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第9章 歪と失脚からの脱出 30話 達人VS天才

第9章 歪と失脚からの脱出 30話 達人VS天才

岩肌を飛ぶように駆ける3つの黒い影は追われ続けていた。

「くそっ!振り切れんしこっちの攻撃は躱しよるっ!なんて奴等や!」

背後から飛ばされてくる三日月型の剣風や、白い矢状の閃きを、からくも躱しながら、哲司にしては珍しく焦った声をあげた。

相棒の焦燥が伝わってきた宏も、上空の難敵のただならぬ力量に、今までにない焦りを感じていた。

(確かにまずい。こいつらホンマしゃれにならん奴等や。・・おまけに通信も回復せえへん。・・ほぼ間違いなく俺らが侵入するんは、すでに知られとったんや。・・ということは、このまま進んだらさらに待ち伏せの罠があるちゅうことか・・)

「ちっ・・敵さんの思い通りさせるかいな!」

宏は切迫した状況にも関わらず、冷静にそう判断し、一言吼えると断崖の岩場を駆けあがり始めた。

哲司もモゲも、宏の動きの変化を敏感に察知し無言で宏の後を追う。

3人は崖上に立つと、さらに上を見上げた。

「もう諦めたのですか?」

崖の更に上から涼しい気な女の声が響く。

宏達を追ってきた女達3人が上空から見下ろしていたのだ。

そのうちの一人、抜き身の真剣を握った豊満ボディの女性、たしか千原奈津紀という高嶺六刃仙の一刃、髙嶺弥佳子の側近の女の声である。

「あほ言うな。誰が諦めるかい。そもそも逃げてたんやない。あんたらが急に表れて物騒なモン振り回しながら追いかけてきただけやろが。めんどいから相手したることにしたんや。さあ、降りて来いや!」

宏は、上空に構える3人の剣士を見上げ、サングラスをくぃと持ち上げなおし拳を振り上げ大声で返す。

たいていの者が聞けば、肝を潰すような迫力のある低い声で宏は怒鳴ったが、上空の3人の女たちは余裕のある表情で見下ろしながら、笑みさえ浮かべている者もいる。

奈津紀は、宏の挑発に「ふっ」と失笑し口を開いた。

「降りて来い・・ですか?なにも知らず背中から切り伏せられていた方が幸せだったと後悔することになりますよ?」

ポーカーフェイスに戻った奈津紀はそう言うが、その目付きは鋭く、無表情ながらその目は僅かに微笑しており、それでいて口調は冷淡だ。

(やりにくい女や・・)

奈津紀の様子に宏は、口を歪める。

奈津紀の態度は、決して傲慢からではなく、自信と余裕が感じられるからだ。

「テツ、モゲ。ばらけるぞ。このまま目的地に直進したらまず間違いなく挟み撃ちや。このまま森に入ってそれぞれが一人ずつきっちり倒してくるんや」

宏は無駄かもしれないと思いつつも、できるだけ上空に構える奈津紀らに聞こえないよう小声で言い、哲司やモゲに目配せを送る。

しかし、当然それを看過するほど甘い者達ではなかった。

「それも一興。少しは頭も回るようですね。私も手下たちの銃弾があるほうがかえって戦いにくいですし、それでよろしいですよ?」

「きゃは♪いーんじゃない?私は大賛成♪」

哲司やモゲの返答を待たずして、奈津紀の両脇を固めた女剣士達がそれぞれ答えたのだ。

闇を縫う糸のような長い髪、長い睫毛に切れ長の目、身の丈ほどの長刀を携えた前迫香織と、白いファーで口元を隠し、人形のように整った顔のショートヘアーの南川沙織である。

「ちっ!」

(さすがにこんな距離やと内緒話はさせてくれへんか。暗視だけやなく、聴覚強化もしてたんやな。あんだけ剣閃飛ばしてきながらも、戦闘中は常時五感強化するんが当たり前ってか・・こりゃほんまもんのガチ勢やな)

宏は上空の剣士たちの発言に苦々しく舌打ちし、いよいよ油断できる相手ではないと再認識させられる。

「聞かれてしもたけど、相手もお望みのようや。赤パンは俺が。白パン二刀はテツ、モゲは・・不意打ちの借り返したれ。矢みたいなんぎょーさん打ち込んできた長髪の女や」

宏はもはや相手にも聞こえてもいいような声量で、左右にいる哲司とモゲに指示を送り、二人も「まかせとけや」「ねーちゃん後悔させたる」と返事をしている。

対する、香織は目を細め長刀を構えたまま微笑しており、沙織はファーを顎下まで下ろして赤い舌を出しペロリと唇を舐め狂気の笑顔に変わった。

「いいでしょう。逃げ回っている者を斬るのよりも手早く済ませるかもしれません」

奈津紀がそう言い隣の香織に目配せすると、香織も頷いた。

香織の能力【斥力】が解除され上空に構えていた3剣士は、音もなく宏達と同じ崖上の岩場に音もなく降り立った。

そんな6つの影の殺気などお構いなしに、相変わらず日本海から吹くの風は鳴き、先ほどから岸壁には大きな波がぶつかっては砕け、潮の混じった水滴を霧状にして風に乗せてくる。

下半身は宮コーのアーマースーツに身を包んだ2人と、ブーメランパンツだけを履いた下着姿の変態という組み合わせの男3人組。

かたや黑を基調としたタイトなパンツスーツ姿の長身長髪、同じく黒を基調としたタイトスカートの女二人という組み合わせの女3人組。

3対は、風音と波音をバックミュージックに暫し睨み合う。

ひと際大きな波が崖に打ち付け、空気を震わせると宏が火ぶたを切るように叫んだ。

「テツ!モゲ!わかってる思うけどあのねーちゃんら尋常やない強さのはずや。・・気張れ・・死ぬなよ!・・いくで!」

宏はそう言うと、髙嶺六刃仙が一人、髙嶺の最大戦力の一人である千原奈津紀に向かって突進した。

哲司は沙織に、モゲは香織に宏が駆けるのと同時に突貫する。

「宣言通り、私の相手は貴方がなさってくれるのですか」

対する奈津紀はいつも通り無表情なポーカーフェイスでそう言うと、3尺余りある愛刀和泉守兼定を構え直し、宏の突進に瞬時に間合いをはかり、宏を一刀で伏せようと、刀を滑らせ同じく突進してきた。

宏の悪い癖で、女にはどうしても手をあげにくい。

宏は奈津紀を気絶させようと、掌底で腹部を狙ったのだが、当然そのような殺気も威力も乏しい攻撃は、神技剣聖の域にある奈津紀には通用せず、宏の腕を刃の腹で滑るように受け流し、凶悪なカウンターで宏の肩口と鎖骨の間を抜き、一気に肩甲骨まで切断する一刀を食らわせた。

がきんっ!!

「くっ!」

否、あまりに流麗で無駄のない動きのせいでそう見えたが、宏は苦悶の声と同時に、とっさに目前まで迫った奈津紀の刃を、黒い棒状のようなもので防いでいたのだ。

「っ!」

奈津紀は必殺と確信した一撃を止められたことに、珍しく舌打ちし、逆に反撃されまいと、刀を振り抜いて宏を弾き飛ばすようにして距離をとる。

「くっそ・・!美佳帆さんからもらったもんやさかい刀受けるんなんかに使いたないかったけど、そんなこともいうとられへんな・・。おまけにレディ相手に武器までつかう羽目になるとはホンマ気が進まんが・・・しゃ~ない・・」

そう言いつつ宏は左手に握った黒いモノ見て、刀傷がついていないか確認している。

「・・・鉄扇ですか?」

奈津紀の予想の言葉どおり、宏は背中の腰に差してあった鉄扇【鎧船】を抜き、奈津紀の刃をギリギリのところで防いだのであった。

「たんなる鉄扇ならば今の一太刀で切れぬわけがありません・・。・・まさかそれもそのスーツのように宮コーの技術の粋を集めた代物ですか?」

「ちがうわい。そんな味気ないもんちゃうわ。・・これはな・・お守り代わりに持っとるもんや。汚れたりキズが付くん嫌やったから使いとうなかったんやけど・・・あっー!!?」

不満そうな口調で奈津紀のセリフに返しつついた宏だが、鉄扇をグルグル回して確認していた手を止め急に大声をあげたのだ。

「やっぱり今のでキズが入っとる!くっそー・・!」

奈津紀は、急に大声をあげた宏に目を丸くして驚き訝しがるように見ていたが、ふぅと溜息をつき、少し呆れたような口調になり続けた。

「いくら鍛えた鋼と言えども、私がオーラを纏わせたこの兼定の一振りを防いだのですよ?・・・切断ではなくキズで済んだのは解せませんが・・・。まあ、いいでしょう。そのような口、すぐ聞けなくしてあげましょう」

そう言うや否や、奈津紀は再び宏に突進し肉薄する。

(速ええっ!)

ぎぃいいん!

奈津紀の神速の上段からの一撃を、愛妻から貰ったプレゼントで再び防ぐが、奈津紀の剣撃の猛攻は止まらない。

「はぁああああ!」

奈津紀の気合のこもった声が森の中に響く。

宏は、サングラスで焦った表情を読み取らせなかったが、面前で激しい剣撃を加えてくる奈津紀に心底戦慄した。

(まじか!・・強いっちゅうもんちゃうぞ)

鉄扇と白刃が文字通り火花を散らし、暗闇の森の中にところどころ飛び散り光る。

木の根や大きな岩がごろごろと転がっている悪い足場、しかも暗闇の中だというのに、二人は高速で攻防を繰り広げる。

攻防といっても、宏はほとんど攻撃しておらず、いまだに、なんとか無傷で女を無力化できないかとさえ考えながら戦っていた。

宏がほとんど攻撃らしい攻撃をしてこないことに奈津紀が眉を顰める。

「舐めているのですか?」

撃剣を振っていた奈津紀がポーカーフェイスながらも、怒気を孕んだ声で宏に問いかけてきた。

「んなことあるかい!ど必死や!」

がっき!と鍔迫り合いの形になり二人は息も届く位置で睨み合う。

「では、なぜ攻撃してこないのです。あなたが一対一をしたいと言い出したのですよ?」

言葉と同時に奈津紀が刃を押し込んでくる力が増し、刃と鉄扇がぎゃりぎゃり!と嫌な音を立てる。

(女やっちゅうのになんちゅう力や・・肉体の力をオーラ量でカバーしとるってわけか!)

奈津紀の表情は無表情に近いが、空気を通して怒りが伝わってくるのが宏にはよくわかった。

「できたら女は殺しとうない。手もあげとうないぐらいやからな、特にべっぴんさんにはなっ!」

鍔迫り合いの至近距離で睨み合いながらも、宏はグラサン越しに大真面目でそう言った。

その刹那。

整ったポーカーフェイスの奈津紀から発せられる怒気が爆発した。

ぎゃりぃ!と嫌な音が響き渡り、鉄扇と刃が火花を飛ばすと、すぐさまピュン!と空気を切裂く音が響いた。

奈津紀が刀を翻し、今までの剣撃よりも尚速い速度で振り抜いたのだった。

ぱたたっと赤い液体が地に落ちている落ち葉を濡らす。

「くっ・・今までのが限界の速さちゃうかったんかい」

宏の首を一刀のもと切り落とそうとした一撃を、仰け反って躱したのだ。

しかし避けきれず、奈津紀の刃は宏の頬の走ったキズが鮮血を滴らせたのだった。

「貴方・・この私を相手に手加減をしているのですか?女だからという理由で?・・・だとすれば、笑止千万。剣技にも拳にも男も女はありません。ただそこに技の優劣があるのみ。二度は言いません。・・本気で来なさい。さもなくば後悔を抱いたまま冷たい骸となり果ててしまいますよ?」

静かに怒気を孕んだ声でそう言うと、奈津紀は、刀を振り剣先に付着した血糊を振るい、宏に対し正眼に構えた。

(手加減出来へん相手がまさか女やとは・・。師匠の教えに背いてまうことになるけど・・、これほどの剣士相手や・・。使わざるを得ん・・か・・)

今の一閃と、正眼で構えた女から立ち上る殺気とオーラを見た宏も、さすがに目の前の女剣士が手加減などできる相手ではないと悟ったのだ。

目の前の女が、全力でかかっても勝敗の読めない相手であると認めると、左手の鉄扇【鎧船】にはオーラを纏わせ、右手の指先には更にオーラを集中し構えた。

宏はごくりと喉を鳴らすと、刺すようなオーラを放っている奈津紀に、気になっていることを聞いてみた。

「・・・ねーちゃん。他の二人もあんたぐらい強いんかいな?」

宏はバラけて戦おうと提案したことを、僅かに後悔しはじめていたのだ。

(・・・ほかの二人もこのムチムチのねーちゃん並みやとしたら・・。やばいかもしれん)

表情を読ませないよう、サングラス越しに奈津紀の返答を待つ。

答えてくれないのかと思いはじめるほど沈黙が続いたが、澄んだ声が返ってきた。

「・・・先ほど追っていた時から貴方たちの動きはつぶさに見ていました。私の見立てでは、3人の中では貴方が一番の使い手ですね。貴方からの指名が無くとも、貴方のお相手は私がするつもりでした。・・・ああ、誤解なきよう。ほかの二人が私より劣るということではありませんよ?適正を考慮しただけです・・。それに、貴方のその心配は徒労というものです。私達の誰が相手だとしても、どうせ貴方たちは全員助からないでしょうからね」

静かな声で、表情を変えずにそう言う奈津紀のセリフは本心が読み取りにくい。

「・・さよか。そら怖い」

宏は頬に汗を伝わせ、何とかそれだけ言うと、ここ数年出したことのない領域でのオーラを開放し構えなおした。

(手はあげとうないけど・・出し惜しみ無しで勝てるような生易しい相手やない・・か)

宏の膨大な量のオーラ、圧倒的な圧力のオーラを真正面から受けた奈津紀は、一瞬目を見開くが、すぐさま表情を戻す。

「いいでしょう。ようやく舐めた態度ではなくなりましたね」

ポーカーフェイスの奈津紀は、そう言い、珍しく口角を上げ美しいが物騒な笑みを浮かべると、宏と比べても遜色のないオーラを纏い、地を蹴りに宏に肉薄し、両断せんと刀を振り下ろしてきた。

【第9章 歪と失脚からの脱出 30話 達人VS天才終わり】31話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 31話 達人VS天才2

第9章 歪と失脚からの脱出 31話 達人VS天才2


「【鬼気梱封】」

猛スピードでの激しい戦いの最中だというのに、静かな声で聞きなれない技名を呟いた奈津紀は相変わらず無表情に近かった。

身のこなしや剣技は、奈津紀の表情とは裏腹に、多彩かつ直情的で非常にバリエーションが豊富で、そして容赦がない。

そしてたった今【鬼気梱封】とやらで、刀に特殊なオーラを込めたのであろう、振り下ろされてくる刀身は視認できるほどオーラが立ち上り迸っている。

(こりゃあかん・・!)

宏は直感的にそう察した。

その剣筋が走った瞬間、ぐわっ!と不気味な音がし、宏の足元の地面が大きく抉れてなくなっていた。

「なっ!?」

(なんちゅう威力や・・・!)

すんでのところで、まさに鬼気迫る威力の一撃を回避し、宏は地を蹴り左に飛び退って一回転して起き上がった。

上段から振り下ろされた奈津紀の一撃は、剣撃による痕とも思えないほど、大きく地面を抉っている。

更に奈津紀は間髪入れず、手首を翻し返す刀で宏の胴を薙ぎ払おうと身体をひねっていた。

(ほんまっ・・!容赦ないやっちゃな!)

「【不落鉄塊】!!くっ!!」

ぐわぎいぃん!

