名の者などはいません。・・・その者達のほうが、名が知られているので強い・・と考えるのが妥当でしょうね・・でも、私は紅蓮を見たことがあります。さっき見た中にはいません・・」

沙織の問いかけに答えたのは香織であった。

「なるほど・・」

香織の言葉に奈津紀が頷く。

香織は、スタジオ野口で、紅蓮が六刃仙の一翼である井川栄一を、一撃で戦闘不能にし、あわや一撃でオーバーキルというほどの攻撃を準備動作無しで放ってきたのを、目の当たりにしたのだ。

不意打ちとはいえ、香織が【斥力排撃】を栄一に纏わせてなければ、完全に栄一は事切れていたはずだ。

栄一があのようになってしまったため、あの時は逃げの一手しか取れなかったのだが、この度はそのような状況に追い込まれたくはない。と香織は最初から油断なく全力に近い力で戦っている。

「油断大敵ということです。油断のない我らに斬れぬものなどありませんし、敗れることなどありえません。香織、沙織・・。行きますよ?」

奈津紀の言葉に二人は頷き、香織は長刀を弓のようにつがえ構え直し、沙織も二刀居合の構えを取る。

盤石の迎撃態勢を取り直した六刃仙の3人は、油断なく巻き上がっている埃が晴れるのを待つ。

やがて、徐々に巻き上げられていた砂ぼこりが猛烈な海風で吹き流され、更に荒波が散らばった砕けて石を攫うと、沙織の放った礫が灯す光に、岩石を押しのけながら3つの人影がゆらりと現れた。

【第9章 歪と失脚からの脱出 24話 菊一三銃士VS髙嶺六刃仙終わり】25話へ続く

筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

最新記事
最新コメント
リンク
カテゴリ
ランキング
にほんブログ村 小説ブログ 長編小説へ
にほんブログ村
アダルトブログランキングへ
  • SEOブログパーツ
ご拝読ありがとうございます
ご拝読中
現在の閲覧者数:
問い合わせフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
官能小説 人妻 

ランキング