硬質な物どうしが勢いよくぶつかり、火花と共に、けたたましい音が鳴り響く。

飛び退った宏を追いかけるように、横なぎの第二撃目が宏目掛けてオーラを迸らせ唸りをあげたのを、宏が鉄扇【鎧船】で奈津紀の地面すら抉る猛撃を受け止めたのだ。

そして宏は防御と同時に、間髪入れずオーラを纏った右手を、奈津紀の左手首目掛け一閃させていたのだ。

「なっ!?」

「しもたっ!」

今度は奈津紀のほうが狼狽の声をあげ、なぜか同時に宏も焦った声をあげた。

奈津紀はこれまで敵に当たりさえすれば必殺だった攻撃を防がれ、そのうえ反撃までしてきたことに、らしくもなく驚きの声をあげてしまったのだ。

奈津紀は咄嗟の反応で何とか腕を僅かにかすめただけで済んだが、黑のジャケットの肘から袖までの布は破れ散り、左腕の袖は肘から下が荒々しく破れた七部だけになってしまっていた。

「今のを防ぎ反撃までしてくるとは・・それにその技・・」

生身の人間が、鬼気梱封を込めた攻撃を防ぎあまつさえ反撃までしてくるとは予想しておらず、宏の反撃を躱しきれなかったのだ。

それに奈津紀は宏の右手を包んでいる青白いオーラに見覚えがあった。

(・・・栗田と同じ技・・?・・いえ、そんなはずは・・栗田のはもっと指先にオーラを集中させていた・・。・・オーラの波長や色が似ているだけでしょう・・。御屋形様ですら習得に匙を投げられたというのに・・この男が・・それこそまさかです)

しかし、推測とは違い、奈津紀はここにきて初めてポーカーフェイスではなくなると、再び正眼で構え直して半歩だけ後ずさるように距離をとった。

「あぶな・・!よう避けてくれたな・・。無駄に腕斬り飛ばしてしまうところやったわ。つい身体が動いてもた・・」

宏は身体に染みついた癖で、つい反撃をしてしまい、焦った顔のまま続けた。

「しかし、防がれたんがよっぽどこたえたようやな?まあ確かに、あんたほどの腕やったら、大抵のやつはあんたの攻撃を躱すことも防ぐことも出来んと、長いこと立ってられへんかったやろからな」

宏は、奈津紀が半歩下がって急に慎重になったのを訝しがるが、おかげで少し考えるゆとりができた。

(・・こんなところで時間かけとる場合やあらへんがな・・。どないかして、テツやモゲらに加勢に行ってやらんと・・残りの二人もマジでこの女と同じぐらい強いんやったら、・・モゲのヤツ、最初からいきなり結構なダメージもろとったし死んでまうかもしれん。・・いや・・あいつ敵の同情を買うような無様な命乞いも得意そうや・・・。いやいや・・相手はそういうん通用しそうもないお堅そうなねーちゃんやったな・・。それに、そもそも俺らは張慈円のクソったれをやりに来たんや・・。それがこんなデタラメな強さの奴等とわざわざやり合うことになるとは・・。張慈円より難易度高いんとちゃうか・・?くっそ・・宮コーにここまでの義理ないでホンマ・・。俺ら嵌めたんは宮コーの緋村やろしな・・。帰ったらあの女、女ちゅうてもただじゃすまさへんで・・。しかし、ともかく今はこのデタラメなねーちゃんや・・どないかせんと・・。気は進まんけど、この女は無理やりにでも無力化させなしゃあないな・・一筋縄ではいかんやろけど、殺さずに倒すにはそれしかあらへん・・。かわいそうやが、こっちも命掛かっとるし、このねーちゃんもこういう世界に生きてるんや。戦いで死ぬ覚悟すらあるやろ。それに比べたら優しいもんやで)

宏はそう決心すると右手にオーラを集中しだした。

師匠である栗田直伝の点穴を応用し、オーラを刃状にしたのだ。

「よく避けてくれた・・?私の腕を斬り飛ばしてしまうところだった・・?・・と?」

それを見て奈津紀は、眉間にしわを寄せて表情を険しくさせ、さらに宏のセリフに情けを掛けられたように感じ、整った顔に僅かに怒りを滲ませている。

焦りと怒りが混ざったような表情で、奈津紀の普段を知る者が見れば、さぞかし驚いたであろう。

「どないしたんや・・?さっきまでえらいアグレッシブにかかってきてたやろが?気が進まへんようになったんやったら、もうこのあたりで止めにせえへんか?このまま続けたら、ただや済まへんってことがわかったやろ?」

奈津紀の表情の変化に、宏は停戦を呼び掛けてみるが逆効果だった。

「黙りなさい。よくもそのような・・私を見下したセリフを」

僅かに怒りの混ざった表情から、さらに柳眉を吊り上げた奈津紀が静かな声で返すが、大声を出されるより迫力がある。

「さよか・・。女は傷つけとうないんやけどな・・。とくにあんたみたいな上玉はな」

「痴れ者・・まだ言うのですか。このような状況でべらべらとおべんちゃらを・・」

残念そうにそう言った宏に対し、奈津紀は被せるように冷ややか言うとカチャリと刀を握りなおした。

奈津紀はそう言ったものの、正眼に構えたままなかなか動こうとはせず、ジリジリと宏との間合いを慎重すぎるほどはかっている。

先ほどの宏の反撃の一閃が奈津紀を警戒させたのであろう。

しかし、戦いを続行するにしても、奈津紀がそこまで警戒する理由がわからず、宏は首を傾げた。

(さっきまでめちゃめちゃ積極的に襲い掛かってきよったのに・・まさか今ので怖気づいたんかいな・・?最初から俺の力量がわからんかったわけでもないやろうに・・・。それやったらもう止めにしてほしんやが・・。いや・・あの警戒の仕方・・もしかして俺の技のことを知っとるんか?)

宏の予測通り、奈津紀は柄を握る左手、先ほど宏の攻撃がかすめた部分に、チリチリとした火傷に近い痛みが疼くことが気になっていた。。

(・・この男の今の技は・・もしかして・・)

奈津紀は構えを変えるように見せかけ、一瞬だけ左手を刀の柄から離したとき、一度軽く拳をつくってから再び開き、その時に左手だけでオーラを練ってみた。

(これはっ・・!)

僅かだが、オーラの流れがスムーズにいかない。

「き、きさま・・・!」

「なんやねん急に・・・?」

正眼から中段に構え直した奈津紀は当初のポーカーフェイスではなかった。

「どないしたんや急に。ちょっと反撃しただけやないかい。女に手はあげとうないけど、お前が強すぎんねん。つい手が出てしもたんや。・・・攻撃されて手傷負わされたことが無かったんか?・・・そうやとしても沸点低すぎるで?そやからやめとこうや。俺らはあんたらと戦う予定なんてなかってん。やらないかん仕事があるんや」

「だまれ」

奈津紀らしくもなく、つい吐き捨てるように言ってしまったのは、奈津紀が宏から受けた技が何なのかをおおよそ見当がついたからだった。

敬愛する腹違いの姉、髙嶺弥佳子を1年にもわたって苦しめた点穴と同類の技だと気づいたのだ。

(おそらく栗田と同じ系統の技・・・だとすればここで絶対に斬りすてる・・憂いは断つ・・!)

皮膚を僅かにかすめただけだというのに、左手がジリジリと疼く。

直撃ではなかったからか、攻撃を受けた直後よりは、幾分マシになっているのだが、いまだに上手くオーラを練りにくい。

(御屋形様・・こんなものを身体に打ち込まれたというのですか・・!わたしのせいで・・)

才能を持ちながらも、妾の子として影に生きる運命であった奈津紀を、表舞台に引き上げたのは弥佳子であった。

(この男も・・栗田と同様・・・危険・・!)

かつて弥佳子の前に栗田を連れて行ってしまい、点穴を突かせてしまった不覚を恥じ、そして自分自身の浅はかさに怒っていた。

「・・考え事してるとこ悪いんやけど、仲間のことも気になるしさっさと済ませ・・」

最初とうって変わって攻撃してこなくなった奈津紀に焦れた宏は、そう言いかけたが、奈津紀は宏のセリフを遮るようにしてオーラを練り始めた。

「高嶺六刃仙筆頭であるこの私に対しその傲慢。後悔する間もなく散りなさい!【鬼気梱封】【剣気隆盛】・・!散れ!」

言い終わると奈津紀は地を蹴り、オーラを迸らせている刀身を振りかぶり袈裟懸けに躍りかかってきた。

~~~~~~~

一方、最初に6人が相対した場所からほとんど移動していない岩壁近くには、豊島哲司と南川沙織が対峙していた。

「んっふっふ~♪お兄さん硬いねえ~♪がっちがちぃ~!」

孤島の北岸の岩壁の中腹で、ほぼ垂直の岩肌に海面にほぼ平行立っている南川沙織は、片膝をつき肩で息をしている筋骨隆々の男を愉快そうに眺めていた。

(くっそ・・こいつマジでしゃれにならん・・。力や防御力は俺のほうが圧倒的に上のはずやが・・。この足場は身軽なあいつに有利やし、如何せん・・身のこなしが速すぎる・・それにっ・・)

先ほどから哲司を悩ませている攻撃が繰り出されようとしていた。

納刀し身を丸く屈めた女が狂気の笑みを浮かべ、抜刀し跳ねたのだ。

「きゃはー!♪」

ガキンッ!ガキン!

(これや!)

20mほどの間合いを常に保ち、刀身に宿らせたオーラを三日月形状にして先ほどから飛ばしてくるのだ。

防ぐのは造作もないのだが、こう何度も立て続けに打ち込まれては距離も詰めにくいし、防いでいるとはいえ、いい加減腕が痺れてきてしまっている。

「んふふ~♪私の刀閃をここまで防ぐヤツは正直アンタが初めて。こんなに打ち込んでも死なないなんて驚きだけどさ。かえって壊れない的って楽しいわ!♪きゃはは♪」

「・・くそっ」

せめて足場の悪い崖の斜面から平地へと移動したいが、目の前の狂気のゴスロリ女は意外にもしたたかで、それをさせないように動きを封じるように巧みに攻撃をして、そちらに行かせないよう先回りしてくるのだ。

哲司の焦燥を肌で感じ取った沙織は、僅かに喉を上げぶるぶると身を震わせて込み上げてくる快感に目を細めている。

「んぅんっんん・・・♪」

(・・この女もド変態の類かいや・・。しかし、なんとかせんと・・。間合いを詰めてなんとか接近戦に持ち込むんや・・。刀を得物としてる以上あのゴスロリも近接戦闘が得意なんやろうが、それはこっちも同じや・・。なんか手はないか・・あの速度とあの遠距離攻撃をどないかせんと・・・)

「きゃーはははは♪そぉれそれぇい!♪」

哲司の表情を見て感極まったのか、沙織は再び納刀し抜刀、そして納刀して抜刀を繰り返し刀閃を繰り返す。

「ぐっ!完全にぶっ壊れとる女やな!」

初撃の2連の刀閃を両手で防ぎ、続けて飛んでくる2連の刀閃を崖上側に飛んで躱して、一回転して拾った拳大ほどの岩石を立ち上がりざまゴスロリ女に投げつける。

しかし、哲司の投げた岩石は、女に当たる1mほど手前で赤い霧状のモノに触れて砕け散る。

「なんやねんなそれは!」

「キャーハハハハハッ!無駄なのぉ~私にそんな石ころなんて効かないのよぉ♪でも~あんた良い!・・強くって硬くって鈍くってさぁ!アンタみたいなのダルマって言うのよ。私を捉えられないじゃない♪捕まえてごらんなさいよ♪のろまなカメさん♪」

そう言うと沙織は胸を思い切り逸らせて二刀を二本とも背中に振りかぶり、一回転して振り下ろした。

その瞬間、ギュィイィイン!と2つの三日月型の刀閃が空気を切裂き、いびつに形を歪めながら哲司に襲い掛かる。

寸でのところで哲司は飛び退り身をかわすが、顔をあげるとそこにはゴスロリ女が口を大きく割いた狂気の笑みで、哲司の目の前まで迫ってきていた。

(こいつっ!近づいてきた?!)

このままずっと遠距離攻撃で削り続けられるのかと思っていた哲司は、ゴスロリ女の意外な行動に驚いたのだ。

咄嗟にゴスロリ女の二刀を封じようと、手を伸ばすが一瞬遅かった。

「【二天奪命八連】!!」

「ぐおおおぉぉぉお!」

沙織は狂気の笑みを顔に張り付けたまま、両手の小太刀に赤黒いオーラを纏った刀を右に左に高速で振るい駆け抜ける。

「んっん~ん♪」

「ぐぅうう」

沙織は、二刀を納刀し張り付いた笑みのまま振り返り、片膝をついた哲司を満足そうに見下した。

(遠距離からの攻撃から一瞬で間合いを詰めて・・・くそっ・・今の攻撃なんとか防ぎ切ったが・・・これは・・)

「ごめーとー♪ちゃんと全部避けないとダメよぅ?無理だろうけどぉ~。いまのは体力を奪い取るのよう♪お兄さんのオーラ力強くて濃厚~っ・・もぉ~っと貰いたくなっちゃうなぁ♪お兄さん硬いし、感もよくて直撃なかなかしないからさ。じわじわ行くことにしたの♪どう?私の攻撃を何とか防いでもだんだんと体力とオーラ奪って行くわよ?・・・最後は動けなくなったところでじーっくり甚振ってあげるからね♪・・きゃーははははははは♪」

(・・不味い・・・!しかし、ゴスロリ女の攻撃力やと、あの刀閃だけじゃ俺のことは仕留めきれんと思たんやろな・・。いまのオーラ奪う攻撃は厄介やが、近寄ってきてくれるちゅうんは大歓迎や・・。距離をとられてあの刀閃ばっかりされるほうがこっちとしては辛すぎんねん・・。さっきの八連撃は躱すんは無理でも、あの剣速なら何とか防げる・・・。見切った時・・俺の勝ちや・・!)

額と両腕からダラダラと出血し、ぜえぜえと息をしながらも哲司は何とか勝機を見出そうと、恐るべき狂気のゴスロリ女を睨み上げた。

「んふぅ♪・・そんなに見つめられるとぉ~。ただでさえ今いい気分なのに滾ってきちゃうじゃない~・・・・もっと絶望的な表情になってもらいたいしぃ~・・・遠慮なくもういっちょいくよ~?♪」

沙織は目を細めブルリと身を震わせてそう言うと、顔が地面にくっつきそうなほど前傾姿勢になり、納刀したまま突進居合の構えを取りいつもの狂気の笑みを貼り付けた。

~~~~

夜も白みかけてきたとはいえ、木々が生い茂る林の中はまだまだ暗い。

上空から眼下を注意深く観察していた香織は、生い茂る木々の間を駆け抜ける影目掛け、オーラで白く光る弓弦を響かせた。

キィイン!

甲高く澄んだ音を響かせて発射されたそれは、ほの暗い林の中を明るく照らしながら高速で進み、狙いをたがわず着弾した。

ガキィイン!

硬質な物どうしがぶつかり合う音を響かせ、一瞬昼間よりも明るく切裂いた。

「おんどれえ!!どっから打ってきとんじゃい!降りてこんかい!」

白く光る矢が当たる直前で肉体を極限まで硬化させて何とか防いだが、モゲこと三出光春は防戦一方に追いやられていた。

黑とピンクのブーメランパンツだけを履いた筋骨隆々の男は、体中を裂傷で血まみれに染めていた。

「ゼェゼェ・・・。くそっ!なんでこっちの場所がわかるんや?!・・こんな木の葉が生い茂ってるちゅうのにまるでこっちの位置はバレとる・・・。こっちからは見えへんのにあいつ・・透視能力でももっとんかいや・・!?」

モゲは大きな木を背にあずけ、敵が構えているであろう上空を伺うが、長身長髪のパンツスーツの女の姿は見当たらない。

先ほどから一方的に視界外の上空から矢状の閃光一閃の攻撃を続けられている。

飛び道具に対して、遮蔽物の多い林の中に逃げ込めば無力化できると考えたのであるが、まるで見当が違ってしまった。

長刀長髪女は携えていた長刀を弓状に変形させ、オーラの矢を放つ能力。

もし、それを無力化できればあの長刀を振るうしかなく、林のなかでは長物は不利になるとふんでの判断であったのだが、まったく功を奏することなく矢の攻撃を受け続けてしまっている。

「いったいどうやって・・・。なんとか場所さえわかれば・・」

木々の葉の隙間を伺い長刀長髪の女こと前迫香織の姿を捉えようと、大木から上空の覗き見たとき再びあの音が響いた。

キィイイン!

「ぐおっ!?」

大木を背に預けて身を隠していたつもりだったが、白い矢は正面上空から打ち込まれてきたのだ。

あわや胸部を貫くところで、モゲは転がるように身をかわし大木の裏側に回り込み身をひそめる。

「なんてこっちゃ!・・一方的やないか・・!ほんまにこっちが見えとるんや・・!」

モゲが避けた為、オーラによって発生されられた白い矢は大木に直撃し、幹の半分ほどまで刺さって周囲を昼間のように照らしていたが、その具現化した矢が消えたところで周囲は再び静寂と暗闇に包まれる。

「くっ・・かなりの威力や・・・速度も速いし狙いも正確・・。オーラの防御解いてたら急所に当たったら即死って訳かいや・・」

どの程度の距離から射てきているのかは、あの硬質な発射音から推測するにそこまで遠くではない。せいぜい30m程度だとモゲは掴んではいた。

矢が発射される時に距離と方向の大体の予測は立つが、あくまで大体である。

それに引き換えあの長身長髪女の狙いは正確無比である。

モゲはブーメランパンツの股間に手を忍ばせ、ビー玉を手に取った。

親指の爪ほどの大きさのガラス製のビー玉を掴み、練り込んだオーラを確認する。

(・・・5個か・・。高慢お嬢様いたぶるんに使うてきてしもたからなぁ・・。半分の5個も突っ込んで辱めてやったんはおもろかったが、こんな強敵に出くわすとは思いもよらへんかったやんか・・。ビー玉いまだに取れんと疼かせとるころやろな。こんなことやったらお嬢様辱めるに使いすぎんと持っとたらよかった)

モゲは武器にもなりえる特性ビー玉の残数が心許ないことに後悔したが、まさに後悔先に立たずである。

(こうなったらあの音がした瞬間にカウンターでビー玉打ち込んで、長髪女を打ち落とすしかあらへん)

モゲにもこれが圧倒的不利な勝負であることはわかりきっていた。

攻撃が後手になるうえ、どうやら相手はこちらの動きが見えているようなのだ。

(何回も通用せえへんな・・・。こっちがビー玉で反撃してくるんがわかったら、矢を打った瞬間に躱してしまうはずや・・・)

「おい!降りてこんのかい!なんぼそんな下手な矢打ってももう当たらへんぞ?!」

先ほどから戦闘を繰り広げているせいで、虫や動物たちの声は完全に止んでいる。

モゲの怒声に長身長髪女は応えない。

(くそったれ・・!あくまで勝負に徹する気かいや。面白味のないクソったれ女やんか)

戦闘開始してから最初に姿を見せたきり、全く姿も見せず、声も出さない敵を心中で罵りながら、モゲは握っているビー玉に更にオーラを込め、全神経を集中して迎撃に備えたのだった。

一方モゲから見えない上空では、香織は【斥力】で宙に浮いており、【見】という能力で、モゲの動きを完全に見ていた。

そのうえ【斥力排撃】を自身の周囲に展開し、飛び道具による攻撃をすでに無効化しているのであった。

よってモゲが決死の反撃を試みたとしても徒労に終わるのだが、当のモゲにそれを知る由はない。

それより香織はモゲが取り出したモノの出どころに眉を顰めていた。

(・・・股間から何かを取り出した・・・。ビー玉・・・?けがらわしい・・。あの汚染物質で私を攻撃するというのですかっ!?・・・信じられない下品な男です!)

モゲがブーメランパンツから取り出したビー玉をすでに見ている香織は、美しい顔を歪め不快気に心中でモゲが罵っているのと同じように罵っていた。

【見】は自身を中心として広大な範囲を察知する能力である。概ね円形状に展開させることができるが、近いところ程、察知精度が増す傾向にある。それにくわえ察知したい方向を指定することも出来るので、完全な円形ではなく、いびつな楕円形に展開することも可能であった。

いまは張慈円と樋口の護衛を兼ねているので、モゲと戦闘中ではあるが、護衛対象の二人を【見】の範囲に収めるように広範囲に展開している状況である。

【見】をいびつな形で最大距離まで伸ばすと、なんと2kmほどの範囲になる。

その結果、当然近くの【見】の範囲は少なくなってしまうので、モゲとの距離はきっちり30mほどしか離れていなかったのである。

(奴も飛び道具を使うのでこの距離は少々危険ですが・・・致し方ありません。張慈円様はこちらに我ら髙嶺の総戦力を配置しましたが万が一ということもありますからね・・・。それに、あのパンツ男はそこまで手強い相手ではありません・・。この距離しか取れないとしても十分でしょう・・。反撃を狙っているようですが、奴の動きも鈍っています・・。そろそろ仕留めますか・・)

香織はモゲの位置からは死角になる位置まで移動し、再び長刀を弓状に変化させオーラを集中させる。

【斥力】【斥力排撃】【見】と三つの能力を展開させながら、新たな攻撃技能のオーラを練り蓄えだす。

【三気心射儀】オーラ上の白い矢を三つ番え同時に放つ技である。一発一発の威力は一本で打つ時と何ら変わる事がない。ただオーラを余計に消費し、集中力を要するだけである。

しかし、香織は六刃仙のなかで千原奈津紀と双璧の実力を持っているのだ。

技能を同時に4つも展開させて発動させても十分な威力がある。

(さて・・、これでお仕舞です・・)

上空で膝を付き、弓を引き絞るような恰好になった香織の右手には3本の矢が番えられていた。

【見】で見えているモゲは香織に気付いた様子もなく、全く別の方向を伺っている。

(愚かな・・・こちらを補足することすらできないとは・・。恨むなら己が実力の無さを恨むのですね・・・!)

いま香織に射られれば避けることはできず、死ぬか致命傷を負うのは確実のタイミングであった。

【第9章 歪と失脚からの脱出 31話 達人VS天才2終わり】

第9章 歪と失脚からの脱出 32話 紅蓮VS菊一女性チーム

第9章 歪と失脚からの脱出 32話 紅蓮VS菊一女性チーム


濃い赤の下地に大輪の花を描いた毛足の長い絨毯の上を、迷いのない歩調で進む者がいた。

宮川コーポレーション15階のホテルフロアの廊下を、一人の女性が速度を緩めず歩いている。

黑のタイトスカートスーツにピンク色のブラウス、黑のストッキング、そして艶のある巻き毛の赤髪、宮コー組織では知らぬ者はいないであろう紅蓮こと緋村紅音である。

大島優子似の童顔だが、その美しい顔に、今は愛らしさはなく、やや怒っているようにも見えるが、その不機嫌そうな表情すら美しい。

小柄ながらも普段から周囲を圧倒する存在感を放っているが、いまは身に纏っている雰囲気はそれ以上であった。

洗練された内装や調度品で拵えられたすこし広くなっているホールで、紅音ははたと脚を止めた。

「ふぅん・・いくら何でも気づいてるようね。・・・さあ、こっちは一人よ。出てきなさい」

紅蓮こと緋村紅音は形の良い顎に指をあて、少しだけ感心したように笑うと身を潜めているであろう者たちに声を掛けた。

姿こそ見せないが、紅音は美佳帆等がこちらの気配に気づいているのを察して無人の廊下に声を掛けたのだった。

(だいぶまえから私に気付いていたようね・・。ということは・・・感知系がいる。・・でも、いくら精度や範囲が広くてもその能力だけじゃ私にダメージは与えられないわよ)

紅音は先ほど一つ部屋を訪問している。

すでに菊沢美佳帆と斎藤雪が宿泊している部屋は、もぬけの空であったのだ。

続いて齋藤アリサが宿泊している部屋のドアの前まできた紅音は足を止めると、五感を研ぎ澄まし周囲と室内を探る。

「・・ちっ!」

感覚に手応えが感じられなかった紅音は、鼻に皺をよせ美しい顔に嫌悪感を露わすと、無遠慮な舌打ちをした。

生れついて顔は可愛らしくあり、ふだん口調は丁寧を装ってはいても、とたんにその表情と口調が変わるのが紅音だ。

美人に生まれついているのは運がいいことである。

当の紅音本人はそんな恩恵をありがたがることもないのだが、怒ったり苛ついた顔であっても相手に美しいと認識させてしまうので意識していないぶん性質が悪い。

紅音のオーラによる感覚強化は非常に強力であるが、それをもっても美佳帆達の存在は探知できない。

強力だとは言っても特殊な技能ではなく、ただ精度や範囲が広いだけで相手が全く無音の場合は紅音には探知できないのだ。

(・・めんどくさいわね!どいつもこいつも)

紅音は美しい顔を更にゆがめると身体を翻し、美脚を一閃させる。

どかっ!

アリサが宿泊している部屋のドアを蹴破ると、室内に向かって右手を突き出し炎を放出させた。

ごおおおおおおおおおおお!

威力は低いが室内の温度を一気に上げ、なおかつ室内の酸素を急速に奪うのが目的の炎を舞わせる。

威力は低いといっても常人に耐えられるものではない、少々能力が使える程度の能力者ならば、熱さと呼吸困難で苦悶の悲鳴を上げるであろう。

籠城しようと部屋に立て籠もっているのであれば、ひとたまりもない攻撃であったが、室内からは悲鳴は上がらない。

「・・・ハズレ・・か」

右手をかざした格好のまま紅音はそう言うと、室内を確認することなくドアに背を向け次なる目的地、伊芸千尋が宿泊している部屋へと歩を進めだした。

美佳帆とスノウが宿泊していた部屋も同様にそうしてきたのである。

しかし、紅音がアリサの部屋に背を向けて歩き出した瞬間、黒焦げになった部屋の中から飛び出してくるものがあった。

天然こと斎藤アリサである。

「こんのぉ!」

気合の咆哮とともに紅音の華奢に見える背中目掛け、アリサは巨木すらへし折る飛び蹴りで襲い掛かる。

しかし、この不意打ちを紅音はやや面食らった表情ながらも、振り返って難なく受け流す。

「きゃ・・っと」

(今のでも悲鳴をあげない?耐えたというの?・・・だとすれば、そこそこ以上の能力者ということ・・ね)

紅音は今の火炎放射の熱に耐え、声すら挙げなかったことに素直に驚き奇襲を受けたため悲鳴を上げかけたが何とか悲鳴を堪えてとびかかってきた正体を瞬時に観察する。

やや焼けこげた黒のタンクトップに納まった豊満な胸を揺らし、ピチピチの白いスパッツ姿の女が放つ、轟音を唸らせた蹴りの勢いを逸らしてながし、その背後の次なる二つの影もすでに捉えていた。

「くっ!いまの避けるおぉ~?!」

不意打ちを躱されて狼狽えた声上げるアリサに続き、菊沢美佳帆と斎藤雪が鉄扇を振るい紅音に躍りかかる。

『はああぁ!!』

「っと・・ふふっ」

二人してよく似た黒鉄の鉄扇を振るい、声をハモらせて紅音に斬りかかるも、すでに余裕の表情になった紅音は薄ら笑いを浮かべ、左右から振り下ろされてくる鉄扇を両手で受け止めたのだ。

「なっ!?片手で?」

「うわさ通りのとんでもない使い手のようね!」

肉体を極限まで強化させた鉄扇による一撃を素手で防がれ、スノウと美佳帆はほぼ同時に声をあげた。

美佳帆は鉄扇を奪われまいと咄嗟に手首を捻り、腕を引くが恐るべき小柄な赤髪巻き毛の女、紅蓮こと緋村紅音は薄ら笑いの表情を崩さず、鉄扇を握った手はびくともしない。

「可愛いわね。女性らしい非力さで羨ましいわ」

「くっ・・なんて力なの!」

美佳帆とスノウが振り下ろしたそれぞれの鉄扇、その一振りずつ片手で受け止めた紅音は、呻く美佳帆に目を細め微笑んで言う。

「ふふふっ・・残念ね。肉体強化もそこそこ使えるようだけど私相手じゃこの程度・・お気の毒としか言いようが無いわ・・だから大人しく・・」

紅音が言葉を続けようとしていた時、美佳帆とスノウの間からお嬢こと伊芸千尋が無言で踏み込み、紅音の顔面目掛け思い切り拳を突き出してきたのだ。

「覚悟っ!」

不意打ちの攻撃を繰り出した千尋は、全開で肉体強化を行い紅音の顔面を殴りつける。

しかし、紅音は両手で鉄扇を掴んだまま、顎を逸らし上体をぐぃとのけ反らせて千尋の拳を躱すと、同時に右ひざを突き出していた。

どす・・!

と鈍い音がし、紅音の膝が千尋の鳩尾に突き刺さる。

「ぐぅ!!」

『千尋っ!』

「千尋ちゃん!」

千尋は自身の突進速度の威力で紅音の膝蹴りを腹部に打ち込むようになってしまい、たまらず蹲る。

3人の声が重なり蹲った千尋を紅音から少しでも引き張すようにして、抱えて飛び退った。

美佳帆やスノウは咄嗟に鉄扇を離し、千尋に駆け寄ったのだ。

「声も掛けず不意打ちだなんて、みんななかなか思い切りがいいじゃない?もっと無駄な問答や命乞いをするのかと思ってたわ」

奪った両手の鉄扇をぽいっと後ろに投げ捨て、意外だというような素振りで紅音は美佳帆達を見下ろしながら言う。

「・・・そんなマネ私たちがするわけないじゃない・・。緋村支社長・・やっぱりあの仕事は宏達を嵌める為の罠だったのね・・・。そのうえ私達も・・許せない・・。貴女の思い通りになんてさせないわ!」

蹲って痛みをこらえている千尋の背を撫でながら、美佳帆は見下してくる小柄な赤髪巻き毛の女をキッと睨みながら言い返す。

「はぁ?この私があんなに譲歩してやってたのに生意気言うからよ。敵になるかもしれない能力者に、お給料まで払って生かしておくつもりなんてまるっきり無いわ。こないだの会食のときはっきり言ったでしょ?これが最後の勧告だって。覚えてないのかしらね?!」

紅音は、美香帆に対して肩をすくめて見せながらそう言うとゆっくりと歩き距離を詰めてくる。

「千尋・・大丈夫?」

「え、ええ・・なんとか・・」

美佳帆は、目をきつく閉じ、蹴られた腹部を抑えて痛みをこらえている千尋に声を掛けるが、紅音はそんな美佳帆達の様子を楽しむように眺めながら近づいてくる。

対する四人は、紅音が歩を進めると同じだけ後ずさってしまう。

(ふーん。・・・そこまで攻撃的な能力者はいないみたいね。多少肉体強化ができるみたいだけど、最初に蹴ってきた奴以外の奴等は明らかに純粋な肉体強化系じゃない・・。鉄扇の威力もなかなかだけど・・私の強化能力でも十分防げる。純粋な殴り合いじゃ勝機が無いのは相手もわかったはず・・・さて、肉体強化系じゃないならどんな能力を使うのかしら?)

紅音は短気ではあるが、頭の回転は速く、戦いに関しては透徹した洞察力も備えている。

(5点、4点、2点、3点・・ってところね。・・しかし・・)

先ほどの一瞬の攻防でほぼ4人の肉体による個々の戦闘力を見抜いたのだ。

しかし、肉体強化系ではないとすればそれ以外の厄介な能力を所有しているかもしれないと、紅音は警戒を緩めない。

紅音は一対一で自身に敵う者はいないと思っている。

屋外の円形の闘技場のような、隠れる場所や逃げ場のないところで戦うのであれば、紅音は最強に近いかもしれない。

よってその判断はほぼ正解だと言えるだが、紅音の能力は肉体強化にしろ、発火能力にしろどちらも直接的で分かりやすい能力である。

銀獣こと加奈子のように肉体強化特化のみというわかりやすい能力とは違って、能力者には操作系や精神感応系など、七光りこと宮川佐恵子のように、力に頼らず敵を制する能力を持っている者もいるし、複雑な発動条件を組み合わせた強力な技能を作り上げている者もいる。

よって紅音は、能力の種類によっては足元をすくわれかねないということもよくわかっていた。

しかし、それらも紅音の思念防御を突破できなければ紅音に届くことはないのであるが、かつての恋人の丸岳に言われたからか、今日はいつになく油断なくことに当たるつもりであった。

(わずかとはいえ、物理攻撃だと私にダメージを通せるのはスパッツ女と菊沢美佳帆の鉄扇だけね。もう一人の鉄扇使いは明らかに菊沢美佳帆より威力が劣る。・・・こいつらが強化系じゃなく精神感応系だとしても、いま戦った感じじゃ私の思念波を突破できるとは思えない。そもそも七光りの魔眼でさえ私には届かないのよ。・・・でもこいつらの目・・・諦めてない。・・この程度の力で、なぜ宮コーに・・・なぜ私に逆らえるの・・?宮コーは表も裏も絶大な力を持ってるのよ?・・それに、いまので私に勝てないってのがわからないの・・?そこまで愚かな使い手には見えないけど・・まさか勝機があると・・?切り札でも持ってるのかしら?・・それとも逃げの一手かしら?)

「・・ねえ、わかんないんだけど、私に従えば死なずに済むのよ?どうしてこう強情なの?・・あなたたち別に七光りに義理があるわけじゃないでしょう?・・・宮コーや私のような能力者に睨まれて長生きできると思ってるの?・・ここで私から逃げたとしてもきっと寿命じゃ死ねないわよ?」

紅音は本当に理解できなかった。

利のあるほう、強い者に従うのは人の、いや動物の本質だと思っているからだ。

「・・・貴女にはきっとわからない」

紅音に対峙する4人のうちの一人、水色のノースリーブカットソーに白のプリーツスカートを履いたスノウこと斎藤雪が膝を付き、千尋の背中を撫でながら、いつもの口調で、しかししっかりと紅音の目を見て言い返した。

「へえ・・あんた喋れるんだ?私あなたの声聞くの初めてな気がするわ」

(さっき鉄扇で殴ってきた非力なほう・・)

紅音はそう言うと、顎をあげて見下すような姿勢になると、小動物の次の行動を楽しむかのようにスノウの言葉を待った。

「紅蓮、貴女はそう言う生き方をしてきたんだと思う。利のある方へ動き、力や権力を求め、力や権力で人を支配するのを是とし、自分自身も力のある宮コーには従ってる・・・。貴女は、きっと自身の主義心情を曲げてまでその身を翻してきたんだと思う。・・その生き方を私は否定しない。それは貴女の本質で人格の一部だから・・尊重する。きっと捨てたくなくても捨てたもの・・諦めざること得なかったこともあったと思う。・・でも貴女はそれを他人にも強要してる。その押し付けを私たちは否定するの。わたしたちは権力や利益だけに縛られない。だから所長のところに集まったのよ。・・・あなたと同じ、自分の主義心情のため。所長は宮川さんのやり方や目指すことに一定の理解を示したわ。宮コーの組織に属するのは、所長にも多少折れなきゃいけない部分があったけど・・それは全部私たちのため・・。所長の私利じゃないことよ?・・私たちの・・弱い私たちの身を案じてくれたからよ。・・私たちは・・それに応えたいの」

「・・・ずいぶん喋れるじゃない?口が聞けない子かと思ってたわ。殉じるっていうのその考えに?・・・その菊沢宏はそろそろ死んでるころよ?髙嶺の三剣士と張慈円・・あと香港トライアドの一つで、華僑を率いる倣一族も来てるはずだわ。みんな能力者としてはけっこうな有名人よ。いくらあのサングラスの腕が立つといっても無事帰ってくるのはむずかしいでしょうねえ」

意外な人物からの突然の指摘に紅音は驚いた表情から不快気な表情に変わり、低い声でスノウを脅かすような口調で言う。

「そんなところにっ!・・貴女って人は!」

紅音の言葉に美佳帆が激昂して反応する。

「所長たちを・・殺すために・・・。許さないっ!」

美佳帆同様、美佳帆のように声を張り上げないがわなわなと肩を震わせたスノウが静かに言い返す。

「ふん、あなたが許さないって?いったい何ができるのかしらね。何も怖くもないし、本当にそんなくだらない感情を押し通して死ぬの?」

「死なない。・・・何ができるのかって・・?何ができるか見せます。・・いいですよね美佳帆さん?」

「スノウっ!・・私たちはもちろんいいけど・・・!でもスノウや千尋こそ・・いいの?」

先ほどの不意打ちですら紅音にかすりすらしなかったのである。

美佳帆達が紅蓮とまともに戦うには、それしか手が無いと美佳帆もわかっていたがスノウたちの覚悟を確認したのだ。

「うん・・千尋ともちゃんと話してる。それにこのままだとやっぱり敵わない・・・。このまま何もせずにやられるなんてできない。千尋いいよね・・?」

「ええ・・、モゲ君が死んじゃうなんて想像できないけど・・。確かにやばそうなところに行ってるのね・・。所長や副所長・・モゲくんもきっと帰ってくるよ。モゲ君たちが帰ってきたとき私たちがいなきゃ・・。このままだと死んじゃうかもしれないのに、恥ずかしいだなんて言ってられないわ・・」

千尋も紅音に膝蹴りされたお腹を摩りながら頷いた。

スノウは紅音に向けていた顔を美佳帆、そして千尋へと移してから再度美佳帆に頷いて見せたのだ。

「・・なにかあるのね?・・奥の手ってやつかしら・・見せてもらおうじゃないの」

美佳帆達のやり取りを見ていた紅音は、笑みを浮かべながらも警戒を深め、組んだ腕を解き、構えを取った。

「言われなくても」

静かな声で、意思の強い目で紅音を見据えたままスノウは能力を発動した。

スノウの能力は【通信】という能力で、主に会話や思惑、映像などを一定範囲の者に同時に送信するのだが、その能力を応用して昇華している能力がある。

スノウを含めた美佳帆たち4人をスノウの能力【共有】が包む。

4人のオーラ総量が一つになり、4人が一個のモノとなる。

4人の意識が共有されていく。

経験や知識が4人の中で一気に混ざり攪拌され混ざり合う。

【共有】頭は一つで操縦桿は一つであるが文字通り共有である。オーラも思念も共有されるのだ。

四個一となった4人は初めての感覚に戸惑うも、目的ははっきりしている。

目の前の敵、紅蓮を倒すこと。

しかし、初めての感覚、一瞬で頭に膨大な量の情報が流れ込んでくる。

新しく印象の強い記憶ほど、鮮明に映し出される。

スノウや千尋が張慈円から受けた凌辱の記憶をはじめ、4人のプライベートな情報が4人の脳の中で一気に共有されてしまう。

(ああ、辛い・・。・・・私が凌辱されて快楽に負けて、心が折られたことが鮮明にみんなに伝わっちゃう・・。でも、もっと辛いのは美佳帆さんと所長との情事や会話の記憶まで私に流れ込んでくる・・・。あんなに幸せそうなのに・・・)

(スノウ・・宏のこと・・・。いままで気づいてあげられなくてごめん・・でも・・)

(いいんです美佳帆さん・・。所長が選んだのは美佳帆さんなんですから・・所長を見てたらわかります。私の入り込む隙なんて無かったんです・・・チャンスがないかと事務所にずっといたのはその為もあります・・美佳帆さんごめんなさい)

(いいのよスノウ・・。実際なにもしてないじゃない・・。私が言うのもなんだけど、宏はたしかにいい男だしね・・。でも・・スノウ・・あなた全然割り切れてないじゃない・・)

(正直所長のこと・・諦めきれてはないです・・そればかりは・・でも、理性では割り切ってるつもりです・・)

(うわぁ・・!)

(くぅ・・スノウも私以上の凌辱されてたのね・・辛かったでしょう・・。辛いのに・・憎いのに気持ちよくされて訳わかんなくって辛いよね・・)

(千尋も・・ご主人を庇ってあんな目にあったのに・・そのご主人とそれが原因で離婚だなんて・・)

(アリサ・・・あなたってなんにでもカラシかけて食べるのね・・。ってアリサが処女だったなんて・・こんなハードな記憶刺激強すぎたんじゃ・・ごめんね)

(は、はずかしー・・!みんなには内緒だよ?!)

(みんなお互いの言いたいことは後!・・今は紅蓮に集中しましょう!)

(はい!)

(ええ!)

(やっちゃうよー!)

4人の意識が混ざり合い混濁して一つの塊に共有しているが、はた目には大きなオーラを放つ者が急に現れたように見えるだけである。

「こ・・これは・・?!」

佐恵子のようにオーラを視認できるわけではないが、紅音は目の前の4人のオーラが膨れ上がったのを肌で感じ取って声をあげた。

(・・急に威圧感が?!強くなった??!)

「はぁはぁ・・!緋村支社長。貴女に全力で抵抗して見せる!」

黒髪を靡かせ立ち上がり、額には玉の汗を光らせたスノウははっきりとそう言うと更に共有の範囲を広げた。

「くっ?!」

紅音が焦った声を上げ、顔を横に逸らせて側中転して背後から襲い掛かってきた黒いモノを躱したのだ。

「さっきの?鉄扇?!」

スノウの【共有】能力で人だけではなく、あらかじめオーラを通わせておいた物質をも共有することができる。

美佳帆とスノウの持っていた鉄扇は宙を舞い、紅音を背後から攻撃したのち美佳帆たちを守るかのように4人の周りを飛んでいる。

「はぁはぁ・・いまのまで躱すなんて・・流石ですね!‥美佳帆さん・・美佳帆さんなら私より上手く扱えるはずです。・・私達の操縦任せます・・」

「任せといて!!スノウ、千尋・・!あなたたちの覚悟感謝するわ・・!絶対に乗り切りましょう!みんな力を貸してちょうだい!さあ!全力で行くわよ!」

美佳帆がそう言うと同時に、美佳帆が思念を飛ばすとピチピチのタンクトップの胸を揺らせてアリサが紅音に躍りかかった。

アリサのパワーやスピードは恐るべきものだが、本来なら紅音の体術には敵わない。

しかし、いまはアリサだけのオーラではなく4人分のオーラに加え、戦闘スキルはアリサの技術に加えて、俯瞰で戦闘を眺めている美佳帆が操っているのだ。

ばきぃ!

「ぐっ!?」

頬を殴打された紅音は赤髪を大きく振り乱して、吹っ飛ばされるが、なんとか空中で態勢を立て直し、廊下の壁を蹴ってアリサから大きく距離をとる。

「・・・なっ・・?なんで?!速いじゃない?!」

予想以上の速度と威力で殴られた紅音は狼狽した声をあげるが、その問いに応えるものはなく目の前には更に斎藤アリサが迫ってきていた。

紅音の反応速度を上回る攻撃、紅音のオーラによる防御をも貫通してくる猛烈な蹴り技が紅音を襲う。

「ば、ばかな・・!」

無言で襲い掛かってくるアリサの戦い方に解せない思いを募らせた紅音が、戸惑いの声をあげる。

どんなにフェイントを入れても、完全な死角から攻撃を仕掛けても防ぐか躱してくる。

それも道理で、アリサに4人のオーラを集中しているが、戦っている紅音とアリサを周囲3人で見ているのだ。

「ぐっ・・!ぐはぁ!」

3発ほどクリーンヒットを受けた紅音が、たまらず周囲を巻き込む技能を発動させる。

「調子に乗るなぁ!!」

美しい顔を歪め、口からは血を流しつつも紅音の能力発動は恐ろしく正確で速かった。

紅音の半径50mほどの温度が一気に上がる。

【焼夷】炎を発し周囲全体に熱による地象効果をもたらす無差別攻撃である。

当然紅音も熱の影響を受けるが、紅音の思念防御以下の威力で発動させるため、紅音自身は無傷である。

あまり火力を強めると宮コーの関西支社自体を燃やしてしまうため、威力は炎が上がらない程度に抑えてあるが、それでも生身の人間にとっては長い間この空間にいれば確実に死ぬであろう程の威力はある。

「きゃああああああああ!」

美佳帆たち4人は先ほどの火炎放射よりも強力な熱に悲鳴を上げ顔を覆い、避けられえぬ熱気から身を守ろうと手で顔を覆った。

しかし、【焼夷】が発動した瞬間、美佳帆は熱気で喉を焼かれないよう、眼球の水分を奪われないように目を閉じたまま千尋に指示を頭の中で飛ばす。

(千尋!【脈動回復】)

(ええ!)

スノウの能力で、いま4人は会話をしなくても意思疎通ができ、4人分の能力を美佳帆ひとりが操り四人の能力を司っている。

二人は無言でやり取りを済ませ、徐々に体力を回復する【脈動回復】をスノウの【通信】と【共有】で4人全体に効果範囲を広げ、熱気によるダメージを上回る回復技能を展開させたのだ。

「こ・・・こいつら!何故【焼夷】で死なない?!」

【焼夷】範囲に入ってすぐさま戦闘不能に陥るかとタカをくくっていた紅音はうろたえた。

千尋の徐々にキズを治癒するする技能を、スノウの【共有】と【通信】で全体化させて、紅音の発動している【焼夷】による地象ダメージを上回る速度で治癒しているのだが紅音にその術を知る由は無い。

美佳帆は紅音の動揺を見逃さず、先ほどより遥かに力強いオーラを纏せたアリサを突進させ、更に宙を舞う鉄扇でアリサの攻撃の隙を埋めるように紅音を襲いだす。

「ぐぇ!」

さすがの紅蓮も躱しきれず、アリサの低い姿勢からのソバットが紅音を持ち上げるように腹部に突き刺さる。

紅音は目を剥き口から血と涎をまき散らして仰け反るが、アリサは追撃で更に蹴り込んで地面にたたき落とした。

「ぐぅ・・!この私によくもこんな無様な・」

「今のを受けてもまだ動けるって言うの?!」

思い切り床にたたきつけられた紅音が、顔の血を拭い、蹴られた腹部を抑えながら置きあがってくる様に美佳帆は戦慄して声をあげた。

他の3人も同様の気持ちなのが脳で共有から伝わってくる。

アリサに攻撃をさせている際は、4人のオーラのほとんどをアリサに集中させている。
ほぼ4人分のオーラで強化したアリサの攻撃を受けても耐え、あの速度にも何とか対応している紅蓮とよばれる宮コー最大戦力の緋村紅音の実力の底が図り切れないことに戦慄したのだ。

しかし、一方の紅音はかつてない危機だと感じていた。

どういう能力かはわからないが、斎藤雪が能力を発動したとたんに、本気を出さなければ死ぬと肌で感じる相手たちに成り代わったのだ。

(どういう発動条件なのか知らないけど・・、体術で私を上回るなんて・・さっきの速度と威力・・加奈子以上だわ・・あのスパッツ女・・・明らかに最初と違う・・・)

「・・・少々・・燃えても・・いいか。・・仕方ないじゃない。このまま手加減して死んじゃうなんてナンセンスだわ」

立ち上がったが、苦悶の表情で腹部を抑えたままの紅音は、小声で物騒なセリフを呟くと目を見開きオーラを開放する。

紅音は、今まで建物を焼き尽くしてしまわないように抑えていたオーラを遠慮なく発動した。

敵意に満ちた膨大なオーラをその身に纏った紅音は、邪悪な笑みを浮かべると右手を突き出し言い放った。

「もう終わり!予定どおりに死ねっ・・・!【紅蓮火柱】」

本気のオーラを開放し勝利を確信した紅音は、右手にオーラを収束させ放った。

ホテルの通路いっぱいに広がった直径5mほどの深紅の火柱が轟音とともに水平発射され美佳帆達を襲う。

熱量、速度、炎の範囲、いずれも先ほどまでとはけた違いで、到底躱したり防げるような代物ではない。

驚きの表情を貼り付けたままの美佳帆達を紅蓮の炎が覆い、炎はそのまま美佳帆たちを飲み込み、建物の壁面を焼きつくして、壁を貫通した火柱が夜空に紅い直線となり走り抜けた。

【第9章 歪と失脚からの脱出 32話 紅蓮VS菊一女性チーム終わり】33話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 33話 心地よい夢からの目覚めと現実そして開花する者

第9章 歪と失脚からの脱出 33話 心地よい夢からの目覚めと現実そして開花する者

グラサンこと菊沢宏は、縦横に淡い茶色のレンガ調の石が敷き詰められたオープンカフェを一人歩いていた。

黒いジャケットに黒のスラックス、シャツは着ず、ジャケットの下には襟の無いTシャツを着ており、そしてトレードマークのサングラスの男は宮川コーポレーションではすでに有名人であった。

宮コー関西支社からほど近いこのオープンカフェには、正午のこの時間帯は宮コー社員も数多くいる。

年頃の女性社員たちは、調査部部長の菊沢宏が歩いているのを発見すると、遠巻きに宏を観察しては、何事かを囁きあっているが、それが好意的な会話であることは、彼女たちの表情をみてもよくわかる。

しかし、宏はそれらの視線など気にした様子もなく店庭の一角、パーゴラの下にあるテーブル席にいる人影を見つけると、そちらに歩み出した。

「スーツ姿やないから気が付かんかったわ」

宏が声を掛けた人物、宮川佐恵子は、大きめのサングラスを掛け、白の帽子にゆったりとした白の上下の衣服を着こなし、脚を組んでテーブルに置いたpcの画面を熱心に見ていたが、声を掛けられると顔をあげて僅かにほほ笑んだ。

「あら菊沢部長?珍しいですわね。こちらにいらしていたとは・・・支社5階の部長室はお気に召さなくて?わたくしは、今日は休日を頂いておりますが、支社のほうは当然勤務時間内ですわよね?」

佐恵子は丸い大きなサングラスを外し、組んでいた足をもどすとテーブルの対面に立ったままの宏を見上げて言った。

「なんやねん。おったらあかんのか?ここのフードコートは宮コーグループの社員ならだれでも使こて問題ない施設なんやろ?あんたこそ、元支社の最高責任者がこんなところでくつろいどったら、他の社員は気ぃつこてリラックスできへんのとちゃうか?」

「そう言う意味で言ったのではないのですが・・・でも菊沢部長の言うのも一理ありますわね。・・確かに、私が座るテーブルにはあちらのほうにいる支社の社員たちも近寄ろうともしませんわ。・・でも私はここでの眺めを気に入っておりますの」

悪意はないのであろうが、ぶっきらぼうな言い方をされることに慣れない佐恵子は、少し面食らったが、最近は菊沢宏という人物が少しはわかってきたので、そこまで気にせず答えることができた。

「そうなんか。まあ確かにええ天気のときはこんなオープンテラスでゆっくり休むんもええかもしれへんな」

「・・ええ・・。菊沢部長もここにはよくいらっしゃいますの?」

そう言った宏に対し、佐恵子はそうこたえながら正面の椅子に座るよう手で促す。

その様子を見ていた宮コーの女性社員たちは、宏を独占しだした佐恵子に対し、明らかに嫉妬の表情になるが、相手が相手だけに顔をしかめたまま黙ってしまっている。

「いや今日初めてやねん。うちの所員はいま全員出はろうとってオフィスに俺ひとりやしな。考え事ついでに散歩してたら、ここのこと思い出して立ち寄っただけや。あんたがおったんは偶然やな」

「そうでしたか。ここは宮コーが運営してますわ。もう秋も近いですが、ここは夜ビアガーデンもしていますので、利用してあげてくださいませ。食事はビュッフェですが冷食などは使っておりませんのよ?」

「そう言えば入口の壁にそんなポスター貼ってあったな。画伯やモゲに言うたら連れていけってうるさそうや。ははっ」

当の二人は、周りの女性社員の視線と感情に、何となく気がついてはいるが、気にした様子もなく話を進めている。

ひとしきり他愛のない会話を交わすと佐恵子は、手をあげてウェイトレスを呼び、宏のオーダーを聞くように命じると再びpcを眺め出したのだが、なにやら宏からの視線を感じ再び顔をあげた。

「どうかしまして?」

「こんな機会や、ちょっと聞かせてもらうで?」

佐恵子はいま感情感知を使ってもいないし、宏はサングラスをしたままであるが、宏がなにか真剣に聞こうとしているのは見て取れる。

「なんですの?いま仰ってた考え事のことですの?」

顔をあげてノートパソコンの画面を閉じると、佐恵子は改めて宏に向き直った。

「ああそうや。あんた俺らのこと宮コーに誘たけど、当のあんたがクビになってしもうたやないか。俺は今あの緋村が直属のボスになってるんやで?これがいつまでつづくんや?あんたもうやる気なくしたんか?宮コーちゅう大組織使うて、日本の停滞した経済直して社員や国民を幸せにする言うてたんは諦めたんか?・・・それやったら・・俺らはとっとと出て行くで?あんたがおらんのやったら、俺の目的である所員と所員の家族の安全の確保もままならんし、むしろあの緋村がおるほうが危険増すからな。所員の家族は警護が付けられとるけど、むしろもはやそれが気持ち悪いねん。逆に人質とられとるみたいや」

佐恵子は菊沢美佳帆とはよく話をするし、随分打ち解けてきたが、旦那の菊沢宏と話をこんなに聞くのは初めてね・・と思いながらも、佐恵子は真剣に聞いていた。

応えるのにやや間を空けてしまったが、佐恵子は口を開く。

「そうですわね。菊沢部長のご心配はごもっともです。紅音は・・優秀ですが、ちょっと困ったところもありますわ。・・実はわたくし、紅音とは随分付き合いは長いのです。2つ上の先輩で、あんな感じですが本当に賢くて、強くて・・。・・しかし・・わたくし、菊沢部長にそんなことまでお話しておりましたか?」

「宮川さんのことは神田川さんから聞いた話がほとんどやが、あんたと稲垣さんのケガが治ってから、あんたが一回俺らを招いて懇親会を開いてくれたことあったやろ?その時に話してたことと、神田川さんが言うてたことををつなぎ合わせたら、あんたの意思や目的がはっきりわかったんや。あんたちょっと酔うてたしな・・みんなの前で演説してけっこう饒舌やったで?店におる他の客も演説聞いてたん覚えとらへんか?これも目の能力かって思えるほど見事やったで?」

質問に対して宏が答えたことに、佐恵子は首を傾げ少し狼狽え気味に聞き返す。

「え・・?・・そう・・そんなことがあったような・・でも本当ですの?わたくしがあの居酒屋で演説・・・?」

佐恵子は宏に言われて、おぼろげな記憶が少しだけ鮮明になってきて、頬を紅潮させだした。

「ああ、そや。なに今更恥ずかしがってんねん。もうすんだことやないか。それにけっこうええ話やったで?客もねーちゃん立候補せえとか言うて、拍手しとったからな。あぁ、神田川さんがその演説撮影しとったから確認できるんちゃうか?」

少し思い出し始めた記憶が今のセリフで一気に鮮明になり、佐恵子がアルコールに弱いのを知りながら真理がやたらお酒を勧めてくる理由が、今になってわかり眉間にしわを寄せ、目を閉じる。

「く・・・・真理・・!」

(・・どうやら真理はわたくしのことで、楽しんでいる節があるようですわね・・)

真理への抗議を口に仕掛けたが、乗せられてしまいすでに済んだことだと割り切ると、諦めて宏に向き直る。

「そう・・でしたか・・。なにやらけっこう喋ったような覚えはあるのですが・・、他のお客さまにまで迷惑をかけていたとは、失態です・・。やたら真理が飲ませてくると思ってましたが・・・お恥ずかしい」

「まあそんなことは、全然どうでもええんやけどな」

「・・・」

佐恵子としては結構恥ずかしいことを思いだしたのだが、佐恵子自身が恥ずかしい思いをしたのなど、宏が本当に気にした様子もないことに、佐恵子は言葉を失ったが、宏はそれすらも、気にした様子もなくつづけた。

「そんなことより、酔うてたとはいえ、あの演説は冗談やと思われへん迫力と説得力があった。付け焼刃の思い付きで言うたんやないんは俺でもわかる。日本は経済大国やが国民の大半はワーキングプアで、幸福度が低いんをどないかする言うてたで?たしかに、日本だけで見たら宮コーは巨大企業やし、ぎょうさんいろんな仕事してるな。固定した産業に固執せんから伸びしろもまだまだある。それに確かにあんたが目指してるように、俺から見ても宮コーの社員は、他の会社に勤めてるもんに比べたら、みんな幸せやとは思うんや。・・まあ、働いてる本人らはその幸せに気づいてるかどうか知らんけどな。そういう世の中つくんのに、邪魔する凶悪な能力者や組織は容赦なく排撃して撃滅するんやろ?他のどの組織でも出来ん。これを実行するのは、わたくしたちでなければならない。わたくしたちにしかできない。力を持つ者が私利私欲に走ったらどうなるというのです?その結果が今の日本なのです!・・ってな」

「も、もうお止めになって!」

途中から自分の口調のモノマネが入ってきたところで、一気に真っ赤になった佐恵子は手のひらを軽く宏にあげて制止した。

「お止めになってて何もしとらへんがな。しかし、良かったで?まるで映画のワンシーンみたいやった。・・宮コーって社員はちゃんと定時に帰らせとるし、ほとんどの社員は有休も全部消化させとるみたいやないか。宮コーの下請会社もかなりええ条件で仕事受けとる・・。こんなことさせてくれる会社なんてほとんどあらへんで?社員や関係組織をそこまで優遇しておきながら、会社としては莫大な利益もあげとる・・。ほんまに、日本全部でこんなことできるやったら、俺らもそれに参加できるんなら手伝ってやろうと思ったんや。探偵の仕事し始めたんも、まあ俺自身の個人的な探し物もあるんやけど、基本的には理不尽な目に合うて、困っとる人助けるためってのが大きいからな。あんたのやろうとしてることは、俺らより欲張りでドでかいけど、本質は一緒やと思たからなんや。・・どうなんや?支社の運営が緋村に変わって売り上げは上がっとるけど、利益率は下がってしかも残業はあるようになってきたし、ちょっと変わってきてるんやで?あんたもう降りたんか?あんたが関西支社長になって3,4年なんやろ?一朝一夕であの状態にしたんんやないってことは俺でもわかる。あんた有言実行してたんや。うまくいってたんやで?それやのにもう降りるんか?能力ほとんど失って自信も失ってしもたんか?」

宏の真剣な口調と顔に、赤面していたことも忘れ佐恵子は視線を落し、言葉を選ぶように熟考してから口を開いた。

「自信ですか・・。たしかに、頼りとしていた目があまり使えなくなったのはショックでしたわ・・。ですが、逆にいろんなことを考えるきっかけとなりましたの。・・それにわたくし、降りてはいませんわ・・・。菊沢部長・・・どうしてほとんどの企業が宮コーのような・・いえ、宮コー関西支社のような社員満足度が高い組織ではないか真剣に考えたことがおありになって?」

「ない。いや、あるけど、あんたほどは無いってことやろな」

佐恵子は話そうとするも、宏に理解してもらえそうかどうかと伺い気味に聞いてみたのだが、宏の応えは簡潔で、はよ話せや。と顔で言っているのがよくわかる。

「・・正直な方ですわね。殿方はそういうとき、むきになる方が多いのですが・・、菊沢部長は違うようですわね」

佐恵子はそう言って宏を観察するが、正面で腕を組んだままの男は相変わらず、「はよ」という感じで、無言で催促している。

「ふふっ、簡単ですわ。権力を持つ者が搾取しすぎている上、いまの状況を維持させたがっている。加えて法律の問題ですわね」

「漠然とし過ぎとるけど、それって具体的に解決ってできるんか?」

その口調と態度から、宏の性格がよく伝わってきたため、佐恵子は口をほころばせてしまうが、宏はあくまでマイペースであり、結論を急ぐような口調である。

「できますわ。時間がかかりますけどね」

「どうするんや?長い説明いらんで?400文字ぐらいにまとめてくれや」

菊沢宏と話をすることで、佐恵子は自分が本当に周囲に気を使わせてきたのだと、実感できてしまい表情を柔らかくしてしまう。

目の前のこの男は、自分のことを財閥令嬢だと扱ってはいないのだ。

「ふふふ・・。不思議な方ですわね、本当に・・。でも、菊沢部長はわたくしがやろうとしていることを冗談とも思ってらっしゃらないご様子・・。ほとんどの方は聞く耳を持ちませんのよ?」

「あんたニュース番組とかにも出てたことあるけど、ああいった演説ってテレビや大勢の前でやったことないんやろ?やったら賛同者大勢居ると思うで?・・あの演説が冗談やないのは、あんたという人間をある程度知ってたらわかる。せやから、個性派で無軌道なうちの所員らもあんたに従うとるやんか。俺はな、うちの所員は俺の言うことは聞いても、あんたの言う事って聞かんやろなって思ってたんや。あの懇親会以来、所員のあんたを見る目変わってるのわかるってるか?あ、モゲのやつは別やな。あいつ超自己中マイペース野郎やから・・。せやけど、モゲ以外はあんたに対して認めてるし一目置いてるんやで?」

宏のセリフに佐恵子は細い目を丸くさせて驚くが、すぐに目を細めて苦笑し信頼する側近を思い浮かべた。

(真理は菊沢事務所の方々に、わたくしの口から話させたかったのですね・・)

「・・・わたくしの腹黒い参謀が仕組んだせいですわ」

「まあ、神田川さんの思惑もあるやろうけど、中身が伴うからそうなったんや。さあ、説明頼むで?どうやるつもりなんや?簡潔にな」

さすがに鋭い感覚の持ち主の菊沢宏は、神田川真理のお茶目で、イタズラ好きの性格も見抜いているうえ、当然真理の手腕もよく解ってくれていそうな様子に、佐恵子は宏に対し素直に好感を深めていた。

「400文字は無理ですが・・」

と、佐恵子は前置きすると話し出した。

「・・失われた20年、・・経済分析の世界では見当違いのことが声高に叫ばれて久しいのです。しかし、はっきり言えるのは経済の停滞のせいは産業構造が原因ですわ。残業を減らし、有給休暇を増やして、女性や定年を迎えた高齢者も働きやすい環境をつくる。そうすれば会社の業績も上がり社員のモチベーションも上がる・・・というのが、いわゆる働き方改革という残念な政策ですわ」

一区切りついたところで佐恵子は宏の様子を見るが、続けろと無言で催促されているのがよくわかる。

(わたくしに対して、なんと傲慢でストレートな態度でしょう・・・ですが嫌な気分にさせられないのは不思議です・・)

宏はこういう男なのだと納得し、佐恵子はつづけた。

「ですが、そんなことは結果の話であって、要因を分析せず、何も成したことのない評論家の戯言です。欠けているのは徹底した要因分析。老害達の固定概念や直感では決して解決いたしません。たとえば、保育所さえ足りれば女性が社会で活躍できる・・という極論を聞くことがありますが、わたくしはそうは思いません。当然保育所は必要ですが、そんなことで女性の社会進出が進むわけがありませんわ。せいぜいパートをする子持ちの女性が増えるだけです。それでも経済効果は多少ありますが、本当の意味で、それは誰にとって有益なのでしょうか?得をするのはそのパートができるようになった女性ですか?それとも、低賃金で単純労働力得る機会が増した企業でしょうか?」

「簡単にまとめいや」

今度は、注文を付けられた。

(それでも、不快な感じがしない・・。不思議な力がありますわ・・)

心中でそう呟いてから、佐恵子は続ける。

「・・・大企業の定義は曖昧ですが、日本には大企業と言える企業が少ないせいです。給与に限らず、定時帰社率、有休取得率は企業規模に比例するというのは万国共通の分析結果で、日本も例外ではありません。例えばアメリカ人の労働者の約50%は大企業で働いていますが、日本在住の労働者で大企業に勤務しているのは労働者の10%ほどしかいませんわ。そのうえ全事業者中、中小企業者数は全体企業の99%以上、そのうち従業員20人以下の小規模事業者が85%を超えておりますのよ?嫌味ではなく、それら日本のほとんどの企業は、世界的には大企業とは言い難い、この宮川コーポレーションにすら事業としては競争しうることもできませんでしょう?統制もなく、お互いが協力関係にないアリ達では恐竜に勝てないようなものです。こんなことが続けば、日本企業は取り残されてしまいます。20年前とは違います。かつては日本の企業は世界のトップ20にたくさん名を連ねておりましたわ。しかし今はどうでしょうか。1社もありませんわよ?・・1兆ドルの売り上げを伺える位置にきているグーグルやアマゾン・・フェイスブック、アップル・・それらはいずれもまだ若い会社です。しかし、それより遥かに歴史ある日本企業がそれらに対しまるっきり歯が立たないではありませんか。こんな不甲斐ないこと・・、日本の多くの殿方経営者は許せるのですか?わたくしにとって、それは嫌なことなのです。それに、すでに既得権益を得ている者達は、自己の栄達に満足して、世界の情勢は自分たちの遠いところの話のことのように思っておりますわ」

宏は腕を組みサングラスの下では目を瞑って寝ているのではないか。と佐恵子は一瞬訝るが、そうではないらしい。

きちんと聞いてくれているようだ。

「日本人がよく働くのは、国民性だとか、労働文化などと断ずるのは科学的分析とは言えません。利権を得ている一部の権力者たちの都合のよい卑劣な論理です。現に日本人にもニートは増え続けているではありませんか。その方々は日本人らしくないとでも?そうじゃありませんよわよね?原因はもはや大企業にも就職できず、小さな企業に就職すれば過酷な労働が待っているから働く意欲を削がれているのです。かといって日本には生活保護制度などもありますから、死ななくても良い。そしてそこに血税が投入され国政を圧迫する悪循環。・・・小さな企業がたくさんできてしまうような政策、票集めのための老人優遇の政策、人権派気どりで人気を得たい為の政策でがんじがらめです。・・今や、10%程度の大きな企業が、残りの小さな企業に負担を強いているのです。当然その小さな企業で働いている労働者の方は無理な働き方をせざるを得ません。こう言うと、日本に小さな企業が多いのは伝統で、文化だという人がいらっしゃいますが、それもよく考えた理論ではありませんわ。小さい企業が多い理由は中小企業を守る手厚い優遇政策の法律のせいですわ。優遇措置の微々たるはした金を目当てに、製造業は300人未満、小売業は50人未満の規模に維持しようとする企業が多すぎるのです。リスクをとらず目の前の安全な小銭を拾う方が多いのは仕方ありません。問題は制度です。・・そしてたくさんできてしまった小規模な組織では、いかに優れた技術を持っていても、日本ではおろか世界には競争力という点では全く太刀打ちできないでしょう。技術や知識を持ちながらも、日本では大企業に技術とノウハウ搾取され、世界ではとても戦えない哀れで競争力のない組織が多く生まれてしまったのです。一言で言うと・・票集めに没頭しすぎた政策ミスですわ。ですが、今の日本の大企業の多くが、そして、権力者の多くはそのままで良いと思っています。自らの栄華謳歌のためには、同じ日本人だとしても、貧しい他人がどうなろうと顧みない。・・・残念と言わざるを得ませんが、これこそが日本人の特徴と言えるでしょう。自分の知識やノウハウが時代の変化とともに陳腐化しているにも関わらず、組織に社長や会長として君臨し続け、自分の組織内ですら、組織を飛躍させる優秀な人材がいたとしても、自分を脅かす存在の台頭が許せないほど狭量・・。しかし反面では身内には甘く、出社もしてこないような配偶者にも高額給与を支払い、未成年の子息たちにも会社経費で携帯電話や、パケット代を支払う。あまつさえ愛人には車両費や生活費を経費として払い、自身の子息が無能だとしても組織の世襲を行う・・。世界的に見れば珍しい愚かな民族です。日本人には、たくさん良いところもありますが、悪い特徴もあり、それを政治家や権力者に見抜かれ、与えられているようで、実のところ奪われ、飼殺されているのです。しかし、その飼殺しているつもりの権力者たちも、いずれはヨハネの黙示録の四騎士のような、抗いがたい力を持つ、GAFAのような世界の巨人たちに駆逐されてしまうでしょう。すでに日本企業で世界トップ20に入る企業は無くなってしまったではありませんか。トップ50以内にようやく自動車メーカーが一社あるだけですわ・・・。この産業構造を根本的に変えないかぎり、日本企業の縮小化は止まらないでしょう。日本は世界一の技術を持っていると無邪気に浮かれている方がたくさんいらっしゃるようですが、巨大資本に買いたたかれればどうするのです?販売経路や運送業者に圧力を掛けられたら?パテントが切れたら?パテントなど無視するような国家もありますわよ?武力行使が大好きな国もございますわね。さあ、憲法で自衛すらままならないうえに、小資本でどう立ち向かうのです?言いなりの価格で高品質なものを要求される平和的な植民地にされてしまいますわ」
ここまで言い、佐恵子が軽く息を吐き一区切りつくと、宏が口を開いた。

「簡単に纏めろ言うたやないか・・・。せやけど言うてることはようわかったで。あんたが傘下に多くの多種多様な企業を抱えたコングロマリット形式をとってるのが、なんでかわかった気がする。大企業と言えるような世界に通用する企業を傘下にたくさん作って、そこで働ける人を増やしてたいんやな?」

「そのとおりです。トップ50に10社・・日本企業をつくりたいのです。・・ことを成したとしても、結局いずれまた・・とは思いますが・・。水は流れなければ淀むのは必然だとしても、わたくしはそうしたいのです」

「説明長すぎるねんホンマ」

真理とはこういう話をよくするのだが、あまり話したことのない宏とこんな話をすることになるとは思ってなかった佐恵子は、不思議と清々しさを感じていた。

以前に【感情感知】で宏を見た時は、初対面の状況や、妻の美佳帆が攫われたということもあり、宏が佐恵子に対しあまり好意を持っておらず、疑心、怒り、軽蔑など負の感情を向けていたので、完全に嫌われていたのだが、【感情感知】を使わず、いま話をした限りでは、宏からそういった負の感情を感じない。

「本当に不思議ですわ。こんなこと話したのは久しぶりです。真理や加奈子とはこういう話をよくしますが・・。さすが美佳帆さまが惚れられた方、そして哲司さまの親友ですわね・・。促されるまま話してしまいました」

「だれが不思議やねん。わかりやすいやろが?」

「・・・ええ、そうですわね。わかりやすいですわ・・」

佐恵子は、以前は意識していなくてもあふれ出すオーラのせいで常時展開してしまっていたパッシブスキルの【感情感知】を無意識に展開しだしてしまっていた。

(はっ・・どう思われてるのか気になってしまってつい使ってしまいましたわ。栗田先生にとめられているというのに・・・。また目の痛みが再発してしまいます・・。それに、菊沢部長は私の【感情感知】が展開しているのを気づいてしまうはず・・。また怒らせてしまいますわ・・)

「まあ、ようわかった。あんたはそれを今後もやるつもりなんやな?」

感情感知を察したせいだろうか、宏は一瞬だけ動きを止めたが、気にした様子もなく話を続けている。

「ええ。紅音は確かにとても優秀ですが、たぶん長くは続きませんわ。・・・学生時代もそう・・・紅音はいままで長続きしたことはございませんの・・。きっと勝手に自滅いたしますわ・・。ですから、いましばらくお待ちください。自滅を待つだけではなく、わたくしたちも準備をすすめておりますから・・」

(怒らない・・・。感情を見られても構わないということ?)

「さよか。そやけどいつまでも待たれへんから。帰ってくるなら早よしてくれや?もし必要なら俺が緋村しとめてアンタのかたき討ってやってもええんやけど、あんたもそんなことは望んでないやろしな・・・」

「そっそんなことは・・・現実的に考えても無理ですわ。そんな事をしたら騒ぎが大きくなるだけですわ。しかし・・・ええ・・。わかりましたわ菊沢部長」

片目だけで無理に発動しているため、ズキズキと痛む右目の【感情感知】で得られる宏の感情色の情報に、佐恵子は感激に近い思いを感じてた。

(わたくしのことを信用している・・・。美佳帆さまが攫われたときは、わたくしのこと・・あんなに怒って軽蔑してらっしゃったのに・・いまは怒りがまったくない・・・・、まったく・・、でも・・このわたくしのことを女として魅力もまったく感じていない・・・)

今までの【感情感知】が発動しっぱなしだった経験から佐恵子は、異性はほぼ例外なく、自分に対し女としての魅力を感じているものだと思っていたが、宏が自分に怒りや軽蔑の感情を向けず、信頼や少々の尊敬を向けていることに感激はしたが、同時に女として見ていないということに激しく落胆してしまっていた。

(・・なんですの・・?この感情は・・。わたくしはいまどういう感情に支配されているのです・・?)

【感情感知】を展開したまま鏡を見れば、自分の感情もわかる。

しかし、いまバッグから手鏡を取り出して確認するのも、何故か躊躇われた。しかし、もう目が持ちそうにない。

「よっしゃようわかった。ほな戻るわ。そろそろモゲと画伯が戻ってくる頃やねん。ほなな、まあなんか手伝い必要ならいつでも言うてくれたらええから。俺は今でも緋村やなくあんたに雇われているつもりでいてるから。うちの所員たちもな。」

「・・き、菊沢宏!」

聞きたいことは聞いた。

という態度で席を立った宏は、半分以上残っているアイスコーヒーをそのままにし、軽く手をあげ背を向けて立ち去ろうとしている大きな背中に、佐恵子は思わず声を掛けてしまっていた。

「なんや?」

突然フルネームで呼ばれたのに、気にした様子もなく半身だけ振り返り、佐恵子の言葉を待っている。

佐恵子は、何事か言わなければと、頭をフル回転させるが、気の利いたことは思いつかず、宏をやや戸惑わせてしまうセリフが口から飛び出した。

「・・わたくし・・わたくしとも親友になってくださる?」

「・・そんなもん言うてなるもんとちゃうと思うで?」

「・・そう・・ですわね。・・忘れてください」

一瞬の沈黙があったが、宏は素っ気なく言い、再び背を向けて歩き出した宏の背に向かい、佐恵子は、なんとかそう言い目を伏せた。

「・・ま、そうなんちゃうか?・・・うん、あんたは同志やしな。ははっ」

宏のそのセリフに、佐恵子は顔を勢いよく上げ、振り返らず歩き去り去る背を凝視した。

けっして長身という訳ではないが大きく見える背中は、もう振り返らず行ってしまう。

佐恵子は宏の背から目が離せなかった。

言葉で肯定してくれた。

今の佐恵子にとって無理をして発動させている【感情感知】が、宏の言葉に嘘が無いことを色で伝えてくる。

それは嬉しいのだが、それ以外の感情が沸き上がってくることに佐恵子は戸惑い、頭でいくら考えてもわからぬまま目を離せずに見ていると、宏がカフェの中ほどまできたところで、支社の女性社員たちが宏に群がり、笑顔で宏に話しかけだしたのだ。

今度はまた違う感情が沸き上がる。

なんだかとてもイライラする。

佐恵子は、【感情感知】がオーラ切れになる前にと、急いでバッグに手を突っ込み化粧ポーチから手鏡を取り出すと、コンパクトを開くのももどかしく慌てて鏡を覗き、自身を【感情感知】で視認する。

「くっ!・・」

複雑に入り乱れた自分の感情色を見て、佐恵子は思わず声を漏らしてしまった。

手鏡に映った自分と、背を向けて支社の女性社員と話をしている宏の感情色を2度ほど見比べたところで痛みとガス欠で発動が解除される。

(わたくし・・この男にもっと前から出会っていたら・・・出会ってしまっていたら・・)

久しぶりに能力を使ったせいで目と頭はズキズキと痛み、ぐったりと疲れてしまったが、頬が赤くなってしまったのは疲労のせいだけではなかった。

「・・・オーラも私より多くて戦えば敵いそうにないと畏怖させれるかと思えば・・こんな思いも抱かされるなんて・・本当にやっかいで・・・・不思議な男・・」

佐恵子は、自分自身を女として全く意識していない男に対して抱くには、あまりにも報われない突然の感情に戸惑い、哲司という恋人がいるにもかかわらず、湧き上がってきてしまった自分自身の感情を情けなく思って呻いてしまったのであった。

♪♬♪~♪♬♪~♪♬♪~♪♬♪~♪♬♪~♪♬♪~

支社の女性たちが宏に笑顔で群がっている様子をイライラして見ていた佐恵子は、聞きなれたメロディで目を開けると、そこはほぼ暗闇だった。

(あれ・・?着信・・?・・いまのは夢・・?いえ・・先日カフェでの一件ですわ・・)

なんでこんな夢をと思い、身をよじって音のする方に手を伸ばすが、普段とは勝手が違う様子に暗闇の中、佐恵子はメロディを奏でるスマホの僅かな灯りを頼りに手を伸ばす。

(そうでしたわ・・。ここは香澄のマンションでしたわね)

向いのソファでも着信音に気が付き、身をおこそうとしている女性、岩堀香澄に対して申し訳なく思いながらも、佐恵子はスマホの画面をのぞく。

「美佳帆さま?・・こんな時間に・」

そう呟くと佐恵子はスマホの通話ボタンをプッシュし耳に当てた。

「もしも・・」

話はじめた瞬間、向こうから美佳帆が一方的に喋り出した。

「宮川さん!緋村支社長が・・いえ、紅蓮が私たちを殺しに来るわ!私の能力で聞いたから間違いないの!・・宏達とも連絡がとれない!私たちだけじゃ、あの紅蓮を止められないかもしれない」

切ない思いをさせられたが、気持ちの良い思いの夢の余韻が美佳帆の切羽詰まった声で吹き飛ばされる。

佐恵子は寝起きの頭をむりやり起動させてフル回転させると、スマホの向こうの状況を正確に知ろうと耳を澄ませ、美佳帆に問いかけた。

「そんな・・いくらなんでも紅音が・・!・・美佳帆さま今は支社のホテルですわね?」

「そう!なんとか頑張ってみるけど、救援お願い!」

「わ、わかりましたわ。今からすぐ向かいます。なんとか耐えて!」

「ええ!・・むざむざやられたりなんかしないけど。お願い!じゃ今から緋村支社長をおもてなしする支度をみんなでするから!」

美香帆はそう言ったところで通話が切れた。

佐恵子はベランダの窓を勢いよく開け、視力強化をして2kmほど離れたところにある関西支社を凝視する。

栗田教授に魔眼の使用を控えるように言われているが、いまはそんな事を言っていられる場合ではない。

遠目には何事もないようだが、支社10階部分の支社長室の窓はほとんどが割れており、炎は見えないがいまだに煙が上がっており、なにやら作業をしている人の影が大勢あった。

「紅音・・!はやまらないで・・」

佐恵子はベランダから部屋に入り、一気にバスローブを脱ぎさり上下黒の下着姿になると、持ってきていたバッグから動きやすそうな服に袖を急いで通し、玄関へと走った。

「支社長!一人では行かせませんよ?」

すると玄関まで着た時、パジャマから着替え、すでに靴まで履いている香澄が、手には木刀を持ってそう言ってきた。

「か、香澄・・。起こしてごめんなさいね。大丈夫だから。あなたはここにいてちょう・・」

佐恵子は香澄を安心させようと言いかけたが、有無を言わさず香澄はセリフを被せてきた。

「社長!・・わたしわかってるんです。・・社長、今日ひどい目に合ったんでしょう?言わなくてもわかります。・・私がついて行ってあげますから安心してください!社長を呼び出したクズどもにはもう指一本触れさせませんから!・・私これでも剣道4段の腕前なんです!」

香澄はそう言うと木刀を竹刀袋に入れて背中で背負い、佐恵子の返事を待たず玄関の扉を開けた。

「ちょ!?ちょっと?・・香澄。大丈夫だから加奈子や真理を呼ぶから!って・・行っちゃうし・・鍵はどうするのですか?」

なにやら一方的な誤解をされていると思った佐恵子ではあったが、反論の時間も与えられず、当人が目の前からいなくなってしまったので、慌てて靴を履き玄関の外に出ている香澄を追う。

「香澄・・本当にあぶないのですよ?あなたを危険な目に合わせられないですわ」

「社長大丈夫ですから。安心してください。このさいケリをつけてしまいましょう。私こういう卑劣なことする人達許せないんです」

「な、なにか誤解があるようだけど・・」

佐恵子は、なんとか香澄を宥めようと靴を履きながら、スマホを操作し加奈子へとコールする。

「・・・出ない・・。どうしたのかしら・・」

「社長・・こんな時間にかわいそうじゃないですか・・。私がいれば大丈夫ですよ」

20秒ほどコールしてみたが、加奈子は電話にでない。

さっき加奈子に渡しておいた予備のスマホであるから出ないはずはないし、何より加奈子は着信音が鳴ればぐっすり眠っていても起きるほど聴覚は優れている。

「加奈子・・まさか何かあったんじゃ・・・」

「社長・・寝てるだけですって・・いくら何でもこんな時間にたたき起こしたら、可哀そうすぎますよ」

香澄の言い分は一般的且つ常識なので当然である。

「真理に至っては・・コールすらしないわ・・・急がなきゃならないのに・・・いまのわたくしだけでは・・」

「・・・社長いい加減にしてください。元部下とはいえこんな時間に電話して出てくれるわけないじゃないですか。今何時だと思っているんです?・・社長。私が同行してあげますから安心してください。きっとひどい目になんか合わせませんから」

佐恵子は、スマホを耳から離しそう言ってくる香澄を見上げる。

「香澄・・あなたまで巻き込めな・・」

「社宅とはいえ夜中に私の家に転がり込んできてるじゃないですか。もう十分巻き込まれてますから」

できるだけ優しい声でそう言いかけたのだが、勘違いしているであろう香澄はがんとして聞きそうにもない。

香澄は背中に背負った黒い竹刀袋に入った木刀の握りを確かめるようにして、目には強い意思を輝かせている。

(・・・どうしてもついてきそうね・・。いざとなれば香澄に付与を付けて逃げさせるぐらいはできるかしら・・?でも紅音の他にもたぶん丸岳さんや、美琴・・紅露部長や松前常務・・そしてはなもいるかもしれない・・・。紅音だけでも、いまのわたくしでは到底太刀打ちできないのに・・。やっぱり香澄についてこられたら・・香澄が死ぬわ・・)

目を輝かせ、靴を履いている佐恵子を見下ろしてくる香澄から目を逸らしてそう考えると、佐恵子は履き終えた靴の感触を確かめると、床を蹴り一瞬で香澄の背後に回り込んで首筋に手刀を浴びせ香澄を気絶させた。

つもりだったのだが、佐恵子の手刀は竹刀袋に入ったままの木刀で防がれていたのだ。

「え?なっ!?・・・か、香澄?・・・ええ?・・わ、わたくしの動きが見えたのです??」

手刀の威力はかなり手加減したとはいえ、移動速度は佐恵子の最高速だったのだ。

いまはオーラも減少しているのだが、佐恵子の動きを常人が捉えることは絶対に無理である。

そんな事情など知らない香澄は、背に手を回して柄を握ったまま、ただただ驚いている佐恵子を至近距離からジロリと睨んできた。

「いきなり何するんですか?せっかくの親切心をパワハラで応えるなんて・・」

「か・・香澄。・・でも・・・え?・・あなた、わたくしの動きが本当にみえたのです・?」

「言ったじゃないですか私剣道四段ですよ?こんな専門的なお話社長に言っても仕方ないかもしれませんが、しかも実戦派の天然理心流ですよ。社長もなにか武道されてるのかもしれませんが、剣道三倍段って言うでしょう?社長が12段じゃないと剣を持った私には敵いませんよ?それに真剣も使えるのですが、まあ暴漢相手に真剣じゃ必殺しちゃいますし木刀でも十分すぎますしね。」

「そういうことじゃなくて・・脆弱とはいえ、今わたくしは肉体を強化しているのよ・・?無能力者に今の私の動きに反応することなんてできるはずが・・・」

「は?」

竹刀袋を握ったまま首をかしげる香澄の様子に、佐恵子は困惑するが真理の言っていたことを思いだす。

(もともと彼女は無意識に【事象拒絶】を使ってたようですね。いわゆる無自覚なノラだったんです。ちょっと強引に目覚めさせたのですが、センスがあれば色々自力で使えるようになるかもしれません。・・まあ、訓練無しで使えるようになるのは難しいですから、過度な期待は禁物ですけどね。ただ目を付けていた不動産スキルを持っている人が、たまたまノラだったのはとにかく拾い物ですよね)

真理がいい笑顔でそう言っていたのを思い出し、佐恵子は能力を発動し香澄を凝視する。

「香澄・・あなた・・」

(剣道をしているって確か履歴書に書いてあったわね・・・。でも肉体強化も無意識に使えるようになったってこと?・・・ありえなくないけどこの年齢からの新しい能力の開花なんて聞いたことが無いわ・・)

「どうしたんです?人にいきなりチョップしてきておいて謝らないんですか?」

まだまだ淡さがあるが、佐恵子の右目にはオーラを纏った香澄が映し出されていたのだ。

「ごめんなさいね・・いきなり。香澄・・・すごく身勝手な言い分ですが・・やっぱりついて来てもらってもよいかしら・・?」


佐恵子は思わずそう口に出していた。

【第9章 歪と失脚からの脱出 33話 心地よい夢からの目覚めと現実そして開花する者終わり】34話へ続く

第9章 歪と失脚からの脱出 34話 脅威!紅蓮の炎

第9章 歪と失脚からの脱出 34話 脅威!紅蓮の炎

廊下の幅と高さいっぱいに、炎が駆け抜け、業火となった火柱はホテルの内壁に直撃し、そのまま壁を焼き突き抜けていったのだ。

紅音の技術により、周囲に発する熱量をコントロールされていたとはいえ、それでも十分な殺傷能力を保ったままの炎が、爪痕を残しつつ舐めまわし通り過ぎた後は、触れたものは無事では済まされてはいなかった。

業火業風で巻き上げられた黒煙がもうもうと立ち上がるが、壁面に空けられた大穴に一気に吸い込まれ排気されている。

「・・・意外」

紅音は【紅蓮火柱】を発射した格好のまま、風に赤毛が揺られるのをそのままにそう呟いた。

「ああっ!アリサ!・・ごめんっ!千尋!治療を!急いで!」

「は、はい!」

紅音の放った火柱を3人の真正面で一人一身に受け切ったアリサがガクリと膝を付き、そのまま崩れ落ちかけるが美佳帆は背後から抱きとめ、千尋に悲鳴に近い声で叫ぶ。

アリサ以外の3人も炎にまかれ、それぞれに服や肌をススで汚し、軽い火傷も負っているが、真っ向から火柱を受け止めてくれたアリサのおかげでその程度で済んだのである。

しかし、真正面から炎のほとんどを受け遮ったアリサの状態は深刻だ。

「アリサっ・・!美佳帆さん私も千尋を手伝います!」

「ダメよ!スノウは【共有】を解かないで!いまバラバラになったら今以上にどうしようもなくなるわ!」

アリサに駆け寄ろうとしたスノウを、美佳帆がアリサを抱きかかえて振り返らず、正面にいる紅音を睨んだまま、大声で制止する。

抱きかかえられたアリサのタンクトップはボロボロに焼き焦がされ、髪の毛も熱でずいぶんと焼き千切られている。

素材のせいだろうか、スパッツは熱で収縮して変形し、ところどころ円形に穴があいてしまっていた。

「・・・美佳帆さん・・ごめん。次はもう受け止めれない・・かも・・・」

普段の口調に近いが弱弱しい声でそう言うアリサを抱きかかえた美佳帆は、熱で溶かされた髪の毛をかき分け、アリサの顔が露わにするとハッと息を飲んだ。

(ひ、酷い・・)

真っ向から炎を防いだアリサの両手の甲から肘にかけて、皮膚がめくれて赤黒く変色し血がへばりついた酷い火傷状態であり、天然と呼ばれながらも愛らしかった顔は、火傷で見る影もない。

「・・っ!アリサ!!ごめん4人分のオーラを全開で回したけどっ・・!あああ・!千尋!急いで!アリサだけに治療を集中して!」

「でも・・!それだとこの周囲の熱気が!」

「いいから!」

紅音が周囲に展開している無差別攻撃地象【焼夷】が展開されているのだが、美佳帆は迷うことなく千尋にそういった。

千尋は美佳帆に返事するより早く、【脈動回復】をアリサに集中させるが、その瞬間、美佳帆たちの周囲に張り巡らされている【焼夷】による熱気が一気に3人を襲う。

「くうううううううううっ!」

【焼夷】地象による継続ダメージを上回る治療を展開させていた千尋の【脈動回復】の効果範囲が狭まり、アリサ一人に【脈動回復】が集中する。

そのため、途端に3人は耐え難い熱気に再度晒され、一斉に悲鳴を抑え殺し苦悶の表情となったが、おかげでアリサの傷は目に見えて治癒されてゆく。

「もういいかしら?再開しても?」

紅蓮のたった一発の攻撃で被害甚大となり、美佳帆たちはまともに戦える状態ではないのだが、当の紅蓮は無情にもそう言い、美佳帆たちを見下ろし近づいてくる。

薄く笑みを張り付けた表情の紅音は、赤髪を熱風で靡かせ、軽く広げた両の掌には炎が纏っている。

「くっ!・・紅蓮!・・こんな・・まさか・・こんなに差があるはずが・・・!」

美佳帆は、抱きかかえたアリサを何とか立ち上がらせ、紅蓮の歩にあわせて後ずさりながら睨みながら呻く。

「差が無いと思ってたの?この私相手にぃ?」

紅音が大島優子似の愛くるしい顔を邪悪に歪め、愉快そうに言ったその時、またしてもけたたましく防火ベルの音が鳴り響きだし、天井に設置されてるスプリンクラーが勢いよく一斉に噴射する。

「ちっ!またずぶぬれになっちゃうじゃない。・・あぁ・・その子が使った技の正体・・大体わかったと思うんだけど・・。たぶん4人でオーラを共有してるんでしょ?・・・それで斎藤雪はあなたに操縦任せますって言ったのね?きっと4人ぶんのオーラを今はあなたが操ってるって訳じゃない?・・でも、ご愁傷様4人集まっても私に届かないみたいね。まぁ・・付け焼刃にしては頑張ったんじゃない?もっと普段からそれの練習してたらもう少し寿命が延びてたかもしれないけどね」

激しく噴射される水を浴びながら、忌々し気にスプリンクラーを見上げた紅蓮は、視線を4人に戻し両手に灯した炎の量を増やし美佳帆たちにそう言うと、再度、先ほど放った紅蓮火柱の構えをとった。

「菊沢美佳帆。あなたが4人を動かしてるんでしょう?面白い技能だわ・・。ふふっ、でも次は誰を盾にするのかしら?伊芸千尋?斎藤雪?・・それとも自分?まさか、そのボロボロになってる斎藤アリサをまた盾にするのかしらね?ふふふっ!そいつはもう戦えないでしょう?そいつが動けるうちにもう一回盾に使うのが一番いいって自分でもわかってるんじゃないの?ふふっ・・さあ、見物ね。命惜しさに次は誰を捨て駒に使うのかしら?!」

紅音は斎藤雪が使った技能をそう見当づけて、美佳帆を煽るように手の甲を口に当てて哄笑しながら挑発する。

「こっ!このっ!そんなことするわけないじゃない!・・・千尋急いで!」

「ふぅん?・・なるほどなるほど。そいつがあなたたちの回復係なのね?」

美佳帆に抱えられたアリサに寄り添うようにして治療をしている千尋を見て、紅音は哄笑をやめ、目を細め千尋を見やる。

「くっ!」

紅音の視線に気づいた千尋は小さく悲鳴を上げ、一瞬治療を止めそうになるが、目をきつく閉じ、紅蓮に狙われている恐怖を押し殺して治療を再開し出す。

その千尋の様子を見た紅音は、残忍な笑みをより深くし、頬を紅潮させブルリと身を震わせた。

何を思ったのか紅音は、紅蓮火柱の構えを解き、左手の人差指をピストルのように構えると千尋に照準を合わせるように指を向ける。

「ほらっ!」

紅音がそう言うと、猛烈な速度の深紅の熱線が千尋目掛け発射された。

突然のその熱線はあまりにも速く、アリサの治療に集中している千尋の首筋を貫通したかに見えた。

が、その瞬間バチン!と音が鳴り響き、毛足の長い絨毯の上に黒い鉄扇が勢いよく叩きつけられ、じぅ!と毛足の長い絨毯が黒く焼き焦がした。

スノウが鉄扇を投げ、千尋を貫こうとした深紅の熱線を遮って床に叩き落としたのである。

「紅蓮・・あなたっ!・・人の命をなんだって思っているのですかっ?!」

スノウは美佳帆が脳波で飛ばしてきた指示どおり、美佳帆愛用の鉄扇【舞姫】を投げつけて言うと紅音を睨みつける。

【焼夷】による熱ダメージに耐えている苦悶の表情のまま、治療する千尋、そしてその千尋を守るように、【焼夷】の熱に耐えながらもスノウは愛用の鉄扇【細雪】を構えている。

「ふふふっ!人の命はいのちよ。尊いものよね。ただ、あなたたちは敵。私の部下にならないのなら敵だわ・・。敵は殲滅するのが普通じゃないの?ふふふふふっ」

スノウの問いにそう答えた紅音の頬は紅潮している。

偏った性癖を持った紅音は、性に関する許容範囲が広く、伊芸千尋や斎藤雪の苦悶の表情でも興奮できてしまうのだ。

頬を紅潮させ残忍な笑みを浮かべたまま、千尋とスノウ目掛け、再度指をピストルのように構えて熱線を連射する。

「ほらほらぁ!・・うふっ!・・いいわね・・!うふふっ!・・あはははっははははっ!」

構えているスノウを避けるようにして、わざと背後の千尋を狙った無数の熱線をスノウは右に左へと身体をひねって鉄扇を振るい、アリサの治療をしている千尋を守ってはたき落とす。

白いフレアミニスカートを靡かせ、エメラルドグリーンの下着が露出するのにも構わず、スノウは舞うように鉄扇を振るい、紅音の放つ熱線を必死で叩き落とす。

紅音は指先から連射しつつ、舞のようなスノウのそれを楽しそうに見ていたが、はぁはぁと興奮から息を切らし出し、恍惚の表情のまま非情なことを口にした。

「あなた・・斎藤雪・・喋れないと思ってたし、そんに動けるなんて知らなかったわ。そんな短いスカート履いてクルクル回って・・見えちゃってるわよ?もっと踊ってもらおうかしら?・・両手でいくわよ?・・うふっ!うふふふふふっ!」

「くっ!そんなっ!・・これ以上は・・もっと撃てるっていうの?!」

スノウは、愉快そうに熱線を連射してきている赤髪の変態を睨んでそう言うと、これ以上は防ぎきれない。と歯を食いしばって呻いたとき、紅音は急に表情を素に戻して左側に飛び退った。

「よ・・避けた!?・・そんなっ!」

そう言ったのは美佳帆であった。

美佳帆は、愛用の鉄扇【舞姫】とは別にもう一本腰に差していた【白鶴】を操り、スノウと千尋に集中して油断しきっているであろう紅音のできるだけ死角から、こめかみ目掛け放ったのだがギリギリのところで気付かれ躱されたのだ。

「あぶないあぶない・・。そんな鉄の塊投げつけてくるなんてひどいじゃない?でも、今のはいい線いってたわよ。部下を囮にして戦わせておいて隙をみて攻撃・・・。菊沢美佳帆・・?なかなかのとんだクソ上司ね!」

空中で一回転して着地した紅音は、自分の頭部をかすめグルグルと旋回する鉄扇を一瞥すると、美佳帆に視線を戻し罵ってから両手を4人に向けた。

「でも・・今の攻撃はひやっとしたわ・・ムカついたからお礼しちゃう!」

そう言い、ニヤリと顔を歪めると紅音の両手から一度に10本の熱線が同時に発射された。

『キャッ!』

突然紅音の10本の指から発射された熱線に美佳帆とスノウの悲鳴が重なる。

紅音は全ての指先から熱線を同時に発射できるのだが、あえて一発づつ撃ち美佳帆たちを甚振っていたのだ。

スノウと美佳帆は鉄扇を振るいなんとか熱線を6つまで防いだのだが、スノウの右膝、左太ももに直撃し、一つはフレアミニの裾を掠めた、そしてもう一つはスノウをかすめて外れたかと思われたが、スノウのすぐ後で治療に専念している千尋の喉を貫いていた。

「あ・・・ごほっ・・」

くぐもった声にはならない音がしてドサリと床に倒れる音と同時に美佳帆とスノウが音のしたほうを振り返る。

「千尋っ!あああ!」

「千尋!?」

美佳帆とスノウが音のした方を振り勝ったとき、喉から血を流した千尋が絨毯の上に倒れ、深紅の絨毯の上に、赤い液体が更に広がりだしていた。

スノウもフレアミニに炎がまとわりつき、下着を隠しきれなくなった超ミニにされてしまったが、そんなことに構う余裕なく、床に倒れ込んだ駆け寄り膝を付いて即座に治療の淡い緑色を両手に灯すと傷口の喉にかざす。

「ち、千尋ぉ・・!死んだらイヤだよ!」

「おしかったわねえ?全部防がないと。ま・・、そいつが回復役みたいだったから時間差で撃って狙ってみたのよね」

狙いが上手くいったからか、紅音は得意そうにそう言った。

アリサと千尋の治療を一人でしだした、スノウ自身も両足を撃ち抜かれて満足に動けないというのに、重症の仲間二人同時に治療を施している。

千尋が明らかに致命傷を負い、チーム一のアタッカーであるアリサも瀕死状態だ。

こうなった美佳帆の判断は早かった。

得意そうに喋っている紅音を無視し、狼狽えるスノウを叱咤するような大声を張り上げたのだ。

「スノウッ!!千尋とアリサを連れて逃げて!・・宮川さんとジンくんがもう近くまで来てるはず!・・なんとか逃げて!・・私は・・!ここで刺し違えてでも紅蓮を止めるからっ!」

「そんな!美佳帆さん!できません!」

スノウは珍しく美佳帆の言いつけに反論した。

しかし、美佳帆は誰の反論ももはや聞く気は無かった。

「行きなさい!もう治療できるのはスノウ!あなたしかかいないわ!アリサ!辛いでしょうけど、なんとか立って!スノウと一緒に行くのよ!さあ、行きなさい!・・スノウ!行って!宏を・・頼んだわよ!」

そう言うや否や、美佳帆は背後を顧みず両手に愛用の鉄扇【舞姫】と【白鶴】を握り、正面の紅音に向き睨みつけた。

「お涙ちょうだい。でも、あなたたちはここで終わり」

「終わらないっ!」

茶化すように言った紅音に対し、美佳帆は怒鳴りつけた。

4人のオーラの四分の三を自身に集めた美佳帆は、宮コー最強の一角と謡われる紅蓮を突き崩さんと躍りかかる。

軽口をたたき余裕を見せた紅音であったが、4人のオーラのほとんどと、すでに死を覚悟した美佳帆の決死の勢いに、完全に攻撃を防ぎつつも防御に専念させられる。

「くっ!菊沢美佳帆・・!ここにきて、やる・・じゃない!」

炎を発動させる隙を与えてくれない美佳帆の鉄扇を使った決死の猛攻に、紅音も表情を険しくさせる。

まだまだ酷い火傷が痛々しいアリサが、美佳帆の声が聞こえたのか、何とかのろのろと立ち上がり、スノウは撃ち抜かれた両脚を引きずりながらもアリサを支えながら口を開いた。

「スノウちゃん・・ごめん・・まだうまく動けないの・・痛い・・顔と腕が・・・痛くて・・。あっ!スノウちゃん・・脚から血がでてる!」

なんとかそう言ったアリサの衣服は焼けてボロボロで、体の至る所が火傷で赤黒く焼けただれていた。

愛らしかった顔も千尋にある程度回復してもらったとはいえ、体にある他の火傷とそんなに見た目は変わらないほどひどい。

「あぁ・・アリサいいの・・。わかってるわ。ここから離れたら自分のも治せるし、アリサも治してあげるから我慢して・・アリサも辛いでしょうけど千尋を運ばないと・・肩を貸して」

紅蓮の攻撃を真正面から受けたアリサの見た目は、スノウからしても息を飲むほど深刻だった。

それにスノウ自身も右膝と左腿を撃ち抜かれている、しかし、今は喉を貫かれた千尋の方がもっと重症だ。

「うん・・でも美佳帆さんは・・?」

アリサは焼けただれた自分の腕や身体をひとしきり眺めて、スノウや千尋の怪我にも顔を悲しませたが、背後で戦う美佳帆を気遣う。

「大丈夫・・・・あとで来るから先に行っててって」

「・・・・スノウちゃん。・・うん」

アリサもスノウの言っていることが嘘だと分かったが、それだけ言うとスノウの肩に何とかぶら下がってぐったりと動かない血まみれの千尋に肩を貸す。

なんとかまだ脈はあるが、千尋は喉を熱線で貫通させらており、止めどなく血が流れだしている。

スノウが淡い緑色の光を纏った手のひらで、優しく千尋の首を包むようにしてあてがい重症のアリサと両脚を撃ち抜かれたスノウが血まみれで意識のない千尋を抱えるようにして、背後で戦う美佳帆に背を向け、できる限りの全力でといってもヨチヨチと駆けだした。

「ゼェゼェ・・!あの子たちだけでも!」

後輩3人の気配が遠ざかるのを背中で感じた美佳帆は、やや安心し、正面だけに集中しようと息を切らしつつ、右手に握った鉄扇を、手首を捻らせて舞わすと腰を落とし低い構えから、旋風を巻き起こす勢いで紅蓮に迫る。

「近すぎるわよ菊沢美佳帆っ!・・ハエのようにブンブン纏わりついて!」

攻撃を仕掛けてくる美佳帆とは別に二つの鉄扇を宙が宙に舞い、死角から無軌道に紅音を襲う。

「減らず口をっ!あの子たちをあなたなんかにやらせないわ!」

美香帆自身も限界まで肉体の能力を引き出し、紅音に炎を発動させまいとできるだけ接近戦の徒手空拳で攻撃を加え続けているのだ。

紅音に炎を発現させる一瞬の隙すら作らせない猛攻で、美佳帆は連打を浴びせ続けていたのだが、3人が離れすぎたのか徐々に自身に集中させていたオーラが減少し始める。

どす!

動きが遅くなり始めた美佳帆の一瞬の隙をつき、飛び襲い来る鉄扇の合間をかいくぐって、腰を落とした紅蓮は美佳帆の鳩尾に拳をめり込ませた。

「ぐっ!」

がちんっ!

美佳帆は前のめりに身体をくの字に折り曲げて呻いた瞬間、顎を紅音が手のひらで打ち上げた音が妙に響いた音を立てる。

「かっ・・は!」

「頑張ったわねえ・・。逃がした3人・・フロントにははなが待機してるのよ?身を挺して逃がしたあの子たちも今頃死んじゃってるでしょうね」

顎をかちあげられて脳震盪をおこした美佳帆は膝から崩れ落ちかけるが、紅蓮は美佳帆のカットソーの襟首を左手でつかみ、美佳帆を無理やり立たせると顔を寄せてそう言った。

「ぐ、・・紅蓮!・・まだ・・よ!」

「たいした強情よ。菊沢美佳帆・・・。逃げた3人もすぐにあなたを追わせてあげるから、先に逝ってなさい。・・せめて苦しまずに一瞬で塵にしてあげるわ

小柄な紅音に襟首を掴まれて、無理やり立たされている美佳帆は、朦朧とした意識の中、息も絶え絶えにそう言ったが、残忍な笑みを貼り付けた紅音は右手に容赦なく炎が収束させる。

(ここまで・・ね。みんな・・・宏・・。・・先に行くね。・・いつまでも待ってるから、宏は急がなくていいから・・ゆっくり来て・・。スノウ・・逃げ延びれたら・・宏のことお願い・・)

【共有】でスノウの深い感情を今なら知ってしまっている美佳帆は覚悟を決め、目を閉じたとき、聞きなれたが、切羽詰まった悲鳴に近い声色がホテルの廊下に響く。

「紅音!!おやめなさいっ!」

声にピクリと反応し紅蓮が収束させている右手の炎が一瞬止まった。

スプリンクラーの水音のなかでもその声はよく通ったのだ。

死を覚悟し目を閉じていた美佳帆が薄く開けると、そこには普段のスーツ姿ではない、ぴっちりとしたトレーニングウェアのようなものを着た宮川佐恵子がいた。

「・・・宮川さん?」

振り返らずに美佳帆を掴んだままの紅音は声の正体を察し、顔をしかめたが、美佳帆の呟きに、襟首をつかんだまま、半身に振り返り佐恵子に向かって言った。

「・・・佐恵子。来ちゃったのね」

美佳帆の襟首を掴み、肩で手持ち上げたまま紅音は佐恵子に完全に向き直った。

「佐恵子。私になにか用?見ての通り立て込んでてね。いまあなたに割いている時間はないの」

「・・紅音!その手を離すのです!・・遅くなりましたわ美佳帆さま!・・・紅音、短気をおこしてはやまってはダメよ!」


「宮川さん。ちょっとピンチに見えるけど私は大丈夫・・きゃっ!!」

持ち上げていた美佳帆がそう言うのをチラと不快気に一瞥した紅音は、美佳帆を壁に向かって投げつけたのだ。

「ちょっと黙ってなさい。菊沢美佳帆」

背から壁に激突させられ呻いている美佳帆にそう言うと紅音は腰に手を当て、首を振る。

「紅音!もうやめなさい!美佳帆さま達を害しても貴女の思った通りにはなりませんわ!」

「ちっ・・うっさいわね・・。菊沢美佳帆。佐恵子に連絡してたのね・・面倒なことを・・!」

紅音は、そう言う佐恵子に舌打ちをしてから小声で美佳帆を罵倒すると、壁に投げつけた満身創痍の美佳帆を見下ろして本当に忌々しそうにして言った。

「あなたの覚悟に免じて苦しまずに殺してあげようかと思ったけど・・、面倒なヤツ呼んだわね・・。完全に気が変わったわ。ちょっと待ってなさい菊沢美佳帆。佐恵子にはもう帰ってもらうから・・・。それからじっくり甚振ってあげる。・・・同性の年増を甚振るのも趣向としてはいいかもしれないわね?」

紅音は壁を背に床にへたり込んでいる美佳帆に顔を近づけてそう言って脅かすと、再度佐恵子に向き直った。

「み、宮川さん・・こんなことになって・・。もっと紅蓮に対抗・・できると・・思っ・・・たんだけど・・」

床に座り込み壁を背にした美佳帆は、オーラを使い切った脱力感から声をかすれさせていた。

「美佳帆さま。・・・わたくしが不甲斐ないためにこんな目に・・。さっきアリサさまたち3人にそこで会いましたわ。香澄が付き添って・・病院に連れて行ってくれているはずですわ。いまはそれだけしか言えませんが・」

「なんですって・・?佐恵子がなんでここまでこれたのかと思ってたけど・・。チッ!はなは何をしてるのよ・・・!」

佐恵子と美佳帆の会話を聞いていた紅音はそう短く吐き捨てると、スマホを取り出し丸岳に連絡を取り出す。

「丸岳さんに話をしても無駄ですわよ。先ほどこのような暴挙にこれ以上関わらぬよう言いましたわ」

慌ててスマホを取り出し操作しだした紅音に、佐恵子は静かにそう言ったのだ。

「な・・丸岳くんが佐恵子のいうこと聞いたって言うの・・?!」

そう言い驚いた紅音のスマホの着信音が途切れ、丸岳と通話が繋がる。

「丸岳くん!いったいなにやってるのよ!」

「紅音・・。公安の連中も来た。本社にしょっちゅう来ていたあの霧崎美樹だ。奴らは能力者同士の犯罪捜査の専門でもある。この動きの速さ・・橋元の一件以来こっちの動向にはずっと網を張っていたのかもしれん。ひとまず今は・・」

通話が繋がった瞬間に紅音はスマホに向かって怒鳴りつけるが、丸岳は極力冷静に紅音に説明し出したのだが、話の途中でスマホを耳から離し、紅音は佐恵子に食って掛かった。

「佐恵子!・・公安を呼ぶなんてあんた何考えてるのよ!宮コーが受ける社会的ダメージをわかってのことなの?!」

「・・・人の命にはかえられないわ。私がもっと強ければ、公安など呼ばず、あなたのことも守ってあげられたのですが・・」

「なによそれ!私を守るですって?!私より弱いくせに、佐恵子はいっつも私を見下してくるわね・・!そういうのがいちいち勘に触るのよ!」

「紅音・・。あなたがわたくしを執拗に嫌っているのはわかっています。わたくしは感情が見えるのですよ・・?紅音はわたくしをに嫌ってもいますが、認めてもいる・・。そうでしょう?・・・そうであるなら少しはわたくしの言い分をきいてください。こんなことしても、きっと紅音の思った通りにはなりませんわ。美佳帆さまたちに何の罪があるのです。大義名分の無い粛清なんて紅音にとってもマイナスにしかならないですわ」

「・・・いまここの責任者は私よ。社に害を与えないという解釈は私がするの。こいつらは将来私の害になる。この私がそう判断したの。決定は変わらないわ」

「・・・紅音。どうして・・こんな判断あなたができないはずありませんわ!」

「・・佐恵子・・あんたはいっつもそう。そうやって私を見下してっ!・・私の方が2個も年上で能力もあるのよ?!現に佐恵子は私にずっと負けてたじゃない!こないだだって・・!」

「・・・ええ、紅音。貴女は本当にすごいですわ。・・・貴女があの学校に先輩としていてくれたからわたくしは貴女に勝とうと頑張れた部分がありますわ・・。でもわたくし、努力の甲斐も空しく、わたくしは貴女を点数で超えられることは、数えるほどしかありませんでした・・。そして、おそらく戦いでも、まともに戦えばわたくしに勝ち目は薄いでしょう」

「薄い?無いの間違いじゃない?こいつら菊沢美佳帆たちだって4人がかりでもこのザマなのよ?あなたの頼みとする魔眼も私には通用しなかったでしょ?それに佐恵子、あなたどういうつもりか知らないけど加奈子に魔眼をひとつあげたでしょ?それで力の制御ができなくなってるんじゃないの?そんなんで私に勝てる?!」

「・・あげましたわ。加奈子を失うわけにはいきませんから・・蘇生には近しい者の強力な触媒が必要だったのです。・・片目になったせいか上手く力が使えませんが、後悔はしていませんわ」

「蘇生・・?そんなことできる奴が・・?・・まあ、いいわ・・!それでもやるの?さすがに佐恵子に手を出すと色々上が五月蠅そうだし、丸岳くんも難色示すから我慢してたんだけどね!」

「紅音・・わたくしたちいがみ合わなければいけないのですか?・・わたくしの何が気に入らないのか今の紅音の話を聞いて少しはわかりました。わたくしたちにとって足りなかったのは、お互いの理解・・話し合う時間ですわ。・・・あなたの力・・わたくしよく分かっているつもりですわ。生まれついての魔眼のせいで、わたくしのオーラ量は膨大です。ですが、わたくしのオーラ量に匹敵する数少ない人物の一人が紅音ですの。その力を得るには並の才能やセンス、そして努力ではなかったはずです。少しでも自己研磨したわたくしならそれがわかっているつもりです。・・いつか・・わたくしとわかり合えて、紅音と力を合わせられる日が来るかもしれないと思ってましたのに・・。美佳帆さまたちを手にかけてしまうと、わたくしも貴女に対して引けなくなりますわ。そんなことにはなりたくないのです。・・・紅音に、わたくしの紅音に対する感情を見せてあげたいですわ・・。自分で見たことがありますが、紅音に対してはわたくしも一人の人間ですから、感情を抑えきれず色々に思うところは確かにあります。ですが、紅音に対する負の感情は、わたくしそう多くありませんのよ?」

「・・私に敵わないと分かって口でお上手を言う作戦かしら・・?・・じゃあ佐恵子・・あなたが私に従いなさいよ」

「そうではありません。以前から思っていた本心ですわ。でも・・紅音に従うこと・・それはできませんわ」

「なによ?佐恵子あなた何が言いたいのよ?」

「紅音。わたくしに協力してほしいのです」

「私の方が優れているのにあんたの下に付くなんて絶対イヤ」

「・・・わたくしでは紅音を説得する弁を持たないのかもしれません。しかし、わたくしにはやりたいことがあるのです。紅音に従ってしまうと、目的とは程遠いことをしなくてはならなくなりますわ。もっと時間が取れて、わたくしのことをわかってもらえたら・・・紅音にわかっていただけると、きっととても頼りになりますわ」

「・・・」

支社の壁には穴があき、風が吹き抜け消化設備から噴き出している水しぶきに二人は打たれ続けながらも舌戦をしていたが、紅音は思いもよらない佐恵子のセリフに沈黙してしまった。

そのとき、まだ通話中であった紅音の握ったスマホから、普段冷静な丸岳貴司らしからぬ、焦った大声が聞こえてきた。

「紅音!公安の連中の対応に気を取られ過ぎて抜けられた。そっちにとんでもない奴が行ったぞ!紅露や松前もそいつにやられた!強いぞ!油断するな!」

握ったスマホから声が聞こえた時、フロントの方から廊下を凄まじい速さで滑るように向かってくる黒い影があった。

「丸岳くん?!・・いま何て言ったの?!」

佐恵子の遥か後方に、不審な黒い影を視界の端に認めながらも紅音は、丸岳が伝えてきた内容を確認しようとスマホを耳に当てなおした時、すでに黒い影は紅音の目の前まで跳躍し、空中で足を引き絞り蹴る直前の態勢をとっていた。

紅音は黒い影の思いがけない速度に息を飲むが、反射的に【即応反射】という反応速度を向上させる技能を瞬時に発動させて、迎撃を試みる。

しかし、怪しい黒い影は紅音の超反応の速度すら上回った。

(この速さ・・・オーラの量に強さっ菊沢宏!?まさか・・・いやちが・・)

紅音がそう思った瞬間、男が

「赤い髪!てことは、お前が紅蓮やな?!」

と口走ったときにはもう腹部に激痛が走り、

「なっ?!速っ!?ぐぇっ!!」

黑づくめの脚絆に覆面、そして足袋という見るからに怪しい恰好の男が、登場と同時に紅音は腹部を貫く強烈な飛び蹴りを食らわせていた。

【第9章 歪と失脚からの脱出 34話 脅威!紅蓮の炎終わり】35話へ続く



筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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